月間おすすめアルバム【2021年3月】

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

OMB Peezy – Too Deep For Tears

アラバマ州モービルのラッパーOMB Peezyのセカンドアルバム。哀愁漂うトラップビートとOMB Peezyの歌心のあるフロウが堪能できます。Blac YoungstaやJacquees、King Vonらが参加。


Lancey Foux – FIRST DEGREE

UK・ロンドンのラッパーLancey Fouxのミックステープ。Lancey Fouxらしいサイケデリックなビートチョイスと絞り出すような高音フロウが映える1枚です。Skeptaが参加。


CHIKA – ONCE UPON A TIME

アラバマ州モンゴメリーのラッパーCHIKAのEP。6曲というボリュームながらも、CHIKAの高い歌唱力とラップスキルが存分に発揮された1枚です。BJ the Chicago Kidが参加した『FAIRY TALES』での多幸感あふれるテンポチェンジがハイライト。


Joyce Wrice – Overgrown

カリフォルニア州ロサンゼルスのシンガーJoyce Wriceのデビューアルバム。90年代後半~2000年代初期のR&Bを彷彿とさせるサウンドとJoyce Wriceの美しく伸びのある歌声が魅力的な1枚です。Freddie GibbsやWestside Gunn、KAYTRANADAら豪華客演陣の参加に加え、Joyce Wriceと同じく日本にルーツを持つシンガーUMIが参加した『That’s On You (Japanese Remix)』も収録。


Benny the Butcher & Harry Fraud – The Plugs I Met 2

ニューヨーク州バッファローのラッパーBenny the ButcherとブルックリンのプロデューサーHarry Fraudによるコラボ・プロジェクト。サンプリングやジャズホーン、ストリングスなどを用いたニューヨークらしい上質なブーンバップと、Benny the Butcherのキレの良いラップが完璧な相性を見せる1枚です。Fat JoeやFrench Montana、Rick Hydeらの参加に加え、2 Chainzが参加した『Plug Talk』での佐井好子『胎児の夢』のサンプリングにも注目です。


24kGoldn – El Dorado

カリフォルニア州サンフランシスコのラッパー24kGoldnのデビューアルバム。現行のトラップサウンドをポップに昇華させた、24kGoldnの抜群のメロディセンスと力強いハスキーボイスが光る1枚です。FutureやDaBaby、Swae Leeらが参加。

Written by Riku Hirai


先月のおすすめアルバムはこちら↓

注目R&BシンガーJoyce Wriceがデビューアルバム『Overgrown』に込めた想いとは

Joyce Wrice (ジョイス・ライス) は、日本とアメリカにルーツを持つ、カリフォルニア州サンディエゴ出身の注目R&Bシンガーだ。90年代後半から2000年代初期のR&Bを彷彿とさせるサウンドと美しく伸びのある歌声で世界中から注目の視線を浴びる彼女は、starRoや向井太一ら日本のアーティストとの共演でも知られている。

今回は、本日デビューアルバム『Overgrown』をリリースした彼女の人となりを、i-D Magazineによるインタビューを抜粋しながらご紹介する。


– サンディエゴでどのように生まれ育った?

私は日本人の母とアフリカンアメリカンの父親のもと、サンディエゴの小さな町チュラビスタで生まれ育った。私の父は軍人として日本に駐留していて、そこで母と出会ったの。その後、父はサンディエゴに異動となり、母は私をサンディエゴで育てることに決めたそう。母は、私が環境や友達を変え続けなければならないことを心配していたからね。同時に彼女は、私にも日本の文化に触れてほしいと強く思っていたんだ。幸運にも、サンディエゴには良質な日本の市場とコミュニティがあったよ。

ミュージックビデオでは日本語を話す姿も。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

– 仏教を教えられていたと聞いたが、今でも信仰している?

私の母は仏教徒で、彼女は20代後半頃に東京で日蓮仏教を学んだんだ。母が私に教えてくれたことの1つは、「他の人を助けることが自分自身を助ける最良の方法である」という教えよ。なんらかのコミュニティに属せば、問題への向き合い方や目標達成へのプロセスを共有でき、自分は1人じゃないって気づくことができるんだ。自分が取り組んでいることを共有し、そしてまた仲間の行動に刺激を受けるのは素晴らしいことだよ。

1人っ子だった私は、母と時間を過ごすことが多くて、学校が休みの日は彼女と仏教徒の集会によく足を運んだの。私はそこで、仏教信仰によって自らの人生を変える母の姿を目の当たりにしたんだ。それがきっかけで私も仏教を信仰するようになったってわけ。それ以降、私は毎朝晩、真剣に読経に取り組んできたよ。私はロサンゼルス中南部のグループに所属していて、今は彼らと直接会うことはできないけど、Zoomを使って電話をするんだ。遠隔での読経でも私たちが団結できるように、朝に皆んなで同時に行うの。他の人と一緒にやるほうが簡単だからね。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

「アーティストとしての自分」を見つけるにあたって、最も決定的だったことは?

実際のところ、自分の声を見つけて曲を作る段階において、私はかなり行き詰まっていたんだ。私はセンシティブな性格で、自己不信と不安に苦しんでいたの。でも、他のアーティストの活動に目を向け、彼らがどのように音楽に向き合っているのかを知り、自らの全てを曝け出すことに決めたとき、私はその過程の美しさに気づいたんだ。私たち全員がそれぞれ独自のストーリーを持っていることを再確認できたよ。その過程で挫折せずに、自らのストーリーを伝えることが私の使命だと感じたの。私の曲を聴いた他の誰かにもその過程の美しさが伝わってほしいしね。こういう風に考えるようになってからは凄く気が楽になったし、自分がすべきことにフォーカスできるようになったよ。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

– ニューアルバムのタイトル『Overgrown』に込められた意味は?

本当は去年リリースする予定だったんだけど、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で遅れてしまったの。去年リリースしていれば収録されることはなかったであろう、強いインパクトのあるインタールードや楽曲を作ることができたし、実際この遅延は私にとって意味のあるものだったよ。 『Overgrown』という楽曲を作ったとき、一緒に仕事をしたプロデューサー兼ライターのMack Keaneに私の苦労について相談したんだ。私は当時、自分に価値を見出せず、自信を失っていたの。彼との相談中、私は彼のピアノ演奏に乗せてフリースタイルを始めたのを覚えているよ。私にとって『Overgrown』とは、「カラフルな花でいっぱいの自分の庭」、つまり「自分の感情」や「自分の雑念」を意味するんだ。当時この「自分の庭」は雑草に覆われていて、手入れが必要だったの。アルバム制作の全てのプロセスは、まさにセラピー・セッションのようなものだったよ。このアルバムは私が行った「ガーデニング」の結果と言えるかもしれないね。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

– Freddie Gibbsとのコラボレーションはどのように実現した?

私がTwitterで彼に連絡したら、彼は「明日レコーディングするからその楽曲を聴きたい」って返事をくれたんだ。彼は私の曲をかなり気に入ってくれたよ。彼は頭の中でリリックを書き、スタジオを歩き回りながらフロウを模索したのち、レコーディング・ブースに入って自身のヴァースを如何にも簡単に仕上げたんだ。彼の声はとても魅力的で、なんといってもビートへの乗り方がとてもスムーズなの。彼とのコラボは私にとって本当に刺激的だったし、私も自分の信念を曲げずにアーティストとしてのキャリアを長続きさせたいって思ったよ。音楽を長くやっていると、物事がうまくいかないことはよくあって、途中で諦めてしまう人もたくさんいる。でもFreddieは前に進み続けたんだ。彼は色んな困難に直面しながらも決して諦めることはなく、今では大成功を収めている。そういった意味で、彼とのコラボレーションは私にとってかなり刺激的なものだったよ。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

– 初期の楽曲ではフックとヴァースの両方を1人で録っていたのに対して、今では大物アーティストの客演ヴァースを沢山手に入れている。これはあなたにとって感慨深いものなのでは?

本当にその通りだよ。このアルバムはまさに夢の実現なの。実家に帰って自分の幼少期の写真を見ると思うんだけど、当時は私がこんなことを実現できるなんて夢にも思わなかったよ。私はどちらかと言うと恥ずかしがり屋で、自分を表に出すのが得意ではなかったけど、自分を表現しなければならなかった。このアルバムの制作において素晴らしかった点は、強制的なコラボレーションがなかったことなの。このアルバムに参加してくれたアーティストは皆、私自身が大ファンであり深く尊敬する人々なんだ。彼らも私のことをそう思っていてくれていると感じるよ。私たちは皆、音楽について話し合うだけの関係ではなく本当の仲間なんだ。


Written by Riku Hirai

月間おすすめアルバム【2021年2月】

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Pooh Shiesty – Shiesty Season

テネシー州メンフィス出身のラッパー Pooh Shiesty のデビュー・ミックステープ。彼は、不穏なピアノと808ベースを効かせたトラップビートを用いて、Gucci Maneの影響を感じさせる気怠いフロウを聴かせるラッパーで、過激且つ挑発的なリリックにも定評があります。2021年最注目ラッパーの1人である彼のデビュー作は一聴の価値ありです。


Devin the Dude – Soulful Distance

テキサス州ヒューストン出身のラッパーDevin The Dudeの11枚目のスタジオ・アルバム。Slim ThugやScarfaceら同郷ヒューストン出身のベテラン陣が参加した今作は、彼らしい緩いファンクを軸としながら、ブーンバップや現行トラップも多く取り入れた作品に仕上がっています。新しいサウンドを積極的に取り入れつつも自身のスタイルを貫く、彼の安定感が発揮された1枚で、タイトル通りソウルフルなラップとヴォーカルが堪能できます。


slowthai – TYRON

イギリス・ノーザンプトン出身のラッパーslowthaiの2ndアルバム。SkeptaやA$AP Rocky、Dominic Fike、James Blakeなど、国やジャンルを問わない豪華客演陣の参加が目立つ今作で、slowthaiは洗練されたビートと持ち前の独特な声を用いて自身の感情を吐き出します。社会への不満を露にした前作と通ずる部分はあるものの、自身の本名Tyronをアルバムタイトルに用いたことからも分かるように、今作では彼の内省的なアプローチが多く見られます。


Z-Ro & Mike D – 2 The Hardway

テキサス州ヒューストン出身で、共にScrewed Up ClickのメンバーであるZ-RoとMike Dによるコラボ・アルバム。H-Townサウンド全開のプロダクションと、2人のソウルフルなラップ&ヴォーカルが光る1枚です。Lil’ KekeやC-Note、Big Pokeyら現Screwed Up Clickメンバーに加え、2016年に銃撃で亡くなった旧メンバー3-2も参加。


Duke Deuce – Duke Nukem

テネシー州メンフィスのラッパーDuke Deuceのデビュー・アルバム。90年代後半から2000年代初期のThree 6 Mafiaを彷彿とさせるクランクをベースに、活気の良いラップや耳に残るアドリブ、更にはオートチューンを効かせて歌うスタイルも披露します。今作では、FoogianoやLil Keed、Mulattoなどメンフィス以外のラッパーを多く客演に起用しており、クランクのサウンドに適応してラップする彼らの新たな一面も垣間見ることができます。


Drakeo the Ruler – The Truth Hurts

カリフォルニア州ロサンゼルスのラッパーDrakeo the Rulerのミックステープ。不穏でダークなビートと、Drakeoのボソボソと呟くような低い声が圧倒的な緊張感を生み出し、聴く者を西海岸のフッドに誘います。Don Toliverとの意外な組み合わせや、先日急逝したKetchy the Greatの4曲での参加、DrakeoとDrakeの夢の共演など聴きどころ満載の1枚です。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Written by Riku Hirai


先月のおすすめアルバムはこちら↓

月間おすすめアルバム【2021年1月】

2021年注目すべきUKのネクストスターたち

前回は、UKラップシーンを牽引する若手アーティストとして、Daveやslowthai、Lancey Fouxらについてまとめました。

UKラップシーンを牽引する若手アーティストたち

今回は、ラップシーンに留まらず、様々な音楽から影響を受けて進化を続けるUKの新世代アーティストを数名ご紹介します。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

1. Pa Salieu

ガンビア共和国にルーツを持つ、コヴェントリー出身のラッパー。J Hus系譜のアフロスウィングをベースとしながら、グライムやUKドリル、ダンスホーム、レゲエ風味のビートなども巧みに乗りこなします。UKラップ的なフロウからレゲエ調のアプローチまでこなす彼のスタイルは、同じくガンビア共和国にルーツを持つJ Husと比較されがちですが、彼はJ Husより更にアフリカルーツに回帰したストリート色の強い音楽性を提示しています。


2. Bakar

ロンドン出身のシンガー。カリフォルニアのヒップホップ・プロデューサーMadlibや、イギリスのロックバンドFoalsから影響を受けたと語るBakarは、インディーロックやパンク、ヒップホップなどをミックスしたジャンルレスな音楽性で注目を集めています。また彼は、Louis VuittonやPradaのモデルにも起用されるなど、ファッションシーンにおいても活躍しています。


3. ENNY

ナイジェリアにルーツを持つ、ロンドン出身のラッパー/シンガー。2020年に本格的に音楽活動を開始したENNYは、デビューシングル『He’s Not Into You』をリリースした後、Jorja SmithのレコードレーベルFAMMと契約。同郷ロンドン出身の注目シンガーAmia Braveと共にリリースしたメジャーデビュー・シングル『Peng Black Girls』はUKシングルチャートTOP100入りを果たしました。レイドバックしたラップやソウルフルなヴォーカル、詩的なリリックが魅力的な注目アーティストです。


4. Arlo Parks

ナイジェリア、チャド、フランスにルーツを持つ、ロンドン出身のシンガー。彼女は、ネオソウルやインディロック、ヒップホップなどをミックスしてポップスに昇華させた音楽性から、次世代のベッドルーム・ミュージックを代表するアーティストとして注目されています。2021年リリースのデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』はUKアルバムチャートにて最高3位を記録し、各音楽メディアからも高い評価を獲得しています。


5. Central Cee

中国と南米にルーツを持つ、ロンドン出身のラッパー。父親の影響で幼い頃からヒップホップを聴いていたという彼は、14歳の頃にYouTubeに楽曲をアップロードし始めます。キャリア当初はトラップビートを用いてメロディアスに歌うラップスタイルを武器としていた彼ですが、2020年頃からはUKドリルビートを用いてパンチラインをスピットするスタイルに移行。このスタイルチェンジが功を奏し、ジャジーなUKドリルソング『Loading』のヒットにより彼は一躍人気を獲得します。盛り上がりを見せるUKドリルシーンにおいて、一際目立つ存在になりつつある彼から目が離せません。


Written by Riku Hirai

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

月間おすすめアルバム【2021年1月】

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Nyck Caution – Anywhere But Here

ニューヨーク・ブルックリン出身でPro Era所属のラッパーNyck Cautionのデビュー・アルバム。ブーンバップを軸にトラップも取り入れた同作では、Nyck Cautionのスキルフルなラップとエモーショナルなヴォーカルが堪能できます。Joey Bada$$やDenzel Curry、CJ Flyらが参加。


UnoTheActivist – Unoverse

ジョージア州アトランタ出身のラッパーUnoTheActivistの2ndアルバム。シンセサイザーを効かせた浮遊感のあるトラップビートにUnoTheActivistの気怠いマンブルラップが映える1枚です。Mar90s、MDMAが参加。


Jazmine Sullivan – Heaux Tales

ペンシルバニア州フィラデルフィアのシンガーJazmine Sullivanの4thアルバム。トラップの流れも汲んだシンプルなビートの上で、Jazmine Sullivanが愛について力強く歌い上げます。彼女の圧倒的な歌唱力はもちろんのこと、インタールードを通して視点が切り替わる構成も魅力的な1枚です。


Cosmo Pyke – A Piper For Janet

ロンドン・ペッカムのシンガーCosmo PykeのEP。クラシックギターやトランペットなどの生音を用いたジャジーなサウンドとCosmo Pykeのソウルフルなヴォーカルが魅力的な1枚で、わずか4曲という曲数ながらもジャズやソウル、ロック、レゲエなど様々なジャンルのエッセンスが堪能できます。


Chip – Snakes & Ladders

ロンドン・トッテナムのラッパーChipのミックステープ。グライムやドリルビートの上ではタイトなラップを、ダンスホールやアフロビーツの上ではメロディアスなフロウを聴かせるChipの器用さが光る1枚。Dizzee RascalやHeadie One、MoStackらが参加。


Arlo Parks – Collapsed in Sunbeams

ロンドン・ハマースミスのシンガーArlo Parksのデビュー・アルバム。ネオソウルやインディロック、ヒップホップなどの要素をミックスしてポップスに昇華させた次世代のベッドルーム・ミュージックです。彼女が自身の影響源として名前を挙げるFrank Oceanの『Ivy』のカバーも収録されています。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Written by Riku Hirai

Lil Skies – 疾走感溢れる若き才能

本日ニューアルバム『Unbothered』をリリースしたペンシルバニア州出身のラッパー Lil Skies。昨年、Internet Money のアルバムや映画『Fast & Furious 9』のサウンドトラックへの参加で再び注目を集め、今後更なる活躍が見込まれる彼の生い立ちやキャリアに迫ります。

生い立ち

Lil Skies (リル・スカイズ) こと Kimetrius Christopher Foose は、1998年8月4日、ペンシルバニア州チェンバーズバーグにて生を受けました。彼の父親はラッパー Dark Skies として活動しており、「Lil Skies」というステージネームはこれに肖ったものだそうです。Foose 一家は、Skies が3rdグレード (小学3年生) の頃に同州のウェインズボロに引っ越しますが、その数年後、父親が職場での化学爆発事故により怪我を負い職を失ってしまいます。この出来事をきっかけに、Skies はアルバイト (McDonald’s と日本食レストラン) とドラッグディールを始めました。

キャリアの開始

ラッパーの父親の影響で3歳の頃にフリースタイルを始めたという Skies は、2012年に初のプロジェクト『Birth of Skies Vol. 1』をリリース。その翌年には父親とのコラボ・プロジェクト『Father-Son Talk』をリリースします。

2015年には『Good Grades Bad Habit』(現在削除済み)、2016年には『Good Grades Bad Habit 2』とミックステープをコンスタントにリリースし、地道ではあるものの着々とプロップスを獲得していきます。

2017-18年 – 飛躍の1年

2017年、Skies はミックステープ『Alone』やシングル数曲をリリースします。その中でも Landon Cube をフィーチャーした『Red Roses』が、 Lyrical Lemonade の Cole Bennett 監修によるミュージック・ビデオの後押しを受けバイラル・ヒット。これがレーベル関係者の目に留まり、彼は Atlantic Records と契約を結びます。

息子 Lil Skies のミュージック・ビデオが1000万回再生を突破し嬉し泣きする父 Mike Skies

2018年にはメジャーレーベルから初のミックステープ『Life of a Dark Rose』をリリース。

同ミックステープは Billboard Hot 200 にて23位デビューを果たし、最高10位を記録します。同作収録の『Nowadays』と『Red Roses』は、Billboard Hot 100 にてそれぞれ最高55位と69位を記録。メジャーデビュー・ミックステープとしては大成功と呼べる功績を残します。

Nowadays (feat. Landon Cube)

Nowadays I’m too cool for a girlfriend

最近、1人の彼女には勿体ないぐらい俺はクールだ

Nowadays I don’t know when the world spins

時間を忘れてしまうぐらい忙しいんだ

Live your life like we die when the world ends

今日が最後だと思って生きよう

So it’s alright every time we fuckin’ break a sin

だから罪を犯したって大丈夫さ

Skies と Landon Cube の抜群の相性と、軽快で疾走感のあるビート&リリックが魅力的な1曲です。

2019年 – デビュー・アルバムのリリース

2019年3月、Skies は母親の名前を冠したデビュー・アルバム『Shelby』をリリースします。

母親 Shelby Foose をフィーチャーしたショート・ドキュメンタリー

母の名前をアルバム名にすることに決めたんだ

彼女は俺のインスピレーションだから

愛しているよママ

このアルバムをあなたに捧げる

同アルバムは初週で5.4万ユニットを売り上げ、Billboard Hot 200 にて5位デビューを飾りました。

I

I don’t want the fame

名声はいらない

I don’t want to play these games

ラップ・ゲームに参加したいわけじゃない

Tired of hiding from the pain

痛みから隠れるのに疲れたんだ

Never hanging with the lames

ダサいやつらとは絡まない

Skies は同アルバムにて、自身が経験してきた鬱や仲間の死、失恋、アーティストとしての苦悩、またそれらが引き起こした大麻依存について赤裸々にラップします。耳触りの良いメロディアスなフロウと、ありのままの感情を曝け出したストレートなリリックが魅力的な1枚です。

2020-21年 – 注目のコラボとセカンド・アルバムのリリース

2020年7月、Skies は映画『Fast & Furious 9』のサウンドトラック収録曲としてシングル『Red & Yellow』をリリースします。

翌月には Internet Money のアルバム『B4 The Storm』に参加。

Internet Money – Lost Me (feat. Lil Mosey, iann dior & Lil Skies)

人気映画シリーズのサウンドトラックへの参加や注目アーティストとのコラボレーションを果たし、更に幅広い層からの人気を獲得した Skies は、本日2021年1月22日、待望のセカンド・アルバム『Unbothered』をリリースしました。

デビュー当初から少しずつスタイルを変えながら成長を見せてきた Skies ですが、ネット上では「昔のスタイルに戻ってほしい」というファンの要望も散見され、彼はこれに対して以下のように返答しています。

俺がデビュー当初から変わらず同じ人間でいることや、同じ音楽を作り続けることを望むのはやめてくれ

俺は人間で、常に成長し変化している

3年前の自分で居続けることはできない

今は全く違う人生を歩んでいるんだ

俺がこれに対して言及するのは最後だ

同じような音楽を作り続けないからってアーティストを罵る人々がいるけど、俺たちも人間なんだ

そして俺は俺が感じたことを音楽で表現している

新しいサウンドに挑戦するのは間違ったことじゃないだろ

とにかく、俺の本当のファンたちを愛しているよ

(Instagram ストーリーズより)

おわりに

今回は、本日ニューアルバム『Unbothered』をリリースしたペンシルバニア州出身のラッパー Lil Skies の生い立ちやキャリアについてまとめました。若くして才能を開花させ、常に成長し続ける彼の今後にますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

2021年リリース予定の注目ヒップホップ・アルバム

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Drake『Certified Lover Boy』

カナダ・トロントのラッパー Drake の6枚目のスタジオ・アルバム。2019年4月に初めてアナウンスされた同アルバムは、前作『Scorpion』のリリースから約2年半の月日を経て今年の1月にリリースされる予定。先行シングル『Laugh Now Cry Later』に参加した Lil Durk に加え、Roddy Ricch や Jessie Rayez らの参加が噂されている。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

J. Cole『The Fall Off』

ノースカロライナ州ファイエットビルのラッパー J. Cole の6枚目のスタジオ・アルバム。2018年リリースの前作『KOD』に『1985 (Intro to “The Fall Off”)』というアウトロ曲が収録されたことをはじめに、2019年11月には Cole が Day N Vegas Music Festival にて2020年内のアルバムリリースをアナウンス。

しかし2020年には、Cole はシングル2曲を発表するものの、結局アルバムがリリースされることはなかった。彼は『The Fall Off』の他にも『The Off Season』や『It’s A Boy』といったプロジェクトのリリースも示唆している。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Travis Scott『Utopia』

テキサス州ヒューストンのラッパー Travis Scott の4枚目のスタジオ・アルバム。大ヒットを記録した前作『ASTROWORLD』のリリース以降、McDonald’s や PlayStation とのコラボレーションを果たすなど音楽活動以外でも活躍を見せてきた Travis は、2020年7月にニューアルバムのタイトルを発表。同年10月には、ラジオDJに向けて送った手紙にて、アルバムを2021年にリリースすることを仄めかした。先行シングル『FRANCHISE』に参加した Young Thug や M.I.A.、Future らに加え、Roddy Ricch や Don Toliver、Kevin Parker、Hit-Boy らの参加が噂されている。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Migos『Culture Ⅲ』

ジョージア州ローレンスビルのヒップホップ・トリオ Migos の4枚目のスタジオ・アルバム。2018年、メンバーの Quavo が「アルバムを2019年の頭にリリースする」と発言して以降、これまで幾度となくリリースが延期されてきた同アルバムは、Migos の『Culture』シリーズの最終章になる予定。彼らによると、アルバム名を変更する可能性や、別のプロジェクト『Quarantine Mixtape』を先にリリースする可能性もあるという。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Young Thug『Slime Language 2』

ジョージア州アトランタのラッパー Young Thug (& YSL Records) の2枚目のコンピレーション・アルバム。2020年5月に、YSL Records 所属のラッパー Gunna がアルバムの存在を明かした後、Young Thug 本人も Twitter にて「#Slimelanguage2 8-16」とツイートしアルバムのリリースを仄めかした。Young Thug の誕生日であり、前作『Slime Language』のリリースから2周年でもあった8月16日にも、噂されていたブラックフライデーにも結局アルバムがリリースされることはなく、12月に先行シングル1曲が発表された。同アルバムには YSL Records 所属のアーティストに加え、Nav や Roddy Ricch、Lil Uzi Vert、Juice WRLD、Future、Lil Baby、Swizz Beats らの参加が噂されている。

Written by Riku Hirai

Playboi Carti『Whole Lotta Red』リリースまでの軌跡

これまで幾度となくリリースが延期されてきた Playboi Carti のニューアルバム『Whole Lotta Red』。今回は、その存在が明かされてから2年以上の月日を経て本日遂にリリースされた同アルバムの歴史について振り返ります。

2018年: ニューアルバムの告知

2018年8月、Playboi Carti (以下 Carti) はニューアルバム『Whole Lotta Red』の存在を明かします。

俺の次のアルバム (タイトル) は『Whole Lotta Red』だ

この『Whole Lotta Red』とは、Carti が所属するストリート・ギャング Bloods のチームカラーと、咳止めシロップ (通称: リーン) の色を指しています。

2019年: 未発表曲のハイプとリリース詐欺

2019年3月、Carti は GQ 誌にて、Louis Vuitton のアーティスティック・ディレクターとして知られる Virgil Abloh を同アルバムのクリエイティブ・ディレクターに任命したことを発表します。

この発表と同時期に、Young Nudy、Playboi Carti、Pi’erre Bourne による未発表曲『Pissy Pamper (Kid Cudi)』が、Young Nudy の友人の Instagramライブにてプレビューされ、ファンの間で大きな話題となります。

Pi’erre Bourne がプロデュースを手掛ける同曲では、山根麻衣『たそがれ』がサンプリングされています

Young Nudy と Pi’erre Bourne のアルバム『Sli’merre』に収録予定だった同曲は、Instagramライブでのプレビュー後ハッカーによって直ちにリークされ、更には Carti も自身のライブ (Rolling Loud) で披露するなど、瞬く間に人気を獲得します。

その結果、未リリースにも関わらず非公式のリーク音源が Spotify の US Viral 50チャートにて1位を獲得しました。

6月には The Fader 誌にて、Trippie Redd や Gunna、Pi’erre Bourne、Don Cannon、Maaly Raw、Richie Souf、Roark Bailey らが同アルバムに参加していることを発表。

そして7月には、ウィスコンシン州ミルウォーキーで行われたライブにて、Carti は本格的にアルバムのリリースを告知します。

60日以内にニューアルバムをリリースしようとしている

嘘はつかないよ

(中略)

ノーフィーチャー (客演無し) だ

しかし結局、2019年内にアルバムがリリースされることはなく、客演参加を除いて自身の楽曲を1曲もリリースしない1年となりました。

2020年: 『Whole Lotta Red』のリリース

2020年1月、Carti は Culture Kings でのインタビューにて、2020年にアルバムをリリースすることを発表します。

準備は出来ている

俺は皆んな以上に準備万端だよ

俺がラップできることを世間に分からせてやるんだ

やばいラインが揃ってる

それが『Whole Lotta Red』だ

同年4月、Carti はシングル『@ MEH』をリリース。同曲は Billboard Hot 100にて最高35位を記録するものの、各方面から酷評を受け、最終的にアルバムには未収録となりました。

『@ MEH』のリリースから約1ヶ月後、Drake との楽曲『Pain 1993』をリリース (Drake『Dark Lane Demo Tapes』収録)。同曲が Billboard Hot 100にて7位デビューを飾り、Carti は自身初のTOP10入りを果たします。

そして11月、Carti はアルバムが完成したことを Instagram にて発表します。

12月にはヒップホップ・パーソナリティの DJ Akademiks が、『Whole Lotta Red』はクリスマス (12月25日) にリリースされると公言します。

https://twitter.com/akademiks/status/1337223450927239168?s=21

Carti のファン達にこの情報を届けるために、俺は文字通り魂を売ったよ

今夜 Carti のアルバムはリリースされないけれど、クリスマスにリリースされる予定だ

そして、Kanye West と一緒に Givenchy のデザイナーである Matthew Williams がエグゼクティブプロデューサーを務めているらしい 独占情報だ

DJ Akademiks は Twitch のライブ配信にてこの情報を先行公開し、その配信時の音声が『Whole Lotta Red』収録の『Control』のイントロにそのまま使用されました

12月21日、Carti は DJ Akademiks の発言通り、クリスマスにアルバムをリリースすることを正式発表します。

https://twitter.com/playboicarti/status/1341250702169935872?s=21
https://twitter.com/playboicarti/status/1341249071030267905?s=21
『Whole Lotta Red』のカバーアートは、70年代後半に出版されていたパンクロック雑誌『Slash Magazine』の表紙をオマージュしたもの

そして本日12月25日、Playboi Carti は遂にニューアルバム『Whole Lotta Red』をリリースしました。

世界中のヒップホップ・ファンが待望していた同アルバムには、Kanye West や Kid Cudi、Future ら大物ゲストが参加し、プロダクションには F1lthy や Wheezy、Pi’erre Bourne、Richie Souf、Roark Bailey、Maaly Raw、Starboy、Art Dealer、Outtatown らがクレジットされています。24曲1時間超えというボリューミーな今作には、比較的最近レコーディングされたと思われる楽曲に加え、過去にリーク済みの楽曲も数曲収録されました。

リリース前に噂されていた Travis Scott や Post Malone、Lil Uzi Vert らとの楽曲や、前述した『Pissy Pamper (Kid Cudi)』に Kid Cudi 本人が参加したアップデートバージョン等は未収録だったため、今後それらを収録したデラックス盤がリリースされる可能性は高いでしょう。

https://twitter.com/playboicarti/status/1341487626344308736?s=20

おわりに

今回は、Playboi Carti のニューアルバム『Whole Lotta Red』のリリースを記念して、2年以上に及ぶアルバムリリースまでのプロセスを振り返ってみました。

「60日以内にリリースする」「嘘はつかない」などと発言しながらアルバムリリースを延期し、2018年から本日までファンを焦らし続けた Playboi Carti。今年の年末年始は、そんな彼の待望の新作『Whole Lotta Red』の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

Written by Riku Hirai

注目ラッパー特集【カナダ・トロント編】

現行ヒップホップシーンのスーパースター Drake の出身地として知られるカナダ・トロント。今回は、そんなトロントのヒップホップシーンを盛り上げる注目ラッパーを数名ご紹介します。

LB SPIFFY

Jane and Finch 出身のラッパー。幼い頃から趣味として音楽制作を始め、SNS を通してファンベースを築いてきた彼は、14歳の頃にリリースした楽曲『No Time』が人気ゲーム『NBA 2K』で使用されたことをきっかけに注目を浴び始めます。キャリア初期から着実に人気を獲得してきた彼は、Drake や Kylie Jenner らにフックアップされるなど今最も注目されているトロントのラッパーの1人で、高めの声で歌うナヨナヨとしたラップが特徴的です。

LocoCity

Bleecker Street 出身のラッパー。2018年頃から楽曲をリリースし始めた彼は、『Do Sum』や『Krazy』等のシングルのバイラルヒットにより人気を獲得し、2019年にはデビュープロジェクト『Save Yourself』をリリースしています。歌心のあるラップ・シンギングが魅力的なラッパーです。

Lil Berete

Regent Park 出身のラッパー。素行の悪さが理由で、8歳の頃から約4年間、母国であるギニア共和国で叔母と共に暮らしていたという彼は、12歳の頃にカナダに帰国し、2017年に音楽活動を開始します。キャリア初期にリリースした『Turn Up』や『Real』等のシングルで注目を集め、2018年にはデビュープロジェクト『Icebreaker』をリリース。2019年リリースのセカンドプロジェクト『1 Way Out』には Calboy に加え Loski や Headie One らイギリスの人気ラッパーを客演に招くなど、現在多方面から注目されているラッパーです。ストリートライフを歌うリリックと、Lil Durk を思わせる高音フロウが特徴的です。

Clairmont The Second

Weston 出身のラッパー/プロデューサー。2013年に音楽活動を開始し、ライティングからプロデュース、ミキシングまで全て1人でこなす彼は、2017年リリースのアルバム『Lil Mont from the Ave』で一躍ブレイクを果たします。同作は Juno Awards (カナダの音楽賞) の「Rap Recording of the Year」にノミネートされ、更に2019年には同作収録の『Gheeze』が Prism Awards (同じくカナダの音楽賞) の「Hi-Fidelity Award」を受賞しました。トラップやジャズ、ゴスペルなどの要素をミックスした多彩なプロダクションや、スキルフルなラップ、落ち着いたヴォーカルが魅力的なラッパーです。

Smiley

Pelham Park 出身のラッパー。同郷トロント出身のスター Drake が、Pusha T とのビーフの際に Smiley の楽曲のリリックを引用したアンサー動画を公開し、彼は一躍注目を浴び始めました。更に Drake はアルバム『Scorpion』の制作時に影響を受けた作品の1つとして Smiley の EP『Buy. or. Buy』を挙げています。憂いを帯びた高めの声でフッドのストリートライフについてラップするスタイルが魅力的なラッパーです。

Sean Leon

Parkdale 出身のラッパー/シンガー/プロデューサー。彼は、同じくトロント出身のシンガー Daniel Caesar も所属していたレーベル IXXI initiative を2012年に立ち上げた後、その非凡なプロダクションと音楽性によってアンダーグラウンドを中心に人気を獲得。独自のスタイルを貫く実験的なサウンドが魅力的で、Kanye West のアルバム『Jesus Is King』の制作にも携わっています。キャリアも長く、既にプロデューサーとして成功を収めている彼ですが、今後ラッパー/シンガーとしても更に活躍すること間違いなしでしょう。

おわりに

今回はカナダ・トロント出身の注目ラッパーを数名ご紹介させていただきました。トロントのヒップホップシーンは現在、各々が独自のサウンドを模索することによって急成長しており、今後の更なる発展が期待されています。今回ご紹介したラッパー以外にもトロントには才能溢れるアーティストが沢山いますので、是非この機会にチェックしてみてはいかがでしょうか。

Written by Riku Hirai

アメリカ大統領選挙とラッパーたち

米時間11月3日に開票が予定されているアメリカ大統領選挙。世界中が注目する同選挙の開票に合わせて、Donald Trump 氏と Joe Biden 氏の2人の候補者に対するアメリカのラッパーたちの動向をチェックしておきましょう。

Joe Biden 支持

Snoop Dogg

I ain’t never voted a day in my life,

俺は人生で1度も投票に行ったことがないんだ (犯罪歴が理由で選挙権がなかったとのこと)

but this year I think I’m going to get out and vote

でも今年は行くつもりだ

because I can’t stand to see this punk in office one more year

これ以上ホワイトハウスのクソ野郎に耐えられないからね

Eminem

Eminem は Biden 氏の選挙コマーシャルに自身のヒット曲『Lose Yourself』を提供。

2 Chainz

I think this next administration that I support, which is Biden/Harris,

俺は Biden と副大統領候補 Kamala Harris を支持するよ

they offer something different.

彼らは Trump とは違う政策を行うはずだ

Cardi B

I have a whole list of things that I want our next president to do for us.

私は次期大統領にしてほしいことのリストを持っている

But first, I just want Trump out,

でもまずは Trump を追い出さなきゃいけない

Kid Cudi

Vote for Biden if you a real one

もしお前がリアルなら、Biden に投票しろ

Offset

Go vote @joebiden …..@common & I performed his rally in Atlanta.

Biden に投票してくれ

Common と共に、アトランタで開催された彼の選挙集会でパフォーマンスをした

この投稿をInstagramで見る

Go vote @joebiden ….. @common & I performed his rally in Atlanta

OFFSET(@offsetyrn)がシェアした投稿 –

Common

To be honest, Joe Biden made mistakes like any other human being,

正直に言うと、Biden は過ちを犯してしまったんだ

But I still believe he cares and we’ve all made bad decisions.

でも俺たちだって間違った決断をすることはあるし、今でも彼を信じている

He has the leadership qualities to get in a better direction.

彼はこの国を良い方向に導けるリーダーシップを持っている

PEOPLE

Donald Trump 支持

Lil Wayne

Just had a great meeting with @realdonaldtrump @potus besides what he’s done so far with criminal reform,

トランプ大統領と面会し、彼が成し遂げてきたことについて話し合った

the platinum plan is going to give the community real ownership.

「プラチナ・プラン」はコミュニティに本物の権利を与えてくれるものだ

He listened to what we had to say today and assured he will and can get it done.

彼は俺たちが主張すべきことを聞き入れてくれたし、それを実行することも、成し遂げることも保証してくれた

※ プラチナ・プランは、アフリカンアメリカンのコミュニティーに約53兆円を投じ、雇用創出や教育、医療においての格差解消を図り、KKK (Ku Klux Klan) やアンティファをテロ組織に指定することや、奴隷解放日である6月19日を祝日とすることなどを公約したもの。
https://twitter.com/liltunechi/status/1321941986174226432?s=21

Lil Pump

Mr. President, I appreciate everything you’ve done for our country,

ミスター・プレジデント、我が国のために尽くしてきてくれた全ての功績に感謝します

You brought the troops home and you’re doing the right thing.

あなたは軍隊を国に連れ返し、正しいことをしてきた

MAGA ’20, ’20, ’20. Don’t forget that!

MAGA (Make America Great Again) 2020 だ よく覚えておけ

And do not vote for Sleepy Joe, at all!

そして Biden には絶対に投票するな

6ix9ine

I don’t think Trump trolls

俺は Trump が悪い奴だとは思わないし

I think Trump is genuinely Trump.

彼のことを本物だと思うぜ

I get compared to Trump every day.

毎日彼と比べられるけど

But I love Mexican people.

俺はメキシコ人を愛しているし

I don’t think we’re the same.

俺たちが同じだとは思わないよ

I would vote for Trump.

俺は Trump に投票する

the New York Times

Asian Doll

I rather trump be the president then that other dude fasho

他の候補者が選ばれるぐらいなら、Trump に再選してほしい

DaBaby が発する騒音に対し近隣住民が苦情を連発

『BLAME IT ON BABY』のリリースも果たし、大きな波に乗り続けているラッパー DaBaby。

ノースカロライナ近郊に2億円越えの豪邸を購入し約一年が経った彼だが、早くも近隣住民からの苦情が相次いでいるようだ。

DaBaby が新居である豪邸に引っ越してから、約1年間の間に地元の警察に寄せられた DaBaby に関する苦情は31件にも登り、鳴り止まない防犯アラームや家庭内の口論の騒音など、苦情の種類は多岐にわたっている。

苦情を受けた DaBaby は、自宅を一周するようにコンクリートの壁を設置したと報道されているが、騒音防止のために設置した壁の建設の際に発生した騒音に対しても苦情が寄せられたようだ。

UKラップシーンを牽引する若手アーティストたち

ロードラップやグライム、UKドリル、アフロスウィング (アフロバッシュメント)、UKトラップ (トラップウェイブ) など、多様なスタイルで進化を遂げてきたイギリスのラップシーン。近年、本場USシーンとのクロスオーバーが増えてきたこともあり、世界中からますます注目を浴びるUKラップシーンの注目若手アーティストを数名ご紹介します。

1. Octavian

Octavian こと Octavian Oliver Godji はアンゴラ共和国にルーツを持つ、フランスはリール出身の24歳 (’96年生まれ)。父親が亡くなった後、彼はロンドンに移住します。後にラッパーを目指すため退学することとなるのですが、名門ブリットスクールに在籍した経歴を持ちます。Virgil Abloh 手掛ける Louis Vuitton のランウェイを歩いたことでも有名です。

Louis Vuitton 2019 Spring/Summer Collection
Louis Vuitton 2019-20 Autumn/Winter Collection

トラップから R&B、ダンスホールなどを行き来するジャンルレスなスタイルや、卓越したリリシズム、ハスキーな歌声など様々な魅力を持つ彼は、Drake に才能を見出されたことをきっかけに、現在では UKシーンのみならず USシーンでも活躍しています。

Octavian の代表曲

Lightning

2018年リリースのミックステープ『SPACEMAN』収録。人気サッカーゲーム『FIFA 19』のサウンドトラックにも収録され話題となりました。

Bet (feat. Skepta & Michael Phantom)

2019年リリースのミックステープ『Endorphins』収録。洗練されたミニマムなトラップビートと癖になるフロウが印象的な1曲です。

2. Dave

Dave こと David Orobosa Omoregie はサウスロンドンはストリータム出身の21歳 (’98年生まれ)。Stormzy や Lana Del Rey、Pink Floyd など様々なジャンルの音楽を聴いて育ったという彼は、母親からのプレセントをきっかけにピアノを弾くこともできます。彼は2019年リリースのデビューアルバム『PSYCHODRAMA』でマーキュリー賞を受賞するなど、今最も注目されているアーティストの1人です。

Tuesday, 23rd of January, 2018
2018年1月23日火曜日
I’m here with David
私は Dave とここにいる
This is our first session
これが我々の最初のセッションだ
We’re just gonna talk about your background
君のバックグラウンドの話から始めるとしよう
Where you’re from, any issues you’ve been dealing with
君がどこから来たのか、どんな問題に対処してきたのか
So, where should we start?
さあ、どこから始めようか

演劇の枠組みと技法を用いた心理療法を指す『PSYCHODRAMA』というアルバムタイトルの通り、1曲目『Psycho』はセラピストのセリフで始まります。心に不安を抱える彼はまさに同アルバムを通して PSYCHODRAMA を試みているのです。この彼のデビュー作は、コンセプトはもちろんのこと、ストーリー性、トラック、ワードプレイなど全てにおいて申し分のない仕上がりとなっています。

Dave の代表曲

Location (feat. Burna Boy)

ナイジェリアのレゲエ/ダンスホール・シンガー Burna Boy を客演に迎え、ラッパーとして成功してからの生活について歌った1曲。ラッパーお得意のフレックス (自慢) を中心としたありがちな内容ですが、彼は巧妙なワードプレイで魅了します。

Look, money like the alphabet
見ろ、金はアルファベットのようだ
If you wanna see P’s, gotta pass on the ends
金が欲しいなら最後までやり抜かなければならない


※P (Paper, Poundsを指す) は金を表すイギリスのスラング。

「P (金) が欲しいなら最後までやり抜かなければならない」「アルファベットの「P」は「N」(ends を「エヌ」と発音している) を通り越さないと現れない」という2つの意味を掛けたワードプレイ。意味をしっかり通してストーリーを進めつつ、随所にハイレベルなワードプレイを織りまぜるという、彼の類い稀なリリシズムが存分に発揮された作品です。

3. Lancey Fouxx

Lancey Foux (本名不詳) は、イーストロンドンはニューアム出身の24歳 (’95年生まれ)。彼は、Future や Young Thug ら USラッパーからの影響を強く感じさせる、オートチューンを効かせて歌うラップスタイルを得意とします。Playboi Carti のベイビーボイスに近いようなフロウも取り入れており、US と UKのシーンの架け橋的存在に成りうるラッパーです。Travis Scott のニューシングル『FRANCHISE』のリミックスへの参加も噂されており、今後彼の名前を耳にする機会は間違いなく増えるでしょう。

また彼は、A-Cold-Wall* や Astrid Andersen などイギリス発祥のファッションブランドのランウェイモデルを務めるなど、ビジュアル面でも注目されています。

A-Cold-Wall*’s National Gallery (AW18) Collection
Astrid Andersen 2019 Fall Collection

Lancey Foux の代表曲

No Intro

Skepta『I’m There』の一節を引用した「No introduction needed, I’m a genius」というラインから始まる『No Intro』。程良く不思議なトラックと、中盤のダミ声フロウが癖になる1曲です。

India

Playboi Carti『Foreign』のメロディを逆再生したビートを用いた『India』。キャッチーなフロウはもちろんのこと、シンプル且つ真理をついたフックにも注目です。

4. slowthai

slowthai こと Tyron Kaymone Frampton はノーサンプトン出身の24歳 (’94年生まれ)。彼は、3歳の頃に父親が失踪してから、母親と四人の姉妹とともに生活していました。彼には弟もいたのですが、筋ジストロフィーを患いわずか1歳で息を引き取っています。この出来事は彼の人生に大きな影響を及ぼしたといいます。いわゆる労働者階級に属していた slowthai は、大学卒業後一時は働いていましたが、勤め先の売上金を友人らに横流ししたことで解雇されました。高校時代から音楽技術を学び、音楽制作に夢中になっていた彼は、この解雇をきっかけに本格的に音楽活動に取り組むようになります。

UKグライム、UKガラージを軸にしたデビューアルバム『Nothing Great About Britain』では、労働者階級出身の彼の目線から見たイギリス像が描写されており、各方面から高い評価を得ました。

slowthai の代表曲

Inglorious (feat. Skepta)

デビューアルバム『Nothing Great About Britain』収録の『Inglorious』。Stanley Kubrick の名作『時計じかけのオレンジ』をオマージュしたミュージックビデオでも話題となりました。

同ミュージックビデオでは、映画『時計じかけのオレンジ』の「ルドヴィコ療法」(洗脳に近い治療法) の実行シーンを再現しています。この治療を受ける slowthai は「GRATE BRITAIN (素晴らしいイギリス)」というワードを見続けることによって洗脳されるのですが、彼にとっての「GRATE BRITAIN」とは「ルドヴィコ療法のような洗脳を行う者がいない国」であったため、治療を施した人物を殺してしまうという皮肉の効いたストーリーです。

5. Little Simz

Little Simz こと Simbiatu Abisola Abiola Ajikawo はナイジェリアにルーツを持つノースロンドンはイズリントン出身の25歳 (’95年生まれ)。アフロビート、レゲエ、ヒップホップ、UKガラージなど様々なジャンルを聴いて育った彼女は、15歳の頃に初めて自身のミックステープをリリースします。Kendrick Lamar も絶賛するほどの非凡な音楽的才能を兼ね備えた彼女は、ヒップホップからジャズ、ファンク、アフロビート、レゲエ、グライムなど様々なトラックの上でスキルフルなラップを披露します。彼女自身も「自分をフィメールラッパーだと思っていない」と語るように、これまで存在してきた「フィメールラッパー」という括りには収まらない実力の持ち主です。

Little Simz の代表曲

Selfish (feat. Cleo Sol)

最新アルバム『Grey Area』収録の『Selfish』。「Selfish」とは「自分勝手、わがまま」という意味ですが、彼女曰く同曲では「自分を大切に」という意味で用いているそうです。ジャジーなトラックと彼女の表現力が魅力的な1曲です。

Written by Riku Hirai

21 Savage & Metro Boomin – アトランタが誇るトラップ最高峰タッグ

今週金曜日にジョイント・アルバム『Savage Mode Ⅱ』のリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin。世界中のヒップホップファンが待望する同アルバムのリリースに先立って、彼らのキャリアや魅力について振り返っておきましょう。

21 Savage

1992年10月22日にイギリスのロンドンで生を受けた 21 Savage (21サヴェージ) こと Shéyaa Bin Abraham-Joseph は、7歳の頃に母親と共にアメリカのジョージア州アトランタに移り住みます。2005年には故郷ロンドンに1ヶ月程滞在、その後アメリカに再入国し、以降はアメリカで生活していた彼ですが、当時取得していたビザはアメリカ入国後約1ヶ月で期限が切れており、2019年に不法滞在の疑いで逮捕されるという事件もありました。

逮捕時のマグショット (2019)

7th grade (日本の中学1年生にあたる) の頃には、21 Savage は銃の所持で地域中の全ての学校から永久追放を言い渡され、ギャングの世界に足を踏み入れることとなります。ドラッグディールや強盗など非行を繰り返していた彼は、2013年に敵対するギャングメンバーから銃撃を受け、親友を失いました (彼自身も6発の銃弾を浴び、当時は死も覚悟したそうです)。この日が彼の21歳の誕生日であったことが、彼の名前 21 Savage の由来です。

親友の死を受けてラップを始めた 21 Savage は、2015年にデビューミックステープ『The Slaughter Tape』をリリース。タイトルからも察しがつくように、アトランタのトラップとシカゴのドリルをミックスしたかのような暴力的なサウンドとリリックが話題を呼び、Sonny Digital や Metro Boomin といった大物プロデューサーと繋がります。

同年には、Sonny Digital とのジョイントEP『Free Guwop』とセカンド・ミックステープ『Slaughter King』をリリースしました。

キャリア開始以降コンスタントに楽曲をリリースしてきた 21 Savage は、2016年、XXL Freshman Class に選出されます。

XXL 史上最も高い人気を博す同サイファーで一躍注目を浴びた 21 Savage は、同年 Metro Boomin とのジョイントEP『Savage Mode』をリリースします。

このEPで成功を収めた彼は、2017年に Epic Records とサインし、デビューアルバム『Issa Album』をリリース。同アルバムは US Billboard チャートにて2位デビューを飾り、更にその後リリースされた Post Malone との楽曲『Rockstar』は Billboard Hot 100 にて最高1位を記録しました。

同年末には Offset、Metro Boomin とのコラボ・アルバム『Without Warning』をリリース。

翌2018年末には Travis Scott や Childish Gambino、Post Malone らをはじめとする豪華ゲストを客演に招いたセカンド・アルバム『I Am > I Was』をリリース。初週13万1千ユニットを売り上げ、見事 US Billboard チャート1位デビューを飾った同アルバムは、2020 Grammy Awards のベスト・ラップアルバムにもノミネートされました。

Metro Boomin

1993年9月16日にミズーリ州セントルイスで生を受けた Metro Boomin (メトロブーミン) こと Leland Tyler Wayne は、母親にパソコンを買ってもらったことをきっかけに、13歳の頃にトラックメイクを始めます。高校生の頃には、FL Studio の前身である FruityLoops を用いて、毎日5つものビートを制作していたそうです。Twitter をはじめとする SNS を用いてラッパーとのコネクションを築き始めた彼は、実際に彼らと仕事をするために、母親に地元セントルイスからジョージア州アトランタ (車で片道約8時間) まで頻繁に送ってもらっていたといいます。

Metro Boomin 曰く、最初に彼のビートを使ってラップをした有名なアーティストは OJ Da Juiceman だそうです。彼はこのコネクションをきっかけに、高校3年生の頃には Gucci Mane と繋がり、高校卒業後にはアトランタに移りました。アトランタに移住後、彼はカレッジに進学するものの音楽活動に専念するために1セメスターで退学。その後、Jeezy や French Montana、Ludacris、Future など名だたる著名アーティストとのコラボを果たした彼は、2013年に Gucci Mane や Future、Young Thug らを客演に招いたデビュー・ミックステープ『19 & Boomin』をリリース。

その後 Future の楽曲を多数手掛けるようになった Metro Boomin は、2015年には Drake と Future のジョイント・ミックステープ『What a Time to Be Alive』のエグゼクティブ・プロデュースを務めるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たしました。

2016年には、Future の『Low Life (feat. The Weeknd)』や Migos の『Bad and Boujee (feat. Lil Uzi Vert)』、Kanye West の『Father Stretch My Hands, Pt. 1』など、数々のヒット曲を生んだ Metro Boomin は、21 Savage とのジョイントEP『Savage Mode』もリリースし、BET Hip Hop Awards にて最優秀プロデューサー賞を受賞しました。

2017年には、NAV との『Perfect Timing』、21 Savage & Offset との『Without Warning』、Big Sean との『Double Or Nothing』の3つのコラボ・プロジェクトをリリース。

飛ぶ鳥を落とす勢いでシーンのトップに駆け上がってきた Metro Boomin ですが、2018年、彼はSNSにて音楽活動の引退を表明します。

しかしその数ヶ月後、Nicki Minaj や Lil Wayne のニューアルバムに参加し、更には自身のソロデビュー・アルバム『NOT ALL HEROES WEAR CAPES』をリリース。同作は見事 US Billboard チャート1位デビューを飾りました。

  • Metro Boomin のプロデューサー・タグ一覧
  • Ayy, Lil Metro on that beat (by Kodak Black)
  • If Young Metro don’t trust you, I’m gon’ shoot you (by Future)
  • Metro (by Young Thug)
  • Metro be boomin’ (by Rich the Kid)
  • Metro Boomin want some more, n***a (by Young Thug)
  • This beat is so, so Metro (by Young Thug)
  • Young Metro, Young Metro, Young Metro (by Future)

21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲

ここからは、21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲を数曲ご紹介します。今週末の『Savage Mode Ⅱ』のリリースに備えて、今一度彼らの過去作を振り返ってみましょう。

21 Savage – Drip (prod by TM88 & Metro Boomin)

I’m in the kitchen cooking crack like its bacon, 

キッチンでベーコンみたいにクラック (コカイン) を調理している

these p***y ass rappers they be faking

あいつらクソ共はフェイクだ

I’m 21 Savage ain’t no faking,

俺は 21 Savage、本物だぜ

AK-47 get the shaking

AK-47 が身震いしている

2人の初期コラボ曲。21 Savage は現在のスタイルより高めのトーンでラップし、TM88 と Metro Boomin が手掛けるシンプルかつ不穏なビートが 21 Savage のラップの緊張感を助長しています。

21 Savage – Supply (prod by Metro Boomin, Southside & Sonny Digital)

I am 21, young savage

俺は21歳 若い「savage (野蛮、冷酷)」だ

Try me, and you’re going to hell

かかってこいよ 地獄行きだぜ

気怠そうな声で淡々とラップするイメージのある彼ですが、この楽曲では高めの声や変則的なフロウを用いており、Metro Boomin を含む人気プロデューサー3人が手掛ける邪悪なビートと 21 Savage の遊びのあるラップが上手くマッチした1曲です。

21 Savage – Deserve (prod by Metro Boomin)

Me and Johny tried to rob everything

Johny と一緒に全てを盗もうとしていた (*1)

Mookie tried to tell us, do the right thing

Mookie は俺たちに「正しいことをしろ」って言ってたんだ

Larry died man I cried twice

Larry が死んだ時、2回泣いた

(中略)

RIP Tayman that’s why I got that knife

Tayman、安らかに眠ってくれ 俺もナイフのタトゥーを入れたよ (*2)

I don’t get excited about the fame

名声なんてどうだっていい

B***h I’m still with the same gang,

俺は今でも同じギャング (ブラッズ) に所属している

b***h I still claim the same thing

今でも俺の主張はあの頃のままだ

(*1) 21 Savage の親友 Johny は、この強盗の最中に銃撃を受け亡くなった。

(*2) Tayman は 21 Savage の実の弟。21 Savage の額のダガー (ナイフ) のタトゥーは、ドラッグディール中に銃殺された Tayman の額に入っていたもの。

弟や友人を失った悲しい過去を歌った1曲。Metro Boomin の感傷的なビートに乗る 21 Savage の泣き声に近いラップから、彼が生きてきたストリートライフの過酷さが鮮明に伝わってきます。

21 Savage & Metro Boomin – No Heart

You was with your friends playin’ Nintendo

お前が友達と任天堂 (のゲーム) で遊んでいる間

I was playin’ ’round with that fire

俺は銃を持って遊びまわってた

Seventh grade, I got caught with a pistol

1の頃にはピストル所持で捕まって

Sent me to Panthersville

青少年施設に送られた

Eighth grade, started playin’ football

2の頃にはフットボールを始めたけど

Then I was like fuck the field

すぐ辞めたよ

Ninth grade, I was knocking n***as out

3の頃には野郎をぶっ倒した

N***a like Holyfield

Holyfield みたいにな (*1)

(*1) Evander Holyfield : アラバマ州出身のプロボクサー

Metro Boomin、Southside、CuBeatz の3人が手掛けるシンプル且つダークなサウンドの上で、21 Savage が持ち前の低い声で緊張感のあるラップを披露します。ストリートのリアルを歌う、まさに「No Heart」なリリックも特徴的な1曲です。

21 Savage – Bank Account (prod by Metro Boomin & 21 Savage)

I got 1-2-3-4-5-6-7-8 M’s in my bank account

俺の銀行口座には 1-2-3-4-5-6-7-800万ドル入ってる

数え歌的フックが耳に残る1曲。Coleridge-Taylor Perkinson の『Flashbulbs』という楽曲のギターリフをサンプリングした Metro Boomin のダークなビートと、21 Savage の淡々としつつもキャッチーなラップが特徴的な同曲は、Billboard Hot 100 にて最高12位を記録。彼らの抜群の相性を更に世間に知らしめるきっかけとなった1曲です。

21 Savage, Offset & Travis Scott – Ghostface Killers (feat. Travis Scott)

I got AK, SK, HK, broad day

白昼堂々と銃を持ち歩いている (*1)

You a fuckboy, we ain’t with the horseplay

お前はクソだ 俺たちはふざけた真似はしないぜ

Shrimp-ass n***a, did you do your chores today?

ダサいお前ら、今日の雑用は済ませたか?

Do you wanna take a ride with the coroner today?

お前らは今日死にたいのか? (*2)

(*1) それぞれ銃の名称。AK = AK-47、SK = SKS、HK = MP5 や G36 などの Heckler & Koch 社製の銃。

(*2) Coroner は「検死官」の意。つまり「検死官と共に車に乗る」ことは「死」を意味する。

Metro Boomin らしい重厚でダークなビートの上で、Offset、21 Savage、Travis Scott という豪華メンバーが順番にヴァースを披露する1曲。圧倒的な迫力を誇る同曲を収録した 21 Savage、Offset、Metro Boomin によるコラボ・アルバム『Without Warning』は、US Billboard チャートにて初週4位デビューを飾りました。

Metro Boomin – Don’t Come Out the House (feat. 21 Savage)

Bang outside, I hang outside

外では銃撃 俺は行くぜ

Don’t come out the house ’cause the gang outside

家から出るんじゃねえぞ ギャングがいるからな

21 Savage が敵対するギャングに対して威圧的なラップをする1曲。イントロが終わり1ヴァース目に突入するタイミングで、Metro Boomin のビートが重厚なサウンドに切り替わり、それと同時に 21 Savage の緊迫感漂うウィスパー (囁き声) フロウが繰り出されます。サウンド、リリック共に圧倒的な緊張感が漂う、2人の相性が抜群に発揮された1曲です。

おわりに

トラップシーン最高峰タッグとの呼び声も高い 21 Savage と Metro Boomin の抜群の相性、ご堪能いただけたでしょうか。

今週末にリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin によるニューアルバム『Savage Mode Ⅱ』のカバーアート

Cash Money や No Limit など、Pen & Pixel 作品を彷彿とさせる『Savage Mode Ⅱ』のカバーアートには賛否両論あるようですが、同アルバムも2000年代の名盤と並ぶ、もしくはそれらを超えてくるような歴史的な1枚になること間違いなしでしょう。

Written by Riku Hirai

TyFontaine – Internet Money が誇る期待の新星

先月リリースされた Internet Money のニューアルバム『B4 The Storm』に参加し、近頃ますます注目を浴びている新人ラッパー TyFontaine。今回は、そんな若手注目株の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。

生い立ち

TyFontaine (タイフォンテイン) こと Julius Terell は、アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.で生まれ育ちました。

My household was pretty normal. 

俺の家庭は至って普通だったよ

My mom’s a dentist, my dad’s a lawyer. I was the only child.

歯科医の母と法律家の父がいて、俺は1人っ子だった

I got kicked out of school a couple times. Played sports. 

何度も学校から追い出されたよ あとはスポーツ (ラクロス) もしていた

I was a kid doing kid stuff, doing hoodrat shit with my friends. 

俺はやんちゃなガキだった 友人とくだらないことばっかりしていたんだ

本人は「普通」と語るものの比較的裕福な家庭で育った TyFontaine は、高校生の頃はスニーカーショップで働いていたそうです。


TyFontaine が働いていたスニーカーショップ「Kickk Spott DC」(現在は閉店済み)

このスニーカーショップは多くの NBA プレーヤーやラッパーが訪れる人気店で、店の裏にレコーディングスタジオを設けており、TyFontaine はその環境に刺激を受けてラップを始める決意をしたそうです。

キャリアの開始 (2018~2019年)

幼い頃は、R&B (Mary J. Blige、Neyo、Usher) やゴスペル (Marvin Sapp)、またバハマ出身の母親の影響でカリプソ (カリブ海の民族音楽) を主に聴いていたという TyFontaine は、5th Grade (日本の小学5年生にあたる) の頃にヒップホップを聴き始めたそうで、彼が初めて聴いたラッパーは、Lil Wayne だったそうです。

彼は、前述したスニーカーショップのスタジオにて Q Da Fool がセッションしている場面を目撃し、「自分にもできる」と確信したといいます。

When I started, I knew that it was possible. 

ラップを始めたとき、俺にもできるって分かった

(中略)

I thought “if they could do it, I could do it” type of thing.

「彼らにできるなら俺にもできる」って思ったんだ

彼は、2018年3月に Tyler Fontaine 名義でラップを始めました。

Tyler Fontaine – Precision (feat. Nuge)

シングルやミックステープ、Clockwork-Productions から公開したミュージック・ビデオなどで頭角を現した彼は、2018年10月に、Taz Taylor 率いる Internet Money Records と契約を結びます。

その後も No Jumper からミュージック・ビデオを公開したり、立て続けにミックステープをリリースしたりと精力的に音楽活動に取り組んでいた彼は、2019年リリースのミックステープ『Waiting on Ascention』や EP『Virtual World』で更に注目を浴びることとなります。

ミックステープ『Waiting on Ascention』

Internet Money の Nick Mira や DT、JRHitmaker らがプロデュースを手掛けたミックステープ。

EP『Virtual World』

Taz Taylor、Nick Mira のエグゼクティブ・プロデュースに加え、Jetsonmade や 10k.Caash らも参加した EP。

自身の音楽性を「versatile, carefree, easy-going (多才で、楽天的で、陽気)」と表現する彼の楽曲の特徴は、Juice WRLDLil Uzi Vert らの魅力を凝縮したようなメロディアスでエモーショナルなフロウです。彼は、いわゆる「エモラップ」に分類される他のラッパーよりもポップで明るいメロディラインと歌唱スタイルを用いており、どんなトラックも自分のものにしてしまう力を持っています。

更なる躍進 (2020年~)

そんな彼は2020年4月、Taz Taylor、Nick Mira を中心に、Jetsonmade や PVLACE、Bugz Ronin ら人気プロデューサー陣を起用したミックステープ『1800』をリリースします。

12曲目の『Moments』では、80年代シンセウェイブ的なトラックを用いて持ち前のハイピッチフロウを披露しており、The Weeknd と Playboi Carti のスタイルをミックスしたかのようなサウンドを楽しむことができます。

Moments

2020年8月には、自身が所属するレーベル Internet Money の1stアルバム『B4 The Storm』に4曲で参加し、Cochise や 24kGoldn、TheHxliday らとの共演も果たしました。

Internet Money のアルバムでの活躍により一層注目を浴び始めた彼は、本日10月16日、Lil Keed や Coi Leray、The Hxliday らを客演に招いたニュープロジェクト『We Ain’t The Same』をリリースしました。

今後、デビューアルバム『Beautiful Michi Girl』のリリースも控えており、ますます活躍するであろう期待の新星 TyFontaine から目が離せません。

Written by Riku Hirai

Cardi B が Offset のどこに惹かれるのかを明かす

Megan Thee Stallion を客演に呼んだ一曲『WAP』が大ヒットを記録している Cardi B。

そんな彼女が パートナーである Offset のどこに惹かれるかを Twitter 上で明かした。以下がそのツイートの翻訳である。

これは変に思われるかも知れないけど、私が彼に惹かれるポイントの一つが彼が数学がとても得意な所なの。それが私にはとてもセクシーに思えるの。

幾度の破局を乗り越え、ビッグパートナーへと成長した二人だが、Offset が数学を得意としていることも二人の良好な関係に寄与しているのだろう。

Jack Harlow が「最も賢い人間は Lil Keed だ」と発言

『What’s Poppin』の大ヒットで一躍その名を世界に知らせた Jack Harlow。

「XXL FRESHMAN CLASS 2020」にも選出され、XXL 主催のフリースタイルも本日公開された。

そんな彼が、XXL の企画「ABCs」にて、「最も賢いラッパーは Lil Keedだ」と、Lil Keed にリスペクトを送った。

スキルフルかつキャッチーなスタイルで瞬く間にファン層を広げる彼からは、今後も目が離せない。

Lil Uzi Vert が8月28日にバーチャルコンサートを開催

現在、コロナウイルスのパンデミックにより様々なメディアでバーチャルコンサートが配信されている。

そんな中、今年『Eternal Atake』をリリースした Lil Uzi Vert が Live Nation でライブ配信型のバーチャルコンサートを開くことが正式に発表された。

https://twitter.com/livenation/status/1296105033813987328?s=21

ちなみに、このライブストリーミングを視聴するには15ドル(約1585円)を支払う必要がある。

Lil Uzi Vert の初バーチャルライブであり、開始予定時間は来週の金曜(8月28日)の午前8時となっている。

Frank Ocean と冨田勲 – Ocean に影響を与えた一人の日本人

But there’s no erasing

意味のないことなんてないんだよ

Frank Ocean – Dust

Frank Ocean に影響を与えたのは Prince や Kanye West であるという話はをよく耳にします。しかし、Ocean に影響を与えたのは R&B や Hip-Hop だけではありません。Ocean は「現代音楽」にもかなり影響を受けているのです。

現代音楽とは、20世紀中盤以降から使われるようになった言葉で、クラシックのジャンルのことを指しています。その音楽性に絶対的な共通性はないものの、無音への傾倒や、不協和音の多用などが傾向として挙げられます。

そして、影響を受けたというその根拠は Ocean の指揮する無料配布マガジン『Boys Don’t Cry』に掲載されている「Frank Ocean の好きな曲50選」の中にあります。この中には、たった一曲だけ日本人の名前が記されているのです。それは、日本が誇る作曲家 / シンセサイザー奏者でもあり、現代音楽のアーティストとも言える 冨田勲 氏です。今日はそんな一人の日本人とオーシャンのサウンドの連関を探るべく、一つの記事を書いていきます。

前半は「みんな知らない Frank Ocean」というのをテーマに、 Wikipadia には掲載されていない Ocean のトリビアルな情報をまとめ、後半に冨田勲が与えた影響について考察するという構成となっています(この記事ではセクシュアリティへの考慮から、Frank Ocean については三人称を使わずに記事を進めさせていただきます)。

Frank Oceanとは

もはや説明不要と言っても過言ではないほど、現代の音楽シーンを語る上での最重要人物となっている Frank Ocean(以下、Ocean)。Ocean については Wikipedia などで詳しく載っているので、今日は皆さんがあまり知らない Ocean の素性をまとめてみます。

Ocean はルイジアナ州ニューオーリンズ出身の 32才のアーティストで、Tyler, The Creator 率いる Odd Future のメンバーとしても広く知られています。(Odd Future は現在実質解散した状態にあります。)

『Nostalgia, Ultra』

Ocean は2011 年に発表したデビューミックステープ『Nostalgia, Ultra』にて、様々な方面から圧倒的な評価を受け、衆人環視の的となりました。

『Nostalgia, Ultra』

では、このアルバム『Nostalgia, Ultra』の中でも伝説となっている一曲について紹介いたします。それは、このテープの 12曲目『American Wedding』です。

『American Wedding』

お分かりの方もいらっしゃると思いますが、これは70年代にアメリカを賑わした伝説的バンド Eagles の『Hotel California』を大胆にサンプリングした楽曲です。

今や音楽の教科書にも掲載されている伝説の曲を現代版のリリックへと落とし込んだ『American Wedding』は、メロディーを差し替えたフックの歌唱や、アウトロでのカリフォルニア出身のグラミー賞受賞プロデューサー/ シンガーである James Fauntleroy による教訓的な独白など、このミックステープの中でも重要なポジションを担う楽曲でした。

『American Wedding』- Live Version

このミックステープは無料で配ったフィジカルなものにも関わらず、ある人物が「この曲は著作権侵害だ」と主張しました。それは原曲の張本人、 Eagles のボーカリスト Don Henley でした。彼は起訴することさえちらつかせ、Ocean を「傲慢で、才能がない人間だ」と言い、「次にライブで『American Wedding』を披露すれば訴える」という事態にまで発展しました。

このことに対して、Ocean はこう答えました。

この男はクソな金持ちか? 新入りを訴えてどうするつもりだ?

あの曲で金は少しも稼いでなんかない。無料でリリースしたんだよ。

というかむしろ、彼に敬意を払ってたんだけどな。

確かにこのアルバムは無料で配られたフィジカル作品なので、Don Henley の主張は現代のサンプリング文化全体への否定のような気もします(ちなみに彼は Kanye West も批判しています)。

『Channel Orange』

その後、第二作『Channel Orange』では名声を欲しいままにします。グラミー賞でも、主要3部門を含む6部門にノミネートされ、記念すべき第一回目の「アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞」と「ラップ/サング・コラボレーション賞」を受賞します。

『Channel Orange』

少し余談を挟みますが、このアーバン「Urban」とは主にアフリカ発祥の音楽を指す言葉であり、差別用語としてグラミー賞が名前を「Progressive R&B」に変更することが今年発表されました。

このアルバムの中からは、少々想世界的なテーマが描かれた楽曲『Pyramids』をご紹介いたします。特徴ある音が折り重なり、それぞれの色を残しながらも完璧なバランスで配置され、全体として完璧な一色の世界ができているような感覚を与えてくれる一曲です。また転調後に全く別の曲調に変化するところも魅力的です。

『Pyramids』

『Blonde』

そして2作目のスタジオアルバム『Blonde』をリリースするとたちまち全米チャート1位を記録するほどバイラルヒットします。

このアルバムの発売に伴い、8月20日にロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴ、ロンドンで雑誌『Boys Don’t Cry』のポップアップストアがオープンしました。この雑誌にはフィジカル盤の『Blonde』が付録としてついており、デジタル盤とは全く違った構成や楽曲が収録されています。

ここで、もう一つ皆さんが知らないかもしれない衝撃の事実をご紹介いたします。実はこのフィジカル盤の『Nikes』に限って、 KOHH と LOOTA が客演参加しているのです。

『Nikes』ft.KOHH & LOOTA

Frank Ocean と映画

フリッツ・ラング 『メトロポリス』

そして、Ocean はかなりの映画好き(シネフィル)です。そもそも、Frank Ocean という名前の由来も映画『Ocean’s Eleven』(オーシャンと11人の仲間)のタイトル(Ocean)と、そこで主演を務めた、ポップ音楽における最重要のアーティスト/ジャズシンガーの一人である Frank Sinatra の名前を掛け合わせたものなのです。(ちなみに Ocean は Frank Sinatra を最も影響を受けたアーティストの一人だと言っています)

少し映画について触れるならば、XXL Magazine のインタビューで答えた彼の大好きな映画リストから、そのシネフィルぶりを感じとることもできます。

リストには、無声映画期の作品(シュールレアリズムで知られるルイス・ブニュエル作品や、モンタージュ理論の生みの親・エイゼンシュテインの作品、詩人や古劇映画の活動で知られるジャン・コクトーの作品など)から、現代映画の巨匠の作品群(リンチやキューブリック、深作欣二や北野武、ヴィム・ヴェンダースの作品など)まで、Ocean の嗜好が広範囲に渡っていることが読み取れます。

『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(1972) – ルイス・ブニュエル

さらに、選ぶ作品が大作からコアなものにまでわたっており、そのシネフィルぶりは一目瞭然です(少し意外だったのはフランク・シナトラの因縁の相手、ロマン・ポランスキー監督をランクインさせていることですが)。

Frank Ocean とセクシュアリティ

2012年7月4日、Ocean は『Channel Orange』のライナーノーツを兼ねた文章を自身の Tumblr に投稿し、初恋の相手が男性だったことを明かしました。この行動は、マチズムを当然視している南米ルーツの音楽ジャンルに一石を投じました。

Tyler, The Creator や Jaden Smith を始め、様々なアーティストがカミングアウトを堂々とするようになったのも、Ocean の勇気ある行動を契機としているといっても間違いありません。ちなみに、Ocean 自身がカミングアウトを行う勇気が出たのは、音楽的にも最も影響を受けたアーティストの一人である Prince のおかげだと言っています。

Prince が、「性の役割」という古臭い考えを相手にせず、自由に行動してくれたからこそ、自分のセクシュアリティをナチュラルに受け止めることができたんだ。

ちなみに Prince は今となっては伝説的なアーティストであることは間違いありませんが、今から 30 年以上前に、テレビの番組にビキニとヒールを纏って出演したこともあったりと、表舞台でセクシュアリティを公表した黒人としてもその功績を称えずにはいられません。

ここまでが「みんなの知らない Frank Ocean」でした。では次に Ocean の音楽の源流について考察していきます。

Frank Ocean の音と冨田勲による影響

冒頭で説明した通り、Ocean は自分に影響を与えた50曲の中で、一人だけ日本人を選出しており、それが冨田 勲氏なのですが彼は一体どういう人物なのでしょうか。

冨田 勲は1932年4月22日に東京都杉並区で生まれ、父親の冨田 清が当時紡績会社であった鐘紡の嘱託医であったため幼い頃から転勤が多く、中国で幼少期を過ごすなど、安定しない子供時代を経験しました。

慶應義塾高等部に編入してからは友人と協力しながら独学で音楽を学び、慶應義塾大学に入学してからは美術史を学ぶ傍、音楽理論の授業にも積極的に出席していました。大学2年になり、朝日新聞社主催のコンクールの課題曲に応募した合唱曲『風車』がコンクールを獲り、これにより作曲家になる意志を固め、在学中からNHKの音楽番組の仕事をするなど、作曲活動に従事し始めました。

そして冨田氏について特筆すべきことは、彼は日本にシンセサイザーを持ち込んだ張本人であることです。彼はそのあまりの持ち込みの早さから、怪しい機材と疑われ、関税にシンセサイザーを何ヶ月も止められていたという伝説まであるほどです。

また、彼の極めて精巧に作り上げた独自のサウンドは、日本ではクラシックと扱うか、ポピュラー音楽と扱うか分からないため、日本の音楽業界に売り込みを拒否されました。その後、アメリカでクラシック音楽としてチャートにランクインして大ヒットしたのちに日本に逆輸入されました。

冨田 勲『月の光』

幻想的な響きの中に優しい振動を染み込ませ、立体的に構成された波のようなサウンドはクラシック音楽にとどまらず、大衆音楽にまで多大な影響を与えるなど、冨田氏は日本の現代音楽の先駆者とも言えるアーティストなのです。

そして彼の助手としてその音楽的影響を強く受けたアーティストに松武秀樹がいます。彼はのちに YMO(Yellow Magic Orchestra)の第四のメンバーとしてシンセサイザー・マニピュレーターとして活躍することになります。

またこの記事の主題でもある Ocean が彼から多大な影響を受けているという主張の根拠としては、三点をあげておきます。それは「環境(アンビエント)音楽」「サンプリング」「声のインスト化」です。これらの単語を見ただけではまだはっきりしないと思うので、説明していきたいと思います。

Ocean と環境音楽

また冨田氏は他の様々な曲の中で環境音を用いることから、アンビエント・ミュージック(環境音楽)の枠内にいると捉えることもできます。

冨田氏のこちらの曲『亜麻色の髪の乙女』では、美しい今日曲調の裏で風の音など様々な環境(アンビエント)音が組み込まれています。

そして、アンビエントと聞いて思い起こされるのがアンビエントR&Bの創始者、Frank Ocean です。環境音楽という観点でも Ocean は冨田勲の影響が少なからずあると思われます。

Ocean とサンプリング

フランスの印象派を代表する作曲家ドビュッシーの変奏曲をまとめたアルバム『月の光』で世間から評価を得た冨田氏ですが、彼のスタイルは原曲のメロディーは留めて置きながらも、あらゆる音の引き出しを次々と開けていき、新たな世界を構築するスタイルであるといえます。

これは Ocean も行ってきた手法であり、先ほど述べた Eagles のサウンドを取り入れた楽曲『American Wedding』にもその傾向を垣間見ることができます。

Ocean と声のインスト化

また Ocean を象徴するインスト化されたように強く歪んだ声も、冨田氏の影響を強く受けていると言えます。「インスト化された声」と言われてもピンとこない方もいらっしゃると思いますので、名だたる評論家たちから大絶賛を受けた Ocean の最高傑作の一つ『Nikes』を聞いてみてください。

Frank Ocean『Nikes』

この元の声の質を極端に歪ませ、極端に機械化(インスト化)させた「声ではない声」こそ「インスト化された声」と捉えることができます。ここに Ocean の凄みが隠されています。とどのつまり、Ocean の声は人間の声のはるか向こう側まで到達し、もはやそれを楽器のように弄びながら緩慢なトラックに溶け込ませているのです。

しかし、この「インスト化された声」については冨田氏から絶対的な影響を受けたということをここで主張しておきます。それは『アラベスク第一番』にて変質した声が含まれている部分を聞けばおわかりいただけると思います。

『アラベスク第一番』

ちょうどこの曲の1分21秒あたりで極端に機械化された人の声を聞くことができます。これはまさに Ocean の使うそれと遜色ないものと言っても過言ではないでしょう。

最後に

今やスーパースターとなった Frank Ocean と、Ocean が影響を受けた日本人、冨田 勲氏との関係について述べてきました。これまでとは違った切り口の Ocean の音楽分析となりましたが、少しは楽しんでいただけましたでしょうか。

そして、昨年から突然シングルを続々とリリースし始めた Ocean ですが、賞をもらうことに何の意味もないと主張していることを考慮すれば、おそらく『DHL』などジャケットの下に描かれている人形の影に応じた曲をシングルとしてこれから出し続けると僕は予想しています。

シークレットな行動が多い Ocean だからこそ今後も目が離せませんが、またいつか Ocean についてまとめた記事も書こうと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

written by Kensho Sakamoto

XXL FRESHMAN CLASS 2020 : 選出された12人のラッパーたち

毎年恒例の注目アーティスト選出企画 XXL FRESHMAN CLASS。本日遂に発表された今年度の選出ラッパー12人についてまとめました。

Polo G

【本名】Taurus Tremani Bartlett

【生年月日】1999年1月6日

【出身地】イリノイ州シカゴ

シカゴ北部の Old Town エリアにて、両親と3人の兄妹とともに生活していた Polo G は、2016年から楽曲制作を開始。幼い頃は、Lil Wayne や 2Pac、Gucci Mane、Lil Durk、Chief Keef らの楽曲を聴いていたという。2018年リリースの『Finer Things』のバイラルヒットをきっかけに、2019年には『Battle Cry』、『Pop Out (feat. Lil Tjay)』と立て続けにヒットを生み出し、それらの楽曲を収録したデビューアルバム『Die a Legend』は US Billboard にて6位デビュー。

2020年には、セカンドアルバム『THE GOAT』をリリースし US Billboard 2位デビューを飾った。

Polo G についての記事はこちらから↓

【代表曲】

Pop Out (feat. Lil Tjay)

https://www.youtube.com/watch?v=g-uW3I_AtDE

Flex (feat. Juice WRLD)

Jack Harlow

【本名】Jackman Thomas Harlow

【生年月日】1998年3月13日

【出身地】ケンタッキー州ルイビル

Jack Harlow は、12歳の頃にノートパソコンとビデオゲーム「Guitar Hero」付属のマイクを用いてラップを始めたそう。キャリア初期は Mr. Harlow 名義で活動しており、友人と共に Moose Gang なるコレクティブも結成していた。

2015年に自身初の EP『The Handsome Harlow』をリリースした後、シングルやミックステープを次々とリリース。2016年頃には多くのメジャーレーベルから契約のオファーを受けるものの全て断っていたそう。

2018年にはジョージア州アトランタに引っ越し、生活費を稼ぐためにカフェで働いていた Harlow は、その数ヶ月後に DJ Drama と Don Cannon 率いる Generation Now と契約を結ぶこととなる。同年、彼はメジャーレーベルからの初のミックステープ『Loose』をリリース。翌2019年にはミックステープ『Confetti』をリリースし、USツアーも開催した。

2020年1月にはシングル『WHATS POPPIN』をリリース。Lyrical Lemonade の Cole Bennett 監修によるミュージック・ビデオが6000万再生を記録し、世界中に一躍名を轟かせた。同年3月には最新プロジェクト『Sweet Action』を、6月には DaBaby、Tory Lanez、Lil Wayne をフィーチャーした『WHATS POPPIN (Remix)』をリリースしている。

【代表曲】

GHOST

WHATS POPPIN (Remix) [feat. DaBaby, Tory Lanez & Lil Wayne]

NLE Choppa

【本名】Bryson Lashun Potts

【生年月日】2002年11月1日

【出身地】テネシー州メンフィス

高校生までバスケットボールに打ち込んでいた NLE Choppa は、14歳の頃にフリースタイル・ラップを始め、15歳の頃から本格的に音楽活動に取り組み始める。この頃、明確な時期や理由は明かされていないが、彼は少年拘置所に拘留されていたそうで、その経験が彼の人生の転機になったという。

2018年、彼は YNR Choppa という名義の元、ファースト・シングル『No Love Anthem』と、デビュー・ミックステープ『No Love the Takeover』をリリース。また、Choppa が所属するコレクティブ Shotta Fam の楽曲『No Chorus Pt.3』での彼の印象的なヴァースとダンスが話題を呼び、一躍名を馳せる。

NLE (No Love Entertainment) Choppa に改名した彼は、2019年にシングル『Shotta Flow』をリリース。同曲のミュージック・ビデオがわずか1ヶ月で1000万再生を記録し、Billboard Hot 100にて96位デビューを果たした。

その後も、シングル『Shotta Flow』シリーズを続々とリリースし、デビュー EP『Cottonwood』をリリース。2020年にはデビューアルバム『Top Shotta』もリリースした。今年のフレッシュマン選出者の中では最年少 (選出時点で17歳) である。

【代表曲】

Shotta Flow

Walk Em Down (feat. Roddy Ricch)

Rod Wave

【本名】Rodarius Marcell Green

【生年月日】1999年8月27日

【出身地】フロリダ州セント・ピーターズバーグ

E-40 や Chingy、Boosie Badazz、Kanye West、Kevin Gates らの音楽を聴いて育ったという Rod Wave は、5th-grade (日本の小学5年生にあたる) の頃に音楽活動を開始した。

高校卒業の年でもあった2017年に初のミックステープ『Rookie of the Year』をリリース。その後、ミックステープ『Hunger Games』シリーズで人気を集め、2019年リリースのデビューアルバム『Ghetto Gospel』は US Billboard 14位デビューを記録した。

更に2020年リリースのセカンドアルバム『Pray 4 Love』は初週で7.2万ユニットを売り上げ、US Billboard 2位デビューを飾った。

【代表曲】

Heart on Ice

Girl of My Dreams

Baby Keem

【本名】Hykeem Jamaal Carter, Jr.

