アラバマ州モンゴメリーのラッパーCHIKAのEP。6曲というボリュームながらも、CHIKAの高い歌唱力とラップスキルが存分に発揮された1枚です。BJ the Chicago Kidが参加した『FAIRY TALES』での多幸感あふれるテンポチェンジがハイライト。
Joyce Wrice – Overgrown
カリフォルニア州ロサンゼルスのシンガーJoyce Wriceのデビューアルバム。90年代後半~2000年代初期のR&Bを彷彿とさせるサウンドとJoyce Wriceの美しく伸びのある歌声が魅力的な1枚です。Freddie GibbsやWestside Gunn、KAYTRANADAら豪華客演陣の参加に加え、Joyce Wriceと同じく日本にルーツを持つシンガーUMIが参加した『That’s On You (Japanese Remix)』も収録。
Benny the Butcher & Harry Fraud – The Plugs I Met 2
ニューヨーク州バッファローのラッパーBenny the ButcherとブルックリンのプロデューサーHarry Fraudによるコラボ・プロジェクト。サンプリングやジャズホーン、ストリングスなどを用いたニューヨークらしい上質なブーンバップと、Benny the Butcherのキレの良いラップが完璧な相性を見せる1枚です。Fat JoeやFrench Montana、Rick Hydeらの参加に加え、2 Chainzが参加した『Plug Talk』での佐井好子『胎児の夢』のサンプリングにも注目です。
テキサス州ヒューストン出身のラッパーDevin The Dudeの11枚目のスタジオ・アルバム。Slim ThugやScarfaceら同郷ヒューストン出身のベテラン陣が参加した今作は、彼らしい緩いファンクを軸としながら、ブーンバップや現行トラップも多く取り入れた作品に仕上がっています。新しいサウンドを積極的に取り入れつつも自身のスタイルを貫く、彼の安定感が発揮された1枚で、タイトル通りソウルフルなラップとヴォーカルが堪能できます。
テキサス州ヒューストン出身で、共にScrewed Up ClickのメンバーであるZ-RoとMike Dによるコラボ・アルバム。H-Townサウンド全開のプロダクションと、2人のソウルフルなラップ&ヴォーカルが光る1枚です。Lil’ KekeやC-Note、Big Pokeyら現Screwed Up Clickメンバーに加え、2016年に銃撃で亡くなった旧メンバー3-2も参加。
カリフォルニア州ロサンゼルスのラッパーDrakeo the Rulerのミックステープ。不穏でダークなビートと、Drakeoのボソボソと呟くような低い声が圧倒的な緊張感を生み出し、聴く者を西海岸のフッドに誘います。Don Toliverとの意外な組み合わせや、先日急逝したKetchy the Greatの4曲での参加、DrakeoとDrakeの夢の共演など聴きどころ満載の1枚です。
ナイジェリアにルーツを持つ、ロンドン出身のラッパー/シンガー。2020年に本格的に音楽活動を開始したENNYは、デビューシングル『He’s Not Into You』をリリースした後、Jorja SmithのレコードレーベルFAMMと契約。同郷ロンドン出身の注目シンガーAmia Braveと共にリリースしたメジャーデビュー・シングル『Peng Black Girls』はUKシングルチャートTOP100入りを果たしました。レイドバックしたラップやソウルフルなヴォーカル、詩的なリリックが魅力的な注目アーティストです。
4. Arlo Parks
ナイジェリア、チャド、フランスにルーツを持つ、ロンドン出身のシンガー。彼女は、ネオソウルやインディロック、ヒップホップなどをミックスしてポップスに昇華させた音楽性から、次世代のベッドルーム・ミュージックを代表するアーティストとして注目されています。2021年リリースのデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』はUKアルバムチャートにて最高3位を記録し、各音楽メディアからも高い評価を獲得しています。
2018年にはメジャーレーベルから初のミックステープ『Life of a Dark Rose』をリリース。
同ミックステープは Billboard Hot 200 にて23位デビューを果たし、最高10位を記録します。同作収録の『Nowadays』と『Red Roses』は、Billboard Hot 100 にてそれぞれ最高55位と69位を記録。メジャーデビュー・ミックステープとしては大成功と呼べる功績を残します。
カナダ・トロントのラッパー Drake の6枚目のスタジオ・アルバム。2019年4月に初めてアナウンスされた同アルバムは、前作『Scorpion』のリリースから約2年半の月日を経て今年の1月にリリースされる予定。先行シングル『Laugh Now Cry Later』に参加した Lil Durk に加え、Roddy Ricch や Jessie Rayez らの参加が噂されている。
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J. Cole『The Fall Off』
ノースカロライナ州ファイエットビルのラッパー J. Cole の6枚目のスタジオ・アルバム。2018年リリースの前作『KOD』に『1985 (Intro to “The Fall Off”)』というアウトロ曲が収録されたことをはじめに、2019年11月には Cole が Day N Vegas Music Festival にて2020年内のアルバムリリースをアナウンス。
しかし2020年には、Cole はシングル2曲を発表するものの、結局アルバムがリリースされることはなかった。彼は『The Fall Off』の他にも『The Off Season』や『It’s A Boy』といったプロジェクトのリリースも示唆している。
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Travis Scott『Utopia』
テキサス州ヒューストンのラッパー Travis Scott の4枚目のスタジオ・アルバム。大ヒットを記録した前作『ASTROWORLD』のリリース以降、McDonald’s や PlayStation とのコラボレーションを果たすなど音楽活動以外でも活躍を見せてきた Travis は、2020年7月にニューアルバムのタイトルを発表。同年10月には、ラジオDJに向けて送った手紙にて、アルバムを2021年にリリースすることを仄めかした。先行シングル『FRANCHISE』に参加した Young Thug や M.I.A.、Future らに加え、Roddy Ricch や Don Toliver、Kevin Parker、Hit-Boy らの参加が噂されている。
リリース前に噂されていた Travis Scott や Post Malone、Lil Uzi Vert らとの楽曲や、前述した『Pissy Pamper (Kid Cudi)』に Kid Cudi 本人が参加したアップデートバージョン等は未収録だったため、今後それらを収録したデラックス盤がリリースされる可能性は高いでしょう。
Jane and Finch 出身のラッパー。幼い頃から趣味として音楽制作を始め、SNS を通してファンベースを築いてきた彼は、14歳の頃にリリースした楽曲『No Time』が人気ゲーム『NBA 2K』で使用されたことをきっかけに注目を浴び始めます。キャリア初期から着実に人気を獲得してきた彼は、Drake や Kylie Jenner らにフックアップされるなど今最も注目されているトロントのラッパーの1人で、高めの声で歌うナヨナヨとしたラップが特徴的です。
LocoCity
Bleecker Street 出身のラッパー。2018年頃から楽曲をリリースし始めた彼は、『Do Sum』や『Krazy』等のシングルのバイラルヒットにより人気を獲得し、2019年にはデビュープロジェクト『Save Yourself』をリリースしています。歌心のあるラップ・シンギングが魅力的なラッパーです。
Lil Berete
Regent Park 出身のラッパー。素行の悪さが理由で、8歳の頃から約4年間、母国であるギニア共和国で叔母と共に暮らしていたという彼は、12歳の頃にカナダに帰国し、2017年に音楽活動を開始します。キャリア初期にリリースした『Turn Up』や『Real』等のシングルで注目を集め、2018年にはデビュープロジェクト『Icebreaker』をリリース。2019年リリースのセカンドプロジェクト『1 Way Out』には Calboy に加え Loski や Headie One らイギリスの人気ラッパーを客演に招くなど、現在多方面から注目されているラッパーです。ストリートライフを歌うリリックと、Lil Durk を思わせる高音フロウが特徴的です。
Clairmont The Second
Weston 出身のラッパー/プロデューサー。2013年に音楽活動を開始し、ライティングからプロデュース、ミキシングまで全て1人でこなす彼は、2017年リリースのアルバム『Lil Mont from the Ave』で一躍ブレイクを果たします。同作は Juno Awards (カナダの音楽賞) の「Rap Recording of the Year」にノミネートされ、更に2019年には同作収録の『Gheeze』が Prism Awards (同じくカナダの音楽賞) の「Hi-Fidelity Award」を受賞しました。トラップやジャズ、ゴスペルなどの要素をミックスした多彩なプロダクションや、スキルフルなラップ、落ち着いたヴォーカルが魅力的なラッパーです。
Smiley
Pelham Park 出身のラッパー。同郷トロント出身のスター Drake が、Pusha T とのビーフの際に Smiley の楽曲のリリックを引用したアンサー動画を公開し、彼は一躍注目を浴び始めました。更に Drake はアルバム『Scorpion』の制作時に影響を受けた作品の1つとして Smiley の EP『Buy. or. Buy』を挙げています。憂いを帯びた高めの声でフッドのストリートライフについてラップするスタイルが魅力的なラッパーです。
Sean Leon
Parkdale 出身のラッパー/シンガー/プロデューサー。彼は、同じくトロント出身のシンガー Daniel Caesar も所属していたレーベル IXXI initiative を2012年に立ち上げた後、その非凡なプロダクションと音楽性によってアンダーグラウンドを中心に人気を獲得。独自のスタイルを貫く実験的なサウンドが魅力的で、Kanye West のアルバム『Jesus Is King』の制作にも携わっています。キャリアも長く、既にプロデューサーとして成功を収めている彼ですが、今後ラッパー/シンガーとしても更に活躍すること間違いなしでしょう。
Dave こと David Orobosa Omoregie はサウスロンドンはストリータム出身の21歳 (’98年生まれ)。Stormzy や Lana Del Rey、Pink Floyd など様々なジャンルの音楽を聴いて育ったという彼は、母親からのプレセントをきっかけにピアノを弾くこともできます。彼は2019年リリースのデビューアルバム『PSYCHODRAMA』でマーキュリー賞を受賞するなど、今最も注目されているアーティストの1人です。
Tuesday, 23rd of January, 2018 2018年1月23日火曜日 I’m here with David 私は Dave とここにいる This is our first session これが我々の最初のセッションだ We’re just gonna talk about your background 君のバックグラウンドの話から始めるとしよう Where you’re from, any issues you’ve been dealing with 君がどこから来たのか、どんな問題に対処してきたのか So, where should we start? さあ、どこから始めようか
今週金曜日にジョイント・アルバム『Savage Mode Ⅱ』のリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin。世界中のヒップホップファンが待望する同アルバムのリリースに先立って、彼らのキャリアや魅力について振り返っておきましょう。
21 Savage
1992年10月22日にイギリスのロンドンで生を受けた 21 Savage (21サヴェージ) こと Shéyaa Bin Abraham-Joseph は、7歳の頃に母親と共にアメリカのジョージア州アトランタに移り住みます。2005年には故郷ロンドンに1ヶ月程滞在、その後アメリカに再入国し、以降はアメリカで生活していた彼ですが、当時取得していたビザはアメリカ入国後約1ヶ月で期限が切れており、2019年に不法滞在の疑いで逮捕されるという事件もありました。
7th grade (日本の中学1年生にあたる) の頃には、21 Savage は銃の所持で地域中の全ての学校から永久追放を言い渡され、ギャングの世界に足を踏み入れることとなります。ドラッグディールや強盗など非行を繰り返していた彼は、2013年に敵対するギャングメンバーから銃撃を受け、親友を失いました (彼自身も6発の銃弾を浴び、当時は死も覚悟したそうです)。この日が彼の21歳の誕生日であったことが、彼の名前 21 Savage の由来です。
親友の死を受けてラップを始めた 21 Savage は、2015年にデビューミックステープ『The Slaughter Tape』をリリース。タイトルからも察しがつくように、アトランタのトラップとシカゴのドリルをミックスしたかのような暴力的なサウンドとリリックが話題を呼び、Sonny Digital や Metro Boomin といった大物プロデューサーと繋がります。
同年には、Sonny Digital とのジョイントEP『Free Guwop』とセカンド・ミックステープ『Slaughter King』をリリースしました。
キャリア開始以降コンスタントに楽曲をリリースしてきた 21 Savage は、2016年、XXL Freshman Class に選出されます。
XXL 史上最も高い人気を博す同サイファーで一躍注目を浴びた 21 Savage は、同年 Metro Boomin とのジョイントEP『Savage Mode』をリリースします。
このEPで成功を収めた彼は、2017年に Epic Records とサインし、デビューアルバム『Issa Album』をリリース。同アルバムは US Billboard チャートにて2位デビューを飾り、更にその後リリースされた Post Malone との楽曲『Rockstar』は Billboard Hot 100 にて最高1位を記録しました。
翌2018年末には Travis Scott や Childish Gambino、Post Malone らをはじめとする豪華ゲストを客演に招いたセカンド・アルバム『I Am > I Was』をリリース。初週13万1千ユニットを売り上げ、見事 US Billboard チャート1位デビューを飾った同アルバムは、2020 Grammy Awards のベスト・ラップアルバムにもノミネートされました。
Metro Boomin
1993年9月16日にミズーリ州セントルイスで生を受けた Metro Boomin (メトロブーミン) こと Leland Tyler Wayne は、母親にパソコンを買ってもらったことをきっかけに、13歳の頃にトラックメイクを始めます。高校生の頃には、FL Studio の前身である FruityLoops を用いて、毎日5つものビートを制作していたそうです。Twitter をはじめとする SNS を用いてラッパーとのコネクションを築き始めた彼は、実際に彼らと仕事をするために、母親に地元セントルイスからジョージア州アトランタ (車で片道約8時間) まで頻繁に送ってもらっていたといいます。
Metro Boomin 曰く、最初に彼のビートを使ってラップをした有名なアーティストは OJ Da Juiceman だそうです。彼はこのコネクションをきっかけに、高校3年生の頃には Gucci Mane と繋がり、高校卒業後にはアトランタに移りました。アトランタに移住後、彼はカレッジに進学するものの音楽活動に専念するために1セメスターで退学。その後、Jeezy や French Montana、Ludacris、Future など名だたる著名アーティストとのコラボを果たした彼は、2013年に Gucci Mane や Future、Young Thug らを客演に招いたデビュー・ミックステープ『19 & Boomin』をリリース。
その後 Future の楽曲を多数手掛けるようになった Metro Boomin は、2015年には Drake と Future のジョイント・ミックステープ『What a Time to Be Alive』のエグゼクティブ・プロデュースを務めるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たしました。
2016年には、Future の『Low Life (feat. The Weeknd)』や Migos の『Bad and Boujee (feat. Lil Uzi Vert)』、Kanye West の『Father Stretch My Hands, Pt. 1』など、数々のヒット曲を生んだ Metro Boomin は、21 Savage とのジョイントEP『Savage Mode』もリリースし、BET Hip Hop Awards にて最優秀プロデューサー賞を受賞しました。
2017年には、NAV との『Perfect Timing』、21 Savage & Offset との『Without Warning』、Big Sean との『Double Or Nothing』の3つのコラボ・プロジェクトをリリース。
飛ぶ鳥を落とす勢いでシーンのトップに駆け上がってきた Metro Boomin ですが、2018年、彼はSNSにて音楽活動の引退を表明します。
しかしその数ヶ月後、Nicki Minaj や Lil Wayne のニューアルバムに参加し、更には自身のソロデビュー・アルバム『NOT ALL HEROES WEAR CAPES』をリリース。同作は見事 US Billboard チャート1位デビューを飾りました。
Metro Boomin のプロデューサー・タグ一覧
Ayy, Lil Metro on that beat (by Kodak Black)
If Young Metro don’t trust you, I’m gon’ shoot you (by Future)
Metro (by Young Thug)
Metro be boomin’ (by Rich the Kid)
Metro Boomin want some more, n***a (by Young Thug)
This beat is so, so Metro (by Young Thug)
Young Metro, Young Metro, Young Metro (by Future)
21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲
ここからは、21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲を数曲ご紹介します。今週末の『Savage Mode Ⅱ』のリリースに備えて、今一度彼らの過去作を振り返ってみましょう。
21 Savage – Drip (prod by TM88 & Metro Boomin)
I’m in the kitchen cooking crack like its bacon,
キッチンでベーコンみたいにクラック (コカイン) を調理している
these p***y ass rappers they be faking
あいつらクソ共はフェイクだ
I’m 21 Savage ain’t no faking,
俺は 21 Savage、本物だぜ
AK-47 get the shaking
AK-47 が身震いしている
2人の初期コラボ曲。21 Savage は現在のスタイルより高めのトーンでラップし、TM88 と Metro Boomin が手掛けるシンプルかつ不穏なビートが 21 Savage のラップの緊張感を助長しています。
21 Savage – Supply (prod by Metro Boomin, Southside & Sonny Digital)
I am 21, young savage
俺は21歳 若い「savage (野蛮、冷酷)」だ
Try me, and you’re going to hell
かかってこいよ 地獄行きだぜ
気怠そうな声で淡々とラップするイメージのある彼ですが、この楽曲では高めの声や変則的なフロウを用いており、Metro Boomin を含む人気プロデューサー3人が手掛ける邪悪なビートと 21 Savage の遊びのあるラップが上手くマッチした1曲です。
21 Savage – Deserve (prod by Metro Boomin)
Me and Johny tried to rob everything
Johny と一緒に全てを盗もうとしていた (*1)
Mookie tried to tell us, do the right thing
Mookie は俺たちに「正しいことをしろ」って言ってたんだ
Larry died man I cried twice
Larry が死んだ時、2回泣いた
(中略)
RIP Tayman that’s why I got that knife
Tayman、安らかに眠ってくれ 俺もナイフのタトゥーを入れたよ (*2)
I don’t get excited about the fame
名声なんてどうだっていい
B***h I’m still with the same gang,
俺は今でも同じギャング (ブラッズ) に所属している
b***h I still claim the same thing
今でも俺の主張はあの頃のままだ
(*1) 21 Savage の親友 Johny は、この強盗の最中に銃撃を受け亡くなった。
(*2) Tayman は 21 Savage の実の弟。21 Savage の額のダガー (ナイフ) のタトゥーは、ドラッグディール中に銃殺された Tayman の額に入っていたもの。
弟や友人を失った悲しい過去を歌った1曲。Metro Boomin の感傷的なビートに乗る 21 Savage の泣き声に近いラップから、彼が生きてきたストリートライフの過酷さが鮮明に伝わってきます。
21 Savage & Metro Boomin – No Heart
You was with your friends playin’ Nintendo
お前が友達と任天堂 (のゲーム) で遊んでいる間
I was playin’ ’round with that fire
俺は銃を持って遊びまわってた
Seventh grade, I got caught with a pistol
中1の頃にはピストル所持で捕まって
Sent me to Panthersville
青少年施設に送られた
Eighth grade, started playin’ football
中2の頃にはフットボールを始めたけど
Then I was like fuck the field
すぐ辞めたよ
Ninth grade, I was knocking n***as out
中3の頃には野郎をぶっ倒した
N***a like Holyfield
Holyfield みたいにな (*1)
(*1) Evander Holyfield : アラバマ州出身のプロボクサー
Metro Boomin、Southside、CuBeatz の3人が手掛けるシンプル且つダークなサウンドの上で、21 Savage が持ち前の低い声で緊張感のあるラップを披露します。ストリートのリアルを歌う、まさに「No Heart」なリリックも特徴的な1曲です。
21 Savage – Bank Account (prod by Metro Boomin & 21 Savage)
I got 1-2-3-4-5-6-7-8 M’s in my bank account
俺の銀行口座には 1-2-3-4-5-6-7-800万ドル入ってる
数え歌的フックが耳に残る1曲。Coleridge-Taylor Perkinson の『Flashbulbs』という楽曲のギターリフをサンプリングした Metro Boomin のダークなビートと、21 Savage の淡々としつつもキャッチーなラップが特徴的な同曲は、Billboard Hot 100 にて最高12位を記録。彼らの抜群の相性を更に世間に知らしめるきっかけとなった1曲です。
Metro Boomin らしい重厚でダークなビートの上で、Offset、21 Savage、Travis Scott という豪華メンバーが順番にヴァースを披露する1曲。圧倒的な迫力を誇る同曲を収録した 21 Savage、Offset、Metro Boomin によるコラボ・アルバム『Without Warning』は、US Billboard チャートにて初週4位デビューを飾りました。
Metro Boomin – Don’t Come Out the House (feat. 21 Savage)
Bang outside, I hang outside
外では銃撃 俺は行くぜ
Don’t come out the house ’cause the gang outside
家から出るんじゃねえぞ ギャングがいるからな
21 Savage が敵対するギャングに対して威圧的なラップをする1曲。イントロが終わり1ヴァース目に突入するタイミングで、Metro Boomin のビートが重厚なサウンドに切り替わり、それと同時に 21 Savage の緊迫感漂うウィスパー (囁き声) フロウが繰り出されます。サウンド、リリック共に圧倒的な緊張感が漂う、2人の相性が抜群に発揮された1曲です。
おわりに
トラップシーン最高峰タッグとの呼び声も高い 21 Savage と Metro Boomin の抜群の相性、ご堪能いただけたでしょうか。
このスニーカーショップは多くの NBA プレーヤーやラッパーが訪れる人気店で、店の裏にレコーディングスタジオを設けており、TyFontaine はその環境に刺激を受けてラップを始める決意をしたそうです。
キャリアの開始 (2018~2019年)
幼い頃は、R&B (Mary J. Blige、Neyo、Usher) やゴスペル (Marvin Sapp)、またバハマ出身の母親の影響でカリプソ (カリブ海の民族音楽) を主に聴いていたという TyFontaine は、5th Grade (日本の小学5年生にあたる) の頃にヒップホップを聴き始めたそうで、彼が初めて聴いたラッパーは、Lil Wayne だったそうです。
彼は、前述したスニーカーショップのスタジオにて Q Da Fool がセッションしている場面を目撃し、「自分にもできる」と確信したといいます。
When I started, I knew that it was possible.