【生年月日】2000年10月22日

【出身地】ネバダ州ラスベガス

Kendrick Lamar の従兄弟としても知られる Baby Keem は、その Kendrick を擁するビッグ・レーベル Top Dawg Entertainment 所属のアーティストの作品に多数クレジットされている。その例として、Kendrick Lamar の『Black Panther: The Album』や Jay Rockの『Redemption』、ScHoolboy Q の『Crash Talk』、Beyoncé の『The Lion King: The Gift』等での、ソングライティングやプロダクションへの参加が挙げられる。

声変わりを待ってからラップを始めたという彼は、2018年に『No Name』と『Hearts & Darts』の2つのEPをリリースしたのち、ミックステープ『The Sound of a Bad Habit』をリリース。その後、2019年にリリースしたシングル『Orange Soda』が2020年にかけてヒットし、US Billboard にて98位を記録した。同曲収録のミックステープ『Die for My Bitch』も多くの音楽メディアやアーティストから称賛を受け、一躍注目を浴びた Keem は、Kendrick Lamar と Dave Free による新企画『pgLang』のイントロ・ビデオにも起用され話題となった。

【代表曲】

ScHoolboy Q – Numb Numb Juice

Orange Soda

Lil Keed

【本名】Raqhid Jevon Render

【生年月日】1998年3月16日

【出身地】ジョージア州アトランタ

学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた Lil Keed は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組み始める。

Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 同テープがストリートヒットし Young Thug の目に留まった彼は、Young Stoner Life Records と契約を結ぶ。同年には『Slime Avenue』、『Trapped on Cleveland 2』、『Keed Talk to ‘Em』の3つのミックステープをリリース。『Keed Talk to ‘Em』にはTrippie Redd や 21 Savage、Lil Yachty、Lil Durk、Brandy ら大物アーティストが多数参加した。

2019年にはデビューアルバム『Long Live Mexico』を、2020年にはセカンドアルバム『Trapped on Cleveland 3』をリリース。ネクスト Young Thug との呼び声も高い若手ラッパーの1人である。

Lil Keed についての記事はこちらから↓

【代表曲】

Nameless

Wavy (feat. Travis Scott)

Mulatto

【本名】Alyssa Michelle Stephens

【生年月日】1998年12月22日

【出身地】ジョージア州アトランタ

オハイオ州コロンバスで生を受けた Mulatto は、2歳の頃にジョージア州アトランタに移住。彼女は10歳の頃にラップを始め、2016年には、若手ラッパーたちが8週間にわたり力を競い合うアメリカのリアリティTVシリーズ『The Rap Game』に参加、見事優勝を果たした。その結果として彼女は So So Def Records との契約権を勝ち取るが、契約金が少ないという理由でこれを断り、インディでの活動を選んだ。同年には Georgia Music Awards にて Youth Hip Hop/R&B Award も受賞した。

2017年頃から EP やミックステープを継続的にリリースしてきた彼女は、2020年に RCA Records と契約を結び、Gucci Mane や NLE Choppa らとの共演も果たした。

【代表曲】

No Panties

Muwop (feat. Gucci Mane)

Calboy

【本名】Calvin Woods

【生年月日】1999年4月3日

【出身地】イリノイ州シカゴ

音楽活動を始める前は絵を描いて過ごしていたという彼は、2015年から Kidd Cal 名義で楽曲を公開し始める。

2017年には初のミックステープ『Anxiety』を、2018年には Paper Gang Inc. からセカンドミックステープ『Calboy the Wild Boy』をリリース。同年、シングル『Envy Me』がダンスチャレンジによりバイラルヒットし、ますます知名度を上げた彼は、Kodak Black のツアーへの参加も果たした。

2019年には、RCA Records と Polo Grounds Music からEP『Wildboy』をリリース。Moneybagg Yo や Lil Durk、Yo Gotti、Polo G、Meek Mill、Young Thug らをフィーチャーした同作は、US Billboard チャートにて最高30位を記録した。Chance the Rapper のアルバムへの参加も果たした彼は、2020年、EP『Long Live the Kings』をリリース。同郷シカゴのラッパー Lil Durk から強く影響を受けた若手ラッパーの1人である。

Calboy についての記事はこちらから↓

【代表曲】

Envy Me

Givenchy Kickin (feat. Lil Baby & Lil Tjay)

CHIKA

【本名】Jane Chika Oranika

【生年月日】1997年3月9日

【出身地】アラバマ州モンゴメリー

CHIKA は幼い頃から音楽の才能を認められ、バークリー音楽大学への進学も認められていたものの、高額な学費を払うことができずサウスアラバマ大学に進学した。

アメリカ大統領選の翌日にアフリカ系アメリカ人としての訴えを Instagram にポストしたり、トランプ支持者として知られる Kanye West を皮肉るフリースタイルラップを披露したりと、政治関連の動きで注目を集めた彼女は、2019年にデビューシングル『No Squares』をリリース。同年夏には Warner Records と契約を結び、さらに2つのシングルを発表した。

2020年には EP『Industry Games』をリリース。彼女は NPR の Tiny Desk Concert にも出演するなど、今最も注目されているアーティストの1人である。

【代表曲】

Can’t Explain It (feat. Charlie Wilson)

CROWN

Fivio Foreign

【本名】Maxie Lee Ryles III

【生年月日】1990年3月29日

【出身地】ニューヨーク州ブルックリン

2011年に Lite Fivio 名義でラップを始めた彼は、2013年に Fivio Foreign に改名し、800 Foreign Side なるコレクティブ を結成。

2019年リリースの EP『Pain and Love』収録の『Big Drip』のバイラルヒットでようやく注目を浴びた彼は、Columbia Records と100万ドル (約1億円) の契約を結んだ。

2020年、EP『800 BC』をリリースした彼は、Drake のアルバムへの参加も果たした。今年のフレッシュマン選出者の中では最年長 (選出時点で30歳) である。

Fivio Foreign についての記事はこちらから↓

【代表曲】

Big Drip

K Lo K (feat. Tory Lanez)

24kGoldn

【本名】Golden Landis Von Jones

【生年月日】2000年11月13日

【出身地】カリフォルニア州サンフランシスコ

カリフォルニア州ロサンゼルスで生を受け、後にサンフランシスコに移住した彼は、2019年にリリースしたシングル『Valentino』のバイラルヒットで一躍ブレイク。彼は、同曲のヒットを受け LLC、Columbia Records と契約を結び、デビュー EP 『Dropped Outta College』をリリース。彼の楽曲『Game on Your Phone』が人気ゲーム『NBA 2K20』のサウンドトラックに選ばれるなど、西海岸出身の注目ラッパーの1人である。

【代表曲】

Valentino

Mood (feat. iann dior)

Lil Tjay

【本名】Tione Jayden Merritt

【生年月日】2001年4月30日

【出身地】ニューヨーク州サウスブロンクス

15歳の頃に強盗罪で逮捕され、服役中にリリックを書き始めたという Lil Tjay は、2017年にデビュー曲『Resume』をリリース。同曲や、その後リリースした『Brothers』がバイラルヒットし、さらに Polo G との楽曲『Pop Out』は US Billboard Hot 100 チャートにて最高11位を記録。

2019年にはデビュー・アルバム『True 2 Myself』(US Billboard 5位デビュー) を、2020年には EP『State of Emergency』をリリースした。

Lil Tjay についての記事はこちらから↓

【代表曲】

F.N

Zoo York (feat. Fivio Foreign & Pop Smoke)

Jetsonmade (ミュージックキュレーター選出)

【本名】Tahj Morgan

【生年月日】不詳

【出身地】サウスカロライナ州コロンビア

サウスカロライナ州コロンビアで生を受けた彼は、2010年 (当時13歳) 頃から Garageband を使い楽曲作りを始め、翌年2011年には本格的にトラックメイクを始める。

21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加をきっかけに、DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たし、彼のコラボレーターとしてよく知られる DaBaby の楽曲を手掛けるようになる。DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。

2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たした。2020年には、Playboi Carti のシングル『@ MEH』や J. Cole のシングル『Lion King on Ice』の制作にも携わるなど、現行ヒップホップシーンを代表するプロデューサーの1人である。

Jetsonmade についての記事はこちらから↓

【代表曲】

DaBaby – Suge

Playboi Carti – @ MEH

Written by Riku Hirai

中華トラップビート – ヒップホップシーンで異彩を放つ怪ビートたち

ビデオゲームのBGMのようなピコピコトラック、Playboi Carti や Lil Uzi Vert らが得意とする浮遊感のあるトラック、極端に音数が少なくバスドラムが響く重低音トラックなど。トラップミュージックが急速に人気を博して数年たった今、数々のプロデューサーたちが多種多様なトラックを生み出し続けています。

その中でも、ここ数年のヒップホップシーンにおいて一際異彩を放ちながらも、数々のラッパーたちによって使用されているのが「中華トラップビート」です。「中華トラップビート」とは、民族楽器などの独特な音色によるメロディーを主軸として構成されている、中国的なビートのことです。

三弦のような弦楽器や、笙と呼ばれる中国の管楽器などの音色が用いられることが多く、再生ボタンを押した瞬間に中国の繁華街を歩いている気分にさせてくれます。今回は、数あるトラップビートのジャンルの中から、この「中華トラップビート」が用いられている楽曲についてご紹介していこうとおもいます。

流行の発端

中国的な雰囲気を感じられるトラックは、随分前からちらほらと見受けられましたが、やはり流行の発端となったのは、中国出身のヒップホップグループである Higher Brothers の『Made In China』ではないでしょうか。彼らは、中国でヒップホップシーンが盛んになり始めたタイミングで、チャイニーズラップらしい中華ビートを採用した楽曲をリリースしました。Future や Young Thug などとの共演で有名なプロデューサー Richie Souf による中華トラックに加え、シカゴのラッパー である Famous Dex をゲストに招いたことで、チャイニーズスタイルのトラップミュージックが瞬く間に全世界に広がりました。

中国のヒップホップシーンはもちろんのこと、海外からの注目も集めることに成功した彼らは、のちにリリースしたアルバムに ScHoolboy Q や J.I.D、KOHH などを招くことで、さらなる知名度を獲得していきます。そのなかでも、Ski Mask The Slump God と Denzel Curry を招いた楽曲『One Punch Man』は、Ronny J による中華ビートの上で中国語と英語が混同した勢いのあるラップが話題を呼びました。

MV も少林寺拳法をテーマにしたものとなっており、彼らの武器であるチャイニーズラップの独特なスタイルを全面に押し出しています。もちろん、中国的なトラックが流行した要因が100%彼らにあるとは言い難いですが、アジア圏の文化がクールであるという認知を世界中にもたらした点では、間違いなく彼らの存在は大きいのではないかと思われます。

USヒップホップシーンでの事例

本章では、ここ数年でアメリカのヒップホップシーンでもよく耳にするようになった中華トラップビートを採用した楽曲の中から、重要なものを取り上げてご紹介していきます。まずは、ご存知の方も多いと思われるこちらの楽曲から。

Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するラッパー Gunna のデビューアルバム『Drip or Drown 2』に収録されている『Who You Foolin』という楽曲です。Wheezy による高級中華料理店のBGMのような中華トラップビートに、Gunna がしっとりと哀愁のあるラップを載せています。

ちなみに、Wheezy がサンプリングしたのは、中国の人気歌手である Tong Li の『童麗』という楽曲です。メロディはそのまま使用されており、Wheezy はドラムスを重ねただけです。しかし、今となっては原曲のYouTube のコメント欄には「Gunna から」「Gunna が俺をここに導いてくれた」など、Gunna リスナーによるコメントしか見当たりません。

ビートこそ中国的ですが、『ギャングスタだって、たまにはハグが必要なんだ』『リアルであれ。ストリートはお前を愛してくれないぜ。』などと切れ味のあるソリッドなラップを披露しており、内容とトラックのミスマッチ感が楽曲をより一層興味深いものにしています。

先ほど『Who You Foolin』が Wheezy によるプロデユースとご紹介いたしましたが、Wheezy は上質な中華トラップビートを制作することに定評があります。最近では、Iann Dior のニュープロジェクト『I’m Gone』に収録され、Lil Baby をゲストに招いた楽曲『Prospect』も、Wheezy にる中華ビートが採用されており、こちらも『Who You Foolin』に似た雰囲気を感じることができます。

次にご紹介するのは、Setitoff83 というノースカロライナのラッパーによる楽曲です。彼は、Rich The Kid が率いるレコードレーベル Rich Forever に所属するヒップホップトリオ 83 Babies のメンバーで、Stunna 4 Vegas などのような勢いのあるオフビート気味のラップを得意とするラッパーです。

中国雑技団の舞台を連想するようなユニークな音色のメロディループが特徴的な一曲です。レコードレーベルのボスである Rich the Kid をゲストに呼んでおり、彼らしいオフビートなスタイルを味わえます。

三弦などの弦楽器の音色をトラックに使用、またはサンプリングすることで中国的な雰囲気を醸し出すパターンが「中華トラップビート」では王道なようです。それでは、弦楽器以外の音色やサウンドを採用した中華ビートの事例についてもみてみましょう。

Polo G の最新作『THE GOAT』に収録されている『Chinatown』という楽曲です。こちらの楽曲に関しては、タイトルから察しがつく通り、もちろん中華ビートが採用されています。チャイナタウンというだけあって、特定の楽器によるメロディラインというよりは、チャイナタウンの街の喧騒のようなサウンドにドラムスを重ねた怪ビートとなっています。

今回のテーマである「中華トラップビート」からは少し外れてしまいますが、一曲だけ他ジャンルからも中華風のものをご紹介いたします。

皆さんご存知の Justin Bieber が2014年にリリースしたアルバム『Purpose』に収録されている『Hit the Ground』という楽曲です。同アルバムには、Travis Scott や Nas、Big Sean などがクレジットされていることもあり、今回の趣旨から大きく逸脱してしまうわけではないので、ご紹介させていただきます。

ダブ・ステップというジャンルを得意とし、ダンスミュージックシーンを牽引し続けているアーティスト Skrillex などによってプロデュースされた一曲で、フックにあたるメロディーバースに中国的なエッセンスが加えられています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は、近年のヒップホップシーンにおいて異彩を放つ『中華トラップビート』に焦点を当てて、その多様性や成り立ちについて考察してきました。今回ご紹介できた楽曲以外にも、中華ビートに該当するものはたくさんありますので、皆さんも中華トラップビートを探してみてはいかがでしょうか。

written by whoiskosuke

Roddy Ricch のニューアルバムが完成していると発覚

今年にリリースされた DaBaby の楽曲『ROCKSTAR』が大ヒットを記録し、昨年から飛ぶ鳥を落とす勢いの Roddy Ricch。

そんな彼が GQ のインタビューにてニューアルバムが完成しているとコメントした。

今すぐニューアルバムをリリースしても良いかな?まあ、しないんだけど。

GQ

このコメントに対して、インタビュアーが「それはまだ準備できていないから?」と質問すると、以下のように答えた。

準備できているか出来ていないかじゃないんだ。タイミングの問題だよ。俺はここぞという時にドロップしたいんだ。次のアルバムは最高の傑作に違いないよ。

クレジットされていれば売れるというレベルにまで到達した Roddy Ricch。彼のアルバムが今年中にリリースされる可能性も十分あるだろう。

今週のリリース【8月9日〜】

Young Dolph – Rich Slave

Burna Boy – Twice As Tall

Dave East – Karma 3

Kaash Paige – Teenage Fever

Black Noi$e – OBLIVION

Jacob Collier – Djesse, Vol. 3

Boldy James & Jay Versace – The Versace Tape

03 Greedo & RONRONTHEPRODUCER – Load It Up, Vol. 01

Lil Mosey – Certified Hitmaker (AVA Leak)

Trav – Nothing Happens Over Night

Tom The Mail Man – Liephas Evil

2FeetBino – A Story Never Told

Ronny J – Jupiter

Kenny Man – Bale Talk 3

Baby Money – Bank Checc

Loveboat Luciano – IBTS 2

Tech N9ne – MORE FEAR (EP)

Guapdad 4000 – Platinum Falcon Returns (EP)

Jordin Sparks – Sounds Like Me (EP)

Coi Leray – Now or Never (EP)

[シングル]

Drake – Laugh Now Cry Later (feat. Lil Durk)

Nas – Ultra Black (feat. Hit-Boy)

Mac Miller – Ayye / Back in the Day

Snoop Dogg – Nipsey Blue

Internet Money & Gunna – Lemonade (feat. NAV & Don Toliver)

YoungBoy Never Broke Again – Kacey Talk

Jaden Smith – Rainbow Bap

EarthGang – Powered Up

Sheff G & Sleepy Hallow – Tip Toe

Rico Nasty – IPHONE

Nines – Clout

Smokepurpp – Said a Lotta Things

T$an – Never Mattered

IDRYS – Lucky Day

They. – All Mine

K suave – Perky97* (feat. Playboi Carti)

Money Mu – Hittin’ (Remix) [feat. Moneybagg Yo & Foogiano]

Buddy – Ain’t Sweet (feat. Matt OX)

Russ – Throne Talks

Adam Show – After Party (feat. Tory Lanez)

Cookiee Kawaii & Tyga – Vibe (If I Back It Up)

YBN Nahmir – I Remember

Blocboy JB – No Dribble Freestyle

Yung Blud & Denzel Curry – Lemonade

Anderson.Paak – Cut Em In(feat. Rick Ross)

Brokeasf – How (feat. 42 Dugg)

Kooly Bros & Young Thug – Risk (Main)

Dee Watkins – Cash App (feat. Jackboy)

ATL Jacob – Tuck Your Heart

Sunny Diamoinds – Mikey Polo (feat. Famous Dex)

Sada Baby – Whole Lotta Choppas

Lil Keed – アトランタが誇る次世代のラップスター

Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するジョージア州アトランタ出身の注目ラッパー Lil Keed (リル・キード)。XXL Freshman Class 2020の有力候補の1人であり、本日セカンド・アルバム『Trapped On Cleveland 3』をリリースした彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。

生い立ち

I come from the jungle where you don’t survive. 

他の奴らは生き抜くことができないような、ジャングルみたいな場所からやって来たんだ

1998年3月16日、ジョージア州アトランタにて生を受けた Lil Keed こと Raqhid Jevon Render は、幼少期を Forest Park で過ごした後、Cleveland Ave に引っ越します。この Cleveland Ave はアトランタのゾーン3に位置しており (アトランタは、警察によって1~6までの管轄地区に分けられており、アトランタのスター Young Thug もゾーン3で生まれ育ちました) 、彼は6人の兄弟とともに貧しく過酷な環境下で生活していたそうです。

キャリアの開始とミックステープ

学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた彼は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組むようになります。

Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 Young Thug の影響を強く感じさせるハイピッチで歌うスタイルが彼の特徴です。

亡き親友 Rudy が繋いでくれたというプロデューサー Mooktoven とタッグを組んだ同作が、彼らの地元ゾーン3を中心に人気を集め、ストリートヒットとなります。

このヒットを機に、Keed は憧れのラッパー Young Thug に自身の楽曲を聴いてもらうチャンスを掴みます。

ゾーン3に訪れた Young Thug に、同作収録の『Bag』を聴かせる Lil Keed。

この出来事を経て、Keed は Young Thug に気に入られ、後に Young Stoner Life Records (以下 YSL Records) と契約を結ぶこととなります。

2018年、ミックステープ『Slime Avenue』や『Trapped On Cleveland 2』のリリースでますます注目を集めた彼は、同年末に YSL Records からミックステープ『Keed Talk to ‘Em』をリリースします。

同作には Trippie Redd や 21 Savage、Lil YachtyLil Durk、Brandy ら大物アーティストが多数参加し、Lil Keed はアトランタから世界へ、一躍名を馳せることになります。

Nameless

she see the YSL chain shining

彼女が俺の輝く YSL チェーンを見ている

Young Thug のようなハイピッチ・フロウとキャッチーなコーラスが特徴的な1曲。女性との関係や掴んだ成功について歌った同曲がバイラルヒットし、US Billboard チャートにて最高30位を記録、後にゴールド認定されます。

デビュー・アルバム『Long Live Mexico』

2019年6月、Lil Keed は待望のデビュー・アルバム『Long Live Mexico』をリリースします。タイトルの『Long Live Mexico』とは、同年始に亡くなった彼の友人 Mexico に追悼の意を表したものです。

Young Thug や Gunna、NAV、Moneybagg Yo、Lil Uzi VertYNW Melly、Roddy Ricch らを含む13名を客演に迎えた同作は、US Billboard チャートにて最高26位を記録します。

Snake

CuBeatz & Pyrex Whippa プロデュースによるウクレレのようなストリングスを用いたスロウなトラックと、「Snake」を連呼するだけのシンプルなフックが特徴的な1曲。2バース目入りの苦しそうなハイピッチ・フロウが彼の持ち味で、まさに Young Thug のハイピッチ・パートをそのまま受け継いで進化させたかのようなスタイルを披露します。

Pull Up (feat. Lil Uzi Vert & YNW Melly)

Producer 20 & Jetsonmade プロデュースによる笛系シンセを用いたビートの上で、Lil Keed、Lil Uzi Vert、YNW Melly の3人が金や車、女性などについて歌う1曲。メロディアスなラップを得意とする彼らが、それぞれのフロウで魅力を発揮しています。

様々なアーティストとの共演

2018年から次々と作品をリリースし、憧れの Young Thug に認められたのち YSL Records と契約、更には XXL Freshman Class 2019 にもノミネートされるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いでスターダムを駆け上がってきた Lil Keed。そんな彼は、YSL Records やアトランタのラッパーを中心に、様々なアーティストと共演するようになります。

Young Thug – Goin Up (feat. Lil Keed)

まずは Keed をフックアップした Young Thug との1曲。彼らが出会って間もない時期に制作した楽曲ですが、2人は既に最高のコンビネーションを発揮しています。Thug がイントロで「Keed, yeah」とシャウトアウトする部分や、似たような声質から放たれる両者のハイピッチ・フロウから、彼らが本当の親子だと勘違いするファンもいたほどです (年齢的にはあり得ませんが)。実際 Thug は、Keed を実の息子のように可愛がっています。まさに Keed は、アトランタ・ヒップホップシーンの結束力と Young Thug の多大な影響力が生んだネクストスターといえるでしょう。

※Young Thug がシーンに与えた影響については、以下の記事をご覧ください。

Jacquees – Hot For Me (feat. Lil Keed & Lil Gotit)

ジョージア州ディケーターの R&B シンガー Jacquees の1曲に、Keed は実弟の Lil Gotit と共に参加しています。Keed のシグネチャーである「Keed talk to ’em」の連呼で始まる彼のヴァースは、地声のラップからアドリブと共にハイピッチ・フロウに切り替わっていく展開で、R&B サウンドにしっかり順応しています。優れた歌唱力と美しい歌声を持つ Jacquees と、それに負けじと必死にハイピッチで歌う Keed の2人だからこそ成せる絶妙なコンビネーションです。

88GLAM – Bankroll (feat. Lil Keed)

カナダ・トロントのヒップホップ・デュオ 88GLAM との1曲。Keed は、お得意のハイピッチ・フロウに加え Young Thug のようなダミ声も披露しており、客演にも関わらず主役級の存在感を放っています。Keed はどの楽曲でも同じようなラップをしていると思われがちですが、自分のスタイルを貫きながらも随所に様々な工夫を凝らしており、インタビューでも以下のように語っています。

After just every day being in the studio, trying new things. 

俺はいつも新しいことを試してる

I don’t want people to be like, ‘He sounds the same on every song, that shit’s boring!’ 

「Keed の曲は全部同じでつまらない」って思われたくないんだ

I can sing. I can do straight rap. I do melodies. 

俺は歌えるし、ラップも出来るし、メロディも作れる

I do rockstar shit. It’s real genuine.

ロックだって出来るよ これはマジなんだ

REVOLT

Zaytoven, Lil Keed & Lil Yachty – Accomplishments

同郷アトランタの Zaytoven、Lil Yachty との1曲。Zaytoven のダークなビートと Lil Yachty の脱力ラップ、そして Keed のハイピッチ・フロウと、良い意味で不安感を煽られる楽曲です。 彼らは2020年2月に同曲を収録したコラボ・プロジェクト『A-Team』をリリースしています。未聴の方は是非。

Tee Grizzley – Slime (feat. Lil Keed)

ミシガン州デトロイトのラッパー Tee Grizzley との1曲。Tee Grizzley のハードなラップに続いて、Keed はハイテンポなビートを乗りこなしながら自由なラップを披露します。真面目にラップする Tee Grizzley と、奇妙なアドリブやフロウを聴かせる Keed の相性が意外にもマッチした楽曲です。

johan lenox, Lil Keed & Kota the Friend – throwback thursday

マサチューセッツ州ボストンのシンガー/プロデューサー johan lenox との1曲。Keed とオーケストラ・サウンドという一見意外な組み合わせですが、彼は johan lenox にも Kota the  Friend にもない新たなエッセンスを楽曲に加えており、三者三様のコントラストが魅力的な楽曲です。このようにヒップホップ (トラップ) 以外の楽曲にも起用される Keed は、同じく様々なジャンルの客演をこなす Young Thug に近い立ち位置を確立しつつあるのではないでしょうか。

おわりに

今回はアトランタの注目ラッパー Lil Keed についてまとめてみました。いかがだったでしょうか。

2019年、そして2020年と2年連続で XXL Freshman Class の候補者にノミネートされており、これからますます活躍が期待されている Lil Keed。実弟 Lil Gotit と共にアトランタのシーンを背負うビッグスターになる日も近いかもしれません。

最後までお読みいただきありがとうございました。

Written by Riku Hirai

『WAP』の MV に Kylie Jenner などの豪華キャストがカメオ出演

Cardi B が、昨年から飛ぶ鳥を落とす勢いの Megan Thee Stallion を客演に迎えた一曲『WAP』をリリースすると同時に、同曲の MV を公開。

CG と実写映像を巧みに織り込んだ同ミュージックビデオは圧倒的な完成度であることに加えて、Kylie Jenner、シンガーやダンサーとして活躍している Normani、スペイン出身のシンガー ROSALÍA といった豪華モデル・アーティストがカメオ出演している。

Normani
ROSALÍA
Kylie Jenner

新型コロナウイルスに対しても様々な経済的・人道的支援を行っている Cardi B。彼女の人気はまだまだ衰えを見せることはなさそうだ。

Frank Ocean の弟 Ryan Breaux が交通事故により死亡

過去に、本名の Lonny Breaux という名前で活動したこともある Frank Ocean。そんな彼の弟、Ryan Breaux が交通事故により死亡したとの報が舞いこんできた。

Ryan Breaux (左) と Frank Ocean

日曜日の午前1時半頃にカリフォルニア州のサウザンドオークスで二人の若者が交通事故により亡くなったとの報道がなされていたが、それが Frank Ocean の弟である Ryan Breaux だと判明した。

マチズモ的な父親の態度に幼少の頃から苦しめられていた Frank Ocean とその一家。弟の Ryan Breaux も含め、被害者である母親や家族に愛の眼差しをいつも向けていた Frank Ocean だけに、今回の出来事による精神的ダメージは計り知れないだろう。

The Life of Kanye – ヒップホップから偏見を取り除いた Kanye West の全て

突然ですが、あなたは Kanye West という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?「変人」「宇宙人」などなど、最近の一連の行動を見ていると、あらかたの人が Kanye に対して不信感や偏見を持っているかもしれませんが、彼の音楽面における影響力は絶大なものなんです。

ということで、今回はそんな Kanye West の全てがわかる記事をご用意しました。Kanye がリリースしたほぼ全てのプロジェクトを通して、彼の音楽の全貌に迫りましょう。

Kanye West とは?

Kanye West (以下、Kanye) は1977年6月8日にアトランタで生まれ、イリノイ州のシカゴで育った現在43歳のプロデューサー・ラッパー・ファッションデザイナーです。ここでまず最初に注目してほしいのは、彼が元々プロデューサーであったという事です。

プロデューサー・Kanye West

彼は1990年代に学生として大学に通いながら、プロデューサーとしての仕事を始めました。しかしなかなかヒットには恵まれません。実はこの時期に、ソロデビューを果たすためにかなりレーベル探しに苦労しており、Capitol Records からソロアルバムを出すということがほとんど目前まで決まっていたところで契約が白紙になってしまったこともありました。

好機が訪れたのは2000年代になってからのこと。オールドスクールとニュースクールのハブ的存在、 Jay-Z との出逢いです。そして、Jay-Z にプロデューサーとしての資質を買われて Roc-a-Fella Records とプロデューサーとして契約を結びます。

Jay-Z

そして、これを機に彼は一気にトップアーティストへと上り詰めます。 早速彼は Jay-Z の2001年のアルバム『The Blueprint』において13曲中4曲をプロデュースします。ではこの中から2曲、紹介いたします。

Jay-Z -『The Blueprint』

Jay-Z – Takeover

この曲はジム・モリソンの所属していたアメリカ西海岸出身の世界的バンド The Doors の『Five to One』や David Bowie の『Flame』を大胆にサンプリングした一曲です。また、この曲は Nas をディスってビーフになったことでかなり有名な一曲でもあります。今でこそゴスペルのイメージが強い彼も、源流はサンプリング&ループビートなんです。

Jay-Z – Izzo

続いては『Izzo』ですが、この曲のビートどっかで聞いたことがあるなと感じた方もいらっしゃることでしょう。そうなんです、これは Jackson 5 の『I Want You Back』をサンプリングした一曲なんです。大胆に様々なジャンルに闖入しうる彼の才能は、この時代から顕在ですね。

Common – They say (feat.Kanye West & John Legend

Jay-Z の他にも、 シカゴヒップホップの開拓者ともいえる Common のアルバム『Be』にて、11曲中9曲を Kanye がプロデュースします。では一曲お聞きいただきましょう。Common で『They say (feat.Kanye West & John Legend』 です。

John Legendの聞き心地のよいコーラスから始まる、気持ち良さと軽快さを兼ね備えたビートですね。聴いた人は分かると思いますが、2バース目はカニエのラップパートになっています。

また、R&B においても、彼はプロデューサーとしての才能を開花させていきます。プロデュースした中で有名なものに、Alicia Keys の『You Don’t Know My Name』があります。

Alicia Keys -『You Don’t Know My Name』

往年のソウルビートにコーラスやピアノサウンドを加え、蜿蜿とうなるように音階が変化していく広がりを持ったサウンドが特徴的な素晴らしい曲ですね。

ここまで Kanye のプロデュースシリーズをざっくり紹介していったんですが、「カニエの信仰心の深さはどこからきているのか」が不思議な方もいると思います。実は先ほどの Alicia Keys のアルバムが出るよりも前、2002年の10月23日の出来事を機に、Kanye は信仰心に目覚めます。それは、この日のレコーディング終わり、車に乗って家まで向かう帰路のことでした。

この時、Kanye は居眠り運転をして大怪我を負います。この事故について、後々カニエは「神が救ってくれた」とコメントしており、この出来事で信仰心に目覚めます。

ラッパーとしての Kanye West

ここからは、ラッパーとして活動していく彼について書いていきます。少し長くなりますが、これを読めば Kanye の魅力がより一層理解できるようにまとめました。

Kanye の原点・温情的なサウンド

Kanye は2004年にソロデビューを果たします。そしてこれがいきなり全米チャート2位をとります。カニエファンならみんな大好き『The College Dropout』です。ちなみに、このアルバム名は仕事が忙しくなり、大学を中退したことを意味しています。

『The College Dropout』(2004)

The College Dropout (2004)

このアルバムは彼の信条である家族愛を感じるような温情的なサウンドだったり、でもどこか寂しげなリリックだったりを特徴としています。また、このアルバムのメイキングにおいて驚くべきことは、アルバムリリースの数ヶ月前に音源がリークされていることなんですが、彼はこれを故意的にやったと言っています。

これはリーク曲に対する世間の評判を見て、曲のマスタリングを変更したり、曲を没にしたりするためにやったそうです。実際に、東海岸のレジェンドクルー Wu-Tang Clan の Ol’ Dirty Bastard (通称:ODB) との楽曲『Keep the Receipt』をこのアルバムから外し、一年後の Roc-a-Fella Records から出したミックステープに収録していたりします。

Ol’ Dirty Bastard

The College Dropoutのオススメ曲

このアルバムでのオススメ曲としては、まずは Chaka Khan の『Through the Fire』を大胆にサンプリングした楽曲『Through The Wire』です。 『Through the Fire』(炎の中で) を 『Through the Wire』(ワイヤーの間から)というお茶目なワードプレイに変えちゃう辺りは彼らしくて面白いですね。

気持ちいいサンプリングですね。この曲は一部分のループだけじゃなく、サビをまるごとサンプリングするという大胆な手法を使っていて、それにも関わらずバースに入る部分にも違和感が全くありませんね。

ちなみにこの曲のレコーディングなんですが、Kanye は先ほど言いました居眠り運転の事故で口にワイヤーをいれたままの生活を強いられていて、そしてレコーディングまでワイヤーをつけたまま行いました。そう思って聴いてみると、確かにハッキリ言葉を発していないように聞こえますね。

クラシックへの傾倒

『Late Registration』(2005)

続いては『Late Registration』です。こちらは、リリース後10週連続で全米チャート1位をとり、これ以降のアルバムでKanye はチャートを総ナメしてしていくのですが、今作は前作と比べてかなりクラシック的要素が強くなっています。このアルバムの制作における裏話に、上述の Common のアルバム制作の時に「俺ならこうやってラップするぜ」と思っていたそうで、そこから着想を得たそうです。

勿論、Jay・Z や Nas、The Game、さらには Brandy や Maroon5 の Adam なども客演に迎えた崇高な仕上がりになっています。このアルバムを契機として、温かみやチープさといった印象を払拭した楽曲の作り方をしています。また、このアルバムでは Pop 界のレジェンドプロデューサー Jon Brion を外部プロデューサーとして迎え入れていることで、前作とはまた違ったサウンドの幅を感じます。

Late Registrationのオススメ曲

オススメ曲は Brandy を客演に迎えた『Bring Me Down』です。

こちらはオーケストラの生演奏によるライブの様子

こちらは悲しげな情緒を伺わせるビートにブランディの歌声やカニエのラップがとろけ合うクラシック的一曲となっていますね。カニエの楽曲はやはり、ギャングスターラップ特有の男臭さが消えていてこれがまた素晴らしいですね。他にも独特の電子音から始まる『Celebration』など、このアルバムは前作よりも少し前衛的な構成で出来た曲が多いように感じます。

また、2006年には Pharrell Williams のアルバム『In My Mind』の制作に協力していたり、様々なジャンルを横断した楽曲を作り続けます。

Pharrell Williams

エレクトロニクスへの傾倒

『Graduation』(2007)

そして、2007年には『Graduation』を発表します。このアルバムは、50cent の『Curtis』と同日に発表されたこともあり、二人のセールス対決にも注目が集まりました。結果としては、Kanye が大きく差を開けて売り上げを伸ばし、翌年のグラミー賞で最優秀ラップ・アルバム賞を受賞することになります。また、アルバムのアートワークが日本の現代アートの神様・村上隆氏によって手掛けられており、これまでにも増して、特徴的なビジュアルとなっています。

このアルバムでは、エレクトロニックサウンドへの傾倒が注目されがちですが、ニューヨーク出身の伝説的バンド Steely Dan のサンプリングなど、今までにも増してヒップホップの可能性を無限大に広げ、そのジャンルをメインジャンルに押し上げたアルバムであることも特筆すべき点です。また、一曲一曲がクリアにミキシングされているので、以前にも増して粗雑感が消えています。

Graduationのオススメ曲

2006年に先行シングルで発表し、世間に衝撃を与えた一曲『Stronger』をオススメします。

最高ですね。この曲を聞いたことのある人が多い理由はサンプリング元が Daft Punk の『Harder Better Faster Stronger』だからです。にしても、天才的なサンプリングセンスとしか言いようがありません。

オートチューンの旗手・Kanye West

808s&Heartbreak(2008)

続きまして、『808s&Heartbreak』です。これまた全米1位を取っちゃうんですが、このタイトルの「808」というのは、日本が誇る世界的電子機器メーカー「Roland」の名機である「TR808」を指していて、これが随所で使用されています。

そして、特筆すべき点としては、彼がオートチューンを使った歌唱を中心としてアルバムを作っているところです。実は、現在トラップミュージックを中心に当然のようにヒップホップ界で使われているオートチューンですが、実は Kanye がこのアルバムで使ったことで、様々なアーティストがオートチューンを使うようになったんです。

また、このアルバムがでる前年の母の死や Alexis Phipher との破局など、彼が辛い時期に味わった「Heartbreak」(傷心) が随所で表現されています。

808s&Heartbreakのオススメ曲

オススメ曲は一曲目の『Say You Will』です。

この曲のサウンドで登場するピコピコ音が心電図のように作用し、母の死と彼の心が傷ついているという二つのコノテーションを含んでいるように感じさせられます。 また、リリックも情緒的なものになっています。

When I grab your neck, I touch your soul.
Take off your cool then lose control.

君の首を握った時、君の魂を感じるんだ。
君から冷静さを奪って、滅茶苦茶になろう。

ジャンルレスな存在・Kanye West

『My Beautiful Dark Twisted Fantasy, Watch The Throne』(2010)

2010年にリリースされたこのアルバムは何とも簡易な言葉で表現できない仕上がりとなっています。『Graduation』で結実させたヒップホップのメソッドを一度解像度を落とすことで、荒唐無稽とも言えるほど荒涼とした、かつ希死念慮までもを含んだ酸鼻の情緒の波に音階を同調させています。確かに新しさこそ感じることは少ないのですが、それでも彼がそれまで積み上げてきたその全てがこのアルバムには詰まっています。

Jay-Z や Rick Ross、John Legend、Alicia Keys、Rihanna、Bon Iver や Elton John までを客演に呼んだこのアルバムはピッチフォークをはじめ、ローリングストーン誌など、各音楽批評のトップメディアから満点の評価を叩き出しました。

それでもグラミー賞の年間最優秀アルバム賞を得られなかったことを考えれば、彼が Jay-Z と共にその授賞式を辞退したことはやむを得ないのかもしれませんね。

『My Beautiful Dark Twisted Fantasy, Watch The Throne』のオススメ曲

Pusha T をフィーチャーした一曲『Runaway』です。

Let’s have a toast for the douchebags.

勘違い野郎に乾杯だ。

たった1音の旋律から増幅するこの曲は、かなり教示的な一曲だと感じると同時に、その自嘲的なリリックにユーモアさえ感じとることができます。Taylor Swift のMTV授賞式を邪魔するという失敬によって彼はハワイでレコーディングをせざるを得なくなったわけですが、唖然とするほどストイックにレコーディングを行ったそうです。モデルの Amber Rose との破局もあったのですが Kanye は心が不安定な時こそ最高の音楽を作ってしまうんですね。

続いては、Fergie、Alicia Keys、Elton John、Rihanna や Kid Cudi といったスターたちを次々に使う『All Of The Lights』 です。

2. All Of The Lights

PV も最高ですね。少女が歩くシーンから始まる映像は曲にぴったりで、ビートが鳴り出した瞬間の高揚感はたまらないですね。途中のコーラスからの畳み掛けるような勢いは本当にたまらないです。

『Watch the Throne』(2011)

辛い時期を闘った Kanye なんですが、2011年には Roc-a-Fella Records と Def Jam Recordings より、恩人 Jay-Z と共作のアルバム『Watch the Throne』をリリースします。このプロジェクトは元々、EPとして発表するつもりだったのですが、色々な構想がうまく行くうちにアルバムにしてしまおう、となって作られたアルバムです。

このアルバムには、Frank Ocean が2曲もメイン客演として入っていたり、The Dream や Beyonce なども参加しています。そして、このアルバムから大量にプロモーションビデオが出されたことでも世間を驚かせました。

『Watch the Throne』のオススメ曲

Frank Ocean と The Dream をフィーチャーし、プロデューサーに 88Keys とMike Dean を加えた一曲目『No Church In The Wild』 です。

どこかしらに野生的な攻撃性を感じさせる曲調にはアドレナリンが吹き出しそうになります。曲調が特徴的なことに加え、リリックも意味深いものとなっています。

What’s a god to a non-believer who don’t believe in anything? Will he make it alive? Alright, alright, no church in the wild.

何も信じちゃいない無神論者にとって神(救い)って何なんだ?彼は生き抜くことができるのか?わかってるよ、荒れ果てた場所(彼らの住む場所)に教会(救い)なんて無いってことは。

このラインは Frank Ocean のコーラスの一部で、この曲中で三回出てくる印象的なフレーズなんですが、これはギャングの世界 (wild) を生きるラッパー達は神なんてものにすがっていたら生きていけないということを意味しています。

また、面白いなと思うのが、普通アメリカの宗教の大部分を占めるキリスト教にとってもイスラム教徒などにとっても神は唯一の存在(唯一神)なので、「the God」と表記するのが当然なのですが、ここでは無神論者からの目線のリリックなので、「a god」と書かれています。神に救いなど求めないという姿勢が表現された一曲ですね。

『Kanye West Presents GOOD Music Cruel Summer』(2012)

続いては、Kanye が自ら2004年に作ったレーベルで Def Jam Recordings の傘下である GOOD Music より出されたレーベルアルバムの『GOOD Music-Cruel Summer』です。こちらはレーベルでのアルバムにはなりますが、Kanye によるプロデュースアルバムで、彼自身が楽曲に多く参加しているので紹介いたします。

『Cruel Summer』のオススメ曲

『I Don’t Like ft. Pusha T, Chief Keef, Jadakiss& Big Sean』

この曲は、客演の一人でシカゴ出身のラッパー Chief Keef の一年前の曲をカニエがサンプリングしていますので、そちらの方で聞き覚えがある方もいると思います。美しい旋律だけでなく、ここまで攻撃的でアンダーグラウンドなビートもやってのける彼には驚嘆ですね。

転調の神・Kanye West

『Yeezus』(2013)

そして2年の時が過ぎ、7作目のアルバム『Yeezus』をリリース。このアルバムはこれまでずっと続いてきた Roc-a-Fella Records と Def Jam Recordings から出される最後のアルバムとなります。次回作からは GOOD Music と Def Jam Recordings よりリリースされるようになります。

今作はプロデューサーとして Mike Dean や Daft Punk、Arca や Travis Scott を招いていて、この作品でも革新的な電子サウンドを取り込んだ楽曲が多くみられます。また、リリースされる15日ほど前にプロデューサー Rick Rubinを招き、このアルバムをさらに凝縮するべく、マスタリングをギリギリまで行っています。

そして、何よりこのアルバムの特徴といえば、転調の多さです。この転調の多さは Travis Scott にもかなり影響を与えたようで、転調の王者 Travis Scott の原点とも言えるアルバムでしょう。

『Yeezus』のオススメ曲

まずは、Travis Scott を中心に Mike Dean なども共にプロデュースした一曲『New Slaves』です。

『New Slave』

この曲では一見単純そうなビートが繰り返されているように思いますが、その後ろで水の沸騰するようなポコポコとした音やコーラス・バスドラムのサウンドなど細部まで精巧に作り上げられています。そして驚くべきは2分51秒の転調の衝撃ですね。

『Bound 2』

このビートはアメリカのソウルグループ Ponderosa Twins Plus Onにより1971年にリリースされたアルバム『2 + 2 + 1 =』の一曲『Bound』の大胆なサンプリングを軸に作られています。「Uh-huh, honey」というフレーズが頭から離れませんね。Youtube の PV はピアノの伴奏から始まる Explicit バージョンとなっているので是非原曲とも聴き比べてみてくださいね。

ゴスペルへの傾倒

『The Life of Pablo』

The Life of Pabloのオススメ曲

正直全部オススメなんですが、抜粋して紹介していきたいと思います。

『Ultralight Beam』

We don’t want no devils in the house, God. We want the Lord. And that’s it.

この家に悪魔なんていらないの、あなたを感じたいの、それだけ。

少女の上記のフレーズで始まる印象的なスタートの曲です。また、その女の子のインスタグラムにてそのサンプリング元を見ることができますので是非チェックしてみてください。

これはある女の子が神父の説法のモノマネみたいなことをしているところなんですね、なんとも愛らしい。そして曲は The-Dream と Kanye のバースに入ります。

We on an ultralight beam. This is a God dream. This is everything.

みんな神の光に包まれている。これが神の与えてくれる希望だ、それだけさ。

実はこのライン、初めの女の子の発言に対して呼応する構造になっているんですよね。また、ここでの神の光はつまり無償の愛、キリスト的用語で言えば、「アガペー」を意味するのでしょう。この曲では 女性シンガー Kelly Price の圧倒的歌唱力も味わうことができます。彼女は幼少の頃から教会に通い、ゴスペルに大きな影響を受けたシンガーです。

Kelly Price

そしてその後、Chance The Rapper の心地よいバースがあり、曲の終盤に Kirk Franklin を使ってしまうという徹底したゴスペルサウンドへのこだわりが随所に見られます。Kirk Franklin はゴスペルとヒップホップを融合し、アーバン・コンテンポラリー・ゴスペルを作り出した張本人でアメリカでも圧倒的人気を誇るアーティストなんです。

『Father Stretch My Hands, Pt.1』

この曲は Metro Boomin のプロデュースということですが、始まりから最高ですね。「stretch my hands」というのは神を賛美するときに天に向かって手を伸ばすことを意味していて、一般的な Sunday service (日曜礼拝)や祈りを捧げるときに行われる行為です。

ちなみに『Father I Stretch My Hands to Thee』という曲は James Cleveland の代表曲で、Kanye はこの曲を参考に作っています。

James Cleveland

まあこの曲は『Pt. 2』もあるので聞いてみてください。ちなみに『Pt. 2』はみなさんご存知 Desiigner の『Panda』を Kanye がリリース前にネットで見つけ、すぐさまサンプリングできるように権利を買い取ったとのことです。その Desiigner は『Freestyle4』にも客演で参加しており、この後一花咲かせるためのきっかけとなりました。

(Father Stretch My Hands)『Pt.2』

かなり推敲されきった楽曲ばかりですが、次の曲は完成度は本当に高いものの、そのリリックが物議を醸します。

『Famous』

I feel like me and Taylor might still have sex
Why? I made that bitch famous (Goddamn)

俺とテイラー(スウィフト)は今もやってるかもな。なぜかって、俺があのアマを有名にしたからだよ。

このリリックに対して Taylor Swift サイドがかなり批判したのですが、リリース前に Taylor Swift に許可を取っていたという電話をキム・カーダシアンが通話記録から発見し、一旦事態は収束しました。しかし、事態は今年になって急展開を見せました。なんと、結局は Kanye 夫妻が嘘をついていたというのがまたもや通話記録から発見されたのです。否定的なラインはその本人に悪影響を与えるため、Taylor Swift が怒る理由も理解できますね。

この楽曲もパワフルな Rihanna の声と緩慢とした Kanye のラップが荘重としたサウンドの上で見事なハーモニーを奏でています。また、この楽曲には Swizz Beatz も参加しており、彼のことを Kanye は史上最高のヒップホッププロデューサーだと言っています。

Swizz Beatz

続いては『Waves』です。この曲にはChance the RapperとChris Brownをフィーチャーしています。Chance the Rapper といえば、Kanye も認める凄腕ラッパーな訳ですが、彼が他の楽曲にも様々に「テコ入れ」を行ったことでリリースが遅れたとも言われていますから、彼のプロデュース力も底知れぬものなのでしょう

最後に僕のカニエの数々の曲の中で最も好きな曲を紹介します。

Saint Pablo

この楽曲・アルバムのタイトルにもなっている「Pablo」についてなのですが、これはキリストの使徒の一人である「パウロ」を指します。パウロはもともと、ユダヤ教徒のファリサイ派と呼ばれる過激な思想を持つ宗派に属しており、キリシタンを迫害し、嘲笑するような態度でした。しかし、突然キリストの声が聞こえ、目が見えなくなります。それをキリスト教徒が祈りにより直してしまいました。そのような経験から彼はキリスト教へと回心したのです。『The Life of Pablo』はそんな人の人生というのがテーマのアルバムなのです。

また、この曲はイギリスのシンガーである Sampha がコーラスを担当しています。かなりの美声なのでぜひ聞いてみてください。

Sampha

このアルバムの名前は、当初『So Help Me God』と発表していたにも関わらず、その後『SWISH』にすると言ったり『Waves』だと言ったりして最終的に『The Life of Pablo』となったんです。

Kanye West と信仰心

『The Life of Pablo』に対して「信仰をバカにしてる」・「本当のキリシタンに失礼だ」という意見が多いのですが、そもそも彼はキリシタンではありません。彼は、「キリスト教徒では無いが、神を信じている」と言っており、004年の「New York Times」でも、以下のように発言しています。

I have accepted Jesus as my Savior.

俺はキリストを”救済者”として考えている。

2009年の「Vibe Magazine」では、

I just think God has put me in a really good space.

俺にとって神とは自分を良い方向に導いてくれる存在なんだ。

この2つの供述を見ても、Kanye にとって神とは救済者であり、かつ良いパワーを与えてくれる存在であって、それ以上でもそれ以下でも無いのかも知れません。

また、Kanye は2019年の1月に「Sunday Service」をはじめましたが、これも宗派を問わず、愛を求め願う者は誰でも参加できるものになっています。ちなみに、「Sunday Service」自体は単に「日曜礼拝」という意味なので Kanye が始めたものではありません。

精神崩壊と『ye』

『ye』 (2018)

そして、約2年ぶりとなるプロジェクトが発表されました。『ye』です。このアルバムは、今までのどの作品よりも、内省的で、精神崩壊を表したアルバムでした。この年のカニエと言えば、奴隷制度の過去について肯定したり、トランプ大統領を支持したりと今までにまして暴虐な発言をしていました。

このアルバムでも『The Life of Pablo』で大成させたゴスペル的ヒップホップと言えるサウンドが随所で見受けられます。

トランプ大統領と共に苦笑いをするKanye

『Yikes』の中では薬物中毒と格闘する姿が描かれており、『Violent Crimes』では女性を暴力的に支配してきた過去を娘に打ち明けるようなラインも見られます。彼にとってこの年は自らをも失望させた時期だったのかも知れません。

『ye』のオススメ曲

『Violent Crimes』

070 Shake の歌声がたまらないですね。Sound Cloud にて人気を獲得した彼女をキャスティングし、転調を含んだ美しいビートというステージの上で彼女を奔放に、あるいは寄る辺なく躍らせてしまう彼の才能には脱帽です。

『Ghost Town』

Shirley Ann Lee・PARTY NEXT DOOR・070 Shake という近年力をつけてきた勢力に加え、自身のレーベルより長年の古株である Kid Cudi を絶妙なタイミングでコーラスとして使った至極の一曲です。

続きましては、その Kid Cudi との共同プロジェクト「KIDS SEE GHOSTS」のアルバムについてです。

Kanye West と Kid Cudi

『KIDS SEE GHOSTS』 (2018)

実は、Ronald Oslin Bobb-Semple より、このアルバムの収録曲『Freeee (Ghost Town Pt. 2)』に Kanye がマーカス・ガーベイのスピーチを再現した「The Spirit of Marcus Garvey」という音声が使用されていることに対し、訴えを起こしました。これは曲の中心として使っているのでフェアユースとは言えないだろと訴えを起こされ、話題となっていました。

KIDS SEE GHOSTSのオススメ曲

1. Feel The Love

Pusha-T を招いた同曲は、コーラスを中心に構成されているにもかかわらず、途中から暴力を声にしたようなバース・アドリブが展開され、それに合わせてビートも荒れ狂ったように展開されていく素晴らしい一曲です。

You bust down a Rollie, I bust down a brick, then I flood it, nigga.

お前はロレックスをアイス(ダイヤモンド)まみれにして、俺はここをコカインまみれにするんだよ。

これは bust down を使ったワードプレイで、ダイヤモンドなどで時計などを装飾するという意味と、コカインをやるという意味をかけたものになっています。

ゴスペルへの回帰

『JESUS IS KING』(2019)

次は 2019 年にリリースされた『JESUS IS KING』です。突然リリースするという情報が流れ、最後まで寝ずにマスタリングするから待ってくれと、いつも通りリリースを延期した Kanye West。

僕の予想は日本時間で夜中の2時だったのですが、1時にたまたまSNSを開くとカニエがたった今リリースしたということで奇跡的にリリース後すぐに聴けて嬉しかったです。

『JESUS IS KING』について

まずは、 Kanye が声を一切出さないと言う、イントロ的な役割の曲『Every Hour』をお聞きください。

1. Every Hour

2019年の1月頃から始まったカニエの新プロジェクト「Snuday Service」のコーラス部隊が陽気に歌いまくる曲です。この曲のリリックで印象的なものが、旧約聖書の150篇の神への賛美の詩を収めた「詩篇」からの直接引用の部分です。

Let everything that has breath praise the Lord.
Praise the Lord.

生きとし生けるもの全ては主を敬いなさい。主を掲げなさい。

2. Selah

パイプオルガンのようなサウンドから始まるまさに聖歌のような始まりですね。意外なことかも知れませんが、実はキリスト教音楽っていまだに作られ続けているんです。20世期に入ってからもフランスの印象主義の作曲家クロード・ドビュッシーなどもキリスト教音楽のアーティストとして有名ですね。

カニエほどの才能があればキリスト教音楽に近いものが作れちゃうんですね、しかもそれをヒップホップというテーゼの上で成し遂げていることには驚きです。ドラムスを見事なバランスで扱っている点にも是非注目してみてください。また、耳を澄まして聴いてほしいのは、コーラスのみに聞こえるハレルヤの場所でも後ろで小さくリズムビートが鳴り続けているポイントです。ほんとうに細かいところまで抜かりがないですね。

3. Follow God

三曲目のこちらですが、TLOPで紹介した「Father I Stretch My Hands to thee」をサンプリングしています。これは言わば、TLOPの『Father Stretch My Hands, Pt. 1』そして『Pt. 2』の続きに当たる『Pt. 3』とも言える曲ですね。見事なサンプリングです。この曲が一番再生されてる理由も理解できますね。

4. Closed On Sunday

この曲のラインがまた面白いですね。

Closed on Sunday, you’re my Chick-Fil-A.

日曜日に閉まっている、あなたは私にとってのチックフィレイ(アメリカのファストフードレストラン)だ。

この Chick-Fil-A とはチキンとサンドイッチが有名なアメリカのファストフードレストランのことです。このレストランの創業者 Truett Cathy は彼の宗教的信条に従って、日曜日は安息日だから働かない、というのを会社のルールで決めていて、敬虔なクリスチャンとして知られています。

次で最後の紹介にします。

5. On God

これは Pi’erre Bourne のトラックを使った一曲です。音なのにビームが出ているように感じますよね。それをカニエが見事なバランスでラップしている。半端ないです。

2020 と Kanye West

そして2020年になり、YEEZY と GAP のコラボレーションを発表するなど、コロナ渦でも話題を欠くことのなかった Kanye West。

そんな彼が、突然 MV と共に弟のような存在である Travis Scott を客演に呼んだ一曲『Wash Us in the Blood』を発表します。

このミュージックビデオは、Solange や Jay-Z のMV監督としても知られる、映画監督の Arthur Jafa によって作られました。車の激しいアクションのシーンは思わず目を見開いてしまいそうになりますね。また、兄弟分とも言える Travis Scott を絶妙な使い方で使っている点にも注目です。

(Kanye West と Travis Scott の関係については以下の記事を参照ください)

そして 7月5日にはアメリカの大統領選挙に出馬する意向を示し、実際に出馬することがほとんど確定となったり、ニューアルバム『DONDA』をリリースすると発表したり、演説で号泣しながら中絶廃止を訴えたり、とコントロバーシャルな話題を振りまき続ける Kanye West からは今後も目が離せません。

最後に

フランクオーシャンのプロデュースの事など、プロデュースの面については他にも色々と書きたいことはあるのですが、またの機会にしたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

XXS オリジナルプレイリストはこちら↓

https://music.apple.com/jp/playlist/the-life-of-kanye/pl.u-NpXmDyGCmgrABjV

The Kid LAROI – オーストラリアの新星ヒットメーカー

Juice WRLD の遺作『Legends Never Die』への参加や、Lil Tecca や Lil Tjay などの人気若手ラッパーたちとの共演で注目が集まる中、満を辞して待望のニュープロジェクト『Fuck Love』をリリースしたばかりの The Kid LAROI。今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力について迫ります。

The Kid Laroi とは

The Kid LAROI (ザ・キッド・ラロイ) こと Charlton Howard は 2003年8月16日にオーストラリアのシドニーに生まれました。現在のヒップホップシーンでは珍しいオーストラリア出身で、まだ16歳とかなり若いのも特徴の一つです。

シドニーで生まれた The Kid LAROI (以下 LAROI) は幼少期からヒップホップを中心とする音楽に親しんでいました。彼の母親はオーストラリアの音楽をほとんど聴かない人物だったそうで、母親が幼少期の LAROI に Kanye West や 2Pac 、Erykah Badu などの音楽を聴くことをすすめたことが、彼がヒップホップと出会うきっかけとなったそうです。

彼の音楽は Juice WRLD や Trippie Redd のそれと比較されることが多く、「サウンドクラウドラップ」や「エモラップ」にカテゴライズされることが多いです。実際に彼が音楽の道を志し始めたときには、彼はすでに Juice WRLD の大ファンだったそうで、Juice WRLD による影響はかなり大きいとインタビューの中でも語っています。

キャリアの開始

LAROI は2018年にオーストラリアのラジオ番組の新人アーティスト発掘コーナーである Triple J Unearthed High にてファイナリストまで勝ち上がります。コンペティションにて知名度を格段に上昇させた LAROI は同年に初の EP 『14 WITH A DREAM』を SoundCloud にて公開します。

1曲目に収録されている『GO GET IT』では、EP のタイトル通り「14歳にして大きな夢を思い描く」彼の決意や大志がひしひしと感じられます。メロディアスなラップや、フックを歌い上げるスタイルの楽曲が多い現在の彼に対し、初期はシリアスなラップを淡々とこなすスタイルが特徴的です。

4曲目に収録されている『Blessings』では、メロディアスでありながらもシリアスさを持ち合わせる力強いラップを堪能することができます。当 EP の中では、こちらの楽曲が特に大きな話題を呼び、彼のキャリアを躍進させるきっかけとなりました。

Juice WRLD をはじめとした SoundCloud 発のエモラップを好むリスナーたちを中心に徐々にファンベースを築き上げていった LAROI は2019年に Juice WRLD も所属する Lil Bibby によるレコードレーベル Grade A Productions や Columbia Records との契約を交わしました。

その後、 LAROI は Juice WRLD によるライブツアーのオーストラリア公演への同行を果たし、憧れだった人気ラッパーたちに仲間入りします。ツアーの際に憧れの存在である Juice WRLD との親交を深めた彼は、のちに彼とのコラボ曲も発表します。

Juice WRLD と The Kid Laroi

The Kid LAROI の楽曲とスタイル

彼のキャリアや生い立ちについておさらいした上で、彼の楽曲についてご紹介していきます。今回が初めての長編プロジェクトということで、まだまだリリースした楽曲の数は多くありませんが、すでに多くの人気アーティストとのコラボレーションを果たしていたりと、楽曲のクオリティはかなり高いものとなっています。

Diva (feat. Lil Tecca)

メガヒット『Ransom』などでも有名な SoundCloud 発のラッパー Lil Tecca をゲストに招いた楽曲です。当時 LAROI は16歳、Lil Tecca は17歳とかなり若い二人のコラボレーションです。ミュージックビデオは 2億5千万回以上の再生回数を誇る Lil Tecca の『Ransom』も監修した Cole Bennett によるもので、サウンドクラウドラッパーたちにとっての夢を若くして叶えました。

The Kid LAROI & Juice WRLD – GO

LAROI の憧れの存在でもあった故 Juice WRLD をフィーチャーした楽曲です。楽曲自体は Juice の死後にリリースされましたが、オーストラリアでのツアーに同行した際にレコーディングされた楽曲で、ミュージックビデオにもその時の様子が映し出されています。

最後のフックでは、LAROI が担当するメインメロディに、まるで今この瞬間も生きているかのように Juice がハーモニーを重ねます。互いをリスペクトしあっていたという二人の美しいハーモニーは必聴です。

The Kid LAROI & Lil Tjay – Fade Away

NY・ブルックリンを拠点とし、哀愁漂う切ない楽曲からドリルミュージックまで幅広くこなすラッパー Lil Tjay をフィーチャーした楽曲です。 哀愁を感じるトラックの上で、Lil Tjay は十八番である切なくも魅力的な声色でラップし、LAROI は力強い歌声で歌い上げます。

Tell Me Why

7月17日にリリースされたばかりのこちらの楽曲は、Juice WRLD へのトリビュートソングです。憧れの存在であり、互いをリスペクトし合う最高の仲間でもあった彼との突然の別れをテーマにした楽曲です。

Tell me why, tell me why
なぜか教えてよ。

It’s so hard to say goodbye
さよならを言うのは辛すぎるよ

お気づきの方も多いかもしれませんが、彼のプロジェクトのカバーアートには度々日本のアニメにインスパイアされたと見られる作品が採用されています。今作の『Fuck Love』に関しても、渋谷の街並みを背景にキャラクター化された LAROI の姿を確認することができます。将来的には日本で公演を行ってくれる日も来るかもしれません。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はオーストラリアの新星ヒットメーカー The Kid LAROI の生い立ちやキャリア、魅力について迫りました。まだ始まったばかりの彼の音楽キャリアですが、これからも彼から目が離せません。

Written by whoiskosuke

Kanye West が浮気を疑った Meek Mill と Kim Kardashian の会合の写真が流出

先日、Kanye West の妻である Kim Kardashian が Meek Mill と会っていたことを理由に離婚しようとしていたと明かした Kanye West。

上記のツイートは現在削除されているが、Meek と Kim が実際に会っている写真が TMZ より流出した。

しかし、これは2018年の、刑務所改革運動に関して共に行動を起こしていた中での会合であり、Kim と Meek は Kanye の意見には全否定をしている。

あいつ (Kanye West) は嘘つきだ。

Kim はカニエの連日の行動に関して、彼の双極性障害の事実を公表すると共に治療が必要だと表明している。

大統領選挙の件もあり、今後も Kanye から目が離せない。

Kanye West が来週にニューアルバム『DONDA』をリリースか

米大統領選挙への出馬を巡って、世の中を騒がしている Kanye West。

そんな彼が、来週7月24日に母親の名前を冠した『DONDA』というタイトルのアルバムをリリースする、と Twitter 上で発表した。

『DONDA』

発表されたトラックリストの中には、『Yandhi』と冠されたアルバムでリリースされるとみられていた楽曲『New Body』もリストアップされている。

ただ、このツイートは現在削除されている。音楽において完璧主義と言われる Kanye だけに、今回もアルバムが24日にリリースされるかは定かではない。

ヒップホップと Rolex

過酷な環境を生き抜き、音楽で成功することを夢見るラッパーたち。ヒップホップ業界では、苦労の末に掴んだ成功を「フレックス (自慢)」することが文化となっており、一種の美徳とされています。そんな彼らのフレックス文化の中で、重要な役割を果たすのが高級腕時計です。今回は、その中でも圧倒的な人気を誇る腕時計メーカー「Rolex」とヒップホップの関係性について考察します。

Rolex とは

まずは Rolex という腕時計メーカーについて、簡単にご説明します。

Rolex は、ドイツ人の Hans Wilsdorf が1905年に創業したスイス発の腕時計ブランドです。創業当初の同社の腕時計の精度は決して高くはありませんでしたが、創業者である Hans Wilsdorf の熱心な研究によりムーブメントの品質向上に成功。その結果、商標登録からわずか2年後に、腕時計として初のクロノメーター認証 (高い品質を認められた時計だけに与えられる称号) を受けるという快挙を達成します。

Rolex の創業者 Hans Wilsdorf

Rolex を語るにあたって欠かせないのが、同メーカーが生み出した3つの発明です。

1. オイスターケース

1926年に開発された「オイスターケース」は、その名の通り牡蠣の殻のように固く閉じる頑丈な時計ケースのことです。

当時、水は腕時計の最大の弱点であり、防水時計はほとんど認知されていませんでした。そんな中、Rolex はイギリスのオイスター社が開発したオイスターケースを採用し、完全防水の腕時計を開発しました。

2. パーペチュアル

「永遠」を意味する「パーペチュアル」は、1931年に開発された自動巻き上げ機能です。当時は手巻き時計が主流であったため、人々は数日おきに手動で時計を巻き直していました。そんな中、腕を振るだけで自動でゼンマイが巻き上がる革命的な仕組みが発明され、手間を省くだけでなく、オイスターケースの防水機能を更に向上させることとなりました。

3. デイトジャスト

1945年に開発された「デイトジャスト」は、午前0時になると自動で日付が変わる日付表示機能のことです。

日付表示機能自体は当時から存在していましたが、自動で日付が変わる機能と、今現在よく見られる文字盤上の小窓に日付が表示されるデザインは、この発明がきっかけで定着したものです。

精度の追求と3つの発明によって信頼を獲得した Rolex は、ドレスモデルからスポーツモデルまで、様々な種類のモデルを輩出しながら今日まで進化を続けてきました。

ヒップホップと Rolex

1900年前半から徐々に信頼を獲得し、世界を代表する腕時計メーカーとなった Rolex は、1970年代に誕生したヒップホップ文化において重要な役割を担うことになります。

ここからは、Rolex について言及した代表的な楽曲をご紹介しながら、その関係性について見ていきます。

The Notorious B.I.G. – Who Shot Ya?

Pussy when I want, Rolex on the arm

いつでも女を呼べるし、腕には Rolex 

ニューヨークのキングとの呼び声高い Biggie の楽曲『Who Shot Ya?』では、ラッパーとしての成功の象徴として Rolex がネームドロップされています。宿敵 2Pac へのディス曲として疑惑を呼んだ同曲ですが、1994年の 2Pac 銃撃事件以前、彼らは親しい交友関係にありました。実は、Biggie が始めて手に入れた Rolex は、2Pac からプレゼントされたものだったそうです。

親しい仲間への友好の証として Rolex を贈った 2Pac は、Rolex 愛好家としても知られており、同メーカーをヒップホップシーンに浸透させたラッパーの1人です。

2Pac が愛用していたのは、ダイアモンドが施されたイエローゴールドの Day Date (デイデイト)。Rolex の高級ラインにのみ使用される「President bracelet」を用いた Day Date は Rolex が誇る最上位ドレスモデルであり、定価にしておよそ300万円から1000万円を超えるものまで存在します。ちなみにこの「President bracelet」とは、1956年に当時のアメリカ大統領アイゼンハワー氏に Day Date が贈られたことがきっかけで付けられた名称で、ヒップホップにおいても Rolex を意味するスラングとして「President」というワードが頻繁に用いられます。

Warren G – Regulate

I’m gettin’ jacked, I’m breakin’ myself

俺はやられる ボロボロになるんだ

I can’t believe they takin’ Warren’s wealth

Warren の (俺の) 物を奪おうとしてくるなんて信じられない

They took my rings, they took my Rolex

奴らは俺のリングと Rolex を奪った

I looked at the brother, said “Damn, what’s next?”

奴らを見て言ったんだ 「次はなんだ?」ってな

G Funk の流行を支えた Warren G が1994年にリリースした名曲『Regulate』でも、音楽で成功を収めた結果手に入れた「Wealth = 富」として、Rolex がネームドロップされています。「自らが敵に襲われ、財産である Rolex を奪われてしまう」という、強さを誇示することが一般的であるヒップホップ界においては珍しいラインですが、ヒップホップ全盛期として知られる90年代においても Rolex は富の象徴として扱われていたことが分かります。

2Pac をはじめとした人気ラッパーによる着用及びリリックでの言及により、アメリカ中でいっそう人気を獲得した Rolex の腕時計。当時から、立派な家、高級車、高級腕時計の3つを手に入れることが成功の証とされていたアメリカ社会において、Rolex をはじめとする高級腕時計を自慢することがラッパーたちの間でも流行していきました。

Nas – Nas Is Like

Came a long way from blasting TECs on blocks

ゲトーで銃を発砲してた頃から長い道のりを歩んできた

Went from Seiko to Rolex, 

SEIKO も今じゃ Rolex だ

Nas は自身の代表曲『Nas Is Like』にて、このようにラップします。平均して約1桁以上の定価の差がある2つの時計メーカーを比較することで、自身がどれほど成り上がってきたのかを表現しています。

このように様々なラッパーが Rolex を着用するようになった中で、特に目立って Rolex を愛用していたのが Jay-Z です。ラッパーとしての仕事以外にも、プロデューサーや作家、スポーツクラブのオーナーなど、多様なビジネスで成功を収めていた彼は、時計愛好家として Rolex の多くのモデルを所有していました。

彼が着用していたモデルとして有名なのが、Day DateDay Date ⅡSky Dweller (スカイドゥエラー)、Daytona (デイトナ) などです。

左から Day Date、Day Date Ⅱ、Sky Dweller、Daytona

その中でもやはり最上位ドレスモデルの Day Date が彼のお気に入りだったようで、セカンド・アルバム『In My Lifetime, Vol. 1』のカバーアート写真に映る際も、彼はプラチナ製の Day Date を着用しています。

Kanye West – Runaway (feat. Pusha T)

(Pusha T)

Invisibly set, the Rolex is faceless

ダイヤで埋め尽くされ、文字盤が見えない Rolex

Rolex 好きで知られる2人 Kanye West と Pusha T による1曲。

特に Pusha T は、自身のアルバムのタイトルを『Daytona』と名付けるほど、Rolex の Daytona を愛用しています。この Daytona とは、2020年現在においてもなお最も高い人気を維持する、Rolex が誇る最上位スポーツモデルです。

財力を誇示することでステータスを獲得するラッパーたちにとって、前述した最上位ドレスモデル Day Date と、最上位スポーツモデル Daytona は特別な存在であり、圧倒的な人気を誇ります。

Daytona

そんな Pusha T は同曲にて、「Rolex をダイヤモンドで埋め尽くしたことによって、文字盤が見えなくなってしまった」と歌っています。

このように腕時計 (あるいは他のジュエリー) をダイヤモンドで埋め尽くす行為は、「Iced out」もしくは「Bust down」などと呼ばれ、ヒップホップ・シーンでは好んで用いられるカスタム装飾です。ラッパーたちは手に入れた Rolex を更に派手に装飾すべく、Ben Baller や Mr. Flawless、Eliantte などをはじめとするジュエラーに足を運びます。

ダイヤモンドで装飾した Rolex を好むラッパーが増える一方で、「やはり Rolex はそのままの状態が美しい」と主張するラッパーも現れます。

A$AP Ferg – Plain Jane

Tourneau for the watch, presi Plain Jane

Tourneau (*1)で時計を買う ロレックスは「Plain Jane」だ (*2)

(*1) 高級腕時計を取り扱う New York の老舗リテーラー
(*2) Plain Jane は装飾を施していない Rolex のこと。本来の意味は、「普通の女の子」

A$AP Ferg は Genius のインタビューでも、「Rolex はそれ自体に価値がある。ダイヤモンドを装飾してしまったら価値を下げることになるんだ。ピカソの絵に付け足しはしないだろ」と発言しています。

Travis Scott – Watch (feat. Lil Uzi Vert & Kanye West)

Travis Scott、Lil Uzi Vert、Kanye West と、現代ヒップホップシーンを代表するファッションアイコン3人が、タイトル通り「Watch (腕時計)」について歌う1曲。こちらの楽曲では、「Plain Jane 派」と「Iced out 派」の両者の意見を聴くことができます。

(Lil Uzi Vert)

Look, pull up Sky Dweller, and it’s vanilla

俺のバニラ色の Sky Dweller (*1) を見ろ

All white, that Plain Jane

オールホワイトで Plain Jane

(*1) Sky Dweller は、Rolex が展開する実用性に富んだ旅行者向けのドレスモデル

(Kanye West)

Look at my Rollie, look at your Rollie

俺の Rolex を見ろ (*1)

Your shit rockless, my shit hockey goalie

お前のはダイヤが足りない 俺のはアイスホッケーのゴールキーパーだ (*2)

You should gon’ hide it, man, it’s too bad

哀れだからさっさとそれを隠せ

Like a bald n***a still wearin’ durags, ha

ドゥーラグでハゲ頭を隠すみたいにな

(*1) Rollie は Rolex を表す頻出スラング
(*2) アイスホッケーと、ダイヤモンドを表す「Ice」をかけている。つまり Kanye の Rolex はアイスホッケーのゴールキーパーのように氷 (ダイヤモンド) に囲まれている、ということ

装飾を施していないそのままの Rolex を自慢する Lil Uzi Vert と、ダイヤモンドで装飾した Rolex を自慢する Kanye West。

同曲が物語るように、ラッパーたちの間でも Rolex への思いや好みはそれぞれ異なることが分かります。

Gunna – Oh Okay (feat. Young Thug & Lil Baby)

Two-tone Presi’ Rolex

ツートンの Rolex

Yeah, this drip you can’t catch

お前らには到底真似できない

アトランタのラッパー Gunna は『Oh Okay』という楽曲にて自身の Rolex を自慢するラップを披露しますが、後に Men’s Health のインタビューにて以下のように語っています。

This watch is a two-tone Prezi Rolex.

この時計はツートンのロレックスだ

I had to buy two watches to make this one watch, because they don’t make two-tone watches.