ラップを始めたとき、俺にもできるって分かった
(中略)
I thought “if they could do it, I could do it” type of thing.
「彼らにできるなら俺にもできる」って思ったんだ
彼は、2018年3月に Tyler Fontaine 名義でラップを始めました。
Tyler Fontaine – Precision (feat. Nuge)
シングルやミックステープ、Clockwork-Productions から公開したミュージック・ビデオなどで頭角を現した彼は、2018年10月に、Taz Taylor 率いる Internet Money Records と契約を結びます。
その後も No Jumper からミュージック・ビデオを公開したり、立て続けにミックステープをリリースしたりと精力的に音楽活動に取り組んでいた彼は、2019年リリースのミックステープ『Waiting on Ascention』や EP『Virtual World』で更に注目を浴びることとなります。
ミックステープ『Waiting on Ascention』
Internet Money の Nick Mira や DT、JRHitmaker らがプロデュースを手掛けたミックステープ。
EP『Virtual World』
Taz Taylor、Nick Mira のエグゼクティブ・プロデュースに加え、Jetsonmade や 10k.Caash らも参加した EP。
自身の音楽性を「versatile, carefree, easy-going (多才で、楽天的で、陽気)」と表現する彼の楽曲の特徴は、Juice WRLD や Lil Uzi Vert らの魅力を凝縮したようなメロディアスでエモーショナルなフロウです。彼は、いわゆる「エモラップ」に分類される他のラッパーよりもポップで明るいメロディラインと歌唱スタイルを用いており、どんなトラックも自分のものにしてしまう力を持っています。
更なる躍進 (2020年~)
そんな彼は2020年4月、Taz Taylor、Nick Mira を中心に、Jetsonmade や PVLACE、Bugz Ronin ら人気プロデューサー陣を起用したミックステープ『1800』をリリースします。
Tyler, The Creator や Jaden Smith を始め、様々なアーティストがカミングアウトを堂々とするようになったのも、Ocean の勇気ある行動を契機としているといっても間違いありません。ちなみに、Ocean 自身がカミングアウトを行う勇気が出たのは、音楽的にも最も影響を受けたアーティストの一人である Prince のおかげだと言っています。
Prince が、「性の役割」という古臭い考えを相手にせず、自由に行動してくれたからこそ、自分のセクシュアリティをナチュラルに受け止めることができたんだ。
ちなみに Prince は今となっては伝説的なアーティストであることは間違いありませんが、今から 30 年以上前に、テレビの番組にビキニとヒールを纏って出演したこともあったりと、表舞台でセクシュアリティを公表した黒人としてもその功績を称えずにはいられません。
ここまでが「みんなの知らない Frank Ocean」でした。では次に Ocean の音楽の源流について考察していきます。
シカゴ北部の Old Town エリアにて、両親と3人の兄妹とともに生活していた Polo G は、2016年から楽曲制作を開始。幼い頃は、Lil Wayne や 2Pac、Gucci Mane、Lil Durk、Chief Keef らの楽曲を聴いていたという。2018年リリースの『Finer Things』のバイラルヒットをきっかけに、2019年には『Battle Cry』、『Pop Out (feat. Lil Tjay)』と立て続けにヒットを生み出し、それらの楽曲を収録したデビューアルバム『Die a Legend』は US Billboard にて6位デビュー。
2020年には、セカンドアルバム『THE GOAT』をリリースし US Billboard 2位デビューを飾った。
Polo G についての記事はこちらから↓
【代表曲】
Pop Out (feat. Lil Tjay)
Flex (feat. Juice WRLD)
Jack Harlow
【本名】Jackman Thomas Harlow
【生年月日】1998年3月13日
【出身地】ケンタッキー州ルイビル
Jack Harlow は、12歳の頃にノートパソコンとビデオゲーム「Guitar Hero」付属のマイクを用いてラップを始めたそう。キャリア初期は Mr. Harlow 名義で活動しており、友人と共に Moose Gang なるコレクティブも結成していた。
2018年にはジョージア州アトランタに引っ越し、生活費を稼ぐためにカフェで働いていた Harlow は、その数ヶ月後に DJ Drama と Don Cannon 率いる Generation Now と契約を結ぶこととなる。同年、彼はメジャーレーベルからの初のミックステープ『Loose』をリリース。翌2019年にはミックステープ『Confetti』をリリースし、USツアーも開催した。
2018年、彼は YNR Choppa という名義の元、ファースト・シングル『No Love Anthem』と、デビュー・ミックステープ『No Love the Takeover』をリリース。また、Choppa が所属するコレクティブ Shotta Fam の楽曲『No Chorus Pt.3』での彼の印象的なヴァースとダンスが話題を呼び、一躍名を馳せる。
NLE (No Love Entertainment) Choppa に改名した彼は、2019年にシングル『Shotta Flow』をリリース。同曲のミュージック・ビデオがわずか1ヶ月で1000万再生を記録し、Billboard Hot 100にて96位デビューを果たした。
高校卒業の年でもあった2017年に初のミックステープ『Rookie of the Year』をリリース。その後、ミックステープ『Hunger Games』シリーズで人気を集め、2019年リリースのデビューアルバム『Ghetto Gospel』は US Billboard 14位デビューを記録した。
更に2020年リリースのセカンドアルバム『Pray 4 Love』は初週で7.2万ユニットを売り上げ、US Billboard 2位デビューを飾った。
【代表曲】
Heart on Ice
Girl of My Dreams
Baby Keem
【本名】Hykeem Jamaal Carter, Jr.
【生年月日】2000年10月22日
【出身地】ネバダ州ラスベガス
Kendrick Lamar の従兄弟としても知られる Baby Keem は、その Kendrick を擁するビッグ・レーベル Top Dawg Entertainment 所属のアーティストの作品に多数クレジットされている。その例として、Kendrick Lamar の『Black Panther: The Album』や Jay Rockの『Redemption』、ScHoolboy Q の『Crash Talk』、Beyoncé の『The Lion King: The Gift』等での、ソングライティングやプロダクションへの参加が挙げられる。
声変わりを待ってからラップを始めたという彼は、2018年に『No Name』と『Hearts & Darts』の2つのEPをリリースしたのち、ミックステープ『The Sound of a Bad Habit』をリリース。その後、2019年にリリースしたシングル『Orange Soda』が2020年にかけてヒットし、US Billboard にて98位を記録した。同曲収録のミックステープ『Die for My Bitch』も多くの音楽メディアやアーティストから称賛を受け、一躍注目を浴びた Keem は、Kendrick Lamar と Dave Free による新企画『pgLang』のイントロ・ビデオにも起用され話題となった。
【代表曲】
ScHoolboy Q – Numb Numb Juice
Orange Soda
Lil Keed
【本名】Raqhid Jevon Render
【生年月日】1998年3月16日
【出身地】ジョージア州アトランタ
学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた Lil Keed は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組み始める。
Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 同テープがストリートヒットし Young Thug の目に留まった彼は、Young Stoner Life Records と契約を結ぶ。同年には『Slime Avenue』、『Trapped on Cleveland 2』、『Keed Talk to ‘Em』の3つのミックステープをリリース。『Keed Talk to ‘Em』にはTrippie Redd や 21 Savage、Lil Yachty、Lil Durk、Brandy ら大物アーティストが多数参加した。
2019年にはデビューアルバム『Long Live Mexico』を、2020年にはセカンドアルバム『Trapped on Cleveland 3』をリリース。ネクスト Young Thug との呼び声も高い若手ラッパーの1人である。
Lil Keed についての記事はこちらから↓
【代表曲】
Nameless
Wavy (feat. Travis Scott)
Mulatto
【本名】Alyssa Michelle Stephens
【生年月日】1998年12月22日
【出身地】ジョージア州アトランタ
オハイオ州コロンバスで生を受けた Mulatto は、2歳の頃にジョージア州アトランタに移住。彼女は10歳の頃にラップを始め、2016年には、若手ラッパーたちが8週間にわたり力を競い合うアメリカのリアリティTVシリーズ『The Rap Game』に参加、見事優勝を果たした。その結果として彼女は So So Def Records との契約権を勝ち取るが、契約金が少ないという理由でこれを断り、インディでの活動を選んだ。同年には Georgia Music Awards にて Youth Hip Hop/R&B Award も受賞した。
2017年頃から EP やミックステープを継続的にリリースしてきた彼女は、2020年に RCA Records と契約を結び、Gucci Mane や NLE Choppa らとの共演も果たした。
【代表曲】
No Panties
Muwop (feat. Gucci Mane)
Calboy
【本名】Calvin Woods
【生年月日】1999年4月3日
【出身地】イリノイ州シカゴ
音楽活動を始める前は絵を描いて過ごしていたという彼は、2015年から Kidd Cal 名義で楽曲を公開し始める。
2017年には初のミックステープ『Anxiety』を、2018年には Paper Gang Inc. からセカンドミックステープ『Calboy the Wild Boy』をリリース。同年、シングル『Envy Me』がダンスチャレンジによりバイラルヒットし、ますます知名度を上げた彼は、Kodak Black のツアーへの参加も果たした。
2019年には、RCA Records と Polo Grounds Music からEP『Wildboy』をリリース。Moneybagg Yo や Lil Durk、Yo Gotti、Polo G、Meek Mill、Young Thug らをフィーチャーした同作は、US Billboard チャートにて最高30位を記録した。Chance the Rapper のアルバムへの参加も果たした彼は、2020年、EP『Long Live the Kings』をリリース。同郷シカゴのラッパー Lil Durk から強く影響を受けた若手ラッパーの1人である。
アメリカ大統領選の翌日にアフリカ系アメリカ人としての訴えを Instagram にポストしたり、トランプ支持者として知られる Kanye West を皮肉るフリースタイルラップを披露したりと、政治関連の動きで注目を集めた彼女は、2019年にデビューシングル『No Squares』をリリース。同年夏には Warner Records と契約を結び、さらに2つのシングルを発表した。
カリフォルニア州ロサンゼルスで生を受け、後にサンフランシスコに移住した彼は、2019年にリリースしたシングル『Valentino』のバイラルヒットで一躍ブレイク。彼は、同曲のヒットを受け LLC、Columbia Records と契約を結び、デビュー EP 『Dropped Outta College』をリリース。彼の楽曲『Game on Your Phone』が人気ゲーム『NBA 2K20』のサウンドトラックに選ばれるなど、西海岸出身の注目ラッパーの1人である。
【代表曲】
Valentino
Mood (feat. iann dior)
Lil Tjay
【本名】Tione Jayden Merritt
【生年月日】2001年4月30日
【出身地】ニューヨーク州サウスブロンクス
15歳の頃に強盗罪で逮捕され、服役中にリリックを書き始めたという Lil Tjay は、2017年にデビュー曲『Resume』をリリース。同曲や、その後リリースした『Brothers』がバイラルヒットし、さらに Polo G との楽曲『Pop Out』は US Billboard Hot 100 チャートにて最高11位を記録。
2019年にはデビュー・アルバム『True 2 Myself』(US Billboard 5位デビュー) を、2020年には EP『State of Emergency』をリリースした。
21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加をきっかけに、DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たし、彼のコラボレーターとしてよく知られる DaBaby の楽曲を手掛けるようになる。DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。
2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たした。2020年には、Playboi Carti のシングル『@ MEH』や J. Cole のシングル『Lion King on Ice』の制作にも携わるなど、現行ヒップホップシーンを代表するプロデューサーの1人である。
ビデオゲームのBGMのようなピコピコトラック、Playboi Carti や Lil Uzi Vert らが得意とする浮遊感のあるトラック、極端に音数が少なくバスドラムが響く重低音トラックなど。トラップミュージックが急速に人気を博して数年たった今、数々のプロデューサーたちが多種多様なトラックを生み出し続けています。
中国的な雰囲気を感じられるトラックは、随分前からちらほらと見受けられましたが、やはり流行の発端となったのは、中国出身のヒップホップグループである Higher Brothers の『Made In China』ではないでしょうか。彼らは、中国でヒップホップシーンが盛んになり始めたタイミングで、チャイニーズラップらしい中華ビートを採用した楽曲をリリースしました。Future や Young Thug などとの共演で有名なプロデューサー Richie Souf による中華トラックに加え、シカゴのラッパー である Famous Dex をゲストに招いたことで、チャイニーズスタイルのトラップミュージックが瞬く間に全世界に広がりました。
中国のヒップホップシーンはもちろんのこと、海外からの注目も集めることに成功した彼らは、のちにリリースしたアルバムに ScHoolboy Q や J.I.D、KOHH などを招くことで、さらなる知名度を獲得していきます。そのなかでも、Ski Mask The Slump God と Denzel Curry を招いた楽曲『One Punch Man』は、Ronny J による中華ビートの上で中国語と英語が混同した勢いのあるラップが話題を呼びました。
Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するラッパー Gunna のデビューアルバム『Drip or Drown 2』に収録されている『Who You Foolin』という楽曲です。Wheezy による高級中華料理店のBGMのような中華トラップビートに、Gunna がしっとりと哀愁のあるラップを載せています。
ちなみに、Wheezy がサンプリングしたのは、中国の人気歌手である Tong Li の『童麗』という楽曲です。メロディはそのまま使用されており、Wheezy はドラムスを重ねただけです。しかし、今となっては原曲のYouTube のコメント欄には「Gunna から」「Gunna が俺をここに導いてくれた」など、Gunna リスナーによるコメントしか見当たりません。
Polo G の最新作『THE GOAT』に収録されている『Chinatown』という楽曲です。こちらの楽曲に関しては、タイトルから察しがつく通り、もちろん中華ビートが採用されています。チャイナタウンというだけあって、特定の楽器によるメロディラインというよりは、チャイナタウンの街の喧騒のようなサウンドにドラムスを重ねた怪ビートとなっています。
皆さんご存知の Justin Bieber が2014年にリリースしたアルバム『Purpose』に収録されている『Hit the Ground』という楽曲です。同アルバムには、Travis Scott や Nas、Big Sean などがクレジットされていることもあり、今回の趣旨から大きく逸脱してしまうわけではないので、ご紹介させていただきます。
Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するジョージア州アトランタ出身の注目ラッパー Lil Keed (リル・キード)。XXL Freshman Class 2020の有力候補の1人であり、本日セカンド・アルバム『Trapped On Cleveland 3』をリリースした彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。
生い立ち
I come from the jungle where you don’t survive.
他の奴らは生き抜くことができないような、ジャングルみたいな場所からやって来たんだ
1998年3月16日、ジョージア州アトランタにて生を受けた Lil Keed こと Raqhid Jevon Render は、幼少期を Forest Park で過ごした後、Cleveland Ave に引っ越します。この Cleveland Ave はアトランタのゾーン3に位置しており (アトランタは、警察によって1~6までの管轄地区に分けられており、アトランタのスター Young Thug もゾーン3で生まれ育ちました) 、彼は6人の兄弟とともに貧しく過酷な環境下で生活していたそうです。
キャリアの開始とミックステープ
学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた彼は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組むようになります。
Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 Young Thug の影響を強く感じさせるハイピッチで歌うスタイルが彼の特徴です。
Young Thug のようなハイピッチ・フロウとキャッチーなコーラスが特徴的な1曲。女性との関係や掴んだ成功について歌った同曲がバイラルヒットし、US Billboard チャートにて最高30位を記録、後にゴールド認定されます。
デビュー・アルバム『Long Live Mexico』
2019年6月、Lil Keed は待望のデビュー・アルバム『Long Live Mexico』をリリースします。タイトルの『Long Live Mexico』とは、同年始に亡くなった彼の友人 Mexico に追悼の意を表したものです。
Young Thug や Gunna、NAV、Moneybagg Yo、Lil Uzi Vert、YNW Melly、Roddy Ricch らを含む13名を客演に迎えた同作は、US Billboard チャートにて最高26位を記録します。
Snake
CuBeatz & Pyrex Whippa プロデュースによるウクレレのようなストリングスを用いたスロウなトラックと、「Snake」を連呼するだけのシンプルなフックが特徴的な1曲。2バース目入りの苦しそうなハイピッチ・フロウが彼の持ち味で、まさに Young Thug のハイピッチ・パートをそのまま受け継いで進化させたかのようなスタイルを披露します。
2018年から次々と作品をリリースし、憧れの Young Thug に認められたのち YSL Records と契約、更には XXL Freshman Class 2019 にもノミネートされるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いでスターダムを駆け上がってきた Lil Keed。そんな彼は、YSL Records やアトランタのラッパーを中心に、様々なアーティストと共演するようになります。
Young Thug – Goin Up (feat. Lil Keed)
まずは Keed をフックアップした Young Thug との1曲。彼らが出会って間もない時期に制作した楽曲ですが、2人は既に最高のコンビネーションを発揮しています。Thug がイントロで「Keed, yeah」とシャウトアウトする部分や、似たような声質から放たれる両者のハイピッチ・フロウから、彼らが本当の親子だと勘違いするファンもいたほどです (年齢的にはあり得ませんが)。実際 Thug は、Keed を実の息子のように可愛がっています。まさに Keed は、アトランタ・ヒップホップシーンの結束力と Young Thug の多大な影響力が生んだネクストスターといえるでしょう。
※Young Thug がシーンに与えた影響については、以下の記事をご覧ください。
Jacquees – Hot For Me (feat. Lil Keed & Lil Gotit)
ジョージア州ディケーターの R&B シンガー Jacquees の1曲に、Keed は実弟の Lil Gotit と共に参加しています。Keed のシグネチャーである「Keed talk to ’em」の連呼で始まる彼のヴァースは、地声のラップからアドリブと共にハイピッチ・フロウに切り替わっていく展開で、R&B サウンドにしっかり順応しています。優れた歌唱力と美しい歌声を持つ Jacquees と、それに負けじと必死にハイピッチで歌う Keed の2人だからこそ成せる絶妙なコンビネーションです。
88GLAM – Bankroll (feat. Lil Keed)
カナダ・トロントのヒップホップ・デュオ 88GLAM との1曲。Keed は、お得意のハイピッチ・フロウに加え Young Thug のようなダミ声も披露しており、客演にも関わらず主役級の存在感を放っています。Keed はどの楽曲でも同じようなラップをしていると思われがちですが、自分のスタイルを貫きながらも随所に様々な工夫を凝らしており、インタビューでも以下のように語っています。
After just every day being in the studio, trying new things.
俺はいつも新しいことを試してる
I don’t want people to be like, ‘He sounds the same on every song, that shit’s boring!’
ミシガン州デトロイトのラッパー Tee Grizzley との1曲。Tee Grizzley のハードなラップに続いて、Keed はハイテンポなビートを乗りこなしながら自由なラップを披露します。真面目にラップする Tee Grizzley と、奇妙なアドリブやフロウを聴かせる Keed の相性が意外にもマッチした楽曲です。
johan lenox, Lil Keed & Kota the Friend – throwback thursday
マサチューセッツ州ボストンのシンガー/プロデューサー johan lenox との1曲。Keed とオーケストラ・サウンドという一見意外な組み合わせですが、彼は johan lenox にも Kota the Friend にもない新たなエッセンスを楽曲に加えており、三者三様のコントラストが魅力的な楽曲です。このようにヒップホップ (トラップ) 以外の楽曲にも起用される Keed は、同じく様々なジャンルの客演をこなす Young Thug に近い立ち位置を確立しつつあるのではないでしょうか。
おわりに
今回はアトランタの注目ラッパー Lil Keed についてまとめてみました。いかがだったでしょうか。
2019年、そして2020年と2年連続で XXL Freshman Class の候補者にノミネートされており、これからますます活躍が期待されている Lil Keed。実弟 Lil Gotit と共にアトランタのシーンを背負うビッグスターになる日も近いかもしれません。
突然ですが、あなたは Kanye West という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?「変人」「宇宙人」などなど、最近の一連の行動を見ていると、あらかたの人が Kanye に対して不信感や偏見を持っているかもしれませんが、彼の音楽面における影響力は絶大なものなんです。
ということで、今回はそんな Kanye West の全てがわかる記事をご用意しました。Kanye がリリースしたほぼ全てのプロジェクトを通して、彼の音楽の全貌に迫りましょう。
Kanye West とは?
Kanye West (以下、Kanye) は1977年6月8日にアトランタで生まれ、イリノイ州のシカゴで育った現在43歳のプロデューサー・ラッパー・ファッションデザイナーです。ここでまず最初に注目してほしいのは、彼が元々プロデューサーであったという事です。
プロデューサー・Kanye West
彼は1990年代に学生として大学に通いながら、プロデューサーとしての仕事を始めました。しかしなかなかヒットには恵まれません。実はこの時期に、ソロデビューを果たすためにかなりレーベル探しに苦労しており、Capitol Records からソロアルバムを出すということがほとんど目前まで決まっていたところで契約が白紙になってしまったこともありました。
好機が訪れたのは2000年代になってからのこと。オールドスクールとニュースクールのハブ的存在、 Jay-Z との出逢いです。そして、Jay-Z にプロデューサーとしての資質を買われて Roc-a-Fella Records とプロデューサーとして契約を結びます。
この曲はジム・モリソンの所属していたアメリカ西海岸出身の世界的バンド The Doors の『Five to One』や David Bowie の『Flame』を大胆にサンプリングした一曲です。また、この曲は Nas をディスってビーフになったことでかなり有名な一曲でもあります。今でこそゴスペルのイメージが強い彼も、源流はサンプリング&ループビートなんです。
Jay-Z – Izzo
続いては『Izzo』ですが、この曲のビートどっかで聞いたことがあるなと感じた方もいらっしゃることでしょう。そうなんです、これは Jackson 5 の『I Want You Back』をサンプリングした一曲なんです。大胆に様々なジャンルに闖入しうる彼の才能は、この時代から顕在ですね。
Common – They say (feat.Kanye West & John Legend
Jay-Z の他にも、 シカゴヒップホップの開拓者ともいえる Common のアルバム『Be』にて、11曲中9曲を Kanye がプロデュースします。では一曲お聞きいただきましょう。Common で『They say (feat.Kanye West & John Legend』 です。
John Legendの聞き心地のよいコーラスから始まる、気持ち良さと軽快さを兼ね備えたビートですね。聴いた人は分かると思いますが、2バース目はカニエのラップパートになっています。
また、R&B においても、彼はプロデューサーとしての才能を開花させていきます。プロデュースした中で有名なものに、Alicia Keys の『You Don’t Know My Name』があります。
これはリーク曲に対する世間の評判を見て、曲のマスタリングを変更したり、曲を没にしたりするためにやったそうです。実際に、東海岸のレジェンドクルー Wu-Tang Clan の Ol’ Dirty Bastard (通称:ODB) との楽曲『Keep the Receipt』をこのアルバムから外し、一年後の Roc-a-Fella Records から出したミックステープに収録していたりします。
The College Dropoutのオススメ曲
このアルバムでのオススメ曲としては、まずは Chaka Khan の『Through the Fire』を大胆にサンプリングした楽曲『Through The Wire』です。 『Through the Fire』(炎の中で) を 『Through the Wire』(ワイヤーの間から)というお茶目なワードプレイに変えちゃう辺りは彼らしくて面白いですね。
続いては『Late Registration』です。こちらは、リリース後10週連続で全米チャート1位をとり、これ以降のアルバムでKanye はチャートを総ナメしてしていくのですが、今作は前作と比べてかなりクラシック的要素が強くなっています。このアルバムの制作における裏話に、上述の Common のアルバム制作の時に「俺ならこうやってラップするぜ」と思っていたそうで、そこから着想を得たそうです。
勿論、Jay・Z や Nas、The Game、さらには Brandy や Maroon5 の Adam なども客演に迎えた崇高な仕上がりになっています。このアルバムを契機として、温かみやチープさといった印象を払拭した楽曲の作り方をしています。また、このアルバムでは Pop 界のレジェンドプロデューサー Jon Brion を外部プロデューサーとして迎え入れていることで、前作とはまた違ったサウンドの幅を感じます。
このアルバムでは、エレクトロニックサウンドへの傾倒が注目されがちですが、ニューヨーク出身の伝説的バンド Steely Dan のサンプリングなど、今までにも増してヒップホップの可能性を無限大に広げ、そのジャンルをメインジャンルに押し上げたアルバムであることも特筆すべき点です。また、一曲一曲がクリアにミキシングされているので、以前にも増して粗雑感が消えています。
Graduationのオススメ曲
2006年に先行シングルで発表し、世間に衝撃を与えた一曲『Stronger』をオススメします。
最高ですね。この曲を聞いたことのある人が多い理由はサンプリング元が Daft Punk の『Harder Better Faster Stronger』だからです。にしても、天才的なサンプリングセンスとしか言いようがありません。
『My Beautiful Dark Twisted Fantasy, Watch The Throne』のオススメ曲
Pusha T をフィーチャーした一曲『Runaway』です。
Let’s have a toast for the douchebags.
勘違い野郎に乾杯だ。
たった1音の旋律から増幅するこの曲は、かなり教示的な一曲だと感じると同時に、その自嘲的なリリックにユーモアさえ感じとることができます。Taylor Swift のMTV授賞式を邪魔するという失敬によって彼はハワイでレコーディングをせざるを得なくなったわけですが、唖然とするほどストイックにレコーディングを行ったそうです。モデルの Amber Rose との破局もあったのですが Kanye は心が不安定な時こそ最高の音楽を作ってしまうんですね。
続いては、Fergie、Alicia Keys、Elton John、Rihanna や Kid Cudi といったスターたちを次々に使う『All Of The Lights』 です。
辛い時期を闘った Kanye なんですが、2011年には Roc-a-Fella Records と Def Jam Recordings より、恩人 Jay-Z と共作のアルバム『Watch the Throne』をリリースします。このプロジェクトは元々、EPとして発表するつもりだったのですが、色々な構想がうまく行くうちにアルバムにしてしまおう、となって作られたアルバムです。
『Kanye West Presents GOOD Music Cruel Summer』(2012)
続いては、Kanye が自ら2004年に作ったレーベルで Def Jam Recordings の傘下である GOOD Music より出されたレーベルアルバムの『GOOD Music-Cruel Summer』です。こちらはレーベルでのアルバムにはなりますが、Kanye によるプロデュースアルバムで、彼自身が楽曲に多く参加しているので紹介いたします。
『Cruel Summer』のオススメ曲
『I Don’t Like ft. Pusha T, Chief Keef, Jadakiss& Big Sean』
そして2年の時が過ぎ、7作目のアルバム『Yeezus』をリリース。このアルバムはこれまでずっと続いてきた Roc-a-Fella Records と Def Jam Recordings から出される最後のアルバムとなります。次回作からは GOOD Music と Def Jam Recordings よりリリースされるようになります。
今作はプロデューサーとして Mike Dean や Daft Punk、Arca や Travis Scott を招いていて、この作品でも革新的な電子サウンドを取り込んだ楽曲が多くみられます。また、リリースされる15日ほど前にプロデューサー Rick Rubinを招き、このアルバムをさらに凝縮するべく、マスタリングをギリギリまで行っています。
そして、何よりこのアルバムの特徴といえば、転調の多さです。この転調の多さは Travis Scott にもかなり影響を与えたようで、転調の王者 Travis Scott の原点とも言えるアルバムでしょう。
『Yeezus』のオススメ曲
まずは、Travis Scott を中心に Mike Dean なども共にプロデュースした一曲『New Slaves』です。
We on an ultralight beam. This is a God dream. This is everything.
みんな神の光に包まれている。これが神の与えてくれる希望だ、それだけさ。
実はこのライン、初めの女の子の発言に対して呼応する構造になっているんですよね。また、ここでの神の光はつまり無償の愛、キリスト的用語で言えば、「アガペー」を意味するのでしょう。この曲では 女性シンガー Kelly Price の圧倒的歌唱力も味わうことができます。彼女は幼少の頃から教会に通い、ゴスペルに大きな影響を受けたシンガーです。
そしてその後、Chance The Rapper の心地よいバースがあり、曲の終盤に Kirk Franklin を使ってしまうという徹底したゴスペルサウンドへのこだわりが随所に見られます。Kirk Franklin はゴスペルとヒップホップを融合し、アーバン・コンテンポラリー・ゴスペルを作り出した張本人でアメリカでも圧倒的人気を誇るアーティストなんです。
この曲は Metro Boomin のプロデュースということですが、始まりから最高ですね。「stretch my hands」というのは神を賛美するときに天に向かって手を伸ばすことを意味していて、一般的な Sunday service (日曜礼拝)や祈りを捧げるときに行われる行為です。
ちなみに『Father I Stretch My Hands to Thee』という曲は James Cleveland の代表曲で、Kanye はこの曲を参考に作っています。
I feel like me and Taylor might still have sex Why? I made that bitch famous (Goddamn)
俺とテイラー(スウィフト)は今もやってるかもな。なぜかって、俺があのアマを有名にしたからだよ。
このリリックに対して Taylor Swift サイドがかなり批判したのですが、リリース前に Taylor Swift に許可を取っていたという電話をキム・カーダシアンが通話記録から発見し、一旦事態は収束しました。しかし、事態は今年になって急展開を見せました。なんと、結局は Kanye 夫妻が嘘をついていたというのがまたもや通話記録から発見されたのです。否定的なラインはその本人に悪影響を与えるため、Taylor Swift が怒る理由も理解できますね。
続いては『Waves』です。この曲にはChance the RapperとChris Brownをフィーチャーしています。Chance the Rapper といえば、Kanye も認める凄腕ラッパーな訳ですが、彼が他の楽曲にも様々に「テコ入れ」を行ったことでリリースが遅れたとも言われていますから、彼のプロデュース力も底知れぬものなのでしょう
最後に僕のカニエの数々の曲の中で最も好きな曲を紹介します。
この楽曲・アルバムのタイトルにもなっている「Pablo」についてなのですが、これはキリストの使徒の一人である「パウロ」を指します。パウロはもともと、ユダヤ教徒のファリサイ派と呼ばれる過激な思想を持つ宗派に属しており、キリシタンを迫害し、嘲笑するような態度でした。しかし、突然キリストの声が聞こえ、目が見えなくなります。それをキリスト教徒が祈りにより直してしまいました。そのような経験から彼はキリスト教へと回心したのです。『The Life of Pablo』はそんな人の人生というのがテーマのアルバムなのです。
Shirley Ann Lee・PARTY NEXT DOOR・070 Shake という近年力をつけてきた勢力に加え、自身のレーベルより長年の古株である Kid Cudi を絶妙なタイミングでコーラスとして使った至極の一曲です。
続きましては、その Kid Cudi との共同プロジェクト「KIDS SEE GHOSTS」のアルバムについてです。
Kanye West と Kid Cudi
『KIDS SEE GHOSTS』 (2018)
実は、Ronald Oslin Bobb-Semple より、このアルバムの収録曲『Freeee (Ghost Town Pt. 2)』に Kanye がマーカス・ガーベイのスピーチを再現した「The Spirit of Marcus Garvey」という音声が使用されていることに対し、訴えを起こしました。これは曲の中心として使っているのでフェアユースとは言えないだろと訴えを起こされ、話題となっていました。
三曲目のこちらですが、TLOPで紹介した「Father I Stretch My Hands to thee」をサンプリングしています。これは言わば、TLOPの『Father Stretch My Hands, Pt. 1』そして『Pt. 2』の続きに当たる『Pt. 3』とも言える曲ですね。見事なサンプリングです。この曲が一番再生されてる理由も理解できますね。
そして2020年になり、YEEZY と GAP のコラボレーションを発表するなど、コロナ渦でも話題を欠くことのなかった Kanye West。
そんな彼が、突然 MV と共に弟のような存在である Travis Scott を客演に呼んだ一曲『Wash Us in the Blood』を発表します。
このミュージックビデオは、Solange や Jay-Z のMV監督としても知られる、映画監督の Arthur Jafa によって作られました。車の激しいアクションのシーンは思わず目を見開いてしまいそうになりますね。また、兄弟分とも言える Travis Scott を絶妙な使い方で使っている点にも注目です。
(Kanye West と Travis Scott の関係については以下の記事を参照ください)
そして 7月5日にはアメリカの大統領選挙に出馬する意向を示し、実際に出馬することがほとんど確定となったり、ニューアルバム『DONDA』をリリースすると発表したり、演説で号泣しながら中絶廃止を訴えたり、とコントロバーシャルな話題を振りまき続ける Kanye West からは今後も目が離せません。
Juice WRLD の遺作『Legends Never Die』への参加や、Lil Tecca や Lil Tjay などの人気若手ラッパーたちとの共演で注目が集まる中、満を辞して待望のニュープロジェクト『Fuck Love』をリリースしたばかりの The Kid LAROI。今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力について迫ります。
The Kid Laroi とは
The Kid LAROI (ザ・キッド・ラロイ) こと Charlton Howard は 2003年8月16日にオーストラリアのシドニーに生まれました。現在のヒップホップシーンでは珍しいオーストラリア出身で、まだ16歳とかなり若いのも特徴の一つです。
シドニーで生まれた The Kid LAROI (以下 LAROI) は幼少期からヒップホップを中心とする音楽に親しんでいました。彼の母親はオーストラリアの音楽をほとんど聴かない人物だったそうで、母親が幼少期の LAROI に Kanye West や 2Pac 、Erykah Badu などの音楽を聴くことをすすめたことが、彼がヒップホップと出会うきっかけとなったそうです。
彼の音楽は Juice WRLD や Trippie Redd のそれと比較されることが多く、「サウンドクラウドラップ」や「エモラップ」にカテゴライズされることが多いです。実際に彼が音楽の道を志し始めたときには、彼はすでに Juice WRLD の大ファンだったそうで、Juice WRLD による影響はかなり大きいとインタビューの中でも語っています。
キャリアの開始
LAROI は2018年にオーストラリアのラジオ番組の新人アーティスト発掘コーナーである Triple J Unearthed High にてファイナリストまで勝ち上がります。コンペティションにて知名度を格段に上昇させた LAROI は同年に初の EP 『14 WITH A DREAM』を SoundCloud にて公開します。
1曲目に収録されている『GO GET IT』では、EP のタイトル通り「14歳にして大きな夢を思い描く」彼の決意や大志がひしひしと感じられます。メロディアスなラップや、フックを歌い上げるスタイルの楽曲が多い現在の彼に対し、初期はシリアスなラップを淡々とこなすスタイルが特徴的です。
4曲目に収録されている『Blessings』では、メロディアスでありながらもシリアスさを持ち合わせる力強いラップを堪能することができます。当 EP の中では、こちらの楽曲が特に大きな話題を呼び、彼のキャリアを躍進させるきっかけとなりました。
Juice WRLD をはじめとした SoundCloud 発のエモラップを好むリスナーたちを中心に徐々にファンベースを築き上げていった LAROI は2019年に Juice WRLD も所属する Lil Bibby によるレコードレーベル Grade A Productions や Columbia Records との契約を交わしました。
その後、 LAROI は Juice WRLD によるライブツアーのオーストラリア公演への同行を果たし、憧れだった人気ラッパーたちに仲間入りします。ツアーの際に憧れの存在である Juice WRLD との親交を深めた彼は、のちに彼とのコラボ曲も発表します。
Rolex は、ドイツ人の Hans Wilsdorf が1905年に創業したスイス発の腕時計ブランドです。創業当初の同社の腕時計の精度は決して高くはありませんでしたが、創業者である Hans Wilsdorf の熱心な研究によりムーブメントの品質向上に成功。その結果、商標登録からわずか2年後に、腕時計として初のクロノメーター認証 (高い品質を認められた時計だけに与えられる称号) を受けるという快挙を達成します。
2Pac が愛用していたのは、ダイアモンドが施されたイエローゴールドの Day Date (デイデイト)。Rolex の高級ラインにのみ使用される「Presidentbracelet」を用いた Day Date は Rolex が誇る最上位ドレスモデルであり、定価にしておよそ300万円から1000万円を超えるものまで存在します。ちなみにこの「President bracelet」とは、1956年に当時のアメリカ大統領アイゼンハワー氏に Day Date が贈られたことがきっかけで付けられた名称で、ヒップホップにおいても Rolex を意味するスラングとして「President」というワードが頻繁に用いられます。
Warren G – Regulate
I’m gettin’ jacked, I’m breakin’ myself
俺はやられる ボロボロになるんだ
I can’t believe they takin’ Warren’s wealth
Warren の (俺の) 物を奪おうとしてくるなんて信じられない
They took my rings, they took my Rolex
奴らは俺のリングと Rolex を奪った
I looked at the brother, said “Damn, what’s next?”
奴らを見て言ったんだ 「次はなんだ?」ってな
G Funk の流行を支えた Warren G が1994年にリリースした名曲『Regulate』でも、音楽で成功を収めた結果手に入れた「Wealth = 富」として、Rolex がネームドロップされています。「自らが敵に襲われ、財産である Rolex を奪われてしまう」という、強さを誇示することが一般的であるヒップホップ界においては珍しいラインですが、ヒップホップ全盛期として知られる90年代においても Rolex は富の象徴として扱われていたことが分かります。
アニメの要素を自身の作品に取り入れるアーティストたちは、時にアニメの主人公に自身を投影します。今となってはゴスペルアルバムをリリースしたり、大統領選への出馬意向を示したりとアニメとは無縁の世界に身を置いているように見える、Kanye West もその中の一人です。まずはこちらのミュージックビデオをご覧ください。
Kanye West による三枚目のスタジオ・アルバムである『Graduation』に収録されている『Stronger』のミュージックビデオです。ネオンが輝く東京の街並みや近未来的なロボットなどが登場し、SFアニメを連想させるものとなっております。勘の良い方ならすでにお気づきかもしれませんが、実はこちらのミュージックビデオは、大友克洋によるSF漫画・アニメである『AKIRA』に実際に登場するシーンなぞらえて制作されています。
アニメキャラクターに自身を投影するラッパーは他にも多数存在し、その一人が Lil Uzi Vert です。最近でも『Futsal Shuffle 2020』や『That’s A Rack』などのアートワークに自身をアニメキャラクターにデフォルメ化したものを起用したことから、アニメ好きというイメージは浸透しているように思えますが、彼が作品にアニメのエッセンスを加え始めたのはそれよりも前にさかのぼります。
Lil Uzi Vert が2016年にリリースした3枚目のミックステープ『Lil Uzi Vert vs. the World』収録の『Ps & Qs』のミュージックビデオです。日本の学校を舞台に、学園生活を通しての恋愛をテーマにしたビデオです。下駄や招き猫が映し出されたり、背景には浮世絵や日本語が書かれた黒板などが確認できます。特徴的なのは、全体を通して被写体の瞳がかなり大きく加工されている点で、日本のアニメキャラクターの瞳が潤いを持った大きな描写で描かれていることを表現しようとしたのでしょう。
ビデオ内では頻繁の実写と2Dアニメの描写が切り替えられ、クライマックスではCGアニメに切り替わる構成となっており、Lil Uzi Vert が主人公の学園アニメを見ているような錯覚を視聴者に起こさせます。
ここまででご紹介した Kanye West と Lil Uzi Vert の事例に共通することは「自信を主人公に投影している」点です。ほとんどのアニメや漫画は、主人公が「何か」と戦うことによってストーリーが展開していきます。『AKIRA』のようなSF作品では、特定の敵と身体的な戦いを繰り広げますし、一見戦いとは無縁に見える『けいおん!』のような学園ドラマでも、「軽音楽部の廃部」という事実と闘います。
ヒップホップは社会に対する反骨精神が現れやすい音楽です。アニメのキャラクターに自身を投影することによって、そのような「自分 vs 世界」的なマインドを上手く表現することができたのではないでしょうか。先ほども言及した Lil Uzi Vert のミックステープのタイトルも『Lil Uzi Vert vs. the World』となっており、主人公の Lil Uzi Vert が世界と戦う一つのアニメ作品のように思えてきます。
JID や EarthGang などが所属するレーベル Dreamville のボスである J. Cole も日本のアニメの楽曲をサンプリングしています。彼の4枚目のスタジオ・アルバムより、プロジェクトタイトルにもなっている楽曲『4 Your Eyez Only』は、日本でもかなり有名な国民的アクション漫画「ルパン三世」のサウンドトラックに収録されている楽曲をサンプリングしています。
最近のシーンの傾向から、アニメやオタク文化に魅了された若手ラッパーたちが、日本のアニメや漫画のカルチャーを楽曲に取り入れている印象を抱きがちですが、実は Wiz Khalifa や Snoop Dogg、そして J. Cole などのレジェンド級のラッパーたちも同じように自身の楽曲とこれらのカルチャーをミックスしています。
続いては、アニメに登場するアイコニックな効果音をアクセントとして楽曲に加えるパターンをご紹介します。 はじめにご紹介するのは、 Trippie Redd による最新アルバム『A Love Letter to You 4』より、故 Juice WRLD と未だに服役中のフロリダのラッパー YNW Melly をフィーチャーした『6 Kiss』です。
Kanye West の Sunday Service に参加したことでも知られるシカゴ出身のラッパー、Chance the Rapper。
Are u more pro biden or anti ye and why? I get that you’ll want to reply that you’re just tryna “get trump out” but in this hypothetical scenario where you’re replacing Trump, can someone explain why Joe Biden would be better??