でも、ロレックスはツートンの時計を作っていないから、これを作るために二本の時計を買わなければならなかったんだ

The only reason I really bought it is because on the song “Oh Okay” I said ‘Two tone Prezi Rolex, Yeah this drip you can’t catch

何故こんなことをしたかというと、俺が『Oh Okay』という曲で『ツートンのロレックス、お前らには到底真似できない』とラップしてしまったからなんだ

つまり Gunna は『Oh Okay』の制作時にはまだ「ツートンの Rolex」を持っておらず、後にリリックとの辻褄を合わせるためにそれを作った、ということです。「嘘つき」とも「有限実行する真面目なラッパー」ともとれるリアルなのか否か判断しづらいリリックですが、若手ラッパーがつい先走って自慢してしまうほど、Rolex の所持がヒップホップゲームにおける重要なステータスであることが分かります。

贈り物としての Rolex

2Pac が友好の証として Biggie に Rolex を贈ったように、Rolex は贈り物としても大きな役割を果たします。

中でも DJ Khaled は、頻繁に Rolex をプレゼントすることで知られています。彼は、2017年にリリースしたアルバム『Grateful』が大成功を収めた後、彼のチームのメンバーたち全員にゴールドの Rolex Day Date (1つあたり約370万円) をプレゼントしました。

DJ Khaled は、アトランタのラッパー Future にも誕生日プレゼントととして Rolex Sky Dweller (約200〜400万円) を贈っています。

そんな Future も、息子の5歳の誕生日に Rolex Datejust (約310万円) をプレゼントしています。

このように、成功したアーティストたちは自らが Rolex を身につけるだけでなく、親しい人々に感謝や愛の形として Rolex を贈ります。また、プレゼントとしての役割はもちろんのこと、「Rolex を誰かにプレゼントできる」というステータス誇示の意味合いも少なからずあるでしょう。

おわりに

今回は、Rolex が担うステータス性と、ラッパーたちが Rolex を取り入れ流行させてきた背景に焦点を当て、ヒップホップと Rolex の関係性について考察しました。今回ご紹介した楽曲以外にも Rolex について言及した作品は多数存在しますので、これを機に是非探してみてはいかがでしょうか。また、ヒップホップシーンにおいて高い人気を誇る Rolex 以外の高級腕時計メーカー「Patek Philippe」や「Audemars Piguet」、「Richard Mille」などについても、いずれ (ご要望があれば) まとめる予定です。最後までお読みいただきありがとうございました。

Written by Riku Hirai

Kanye West が大統領選挙に出馬する可能性が濃厚に

昨日、Kanye West の選挙チームの一人である Steve Kramer が『ニューヨーク』誌に「もう彼は選挙を戦わない」と話したという報道があり、大統領選への出馬の可能性が低いだろうとみられていた Kanye West。

そんな彼が、7/15日に『Federal Election Commission(連邦選挙委員会)』に出馬を届け出た。その証拠がこちらの画像である。

ちなみに、この立候補の文書は以下のリンクから見ることができる。

https://docquery.fec.gov/cgi-bin/forms/C00751701/1422253

また、政党(Party)の箇所には「BDY」と記されており、これは Kanye が宣言していた「Birthday」党からの出馬を示しているとみられる。

ただ、留意すべきは、もう一つ重要な書類を提出しなければいけないということだ。その書類では5千ドル(約53万円)の金額を調達するか、支払わなければならないため、そちらの書類が受理されて初めて立候補が確定することになる。

アニメとヒップホップ – 自身を主人公に投影するラッパーたち

日本が世界に誇るカルチャーの一つであるアニメや漫画。外国の方々に「日本といえば」と尋ねると、間違いなく侍や忍者と並びアニメや漫画が挙がるでしょう。また、実際にたくさんの外国の方々がアニメや漫画といったカルチャーを通して日本に興味を持ち始めています。

こうした世界的な傾向は、ヒップホップの世界においても色鮮やかに現れ始めています。アニメや漫画の精神を自らの作品に反映する者、アニメのサウンドを作品に落とし込む者など、その表現方法は様々ですが、日本のアニメや漫画に影響された作品群がヒップホップのサブジャンルとなり得る日が刻一刻と近づいています。

非現実的、ファンタジー的なイメージの強いアニメや漫画に対し、リアルな現状を泥臭く訴えるイメージが強いヒップホップ。一見真逆の存在とも思える両者ですが、本当にこれらは正反対の性質をもつカルチャーなのでしょうか。そこで今回は日本のアニメや漫画のカルチャーとヒップホップの関係性に焦点を当て、なぜラッパーたちは自らの作品にそれらのカルチャーを取り入れるのかを考察していきたいと思います。

アニメキャラクターを自身に投影

アニメの要素を自身の作品に取り入れるアーティストたちは、時にアニメの主人公に自身を投影します。今となってはゴスペルアルバムをリリースしたり、大統領選への出馬意向を示したりとアニメとは無縁の世界に身を置いているように見える、Kanye West もその中の一人です。まずはこちらのミュージックビデオをご覧ください。

Kanye West による三枚目のスタジオ・アルバムである『Graduation』に収録されている『Stronger』のミュージックビデオです。ネオンが輝く東京の街並みや近未来的なロボットなどが登場し、SFアニメを連想させるものとなっております。勘の良い方ならすでにお気づきかもしれませんが、実はこちらのミュージックビデオは、大友克洋によるSF漫画・アニメである『AKIRA』に実際に登場するシーンなぞらえて制作されています。

検証動画をご覧いただければ一目瞭然ですが、金田のバイクに跨って東京の街を疾走するシーンや、病院でうなされるシーンなどが、原作とほとんど同じ構図で再現されています。それに加えて、ミュージックビデオ内には「タスケテ!」や「ウゴクナ!」などの日本語のテロップまで挿入されています。

アニメキャラクターに自身を投影するラッパーは他にも多数存在し、その一人が Lil Uzi Vert です。最近でも『Futsal Shuffle 2020』や『That’s A Rack』などのアートワークに自身をアニメキャラクターにデフォルメ化したものを起用したことから、アニメ好きというイメージは浸透しているように思えますが、彼が作品にアニメのエッセンスを加え始めたのはそれよりも前にさかのぼります。

Lil Uzi Vert が2016年にリリースした3枚目のミックステープ『Lil Uzi Vert vs. the World』収録の『Ps & Qs』のミュージックビデオです。日本の学校を舞台に、学園生活を通しての恋愛をテーマにしたビデオです。下駄や招き猫が映し出されたり、背景には浮世絵や日本語が書かれた黒板などが確認できます。特徴的なのは、全体を通して被写体の瞳がかなり大きく加工されている点で、日本のアニメキャラクターの瞳が潤いを持った大きな描写で描かれていることを表現しようとしたのでしょう。

ビデオ内では頻繁の実写と2Dアニメの描写が切り替えられ、クライマックスではCGアニメに切り替わる構成となっており、Lil Uzi Vert が主人公の学園アニメを見ているような錯覚を視聴者に起こさせます。

ここまででご紹介した Kanye West と Lil Uzi Vert の事例に共通することは「自信を主人公に投影している」点です。ほとんどのアニメや漫画は、主人公が「何か」と戦うことによってストーリーが展開していきます。『AKIRA』のようなSF作品では、特定の敵と身体的な戦いを繰り広げますし、一見戦いとは無縁に見える『けいおん!』のような学園ドラマでも、「軽音楽部の廃部」という事実と闘います。

ヒップホップは社会に対する反骨精神が現れやすい音楽です。アニメのキャラクターに自身を投影することによって、そのような「自分 vs 世界」的なマインドを上手く表現することができたのではないでしょうか。先ほども言及した Lil Uzi Vert のミックステープのタイトルも『Lil Uzi Vert vs. the World』となっており、主人公の Lil Uzi Vert が世界と戦う一つのアニメ作品のように思えてきます。

アニメサウンドとヒップホップの融合

アニメの要素を作品に取り入れる際、サウンドを利用してその世界観を表現する方法も主流です。アニメの主題歌をサンプリングして制作したトラックに乗せてラップをしたり、作中に登場するアイコニックな効果音を曲中に挿入したりと、こちらも手法は様々です。

Wiz Khalifa が Snoop Dogg をフィーチャーして 2016 年に公開した楽曲『No Social Media』は、「ひぐらしのなく頃に」のメインテーマをサンプリングして制作された楽曲です。Wiz Khalifa や Snoop Dogg がアニメのリファレンスを用いていることに意外性があり、興味深い楽曲となっています。

JID や EarthGang などが所属するレーベル Dreamville のボスである J. Cole も日本のアニメの楽曲をサンプリングしています。彼の4枚目のスタジオ・アルバムより、プロジェクトタイトルにもなっている楽曲『4 Your Eyez Only』は、日本でもかなり有名な国民的アクション漫画「ルパン三世」のサウンドトラックに収録されている楽曲をサンプリングしています。

最近のシーンの傾向から、アニメやオタク文化に魅了された若手ラッパーたちが、日本のアニメや漫画のカルチャーを楽曲に取り入れている印象を抱きがちですが、実は Wiz Khalifa や Snoop Dogg、そして J. Cole などのレジェンド級のラッパーたちも同じように自身の楽曲とこれらのカルチャーをミックスしています。

続いては、アニメに登場するアイコニックな効果音をアクセントとして楽曲に加えるパターンをご紹介します。 はじめにご紹介するのは、 Trippie Redd による最新アルバム『A Love Letter to You 4』より、故 Juice WRLD と未だに服役中のフロリダのラッパー YNW Melly をフィーチャーした『6 Kiss』です。

曲が始まると同時にイントロ的な役割を担っている可愛らしいサウンドは、『美少女戦士セイラームーン』の第3期に登場した「ムーンスパイラルハートアタック」という技を発動する際に流れるサウンドの一部です。ちなみに、曲中定期的に挿入されているピカン!という効果音は、ウォルト・ディズニー社とスクエア・エニックスの提携によって制作された家庭用ゲームソフト「キングダムハーツ」に登場する効果音です。

アニメ調アートワークの流行

アニメや漫画の世界観を自身の作品にて表現する際、大きな役割を果たすのがアートワークです。楽曲のプロモーションを行う時、ストリーミングサービスなどで配信する時など、ほとんど全てのプロセスにおいて、作品の顔となり得るのがアートワークだからです。

アートワークは、記事前半で述べたような「自身をアニメキャラクターに投影」する際に大変役立つようです。現行のヒップホップシーンには既にラッパーたちをアニメ化しアートワークを制作する、いわゆる「絵師」的存在のアーティストも登場し始めています。

その中の一人が Artxstic という人物です。彼は Lil Uzi Vert の『Futsal Shuffle 2020』や『That Way』のアートワークも担当した人物で、主にラッパーたちをアニメキャラクター化したデジタル画を制作しています。

Artxstic のインスタグラムアカウント (@artxstic)

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は、アニメとヒップホップの関係性に焦点を当てて、なぜラッパーたちは自らの作品にそれらのカルチャーを取り入れるのかについて考察してきました。ご紹介した楽曲意外にも、アニメや漫画にリファレンスを置いた作品はまだまだ存在しますので、これを機に探してみてはいかがでしょうか。

whoiskosuke

Chance the Rapper が Kanye West の大統領選出馬を支持

Kanye West の Sunday Service に参加したことでも知られるシカゴ出身のラッパー、Chance the Rapper。

君たちがジョー・バイデンの方がカニエ・ウェストよりも大統領に相応しいと考えているなら、それはなぜだい?

「トランプみたいな大統領はもうイヤだ(*1)」と言いたいのは分かるが、トランプを追い出したいかために、ジョー・バイデンを支持すべきだと考える訳を教えてくれないか?

#1・・・「get trump out」は「トランプ大統領を追い出す」という意味と、「切り札を出す」という意味をかけています。

そんな彼が今日、Twitter 上で上記の文章を投稿した。このように、彼は Kanye West の大統領選出馬について、支持する立場をとった。

Kanye と同じくシカゴをホームタウンとするラッパーとして、同胞に敬意を示した Chance は、この他にも自身の考えを述べた。

(Kanye West の母へのトリビュートソングを引用して)

君たちみんながバイデンに投票するよう説得しているんだね。失望したよ。

正直に言うけど、君たちの多くが人種差別主義者だよ。

みんなが「大統領らしく」という言葉を使うことに対して思うことがあるんだ。彼らが大統領らしいかどうかっていう基準を持っているなら、アンドリュー・ジャクソン(*1) は大統領らしく振る舞っていたってことだよね?

#1・・・アンドリュー・ジャクソンは第七代アメリカ合衆国大統領であると同時に黒人奴隷農場主であり、生粋の白人至上主義者として知られています。

Juice WRLD – シカゴ出身の若きレジェンド

YouTube にて記事の内容をまとめております。
動画でご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

Last time, it was the drugs he was lacing

彼はドラッグと闘っていた

All legends fall in the making,

レジェンド達は皆、志半ばで堕ちていく

sorry truth, Dying young, demon youth

残念だけど事実なんだ 若くして死ぬ 悪魔が若者を狙っているんだ

Legends – Juice WRLD

2019年12月8日、ヒップホップシーンのみならず現代音楽シーンを牽引していた若きスター Juice WRLD が逝去。わずか21歳という若すぎる死に、世界中が涙を流しました。

今回は、今週金曜日に彼の死後初となるアルバム『Legends Never Die』がリリースされたことを踏まえ、今一度彼の人生について振り返ります。

生い立ち

Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、1998年12月、イリノイ州シカゴにて生を受けました。翌1999年には家族で州内のホームウッドに移住しますが、Juice が3歳の頃に両親が離婚。それ以降は彼と彼の兄、そして母親の3人で暮らしていくこととなります。

4歳の頃にピアノを習い始めた Juice は、後にギターやドラムのレッスンも受けるようになり、学校の授業ではトランペットも演奏するなど、幼い頃から音楽に慣れ親しんでいました。

信心深く保守的な母親の影響で、ヒップホップを聴くことが許されなかった Juice は、「Tony Hawk’s Pro Skater」や「Guitar Hero」等のビデオゲームに使われていたロックやポップス (Billy Idol や Blink-182、Black Sabbath、Fall Out Boy、Megadeth、Panic! at the Disco など) を聴いて育ったといいます。

音楽面での英才教育を受けていた一方で、Juice は幼い頃から大量のドラッグを使用していました。6年生の頃にリーンを飲み始めた彼は、その後パーコセットやザナックスも使用するようになり、次第にドラッグに依存していきました。

キャリアの開始

高校1年生の頃に音楽活動を開始した Juice (キャリア初期は JuicetheKidd という名義の下活動) は、2015年に初めて SoundCloud に楽曲をリリースしました。

Forever

ほとんどのヴァースを自身のスマートフォンで録音したという1曲。まだまだ音質やフロウ、ラップスキルに未熟さや粗削りさが残るものの、持ち前のハスキーな歌声と切ないリリックからは、皆さんが思い浮かべるであろう昨今の Juice WRLD らしさを感じることができます。当時は、ラップ・パートが楽曲の大半を占めており、ブレイク後の彼が得意としていた歌いながらラップするスタイルとは一味違う魅力があります。

JuicetheKidd 名義の元、ミックステープ『What Is Love?』(1曲のみの収録) や EP『Juiced Up The EP』をリリースした後、彼は尊敬するラッパー 2Pac が出演している映画『Juice』と、「世界を獲る」という意味の「World」にちなんで、現在の名前である Juice WRLD という名前に変更しました (ちなみに、WRLD は単純にスペルミスだそうです)。

2017年には、今となっては Juice とのタッグで有名な Nick Mira によるプロデュースの楽曲『Too Much Cash』をリリースします。

Too Much Cash

この頃から Juice は急激にスキルアップを果たします。JuicetheKidd 時代よりも多彩なフロウを駆使し、ブレイク後の彼のスタイルにも通づるキャッチーなメロディラインを用いたシンキング・ラップも聴くことができます。

当時、高校を卒業し工場で働き始めた Juice は、その仕事に不満を覚えわずか2週間で退職。その後ますます音楽活動に専念するようになった彼は、同年に初のフルレングス EP『999』をリリースします。この EP に収録されていたのが、後に大ヒットを記録する『Lucid Dreams』でした。

EP『999』

ちなみに「999」は彼が好んで用いる数字で、悪魔 (邪悪なもの) の数字とされる「666」をひっくりかえ返したもの。「どんなに困難な状況でも、それをひっくり返してポジティブに前に進もう」というメッセージが込められています。

同 EP のリリース後、彼は Waka Flocka Flame や Southside、G Herbo ら大物アーティストから注目を受け、同郷シカゴ出身のラッパー Lil Bibby 率いる Grade A Productions と契約を結ぶことになります。

ヒット曲とデビューアルバムのリリース

2017年末、Juice は3曲収録の EP『Nothing Different』をリリース。同 EP 収録の『All Girls Are the Same』がヒットし、人気ヒップホップ・チャンネル Lyrical Lemonade の Cole Bennett が監修したミュージック・ビデオが発表されます。

All Girls Are the Same

All girls are the same, they’re rotting my brain, love

女の子はみんな同じだ 俺の脳を腐らせていく

Think I need a change, before I go insane, love

俺は変わらなきゃいけないんだ 狂ってしまう前に

この『All Girls Are the Same』は、Juice が自身の恋愛観と弱さを正直に曝け出した1曲です。「大勢の女性を従える」ということが一種のフレックスであり、ステレオタイプでもあるヒップホップ (音楽) 業界において、Juice は真実の愛を求めていました。彼は、真実の愛を追い求める中で負ってしまった心の傷を美しくも哀しいメロディに乗せて歌い、同じ悩みを抱える人々の共感を呼びました。

同曲で一躍名を馳せた Juice は、2018年、大手レーベル Interscope Records と300万ドル (約3億2000万円) の契約を結びます。

そして 2018年5月、彼は EP『999』収録の『Lucid Dreams』を正式にシングルリリースします。

Lucid Dreams

I have these lucid dreams where I can’t move a thing

動くことができない場所で明晰夢を見るんだ

Thinking of you in my bed

ベットの中で君の事を考える

You were my everything

君は俺の全てだったんだ

Thoughts of a wedding ring

結婚指輪の事まで考えてた

Now I’m just better off dead

今じゃ俺は死んだ方がましさ

I’ll do it over again

もう一度やり直したいんだ

I didn’t want it to end

終わらせたくなんかなかった

I watch it blow in the wind

風に吹かれるのを見ている

I should’ve listened to my friends

友人の意見を聞くべきだった

Leave this shit in the past, but I want it to last

この過ちを過去に葬るよ でも俺は続けたいんだ

You were made outta plastic, fake

君はプラスチックでできた偽物だった

I was tangled up in your drastic ways

俺は君の極端なやり方に振り回されてた

Who knew evil girls had the prettiest face?

誰よりも可愛い女の子が悪女だなんて分かるはずないだろ

You gave me a heart that was full of mistakes

君がくれた心は嘘だらけだった

I gave you my heart and you made heart break

俺は君に心を捧げたのに、君はそれを壊したんだ

映画 Léon のエンディング・テーマとしても知られる Sting の名曲『Shape of My Heart』をサンプリングしたビートの上で、Juice が自身の失恋についてエモーショナルに歌う同曲は、いわゆる「エモ・ラップ」を代表する1曲です。

同曲は、US Billboard Hot 100 チャートにて74位デビュー、後に最高2位を記録し、2018年に最もストリーミング再生された楽曲の1つとなりました。

2つのヒット曲を世に送り出した Juice は、同月に待望のデビュー・アルバム『Goodbye & Good Riddance』をリリース。同アルバムは、US Billboard 200 チャートにて15位でデビューし、3週目には6位まで浮上しました。

様々なアーティストとの共演

デビュー・アルバム『Goodbye & Good Riddance』のリリースを皮切りに、Juice WRLD は様々なアーティストと共演するようになります。

アルバムリリースから約2ヶ月後には、Lil Uzi Vert をフィーチャーしたシングル『Wasted』をリリースし、アルバム『Goodbye & Good Riddance』にも追加。

Wasted (feat. Lil Uzi Vert)

キャリア初期は Lil Uzi Vert と比べられることも多かった Juice ですが、程良く脱力して歌う Juice と、声を絞り出して力強く歌う Lil Uzi Vert のバランスが取れた良曲です。

初めて人気アーティストとの共演を果たした彼は、YBN Cordae と Lil Mosey をツアーアクトに呼んだファースト・ツアー「The WRLD Domination Tour」も開催しました。

Travis Scott – No Bystanders (feat. Juice WRLD & Sheck Wes)

Travis Scott が2018年にリリースしたアルバム『ASTROWORLD』収録の1曲。Sheck Wes と共に客演参加した Juice は、楽曲の肝となるイントロとポスト・コーラスにあたる部分で、メロディアスなエッセンスを加える役割を果たしています。

Ski Mask the Slump God – Nuketown (feat. Juice WRLD)

親友同士として知られる Ski Mask the Slump God との1曲。こちらの楽曲では、Juice が普段滅多に見せない、がなり声で激しく叫ぶようなラップを聴くことができます。この楽曲を聴いて、Juice と Ski Mask、そして今は亡き XXXTENTACION とのコラボ曲も聴いてみたかったと痛感するファンの方も多いのではないでしょうか。

2018年10月、Juice WRLD は Future とのコラボ・ミックステープ『WRLD ON DRUGS』をリリースします。

Fine China

主にドラッグに関するリリックを歌う Future と、「Future の影響でリーンを飲み始めた」と語る Juice WRLD の相性は、音楽面においても抜群でした。両者とも、かすれ気味な声で歌うメロディアスなフロウを得意とし、15歳の歳の差があるとは思えないほどのコンビネーションを発揮しました。

セカンド・アルバムのリリース

2019年3月、Juice は待望のセカンド・アルバム『Death Race for Love』をリリースします。

2018年10月に、イギリスの人気ラジオ DJ、Tim Westwood の番組に出演し、約1時間の間ほぼノンストップでフリースタイルを披露したことでも知られる彼は、同アルバム収録の楽曲を全てフリースタイルでレコーディングしたことを明かしています。

Tim Westwood TV でのフリースタイル

Robbery

She told me put my heart in the bag

彼女は俺に言ったんだ 俺の心をバッグに詰めろ

And nobody gets hurt

そしたら誰も傷つけないって

Now I’m running from her love,

俺は今、彼女の愛から逃げている

I’m not fast

でも俺は速くない

So I’m making it worse

それが事態を悪化させているんだ

Now I’m digging up a grave, from my past

だから今、過去を埋めるために墓を掘っている

I’m a whole different person

過去の俺はもういない

It’s a gift and curse

愛は贈り物であり、呪いだ

But I cannot reverse it

俺にはどうすることもできないんだ

アルバムの先行シングルとしてリリースされた『Robbery』では、Juice が彼の心を奪った彼女を Robbery (強盗) に例えて歌います。Nick Mira 手掛ける哀愁漂うピアノが特徴的なビートと、感情に訴えかけるような Juice のフロウが完璧にマッチした楽曲です。

Fast

I been living fast, fast, fast, fast

俺は生き急いでいる

Feeling really bad, bad, bad, bad

気分は最悪だ

Time really moves fast, fast, fast, fast

時間は早く過ぎていくんだ

Better hurry up and get in your bag, bag, bag, bag

急いでバッグに詰めたほうがいいぜ

I wear Dior, not a fad, ‘ad, ‘ad, ‘ad

Dior を着ている 流行りには流されない

I know all these n***as gettin’ mad, mad, mad, mad

奴らが怒っているのは分かっている

My hand on my trigger, I’ma die for respect, yeah

引き金に手を添えて リスペクトされながら死んでやる

Fucking with my money, you’ll get dealt like that, yeah

俺の金を奪おうとするなら、痛い目を見るぜ

『Fast』では、Juice が20歳という若さで富と名声を手にし、彼の生きる世界の時の流れが急激に早くなってしまったことについて歌っています。若くしてスターダムを駆け上がった彼ならではの苦悩がひしひしと伝わる1曲です。

これらの楽曲を収録した同アルバムは、初週165,000ユニットを売り上げ、US Billboard 200 チャートにて1位デビューを飾りました。

突然の死

セカンド・アルバムが大成功を収めた後、Nicki Minaj のツアーに参加したり、多様なアーティスト (K-Pop グループの BTS や、Ellie Goulding、Benny Blanco、YoungBoy Never Broke Again など) との共演を果たしたりと順風満帆なキャリアを積んできた Juice WRLD。

ファンや友人、恋人らに心配されていた薬物使用に関しても、Juice は依存していたリーンの使用をやめることを宣言し、精神的にもポジティブな方向に向かっているように見えました。

俺はもう永遠にリーンを使わない お別れだ

そんな彼に、ある日突然不運が襲います。2019年12月8日、Juice WRLD は薬物のオーバードーズ (過剰摂取) によりこの世を去りました。

当時、Juice はプライベートジェット機でシカゴ・ミッドウェイ国際空港に向かっており、彼とその仲間たちは、機内へ銃を違法に持ち込んでいました。それを知ったパイロットが地上にいるスタッフに通報し、着陸後直ちに立ち入り検査が行えるよう、FBI(連保捜査局)と FAA(連保航空局)の捜査官が空港に駆けつけていました。Juice は、この立ち入り検査によって発覚するであろう薬物所持の罪を軽くするために、所持していたパーコセットを大量摂取し発作を起こしたと考えられています。Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、わずか6日前に21歳の誕生日を迎えたばかりでした。

彼は、2018年にリリースした故 Lil Peep と故 XXXTENTACION への追悼曲『Legends』にて、「レジェンドたちは皆若くして死んでしまう」と嘆いていましたが、彼もそのレジェンドたちの仲間入りをしてしまうという、何とも悲劇的な結末を迎えてしまいました。

そんな彼の悲し過ぎる死から早半年が過ぎ、今週10日、遂に彼の遺作『Legends Never Die』がリリースされました。今週は、そんな彼 Juice WRLD がこの世に残した遺産に浸ってみてはいかがでしょうか。

Written by Riku Hirai

Yeezy Company がコロナ渦で2億円以上のローンを借りていたことが発覚

先日『Wash Us in the Blood』をリリースし、大統領選挙に出馬することも正式に発表するなど、話題沸騰中の Kanye West。

『Wash Us in the Blood』

「The Hollywood Reporter」 によると、彼が率いる Yeezy brand が SBA(the Small Business Administration) からパンデミックによるローンを借りていたそうだ。

SBA は およそ二億千万円から五億三千万円強の融資(貸付)を行っていることから、最大で五億円を超える借金をしている可能性も考えられる。先日、 Yeezy は GAP とのコラボを大々的に発表しているだけに、経済面への心配が募るばかりである。

Gucci Mane が2700万円相当のダイヤモンドを歯に埋め込む

今週、豪華メンバーを引き連れてニューアルバム『So Icy Summer』をリリースしたばかりの Gucci Mane。

そんな彼が、2700万円相当のダイヤモンドが施されたインプラントをお披露目した。

https://twitter.com/rapallstars/status/1279793899616317443?s=21

歯に直接ダイヤモンドを埋め込むスタイルは Drake や Lil Uzi Vert などの他の大物ラッパー達もお気に入りのようだが、今後はグリルズに変わるヒップホップシーンの流行となるのであろうか。

Gucci と提携し、ブランドラインを創設することも仄かしている Gucci Mane。今後も彼から目が離せない。

Roddy Ricch がリークによるストレスをジョイントで紛らわす

『The Box』の大ヒットにより、一流ラッパーの仲間入りを果たした Roddy Ricch。

客演で参加した Pop Smoke の最新アルバム『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』の一曲『The Woo』も絶賛ヒット中の彼だが、Drake との楽曲がリークされたことでも話題となっていた。以下の動画がそのリーク曲である。

https://twitter.com/nyleakerz/status/1279767085535694848?s=21

そんな彼が、インスタグラム上でリークされたことへの不満を露わにすると共に、ジョイントでストレスを紛らわした。

https://www.instagram.com/p/CCRSd-NH1Ke/?igshid=g9l4uy3wivxg

動画内で以下のように発言している。

おい、リークするなんて最低だぜ

リーク曲はヒップホップリスナーの間でかなりの好評を博しているが、果たして Drake との楽曲はリリースされるのだろうか。

差別撤廃を訴え続けるラッパー達 – 今聴くべきプロテストソング4選

米ミネソタ州ミネアポリスで、George Floyd 氏が警察官によって殺害された日から早1か月以上が経過しました。今回の事件、そして後に続く反レイシズムの運動は、主にSNSを通じて史上類を見ないほどの規模で世界に広がり、アフリカ系アメリカ人に対する差別の歴史、現状を多くの人が知ることになりました。世界各国の多くの人たちがアメリカ社会の人種差別の現状をアメリカだけの問題ではなく普遍的な人種差別の問題と受け止め、差別的な制度の変革を今も訴え続けています。

多くのアフリカ系アメリカ人の人たちにとって、音楽は自身が生きている現実を表現するプラットフォームとしての役割を常に果たしてきました。実に、公民権運動以前の時代から、多くのアーティストが音楽を通して人種差別や貧困といったアメリカ社会の不平等について取り上げ、社会、そして個人の意識の改革の必要性を訴えてきました。今回の事件後も、多くのラッパーやR&Bアーティストが反レイシズムの曲をリリースしています。

そこで、今回は人種差別を取り上げている曲を4曲ご紹介させていただきます。全曲最初から最後まで解説したいところですが、今回は重要な部分の解説にとどめておきます。

1. Joey Bada$$ -『Land of the Free』

2016年にリリースされた『ALL-AMERIKKKAN BADA$$』収録の一曲。

3年以上前の作品ですが、アメリカ社会に根付く人種差別の現状をテーマにしたアルバムなので、そこに込められたメッセージは現在の状況と通ずるところがたくさんあります。

The Notorious B.I.G.の名曲『Juicy』と同ネタを使ったトラックに乗せて、この曲はこんな一節で始まります。

Can’t change the world unless we change ourselves

俺たち自身が変わらなければ世界を変えることはできない

Die from the sicknesses if we don’t seek the health

健康を求めなければ病気で死んでしまう

この「病気」は「人種差別やアメリカ社会の腐敗といった問題」、「健康」は「その問題の改善・解決」という様に解釈できるでしょう。

何が問題であるかを考え、その解決を求めるために行動しないと、結局は自分自身もその問題に足を捕らわれ、その犠牲になってしまう。つまり、私たちの目の前にある問題を解決するためには、一人ひとりの自己変革が不可欠であることを訴えています。

Genius

歌詞解説サイトの Genius にて、Joey はこの一節をあらゆる人々に向けて書いたものだと語っており、この曲自体は人種差別、アメリカの腐敗がテーマですが、人種差別だけでなく私たちの生きている社会に転がる様々な問題に対して「あなたならどのように向き合い、どのような行動をとるのか?」と問題提起しています。

この曲が収録された『ALL-AMERIKAN BADA$$』は、Joey が400年に至る黒人差別の歴史と向き合い、それに対する解答として出した非常にシリアスな作品ですが、そこに込められたメッセージは力強く、私たち一人ひとりに向けられた普遍的なメッセージなのではないでしょうか。

またアルバムを通して感じられるのは悲観的な雰囲気ではなく、悲劇的な環境の中においても希望を失わずに戦い続けようとする一人の若者の気高い精神です。

このアルバムが今のアメリカを代表する作品であることはまず間違いないでしょう。

2. Lupe Fiasco –『WAV files

続いては、Kanye West の『Touch the Sky』へのフィーチャリングでも知られるシカゴのリリシスト Lupe Fiasco が2018年にリリースしたアルバム『DROGAS WAVE』に収録されている1曲『WAV files』。

アトランティックレコードを離れた後の彼の作品は、以前ほど爆発的にヒットしているわけではないですが、作品自体のクオリティはむしろ上がっているように思います。

このアルバムは「中間航路(黒人奴隷をアフリカからアメリカ大陸や西インド諸島へと運ぶ大西洋航路のこと)で奴隷船から海に飛び降りた奴隷」をテーマとしたコンセプト・アルバムです。

奴隷船のイメージ図

アメリカの人種差別の歴史について考えるとき、奴隷貿易の歴史は避けて通れません。黒人差別の歴史を木に例えるならば、奴隷貿易は根の部分にあたるといえるでしょう。中間航路や奴隷貿易の悲惨さについては、様々な記録や文献があるので一度調べてみることをおすすめします。

そして、この曲はそのような奴隷の亡霊の視点で書かれており、彼らが実はまだ死んでおらず、他の貿易船を沈めながらアフリカ大陸に帰るべく海中を歩き続けているという、とても斬新で衝撃的な内容が展開されていきます。

My bones is why the beach is white

砂浜が白いのは、そこに俺の骨があるからだ *1

Why the beach is white ’cause they bleached us light

砂浜が白いのは、あいつらが俺たちを明るく染めたからだ *2

So I’m goin’ back home, I took a leap last night

だから俺は帰るべきところへと向かっている。俺は昨夜飛び込んだんだ

So I’m walkin’ on water ’til my feet just like Jesus Christ

この足がイエスキリストみたいになるまで俺は海の上を歩き続ける *3

Wow, walkin’ on water

海の上を

*1・・・海に飛び込み亡くなった奴隷たちの骨が海岸まで流れ着いたことを意味しています。
*2・・・奴隷の所有者たちは奴隷たちからアフリカ独自の宗教や言語などの文化を取り上げ、西洋の文化や価値観を強制しました。
*3・・・イエスキリストは大嵐の中海の上を歩いたとされています。

静かにピアノがループするビートの効果も相まって、本当に海に飛び込んだ奴隷たちが海の底を歩いているイメージが浮かんでくるようです。また、特筆すべきなのは3ヴァース目の構成です。このヴァースで、彼は初めの部分以外ほとんど韻を踏むことなくひたすら実在した奴隷船の名前を挙げていきます。彼ほどのスキルがあれば奴隷貿易について語りながらいくらでもパンチラインを作ることができたはずですが、あえて韻を踏まず、名詞だけを並べていくという手法を彼は意図的に選択しました。

これは、おそらく他のどのラッパーもやっているようでやっていない画期的なアプローチでしょう。そんなアプローチが功を奏して、どれだけ多くの船が奴隷を連れて大西洋を航行していたのかが明確に分かる上に、語り手である奴隷たちの亡霊が奴隷船を沈めながら海中を往来しているイメージが浮かび上がってきます。

この曲の内容はフィクションですが、歴史の中で忘れられた存在である、奴隷船から飛び込み海の藻屑と化した何十人・何百人の名もなき奴隷たちに光を当て、「彼らはただ無残に死んだのではなく、今も故郷に向かって歩いているのだ」と語ることで、全く新しい視点を投げかけるものとなっています。

また、擬人法や比喩など、様々なイメージを想起させる効果がたくさん使われており、聞けば聞くほど深みを感じる非常に文学的な作品でもあります。是非1度リリックを追いながら、その魅力とメッセージに触れてみてはいかがでしょうか。

3. Kenneth Whalum –『Might Not Be OK (feat. Big K.R.I.T.)』

次は、Jay-Z の『4:44』にも参加したテネシー州メンフィスのサックス奏者である Kenneth Whalum が、2016年に Big K.R.I.T. を客演に迎えリリースした1曲『Might Not Be OKです。

この曲は、同年7月にルイジアナ州バトン・ルージュにてアルトン・スターリンというアフリカ系アメリカ人の男性が警官によって射殺された事件を受けてリリースされ、警察によるアフリカ系アメリカ人への暴行を取り上げています。

リリースに至った経緯は Big K.R.I.T. 本人が Genius のインタビューにて詳しく説明しているので是非見てみてください。

この曲は Big K.R.I.T. の淡々とした語り出しからヴァースが始まります。

Mommas been cryin’ and they gon’ keep cryin’

ママたちはずっと泣き続けてる、これからも泣き続けるだろう

Black folk been dyin’ and they gon’ keep dyin’

黒人たちは死に続けてる、これからも死に続けるだろう

Police been firin’ and they gon’ keep firin’

警察は銃をぶっぱなし続けてる、これからもそれを続けるだろう

The government been lyin’ and they gon’ keep lyin’

政府は嘘をつき続けている、これからも嘘をつき続けるだろう

Kenneth Whalum –『Might Not Be OK (feat. Big K.R.I.T.)』

ここで、彼は黒人が実際に今どのような状況に生きているのかを端的に表現しています。

黒人たちが警官の手によって命を失うたび、母親は自分の子どもの死を嘆き悲しむが、司法は事件の事実に直面せず、殺した警官は正しく裁かれることはない。これに対して抗議の声を上げ、正義を訴えても、また同じように黒人が警官の手によって殺され、不起訴処分で終わる、という繰り返し。

今日に至るまでたくさんの人が、幾度となく黒人に対する不当な逮捕や暴行に反対し、殺人に関わった警官を裁くよう訴えてきましたが、警官による黒人への暴行が後を絶つことはなく、そのような警官の処遇は起訴どころか無罪放免で済まされてきました。

そのような変わらない差別の現状に対して、ようやく当事者の黒人たちだけでなく、他の人たちも共に声を上げよう、社会全体としてこの問題と向き合おうという動きが高まり、今回のような国際的な抗議活動が行われる結果になりましたが、「黒人への差別をやめろ」というメッセージは、大昔から訴えられてきました。

何年、何十年、何百年と続く差別の中で、状況を変えたくてもなかなか変わらない、そんなどうしようもない現実に対する怒りや悔しさといった悲痛な感情が、曲が進むにつれて感情的になっていく彼のラップから、ひしひしと伝わってきます。

4. J. Cole –『Be Free

2014年、ミズーリ州セントルイス群ファーガソンにて Michael Brown という18歳の黒人の青年が警官によって殺された事件に対するアンサーソングとしてリリースされた1曲。

この事件でも彼の殺害に関わった警官は不起訴処分とされ、不当な措置であるとして大規模な抗議運動が行われました。この事件からもうすぐ6年が経ちますが、未だ解決したとは言えません。

J. Cole は今世代最高のラッパーの名声を勝ち取っており、成功者であることは疑いようがないですが、この曲ではそのようなブランドは一切関係なく、アメリカという地に生きる一人の黒人男性としてこの事件に対する自身の心情をさらけ出しています。

All we wanna do is take the chains off

俺たちはただこの鎖を外したいだけなんだ *1

All we wanna do is break the chains off

俺たちはこの鎖を断ち切りたいだけなんだ

All we wanna do is be free

俺たちはただ自由になりたいだけなんだ

All we wanna do is be free

俺たちはただ解放されたいだけなんだ

*1・・・鎖は奴隷の動きを制限するために使われていました。

非常にシンプルでありながら力強さを感じるフックには、奴隷制時代から現代にいたるまで一貫して訴えられてきた黒人たちのメッセージの本質が凝縮されています。

「自由に生きたい、俺たちが願っているのはただそれだけなんだ」という言葉は、どれだけ長い間、アメリカ社会が彼らの声を理解せず、無視し続けてきたかということを示しています。

Can you tell me why

なあ教えてくれ、何でなんだ

Every time I step outside I see my niggas die

俺が外に出るたびに誰かが死ぬのを見なきゃいけないのは何でなんだ

I’m lettin’ you know

お前に言っておく

That there ain’t no gun they make that can kill my soul

どんな銃も俺の魂を殺すことはできない

Oh no

何てことだ

『Middle Child』などの曲での自信に満ちた堂々とした姿とは違い、歌いながらラップする彼の姿は悲しみや悔しさに打ちひしがれていて、いまにも崩れ落ちそうです。

そのような状況でもなお、彼は「銃では俺の魂は殺せない」と叫びます。どれだけ警察が、そして社会が黒人の命を奪おうとしても、その精神や存在まで否定することは不可能なのだということを宣言するこの言葉は、彼の悲痛な叫びの中でもひときわ鋭く響いてきます。この曲は彼の最高傑作の1つであり、アメリカに生きる黒人の痛みや悲しみをこれ以上ないほど鮮明に描写した作品です。

おわりに

今回は黒人差別をテーマとしたものの中でも特にストレートに響く楽曲をご紹介させていただきました。ヒットチャートに載ることは少なくとも、黒人差別や社会の腐敗をテーマとしたラップ・ソングは他にもたくさんあります。今回ご紹介できなかった楽曲はプレイリストにまとめておりますので、この機会に是非聴いてみてはいかがでしょうか。

Hip Hop の歴史は、黒人たちが生きてきた歴史ととても深い関係にあります。昨今、George Floyd 氏の殺害事件をきっかけに史上最大規模の反人種差別の動きが世界へと広がっており、Black Lives Matter の運動、そして人種差別についての意識啓発の動きが高まっている中、彼らの音楽から学ばされること、感化されることは沢山あるのではないでしょうか。

https://music.apple.com/jp/playlist/protest-songs/pl.u-kv9lq7js7VY5Ga1?l=en

Nozomu Yoshida

『Savage Mode 2』のリリース日が近い可能性が浮上

先日、子供が無料でインターネット上にて金融を学べるプロジェクトを作り出した 21 Savage。

そんな彼が先週、『Savage Mode 2』のリリースを仄めかすツイートをし、ファンの間で「リリースが近いのではないか」と噂になっていた。

そして本日、『Savage Mode』の共作者であるプロデューサー Metro Boomin が『Savage Mode 2』を連想させるツイートを投稿。これにより、『Savage Mode 2』のリリースが近いことにより一層現実味が出てきた。

昨年グラミー賞にノミネートされるものの、惜しくも Tyler, The Creator に敗れた 21 Savage と、早くもレジェンドプロデューサーに仲間入りしつつある Metro Boomin。彼らのプロジェクトの続編がリリースされれば、ヒット作となること間違いなしだろう。

Iry Gotti が「唯一若い世代で一目置いているのは Travis Scott だ」と発言

Ashanti や Ja Rule、そして Jennifer Lopez などのプロデュースで知られ、Murder Inc. の創業者でもある Iry Gotti。

そんな彼が、今週行われた 「The Breakfast Club 」のインタビューで、若い世代のラッパーについて発言した。以下がその要約である。

俺が唯一尊敬しているアーティストは Travis Scott だよ。前のアルバム(ASTROWORLD) を誰かが流した時に、「誰だこいつは」ってなったんだ。

また、次のようにも言っている。

今の若い世代で、唯一考えやエネルギーが作品にみなぎっているのは Travis Scott だよ。

やはり、プロデューサーにさえ指示をする Travis Scott の音楽性はレジェンド世代のプロデューサーにも良く感じられたようだ。

SahBabii – カルト的人気を誇るミステリアスなラップスター

今週末の7月3日に約2年ぶりとなる待望のニュープロジェクト『BarNacles』をリリースする SahBabii。一部のリスナーからはカルト的な人気を誇りながらも、SNS の更新は最低限であったり、他のアーティストの楽曲へのゲスト参加が極端に少なかったりと、いまだに謎に包まれているミステリアスな彼。今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力について予習しておきましょう。

SahBabii とは

SahBabii (サーベイビー) こと Saaheem Valdery は1997年2月24日にシカゴで生まれました。彼の出身はアトランタだと思っている方も多いかもしれませんが、実はイリノイ州シカゴ出身で13歳まではシカゴで暮らしていました。13歳の時に彼の実の兄であり、彼の楽曲に度々客演として参加している T3 というラッパーの音楽活動を本格的に行うためにアトランタに引っ越して以来、アトランタを拠点として活動しています。

SahBabii という名前の由来ですが、インタビューでは叔父に貰った名前だと明かしています。彼の叔父は TeeBaby というラッパーなのですが、そのラップネームの一部である「Baby」と、SahBabii の本名である 「Saaheem」 の一部を組み合わせて生まれた襲名型のラップネームです。最近は「Baby」をという語を自身のラップネームに盛り込むラッパーが多くなってきていますが、飽和しつつある Baby ブームと一線を画すことに成功しています。

キャリアの開始

アトランタに引っ越した直後、SahBabii の名義のもとで楽曲制作を開始しました。先に活動を始めていた兄である T3 の力を借りて『Pimpin Ain’t Eazy』と『Glocks & Thots』というミックステープを2年連続で制作、リリースしました。この頃の楽曲は、Young Thug の初期のミックステープを彷彿とさせるようなサウンドを多用しており、現在の彼のスタイルとはかけ離れたものとなっています。

その後3年間はシングルを不定期でリリースする以外に、目立ったアクションを起こしておらず、先述のミックステープを聴いていたファンたちからも忘れ去られようとしていた 2017年に突如として3作目のミックステープ 『S.A.N.D.A.S.』をリリースしました。

ちなみに空白の3年間についてですが、彼が使っていた楽曲制作ソフトの CuBase が起動できなくなっていたり、マイクなどの機材が壊れてしまったりと SahBabii は様々なトラブルに見舞われていたようです。インタビューでは、T3 の寝室で壊れたマイクを使用して『S.A.N.D.A.S.』をレコーディングしたことを明かしています。

Pull Up Wit Ah Stick の大ヒット

3作目のミックステープ 『S.A.N.D.A.S.』にも収録されており、先行してシングルでもリリースされていた 『Pull Up wit ah Stick』という楽曲なのですが、こちらの楽曲が彼のキャリアを大きく躍進させるキッカケとなりました。彼が自身のインスタグラムに投稿した同曲のスニペットが話題となり、その後すぐに SoundCloud にて100万再生を達成しました。

SahBabii を中心にモブを形成した彼の仲間のギャングたちが、様々な種類の銃器をカメラに向けながら踊っているミュージックビデオですが、こちらも最近の彼の楽曲のイメージからはかけ離れたものとなっており、意外にもギャングスタミュージックを感じられるものとなっています。

独特な世界観

Pull Up Wit Ah Stick で一斉を風靡した彼ですが、それ以降はガラッと路線を変更し、彼なりの世界観を全開に表現した楽曲やミュージックビデオを連発しています。日本のアニメにリファレンスを置いた楽曲や、ライムのために訳のわからないリリックを連続するマンブルな楽曲などをリリースし、独特の世界観を作り上げていることも、いつまで経っても彼がミステリアス生まである原因のひとつなのではないでしょうか。

お聴きいただいたのは4作目のミックステープ『Squidtastic』に収録され、その中でも特に異彩を放っていた『Anime World』という楽曲です。タイトルからお察しの通り、先ほど少し言及した日本のアニメにインスピレーションされた楽曲です。リリックには、忍者や車輪眼、スサノオノミコト、他にも様々な日本語が登場し、なおかつそれらで心地よく韻を踏んでいるのでとても面白いです。

ちなみに中盤で挿入される日本語のセリフは、SahBabii 自身がツイッター上で日本語話者を募集し、直接スタジオに招き入れてレコーディングされたものとなっています。

SahBabii は、ここ数年のヒップホップシーンにおいてかなりの知名度を獲得していますが、その知名度に反してほとんどシーンに姿を表しません。自らのプロジェクトにゲストを呼ぶこともかなり稀ですし、他のアーティストの楽曲に参加したことも、両手で数えられるほどしかありません。

そんな中、SahBabii が他のラッパーの楽曲に参加したレアなケースをご紹介します。フロリダのラッパー Ski Mask The Slump God の EP『BE AWARE THE BOOK OF ELI』に収録されている『COOLEST MONKEY IN THE JUNGLE』という楽曲で、タイトルを見て頂ければ分かる通り、H&Mの不祥事の直後にそれを揶揄する様にリリースされた楽曲です。

 Murda Beatz によってプロデュースされた楽曲で、ジャングルの奥地で聞こえてきそうな奇妙なサウンドの上で、Ski Mask と SahBabii が独特なフロウでラップしています。

続いても SahBabii が客演に招かれているレアケースです。イギリス・ウエストロンドンの AJ Tracey と カナダ・トロントの SAFE、そしてアメリカ・アトランタの SahBabii が三国から一同に集結した、「最もコラボが予想されていなかった一曲」です。

MV に関しても、ハリーポッターシリーズに登場するホグワーツ魔法学校のような古城を舞台に広げられ、SahBabii の世界観ともマッチした荒めのCGアニメも挿入されています。

ニューアルバム 『BarNacles』

SahBabii は、ニューアルバム『BarNacles』の存在を2019年の夏にインスタグラムストーリーズにて明かしました。しかし、待てど暮らせど一向に彼がアルバムをリリースする動きはなく、月日だけが過ぎていきました。あれから一年が過ぎようとしていた2020年の5月、彼は突如『Double Dick』と題されたニューシングルと、同曲のミュージックビデオを公開しました。

SahBabii と度重なる共演を重ねているプロデューサー Teezr による浮遊感のあるトラックの上で、彼らしい軽快なフロウと、耳を疑ってしまうほど内容のないラップを披露してくれています。内容のないラップをいかにスタイリッシュにラップしてみせるかが、彼の腕の見せ所とも言えますが、文字に起こすとその薄さが浮き彫りになります。

Hippo booty bouncin’ (Bouncin’)
カバみたいなお尻が跳ね回る。

Rhino booty bouncin’ (Bouncin’)
サイみたいなお尻が跳ね回る。

Elephant booty bouncin’
ゾウみたいなお尻が跳ね回る。

That ass outta control, I think it need some counselin’
お尻たちは制御不能だ。カウンセリングをして落ち着かせなきゃ。

そして、シングルのリリースから一ヶ月が経過した 2020年の6月、彼は突如アルバムのカバーアートとリリース日をSNS上に投稿しました。タイトルは予告されていた通り『BarNacles』で、前回に引き続き海をモチーフにしたアートワークとなっています。ちなみに『BarNacles』とは「フジツボ」という意味で、港なんかに行くとテトラポットにへばりついてる「アレ」です。画像を掲載することも考えましたが、集合体恐怖症の方々への配慮として、言葉での掲載に留めておきます。(アルバムカバーの SahBabii の顔の横、左足の奥にフジツボが確認できます。)

リリースの約一週間前には、トラックリストも公開されましたが、相変わらず客演は実兄の T3 のみ。ここまでくると、意図的に有名なラッパーとの共演を避けているとしか思えません。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は今週末にニュープロジェクト『BarNacles』をリリースする SahBabii についてまとめてみました。ミステリアスな彼が生み出すニューサウンドから目が離せません。

NoCap – 痛みを歌うアラバマの新鋭ラッパー

明日6月30日にニュープロジェクト『Steel Human』のリリースを控える注目ラッパー NoCap。XXL Freshman Class 2020 にもノミネートされている彼の生い立ちやキャリア、魅力について予習しておきましょう。

NoCap とは

NoCap (ノーキャップ) こと Kobe Vidal Crawford は、映画「フォレスト・ガンプ」の舞台となったことでも知られる湾岸都市、アラバマ州モービル出身の21歳 (1998年生まれ)。ちなみに名前の「No Cap」とは、2018年以降大流行した「嘘じゃない、本気で」という意味のスラングです。

当時の母親のボーイフレンドの影響で、8~9歳の頃にラップを始めたという NoCap は、彼と彼の兄、そして母親のボーイフレンドの甥の3人でグループを組んで活動し始めました (NoCap 以外の2人は既に音楽活動を辞めているそうです)。

幼い頃からラッパーとしてのキャリアを積み上げてきた NoCap は、2017年にデビューシングル『Boss Moves』をリリース。2018年にはシングル『Legend』で注目を集め、デビューミックステープ『Neighborhood Hero』や、同郷モービル出身のラッパー Rylo Rodriguez とのジョイントテープ『Rogerville』をリリースし、更にはアトランタの人気ラッパー Lil Baby のアルバム『Street Gossip』への参加を果たすなど、彼にとって飛躍の1年となりました。

2019年にはシングル『Ghetto Angels』がバイラルヒットし、同曲収録のミックステープ『The Backend Child』をリリース。その後、銃撃事件への関与により逮捕されるものの、同年末にリリースしたミックステープ『The Hood Dictionary』は US Billboard 200 にて最高80位 (R&B/Hip-Hop チャートでは最高39位) を記録しました。

NoCap の楽曲とスタイル

NoCap のスタイルについてご説明する前に、まずは彼の最初のヒット曲を聴いていただきましょう。

Legend

YoungBoy Never Broke Again や Polo G、Kevin Gates らと比較されることが多い NoCap は、オートチューンを効かせたヘロヘロな声で、歌うようにラップするスタイルを得意とします。彼は、困難な環境を生き抜いてきた苦労や葛藤、哀しみ、そして現在の成功や名声を、エモーショナルに、時に力強く歌い上げます。

NoCap は決して技巧派というわけではないのですが、彼の癖になる絶妙なヘタウマラップが南部ヒップホップらしい味を出しています。

Spaceship Vibes (feat. Quando Rondo)

I think about you all day and at night I watch the stars shoot

いつも君のことを考えていて、夜には流れ星を眺める

I know love is not a game but I can’t control what my heart do

「愛」はゲームじゃないって分かってるけど、自分の心をコントロールできないんだ

I fucked up so many times, I know you thinking I don’t want you

俺は何度も過ちを犯した 君は、俺に愛されてないって思ってるんだろ

I never tell you lies, I’m always giving you the hard truth

絶対に嘘はつかないよ 君にはいつも真実を話してる

Remember we was way more than friends, I just wonder, “Would you love me again?”

俺らがまだ付き合っていない頃を思い出してくれ もう一度愛してほしいんだ

I’m always having spaceship vibes, sometimes I think that I’m an alien

俺はいつも「スペースシップ・バイブス」を持ってる 俺はエイリアンなのかもな

ジョージア州サバンナ出身のラッパー Quando Rondo を客演に招いたこちらの楽曲は、シンプルで美しいピアノループと切ないリリックが特徴的なラブソングです。

NoCap は、恋人や失恋について歌う楽曲も多くリリースしています。こういった楽曲でも、R&B 歌手のような圧倒的な歌唱力で歌うのではなく、無骨で未熟な歌唱力で気持ちのままを歌う彼ならではの魅力があります。

Ghetto Angels  

And it’s crazy, we ’posed to took Duke to the graveyard to see Fred

狂ってるんだ 俺たちは Duke を Fred の墓参りに連れて行こうとしていた (2人とも NoCap の友人)

Phone ring an hour later, damn Cap, Duke dead

1時間後に電話が鳴った 嘘だろ、Duke が死んだ

I guess since we didn’t take him He went to the graveyard to see Fred on his

俺たちがあいつを連れて行く代わりに、あいつは自ら Fred に会いに行ったんだ

NoCap といえばこの曲『Ghetto Angels』です。今は亡き友人たちに向けて歌った同曲が YouTube にて4000万再生を記録し、後に Lil Durk と Jagged Edge を招いたリミックスもリリース。

痛みを伝えるリリックと心に響く歌声が絶妙にマッチした、まさに NoCap らしい1曲です。

What You Know

Fake love, real hate

偽の愛と、本当の憎しみ

I don’t know which one is worse to me

どっちが悪いのか俺には分からないんだ

ミックステープ『The Hood Dictionary』収録の1曲。アコースティックギターを用いたトラックと NoCap の哀愁漂うボーカルが絶妙にマッチした同曲は、深く考えさせられるリリックも魅力的で、まさに No Cap (リアル) な1曲です。

Count A Million (feat. Lil Uzi Vert)

I think that I can count a million with my eyes closed

目を閉じたままでも大金を数えることができるぜ

今週リリース予定のニュープロジェクト『Steel Human』の先行シングルとしてリリースされた1曲。彼のキャリア初期の楽曲と比べると、かなりラップのクオリティが上がっています。

人気ラッパー Lil Uzi Vert と共に成功について歌う同曲が話題を呼び、彼のニュープロジェクトへの期待も更に高まっています。

おわりに

いかがだったでしょうか。今回はアラバマ州モービルのラッパー NoCap についてまとめてみました。

Lil Baby や YoungBoy Never Broke Again、Lil Uzi Vert ら大物ラッパーとの共演も果たし、XXL Freshman Class 2020 にもノミネートされている新鋭ラッパー NoCap。名前負けしないリアルなリリックを届ける彼の今後に要注目です。

Gucci Mane が GUCCI の協力の下、自身のブランドラインを立ち上げることを示唆

昨年、GucciCruise20 のコレクションにて GUCCI と協力してコラボレーションアイテムを発表した Gucci Mane。

そんな彼が Twitter にて、GUCCI のブランド内で、自身のブランドラインを立ち上げることを示唆。

https://twitter.com/gucci1017/status/1275741391709261826?s=21

GUCCI といえば、2018-19 AW コレクションにて発表したバラクラバ帽風のトップスが、ブラックフェイス(黒人以外の役者が黒人の役を演じるために施す化粧)を想起させることから、人種差別的だという批判を受けていた。

GUCCI 2018-19 AW コレクション

Gucci Mane の言い分が本当なら、ブランドとしてもかなりの勝負に出ることとなる。近頃の人種差別撤廃運動の影響も考えられるが、どちらにせよ楽しみであることは間違い無いだろう。

Nick Mira – Juice WRLD のサウンドを創り上げた若き天才プロデューサー

爽やかでありながらメロディアスで、哀愁さえも漂う Juice WRLD の楽曲を作っているプロデューサーは誰なのかと疑問に思ったことはないでしょうか。

今回は Juice WRLD や Trippie Redd などにビートを提供するプロデューサー Nick Mira の魅力についてまとめてみようと思います。

生い立ちとキャリア

Nick Mira はヴァージニア州出身のアメリカ人で、現在19歳(2000年生まれ)という若きプロデューサーです。彼は昔からギターやピアノを弾くことが好きで、それが現在のプロダクションにも反映されています。

彼はキャリアを始めるにあたっての自分のインスピレーションとして、Pharell Williams や Kanye West、Metro Boomin などを挙げています。そんな彼は2017年、 Taz Taylor によって設立されたビートメーカーのレーベル Internet Money Records に加入します。

ちなみに、彼らのタグである「Inernet Money B**ch」は Nick がプロデュースした Trippie Redd の『Love Me More』や Lil Tecca の『Ransom』などで聞くことができます。また前述の『Love Me More』や、テキサス出身のラッパー 10k.Caash 、度々Nick のビートを使っている Ty Fontaine など、彼がプロデュースした曲には時折彼のタグが使われています。

『Love Me More』

これは Nick の当時の彼女の声を録音した「Hahahaha, Nick, you’re stupid」というタグです。

スタイル

Nick Mira は、小さい頃から弾いていたギターやピアノを使ったメロディアスなビートが特徴的です。彼の作る曲は、メロディアスでありながら切なさや哀愁を兼ね備えていることから「Emo Rap=エモラップ」に分類されるビートが多いです。

この例として、テキサス出身のプエルトリコ人ラッパー iann dior と Trippie Redd の『gone girl』が挙げられます。

『gone girl』

この曲はエコーがかかったギターの旋律が特徴的なビート上で、iann dior の若々しいフレッシュな声とエモラップの先輩的立ち位置の Trippie Redd の声が見事にマッチした曲です。また、彼は様々なインタビューで「音を重ねすぎなくても、曲をヒットさせることができる」と語っています。

その代表例が Lyrical Lemonade の MV でも大きく話題になった Lil Tecca のメガヒット、『Ransom』です。

『Ransom』

この曲はメロディと、ベルのような音を使った「パッ、パッ、パン」というベース音を組み合わせた点が特徴的です。

ハイハットや 808 のパターンが非常に単純なため、シンプルな音でもボーカルさえマッチすればヒットを生み出せるということを Nick は証明しています。哀愁が強いビートではありませんが、おすすめの1曲です。

ビート製作の生配信と「Mira Touch」

Nick Mira はたまにライブ配信サイト「Twitch」にて、ビート作りのライブ配信をしています。このライブ配信では、事前にアーティストからもらったボーカルを使ってビートを作ったり、10分でビートを作るチャレンジをしたり、音楽好きの興味をそそる絶妙なコンテンツが多いです。

最近のライブ配信では、Trippie Redd と Lil Nas X が別々で Nick に送信したボーカルを、それぞれのキーが同じであったために一つの曲にするという凄技を見せていました。この配信は後々、YouTube にもアップされているので見逃しても視聴可能です。

また、この配信中に Nick 自身や視聴者のコメント欄で何度も見かけるフレーズがあります。それが「Mira Touch」です。「Mira Touch」とは、Nick がビートにあるメロディやドラムを足したときや、シンプルにハイレベルなビートを作っている状況を意味する言葉です。みなさんも、ぜひこの「Mira Touch」を生配信で見てみてください。(彼のインスタストーリーを見張っていればたまにやっています)

Nick MiraとJuice WRLD

ここまで Nick Mira のスタイルやスキルについて述べてきましたが、彼のキャリアは Juice WRLD なしでは語ることができません。Nick や Internet Money の仲間たちは、Juice WRLD がまだサウンドクラウドで200人ほどしかフォロワーがいない時に初めて彼にトラックを提供しました。

そのトラックを使用したのが『All Girls Are The Same』です。この楽曲ではピアノに近いサウンドのシンセサイザーを重ねて、可愛げがありつつも切なさが際立った Juice WRLD にピッタリなメロディを作り出しています。

またドラムではハイハットをあえて少し乾いたような音にすることで、ビート自体に弾みをつけています。この曲の製作工程は、Genius の「Deconstructed」というシリーズにて取り上げられています(Nick は当時17歳)。

そして同時期に Juice の代名詞とも言える曲がリリースされます。それが『Lucid Dreams』です。この曲は Nick が作り出しそうなメロディーを Sting の『Shape Of My Heart』をサンプリングすることで彼の世界観を表現した曲です。

この名曲をサンプルするアイデアは非常に Nick らしく、サンプル元の凄まじい哀愁を残しつつ、トラップビートとして進化させた「エモラップ」の頂点のようなビートと楽曲です。これはまさに「Mira Touch」が起こった瞬間です。

この二曲が収録されているアルバム『Goodbye & Good Riddance』では8曲で Nick がプロデュースに参加しています。

それ以降も2019年の Juice の死まで多くの曲をプロデュースしました。その中から最後に一曲、2019年にリリースされた『Empty』を紹介します。この曲は美しいピアノの旋律がオシャレで、弾けるようなクラップとハイハットが特徴的なビートです。

このビートに、助けを求めるような Juice のボーカルと、フックの 「I feel so god damn empty」というフレーズが相まって、その言葉通り心に穴が開いたような感覚になります。個人的には Nick Mira のビートの中でも Juice の曲の中でも、かなりエモーショナルな気持ちになる曲で、最も哀愁度が高い曲だと言えます。

このように Nick Mira と Juice の相性は抜群なのです。だからこそ、Juice WRLD がいなくなって、この二人のタッグを味わえないことは本当に残念で仕方がありません。ちなみに Juice の死後にリリースされた『Righteous』も Nick がプロデュースした名曲なのでぜひ聞いてみてください。

最後に

Nick は上記の曲以外にも今は亡き XXXTENTACION と Trippie Redd の名曲『Fuck Love』や Young Thug のアルバム『So Much Fun』のイントロ曲『Just How It Is』など様々な曲に参加しています。まだ19歳という若さにも関わらず、様々なラッパーたちと音楽を作る Nick Mira に今後も注目です。

また、記事内で紹介した Genius の「Deconstracted」では、記事内で紹介した『Ransom』と『Empty』のバージョンもありますので、是非みてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

XXS オリジナルプレイリストはこちらから↓

https://music.apple.com/jp/playlist/nick-mira/pl.u-2aoqrRYuNWXxYz0?l=en

written by Dannie Ramsden

日本食とヒップホップ – 食文化から考察するラッパーの FLEX 論

ラッパーたちは脳をフル回転させ、自らのラップを武器に大金を稼ぎます。彼らの中にはラッパーとして成功するまでは、まともな食事を摂ることも出来ないほど貧しかった者も山ほどいます。アトランタの危険地帯である Zone 6 出身の Young Nudy は 『Judge Scott Convicted』 にてこのようにラップしています。

I done robbed a lot of n****s ‘cause I had to n***a

それしか生きる方法が無かったから、俺はたくさん盗みをしてきた

I ain’t have no food on the table n***a

食卓に食べ物は無かったんだよ

このような厳しい環境を生き抜いて、自らの手で生み出したお金で高級な食事を食べることは、彼らにとって至福のひと時であり、一種のステータスでもあります。そして、ラッパーたちが良いものを食べていることを言及する際、かなりの確率で「日本食」が用いられます。今回は、リリックに頻出する日本食レストランである「Nobu」と「Benihana」をご紹介するとともに、ヒップホップと日本食の関係性について考察していきます。

Nobu と Benihana のロゴマーク

ではまず初めに、なぜ大金を手にしたラッパーたちはこぞって Nobu や Benihana に行くのでしょうか。その理由はこのように考えられます。日本食は生ものや日本独特の食材を使用する為、海外(特に欧米)において、そこまでハイクラスなレストランでなくても比較的高めの価格設定となっています。各国で日本食が独自の進化を遂げ、その土地ならではの姿に変化している場合もありますが、基本的に寿司などを満足に食べようとすると、ファーストフードでの一食にかかる食費に比べると、ずいぶん高額になってしまうのが現実です。

ですので彼らにとって、「高いステーキを食べること」よりも「高級日本料理店に通うこと」の方がステータス化しやすくなっているのです。また、生の魚などを食べる習慣が少ない海外では、寿司や刺身などを食べることは、未だ体験したことのない新しい領域に踏み出すような感覚だといいます(最近では寿司はかなり普通になってきましたが)。そこまで裕福でない場合、自分の口に合うかわからないものに高いお金を出すのは気が引けますよね。しかし彼らは一般の人々と違って、新しいものにも挑戦出来るほどの財力があることを見せつけているのです。

Nobu

Nobu マイアミ店の店内

Nobu はシェフである松久信幸によって創設され、現在全世界に50店舗を展開する高級日本食店です。新宿2丁目の「松栄鮨」などで修行を積んだ後に、俳優であるロバート・デ・ニーロとの共同事業としてNobu を立ち上げました。現在ではアメリカはもちろん、ヨーロッパやアジア圏、日本にも事業を拡大しており、世界中の人々から愛されています。そして、アメリカに20店舗出店していることもあり、アメリカのラッパーたちにも広く親しまれています。レストランNobu はリリックにも頻出する重要なキーワードであり、気になっていた方も多いのではないでしょうか。

松久信幸 と DJ Khaled

ラッパー達は度々、自身の贅沢なライフスタイルを一般の人々やヘイターのそれと比較して、その違いを強調するような内容のラップをします。相手を挑発するようなストレートな内容から、少し難解に暗示されたさりげない内容まで中身は様々ですが、Drake は自身の楽曲である 『Gyalchester』 でこのようにストレートにラップしています。

Can’t get Nobu, but you can get Milestone

お前はマイルストーンには行けるけど、ノブに行く金はねぇだろ

Milestones は Drake の出身であるカナダのステーキハウスの名前です。Drake はこのラインでヘイター達に対して「俺は金があるからノブで飯を食えるけど、お前らはせいぜいマイルストーンに行く金しかねぇだろ!」と挑発しています。

ちなみにマイルストーンの価格帯は、そこまで安いというわけではなく、カナダの子供たちが誕生日に特別に両親に連れて行ってもらえるといったイメージのお店です。満足にステーキを食べて1人4000円程度といった感じで、一般庶民にとっては特別なお店というのが本音です。カナダなのでチップもありますしね。Drake は韻を踏むため、そして自分の出身地発祥のお店なので マイルストーンを選んだのでしょうが、対比が甘くなってしまい、痛烈さに欠けるラインとなってしまっている印象です。

いつのまにかマイルストーンについての説明になってましたが、ここで Nobu の料理がどの位の価格帯なのかを見てみましょう。ちなみにNobu は寿司などの日本食や、「Nobuフード」と呼ばれる、和食に南米や欧米のエッセンスを取り入れた料理を展開しています。ここでは一例として、Nobu ロサンゼルス店の一品料理と寿司のメニューを見てみましょう。

Nobu Los Angels の公式サイトより

ご覧の通り、枝豆が$8 (日本円で約850円)、サーモンやエビのお寿司が一貫で$6 (日本円で約640円) とかなり高価なものとなっております。寿司に関しては日本では二貫108円で食べれちゃいますからね。更に、トロなんかは m/p と記載されており、いわゆる「時価」となっています。

自らのライフスタイルを他者のものと比較するリリックはよくみられるものですが、自分自身の現在と過去の生活を比較するパターンも多いです。Gunna による楽曲『King Kong』に客演として参加した Young Thug はこのようにラップをしています。

Yeah, we was eating at Nobu
そうだよ。俺たちはノブで食事をしてた
Came a long way from Kroger
Kroger で買い物をしてた時代から長い道のりを歩んできたよ

Young Thug が通っていたと思われる Cleveland の Kroger

松久信幸氏は、ビバリーヒルズに新しい寿司レストランである Matsuhisa Beverly Hills もオープンしています。こちらの店舗にもハリウッドスターやラッパーたちが出入りしており、舌の肥えた著名人たちを唸らしているようです。また Matsuhisa Beverly Hills では、オリジナルグッズの展開も行なっているようです。A$AP Bari も「松久」と漢字で刺繍が施されたベースボールキャップを身に付けている姿を自身のインスタグラムに投稿し、Matsuhisa Beverly Hills のオフィシャルアカウントをタグ付けしています。

Benihana

Benihana の店内

続いてはBenihana についてです。こちらのお店は、東京出身のロッキー青木氏がニューヨークで1964年に開業した、アメリカにおける鉄板焼きのパイオニア的存在です。Nobu が新鮮な刺身や和食を提供する日本食レストランであるのに対し、Benihana は主に日本風の鉄板焼きを提供するグリルレストランです。お客さん 2〜10人ほどに対して専属のシェフが1人付き、パフォーマンスをしながら真ん中の鉄板でお肉や野菜などを焼いてお客さんのお皿に分けていくスタイルです。このようなレストランや食事のスタイルを、アメリカでは「Teppanyaki」 や「Hibachi」 と呼んだりします。

Benihana に関してもNobu と同様、多くのラッパーたちに愛されているレストランです。それを裏付けるようにリリックにも度々登場しますし Jeezy や Lil Wop、Lil Durk などのラッパーたちが 『Benihana』 というタイトルの楽曲をリリースしていたりします。今回はその中から Lil Durk が Kodak Black を客演に呼んだ 『Benihana』 のリリックの一部を紹介します。

Went to Benihanas, I told ‘em no onion

紅花に行った。俺はシェフたちにオニオンは要らねぇって言ったんだ。

Kodak Black のパーソナルな一面が現れたラインで面白いと思います。Lil Yachty はインタビューで「野菜とフルーツを全く食べないし、主食はピザだよ」と語っていましたが、やはりラッパーには野菜嫌いが多いのでしょうか。ちなみに Benihana において玉ねぎといえば Onion Volcano というパフォーマンスの事を指していると思われます。分解した玉ねぎを火山の形に積んで、その中に水を注ぎ蒸気を噴火に見立てるというパフォーマンスです。

2017年の時点で 『Gyalchester』 において容易に Nobu に行ける財力をアピールしていた Drake ですが、『Omertà』において Benihana にも言及しています。

To me, Benihana is pigeon food

俺にとってBenihana なんてスズメの飯だ

かなり攻めた鋭いラインを披露した Drake 。全世界のBinihana ファンを一斉に敵に回すと同時に、普段どんな食事をしているのかという疑問を浮かばせます。そして案の定 Benihana ファンたちはこのラインに反応し始めました。大御所ジュエラーの Ben Baller は自身のツイッターにてこのようにツイートしています。

I do not give a fuck what anyone thinks , I love Benihana and I’m gonna try to go tonight and order extra extra garlic butter on my fried rice in honor of drake. In fact extra garlic butter on everything period.

「俺は誰かが考えている事なんて気にしない。俺は Benihana が大好きだし、今夜も Benihana に行って Drake の名誉の為にフライドライスにガーリックバターをかけまくるぞ!まじで俺は全てにガーリックバターをかけるぜ。」

まとめ

ジュエリーやお金、ファッションなどを通して自らのステータスを誇示するラッパーたちですが、「日本食」もそのツールの一つとして用いられているようです。中には、現地で独自の進化を遂げた日本の文化が、日本でのそれとは全く違った形で解釈され、音楽の中に組み込まれている様子を見ることもできます。今回は「日本食」にフォーカスした記事でしたが、特定のものに焦点を当ててヒップホップを分析することで、また違った角度からヒップホップを楽しむことができるのではないでしょうか。

Lil Nas X や RMR の活躍からみる「カントリー・ラップ」の進化

2019年、世界中のチャート首位を独占した Lil Nas X の『Old Town Road』をはじめとし、現行ヒップホップシーンを盛り上げるニュージャンル「カントリー・トラップ」。

今回は、ヒップホップとカントリーミュージックの融合の歴史に触れながら、「カントリー・トラップ」とその注目アーティストについてまとめていきます。

ヒップホップとカントリーの融合

ヒップホップとカントリーミュージックの融合は、今に始まったことではありません。まずはその誕生について、簡単にご説明します。

Shawn Brown a.k.a. The Rappin’ Duke – Rappin’ Duke

1984年、スタンドアップコメディアンの Shawn Brown が 『Rappin’ Duke』なる楽曲をリリース。「主に西部劇や戦争映画にてヒーロー役を演じていた俳優 John Wayne(別名 Duke)がラップをする」というコンセプトの元作られた同曲が、その後のカントリー・ラップの礎となります。

Remember Rappin’ Duke? Duh-ha, duh-ha

Rappin’ Duke が「Duh-ha, duh-ha」って歌ってたのを覚えてるか

You never thought that hip-hop would take it this far

当時はヒップホップがこんなに盛り上がるなんて思ってなかっただろ

The Notorious B.I.G. – Juicy

The Notorious B.I.G. も自身の楽曲にて『Rappin’ Duke』について言及しています。

1987年にはカントリー・デュオ Bellamy Brothers が『Country Rap』をリリースします。

Bellamy Brothers – Country Rap

バンジョーやハーモニカを用いた王道カントリーサウンドにラップを載せるスタイルは、この頃から既に存在していました。

カントリー・ラップの進化

その後、一時的な流行として衰退しつつあったカントリー・ラップは、90年代後半に再び注目を浴びることとなります。

Kid Rock – Cowboy

ロックからファンク、ヒップホップ、メタル、ジャズ、カントリー、ブルースまで幅広い音楽性を持つミクスチャーバンド Kid Rock が、カントリーやサザン・ロックに影響を受けたサウンドの上にラップを乗せた楽曲『Cowboy』を1998年にリリースしました。

そして、今日のカントリー・ラップを創り上げたといっても過言ではないのが、Pimp C と Bun B からなるヒューストンのラップ・デュオ UGK です。

UGK は、1994年に、カントリー調のギターリフやピアノソロを用いた『It’s Supposed To Bubble』をリリースします。

UGK – It’s Supposed To Bubble

99年には『Belts to Match』にて初めて自身の楽曲を「カントリー・ラップ・チューン」と定義しました。

UGK – Belts to Match (feat. Smitty & Sonji)

Down here we ain’t makin’ hip hop songs know what I’m sayin’

ここで言っておくが、俺たちは「ヒップホップ・ソング」は作らない

We makin’ country rap tunes, so uh separate us from the rest

「カントリー・ラップ・チューン」を作っているんだ、他と一緒にしないでくれ

その後、カントリー・ラップ(あるいは「ヒックホップ」)は、UGK や Bubba Sparxxx、Nelly、Cowboy Troy など南部のアーティストを中心に人気を集めていきます。

Bubba Sparxxx – Deliverance

Nelly – Ride Wit Me (feat. St. Lunatics)

カントリー・ラップを押し上げた UGK の Pimp C は、2007年に惜しくも亡くなりますが、その後もカントリー・ラップを引き継ぐ新世代が現れます。

Big K.R.I.T. – Country Sh*t (Remix) [feat. Ludacris & Bun B]

また、新世代ではありませんが、Snoop Dogg もカントリー・ミュージシャンの Willie Nelson と楽曲制作を行ったりと、ヒップホップとカントリーのコラボレーションは絶え間なく行われてきました。

Snoop Dogg – Superman (feat. Willie Nelson)

カントリー・トラップの誕生

そして2017年、「カントリー」と、アトランタ生まれのヒップホップのサブジャンル「トラップ」が融合した「カントリー・トラップ」が誕生します。

Young Thug – Family Don’t Matter (feat. Millie Go Lightly)

カントリー調のギターリフに連続的なハイハットと808ベースをミックスしたトラックを用い、Young Thug が「Yeehaw」というカントリー由来のアドリブを放ちながら歌うようにラップする同曲が、いわゆる「カントリー・トラップ」の起源とされています。

もう1曲、初期のカントリー・トラップとして挙げられるのが、Lil Tracy & Lil Uzi Vert の『Like A Farmer』です。

Lil Tracy & Lil Uzi Vert – Like A Farmer

I’m sippin’ lean like a Coors Light 

「Coors Light」みたいにリーンを飲む

「Coor Light」とは、アメリカ南部及びカントリー・カルチャーにおける象徴的なビールブランドの名称で、Lil Tracy と Lil Uzi Vert は南部訛りを強調しながら、自身の生活とカントリーカルチャーを比較しています。

カントリー・ラップが「カントリー」に重きを置いていたのに対し、カントリー・トラップは「トラップ」をベースに構築されていることが、同曲のサウンドから窺えます。

そして、2018年から2019年にかけて爆発的にヒットしたカントリー・トラップ・アンセムが Lil Nas X の『Old Town Road』です。

Lil Nas X – Old Town Road (Remix) [feat. Billy Ray Cyrus]

Nine Inch Nails の『34 Ghosts IV』からサンプリングしたバンジョーの音色と、現行ヒップホップの王道トラップサウンドをミックスした同曲は、一時は Billboard のカントリー・チャートから除外されるものの、最終的にはカントリー・チャートに復活し、HOT 100にて首位を獲得しました。

「初めて(Old Town Road を)聴いたとき、明らかにカントリーだと思った」と語るカントリー界の大御所 Billy Ray Cyrus のリミックスへの参加もあり、同曲は17週連続1位という US Billboard 史上最長の記録を打ち出し、カントリー・トラップというジャンルを世界中に認知させました。

カントリー・トラップのネクストスターたち

Lil Nas X に続いて、カントリー・トラップを自身の楽曲に取り入れるラッパーも増えていきました。

Fly Rich Double – Big Boom

実はこの Fly Rich Double というラッパーは、Lil Nas X が『Old Town Road』をリリースする前からカントリー・トラップのスタイルを取り入れていました。様々なジャンルに挑戦したいと語る Lil Nas X とは異なり、Fly Rich Double はカントリー・トラップを軸に勝負していく意向を示しています。

RMR – Rascal

2020年突如として話題を集めたのがこのアーティスト、RMR(Rumour)です。SAINT LAURENT の防弾チョッキにバラクラバ(目出し帽)、そして銃という、如何にもギャング臭漂う装いの彼が発するのは、攻撃的なラップではなく美しい歌声。そのミスマッチさが話題を呼び、彼 RMR は一躍時の人となりました。

オハイオのカントリー・グループ Rascal Flatts のグラミー受賞曲『Bless the Broken Road』のメロディラインを引用した同曲がバイラルヒットし、今週末にリリース予定のデビュー EP『DRUG DEALING IS A LOST ART』には Westside Gunn や Future、Lil Baby、Young Thug といった錚々たる顔ぶれを客演に迎えるニューカマー RMR。未だ謎多きカントリー・トラップの新星に要注目です。

RMR『DRUG DEALING IS A LOST ART』
トラックリスト

おわりに

このように、80年代から90年代にかけて誕生した「カントリー・ラップ」は、ヒップホップ及びカントリー・ミュージックの両者に強く影響を受けながら進化し続けてきました。

ヒップホップシーンにおいてトラップというジャンルが主流になった今日にも、「カントリー・トラップ」と呼ばれるニュージャンルが生まれ、今や切っても切り離せない関係となったヒップホップとカントリー・ミュージック。今後の進化にますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

Loyle Carner の特徴にみる Brit School から得たもの


皆さん Brit School はご存知でしょうか。

ご存知の方もそうでない方も、今回は Loyle Carner の魅力を味わうことで、Brit School が彼に与えた大いなる影響に驚くこと間違いないでしょう。

Brit School について

まず、Brit School とは、 Amy Winehouse や Adele などを輩出したロンドンに校舎を構える学校のことです。

Brit School は音楽だけでなく、演劇、ダンス、映像、アートワーク、プロデュース、マーケティング、ファッションやゲーム、アプリまで、あらゆる分野を学ぶことができる、いわばアーティスト育成学校で、日本の東京藝術大学のような学校です(日本の高校に位置づけられる学校ではありますが)。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は S__9560070.jpg です
The BRIT School

ちなみに学費が高いことで有名なイギリスではほぼ唯一、国の財源で賄われているため授業料が無料の学校です。これは貧富の差が激しいイギリスにてアーティストを目指す学生への救済措置とも言えます。

昨今イギリス出身で注目度が高いアーティストにも見事に Brit School 出身者が多いんです。例えば FKA Twigs や Rex Orange County 、 Raye から King Krule、Octavian まで、ジャズや R&B、ポップやオルタナティブ、ヒップホップなどそのジャンルは多岐に渡ります。

そしてもちろんヒップホップのアーティストも例外ではなく、実際に多くの有名なラッパーが卒業しています

今回はその中から Loyle Carner について書いていきたいと思います。

Loyle Carner について

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は 75BA313D-B010-4A21-81A6-EFF8DA7B9770.jpeg です

最初に、サウスロンドン出身の Loyle Carner についてですが、彼はヒップホップがお好きではない方にもオススメのアーティストです。

演劇を深く学んでいた彼は、情緒豊かなサウンドを作るのが得意で、そのとろけるようなおしとやかなビートの上で、温かみを含んだ低い声をのせるスタイルを特徴としており、そのまろやかさはジャズや R&B がお好きな方にもぴったりハマること間違い無しでしょう。

まず Loyle Carner (以下、Carner) こと Benjamin Gerard Coyle-Larner は、1994年に「音楽の街」サウスロンドンのランベスで生まれ、同じくサウスロンドンのサウス・クロイドンで育ちました。若くして父親が他界してしまった彼は女手一つで育てられました。

また、 Loyle Carner というステージネームは本名の Coyle Larner の C と L を入れ替える、いわゆるスプーナリズム(語音転換)にちなんでいます。

幼い頃から、ADHD と難読症に悩まされた彼でしたが、13歳になった2008年に、イギリスの映画『10,000 BC』にて役者をするほどまでに、病気を克服していきました。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は 4D6505F3-05A6-4594-937F-B174EEA0BAF2.jpeg です
『10,000 BC』

その後、サウスロンドンにあり、400年の歴史を持つ男子校 Whitgift School で中等教育を受けた後、名門音楽学校 Brit School に進学し、音楽と演劇について学ぶこととなります(演劇が中心だったそうです)。

そして、音楽と演劇の活動を両立し、2012年にはアイルランドのダブリンで行われたギグ(ライブ)で初めて人前で音楽を披露する機会を得ます(奇遇にも、彼とのちに様々なコラボレーションをすることとなる Tom Misch も同年に音楽活動を開始しています)。

Brit School を卒業した後、ロンドン・ドラマセンター (キングスクロスにある演劇の学校)にて、『ロミオとジュリエット』や『ハムレット』で知られるシェイクスピアの劇を中心に学んでいた彼ですが、父がてんかんを起こして亡くなってしまったことを機に、音楽の道に絞ることとなりました。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は 695B76A1-B963-4AC3-9593-85465B29B8EB.jpeg です

そして、2014年に最初の EP『A Little Late』を出した後、2015年には Joey Bada$$ の UK ツアーのサポートアクトに選ばれ、2016年には Nas のロンドンO2アリーナ公演のサポートも務めます。

その後、BBC SOUND OF 2016 に選出されるという風に一気にスターダムの階段を駆け上がって行きます、そして2017年のデビューアルバムの『Yesterday’s Gone』ではUKチャート初登場で14位となり、あらゆるメディアから賞賛を浴びました。

極めつけは2018年のブリットアワードにて「最優秀新人賞・最優秀男性ソロアーティスト賞」をダブル受賞したことでしょう。

また、この2018年には東京で初単独来日公演をソールドアウトさせていて、UK屈指のラッパーとしてその地位を確かなものとしました。

そして昨年には 2nd アルバム『Not Waving, But Drowning』をリリースしています。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は 7C96C39F-5B2C-4430-8CFB-4A1B8E8E8A6D.jpeg です
『Not Waving, But Drowning』

アルバムのタイトル『Not Waving But Drowing』は Stievie Smith の詩を引用した言葉です。

この詩は不幸にも溺死した男の話です。一緒に海水浴にいっていた友達は海にいる彼が手を振っていると思っていたが、実際は溺れてたじろいでいただけだったという皮肉とも風刺ともとれる詩です。

このアルバムには各所で「一見大丈夫に見えても心の中はズタズタな現代人=彼自身」が描かれています。インターネットが主流となった時代だからこそ、形を伴わない陰湿でジメジメとした言葉は時に重く、ネットリと心の深淵にまで到達しうることは皆さん容易に理解できるのではないでしょうか。

Loyle Carner の魅力

①日常的なリリック

Carner の魅力はまずなんといっても「日常的なリリック」でしょう。

リリックの魅力については、まず最新アルバム『Not Waving, But Drowning』に収録されている『Ottolenghi』をお聴きください。

この曲は、ニュージーランド出身で主にロンドンで活動しているJordan Rakeiを客演 / プロデュースに迎えた一曲で、デビューアルバムの『Yesterday’s Gone』以来、最初の先行リリース曲です。

 料理の得意な彼は、自身と同じく ADHD を抱えている子供達に料理教室を開区など、様々な支援活動を行なっています。そんな彼は Yoram Ottolenghi という料理家を敬愛しており、今曲のタイトルはその料理家の名前を引用したものです(電車で Ottolenghi の著書『イエルサレム』を読んでいたら、聖書を読んでいると勘違いされたことから、彼の名前をタイトルにしています)。

番組で共演した二人 – 『British GQ』

I was sat up on the train
電車の椅子に腰掛けて

Staring out the window at the rain (aye)
窓から降りゆく雨を見ていた

I heard this little lady must’ve felt the pain ask her mum if the blazing sun’ll ever shine again
そこにいた少女は物悲しそうに母親に尋ねたんだ「光り輝く太陽が二度と現れなかったら」って

I felt ashamed feel the same not her mother though
母親でもないのに自分に聞かれたみたいに感じて恥ずかしかったよ

Nah, started to laugh got her son involved (aye)
母親が笑い始めると息子さんもつられ笑いをしちゃって

Mention the past like a running joke
その母親が「お決まりのジョーク」みたいに過去を語って

And told her ‘without all the rain there’s no stunning growth’
娘にこう言った「雨が無ければ、華やかな成長もない」って

『Ottolenghi』

場面は雨降りの車内、流れゆく人混みの中で感じた甘美なひと時を、なんの変哲もない隠密な日常を、 Carner は見事な感性で、ありありとその味わい豊かなリリックをリスナーの耳元までゆったりと広げていきます。

まさに雨を表象する情緒的なサウンドもさることながら、早口ながらもうつろな出来事を描写する一曲には感嘆以外の言葉がありません。

ADHD is the best and the worst of me

ADHD は素晴らしくて最低なものだよ

『INDEPENDENT』- Saturday 13 April 2019

インタビューでこうも答える彼にとって、ADHD を抱えたことで過酷な経験も伴ったものの、素晴らしい才能を開花させる触媒であったのでしょう。また、こういった言葉も残しています。

I’d rather have a real life than lots of girls and drugs.