— Chance The Rapper (@chancetherapper) July 13, 2020
— Chance The Rapper (@chancetherapper) July 13, 2020
(Kanye West の母へのトリビュートソングを引用して)
君たちみんながバイデンに投票するよう説得しているんだね。失望したよ。
Ima keep it real alota u niggas is racist
— Chance The Rapper (@chancetherapper) July 13, 2020
正直に言うけど、君たちの多くが人種差別主義者だよ。
I also always felt a way about people using the word “presidential”. Like a nigga acting or not acting presidential. Was Andrew Jackson acting presidential??
— Chance The Rapper (@chancetherapper) July 13, 2020
2019年12月8日、ヒップホップシーンのみならず現代音楽シーンを牽引していた若きスター Juice WRLD が逝去。わずか21歳という若すぎる死に、世界中が涙を流しました。
今回は、今週金曜日に彼の死後初となるアルバム『Legends Never Die』がリリースされたことを踏まえ、今一度彼の人生について振り返ります。
生い立ち
Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、1998年12月、イリノイ州シカゴにて生を受けました。翌1999年には家族で州内のホームウッドに移住しますが、Juice が3歳の頃に両親が離婚。それ以降は彼と彼の兄、そして母親の3人で暮らしていくこととなります。
4歳の頃にピアノを習い始めた Juice は、後にギターやドラムのレッスンも受けるようになり、学校の授業ではトランペットも演奏するなど、幼い頃から音楽に慣れ親しんでいました。
信心深く保守的な母親の影響で、ヒップホップを聴くことが許されなかった Juice は、「Tony Hawk’s Pro Skater」や「Guitar Hero」等のビデオゲームに使われていたロックやポップス (Billy Idol や Blink-182、Black Sabbath、Fall Out Boy、Megadeth、Panic! at the Disco など) を聴いて育ったといいます。
高校1年生の頃に音楽活動を開始した Juice (キャリア初期は JuicetheKidd という名義の下活動) は、2015年に初めて SoundCloud に楽曲をリリースしました。
Forever
ほとんどのヴァースを自身のスマートフォンで録音したという1曲。まだまだ音質やフロウ、ラップスキルに未熟さや粗削りさが残るものの、持ち前のハスキーな歌声と切ないリリックからは、皆さんが思い浮かべるであろう昨今の Juice WRLD らしさを感じることができます。当時は、ラップ・パートが楽曲の大半を占めており、ブレイク後の彼が得意としていた歌いながらラップするスタイルとは一味違う魅力があります。
JuicetheKidd 名義の元、ミックステープ『What Is Love?』(1曲のみの収録) や EP『Juiced Up The EP』をリリースした後、彼は尊敬するラッパー 2Pac が出演している映画『Juice』と、「世界を獲る」という意味の「World」にちなんで、現在の名前である Juice WRLD という名前に変更しました (ちなみに、WRLD は単純にスペルミスだそうです)。
2017年には、今となっては Juice とのタッグで有名な Nick Mira によるプロデュースの楽曲『Too Much Cash』をリリースします。
Too Much Cash
この頃から Juice は急激にスキルアップを果たします。JuicetheKidd 時代よりも多彩なフロウを駆使し、ブレイク後の彼のスタイルにも通づるキャッチーなメロディラインを用いたシンキング・ラップも聴くことができます。
当時、高校を卒業し工場で働き始めた Juice は、その仕事に不満を覚えわずか2週間で退職。その後ますます音楽活動に専念するようになった彼は、同年に初のフルレングス EP『999』をリリースします。この EP に収録されていたのが、後に大ヒットを記録する『Lucid Dreams』でした。
EP『999』
同 EP のリリース後、彼は Waka Flocka Flame や Southside、G Herbo ら大物アーティストから注目を受け、同郷シカゴ出身のラッパー Lil Bibby 率いる Grade A Productions と契約を結ぶことになります。
ヒット曲とデビューアルバムのリリース
2017年末、Juice は3曲収録の EP『Nothing Different』をリリース。同 EP 収録の『All Girls Are the Same』がヒットし、人気ヒップホップ・チャンネル Lyrical Lemonade の Cole Bennett が監修したミュージック・ビデオが発表されます。
All Girls Are the Same
All girls are the same, they’re rotting my brain, love
女の子はみんな同じだ 俺の脳を腐らせていく
Think I need a change, before I go insane, love
俺は変わらなきゃいけないんだ 狂ってしまう前に
この『All Girls Are the Same』は、Juice が自身の恋愛観と弱さを正直に曝け出した1曲です。「大勢の女性を従える」ということが一種のフレックスであり、ステレオタイプでもあるヒップホップ (音楽) 業界において、Juice は真実の愛を求めていました。彼は、真実の愛を追い求める中で負ってしまった心の傷を美しくも哀しいメロディに乗せて歌い、同じ悩みを抱える人々の共感を呼びました。
同曲で一躍名を馳せた Juice は、2018年、大手レーベル Interscope Records と300万ドル (約3億2000万円) の契約を結びます。
Hip Hop の歴史は、黒人たちが生きてきた歴史ととても深い関係にあります。昨今、George Floyd 氏の殺害事件をきっかけに史上最大規模の反人種差別の動きが世界へと広がっており、Black Lives Matter の運動、そして人種差別についての意識啓発の動きが高まっている中、彼らの音楽から学ばされること、感化されることは沢山あるのではないでしょうか。
アトランタに引っ越した直後、SahBabii の名義のもとで楽曲制作を開始しました。先に活動を始めていた兄である T3 の力を借りて『Pimpin Ain’t Eazy』と『Glocks & Thots』というミックステープを2年連続で制作、リリースしました。この頃の楽曲は、Young Thug の初期のミックステープを彷彿とさせるようなサウンドを多用しており、現在の彼のスタイルとはかけ離れたものとなっています。
そんな中、SahBabii が他のラッパーの楽曲に参加したレアなケースをご紹介します。フロリダのラッパー Ski Mask The Slump God の EP『BE AWARE THE BOOK OF ELI』に収録されている『COOLEST MONKEY IN THE JUNGLE』という楽曲で、タイトルを見て頂ければ分かる通り、H&Mの不祥事の直後にそれを揶揄する様にリリースされた楽曲です。
2019年にはシングル『Ghetto Angels』がバイラルヒットし、同曲収録のミックステープ『The Backend Child』をリリース。その後、銃撃事件への関与により逮捕されるものの、同年末にリリースしたミックステープ『The Hood Dictionary』は US Billboard 200 にて最高80位 (R&B/Hip-Hop チャートでは最高39位) を記録しました。
NoCap の楽曲とスタイル
NoCap のスタイルについてご説明する前に、まずは彼の最初のヒット曲を聴いていただきましょう。
Legend
YoungBoy Never Broke Again や Polo G、Kevin Gates らと比較されることが多い NoCap は、オートチューンを効かせたヘロヘロな声で、歌うようにラップするスタイルを得意とします。彼は、困難な環境を生き抜いてきた苦労や葛藤、哀しみ、そして現在の成功や名声を、エモーショナルに、時に力強く歌い上げます。
爽やかでありながらメロディアスで、哀愁さえも漂う Juice WRLD の楽曲を作っているプロデューサーは誰なのかと疑問に思ったことはないでしょうか。
今回は Juice WRLD や Trippie Redd などにビートを提供するプロデューサー Nick Mira の魅力についてまとめてみようと思います。
生い立ちとキャリア
Nick Mira はヴァージニア州出身のアメリカ人で、現在19歳(2000年生まれ)という若きプロデューサーです。彼は昔からギターやピアノを弾くことが好きで、それが現在のプロダクションにも反映されています。
彼はキャリアを始めるにあたっての自分のインスピレーションとして、Pharell Williams や Kanye West、Metro Boomin などを挙げています。そんな彼は2017年、 Taz Taylor によって設立されたビートメーカーのレーベル Internet Money Records に加入します。
ちなみに、彼らのタグである「Inernet Money B**ch」は Nick がプロデュースした Trippie Redd の『Love Me More』や Lil Tecca の『Ransom』などで聞くことができます。また前述の『Love Me More』や、テキサス出身のラッパー 10k.Caash 、度々Nick のビートを使っている Ty Fontaine など、彼がプロデュースした曲には時折彼のタグが使われています。
これは Nick の当時の彼女の声を録音した「Hahahaha, Nick, you’re stupid」というタグです。
スタイル
Nick Mira は、小さい頃から弾いていたギターやピアノを使ったメロディアスなビートが特徴的です。彼の作る曲は、メロディアスでありながら切なさや哀愁を兼ね備えていることから「Emo Rap=エモラップ」に分類されるビートが多いです。
ハイハットや 808 のパターンが非常に単純なため、シンプルな音でもボーカルさえマッチすればヒットを生み出せるということを Nick は証明しています。哀愁が強いビートではありませんが、おすすめの1曲です。
ビート製作の生配信と「Mira Touch」
Nick Mira はたまにライブ配信サイト「Twitch」にて、ビート作りのライブ配信をしています。このライブ配信では、事前にアーティストからもらったボーカルを使ってビートを作ったり、10分でビートを作るチャレンジをしたり、音楽好きの興味をそそる絶妙なコンテンツが多いです。
最近のライブ配信では、Trippie Redd と Lil Nas X が別々で Nick に送信したボーカルを、それぞれのキーが同じであったために一つの曲にするという凄技を見せていました。この配信は後々、YouTube にもアップされているので見逃しても視聴可能です。
また、この配信中に Nick 自身や視聴者のコメント欄で何度も見かけるフレーズがあります。それが「Mira Touch」です。「Mira Touch」とは、Nick がビートにあるメロディやドラムを足したときや、シンプルにハイレベルなビートを作っている状況を意味する言葉です。みなさんも、ぜひこの「Mira Touch」を生配信で見てみてください。(彼のインスタストーリーを見張っていればたまにやっています)
Nick MiraとJuice WRLD
ここまで Nick Mira のスタイルやスキルについて述べてきましたが、彼のキャリアは Juice WRLD なしでは語ることができません。Nick や Internet Money の仲間たちは、Juice WRLD がまだサウンドクラウドで200人ほどしかフォロワーがいない時に初めて彼にトラックを提供しました。
そのトラックを使用したのが『All Girls Are The Same』です。この楽曲ではピアノに近いサウンドのシンセサイザーを重ねて、可愛げがありつつも切なさが際立った Juice WRLD にピッタリなメロディを作り出しています。
そして同時期に Juice の代名詞とも言える曲がリリースされます。それが『Lucid Dreams』です。この曲は Nick が作り出しそうなメロディーを Sting の『Shape Of My Heart』をサンプリングすることで彼の世界観を表現した曲です。
この名曲をサンプルするアイデアは非常に Nick らしく、サンプル元の凄まじい哀愁を残しつつ、トラップビートとして進化させた「エモラップ」の頂点のようなビートと楽曲です。これはまさに「Mira Touch」が起こった瞬間です。
この二曲が収録されているアルバム『Goodbye & Good Riddance』では8曲で Nick がプロデュースに参加しています。
それ以降も2019年の Juice の死まで多くの曲をプロデュースしました。その中から最後に一曲、2019年にリリースされた『Empty』を紹介します。この曲は美しいピアノの旋律がオシャレで、弾けるようなクラップとハイハットが特徴的なビートです。
このビートに、助けを求めるような Juice のボーカルと、フックの 「I feel so god damn empty」というフレーズが相まって、その言葉通り心に穴が開いたような感覚になります。個人的には Nick Mira のビートの中でも Juice の曲の中でも、かなりエモーショナルな気持ちになる曲で、最も哀愁度が高い曲だと言えます。
このように Nick Mira と Juice の相性は抜群なのです。だからこそ、Juice WRLD がいなくなって、この二人のタッグを味わえないことは本当に残念で仕方がありません。ちなみに Juice の死後にリリースされた『Righteous』も Nick がプロデュースした名曲なのでぜひ聞いてみてください。
最後に
Nick は上記の曲以外にも今は亡き XXXTENTACION と Trippie Redd の名曲『Fuck Love』や Young Thug のアルバム『So Much Fun』のイントロ曲『Just How It Is』など様々な曲に参加しています。まだ19歳という若さにも関わらず、様々なラッパーたちと音楽を作る Nick Mira に今後も注目です。
ラッパーたちは脳をフル回転させ、自らのラップを武器に大金を稼ぎます。彼らの中にはラッパーとして成功するまでは、まともな食事を摂ることも出来ないほど貧しかった者も山ほどいます。アトランタの危険地帯である Zone 6 出身の Young Nudy は 『Judge Scott Convicted』 にてこのようにラップしています。
I done robbed a lot of n****s ‘cause I had to n***a
かなり攻めた鋭いラインを披露した Drake 。全世界のBinihana ファンを一斉に敵に回すと同時に、普段どんな食事をしているのかという疑問を浮かばせます。そして案の定 Benihana ファンたちはこのラインに反応し始めました。大御所ジュエラーの Ben Baller は自身のツイッターにてこのようにツイートしています。
I do not give a fuck what anyone thinks , I love Benihana and I’m gonna try to go tonight and order extra extra garlic butter on my fried rice in honor of drake. In fact extra garlic butter on everything period.
Shawn Brown a.k.a. The Rappin’ Duke – Rappin’ Duke
1984年、スタンドアップコメディアンの Shawn Brown が 『Rappin’ Duke』なる楽曲をリリース。「主に西部劇や戦争映画にてヒーロー役を演じていた俳優 John Wayne(別名 Duke)がラップをする」というコンセプトの元作られた同曲が、その後のカントリー・ラップの礎となります。
Remember Rappin’ Duke? Duh-ha, duh-ha
Rappin’ Duke が「Duh-ha, duh-ha」って歌ってたのを覚えてるか
You never thought that hip-hop would take it this far
当時はヒップホップがこんなに盛り上がるなんて思ってなかっただろ
The Notorious B.I.G. – Juicy
The Notorious B.I.G. も自身の楽曲にて『Rappin’ Duke』について言及しています。
そして、2018年から2019年にかけて爆発的にヒットしたカントリー・トラップ・アンセムが Lil Nas X の『Old Town Road』です。
Lil Nas X – Old Town Road (Remix) [feat. Billy Ray Cyrus]
Nine Inch Nails の『34 Ghosts IV』からサンプリングしたバンジョーの音色と、現行ヒップホップの王道トラップサウンドをミックスした同曲は、一時は Billboard のカントリー・チャートから除外されるものの、最終的にはカントリー・チャートに復活し、HOT 100にて首位を獲得しました。
「初めて(Old Town Road を)聴いたとき、明らかにカントリーだと思った」と語るカントリー界の大御所 Billy Ray Cyrus のリミックスへの参加もあり、同曲は17週連続1位という US Billboard 史上最長の記録を打ち出し、カントリー・トラップというジャンルを世界中に認知させました。
カントリー・トラップのネクストスターたち
Lil Nas X に続いて、カントリー・トラップを自身の楽曲に取り入れるラッパーも増えていきました。
Fly Rich Double – Big Boom
実はこの Fly Rich Double というラッパーは、Lil Nas X が『Old Town Road』をリリースする前からカントリー・トラップのスタイルを取り入れていました。様々なジャンルに挑戦したいと語る Lil Nas X とは異なり、Fly Rich Double はカントリー・トラップを軸に勝負していく意向を示しています。
オハイオのカントリー・グループ Rascal Flatts のグラミー受賞曲『Bless the Broken Road』のメロディラインを引用した同曲がバイラルヒットし、今週末にリリース予定のデビュー EP『DRUG DEALING IS A LOST ART』には Westside Gunn や Future、Lil Baby、Young Thug といった錚々たる顔ぶれを客演に迎えるニューカマー RMR。未だ謎多きカントリー・トラップの新星に要注目です。
昨今イギリス出身で注目度が高いアーティストにも見事に Brit School 出身者が多いんです。例えば FKA Twigs や Rex Orange County 、 Raye から King Krule、Octavian まで、ジャズや R&B、ポップやオルタナティブ、ヒップホップなどそのジャンルは多岐に渡ります。
JayDaYoungan (ジェイ・ダ・ヤンガン) は、ルイジアナ州の東端に位置する小さな街、ボガルサで生まれ育ちました。彼が尊敬する Kevin Gates や Lil Wayne の故郷であるニューオーリンズや Boosie Badazz の生まれたバトンルージュなどと比べると、面積的、人口的にもかなり小規模な街です。
夜空に打ち上げられた花火のようなユニークなヘアスタイルが特徴的な JayDaYoungan (以下、Jay) は、先ほど引用したインタビューで述べていた通り、同じくルイジアナ出身の Boosie Badazz や Kevin Gates などの音楽を聴いて育ちました。
Jay は高校時代、NBA のプロ選手になる夢を抱いていました。Rajon Rondo をロールモデルにバスケットボールに打ち込んでいた彼でしたが、目立った功績を残せずにいた彼に対し、彼の母親はバスケットボール以外のの道を真剣に考えるように説得していたそうです。
彼のラップスタイルは、ルイジアナ特有の独特な歌声やフロウを踏襲した不思議なものです。Boosie や Lil Wayne のような、ねっとりと耳に絡みつくような声や、NBA YoungBoy の楽曲にもよく見られる詰め込みフロウなどを楽曲の至る所に散りばめており、ミックステープを通して聴いても飽きのこないスタイルです。
DaBaby こと Jonathan Lyndale Kirk はオハイオ州クリーブランド生まれの27歳(91年生まれ)。5歳の頃ノースカロライナ州シャーロットに引っ越します。彼のエピソードとして有名なのが、ウォルマート(スーパーマーケット)での銃殺事件です。2018年、Kirk が二人の子供を連れて買い物をしていた時、銃を持った男が彼のジュエリーを奪おうとしてきたそうです。Kirk は二人の子供を守るためにその男を銃殺しました。この事件は後に正当防衛が認められ、起訴も取り下げられています。
DaBaby のキャリア
2015年に初のミックステープ『Nonfiction』をリリースして以降、立て続けにミックステープをリリースしていた彼は、2019年に Interscope Records からデビューアルバム『Baby on Baby』をリリースします。Offset や Rich Homie Quan、Rich the Kid、Stunna 4 Vegas らを客演に迎えた同アルバムは、Billboard 200 において初週25位をマークしました。年齢的にもキャリア的にも「フレッシュ」とは言い難い彼ですが、ラッパーとしての才能と注目度はフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。
DaBaby の代表曲
『Suge』
『21』
2. Gunna
Gunna とは
Gunna こと Sergio Giavanni Kitchens はジョージア州カレッジパーク出身の26歳(93年生まれ)。一部のファンからは、「Gunna ではなく本名をステージネームにした方が良い」と言われています。母親と4人の兄と共に生活していた彼は、ラッパーになる前は DJ やドラッグディーラーとして活動していました。
Gunna のキャリア