「ありふれた非日常」よりもリアルな日常の方がいいんだ。

『INDEPENDENT』- Saturday 13 April 2019

「溢れるほどの女や薬が偏在する生活」は彼にとってリアルなものではなく、ただのフェイクであるという、徹底的なリアリズム精神を持った彼の感性を物語る言葉ですね。

このような「日常的なリリック」も Brit School で様々な才能と出会っていく中で完成した彼なりの個性であることは間違い無いでしょう。

②ジャジーなブーンバップサウンド

極めてジャズ的で物静かなサウンドの印象がある彼ですが、ヒップホップの影響を強く受けたジャズと、耳にすっきりと入ってくる90年代の東海岸的なブーンバップが最上の配合で混ぜ込まれたサウンドを持つ曲も多くあります。

代表的なものは『You Don’t Know』です。

コーラスとブーンバップ的なキックスはまさに彼のサウンドのルーツともいえるものです。このジャズ的感覚を養ったのが Brit School であることは言うまでもないでしょう。

『NO CD』もブーンバップサウンドが、ギターのサウンドを基調として刻み込まれている面白い一曲です。

この曲では、彼を象徴する落ち着いた曲調ではなく、敬愛する Kendric Lamar の雰囲気さえも感じさせるスキルや歯切れの良い声を見せてくれています。

ヒップホップにジャズを組み合わせるというやり方も、Brit School であらゆるジャンルの音楽と触れ合って育った感性によるものでしょう。

③サウンドに溶け込む声

彼のこれまた重要な要素は「サウンドに溶け込む声」です。

まずは『Ain’t Nothing Changed』をお聞きください。

イタリアの音楽家で、映画音楽への功績で知られる Piero Umiliani の 『Ricordandoti』を大胆にサンプリングしたこの曲は、ジャジーな趣を含んだ残り香を味わいながら、その微かな匂いを殺さずに溶け込ませる彼の声の良さ、発声法を感じ取ることができます。

彼には一つ一つの音節を見事に分割し、強調する音と抜く音とを見事に、そして瞬時に使い分ける能力があります。

このような発声法にも、やはり Brit School での演劇の学びが生きていることは間違い無いでしょう。

実践を重要とする学校だからこそ、実際のセリフの言い回しや発声法など、彼を特徴付ける「声」が育て上げられたに違いありません。

また、Tom Misch を客演に呼んだ一曲『Damselfly』では、Tom Misch サウンドともいえるジャジーで聴き心地抜群のトラックにぴったりの声を披露しています。

オススメ曲

次に、彼を有名にした曲でもある『The Isle Of Arran』を聞いてください。

スコットランド沖にある3つの島からなるアラン諸島について歌ったこの曲。

1969年に発表されたゴスペル・クラシック『The Lord Will Make A Way』のサンプリングから始まっているこの曲はピアノ・ベースのシンプルなビートです。

この曲は若いながらも頑張る父親達を称賛した曲で、彼自身インタビューで以下のように答えています。

僕の友人の多くが自分の父親と上手くいっていなくて、中にはそれでも父親になってる奴もいて、踏ん張りながら頑張る若い父親達を称賛したかったんだ

母への愛情が行き過ぎたエディプスコンプレックス的問題を抱える現代の少年(それは彼自身とも通ずる)とその父親との関係という、なんともリリックにするには難しい内容になっています。

若い頃に父を失った彼にとっては父との関係というのは身近でないからこそ大切だと感じているのかもしれません。

There’s nothing to believe in, believe me

信じるものなんてない、あるとすれば自分自身だ

父がいないからこそ自分を信じてきた彼の経験と、信仰心への抵抗から来る父(God)への宣言でもある印象的なラインです。やはり J cole や Kendric Lamar を崇める彼のラインは一つ一つが意味深くて面白いですね。

次に Tom Misch の 2ndEP 『Beat Tape2』に客演で参加している曲、『Nightgowns』を聞いてみてください。

『Nightgowns』

サウスロンドン出身のこの二人のコラボは本当に最高です。現行のロンドンのジャズシーンを牽引する Tom Misch のサラッとした聴き心地に Carner のローな声が見事にマッチした一曲です。

また、 Jorja Smith とのコラボ曲『 Loose Ends 』は二人の息がぴったりです。(Jorja Smith はイングランドの中央部のウォルソール出身なので、ロンドンからは結構距離がありますが)

『Loose Ends』

他にも Sampha とのコラボ曲である『Desoleil』は、曲が進むにつれ少しずつ上がっていくボルテージが思いがけない光源となり、途方もない内側のエネルギーを照らし出す一曲になっています。

『Desoleil』

最後に

いかがだったでしょうか。Brit School が彼に与えた影響は彼の特徴から感じ取れたのではないかと思います。

シングルをあまり出さず、売り出そうという意識が少ない彼はあまり楽曲制作の状況を漏らしたりはしませんが、今年の終わり頃に何かプロジェクトをやってくれるのではないかと期待しています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Kensho Sakamoto

JayDaYoungan – ニュースターと見るルイジアナのラップ事情

俺が最も影響を受けたのは、Boosie Badazz や Kevin Gates だ。もちろん Lil Wayne は偉大で最高だけど、俺が一番聴いていたのは その二人だったね。

FADER

子供の頃から同郷出身のラッパーたちの音楽を聴いて育ってきたと語った、ルイジアナ出身の若手ラッパー JayDaYoungan 。今週末にニュープロジェクト『BABY23』のリリースを控えていることも踏まえ、今回はそんな彼についてご紹介いたします。

JayDaYoungan とは

JayDaYoungan (ジェイ・ダ・ヤンガン) は、ルイジアナ州の東端に位置する小さな街、ボガルサで生まれ育ちました。彼が尊敬する Kevin Gates や Lil Wayne の故郷であるニューオーリンズや Boosie Badazz の生まれたバトンルージュなどと比べると、面積的、人口的にもかなり小規模な街です。

夜空に打ち上げられた花火のようなユニークなヘアスタイルが特徴的な JayDaYoungan (以下、Jay) は、先ほど引用したインタビューで述べていた通り、同じくルイジアナ出身の Boosie Badazz や Kevin Gates などの音楽を聴いて育ちました。

Jay は高校時代、NBA のプロ選手になる夢を抱いていました。Rajon Rondo をロールモデルにバスケットボールに打ち込んでいた彼でしたが、目立った功績を残せずにいた彼に対し、彼の母親はバスケットボール以外のの道を真剣に考えるように説得していたそうです。

Jay が憧れていた頃に Chicago Bulls でプレーする Rajon Rondo (現在は Los Angles Lakers に所属)

そんな矢先、成績の不振や校外でのトラブルが積み重なり、所属していたチームでバスケットボールを続けることができなくなった彼は、母親の言葉を思い出し、もう一つの道として候補に挙げていた「ラッパーになること」を真剣に考え始めました。

高校二年にのときに、友人の一押しを受け、初めて YouTube に楽曲を投稿したそうですが、なんとその楽曲が一日で1000回ほど再生されました。彼はその時の感情についてこのように語っています。

俺の町の人口は、一万人ちょっとだ。俺の街の人口の1/10に相当する人々が、1日で俺の曲を聴いたなんてまじで信じられないぜ。

全くキャリアのない彼にとって、たった一日でそれほどの人々に楽曲を聴いてもらえたことは、その後の彼の自信につながったようです。

一方学校では、試験中のカンニングや無断欠席を繰り返したことが原因で、高校三年生の時に退学を余儀なくされてしまいます。学校に行く必要がなくなった彼は、熱心に取り組んでいたラップにさらにフォーカスし始めたのです。

ラップスタイル

彼のラップスタイルは、ルイジアナ特有の独特な歌声やフロウを踏襲した不思議なものです。Boosie や Lil Wayne のような、ねっとりと耳に絡みつくような声や、NBA YoungBoy の楽曲にもよく見られる詰め込みフロウなどを楽曲の至る所に散りばめており、ミックステープを通して聴いても飽きのこないスタイルです。

今回は、彼の楽曲からの主軸となるスタイルを三つに分けてご紹介します。一つ目は、詰め込みフロウです。ルイジアナでは主に、NBA YoungBoy がよく用いる手法で、小説に入りきらないはずの言葉数を、巻き舌や早口で無理やり詰め込んでしまうスタイルです。

「詰め込みフロウ」が顕著な NBA YoungBoy による 楽曲『Genie』 (1:43 からが該当箇所)

NBA YoungBoy のファンであることを公言する Jay ですが、彼はその詰め込みフロウに少し違った角度からアプローチし、自らのスタイルに添うように甘く消化させている印象があります。まずはこちらの楽曲をお聴き下さい。

昨年リリースした七枚目のミックステープ『Endless Pain』に収録されている楽曲『Different Emotions』です。お聞きいただくとわかるように、フックからいきなり独特な詰め込みフロウを披露してくれています。

楽曲の所々にこの手法を用いる NBA YoungBoy に対し、詰め込んで完成したフロウを、一曲を通して同じメロディでラップし続けているのが分かります。「所々ではなく、ずっと詰め込む」ことで、全体を通して一貫性が生まれ、心地よさが生まれています。

6枚目のミックステープ『Forever 23』に収録されている『Catch Me In Traffic』や、最新作『Misunderstood』に収録されている『Shooters』なども、同じような手法を用いてラップしています。

二つ目は流れるようなメロディアスなフロウです。Lil Durk の記事でも紹介しましたが、メロディアスなフロウを楽曲に取り込むラッパーは年々増加傾向にあります。YK Osiris のように完全にメロディアスに振り切ったものや、CalBoy のようにハードなラップの随所にメロディアスなフロウを組み込むものまで、その形式は様々ですが、Jay はちょうどその中間を行くニュートラルなスタイルを得意とします。

ラップとしても、メロディアスな楽曲としても聞くことができ、リスナーの捉え方次第でどちらにも変化してしまう、といった具合です。

デビューアルバムの先行シングルとしてリリースされていた『23 Island』です。ゆったりとしたトロピカルなトラックに、かなりユニークなフロウでアプローチします。ハードなラップに疲れた時に聴きたくなるような楽曲です。

七枚目のミックステープ『Endless Pain』に収録されている楽曲『Repo』です。こちらもメロディアスなスタイルでのアプローチですが、タイトルにもなっている『Repo』で延々と脚韻を踏み続ける展開です。心地よいメロディとともに、ラップらしいしつこいライムを聴くことができ、彼らしい楽曲と言えるでしょう。

三つ目は、ゆったりとしたバラード調のアプローチです。失恋や人生などのシリアスな内容をエモーショナルなラップに載せるスタイルです。ミクステやアルバムの後半に時たま収録される程度で、彼のメインスタイルとは言えませんが、作品に緩急をつける大変重要な役割を担っていますので、ご紹介しておきます。

ルイジアナのラップゲーム

ルイジアナといえば、本記事でも何度も言及した Boosie Badazz や Lil Wayne、Kevin Gates などが現在のシーンを率いており、Webbie や 故 Lil Snupe なども輩出してきました。そして、次世代の若手たちということで、NBA YoungBoy や Fredo Bang、そして今回ご紹介している JayDaYoungan などが続く形になっています。

独特で唯一無二なスタイルを確立しており、近年のシカゴやブルックリンのような盛り上がりを見せても良いのではないかと思われますが、まだそこまでの知名度には届いていないのが現状です。

アトランタ勢が仲間同士でコラボ曲を量産したり、はたまたジョイントプロジェクトを制作したりして盛り上がりを高めているのに対し、ルイジアナのラッパーたちはそこまで頻繁にコラボをしませんし、どちらかといえば他の地域のラッパーとの共演が目立つように感じます。

もちろん、Fredo Bang は最新作『Most Hated 』に Kavin Gates を招いていましたし、 Jay に関しても憧れであった Boosie をデビューアルバムに招いたりと、ちょくちょくの共演が見られるものの、アトランタを含む他の地域ほどの同郷意識は見られません。

JayDaYoungan が憧れの存在である Boosie Badazz を招いた楽曲。二人のスタイルを比較できます。

実際に Jay 自身もルイジアナが抱えるこのような問題について、インタビューにて言及しています。

これはルイジアナが抱える一番の問題だよ。

ルイジアナのアーティスト同士で、もっと積極的にコラボレーションをして、仲良く付き合っていく必要があると感じているんだ。ビーフなんかしている場合じゃないんだよ。

VLADTV

俺の個人的な意見だから異論は認めるけど、俺はルイジアナの音楽が最高だと思ってる。

協力して、コラボを積極的にしていけば、とても大きなムーブメントを起こせるはずだ。

VLADTV
該当部分は13:20あたりから始まります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はルイジアナのニュースター JayDaYoungan についてご紹介してきました。今週末にリリース予定のニュープロジェクト『BABY23』には Kevin Gates の参加が見られますし、彼を筆頭としてルイジアナのラップシーンがさらなる盛り上がりを見せてくれることを期待しましょう。

whoiskosuke

XXL FRESHMAN CLASS 2019 : 選出された11人のラッパーたち

1. DaBaby

DaBaby とは

DaBaby こと Jonathan Lyndale Kirk はオハイオ州クリーブランド生まれの27歳(91年生まれ)。5歳の頃ノースカロライナ州シャーロットに引っ越します。彼のエピソードとして有名なのが、ウォルマート(スーパーマーケット)での銃殺事件です。2018年、Kirk が二人の子供を連れて買い物をしていた時、銃を持った男が彼のジュエリーを奪おうとしてきたそうです。Kirk は二人の子供を守るためにその男を銃殺しました。この事件は後に正当防衛が認められ、起訴も取り下げられています。

DaBaby のキャリア

2015年に初のミックステープ『Nonfiction』をリリースして以降、立て続けにミックステープをリリースしていた彼は、2019年に Interscope Records からデビューアルバム『Baby on Baby』をリリースします。Offset や Rich Homie Quan、Rich the Kid、Stunna 4 Vegas らを客演に迎えた同アルバムは、Billboard 200 において初週25位をマークしました。年齢的にもキャリア的にも「フレッシュ」とは言い難い彼ですが、ラッパーとしての才能と注目度はフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。

DaBaby の代表曲

『Suge』

『21』

2. Gunna

Gunna とは

Gunna こと Sergio Giavanni Kitchens はジョージア州カレッジパーク出身の26歳(93年生まれ)。一部のファンからは、「Gunna ではなく本名をステージネームにした方が良い」と言われています。母親と4人の兄と共に生活していた彼は、ラッパーになる前は DJ やドラッグディーラーとして活動していました。

Gunna のキャリア

Cam’ron や Outkast を聴いて育ったという彼が音楽制作を始めたのは15歳の頃でした。キャリア初期は「Yung Gunna」として活動しており、2013年に初のミックステープ『Hard Body』をリリースします。その後、彼は共通の友人を通して Young Thug と繋がり、Young Thug のレーベル「Young Stoner Life Records(以下YSL)」と契約を結びます。この出会いがなければ今の Gunna はいないと言っても過言ではありません。そんな彼は、2016年から2018年にかけて YSL からミックステープ『Drip Season』シリーズを3作リリースします。2018年にリリースされた Lil Baby との共作『Drip Harder』も話題となりました。

そして2019年、デビューアルバムとなる『Drip or Drown 2』をリリースします(アルバム名は、Gunna が2017年にリリースした EP『Drip or Drown』から) 。Young Thug、Wheezy、Turbo 監修の同アルバムは、Billboard 200において初週3位をマークし、華々しいデビューを飾りました。

2018年から2019年にかけて一挙にブレイクし、彼が客演に呼ばれていないアルバムはなかったと言っても過言ではないほど様々なアーティストとの共演を果たした Gunna は、まさに2019年のフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。今後の活躍にも期待です。

※ Gunna についての記事はこちらから↓

Gunnaの代表曲

『Oh Okay(feat. Young Thug & Lil Baby)』

Lil Baby & Gunna『Drip Too Hard』

3. Megan Thee Stallion

Megan Thee Stallion とは

Megan Thee Stallion こと Megan Pete はテキサス州ヒューストン出身の24歳(95年生まれ)。ちなみに、自身の身長と美しさが Stallion(種馬)に似ているという理由から、Megan Thee Stallion というステージネームを付けたそうです。彼女はテキサスサザン大学に在学中の現役大学生でもあります。

Megan Thee Stallion のキャリア

彼女の母親はラッパー「Holly-Wood」として活動していたこともあり、幼い頃からスタジオに同行していたという Megan は14歳でラップを始めました。その才能はラッパーであった母もすぐに認めるほどであり、彼女は Instagram にフリースタイルラップを投稿することによって瞬く間にファンベースを確立させていきました。2016年からミックステープをリリースし始めた彼女は着々と人気を集め、2019年リリースのミックステープ『Hot Girl Meg』は Billboard 200において、初週10位をマークしました。それ以降客演としての仕事も増やしてきた Megan は、次世代の Nicki Minaj や Cardi B と言っても過言ではないほど、実力間違いなしのフィメールラッパーです。

※ Megan Thee Stallion についての記事はこちらから↓

Megan Thee Stallion の代表曲

『Cash S**t(feat. DaBaby)

『Big Ole Freak

4. Blueface

Blueface とは

Blueface こと Johnathan Michael Porter は、カリフォルニア州ロサンゼルス出身の22歳(97年生まれ)。学生時代はアメリカンフットボールに打ち込み、2014年の「East Valley League championship」という大会でチームを優勝に導いた経歴を持ちます。

アメフトに打ち込む Blueface

Blueface のキャリア

Blueface Bleedem としてキャリアをスタートさせた彼は、2017年に彼にとって初となるシングル『Dead Locs』をリリースします。そして、その後リリースした楽曲『Thotiana』が爆発的にヒットし、独特な声とオフビートなラップで人気を博した彼は、Cash Money West と契約を結びました。

Blueface の代表曲

『Thotiana

『Bleed it

5. Lil Mosey

Lil Mosey とは

Lil Mosey こと Lathan Moses Echols はワシントン州シアトル出身の17歳(02年生まれ)。2019年のフレッシュマン選出者の中では最年少のラッパーです。彼は高校に通っていましたが、音楽活動に専念するため退学したそうです。

Lil Mosey のキャリア

Meek Mill のデビューアルバム『Dreams and Nightmares』から多大な影響を受けたという Lil Mosey は、13歳から14歳の頃にラップを始めました。2016年にラッパーとしてのキャリアを本格的に始動させた彼は、2018年にデビューアルバム『Northsbest』をリリース。同アルバムに収録されている楽曲『Noticed』がバイラルヒットし、Billboard Hot 100にて80位まで登りつめました。

自身を「マンブルラッパー」ではないと主張する彼ですが、今後同世代ラッパーたちとどのように差をつけていくのか楽しみです。

Lil Mosey の代表曲

『Noticed

Lil Mosey & Chris Brown『G Walk』

6. Roddy Ricch

Roddy Ricch とは

Roddy Ricch こと Rodrick Wayne Moore, Jr はカリフォルニア州コンプトン出身の20歳(98年生まれ)。アトランタで暮らしていた時期もあり、アトランタテイストのラップスタイルを得意とします。

Roddy Ricch のキャリア

Meek Mill や Future、Speaker Knockerz、Young Thug などから影響を受けたという彼は、8歳の頃にラップを始めました。デビューミックステープ『Feed tha Streets』で注目を集めた彼は、続くシングル『Die Young』のヒットにより一躍名を知らしめます。歌心のあるフロウや多彩なビートアプローチを得意とする彼は、フレッシュマン選出をきっかけにますます活躍すること間違いなしでしょう。

Roddy Ricch の代表曲

『Die Young

Marshmello & Roddy Ricch『Project Dreams』

7. Tierra Whack

Tierra Whack とは

Tierra Whack こと Tierra Helena Whack はペンシルベニア州フィラデルフィア出身の23歳(95年生まれ)。幼い頃に父親と疎遠になった彼女と2人の妹は、母親の手によって育てられました。アートアカデミーに3年間通っていたという彼女は、音楽活動にはもちろん芸術活動にも力を入れており、芸術を学ぶために日本に訪れたこともあるそうです。楽曲や MV、Instagram などからも、彼女の芸術的センスの高さが伺えます。

Tierra Whack のキャリア

10代の頃から「Dizzle Dizz」という名のもと活動していた彼女は、2017年に自身の本名である「Tierra Whack」という名義で活動を始めました。同年彼女はInterscope Records と契約を結び、楽曲を次々とリリースします。そして2018年、彼女は15曲(各曲1分ずつ)収録のアルバム『Whack World』をリリース。各曲にショートムービーを付けたビデオアルバムもリリースし、15分で聴けるアルバムという新鮮さや、独特な世界観を持つムービーが大きな話題を呼びました。音楽面、芸術面共に才能溢れる彼女の今後に期待です。

Tierra Whack の代表曲

『Only Child

『Hungry Hippo

8. YBN Cordae

YBN Cordae とは

YBN Cordae こと Cordae Dunston はノースカロライナ州ローレー出身の21歳(97年生まれ)。2018年のフレッシュマンに選出された YBN Nahmir も属するYBN(Young Boss N***as)クルーの一員です。テニスプレーヤーの大坂なおみ選手との交際でも話題となりました。

大坂なおみ選手と YBN Cordae

YBN Cordae のキャリア

父の影響で幼い頃からヒップホップを聴いていたという彼は、10歳でラップを始め、15歳で自らリリックを書き始めます。10代の頃から「Entender」という名のもと3作のミックステープをリリースしていた彼は、2018年に YBN クルーに参加し、「YBN Cordae」として活動を始めました。J. Cole の若手ラッパーに対するディスソング『1985』へのアンサーソングとしてリリースした『Old N***as』が話題となり注目を集めた Cordae は、話題性だけではなく巧みなラップスキルとオールドスクール的要素を兼ね添えており、Dr. Dre もその実力を認めています。Logic や Chance the Rapper などの実力派ラッパーともコラボを果たした彼は、2019年のフレッシュマンの中でも一二を争う注目株でしょう。

YBN Cordae の代表曲

『Old N***as』

『Bad Idea (feat. Chance the Rapper)

9. YK Osiris

YK Osiris とは

YK Osiris こと Osiris Williams はフロリダ州ジャクソンビル出身の20歳(98年生まれ)。現在はアトランタに在住しています。名前の YK は「Young King」の略だそうです。

YK Osiris のキャリア

幼い頃から音楽を作っていた彼は、17歳の頃に初めてネット上に自身の楽曲をアップしました。2017年にリリースした『Fake Love』は SoundCloud で140万再生を記録し、その後リリースする『Valentine』は Lil Uzi Vert がリミックスに参加。その『Valentine』のヒットによって、彼はビッグレーベル Def Jam との契約を結びます。わずか数曲のリリースでここまで漕ぎ着けたのですから才能は本物です。ソウルフルな R&B と今日のヒップホップをミックスしたスタイルを得意とする YK Osiris の今後の活躍に要注目です。

YK Osiris の代表曲

『Valentine』

『Valentine Remix (feat. Lil Uzi Vert)

『Worth It

10. Comethazine

Comethazine とは

Comethazine ことFrank Childress はミズーリ州セントルイス出身の20歳(98年生まれ)。「Comethazine」とは、「promethazine(プロメタジン)」と「cocaine(コカイン)」の2つの薬物名を組み合わせたものだそうです。高校を中退している彼ですが、高卒認定を受けるため夜間学校に再入学しています。

Comethazine のキャリア

50 Cent や Rick James、Chief Keef、Nipsey Hussle、Lil B などに影響を受けたという彼は、17歳の頃本格的に音楽活動を開始しました。SoundCloud や Youtube に楽曲をアップしてファンベースを獲得していった彼は、2017年に Alamo Records と契約を結びます。

そして2018年、彼の新曲『Bands』が突如として SoundCloud の再生回数ランキングのトップに浮上します。実はこれが、SoundCloud の楽曲差し替え機能を巧妙に利用したチート行為で、YBN Nahmir のヒット曲『Bounce Out With That』で100万再生を稼いだのち、Comethazine が自身の楽曲に差し替えたのでした。そんなずる賢さだけでなく、A$AP Rocky や Lil Yachty など、人気ラッパーとのコラボレーションも果たした彼の今後に注目です。

Comethazineの代表曲

『Bands

Comethazine & A$AP Rocky『Walk (Remix)』

11. Rico Nasty

Rico Nasty とは

Rico Nasty こと Maria-Cecilia Simone Kelly はメリーランド出身の22歳(97年生まれ)。プエルトリコ人の母とアメリカンアフリカンの父を持つ彼女は、大麻所持によって当時通っていた学校を追い出されたのち、パプリックスクールに通いながら音楽制作を始めます。

Rico Nasty のキャリア

高校在学時にラップを始めた彼女は、初のミックステープ『Summer’s Eve』をリリースします。高校卒業後、彼女はより本格的に音楽制作に取り組み、『The Rico Story』、『Sugar Trap』と2作のミックステープをリリースします。その後も次々とシングルやミックステープをリリースし、5作目のミックステープ『Sugar Trap 2』は、アメリカの音楽誌「Rolling Stone」にて「2017年のベストラップアルバム」としてリストアップされました。そして2018年、彼女はAtlantic Records と契約を結びます。

2019年には Kenny Beats とのジョイントテープ『Anger Management』をリリースし、ますます世間に名を知らしめています。

パンクラップやトラップメタル、もしくは「シュガートラップ」とも称される独特なスタイルを貫く Rico Nasty の今後の活躍に期待です。

Rico Nasty の代表曲

『Key Lime OG

『Again

※各アーティストの情報や年齢は、2019年6月現在のものです。

Kanye West が与えた影響と Travis Scott の「転調」について

Yeah, this shit way too formal

だめだ、これじゃ堅すぎる

y’all know I don’t follow suit

俺は「型にはまる」のは好きじゃないんだ(別訳:俺がスーツを着ないって知ってるだろ?)

Travis Scott – SICKO MODE

常に新しさを求め、他のラッパーとは一線を画す存在、Travis Scott(以下、Travis)。

そして「オートチューン」・「セレブ指向」・「プロデューサー気質」・「転調」という4つの要素を聞けば誰もが Travis を連想することは間違い無いでしょう。

しかし、これら4つの要素が共通するラッパーがもう一人います。それは皆さんご存知 Kanye West(以下、Kanye)です。ということで今回は Kanye の影響などもみながら、 Travis を形作る四つの要素をまとめていきたいと思います。

【はじめに】

最初に、ざっくり Travis について紹介いたします。

Travis Scott こと Jacques Berman Webster II は 1992年 4月30日にテキサス州ヒューストンで生まれました。

治安が悪いことで有名なサウス・パークで幼少期を過ごす Travis ですが、まず彼は父が会社経営者でありながらソウル・ミュージシャン、祖父はジャズ・ミュージシャンという音楽一家に生まれたということを念頭においておかなければなりません。

ちなみに叔父がかなりの腕前のベーシストで、彼の愛称が Travis だったことから、彼のステージネームは生まれています。(「Scott」 は彼が敬愛してやまない Kid Cudi の本名 Scott Ramon Seguro Mescudi からきています)

Kid Cudi についての記事はこちら

また、地元ヒューストンにおける彼の幼少期の憧れはやはりテーマパークでした。このテーマパークの名前が Astroworld であることは言うまでもありませんね。

1980年代のAstroworldのコマーシャルビデオ

Travis はエルキンス高校に通い、卒業後はテキサス大学サンアントニオ校に通っていましたが、大学2年生の時に音楽キャリアを追求するために中退しました。やはり、Travis が今売れているほとんどのラッパーと違う点は、決して貧乏だったわけではなく、裕福な中流階級であったということです。ちなみに、これは Kanye にも共通します。

Kanye West の全てがわかる記事はこちら

彼のキャリアは 2008年にまで遡ります。友人の Chris Holloway とデュオ「The Graduates」を結成し、最初のミックステープ『The Graduates』を発表します。そして、このミックステープには彼の嗜好がわかる曲がたくさんあります。

『Day ‘n’ Nite』

この曲は皆さん知っているとおり、Kid Cudi の『Day ‘N’ Nite』からきた曲で、エクスペリメンタル・ヒップホップの生みの親とも言える Kid Cudi の特徴であるロック的なギター・ベースのサウンドなどが見受けられます。

また、『No Introductions』と言う楽曲は Kanye の『Flashing Lights』をサンプリングした曲です。

そして2012年に Epic Records と契約。同じ年の11月に Kanye 率いる GOOD Music と契約。そして2013年4月に T.I. が率いる Grand Hustle と契約し、スター街道を登っていきます。

Travis の細かいキャリアについて話したいところですが、皆さん結構知っていることも多いと思いますので省略いたします。またいつか Travis 単体の記事を書くときに解説したいと思います。

さて次に、Travis を形成する4つの要素の内の「オートチューン」について、Kanye が Travis に与えた影響を見ていきましょう。

【オートチューン】

T-Pain によってブラックミュージックに取り入れられ、今ではほとんどのラッパーが多かれ少なかれ使う「オートチューン」。

オートチューンの歴史についてはこの記事を参照ください。

数々のラッパーと比べても分別がすぐにつくダミダミとしながらもざらつきを含んだオートチューンボイスは Travis を特徴づける重要な要素です。そして Travis のシグネチャーともなっている「オートチューン」の歴史において最も重要となるアルバムが Kanye の『808s&Heartbreak』なんです。

Travis が Kanye に圧倒的な影響を受けているというのはこのアルバムを聞けばすぐにわかること間違いなしです。次は「セレブ指向」について、Kanye が与えた影響とともに見ていきましょう。

【セレブ指向】

Travis と聞けば、 Kylie Jenner との関係などのイメージも強く、セレブ的であると言うイメージも強いのではないでしょうか。(彼はそう呼ばれることをひどく嫌っていますが)

Travis がコラボした商品がすぐに売り切れることは彼がこの時代を代表するファッション・アイコンであることを示していますね。中でも彼とコラボした Nike の 「Air Jordan 1」などは今でもプレ値がつき、高額で取引されています。

Nike Air Jordan 1 Retro High Travis Scott

ちなみに、先日 Nike と Cactus Jack のコラボ Air Max 270 も発売されましたね。みなさん応募はしましたか?

Nike × Cactus Jack Air Max 270 (2020/ 5/29発売)

しかし、こういったファッション・アイコン的なイメージやセレブ的イメージの先駆けもまた、Kanye West なのです。それは Kanye の「YEEZY BOOST」における大成功や、Kim Kardashian との関係を考えれば容易に理解できることでしょう。

YEEZY BOOST 350 V2

次は Travis の特徴である「プロデューサー気質」について、Kanye が与えた影響とともに見ていきましょう。

【プロデューサー気質】

次は Travis の理解において重要となる3つ目の要素、それはプロデューサー気質であることです。これにおいても Kanye が圧倒的な影響を与えていることは間違い無いでしょう。

Travis が他のラッパーと違って、超有名なプロデューサーまでもを彼のスタイルに追従させたり、制作において直接トラックやミキシングの指示を出したりすることは有名ですね。でも、これは当然のことなんです。なんといっても若くして父親に DTM の機材やドラムスを教わっていた Travis にとってビートメイク、ミキシング、マスタリングは全て自分で行うのが当然だったからです。

そして、プロデューサーを統率するというのをを証明する事実として、『Goosebumps』のプロデューサーとして知られる Cardo はインタビューでこう語っています。

「Travisとコラボをする人は彼とシンクロしなければならない。彼が表現しようとすることを全て受け入れる必要があるんだよ」

Cardo

そして、プロデュースする能力は、Kanye や GOOD Music に所属するプロデューサー達からかなりインスパイアされていることも間違い無いです。実際、Travis は Kanye 率いる GOOD Music との契約において、Kanye が指揮する最強プロデューサー集団「Very GOOD Beats」のメンバーとして迎え入れられているのです。

また、アルバムに多くのアーティストを適材適所で使う Travis のスタイルも Kanye から影響を受けていること間違いなしです。(これはあらゆるラッパーに影響を与えたと言うべきですが)実際に Travis と同じ G.O.O.D.Music の一員で、『Astro World』にもプロデューサーとして参加している CyHi The Prynce はこう語っています。

CyHi The Prynce

「多くのコラボレーションをするという風潮は、ラッパー達がアルバムオブザイヤーで Adele とかと戦うために、乗る必要がある風潮なんだ。この方法はKanye Westから始まったものだね」

そして最後に今回の記事の目的でもある「転調」について触れたいと思います。

【転調】

まず転調とは何か?ということですが、辞書的な意味ではこうなります。

楽曲の進行中に、その調を他の調に転ずること。

広辞苑

つまり感覚的に言えば「同じ曲の中で曲が変わる」という現象のことです。そして転調するときには必ず「繋ぎ」の部分があります。例えば音を歪ませたり、一旦フェードアウトさせたり、メロディーラインだけ抜いたりというのが一般的です。また、この転調の効果は「聞いている人間が予期しているものとは異なる音が構成される」ことであって、映画でいうところのサスペンスのような効果です。

そして、それは驚きを誘発します。驚きがあるというのは「楽曲を飽きさせないこと」にも深く貢献する要素です。

『SICKO MODE』での「転調」はみなさんの記憶にも深く刻まれていることでしょう。この PV の中で、突然白黒に切り替わって始まるダンスのシーンはヒップホップ史に残るイメージといって間違い無いでしょう。そして、実はこの「転調」においても Kanye による影響は絶大なものです。では、「転調」について触れていきましょう。

『Yeezus』と転調

Kanye の『Yeezus』はあまり知られていない事実かもしれませんが、ヒップホップにおける転調を世に知らしめた作品なのです。(それ以前にも Kanye は転調を使うことはありましたが、このアルバムでは特に徹底してそのスタイルが現れています)

ではまずその証拠として『Hold My Liquir』をお聞きください。

この重厚なサウンドを元に、幾重にも広がり続けるトラック、複数回の継続的、断続的な「転調」が繰り返されています(「転調」について、詳しくは当記事下部の【番外編】をご参照下さい)。また、独特のロック的ギターやベースの音使いなど、様々な面で素晴らしいこの楽曲ですが、とりわけその「転調」の凄みに驚かない人などいないでしょう。

『New Slaves』でもその特徴は顕著です。

2分53秒あたりでの転調は誰もが感動すること間違いなしです。

他にも、『Blood On the Leaves』での1分8秒でのドラムスを用いた転調や『Send It Up』での0分57秒時点で起こる転調などあげ始めればキリがありませんが、どうして Travis に影響を与えたと言い切れるのかと思う方もいらっしゃることでしょう。

実は、このアルバムには Travis がプロデューサーとして参加しているのです。特に『On Sight』は Travis が中心となって作られた一曲です。この曲が最も転調の顕著な例を示していることは間違い無いでしょう。1分17秒での転調にご注目ください。

また、2012年に作られていたものの、様々な問題で 2013年にリリースされることとなった Travis の最初のフルレングス・アルバム『Owl Pharaoh』は Kanye West と Mike Dean が中心となってプロダクションを務めています。

その中でも『Bad Mood / Shit On You』における何重にも折り重なった転調は、彼のその後の音楽基盤に多大な影響を与えていることでしょう(ちなみにこの曲の中心製作者 Emile Haynie は Travis を含め、R&B や Alternative Rock などあらゆるジャンルを横断し、様々なアーティストに影響を与えた名プロデューサーであることも忘れてはいけません)。

そして Travis は『Rodeo』において完全に「転調」のスタイルを完成させます。その中でも、『90210』の転調は言うまでもなく、彼のスタイル/シグネチャーを刻印した一曲です。

2分40秒での衝撃をぜひ味わってみてください。

こうして、Kanye のスタイルに学びながら、Travis はヒップホップにおける転調の重要性を、いよいよ最高到達点へと押し上げてしまったのです(この後、番外編として「転調」についてかなり細かく解説したものをご用意させていただきましたので、より深く理解したい人は最後まで読んでいただけると幸いです)。

【最後に】

最後まで閲覧いただき、ありがとうございました。

Travis Scott は今でこそ「転調の天才」というイメージを欲しいままにし、プロデューサーも動かすほど一人でなんでもやってのけるイメージですが、そこには Kanye West の影響が深くあるんですね。

そして、今回は読みたいという人のためだけに【番外編】をご用意いたしました。かなり細かい内容にはなりますが、より深く「転調」を理解したい人は以下をお読みになってください。

【番外編】

【4種類の転調について】

転調には様々なパターンがありますが、今回の記事では大まかには二つの基準で分けます。

一つ目の基準は、転調後のトラックの持続期間が短いか長いか、つまり短期的か長期的かであり、二つ目の基準は転調が起こる前の音と関係しているか無関係か、つまり継続的か断続的かになります。

つまり組み合わせで言うならば ⑴短期的継続 ⑵長期的継続 ⑶短期的断続 ⑷長期的断続 という4つの転調のパターンに分けることができます。少し漢字が多くて理解しにくいと思うので、わかりやすく実証するため、これらのあらゆる要素が組み合わさった『SICKO MODE』を見てみましょう。

【『SICKO MODE』における11箇所の転調】

驚くことに、この曲中では転調が計11回行われています。先ほど説明した 4種類の転調が全て使われておりますので、11個全てを見ていきましょう。

【1個目】

まず一つ目が1分あたりで Drake の下記のフレーズの直後に音が歪みながらリヴァーブを起こし、キックの音で全く違うトラックに変わるシーンです。

「Young La Flame, he in sicko mode」

ここは前の音と関係のないトラックが Travis のバース中ずっと続いていることから ⑷長期的断続に分類される転調となっています。

【2個目】

2つ目に、1分40秒あたりで Big Hawk と Swae Lee による下記のフレーズが聞こえた後、キックスが消失し、元々かなり小さくなっていたマリンバのような弾ける音のみになるトラックです。

「Some-Some-Some-Someone said」

ここは前のトラックからなっていた音が持続され、少しの間だけ続くことから⑴短期的継続 に分類される転調です。正直、この2つ目の転調はいわゆる「音抜き」と呼ばれる類のもので、転調だと気付きにくい、あるいは転調とは違うとお考えの方もいらっしゃると思います。あくまでこの記事の解釈では「全ての音がなくならなず、ある程度時間が持続する音抜き」であれば転調とみなしますので、も ⑴ 短期的継続の転調と考えてもらってかまいません。なぜなら、それが聞いている人間が予期しているものとは異なる音で構成されているからです。

【3個目】

そして3つ目は、1分54秒のあたりで同じ方法 ⑴短期的継続 を使って元のトラックに戻るところです。

【4個目】

その後の4つ目は割と複雑に構成されているのですが、2分34秒の Travis による「Who put this shit together? I’m the glue」のフレーズの音抜きを契機として、2つ目の転調後と同じビートに移行します。

これもやはり⑴ 短期的継続の転調です。

そしてトラヴィスの代名詞である「特殊な転調」はこの後の5つ目と6つ目です

【5個目】

5つ目と6つ目はほとんど一体となっているのですが、5つ目が2分48秒の時点で、一気にキックスと大きく歪み響いていく音に切り替わるところです。

ここは、そのあと9秒ほどの短期間だけ続く、大きく歪んだトラックを導くことから ⑶短期的断続の転調です。

そしてこの5つ目の転調とその後のトラックは6つ目のこの曲最高の地点(2分57秒のダンスのシーン)を導き出すための「繋ぎの役割」も担っているのです。

つまり5つ目の転調は6つ目の転調の一部でもあり、このような「二重の転調」によってこの曲最大の見せ場が作り出されているのです。

【6個目】

そして、6つ目の転調は言わずもがな、⑷長期的断続 の転調です。

ここまででお気づきの方もいると思われますが、最初の方に載せた表で言う「上の部分」、つまり「断続的な転調」の方が圧倒的に衝撃を与えます、もちろんそれは続くと思われていたトラックが突然シャットアウトされるからです。(その中でも長期的断続の転調は衝撃は大きいが難易度はかなり高くなる)

【7個目】

そして7つ目が Tay Keith のプロデューサータグが流れた後です。ここでは気づくのが難しいかもしれませんが、元々のトラックにオルガンのようなビートがプラスされ、それが一定期間続きます。

つまりこれは ⑵長期的継続の転調になります。

【8個目】

8つ目も 7つ目と同じ、⑵長期的継続の転調で、3分20秒あたりの高音の金切り音を「繋ぎ」として起こる転調で、その後にはキックスが入ってきています。

この後の3分30秒あたりでのオルガンの音がたされるところはいわゆる「繋ぎ」の部分がないことから、単に音数が増えただけで転調ではないとみなすことができるでしょう。(4分11秒でも同じことが起こっています)

【9個目】

9つ目は Drake のバースでの音抜きを「繋ぎ」とした転調です。ここではオルガンの音がなくなっていますが、その前の音は継続しているので ⑵長期的継続の転調となります。

【10個目】

10個目が 4分23秒の転調で、これまたキックスが足され、ある程度の時間継続しているタイプ ⑵長期的継続の転調にあたります。

【11個目】

11個目は 5分1秒の時点で起こる ⑵長期的断続の転調です。

この5分の曲の中に、11個もの転調があるなんて本当に驚きですね。

【おまけ】

またいつか Travis Scott をより深く理解できる記事を書きたいと思います。【番外編】までお読みいただきありがとうございました。

Written by Kensho Sakamoto

Lil Yachty と巡る、素敵なマンブルラップの世界

Lil Yachty (リル・ヨッティー) 、またの名を Lil Boat (リル・ボート) が世界中のヒップホップリスナーに注目され始めたのは、今から4年ほど前の2016年頃でした。

Lil Yachty

真っ赤なブレイズに、カラフルなビーズをあしらった独特なヘアースタイル。寝起きのような締りのない声色。様々なスタイルに挑戦し、常に新たなサウンドを創り出そうとする前向きな姿勢。数え切れないほどのユニークなキャラクターを持った Lil Yachty に、私たちリスナーは一瞬にして虜になりました。

Lil Yachty は、はっきりと言葉を発さないでラップする、いわゆる「マンブルラップ」のカテゴリでその名を轟かせました。

「マンブルラップ」と聞くと、ひょっとするとどこかネガティブなイメージをお持ちの方もおられるかもしれません。ここ数年では、Playboi Carti Lil Uzi VertYoung Thug などのいわゆる「マンブルラッパー」がシーンを台頭したこともあり、ネガティブなイメージは払拭されてきてはいますが、それでも、「マンブルラップ」という言葉がネガティブな意味合いで使われているのをよく目にします。

しかし、Lil Yachty の場合は、マンブルラップの枠を飛び越えてポップミュージックや R&B などのあらゆるジャンルのアーティストから引っ張りだこになっています。一時はネガティブなイメージさえ押し付けられていたマンブルラップアーティストの一人が、なぜここまで各方面からの人気を得たのでしょうか。今回はその活躍の裏に隠された「マンブルラップ」の魅力と共に、Lil Yachty についてまとめてみようと思います。

Lil Yachty ってどんなラッパー?

Lil Yachty (以下 Yachty) こと Miles Parks McCollum は、アトランタの西側に位置する小さな町メーブルトンに生まれました。

彼の音楽を聴いたことがあっても、彼のキャラクターについてあまり知らない方もおられるかもしれません。そんな方々には、まずこのインタビュー動画をお勧めします。(彼についてよくご存知の方も、ご視聴を強くお勧めします。)

I don’t eat fruits or vegetables
俺は果物も野菜も食べない
I eat pizza everyday… every single day
ピザは毎日食べるよ、毎日欠かさずにね

インタビュアーの「君について、みんなが知らないことを幾つか教えてよ」という質問に、このような驚きの回答を示した Yachty。

さらに、インタビュアーに「このままだと、リスナーのみんなは君のことを『変なヤツ』のカテゴリーに入れちゃうよ?」と警告されたのに対し、「どうぞお好きに。」と一言で答えてしまいます。インタビュアーも、困惑を隠しきれず全体的に気まずい雰囲気になってしまっていますが、この動画こそが世界中のリスナーが彼のキャラクターに魅了されている理由を明確に示していると思います。

マクドナルドで働いていた経験もある、ごく普通の少年だった Yachty は、2016年にリリースしたシングル『One Night』で一躍有名になります。ハイハットの効いた浮遊感のあるビートの上に、ほとんど抑揚のない気怠そうな歌声をのせる今までにないスタイルは、賛否両論こそありましたしたが、間違いなく世界中に広まりました。

各方面のアーティストとの共演

『One Night』で一挙に注目を集めた彼は、同年にミックステープ『Lil Boat』をリリースします。『One Night』が収録されていることから、もちろんリリース前から期待値が高かったミックステープですが、見事その中からもヒットを生み出します。それは Young Thug や Quavo、Skippa da Flippa を招いた楽曲『Minnesota』です。

幼児向けの数え歌のような単調なメロディーのトラックに、トラックと同じメロディーでアプローチする類をみないスタイルは、聴く者全ての心を鷲掴みにしました。Young Thug や Quavo など、各方面からのゲストを一曲に詰め込むことで、更なるリスナーの獲得に成功しました。

また Yachty は、2016年に Chance The Rapper によってリリースされたミックステープ『Coloring Book』に収録されている楽曲『Mixtape』にも参加し、そこでも大きな爪痕を残しました。

Chance The Rapper や Young Thug と言った実力派ラッパーと肩を並べて、ほとんど無名だった Yachty はソリッドなラップをラストバースで披露します。他の二人に劣らないそのラップスキルは、Chance のリスナーたちの間でも話題となり、すぐさまその口コミは拡散されました。

いわゆるマンブルラップの元祖である Young Thug や、アトランタトラップの大御所である Quavo 、シカゴの Chance らとの共演を果たした Yachty ですが、その勢いは止まることを知らず、更なるジャンル間の跳躍を見せてくれました。

その一例として挙げられるのは、Charli XCX との楽曲『After the Afterparty』での活躍です。オートチューンをバリバリに効かせ、ポップ寄りのフロウで歌うことで、ポップミュージックとの意外な融合を実現しています。この楽曲への参加を通して、Yachty はメロディアスなスタイルでポップミュージックのリスナーたちからの認知度も上昇させました。

このように、ジャンルの壁を跳躍して様々なアーティストとの共演を果たすことで、ヒップホップコミュニティ以外からの認知度を上昇させ、その結果としてヒップホップシーンの盛り上がりにつながりました。ジャンル間の共演のハードルを下げた人物として、間違いなく Lil Yachty の名前が上位に上がってきます。

スタイルの多様性

Yachty は、他のアーティストの楽曲に参加するのみならず、自らのプロジェクトにおいても様々なスタイルへの挑戦を試みてきました。本章ではその一部をご紹介します。

Not My Bro

1枚目のミックステープ『Lil Boat』に収録されているインタールード的なポジションの楽曲です。Yachty のメインフィールドである『マンブルラップ』を究極まで突き詰めた一曲となっており、リリックを見ながら聴いても何を言っているかわからないレベルです。ラップがうまいとはお世辞にも言えませんが、眠たげな声色と、一隻のボートが海原にポツンと浮かぶ様子が頭に浮かぶような穏やかなトラックが、何故だか心地よさを醸し出しています。

Beautiful Day (feat. Kylie Jenner)

『Lil Boat』をリリース後に制作された楽曲を集めたミクステ『After da Boat』に収録されている楽曲です。驚くべき点は、Kylie Jenner が客演として参加していること(ほとんどラップは披露せず、ただふざけている間にバースは過ぎ去っってしまいます。)ディズニーランドのパレードで流れてきそうな、可愛らしいトラックの上で四分間のショータイムが繰り広げられます。

前半の Yachty のバースでは、メリハリのないだらだらとしたラップから台詞のパート、さらには本気のラップなどが詰め込まれており、四分間が一瞬で過ぎ去ると共に、聴き終わったと同時に「今のは何だったんだ」という不思議な感想に襲われる迷曲となっております。

she ready (feat. PnB Rock)

2枚目のスタジオアルバム『Lil Boat 2』に収録されている PnB Rock をフィーチャーした楽曲です。『Lil Boat 3』の先行シングルを二曲ともプロデュースした Earl on the Beat によるプロデュースで、蒸気機関車の煙が吹き出すようなサウンドのポジティブな良トラックです。

Ty Dolla $ign のように、ヒップホップと R&B を行き来するようなスタイルで有名な PnB Rock をフィーチャーすることで、Yachty ならではの陽気な雰囲気を、他の楽曲とは少し違ったアプローチの仕方で実現しています。

Dripped Out (feat. Playboi Carti)

まずは、Lil Yachty の三枚目のスタジオアルバム『Nuthin’ 2 Prove』に収録されている Playboi Carti を招いたこちらの楽曲です。こちらも Earl on the Beat による 8ビットゲームのサウンドエフェクトのようなピコピコトラックに、乳児が泣きじゃくるようなラップが印象的です。

マンブルラップシーンを台頭するに二強の共演で、リリックを理解せずとも楽しめる素敵な楽曲に仕上がっています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は Lil Yachty と共に素敵なマンブルラップの世界をご紹介しました。「薄っぺらくて、軽すぎる」と批判されることもあるマンブルラップですが、これも一つの立派なジャンルだと考え、単純に楽しんでみるのも良いのではないでしょうか。

最新作の『Lil Boat 3』にも、A$AP Rocky や Tyler, The Creator、Young Thug などが参加しており、大変聞き応えのある作品になりそうです。約2年ぶりに Lil Yachty ワールドに連れて行ってくれることを期待して、楽しみに待つとしましょう。

Young Thug がシーンに与えた影響と今日の「ベイビーボイス」ラップ

昨今の流行である Playboi Carti の「ベイビーボイス」ラップをはじめとし、今や USヒップホップシーンのトレンドとなった高音で歌うラップスタイル。今回は、ヒップホップにおけるオートチューンの歴史や、今日の流行のきっかけを作ったラッパー Young Thug の影響に触れながら、その成り立ちや進化について考えていきます。

オートチューンの歴史

まずは、ヒップホップシーンにおけるオートチューンの歴史について簡単におさらいしようと思います。

オートチューン(Auto-Tune)とは、アメリカのアンタレス社が1997年に製品化した音程補正ソフトのことで、地球物理学者の Andy Hildebrand が地震データ解析用ソフトが音程補正にも応用できることを偶然発見し、開発に至ったそうです。

初期の Auto-Tune

90年代後半から様々なジャンルにおいて用いられてきたオートチューンは、2000年代中頃から、ヒップホップや R&B においても多く使用されるようになります。

いわゆる「ケロケロボイス」を用いて歌うスタイルが T-Pain を中心に流行を見せ、Kanye WestLil Wayne、Akon らが後に続いたことで更にその人気に火がつき、メロディへ傾倒するアーティストが増えていきました。

T-Pain – Buy U a Drank (Shawty Snappin’) [feat. Yung Joc]

Kanye West – Heartless

彼らの楽曲を聴いていただければ分かるように、オートチューンは「音程補正」という本来の用途よりも、一種の「エフェクト」に近い用法で、ヒップホップシーンに浸透していきます。

オートチューンの流行とそのフォロワーたち

そんなオートチューン黎明期のアーティストたちのフォロワーであり、以後のヒップホップシーンに多大な影響を与えたラッパーの1人が Future です。

彼は、オートチューンを多用して歌うスタイルを取り入れたデビューアルバム『Pluto』で注目を集め、ラップと歌唱を行き来するスタイルを更に浸透させました。

Future – Turn On The Lights

Future が新しいスタイルで一世を風靡し、若いラッパーに多大な影響を与えるなか、次に現れたのが Young Thug でした。

Lil Wayne 直系のオートチューンを用いた高音ラップを得意とする Young Thug ですが、彼の奇声にも近い独特な歌唱法は世間を騒がせました。

Young Thug – Picacho

ジェンダーレスなファッションスタイルでも知られる Young Thug は、楽曲においても中性的あるいは女性的ともとれるようなハイピッチ・フロウを披露します。

Future & Young Thug – Real Love

Young Thug – The London (feat. J. Cole & Travis Scott)

彼がシーンに登場した当時は、そのファッションや音楽性から、「ゲイ的だ」と批判する声も少なくありませんでしたが、何と言われようと自分のスタイルを曲げずに進み続けた彼の信念が、以後のヒップホップシーンに多大な影響を及ぼすことになります。

ハイピッチ且つ中性的なスタイルの定着

Young Thug の活躍を皮切りに、オートチューンやピッチ変更を用いた高音且つ中性的な歌唱スタイルが音楽シーンに広がります。

2010年代以前にも、Nas が自身の女性オルターエゴ「Scarlett」としてピッチを上げた女性のような歌声でラップする事例がありましたが、そのような高音パートをオルターエゴ的な位置付けとして楽曲の一部分に用いるアーティストも増えていきました。

Nas – Sekou Story (feat. Scarlett)

Frank Ocean の『Nikes』や、Tyler, the Creator の『RUNNING OUT OF TIME』などでも(Young Thug の影響とは言えないものの)ピッチを上げた中性的な歌唱パートが取り入れられ、ヒップホップ、R&B からポップスまで、しっかりメインストリームに浸透していることが窺えます。

Frank Ocean – Nikes

Tyler, The Creator – RUNNING OUT OF TIME

中でもヒップホップシーンにおいては、その盛り上がりが顕著でした。明らかに Young Thug に影響を受けたであろう高音で歌う若手ラッパーが続々と登場し、シーンを盛り上げます。

SahBabii – Marsupial Superstars (feat. T3)

Coca Vango – Sauce All One Me

Haiti Babii のフリースタイルラップ

「ベイビーボイス」ラップの登場

そして2018年から2019年にかけて、中性的もしくは女性的という域を超えた、まるで幼児のような声で歌ういわゆる「ベイビーボイス」ラップが登場し話題を呼びました。

今日のベイビーボイス・ラップと呼ばれるスタイルを始めたのは、Young Thug の YSL Records とサインしているアトランタのラッパー Lil Keed でしょう。彼もまた Young Thug に影響を受けたラッパーの1人ですが、他の Young Thug フォロワーとは一線を画すような、極端に高いピッチで歌うフロウを聴かせます。

Lil Keed – Nameless

Lil Keed の裏声でシャウトするレコーディング風景も非常に興味深く、一見の価値ありです。

https://youtu.be/yUCit0lhtVc

そして、最初にベイビーボイス・ラップが大きな注目を浴びたのは、Young Nudy & Playboi Carti の未リリース楽曲『Pissy Pamper』のバイラルヒットでした。

※未リリース楽曲のため音源無し。

この楽曲では、Playboi Carti が今にも泣き出しそうな幼児のように歌うフロウを披露し、未リリースにも関わらずリーク曲が Spotify のチャートにて1位を獲得しました。

このヒットを受け、Playboi Carti はベイビーボイス・ラップに傾倒するようになります。幼児のような声で絞り出すように歌うラップと耳に残る軽快なアドリブを織り交ぜた彼のスタイルは、もはやラップというより一種の楽器としての側面が強く、Young Thug よりも更に音にフォーカスした進化系であるといえます。

Playboi Carti – @ MEH

Drake – Pain 1993 (feat. Playboi Carti)

Young Thug のスタイルを誇張して進化させたようなこの新しいスタイルは、賛否両論あるものの、チャートではしっかり好成績を残します。実際、Playboi Carti だけでなく、この「ベイビーボイス」ラップと呼べるような歌唱法を用いる若手ラッパーが次々と現れています。

その中でも、現時点でのベイビーボイス・ラップの究極形態が、アトランタの新人ラッパー 645AR でしょう。彼のベイビーボイスはもはやホイッスルボイス(裏声系のシャウト)や金切り声にも近く、「果たしてこれはベイビーなのだろうか」という疑問も生まれるほど衝撃的なスタイルです。

645AR – 4 Da Trap

このように、2000年代中頃からヒップホップシーンに浸透し始めたオートチューンを用い歌うラップスタイルは、2010年代に登場した Future や Young Thug の影響を強く受けながら今日のスタイルへと進化を遂げました。

世間が待望している Playboi Carti の新譜が本当にリリースされるのかどうかは怪しいですが、ヒップホップファンや音楽評論家から賛否両論を受けるベイビーボイス・ラップの今後と、その影響を受けた新たなアーティストやスタイルの登場を楽しみに待ちたいと思います。

Written by Riku Hirai

Gunna | 『Drip Season』から『WUNNA』までの軌跡

アトランタを中心として、発展を続けるトラップミュージック。Future や Young Thug、Gucci Mane などがその代表として挙げられますが、その勢力はアトランタにとどまることはなく、今や世界中に広まりつつあります。今回はそんなトラップミュージックのニュースター Gunna についてまとめてみたいと思います。

今週末に待望のニューアルバム『WUNNA』をリリース予定の Gunna。そんな彼の生い立ちや、これまでの作品についてこの機会におさらいして行きましょう。

生い立ちとキャリアの開始

Gunna (ガンナ) こと Sergio Giavanni Kitchens は、ジョージア州のカレッジパークに生まれました。カレッジパークは、たくさんのラッパーを生み出したトラップミュージックの聖地であるアトランタの北部に位置する小さな街です。

本名の Sergio Kitchens (セルジオ・キッチンズ) は、ラップネームの Gunna よりも数倍かっこいいと話題になり、本名をラップネームにした方が良いという声が多数上がったことも記憶に新しいです。

実は彼、Gunna 名義で本格的にラッパーとして活動する以前に、 Yung Gunna という別名義下で活動していました。2013年には Yung Gunna としてミックステープ『Hard Body』をリリースしています。柔らかく優しい声質はほとんど現在と変わっていませんが、明らかに現在と比べてフロウやリズムキープにおいて未熟さが感じられます。

ミクステのタイトルにもなっている『Hardbody』というこちらの楽曲。楽曲のタイトルを連呼するだけのフックに、今ではあまり聞くことのできないアグレッシブなフロウが特徴的です。楽曲の完成度は高くないとはいえ、ヘロヘロなラップとアグレッシブなフロウが共存している不思議なスタイルには、惹きつけられる部分もあります。

『Drip Season』シリーズや『Drip or Drown』シリーズで知られ、高級ブランドを身に纏っている現在の姿とは程遠い、坊主頭の彼を見ることのできる MV にも注目です。(未だに再生回数が16000回であることから、Yung Gunna 時代にはほとんどファンベースを築けていなかったようです。)

Young Thug との出会い

いかにも冴えないラッパーというイメージだった彼に、その後のキャリアを180° 転換する大きな転機が訪れます。それが、アトランタのラップスター Young Thug との出会いです。

Young Thug の親友である Keith Troup というラッパーを通して Gunna と Thug は出会いました。 二人を繋ぎとめた Keith Troup はその後すぐに亡くなってしまいましたが、Thug は Gunna の実力を認め、自身のミックステープ『Jeffery』に参加するチャンスを与えました。Gunna は『Floyd Mayweather』にて Gucci Mane と Travis Scott という超豪華メンバーに混ざって本気のラップを見せつけました。

『Floyd Mayweather』を聴いた Thug のファンたちは、ビッグネームに混ざる謎の若手ラッパーの名前に興味を持ち始め、 「Young Thug のアルバムに参加している Gunna というラッパーがヤバイ」という噂が瞬く間に広がり始めました。大物ラッパーが自らのキャリアに満足するのではなく、積極的に若手をフックアップして、ラップゲーム全体を盛り上げようとする姿勢は本当に素敵なものだと思います。

1st ミックステープ 『Drip Season』

『Floyd Mayweather』によって爆発的に認知度を得た彼は、2ヶ月後に Gunna 名義下での初めてのミックステープ『Drp Season』をリリースします。ちなみにこの時点で Young Thug が率いるレコードレーベル YSL Records との契約を果たしています。

彼をフックアップした張本人である Young Thug はもちろん、のちに YSL との契約をはたすラッパー Nechie や Young Trez などに加え、プロダクションには Narcos や Billboard Hitmakers、そして現在も Gunna とタッグを組んで楽曲制作に勤しむ Wheezy などが参加しています。

Cop Me a Foreign (feat. Young Thug)

Gunna が自らの名義下で初めて Thug を招いた記念すべき楽曲です。Yung Gunna 時代からは想像もできないほど、多彩なフロウやメロディーラインを用い、明らかにレベルアップしている事を感じ取る事ができる楽曲となっています。

再生時間は5分10秒と、トラップミュージックの中ではかなり長い方に分類されるこちらの楽曲ですが、面白いのは二人のバースの占有率です。Gunna のフックから幕開けし、1分58秒までは Gunna のバースが続きますが、その後の3分12秒は全て Thug によってラップが繰り広げられるという、ホストとゲストが逆転した構成になっています。

Gunna によってラップされたフックを、2回目のフックはそのまま Thug がラップし直していたりと、面白い要素をできるだけ詰め込んだ欲張りな楽曲となっています。目まぐるしく変化する Thug のフロウにも要注目です。

2nd ミックステープ 『Drip Season 2』

一作目のミクステで完全に勢いに乗った彼は、その7ヶ月後に二作目のミクステ『Drip Season 2』をリリースします。当時セルフタイトルアルバムをリリースした直後だった Playboi Carti や YSL 所属の Lil Duke、 他にも HoodRich Pablo Juan などが客演として参加しています。さらに、プロダクションには TM88 や Zaytoven、Pi’erre Bourne などの名だたるメンバーを招き、かなり華のあるミクステに仕上がりました。

Pi’erre Bourne のトラックを使用し、Playboi Carti 色に染まった『YSL』や、不穏な雰囲気のトラックに落ち着いたラップをのせた HoodRich Pablo Juan との『Mayors』などから感じ取れるように、Gunna は他のラッパーの雰囲気にうまく馴染む事ができるラッパーだと思います。このような適応性の高さも、のちに彼が参加した楽曲がリリースされない週がなかった状況を作り出した一つの要因なのではないでしょうか。

3rd ミックステープ『Drip Season 3』

奇抜でキャッチーなアルバムカバーが目を引く三作目のミックステ『Drip Season 3』は、2018年の2月にリリースされました。一年以上のインターバルを挟む事なく、コンスタントにプロジェクトをリリースしていくスタイルも、彼の人気にさらに火をつけて行きました。すでに超人気ラッパーに仲間入りしていた彼の新譜は、もちろんのこと期待されていたわけですが、本作はその期待を優に超えてきた傑作と言えます。

Lil Uzi VertLil Durk、NAV などの勢いのある若手をたくさん招き、トラックリストが公開された時点でファンたちは大盛り上がりでしたし、プロダクションには Metro Boomin や London On Da Track 、Turbo などが参加し、これまでのキャリアの集大成的なミクステに仕上がっています。(これだけ力を入れた作品がミクステというのもまた一興です。)

Car Sick (feat. Metro Boomin & NAV)

Metro Boomin による浮遊感のあるトラックの上で、Gunna と NAV が交互にラップしていく構成のこちらの楽曲。Tesla Pill という、テスラ社のロゴが刻印された MDMA をテーマにした楽曲で、ドラッグを服用することで起こる身の回りの変化などをラップしています。

テスラ社のロゴと MDMA の一種である Tesla Pill

Oh Okay (feat. Young Thug & Lil Baby)

Turbo によるアコースティックギターのトラックの上に Young Thug と Lil Baby を招いたこちらの楽曲。これぞ YSL という雰囲気の楽曲に仕上がっています。Gunna の同じメロディのラインを淡々と繰り返すスタイルはこちらの楽曲で顕著に聞く事ができます。

これを機に出会った Gunna と Lil Baby は、のちにジョイントミックステープ『Drip Harder』をリリースし、兄弟のように互いのパートナーとなります。

1st アルバム『Drip or Drown 2』

三枚のミクステを順調にリリースし、すでに強固なファンベースを築き上げていた彼ですが、このタイミングでデビューアルバム『Drip or Drown 2』をリリースします。ちなみに二、三作目のミクステの間に全曲 Wheezy によってプロデュースされた EP である『Drip or Drown』をリリースしているので、本作は『2』となっています。

服を着てサングラスを掛けたまま、傘を持つ自身の姿がアルバムカバーとして採用されましたが、こちらのカバーは、実際に逆さまに水中に潜った写真を上下反転させて制作されたそうです。撮影風景を想像すると、なかなか面白いシーンが脳内に浮かんできます。

「Drip or Drown 2 のカバーアートに使用された元の写真」

今回のアルバムには、Young Thug や Lil Baby に加え Playboi Carti の三人のみをフィーチャーし、ミニマムにまとめ上げています。デビューアルバムということもあり、自身の実力に目を向けて欲しいという彼なりの戦略なのでしょうか。

プロデューサーに関しても、ほとんどの楽曲が Wheezy や Turbo によるものとし、全体的にコンパクトにまとめ、自らのブランディングに徹しているような印象を受けます。アウトロでは今までとは一味違った中華ビートを採用し、スキルの幅広さも強調しています。

Same Yung N***a (feat. Playboi Carti)

Wheezy と Turbo のゴールデンタッグによるトラックに、Playboi Carti が参加したこちらの楽曲。彼らにしてはシンプルなトラックですが、小節が終わるごとに強くエコーがかけられたプロデューサータグが何度も響き渡るのが面白いです。

Really anytime I smoke the best dope
どんな時でも最高のウィードを吸うぜ

I pop off a tag when I change clothes
着替えるたびに新品の服のタグを切る

Ain’t that same young nigga from the ghetto
地元の他の奴らとは、ワケが違うんだよ

ラップを通してキャリアを築き上げ、今やリッチとなった彼らが「地元でフラフラしてる奴らとはワケが違うぞ!」という内容をラップしています。Playboi Carti の珍しく落ち着いたフロウにも注目です。(現在多用しているベイビーボイスに移行する途中という感じです。)

2nd アルバム『WUNNA』

『Drip or Drown 2』から、約1年3ヶ月のブランクを経て、今週の金曜日に2作目のスタジオアルバムである『WUNNA』のリリースがアナウンスされました。

リリース前夜に、アルバムカバーとトラックリストが公開されました。アルバムカバーは、レオナルド・ダヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」を模した自身のキャラクターの周りに、星座記号が刻まれた帯や、星座記号が配置されているデザインとなっています。

トラックリストによると参加するラッパーは、Young Thug や Lil Baby、Travis Scott など、プロデューサーは Wheezy や Turbo、Tay Keith などとされており、今回のアルバムも前作同様に比較的ミニマムな客演に押さえ込んだ印象を抱かせます。

『WUNNA』のトラックリスト

ちなみにアルバムタイトルの『WUNNA』ですが、Twitter にて『Wealthy Unapologetic N***a Naturally Authentic 』の頭文字をとった略語であると明かされています。先行シングルの『SKYBOX』をリリースしたタイミングで、インスタグラムで、サブアカウント的なポジションの @wunna という ID も取得していました。(開設当時はプライベートアカウントでしたが、現在は誰でもフォローしなくてもみることができます。)

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はトラップ界のニュースターである Gunna についてまとめてみました。今週末にリリースされる『Wunna』をキッカケに、さらに人気に火が付くと予想されますので、今後の彼のキャリアからも目が離せません。

XXS オリジナルプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/gunna-a-new-star-of-trap-music/pl.u-jV89B8Wtd1A86o2?l=en

Lil Wayne の「駄作」が現在のヒップホップに与えた多大な影響

XXS Magazine をご覧の皆さん、お久しぶりです。音楽ブログ「にんじゃりGang Bang」のアボかどです。

2020年というキリの良い数字の今年。Kanye West『My Beautiful Twisted Fantasy』や Drake『Thank Me Later』、Waka Flocka Flame『Flockavelli』など、多くの名作が10周年を迎えました。そして、「迷」作として歴史に残ってしまった一枚の作品も今年で10歳。今回は、Lil Wayne が2010年にリリースした悪名高いアルバム、『Rebirth』について考えていきます。

Lil Wayne のキャリアのおさらい 

まず、『Rebirth』に至るまでの Lil Wayne のキャリアを軽くおさらいします。

1982年生まれ・ルイジアナ州ニューオーリンズ出身の Dwayne Carter こと Lil Wayne は、8歳からラップを始めて91年頃には Birdman と出会い Cash Moneyと契約。95年にはB.G.とのユニット「The B.G.’z」でアルバム『True Story』をリリースします。

その後 The B.G.’z に JuvenileとTurk を加えた面子で、スーパーグループの The Hot Boys を結成。Juvenile のソロでの成功も追い風となり、The Hot Boys のメンバーとして Lil Wayne も90年代後半に高い人気を獲得します。

99年にはソロでの1stアルバム『Tha Block Is Hot』をリリースし、ラッパーとしての高い実力をアピール。Juvenile ほどではありませんでしたが、その評価を確実に高めていきます。

Lil Wayne『Tha Block Is Hot』

The Hot Boys 期の Lil Wayne は、ぬめりのある高音で Juvenile や B.G. の影響を感じさせるネチネチとしたラップスタイルが特徴でした。 

高い人気を集めた The Hot Boys でしたが、00年代前半に Cash Money から Lil Wayne 以外のメンバーが次々と脱退し、解散してしまいます。しかし、残ったLil Wayne は Jay-Z などの影響が見えるスタイルに移行しながら、Cash Money の看板を担うラッパーとして成長。

そして、05年には様々な転機が訪れます。一つはニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」で Cash Money のスタジオが大きな被害を受け、拠点をニューオーリンズからフロリダに移したこと。そしてもう一つは Cash Money の看板プロデューサー、Mannie Fresh のレーベル脱退です。

この二つから Lil Wayne はプロダクションを一新し、05年リリースのアルバム『Tha Carter II』では The Runners や Cool & Dre といったフロリダのプロデューサーを起用します。その後はミックステープを量産し、難解なワードプレイを駆使したパンチライン重視のスタイルに開眼。フリーキーなフロウも抜群の冴えを見せ、自他共に認める「Best Rapper Alive」となりました。 

Jay-Z や Kanye West、故 Betty Wrightら大物も参加した08年のアルバム『Tha Carter III』は大ヒットを記録。スカスカのビートでフックらしいフックもなくひたすらラップするシンプル極まりない『A Milli』(もっと言うとMVもチープ)のような曲もヒットしたことからも、その尋常ではない勢いが伺えます。 

ロックに目覚めたLil Wayne 

快進撃を続ける Lil Wayne は、09年初頭にロックアルバム『Rebirth』のリリースをアナウンスしました。そして DJ Infamous & Drew Correa のタッグが制作したシングル『Prom Queen』を発表。プロデュースした二人も「シングルにすると言われたが、最初は俺たちに気を使ってジョークを言っているんだと思った」「ロックアルバムを作る噂は聞いていたが、808にギターを乗せる程度だと思っていた」と後に語っていましたが、同曲はヒップホップから大胆に逸脱したヘヴィなグランジ系の曲に仕上がっていました。

そして、この挑戦的な曲はかなり賛否が分かれることとなります。というか、ほぼ否でした。さらにライブで自ら弾いたギターも衝撃的な腕前で、悪い意味での話題を集めます。Lil Wayne のギターは、ギターサイトの Ultimate-Guitar による17年の企画「ワースト・ギターソロトップ10」でも1位にも選ばれるなど、時が経っても忘れられないほどのものでした。 

これらの評価から『Rebirth』には不安の声も多く聞かれましたが、相変わらず客演等でのラップでは高い実力を発揮。『Rebith』は延期が繰り返され、その間に Nicki Minaj や Drake が Young Money からブレイクを果たしたこともあり、Lil Wayne 自体の人気が衰えることはありませんでした。

そして、当初の09年4月の予定から大幅に遅れた10年2月に、ついに『Rebirth』はリリースの時を迎えました。 

Lil Wayne『Rebirth』

『Rebirth』は初週で17万枚を越えるセールスを記録し、全米チャートに2位で初登場。Lil Wayneの変わらぬ人気を見せつけました。Cool & Dre や J.U.S.T.I.C.E. League らのフロリダのプロデューサーを迎えて制作された同作は、ヒップホップ的なアプローチの曲がないわけではないですが、報じられた通りかなりロックに寄せた曲が中心。ヴォーカル面ではオートチューンまみれでズルズルと歌ったり、シャウト気味の力強いスタイルなどを聴かせていました。

しかし、かなり攻めた色物的な内容の同作はリスナーを混乱させ、各メディアからも非常に厳しい評価を受ける結果となりました。米メディアの Complex の11年の企画「酷かったラップアルバムワースト50」でも4位にランクインし、Lil Wayne のキャリア史上最悪の迷作という烙印が押されました。 

この低評価が堪えたのか、一枚作ったらスッキリしたのか、理由は不明ですが以降 Lil Wayne のロックへの言及は減少。作品でもロック的な音に乗ることはほぼなくなり、ポツポツとやっていた曲でも11年の『How to Love』のように、『Rebirth』的なアプローチはあまり取らなくなっていきます。 

後進のラッパーの活躍による再評価 

「Best Rapper Alive」である Lil Wayne の人気は凄まじく、その影響力の高さは「Lil」と名乗るラッパーの増加からも伺えます。そして、そんな Lil Wayne の影響下にあるラッパーが、2010年代半ば頃からロックを導入したスタイルで次々と登場していきました。 

その代表的なアーティストの一人に、フロリダのラッパーの XXXTentacion がいます。

XXXTENTACION

15年に発表した出世曲『Look at Me!』はサウンドこそヘヴィなトラップ系ですが、そのシャウトも取り入れた発声には『Rebirth』での Lil Wayne のスタイルから地続きのものが感じられます。

XXXTentacion は以降も1st アルバム『17』で内省的なギターを導入し、2ndアルバム『?』ではさらにヘヴィなロック色の強い曲も収録。『NUMB』や Lil Wayne とも関わりが深いTravis Barkerが参加した『Pain = Bestfriend』などは、『Rebirth』に入っていてもおかしくないようなアプローチの曲になっています。

XXXTentacion は惜しくも亡くなってしまいましたが、Lil Wayne とも死後に疑似共演を果たしたほか、今年 Lil Wayne が「現在最も好きなアーティスト3人」を語った際にも名前が挙がりました。Lil Wayne がロックに挑んだ時に拠点にしていた地・フロリダから、Lil Wayne からの影響を語りロックを見事に取り入れた音楽性で成功したラッパーが現れたことは、なんとも美しい話ではないでしょうか。 

「Lil」系ラッパーの代表格である Lil Uzi Vert もまた、Lil Wayne からの影響が伺えるラッパーの一人です。

Lil Uzi Vert

ロックスター的なイメージを打ち出し、オートチューンにまみれたズルズルとした歌フロウを多用するそのスタイルには、サウンドこそロック的ではないものの確かに『Rebirth』的な要素が感じられます。

先に『Rebirth』を酷評した Complex も、Lil Uzi Vert らの活躍を受け17年に「Lil Wayne のワーストアルバムは彼の最も影響力の強いアルバムでもある」という記事を発表。後進のラッパーの活躍により、同作の再評価が確実に進んできています。 

ロック×ヒップホップの現在 

「Rebirth」にプロデュースで参加した Cool & Dre は、同作のリリース直前にこのようなことを語っていました。 

「『Rebirth』は、ヒップホップやR&B以外の音楽を作ってみたいというアーティストに新たな道を開くアルバムになる。そういう人はたくさんいるはず。 Prince & The Revolution がチャートを賑わしていた頃のような、音楽の多様性をまた見たい。Lil Wayne はただのヒップホップアーティストではなく、我々の世代を代表するアーティストになるはずだ。彼と一緒に活動していることを誇りに思う」。 

当時は完全な失敗作とされた『Rebirth』でしたが、その挑戦は後のラッパーに確実に影響を与え、ヒップホップにさらなる多様性を与えました。同作がなければ、もしかしたら現在のヒップホップは全く別物になっていたかもしれません。 

XXXTentacionらの活躍でロックを取り入れたヒップホップは今では大きな市民権を獲得し、今年に入ってからもアトランタの新鋭・Kenny Mason がロック色の強いアルバムをリリースし話題を集めました。日本でも kZm や (sic)boy、Lil Soft Tennis らがロックを取り入れた曲を発表しています。

そして、これまでにも Lil Wayne からの影響をたびたび語ってきたラッパーの一人である、Kendrick Lamar も次作でロックを取り入れていると報じられています。師匠の雪辱を果たすことができるのか、それとも師匠のように迷作と呼ばれてしまうのか。Kendrick Lamar は SNS 等であまりプライベートを明かさないので、「外出自粛でギターを始めていたらどうしよう・・・」とも思ってしまいますが、楽しみに待つことにしましょう。 

アボかど
Twitter: https://twitter.com/cplyosuke
Instagram: https://instagram.com/cplyosuke
Blog「にんじゃりGang Bang」: https://fuckyeahabocado.tumblr.com/

北欧の革命家 Yung Lean の全て

皆さんこんにちは!