Cam’ron や Outkast を聴いて育ったという彼が音楽制作を始めたのは15歳の頃でした。キャリア初期は「Yung Gunna」として活動しており、2013年に初のミックステープ『Hard Body』をリリースします。その後、彼は共通の友人を通して Young Thug と繋がり、Young Thug のレーベル「Young Stoner Life Records(以下YSL)」と契約を結びます。この出会いがなければ今の Gunna はいないと言っても過言ではありません。そんな彼は、2016年から2018年にかけて YSL からミックステープ『Drip Season』シリーズを3作リリースします。2018年にリリースされた Lil Baby との共作『Drip Harder』も話題となりました。
そして2019年、デビューアルバムとなる『Drip or Drown 2』をリリースします(アルバム名は、Gunna が2017年にリリースした EP『Drip or Drown』から) 。Young Thug、Wheezy、Turbo 監修の同アルバムは、Billboard 200において初週3位をマークし、華々しいデビューを飾りました。
彼女の母親はラッパー「Holly-Wood」として活動していたこともあり、幼い頃からスタジオに同行していたという Megan は14歳でラップを始めました。その才能はラッパーであった母もすぐに認めるほどであり、彼女は Instagram にフリースタイルラップを投稿することによって瞬く間にファンベースを確立させていきました。2016年からミックステープをリリースし始めた彼女は着々と人気を集め、2019年リリースのミックステープ『Hot Girl Meg』は Billboard 200において、初週10位をマークしました。それ以降客演としての仕事も増やしてきた Megan は、次世代の Nicki Minaj や Cardi B と言っても過言ではないほど、実力間違いなしのフィメールラッパーです。
※ Megan Thee Stallion についての記事はこちらから↓
Megan Thee Stallion の代表曲
『Cash S**t(feat. DaBaby)』
『Big Ole Freak』
4. Blueface
Blueface とは
Blueface こと Johnathan Michael Porter は、カリフォルニア州ロサンゼルス出身の22歳(97年生まれ)。学生時代はアメリカンフットボールに打ち込み、2014年の「East Valley League championship」という大会でチームを優勝に導いた経歴を持ちます。
Blueface のキャリア
Blueface Bleedem としてキャリアをスタートさせた彼は、2017年に彼にとって初となるシングル『Dead Locs』をリリースします。そして、その後リリースした楽曲『Thotiana』が爆発的にヒットし、独特な声とオフビートなラップで人気を博した彼は、Cash Money West と契約を結びました。
Blueface の代表曲
『Thotiana』
『Bleed it』
5. Lil Mosey
Lil Mosey とは
Lil Mosey こと Lathan Moses Echols はワシントン州シアトル出身の17歳(02年生まれ)。2019年のフレッシュマン選出者の中では最年少のラッパーです。彼は高校に通っていましたが、音楽活動に専念するため退学したそうです。
Lil Mosey のキャリア
Meek Mill のデビューアルバム『Dreams and Nightmares』から多大な影響を受けたという Lil Mosey は、13歳から14歳の頃にラップを始めました。2016年にラッパーとしてのキャリアを本格的に始動させた彼は、2018年にデビューアルバム『Northsbest』をリリース。同アルバムに収録されている楽曲『Noticed』がバイラルヒットし、Billboard Hot 100にて80位まで登りつめました。
Roddy Ricch こと Rodrick Wayne Moore, Jr はカリフォルニア州コンプトン出身の20歳(98年生まれ)。アトランタで暮らしていた時期もあり、アトランタテイストのラップスタイルを得意とします。
Roddy Ricch のキャリア
Meek Mill や Future、Speaker Knockerz、Young Thug などから影響を受けたという彼は、8歳の頃にラップを始めました。デビューミックステープ『Feed tha Streets』で注目を集めた彼は、続くシングル『Die Young』のヒットにより一躍名を知らしめます。歌心のあるフロウや多彩なビートアプローチを得意とする彼は、フレッシュマン選出をきっかけにますます活躍すること間違いなしでしょう。
Roddy Ricch の代表曲
『Die Young』
Marshmello & Roddy Ricch『Project Dreams』
7. Tierra Whack
Tierra Whack とは
Tierra Whack こと Tierra Helena Whack はペンシルベニア州フィラデルフィア出身の23歳(95年生まれ)。幼い頃に父親と疎遠になった彼女と2人の妹は、母親の手によって育てられました。アートアカデミーに3年間通っていたという彼女は、音楽活動にはもちろん芸術活動にも力を入れており、芸術を学ぶために日本に訪れたこともあるそうです。楽曲や MV、Instagram などからも、彼女の芸術的センスの高さが伺えます。
Tierra Whack のキャリア
10代の頃から「Dizzle Dizz」という名のもと活動していた彼女は、2017年に自身の本名である「Tierra Whack」という名義で活動を始めました。同年彼女はInterscope Records と契約を結び、楽曲を次々とリリースします。そして2018年、彼女は15曲(各曲1分ずつ)収録のアルバム『Whack World』をリリース。各曲にショートムービーを付けたビデオアルバムもリリースし、15分で聴けるアルバムという新鮮さや、独特な世界観を持つムービーが大きな話題を呼びました。音楽面、芸術面共に才能溢れる彼女の今後に期待です。
50 Cent や Rick James、Chief Keef、Nipsey Hussle、Lil B などに影響を受けたという彼は、17歳の頃本格的に音楽活動を開始しました。SoundCloud や Youtube に楽曲をアップしてファンベースを獲得していった彼は、2017年に Alamo Records と契約を結びます。
そして2018年、彼の新曲『Bands』が突如として SoundCloud の再生回数ランキングのトップに浮上します。実はこれが、SoundCloud の楽曲差し替え機能を巧妙に利用したチート行為で、YBN Nahmir のヒット曲『Bounce Out With That』で100万再生を稼いだのち、Comethazine が自身の楽曲に差し替えたのでした。そんなずる賢さだけでなく、A$AP Rocky や Lil Yachty など、人気ラッパーとのコラボレーションも果たした彼の今後に注目です。
Comethazineの代表曲
『Bands』
Comethazine & A$AP Rocky『Walk (Remix)』
11. Rico Nasty
Rico Nasty とは
Rico Nasty こと Maria-Cecilia Simone Kelly はメリーランド出身の22歳(97年生まれ)。プエルトリコ人の母とアメリカンアフリカンの父を持つ彼女は、大麻所持によって当時通っていた学校を追い出されたのち、パプリックスクールに通いながら音楽制作を始めます。
Rico Nasty のキャリア
高校在学時にラップを始めた彼女は、初のミックステープ『Summer’s Eve』をリリースします。高校卒業後、彼女はより本格的に音楽制作に取り組み、『The Rico Story』、『Sugar Trap』と2作のミックステープをリリースします。その後も次々とシングルやミックステープをリリースし、5作目のミックステープ『Sugar Trap 2』は、アメリカの音楽誌「Rolling Stone」にて「2017年のベストラップアルバム」としてリストアップされました。そして2018年、彼女はAtlantic Records と契約を結びます。
そして、プロデュースする能力は、Kanye や GOOD Music に所属するプロデューサー達からかなりインスパイアされていることも間違い無いです。実際、Travis は Kanye 率いる GOOD Music との契約において、Kanye が指揮する最強プロデューサー集団「Very GOOD Beats」のメンバーとして迎え入れられているのです。
また、2012年に作られていたものの、様々な問題で 2013年にリリースされることとなった Travis の最初のフルレングス・アルバム『Owl Pharaoh』は Kanye West と Mike Dean が中心となってプロダクションを務めています。
その中でも『Bad Mood / Shit On You』における何重にも折り重なった転調は、彼のその後の音楽基盤に多大な影響を与えていることでしょう(ちなみにこの曲の中心製作者 Emile Haynie は Travis を含め、R&B や Alternative Rock などあらゆるジャンルを横断し、様々なアーティストに影響を与えた名プロデューサーであることも忘れてはいけません)。
『One Night』で一挙に注目を集めた彼は、同年にミックステープ『Lil Boat』をリリースします。『One Night』が収録されていることから、もちろんリリース前から期待値が高かったミックステープですが、見事その中からもヒットを生み出します。それは Young Thug や Quavo、Skippa da Flippa を招いた楽曲『Minnesota』です。
幼児向けの数え歌のような単調なメロディーのトラックに、トラックと同じメロディーでアプローチする類をみないスタイルは、聴く者全ての心を鷲掴みにしました。Young Thug や Quavo など、各方面からのゲストを一曲に詰め込むことで、更なるリスナーの獲得に成功しました。
また Yachty は、2016年に Chance The Rapper によってリリースされたミックステープ『Coloring Book』に収録されている楽曲『Mixtape』にも参加し、そこでも大きな爪痕を残しました。
Chance The Rapper や Young Thug と言った実力派ラッパーと肩を並べて、ほとんど無名だった Yachty はソリッドなラップをラストバースで披露します。他の二人に劣らないそのラップスキルは、Chance のリスナーたちの間でも話題となり、すぐさまその口コミは拡散されました。
いわゆるマンブルラップの元祖である Young Thug や、アトランタトラップの大御所である Quavo 、シカゴの Chance らとの共演を果たした Yachty ですが、その勢いは止まることを知らず、更なるジャンル間の跳躍を見せてくれました。
その一例として挙げられるのは、Charli XCX との楽曲『After the Afterparty』での活躍です。オートチューンをバリバリに効かせ、ポップ寄りのフロウで歌うことで、ポップミュージックとの意外な融合を実現しています。この楽曲への参加を通して、Yachty はメロディアスなスタイルでポップミュージックのリスナーたちからの認知度も上昇させました。
このように、ジャンルの壁を跳躍して様々なアーティストとの共演を果たすことで、ヒップホップコミュニティ以外からの認知度を上昇させ、その結果としてヒップホップシーンの盛り上がりにつながりました。ジャンル間の共演のハードルを下げた人物として、間違いなく Lil Yachty の名前が上位に上がってきます。
2枚目のスタジオアルバム『Lil Boat 2』に収録されている PnB Rock をフィーチャーした楽曲です。『Lil Boat 3』の先行シングルを二曲ともプロデュースした Earl on the Beat によるプロデュースで、蒸気機関車の煙が吹き出すようなサウンドのポジティブな良トラックです。
Ty Dolla $ign のように、ヒップホップと R&B を行き来するようなスタイルで有名な PnB Rock をフィーチャーすることで、Yachty ならではの陽気な雰囲気を、他の楽曲とは少し違ったアプローチの仕方で実現しています。
Dripped Out (feat. Playboi Carti)
まずは、Lil Yachty の三枚目のスタジオアルバム『Nuthin’ 2 Prove』に収録されている Playboi Carti を招いたこちらの楽曲です。こちらも Earl on the Beat による 8ビットゲームのサウンドエフェクトのようなピコピコトラックに、乳児が泣きじゃくるようなラップが印象的です。
昨今の流行である Playboi Carti の「ベイビーボイス」ラップをはじめとし、今や USヒップホップシーンのトレンドとなった高音で歌うラップスタイル。今回は、ヒップホップにおけるオートチューンの歴史や、今日の流行のきっかけを作ったラッパー Young Thug の影響に触れながら、その成り立ちや進化について考えていきます。
オートチューンの歴史
まずは、ヒップホップシーンにおけるオートチューンの歴史について簡単におさらいしようと思います。
オートチューン(Auto-Tune)とは、アメリカのアンタレス社が1997年に製品化した音程補正ソフトのことで、地球物理学者の Andy Hildebrand が地震データ解析用ソフトが音程補正にも応用できることを偶然発見し、開発に至ったそうです。
Frank Ocean の『Nikes』や、Tyler, the Creator の『RUNNING OUT OF TIME』などでも(Young Thug の影響とは言えないものの)ピッチを上げた中性的な歌唱パートが取り入れられ、ヒップホップ、R&B からポップスまで、しっかりメインストリームに浸透していることが窺えます。
Frank Ocean – Nikes
Tyler, The Creator – RUNNING OUT OF TIME
中でもヒップホップシーンにおいては、その盛り上がりが顕著でした。明らかに Young Thug に影響を受けたであろう高音で歌う若手ラッパーが続々と登場し、シーンを盛り上げます。
今日のベイビーボイス・ラップと呼ばれるスタイルを始めたのは、Young Thug の YSL Records とサインしているアトランタのラッパー Lil Keed でしょう。彼もまた Young Thug に影響を受けたラッパーの1人ですが、他の Young Thug フォロワーとは一線を画すような、極端に高いピッチで歌うフロウを聴かせます。
このヒットを受け、Playboi Carti はベイビーボイス・ラップに傾倒するようになります。幼児のような声で絞り出すように歌うラップと耳に残る軽快なアドリブを織り交ぜた彼のスタイルは、もはやラップというより一種の楽器としての側面が強く、Young Thug よりも更に音にフォーカスした進化系であるといえます。
Playboi Carti – @ MEH
Drake – Pain 1993 (feat. Playboi Carti)
Young Thug のスタイルを誇張して進化させたようなこの新しいスタイルは、賛否両論あるものの、チャートではしっかり好成績を残します。実際、Playboi Carti だけでなく、この「ベイビーボイス」ラップと呼べるような歌唱法を用いる若手ラッパーが次々と現れています。
アトランタを中心として、発展を続けるトラップミュージック。Future や Young Thug、Gucci Mane などがその代表として挙げられますが、その勢力はアトランタにとどまることはなく、今や世界中に広まりつつあります。今回はそんなトラップミュージックのニュースター Gunna についてまとめてみたいと思います。
『Drip Season』シリーズや『Drip or Drown』シリーズで知られ、高級ブランドを身に纏っている現在の姿とは程遠い、坊主頭の彼を見ることのできる MV にも注目です。(未だに再生回数が16000回であることから、Yung Gunna 時代にはほとんどファンベースを築けていなかったようです。)
Young Thug との出会い
いかにも冴えないラッパーというイメージだった彼に、その後のキャリアを180° 転換する大きな転機が訪れます。それが、アトランタのラップスター Young Thug との出会いです。
Young Thug の親友である Keith Troup というラッパーを通して Gunna と Thug は出会いました。 二人を繋ぎとめた Keith Troup はその後すぐに亡くなってしまいましたが、Thug は Gunna の実力を認め、自身のミックステープ『Jeffery』に参加するチャンスを与えました。Gunna は『Floyd Mayweather』にて Gucci Mane と Travis Scott という超豪華メンバーに混ざって本気のラップを見せつけました。
『Floyd Mayweather』を聴いた Thug のファンたちは、ビッグネームに混ざる謎の若手ラッパーの名前に興味を持ち始め、 「Young Thug のアルバムに参加している Gunna というラッパーがヤバイ」という噂が瞬く間に広がり始めました。大物ラッパーが自らのキャリアに満足するのではなく、積極的に若手をフックアップして、ラップゲーム全体を盛り上げようとする姿勢は本当に素敵なものだと思います。
1st ミックステープ 『Drip Season』
『Floyd Mayweather』によって爆発的に認知度を得た彼は、2ヶ月後に Gunna 名義下での初めてのミックステープ『Drp Season』をリリースします。ちなみにこの時点で Young Thug が率いるレコードレーベル YSL Records との契約を果たしています。
彼をフックアップした張本人である Young Thug はもちろん、のちに YSL との契約をはたすラッパー Nechie や Young Trez などに加え、プロダクションには Narcos や Billboard Hitmakers、そして現在も Gunna とタッグを組んで楽曲制作に勤しむ Wheezy などが参加しています。
Cop Me a Foreign (feat. Young Thug)
Gunna が自らの名義下で初めて Thug を招いた記念すべき楽曲です。Yung Gunna 時代からは想像もできないほど、多彩なフロウやメロディーラインを用い、明らかにレベルアップしている事を感じ取る事ができる楽曲となっています。
再生時間は5分10秒と、トラップミュージックの中ではかなり長い方に分類されるこちらの楽曲ですが、面白いのは二人のバースの占有率です。Gunna のフックから幕開けし、1分58秒までは Gunna のバースが続きますが、その後の3分12秒は全て Thug によってラップが繰り広げられるという、ホストとゲストが逆転した構成になっています。
Gunna によってラップされたフックを、2回目のフックはそのまま Thug がラップし直していたりと、面白い要素をできるだけ詰め込んだ欲張りな楽曲となっています。目まぐるしく変化する Thug のフロウにも要注目です。
2nd ミックステープ 『Drip Season 2』
一作目のミクステで完全に勢いに乗った彼は、その7ヶ月後に二作目のミクステ『Drip Season 2』をリリースします。当時セルフタイトルアルバムをリリースした直後だった Playboi Carti や YSL 所属の Lil Duke、 他にも HoodRich Pablo Juan などが客演として参加しています。さらに、プロダクションには TM88 や Zaytoven、Pi’erre Bourne などの名だたるメンバーを招き、かなり華のあるミクステに仕上がりました。
Pi’erre Bourne のトラックを使用し、Playboi Carti 色に染まった『YSL』や、不穏な雰囲気のトラックに落ち着いたラップをのせた HoodRich Pablo Juan との『Mayors』などから感じ取れるように、Gunna は他のラッパーの雰囲気にうまく馴染む事ができるラッパーだと思います。このような適応性の高さも、のちに彼が参加した楽曲がリリースされない週がなかった状況を作り出した一つの要因なのではないでしょうか。
3rd ミックステープ『Drip Season 3』
奇抜でキャッチーなアルバムカバーが目を引く三作目のミックステ『Drip Season 3』は、2018年の2月にリリースされました。一年以上のインターバルを挟む事なく、コンスタントにプロジェクトをリリースしていくスタイルも、彼の人気にさらに火をつけて行きました。すでに超人気ラッパーに仲間入りしていた彼の新譜は、もちろんのこと期待されていたわけですが、本作はその期待を優に超えてきた傑作と言えます。
Lil Uzi Vert や Lil Durk、NAV などの勢いのある若手をたくさん招き、トラックリストが公開された時点でファンたちは大盛り上がりでしたし、プロダクションには Metro Boomin や London On Da Track 、Turbo などが参加し、これまでのキャリアの集大成的なミクステに仕上がっています。(これだけ力を入れた作品がミクステというのもまた一興です。)
Car Sick (feat. Metro Boomin & NAV)
Metro Boomin による浮遊感のあるトラックの上で、Gunna と NAV が交互にラップしていく構成のこちらの楽曲。Tesla Pill という、テスラ社のロゴが刻印された MDMA をテーマにした楽曲で、ドラッグを服用することで起こる身の回りの変化などをラップしています。
Oh Okay (feat. Young Thug & Lil Baby)
Turbo によるアコースティックギターのトラックの上に Young Thug と Lil Baby を招いたこちらの楽曲。これぞ YSL という雰囲気の楽曲に仕上がっています。Gunna の同じメロディのラインを淡々と繰り返すスタイルはこちらの楽曲で顕著に聞く事ができます。
これを機に出会った Gunna と Lil Baby は、のちにジョイントミックステープ『Drip Harder』をリリースし、兄弟のように互いのパートナーとなります。
1st アルバム『Drip or Drown 2』
三枚のミクステを順調にリリースし、すでに強固なファンベースを築き上げていた彼ですが、このタイミングでデビューアルバム『Drip or Drown 2』をリリースします。ちなみに二、三作目のミクステの間に全曲 Wheezy によってプロデュースされた EP である『Drip or Drown』をリリースしているので、本作は『2』となっています。
2020年というキリの良い数字の今年。Kanye West『My Beautiful Twisted Fantasy』や Drake『Thank Me Later』、Waka Flocka Flame『Flockavelli』など、多くの名作が10周年を迎えました。そして、「迷」作として歴史に残ってしまった一枚の作品も今年で10歳。今回は、Lil Wayne が2010年にリリースした悪名高いアルバム、『Rebirth』について考えていきます。
Lil Wayne のキャリアのおさらい
まず、『Rebirth』に至るまでの Lil Wayne のキャリアを軽くおさらいします。
1982年生まれ・ルイジアナ州ニューオーリンズ出身の Dwayne Carter こと Lil Wayne は、8歳からラップを始めて91年頃には Birdman と出会い Cash Moneyと契約。95年にはB.G.とのユニット「The B.G.’z」でアルバム『True Story』をリリースします。
その後 The B.G.’z に JuvenileとTurk を加えた面子で、スーパーグループの The Hot Boys を結成。Juvenile のソロでの成功も追い風となり、The Hot Boys のメンバーとして Lil Wayne も90年代後半に高い人気を獲得します。
99年にはソロでの1stアルバム『Tha Block Is Hot』をリリースし、ラッパーとしての高い実力をアピール。Juvenile ほどではありませんでしたが、その評価を確実に高めていきます。
The Hot Boys 期の Lil Wayne は、ぬめりのある高音で Juvenile や B.G. の影響を感じさせるネチネチとしたラップスタイルが特徴でした。
高い人気を集めた The Hot Boys でしたが、00年代前半に Cash Money から Lil Wayne 以外のメンバーが次々と脱退し、解散してしまいます。しかし、残ったLil Wayne は Jay-Z などの影響が見えるスタイルに移行しながら、Cash Money の看板を担うラッパーとして成長。
この二つから Lil Wayne はプロダクションを一新し、05年リリースのアルバム『Tha Carter II』では The Runners や Cool & Dre といったフロリダのプロデューサーを起用します。その後はミックステープを量産し、難解なワードプレイを駆使したパンチライン重視のスタイルに開眼。フリーキーなフロウも抜群の冴えを見せ、自他共に認める「Best Rapper Alive」となりました。
Jay-Z や Kanye West、故 Betty Wrightら大物も参加した08年のアルバム『Tha Carter III』は大ヒットを記録。スカスカのビートでフックらしいフックもなくひたすらラップするシンプル極まりない『A Milli』(もっと言うとMVもチープ)のような曲もヒットしたことからも、その尋常ではない勢いが伺えます。
ロックに目覚めたLil Wayne
快進撃を続ける Lil Wayne は、09年初頭にロックアルバム『Rebirth』のリリースをアナウンスしました。そして DJ Infamous & Drew Correa のタッグが制作したシングル『Prom Queen』を発表。プロデュースした二人も「シングルにすると言われたが、最初は俺たちに気を使ってジョークを言っているんだと思った」「ロックアルバムを作る噂は聞いていたが、808にギターを乗せる程度だと思っていた」と後に語っていましたが、同曲はヒップホップから大胆に逸脱したヘヴィなグランジ系の曲に仕上がっていました。
そして、この挑戦的な曲はかなり賛否が分かれることとなります。というか、ほぼ否でした。さらにライブで自ら弾いたギターも衝撃的な腕前で、悪い意味での話題を集めます。Lil Wayne のギターは、ギターサイトの Ultimate-Guitar による17年の企画「ワースト・ギターソロトップ10」でも1位にも選ばれるなど、時が経っても忘れられないほどのものでした。
これらの評価から『Rebirth』には不安の声も多く聞かれましたが、相変わらず客演等でのラップでは高い実力を発揮。『Rebith』は延期が繰り返され、その間に Nicki Minaj や Drake が Young Money からブレイクを果たしたこともあり、Lil Wayne 自体の人気が衰えることはありませんでした。
『Rebirth』は初週で17万枚を越えるセールスを記録し、全米チャートに2位で初登場。Lil Wayneの変わらぬ人気を見せつけました。Cool & Dre や J.U.S.T.I.C.E. League らのフロリダのプロデューサーを迎えて制作された同作は、ヒップホップ的なアプローチの曲がないわけではないですが、報じられた通りかなりロックに寄せた曲が中心。ヴォーカル面ではオートチューンまみれでズルズルと歌ったり、シャウト気味の力強いスタイルなどを聴かせていました。
しかし、かなり攻めた色物的な内容の同作はリスナーを混乱させ、各メディアからも非常に厳しい評価を受ける結果となりました。米メディアの Complex の11年の企画「酷かったラップアルバムワースト50」でも4位にランクインし、Lil Wayne のキャリア史上最悪の迷作という烙印が押されました。
この低評価が堪えたのか、一枚作ったらスッキリしたのか、理由は不明ですが以降 Lil Wayne のロックへの言及は減少。作品でもロック的な音に乗ることはほぼなくなり、ポツポツとやっていた曲でも11年の『How to Love』のように、『Rebirth』的なアプローチはあまり取らなくなっていきます。
後進のラッパーの活躍による再評価
「Best Rapper Alive」である Lil Wayne の人気は凄まじく、その影響力の高さは「Lil」と名乗るラッパーの増加からも伺えます。そして、そんな Lil Wayne の影響下にあるラッパーが、2010年代半ば頃からロックを導入したスタイルで次々と登場していきました。
その代表的なアーティストの一人に、フロリダのラッパーの XXXTentacion がいます。
15年に発表した出世曲『Look at Me!』はサウンドこそヘヴィなトラップ系ですが、そのシャウトも取り入れた発声には『Rebirth』での Lil Wayne のスタイルから地続きのものが感じられます。
XXXTentacion は以降も1st アルバム『17』で内省的なギターを導入し、2ndアルバム『?』ではさらにヘヴィなロック色の強い曲も収録。『NUMB』や Lil Wayne とも関わりが深いTravis Barkerが参加した『Pain = Bestfriend』などは、『Rebirth』に入っていてもおかしくないようなアプローチの曲になっています。
XXXTentacion は惜しくも亡くなってしまいましたが、Lil Wayne とも死後に疑似共演を果たしたほか、今年 Lil Wayne が「現在最も好きなアーティスト3人」を語った際にも名前が挙がりました。Lil Wayne がロックに挑んだ時に拠点にしていた地・フロリダから、Lil Wayne からの影響を語りロックを見事に取り入れた音楽性で成功したラッパーが現れたことは、なんとも美しい話ではないでしょうか。
「Lil」系ラッパーの代表格である Lil Uzi Vert もまた、Lil Wayne からの影響が伺えるラッパーの一人です。
先に『Rebirth』を酷評した Complex も、Lil Uzi Vert らの活躍を受け17年に「Lil Wayne のワーストアルバムは彼の最も影響力の強いアルバムでもある」という記事を発表。後進のラッパーの活躍により、同作の再評価が確実に進んできています。
ロック×ヒップホップの現在
「Rebirth」にプロデュースで参加した Cool & Dre は、同作のリリース直前にこのようなことを語っていました。
「『Rebirth』は、ヒップホップやR&B以外の音楽を作ってみたいというアーティストに新たな道を開くアルバムになる。そういう人はたくさんいるはず。 Prince & The Revolution がチャートを賑わしていた頃のような、音楽の多様性をまた見たい。Lil Wayne はただのヒップホップアーティストではなく、我々の世代を代表するアーティストになるはずだ。彼と一緒に活動していることを誇りに思う」。
そして、これまでにも Lil Wayne からの影響をたびたび語ってきたラッパーの一人である、Kendrick Lamar も次作でロックを取り入れていると報じられています。師匠の雪辱を果たすことができるのか、それとも師匠のように迷作と呼ばれてしまうのか。Kendrick Lamar は SNS 等であまりプライベートを明かさないので、「外出自粛でギターを始めていたらどうしよう・・・」とも思ってしまいますが、楽しみに待つことにしましょう。
It was not fun. 楽しくなんてなかったよ It’s not nothing that I would want to do again, 刑務所でもう一度したいことは何もないけど but I learned a lot from it. そこでたくさんのことを学んだんだ I feel like if I wasn’t to go to jail, もしそこに行くことがなければ I probably wouldn’t be the person I am—I wouldn’t. おそらくおれはおれ自身じゃなかったと思うよ ’Cause I wouldn’t have sat down and wrote those songs だって、椅子について曲を書くような and I never would’ve been able to focus on what I want to accomplish. おれが成し遂げたかったことに集中できるチャンスはなかっただろうから So it’s like it was actually a good thing for me. だから刑務所での暮らしは、実際おれにとって良いものだった It made me open my eyes and stuff like that. おれの目を覚ましてくれたんだ
(※1) 亡くなった Tjay の仲間の名前。Tjay は Smelly に音楽的なインスピレーションを受けたそうで、自身の楽曲内で度々ネームドロップします。ヒット曲『F.N』でも「I wish my n***a Smelly could’ve seen me lit now (Smelly に今のおれの成功した姿を見て欲しかった)」とラップしています。
Mixed Emotions
アルバム内でも特に際立つ綺麗なメロディラインを奏でる1曲。
I can’t wait to take a picture next to Nicki and Wayne
Nicki Minaj や Lil Wayne と一緒に写真を撮るのが待ちきれないんだ
引用したラインでは、「Nicki Minaj や Lil Wayne といったシーンのトップアーティストと肩を並べるようになった自分」と「同業者というより未だに彼らの1ファンである自分」という2つの側面を上手く表現しています。楽曲をリリースし始めてからわずか2年足らずでスターダムを駆け上がった彼ならではのリリックです。
そんな全体を通して甘い歌声で歌い上げる、ポップス或いは R&B 寄りな作風の同アルバムは、初週4.5万枚を売り上げ、Billboard Hot 200にて5位デビューを飾りました。
ニューミックステープ『State of Emergency』
そして Tjay は、明日5月8日にミックステープ『State of Emergency』をリリース予定です。
現在のシカゴのヒップホップシーンを牽引し、シカゴ内外の若手たちに強い影響を与え続けている Lil Durk。今週の金曜日には、ニュープロジェクト『Just Cause Y’all Waited 2』のリリースを控えています。そこで今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫りたいと思います。
はじめに
Lil Durk (以下 Durk) は、アルバムやミックステープ、自身が率いるクルーである OTF (Only The Family) のコンピレーションアルバムを含め、19枚ものプロジェクトをリリースしており、本記事で全てを紹介することは極めて困難な試みとなります。ですので、本記事においては「ドリル色の強い Lil Durk」と「メロディアスなスタイルの Lil Durk」という二つのカテゴリに分けることで、彼の魅力を伝えることができたらと考えています。(このカテゴリ分けに関しては「独特なスタイル」の項目で解説しています。)
生い立ちとキャリアの開始
Lil Durk (リル・ダーク) こと Durk Banks は、Chief Keef や Lil Reese などをはじめとする数々のドリルMCを輩出したことでも知られる、イリノイ州シカゴで生まれ育ちました。
この章ではまず、彼の音楽の基盤となっている「ドリルミュージック」色の強いスタイルの楽曲を紹介していきます。主に初期にリリースされた『I’m a Hitta』シリーズや、DJ Drama によってホストされた『Signed to the Streets』、Lil Reese とのジョイントミックステープ『Supa Vultures』などのプロジェクトがこのカテゴリに当てはまります。
ドリル色の強い彼のアルバムには、シカゴドリルのパイオニアの一人である Lil Reese をゲストに招いていたり、Chei Keef と数々の名曲を生み出したプロデューサーである Young Chop をプロダクションに招いていたりと、至る所にドリルならではの要素が見受けられます。
L’s Anthem
初期にリリースした2枚目のミックステープ『I’m Still a Hitta』の六曲目に収録されているこちらの楽曲。タイトルは「Lの聖歌」で、その名の通りの楽曲です。「L」とは、Lil Durk が生まれ育った地域ストリート「Normal」 のニックネームである「Lamron」の頭文字であり、逆から読むことでギャングコミュニティー内でコードネーム化されています。
「Lamron」のクルーは Lil Durk が所属する Black Disciples の一部であり、そのモットーは「Life, Love & Loyalty」です。全てが L から始まることから、自らのフッドについてラップした曲を「Lの聖歌」 と名付けています。
Don’t Understand Me
DJ Drama によってホストされたアルバム『Signed to the Streets』に収録されているこちらの楽曲。若かりし頃の北野武に見えなくもない雑な似顔絵が印象的なアルバムカバーを見ての通り、この頃は完全なるドリルミュージックのアーティストです。
トラックも Chief Keef と Lil Reese の名曲『I Don’t Like』と良く似たシカゴドリル特有のサウンドで構成されており、いかにも暴力的な印象を抱く楽曲です。おそらく、最近の Lil Durk の楽曲を中心に聴いていた方達にとっては、そのギャップに驚く方も多いのではないでしょうか。
メロディアスなスタイルの Lil Durk
続いてこちらの章では、彼自信が創り上げたニュージャンルである、メロディックなスタイルの楽曲を中心に紹介していきます。Chance The Rapper や Wale などの、大物ラッパーの楽曲に参加した際も、このスタイルでラップを披露していたこともあり、「Lil Durk と言えばこの綺麗なメロディだよね」というようなイメージをお持ちの方も多いと思います。
Ty Dolla $ign や Young Thug などを招き、メロディアスなフロウを初めて積極的に取り盛り込んだアルバム『Lil Durk 2X』や、シリーズ最新作がアナウンスされたばかりの『Just Cause Y’all Waited』、『Signed to the Streets 3』などが、こちらのカテゴリに当てはまります。
Teyana Taylor 手がけるホラーシリーズ『Hottieween』の制作&出演や、メンフィスの人気ラッパー Moneybagg Yo との交際(現在既に破局済み)など、多方面において話題を欠かすことなく一気にスターダムを駆け上がった彼女は、2020年3月に新作 EP『Suga』をリリースしました。
前述した 1501 Certified Entertainment との確執が原因でニューアルバムのリリースが遅れていた中、突如リリースが決まったこの EP には、Megan のレーベルに対する不満も現れています。
Savage
シンプルなビートと、Pimp C を思わせるスキルフルなラップが特徴的な1曲。反復され耳に残るフックのおかげもあってか Tik Tok においてこの曲を使ったダンスチャレンジが流行し、バイラルヒットしました。
N***as say I taste like sugar, but ain’t s**t sweet
そんな彼が、本格的に楽曲をリリースし始めたのは昨年の2019年です。そんな中、彼がリリースしたデビューEP『Pain and Love』が近年のブルックリンドリルの人気の波とぶつかって、空前のバズを起こします。
1st EP『Pain and Love』
2019年6月5日に Fivio はデビューEP『Pain and Love』をリリースしました。Pop Smoke や Drake との共演も果たしたロンドンのプロデューサー AXL Beats が、収録されている4曲すべてのプロデュースを担当し、近年のドリルミュージック逆輸入の流れを体現したものとなっています。タイトルの『Pain and Love』は、アルバムカバーの通り、彼の両手に刻まれたタトゥーの文字から由来しています。
No drive-bys, we doin’ walk-downs 車からの銃撃はしないぜ、俺らは車から降りて敵を狙い撃つ
I was dead broke 俺はまじで貧乏だった
Writin’ rhymes where the roaches at ゴキブリが這い回るような場所でライムを書いていたよ
Mama Lottie knew I was a star before I wrote a rap 俺がラップを書く前から、ママは俺がスターだって知ってた
‘Cause I was always the one gettin’ noticed, but they didn’t notice that 俺は注目されるべきだったのに、他の奴らは俺のヤバさに気付かなかったからな
EPリリース後
Pop Smoke 『Sweetheart (feat. Fivio Foreign)』
EPリリース、『Big Drip』の大ヒット後、彼はブルックリン内外を問わず、数々のビックネームとの共演を果たしました。その中でも特に目立ったものは、ほぼ同時期からブルックリンドリルシーンを台頭してきた Pop Smoke との楽曲『Sweetheart』ではないでしょうか。プロダクションには、 Pusha T や Nicki Minaj との共演で知られるブルックリンのプロデューサーが参加し、ドリルトラックに挑戦しています。
Fivio Foreign & Rich The Kid 『Richer Than Ever』
アトランタの人気ラッパー Rich The Kid と共にリリースしたシングル『Richer Than Ever』です。こちらの楽曲は、『Big Drip』などのプロデュースした AXL Beats で、完全に Fivio の土俵に Rich The Kid を引きずり込んだものとなっています。Rich The Kid も、ブルックリンドリル特有のフロウに挑戦していますが、意外と違和感がなくて不思議な感覚を覚えます。
Tory Lanez『K Lo K (feat. Fivio Foreign)』
カナダ・ブランプトン出身で、IGライブを賑わせている Tory Lanez が Fivio を客演に招いた楽曲です。タイトルの『K Lo K』とはドミニカ共和国でよく使われる「調子はどう?」を意味するスラングで、どことなく異国の香りが漂うトラックとなっています。
JetsonMade(以下Jetson)こと Tahj Morgan はサウスカロライナ州コロンビア出身の23歳(1997年生まれ)。比較的恵まれた環境で育ったという彼は、2010年(当時13歳)頃から Garageband を使い楽曲作りを始め、翌年2011年には本格的にトラックメイクを始めました。
しかし彼は高校卒業後、母親の反対により一時音楽活動から離れていた時期がありました。彼の母親は息子に対して大学進学と就職を望んでいたため、Jetson は不服ながらも大学進学を決めたのですが、もちろん長続きすることはなく1セメスターで退学。その1セメスターの終盤に彼にとって大きな転機が訪れることとなります。それが、アトランタのスター 21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加でした。
この参加をきっかけに Jetson は本格的に音楽活動へと復帰します。勢いをつけた彼は DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たします。
DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。DaBaby にも Jetson にとっても自身最大のヒット曲となりました。
2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、彼にとって飛躍の1年となります。
Roddy Ricch のデビューアルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』収録の1曲。Jetson が好んで使用する笛系のシンセとお馴染みの808ラインが、なんとも彼らしい楽曲です。また彼のビートはハイハットも特徴的で、楽曲によって様々なパターンを使い分けます。この曲ではハイハットで絶妙な間と強弱をつけ、ビートに更なるグルーヴを生み出しています。
I make a lot of different types.
俺は色んなビートを作るんだ
My success come from the simple beat,
俺の成功のルーツはシンプルなビートなんだけど
but when you think about it, when you listen to “Suge,”
DaBaby の『Suge』を聴いた後に
but then turn around and listen to an “Oh My God,”
Lil Keed の『Oh My God』を聴いたら
they totally different beats, totally different sounds.
2つは全く違うビートだろ 全く違うサウンドなんだ
I just use whatever sounds good.
俺は、自分が良いと思ったサウンドなら何でも使うんだ
Whatever goes good in that beat is what I’m gonna use.