今回は、今週に最新アルバム『Starz』をリリース予定の、スウェーデンのストックホルム出身のラッパー/プロデューサーであるYung Lean について書いていきたいと思います。

はじめに

Yung Lean こと Jonatan Leandoer Håstad (以下、便宜上Leanと呼ぶ) は1996年7月18日にスウェーデンのストックホルムで産声を上げました。

父は幻想文学の作家でもあり、仏文学の翻訳の仕事をしながら、出版社を持つ文学者 Kristoffer Leandoer、母はロシア・ベトナム・北アメリカで活動するLGBT団体に所属する人権活動家の Elsa Håstadという恵まれた環境で育った彼。

さらに母方の祖父はイギリスの劇作家として有名な Arnold Wesker です。

このように、身内の環境によって練り上げられた文体は彼の独特な比喩表現にも現れています。(後ほどリリックについても解説いたします。)

彼は生まれた後、旧ロシア帝国の一部であったベラルーシ共和国で子供時代を過ごし、3歳あたりでスウェーデンのストックホルムに戻ったため、ロシア語とスウェーデン語に揉まれながら成長していくことになります。

ベラルーシ共和国の国旗

高校生になり、マクドナルドでバイトをする傍ら、グラフィティのカルチャーやドラッグに溺れていく彼は、ヤケを起こすことが多くなり、15歳という若さでマリファナの使用による保護観察処分を受けます。

影響を受けたアーティストや仲間、Sad Boys が出来るまで

ストリートカルチャーとおんぶに抱っこで育った彼は、徐々にヒップホップに興味を持つように。

ちなみに彼は、この青年期に影響を受けたアーティストとして、50 Cent や The Latin Kings、そしてNasなどを挙げています。

Nas『Illmatic』

ちなみにこのあけすけに荒れていた時期、後に世界をあっと驚かせることとなるクルー、Sad Boys の心臓ともいえるプロデューサー・DJのGud(Yung Gud) と出会います。

Yung Gud

そして、後のDrain Gangのメンバーも含んだクルー Hasch Boys を結成します。

彼らと共に似通った音楽を聴いていくことになる Lean ですが、このクルーに対して次第に愛想を尽かすようになり、同じくクルーのメンバーであった Yung Sherman ・Yung Gud と共にトリオで「Sad Boys」を結成し、Hasch Boys は解散してしまいます。

そして2012年ごろには、自力で作ったスタジオを基地として、 Yung Sherman ・Yung Gud がプロデュース・ミックスを担当し、Lean も作曲を始めます。

次第に彼らは SoundCloud や Tumblr に曲をアップし始め、莫大なフォロワーを築いていくこととなります。

本格的始動と『Ginseng Strip 2002』のヒット

そして転機は2013年に早くも訪れます。

それは『Ginseng Strip 2002』の大ヒットです。かなりのダウン・ビートの上で、メロディーラインをあえて無くし、極めてまどろんだスタイルでバズを生み出します。

この曲では、やはり彼らしくお茶目ではあっても、独特な言葉遣いがなされています。

Get my dick stuck inside a lamp shell

俺のイチモツが二枚貝に挟まって抜けないから

Get it out with sperm cells and hair gel

精子とヘアージェルを使って抜くんだ

※ lamp shell は二枚貝の別称で、女性の cunt を二枚貝と喩えて、それが狭いから抜けない、という独特な言い回しをしています。

※精子とヘアージェルを並列させているのは、おそらく映画『メリーに首ったけ』にて、主人公がジェルと間違えて精子を頭につけたことから着想を得たと考えられます。

また、PVにおいてもヒップホップアングルと称される下からのアングルはあまり見られないことに加え、「ヨンリーンやり手」など少し奇妙な形で、想世界的な極東の国、日本を表現しており、現在2800万回を上回る再生数を叩き出しています。

そして、その勢いそのままに彼はアルバム『Unknown Death 2002』・さらにそのアルバムから漏れてしまった三曲(バイラルヒット曲『Ginseng Strip 2002』も)を含んだEP『Lavender』をリリースし、世界にその名を轟かせます。

『Unknown Death 2002』
『Lavender』

『Unknown Death 2002』からは『Gatorade』を紹介します。

『Gatorade』の凄さはやはり、声がほとんどトラックに埋れてしまっている点でしょう。

これは一見、ミックス・マスタリングのレヴェルが低いことが原因だと思われるのですが、それは全く違います。実際、その他の曲で、ヴォーカルがはっきりと聞こえる曲も普通にあります。

この、「声がトラックに隠れてしまうこと」により、この曲全体が不思議な湿り気を帯びるのです。それはまるで、スチームサウナについた窓のよう、奇妙なくぐもりを保ったままに、その窓の外に移りげな美しいトラックがひょっこりと顔を出しているのです。

この傾向は『Lavender』の一曲『Greygoose』にも現れていますが、とりわけ驚くべきは『Lavender』に収録されている一曲『Oreomilkshake』でしょう。

この曲中では夜空を感じさせる近未来なトラックが使われており、二種類の声を巧みにタバコの煙のよう、くゆらせながら、見事な配合で織り込ませます。

それはまるで「サウナルーム」と「夜空を抱え込んだサハラ砂漠」を行ったり来たり、ゆらりゆらり、カラッとした湿り気が刻まれた4分16秒の旅のよう。

2013年後半から翌年の2014年にかけてヨーロッパツアーを巡行したのち、北アメリカにてツアーを行った Sad Boys はめきめきと力をつけていきます。

そして 2014年12月23日に『Unknown Memory』をリリースします。

スターとの出会い

wit Travis Scott

『Unknown Memory』

『Unknown Memory』では、Kanye West 率いる GOOD Music と契約し、ファンの中では伝説とされるアルバム『Days Before Rodeo』をリリースしてすぐの Travis Scott を客演に招いた一曲を聴くことができます。

この曲の楽しみにはオートチューンバリバリ期寸前のスキルフルな Travis Scott を聞けることにもあります。

そしてこのアルバムの醍醐味はなんといっても『Yoshi City』でしょう。

今までのチープなものとはうって変わって、完璧に調整された証明や空間、近未来的な乗り物を駆使した PVも見もののこの曲。

「Yoshi City」は、直訳すると「(マリオの)ヨッシーの街」であって、マリオは任天堂のキャラクターであること、それから「Tokyo City we’re burned out」からこの曲が始まることから、東京のことだとわかります。しかし、この「Yoshi City」は実際の東京とは少し違います。

端的にいうと、「Yoshi City」は彼らの心の中にある理想郷としての「東京」、ないしは心象としての「ジャパンの都市」を意味し、つまりは「どこにも存在しないどこか」なのです。

実際、Vice誌のインタビューの中でも、彼は「スウェーデンでの疎外された気持ち」について語っており、リリックでもどこにも所属できない感情や、どのような型にはまらない自分を表現しています。

Smoking loud, I’m a lonely cloud

上物を吸う、俺は孤独な雲だ。


I’m a lonely cloud, with my windows down

一人ぼっちの雲のよう、心さえ閉ざして


I’m a lonely, lonely; I’m a lonely, lonely

俺は孤独、寂しいのさ。一人ぼっちで寂しいんだよ。

※最初の smokeの煙と雲を見事にかけたこのラインは、恐らく17世紀のイギリスのロマン派の詩人 William Wordsworth の『水仙』の有名な始まり「I wandered lonely as a cloud(一人漂う雲のごとく)」を引用していると思われます。

– Yung Lean 『Yoshi City』

Fuck norms, fuck a normal life

決まり事なんてクソくらえ、当たり障りない人生なんてどうだっていい。


Fuck norms, I’ll break em out

規範なんてどうだっていい、俺が全部壊してやる

– Yung Lean 『Yoshi City』

また、彼は社会風刺もリリックに収めています。

I’m an aristocrat without the progress.

俺は何の進歩もない貴族だよ。

これは、貴族は何の進歩も求めずに規範に収まった奴らなのだと言うのを暗示する、彼の気持ちが見え隠れする一文でしょう。

– Yung Lean 『Yoshi City』

素晴らしい一曲ですね。個人的なお勧めとしては、11曲目の『Leanworld』です。

この曲の凄みは、重厚でありながらも寂しさを包み込んだビートが、もはやリリックを通さずとも伝わってくるところです。後半のコーラスとパイプオルガンの音の物悲しさには鬼気迫るものがありますね。

その次の曲『Sandman』の変態ビートについても言いたいところですが、あまり長くなってもよくないので、リンクだけ貼っておきますね。

そして2016年の前半になり、アルバム『Warlord』およびそのデラックス盤をリリースします。

『Warlord』

このアルバムからは一曲、元々友達の兄貴でもある Bladee との一曲『Highway Patrol』を紹介します。

Bladeeの Drain Gang とLean のSad Boys は元々 Hasch Boysだったこともあって親交が深いのですが、やはりこの二人の共演は最強ですね。

I see green lights, missed misfits smokin’ cannabis

青信号が見える、大麻を吸う失敗作の不適合者(仲間)達と

ここでは green lights と大麻がかけられていますが、Leanはよく仲間達(自分も含め)を社会不適合者だと言います。

また、この近未来的であると同時に甘美なビートの上で、Bladee は自分のリリックを巧みに引用します。

What’s your blood type, what does it taste like?

血液型は何だ、その血はどんな味がするんだ?

この曲は『Sugar』のリリック『Your blood tastes so sweet like sugar, baby』に通づるものですね。

またこの頃、彼ら Sad Boys はブランドライン「Sad Boys Entertainment」を立ち上げます。

さらには Calvin Klein’ の AW16 Campaign のモデルに抜擢される彼。

実はそこで、みなさん大好き Frank Oceanと出会います。

wit Frank Ocean

この年のアメリカツアの移動中にバスが銃で襲撃されるという事件があったものの、ツアーを見事に成功させた彼。

その後、Frank Ocean の伝説のアルバムで、世界最大の音楽批評メディア、ピッチフォーク誌の2010年代アルバムランキングで見事1位を獲得し、グラミーにて最初の最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を受賞した『Blonde』の 『Self Control』と『Godspeed』にバックコーラスで参加します。

この曲の Lean のコーラス部分のリリックは、オーシャンの叶いはしない恋心を表しているのですが、何だかグループに溶け込めない Leanの寂しさを表しているようにも聞こえます。

Keep a place for me, for me

僕の居場所を置いといてよ、僕の

I’ll sleep between y’all, it’s nothing

君たちと一緒に寝ても、何もないんだよ。

It’s no thing, it’s nothing

そこには、何もないんだよ

Keep a place for me, for me

僕にも居場所をくれないか、僕の

これは何か彼の集団=規範に馴染めない気持ちを表しているようにも感じます。

with A$AP Ferg

そしてこの年の終わり頃にはミックステープ『Frost God』をリリースします。

『Frost God』

この中では、A$AP Fergを客演によんだ曲であり、このプロジェクトを表していると言っても過言ではない一曲『Crystal City』を紹介します。

また、このアルバムでの人気曲、『Hennessy & Sailor Moon』でも Bladee を客演に呼び、これまた人気曲となります。

何と言ってもこの曲の醍醐味は彼のぐったりとした歌唱でしょう。彼を知らない人でも底無し沼のようにハマってしまうでしょう。

再び Sad Boys 時代

そして彼は『Crystal City』以降、客演をほとんど呼ぶことなく、Sad Boys 単体でプロジェクトを進めるようになります。

この時期の最初の作品は 2017年11月にリリースされたアルバム『Stranger』です。

『Stranger』

Youtube での再生回数は千万回弱ではありますが、『Red Bottom Sky』のヒットはみなさんの記憶にも新しいのではないでしょうか?

ちなみに、このアルバムのうち、『Red Bottom Sky』・『Hunting My Own Skin』・『Skimask』はストックホルムの小規模レーベル「YEAR0001」を通して作られたものです。

この時期(2017年〜現在)の彼を特徴付ける、Joji のようなメロディーを含んだ耳残りの良いヴォーカルを混ぜ込んだスタイルが存分に発揮されている一曲といえます。

2018年にはアルバム『Poison Ivy』をリリースする彼ですが、そこは少し省略して、同じ年に出された Drain Gang の Thaiboy Digitalを客演によんだ一曲『King Cobra』を紹介します。

やはり、Sad Boys と Drain Gang 、そして彼らを繋ぐストックホルムの孤高のレーベル「YEAR0001」の関係が、最強のフローチャートを作り出していますね。

この彼らのドロっとした物狂わしいフローはなかなか真似できるものではないでしょう。

最新アルバム『Starz』

そして今週、Lean はついに最新アルバム『Starz』をリリースします。

『Starz』

何曲か先行トラックがリリースされていますが、まず注目するべきは『Pikachu』でしょう。

やはり低く持続するフローは健在ですが、2017年以降に見られるメロディーラインも少し取り入れられた曲です。

しかし、このハイブリット的スタイルの1番の注目曲は『Boylife in EU』です。

PVのビビットなスタイルもさながらに、やはりこの曲のフック直前での沈み込み、またそこから繰り出される耳残りの良いメロディーラインはたまりません。

元々のダウナーなフローに Jojiのように美しくも歪みを内包したヴォーカル、また変態的な世界観を作り出すトラックにはあぜんとしてしまいますね。

最後に

今回は Yung Lean についてでした。また、Drain Gang 周りを中心とした記事も書きたいと思います。最後までお読みくださり、ありがとうございました。

XXS Magazine 特製プレイリストはこちらから↓

https://music.apple.com/jp/playlist/yung-lean-swedish-napoleon/pl.u-GgA590VcZ1GAeaY?l=en

ニューヨークの若きポップスター Lil Tjay とは

明日5月8日に待望のミックステープ『State of Emergency』のリリースを控える注目若手ラッパー Lil Tjay。今回は、今年の XXL フレッシュマン最有力候補でもある彼の生い立ちやキャリア、魅力について迫りたいと思います。最後までお読みいただければ幸いです。

生い立ちとキャリアの開始

ガーナ人の両親を持つ Lil Tjay(リル・ティージェイ)こと Tione Jayden Merritt は、ニューヨーク・サウスブロンクス出身の19歳(2001年生まれ)。

10代前半から喧嘩や強盗行為を繰り返していたという彼は、15歳の頃に強盗の罪で少年刑務所に送られます。

そしてこの出来事が、結果的に彼の人生の転機となります。

It was not fun.
楽しくなんてなかったよ
It’s not nothing that I would want to do again, 
刑務所でもう一度したいことは何もないけど
but I learned a lot from it. 
そこでたくさんのことを学んだんだ
I feel like if I wasn’t to go to jail,
もしそこに行くことがなければ
I probably wouldn’t be the person I am—I wouldn’t. 
おそらくおれはおれ自身じゃなかったと思うよ
’Cause I wouldn’t have sat down and wrote those songs 
だって、椅子について曲を書くような
and I never would’ve been able to focus on what I want to accomplish. 
おれが成し遂げたかったことに集中できるチャンスはなかっただろうから
So it’s like it was actually a good thing for me. 
だから刑務所での暮らしは、実際おれにとって良いものだった
It made me open my eyes and stuff like that.
おれの目を覚ましてくれたんだ

Rolling Stone

Tjay がこう語るように、彼は服役中にリリックを書き始め、ラッパーとしてのキャリアをスタートさせました。

自身初のバイラルヒット

2017年末に刑務所から釈放された Tjay は、彼が初めてスタジオでレコーディングした楽曲『Resume』をリリースします。

当時、Facebook 以外の SNS は利用していなかったという彼がリリースしたこの楽曲は、SoundCloud にてたった2日間で5000回再生を記録します。

そんな無名なラッパーの楽曲の再生数増加には、ある仕掛けがありました。それは「有名ラッパーの楽曲名をタイトルにし、再生数を稼ぐ」という、バイラルマーケティングの生みの親 Soulja Boy が取り入れた手法でした。

Soulja Boy が、『Crank That』を 50 Cent の『In The Club』と偽ってリリースしヒットさせたことに倣い、Tjay は、『Resume』を Uncle Murda の『Rap Up』と偽りリリースしました。これが結果的に功を奏し、『Resume』は彼自身初のバイラルヒットとなりました。

ヒットの量産

『Resume』のヒットを受け、Tjay は本格的に音楽活動に取り組むことを決意します。

続いて SoundCloud にアップした『Brothers』はリリースされるや否やたちまち再生数を伸ばし、Tjay は Columbia Records と契約を結びます。

Bodies drop all the time I don’t feel nothing

仲間が殺られたって何とも感じない

Swear to god y’all gone make me go kill something

敵は迷いなく殺してやると神に誓うぜ

Told my shooters no mercy or chill button

おれの仲間たちには慈悲も躊躇もない

I done been through so much I don’t feel nothing

色々経験しすぎたんだ、だから何も感じない

『Brothers』にて、Tjay は自身が経験してきたストリートでの生活や刑務所での経験、心の痛みなどをストレートに表現しています。

I speak about stuff I been through.

おれは経験したことを歌っているんだ

I don’t talk about stuff that’s fake.

嘘は歌わない

I speak from the heart.

心のままを歌うんだ

Every lyric got a meaning behind it.

全てのリリックにはちゃんと意味がある

XXL

インタビューにてこうも語るように、自身の経験をベースとしたリアルなリリックも彼の魅力の1つです。

ここでもう1曲、彼のキャリア初期の楽曲をご紹介したいと思います。

None of Your Love

カナダのポップシンガー Justin Bieber のヒット曲『Baby (feat. Ludacris)』のメロディラインを大胆に引用した1曲。

この曲からも分かるように、Tjay はポップシンガーのように歌うスタイルを得意としています。

I used to just watch Justin Bieber videos and be like, 

幼い頃から Justin Bieber のビデオを見ながら、

“Damn, this is going to be me.” 

「おれもこんなふうになれるはずだ」って思ってた

I never thought about how I was going to get there, 

どうやって成功するかなんて考えたこともなかったけど

but I knew it would happen.

絶対できるって信じてたんだ

Pitchfork

ヒップホップ誕生の地ブロンクスで生まれ育ち、過酷なストリートライフを送ってきた10代の若者像からは若干離れたイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際 Tjay は、Justin Bieber や Michael Jackson、R. Kelly、Usher など、ポップスもしくは R&B シンガーから多大な影響を受けたと公言しています。

ちなみにご紹介した楽曲『None of Your Love』で引用されている『Baby』の権利問題はクリアしていないそうですが、Tjay はこれからも懲りずに Justin Bieber の楽曲を引用していく意向とのことです。いかにもティーンらしい強気さが良いですね。

初のトップ20入り

その後デビューEP『No Comparison』をリリースしたのち、Tjay は、Columbia Records のレーベルメイトであった Polo G の楽曲『Pop Out』に参加します。

この『Pop Out』はリリースされてから約3ヶ月後に Billboard Hot 100において95位で初登場し、さらにその2ヶ月後には同チャートにて11位まで上り詰めました。

Tjay は自身にとって(Polo G にとっても)過去最大のヒットを生み出し、ますます勢いづくこととなります。

デビューアルバムのリリース

Polo G と共にヒット曲を生み出した Tjay は、満を辞してデビューアルバム『True 2 Myself』をリリースします。

キャリア初期のヒット曲から最新曲まで詰め込んだデビューアルバムには、Lil Wayne や Lil Baby、Lil Durk といった大物ラッパーに加え、同郷ニューヨークから Jay Critch や Rileyy Lanez らが参加しています。

Decline (feat. Lil Baby)

アトランタの人気ラッパー Lil Baby を客演に迎えた1曲。ゆったりとした哀愁漂うトラックの上で、Tjay は心の痛みを優しいメロディに乗せて歌います。

Woulda had a cap and gown if Smelly was still around

もし Smelly(※1)が生きていれば、(大学の学位授与式などで着用する)帽子とガウンを持っていたのに

But it’s pain in me, 

心が痛むんだ

thinking about it make me get so angry

思い出すだけで怒りが湧いてくる

(※1) 亡くなった Tjay の仲間の名前。Tjay は Smelly に音楽的なインスピレーションを受けたそうで、自身の楽曲内で度々ネームドロップします。ヒット曲『F.N』でも「I wish my n***a Smelly could’ve seen me lit now (Smelly に今のおれの成功した姿を見て欲しかった)」とラップしています。

Mixed Emotions

アルバム内でも特に際立つ綺麗なメロディラインを奏でる1曲。

I can’t wait to take a picture next to Nicki and Wayne

Nicki Minaj や Lil Wayne と一緒に写真を撮るのが待ちきれないんだ

引用したラインでは、「Nicki Minaj や Lil Wayne といったシーンのトップアーティストと肩を並べるようになった自分」と「同業者というより未だに彼らの1ファンである自分」という2つの側面を上手く表現しています。楽曲をリリースし始めてからわずか2年足らずでスターダムを駆け上がった彼ならではのリリックです。

『Leaked (Remix)』にて Lil Wayne との共演を果たす Tjay

そんな全体を通して甘い歌声で歌い上げる、ポップス或いは R&B 寄りな作風の同アルバムは、初週4.5万枚を売り上げ、Billboard Hot 200にて5位デビューを飾りました。

ニューミックステープ『State of Emergency』

そして Tjay は、明日5月8日にミックステープ『State of Emergency』をリリース予定です。

先日、Don Q や 6ix9ine、A Boogie らにディスを飛ばし、「俺がニューヨークのキングだ」などと豪語する様子も話題となったように、それほど自信のある作品に仕上がっているのではないでしょうか。

「おれこそがNYのキングだ。あの歌ってるヤツ(A Boogie)とか、髪の毛が虹色の裏切り野郎(6ix9ine)はイケてないぜ」と豪語。数日後に「おれがわるかった、昔の Tjay に戻るよ」と謝罪しています。

今回はおさらいとして、ニューミックステープのリードシングルをご紹介したいと思います。

Ice Cold

Demons in my head, 

頭の中に悪魔がいるんだ

I got too many n***as gone

おれは沢山の敵を始末してきた

Kids out here dyin’, 

ここでは多くの子供たちが亡くなり

mama hurt, cryin’ 

母親は傷つき涙を流す

I ain’t even think I’d see eighteen and I ain’t lyin’

無事18歳になれるなんて思ってもなかったよ、嘘はつかない

ストリートに蔓延る犯罪や、人々の命を脅やかす新型コロナウイルスの流行など、地元ニューヨーク(や世界の現状)を「Ice Cold (氷のように冷え切った世界)」と表現した1曲。

自身の心の痛みや、成功してからの生活について言及しながら哀愁たっぷりに歌い上げる彼の姿からは、とても10代とは思えない貫禄を感じます。

ミックステープには、同郷ニューヨーク出身のラッパーたち(故Pop Smoke や Fivio Foreign、Sheff G、Sleepy Hallow など) を客演に迎えた楽曲も収録予定です。

故Pop Smoke との楽曲『War』や『Mannequin』で見られたような、ブルックリンドリルサウンドでスピットする Tjay のラップも聴くことができそうです。

おわりに

いかがだったでしょうか。今回はニューヨーク・サウスブロンクス出身のラッパー Lil Tjay についてまとめてみました。

ストリートで経験した心の痛みや葛藤をメロディに乗せて歌い上げる次世代のポップスター Lil Tjay。そんな彼にますます目が離せない1年となりそうです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

XXS オリジナルプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/a-teen-pop-star-from-new-york/pl.u-WabZp5aUdl0GmpA?l=en

Riku Hirai

シカゴの新しいサウンドを創り出したパイオニア Lil Durk とは

現在のシカゴのヒップホップシーンを牽引し、シカゴ内外の若手たちに強い影響を与え続けている Lil Durk。今週の金曜日には、ニュープロジェクト『Just Cause Y’all Waited 2』のリリースを控えています。そこで今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫りたいと思います。

はじめに

Lil Durk (以下 Durk) は、アルバムやミックステープ、自身が率いるクルーである OTF (Only The Family) のコンピレーションアルバムを含め、19枚ものプロジェクトをリリースしており、本記事で全てを紹介することは極めて困難な試みとなります。ですので、本記事においては「ドリル色の強い Lil Durk」と「メロディアスなスタイルの Lil Durk」という二つのカテゴリに分けることで、彼の魅力を伝えることができたらと考えています。(このカテゴリ分けに関しては「独特なスタイル」の項目で解説しています。)

生い立ちとキャリアの開始

Lil Durk (リル・ダーク) こと Durk Banks は、Chief Keef や Lil Reese などをはじめとする数々のドリルMCを輩出したことでも知られる、イリノイ州シカゴで生まれ育ちました。

彼の父親は、1993年にドラッグの密売によって逮捕され、一時は終身刑を言い渡されることが危惧されていた、生粋のギャングスタです。シカゴ最大のギャングである Gangstar Disciples のメンバーでした。幸いなことに、彼の父親は、昨年の2月に約25年の懲役を終えて自由の身となりました。

晴れて釈放された父親 (右手前) と食事を楽しむ Lil Durk (右奥)

アメリカでもトップクラスに治安が悪いことで知られるシカゴのサウスサイドで生まれ育った Durk は、ギャングの抗争に参加するために在学していた高校を中退しました。そしてその同年、初めての子供を授かったことをきっかけに、ラッパーとして活動していくことを真剣に考え始めました。

独特なスタイル

生まれ育った場所がその聖地であることもあり、Durk はドリルミュージックのカテゴリの中で活動を始めました。不穏なビートの上で暴力的なラップを乗せるのがドリルの一般的なスタイルであり、彼もはじめはそのようなスタイルの楽曲をリリースしていましたが、ある時から新しいジャンルの開拓に力を入れ始めました。

Durk は、ドリルミュージックでは一般的でないメロディアスなフロウを取り入れ始めたです。今では当たり前のように見受けられるスタイルですが、当時はこのようなスタイルでラップをする者はおらず、異端児扱いされたこともあったようです。このような点において、Durk の楽曲は他のシカゴドリルMC である Chief Keef や Lil Reese などと異なっています。

Calboy や Polo G など、現在ではごく一般的に受け入れられているメロディアスなスタイルのラッパーたちが活躍できる基盤を築いたのは、間違いなく Durk の功績だと言えます。

現在では、ほとんどドリルの臭いを感じさせず、メロディアスに振り切った楽曲を中心に制作している彼ですが、時には「俺はドリルミュージックのパイオニアの一人だ!」と言わんばかりの激しい楽曲を世に送り出し続けているところも彼の魅力です。

ドリル色の強い Lil Durk

この章ではまず、彼の音楽の基盤となっている「ドリルミュージック」色の強いスタイルの楽曲を紹介していきます。主に初期にリリースされた『I’m a Hitta』シリーズや、DJ Drama によってホストされた『Signed to the Streets』、Lil Reese とのジョイントミックステープ『Supa Vultures』などのプロジェクトがこのカテゴリに当てはまります。

ドリル色の強い彼のアルバムには、シカゴドリルのパイオニアの一人である Lil Reese をゲストに招いていたり、Chei Keef と数々の名曲を生み出したプロデューサーである Young Chop をプロダクションに招いていたりと、至る所にドリルならではの要素が見受けられます。

L’s Anthem

初期にリリースした2枚目のミックステープ『I’m Still a Hitta』の六曲目に収録されているこちらの楽曲。タイトルは「Lの聖歌」で、その名の通りの楽曲です。「L」とは、Lil Durk が生まれ育った地域ストリート「Normal」 のニックネームである「Lamron」の頭文字であり、逆から読むことでギャングコミュニティー内でコードネーム化されています。

「Lamron」のクルーは Lil Durk が所属する Black Disciples の一部であり、そのモットーは「Life, Love & Loyalty」です。全てが L から始まることから、自らのフッドについてラップした曲を「Lの聖歌」 と名付けています。

Don’t Understand Me

DJ Drama によってホストされたアルバム『Signed to the Streets』に収録されているこちらの楽曲。若かりし頃の北野武に見えなくもない雑な似顔絵が印象的なアルバムカバーを見ての通り、この頃は完全なるドリルミュージックのアーティストです。

トラックも Chief Keef と Lil Reese の名曲『I Don’t Like』と良く似たシカゴドリル特有のサウンドで構成されており、いかにも暴力的な印象を抱く楽曲です。おそらく、最近の Lil Durk の楽曲を中心に聴いていた方達にとっては、そのギャップに驚く方も多いのではないでしょうか。

メロディアスなスタイルの Lil Durk

続いてこちらの章では、彼自信が創り上げたニュージャンルである、メロディックなスタイルの楽曲を中心に紹介していきます。Chance The Rapper や Wale などの、大物ラッパーの楽曲に参加した際も、このスタイルでラップを披露していたこともあり、「Lil Durk と言えばこの綺麗なメロディだよね」というようなイメージをお持ちの方も多いと思います。

Ty Dolla $ign や Young Thug などを招き、メロディアスなフロウを初めて積極的に取り盛り込んだアルバム『Lil Durk 2X』や、シリーズ最新作がアナウンスされたばかりの『Just Cause Y’all Waited』、『Signed to the Streets 3』などが、こちらのカテゴリに当てはまります。

She Just Wanna (feat. Ty Dolla $ign)

Durk にとって、アルバムごとメロディアスなものにスタイルチェンジを行う転機となった 2nd アルバム『Lil Durk 2X』に収録されているこちらの楽曲。Ty Dolla $ign をフックに起用している時点で、明らかにドリルミュージック路線を外れているのがわかります。

しかしこの楽曲は、メロディアスなスタイルに転換しつつある時期に制作されたとはいえ、最近の Durk ほどにメロディアスとは言えず、所々にドリルで培ったフロウが見受けられます。トラックが爽やかになるだけで、ここまで全体の雰囲気が変わるのか、と驚きます。

Durkio Krazy

12枚目のミックステープである『Just Cause Y’all Waited』 に収録されているこちらの楽曲。808 Mafia の古株である DY Krazy によるプロデュースです。浮遊感のある穏やかなイントロが続いた後、DY がドラムスを落とすと同時に心地よいフロウのラップが始まります。DY のクラッシックなトラックの上で、Durk の最高峰のフロウを楽しめるという点では、こちらの楽曲が最も単純明快で、初めての方にはお勧めしやすい一曲なのかもしれません。

Neighborhood Hero

数々の作品の中でも、特にメロディアスな側面の強い『Signed to the Streets 3』に収録されているこちらの楽曲は、Durk 自身が憧れ続けた地元シカゴの「ヒーロー」について敬意を払うと共に、Durk を含む彼らの世代こそが、次世代のヒーローになりつつあるということを歌ったものです。

Man, my city was goin’ crazy, rest in peace to Chino
俺の街は狂ってるよ。安らかに眠れ、Chino。(※1)

And free that n***a Meech ’cause he the hood hero
そして Meech (※2)を檻から出してくれ。彼は俺たちのヒーローだ。

Don’t gotta prove no point, n***a, we know
証明しなくとも、俺たちは知ってる。

And wherever that drama at, we go
何か事件が起こりそうな場所なら、どこへでも向かう。

We the neighborhood heroes
俺たちはフッドのヒーローだ。

(※1) Chino は、元 Durk のマネージャー。2015年に車の中で射殺されて亡くなってしまった。
(※2) Meech とは、シカゴ最大の薬物密輸組織である Black Mafia Family の創始者。2005年に、30年の懲役を言い渡され、現在もなお服役中。ラップを始める前は、ドラッグを売り捌くことがお金を手に入れる唯一の方法であったため、Durk は 彼のことを尊敬している。

Durk にとってのヒーローは曲中にも登場した Meech など、彼よりもひとまわり上の世代のギャングスターたちのようですが、Durk 自身も次の世代(OTF に所属している King Von や、Durk に大きな影響を受けていると思われる Calboy や Lil Zay Osama などの若手ラッパーたちにとって)のヒーローになりつつあります。

Lil Durk の参加曲

自身の名義下において大量の楽曲をリリースしてきた彼ですが、Durk は他のラッパーの楽曲に参加した先でも、その魅力を最大限に発揮するラッパーです。

メロディアスなスタイルが流行し、そのようなラッパーがたくさん上がってきている中で、そのパイオニア的存在としてあらゆる方面のアーティストたちから引っ張りだこになっています。

Chance the Rapper – Slide Around (feat. Lil Durk & Nicki Minaj)

Chance the Rapper が2019年にリリースした 1st アルバム『The Big Day』に収録されているこちらの楽曲。Pi’erre Bourne による極上のトラックの上で、シカゴの Chance と Durk、そしてニューヨークの Nicki Minaj のハーモニーが繰り広げられる奇跡のような一曲です。

『The Big Day』はリリース当時、参加アーティストが明かされておりませんでしたので、アルバムを聴き進めていくまで、誰が参加していて、誰のトラックが使われていて、彼らがどんなラップを繰り広げるのかが全くわからない構成でした。

そんな中で Nicki Minaj が登場し、すでに泣きそうになっていた私たちに追い討ちをかけるように Durk がこのようなラップを始めます。

Back then, I was broke, I can buy it now
あの頃を思い返すと、まじで貧乏だった。でも今はなんでも買えるぜ。

Got a bitch who love me, I can die around
俺を愛してくれる女性とも出会った。彼女とは死ぬまで一緒だ

もはや解説の必要がないほどに、最高以外の何物でもありません。ちなみに二行目の「俺を愛してくれる女性」というのは、Durk の妻である India Royal のことです。Durk は過去に『India』と『India Pt. 2』の2曲を、彼女に捧げる楽曲としてリリースしています。

India Royal (左) と Lil Durk (右)

ちなみに、India の前には DeJ Loaf と交際していた Durk ですが、ご多分に漏れず彼女に捧げる『My Beyoncé』という楽曲もリリースしています(こちらの楽曲に関しては、彼女をゲストに招いています。)。2015年にこちらの楽曲をリリースしたわけですが、この時期にしては珍しく最近の Durk っぽいスタイルで R&B 調の楽曲になっています。

ギャングスタのものとは思えない学園ドラマのワンシーンのようなMVにも注目です

Wale – Break My Heart (My Fault) [feat. Lil Durk]

Wale の6枚目のスタジオアルバム『Wow… That’s Crazy』に収録されているこちらの楽曲。Wale と Durk がそれぞれの失恋について、切なくも透き通ったトラックの上でラップします。副題に 「My Fault」とあるように、二人は自らの過ちによって壊してしまった愛について言及しています。

I only gave you my heart, you ain’t protect it
俺は君に心しか委ねられなかった。君はそれを守れないよね。

Plenty nights I went out with squad
幾度となく、仲間と夜に出歩いてしまった。

You felt neglected
無視されていると君が感じるのも仕方ないよね。

ギャングスタが楽曲の中で恋愛について言及する際、かなりの確率で登場するこの悩み。ストリートでの活動をとるか、一人の女性との間に育んだ愛をとるかの究極の二択を迫られる問題です。悩んだ末に、結局ストリートを選んでしまうのも、お決まりの流れでありギャングスタの生き様というべきでしょうか。

それはともあれ、ドリルシーンから生まれた彼が、こんなにも胸に響く楽曲を世に送り出すと誰が想像したでしょうか。ルーツを知っている人の中に生じるこの心地よい違和感、それこそが彼がファンの心を掴んで離さない理由と言えるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。取り上げたのが中堅アーティストということもあり、紹介すべきことが多く、少し長くなってしまいましたが、Lil Durk の魅力についてお伝えしました。リリース予定の『Just Cause Y’all Waited』、先行曲の雰囲気から見て、今回紹介した二色の Durk を両方感じられるアルバムになるのではと期待しております。

今回紹介した楽曲を中心に構成した XXS Magazine オリジナルのプレイリストもご用意しておりますので、下記リンクから是非お聞きください。それでは。

https://music.apple.com/jp/playlist/lil-durk-the-melodic-new-sound-of-chicago-street-rap/pl.u-8aAVrM6SoLMq970?l=en

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

whoiskosuke

Megan Thee Stallion – テキサスが生んだラップスター

2018年突如として頭角を現し、XXL Freshman Class 選出や、BET Hiphop Awards「Best Mixtape」の受賞など、現行ヒップホップシーンの顔となったラッパー Megan Thee Stallion。デビューアルバム『Good News』のリリースに合わせて、彼女の生い立ちやキャリアについて振り返ってみましょう。

生い立ち

Megan Thee Stallion(メーガン・ザ・スタリオン)こと Megan Pete は、Geto Boys や UGK、チョップド&スクリュードを生み出した DJ Screw らを輩出したヒップホップゆかりの地、テキサス州ヒューストンで生まれ育ちました。

彼女の母親もラッパー「Holly-Wood」として活動していたため、Megan は幼い頃からよくスタジオに同行していたそうです。

Megan と母 Holly。Holly は闘病の末、昨年3月に他界しました。

そんな母親の影響を受け、Megan は14歳でラップを始めました。その才能はラッパーであった母もすぐに認めるほどであり、彼女は Instagram にフリースタイルラップを投稿することで瞬く間にファンベースを確立させていきました。

この頃彼女は、自身の身長と美しさが「Stallion (種馬)」に似ているという理由から、Megan Thee Stallion というステージネームを付けたそうです。

その後彼女は医療経営を学ぶためテキサス・サザン大学に進学し、現在も在学中です。

https://twitter.com/theestallion/status/1201177736967884800?s=20
「今夜締め切りの6ページの研究論文があるのに、撮影もあるのよ。どうなることやら」

人気ラッパーとして活躍する傍ら学業も怠らない姿勢に、彼女の真面目さと努力家な一面が垣間見れます。

キャリア開始から現在まで

 そんな彼女は、2016年にファーストシングル『Like a Stallion』をリリースします。

同年2016年にはミックステープ『Rich Ratchet』、翌年には EP『Make It Hot』をリリース。後者のリード曲『Last Week in H TX』はYoutubeで400万回再生を記録します。

また、同年2017年にはXXXTentacionの『Look At Me』をサンプリングした『Stalli Freestyle』を公開し話題になりました。

そして2018年6月、元メジャーリーガーの Carl Crawford が所有するインディーレーベル 1501 Certified Entertainment から EP『Tina Snow』をリリースします。

ちなみに「Tina Snow」というのは、Megan が尊敬する同郷ヒューストンのラッパー Pimp C の別名「Tony Snow」を捩った彼女自身のオルターエゴで、Pimp C のようなクールなバイブスを持っているそう。

本作収録の『Big Ole Freak』は、彼女にとって初となる Billboard Hot 100 ランクインを果たします。

 その後、彼女は大手メジャーレーベル 300 Entertainment と女性ラッパー初となる契約を果たし、ミックステープ『Fever』をリリースします。

このミックステープは、彼女の二つ目のオルターエゴ「Hot Girl Meg」(気楽で社交的な性格) によるもの。

DaBaby と Juicy J が参加した本作は US Billboard 200 にて初登場10位を記録し、さらには BET Hiphop Awards にて「Best Mixtape」を受賞するなど、好成績を残しました。

そんな『Fever』の成功もあり、彼女は2019年の XXL Freshman Class に選出されます。

このサイファーにて彼女のラップスキルにますます注目が集まり、ここから約1ヶ月後にリリースされた Chance the Rapper のデビューアルバム『The Big Day』にも参加します。

Megan は、スキルフルなラップと優しく歌うフロウを披露しています。

そして、その後リリースされる彼女のニューシングル『Hot Girl Summer (feat. Nicki Minaj & Ty Dolla $ign)』がSNS上でミームを生み、バイラルヒットします。

これらのミームの流行もあり、『Hot Girl Summer』は Billboard Hot 100 にて11位まで登りつめ、MTV Video Music Awards にて「Best Power Anthem」を受賞します。

自身最大のヒットを生んだ彼女は、その翌月に JAY-Z 率いる Roc Nation とマネジメント契約を結びます。

Megan と JAY-Z

Teyana Taylor 手がけるホラーシリーズ『Hottieween』の制作&出演や、メンフィスの人気ラッパー Moneybagg Yo との交際(現在既に破局済み)など、多方面において話題を欠かすことなく一気にスターダムを駆け上がった彼女は、2020年3月に新作 EP『Suga』をリリースしました。

このEPは、彼女の三つ目のオルターエゴ「Suga」(セクシー且つセンシティブな性格で、一つ目のオルターエゴ「Tina Snow」の親友にあたる) による作品。

前述した 1501 Certified Entertainment との確執が原因でニューアルバムのリリースが遅れていた中、突如リリースが決まったこの EP には、Megan のレーベルに対する不満も現れています。

Savage

シンプルなビートと、Pimp C を思わせるスキルフルなラップが特徴的な1曲。反復され耳に残るフックのおかげもあってか Tik Tok においてこの曲を使ったダンスチャレンジが流行し、バイラルヒットしました。

N***as say I taste like sugar, but ain’t s**t sweet

奴らは私のこと砂糖みたいな味って言うけど、私は甘い女じゃない

アウトロのこのフレーズが物語るように、彼女自身がどれだけ「Savage」かを主張する攻撃的な内容の楽曲です。セクシーでセンシティブなリリックが彼女の持ち味なので、是非リリックを追いながら聴いてみてください。

B.I.T.C.H.

続いてご紹介するのは、EP のリードシングル『B.I.C.T.H.』。2PAC の名曲『Ratha Be Ya N***a』を大胆にサンプリングした1曲です。

I’d rather be your B-I-T-C-H (I’d rather keep it real with ya)

私はあなたの「Bitch」でいたい(あなたに正直でありたい)
‘Cause that’s what you gon’ call me when I’m trippin’ anyway

だって私がハイになってるとき、あなたがそう呼ぶから
You know you can’t control me, baby, you need a real one in your life

あなたは私をコントロールできない あなたの人生にはリアルなビッチが必要なんだ
Them bitches ain’t gon’ give it to you right

あんなビッチ共ではダメ

2PAC のライン「I’d rather be ya N-***-A」をそのまま引用したフック。まさに『Ratha Be Ya N***a』を女性目線で書き直したような1曲で、彼女のヒップホップ愛と乙女心を同時に楽しむことができる作品です。

Crying in the Car

The Neptunes(Pharrell Williams & Chad Hugo)プロデュースによる声ネタが印象的なトラックと、オートチューンを効かせた Megan の甘いヴォーカルが印象的な楽曲。

Please don’t give up on me, Lord, Lord

神様、どうか私を見捨てないでください
Promise to keep goin’ hard, hard

頑張り続けることを誓うから
All of them nights that I cried in the car

車の中で泣いた夜もあったけど
All them tears turned into ice on my arms

その涙が、私の腕のジュエリーに変わったの

真面目で努力家な彼女の一面が見られるリリックも最高です。

この EP『Suga』は9曲というボリュームながらも、地元 H-Town 愛溢れる楽曲から大ネタ使いのトラック、売れ線ソングまで、ヒップホップファンにはたまらない傑作に仕上がっています。

おわりに

今回は、本日デビューアルバム『Good News』をリリースした Megan Thee Stallion の生い立ちやキャリア、魅力についてまとめてみました。

もはや「フィメールラッパー」という言葉で一括りにするのはナンセンスと言えるほど、スキルフルなラップやインパクトのあるリリックを届ける魅力的なラッパー Megan Thee Stallion。そんな彼女から今後もますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

ブルックリンドリルの後継者 Fivio Foreign とは

皆さんこんにちは。今回は大ヒット曲『Big Drip』でおなじみの NY・ブルックリンのドリルラッパー Fivio Foreign についてまとめてみようと思います。今週の金曜日(2020/4/24)にニュープロジェクト『800 B.C.』をリリース予定ですので、ご存知の方もそうでない方も彼について予習しておきましょう。

Fivio Foreign ってどんなラッパー?

Fivio Foreign(ファイヴィオ・フォーリン)は、NY・ブルックリン出身のドリルMCです。最近では、Pop Smoke の『Meet The Woo Vol. 2』に参加したり、Tory Lanez や Rich The Kid などと楽曲を発表したことから、知名度は上昇し続けています。

少しマニアックな話になりますが、Fivio Foreign (以下 Fivio) はニューヨークに多数存在するギャングの中で、800 Foreign Side という Woo に分類されるグループに属しています。そして Pop Smoke はというと、こちらも Woo に分類される Flossy 90s に所属。Woo に分類される名称が異なったギャングは、拠点とする地域によって分けられることが多いですが、Woo 全体としてはつながりを持っています。

ニューヨークでは Woo と Cho の二派による対立が激化していますので、Woo のメンバー同士(例えば Fivio Foreign と Pop Smoke)の共演はみられますが、Woo と Cho のメンバー同士のの共演は実現しません。少し話が脱線したので元に戻しましょう。

有名になってからほとんど時間が経っていない彼ですが、ラッパーとしてのキャリアは6年ほど前から続いています。と言いましても、地元ブルックリンのラッパーの楽曲に客演として参加することがほとんどで、自らの名義での楽曲のリリースは全くと言って良いほどありませんでした。

そんな彼が、本格的に楽曲をリリースし始めたのは昨年の2019年です。そんな中、彼がリリースしたデビューEP『Pain and Love』が近年のブルックリンドリルの人気の波とぶつかって、空前のバズを起こします。

1st EP『Pain and Love』

2019年6月5日に Fivio はデビューEP『Pain and Love』をリリースしました。Pop Smoke や Drake との共演も果たしたロンドンのプロデューサー AXL Beats が、収録されている4曲すべてのプロデュースを担当し、近年のドリルミュージック逆輸入の流れを体現したものとなっています。タイトルの『Pain and Love』は、アルバムカバーの通り、彼の両手に刻まれたタトゥーの文字から由来しています。

『Big Drip』

EPの一曲目に収録されているこちらの楽曲は、彼のキャリアを語る上で避けては通れない一曲です。こちらの楽曲が彼の人気を爆発させた奇跡の一曲だと言っても過言ではありません。

彼のセカンドプロジェクト『800 B.C.』には、Lil Baby と Quavo が参加した本曲のリミックスも収録されています。

Pop Smoke と Fivio のスタイルはよく比較対象にされるようですが、前者は低い声でオオカミのようにラップするのに対し、後者は高い声で弾けるようなラップをします。

銃声を真似たアグレッシブなアドリブが曲の随所に散りばめられていますが、彼の場合はアドリブの域を超えて、もはやそれがリリックと化しています。

『It’s Me』

続いて紹介する楽曲はこちら。ブルックリンドリルのカテゴリー内では比較的珍しいゆったりとしたトラックの上で、穏やかな口調でラップしています。主に過去の回想をそのまま歌詞に書き起こしたような内容なのですが、曲調とは裏腹にストリートで生き抜くことの厳しさを生々しくラップしています。

I’m from a small town
俺は小さなまちで育ったんだ

Blocks they wouldn’t walk down
あいつらが歩けないほど危険な地域でな

No drive-bys, we doin’ walk-downs
車からの銃撃はしないぜ、俺らは車から降りて敵を狙い撃

I was dead broke
俺はまじで貧乏だった

Writin’ rhymes where the roaches at
ゴキブリが這い回るような場所でライムを書いていたよ

Mama Lottie knew I was a star before I wrote a rap
俺がラップを書く前から、ママは俺がスターだって知ってた

‘Cause I was always the one gettin’ noticed, but they didn’t notice that
俺は注目されるべきだったのに、他の奴らは俺のヤバさに気付かなかったからな

EPリリース後

Pop Smoke 『Sweetheart (feat. Fivio Foreign)』

EPリリース、『Big Drip』の大ヒット後、彼はブルックリン内外を問わず、数々のビックネームとの共演を果たしました。その中でも特に目立ったものは、ほぼ同時期からブルックリンドリルシーンを台頭してきた Pop Smoke との楽曲『Sweetheart』ではないでしょうか。プロダクションには、 Pusha T や Nicki Minaj との共演で知られるブルックリンのプロデューサーが参加し、ドリルトラックに挑戦しています。

Fivio Foreign & Rich The Kid 『Richer Than Ever』

アトランタの人気ラッパー Rich The Kid と共にリリースしたシングル『Richer Than Ever』です。こちらの楽曲は、『Big Drip』などのプロデュースした AXL Beats で、完全に Fivio の土俵に Rich The Kid を引きずり込んだものとなっています。Rich The Kid も、ブルックリンドリル特有のフロウに挑戦していますが、意外と違和感がなくて不思議な感覚を覚えます。

Tory Lanez『K Lo K (feat. Fivio Foreign)』

カナダ・ブランプトン出身で、IGライブを賑わせている Tory Lanez が Fivio を客演に招いた楽曲です。タイトルの『K Lo K』とはドミニカ共和国でよく使われる「調子はどう?」を意味するスラングで、どことなく異国の香りが漂うトラックとなっています。

プロデュースを担当するのは Tory Lanez と数々の楽曲を制作している E.C Fresco で、メロディーラインは Tory Lanez っぽく、ドラムス(特にハイハット)はドリルミュージックっぽく、2人の音楽スタイルのちょうど中間を行くようなトラックとなっています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。彼がすでにリリースしている楽曲はまだまだ非常に少ないため、本記事で半分以上をカバーできていると思います。

残念なことに、ブルックリンドリルのビッグスター Pop Smoke が今年の2月に亡くなってしまいました。志半ばでブルックリンのストリートに遺された Pop Smoke の想いを、大切に背負ってトップに上り詰めることができるのは、間違いなく彼だと思います。

左 Fivio Foreign と 右 Pop Smoke

そんな彼が、ブルックリンドリルの後継者となってくれるよう願いつつ、金曜日にリリースされるニュープロジェクト『800 B.C.』を楽しみに待ちましょう。

whoiskosuke

Bryson Tiller と巡る、トラップソウルの全て

Trapsoulとは?

まず始めに「Trapsoul」とは、「Trap」と「Soul」から出来ている造語です。

「Trap」

「Trap」とは、重低音を強調したビートにハイハットの連続音が混ざって出来ています。近年ではそこに特徴的なメロディーを持った電子音が乗せられることが多いのですが、いわゆるアトランタ産のヒップホップです。今ではどの地方のラッパーも使うので皆さんかなり聞き馴染みがあるヒップホップジャンルの一つだと思います。

「Soul」

「Soul」とは黒人音楽由来のR&B (リズム&ブルース) から派生したジャンルで、1960年代に確立されたと言われています。特徴としては、ブルースにゴスペルが組み合わさっていることで、ゴスペルのコード進行を基本としています。日本ではブルースとsoulの区別がはっきりしていないので認知していない人が多いことと、DTMの進化によって単純にジャンルの壁が無くなってきているので完璧な定義は難しいとされています。

誰が始めた?

それはズバリ Bryson Tiller です。

彼はケンタッキー州ルイヴィル出身の26歳のシンガーで、彼が2015年にリリースした1stアルバムの名前が『TRAPSOUL』でした。彼のアルバムからこのジャンルが認知され、確立されていきました。

同アルバムは彼の初アルバムにも関わらず、ミリオンヒットを記録し、プラチナディスク入りします。

90s slow jam

彼の特徴は「ソウル」の中でも”90sスロウ・ジャム”と呼ばれるジャンルに近いんです。

90sスロウ・ジャムといえば、90年代ニューヨークの「keith sweat」や同じ時期のシカゴの「R.Kelly」などが有名ですね。彼らの代表曲を一曲ずつ紹介します。

これらの曲を聴いてもらうと分かりますが、かなりゆったりしたビートに心地よいメロディーが流れますね。

こういう、思わず寝そべって聞きたくなるようなゆったりさが後々「ベッドルームR&B」と呼ばれるジャンルを作るんですが、これがBPMの遅いトラップのビートと出会うことで最強の音を作るんですね。

PARTYNEXTDOORの存在

トラップソウルの説明において、よくその生みの親を PARTYNEXTDOOR だと主張する人がいます。

彼は Drake の OVO に最初に参加したアーティストとして有名で、Drake との多くのコラボレーションでも知られています。

ではなぜ彼が起源ではないのか?それはハイハットやトラックとの関係にあります。

彼の出世作である『PARTYNEXTDOOR TWO』 は確かに前衛的な名作ではありました。

例えば、ディスクロージャーの Latch (feat. Sam Smith) のサンプリング曲『Sex On the Beach』などがあったりします。

他にも、エレクトロニック的な独特な音が入っている曲が多くあります。

ただ、完全なトラップソウルと言えるビートは『Recognize (feat. Drake)』と『FWU』ぐらいで、それ以外に特徴的なハイハットが用いられているのは 『Her Way』 の曲中の半分ほどと、『Thirsty』の途中あたり、そして『Muse』のフックぐらいです。

彼はまだ部分的にしかトラップソウルを取り入れておらず、それもおそらくOVOに所属していたことに拠っています。

つまり、このアルバムの革命的なポイントはあくまで、エレクトロニック的音を取り込み、Drake の作り出したメロディアスなトラップ(言うなればソウルトラップ)を部分的に取り入れたソウルであって、Bryson Tiller のトラップソウルの着想元にはなったかもしれませんが、トラップソウルの生みの親とはいえないでしょう。

しかしながら、彼の最新アルバム『PARTYMOBILE』は、ほとんどトラップソウルで構成されていました。

アルバムを通して最も印象に残ったのは、Rihanna を客演に迎えた『BELIEVE IT』です。この曲は Rihanna の良さにもかなり拠っていますが、アプローチがかなりトラップソウル的です。

やはりあくまで、トラップソウルのジャンル的面白さは、トラップとソウルを使いこなせて、その狭間での「ふらつき」を楽しむことにあるのです。

Bryson Tiller オススメ曲

では、最初にトラップソウルの生みの親、Bryson Tiller の1stアルバム『TRAPSOUL』の中から何曲か紹介しようと思います。まずは5曲目の『Don’t』です。

この曲は2014年にシングルとして出して全米ビルボード13位を記録した彼の出世作でいて、リードシングルとなっているんですが、一曲を通して無限のフロウが続く感じがたまらないですね、というかメロディーなんでしょうけど、本当に良い。

次は9曲目の『Rambo』です。これはかなりヒップホップの要素が強く僕は思わずカナダ系のヒップホップ、まるでトリーレーンズのフロウのように感じるんです。

とにかくこの曲を皮切りに、3曲続けてヒップホップ的フロウを見せてくれるんです。やはり、ソウルとヒップホップの狭間を行き来するのがこのトラップソウルの魅力と言っても間違いありません。

そして僕が一番好きな曲『Right My Wrongs』です。初めは優しいピアノのサウンドに気持ちよく乗せるバラード的始まりなんです、そこから少しずつハイハットが入ってフック前には思い重低音がくるんです。

おっ!きたきた!重いのが来るぞと思ったところでフックでまた始まりのような優しい曲調に変わるんです。

この一曲に Bryson Tiller の魅力の全てが詰まっていますね。

Trapsoul のおすすめアーティスト

Bryson Tiller が客演に参加した曲や、彼のアルバム『True to Self』についても触れたいんですが、長くなりすぎても良くないので、そろそろおすすめのトラップソウルアーティストについても触れていきたいと思います。

① dvsn (ディヴィジョン)

彼らはかなり有名で、エレクトロニック的な方面のイメージが強いんですが、実は結構トラップソウル的要素が強い「隠れ最強トラップソウルアーティスト」なんです。

dvsn はトロント出身でドレイクのOVOに所属し、彼の『One Dance』やニッキーミナージュの『Truffle Butter』などを手掛ける大物プロデューサーの Nineteen85 とシンガーの Daniel Daley の二人組で構成されています。

彼らの特徴は、エレクトロ的要素の強い耳に残るビート、効果音の上に乗せる透き通ったネオソウル的なヴォイス、そしてそれらをトラップ的なビートの上で披露することです。

現行のアーティストの中では、Bryson Tiller の正式な継承者であり、このトラップソウルを新たな境地まで連れて行ってくれる人で、彼らが現在の最上に位置すると言っても過言ではありません。

おすすめの一曲目は、1stアルバムの『SEPT. 5TH』に収録されている曲『Do It Well』です。

いかがでしょうか。どこか Bryson Tiller にも似ていますね。

次は『Hallucinations』です。こちらの楽曲は是非ヘッドホンかイヤホンで聞いてください。

始めのところ、もう一度目つぶって聞いてみてください、音が円を描いてるんです。たまらないですね。

さらに近年流行してきている、細かすぎて虫の羽が当たる音のようなハイハットを、聞こえるか聞こえないかぐらいの音で使っています。

また、彼らは最新アルバム『A Muse In Her Feelings』をリリースしました。やはり、彼らのアルバムにハズレはありませんね。(今回に関しては、先行で曲を出しすぎて、少し物足りないと感じた方もいるかもしれませんが)

まずはこのアルバムで最も早く出された先行シングル『Miss Me?』です。

すごく感傷的なトラックではじまるこの曲ですが、初めからいきなり特徴的なハイハットが聞こえてきます。

このトラックの上で、ヒップホップ的な間隔を開けたフローと、フックでの圧倒的な美声による歌唱を繰り広げてくれます。

そして次が Future を客演に迎えた一曲『No Cryin』です。Future のアドリブやバースもさることながら、圧倒的な歌唱とフックの勢いがたまらないですね。

dvsn はどのアルバムもかなり高い完成度となっているので是非とも気になる人は聞いてみてください。

② anders (アンダース)

中国系の血統である彼はカナダのミシサガ出身でトロントで活動中のR&Bシンガーのアンダースです。

実は2014年ぐらいから活動していて、最近では特にトラップソウル的要素を強め、それが功を奏して徐々に知名度を広げています。

アルバム『Twos』より一曲目、『Bad Guy』を紹介します。これは元々リードシングルとして発表されていた曲で、彼の魅力が詰まった一曲です。

③ Kalin White (カリン・ホワイト)

彼はカリフォルニア州北カリフォルニア出身のシンガーで、彼は元々 Kalin and Myles というデュオで活動していて、出会ったその日から楽曲制作を始めるほど息がぴったりでした。

SNSを通して彼らの名前は徐々に広がりましたが、残念ながら Republic Recording から解雇されてしまったことでソロ活動となりました。ただ、一人でもそのヤバさは折り紙つきです。

ではアルバム『Would You Still Be There?』という煽る気満々の名前のアルバムから『Idc Bout the Club, I Just Want You』(クラブ(の女)なんかどうでもいい、ただ君が。) というスイートな題名の一曲をどうぞ。

ちなみに、このフックの部分の、 “Tell your girls they should slide, n****s know the move”の 『slide』というのはあの Calvin Harris の曲からの引用だそうです。

あとがき

どうでしたか? Trapsoul というジャンルも実はまだまだいろんなアーティストがいますし、今となってはそのジャンルを取り入れるアーティストはかなり多くなっています。この記事で興味を持った方は、さらにアップカミングなアーティストを探しても面白いかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今回の記事に出てきた曲をまとめて Trapsoul のプレイリストも作っておりますので気になる人は是非、リンクよりお聴きください。

https://music.apple.com/jp/playlist/trapsoul/pl.u-GgA595zCZ1GAeaY?l=en

Kensho Sakamoto

新時代を切り開く若き天才プロデューサー JetsonMade とは

Oh Lord, Jetson made another one!


現行のUSヒップホップを追っていて、このフレーズを聴いたことがないという方はおそらくいないでしょう。そう、今や彼のビートを耳にしない日はないほど人気爆発中のプロデューサー JetsonMade のプロデューサータグです。今回は、そんな2020年USヒップホップシーンにおける最注目プロデューサーの生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。最後までお読みいただければ幸いです。

生い立ちとキャリア

JetsonMade(以下Jetson)こと Tahj Morgan はサウスカロライナ州コロンビア出身の23歳(1997年生まれ)。比較的恵まれた環境で育ったという彼は、2010年(当時13歳)頃から Garageband を使い楽曲作りを始め、翌年2011年には本格的にトラックメイクを始めました。

しかし彼は高校卒業後、母親の反対により一時音楽活動から離れていた時期がありました。彼の母親は息子に対して大学進学と就職を望んでいたため、Jetson は不服ながらも大学進学を決めたのですが、もちろん長続きすることはなく1セメスターで退学。その1セメスターの終盤に彼にとって大きな転機が訪れることとなります。それが、アトランタのスター 21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加でした。

この参加をきっかけに Jetson は本格的に音楽活動へと復帰します。勢いをつけた彼は DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たします。

DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。DaBaby にも Jetson にとっても自身最大のヒット曲となりました。


2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、彼にとって飛躍の1年となります。

@ Grammy Awards 2020


彼の勢いは2020年に入ってもとどまることを知らず、自身のプロダクションチーム「Spaceboy」の設立や、待望されていた Playboi Carti のニューシングル『@ MEH』のプロデュースに携わるなど、USヒップホップシーンの中核を担うプロデューサーへと成長しました。今後、あらゆるアーティストのアルバムで彼のプロデューサータグを耳にする日は間違いなく近いでしょう。

Jetson の楽曲とその魅力

続いて、Jetson の楽曲をいくつか紹介しながら、彼の魅力に迫ります。

DaBaby『BOP』

DaBaby のセカンドアルバム『KIRK』収録の1曲。Jetson の最大の特徴は、シンセを中心とした耳に残るメロディラインと分かりやすく音階をつけた重く鈍い808(ベース)です。

Jetson の特徴的な808パターン(Genius より)

極端に音数を減らしたり似たようなドラムパターンを多用したりと、差別化を図るのが難しくなってきているトラップシーンにおいて、Jetson ほど一聴して誰のビートか分かるトラックを作るプロデューサーはいないのではないでしょうか。

また、この曲のミュージックビデオにて DaBaby が808のリズムに合わせて腕を振る簡単なダンスを見せるように、TikTok や Triller にてダンスチャレンジが流行しやすいという点も、Jetson の楽曲が拡散されやすい理由の一つでしょう。

Roddy Ricch『Start wit Me (feat. Gunna)』

Roddy Ricch のデビューアルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』収録の1曲。Jetson が好んで使用する笛系のシンセとお馴染みの808ラインが、なんとも彼らしい楽曲です。また彼のビートはハイハットも特徴的で、楽曲によって様々なパターンを使い分けます。この曲ではハイハットで絶妙な間と強弱をつけ、ビートに更なるグルーヴを生み出しています。

I make a lot of different types.

俺は色んなビートを作るんだ

My success come from the simple beat,

俺の成功のルーツはシンプルなビートなんだけど

but when you think about it, when you listen to “Suge,”

DaBaby の『Suge』を聴いた後に

but then turn around and listen to an “Oh My God,”

Lil Keed の『Oh My God』を聴いたら

they totally different beats, totally different sounds.

2つは全く違うビートだろ 全く違うサウンドなんだ

I just use whatever sounds good.

俺は、自分が良いと思ったサウンドなら何でも使うんだ

Whatever goes good in that beat is what I’m gonna use.

ビートに合いそうな音は何でも使うってことだ

I just try to keep my same bounce.

同じバウンスをキープすることを心がけてるよ

The FADER

こう Jetson が語るように、彼のビートはシンプル且つ同じバウンスを保ちながらも、それぞれ個性や特徴を持ったオリジナリティ溢れる楽曲に仕上がっており、これこそが彼の強みの1つなのです。

PG RA『Back to Bali』

Jetson と同郷サウスカロライナ出身のラッパー PG RA のシングル曲。Jetson はトップアーティストと仕事をしながらもなお地元サウスカロライナを大事にする人物で、成功を目指すフッドの若きラッパーたちのプッシュも怠りません。

音数は少ないながらも、不穏なシンセサイザーと80年代のアーケードゲーム音楽のような上ネタを使ったこのビートは、彼の実力が最大限に発揮されたシンプル且つ個性的な楽曲に仕上がっています。

Cz TIGER『Nandeyanen (feat. Jaggla)』

実は Jetson、大阪のラッパー Cz TIGER にも楽曲を提供しており、普段日本語ラップしか聴かないという方でも彼のビートを既に聴いている可能性があります。

US トッププロデューサーの最先端トラップビートに乗る関西弁が新鮮な1曲です。

Playboi Carti『@ MEH』

今週遂にリリースされた Playboi Carti の新曲。Jetson と、彼が率いる Spaceboy 所属の Neeko Baby と Deskhop がプロデュースした1曲で、Lil Uzi Vert『Eternal Atake』感のある神秘的なビートとなっています。今までの Jetson にあまり見られなかったポップで可愛らしいメロディに挑戦しながらも、随所に光るシンセベースや重厚な808でしっかり彼らのサウンドを表現しており、Jetson と Spaceboy による新たな時代の到来を感じさせられます。

まとめ

いかがだったでしょうか。今回は US ヒップホップシーン最注目プロデューサー JetsonMade についてまとめてみました。

Playboi Carti の楽曲への参加を経て、今後更に勢いを増すであろう JetsonMade と Spaceboy のメンバーにますます目が離せなくなりそうです。今回は、そんな彼 Jetson が成功を志す若者に送った応援メッセージで締めくくりたいと思います。

Everybody situation different,

みんな状況が違う

so I can’t necessarily tell you to do this or do that.

だから明確に何をすべきかはアドバイスできないんだ

I just know that what you want to do

でも俺は君が何をしたいのか知ってる

— figure out how you gonna do it and stick to that.

それをどう達成するかを考え、努力し続けるんだ

Do it times ten and it’s gonna work.

10回やり続ければ上手くいくよ

It might not bring you a million dollars.

100万ドルなんてもんじゃない

It might bring you a hundred million dollars.

1億ドルだって夢じゃないんだ

Whatever you want for yourself,

君が何を欲しがったとしても

you can do it if you put a realistic plan together.

現実的な計画を立てれば実現するんだ

Real shit will make it happen.

リアルなものはいつか叶うんだよ

The FADER

最後までお読みいただきありがとうございました。

XXS オリジナルプレイリスト :
https://music.apple.com/jp/playlist/oh-lord-jetson-made-another-one/pl.u-NpXm6mmFmgrABjV?l=en

Riku Hirai

Kid Cudi とエクスペリメンタル・ヒップホップについて

こんにちは。皆さん長い長い、あまりに長い
quarantine にお疲れのことだとは思いますが、今日はそんな気怠さを吹っ飛ばすような記事を書いていきたいと思います。

タイトル通り、今回はエレクトロ的なヒップホップ、いわゆるエクスペリメンタル・ヒップホップについて書いていきます。

皆さん、エレクトロっぽいヒップホップアーティストと言われると誰が頭に思い浮かぶでしょうか?

やはり、JPEGMAFIA でしょうか。それとも古参な方は Death Grips などを思い浮かべるのでしょうか?

まず最初に、この記事はこの両者で比べると、 JPEGMAFIA のようなタイプのアーティストをピックアップしていきます。

両者の違いは単純に現代の「謂わゆるヒップホップ」により近いかどうかです。

謂わゆると言われても少し難しいかもしれませんので簡単に説明すると、「聞いてみて単純に今っぽいか、つまり、トラップ的雰囲気を有するアーティスト」となります。

そして、JPEGMAFIA のようなタイプのアーティストはトラップ的雰囲気を持っているだけあって、ある種の特徴があります。

それはハイハットです。なので今回はハイハットを中心に巡っていきたいと思います。

さあ、ヒップホップからエレクトロへの緩やかな旅に出かけましょう。

Kid Cudi

若い世代の人にとっては、Playboi Carti と Young Nudy による未公開曲『Kid Cudi (Pissy Pumper) 』によって彼を思い起こすかもしれません。

(Rolling Loud Bay Area 2019 でのライブの様子)

この人こそ、未公開でありながらハックされ、Spotify の US viral 50 chart にて一位を記録したあの名曲のタイトルの人物なのです。

そして、まさしくこの人は、今回の記事でとりあげるエクスペリメンタル・ヒップホップ(特に近年の)というジャンルの地位を押し上げた人でもあるのです。

この後に出てくる JPEGMAFIA・NNAMDÏ に通じるある種の特徴はこの人から始まったものともいえます(この人も元を辿れば、カニエ・ウエストからの圧倒的影響を受けているわけですが、このジャンルを形作り、押し上げた張本人として、Kid Cudi を捉えることにします)。

そして昨日、2年ぶりとなるシングル『Leader of the Delinquents』をリリースしたばかりの彼なのですが、まずは軽く紹介をします。

Kid Cudi こと Scott Ramon Seguro Mescudi はカニエウエストとの共作で知られるラッパー・インストメーカーです。

彼は2003年頃から活動していますが、5年間は大して陽の目を浴びることはありませんでした。

転機が起きたのは2008年。その理由は一年後にリリースされるアルバム『Man On the Moon: The End of Day』の先行シングルとなる『Day ‘n’ Nite』をリリースしたことです。

この曲は時代的にはまだトラップ黎明期に出された曲だと言えますが、フックの場面では今のヒップホップを形作る特徴的なハイハットの面影を感じることができます。

しかし、彼のハイハットの特徴は、突発的であることです。彼は一般的とされる、「継続的なハイハット」を好まず、断絶のイメージを保ったまま、トラックにハイハットを落としこんでいきます。

つまり、彼の曲はトラップとは似ていながら、非なるもの、いわば「醜いアヒルの子」的な立ち位置のハイハットを使っているのです。(全然醜くはありませんが、要するに同じ要素から生まれながらも、別なものへと派生していったということです)

そうして、Pi’erre Bourne 的な浮遊感のあるトラックとも言い換えることができるこの曲はバイラルヒットとなります。

そしてカニエ・ウエストの目にとまり、見事に GOOD MUSIC との契約にまでこぎつけ、彼はスター街道を登って行きます。

では、彼の最初のアルバム、『Man On the Moon: The End of Day』の曲から、2曲ほど紹介いたします。

『Man On the Moon: The End of Day』

『In My Dreams』

一曲目で早速、これがヒップホップなのか?といってしまいそうになるほどです。

そこにハイハットの姿はなく、ただゆったりとした彼の電子的想世界が姿を表します。

『Soundtrack 2 My Life』

先ほどとはうって変わった、アップテンポなトラックの上でも彼はバースを軽快にスピットしてしまいます。

この曲では、かなりKanye West の影響が色濃いことを感じることができると思います。特に初期のカニエにおいて顕著であった、ゆったりとしたラップ・歯切れと押韻の際の強弱などが見てとれます。

ここまで聞けば、Kid Cudi の特殊さにはみなさん気づけたことだろうと思います。

エレクトロとヒップホップのバランスで言えば、ループの単純さなどの点で、まだヒップホップ寄りだと捉えられる彼の楽曲ですが、このアルバム、及び彼の存在はその後の現代的エクスペリメンタル・ヒップホップに圧倒的な影響を及ぼすこととなります。

JPEGMAFIA

続いて、ルイジアナ出身の29歳でPeggyの愛称で知られるJPEGMAFIAについてです。

14歳から音楽を作り続けていた彼は、実は超インテリな人物で、インスト音楽を作り続ける傍ら、ジャーナリズムの研究で大学院まで卒業しているのです。

そんな彼は、一度空軍に所属し、退役した経験から『Veteran』(日本語で退役軍人の意味)をリリースし、世間から圧倒的な評価を得ました。

このアルバムの先行シングルでもある2017年にリリースされた『Baby, I’m Bleeding』のヒットにより、彼は、Kid Cudi が作り出した風潮を破壊し、再生させた蚊の如く、ヒップホップを混沌としたエレクトロの世界へと誘ってしまいます。

「エアエアエア」というワードが一曲の中を密に駆け巡り、その上でラップをかますという何とも言い難い凄みが詰まった一曲ですね。

それでは、彼の原点ともいえるアルバム『Black Ben Carson』から何曲かを引用し、彼がこのジャンルにおいて何を変えてしまったのかを解説していきましょう。

『Black Ben Carson』

『You Think You Know』

美しいトラックではじまり、美しいトラックで終わるので、中抜きしてしえばただの美しい曲で終わるであろうこの曲。

しかし、序盤で転調が起こり、暗澹とした重いトラックが突然姿を表します。

そしてこの曲はトラップ的と言われる特徴的なハイハットを使っているように感じます。が、その音は完全に他の環境音(犬の叫び声を鈍く暗くしたような音など)にかき消され、居場所を失っているようにさえ感じます。

このようなハイハットの断絶的特徴はタイトル曲『Black Ben Carson』など、その他の曲でも多々見られます。彼の音楽はトラップと似ていながらも非なる場所に位置しているのです。

『Black Ben Carson』

ここで、「JPEGMAFIAはKid Cudi の影響など受けていない」と主張する方々に対する根拠として、一曲お聞かせいたします。

彼はいよいよKid Cudi を堂々と曲名に使ってしまうのです。

『This That Shit Kid Cudi Coulda Been』

そして、Peanut Butter Thug を客演に呼んだ『Plastic』においては、もはや風船が割れたような効果音がハイハットの代わりを担います。

やはり、トラップ的なBPM に属しながらも そこからはかけ離れた Anti Trap 的なビート(ハイハット)が彼の特徴となっており、彼の台頭によって、エクスペリメンタル・ヒップホップはカオスで、よりエクスペリメンタルな方向へと向かって行きます。

そして現在、その特徴的なハイハット・およびトラックは NNAMDÏ の出現により、最終的な境地へとたどりつくこととなるのです…

NNAMDÏ

Nnamdi Ogbonnaya こと NNAMDÏは Sen Morimoto との共演でも知られるエクスペリメンタル・ヒップホップを原点とするアーティストです。

彼はJPEGMAFIA によって押し進められたエクスペリメンタル性をさらに深淵へと押し進めてしまいます。

シカゴを拠点とする30歳の彼は周囲、つまりは「対面する世界」そのものを音に変えてしまうのです。

その一例として、彼の最新アルバム『BRAT』から、一曲をご紹介したいと思います。

『BRAT』

『Salut』

これは『BPAT』の最後の曲『Salut』です。リヴァーブの効いていない一音から始まり、まるでおろしたての革靴で乾いた地面を丁寧にたたくように歩いているかのような音を基調として一曲は継続していきます。

ここまでは環境音を取り入れたごく一般的な曲に過ぎないと思うかもしれません。

しかし、転換点はその後の30秒頃、通常なら特徴的なハイハットあたりが入ってくるであろうところなのです。

ある物=者がハイハットの代わりをかって出るのです。鳥です。正確には鳥の囀りです。

彼はついに鳥の囀りをハイハットにし、まるで穏やかな日曜日を思わせるトラックと共に、いよいよ彼のヒップホップは「世界そのものを表象してしまう」のです。

また、一曲目の『Flowers to My Demons』(悪魔に花束を)から『Gimme Gimme』(早く、それを)へのあまりに自然すぎる曲の連なりには驚きを隠せません。

彼は、エクスペリメンタル・ヒップホップでは困難とされてきた、継続的な音の移り変わりを可能にしてしまうのです。

世界そのものを音に変えてしまえる彼ならば、すべての音は連関しあうものであるのかもしれません。

最後にハイハットの変遷の最たる例として5曲目の『Wasted』(ちなみに、このPVには Sen Morimotoがディレクターとして関わっており、とても素敵な世界観を醸し出しています…)を聞いてもらってこの記事は終わりにしたいと思います。

最先端のエクスペリメンタル・ヒップホップにおいて、のべつハイハットはトラックの中で最も裏側に位置する、振動のような弱すぎる地鳴り音となって現れます。

『Wasted』

Kensho Sakamoto

デトロイトの暴れん坊 42 Dugg って?