2019年の3月15日に2枚目のミックステープ『Young and Turnt』がリリースされました。4PF と CMG 加入後、初めてリリースされたミックステープということもあり、以前のものとは比べ物にならないほど、参加アーティストが豪華になっています。
所属している二つのレーベルの長である Lil Baby と Yo Gotti はもちろんのこと、地元デトロイトから Tee Grizzley、CMG から Blac Youngsta などが参加しています。プロダクションにも、Tee Grizzley と数多くの楽曲を作成したことでも有名な、デトロイトの Helluva Beats などが参加しています。
中でも注目の楽曲は、所属する CMG のボスである Yo Gotti を迎えた『You Da One』です。噛み付くようなやんちゃなラップをかます 42 Dugg が子だとしたら、落ち着いた口調で淡々とバースを蹴る Yo Gotti は威厳のある父親というところでしょうか。
単に Yo Gotti が一区切りのバースでラップするだけでなく、Tee Grizzley と Lil Yachty の『From the D to the A』を思い出させるような、2人交互にバースを蹴っていく構成になっているところも見所です。 Tee Grizzley もデトロイトなので少しは影響を受けているのかもしれません。
日本語のサンプリングから幕開けするこちらの楽曲、これも実は WOD の OogieMane によるプロデュースです。Oogie Mane は元々こちらの日本語プロデューサータグ(NARUTO三話のサスケとサクラのやりとり)を使用していました。しかし権利上の問題もあり、この楽曲以降に制作したものに関しては、曲中のフレーズ『Oogie Mane he killed it』を抜き取り、プロデューサータグとしています。
Lil Uzi による『Eternal Atake』のデラックスで一曲目に収録された『Myron』も Oogie Mane によるもので、初めに Matt OX の声が聴こえて驚いたという方も多いのではないでしょうか。
ちなみに、WOD のグループタグは、こちらの楽曲でも10秒あたりで使用されている女性の声で、『I’m Working on Dying』です。
彼の楽曲のスタイルは、ドリルミュージックとメロディックの融合です。後々紹介しますが、彼は G Herbo などにインスパイアされたであろう激しい楽曲や、Lil Durk やなどに影響を受けたと思われるメロディックな楽曲の両方を制作します。そして、時にはその二つのジャンルをミックスすることも。初心者には取っ付きにくいジャンルである「ドリルミュージック」ですが、彼の音楽ならチャートの上位にのぼってくるのも納得です。
デビューアルバム『Die a Legend』
2019年6月に彼は Columbia Records よりデビューアルバム『Die a Legend』をリリースしました。
Uzi は以前から、所属するレーベル Generation Now との関係が良くないことを明らかにしていました。彼のデビューアルバム『Luv Is Rage 2』も同じ問題を抱えてリリースが遅れた過去があり、おそらくそういった問題が悪化し、彼は音楽を辞めるという発言をしたのでしょう(Generation Now のDJ Drama は問題を否定しており、「(アルバムを)出したい時に出せばいい」と発言)。
I was 15, I see my bro Jimmy dead おれが15の頃、仲間の Jimmy が死んだのを見たんだ He felt so cold, I couldn’t even cry 彼は冷たくなって、おれは泣くことすら出来なかった That’s why I sip lean, boy you ain’t even gotta ask why だからおれはリーンを飲むんだ、理由なんて聞くな They wanna shiv me with knives all in my back やつらはおれのことを狙っている
2018年9月に Calboy がリリースしたシングル『Envy Me』が、彼のキャリアを大きく変えます。リリースされるや否や Billboard Hot 100において63位まで登りつめ、YouTube では2500万再生を記録しました。
『Envy Me』のバイラルヒットは、この曲を使った「Demons Challenge」というダンスチャレンジが Tik Tok 上で流行したことがきっかけでした。
もちろん奇跡的にバズを起こしてヒットしたわけではなく、バズが起こったのにも理由があります。
I was fighting some demons, in the field, bitch, I’m deep in おれは悪魔たちと戦っている、もう戻れないんだ I was raised in the deep end, I know niggas be sinkin’ 困難な環境で育ってきたんだ、落ちぶれていった奴らもいる
その後、Calboy は Kodak Black の「The Dying To Live Tour」に帯同し、ますます知名度を上げていきます。
デビューEP 『Wildboy』
2019年、Calboy は RCA と Polo Grounds Music からデビュー EP『Wildboy』をリリースします。
Moneybagg Yo、Lil Durk、Yo Gotti、Polo G、Meek Mill、Young Thug といった豪華客演陣の参加が、Calboy の注目度を物語っています。
また、Calboy のラップ&ボーカルスキルの向上も顕著に見られます。
『Ghetto America (feat. Yo Gotti & Lil Durk)』
Lil Durk と Yo Gotti が参加した1曲。高音で感傷的に歌う Calboy と Lil Durk のボーカルに、Yo Gotti のねっとりとしたラップが上手くマッチしています(やはり Lil Durk と Calboy のボーカルスタイルは激似ですが、本人(Calboy)はそう言われるのがあまり好きではないみたいなのでここでは控えておきます…笑)。
『Chariot (feat. Meek Mill, Lil Durk & Young Thug)』
Meek Mill、Lil Durk、Young Thug が参加した夢のような1曲で、Calboy も引けを取らない三連符フロウを披露します。
人気アーティストとのコラボ
Chance the Rapper『Get a Bag (feat. Calboy)』
同郷シカゴのスター Chance the Rapper のデビューアルバムに参加した Calboy は、ここぞとばかりにその才能を見せつけます。
(※4) Slime とは Young Thug によって作られたスラングであり、「Street Life Intelligence Money is Everything」の頭文字をとった単語 。主に親しい友達や家族のことをさす。Slimy は、Slime を形容詞として変化させた派生語である。カタツムリは動きが遅いことで有名な軟体動物であるが、Lil Uzi は自分が素早くキャリアを積み上げたことから、ポケモンのヤドンを「動きが遅いのろま」としてメタファー的に利用し、「自分はカタツムリやヤドンのようにのろまな存在ではない」とラップしている。
They laugh at me because I’m emo あいつらは俺がエモラッパーだからって笑うんだ
I killed my girlfriend, that’s why I’m single 恋人を殺したから、俺は独り身だ
Can’t call 911 ’cause I’m in Reno (※5) Reno にいるから、警察に通報できないよ
ちなみに彼の楽曲に度々登場する「It’s Big 092MLBOA」というフレーズですが、これは彼が生まれたブロックにて形成されているギャングを表しています。彼の地元であるカナージーは「Floss」または「Flossy」という別名を持っており、それに絡めてこのようにラップしています。
When you come to flossy, better have your gun お前がカナージーに来るなら、銃は持っておいた方が身のためだぜ
『GATTI』
Pop Smoke は、昨年末にリリースされた Travis Scott 率いる Cactus Jack Records によるプロジェクト『JACKBOYS』に収録されている『GATTI』に参加しました。ここでも UK の AXL Beats と 808melo をプロデューサーとして起用しています。タイトルの『GATTI』とは高級スポーツカーの Bugatti (ブガッティ) の略で、MVでも青いブガッティを乗り回しています。
Look, you cannot say Pop and forget the Smoke お前は「Smoke」と言わずに「Pop」と言えない
I’m from the Floss where n****s tote 俺は、ギャングたちが銃を持ち歩いているカナージー出身だ
They couldn’t be Crips, so they turned Folks (Bah) あいつらは Crips になれなかったから、Folk Nation に加入した
Drivin’ through the ‘Ville, droppin’ the Cho (Brr) Brownsville を走り抜け、Cho の連中を始末する
ブルックリンには大きく分けて、Woo と Cho という2つの派閥が存在します。Woo と Cho はもともと仲は悪くなかったのですが、2010年を境にスニッチがきっかけとなって対立を始めました。Pop Smoke はアルバムタイトルを見ていただければわかる通り Woo に所属しており、Cho のメンバーと仲良くすることはありません。
このリリックにおける「あいつら」とは、Tay627 と Chris Elite のこと。彼らは Pop Smoke が所属する Woo と敵対関係にあり、Pop Smoke のヒット作『Welcome to the Party』をリメイクした楽曲『Welcome to the Garvey』 をリリースしました。
『Meet The Woo 2』
お待たせしました。本日リリースされた最新作『Meet The Woo 2』についてです。13曲で35分の構成となっており、前作に比べて一曲あたりの再生時間がかなり短くなっています。しかし、先行でリリースされていた楽曲は『Christopher Walking』と Lil Tjay をフィーチャーした『War』、そして前作にも収録されていた『Dior』の三曲のみで、「アルバム出たけど、もうほとんど聞き飽きてるよ」状態は回避できています。
Quavo や A Boogie wit da Hoodie などドリルでない US ラッパーも参加しており、こちらでも UK Drill ビートとUSアーティストのコラボレーションを楽しむ事ができます。同じくブルックリンのドリルシーンからは、最近 Rich The Kid や Tory Lanez と共演していた Fivio Foreign が参加しており、最先端のブルックリンドリルも堪能する事ができる作品となっています。
ちなみに、先行曲だと思われていた Calboy との楽曲『100K on the Coupe』は残念ながら収録されていませんでした。どちらかというと Calboy が Pop Smoke をフィーチャーしたような構成の楽曲となっていたので、アルバム全体の雰囲気も考慮して外されたのかもしれません。
Calboy や A Boogie、 Lil Tjay にしてもそうですが、Pop Smoke がドスの効いた低い声であるため、フィーチャーするアーティストは高めの歌声を持っていたり、メロディアスなフロウを得意とするラッパーを選び取っているような印象を持ちました。確かに、同じようなスタイルの2人が一曲を作り出すより、真逆のスタイルの2人が一曲を制作した方が、コントラストが生まれますし、意外な化学変化も起こりやすいのかもしれません。
たったの一、二年でブルックリンドリルのビックウェーブを作り出し、伝説的存在となった Pop Smoke は、惜しくも2020年の2月19日にこの世を去りました。LAに借りていた別荘に滞在しているところを、強盗に襲われて銃殺されてしまったようです。早すぎる彼の死に、たくさんのファンやラッパーたちが追悼の意を表するともに、彼の功績を賞賛しました。ご冥福をお祈りいたします。
彼の死後、50 Cent が「俺が 彼のために Pop Smoke のアルバムを完成させる」と声明を発表しており、悔やまれながらもこの世を去ってしまった彼の、遺作であるデビューアルバムが今週末にリリースされます。彼の所属していた Victor Victor Records がインスタグラムにてアートワークとリリース日時を発表しました。
※宇宙飛行士のようにっていうのは精霊のようになった彼が世界を俯瞰していることのたとえでしょう。ちなみに Area code ってのは日本語で言う市外局番という意味で、電話で場所の特定に使われるやつですね。神戸だったら078…みたいな。でも意味わかんないですよね。 実は area code ってめちゃくちゃ激しく腰動かしてパコパコ…みたいな意味があったりするんです…それと、一番一般的に使われる area code の意味は、女の子の評価なんですね。例えば918…みたいな一つめの9はその女の子の顔を0-9で評価して…2つ目の数字は0か1で、1なら抱きたい、0は抱きたくないを意味して…3つ目の数字は身体を0-9で評価するんです。いや918ってどんなええ女やねん、霧島レオナか!どうぞ Porn hubへ…(カニエウエスト風)
Tragedy You turned a good thing to a tragedy Being held down by gravity Baby, hoping you can see the map
Lil Durk はシカゴ、Offset や Young Nudy はアトランタと、地域の垣根を超えたキャスティングなので、いろんなジャンルのラップが一枚のアルバムに集約されています。本当に聴いていて飽きないし、何よりも展開が予測できないので楽しいです。アルバムから少しだけご紹介いたしますので、まずはこちらをお聴きください。
I feel like Durkio, why? ‘Cause I signed to the streets Lil Durk になった気分だ。なぜかって?ストリートと契約したからだよ
I can’t reply to no beef, I’m sendin’ lil’ nigga slang iron for me 喧嘩なんかに応えるはずがない。自己防衛のために武装した仲間を送り込むぞ
Stunna 4 Vegas – Durkio (feat. Lil Durk)
このラインは Lil Durk を客演に迎えたことを最大限に活かした良リリックですね。一行目は「Signed To The Streets」シリーズ (通称STTS) という Lil Durk によるシリーズアルバムの名称と、ストリートと契約を交わす (つまりギャングスタとして生きていく) ことをかけています。普通にラップしても秀逸なラインですが、Lil Durk 本人が客演として参加している楽曲でこれをラップすることによって、説得力が増し増しになっています。
客演は DaBaby に Lil Baby、Blac Youngsta、Offset の4人、通しの時間は30分きっかりとアルバム全体をミニマルに押さえ込んでいる印象を持ちました。
売れる前はゴリゴリだったのに、ある程度売れてしまうと番人ウケを狙ってかG臭が薄くなるラッパーって結構いるんですよね。G好きな私にとって、それはとても悲しいことなんです。ですが、Stunna の場合はそんな私をひとまず安心させてくれました。こちらは、先行シングルとしてリリースされていた Offset との楽曲「Up The Smoke」の一節です。
They wipe his nose if I say so 俺がそうしろって言ったら、仲間たちはあいつを殺すぜ
It’s a green light when I say go 俺が行けっていう時、信号が青に光ってるようにな
Stunna 4 Vegas – Up The Smoke (feat. Offset)
「Wipe someone’s nose」というスラングは、我らが Young Thug によって生み出されたギャングスタ・スラングの一つで、「対立するギャングの構成員を殺す」という意味があります。鼻水を拭いてあげる訳じゃありません。このラインで Stunna は彼の仲間が、彼に対して持っている忠誠心を、信号のたとえと絡めて強調しているんです。ギャングへの忠誠心を、ギャングスラングでラップしてくれたので、彼から漂うG臭がまだかなり強い事がわかり安心しました。
今週ニュープロジェクト『Diary of a Lost Child』をリリースしたジョージア州サバンナ出身のラッパー Quando Rondo。人気映画「Fast & Furious (ワイルドスピード)」の最新作のサウンドトラックにも参加するなど、活躍の場を広げ始めている彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。
Quando Rondo とは
Quando Rondo こと Tyquian Terrel Bowman はジョージア州サバンナ出身の20歳。Quando Rondo というステージネームは、幼少期のあだ名「Ty-Quando」と、彼の敬愛するバスケットボールプレイヤー「Rajon Rondo」からとったものだそうです。
彼は10代前半頃から友人たちの死と直面するなど過酷な生活を送ってきました。Young Thug や Rich Homie Quan、Chief keef らの楽曲を聴いて育ったという彼の音楽の特徴は、ストレートなリリックと聞き心地の良いメロディアスなフロウです。歌うことから始めたという彼は、「ラップと歌の違いを明確にする必要はない」と語っており、R&Bとも解釈できる彼のスタイルは幅広い層に受け入れられています。今までヒップホップやラップというジャンルに抵抗があったという方にもオススメのラッパーの1人です。哀愁漂うビートに乗る彼の歌声には、一度聴くと病みつきになる中毒性があります。
Quando の壮絶な人生を振り返るという内容の一曲。BPM50前後のゆったりとしたトラックに彼の歌心のあるフロウが映えます。アトランタの人気ラッパー Lil Baby の参加もあり、この曲で彼は一気に知名度を上げます。
YoungBoy Never Broke Again との出会い
Quando のブレイクを語るにおいて、YoungBoy Never Broke Again (以下 NBA YoungBoy) との出会いは欠かせません。
今や NBA YoungBoy のレーベル Never Broke Again にも所属している Quando ですが、二人の関係性は、NBA YoungBoy が Instagrem を通じて Quando に連絡をとったことから始まったそうです。「俺の才能を最初に見出したのは彼なんだ」と Quando が語るように、彼の NBA YoungBoy への信頼が厚いことが分かります。ちなみに、ラッパーとしてのキャリアでは NBA YoungBoy が先輩ですが、年齢は Quando が1歳年上です。
XXL のインタビューでも語るように、彼の1番お気に入りのジュエリーは NBA YoungBoy から貰ったチェーンだそうです。
今回の主役である Quando Rondo は、この曲で自身のロックスターのような生活をフレックスしています。
ミックステープのリリース
2018年、彼は二つのミックステープをリリースします。
『Life B4 Fame』
Lil Baby や Lil Durk、OMB Peezy らが参加した同テープは MyMixtapez にて、わすが二日間で100万回再生を記録。この『Life B4 Fame』というタイトルは、2015年に NBA YoungBoy がリリースした1stミックステープ『Life Before Fame』にあやかって付けられたものでしょう。ここでも NBA YoungBoy へのリスペクトが感じられます。
『Life After Fame』
Youngboy Never Broke Again や Rich Homie Quan、Boosie Badazz らが参加した2ndミックステープ。同作から1曲ご紹介させていただきます。
ちなみにこの曲のフックで使われている彼のフロウは、Rich Homie Quan の楽曲『The Author』からの引用で、「ネクストRich Homie Quan」との呼び声も高い彼ならではのリファレンスです。
2018年12月には、カリフォルニア州ベイエリアのラップグループ SOB X RBE のツアーにオープニングアクトとして参加し、見る見るうちにファンベースを獲得していきました。
そして2019年、彼は満を持して3作目のミックステープをリリースします。
『From the Neighborhood to the Stage』
NoCap や Shy Glizzy、Blocboy JB、Polo G らが参加した3rdミックステープ。同作からも一曲ご紹介させていただきます。
『Gun Powder』
NBA YoungBoy やDaBaby、Rod Wave らへの楽曲提供でも知られる Tahj Money によるプロデュースのこのトラックは、なんと8ヶ月もの間 Quando のメールボックスに眠っていたものだったそうです。
同曲は、タイトルからも察しがつくように攻撃的なリリックが特徴的な一曲です。
I don’t know shit about no murder, gotta keep my mouth closed 俺は殺しについて何も知らない、口をつぐむぜ Just got a brand new Desert Eagle with a cutter that fold 新しいデザートイーグル(自動拳銃)と、アサルトライフル Shower in bleach, rip up the car, make sure you burn all the clothes (痕跡が残らないように)漂白剤で車を洗い、服を全部燃やす My youngin’ down to shoot to kill just for a line of some coke 俺の連れはコカインを楽しむためだけに人を撃ち殺す Sendin’ texts to all the opps like yeah we want all the smoke 早くお前らを殺して一服したいだけ、と敵にメールする We up by six, they down by two, they need the go fix the score 少人数だが、お前らをやっちまうぜ Pop out wit’ poles, アサルトライフルの銃声を響かせる told ’em I won’t spare no kids or no hoes ガキでも女でも容赦しねえ Foot on the pedal, heavy metal, send some shots through yo’ clothes 引き金を引いて服の上からぶち抜いてやる
ここまでの3作のミックステープのタイトル [『Life B4 Fame (名声を得る前の人生)』→『Life After Fame (名声を得てからの人生)』→『From the Neighborhood to the Stage (地元からステージへ)」]』からも、彼が2018年から2019年にかけて一気にブレイクを果たしたことが伺えます。
デビューアルバムのリリース
2020年1月、Quando は待望のデビューアルバム『QPac』をリリースしました。
このファン待望のデビューアルバムには、彼自身の内面的な成長が大きく反映されています。
昨年第一子が誕生し、父親となったQuandoは、『Letter To My Daughter』にて娘への愛を歌います。
I done dedicate my whole heart to you, girl
俺の心を君に捧げるよ You’re the only one know how I feel
俺の気持ちをわかってくれるのは君だけなんだ Run it up to just buy the whole world
全てを手に入れよう I don’t care if it cost a hunnid mill’
それがいくらしたって気にしないさ Want you to know you the only one
君は唯一の存在だってことを分かって欲しいんだ Made me change the way that I live
俺の生き方を変えてくれたのは君だから As a child, promise you’ll have fun
君が立派になるまで、楽しませ続けると誓うよ Ain’t gotta worry ’bout a dollar bill
金のことだって心配いらないさ
Letter To My Daughter
このような愛に溢れたメッセージがアルバムの随所に見られ、父親として一皮向けた彼の成長が見受けられます。7曲目『Marvelous』に参加している Polo G のヴァースから言葉を借りると、「That gang sh*t a joke, n***a, all you got is family(ギャングシットなんてジョークさ、あんたが手に入れたのは家族なんだ)」の一言に尽きます。愛する妻と娘に恵まれ、生き方を考え直した Quando Rondo の今後に注目です。
さて、2019年も様々な傑作がリリースされましたが、私が特に気に入った作品の一つに、西海岸のラッパー・03 Greedoのアルバム「Still Summers in the Project」があります。Gファンクなどの伝統的な西海岸サウンドを踏まえつつ、現行の音にアップデートされた同作を手がけたのは、同郷のプロデューサー・Mustardです。TygaやYGなどのプロデュースで頭角を現し、2010年代の西海岸シーンを牽引した名プロデューサーの一人です。今回は、そんなMustardのキャリアを振り返りつつ、2020年代の展望についても考えて生きたいと思います。
ジャーキンはハイフィと比べるとBPMが遅めで、代表曲にはNew Boyz「You’re Jerk」(2009年)や、Audio Pushの「Teach Me How To Jerk」(2009年)などが挙げられます。個人的なおすすめはCold Flamez「Miss Me Kiss Me」(2009年)。ジャーキンはダラスで同時期に盛り上がっていたダンスのムーブメント「ドギー」の振付を取り入れたりしながら、Snoop Doggらベテランも反応してメインストリームにも進行していきました。
ジャーキンの流行は、西海岸の様々なアーティストを巻き込んでいきました。その中の一人に、Ty & Koryというデュオで活動していたTy Dolla $ignがいます。Sa-Ra CreativeやBlack Milkらの作品への参加など、どちらかというとそれまでアンダーグラウンド寄りの活動を行っていたTy Dolla $ignでしたが、ジャーキンの流れを汲んでヒット曲を生み出します。YG、TeeCeeと共に発表した「Toot It And Boot It」(2009年)です。それまでのカラーを踏まえたネタ感強めの質感とジャーキン以降の重低音の組み合わせが話題を呼び、YGと共にジャーキンのシーンで一躍注目を集めます。
そして、このTy Dolla $ignからビートメイクを習ったとされるのが、本稿の主役であるMustardです。MustardはSway’s Universeのインタビューで、「YGのためにビートメイクを始めた」と話しています。プロデューサーとしての初仕事は、恐らく2010年のYGのミックステープ「The Real 4 Fingaz」収録の「Glowin」です。
ここでのMustardの作風はメロウで落ち着いたスウィートなものでしたが、Mustardの心の師匠・Lil Jonもまたこういった作風を得意としていました。代表的なものでは、2004年のLil Jon & The East Side Boyzの名曲「Lovers and Friends」が挙げられます。試行錯誤を繰り返していたMustardは、自身のヒーローの別サイドに到着したのです。
クランク復権の流れ
Ella Maiのブレイク後となる2019年、Mustardは作品数こそ少ないものの多彩な活躍を見せてくれました。YGの「Go Loko」ではLAでヒット中のAmbjaay「Uno」を意識したようなラテン風味に挑戦し、新鋭・Roddy RicchにもR&B風の「High Fashion」を提供。前述した03 Greedoのアルバムではウェッサイ色を強調した作風を聴かせてくれました。また、日本のラップグループ、BAD HOPにもバンギンかつバウンシーな「Poppin」を提供しています。
シンプルなシンセがループされるビートは、ラチェット系の路線ではありますがあまりGファンク風味は感じません。どちらかというとクランクに近い音色のシンセを使っており、アウトロではMustard自らマイクを握り、Lil Jon & The East Side Boyzを思わせる掛け声を披露。さらにMVではMigosがLil Jonっぽいサングラスを着用しています。Lil Jonへのオマージュが満ちた同曲を、Ella Maiブレイク後の初作品の1stシングルに持ってきたことは、自身のルーツへのより強い回帰を感じさせます。
2019年は、ベイのSaweetieが「My Type」でPetey Pabloのクラシック「Freak-A-Leek」をサンプリングし、Quality Control Music所属のメンフィスの新人・Duke Deuceがその名も「Crunk Ain’t Dead」なる楽曲を発表するなど、クランク関連の話題がぽつぽつと見られた年でした。
今回はそんな私たち3人が選んだ、それぞれの「Album of The Year」についての記事です。正直、それぞれのアルバムにそれぞれの良さがあり、ベストアルバム一枚を選ぶことは難しいので、かなり個人的で主観的な記事になっております。その点ご了承ください。それでは早速、一枚目からいってみましょう。
1. Skepta – Ignorance Is Bliss
今年もたくさん音楽を聴きました。Apple Replay で今年のまとめを分析すると、610個のプロジェクト(おそらくこの数字には EP やシングルも含まれています)をチェックした僕ですが、今回はその中でも最も印象に残った Skepta によるアルバム ”Ignorance Is Bliss”について書いてみようと思います。
タイトルの “Ignorance Is Bliss” は日本のことわざに直すと「知らぬが仏」。このテーマはサーモグラフィーによって撮影されたアルバムのカバーにて巧みに表現された上で、楽曲の中でも如実に感じ取ることができます。
イントロとしての役割も果たす一曲目の楽曲 “Bullet from a Gun” は、当アルバムのテーマを巧みに反映したものでもあります。試しにカバーアートと照らし合わせてリリックを見ていきましょう。
Like a bullet from a gun, it burns まるで拳銃から撃ち出された銃弾のように、それは燃えるんだ When you realise she was never your girl 彼女がお前の女じゃないと気づいた時にね It was just your turn ただ、お前は遊ばれていただけだったんだ
Tuesday, 23rd of January, 2018 2018年1月23日火曜日、 I’m here with David 私はデイヴとここにいる。 This is our first session これが我々の最初のセッションだ。 We’re just gonna talk about your background 君のバックグラウンドの話から始めるとしよう。 Where you’re from, any issues you’ve been dealing with 君がどこから来たのか、どんな問題に対処してきたのか。 So, where should we start? さあ、どこから始めようか。
I guess it’s important that you have someone you can trust 信頼できる人を見つけるのは大事なことだ Especially in the position you’re in, and um… 過酷な状況にいる君にとっては特にさ I think it’s a really good trait that you’re able to find positives ポジティブなことを見つけられるのは素晴らしいことだと思うよ Despite some of the challenges, for want of a better word, that you face 様々な困難に直面しているにも関わらずね
昨年若くして亡くなってしまった XXXTENTACION を始め、殺人の疑いで現在も収監されている YNW Melly、他にも Rick Ross や Kodak Black などが有名なフロリダ出身のラッパーたちですが、今回はもっとアップカミングな(出てきたばかりの新しい)ラッパーたち4名を紹介していきます。
Jackboy
【名前】Jackboy (Pierre Delince)
【出生】ハイチ共和国
【育ち】フロリダ州 ポンパノビーチ
【生年月日】1997年9月27日
まずは Jackboy というラッパーです。”超” アップカミングというわけではないので、ご存知の方も多いと思いますが、彼は Kodak Black のレーベルである Sniper Gang に所属するラッパーです。同じレーベルに所属し Kodak から影響を受けていることもあり、かなり Kodak に似たスタイルです(ていうか、ほぼ一緒)。
Kodak をたびたび客演に迎え、徐々に知名度を伸ばしてきた彼ですが、今年の9月にリリースしたアルバム “Lost in My Head” でいきなり覚醒しました。
If I go broke right now (Right now) もし俺が今すぐ貧乏になったら
Would you still be around? それでもそばにいてくれる?
If I go to jail right now (Right now) もし俺が今すぐ刑務所に行ったら
Baby girl, hold me down ベイビーガール 、俺を守ってくれよ
Or would you leave me? それとも離れていっちゃうの?
Baby, Don’t leave me ベイビー、そばにいてくれよ
Jackboy – Would You Leave
こちらのリリックは先ほど紹介した “Lost in My Head” に収録されている “Would You Leave” という楽曲のものです。Sniper Gang とかいう名前からして危ないの確定のレーベルに所属しているくせに、こんな純愛ソングを作ってしまう所にギャップ萌えしますよね。
リリックからも Kodak Black から強い影響を受けていることを見てとることができます。かれらはやはり生粋のギャングスタであり、生きていくためには常にストリートで動き続ける必要があります。常にストリートに繰り出さなければいけないこと、それと同時に愛する人と幸せな時間を過ごしたいということ。彼らはいつも、その二つを両立できないことに葛藤を覚えます。
まずは Kodak Black による “Why You Always Gotta Go” からのリリックです。彼女の目線から自分を放置してストリートに繰り出していく彼氏に対しての気持ちをラップした楽曲です。
Why you always gotta go? あなたはなんでいつも行っちゃうの?
Kodak, why you gotta leave? コダック、あなたはなぜいなくなっちゃうの?
You always in the streets, you don’t make no time for me あなたはいつもストリートにいて、私のための時間なんて作ってくれない
Why you always gotta leave me here on my own? あなたはなぜいつも私を一人ぼっちにさせるの?
Why we can’t ever spend leisure time home alone? なんで私たちは二人きりの時間を過ごせないの?
最後に紹介するのは Rod Wave というラッパーです。最近の若手には珍しい、声も体もかなり太めのラッパーです。これの場合、もはやアップカミングではないかもしれませんが、年齢がまだ二十歳ということもあるので紹介させて下さい。彼の特徴は勢いのあるラップに時折織り混ぜる美しい歌声とリリックで、見た目と歌声のギャップで僕たちを虜にして逃しません。ヒョロヒョロガリガリの草食系サンクララッパーのエモラップに飽きてきた方にはかなりおすすめです!
【名前】Rod Wave (Rodarius Marcell Green)
【出生・育ち】フロリダ州 セントペーターズバーグ
【生年月日】1998年8月27日
アップカミングラッパーを紹介する記事なので当たり前といえば当たり前なのですが、彼もつい最近 Kevin Gates と Lil Durk をフィーチャーしたアルバム “Ghetto Gospel” をリリースしました。
満を辞してリリースされたニューアルバムにも Lil Durk をフィーチャーしたリミックスとして収録された “Heart on Ice” にて、Rod Wave の華麗な声色の使い分けを見ることができますので、リリックと共に少しだけ見ていきましょう。まずは楽曲を聴いてみてください。
Heart been broke so many timesI don’t know what to believe 何度も失望してきたんだもう何を信じて良いのかわからない
Mama say it’s my fault, it’s my fault,I wear my heart on my sleeve ママは俺のせいだって言った俺は感情を露わにするよ
Think it’s best I put my heart on ice, heart on ice ’cause I can’t breathe もう気にしないのがベストだと考えてる だってもう息すらできないし
I’ma put my heart on ice, heart on ice, it’s gettin’ the best of me 気にしないようにするよ それが俺にとってベストなんだ
このように Rod Wave は、巧みに声色を使い分けることで、リリックの状況を容易に想像できるようになるだけでなく、リリックに込めた感情をも私たちは容易に読み取ることができるようになっています。このテクニックは、人々の心に無意識のうちに直接訴えかけてくるので、共感をよびやすく、それも彼が人気になった要因の一つなのではないでしょうか。
さいごに
いかがでしたでしょうか。他にもフロリダからのアップカミングラッパーは Teejay3k とか 9lokknine とか YNW Bslime とか Lil Poppa とか色々いるんですけど(プレイリストにオススメの楽曲を入れておきます。)、とりあえず4人紹介してみました。XXS Magazine の Apple Music にて今回紹介した楽曲や紹介しきれなかったフロリダのアップカミングラッパーたちの楽曲を集めたプレイリストを公開しましたので、こちらも合わせてチェックお願いします。
⬇︎ XXS オリジナルプレイリスト “Upcoming Rapper From Florida” ⬇︎
そんな、今やグライムシーンのみならずイギリスの音楽シーンを牽引する彼は、本日(2019年12月13日)、待望のセカンドアルバム「Heavy Is the Head」をリリースしました。来年3月下旬には同アルバムを引っさげた来日公演の開催も予定されており、日本でも話題沸騰中の彼について簡単にご紹介させていただきたいと思います。
They say I’m a Youtube n***a おれのことをYouTube野郎だって奴らは言うんだ That’s cool, I’m fine with that 別にいいぜ、気にしないさ But when you see me in the flesh could you give me a shout, でも、もちろん直接会っても言えるんだろうな pull me up and remind me that? おれを呼び寄せて、また言ってくれるよな? Could you please just repeat that again for me? 頼むから直接同じことを言ってみろよ
Look, I don’t even smoke no more but somehow I stay high おれはもう吸わないけど、ハイで居続けるんだ Quit my job, mum bugged out, made my choice, 仕事を辞め、母には見放され、自分の道を選んだ this is my life これがおれの生き方だ And I swear down I can’t do this alone, これはおれ1人ではできないんだ may the dear lord be my guide 親愛なる主が導いてくれるのさ We’ve done some things, おれ達はいろんなことをやったし、 wouldn’t even know where to begin 何から始めるべきなのかも分からなかった but the dear lord knows we tried, so it’s alright でも親愛なる主は分かってくれるんだ、だから大丈夫さ
You’re getting way too big for your boots おまえは自惚れすぎだ You’re never too big for the boot おまえは絶対に成功できない I’ve got the big size 12s on my feet おれは12(29cm)のブーツを履く Your face ain’t big for my boot おまえはおれに及ばない kick up the yout 若者を奮い立たせる Man know that I kick up the yout おれが若者を奮い立たせてるって知ってるだろ Dem boy dere tried twist up the truth やつらは事実を捻じ曲げる How dare you twist up the truth? どうしてそんなことができるんだ
too big for one’s boots : 「自惚れる」というイディオムと、Stormzyの靴(ブーツ)のサイズの大きさには誰も敵わないという意味をかけており、さらには靴から連想される”Kick”という単語を使って話を展開しています。
[Stormzy & MNEK] Lord, I’ve been broken 神様、おれは落ちぶれていたんだ Although I’m not worthy 何の価値もないおれでも You fixed me, now あなたは立ち直らせてくれた I’m blinded by your grace, あなたの恵みに圧倒される you came and saved me おれを救いにきてくれたんだ
そして本日、彼のセカンドアルバム「Heavy Is The Head」が遂にリリースされました。2年越しのリリースということで世界中が待望していたこのアルバムには、Ed Sheeran、Burna Boy、Headie One、Tiana Major9、Yebba、H.E.R.、Aitchら豪華客演陣が参加しており、プロダクションにはFred Gibson、Fraser T Smith、T-Minusらがクレジットされています。
僕自身まだしっかり聴き込めていないので、少しだけご紹介したいと思います。
Crown
I done a scholarship for the kids, 子供達のための奨学金を用意したけど they said it’s racist やつらは人種差別だって言うんだ That’s not anti-white, it’s pro-black アンチ白人ってわけじゃない、”プロブラック”なんだ
Ed SheeranとBurna Boyをフィーチャーしたアフロビートチューン。StormzyとEd Sheeranといえば、今年リリースされたEdのコラボレーションアルバム「No.6 Collaborations Project」収録の「Take Me Back to London」でも共演し、「曲のイメージが変わってしまうという理由で、当曲に参加予定だったJay-Zの参加を断った」という興味深いエピソードも話題となりました。
みなさんこんにちは。ついに The Weeknd が動き出しましたね。本日 自身がキュレーターを務めるラジオ番組の Memento Mori にてトリに新曲の “Heartless” を公開しました。その後、全てのストリーミングサービスにて配信開始されたこちらの曲を、世界最速で和訳してみましたのでよければご覧ください。
和訳
Never need a bitch, I’m what a bitch need (Bitch need)
DJ の父を持つ彼女は、幼い頃から様々な音楽を聴いて育ちました。中でも Lana Del Ray の影響が最も大きく、彼女とコラボすることが夢だそうです。ヒップホップは昔から聴いていたわけではないという彼女ですが、同郷アトランタのトラップシーンを引っ張ってきた Migos や 21 Savage、シカゴの Chief Keef など近年のラッパーを好んで聴いているそうです。
そして昨年2018年、彼女は念願のデビューアルバム「Baylor Swift」をリリースしました。カントリー界の歌姫 Taylor Swift にあやかって付けたと思われるこのアルバム名ですが、もはや C を B に変えるという従来の慣わしを完全に無視し、TをBに変えちゃっています。こだわりすぎない強引さが良いですね。
Lil Yachty の「Shoot Out the Roof」と同じトラックが使われています。この “V.V” というタイトルは、“Vintage Vagina” を意味しています。意味がわからない方はググってください。もちろん深い意味などありませんが、Bali は彼女のガールフレンドがどれほど良い女なのかについてラップしています(リリース当時はレズビアンラッパーとして売り出し中でした)。不思議なビートと彼女の可愛らしい声がマッチしており、個人的には Yachty の曲よりも好きです。
「Woah Woah Woah/Crashbandicoot and chill – Trippie Redd & Bali Baby」
Trippie Redd の EP「A Love Letter You’ll Never Get」収録の一曲。
Trippie が Instagram で Bali に連絡を取り、このコラボが実現したそうです。両者のオートチューンを効かせたキャッチーなフロウが癖になる良曲です。ちなみにこの曲のフックは、有名な“Woah meme”を引用しています。
「Zombitch(feat. Bali Baby)- Elle Teresa」
来日経験もあると前述しましたが、実は日本のフィメールラッパー Elle Teresa ともコラボしています。
“アソコのBitch What You Wanna Do? ミニバナナを振り回す”
– Elle Teresa
という Elle Teresa のバースに対して、Bali も次のようにラップします。
“ask the little bitch whatcha wanna do 何がしたいのとビッチに尋ねる when u talking to the boss u better check ya attitude” ボス(私)と話すときは態度に気をつけな
そのようなニュースが報道されたことがきっかけに、Billboard のチャートの上位に急上昇した曲が “Mind on My Murder” という楽曲です。この楽曲は彼が過去にギャングの仲間を誤って銃撃、殺害してしまった事件について歌っているものです。
そもそも、自分が加害者である殺人事件のことを楽曲にすると時点で、並大抵の狂人ではないとお分かり頂けると思います。そしてこの曲なのですが、リリックがとにかくリアルです。彼がなぜ、どのように仲間を殺してしまったのかが嫌というほど鮮明に描かれています。以下、”Mind on My Murder” の生々しいリリックを抜粋。
更に、更にですよ。彼はこの ”Murder on My Mind” を殺害された被害者の視点に立って、全く逆の目線でラップした “Mind on My Murder” を発表しています。先程紹介したリリックも全て被害者の受け身の形に置き換えられています。生粋のサイコパス気質で本当に怖いっていうか、普通に引くレベルやわ。
ちなみに Lil Uzi Vert は名だたる高級車を全てカーキにペイントし、無駄にいかついオプションパーツを装着した様子をInstagramに投稿していましたが、ベントレーのコンチネンタルというモデル、もはや原型がないほど改造しています。バンパープロテクターやスペアタイヤを搭載し、オフロードも走行可能なタイヤに履き替えています。
ちなみに Lil Uzi はもう一台カーキのベントレーを所有していましたが、盛大に事故って廃車となったそうです。
J.Cole は自身の楽曲である “KOD” にてベントレーに言及しつつこんなラップをしています。
This is what you call a flip
これが君が “flip” って呼ぶものだろ Ten keys from a quarter brick
New Lamborghini, the Urus, it came in all orange, it look like a pumpkin (Yeah)
新しくランボルギーニ・ウルスを買ったぜ。全面オレンジでかぼちゃみたいだ。
Future – Unicorn Purp (feat. Young Thug & Gunna)
いかがでしたか。今回は三種類しか紹介できませんでしたが、今リリックに頻出するベスト3に絞ってみたつもりです。気をつけて聞いていると、一曲通して車の名前が出てこない曲の方が少ないと言っても過言ではないでしょう。僕は将来 Tesla のModel X という車に乗ることを決めているのですが、それがどのような車なのかはまた第二弾で書くことにします。それではありがとうございました。
次は、先程も名前を出しましたが、22Gzというラッパーについてです。彼はBlixky Boysというニューヨークで最も恐れられるギャング組織に所属しており、可愛らしい顔をして「Blixky(ハンドガンを意味する)」というワードを連呼するやばい奴です。実際、第二級殺人罪で逮捕されたり、Rich The Kidを挑発したり、楽曲内で多くの人気ラッパーをディスったりと、なかなかのアウトローです。
そんな彼は、Kodak BlackのレーベルSniper Gangと契約しており、ラッパーとしての実力は十分です。それでは最初に、そのKodak Blackを客演に迎えた一曲を聴いていただきましょう。22Gzで”Spin the Block (feat. Kodak Black)”。
[22Gz] And if I miss, I’ma spin the block 撃ち損ねたらもう一度撃つ Even if I hit, I’ma spin the block 命中してもまた撃つんだ If I miss, I’ma spin the block 死ぬまで撃ち続けるぜ
そして、このラッパーの凄さはなんといってもブレイクまでのスピードです。昨年の12月頃にラッパーとしてのキャリアをスタートさせた彼ですが、今年の4月にリリースした”Welcome to the Party”がニューヨークを中心にヒットし、それを知ったPusha Tがニューヨーク開催の「The Greatest Day Ever! festival」にてPop Smokeをステージに上げました。
この出来事が後押しとなり、”Welcome to the Party”はバイラルヒットとなりました。その後リリースされた9曲収録のミックステープ”Meet the Woo”のリリースパーティでは、同郷ニューヨーク出身のフィメールラッパーNicki Minajを客演に迎えた同曲のRemixを発表しました。
“古代ヨーロピアンによるアフリカンの呼称”である『Aethiopes』というタイトルや、レンブラントの絵画『2人のアフリカ人』を引用したアートワークからも分かるように、本作はジンバブエにルーツを持つwoodsならではのアフリカに焦点を当てたコンセプトアルバムだ。ゆえに歴史的事象への言及や、小説、映画からの引用も多く、読み解くにはかなりの背景知識を要する本作だが、未聴の方には是非、個人的”記事オブザイヤー”である『アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)』 by 久世さんを参照しながら聴いてみていただきたい。
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3. Benny the Butcher – Tana Talk 4
ニューヨーク州バッファローのラッパーBenny the Butcherの3rdアルバム。
マスターピースとの呼び声高い前作『Tana Talk 3』の続編だけに期待値/ハードルが上がりきっていた今作だが、肉屋は期待を裏切ることはなかった。 ソウルフル、あるいはGriselda十八番のグライミーなブーンバップの上で、Bennyはこれまでの苦悩や成功までの道のりを力強く気合の入ったラップでスピットする。 #10『Guerrero』では、過去作『Tana Talk 3』と『Burden of Proof』収録の全タイトルをリリックに散りばめるなど、遊び心を交えながら巧みなラップを繰り広げる。
・SZA – SOS ・Fly Anakin – FRANK ・JID – The Forever Story ・Giveon – Give Or Take ・Young Nudy – EA Monster ・Freddie Gibbs – $oul $old $eparately ・Rome Streetz – KISS THE RING ・Sauce Walka – Sauce Ghetto Gospel 3 ・MIKE – Beware of the Monkey ・Stormzy – This Is What I Mean
皆さんは、Griseldaを筆頭に盛り上がりを見せるネオ・ブーンバップ/アンダーグラウンドヒップホップシーンをチェックしていますでしょうか。アンダーグラウンドシーンをしっかり追っていなくても、現行シーンをある程度チェックしている方なら、Westside GunnやConway the Machine、Benny the Butcherらの名前は聞いたことがあるかもしれません。
そこで今回は、Griseldaムーブメントの中でも注目度の高いラッパーの1人であるStove God Cooksについてご紹介します。
Stove God Cooksとは
Stove God Cooksは、ニューヨーク中央部に位置する商工業都市、シラキュース出身のラッパーです。今でこそ活躍するラッパーが増えたシラキュースですが、Cooksによると、当時はシーンと呼べるシーンもなく、商業的な成功を収めたラッパーは1人もいなかったそうです。
その後、Puff DaddyやMaseをはじめとするBad Boy Records所属のアーティストの楽曲を好んで聴くようになったという彼は、「単にラップが上手いラッパー」よりも「ヒットを生み出すことができるラッパー」に憧れを抱き、フックのライティングに力を入れ始めます。2007年から2009年頃に地元のスタジオを借りてレコーディングを始めたというCooksですが、当初それらをリリースすることはなく、小さなイベントでDJにプレイしてもらい、身内で盛り上がるだけに過ぎなかったそうです。
YeatことNoah Oliver Smithは、2000年2月26日、メキシコ人の父とルーマニア人の母のもと、カリフォルニア州アーバインにて生を受けます。
10代半ばにオレゴン州ポートランドに移住した彼は、Lakeridge High Schoolに進学。バスケットボールやサッカーをしていたこともあったそうですが、それらに熱中することは特になく、次第に大麻やドラッグにハマっていったそうです。ドラッグに明け暮れる日々を過ごしたYeatは、自身の怠惰な生活を見つめ直し、音楽活動を開始します。