皆さんこんにちは。最近では Sada Baby や Teejayx6 など、デトロイトから勢いのある若手が増えてきている印象ですが、今回はここ数ヶ月で爆発的に人気を博し始めている、デトロイトの暴れん坊 42 Dugg についての記事です。

2020年の3月に3枚目のミックステープ『Young & Turnt, Vol. 2』をリリースしたばかりだったり、Lil Baby のアルバム『My Turn』に参加したりと、大波に乗っている彼を是非この機会にお見知り置き下さい。

42 Dugg ってどんなラッパー?

42 Dugg (フォートゥー・ドゥグ) は、デトロイト出身の26歳。なんと彼は、15歳の頃から22歳になるまでの約6年間を獄中で過ごしました。小さな部屋の中では、手持ち無沙汰を極めていたようで、暇をつぶすためにラップの歌詞を書き始めたことが、彼のキャリアの始まりです。

晴れて自由の身となった2017年頃から本格的に楽曲制作に取りかかり始め、ストリートでの体験を鮮明にラップするスタイルは、徐々に世間の注目を集めていきました。

彼の努力がストリートからの支持を得始めたところで、彼の楽曲は Lil Baby の目にとまりました。それをきっかけに Lil Baby の 4PF (4 Pockets Full) と Yo Gotti の CMG との契約に成功しました。

左から 42 Dugg、Yo Gotti、Lil Baby

彼の特徴は、いかにもやんちゃそうな声で勢いよくラップするスタイルや、Kodak Black などを彷彿とさせるねっとりとしたラップです。ほとんど全曲で聞くことのできるトンビの泣き声のような口笛のアドリブにも注目です。(これをアドリブと分類するか、効果音と分類するかの問題はいったん置いておきます。)

1st ミックステープ 『11241 Wayburn』

42 Dugg は、2018年に初めてミックステープ『11241 Wayburn』をリリースしました。デトロイトのローカルクルー Team Eastside より、2018年に射殺されてしまった Team Eastside Snoop が参加していたりと、デトロイトのG好きな方にはおすすめのミクステとなっています。

三曲目に収録されている『Never』という楽曲は、Dugg 自身が選ぶ「最も過小評価されている曲」だそうです。アーティストの自己評価と、世間からの評価には常に多少のズレが生じるようです。

ちなみにアルバムタイトルの『11241 Wayburn』とは彼の生まれた実家の住所です。残念ながら、彼の生まれ育った実家はすでに解体されており、その姿を見ることができません。しかし、土地が売りに出されていますので、彼のことが好きでたまらない方は是非ご購入を検討下さい。(Google Map 上でオレンジの杭に「11241」と記されているのも確認できます。)

2nd ミックステープ『Young and Turnt』

2019年の3月15日に2枚目のミックステープ『Young and Turnt』がリリースされました。4PF と CMG 加入後、初めてリリースされたミックステープということもあり、以前のものとは比べ物にならないほど、参加アーティストが豪華になっています。

所属している二つのレーベルの長である Lil Baby と Yo Gotti はもちろんのこと、地元デトロイトから Tee Grizzley、CMG から Blac Youngsta などが参加しています。プロダクションにも、Tee Grizzley と数多くの楽曲を作成したことでも有名な、デトロイトの Helluva Beats などが参加しています。

中でも注目の楽曲は、所属する CMG のボスである Yo Gotti を迎えたYou Da Oneです。噛み付くようなやんちゃなラップをかます 42 Dugg が子だとしたら、落ち着いた口調で淡々とバースを蹴る Yo Gotti は威厳のある父親というところでしょうか。

単に Yo Gotti が一区切りのバースでラップするだけでなく、Tee Grizzley と Lil Yachty の『From the D to the A』を思い出させるような、2人交互にバースを蹴っていく構成になっているところも見所です。 Tee Grizzley もデトロイトなので少しは影響を受けているのかもしれません。

こちらの楽曲も Tee Grizzley と Lil Yachty が交互にラップしていく構成になっています。曲が進むごとにどんどん本気になっていく2人の勢いに注目です。

3rd ミックステープ『Young & Turnt, Vol. 2』

2枚目のミクステから約一年のインターバルを経て、2020年の3月に待望の新作『Young & Turnt, Vol. 2』 をリリースしました。2枚目の続編という立ち位置のミクステですが、アルバムタイトルの表記は「and」から「&」へとマイナーチェンジがなされています。

引き続き Lil Baby と Yo Gotti に加え、前作にも参加しており Team Eastside のメンバーである Babyface Ray も参加しています。プロダクションには Helluva Beats はもちろんのこと、808 Mafia のボス Southside が新しく参加しています。4PF に属しているからこそ実現したコラボですね。

今回ご紹介したいのは、7曲目に収録されている『Hard Times』という楽曲です。先行シングルとして、ミクステより一足先にリリースされていたものですが、彼にとっては比較的珍しいメロディアスなフロウで、全体的に希望に満ち溢れたバイブスが特徴的な一曲です。

6年間の獄中生活を経て、一瞬にして人気ラッパーに成り上がった彼だからこそ書くことのできるリリックを、フックの一行目から披露してくれます。

Hard times don’t last
厳しい時期は、そう長く続かないぜ

感染症による影響で暗いムードが漂う私たちにとっても、この一行は最高のメッセージであり、彼の発する一言によって分厚い雲の隙間から希望の光が差し込んでくるような気もします。やはり音楽の存在は私たち人類にとって偉大なものだということに改めて気づかされる、そんな一曲でした。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はデトロイトのやんちゃ小僧 42 Dugg についての記事でした。デトロイトのラッパーや 4PF、CMG 周辺のラッパーとのコラボもこれから増えてくると予想されますので、彼の名前を見かけたら積極的に聞いてみることをお勧めします。すでに次のミクステが楽しみで仕方ありません。

whoiskosuke

新鋭プロデューサー集団 Working On Dying って?

皆さんこんにちは。少し前に Lil Uzi Vert が『Eternal Atake』をリリースしましたが、このアルバムの制作において欠かせない存在となったプロデューサー集団 Working On Dying をご存知でしょうか。

なんと彼ら、『Eternal Atake (Deluxe) – LUV vs. The World 2』に収録されている32 曲中、14 曲もプロデュースした強者集団なのです。今回はそんな彼ら Working On Dying についての記事です。

Working On Dying って?

Working On Dying (以下WOD)とは、Lil Uzi の地元でもあるフィラデルフィアを拠点に活動するプロダクション・コレクティブで、Brandon Finessin、Oogie Mane、F1lthy などのメンバーで構成されています。

彼らは、Lil Peep 率いる Gothboiclique のメンバーである Lil Tracy や、13歳で XXXTENTACION とともにヒット曲『$$$』をリリースした Matt OX などのプロデュースに参加したり、ビートを提供したりもしています。

左から Oogie Mane、Matt OX、Brandon Finessin、右後ろが F1lthy

彼らの作るトラックの特徴は、

①エモ

②アニメモチーフ

③近未来的

の3つで、時にはそれぞれの要素を融合して全く新しいジャンルを作り出してしまうこともあります。

『Matt OX – Overwhelming』

この曲は ②アニメモチーフと ③近未来的 の二つの要素の融合といった具合でしょうか。歪んだシンセサイザーのようなメロディの上にハード目なトラップビートが特徴的です。

日本語のサンプリングから幕開けするこちらの楽曲、これも実は WOD の OogieMane によるプロデュースです。Oogie Mane は元々こちらの日本語プロデューサータグ(NARUTO三話のサスケとサクラのやりとり)を使用していました。しかし権利上の問題もあり、この楽曲以降に制作したものに関しては、曲中のフレーズ『Oogie Mane he killed it』を抜き取り、プロデューサータグとしています。

Lil Uzi による『Eternal Atake』のデラックスで一曲目に収録された『Myron』も Oogie Mane によるもので、初めに Matt OX の声が聴こえて驚いたという方も多いのではないでしょうか。

ちなみに、WOD のグループタグは、こちらの楽曲でも10秒あたりで使用されている女性の声で、『I’m Working on Dying』です。

『Quando Rondo – Dope Boy Dreams』

先ほど WOD のトラックの特徴を3つ挙げましたが、彼らにはちゃんとクラッシックなトラックを作る能力も備わっています(無敵)。

Lil Uzi の EA では、近未来的でクセの強いビートが多かったため、「WODは変なビートを作る集団だ」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、それだけじゃないんだよ!と、声を大にしてここで言っておきます。

お聞きいただきました楽曲は Quando Rondo による『Dope Boy Dreams』で、Brandon Finessin によるプロデュースです。「WOD と Quando Rondo って意外!」と思った方も多いかもしれませんね。

ちなみに Brandon Finessin のプロデューサータグは、フックが始まる直前に挿入されている「Ay Brandon Why You Do Dat!」です。

Eternal Atake と Working on Dying

冒頭に32 曲中14 曲プロデュースに参加と書きましたが、これは紛れもない事実です。新しい領域の音楽を創造しつつ、しっかりと地元の若手をフックアップしている Lil Uzi にも非常に好感が持てます。

『Lil Uzi Vert – Futsal Shuffle 2020』

まず初めは、みんな大好き『Futsal Shuffle 2020』です。こちらの楽曲も実は Brandon Finessin がプロダクションに参加しています。初めて聴いたときは「これはHipHopなの?」と困惑したほど、ネクストレベルに進んでしまっているトラックです。

かなり難易度の高いダンスチャレンジと共に、2019年の末にリリースされ、彼の思惑通りインターネット上には彼のダンスを真似する動画が溢れかえりました。

リリース前のプロモーション動画においては確認できた Brandon Finessin のプロデューサータグですが、リリースされた公式な音源からは消されてしまっていました。

『Lil Uzi Vert – I’m Sorry』

Brandon Finessin がプロダクションに参加。こちらは ①エモ と ②近未来的 な要素をミックスしたようなトラックです。Lil Uzi の切ない歌声とマッチしていて、つい繰り返し聴いてしまいます。

ちなみに『I’m Sorry』と、先ほどの『Futsal Shuffle 2020』 には Starboy というプロデューサーも Brandon と共に参加しています。カービィのタトゥーを顔面に入れており、なかなかパンチのある人物です。実は彼は、DaBaby の BOP なんかにも参加しており、注目に値する1人なのですが、彼は WOD に所属していないので、また機会があれば紹介します。

Starboy

『Lil Uzi Vert – Celebration Station』

こちらの楽曲も Brandon Finessin が参加。疾走感のある宇宙系のトラックです。ちなみに終始バックで流れている女性のコーラスは、かの有名な世界の歌姫 Ariana Grande です。彼女のアルバム『Sweetener』のイントロにあたる楽曲『raindrops (an angel cried)』をサンプリングしています。

WOD が参加したその他の作品

『Bladee – Working on Dying』

Yung Lean によるコレクティブ YEAR0001 に属するラッパー Bladee のミックステープです。プロジェクトタイトルからお察しだと思いますが、全曲 WOD によるプロデュースです。OogieMane や Blandon Finessin はもちろん、今まで取り上げなかったメンバー F1LTHY や Forza も参加しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。 Eternal Atake がリリースされたことによって段違いに注目度が上がった Working On Dying。これからはどんなラッパーたちと、どんな新しい音楽を創り出してくれるのでしょうか。とても楽しみです。

whoiskosuke

アトランタ Zone 6 の新星 Yung Mal って?

みなさんこんにちは。今回はアトランタのソリッドなラッパー Yung Mal についての記事になります。

Yung Mal って誰?となっているそこのあなた、まだ遅くありません。先月にニュープロジェクト『6 Rings』をリリースしかなり上がってきている彼を、これを機にチェックしてみてください。

生まれはニューオーリンズですが、2008年にアトランタの Zone 6 に移り住みました。移住先のアトランタ Zone 6 の大先輩 Gucci Mane 率いるレーベル 1017 Eskimo Records や Alamo Records と契約しています。

Mal は Lil Quill という同郷出身のラッパーと、ヒップホップデュオ Yung Mal & Lil Quill の 1/2 としての活動に重きを置いていましたが、昨年ミックステープ『Iceburg』をリリースしたタイミングからソロでの活動にも力を入れているようです。

左 : Yung Mal  右 : Lil Quill

Lil Quill とともにリリースしたミックステープも良作揃いなので、ぜひ紹介したいのですが、今回は Yung Mal のみに絞って紹介しようと思います。(Lil Quill についてはまた後日)

1st ミックステープ『Iceburg』

『Iceburg』は Yung Mal による初めてのソロミックステープです。デュオ時代に蓄積したスキルとコネクションを最大限に活かし、かなり豪華な良作となっています。

Gucci Mane との楽曲に Zaytoven がプロダクションに参加していたり、Gunna との楽曲に Turbo が参加していたりと、ラッパー客演に呼ぶだけでなく、そのラッパーの周辺人物も積極的に巻き込んでいて、聴いていてかなり楽しいです。

『#’s』

まず初めにご紹介するのは『#’s』という楽曲。読みは『Numbers』で、つまるところのギャングスタ版数え歌です。歌詞の各行に1から順に数詞を折り込んでラップするというもの。

面白いのは、ただ数字を羅列するだけでなく下記のようにギャングスタスラングや、ワードプレイを盛り込んで淡々とラップしていくところです。

I done got rich, I’m still in the six
俺は金持ちになったけど、いまだに Zone 6 にいる。

Yung Mal が活動の拠点としているアトランタのエリア、Zone 6 の「6」

They talkin’ plates, we already ate
飯のことか?俺らはもう食っちまったぜ(大量のマリファナのことか?もう全部吸っちまったぜ)

「8 (eight)」と同じ発音の単語で、「eat」の過去形である「ate」を使ったワードプレイ

Don’t fuck with 12, I’m never gon’ snitch
警察の相手はしないぜ。俺は絶対裏切らない。

「12」は警察を意味するスラング

『Action (feat. Pi’erre Bourne & Lil Gotit)』

ここ数年において若手プロデューサーの頂点に立ち続けている Pi’erre Bourne と、 Mal と同じく Alamo に所属するラッパー Lil Gotit を招いたこちらの楽曲。

Pi’erre Bourne による琴のような音色が盛り込まれた中華ビートがなんとも言えない奇怪さを醸し出しています。そしてこちらの楽曲には、Pi’erre Bourne も自身のビートの上でラップに参加しています。

余談ですが、あちこちに挿入されている Pi’erre Bourne の最新プロデューサータグ「よ〜ぴえ〜」は、こちらの楽曲で初めて使用されました。

2nd ミックステープ『6 Rings』

2020年の3月、彼は2枚目のミックステープ『6 Rings』をリリースしました。

収録曲12曲の全ての楽曲が プロデューサーコレクティブ 808 Mafia の Pyrex Whippa によってプロデュースされています。

少し脱線しますが、Pyrex Whippa について少しだけ。彼は先述の通り 808 Mafia に所属しているプロデューサーです。そのため、Southside や DY Krazy を彷彿とさせる自由自在にハイハットを操った特徴的なビートを製作します。J. Cole 率いるDreamville のプロジェクト『Revenge of the Dreamers lll』にも参加したことから、彼の実力が認められていることが良く分かります。

ちなみに、Pyrex Whippa のプロデューサータグ「Zone 6 n****, Pyrex Whippa (Pyrex!)」は、21 Savage と Offset、Metro Boomin のジョイントアルバムである『Without Warning』に収録されている『Disrespectful』の一節を取ってきたものです。タグの声が 21 と Offset の時点で勝ち確定。

『Cocaine Freestyle』

アルバム1曲目に収録されているこの楽曲。Yung Mal にしては比較的珍しい勢いのある早口ラップを披露しています。タイトル通りフリースタイルなので、フックやブリッジなどは一切なく、イントロ的な役割を果たしています。Pyrex Whippa の変態ハイハットビートにも要注目です。

『100 Missed Calls』

成功を手にし有名になった結果、朝起きた時に100件の不在着信がたまってるよ。という嘆きから始まるこの楽曲。富も名声も手に入れた彼ならではの挑発的なリリックが散りばめられています。

Racks that talk
金が喋りだす

Every account, every stash getting filled
どの口座も金庫も、もうパンパンだよ

Have you ever seen a hundred thou-blue hunid Bill’s (huh?)
お前は10万ドルの札束を見たことがあんのか?

『Shut Up (feat. Lil Keed & Lil Gotit)』

Pyrex Whippa のスローなビートに、ロウキーなラップが怪しげな一曲。風邪のひき始めなのか、Lil Keed の鼻声ラップや、Lil Gotit の極端に言葉数が少ないバースにも注目です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。アトランタのソリッドなラッパー Yung Mal のご紹介でした。イケてる人は聴いている、聴いてる人はイケている、リアルなラッパーでした。それでは、また次回!

今回紹介した Yung Mal による二枚のミックステープはこちらから聴くことができます。↓

whoiskosuke

シカゴの若手ラッパー Polo G とは

みなさんこんにちは。今回は、『Pop Out』のメガヒットでお馴染み、シカゴ出身の要注目ラッパー Polo G についての記事です。彼の生い立ちやキャリアに触れながら、簡単にご紹介していこうと思いますので、ぜひご覧ください。

生い立ち

Polo G こと、Taurus Tremani Bartlett は、シカゴ出身の21歳(1998年1月6日生まれ)。Taurus は歴史的な建造物が多く残るシカゴの北部で、両親と3人のきょうだいと共に生まれ育ちました。

シカゴの中では治安がいい方の地域ですが、いかんせん犯罪の多いシカゴの街の一つですので、彼の楽曲の中には、彼が成長とともに目撃してきたリアルなストリート事情が描かれていたりもします。

キャリア

現在、インスタグラムにて300万人のフォロワーを抱える彼ですが、2018年の初旬までは、誰も彼のことを知りませんでした。2016年から楽曲の作成は開始していましたが、初めの一年はヒット作を生み出すことが出来なかったようです。

しかし、そんな彼が2018年の後半にリリースした楽曲『Finer Things』が予想外の大ヒットを記録。その波を逃すまいと続けてリリースしたのが、『Battle Cry』と、Lil Tjayとの楽曲『Pop Out』でした。この3枚のシングルが彼の人生を180° 転換させるきっかけとなったのです。

左 : Lil Tjay と 右 : Polo G

スタイル

彼の楽曲のスタイルは、ドリルミュージックとメロディックの融合です。後々紹介しますが、彼は G Herbo などにインスパイアされたであろう激しい楽曲や、Lil Durk やなどに影響を受けたと思われるメロディックな楽曲の両方を制作します。そして、時にはその二つのジャンルをミックスすることも。初心者には取っ付きにくいジャンルである「ドリルミュージック」ですが、彼の音楽ならチャートの上位にのぼってくるのも納得です。

デビューアルバム『Die a Legend』

2019年6月に彼は Columbia Records よりデビューアルバム『Die a Legend』をリリースしました。

こちらのアルバムは、犯罪や抗争などの犠牲となってしまった、彼の幼馴染や古くからの友達、また彼らと共有した大切な思い出に名誉を与えるために制作されました。

タイトルの『Die a Legend』は「伝説になって死ぬ」という意味で、

①「亡くなった彼の仲間は、彼の中で伝説として永遠に生き続ける」

という想いと、

②「亡くなってしまった仲間の為にも、自分自身が伝説となってから死ぬ」

という決意表明的な想いが込められていると思われます。

今回はこちらのアルバムの中から、日本語の記事になっていない(またはそのような記事が少ない)楽曲について紹介していこうと思います。

『Die a Legend』のカバーアート。
彼を取り囲むように、亡くなった仲間たちの写真がデザインされている。

『Through da Storm』

こちらの楽曲では、彼の地元であるシカゴのストリートで経験した悲しい過去を思い返しながら、家族に対する謝罪の気持ち、そしてその苦境を乗り越えていく自身の姿をラップしています。

https://www.youtube.com/watch?v=cgMgoUmHqiw

Hey big brother, it’s me, Leia
ねぇお兄ちゃん、私、レイアだよ。

Remember at the old house I said you was gonna be a big star one day?
古い家で私が「いつかお兄ちゃんはビッグスターになるよ」って言った日のこと覚えてる?

I’m so proud of you
本当に誇りに思ってるよ。

Mmh, mmh, mmh, Polo G Live in the flesh
Polo G、望むままに生きるのよ

小さい女の子のセリフから始まるこちらの楽曲ですが、この声の正体は彼の実妹のレイアちゃんです。2019年の Rolling Loud では、レイアちゃん本人がステージに上がり、生声でイントロを披露しました。

Know my grandma still with me, when it get cold, I feel your spirit
おばあちゃんは今も俺のそばに居る。寒気がした時に彼女の気配を感じるんだ。

Talkin’ to my lil’ sister, phone calls through Securus
刑務所の中から、Securus の電話を通して妹と話す ※1

Walk in court in them shackles, see my mama, her eyes tearin’
手錠をされたまま法廷を歩いて、泣いている母親に会う。

Tryna work towards these blessings but the devil keep interfering
神の恵みに向かって努力するけど、悪魔がそれを邪魔するんだ

※1 Securus とは、アメリカの刑務所で採用されているオンライン面会システム

『Deep Wounds』

こちらの楽曲は、彼が幼少期にストリートで経験した悲劇の数々について、そしてその中で生まれた彼なりの決意についてラップしています。

https://www.youtube.com/watch?v=GIDTSzFSexM

We ain’t never duckin’ beef, bitch, we not vegan
俺たちはビーフを避けないぜ ビーガンじゃないからな

みなさんご存知の通り「Beef」という言葉には、一般的な「牛肉」という意味と、「喧嘩」というスラング的な意味があります。お肉を食べることを避けるビーガンのルールと、闘争を避けることができないギャングスタのルールを、巧みなワードプレイに乗せてラップしています。

I miss Mike Durb, I won’t forget the things you used to say ※2
恋しいよ、Mike Durb。あなたが言っていたことは忘れない。

My friends got killed on the same block where we used to play
よく遊んでいた場所で、おれの仲間たちは殺されたんだ。

I know that death come unexpected, you can’t choose a day
死はいつ訪れるか分からないし、その日を選ぶことはできない。

I swear I pop so many pills, shit got me losin’ weight
薬をたくさん飲んで、どんどん痩せていっちまってる。

※2 Mike Durb は彼の叔父の名前。本曲を制作していた頃に交通事故で亡くなっている。

ここでは、大切な仲間や家族を失った経験について言及しています。Genius のインタビューにて「みんな、自分の家族に限ってはすぐに死なないと信じてる。でも実際に次に死ぬ人間は、予想もしていなかった身近な存在なんだよ。」とコメントしています。彼の場合もこのような悲劇を経験するまでは、身近な人の死は、そうすぐには訪れないと考えていたのでしょう。

歌詞にもある通り、大切な人物を失うなどという堪え難い悲しみから、危険なドラッグや犯罪に手を染めてしまう事例も少なくはないことがわかります。

Polo G による他の楽曲

『Heartless (feat. Mustard)』

デビューアルバム『Die a Legend』をリリースし、一気に有名となった彼ですが、すでに自作に向けても精力的に活動しているようです。こちらの楽曲は、アルバム以降にリリースした一作目のシングルなのですが、なんとプロダクションに Mustard が参加しています。

こちらの楽曲では、タイトル『Heartless』 の通り、ギャングの抗争や彼を取り囲む人間の悲しい振る舞いの中で、自分自身が『冷酷』になっていくことをラップしています。しかし彼の場合、ただ「冷酷」になるのではなく、そうなることで自分自身のすべきことに焦点を当てられるようにもなった、とポジティブなリリックも見られます。

My cousin got indicted dealing cocaine
俺のいとこはコカインの取引をして訴えられた

She an Instagram addict, she want mo’ fame
彼女はインスタに夢中で、もっと有名になりたがってるし

I used to starve, now I’m blowing up like propane
俺はかつて飢えていたけど、今はプロパンガスのように人気が爆発してる

Told my inner-self, “I promise you I won’t change”
自分の中の自分に「俺は絶対に変わらないと約束する」って誓った

上2行では周りの人々の行動に嫌気が差し『冷酷』になる様子、下2行ではそれでも自分自身にフォーカスを置くことの大切さをラップしている。

Genius の歌詞解説動画にて彼は「自分に正直であることは、俺にとって一番大切なことだと信じてる。もし、自分に正直であれないなら、その人生はとてももったいないよ。」と語っています。

インスタグラムで Clout (権力や富) を追い求めるユーザーたちが蔓延していることなどに苦言を呈し、彼なりの人生論を落ち着いてラップしており、かなり痺れるところがあります。(しかもこれを Mustard のビートの上で。)

まとめ

いかがでしたでしょうか。最近のラッパーたちは本当に十人十色で、100人いれば100通りのスタイルがあるって感じになってきてますが、Polo G はその中でも「男の中の男」って感じがします。

人生において大切なことを見失うことなく、鋭い感性で自分の想いを訴え続ける。これぞ HipHop のあるべき姿という感じで、ある意味お手本のような完璧なラッパーだと思います。そろそろ次作の存在を匂わせても良い頃なので、その時を楽しみに待つことにしましょう。

whoiskosuke

Lil Uzi Vert『Eternal Atake』の全て ~リリースまでの道のり~

これまで幾度となくリリースを遅らせていた Lil Uzi Vert のニューアルバム『Eternal Atake』が本日遂にリリースされました。

今回は、その存在が明かされてから本日のリリースまで約2年の月日を要したこのアルバム『Eternal Atake』の歴史を振り返って行こうと思います。

2018年 : ハッキングと、ニューアルバムの告知

2018年4月、Uzi の ソーシャルメディア(Instagram と Twitter)のアカウントがファンによってハックされたことから『Eternal Atake』の歴史は始まりました。アカウントをハックしたファンによって様々な(意味不明な)投稿がなされる中、6月頃、後にリリースされるシングル曲『New Patek』のスニペットが Uzi のダンス動画と共にポストされました。

その後ファンからアカウントを取り返した Uzi は、Twitter にてニューアルバムのタイトルを明らかにします。

Eternal は永遠、Atake は追い越す(追いつく、襲いかかる、不意をつく)ことを意味するんだ」

続いて同年7月末、彼はアルバムのカバーアートを公開します。

『Eternal Atake』のカバーアート

しかしこのカバーアートは、1997年のヘール・ボップ彗星出現の際に集団自殺を決行し消滅した「Heaven’s Gate」という宗教団体のロゴをパロディしたものであり、「Heaven’s Gate」の残党から訴訟の意思が伝えられました。

宗教団体「Heaven’s Gate」のロゴ

この騒動があった後、Uzi は上記のカバーアートを取り下げ、自身をアニメキャラクター化したアートに取り替えます。

胸の部分には「Heaven’s Gate」のロゴが。

そして同年9月18日、『Eternal Atake』から初のリードシングルとなる『New Patek』がリリースされます(最終的にはアルバム未収録)。

『New Patek』のカバーアートには、またしても例のロゴが。どうしても捨てきれないこだわりだったのでしょう。

同年末、Uzi は地元フィラデルフィアでのライブ中に、アルバムの完成を報告します。

「いつアルバムがリリースされるか気になっているんだろ。もうできてるよ。」

2019年 : 引退宣言と音楽活動再開

年が明け2019年1月、Uzi は Instagram のストーリーで音楽活動の引退を表明します。

ファンのみんなに礼を言いたいんだ。

おれはもう音楽をやらない。作った曲も全部消した。

おれは普通の生活に戻りたいんだ。2013年に戻りたいよ。

Uzi は以前から、所属するレーベル Generation Now との関係が良くないことを明らかにしていました。彼のデビューアルバム『Luv Is Rage 2』も同じ問題を抱えてリリースが遅れた過去があり、おそらくそういった問題が悪化し、彼は音楽を辞めるという発言をしたのでしょう(Generation Now のDJ Drama は問題を否定しており、「(アルバムを)出したい時に出せばいい」と発言)。

同年3月、Uzi は Jay-Z 擁する Roc Nation と契約を結び、突如ニューシングル『Free Uzi』をリリースしました(リリース数日後に削除)。

N***as lyin’, yeah he stuck with a cappin’ face

奴らは嘘をついてる、そのせいで身動きがとれないんだ

N***as rattin’, they get hit with the MAC today

奴らは卑劣だ、今に MAC で撃ち抜かれるさ

It’s my “I don’t even know, um, what happened” face

おれは「おれは知らないぜ、何があったんだ」って顔をしてる

Lil Uzi Vert – Free Uzi
Generation Now との確執について言及するライン。
MAC で撃ち抜かれたんだろ、UZI じゃない(おれはやってない)という、銃の名前でかけたワードプレイ)

同年4月、Uzi はリークされた2つの楽曲を公式にリリースします(両方ともアルバム未収録)。

『That’s a Rack』

『Sanguine Paradise』

そして同年末、Uzi はアルバムからリードシングル『Futsal Shuffle 2020』をリリースします。

2020年 : アルバムリリース

年が明け2020年に入り、Uzi は Twitter にて積極的にアルバムのアナウンスを行うようになります。

アルバムには16曲が収録されることを明らかにした後、Instagram Live にて二週間以内にアルバムをリリースすることを仄かしました。

そして3月1日、Uzi は2つ目のリードシングル『That Way』をリリースします。自身のオルターエゴ、「Renji」と「Baby Pluto」の存在も主張し、Twitter 上でファンからの質問に積極的に応答するようになります。

その後、彼は Twitter にて3つのカバーアートを公開し、フォロワーに投票で選ばせるという前代未聞の決定方法をとりました。

Cover 1
Cover 2
Cover 3

投票の結果2つ目の「Cover 2」に決定し、続いて『Eternal Atake』のショートフィルムが公開されました。

その2日後、Uzi は『Eternal Atake』のトラックリストを公開します。

そして本日3月7日、急遽ニューアルバム『Eternal Atake』がリリースされました。

みんな準備はできたか、今日がその日だ!

来週金曜日じゃない、今リリースしたぜ!

世界中が来週のリリースと思い込んでいた中、突如としてニューアルバムをリリースする、なんとも Uzi らしい行動に意表を突かれました。

世界中が待望していたニューアルバムには、The Internet のメイン・ヴォーカルである Syd が客演で参加しており、Wheezy や Yung Lan、TM88、Supah Mario ら売れっ子プロデューサーに加え、Working On Dying の Brandon Finessin や Oogie Mane、ラッパーの Chief Keef らがプロダクションに名を連ねています。

Uzi 曰く、1〜6曲目が Baby Pluto、7〜12曲目が Renji、13〜18曲目が Uzi による楽曲だそうです。

数時間前、Uzi は アルバムのデラックス盤の存在も明かしており、Pi’erre Bourne、Young Thug、Future、A Boogie wit da Hoodie、Lil Baby、Chief Keef ら今をときめく豪華客演陣を迎えているとのこと。2年前からリリースが待ち望まれている『Rollie [Jellybean (Kobe)]』や『Like Me (Myron)』、『Lotus』などの楽曲も含まれている可能性が高く、Lil Uzi Vert ファン歓喜の展開となりそうです。

Riku Hirai

シカゴ出身の注目若手ラッパー Calboy とは

今回は『Envy Me』のヒットで知られるシカゴ出身の注目若手ラッパー Calboy について、彼の生い立ちやキャリアに触れながら簡単にご紹介しようと思います。それではさっそくいってみましょう。

生い立ち

Calboy こと Calvin Woods は、シカゴ出身の20歳(1999年4月3日生まれ)。シカゴの中でも最も危険とされるサウスサイド出身で、母親と4人の兄弟と共に非常に貧しい生活を送っていたそうです。

オーバードーズと銃撃により幼馴染みの親友を2人も失った彼は、家族と共にシカゴの南に位置する Calumet City に移住します。

キャリアの開始

音楽活動を始める前は絵を描いて過ごしていたというCalvin は、2015年から Kidd Cal 名義で楽曲を公開し始めます。

『Mr.Misunderstood』

今から約5年前(当時16歳)の彼の楽曲からは、既に才能の片鱗が伺えます。

1st ミックステープ『Anxiety』

2017年、Calvin (以下 Calboy)はデビュー作となるミックステープ『Anxiety』をリリースします(147 Calboy 名義では、以前にミックステープ『The Chosen One』をリリースしています)。

Twista や Future、Chief Keef らとの楽曲制作でも知られる DJ Pharris が監修を務め、メジャーレーベルとの契約なしでリリースされたこのミックステープには、地元シカゴのスター Lil Durk が客演として参加しています。

『Anxiety(心配、不安)』というタイトル通り、Calboyは、地元で経験してきた悲劇やトラウマについて歌います。

I was 15, I see my bro Jimmy dead
おれが15の頃、仲間の Jimmy が死んだのを見たんだ
He felt so cold, I couldn’t even cry
彼は冷たくなって、おれは泣くことすら出来なかった
That’s why I sip lean, boy you ain’t even gotta ask why
だからおれはリーンを飲むんだ、理由なんて聞くな
They wanna shiv me with knives all in my back
やつらはおれのことを狙っている

Calboy – Fatality

この頃の彼はオートチューンを強めに使っており、Lil Durk の歌唱スタイルや声に近似したメロディアスなフロウを多用しています。

Rap Genius の「Can ___ Fans Actually Recognize His Voice (~のファンは、実際に~の声を聴き分けることができるか)」というシリーズに Lil Durk の回が来るならば、間違いなく Calboy の楽曲が使われるでしょう。

2nd ミックステープ『Calboy the Wild Boy』

2018年、Calvin は Paper Gang Inc. から 2nd ミックステープ『Calboy the Wild Boy』をリリースします。

このミックステープで彼は、自己アイデンティティの模索や、前作『Anxiety』の成功からくる名声についてラップしています。

またラップスキルもこの頃から磨かれつつあり、特に7曲目の『Blood Suckaz』ではファルセットやミックスボイスを使って高音で歌うスタイルが見られ、今現在(2019~2020年)の彼に通ずるものを感じます(特に1:17~のフロウは、後にリリースされる彼のヒットシングル『Envy Me』のフックと同じフロウですね。おそらくこの頃に自分のスタイルを掴んだのでしょう)。

『Envy Me』のバイラルヒット

2018年9月に Calboy がリリースしたシングル『Envy Me』が、彼のキャリアを大きく変えます。リリースされるや否や Billboard Hot 100において63位まで登りつめ、YouTube では2500万再生を記録しました。

『Envy Me』のバイラルヒットは、この曲を使った「Demons Challenge」というダンスチャレンジが Tik Tok 上で流行したことがきっかけでした。

https://youtu.be/J0Aoum3NJog

もちろん奇跡的にバズを起こしてヒットしたわけではなく、バズが起こったのにも理由があります。

I was fighting some demons, in the field, bitch, I’m deep in
おれは悪魔たちと戦っている、もう戻れないんだ
I was raised in the deep end, I know niggas be sinkin’
困難な環境で育ってきたんだ、落ちぶれていった奴らもいる

Calboy はこのような暗い内容のリリックを、悲しげにも、あるいは楽しげにも聴こえてしまうようなポップなメロディで歌い上げます。このダークさとポップさのアンバランス感が Calboy (彼に限らず現行のシカゴ産ヒップホップ)の魅力でしょう。

その後、Calboy は Kodak Black の「The Dying To Live Tour」に帯同し、ますます知名度を上げていきます。

デビューEP 『Wildboy』

2019年、Calboy は RCA と Polo Grounds Music からデビュー EP『Wildboy』をリリースします。

Moneybagg Yo、Lil Durk、Yo Gotti、Polo G、Meek Mill、Young Thug といった豪華客演陣の参加が、Calboy の注目度を物語っています。

また、Calboy のラップ&ボーカルスキルの向上も顕著に見られます。

『Ghetto America (feat. Yo Gotti & Lil Durk)』

Lil Durk と Yo Gotti が参加した1曲。高音で感傷的に歌う Calboy と Lil Durk のボーカルに、Yo Gotti のねっとりとしたラップが上手くマッチしています(やはり Lil Durk と Calboy のボーカルスタイルは激似ですが、本人(Calboy)はそう言われるのがあまり好きではないみたいなのでここでは控えておきます…笑)。

『Chariot (feat. Meek Mill, Lil Durk & Young Thug)』

Meek Mill、Lil Durk、Young Thug が参加した夢のような1曲で、Calboy も引けを取らない三連符フロウを披露します。

人気アーティストとのコラボ

Chance the Rapper『Get a Bag (feat. Calboy)』

同郷シカゴのスター Chance the Rapper のデビューアルバムに参加した Calboy は、ここぞとばかりにその才能を見せつけます。

歌フロウを中心としたスタイルは昨今の若手ラッパーにありがちですが、Calboy の魅力は三連符を主とした詰め込みフロウです。この曲では彼の詰め込みフロウを堪能することができます。

Pop Smoke『100k on a Coupe (feat. Calboy)』

先月惜しくもこの世を去った故 Pop Smoke との楽曲。スタイルは違うものの今一番脂の乗った(乗っていた)2人のコラボなだけあって、抜群の格好良さです。

ここでは Calboy のもう1つの魅力である、ファルセットを使った高音フロウを楽しむことができます。

※他にもご紹介したいのですが、長くなるのでプレイリストにまとめておきます。

2nd EP『Long Live the Kings』

そして2020年、Calboy は待望の新作『Long Live the Kings』をリリースしました。

亡くなった仲間たち(Kings)への追悼の意を込めたこの EP には、Lil Tjay、G Herbo、Lil Baby らが客演で参加しています。

『Dope Boy』

明らかに Roddy Ricch に影響を受けたであろうフロウ (Roddy Ricch『Start wit Me (feat. Gunna)』と非常によく似たメロディラインを使っています)が特徴的な1曲。同世代であれだけチャートを動かすラッパーが出てくると、嫌でも刺激を受けるでしょう。Calboy には是非とも第2の Roddy Ricch、いやそれ以上のスターになってほしいものです。

『Purpose (feat. G Herbo)』

EP からシングルカットされていた G Herbo との1曲。

一度聴いていただければ分かるように、この曲、ビートと(Calboy の)ボーカルのキーが合っていません。シンプルにオートチューンのキー設定を間違えたのか、たまたま違うキーで合わせたら「あえての外しもあり!」となったのかは分からないですが、何度も繰り返し聴くうちに、気持ち悪さが気持ち良いという妙な感覚に襲われます。狙ってやっているのであれば面白いですし、そうでなければ怪我の巧妙です。

I go in there with a concept. 
おれはコンセプトを大事にしている
That’s what makes me different than a lot of the mumble rappers
それが他のマンブルラッパーたちと違うところだ

Complex のインタビューより

Complex のインタビューでも語るように、楽曲のコンセプトが定まっており、一貫性がありブレないリリックも彼の魅力です。是非リリックを見ながら聴いてみてください。

まとめ

いかがだったでしょうか。ニューアルバムのリリースや、自身が執筆する著書の出版などを控えており、多方面で更なる飛躍が見込まれるシカゴのネクストスター Calboy。

今年の XXL フレッシュマン選出も間違いなさそうなので、今のうちに彼の楽曲を聴き込んで古参ぶりましょう。今ならギリギリ間に合います。それでは良い週末を!

XXS Magazine オリジナルプレイリスト『Calboy – A Rising Rap Star from Chicago』

https://music.apple.com/jp/playlist/calboy-a-rising-rap-star-from-chicago/pl.u-WabZpaYHdl0GmpA?l=en

Riku Hirai

Lil Uzi Vert 『That Way』和訳・解説

本日未明、愛しの Lil Uzi Vert が、『Futsal Shuffle 2020』以来のニューシングル『That Way』をリリースしてくれました。

再生した瞬間にピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらの楽曲はアメリカのボーイズグループである Backstreet Boys の名曲『I Want It That Way』が元ネタとなっています。

今回の楽曲では、メロディアスなフックや Lil Uzi 特有のマシンガンのようなラップなどが見られ、2017年頃に台頭した、いわゆる「オールドウジ」的なカテゴリーに分類される良曲だと思います。

本記事では、そんな彼の新曲『That Way』より、重要なリリック、面白いリリックなどを解説するかたちを取りたいと思います。それでは、まだ聴いていない方も、すでに50回聴いたよって方も、まず初めにこちらをどうぞ。

I want it that way
俺はそうやって生きていきたいんだ

Backstreet Boys による元ネタと同じメロディを4回繰り返すフックから、三分半にわたる Uzi ワールドの幕開けです。この時点ですでにオールドウジ的な雰囲気が漂ってきます。

But I don’t wanna go out bad, wanna go out sad, wanna go out that way
調子が悪い時も、悲しい時も外に出たくない。この道で生きていきたいんだ。

I’m with the winnin’ team, they make sure I’m not in last place
俺は勝ち組。あいつらは、俺が負け組でないことを確信させてくれる。

If I wake up, don’t make no money, that’s a sad day
もし、目覚めて金を稼げなかったら、それは悲しい日だ。

Twenty-five hundred on my shirt what the tag say
シャツに$2500。タグに値段が書いてあるだろ。

You know that I’m winnin’
君が知ってる通り、俺は勝ち組。

My white girl got black card and it got no limit
白人の彼女は、利用制限なしのブラックカードを持ってる。

I’ma grab a Bentley, Mean might go and grab a Wraith (※1)
ベントレーを買いに行く。Mean はロールスロイス・レイスを買いに行く。

I had to snap back into reality and go grab a fitted (※2)
現実に戻って、フィテッドキャップを手に入れなきゃ。

My jeans, yeah, they fitted
俺のジーンズはサイズぴったり。

But Lil Uzi, he is so far from the timid
でも、Lil Uzi は臆病者とはほど遠いよ。

(※1) Mean とは Lil Uzi のマネージャーの名前。彼のマネージャーやボディーガードたちは、複数台のカスタムカーによって移動していることで有名。

(※1) 路上駐車された Lil Uzi クルーの移動用自動車

(※2) Snap Back には「戻る」と「サイズ調整できるキャップ」の二つの意味があり、後半の fitted 「サイズ調整できないキャップ」とかけたワードプレイ。Eminem の代表曲『Lose Yourself』 から引用したラインを、キャップ好きの彼なりにアレンジしている。

(※2) 左 : スナップバックキャップ、右 : フィテッドキャップを被る Lil Uzi Vert

When I’m in DC, make the hoes go-go (※3)
ワシントンDC にいる時、女の子には Go-Go を歌わせる

Yes, I’m slimy like a snail, but I’m no slowpoke (※4)
そう、俺はカタツムリみたいにスライミーだけど、俺はヤドンじゃないぜ

(※3)「Go-Go」とは、音楽ジャンルの一つであり、今年の二月にワシントンD.C. 発祥の音楽として正式認定された。

(※4) Slime とは Young Thug によって作られたスラングであり、「Street Life Intelligence Money is Everything」の頭文字をとった単語 。主に親しい友達や家族のことをさす。Slimy は、Slime を形容詞として変化させた派生語である。カタツムリは動きが遅いことで有名な軟体動物であるが、Lil Uzi は自分が素早くキャリアを積み上げたことから、ポケモンのヤドンを「動きが遅いのろま」としてメタファー的に利用し、「自分はカタツムリやヤドンのようにのろまな存在ではない」とラップしている。

(※4) ポケモンのキャラクターであるヤドン。英語名は「Slowpoke」

They laugh at me because I’m emo
あいつらは俺がエモラッパーだからって笑うんだ

I killed my girlfriend, that’s why I’m single
恋人を殺したから、俺は独り身だ

Can’t call 911 ’cause I’m in Reno (※5)
Reno にいるから、警察に通報できないよ

(※5) Reno とはネバダに位置する街の名前で、Lil Uzi は、その街の警察をテーマにしたコメディショー 『Reno 911!』について言及している。

(※5) 『Reno 911!』のプロモーションポスター

さいごに

いかがでしたでしょうか。先日 Lil Uzi がインスタグラムのライブにおいて「Eternal Atake は二週間以内にリリースされる」と発言したことが話題となりましたが、このタイミングでこの良曲をリリースしたことから、いつもならゼロに近いリリースの信憑性が増してきました。さらなる情報を期待して待つばかりです。

The Weeknd – After Hours 和訳・解説

こんにちは。今日、The Weeknd が最新アルバムを公開し、そのタイトル曲『After Hours 』をリリースしました。

この曲が、 Bella Hadit との恋愛についてがっつり触れた内容だったので、国内最速で和訳・解説しました。

では、早速行きましょう。Let’s Gooooooo!!

和訳・解説

[Verse 1]

Thought I almost died in my dream again
Fightin’ for my life, I couldn’t breathe again

また夢の中で死にかけた。
人生と対峙して、息もできないほどだった。

I’m fallin’ into new (Oh)
Without you goin’ smooth (Fallin’ in)

でも僕には新しい「連れ」がいるから
君がいなくなって上手くいってるはず…

※これは、ずっと付き合っていた Bella Hadit と別れて Selena Gomez と付き合ったことを言っていると思われます。

Cause my heart belongs to you
I’ll risk it all for you

でも僕の心は君に首ったけだから
君が為、どんなに危険でも

I won’t just leave
This time, I’ll never leave

離れるつもりはなかったんだ
今度こそ、本当に離しはしないから

I wanna share babies
Protection, we won’t need

子供だって欲しいから
*「隔たり」なんて必要ないんだよ

protection(避妊具)は Weeknd がよく使う表現で、例えば、2011年の楽曲『High For This』でも
“We don’t need no protection
Come alone, we don’t need attention”
というフレーズを使っています

Your body next to me
Is just a memory

君と1つになる
これも思い出の1ページに過ぎないけど

I’m fallin’ in too deep, oh
Without you, I’m asleep

君に惚れ込んじゃってるから
君がいないと僕はダメなんだ

It’s on me, only me, oh
Talk to me, without you, I can’t breathe

僕のせいなんだ、全部。
答えてくれ、君がいないと生きていけないんだ

[Instrumental Break]

[Verse 2]

My darkest hours
Girl, I felt so alone inside of this crowded room

最低な時
なあ、この(思い出が)飽和した部屋じゃさみしいんだよ

Different girls on the floor, distractin’ my thoughts of you

君を忘れる為に、いろんな女を呼び込んで…

I turned into the man I used to be, to be

僕は前みたいな男に逆戻りしたんだよ

※2019年1月13日のツイートで彼は「もう昼間に流れるような音楽は作らない」とツイートしていたことと関係があるのでしょうか?

それともダメダメだった頃の自分を刺しているのでしょうか?

Put myself asleep

Just so I can get closer to you inside my dreams

早く眠ろう、そしたら夢で君に会える

Didn’t wanna wake up ‘less you were beside me

(夢で)君のそばに行くまでは、夢よ覚めなければ

※Weekndはこの夢よ覚めなければ的なフレーズをよく使います

I just wanted to call you and say, and say

(夢で)ただ君にこう伝えたかっただけなんだ。

[Chorus]

Oh, baby
Where are you now when I need you most?

ねえ、君はどこにいるんだい、僕がこんなに求めているのに

I’d give it all just to hold you close
Sorry that I broke your heart, your heart

ただ本気で君を抱きしめたかっただけなんだ
傷つけてごめん

[Verse 3]

Never coming through
I was running away from facin’ reality

忘れられなかった。現実と向き合わず逃げてばっかりだった。

Wastin’ all of my time on living my fantasies

想世界にのめり込んで、本当に時間を無駄にした

Spendin’ money to compensate, compensate

君の穴を埋めるためにお金も使った

‘Cause I want you, baby
I’ll be livin’ in Heaven when I’m inside of you

君が欲しいからさ。君の中にいれば、天国にいるみたいなんだ

It was definitely a blessing, wakin’ beside you
I’ll never let you down again, again

※今思えば本当に嬉しかったよ、君の隣を歩けて
今度こそ絶対に失望させないからさ

※ここの表現はおそらく2016年11月30日に開催されたヴィクトリアズ・シークレットのファッションショーで破局後のベラ・ハディットと偶然再会した時のことでしょう。
ベラ・ハディッドはモデルとしてランウェイを歩き、ウィークエンは歌手として音楽を担当。この頃まだ復縁していませんでした。
2016年11月30日
ヴィクトリアズ・シークレットのファッションショーでの二人

[Chorus]

Oh, baby
Where are you now when I need you most?

ねえ、君はどこにいるんだい、僕がこんなに求めているのに


I’d give it all just to hold you close
Sorry that I broke your heart, your heart

ただ本気で君を抱きしめたかっただけなんだ
傷つけてごめん

I said, baby

I’ll treat you better than I did before

I’ll hold you down and not let you go

This time, I won’t break your heart, your heart, yeah

言ったよね、これまで以上に君を大切にするって。
もう君を離さない、どこにも行かせないって。
今度こそは、君を傷つけないって。

[Bridge]

I know it’s all my fault
Made you put down your guard

わかってる、全部僕の責任だ。
君の思いでさえ無視した

I know I made you fall
I said you were wrong for me

わかってるんだ。君をダメにしたって。
「君は僕には合わないって」

I lied to you, I lied to you, I lied to you (To you)

君に嘘をついた、何度も何度も。

Can’t hide the truth, I stayed with her in spite of you

君が居たのに、大っぴらに「あの子」をひけらかした。

※これは、ずっと付き合っていた Bella Hadit と別れて3ヶ月も経たないうちに Selena Gomez にキスをした事件のことを言っていると思われます。ちなみにその後、Abel(Weeknd) は Bella Hadit と復縁しています。

You did some things that you regret, still right for you
‘Cause this house is not a home

君も後悔することはたくさんあっただろうけど、それでよかったんだよ。
※だって「家」はあっても「家庭」がないんじゃダメだから。

※これは、家は持てたとしても、それを誰かと共有して、育まないと、家庭は持てないという、愛はお金じゃ買えない的なことわざです。Verse3 の “Spendin’ money to compensate, compensate” に呼応する表現でもあります。

[Chorus]

Without my baby
Where are you now when I need you most?

君が居ない、君はどこにいるんだい、僕がこんなに求めているのに

I gave it all just to hold you close

Sorry that I broke your heart, your heart

ただ本気で君を抱きしめたかっただけなんだ
傷つけてごめん

And I said, baby
I’ll treat you better than I did before
I’ll hold you down and not let you go
This time, I won’t break your heart, your heart, no

誓ったんだ。これまで以上に君を大切にするって。
もう君を離さない、どこにも行かせないって。
今度こそは、君を傷つけないって。

終わりに

どうでしたでしょうか?予想以上に直接的な表現などが多く、かなり彼の心情が露呈した曲でしたね。

それでは、ご静聴ありがとうございました。

Pop Smoke – ブルックリンドリルのビッグウェーブを起こした若きレジェンド

みなさんこんにちは。

今回は、今年訪れるであろうドリルミュージックのビッグウェーブを作り出した張本人 Pop Smoke についての記事です。本日リリースされました2枚目のミックステープ『Meet The Woo 2』についても触れていますので、最後までお付き合い頂けたらなと思います。

Pop Smoke って?

Pop Smoke はニューヨーク、ブルックリン出身で、現在20歳のラッパーです。すでに貫禄のある大御所のような見た目ですが、まだ20歳です。始めて楽曲を発表したのも昨年で、キャリアはかなり浅いです。

ご存知の方も多いと思いますが、彼が昨年の夏にリリースした『Welcome to the Party』という楽曲が一瞬にしてバズを起こし、その大きな波に上手く乗って今に至る。という感じのとても説明しやすいキャリアです。

『Welcome to the Party』がバズったことをきっかけに、同曲に Skepta や Nicki Minaj を招いたリミックスをリリースし、その波の勢いは収まるどころか大きくなるばかり。そんな感じでこの楽曲は一昨年 Sheck Wes がリリースした『Mo Bamba』を彷彿とさせるような、クラブで聴かない日は無いお決まりの楽曲となりました。

さて、記事の初めに Pop Smoke を「ドリルミュージックのビッグウェーブを作り出した張本人」と紹介しましたが、この言葉を安易に受け止められたら少し困ります。やはり、ドリルミュージックを作り出したのは、Chief Keef や Fredo Santana を代表とするシカゴ勢です。

彼らが作り出したドリルミュージックにインスピレーションを受けてイギリスで発展したのが、UK Drill というジャンルで、Pop Smoke はこの UK Drill をアメリカに逆輸入し、ビッグウェーブを起こしたアーティストです。Pop Smoke はほとんどの楽曲に 808Melo や AXL といった UK Drill シーンで活躍しているプロデューサーを起用しており、UKドリルとUSドリルのハイブリット的存在と言えると思います。

文字だけでは分かりにくいと思いますので図解を載せておきます。

この辺の背景は、ブルックリンドリルについて詳しく書いた記事を見ていただければ、さらに深く理解できると思いますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。(代表曲『Welcome to the Party』についてもこちらの記事で触れています。)

『Meet The Woo』

たった一曲で、誰もが憧れる人気者になった彼ですが、このビッグウェーブを逃すまいと昨年の7月にミックステープ『Meet The Woo』をリリースしました。今回はこちらのミックステープの中からいくつかオススメを紹介します。

『Scenario』

ミックステープの5曲目に収録されているこちらの楽曲で、プロジェクトを通して見ても、一番ブルックリンドリルのダークな側面を感じることができます。「Pop Smoke はランダムに単語を並べただけでカッコいい唯一のラッパーだ。」というようなツイートを見かけたことがありますが、まさにその通りだと思います。しかし、言葉のはめ方や、繰り返し同じフレーズをラップするスタイルを上手く自分のものにしており、逆にそのスカスカさが彼の楽曲の醍醐味とも言えます。

Pull up, we snatching your babas
俺らはお前らの女を奪い去る

Big 092, those my guys
Big 092 こいつらは俺の仲間だ

Pull up and change the scenario
俺らが現れると、シナリオが書き変わる

Act up and bullets start tearing ’em
俺らが暴れると、銃弾があいつらを引き裂きだす

開始早々、勢いよくラップされるこちらのラインですが、同じくブルックリンドリルシーンの中心人物 Nas Blixky と Kush Blixky による『Babaz』という楽曲から引用されており、UKドリルビートの上でブルックリンドリル特有のスラングを聴くことができます。やはり、ここが彼の楽曲ならではのポイントなのではないでしょうか。

『Better Have Your Gun』

続いて紹介するのはこちらの楽曲。『銃を持ってた方がいいぜ』という意味のタイトルで、ドリル臭がプンプン漂います。

ちなみに彼の楽曲に度々登場する「It’s Big 092MLBOA」というフレーズですが、これは彼が生まれたブロックにて形成されているギャングを表しています。彼の地元であるカナージーは「Floss」または「Flossy」という別名を持っており、それに絡めてこのようにラップしています。

When you come to flossy, better have your gun
お前がカナージーに来るなら、銃は持っておいた方が身のためだぜ

『GATTI』

Pop Smoke は、昨年末にリリースされた Travis Scott 率いる Cactus Jack Records によるプロジェクト『JACKBOYS』に収録されている『GATTI』に参加しました。ここでも UK の AXL Beats と 808melo をプロデューサーとして起用しています。タイトルの『GATTI』とは高級スポーツカーの Bugatti (ブガッティ) の略で、MVでも青いブガッティを乗り回しています。

Look, you cannot say Pop and forget the Smoke
お前は「Smoke」と言わずに「Pop」と言えない

I’m from the Floss where n****s tote
俺は、ギャングたちが銃を持ち歩いているカナージー出身だ

よく考えれば、かなりありがちな単語である「Pop」と「Smoke」を並べただけの彼のMCネームですが、今や「Pop」と聞いたら「Smoke」を連想し、逆に「Smoke」と聞いたら「Pop」を連想してしまう。それだけ彼の時代が到来しているということを、このリリックを通して思い知らされます。

They couldn’t be Crips, so they turned Folks (Bah)
あいつらは Crips になれなかったから、Folk Nation に加入した

Drivin’ through the ‘Ville, droppin’ the Cho (Brr)
Brownsville を走り抜け、Cho の連中を始末する

ブルックリンには大きく分けて、Woo と Cho という2つの派閥が存在します。Woo と Cho はもともと仲は悪くなかったのですが、2010年を境にスニッチがきっかけとなって対立を始めました。Pop Smoke はアルバムタイトルを見ていただければわかる通り Woo に所属しており、Cho のメンバーと仲良くすることはありません。

このリリックにおける「あいつら」とは、Tay627 と Chris Elite のこと。彼らは Pop Smoke が所属する Woo と敵対関係にあり、Pop Smoke のヒット作『Welcome to the Party』をリメイクした楽曲『Welcome to the Garvey』 をリリースしました。

『Meet The Woo 2』

お待たせしました。本日リリースされた最新作『Meet The Woo 2』についてです。13曲で35分の構成となっており、前作に比べて一曲あたりの再生時間がかなり短くなっています。しかし、先行でリリースされていた楽曲は『Christopher Walking』と Lil Tjay をフィーチャーした『War』、そして前作にも収録されていた『Dior』の三曲のみで、「アルバム出たけど、もうほとんど聞き飽きてるよ」状態は回避できています。

Quavo や A Boogie wit da Hoodie などドリルでない US ラッパーも参加しており、こちらでも UK Drill ビートとUSアーティストのコラボレーションを楽しむ事ができます。同じくブルックリンのドリルシーンからは、最近 Rich The Kid や Tory Lanez と共演していた Fivio Foreign が参加しており、最先端のブルックリンドリルも堪能する事ができる作品となっています。

ちなみに、先行曲だと思われていた Calboy との楽曲『100K on the Coupe』は残念ながら収録されていませんでした。どちらかというと Calboy が Pop Smoke をフィーチャーしたような構成の楽曲となっていたので、アルバム全体の雰囲気も考慮して外されたのかもしれません。

Calboy や A Boogie、 Lil Tjay にしてもそうですが、Pop Smoke がドスの効いた低い声であるため、フィーチャーするアーティストは高めの歌声を持っていたり、メロディアスなフロウを得意とするラッパーを選び取っているような印象を持ちました。確かに、同じようなスタイルの2人が一曲を作り出すより、真逆のスタイルの2人が一曲を制作した方が、コントラストが生まれますし、意外な化学変化も起こりやすいのかもしれません。

同じフレーズを繰り返す、しつこいほどのフロウにまんまと虜にされてしまっている私たちですが、そんな安心感を良い意味で裏切ってくれた楽曲も3曲目に収録されていました。それが、『Get Back』という楽曲で、完全に早口言葉です。

追記

たったの一、二年でブルックリンドリルのビックウェーブを作り出し、伝説的存在となった Pop Smoke は、惜しくも2020年の2月19日にこの世を去りました。LAに借りていた別荘に滞在しているところを、強盗に襲われて銃殺されてしまったようです。早すぎる彼の死に、たくさんのファンやラッパーたちが追悼の意を表するともに、彼の功績を賞賛しました。ご冥福をお祈りいたします。

彼の死後、50 Cent が「俺が 彼のために Pop Smoke のアルバムを完成させる」と声明を発表しており、悔やまれながらもこの世を去ってしまった彼の、遺作であるデビューアルバムが今週末にリリースされます。彼の所属していた Victor Victor Records がインスタグラムにてアートワークとリリース日時を発表しました。

View this post on Instagram

June 12 2020

A post shared by Steven VICTOR (@stevenvictor) on

トラックリストなどを含む、それ以外の情報は一切解禁されておらず、リリース日が近づいているにもかかわらず、いまだに謎に包まれたままとなっていますが、Drake や Post Malone、Roddy Ricch などの大物アーティストの参加をオファーした旨を 50 Cent は発表しており、Roddy Ricch に関してはすでに参加の意を示しているとのことです。

whoiskosuke

070 Shake – Flight319 和訳・解説

No pigmentation, giving you the blues

偽りのない、ブルースをあなたに

みなさん御機嫌よう。

今日は素敵な言葉遊びで始まる一曲、ニュージャージー州出身の女性シンガー / ラッパー 070 Shake の最新アルバム 「Modes Vivendi」の収録曲『Flight 319』です。彼女はここ最近、カニエ・ウエストやDJキャレドなどレジェンドアーティスト達からも引っ張りだこのアーティストです。

そして、アルバムの中でも一際異様な雰囲気を放つこの曲を和訳・解説をして行くんですが…

始めに言っておきます。この曲には「ある秘密」が隠されています。僕も聴き込んでいくうちにビックリしてしまいました。最後まで読んだあなたは衝撃を受けること間違い無しです。では、いきましょう。

[Verse]
No pigmentation, giving you the blues

偽りのない、ブルースをあなたに

※色をつけるという意味の pigmentation と 青色・ブルースという意味を持つ blues を使っていきなり色を使ったワードプレイを見せてくれます。さらに着色をしない、というのは話を盛らないという意味でもあるので、「偽りのないブルースをあなたに」という意味にも取れます。

Suffering from FOMO, she could come, too

ついて行くことに必死…すでに追いつけている(そこにいる)かもしれないのに

※FOMO は 「fear of missing out」 (取り残されることを恐れている) という現代のSNS社会におけるユーザーの象徴とも言える言葉です。

Screaming out YOLO,  jumping off the roof

「人生は一度きり」と叫びながら、屋上から飛び降りる

※YOLO は 「You only live once」(人生は一度きり)という意味。インスタなどでよく見かける言葉ですね。

One more drink, one less I’ll (Lose)

一杯飲むたびに、1つずつ失っていく。

※ここの Drink は酒を飲むという意味でしょうが、社会問題となっているケミカルドラッグの摂取も意味しているのかもしれません。

She’s betting on science, she say she needs proof

彼女は科学を信じ…「証拠」が欲しいという。

※ここもかなり上手いワードプレイが行われているんです。科学を信じこむ(bet on) 女は何事も 「proof」(証拠) が欲しいと思っている。科学に証明はつきものなので自明なんですが、実は proof は「アルコール度数」という意味でもあるので、先ほどの drink のラインと相まって、強い酒が欲しい、アルコールは安全(だと科学的に証明されてる)でしょ?といった感じにここもダブルミーニングが含まれているんですね。確かに、タバコはダメだけどアルコールは大丈夫と一般的に言われているのはホンマなんかな?って思いますね。

ここまでのリリックだけでかなり上手いなってつくづく思うんですが、実はかなり文学的でもあるんですね。

先ほどの歌詞でいえば、人生は一度きりと言いながら飛び降り自殺をする…追いついているのについて行くことに必死…など一見自己矛盾した節が続いています。

これは「明るい闇」や「永遠の刹那」など全く反対の言葉を組み合わせる撞着語法というもので、フランス文学などでよく用いられる用法なんですね(ああ…愛しのマルグリット・デュラス…)

マルグリット・デュラス(仏) 小説家・映画監督

ラッパーでもある彼女はこういった難解そうなリリックを難なく書いてしまう…どこか大物感が漂っていますね…どおりでカニエが彼女を気にいるわけです

If I was out of my body, you would see the truth

もし僕が体外離脱すれば、あなたにも真実がわかるでしょう

※ out of body ってのはいわゆる幽体離脱ってやつです。ここのラインは一見意味がわからなさそうですが、おそらく先ほど科学を信じ切った女が出てきましたので、その人に科学じゃ証明できない真実があるんだって言いたいのでしょう。でもなんでいきなり幽体離脱なんでしょう?謎は深まるばかりです。


And my brains bruised from all of the bad news
And my brains bruised from all of the bad news

最悪なニュースばかりで頭がいたい… ×2

※不思議と二回繰り返されるこのラインがこの曲のポイントとなるところに違いありません。

Lost her only son and he wasn’t even three
Now try telling her that everything is meant to be

彼女はたった一人の息子を失った…まだ3歳にも満たなかったのに…
そして僕は彼女にこう言い聞かせるんだ…「全て “運命” だよ」

It’s hard to believe a vision you can’t see
But tell me, have you looked at the air that you breathe?

確かに見えないものを信じるのは難しい…
でもどう?あなたは普段呼吸している空気を見たことがあるでしょ?

※ここでは非科学的なことを信じない彼女に問いかけます。空気を見たことがあるでしょ?これは例えば空を見上げる、などといったときに見えるはずもない空気の塊を見つめているじゃない?ということを問いかけているんじゃないでしょうか?それとも化学実験などの状態変化などの観察を意味するのかもしれません。どちらにしろ化学じゃ証明出来ないこともあるんだということを意味しているんですね。

The balance in me split by three
I sold my mind and my flesh

私は3つに分かれている…心も体も売ってしまった

※なぜここで3が出てくるのでしょうか?キリスト教的な世界観でいえば、ここは三位一体的なニュアンスなのかもしれません…三位一体とは、聖書に出てくる神は父であり、子(キリスト)であり、精霊である。というニュアンスの言葉です。じゃあなんでここでそれが出てくるのか?ヒントは3という数字…あ!三歳の男の子!!あそこにヒントが隠されてたんや!!じゃあこの Iってまさか…そういうことなんかな?やとしたら…心と体を売ったっていう表現って..あの子は死んじゃって精霊に….

They don’t get the context ’cause it’s too complex
I was in my highest, I was in my high

みんな状況を理解してない…だって複雑すぎるから
僕は最高の気分なのに…今まで味わったことないくらいに

※ここはおそらく先ほどの解釈でいけば、聖霊(幽霊)か何かになった男の子が、人間には理解できないだろうけど今の気分は最高なんだって感じているんでしょう。

[Chorus]
Said, oh, I’ll never know
How long I’ll stay, how far I’ll go

ああわからない…あとどれくらいいられるんだろう…どれくらい遠くまで行くんだろう

※聖霊にもこの世に居られる時間などが決まっているんでしょうか?

Said, oh, I’ll never know
How long I’ll stay, how far I’ll go

(繰り返し)ああわからない…あとどれくらいいられるんだろう…どれくらい遠くまで行くんだろう

[Outro]
Astronaut
Answer now like an astronaut
Get alcohol like an astronaut
Area code like astronaut, yeah-yeah

宇宙飛行士…今宇宙飛行士みたいに答えるよ。宇宙飛行士みたいにお酒を飲んで、宇宙飛行士のように特定してあげる

※宇宙飛行士のようにっていうのは精霊のようになった彼が世界を俯瞰していることのたとえでしょう。ちなみに Area code ってのは日本語で言う市外局番という意味で、電話で場所の特定に使われるやつですね。神戸だったら078…みたいな。でも意味わかんないですよね。
実は area code ってめちゃくちゃ激しく腰動かしてパコパコ…みたいな意味があったりするんです…それと、一番一般的に使われる area code の意味は、女の子の評価なんですね。例えば918…みたいな一つめの9はその女の子の顔を0-9で評価して…2つ目の数字は0か1で、1なら抱きたい、0は抱きたくないを意味して…3つ目の数字は身体を0-9で評価するんです。いや918ってどんなええ女やねん、霧島レオナか!どうぞ Porn hubへ…(カニエウエスト風)

Tragedy
You turned a good thing to a tragedy
Being held down by gravity
Baby, hoping you can see the map

悲劇…あなたはあの悲劇に一筋の光をもたらした…重力に包まれながら…あなたにもその世界が見えるといいな…

※悲劇というと、やはりギリシア悲劇が有名ですね。確かに小さな子供が死んだと考えれば悲劇という表現は納得です。

Good night to all of you, wherever you are

君の全てにありがとう、たとえどこにいたとしても

※ここは、劇の始まりのような音声ですね。先ほどのtragedy(悲劇)とかけているのでしょうか。

[Interlude]
I prefer the pain, you tellin’ me
I know you haven’t said a prayer in a month or so

私は苦痛を選ぶよ、あなたは僕に言う。確かにあなたは一ヶ月ぐらい経っても神の祈りに頼ることはなかったね。

※これは、どうしても神を信じない(非科学的なものは信じないから)母のことを意味しているんでしょう。あの子が死んでからも母は神に祈りを捧げたりはしなかった。

You givin’ up your faith for some fun, yeah

I don’t feel the rain or the sun, no (Oh-oh)

あなたは楽になりたくて信念を捨ててしまった。(ついに神を信じてしまった) 僕には何も感じられないけど。(何事も人それぞれなんだね。)

※「feel the rain」は直訳すると【雨を感じない】という意味ですが、これはレゲエの神様 – ボブ・マーリーが有名にした言葉で、「雨に濡れる人をいれば、雨を感じると捉える人もいる」つまり、「人それぞれ」といったニュアンスを含みます。

Not the sun, no, not the sun, no

Not the sun, no, not the sun, no

日射しなんて感じない。

Feeling safe with your love song

She feeling safe with your love song

Girl, I’m in love, hope you feelin’ in love, too

あなたの愛の歌で…母さんは安堵に包まれてる。愛してるよ、母さんも愛してくれてるよね。

※この「you」は神学的な世界観で言うところの神様と捉えるのが訳しやすいのではないでしょうか。ついに神を信じ、神の声(神の地=天国からの声)に包まれ、おそらく天国へと向かう母を示しているのでしょう。

どうでしたか?曲としても、劇的セリフのサンプリング後に来る転調、不思議なサウンド、彼女の歌唱センスなど充分素晴らしいのですが、歌詞が驚くべき内容を含んでるんですね。

一見、見るだけだと恋人との愛の歌のようにも感じるのですが、これが実は「死」というテーマを含んだ曲なんですね、驚きです。

そして、この曲の歌詞を逆から読んでいってみてください。子を失った母は信じることのなかった神を信じ、アルコールにまで溺れ、人生は一度きりと言いながら飛び降り、重力に包まれながら悲しいラストを迎える、これが 070 Shake の言う偽りのないブルースなのです。

最後に一つだけ言って終わりたいと思います。それは、曲名『Flight319』についてです。この曲のポイントでもある3歳の子供が亡くなった飛行機事故は実際に起こっています。

LIAT Flight 319と呼ばれる小さな飛行機が、1986年8月3日にカリブ海に不時着し、11人の乗客と2人のパイロットが亡くなる事件です。

最後まで曲名通りの偽りのないブルースですね。では、ここら辺でサヨナラ…サヨナラ…サヨナラ。

ノースカロライナの暴れん坊 Stunna 4 Vegas とは

みなさんこんにちは。今回は、ついに待望のニュープロジェクト『RICH YOUNGIN』をリリースした Stunna 4 Vegas について書いていこうと思います。DaBaby によるレコードレーベル である Billion Dollar Baby に所属していたり、Offset や Lil Durk なんかと共演していたりと何かと露出が増えてきた彼ですので、ご存知でないみなさんもこの機会に是非チェックしてみてください。今年は絶対にもっと上がっていきますので、、、

ニュープロジェクト「Rich Youngin」のカバーアート

Stunna 4 Vegas って?

Stunna 4 Vegas (スタナ・フォー・ベガス) こと Khalick Antonio Caldwell は ノースカロライナ州のソールズベリー出身のラッパーです。彼のキャリアはかなり浅く、ラップを始めたのは 2017年前半とかなり最近です。

実は彼、この浅く短いキャリアの中で一度だけ改名をしています。現在のステージネームの “Stunna 4 Vegas” という名義を使い始めたのは、 2018年に DaBaby をフィーチャーしたシングル『Animal』をリリースした時からで、それ以前は 「$tunna」 という名義のもとで活動していました。ちなみに各種プラットホームにて「$tunna」と検索していただければ、彼の古い作品を聴くことができます。

極端に音数の少ないビートの上で、一行一行、言葉という名の鋭い釘をハンマーでブッ刺していくような激しいラップ。それが彼の特徴であり、人気が出た理由です。多くの場合この手のスタイルは、荒々しさがポップさに勝ってしまい、メロディアスなスタイルなどに比べて倦厭されがちですが、Stunna の場合は一味違いました。荒々しいスタイルの中に、飛び跳ねるようにバウンシーなフロウを混ぜたり、声色に緩急をつけたりすることで、いい塩梅にG臭とポップさのバランスを取っています。

DaBaby との出会い

Stunna 4 Vegas のキャリアは、DaBaby と出会った時から大きく動き始めます。最近では、DaBaby が満を持してリリースしたアルバム『KIRK』の9曲目に収録されている『REALLY』 にもフィーチャーされていました。実際のところ私自身も DaBaby 経由で彼のことを知りましたし、Stunna のキャリアの中で DaBaby の存在はかなり大きいと考えられます。

彼が初めて DaBaby と共に制作した楽曲は、先ほども言及した「Animal」というシングルです。Stunna と DaBaby は両者ともにノースカロライナ出身であり、共通の知り合いであったDJ B Eazy の仲介によって出会ったそうです。

彼は Interscope Records の他に、DaBaby の主催する Billion Dollar Baby というレーベルに所属しています。何度も言いますが、 彼のキャリアに DaBaby は不可欠であり、その事実については 「Ashley」 という楽曲にて DaBaby 自身もこのようにラップしています。

I got my young n***a rich in six months

俺は6ヶ月の間に兄弟をリッチに変貌させたんだ

Stunna 4 Vegas – Ashley (feat. DaBaby)
MVもふざけまくってて、なかなか面白いので是非。

Stunna や DaBaby たちの MV は基本こんな感じのコミカルなスタイルで、Reel Goats というビデオチームによるものがほとんどです。Reel Goats によるビデオの特徴は、DaBaby の「BOP」のビデオに見られるような、ダンスを中心としたコミカルなスタイルですが、実はかなりの実力派集団で、DaBaby の「Intro」のビデオなんかを見てもらえれば、その映像技術の高さがお分りいただけると思います。

『Big 4x』

さて、話を今回の主役である Stunna 4 Vegas に戻します。

DaBaby との出会いから、Stunna 4 Vegas を取り巻く環境は劇的に変化していきました。そんな中、彼は2019年の5月に新しいプロジェクトである「Big 4x」をリリースしました。こちらのアルバムですが、DaBaby はもちろん、Lil Durk や Offset、Young Nudy などを客演として迎えつつ、プロデューサー陣はStunna が得意とする音数の少ないビートを得意とする Producer 20 や Jetsonmade などで固められています。

Lil Durk はシカゴ、Offset や Young Nudy はアトランタと、地域の垣根を超えたキャスティングなので、いろんなジャンルのラップが一枚のアルバムに集約されています。本当に聴いていて飽きないし、何よりも展開が予測できないので楽しいです。アルバムから少しだけご紹介いたしますので、まずはこちらをお聴きください。

お聴きいただいたのは「Big 4x」の中でも個人的おすすめ、Lil Durk との楽曲「Durkio」です。「Durkio」とは、Lil Durk のニックネームのようなものなんですが、客演のラッパーの名前をそのままタイトルにしてしまう大胆さが Stunna の性格を物語っています。こちらの楽曲で Stunna はこのようにラップしています。

I feel like Durkio, why? ‘Cause I signed to the streets
Lil Durk になった気分だ。なぜかって?ストリートと契約したからだよ

I can’t reply to no beef, I’m sendin’ lil’ nigga slang iron for me
喧嘩なんかに応えるはずがない。自己防衛のために武装した仲間を送り込むぞ

Stunna 4 Vegas – Durkio (feat. Lil Durk)

このラインは Lil Durk を客演に迎えたことを最大限に活かした良リリックですね。一行目は「Signed To The Streets」シリーズ (通称STTS) という Lil Durk によるシリーズアルバムの名称と、ストリートと契約を交わす (つまりギャングスタとして生きていく) ことをかけています。普通にラップしても秀逸なラインですが、Lil Durk 本人が客演として参加している楽曲でこれをラップすることによって、説得力が増し増しになっています。

Lil Durk による 「Signed To The Streets」シリーズ

『RICH YOUNGIN』

そしてそして、本日リリースされましたニュープロジェクト『RICH YOUNGIN』についてです。タイトルの「Rich Youngin」とは「金持ちの若者」を意味しており、ここ一年で急激にリッチになった彼にふさわしいタイトルだと思います。

客演は DaBaby に Lil Baby、Blac Youngsta、Offset の4人、通しの時間は30分きっかりとアルバム全体をミニマルに押さえ込んでいる印象を持ちました。

売れる前はゴリゴリだったのに、ある程度売れてしまうと番人ウケを狙ってかG臭が薄くなるラッパーって結構いるんですよね。G好きな私にとって、それはとても悲しいことなんです。ですが、Stunna の場合はそんな私をひとまず安心させてくれました。こちらは、先行シングルとしてリリースされていた Offset との楽曲「Up The Smoke」の一節です。

They wipe his nose if I say so
俺がそうしろって言ったら、仲間たちはあいつを殺すぜ

It’s a green light when I say go
俺が行けっていう時、信号が青に光ってるようにな

Stunna 4 Vegas – Up The Smoke (feat. Offset)

「Wipe someone’s nose」というスラングは、我らが Young Thug によって生み出されたギャングスタ・スラングの一つで、「対立するギャングの構成員を殺す」という意味があります。鼻水を拭いてあげる訳じゃありません。このラインで Stunna は彼の仲間が、彼に対して持っている忠誠心を、信号のたとえと絡めて強調しているんです。ギャングへの忠誠心を、ギャングスラングでラップしてくれたので、彼から漂うG臭がまだかなり強い事がわかり安心しました。

こちらも先述の Reek Goats によるビデオです。

アルバムを通して全体的に少しポップになった印象を持ちましたが、8曲目に収録されている『F*CKING UP FREESTYLE』では、依然として Stunna 独特の雰囲気を醸し出しています。こちらの楽曲は 10K.Caash や Splurge などと楽曲を制作している BeatByJeff というプロデューサーによって手がけられています。彼のビートは極端に音数が少なく、極限まで音が削ぎ落とされています。もともと、音数の少ないビートの上で激しいラップをする事が彼のアイデンティティだったので、ある意味原点回帰的な楽曲なのではないでしょうか。

まとめ

色々と書きましたが、伝えたいことはただ一つ。Stunna 4 Vegas は今年どんどん上がってきます。これからの彼の動向が楽しみです。この記事を読んで彼を知った方も、まだまだ遅くはありません。ぜひこちらのオリジナルプレイリストもチェックよろしくお願いします。

↓XXSオリジナルプレイリスト

https://music.apple.com/jp/playlist/stunna-4-vegas-richest-youngin-of-all-time/pl.u-xlyNAzdukDNrmK5?l=en

Quando Rondo – 2020年ブレイク必至の若きホープ

今週ニュープロジェクト『Diary of a Lost Child』をリリースしたジョージア州サバンナ出身のラッパー Quando Rondo。人気映画「Fast & Furious (ワイルドスピード)」の最新作のサウンドトラックにも参加するなど、活躍の場を広げ始めている彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。

Quando Rondo とは

Quando Rondo こと Tyquian Terrel Bowman はジョージア州サバンナ出身の20歳。Quando Rondo というステージネームは、幼少期のあだ名「Ty-Quando」と、彼の敬愛するバスケットボールプレイヤー「Rajon Rondo」からとったものだそうです。

Rajon Rondo(2020年現在ロサンゼルス・レイカーズ所属)

彼は10代前半頃から友人たちの死と直面するなど過酷な生活を送ってきました。Young Thug や Rich Homie Quan、Chief keef らの楽曲を聴いて育ったという彼の音楽の特徴は、ストレートなリリックと聞き心地の良いメロディアスなフロウです。歌うことから始めたという彼は、「ラップと歌の違いを明確にする必要はない」と語っており、R&Bとも解釈できる彼のスタイルは幅広い層に受け入れられています。今までヒップホップやラップというジャンルに抵抗があったという方にもオススメのラッパーの1人です。哀愁漂うビートに乗る彼の歌声には、一度聴くと病みつきになる中毒性があります。

キャリアの開始

ラッパーとして本格的に活動し始めたのは2017年頃とキャリアは浅い彼ですが、翌年2018年にはいきなりヒット作を世に送り出します。それがこの曲、Lil Babyを客演に迎えた『I Remember』です。

I Remember (feat. Lil Baby)

Quando の壮絶な人生を振り返るという内容の一曲。BPM50前後のゆったりとしたトラックに彼の歌心のあるフロウが映えます。アトランタの人気ラッパー Lil Baby の参加もあり、この曲で彼は一気に知名度を上げます。

YoungBoy Never Broke Again との出会い

Quando のブレイクを語るにおいて、YoungBoy Never Broke Again (以下 NBA YoungBoy) との出会いは欠かせません。

NBA YoungBoy (左) とQuando Rondo (右)

今や NBA YoungBoy のレーベル Never Broke Again にも所属している Quando ですが、二人の関係性は、NBA YoungBoy が Instagrem を通じて Quando に連絡をとったことから始まったそうです。「俺の才能を最初に見出したのは彼なんだ」と Quando が語るように、彼の NBA YoungBoy への信頼が厚いことが分かります。ちなみに、ラッパーとしてのキャリアでは NBA YoungBoy が先輩ですが、年齢は Quando が1歳年上です。

XXL のインタビューでも語るように、彼の1番お気に入りのジュエリーは NBA YoungBoy から貰ったチェーンだそうです。

この二人はラップスタイルも似ており、意気投合するのも納得です。NBA YoungBoy が 2018年にリリースしたミックステープ『4respect 4Freedom 4Loyalty 4WhatImportant』にはQuando が4曲に参加しています。

『Permanent Scar (feat. Young Thug & Quando Rondo)』

Kenny Beats と Cardiak がプロデュースを務め、Young Thug と Quando Rondoが客演参加した豪華な1曲。

この曲のタイトル『Permanent Scar (永久的な傷)』とは、NBA YoungBoy の額に残る傷を指しています。彼は4歳の頃、レスリング中に首を怪我してしまい、治療としてハローベストという器具を装着していたことで額に傷が残ってしまったそうです。

NBA YoungBoy の額の傷と、ハローベスト

今回の主役である Quando Rondo は、この曲で自身のロックスターのような生活をフレックスしています。

ミックステープのリリース

2018年、彼は二つのミックステープをリリースします。

『Life B4 Fame』

Lil Baby や Lil Durk、OMB Peezy らが参加した同テープは MyMixtapez にて、わすが二日間で100万回再生を記録。この『Life B4 Fame』というタイトルは、2015年に NBA YoungBoy がリリースした1stミックステープ『Life Before Fame』にあやかって付けられたものでしょう。ここでも NBA YoungBoy へのリスペクトが感じられます。

『Life After Fame』

Youngboy Never Broke Again や Rich Homie Quan、Boosie Badazz らが参加した2ndミックステープ。同作から1曲ご紹介させていただきます。

「Kiccin Sh*t」

YNW Melly の楽曲なども手掛ける EY3ZLOWBEATZ プロデュースによるトラックですが、彼は最初このビートが好みではなかったそうです。しかしレコーディングを進めるにつれてこのビートが自分に適していることに気づき、スタジオを去る頃には納得のいく曲が完成していたといいます。

I’m kickin’ shit in Givenchy, these ain’t no Foamposites 
おれはフォームポジット(ナイキのスニーカー)じゃなくジバンシーでキメるぜ

というフレックスで始まるフックが特徴的な楽曲。


I’m so crip, I take a shower with a blue rag
俺はクリップスだから青いラグでシャワーを浴びる
And I can’t walk up out my house without my blue flag 
そして俺は青い旗がないと家から出られねえ

このように自身が所属するギャング組織、クリップス (チームカラー:青) への忠誠を誓うラインも出てきます。Quando の甘い歌声とギャング臭漂うリリックが意外にも完璧にマッチしており、彼の魅力が最大限に発揮された1曲です。

ちなみにこの曲のフックで使われている彼のフロウは、Rich Homie Quan の楽曲『The Author』からの引用で、「ネクストRich Homie Quan」との呼び声も高い彼ならではのリファレンスです。

2018年12月には、カリフォルニア州ベイエリアのラップグループ SOB X RBE のツアーにオープニングアクトとして参加し、見る見るうちにファンベースを獲得していきました。

そして2019年、彼は満を持して3作目のミックステープをリリースします。

『From the Neighborhood to the Stage』

NoCap や Shy Glizzy、Blocboy JB、Polo G らが参加した3rdミックステープ。同作からも一曲ご紹介させていただきます。

『Gun Powder』

NBA YoungBoy やDaBaby、Rod Wave らへの楽曲提供でも知られる Tahj Money によるプロデュースのこのトラックは、なんと8ヶ月もの間 Quando のメールボックスに眠っていたものだったそうです。

同曲は、タイトルからも察しがつくように攻撃的なリリックが特徴的な一曲です。

I don’t know shit about no murder, gotta keep my mouth closed
俺は殺しについて何も知らない、口をつぐむぜ
Just got a brand new Desert Eagle with a cutter that fold
新しいデザートイーグル(自動拳銃)と、アサルトライフル
Shower in bleach, rip up the car, make sure you burn all the clothes
(痕跡が残らないように)漂白剤で車を洗い、服を全部燃やす
My youngin’ down to shoot to kill just for a line of some coke
俺の連れはコカインを楽しむためだけに人を撃ち殺す
Sendin’ texts to all the opps like yeah we want all the smoke
早くお前らを殺して一服したいだけ、と敵にメールする
We up by six, they down by two, they need the go fix the score
少人数だが、お前らをやっちまうぜ
Pop out wit’ poles,
アサルトライフルの銃声を響かせる
told ’em I won’t spare no kids or no hoes
ガキでも女でも容赦しねえ
Foot on the pedal, heavy metal, send some shots through yo’ clothes
引き金を引いて服の上からぶち抜いてやる

なんとも恐ろしいリリックですが、彼は「殺人についてのリリックは必ずしも真実に基づいたものではなく、皆んなに求められているから書いているだけ」と保険をかけています。真偽がどうであれ、こういったリリックのスリル感を味わうのもヒップホップの楽しみ方の一つではないでしょうか。

ここまでの3作のミックステープのタイトル [『Life B4 Fame (名声を得る前の人生)』Life After Fame (名声を得てからの人生)』From the Neighborhood to the Stage (地元からステージへ)」]』からも、彼が2018年から2019年にかけて一気にブレイクを果たしたことが伺えます。

デビューアルバムのリリース

2020年1月、Quando は待望のデビューアルバム『QPac』をリリースしました。

このファン待望のデビューアルバムには、彼自身の内面的な成長が大きく反映されています。

昨年第一子が誕生し、父親となったQuandoは、『Letter To My Daughter』にて娘への愛を歌います。

I done dedicate my whole heart to you, girl

俺の心を君に捧げるよ
You’re the only one know how I feel

俺の気持ちをわかってくれるのは君だけなんだ
Run it up to just buy the whole world

全てを手に入れよう
I don’t care if it cost a hunnid mill’

それがいくらしたって気にしないさ
Want you to know you the only one

君は唯一の存在だってことを分かって欲しいんだ
Made me change the way that I live

俺の生き方を変えてくれたのは君だから
As a child, promise you’ll have fun

君が立派になるまで、楽しませ続けると誓うよ
Ain’t gotta worry ’bout a dollar bill

金のことだって心配いらないさ

Letter To My Daughter
娘を抱くQuando

このような愛に溢れたメッセージがアルバムの随所に見られ、父親として一皮向けた彼の成長が見受けられます。7曲目『Marvelous』に参加している Polo G のヴァースから言葉を借りると、「That gang sh*t a joke, n***a, all you got is familyギャングシットなんてジョークさ、あんたが手に入れたのは家族なんだ」の一言に尽きます。愛する妻と娘に恵まれ、生き方を考え直した Quando Rondo の今後に注目です。

終わりに

今回はジョージア州サバンナ出身のラッパー、Quando Rondo についてまとめました。彼の不良少年臭漂う見た目からは想像できない歌心のある優しいフロウ、ご堪能いただけましたでしょうか。

人気映画「Fast & Furious (ワイルドスピード)」のサウンドトラックに参加したり、今週 (2020年8月26日) にはニュープロジェクト『Diary of a Lost Child』をリリースしたりと、今後の彼の活躍からますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

西海岸を牽引する名プロデューサー Mustard のすべて

XXS Magazine をご覧の皆さん、はじめまして。音楽ブロガーのアボかどと申します。普段は「にんじゃりGang Bang」というブログで、ヒップホップを中心とした作品の紹介などをやっているのですが、このたび縁があってXXS Magazineさんに寄稿させていただくことになりました。

さて、2019年も様々な傑作がリリースされましたが、私が特に気に入った作品の一つに、西海岸のラッパー・03 Greedoのアルバム「Still Summers in the Project」があります。Gファンクなどの伝統的な西海岸サウンドを踏まえつつ、現行の音にアップデートされた同作を手がけたのは、同郷のプロデューサー・Mustardです。TygaやYGなどのプロデュースで頭角を現し、2010年代の西海岸シーンを牽引した名プロデューサーの一人です。今回は、そんなMustardのキャリアを振り返りつつ、2020年代の展望についても考えて生きたいと思います。

西海岸のジャーキン

MustardはLA出身で1990年生まれのプロデューサーで、以前はDJ Mustardと名乗っていました。本名はDijon Isaiah McFarlaneで、芸名の由来はもちろん本名がディジョンだからです。最高。

名前の由来にもなったマイユ社のディジョンマスタード

トラップ風の曲やR&B系のメロウな曲も作りますが、シンプルなループにGファンクなどの西海岸フレイバーを込め、バウンシーな808を絡めた「ラチェット・ミュージック」と呼ばれる作風で広く知られています。何から影響されて作風を確立させ、いかにして成功を掴んだのか。まずはキャリアをスタートした時期の西海岸ヒップホップシーンの状況から探っていきたいと思います。

Mustardが登場した09年頃の西海岸ヒップホップシーンは、「ジャーキン(ジャークとも)」というムーブメントの全盛期でした。ジャーキンはミニマルなビートで踊るストリートダンスの一種で、それに使われる音楽のスタイルと共に西海岸全体に広まっていきました。サウンド的にはベイエリアでThe Neptunesなどの影響を受けて誕生した、スカスカでBPM早めのパーティ・ラップ「ハイフィ」が発展したものです。

ジャーキンはハイフィと比べるとBPMが遅めで、代表曲にはNew Boyz「You’re Jerk」(2009年)や、Audio Pushの「Teach Me How To Jerk」(2009年)などが挙げられます。個人的なおすすめはCold Flamez「Miss Me Kiss Me」(2009年)。ジャーキンはダラスで同時期に盛り上がっていたダンスのムーブメント「ドギー」の振付を取り入れたりしながら、Snoop Doggらベテランも反応してメインストリームにも進行していきました。

ジャーキンの流行は、西海岸の様々なアーティストを巻き込んでいきました。その中の一人に、Ty & Koryというデュオで活動していたTy Dolla $ignがいます。Sa-Ra CreativeやBlack Milkらの作品への参加など、どちらかというとそれまでアンダーグラウンド寄りの活動を行っていたTy Dolla $ignでしたが、ジャーキンの流れを汲んでヒット曲を生み出します。YG、TeeCeeと共に発表した「Toot It And Boot It」(2009年)です。それまでのカラーを踏まえたネタ感強めの質感とジャーキン以降の重低音の組み合わせが話題を呼び、YGと共にジャーキンのシーンで一躍注目を集めます。

そして、このTy Dolla $ignからビートメイクを習ったとされるのが、本稿の主役であるMustardです。MustardはSway’s Universeのインタビューで、「YGのためにビートメイクを始めた」と話しています。プロデューサーとしての初仕事は、恐らく2010年のYGのミックステープ「The Real 4 Fingaz」収録の「Glowin」です。

2010年にはThump Recordsというレーベルから、Mustardが仕切ったコンピレーション「Let’s Jerk」がリリースされます。Thump Recordsは、西海岸のロウライダー雑誌「Lowrider Magazine」監修のオールディーズのコンピレーションなどをリリースしていたレーベルです。Ty Dolla $ignはLowrider Magazineのコンピレーションにも収録されていたファンクバンド・Lakesideのメンバーの息子なので、恐らくその縁でこの作品のリリースに繋がったのだと推測されます。同作のサウンドは、タイトル通りのジャーキン路線。Mustardは、こうしてジャーキン畑のプロデューサーとしてキャリアをスタートしました。

Rack Cityとラチェット・ミュージック

ジャーキンのムーブメントに乗って成功を収めたのはTy Dolla $ignだけではありません。08年に1stアルバム「No Introduction」をリリースし、一足先にメジャーデビューを果たしていたYoung Money所属ラッパー・Tygaもその一人です。同作はロック的なフックを導入するなどクロスオーバー志向も強いポップヒット狙いの作品でしたが、当時の他のYoung Money作品と比べてセールス的にはあまり成功とは言えない結果になりました。

しかし、「コンプトンの非ギャングスタラッパー」という誰かの先駆けのようなキャラクターのTygaは西海岸の非ギャングスタムーブメントであるジャーキンのシーンで人気を集め、New BoyzやYGらに客演で呼ばれるようになります。そして、その流れでMustardとも合体。その繋がりは、Mustardのキャリアを変える大ヒット曲に結実する事となります。「Rack City」(2011年)です。

同曲の大ヒットは、Mustardを一躍人気プロデューサーに押し上げました。この頃の作風はジャーキンから一歩進み、どこかGファンク的な匂いを感じさせるものになっています。多くの人が思い浮かべるMustardのイメージは、この時期に確立されたのではないでしょうか。このMustardの作風と、同時期にベイエリアで人気を博していたIamsu!らのサウンドは「ラチェット・ミュージック」と呼ばれ、ジャーキンに続いて西海岸全体に定着することとなります。

Lil Jonからの影響

2013年には、Mustardは自身名義のミックステープ「Ketchup」を発表します。マスタードという名前でケチャップというタイトルを付けるセンスからして最高なのですが、同作はMustardとその周囲のことを総括するような内容になっています。同作はラチェット系の曲を中心に据えメロウな曲も収録した、新たな西海岸サウンドの王道といえるような作品でした。客演陣に目を向けると、YGやTy Dolla $ignといったお馴染みの面々、Nipsey HussleやE-40らに混じってDorroughが参加しています。Dorroughはダラスのラッパーで、先述したドギーの代表的なアーティストです。また、TimbalandやLil Jonらの喋りをフィーチャーしていることもポイント。彼らの参加は、Mustardのルーツという意味で非常に重要な要素といえると思います。

Mustardによるミックステープ「Ketchup」(2013年)

Mustardは、Lil Jonからの影響を公言しています。「Rack City」のヒット後にYoung Jeezyや2 Chainzなどアトランタ勢がいち早く反応したのも、MustardのシンプルなビートにLil Jonの匂いを感じとったことが要因の一つとしてあるのではないかと推測されます。

また、Lil Jonからの影響はビート面だけに留まりません。2014年にリリースされたYGの1stアルバム「My Krazy Life」収録の「Left, Right」では、自らマイクを握ってLil Jonのように煽りを披露しています。

2013年にはRoc Nationと契約を果たし、シーンでの存在感を不動のものにしたMustard。その後もラチェット系の曲を中心に多くのヒット曲を放ち、「10 Summers」(2014年)などリーダー作も高い評価を集めていきます。

ラチェット・ミュージックの次

EDMが大きな人気を博した2010年代には、「DJの年収ランキング」のような記事をよく目にした方も多いのではないでしょうか。名前にDJを冠していたMustardも、彼らへの憧れを口にしていたことがありました。Kid Ink「Show Me」(2013年)や TeeFlii「24 Hours」(2014年)など、ハウスをネタに使った曲も作っており、またLFMAO「Shots」(2009年)などでのLil Jonの活躍もあったので、MustardがEDMのDJに興味を持つのは自然な流れだったのかもしれません。

そんなMustardは、2016年にTravis Scottをフィーチャーした「Whole Lotta Lovin’」というEDM風の曲をリリースします。

同曲は大ヒットまでは行くことはなく、EDM的なノリを大々的に行うこともその後ありませんでしたが、この頃あたりからMustardはラチェット・ミュージックの次を模索するような動きを見せるようになります。

Roc Nation仲間のRihanna「Needed Me」(2016年)や21 Savege「FaceTime」(2017年)などではオルタナティヴR&B的な作風にも挑戦しています。

その脱ラチェットの取り組みが結実したのが、Mustardのアルバム「Cold Summer」(2016年)にも参加していたUKのシンガー・Ella Maiの「Boo’d Up」(2018年)です。美しいストレートなR&B路線である同曲はじわじわと話題を集め、同曲を収録したアルバム「Ella Mai」(2018年)もセールス・評価の両面で成功を収めました。

ここでのMustardの作風はメロウで落ち着いたスウィートなものでしたが、Mustardの心の師匠・Lil Jonもまたこういった作風を得意としていました。代表的なものでは、2004年のLil Jon & The East Side Boyzの名曲「Lovers and Friends」が挙げられます。試行錯誤を繰り返していたMustardは、自身のヒーローの別サイドに到着したのです。

クランク復権の流れ

Ella Maiのブレイク後となる2019年、Mustardは作品数こそ少ないものの多彩な活躍を見せてくれました。YGの「Go Loko」ではLAでヒット中のAmbjaay「Uno」を意識したようなラテン風味に挑戦し、新鋭・Roddy RicchにもR&B風の「High Fashion」を提供。前述した03 Greedoのアルバムではウェッサイ色を強調した作風を聴かせてくれました。また、日本のラップグループ、BAD HOPにもバンギンかつバウンシーな「Poppin」を提供しています。

そんな中リリースした自身名義のアルバム「Perfect Ten」はこれまでの集大成のようでありつつ、過渡期のようにも感じられる作品でした。メインとなっているのはラチェット・ミュージックとElla Mai的なR&B路線でしたが、ここで特に重要な曲として挙げたいのは、1stシングルとしてリリースされたMigosとの「Pure Water」です。

シンプルなシンセがループされるビートは、ラチェット系の路線ではありますがあまりGファンク風味は感じません。どちらかというとクランクに近い音色のシンセを使っており、アウトロではMustard自らマイクを握り、Lil Jon & The East Side Boyzを思わせる掛け声を披露。さらにMVではMigosがLil Jonっぽいサングラスを着用しています。Lil Jonへのオマージュが満ちた同曲を、Ella Maiブレイク後の初作品の1stシングルに持ってきたことは、自身のルーツへのより強い回帰を感じさせます。

2019年は、ベイのSaweetieが「My Type」でPetey Pabloのクラシック「Freak-A-Leek」をサンプリングし、Quality Control Music所属のメンフィスの新人・Duke Deuceがその名も「Crunk Ain’t Dead」なる楽曲を発表するなど、クランク関連の話題がぽつぽつと見られた年でした。

BETのヒップホップアウォードで披露された「My Type」と「Freak-A-Leek」のメドレー形式のライブで、Petey PabloとLil Jonが出てきた瞬間の盛り上がりを見ていると、2020年代にはクランク復権の流れが訪れてもおかしくはないと思わされます。そしてその流れが本当に訪れるのなら、Lil Jon直系のプロデューサーであるMustardはさらなる高みに登っていくのではないでしょうか。シーンに登場して気付けば10年が経つMustardですが、今後も目が離せません。

記事でご紹介した楽曲のプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/mustard-legendary-producer-from-west-coast/pl.u-KVXB2aGsZRjKqox

アボかどさんのブログ「にんじゃりGang Bang」: https://fuckyeahabocado.tumblr.com/

XXS Album of the Year 2019

今年も残すところあと一日。皆さんは年末年始をどのようにお過ごしでしょうか。そして、 2019年はどのような一年だったでしょうか。私たち XXS Magazine ライターは起きている時間はすべて音楽を聴くことに費やす勢いで、様々な音楽に囲まれて一年を過ごしてきました。

今回はそんな私たち3人が選んだ、それぞれの「Album of The Year」についての記事です。正直、それぞれのアルバムにそれぞれの良さがあり、ベストアルバム一枚を選ぶことは難しいので、かなり個人的で主観的な記事になっております。その点ご了承ください。それでは早速、一枚目からいってみましょう。

1. Skepta – Ignorance Is Bliss

今年もたくさん音楽を聴きました。Apple Replay で今年のまとめを分析すると、610個のプロジェクト(おそらくこの数字には EP やシングルも含まれています)をチェックした僕ですが、今回はその中でも最も印象に残った Skepta によるアルバム ”Ignorance Is Bliss”について書いてみようと思います。

タイトルの “Ignorance Is Bliss” は日本のことわざに直すと「知らぬが仏」。このテーマはサーモグラフィーによって撮影されたアルバムのカバーにて巧みに表現された上で、楽曲の中でも如実に感じ取ることができます。

Ignorance Is Bliss のアートワーク

無気力に頬杖をつく人、耳をふさぐ人、悶え苦しみ叫ぶ人、人差し指を唇に当てるサインを出す女性の4枚の写真が、中央に配置された生まれたばかりの娘を抱く Skepta の写真を取り囲んでいます。さらに四隅に、中指を立てた拳、握り合ったふたつ手、拳銃、スマートフォンの4枚の写真が配置される形でアルバムカバーが構成されています。

イントロとしての役割も果たす一曲目の楽曲 “Bullet from a Gun” は、当アルバムのテーマを巧みに反映したものでもあります。試しにカバーアートと照らし合わせてリリックを見ていきましょう。

Like a bullet from a gun, it burns
まるで拳銃から撃ち出された銃弾のように、それは燃えるんだ
When you realise she was never your girl
彼女がお前の女じゃないと気づいた時にね
It was just your turn
ただ、お前は遊ばれていただけだったんだ

Skepta – Bullet from a Gun

こちらのリリックとリンクしているのは、右下と右上の写真。リリックでは、愛し合っていると思っていた女性が、実は自分のことを遊びとしか思っていなかった状況についてラップしていますが、このような状況が主に先ほどの二枚の写真で表現されています。繋ぎ合った手ですが、片方の手はサーモグラフィーで温度が冷たいことを表す青で表現されています。そして、拳銃も青で表現されていることから、「片方が本気でない恋愛は、撃ち出された銃弾のように燃え尽きる」ことを表しています。燃え尽きてしまった恋も、知らなかったらそんなことにはならなかった、というまさに「知らぬが仏」状態。このようにアルバムを通してテーマに即したリリックがちりばめられているのが、このアルバムのミソなのです。

Now the friendship’s based on how quick I reply to text
今となっては、友情はどれだけ早く返信するかにかかってる

Skepta – Same Old Story

Now you only text when you’re bored on the weekend
君は週末暇な時だけ、俺にメールを送ってくるよな

Skepta – Love Me Not (feat. Cheb Rabi & B Live)

このようなリリックからは、インターネットが普及したことによって冷たく、脆くなってしまった人間関係についてのラップです。これらのリリックはアルバムカバーの左下の写真とリンクしています。こちらもサーモグラフィーの特性を利用して、赤くなっている手のひらに対して、スマートフォンは青く表示されています。

「Ignorance Is Bliss」まとめ

放つ言葉がすべてパンチラインとも言える Skepta が、グライムが盛り上がってきているこの時期に本気でアルバムを製作したらどうなるのかを、圧倒的なクオリティとともに見せつけられた感じがし、やはり今年のアルバムの中ではかなり印象に残っています。本当はもっと語りたいことだらけなのですが、本記事で紹介する他のベストアルバムについても知っていただきたいので、今回はこの辺で終わりにしておきます。それでは、”Ignorance Is Bliss” の魅力についてでした。

(Written by whoiskosuke)

2. James Blake – Assume Form

2019年ももう終わり、ということで今年聞いた中で一つアルバムを紹介しようという事になって、いろいろと考えた結果、James Blakeの”Assume Form” を選びました。

James Blake – Assume Form

Assume Form とは日本語にするのがかなり難しいんですが、ニュアンス的に言うと、「型にはめ込む」という感じでしょうか。じゃあジェイムスにとっての型とは何なのか。

それを理解するのに大切なのは、最近やたらと問題になるジャンルというものです。ジャンルというのはある意味、音楽を聴く際に基準となる透明の箱のようなものです。

透明な箱(イメージ)

この透明の箱を通じて人は音楽という外界に触れる。言うなればこの箱は、外観の様相を呈している。でも、この箱は「これはジャンルで言うなれば、なんちゃらかんちゃらだ。」というふうに簡単にその音楽を目利きするための外観でしかありません。

確かに、ジャンルは大切なものです。ジャンルがあれば、ジャズのコードを一つも理解していなくても、これはジャズだ。と理解するポーズをとる事ができます。でも、僕たちを守る透明の箱、このデジタル時代において、そこに閉じこもることに本当に意味があるのでしょうか。彼の一曲目のタイトル曲、”Assume Form” にその答えが隠されています。

ピアノの旋律を中心としたこの曲で一際存在感を放つライン。

You know, you know, you know, you know. Appearance is nothing.

なあ、外観なんて何でもないんだよ。

James Blake – Assume Form

まるで、僕たちが閉じ込められていたジャンルという「透明な箱」から解き放ってくれるような一言。

思えば彼は2010年の伝説的名盤、”James Blake” 以降、ヒップホップやアンビエントR&Bなど、ポストダブステップというジャンルに捉われることなく、活動を続けてきました。

”James Blake”

彼は音楽を聴く時の姿勢ともいうべき「透明な箱」の外側から音楽を作り続ける。彼がジャンル(外観)を見るのではなく、ジャンルが彼を迎えにいく。彼こそが一つの外観(基準)であり、全てのジャンルは彼に追従せざるを得ない。

つまり、彼の音楽は一色に圧倒的な波長と奥行きを含んだ、いわば虹色のアルビニズムとも言える。彼の音楽に触れれば誰もが閉塞的な透明の箱から解放され、その永遠の延長の中を旅することができる。

Geniusでは「Assume Form」を彼の楽曲を通してこのように説明しています。

Assume form meaning that you finally take the shape of who you were always supposed to be.

Assume formとはあなたが自分自身をこうあるべきだ、というある種の型にはめこむことです。

When you let go of everything else and just be who you truly are, things are easier, more natural, light, grounded, emotional, and ultimately real.

そのような雑念を解き放ち、本当のあなた自身となれば「物事」はもっと簡単になり、ナチュラルになり、根本的になり、感覚的になり、究極に「現実的なもの」となります。

Genius

「Assume Form」 まとめ

このアルバムでは、Travis Scott や Metro Boomin , André 3000 や 2019年時の人となった Rosalía など様々な世代やジャンルから多くの客演が参加していますのでヒップホップが好きな方にも非常に聞きやすい作品となっています。

どの曲にも彼の細胞が詰まっていますので、あまり多くは説明はしません。もしまだ聞いてない、という方は是非彼のアルビニズム的七色の世界に浸ってみてください。

(Written by Kensho Sakamoto)

3. Dave – PSYCHODRAMA

Daveのデビューアルバム「PSYCHODRAMA」は間違いなく今年のベストアルバムの一つです。実際、イギリス(もしくはアイルランド)で毎年最も優れたアルバムに対して送られる「マーキュリー・プライズ」を受賞しており、もはや言うまでもない事実ですよね。

この作品の魅力は、何と言ってもアルバムとしての完成度の高さにあります。アルバムのコンセプト、メッセージ性、トラック、リリック、ワードプレイ…など、どこを取っても非の付け所がないです。

今回は、アルバムの中からリリックを引用しながら、その魅力を簡単にお伝えできればと思います。

Tuesday, 23rd of January, 2018
2018年1月23日火曜日、
I’m here with David
私はデイヴとここにいる。
This is our first session
これが我々の最初のセッションだ。
We’re just gonna talk about your background
君のバックグラウンドの話から始めるとしよう。
Where you’re from, any issues you’ve been dealing with
君がどこから来たのか、どんな問題に対処してきたのか。
So, where should we start?
さあ、どこから始めようか。

アルバム名「PSYCHODRAMA」とは演劇の枠組みと技法を用いた心理療法のことです。セラピストのセリフで始まる一曲目「Psycho」のイントロから分かるように、心に不安や悩みを抱える彼はまさにこのアルバムを通してPSYCHODRAMAを試みているのです。

自身の出身地名をタイトルに冠した二曲目「Streatham」では若き日の苦悩や葛藤をスピットし、「Black」では黒人として生きることの難しさについて歌います。

序盤から重い内容が続くのですが、四曲目Purple Heart」では恋人への愛を再確認し、治療の進行の様子が伺えます。

I guess it’s important that you have someone you can trust
信頼できる人を見つけるのは大事なことだ
Especially in the position you’re in, and um…
過酷な状況にいる君にとっては特にさ
I think it’s a really good trait that you’re able to find positives
ポジティブなことを見つけられるのは素晴らしいことだと思うよ
Despite some of the challenges, for want of a better word, that you face
様々な困難に直面しているにも関わらずね

その後アルバムの中盤からは、彼のラッパーとしてのキャリアを中心に話が展開されていきます。

ナイジェリアのレゲエ/ダンスホール・シンガー、Burna Boyを客演に迎えた「Location」は、ラッパーとしての成功を歌った一曲です。Burna Boyの甘い歌声とDaveの巧みなラップが完璧にマッチした良曲です。

ラッパーお得意のフレックス(自慢)を中心としたありがちな内容ですが、彼は巧みなワードプレイで魅せてきます。

ここでハイレベルなワードプレイを一つご紹介させていただきます。

Look, money like the alphabet
見ろ、金はアルファベットのようだ。
If you wanna see P’s, gotta pass on the ends
金が欲しいなら、最後までやり抜かなければならない。
 

※Pは金を表すイギリスのスラング。

「仕事や任務を最後までやり抜かないと金を手にすることはできないぜ」というラインですが、なぜ金はアルファベットのようなのでしょう。

ポイントは”the ends”と、アルファベットの順番です。よく聴いてみてください。”the N’s”に聴こえませんか?アルファベットの順番を思い浮かべてください。ABCDEFGHIJKLMNOP…。もう分かりましたね。そうなんです。Pという文字はNをpass on(通り越す)しないとやって来ないのです。意味をしっかり通してストーリーを進めつつ、さらっとこんなワードプレイを挟んでくるのですから圧巻です。

その後、人気ラッパーJ Husを客演に迎えた「Disaster」や、自身の出身地ロンドンについて歌った「Screwface Capital」、文字通り自身のいる『環境』について語る「Environment」と続きます。

N***as saw keys and went to trial for shottin’
奴らはコカインを売って裁判にかけられた
I saw keys, learned to play, and made thousands from it
おれはピアノを習って、それで大金を稼いだんだ

一つ目の『keys』はコカイン、2つ目はキーボード(Daveはピアノを弾けます)を意味しています。同じEnvironment(環境)で育っても、全ては自分の行動次第だということですね。

そして、1人の女性の悲劇を歌った9曲目「Lesley」で、いよいよ彼の治療も終わりを迎えます。アルバム序盤では自分自身の困難や問題ばかりに集中していた彼が、この曲では他人の悲劇に目を向けており、治療の効果がよく伺えます。

その後、治療を無事終えたDaveによるポップなラブソング「Voices」と、刑務所にいる兄に向けた楽曲「Drama」でアルバムは完結します。

「PSYCHODRAMA」 まとめ

アルバムのコンセプト、メッセージ性、ワードプレイと、何度聴いても見事な仕上がりです。実力と年齢は関係ないですが、今年21歳を迎える自分と同い年とは思えないほど知的で思慮深く、才能に溢れており、そういった意味でも強く刺激を受けた作品でした。もし、このアルバムを聴いたことがなかったという方がおられれば、是非一度リリックを追いながら聴いてみてください。衝撃を受けるはずです。

(Written by Riku Hirai)

最後に

お読みいただきありがとうございました。

2019年もたくさんの傑作と巡り会えた一年でした。

XXS Magazineは今年の10月末から本格的に始動し、皆様のおかげで徐々に認知されるようになってきました。

来年からは今までになかったような様々なプロジェクトを進めて行きますので、これからも皆様どうぞよろしくお願い致します。それでは、良いお年を!

フロリダのアップカミングラッパーたち

みなさんはフロリダといえば何を思い浮かべますか?

ディズニー・ワールド・リゾートやマイアミビーチなど、印象的な観光地が多数ありますが、近年フロリダから勢いのあるラッパーたちもたくさん出てきています。

昨年若くして亡くなってしまった XXXTENTACION を始め、殺人の疑いで現在も収監されている YNW Melly、他にも Rick Ross や Kodak Black などが有名なフロリダ出身のラッパーたちですが、今回はもっとアップカミングな(出てきたばかりの新しい)ラッパーたち4名を紹介していきます。

Jackboy 

【名前】Jackboy (Pierre Delince)

【出生】ハイチ共和国

【育ち】フロリダ州 ポンパノビーチ

【生年月日】1997年9月27日

まずは Jackboy というラッパーです。”超” アップカミングというわけではないので、ご存知の方も多いと思いますが、彼は Kodak Black のレーベルである Sniper Gang に所属するラッパーです。同じレーベルに所属し Kodak から影響を受けていることもあり、かなり Kodak に似たスタイルです(ていうか、ほぼ一緒)。

Kodak をたびたび客演に迎え、徐々に知名度を伸ばしてきた彼ですが、今年の9月にリリースしたアルバム “Lost in My Head” でいきなり覚醒しました。

If  I go broke right now (Right now)
もし俺が今すぐ貧乏になったら

Would  you still be around?
それでもそばにいてくれる?

If I go to jail right now (Right now)
もし俺が今すぐ刑務所に行ったら

Baby girl, hold me down
ベイビーガール 、俺を守ってくれよ

Or  would you leave me?
それとも離れていっちゃうの?

Baby, Don’t leave me
ベイビー、そばにいてくれよ

Jackboy – Would You Leave

こちらのリリックは先ほど紹介した “Lost in My Head” に収録されている “Would You Leave” という楽曲のものです。Sniper Gang とかいう名前からして危ないの確定のレーベルに所属しているくせに、こんな純愛ソングを作ってしまう所にギャップ萌えしますよね。

リリックからも Kodak Black から強い影響を受けていることを見てとることができます。かれらはやはり生粋のギャングスタであり、生きていくためには常にストリートで動き続ける必要があります。常にストリートに繰り出さなければいけないこと、それと同時に愛する人と幸せな時間を過ごしたいということ。彼らはいつも、その二つを両立できないことに葛藤を覚えます。

まずは Kodak Black による “Why You Always Gotta Go” からのリリックです。彼女の目線から自分を放置してストリートに繰り出していく彼氏に対しての気持ちをラップした楽曲です。

Why you always gotta go?
あなたはなんでいつも行っちゃうの?

Kodak, why you gotta leave?
コダック、あなたはなぜいなくなっちゃうの?

You always in the streets, you don’t make no time for me
あなたはいつもストリートにいて、私のための時間なんて作ってくれない

Why you always gotta leave me here on my own?
あなたはなぜいつも私を一人ぼっちにさせるの?

Why we can’t ever spend leisure time home alone?
なんで私たちは二人きりの時間を過ごせないの?

Kodak Black – Why You Always Gotta Go

そして次に Jackboy による “Bipolar” からのリリックです。こちらは彼女よりストリートを優先してしまう男性側の気持ちをラップしています。

I don’t wanna see you weep
君が泣いてる姿を見たくないよ

Sorry, but I have to leave
ごめん、でも行かなくちゃ

Can’t love you, I love these streets
君を愛することはできない、俺はストリートを愛してるから

Jackboy – Bipolar

いかがでしたか。Kodak を女性役、Jackboy を男性役と考えると、一連の会話ができあがります。ずっと一緒に曲を作っていると、無意識のうちに影響を受けてしまうのでしょう。

LPB Poody 

Jackboy 同様、Kodak Black に強い影響を受けたラッパーをもう1人紹介します。それは LPB Poody です。彼は Sniper Gang にこそ所属していませんが、うまい棒が刺さったような髪型や金色のグリルズなど見た目からしてバリバリ Kodak に影響を受けています。

【名前】LPB Poody (Robert Lee Perry)

【出生・育ち】フロリダ州 オーランド

【生年月日】1999年10月23日

ちなみに名前の “LPB” とは “Light Pole Baby” の頭文字をとったものです。”Light Pole” とは街灯のことでなのですが、「小さい頃から街灯のようにずっとストリートに立ち続けなければならなかったから」というどこか切ない命名理由だそうです。

生き抜くために盗みやドラッグの売買などの犯罪行為をを小さい頃から繰り返してきたため、彼はこれまでに少なくとも13回逮捕されています。何度も警察のお世話になった彼ですが、彼の一番のヒット曲である “No LOL’z” の一節でこのようにラップしています。

My YGs rollin’ ‘round with two Glocks
俺たち若いギャング達は両手に拳銃を持って走り回ってる

The crackas blitzed the trap, we hide the drugs inside a shoebox
警察がアジトにガサ入れに来たら、俺らはドラッグを靴箱に隠すんだ

Then hit the back
そして背後を撃つ

And jump the fence and then we outta there
そしたらフェンスを飛び越えてそこから逃げるんだ

The neighbors think we look so suspicious so now they stop and stare
俺らが怪しすぎて、近所の奴らは立ち止まって俺らのことを見てくるんだ

LPB Poody – No LOL’z
https://www.youtube.com/watch?v=H_EmmOczFVU

Yungeen Ace 

続いて紹介するのは Yungeen Ace というラッパー。彼のキャリアはかなり浅く、SoundCloud に楽曲をリリースし始めたのも2018年の3月下旬です。彼の育ってきた環境はかなり厳しく、楽曲の内容もシリアスなものが多い印象です。最近ではルイジアナのラッパー JayDaYoungan とジョイントアルバムを製作したりしていて、かなりあがってきています。

【名前】Yungeen Ace (Keyanta Tyrone Bullard)

【出生】イリノイ州 シカゴ

【育ち】フロリダ州 ジャクソンヴィル

【生年月日】1998年2月12日

彼が少し前にリリースしたアルバムである “Step Harder” は、Boosie Badazz や Lil Durk、Stunna 4 Vegas などをフィーチャーし、かなりハイクオリティに仕上げられた一枚になっています。同アルバムに収録されている楽曲 “Streets Diary” では、タイトル通りストリートで育った頃の体験を日記のようにラップしています。

All my life I done struggled
人生ずっと、もがき続けて来た

I’ve been raised by my mother
ずっと母親に育てられてきたんだ

Two bedrooms, seven brothers
二つのベッドルームに、七人の兄弟

Had to share with each other
狭いけど一緒に寝なきゃいけなかった

Lifestyle in the Frigerator its nothin’ to eat
冷蔵庫の中のように冷たい人生でだったし、その中に食べ物はなかった

We steady warming up noodles, on the floor where we sleep
俺たちはラーメンを寝床で温めてたし

Eviction notice on the door, we gotta leave in a week
立ち退きの張り紙がドアに貼られて、一週間でそこを去らなきゃならないこともあった

Yungeen Ace – Streets Diary

そんな彼ですが、2018年の3月初旬に襲撃事件にあっています。3人の男に車の中から銃撃を受けており、Yungeen Ace 自身は助かったのですが、彼の兄と友人2人は銃撃によって死亡しています。それでも希望捨てずに、同月中に楽曲をリリースし始めたのです。

Rod Wave 

最後に紹介するのは Rod Wave というラッパーです。最近の若手には珍しい、声も体もかなり太めのラッパーです。これの場合、もはやアップカミングではないかもしれませんが、年齢がまだ二十歳ということもあるので紹介させて下さい。彼の特徴は勢いのあるラップに時折織り混ぜる美しい歌声とリリックで、見た目と歌声のギャップで僕たちを虜にして逃しません。ヒョロヒョロガリガリの草食系サンクララッパーのエモラップに飽きてきた方にはかなりおすすめです!


【名前】Rod Wave (Rodarius Marcell Green)

【出生・育ち】フロリダ州 セントペーターズバーグ

【生年月日】1998年8月27日

アップカミングラッパーを紹介する記事なので当たり前といえば当たり前なのですが、彼もつい最近 Kevin Gates と Lil Durk をフィーチャーしたアルバム “Ghetto Gospel” をリリースしました。

満を辞してリリースされたニューアルバムにも Lil Durk をフィーチャーしたリミックスとして収録された “Heart on Ice” にて、Rod Wave の華麗な声色の使い分けを見ることができますので、リリックと共に少しだけ見ていきましょう。まずは楽曲を聴いてみてください。

Heart been broke so many times I don’t know what to believe
何度も失望してきたんだ もう何を信じて良いのかわからない

Mama say it’s my fault, it’s my fault, I wear my heart on my sleeve
ママは俺のせいだって言った 俺は感情を露わにするよ

Think it’s best I put my heart on ice, heart on ice ’cause I can’t breathe
もう気にしないのがベストだと考えてる だってもう息すらできないし

I’ma put my heart on ice, heart on ice, it’s gettin’ the best of me
気にしないようにするよ それが俺にとってベストなんだ

Rod Wave – Heart on Ice

お気づきになられたでしょうか。勢いよくラップするところ(青文字)と、美しいメロディーで歌うところ(オレンジ文字)で、リリックの内容に差がつけられています。この楽曲の場合だと、、、

勢いよくラップするところ:過去のネガティブな思い出

美しいメロディーで歌うところ:現在または未来のネガティブなことや決意

このように Rod Wave は、巧みに声色を使い分けることで、リリックの状況を容易に想像できるようになるだけでなく、リリックに込めた感情をも私たちは容易に読み取ることができるようになっています。このテクニックは、人々の心に無意識のうちに直接訴えかけてくるので、共感をよびやすく、それも彼が人気になった要因の一つなのではないでしょうか。

さいごに

いかがでしたでしょうか。他にもフロリダからのアップカミングラッパーは Teejay3k とか 9lokknine とか YNW Bslime とか Lil Poppa とか色々いるんですけど(プレイリストにオススメの楽曲を入れておきます。)、とりあえず4人紹介してみました。XXS Magazine の Apple Music にて今回紹介した楽曲や紹介しきれなかったフロリダのアップカミングラッパーたちの楽曲を集めたプレイリストを公開しましたので、こちらも合わせてチェックお願いします。

⬇︎ XXS オリジナルプレイリスト “Upcoming Rapper From Florida” ⬇︎

https://music.apple.com/jp/playlist/upcoming-rappers-from-florida/pl.u-2aoqpzDsNWXxYz0?l=en

UKグライムシーンを牽引するキング Stormzy の全て

I just feel like there is nothing I cannot do.

俺にできないことは何もないと感じるんだ

グライム・アルバム初の全英一位獲得や、イギリス版グラミー賞とも言われるブリット・アワードでのベストアルバム賞&男性ソロアーティスト賞の受賞、さらには世界最大級の音楽フェス「グラストンベリー」にてイギリス出身の黒人ソロアーティストとして初のヘッドライナーを務めるなど、数多くの偉業を成し遂げてきた男、Stormzy。

そんな、今やグライムシーンのみならずイギリスの音楽シーンを牽引する彼は、本日(2019年12月13日)、待望のセカンドアルバム「Heavy Is the Head」をリリースしました。来年3月下旬には同アルバムを引っさげた来日公演の開催も予定されており、日本でも話題沸騰中の彼について簡単にご紹介させていただきたいと思います。

生い立ち

StormzyことMichael Ebenazer Kwadjo Omari Owuo Jr.は、ガーナ共和国にルーツを持つ、ロンドン南部・クロイドン地区出身の26歳(1993年生まれ)。

“I was a very naughty child,

俺はなかなかのやんちゃ少年だった

on the verge of getting expelled,

学校を退学になりかけたほどだ

but I wasn’t a bad child;

でも悪い子供ってわけじゃなかったんだ

everything I did was for my own entertainment.

全ては俺自身が楽しむためだった

But when I went into an exam I did really well.”

でもテストでは良い成績を残せたよ

3人の兄妹とともに母子家庭で育った彼は、自身の学生時代をこのように振り返ります。

高校卒業後は、サウサンプトンの石油精製所で二年間働いていたStormzy。196cm、95kgという恵まれた体格を持つ彼ですが、工場での力仕事に励んでいたというわけではなく、エンジニアとして品質管理を担当していたそうです。見た目とのギャップが面白いですね。

音楽キャリアの開始

幼少期から、Dizzee RascalやSkepta、Wileyなどといったグライムシーンのレジェンド達の楽曲を聴いて育ったというStormzyは、2011年にYouTubeにて初めて自身の楽曲をアップロードします(当時17歳)。

Skeptaの”Mike Lowery”のビートをジャック。

若いですね。夢追う少年って感じです。ただラップに関しては、このころから才能の片鱗を覗かせています。

ブレイクのきっかけ – WickedSkengMan series –

2013年の末頃、Stormzyは「WICKEDSKENGMAN [PART 1]」と題されたフリースタイルをYouTubeにアップします。

They say I’m a Youtube n***a
おれのことをYouTube野郎だって奴らは言うんだ
That’s cool, I’m fine with that
別にいいぜ、気にしないさ
But when you see me in the flesh could you give 
me a shout, 
でも、もちろん直接会っても言えるんだろうな
pull me up and remind me that?
おれを呼び寄せて、また言ってくれるよな?
Could you please just repeat that again for me?
頼むから直接同じことを言ってみろよ

クラシックなグライムビートの上でハードなラップをスピットするこの動画が話題を呼び、彼は一躍注目を浴びます。力強いラップと質素なビデオがよりいっそう彼の魅力を引き立たせており、今見ても6年前とは思えないほど全く古さを感じさせません。

その後Part 4まで公開されるに至ったこのシリーズが、彼の成功のきっかけとなったのは間違いないでしょう。

デビューEPのリリース – Dreamers Disease –

WICKEDSKENGMANシリーズで一挙に注目を浴びたStormzyは、2014年7月にデビューEP「Dreamers Disease」をリリースします。

キャリア当初は主にオールドスクールなグライムビートを使っていたStormzyですが、このEP「Dreamers Disease」から、幅広い音楽ジャンルに挑戦するようになります。当時勢いのあったドリルミュージックの影響を強く感じさせるトラック「No Way (feat. Yung Fume)」や、現在の彼の楽曲にも通ずるアフロビートトラック「Jupa (feat. Starboy willz & Showa Shins)」などが顕著な例です。

アルバムタイトルを冠した一曲「Dreamers Disease」では次のようにラップします。

Look, I don’t even smoke no more but somehow I stay high
おれはもう吸わないけど、ハイで居続けるんだ
Quit my job, mum bugged out, made my choice,
仕事を辞め、母には見放され、自分の道を選んだ
this is my life
これがおれの生き方だ
And I swear down I can’t do this alone,
これはおれ1人ではできないんだ
may the dear lord be my guide
親愛なる主が導いてくれるのさ
We’ve done some things,
おれ達はいろんなことをやったし、
wouldn’t even know where to begin
何から始めるべきなのかも分からなかった
but the dear lord knows we tried, so it’s alright
でも親愛なる主は分かってくれるんだ、だから大丈夫さ

ここで見られるように、Stormzyは”Lord(主、神)”への信仰や感謝を度々歌います。信仰する宗教を公式に発表しているわけではないので断言はできませんが、楽曲を聴く限りおそらく彼はクリスチャンです。

このEP「Dreamers Disease」では、彼の新しい音楽性への挑戦と、デビューを経ての決意や覚悟が見て取れます。

更なる躍進

2015年に入り、彼は二枚のヒットシングルを世に送り出します。

Know Me From

シーンの立役者、Dizzee Rascalの名曲「I Luv U」をサンプリングしたグライムチューン。

少し話がそれますが、Dizzee Rascalのアルバム「Boy In Da Corner」を聴かずしてグライムミュージックを語ることは許されないので、聴いたことがないという方は必ず聴いてください。言わずと知れた名盤です。

WickedSkengMan 4

こちらは前述した「WickedSkengMan」シリーズのPart 4です。

この楽曲は、UKシングルチャートで18位という成績を残し、フリースタイル楽曲としてのランキング(それまでの最高記録はJMEの「96 Fuckrie」で40位」)を大きく更新し、UK音楽シーンにおける歴史的快挙を果たします。皮肉にも、この曲のトラックはJMEの「Serious」という楽曲のものです。

ちなみに、先月末にリリースされたJMEの4年ぶりのアルバム「Grime MC」は既聴されましたでしょうか。フィジカルでのリリースのみという、いかにもJMEらしいこのアルバムは、「Grime MC」というタイトルに恥じない素晴らしいグライム作品でしたので、是非聴いてみてください。

すみません、少し脱線しました。それにしてもこの頃のクラシックなグライムビートを乗りこなすStormzyは本当にかっこいいですよね。ビデオを見るたびに惚れ直します。

そして、この「WickedSkengMan 4」のB面シングルとしてリリースされた「Shut Up」も、彼の成功を語るにあたって欠かせない楽曲です。

公園で友人らと集まり、DJ XTCによるオールドスクールなグライムチューン「Functions on the Low」の上でフリースタイルを披露しているだけのこの楽曲が、なんとUKシングルチャートのトップ10入りを果たします。

そのきっかけとなったのが、2015年の末に開催されたWBCインターナショナル王座とコモンウェルスイギリス連邦王座の防衛並びにBBBofC英国ヘビー級王座決定戦であった、Anthony JoshuaとDillian Whyteの一戦です。Stormzyは、Joshuaの入場曲として「Shut Up」を披露しました。いずれは僕もStormzyのラップを聴きながらリングに上がりたいものです。

後にリリースされる彼の楽曲、Cold (「Gang Signs & Prayer」収録)では、当時について次のようにラップしています。

I just went to the park with my friends,
and I charted

友達と公園に行っただけでチャート入りさ

Best Grime Actの受賞

ブラックミュージックに特化したイギリスの音楽賞、MOBO Awardsにて、Stormzyは「Best Grime Act」と「Best Male Act」の二部門を受賞します。

Bugzy MaloneやLethal Bizzle、Skeptaといった有力候補を抑えての受賞が、Stormzyの人気、注目度を物語っています。

2016年、デビューアルバムに向けて

2016年はアルバム制作に力を入れており目立った活動はなかった彼ですが、実は日本絡みのイベントがいくつかありました。

まずはこちら、「One Take Freestyle」。

東京渋谷の109、東急ハンズ周辺でフリースタイルをスピットするStormzy。ゲームセンターや自動販売機など、いかにも”日本っぽい”場所で撮影を行なっています。「クールな国”Japan”に行ってきたぜ!」って感じですね。

来日公演

つい最近、単独来日公演が決まり話題沸騰中の彼ですが、実は2016年に日本でのライブ経験があります。キャパ300人のCIRCUS Tokyoで、しかもエントランス無料。今では到底考えられませんよね。

StormzyはAdidas Originals by NIGOのルックにも起用されており、その関係で来日したとのことです。

デビューアルバムのリリース – Gang Signs & Prayer –

はい。ついに来ました、「Gang Signs & Prayer」。自主レーベル#Merky Recordsからリリースされたこのアルバムは本当に革命的な作品です。文章でだらだら説明するのもあれなんで取り敢えず楽曲を聴いていただきましょう。

Big For Your Boots

いかがでしょうか。BPM140の正統派なグライムチューンです。緊迫感漂うビートの上で彼は次のようにラップします。


You’re getting way too big for your boots
おまえは自惚れすぎだ
You’re never too big for the boot
おまえは絶対に成功できない
I’ve got the big size 12s on my feet
おれは12(29cm)のブーツを履く
Your face ain’t big for my boot
おまえはおれに及ばない
kick up the yout
若者を奮い立たせる
Man know that I kick up the yout
おれが若者を奮い立たせてるって知ってるだろ
Dem boy dere tried twist up the truth
やつらは事実を捻じ曲げる
How dare you twist up the truth?
どうしてそんなことができるんだ

too big for one’s boots : 「自惚れる」というイディオムと、Stormzyの靴(ブーツ)のサイズの大きさには誰も敵わないという意味をかけており、さらには靴から連想される”Kick”という単語を使って話を展開しています。

グライムのビート上で発せられる彼の力強いフロウには、技術や巧みさを超えた説得力があり、内容をよりシリアスに伝えるパワーがあります。

Cigarettes & Cush (feat. Kehlani & Lily Allen)

こちらは90年代R&Bテイストの一曲。前記のグライムチューンからの落差が凄すぎて、この2曲が同じアルバムに収録されていることが信じがたいぐらいです。Kehlani、Lily Allenの歌声と、Stormzyのタイトなラップが見事にマッチした名曲です。ミュージックビデオもロマンチックなので是非見てみてください。

Blinded By Your Grace Pt. 2 (feat. MNEK)

[Stormzy & MNEK]
Lord, I’ve been broken
神様、おれは落ちぶれていたんだ
Although I’m not worthy
何の価値もないおれでも
You fixed me, now 
あなたは立ち直らせてくれた
I’m blinded by your grace, 
あなたの恵みに圧倒される
you came and saved me
おれを救いにきてくれたんだ

神への感謝を歌うこの楽曲からは、オルガンを基調としたトラックや聖歌隊の美しいコーラスから、ゴスペルの影響を強く感じます。Kanye Westのゴスペルアルバムも話題となったように、やはりゴスペル色を取り入れたヒップホップアルバムは音楽的にも内容的にもより深みが増すように思います。Stormzyという立派な成功者でさえ神の力を頼りにすることもあり、改めて宗教の力は測りしれないなと感じさせられる一曲です。

Acousticバージョンもリリースされており、Wretch 32のバースが最高なので、是非聴いてみてください。

このアルバムの収録曲はハズレがないので本当は全曲ご紹介したいのですが、長くなってしまうので今回は代表的な三曲をご紹介させていただきました。

しっかり正統派グライムを組み込んだ上で、R&Bテイストのメロウな楽曲や、神を讃えるゴスペルチックな楽曲を散りばめたこのアルバム。一見まとまりがなさそうで、「Gang Signs & Prayer」は何度聴いても飽きさせない完璧なバランスを保っています。

その証拠に、リリース後早い段階でプラチナ認定(100万ユニット)され、その勢いのままイギリスの権威ある音楽賞Brit Awardsにおいて最優秀アルバム賞と最優秀男性ソロアーティスト賞を受賞しました。

ここまで来ると、さすがにグライムシーンのネクストキングと呼んでも異論はないでしょう。

Glastonbury Festival 2019

彼の偉業を語るにあたって欠かせないのが、世界最大級の音楽フェス、グラストンベリー・フェスティバルでヘッドライナーを務めたことです。

これまで、OasisやRadiohead、Cold Playなど、主にロック界のスター達が務めてきたポジションでしたが、今回イギリス出身の黒人ソロアーティストとして初めてStormzyが選出され、歴史的快挙となりました。

まずはその彼のステージを見ていただきましょう。

https://youtu.be/9vgar9pInkg

いかがだったでしょうか。いやー、かっこよすぎませんか。初期の楽曲から最新曲まで、またEd Sheeranの人気曲「Shape of You」やKanye Westの「Ultralight Beam」をカバーしたり、Dave & Fredoをステージに上げたりと、見どころ満載のステージで、1時間15分があっという間です。僕自身、何周見たか分かりません。

ちなみに、彼が着用しているユニオンジャック柄のベストは、イギリスを拠点とする著名なアーティスト、Banksyがデザインしたものです。

I made a customised stab-proof vest
カスタムした防刃ベストを作った
and thought – who could possibly wear this?
だれが着るべきだろうか
Stormzy at Glastonbury.
グラストンベリーのStormzyだ

このベストは警察の銃程度であれば防ぐことができる実用的なものであり、イギリス社会に蔓延するナイフ犯罪を批判するStormzyによるメッセージが込められています。

本日リリースされたアルバム「Heavy Is The Head」収録の「Audacity (feat. Headie One)」では、次のようにラップしています。

When Banksy put the vest on me
Banksyにベストを託されたとき
Felt like God was testin’ me
神に試されていると感じたんだ

ニューアルバムのカバーアートにも写っているこのベストは、850£(約12万5千円)で一時期販売されていました(現在は売り切れ)。

セカンドアルバム -Heavy Is The Head-

そして本日、彼のセカンドアルバム「Heavy Is The Head」が遂にリリースされました。2年越しのリリースということで世界中が待望していたこのアルバムには、Ed Sheeran、Burna Boy、Headie One、Tiana Major9、Yebba、H.E.R.、Aitchら豪華客演陣が参加しており、プロダクションにはFred Gibson、Fraser T Smith、T-Minusらがクレジットされています。

僕自身まだしっかり聴き込めていないので、少しだけご紹介したいと思います。

Crown

I done a scholarship for the kids, 
子供達のための奨学金を用意したけど
they said it’s racist
やつらは人種差別だって言うんだ
That’s not anti-white, it’s pro-black
アンチ白人ってわけじゃない、”プロブラック”なんだ

寂しげなトラックの上で、”キング”としての苦悩を歌う一曲。

Stormzyは、毎年2名の黒人学生を対象とするケンブリッジ大学進学用の奨学金「THE STORMZY SCHOLARSHIP」を2018年に設立しており、そのことについて言及しています。

彼曰く、決して差別行為をしているのではなく、教育における不平等を解消するために行っているものだそうです。どんな善行をしても、批判的な言葉を浴びせてくる人間は必ずいますよね。悲しい世の中です。

Own It (feat. Ed Sheeran & Burna Boy)

Ed SheeranとBurna Boyをフィーチャーしたアフロビートチューン。StormzyとEd Sheeranといえば、今年リリースされたEdのコラボレーションアルバム「No.6 Collaborations Project」収録の「Take Me Back to London」でも共演し、「曲のイメージが変わってしまうという理由で、当曲に参加予定だったJay-Zの参加を断った」という興味深いエピソードも話題となりました。

Stormzyは、彼の最も尊敬するアーティストであるJay-Zとの共演のチャンスを、曲のイメージ保持のために棒に振ったのです。このエピソードを聞いて、僕は改めてStormzyに惚れ直しました。憧れのアーティストとの共演を断るなんてなかなか出来ないですよ、普通。これも、シーンを背負う”キング”としての覚悟と責任感の表れでしょう。

はい。長くなりそうなので、とりあえず楽曲紹介はこの辺りにしておきます。

音的にはUSヒップホップの影響を感じさせるものやメロウなもの、ソウルフルなものなどが大半を占めており、グライムっぽさは強くは感じられませんが、彼はもはや「グライムシーンのスター」ではなく「現代の音楽シーンを代表するアーティスト」なのです。

前述した「THE STORMZY SCHOLARSHIP」の設立や、有望な作家の発掘を目的とした「#MERKY BOOKS」の立ち上げに加え、ソーシャルメディアを通じて選挙の投票を呼びかけるなど、音楽活動だけでなく社会活動にも力を入れているStormzy。今後ますます目が離せない存在になりそうです。

おわりに

今回は、本日セカンドアルバム「Heavy Is The Head」をリリースしたグライムMC、Stormzyについてまとめてみました。彼の魅力と功績が、多くの方に伝わっていれば幸いです。ニューアルバムについてのご意見やご感想もお待ちしております。

Stormzyをはじめとし、KAYTRANADAやFree Nationalsらの新譜もリリースされた忙しい1日にも関わらず、最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは良い週末を!

Apple Musicのプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/stormzy-heavy-is-the-head/pl.u-2aoqp2LUNWXxYz0?l=en

なぜトラップミュージックはここまで流行ったのか

最近Apple Musicなどで音楽を聞いていると、ふと思うことがあって。

まあトラップがめちゃくちゃ売れているのはもちろんなんですが、本当にいろんな国のアーティストが売れているなあって思うんですね。

それと、どこの国でも売れるっていうのは何かしらの共通項があるんじゃないかって思うんですね。

今日は題名にある通り、なぜトラップは流行っているのかについて書いていくのですが…

これは先日発表されたグラミー賞のベストラップアルバムの5つがなぜ評価されたのか?ということにも繋がります

なぜヒップホップ(特にトラップ)が売れているのか?

今日はその秘密を「特異性」と「即効性」をキーワードに探っていければなあ〜と思います。

Z世代と特異性

まず、売れるということには必ず共通した特徴があります。それはまず、「特異性」です。

簡単に言うなら、この曲はほかの曲とはちゃうなあ。ってやつです。

ここで大切なポイントは「僕たちの世代における」特異性についてです。

今音楽業界は、Z世代と呼ばれる世代を相手にマーケットを行う傾向にあります。

Z世代は10代後半から20代前半の年齢の人々を指す言葉ですが、この世代の特徴はどのようなものでしょう?

何でもかんでもネットで検索する、SNSを使う社会は当たり前、デジタルネイティブ…など様々な言葉が思い浮かびますが、これらに共通するものはインターネットです。

ではインターネットと共に成長してきた世代の主な特徴とはなんでしょう?

ここで一つ面白い引用があるので紹介します。

みなさんご存知、日本のラッパーやその他様々なアーティストにインタビューを行う「ニート東京」の一幕です。

ラップスタア選手権以来、飛ぶ鳥を落としまくっているTohjiのインタビューなのですが。(この間のMura Masaの来日ライブのサポートアクトにも選ばれていましたね。)

「一緒の場所に住んでいる、違う場所にいるけど。」

これです。ここがポイントなんです。

僕たちの世代はどこにいようと繋がっている「ように感じる」

そして「ほとんど同じものを見て育った」世代なんです。

例えば一例をあげましょう。

WeChat

みなさんは遊ぶ約束をどのようにしますか?もちろん、日本だとLINE、その他の国だとWeChat、カカオトーク、WhatsAppなど多種多様ではありますが、SNSを使いますよね。

WhatsApp

「今日、ハチ公前19時な。遅れんなよ。」

この言葉を言うために携帯が無かった時代の人はどれだけ苦労したことでしょうか。

昔の携帯のキーホルダー

もっと分かりやすい例を出しましょう、昔同じ地元だった友達が東京にいたとします。その人に連絡したいと思っていますが、あなたは連絡先を知りません。

はい、昔であればこの時点で共通の知り合いを探りまくって何とか辿り着くしか連絡先を知る手段はありません。

レベル5のコラッタが気合いのハチマキでグラードンの攻撃にギリ耐えたけどモンスターボールしか持ってないし捕まえるのほぼ無理やな、ぐらいの状況です。

コラッタ(Lv.5)

しかし今だとどうでしょう?

Facebookなどを使えば上の世代だとほとんど探し出せますしTwitterやinstagramをやってない人などほぼいないので探し出すことは容易でしょう。

例えるならば、マスターボールを持った状態でレベル3のビードルを捕まえようとしているようなものです。

ビードル(Lv.3)

どこにいても誰とでもつながっている「ような感じ」がする。

これこそが、「ユビキタス」な社会の欠点であり良いところでもあるのです。

みんなが同じようなものを見てきたからこそ、特異性とはその裏をかくような意外性とも言い換えることができます。

ヒップホップとシティーポップ

音楽でその特異性を表現するためには様々なパターンが考えられます。

例えば、Z世代が聞いていない世代の音をサンプリングするなどは考えられるでしょう。

例えば、アニメが有名な日本という「クール」な国の曲をサンプリングする。

今世界でやたらと日本のシティーポップがサンプリングされたり、使われたりしがちですが、これは他国にとって「異質なもの」として日本の70-90年代の音楽が捉ええられているからとも言えます。

シティーポップの使用の例として1つ紹介いたします。まあ多分ヒップホップ好きなら知っているとは思いますが・・・。

今年バイラルヒットし、グラミー賞ベストラップアルバム賞にもノミネートされた Tyler, The Creatorの “IGOR” から一曲、「GONE, GONE / THANK YOU」です。

これはシティーポップの旗手である山下達郎の「Fragile」をサンプリング、というか歌詞を変えて、メロディーを被せてタイラーが歌っているんですね。

公式にクレジットにも山下達郎が記載されていて、本当に驚きの限りという感じですが、コアすぎるやろ・・。

もっと山下達郎の中でも有名な曲を使うならわかるけど、どんだけ好きやねんっていう。

まあ本当 Odd Future周りの日本好きには脱帽です。

少し前に公開されたフランクオーシャンのラジオでも YELLOW MAGIC ORCHESTRA がかかっていて、やっぱり70-90年代の日本の異様さは他国から見るとすごいんだろうなと改めて感じています。

あ、YELLOW MAGIC ORCHESTRAは日本のエレクトロの先導者でもありますし、日本の音楽を作ったと言っても過言ではありませんから是非聞いて見てください。電子音系が好きな人には是非おすすめですよ。

なんて言ってもメンバーが半端じゃないですからね。坂本龍一・細野晴臣・高橋幸宏ってやばすぎやろ。レックウザとグラードンとカイオーガですよ・・・!

海外のファンもたくさんいますし!何より矢野顕子のカバーが半端ないんですよね・・・とまあこの辺りはかなりシティポップ的な内容になってしまうのでまた今度ヒップホップと関連させて記事にします!

「東風」

まあ、話を戻すと、自分の国の同じような世代が聞いていない音を取り入れるっていうのも「特異性」をアピールするのによいやり方の1つなんですね。

「特異性」と「転調」

他にはどのように「特異性」を出す方法があるのか。

有名なものの1つとして「転調」があります。

先ほど、「みんなが同じようなものを見てきたからこそ、特異性とはその裏をかくような意外性とも言い換えることができます。」と書いたと思います。

音楽にとって裏をかくとは、わかりやすくいえば、聞いている人が「こうなるんやろなあ」と思っているところで「ありえない音」をブチ込むことなのです。

ラップとは元をたどればループ音楽であることも考慮すれば、流れを断ち切った時の衝撃が他のジャンルよりもかなり大きいことも理解できるのでは無いかとおもいます。

最も分かりやすい例として去年、これまた世間を長らく賑わした Travis Scott と Drake のコラボ曲「SICKO MODE」です。

僕的にいえば、「金かかってそうやけどカッコいいんかどうかわからんPVランキング」の2018年のグランプリだと思いますが・・。

とにかく、2分57秒あたりで始まる転調の初めて聞いた時のあの衝撃は忘れないですよね、本当に名曲以外の何物でも無いと思います。

Travisの凄さはいうならば、オートチューンの使い方とかメロディとか色々あるんですが、その洗練された音にあると思うんですね。

無駄な音が極端に少なく、ほぼ完璧なバランスでそれぞれの音が個性を失わない。だからこそ突然その完璧性の壁の崩壊、つまり転調が起こった瞬間の衝撃も並大抵じゃ無いんです。

「特異性」のまとめ

ここまでで「特異性」の大切さがわかっていただけたと思います。

そして、まとめるとラップがその特異性を出すことに長けている理由は2つありますね。

①サンプリングの音楽であることから、自国には無い「異質な音楽」を取り入れることができる。

②ループ音楽であることから、繰り返しから一気に「転調」した時に他のジャンルと比べてもかなりの衝撃が走る。

ヒップホップと即効性

話を次に進めましょう。先ほど特異性について書きました。ただ他の曲と違えば売れているのかといえば、そういうわけでもありません。

次はもう1つの大切な要素である「即効性」についてです。

待ち合わせの例を先程出しましたが、もし相手が「時間間に合わんわ、すまん」と連絡して来た、という状況を考えてみてください。

大抵の日本人なら、暇なことですし、携帯でインスタを見て、イヤフォンであいみょんとYoung Nudyを交互に聴くでしょう。

それでも暇ならばPornhubでも見て時間を過ごすでしょう。(どうせ女の人この記事あんま見てないからええやろ…)

そうなのです、ユビキタスな社会のせいで、あるいはおかげで、現代人には「暇の概念」がほとんど無い、または昔とは全く変わってしまっているのです。

整理すると、暇=「無駄」ってものがほとんどない。

そして今、最もあついSNSはもちろんinstagramやTik Tokでしょう。これこそ現代人の感覚をほぼ網羅したSNSじゃないかと思います。

「いつでもどこでもできて、徹底的に無駄がない。」

無駄が無いといえばApple

これが意味するのはつまり、洗練されていることによりすぐに効果があるという徹底的な「即効性」

これがキーポイントです。

じゃあなんで即効性が大事な社会でヒップホップがそんな売れてるの?

これを考えるために大切なこと。それはヒップホップ、ひいてはラップミュージックとは何なのか?です。(ここからは面倒くさいのでラップと書かせてください)

ラップとは元を辿れば「コピー&ループ」音楽です。

分かりやすくいうと、「この音楽のこの部分ええな、パクってここばっかループさせまくってラップして一曲作ろ」ってやつです。

まあもっと元を辿れば楽器など何もなくてもできる音楽なので違うといえば違うのですが。

気になる方は慶應の法学部の教授で音楽評論家の大和田俊之先生の「ブルースからヒップホップまで」をお読みください。

現在のヒップホップシーンにおいてもこのコピー&ループというのはよくあることです。

サンプリングで訴えられたやらどうやらという事件は聞いたことがあるのではと思います。

例えば、昨年大ヒットしたJuice WRLDの「Lucid Dreams」です。

ヒップホップ好きで知らない人は確実にいないでしょうこの曲は、ロック好きなら知らない人は確実にいないであろうStingの名曲、「Shape Of My Heart」のサンプリングなのです。

この曲はアメリカとフランスの合作でこれまた映画好きであれば知らない人はいない、いや映画が好きじゃなくても知っているであろう「LEON」の主題歌です。近親相姦的な愛とでも呼ぶべき純愛の映画なのですが(純愛の基準は人それぞれ)、ナタリーポートマンをここまで美しく映しているこの映画は素晴らしいですね。

私事ですが、僕はフランス映画と哲学の勉強をしているのでリュックベッソンがここまで過大評価されていることを手放しでは喜ぶことはできませんが(みんなカラックスの映画も見てや!)。

レオス・カラックス「ポンヌフの恋人」

話が脱線していますね、とにかく戻ります。要するに、良い部分(サビやフック)をパクるってのはいまだに良くあることなのですが・・・。

ここである人が言うかもしれません「いや、今はサンプリングよりプロデューサーが作った曲の方が主流やぞ!コピペじゃないから即効性ってのはちゃうんと違うか?」

たしかに今はプロデューサーが作った曲が主流であることは認めざるを得ません。

Mustard・Murda Beatz・Metro Boomin・Pi’erre Bourne・Jetsonmade・Wheezy….など今のチャートを動かしえるプロデューサーは挙げはじめればキリがありません。

しかし、これらのプロデューサーが作るビートの主流はどのようなものでしょう?

ここで僕たちの世代が恐らく神と崇めているであろうPi’erre Bourne プロデュースの曲を流してみましょう。

30秒あたりで曲が始まります。どうでしょうか?このビート。聞いた瞬間にヤバイ!ってなりますね。

浮遊感のあるビートと称される彼のビートですが、ほぼ全てのビートにおいてまるで一曲の中心(サビorフック)に当たるような部分がいきなりきて、それが、繰り返されます。

ラップの初期においては、「曲の良いところ(サビやフック)をコピー&ループしたビート」が主流だったと先程話しましたね。

そしてそれが時を経ていくうちに、プロデューサー達が作曲したビートがメインになり、今は「曲の良いところ(サビやフック)をコピー&ループした”ような”ビート」が主流だということです。

つまり、ポップなどにおけるサビの部分にあたる部分をいかに良質に、そして大量に作れるか、というのが今のプロデューサー、ひいてはラップの楽曲に求められていることなのです。

ここまでをまとめると、一般的な曲の中心になるような場所が最初にやってくる楽曲こそが最近のラップの主流なのです。

つまり、音楽をかけ始めて数秒で良い音が聞けるという「即効性が求められる時代に最も合ったジャンル」なのです。

そして、即効性が求められるようになったのにはもう一つの要因があります。

ストリーミングサービスの台頭

Spotifyという革命的なメディアが2006年にスウェーデンにて開始されます。

月に千円程度払えばどんな曲でも聴けちゃうよー、ってやつです。

なんて革命的な…!!って当時の人はなった事でしょう。そしてそれはすぐさま世界にストリーミング旋風を巻き起こします。

それに対抗するように2015年、Apple社がストリーミングサービス「Apple Music」が始まります。

これら二つの圧倒的メディアが音楽界を完全にジャックしていきます(Sound Cloudは圧倒的な影響を及ぼしますが、無料ストリーミングサービスなので一度おいておきます)

勘のいい人はここらへんでもう気付いてるんじゃないですか?そうです、トラップが流行り出したのもちょうどこの15年あたりなのです。

Spotifyの台頭と共に音楽界をジャックしたラップというジャンル。

現代の人の即効性の欲求と見事にマッチしたメディア。

CDなどとは違い、お金を余分に払わなくても聞けてしまう。

つまり、良い曲だけをできるだけ効率的に聴きたい。こんな欲求がみなさんの意識下にはあるのです。

面白い研究があるのですが、ある調査では現代人は音楽を聴いた際に、最初の数秒でその曲が良いかどうかを判断するそうです。

面白いですね、即効性とストリーミングとヒップホップ。傍系的で荒唐無稽な関係に思えて実は、ガッチリ関係し合ってるんですね。

オススメの曲

ここまでを振り返って何曲かこの「特異性」と「即効性」の理にかなっている曲の例として1曲だけ紹介したいと思います。

ここまで読んでくれたあなたならこの良さが必ずわかるはずです。

1. Jay Prince「Father, Father」

イーストロンドン出身の25歳のラッパー Jay Princeから一曲です。彼の紹介を軽くすると・・・

90年代のUK Hiphopから強く影響を受け、様々なジャンルを横断し得るサウンドからスターとまではいいませんが、かなりのファン層を持っている彼。

2012年に発表した「Lounge in Paris」でデビューし、2013年頃にセルフプロデュース発表した「Mellow Vation」にてそのキャリアを本格的にスタートしました。

紹介はこの程度にしておいて、彼の曲の凄さは聞いた瞬間に「良い!」ってなるサウンドに加えて、サンプリング・転調を巧みに仕掛けてくる、まさにこの時代にあった人なんですね。(もっとセルフプロデュースして売れればいいのに・・・)

では聞いていただきましょう。

実はこの曲、 “yolanda Adams”の「the battle is the lord’s」(1996年)のサンプリングから始まるんですが、こんな使い方普通できる?できるんなら先ゆうといてやって感じです。

最初の耳を奪うような「即効性」に加え、サンプリングと転調による圧倒的な「特異性」。

彼こそこれからさらに注目されていくであろう存在だと思います。

Goldlink・Tyler, The Creatorとコラボした曲「U Say」でも話題となった彼。またアルバムを出した際には彼の全てがわかる記事を書きますのでしばしお待ちを。

終わりに

どうでしたか?今日はヒップホップがなぜ流行ったかについての記事でしたが、次回はこの基準を元にグラミー賞ベストラップアルバム賞に選ばれた5つのアルバムについての記事を投稿いたしますので是非次も読んでみてください!

では、さよなら…さよなら…さよなら。

Kensho Sakamoto

The Weeknd – Heartless 和訳・解説

みなさんこんにちは。ついに The Weeknd が動き出しましたね。本日 自身がキュレーターを務めるラジオ番組の Memento Mori にてトリに新曲の “Heartless” を公開しました。その後、全てのストリーミングサービスにて配信開始されたこちらの曲を、世界最速で和訳してみましたのでよければご覧ください。

The Weeknd – Heartless (プロデューサーは Metro Boomin)

和訳

Never need a bitch, I’m what a bitch need (Bitch need)

俺に女は要らない。女が俺を欲しがるから。

Tryna find the one that can fix me

俺を魅了できる女を探してる

I’ve been dodgin’ death in the six speed

俺はすごい速さで死を回避してきた

”six speed”とは車のマニュアル変速を6に入れてスピードを出すこと)

マニュアル車の6段変速機

Amphetamine got my stummy feelin’ sickly

アンフェタミンのせいで腹が痛いよ

(アンフェタミンとはアメリカなどでAD/HDの治療などにおいて処方されている薬のこと。日本では覚醒剤の種類として規制されている。)

Yeah, I want it all now

そう。俺はいますぐ全部を手に入れたい

I’ve been runnin’ through the pussy, need a dog pound

俺はクソみたいな状況でも走り抜けてきた。野犬収容所に入るべきだよな。

”dog pound” とは飼い主から逃げた犬や野犬を保護するための公共の檻のこと。駆け抜けてきた自分を犬に喩えてその檻に入れられるべきだと言っている)

Hundred models gettin’ faded in the compound

何百ものモデルがこの争いの中で消えていった。

(Weekndの恋人になるために沢山のモデルが争ったが、結局皆消えていったという意味か。)

Tryna love me, but they never get a pulse down

みんな俺のことを愛そうとするけど、彼女らは興奮を抑えることができないんだ。

[Hook]

Why? ‘Cause I’m heartless

なぜかって?それはおれが冷酷だからだよ。

And I’m back to my ways ’cause I’m heartless

そして俺は俺のやり方で行くよ。所詮薄情者だし。

All this money and this pain got me heartless

金やこの痛みが俺を冷酷にする

Low life for life ’cause I’m heartless

俺は冷酷だし、死ぬまでクソみたいな生活を送るよ。

Said I’m heartless

俺は冷酷だって言っただろ。

Tryna be a better man, but I’m heartless

もっと良い男になろうと頑張ったけど、結局同じだった。

Never be a weddin’ plan for the heartless

そんな俺は結婚する予定もないし

Low life for life ’cause I’m heartless

俺は冷酷だし、死ぬまでクソみたいな生活を送るよ。

(Weekndはフリースタイルの “Gone” をラップした時点から、Futureとの楽曲である “Low Life” をリリースしたとき、そして今回の楽曲を制作するまでずっと自分の成功した人生の影に良くない人生が存在するという考えを持ち続けている。)

Future – Low Life (feat. The Weeknd)

[Verse 2]

Said I’m heartless

俺は冷酷だって言っただろ

So much pussy, it be fallin’ out the pocket

ポケットからこぼれ落ちるほどのたくさんの女。

Metro Boomin turn this ho into a moshpit

メトロブーミンがその女たちをモッシュピットの中にぶち込む

(Metro Boomin はこの楽曲のプロデュースも手がけるアトランタ出身のプロデューサー)

Tesla pill got me flyin’ like a cockpit

テスラピルを飲んで、コックピットで操縦して飛んでるような気分だ

(テスラピルとは、自動車会社であるテスラのロゴをかたどった最も有名なタイプのMDMAの錠剤のこと)

テスラピル

Yeah, I got her watchin’

彼女が俺を見てる

Call me up, turn that pussy to a faucet

俺に電話してくれよ。お前のあそこを蛇口みたいにしてやるよ。(説明しなくても分かるよね)

Duffle bags full of drugs and a rocket

ダッフルバックにパンパンのドラッグとジョイント

(ここで”rocket” はマリファナを巻いたジョイントのことを意味している。火をつけると片側から煙が出てロケットみたいだから。)

イメージが掴みにくい方のために特別に参考画像を用意しました。今回だけね!

Stix drunk, but he never miss a target

Stixは酔っ払ってるけど、彼は目標を見失わない

(”Stix”はXOレーベルのメンバーの一人)

Photoshoots, I’m a star now (Star)

写真撮影。俺はいまスターだ。

I’m talkin’ Time, Rolling Stone, and Bazaar now (‘Zaar)

今はタイム、ローリングストーンズ、バザールにインタビューを受けるほどだ。

(ひとつ前の「俺はスターだ」という発言を強調している。ちなみに Weeknd は Time の表紙を飾ったことがある。)

Sellin’ dreams to these girls with their guard down (What?)

女たちがガードを緩めてる隙に、俺は思わせぶりをしちゃう

Seven years, I’ve been swimmin’ with the sharks now

7年間俺はサメたちの中を必死に泳いできた

(Weekndは7年前にデビューした。サメはデビューしてから目の当たりにしてきた周りの悪い人間のことを意味している)

[hook]

I lost my heart and my mind

俺は心も感情も失った。

I try to always do right

いつも正しいことをしようとしている。

I thought I lost you this time

今回は君を失ったと思ってた。

You just came back in my life

でも君は俺の前に戻ってきてくれた。

(破局してよりを戻した Weeknd の恋人 Bella Hadid のことを歌っている。)

左 : Bella Hadid 右 : The Weeknd (言わんでも分かるか)

You never gave up on me

君は俺のことを諦めなかった。

I’ll never know what you see (Why won’t you?)

俺は君が何を見ているかは分かりっこない。

I don’t do well when alone (Oh yeah)

1人の時はやっぱりうまくいかないよ

[Hook]

シングル一曲出すだけでここまで盛り上がらせる。さすが Weeknd です。アルバムも出そうな感じなので楽しみに待ちましょう。では。

アトランタのトラップガール Bali Baby の魅力とは

こんにちは。

今回は、今年の XXL フレッシュマン候補にノミネートされていたものの惜しくも選出されなかったアトランタ出身のフィメールラッパー、Bali Baby ちゃんについて書いていこうと思います。彼女の魅力を最大限にお伝えできるように頑張りますので、最後までお読みいただければ幸いです。

Bali Babyとは

Bali Baby はバルバドスにルーツを持つジョージア州アトランタ出身(生まれはノースカロライナ州ジャクソンビル)の22歳。名前の由来なんですが、”Bali” は “Cali” の C を B に変えたもので、フッドの中で一番若かったことから “Baby” をつけたそうです。

※Cali : 低価格且つ高品質なことで知られるカリフォルニア産のマリファナ

※ギャング組織 Bloods (ブラッズ)に所属するメンバーは、敵対するギャング組織 Crips (クリップス)の頭文字である C を嫌い、C から始まる言葉を B に置き換えて使うことが多い。例: Crazy → Brazy

そんな彼女はキャリア当初、同性愛者であることを公表している数少ないフィメールラッパーとしても注目を集めていたのですが、現在は Rockstar Marqo という三流ラッパーと交際しています。ビジネス同性愛もいいところです。

Rockstar Marqo への嫉妬(S**t)が溢れ出る前に話題を変えます。

学生時代は神経学を専攻、将来の夢は脳外科医だった彼女は、2か月で中退するものの大学にも進学しており、インタビューの受け応えなどからもどことなく根の真面目さを感じます。見た目とのギャップが良いですね。

DJ の父を持つ彼女は、幼い頃から様々な音楽を聴いて育ちました。中でも Lana Del Ray の影響が最も大きく、彼女とコラボすることが夢だそうです。ヒップホップは昔から聴いていたわけではないという彼女ですが、同郷アトランタのトラップシーンを引っ張ってきた Migos や 21 Savage、シカゴの Chief Keef など近年のラッパーを好んで聴いているそうです。

主にメインストリームの音楽を聴いて育ったという彼女は、トラップを基調としつつもポップスやロックの要素を取り入れた、ジャンルに囚われないスタイルを確立しています。

ラッパーとしてのキャリア

ツイッターに投稿したフリースタイルがバズったことがきっかけで、ラッパーとしての活動を本格的に始めた Bali Baby。

バズったフリースタイルの1つ。Travis Scott や Tory Lanez のリミックスも話題となった、MadeinTYO のデビュー曲「Uber Everywhere」のビートの上でフリースタイルを披露する Bali Baby。

キュート且つ奇抜なルックスの彼女から繰り出される可愛らしいラップが注目を集めました。その後周りの後押しを受けスタジオに通うようになった彼女は、楽曲制作に夢中になります。2016年に EP「Bali’s Play」をリリースして以降、2016年から2017年にかけて彼女は4つのミックステープをリリースしています。

そして昨年2018年、彼女は念願のデビューアルバム「Baylor Swift」をリリースしました。カントリー界の歌姫 Taylor Swift にあやかって付けたと思われるこのアルバム名ですが、もはや C を B に変えるという従来の慣わしを完全に無視し、TをBに変えちゃっています。こだわりすぎない強引さが良いですね。

それではここで彼女のデビューアルバム「Baylor Swift」から一曲聴いていただきましょう。Bali Baby で「Backseat」

いかがだったでしょうか。”Baylor Swift” というより “Bvril Lavigne” といった感じですね。この曲が代表するように、このアルバムはロックや2000年代初期のポップスを参考にしたようなサウンドで構成されています。アメリカの音楽メディア「Pitchfork」では、10点満点中7.4点という比較的高い評価を得ています。

ロック且つポップに昇華された彼女のデビューアルバムは、今までヒップホップやトラップミュージックに触れてこなかった方にもオススメの一枚です。是非聴いてみてください。

続いて同じく2018年に、彼女は「Resurrection」というアルバムをリリースしました。このアルバムは前作「Baylor Swift」とは打って変わって、がっつりアトランタトラップです。”Resurrection” (復活)というアルバム名には、”トラップスタイルへの復活”という意味が込められているのでしょうか。ポップ調な楽曲も良いのですが、キュートな彼女から繰り出されるバッドガール感満載のトラップもやはり魅力的です。それではここで「Resurrection」から一曲ご紹介したいと思います。Bali Babyで「Bloody Mary」

いやー、最高ですね。シスター姿の Bali ちゃんも可愛いです。もちろんルックスだけでなく、ラップもかっこいいですよね。リリックについてはここで取り上げるほど素晴らしいラインは特にないので割愛しますが、どこか癖になる声、ライミング、フロウを持ち合わせています。

この「Bloody Mary」という曲、リリースされる前に彼女の Instagram にて一部公開されていたのですが、車内でラップする彼女が最高にキュート且つクールなので是非ご覧ください。

長い爪が少し怖いですが、とても可愛いらしいですよね。(未だに周りで共感してくれる人がいないので、Bali Babyの魅力について語りあえる方募集中です。)

少しでも彼女に興味を持ったという方は、是非一度アルバム通して聴いてみてください。

そして今年2019年、冒頭でも触れたように、彼女はXXLフレッシュマンの候補にノミネートされます。

毎日4時間おきに投票した僕の努力も報われず、惜しくも(おそらく惜しくもない)選出されませんでした(泣)。

Bali Baby の豆知識

少しだけ彼女の豆知識をご紹介したいと思います。

来日

Bali Baby は2017年に、エディター兼チェキフォトグラファー米原康正氏の個展「FXXK YOU ALL」のオープンレセプション出演のため来日したことがあります。

米原康正氏と Bali Baby

結婚式も行われるようなホテルで彼女のラップが聴けるなんて、想像するだけで異様な光景ですね。

タトゥー

彼女は全身に複数のタトゥーを入れています。

その中でも特に目立つのが、胸の谷間にある「福禄寿」というタトゥーです。この「福禄寿」というのは、幸福・富貴・長寿を象徴する七福神の一人です。来日経験もある彼女は、おそらくアジアや日本の文化に関心があるのでしょう。

レコードレーベル

彼女は「Play Girls」という自身のレコードレーベルを運営しています。

現在は Gabby! や i.Skyy、Flexxi といったフィメールラッパーのみが所属していますが、Bali は HotNewHipHop のインタビューにて、『いずれはラッパーだけでなく、メイクアップアーティストやヘアスタイリスト、ストリッパーなどを含めたフィメールアーティストのためのレーベルにしたいの。』と語っています。

HotNewHipHopのインタビューを受けるBali Baby

アパレルブランド

彼女は「Play Gear」というアパレルブランドも展開しています。服やアクセサリー、ウィッグ、付けまつげなど幅広く展開しているので、Bali Baby に憧れる日本の女子高生の皆さんは是非チェックしてみてください。

https://playgirlgear.com/

Bali Babyの楽曲

ここからはBali ちゃんの楽曲を数曲ご紹介させていただきたいと思います。

「V.V」

彼女の 1stEP「Bali’s Play」、ミックステープ「Bubbles Bali」収録の一曲。

Lil Yachty の「Shoot Out the Roof」と同じトラックが使われています。この “V.V” というタイトルは、“Vintage Vagina” を意味しています。意味がわからない方はググってください。もちろん深い意味などありませんが、Bali は彼女のガールフレンドがどれほど良い女なのかについてラップしています(リリース当時はレズビアンラッパーとして売り出し中でした)。不思議なビートと彼女の可愛らしい声がマッチしており、個人的には Yachty の曲よりも好きです。

「Woah Woah Woah/Crashbandicoot and chill – Trippie Redd & Bali Baby」

Trippie Redd の EP「A Love Letter You’ll Never Get」収録の一曲。

Trippie が Instagram で Bali に連絡を取り、このコラボが実現したそうです。両者のオートチューンを効かせたキャッチーなフロウが癖になる良曲です。ちなみにこの曲のフックは、有名な“Woah meme”を引用しています。

「Zombitch(feat. Bali Baby)- Elle Teresa」

来日経験もあると前述しましたが、実は日本のフィメールラッパー Elle Teresa ともコラボしています。

“アソコのBitch What You Wanna Do?
ミニバナナを振り回す”


– Elle Teresa

という Elle Teresa のバースに対して、Bali も次のようにラップします。

“ask the little bitch whatcha wanna do
何がしたいのとビッチに尋ねる
when u talking to the boss u better check ya attitude”
ボス(私)と話すときは態度に気をつけな

– Bali Baby

この二人には、フロウもバイブスも近いものを感じます(笑)。こういったコラボを通じて、日本のファンが増えてくれれば嬉しい限りです。

Captain Save-A-Hoe

最後は、今週金曜日にリリース予定である彼女のニュープロジェクト「THE BOOK OF BALI」収録の一曲です。

この曲では、Baliのセクシーなウィスパーフロウを堪能することができます。「THE BOOK OF BALI」、非常に楽しみです。今週末は皆さんBali Babyを聴きましょう。

まとめ

今回はアトランタのトラップガール、Bali Babyちゃんについて書いてみました。以前から彼女についてまとめてみたかったのですが、あまり需要がなさそうなので避けていました。しかし今回改めて記事にしてみて、彼女への愛を再確認できる良い機会となりました。少し自己満チックな内容になってしまったかもしれませんが、これを機に彼女のファンが一人でも増えれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

Apple Musicのプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/bali-baby-the-hottest-female-rapper-comming-outta-atlanta/pl.u-2aoqp2viNWXxYz0?l=en 

フロリダの若手ラッパー YNW Melly とは

みなさんこんにちは。ここ最近 YNWクルーのラッパーたちが大きく動き出しています。“YNW”とは “Young N***a World” の略称であり、今回紹介する YNW Melly が所属しているフロリダを拠点とした楽曲制作グループの名称です。

Melly の実弟である YNW Bslime は先週待望のアルバム “BABY GOAT” をリリースしましたし、まだまだ無名ですが YNW Khris は SoundCloud にて楽曲を発表し始めました。

YNW Melly (左) と YNW Bslime (右)

そんな中 YNW のリーダーである YNW Melly が本日、三枚目のアルバムである “Melly vs Melvin” をリリースしました。ということで、彼の過去の楽曲や、本日リリースされたアルバムについて紹介していこうと思います。

YNW Melly って誰?

それではまずは基本情報から。YNW Melly こと Jamel Mourice Demons は 1999年3月1日生まれの20歳。フロリダ生まれのラッパーです。YNW Melly の特徴としては、メロウなフロウやオートチューンをバリバリに効かせたフックなどがあげられます。決してラップが上手いという訳ではありませんが、キャッチーなメロディーによって人々の心を掴んで離さないと言えるでしょう。

過酷な幼少期

彼は1999年の3月1日にオハイオ出身の両親のもとに生まれました。彼の母親が彼を授かった時なんと彼女は14歳であり、9th grade (日本の中学3年生で15歳)の時に Melly を出産しました。

父親は Melly が生まれてすぐに失踪してしまった為、母親と母方の祖母によって育てられました。フロリダの Brierwood という地域に3人で暮らしていましたが、家賃の支払いが困難になった為、更に貧しい地域に移り住みました。

彼は15歳の頃から SoundCloud に楽曲をアップし始め、同時にアメリカの2大ギャングの1つである Bloods に加入しました。その翌年、彼は Vero Beach 高校の周辺で同学校の生徒に向かって銃を発砲した罪に問われて、数ヶ月の間刑務所に拘留されています。

ここで彼による楽曲を1つ紹介します。1つ目のミックステープ “I Am You” に収録されている “Mama Cry” という楽曲です。この曲は、先程説明しました16歳の時に起こした発砲事件によって刑務所に入れられてしまった彼が、母親に向けて懺悔するという内容なのですが、こちらの曲のMVに彼が家のソファの下から本物の銃を見つけてしまうシーンが生々しく描かれています。

そんな彼ですが、厳しい家庭環境の影響もあってか多重人格障害や注意欠陥症を患っているようです。彼のデビューアルバムである “We All Shine” に収録されており、“Mixed Personalities” という楽曲もタイトル通り多重人格についての楽曲です。

ちなみにこの曲はKanye West を客演に呼んでいるのですが、よく考えてみると彼の素晴らしい功績だと言えます。Lil Pump は18歳、Smoke Purpp は20歳にして Kanye とコラボ曲を発表しましたが、いずれも Kanye からのオファーです。もちろんそれでも凄いんですが、Melly の場合は自身のアルバムに Kanye を客演として呼んでいます。

YNW Crew

YNW クルーの仲間である YNW SakChaser と YNW Juvy を殺害した罪で起訴されているMelly ですが、他にも YNW Peso などのクルーが存在します。彼らは全員ラッパーとして活動しており、楽曲が日の目を見ない頃から力を合わせて活動していました。フロリダはアトランタなどに比べて有名なラッパーが少ないこともあり、彼らは大人たちに「ラッパーなんかより仕事を見つけた方がいいぜ。」とか「ウェンディーズで働いとけよ。2年後には解雇されるだろうけどよ。」などとからかわれていた過去を SakChaser は振り返って語っています。こちらのオフィシャルのドキュメンタリーで、彼らの生活の多くを知ることができますのでぜひご覧ください。( Melly のおかんとかも登場するので見応えあり。)

Murder on My Mind

“We All Shine” をリリースした直後である、2019年の2月に彼は仲間であるYNWクルーの YNW SakChaser と YNW Juvy の2人を殺害した容疑で起訴されました。更に2019年の5月には彼に死刑が宣告される可能性が生じていると TMZ によって伝えられました。

今現在もバリバリ牢屋の中にいる Melly ですので、今回のアルバムは獄中からのリリースということになります。

そのようなニュースが報道されたことがきっかけに、Billboard のチャートの上位に急上昇した曲が “Mind on My Murder” という楽曲です。この楽曲は彼が過去にギャングの仲間を誤って銃撃、殺害してしまった事件について歌っているものです。

そもそも、自分が加害者である殺人事件のことを楽曲にすると時点で、並大抵の狂人ではないとお分かり頂けると思います。そしてこの曲なのですが、リリックがとにかくリアルです。彼がなぜ、どのように仲間を殺してしまったのかが嫌というほど鮮明に描かれています。以下、”Mind on My Murder” の生々しいリリックを抜粋。

って感じで、頭の中に事件の現場が鮮明に浮かび上がりましたよね。このようなリアルすぎる YNW Melly の楽曲の特徴の1つです。日本に住んでいる僕らが想像もしないようなことが、この世界のどこかで実際に起こっていることに気づかされ、耳を覆いたくなるリリックも沢山あります。

更に、更にですよ。彼はこの ”Murder on My Mind” を殺害された被害者の視点に立って、全く逆の目線でラップした “Mind on My Murder” を発表しています。先程紹介したリリックも全て被害者の受け身の形に置き換えられています。生粋のサイコパス気質で本当に怖いっていうか、普通に引くレベルやわ。

もうリリックだけでリスナーに事件の様子を鮮明に想起させておいた挙句、MVでそれをビジュアライズして、そのイメージを確固としたものに仕立て上げてくれています。悪魔の権化かよ。

Melly vs Melvin

さて、ここからは本日リリースされた ”Melly vs Melvin” についてです。まず、アルバムのタイトルの ”Melvin”ってなんや?と思う方もいらっしゃると思いますが、簡単に言うと Melvin は Melly の第二の自分です。

Genius のインタビューで「俺は多重人格で、他の人間が中にいる。Mellyはみんなから愛されていて、みんなのことを愛してる。Melvinは、Mellyを悪い人間から守ってくれるもう一人の自分なんだ」と語っています。ということで、今作のテーマは自分と自分自身のもう一つの自分との間に起こる闘争や葛藤と言ったところでしょうか。

アルバムのアートワークも Melly と Melvin の二つの顔が描かれているデザインとなっています。

今回のアルバムですが、一曲目から Melly らしい楽曲になっていると思います。ピアノビートの上で地声とハイトーンボイスを織り交ぜた独特なフロウを披露してくれています。今年に入って1週目に “We All Shine” をリリースした彼ですが、約一年ぶりにやっと帰ってきた!って感じがしましたね。アルバム全体としても、客演をほとんど迎えず実力だけで勝負してる感はありますね。(獄中なので客演を迎えることが難しかったというのもあると思いますが。)

今作の5曲目である”Billboard” では早口言葉のようなフックを披露しています。

Used to rob n****s for that bill, when I get board, now I’m on billboards

金を盗んでたよ。でも俺は今ビルボードのチャートにランクインしてる

YNW Melly – Billboard

音源を聴いていただければわかる通り、早口言葉のようなワードプレイをラップしています。

続いて紹介するのは 9曲目にの “100K” という楽曲。こちらのが楽曲では今作のテーマにもなっている二重人格的なリリックが見受けられます。

I would not ever change on you lil’ baby

俺は絶対君への思いを変えることはないよ
I promise I love you, and never would put no one body above you

君を愛してるって約束するし、君より誰かを愛することはない
Ugh, I might just fuck on your sister

くそ!君の姉妹とヤちゃうかも

YNW Melly – 100K

彼女への愛する想いを優しく歌い上げたすぐ後に、彼女の姉妹とセックスするかもしれないと言っちゃうあたり、完全にMelvin が見え隠れしています。インタビューでは、「Melvin は僕を悪い人間から守ってくれる存在」とか言ってたくせに、都合のいいように Melvin を使って言い訳しようとしているのが見え見えです。

今回のアルバムは、逮捕される前にレコーディングしたものということもあり、少し新しさにかける部分もありましたが、獄中から新曲を出したということ自体に意味があることだと思います。

Music By YNW Melly

ここからはいつものようにおすすめの楽曲を紹介していこうと思います。まず初めに紹介するのは “772 Love” という楽曲です。

タイトルにある “772” とは、彼が16歳の頃に発砲事件を起こした高校周辺の地域のエリアコードで、彼はこの地域を当時の好きだった女の子とドライブしていました。この曲はその頃のほろ苦い思い出をメロウなフロウに乗せて甘く歌い上げています。狂気的な楽曲を制作する反面、このようなラブソングも同時にこなしてしまうギャップには惹かれてしまいます。

YNW Melly – 772 Love

YNW Melly の楽曲を聴く際に押さえておきたいポイントの1つでもあるのが、オートチューンバリバリな奇妙な歌声です。初めて聴く人は、受け付けない歌声かもしれませんが、Melly を好きになる人は彼のそのようなスタイルに惚れ込む人も多いです。こちらの曲で存分に楽しめますので一度聞いてみてください。ちなみに2:44秒くらいから本領発揮します。

YNW Melly – Alarm

おわりに

Melly への深すぎる愛によって長ったらしい記事になってしまいました。しかし、 Melly についての情報がここまでまとめられた記事が他にないと思うので、これから Melly を知る方、もっと知りたい方の目に止まってくれれば嬉しいです。ここまで読んでいただいてありがとうございました。ではまた次回!

↓今回紹介した楽曲などを収録したオリジナルプレイリストです。

https://music.apple.com/jp/playlist/melly-vs-melvin/pl.u-2aoqp4bfNWXxYz0?l=en

ベッドルームのクイーン Clairo とは

こんにちは!今回は夜11時ぐらいに部屋で一人だと聞きたくなってしまうでお馴染みの女性シンガーソングライター(以下SSW)Clairo のキャリアや良さについて書いていこうと思います!

プロフィール

アメリカンなClairo

本名Claire,Cottrilはマサチューセッツ州出身で1998年生まれの21歳です。

ジャンルはインディー・ポップですが、キャリアの初期はその中でも、今流行りの「ベッドルーム・ポップ」に分類された音楽を製作していました。

ベッドルーム・ポップとは、Lo-Fiに近いところがあって、楽曲製作を実際に部屋の中で行っていたり、そのようなニュアンスの音楽を指します。

Clairoは優しく語りかけるような歌声の持ち主で、イヤホンで聞くと耳元でささやかれているかのような感覚になるアーティストです。

では、彼女のキャリアとオススメの楽曲などを紹介していきます!

Pretty Girl(2017)

Clairoが話題となったきっかけの初期の楽曲が「Pretty Girl」です。

いやー、このあざとい感じがかわいいですね。

これこそがベッドルーム・ポップというようなこの楽曲は全て自分で製作し、PVもセルフ・プロデュースしているということで才能の凄さが伺えます。

PVは再生回数が現在4000万回を超えており、非常に話題となりました。

楽曲としては、ボーカルにリバーブが強くかかっていて、メロディーやインストもシンプルなため、とても聞いていて心地いいんです。

曲の内容としては、当時の好きな人のためにありのままではなく、自分を相手の好みに変えるというような19歳らしいセンチメンタルな内容となっています。

I could be a pretty girl, I’ll wear a skirt for you.

あなたのためなら、スカートを履くような可愛い子になれる。

I could be a pretty girl, shut up when you want me to.

あなたが黙って欲しい時は黙っとく。

歌詞もめちゃくちゃかわいい。若さ溢れる共感できる歌詞ですよね。

ただやはりキャリアのスタートあたりの楽曲であるためか、全体的なクオリティは現在の彼女の楽曲に比べると低い印象を持ってしまいます。

Clairoの父親が広告会社の社長でこの動画に力を貸していることもという噂が広がり、コネを使って売れたなどのことも言われますが、現在の活躍を見れば、もともと高い才能をもっていると思いますね。

そしてClairoはインタビューでこの頃アメリカのボーイズバンドBROCKHAMPTONから影響を受けていると言っており、時期を考えるとめっちゃタイムリーやなという感じですが、なんか印象がもっとよくなりますよね。

ちなみに彼女は大学に通いながらアーティストとしても活動していたので、Tay Keithと同じだと考えてもらっていただいて問題ないかと思います。

大学生らしくかわいいClairo
と大学に札束を持っていくTay Keith

Diary 001 (2018) 

前述の「Pretty Girl」やシングルの「4EVER」をひっさげ、Clairoは待望のEP「Diary 001」をリリースします。

このEPについてClairoは彼女にとって最後のベッドルーム・ポップの作品と表現しており、実際数曲がスタジオで作られています。

全体的にはやはり19歳の恋愛観がわかるようなロマンティック系統な内容が多くなっています。

ただ、「Pretty Girl」の勢いそのままにという感じではあったので、そこまで流行するとかいうわけでもない感じになってしまいました。

ですが落ち着く系のいい曲ばかりなのでオススメ曲を一つ紹介したいと思います。

オススメ曲

オススメ曲はずばり一曲目の「Hello?」です。この曲は「Chill界のカリスマ」ことRejjie Snow様をフィーチャーした、二人の良さが爆発している楽曲になります。

Clairo, Rejjie Snow – Hello?

電話のダイヤル音の後にすごいアメリカンなHello?が聞こえて始まるこの曲。

やはりベッドルーム・ポップの雰囲気が残りつつ、ドラムではあえて弾けるようなクラップがあることによって、虚無感に襲われそうになるオルガンのメロディがテンポがあるキャッチーなサウンドに仕上がっています。

でもやはりClairoの少し寂しそうなボーカルとRejjieのつぶやくようなラップが入ることで、春のギリ夜にカウントしない18時45分あたりの時間帯にいるような、ひんやりとしたなんだか冷たい感覚になります。

内容的には相手が自分のように好きなのかという彼女の内面的な不安が滲み出たリリックなのですが今回はこの楽曲でRejjieがラップしているひとつのラインがたまらないものだったので紹介します。

Played you DOOM, man, you play Drake

おれがDOOMで、君はドレイクだ

これはMF DOOMというビートがちょっとおしゃれなオルタナティブなラッパーと DrakeのようにR&Bに近いラッパーのように、同じ業界にいても少し違うテイストの音楽を作るという意味で、RejjieがDOOMでClairoがDrakeという風にかけているんです。

DrakeがR&Bでロマンティックな曲を作ることも多いのでそこも Clairoとかけているのかも知れません。

この4人のアーティストが一つのバーに含まれているだけで最高ですよね。

Chill界のカリスマ・Rejjie Snow

そしてこのEPのリリース後はアメリカの男性インディー歌手・Cucoやイギリス人男性SSWのSG Lewisなどとコラボするなど活動の幅を広げます。

また、世界最大級の野外音楽フェスであるLollapalooza 2018やCoachella 2019に出演するなど、知名度もぐんぐんあげていきます。

そして2019年8月に初アルバムをリリースします。

アメリカに留学したら同じ寮に住んでて、顔見知りになりそうな出で立ちのClairo (左)と横ではにかむCuco(右)

Immunity (2019) 

このアルバムは良すぎてプレーヤーを持っていないのにレコードを買ってしまうぐらい個人的には今年トップぐらいの勢いのアルバムです。

一曲目の「Alewife」が始まった瞬間クリスマス?っていう感じのサウンドにもっていかれ

「North」では夏の夕方のビーチにいる感覚にもなるので、アルバムを通して四季を感じているみたいな気持ちになります。

「Closer To You」ではオートチューンにハイハットという、808いれてYung Bansにラップさせたらヒップホップチャート入るんちゃうかぐらいの新しいインディー・ポップの形が見えた気がします。

また、彼女のセクシュアリティや恋愛観など内面的なものがアルバムを通して歌詞からもサウンドからも感じ取れる作品となっています。

このアルバムからは素人の僕でもわかるぐらいにギターからボーカルまで前作から成長が見られます。

また、アメリカのカリスマ的インディー・バンドVampire Weekendの元メンバーであるRostamがプロデューサーとして参加するなど完成度が非常に高いこの作品。

厳し目採点の音楽メディアPitchforkも10点中8.0点をつけ、US Billboard 200でも51位にランクインするなど高評価かつ話題の作品となりました。

オススメ曲

Softly

 たぶんけっこうあるあるだと思うんですけど、僕は楽曲一つ一つにイメージカラーがあって、そのカラーがアルバム、またはシングルのジャケットの色になりがちなんですよね。

だから紹介する二曲は両方イメージカラーががっつり白なんですけど、Softlyの白はちょっとマイルドなベージュに近いイメージです。

まず初めのギターからすごい心地がいいサウンドです。

そこに入ってくるClairoの川のせせらぎのようなこれまた心地いいボーカルが入ってきて、フックでは軽くオートチューンがかかっていて、完璧なハーモニーで気持ちいいサウンドです。

Clairoは2018年に自身のセクシュアリティは不明であるが、ストレートではないと発言しており、紹介する二曲でそのセクシュアリティが垣間見れます。

Touch you softly, call you up late at night

あなたに優しく触れて、夜遅くまで電話して

Know that it isn’t right, but you could be my one and only

いけないことだとわかっているけれど、あなたは私が求めている人かもしれないから

甘酸っぱい。

「いけないことだとわかっている」というラインが、あまり人に知られてはいけないけれど、どうしてもそのように感じてしまう感覚だといえます。

またフックの手前ではgirlという単語を二人称として使っており、やはり女性に対しての感情と捉えられます。

この曲は個人的に今年で一番を争うぐらいの楽曲でして、ぜひ読者の方々にセンチメンタルな気持ちになっていただきたいです。

ちなみに「Touch you softly」というフックの歌詞なのですが、softlyの音が「ソフトリー」じゃなくて確実に「ソーフヤー」って言ってるていう個人的なあるあるもございます。

Sofia

 6番目のSoftlyの次のトラックがこの「Sofia」です。

最初のギターがロックっぽい感じがしてかっこいいのですが、Clairoの繊細なボーカルでかっこよさが心地よさで完全に緩和され、完璧なバランスが成立する楽曲です。

Softly はベージュに近い白というイメージですが、Sofiaは個人的においしい牛乳のパッケージのあの爽やかな白に近いイメージカラーです。相当爽やかです

 2分15秒あたりの一度声がぼやけてからのキーの高い彼女のボーカルが、一度地上に戻ったけどまた雲の上に突き抜けてきたみたいな、天下一武道会の空中戦のシーンみたいなイメージ。

Clairo一人が雲の上に上がっていく情景が頭に浮かびます。

この楽曲は、Softlyよりも明確に彼女のセクシュアリティについてわかる楽曲となっています。

Sofia, you know that you and I shouldn’t feel like a crime

ソフィア、この関係があってはならないものだと感じなくてもいいって知ってるよね

このSofiaという女性の名前は彼女が好きだった(推しに近い感覚)脚本家のSofia Cappolaと女優のSofia Vergaraのことを指しています。

この歌詞は同性愛のカミングアウトの難しさやそのスリルをCrimeという単語で表していて、いい言葉の言い回しだなあと感じました。

白がさわやかすぎるおいしい牛乳のパッケージ

その後はイギリスのプロデューサーMura Masa や

Netflixドラマ「13の理由」でクレイ役を演じているDylan Minnetteが所属するバンドThe Wallowsの楽曲に客演として参加するなど、様々なアーティストとコラボすることで、ファンベースを拡大しています。

その中でも、Clairoが客演で参加しているDeaton Chris Anthony の「RACECAR」という楽曲では、普段はみれないほぼラップみたいなかっこいいClairoがみることができます。

PVも自由な感じでかっこいいのでぜひ見てみてください。

終わりに

どうでしょうか。Clairoの良さが伝わっていると嬉しく思います。

また来年3月からは、オーストラリアの神様的インディー・バンドTame Impalaのアメリカツアーに帯同することも決まっているので、どんどん人気が増えていきそうです。

Clairoは、これからも活躍の幅を広げ、ファンベースを拡大していくアーティストだと思うのでぜひチェックしておいてください!

Clairo特製プレイリストはこちら↓

https://music.apple.com/jp/playlist/clairo-a-pretty-girl-from-the-bedroom/pl.u-jV89arDFd1A86o2

ヒップホップ界のカートコバーン Lil Peep とは

どうもです。外も一層寒くなり、つい先頃まで紅葉を楽しんでいたはずが…

さらっと秋が流れてしまうようになった今日この頃でありますが。

本日、Lil Peepこと、故グスタフ・イラジャ・アールの命日と共に、アルバムが発表され他ので、この記事を書いてみようかなと思いました。

まあ今日は長くなりすぎないようにすらりとLil Peepのこれまでを振り返り、懐かしい気持ちになったり、再発見をしていただけるなら幸いと思い、書き進めていこうと思います。

ではまず、ニューヨーク・タイムズ誌にも 「ラップ界のカートコバーン」 と謳われている彼のプロフィールを垣間見しましょう。

生い立ち

1996年11月1日、本名をグスタフ・イラジャ・アールという Lil Peep はペンシルベニア州のアレンタウンで生まれました。

彼の両親はハーバード大学の卒業生であり、母親は小学校の先生、父親は大学の教授という勉学には困らない家庭で育ちました。

ハーバード大学

生後、彼は思春期をニューヨーク州のロングアイランドで過ごします。やはり遺伝は少なからず影響するもので、彼は成績が優秀でした。

しかし、精神的な疾患や周りとのコミュニケーションに悩み、高校を中退してしまいます。(ちなみにその後、彼はオンライン学習で高校卒業認定を受けるのですが)

そして、17歳でロサンゼルスのスキッド・ロウにに移り、本格的に音楽活動を始めます。そして2016年までに4つのミックステープと5つのEPをリリース。また、この2016年にはロサンゼルスのエコー・パークに拠点を移します。

この頃にはSound Cloudなどで徐々にその人気に火がつき、そして2017年に一世を風靡するアルバムを発表します。

1. 『Come Over When You’re Sober, Pt. 1 』(2017)

オルタナティブ・アルバムチャート3位、ヒップ・ホップ・アルバムチャートでも16位を記録しました。

ファーストアルバムのこのアルバムこそが、彼が生涯で唯一リリースするアルバムとなるのですが…

オススメ曲

1. Save That Shit

Fuck my life, can’t save that, girl. Don’t tell me you could save that shit.

クソみたいな人生だ、君でも救えないぐらいに。救えるだなんて言わないでくれ。

Fuck my lifeで始まるまさにLil Peepのペシミスティックな人間性が満開の曲ですが、実は最初のここのリリックをどう捉えるかで曲のイメージが全く変わるんですね。ざっと二通りの訳し方があります。

1.save that girl(あの子が救えないなんてクソな人生だ)

2.save that, girl.(君にも救えないよ。こんなクソな(俺の)人生)と捉えるか。

そう聴いてみると、女の子のことをshitと表現したのか、自分のくそな人生をshitと表現したのか。聴いてみるとますます深いですね。すごく深い曲だと感じます。

2. Better Off (Dying)

僕がこのアルバムで一番好きな曲です。

彼の曲の中では珍しく重苦しくなく、むしろ美しい旋律から始まるんですが、やっぱりボーカルが入った瞬間に彼の世界に吸い込まれるんですね。

ちなみにこのアルバムが出た8月に、自らがバイセクシャルであることをツイートで告白するんですね。それを考慮すると、次のリリックの感じ方も変わってきます。

Cocaine lined up, secrets that I’m hidin’.

コカインを並べる、俺が隠してる秘密だ。

コカインを隠すことと自分の性的指向を隠していることをかけているのでしょう。

音楽人生の頂点へと差し掛かろうとしているその頃、事件は起きました。

2017年11月15日、アリゾナ州ツーソンでのライブ会場に向かう途中のツアーバスにて、彼の死亡が確認されました。

その日のインスタグラムの投稿で、ザナックスらしき薬物を摂取している様子が見て取れます。

https://www.instagram.com/p/BbhJN8MFBlT/?igshid=18x19cwklfo8q

その後、12月には正式な死因がフェンタニルとザナックスの過剰摂取であると断定されます。

ザナックスは、周知の通りサウンドクラウドラッパーのリリックなどに頻出する薬物で、処方箋があればもらえるドラッグです。

ザナックス

フェンタニルに関しては、かなり少量でも効果があって、麻酔や鎮痛剤として使われるドラッグです。

また、フェンタニルは伝説の R&B シンガー Prince の死の原因としても有名ですね。

フェンタニル

そして、この二つの薬物を同時に摂取することは呼吸困難を引き起こすなど、極めて危険です。しかし、Lil Peepは死や希死念慮について歌うことは多かったものの、この時に自殺願望を仄かしてはいませんでした。

また、ライブに向かっていたという事実からこれは自殺ではなく、事故であると結論付けられました。

2. Come Over When You’re Sober, Pt. 2 (2018)

次に、丁度一年前に出た 『Come Over When You’re Sober, Pt. 2』についてです。

リル・ピープと生前から親交の深かったプロデューサー、スモーカサックが前作『Come Over When You’re Sober, Pt. 1』の発表後に制作していた未発表音源がベースとなっている作品です。

僕はこのアルバムのリリースが告知された時、死後と言うことでその完成度を心配していました。でもそれは間違っていました。おそらくリルピープの作品の中で最も優れた作品が作られてしまったのです、悔しくも彼の死後に。

オススメ曲

1. Broken Smile (My All)

この曲はタイトルのように、まさに彼の全てのような曲ですね。

魂の震えのような音が徐々に大きくなり、錆びた鉄琴が姿を現し始め、悲しげな声と旋律で全てを捧げた女性を想います。

彼女も壊れた心の持ち主だったと叫ぶフックでの彼の声に引きずり込まれてしまいます。彼女に自分や自分のような人を重ね合わせていたのでしょう。

2. Runaway

リル・ピープの子供時代の絵だったり、生前の彼の姿をおさめたミュージック・ビデオが話題となりました。

早くここから出してくれ、みんなフェイクなんだと叫ぶリリックが印象的で、まさに Lil Peep を象徴する荒くローファイなビートですね。

3. Life Is Beautiful

人生の美しさを語った曲、Life Is Beautifulも印象的な一曲です。いや実際は全く美しさなんて語ってないんですが。

They’ll kill your little brother and they’ll tell you he’s a criminal.
They’ll fucking kill you too, so you better not get physical.

あいつらはお前の弟を殺し、だって弟は犯罪者だからと言う。
そんなにカッカするな。いつかお前も殺されるんだから。

こんなズタズタになったって傷ついたって「人生はそれでも美しいんだ」と言う彼。希死念慮についても触れていて、いつか俺は部屋で一人で死ぬんだとも言っています。

ただ最後のアウトロでまた言うんです。これにやられちゃいますね。

Isn’t life beautiful? I think that life is beautiful.

(それでも)人生って美しいだろ?俺はそう思うんだ。

他のおすすめとしては、XXX Tentacion とのコラボ曲で全米シングルチャート13位となった『Falling Down』です。

また、同じ曲でアイラヴマコーネンがフィーチャーされた「サンライト・オン・ユアー・スキン」はストリーミング・アルバムのみに収録されています。

2019年1月には彼が生前に歌っている場面を収めたPV
Goth Angel Sinner が発表され、ついに先月の10/31に EP「Goth Angel Sinner」がリリースされました。

生前から彼はこのEPを出すことをほのめかしていましたし、特に『When I Lie』が大好きで聴きまくっていたということもミュージックビデオを共に撮影した Rayn が語っています。

また、今年の3月に放送されたドキュメンタリーが 『Everybody’s Everything』。そしてこの名前が今回リリースされたアルバムの名の元でもあるのです。

3. EVERYBODY’S EVERYTHING (2019)

『Goth Angel Sinner』の三曲共を含んだこのアルバムが本日リリースされました。

オススメ曲

1. 『Belgium』

まずは先行 EP から一曲、『Belgium』。

エモロックというよりかは90年代のUK・USのロックを感じさせるようなイントロですね。

2. 『witchblades (wit Lil Tracy )』

いやこれ聞いてめちゃくちゃ懐かしいなって思いましたね。サンクラにも綺麗な音のヴァージョンは上がらなかったし、みなさん結局Youtubeで見てばっかりだったんじゃないですか。まあ Lil Peep ファンの方は絶対懐かしく思ったに違いありません。

3. 『AQUAFINA ( ft. Rich The Kid )』

いやー、Rich The Kidの少し急ぎ足なフロウがたまらないですね。この人のビートアプローチにはいつもはっとさせられるばかりです。

Molly in my Aquafina.

水に溶かしたMDMA

強烈なラインで始まるんですが、Molly (MDMA) を水に溶かすってかなりポピュラーな MDMA の使い方なんです。そもそも水溶性なんでそれが一番効きやすいんです。

あと、Aquafinaってのはかなり有名な水のブランド何ですが、4年前ぐらいに中身が水道水だってことが判明して炎上していました。

4. 『Rockstarz ( ft. Gab3 )』

いやー、このアルバムで大活躍の Gab3 ですが、結構長いこと日本にきてましたね。神戸の某ライブハウスのライブでGab3のパフォーマンスを見たんですが、めちゃくちゃ一生懸命歌う人なんですね。

この曲のイントロでは Lil Tracy などが登場しますし、割と楽しく感じる曲です。

おわりに

どうでしたか。最新アルバムだったり、シングルだったり他にもいい曲がたくさんありますので、是非プレイリストもチェックしてみてください。

https://music.apple.com/jp/playlist/everybodys-everything/pl.u-GgA52y5iZ1GAeaY?l=en

ヒップホップと高級車

ロールス・ロイスにランボルギーニ。

フェラーリやベントレー。

これらの高級車は、誰もが一度は夢見る永遠の憧れです。そして、やはりヒップホップと高級車の関係は切っても切り離せませんし、ラッパー達にとっても高級車は光り輝く宝石のようなものなのです。今回はそれらの高級車がどのようなものなのか、ラップのリリックと絡めながら解説していく記事になります。

高級車を意味するスラング

Expensive Car (高級な車) なんて言葉はリリックの中ではほとんど聞いたことがありません。例えば、“Foreign” というスラング。Playboi Carti も “Foreign” ってタイトルの曲を出してますが、学校なんかではこの言葉は「外国の」なんて意味で教わりますよね。結論から言うとこのスラングは、そのまま「(外国の)車」を表します。ですからアメリカのラッパー達にとってアメリカ以外で製造された高級車(ドイツのメルセデス・ベンツやイタリアのフェラーリなど)のことを指すスラングです。

あと、主に使われている高級車を表すスラングは “Whip” です。”Whip” って言葉にはもともと「むちで打つ」などの意味があるんですが、なぜこれが車を表すようになったか、そのヒントはフェラーリのエンブレムにあるんです。フェラーリのエンブレムは皆さんご存知の通り馬のデザインですよね。馬を走らせる時にむちで叩くことから、はじめはフェラーリを表すスラングとして使われていました。それが時とともに高級車全般をさすスラングに変容していったってわけです。

Rolls Royce

はじめは高級車の王様であるロールスロイスについてです。イギリスに拠点を置いた高級車ブランドなのですが、各国の王室が公用車として採用していたりするので、車に詳しくなくても聞いたことがあるかもしれません。

ロールス・ロイスには “Ghost” (ゴースト) や “Phantom” (ファントム)、”Wraith” (レイス) などいくつかのモデルが存在します。ラッパーたちはリリックの中で “Rolls Royce” というブランドの名前を登場させることはむしろ少なく、先述のモデル名で呼ぶことの方が多いです。モデルによって最大で約2000万円の価格の違いが生じてきますから、自慢気質なラッパーたちにとって一番高いランクのモデルを所有していることをラップしたい気持ちがあるのでしょう。ちなみにロールス・ロイスのエンブレムにちなんで “Double R” と呼ばれたりもします。

ロールス・ロイスの中で最もハイクラスなモデルはファントムです。車体価格は5570万円で、様々なオプションを付けるとゆうに6000万円を超えてくる生粋の高級車ですね。ちなみにファントムの中にも上位モデルが存在し、そちらの車体価格は6670万円にも上ります。空前絶後のバズを起こした Lil Tecca の “Ransom” で彼はこのようにラップしています。

Hop outside a Ghost and hop up in a Phantom

ゴーストから跳び降りて、ファントムに跳び乗る

Lil Tecca – Ransom

ロールスロイスの中で最もお手頃なモデルであるゴーストから跳び降りて、最も高額なファントムに乗り換えるとラップしているわけです。ただ、Lil Tecca ら Genius のリリック解説動画において、リリックに登場することは殆ど嘘であり車は持ってないし運転すらしないと公言しています。

名前的に一番かっこいいゴーストというモデルですが、88GLAM が NAV の ”Racks in My Sleep” に参加した時に、Derek Wise このような素晴らしいラインを披露しています。

Poltergeist, we in a Ghost, we can’t be seen (Skrrt, skrrt)

ポルターガイスト 俺たちはゴーストに乗ってる 誰も俺たちを見ることはできないぜ

Nav – Racks in My Sleep (feat. 88GLAM)

これはダブルミーニングを駆使したかっこいいリリックですね。「ポルターガイスト」とは誰も触れていないものが突然動き出す怪奇現象ですが、Derek Wise は「お化け」という意味の “Ghost” とロールスロイスのモデル名の “Ghost” をかけています。「俺たちはロールス・ロイス ゴーストに乗ってるから、お化けみたいに誰にも見られずに車を動かせる。まるでポルターガイストだ。」という感じです。

ちなみに、車系の歌詞がラップされたときなどに、アドリブでよく使われる “skrrt” という言葉は、車がドリフトした際にタイヤが地面に擦れる音を表現したオノマトペです。

Bentley

次に紹介するのはベントレーです。こちらもイギリスの高級車メーカーであり、翼の真ん中に “B” のロゴが特徴的です。ベントレーは現行のほとんどのモデルが約3000万円であり、ロールスロイスに比べると比較的お手頃です。Bentayga (ベンテイガ) というSUVも製造しており高級車とスポーツカーの両方の要素をミックスした感じですね。

世界最高峰のSUV ベンテイガ

ちなみに Lil Uzi Vert は名だたる高級車を全てカーキにペイントし、無駄にいかついオプションパーツを装着した様子をInstagramに投稿していましたが、ベントレーのコンチネンタルというモデル、もはや原型がないほど改造しています。バンパープロテクターやスペアタイヤを搭載し、オフロードも走行可能なタイヤに履き替えています。

Lil Uzi Vert の車にカスタムを施したガレージ Car Flex より

ちなみに Lil Uzi はもう一台カーキのベントレーを所有していましたが、盛大に事故って廃車となったそうです。

J.Cole は自身の楽曲である “KOD” にてベントレーに言及しつつこんなラップをしています。

This is what you call a flip

これが君が “flip” って呼ぶものだろ
Ten keys from a quarter brick

1/4 ポンドから10キロのコカイン

Bentley from his mama’s whip

ママの車からベントレーに

J.Cole – KOD

“flip” っていうのは、安いドラッグを買ってそれを高値で転売する行為を表すスラングです。J.Cole は昔、このようにドラッグの転売を行って稼いでいた過去があるようで、その時のことについてのラインです。”key” と “brick” はどちらもドラッグ(主にコカインに用いる)の重さを表すスラングで、”key” は1キログラム “brick” は約450グラムを表しています。つまり、彼は110gのコカインを安価で入手し、それを転売することで10kgのコカインが買えるほどのお金を稼いだわけです。そうして稼いだお金で、自分では買うことができなかったため使用していた母親の車を卒業して、ベントレーをゲットしたんです。ドラッグビジネスはいつも桁が違いすぎて怖いですよね。

ベントレーに限ったことではありませんが、ラッパー達はよくリリックの中で “tint” という言葉を使います。”tint” というのは車の窓をくもらせて、外から内部を見えにくくすることです。ほとんどの車は元から後部座席に軽い “tint” が施されていますが、ラッパー達はしばしばカスタムによって外からの視線を完全に遮断します。窓に特殊な加工を施して自由自在に窓の透明度を調節することも可能なのですが、Nicki Minaj は自身の楽曲 “Chun Li” の中で “Bentley tinta on” とラップしています。彼女はベントレーに調節可能の曇りガラス機能をカスタムを施したようです。

透明度を調節可能な曇りガラスのカスタムを搭載した車

Lamborghini

この記事の最後に紹介するのは、やはり何と言ってもランボルギーニです。ランボルギーニは他の高級車に比べてもかなりスポーツカーよりな気がしますが、ここ最近でランボルギーニについてラップするラッパーがかなり増えました。ランボルギーニといえば、アヴェンタドールやウラカンのようなスポーティなモデルを一番に想像するでしょう。しかし、最近のラッパー達の間での流行の波は完全に Lamborghini Urus (ウルス) です。ウルスは2017年に発表されたランボルギーニ初のSUVです。ベンテイガを含むSUVの人気からは、やはり乗りやすい車に乗りたいというラッパー達の本音が垣間見えます。

売れっ子ラッパー達はこぞってウルスを納車しまくってますが、Gunna もそのうちの一人です。Gunna はものすごく鮮やかなオレンジ色のウルスを納車しましたが、それについて Future の “Unicorn Purp” という楽曲に参加した際にこのようにラップしています。

New Lamborghini, the Urus, it came in all orange, it look like a pumpkin (Yeah)

新しくランボルギーニ・ウルスを買ったぜ。全面オレンジでかぼちゃみたいだ

Future – Unicorn Purp (feat. Young Thug & Gunna)
Gunna の Instagram より

いかがでしたか。今回は三種類しか紹介できませんでしたが、今リリックに頻出するベスト3に絞ってみたつもりです。気をつけて聞いていると、一曲通して車の名前が出てこない曲の方が少ないと言っても過言ではないでしょう。僕は将来 Tesla のModel X という車に乗ることを決めているのですが、それがどのような車なのかはまた第二弾で書くことにします。それではありがとうございました。

Brooklyn Drillってなに?

記事の内容を動画でもご紹介しています。

皆さんこんにちは。今回は、近頃ニューヨークのみならずアメリカ中で人気を博しつつある”Brooklyn Drill(ブルックリン・ドリル)”というジャンルについて、3人のラッパーを取り上げながらご紹介していこうと思います。記事の最後に、今回ご紹介させていただいた楽曲や、今後要注目のニューヨーク出身アーティストの楽曲を集めたプレイリストのリンクを貼っていますので、最後まで読んで頂ければ嬉しいです。それではさっそくいきましょう。

そもそもドリルミュージックって?

ドリルミュージックとは、2010年頃にイリノイ州シカゴで生まれたとされる、主に暴力や殺人などをテーマとしたヒップホップのサブジャンルのことを指します。Chief KeefやLil Durkらの台頭は記憶に新しいですが、彼らこそドリルシーンの立役者です。そんな彼らの功績もあって、ドリルミュージックは世界的に波及していきました。特にめざましかったのがイギリスへの波及、UKドリルです。衰退しつつあるシカゴのドリルシーンと比べ、イギリスでは今もなお盛り上がりを見せています。ロンドン警視庁によってUKドリルのミュージックビデオが削除されたり、若手ドリルグループ1011の活動が制限されたりといった出来事が、その盛況ぶりを表しています。

Brooklyn Drill

さてここから本題に入ります。ニューヨークといえばヒップホップ発祥の地として有名ですが、ここ数年はシーンとしての盛り上がりを見せておりません(Bobby Shmurdaや6ix9ineなど度々お騒がせ者は登場しますが…)。世界的にヒップホップが流行している中、そろそろ本場ニューヨークの若手にも頑張ってほしいなと思っていた矢先、突如としてブルックリンに新しい風が吹き込みます。それが”Brooklyn Drill(ブルックリン・ドリル)”です。このブルックリン・ドリルとは、その名の通り、ニューヨーク・ブルックリンで生まれたドリルミュージックのことで、2017年頃からじわじわと人気を集めてきました。シカゴドリルやUKドリルからの影響を強く感じさせるものの、新たな音を取り入れることを拒まず、彼ら独自のジャンルを作り出そうと日々進化を遂げています。

ここからはブルックリン・ドリルにおける重要且つ要注目なアーティストをご紹介していこうと思います。

1. Sheff G

ブルックリン・ドリルを語るにあたってまず最初に知っておくべきなのがこの男、Sheff Gです。

彼以前にもドリルスタイルを取り入れていたラッパーはいたのですが、最初にこのスタイルで注目を集めたのがSheff Gです。とやかく説明する前にまずは一曲聴いてみましょう。Sheff Gで”No Surburban”。

いかがだったでしょうか。不穏なメロディやドラムパターン、暴力的なリリックからドリルミュージックの影響を強く感じることができます。この楽曲は、後に紹介するラッパー22Gzの楽曲”Suburban”へのアンサー曲なのですが、互いはそれぞれ別のギャング組織に所属しており関係はよくありません。いわゆるビーフ状態にありギャング抗争の絶えない彼らは、彼らのいる境遇を同じく過酷な環境下にあるシカゴや南ロンドンのシーンと重ね合わせてラップしています。このことから彼らがドリルミュージックを自らのラップスタイルに取り入れた理由が分かります。

「シカゴ、UKドリルに影響を受けている」と様々なインタビューでも語っている彼は、実際UKドリルMCのTazeと曲を作ったりもしています。以前にChief KeefもSkengdoやAMといったUKドリルMCと曲を出していましたが、そのコラボよりも遥かにカッコいいので是非聴いてみてほしいです。

その後独自のスタイルを取り入れつつシングルをリリースしてきたSheff Gは、今年遂に彼にとって初となるミックステープ”The Unlucky Lucky Kid”をリリースしました。このミックステープからも一曲お聴きいただきましょう。Sheff Gで”We Getting Money”。

はい。既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、こちらのビート、主に70年代に活躍した日本の歌手、太田裕美さんの”赤いハイヒール”という楽曲をサンプリングしたものなんです。

シティ・ポップ(70~80年代に日本で流行したポップス)はサンプリングソースとして以前から人気がありますが、この選曲は渋いですね。

こういったビート選びから、シカゴ、UKドリルとの差別化を試みていることが見て取れます。実際Sheff GはHotNewHipHopのインタビューにて、「UKドリルビートは邪悪すぎるし、シカゴのビートは使い古されて時代遅れだ。だから俺たちは自分たちで新しいスタイルを作り出さなければならないんだ」と語っています。ミックステープ全体を通して聴いても、元来のドリルのドラムパターンを残しつつ、落ち着きのあるピアノや弦楽器を基調とした独自のスタイルを提示しています。

ちなみに、このミックステープ”The Unlucky Lucky Kid”のカバーを撮影したのは日本人のHazzさんという方で、J.ColeやPusha T、Tory Lanez、A Boogie wit da HoddieなどのMV撮影にも携わる凄腕カメラマンです。

Hazzさん(左)とSheff G(右)

HazzさんのInstagram(https://www.instagram.com/hazznyc/)より

2. 22Gz

次は、先程も名前を出しましたが、22Gzというラッパーについてです。彼はBlixky Boysというニューヨークで最も恐れられるギャング組織に所属しており、可愛らしい顔をして「Blixky(ハンドガンを意味する)」というワードを連呼するやばい奴です。実際、第二級殺人罪で逮捕されたり、Rich The Kidを挑発したり、楽曲内で多くの人気ラッパーをディスったりと、なかなかのアウトローです。

そんな彼は、Kodak BlackのレーベルSniper Gangと契約しており、ラッパーとしての実力は十分です。それでは最初に、そのKodak Blackを客演に迎えた一曲を聴いていただきましょう。22Gzで”Spin the Block (feat. Kodak Black)”。

[22Gz]
And if I miss, I’ma spin the block
撃ち損ねたらもう一度撃つ
Even if I hit, I’ma spin the block
命中してもまた撃つんだ
If I miss, I’ma spin the block
死ぬまで撃ち続けるぜ

はい、これぞドリルって感じの曲です。危険な匂いがプンプンしますが、幾多の犯罪歴を持つKodakが気に入る理由も分かります。

ここでもう一曲、彼の人間性が伝わってくる楽曲をご紹介したいと思います。22Gzで”Sniper Gang Freestyle”。

この曲中で彼は、6ix9ineやTory Lanez、G Herboなどの人気ラッパーや、Kooda BやJay Dee、Dee Savvなどの同郷ブルックリン出身の若手ラッパーを次から次へとディスっています。

さらに、こんなラインも登場します。

Killing ni**as and I rap about it like I’m Melly
人を殺してそれについてラップする、Mellyみたいだろ

Mellyとは、皆さんご存知、第一級殺人罪でお務め中のラッパー YNW Mellyのことです。22Gzは、そんな要注意人物である彼と自分を重ね合わせているみたいです。重ね合わせるのは自由ですが、同じ道は辿ってほしくないと願うばかりです。

基本的にはこういった暴力的且つ攻撃的な内容のリリックが多い彼ですが、力強い声と多彩なフロウが魅力的で、一度聴くと病みつきになる中毒性を持ちます。今年リリースされた彼のミックステープ”The Blixky Tape”も完成度が非常に高いので是非聴いてみてください。

3. Pop Smoke

続いては皆さんお待ちかね、Pop Smokeです。”Welcome to the Party”という楽曲、皆さん一度は聴いたことがあるんじゃないでしょうか。

このPop Smokeというラッパーもブルックリン出身なのですが、上記の2人のラッパーとは少しテイストが違います。まずは、わずか30分で作り上げたという彼の代表曲を聴いていただきましょう。Pop Smokeで”Welcome to the Party”。

いかがだったでしょうか。明らかにアメリカのヒップホップの音(ビート)じゃないですよね。そうなんです。この曲は、UKドリルMCのHeadie OneやRVなどにも楽曲を提供している東ロンドン出身のプロデューサー、808Meloによるプロデュースなんです。808Meloは、Sheff GやSleepy Hallowなど他のブルックリンのラッパーにも楽曲提供しているのですが、Pop Smokeは自身のほとんど全ての曲で彼のビートを使っており、完全に独自のスタイルとして定着させようとしています。

そして、このラッパーの凄さはなんといってもブレイクまでのスピードです。昨年の12月頃にラッパーとしてのキャリアをスタートさせた彼ですが、今年の4月にリリースした”Welcome to the Party”がニューヨークを中心にヒットし、それを知ったPusha Tがニューヨーク開催の「The Greatest Day Ever! festival」にてPop Smokeをステージに上げました。

この出来事が後押しとなり、”Welcome to the Party”はバイラルヒットとなりました。その後リリースされた9曲収録のミックステープ”Meet the Woo”のリリースパーティでは、同郷ニューヨーク出身のフィメールラッパーNicki Minajを客演に迎えた同曲のRemixを発表しました。

実はこのリミックス、アルバムリリースとPop Smokeの二十歳の誕生日祝いを兼ねたサプライズプレゼントで、彼自身もこのリリースパーティで初めて聴くことになりました。その時の様子をご覧ください。

Nickiのバースでブチ上がるPop Smoke。完璧なリアクションです。

その後もFrench MontanaやSkeptaらがリミックスに参加したりとその勢いは留まることを知らず、2019年夏は完全にPop Smokeが持っていってしまいました。それにしても半年強でここまでのヒット曲を生み出したのは本当にすごいです。まだまだこれからに期待ですね。

Rolling Loudへの出演キャンセル

ちなみに今回ご紹介させていただいたSheff G、22Gz、Pop Smokeの3人のラッパーは、先月開催された「Rolling Loud New York」に出演予定だったのですが、暴力事件への関与を理由に警察からキャンセルの要請があったため、急遽出演不可となりました。こういった出来事からも、ニューヨークにおいてドリルミュージックが盛り上がりを見せているのがわかります。

ニューヨーク市警からの出演取り止めの要請書

おわりに

いかがだったでしょうか。ヒップホップ誕生の地、ニューヨークで盛り上がりを見せるブルックリン・ドリルの魅力が、この記事を通じて少しでも多くの方に伝わっていれば嬉しいです。最後までお読み頂きありがとうございました。

今回ご紹介させていただいた楽曲や、今後要注目のニューヨーク出身アーティストの楽曲を集めたオリジナルプレイリストを公開しています。もしよろしければApple Musicのフォローもよろしくお願いします。

https://music.apple.com/jp/playlist/upcoming-new-york/pl.u-2aoqprzCNWXxYz0?l=en

XXS Magazine が選ぶ
2023年ベスト・アルバム10選

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


10. Brent Faiyaz – Larger Than Life

メリーランドのシンガーBrent Faiyazのミックステープ。

TimbalandやThe Neptunesの影響を感じさせる00年代R&Bサウンドをオマージュしつつ、A$AP RockyやBabyface Rayら現行ラッパーをフィーチャーすることでモダンなムードに昇華した1枚。煌びやかなサウンドと、哀愁漂う甘美な歌声に惚れ惚れする36分間。


9. MIKE, Wiki & The Alchemist – Faith Is A Rock

ニューヨークのラッパーMIKE、Wikiと、ビバリーヒルズのプロデューサーThe Alchemistによるコラボ作。

MIKEのディープボイスとWikiのハイトーンボイス、そしてAlchemistのサンプルチョイスが光るミニマルなビートが絡み合う傑作。特に、粘り気のあるWikiのラップはAlchemistのドラムレスビートと相性抜群。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


8. Ken Carson – A Great Chaos

アトランタのラッパーKen Carsonの3枚目のスタジオアルバム。

Playboi Carti『Whole Lotta Red』以降のトレンドを継承したレイジビートに、Ken Carsonのマンブルラップが映える1枚。歪んだ低音が際立つアグレッシブなサウンドながら、繰り返し聴けてしまうキャッチーさも兼ね備えた良作。レイジシーンにおける最高傑作の1つであることは間違いない。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


7. Asake – Work of Art

ナイジェリア・ラゴスのシンガーAsakeの2枚目のスタジオアルバム。

アフロビーツを軸に、アマピアノ的なアプローチをふんだんに取り入れた1枚。全編を通して暴れるログドラムとAsakeの脱力感のあるヴォーカルが、不思議な中毒性を生み出す。英語とヨルバ語を使い分けたライミングも巧みで、ヒップホップ/ラップ的な影響も随所に感じ取れる。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


6. Teezo Touchdown – How Do You Sleep At Night?

テキサスのシンガーTeezo Touchdownのデビューアルバム。

インディロックやパンク、ヒップホップ、R&Bをごちゃ混ぜにしたようなアルバムゆえに統一感はないものの、Teezoの抜群のポップセンスが光る1枚。時折若き日のAndré 3000を思わせる声で、力強く耳に残るメロディを歌い上げる様には、デビュー作とは思えない貫禄さえ感じさせられる。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


5. Sampha – Lahai

UK・ロンドンのシンガーSamphaによる2枚目のスタジオアルバム。

ジャングルやトラップ(ヒップホップ)等の電子的なリズムを刻みながら、生音をふんだんに取り入れたハイブリッドなアプローチを試みる。アンビエントかつ繊細なビートの上で、Samphaの温もりのある歌声が映える、多幸感に溢れた1枚。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


4. Earl Sweatshirt & The Alchemist – VOIR DIRE

ロサンゼルスのラッパーEarl SweatshirtとビバリーヒルズのプロデューサーThe Alchemistによるコラボ作。

ほとんどサンプルのみで構成されたAlchemistのドラムレスビートの上で、Earlの気怠く淡々としたラップが絡み合う1枚。11曲27分とコンパクトながらも、ソウルフルなものから不穏なものまで、全編を通して多様なサンプルチョイスが楽しめる。主役のEarlはもちろんのこと、今作で2曲に参加したVince StaplesのラップもAlchemistのビートと相性抜群。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


3. Daniel Caesar – NEVER ENOUGH

カナダ・トロントのシンガーDaniel Caesarの3枚目のスタジオアルバム。

ミニマルで洗練されたビートの上で、Danielのとろけるような甘い歌声が際立つ説明不要の極上R&B。セクシー且つ、切なさを助長する美しいファルセットは今作でも健在。同郷トロントの注目シンガーMustafaをフィーチャーした『Tronto 2014』 や、ボーナスバージョンでRick Rossの甘々ヴァースが追加された『Valentina』など、聴きどころ満載。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


2. Larry June & The Alchemist – The Great Escape

サンフランシスコのラッパーLarry JuneとビバリーヒルズのプロデューサーThe Alchemistによるコラボ作。

ドラムの鳴りを抑えたAlchemistの渋くミニマルなビートの上で、Larry Juneがレイドバックした低音ラップを聴かせる。ジャケ写通り、サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジをドライブしながら聴きたい1枚。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


1. MIKE – Burning Desire

ニューヨークのラッパーMIKEの6枚目のスタジオアルバム。

ビートは、MIKE自身が別名義dj blackpowerとして大半をセルフプロデュースしている。ソウルやジャズのサンプルを軸としたビートの上で、MIKEの低く淡々としたラップが哀愁を生み出す。全編通してソウルフルながら、時に独特なリズムを刻んだり、歪んだドラムスが鳴り響いたりと、暖かさと荒々しさが共存したビートが至高な1枚。『U think Maybe?』では、ロンドンのサックス奏者Vennaをフィーチャーし、サンプルベースのアルバムに華を添えている。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Honourable Mentions of 2023:

・Navy Blue – Ways of Knowing
・Jay Worthy & Roc Marciano – Nothing Bigger Than The Program
・Lil Yachty – Let’s Start Here.
・billy woods & Kenny Segal – Maps
・Mach-Hommy & Tha God Fahim – Notorious Dump Legends, Vol. 2
・Nicholas Craven & Ransom – Deleted Scenes 2
・Don Toliver – Love Sick
・Young Nudy – Gumbo
・Elmiene – El-Mean
・Bakar – Halo


プレイリスト『Album of the year 2023』: https://music.apple.com/jp/playlist/aoty-2023-xxs-magazine/pl.u-NpXmba7tmgrABjV?l=en


Written by Riku Hirai

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

昨年の年間ベストアルバムはこちら↓

Kendrick Lamar が Summer Sonic 2023 に出演決定

ピュリッツァー賞、数多くのグラミー賞受賞を誇るカリフォルニア州コンプトンのラッパー Kendrick Lamar が、今夏大阪と東京で開催される Summer Sonic 2023 に出演することが発表された。

Kendrick Lamar は、昨日発表された Blur に続き、同フェスの2組目のヘッドライナーに決定した。開催日程は、大阪が8/19(土)、東京が8/20(日)。

https://www.summersonic.com/

XXS Magazine が選ぶ
2022年ベスト・アルバム10選

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


10. Vince Staples – RAMONA PARK BROKE MY HEART

カリフォルニア州ロングビーチのラッパーVince Staplesの5thアルバム。

メロウで温かみのある西海岸サウンドと、Vinceのスムース且つ程よく力の抜けたラップが光る1枚。Vinceは哀愁漂うビートの上で、自身を取り巻く環境やシステムの現状についてスマートに、半ば冷笑的にスピットする。

また、キャリアの中で様々なサウンドにチャレンジしてきたVinceだが、今作はウェストコースト・ラップへの原点回帰作といえるだろう。Mustardとの共演 (#4『MAGIC』#13『BANG THAT』) をはじめに、DJ Quikの名曲『Dollaz + Sense』のサンプリング (#3『DJ QUIK』) や、Suga Freeのネームドロップ (#10『LEMONADE (feat. Ty Dolla $ign』) など、西海岸オマージュが随所に散りばめられた1枚だ。


9. Blxst – Before You Go

カリフォルニア州ロサンゼルスのシンガー/ラッパー/プロデューサーBlxstのデビューアルバム。

哀愁漂うギターサウンドを軸に、Blxstのスムースなヴォーカル&ラップが光る1枚。
自身も一部制作に携わる、2000’sフレーバー漂うビートの上で繰り出される彼の抜群のメロディセンスには毎度唸らされる。

“現代のNate Dogg”との呼び声も高く、今や西海岸シーンを牽引する存在となったBlxst。今年はKendrick LamarやKehlani、Chris Brownらビッグネームとの共演に加え、Burna BoyやFireboy DMLらアフロビーツ勢ともタッグを組むなど、多方面で活躍を見せた。躍進を続ける彼のサウンドは今後どのように進化していくのか。2023年も目が離せない。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


8. Westside Gunn – 10

ニューヨーク州バッファローのラッパーWestside Gunnの『Hitler Wears Hermes』シリーズ最終章。

お決まりのGriseldaメンバーに加え、DJ Drama、A$AP Rocky、Doe Boy、さらにはレジェンド陣を大集結させた超豪華スペシャル丼。

自身の息子FlyGod Jr.が手掛けるトラップチューン #2『FlyGod Jr』や、Busta Rhymes、Raekwon、Ghostface Killahらニューヨークの大御所たちとマイクリレーを交わす #8『Science Class』など、新旧問わずラップファンなら聴きどころ満載の1枚だ。
最後はGriseldaのメンバーが順番にスピットする10分超えのアウトロ曲 #12『Red Death』で幕を降ろすなど、10作続いたシリーズ最終章に相応しい仕上がり。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


7. Mike Shabb – Bokleen World

カナダ・モントリオールのラッパー/プロデューサーMike Shabbの今年2枚目となるアルバム。

Westside Gunn『10』収録の #10『Switches On Everything』のビートを手掛けるなど、プロデューサーとしても定評のある彼がセルフプロデュースを務めた今作では、ソウルフルなものから不穏なものまで、ドラムレスを中心に極上のビートが堪能できる。

Mach-Hommyの影響を感じさせる華のあるフロウを軸に、アーリースウィングさせたトリプレット・フロウ #13『K.D Stats』や、オートチューンを効かせたヴォーカル #18『Ravien (Outro)』も披露する。
2023年、アンダーグラウンドシーンを席巻すること間違いなしの超優良株。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


6. Babyface Ray – MOB

ミシガン州デトロイトのラッパーBabyface Rayの2ndアルバム。

現行ミシガンサウンドからダークなバンガーチューン、メロウなトラップまで、バラエティに富みながらも統一感のあるプロダクションの上で、極限まで力を抜いたレイジーラップがグルーヴを生み出す。耳に残るオフビートなフロウに着目しがちだが、パーソナルなライフスタイルを生き生きと語るストーリーテリングや、随所で魅せる秀逸なワードプレイなど、リリシズムも一級品だ。

同じく今年リリースのアルバム『FACE』とどちらを選ぶか迷ったが、彼が文字通り今年の”顔”であることに違いはない。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


5. Boldy James & Nicholas Craven – Fair Exchange No Robbery

ミシガン州デトロイトのラッパーBoldy Jamesと、カナダ・モントリオールのプロデューサーNicholas Cravenによるタッグアルバム。

2022年最もハードワークだったのはこのラッパー、Boldy Jamesだろう。1年で計4枚もアルバムをリリースした彼だが、中でも一際目立ったのがNicholas Cravenとの本作だ。

サンプリングセンスに物を言わせたCravenのミニマルで温かみのあるビートと、Boldyの冷ややかで淡々としたラップが絶妙なケミストリーを生み出す。
Roc Marciano以降の”ドラムレス期”を代表する作品となること間違いなしの傑作だ。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


4. billy woods – Aethiopes

ニューヨークのラッパーbilly woodsとプロデューサーPreservationによるタッグアルバム。

民族音楽やフリージャズ、レゲエをサンプリングしたPreservationのアブストラクトなプロダクションと、woodsの詩的で思慮深いリリックが混じり合った、他に類を見ない前衛的な1枚。

“古代ヨーロピアンによるアフリカンの呼称”である『Aethiopes』というタイトルや、レンブラントの絵画『2人のアフリカ人』を引用したアートワークからも分かるように、本作はジンバブエにルーツを持つwoodsならではのアフリカに焦点を当てたコンセプトアルバムだ。ゆえに歴史的事象への言及や、小説、映画からの引用も多く、読み解くにはかなりの背景知識を要する本作だが、未聴の方には是非、個人的”記事オブザイヤー”である『アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)』 by 久世さんを参照しながら聴いてみていただきたい。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


3. Benny the Butcher – Tana Talk 4

ニューヨーク州バッファローのラッパーBenny the Butcherの3rdアルバム。

マスターピースとの呼び声高い前作『Tana Talk 3』の続編だけに期待値/ハードルが上がりきっていた今作だが、肉屋は期待を裏切ることはなかった。
ソウルフル、あるいはGriselda十八番のグライミーなブーンバップの上で、Bennyはこれまでの苦悩や成功までの道のりを力強く気合の入ったラップでスピットする。
#10『Guerrero』では、過去作『Tana Talk 3』と『Burden of Proof』収録の全タイトルをリリックに散りばめるなど、遊び心を交えながら巧みなラップを繰り広げる。

フロウ、ケイデンス、ライムスキーム、ワードプレイと、どこをとっても高得点を叩き出すBennyのラップスキルに圧倒される1枚。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


2. Future – NEVER LIKED YOU

ジョージア州アトランタのラッパーFutureの9thアルバム。

彼にとって約2年ぶりのソロ作となる今作では、同郷アトランタのプロデューサーATL Jacobを全面的に起用。プロダクションにおいては、初っ端いきなり初音ミクサンプリングから始まり、ダーク且つハードなトラップビートを軸に、Drakeみ溢れるムーディなR&Bトラックまで、インストだけでも楽しめる作品に仕上がっている。

そんな良質なビートの上で、Futureは多彩なフロウを披露する。惚れ惚れするようなセクシーボイスから放たれる掠れたヴォーカルは、リリックの哀愁を増強し、聴く者の心を震わせる。
彼がBest Rappers Aliveの1人であることを再認識させてくれる、2022年ベストトラップアルバム。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


1. Roc Marciano & The Alchemist – The Elephant Man’s Bones

ニューヨーク・ロングアイランドのラッパー/プロデューサーRoc Marcianoと、カリフォルニア州ビバリーヒルズのプロデューサーThe Alchemistによるタッグアルバム。

シネマティックな雰囲気を醸し出すAlchemistのビートと、Roc Marciの冷たく燻し銀なラップが、今作をアートピースへと昇華させる。

レジェンドAlchemistのジャジーでメランコリックなビートの上で、思わずクスッと笑ってしまうようなユーモアを交えながら淡々とライミングしていくRoc Marci。そんな今作を一言で表現するなら(Roc Marciのマネージャーがそう提唱するように)”Criminal Jazz”と呼ぶのが相応しいかもしれない。次作があるならば是非、役割をスイッチして、Roc MarciのビートでAlchemistにラップしてほしいものだ。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Honourable Mentions of 2022:

・SZA – SOS
・Fly Anakin – FRANK
・JID – The Forever Story
・Giveon – Give Or Take
・Young Nudy – EA Monster
・Freddie Gibbs – $oul $old $eparately
・Rome Streetz – KISS THE RING
・Sauce Walka – Sauce Ghetto Gospel 3
・MIKE – Beware of the Monkey
・Stormzy – This Is What I Mean


プレイリスト『The 100 Best Songs of 2022』: https://music.apple.com/jp/playlist/the-100-best-songs-of-2022/pl.u-8aAVMXluoLMq970?l=en


Written by Riku Hirai

Griselda Records の新星 Stove God Cooks とは

記事の内容を動画でもご紹介しています。

皆さんは、Griseldaを筆頭に盛り上がりを見せるネオ・ブーンバップ/アンダーグラウンドヒップホップシーンをチェックしていますでしょうか。アンダーグラウンドシーンをしっかり追っていなくても、現行シーンをある程度チェックしている方なら、Westside GunnやConway the Machine、Benny the Butcherらの名前は聞いたことがあるかもしれません。

そこで今回は、Griseldaムーブメントの中でも注目度の高いラッパーの1人であるStove God Cooksについてご紹介します。

Stove God Cooksとは

Stove God Cooksは、ニューヨーク中央部に位置する商工業都市、シラキュース出身のラッパーです。今でこそ活躍するラッパーが増えたシラキュースですが、Cooksによると、当時はシーンと呼べるシーンもなく、商業的な成功を収めたラッパーは1人もいなかったそうです。

かなりのヒップホップヘッズだったという兄の影響で、Capone-N-NoreagaやMobb Deepなどを聴いて育ったというCooksは、兄が書いたリリックをさも自分が書いたものかのように学校で披露していたそうですが、次第にそのストックがなくなり、自らリリックを書くようになったそうです。

その後、Puff DaddyやMaseをはじめとするBad Boy Records所属のアーティストの楽曲を好んで聴くようになったという彼は、「単にラップが上手いラッパー」よりも「ヒットを生み出すことができるラッパー」に憧れを抱き、フックのライティングに力を入れ始めます。2007年から2009年頃に地元のスタジオを借りてレコーディングを始めたというCooksですが、当初それらをリリースすることはなく、小さなイベントでDJにプレイしてもらい、身内で盛り上がるだけに過ぎなかったそうです。

しかしその後、Cooksは自身の楽曲をTwitterにアップし始めます。すると、90年代から活動するヒップホップグループBrand NubianのメンバーLord JamarがCooksの楽曲を気に入り、彼をBusta Rhymesに紹介します。Busta Rhymesに才能を認められたCooksは、Busta率いるConglomerate Recordsと契約。その後Cooksは、ある人物との出会いによってキャリアを大きく前進させることになります。

その人物が、現在のネオ・ブーンバップムーブメントを創り出したゴッドファーザー、Roc Marcianoです。

Bustaが、Flipmode Squadのリユニオンアルバムを製作するために元メンバーであるMarciをスタジオに呼び出したことが、CooksとMarciの出会いのきっかけでした。BustaがCooksの楽曲を再生したところ、Marciがそれを気に入り、CooksとMarciは関係を築き始めました。

最初はMarciのドラムレスビートが苦手だったというCooksですが、彼が得意とするメロディックな要素を加えたスタイルでスピットしてみたところ、思いの外ビートにハマり、次第にこのスタイルが好きになっていったそうです。共にスタジオ入りすることは一度もないまま、Marciから送られてくるビートを用いてひたすら楽曲を作ったCooksは、全曲Marciプロデュースによるデビュープロジェクト『Reasonable Drought』をリリースします。

「とりあえず何かしらの作品を世に発表したかったからリリースした」と語るCooksですが、同作は彼の予想をはるかに上回る高い評価を獲得。このアルバムが、Griselda Recordsを率いるバッファローのラッパーWestside Gunnの目にも留まり、CooksはGriseldaムーブメントに接近することになります。

より多くの人にCooks & Marciの『Reasonable Drought』を聴いてほしいと考えたWestside Gunnは、自身のアルバム『Flygod Is an Awesome God 2』収録の3曲でCooksを起用。

Westはそれ以降も、自身の全てのアルバムでCooksをフィーチャーし、2021年10月頃にCooksはGriselda Recordsに正式加入します。

『Hitler Wears Hermes 8: Side B』収録の『Ostertag』では、Cooksは「次のアルバムを7枚限定で、1枚100万ドル (約1億円) で売るかも」とラップ。

I might sell my next shit for a million (For a million)

次のアルバムを100万ドルで売るかもな

Only seven copies and I’m dead for real (I’m so serious)

7枚だけだ 本気だぜ

Westside Gunn – Ostertag (feat. Stove God Cooks)

昨年11月、Cooksは実際に7枚限定、100万ドルのアルバム『If These Kitchen Walls Could Talk』を発売しました。こちらのアルバム、なんと現在も奇跡的に売れ残っているみたいなので、経済的に余裕のある方はぜひ買ってみてはいかがでしょうか。

https://stovegodstore.com/products/stove-god-cooks-if-these-kitchen-walls-could-talk

Cooksは今後、「Roc Marcianoフルプロデュースのアルバム」や「Westside Gunn監修のアルバム」のリリースを控えているそうで、もしそれらが年内にリリースされれば、2022年は彼にとって躍進の1年となるでしょう。

CooksはHOT97のインタビューにて、アンダーグラウンドシーンに留まらず、商業的な成功も目指したいと語っており、「アンダーグラウンド・クラシックを作りながら、RihannaやDrakeなどメインストリームアーティストのソングライティングをすること」を将来的な目標として掲げているそうです。

終わりに

いかがだったでしょうか。今回は、アンダーグラウンドシーンの注目株、Stove God Cooksについてご紹介しました。

Roc Marcianoとの『Reasonable Drought』をきっかけにネオブーンバップウェーブに乗り、Griselda Recordsとの契約を勝ち取った期待の新星Stove God Cooksから今後ますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai


Playlist “Stove God Cooks”

【Apple Music】

https://music.apple.com/jp/playlist/stove-god-cooks/pl.u-gxblq5RT50A7vEa?l=en

【Spotify】

https://open.spotify.com/playlist/2DXLbNgx83Q8Mr9vwxuijY?si=MwhRCQjqQVahVotMg7nElw

今週のリリース【2月20日〜】

[アルバム]

Conway the Machine – GOD DON’T MAKE MISTAKES

EARTHGANG – Ghetto Gods

Kodak Black – Back For Everything

Mach-Hommy – Dump Gawd: Triz Nathaniel

Big Scarr – Big Grim Reaper: The Return

Noodah05 – The Biggest

Tha God Fahim, DUS – One Thousand and One Nights

SeptembersRich – BNL

Obn Tg3 – 50 For Fifty

Homeboy Sandman – There In Spirit

Hajino, Duncecap – Go Climb A Tree

Lync Lone – DIE TRYING

[シングル]

100K Track & YNW Melly – Slums

Tyga – TBA (feat. Doja Cat)

Mura Masa – bbycakes (feat. Lil Uzi Vert, PinkPantheress & Shygirl)

Kehlani – little story

今週のリリース【2月13日〜】

[アルバム]

Curren$y & The Alchemist – Continuance

Big K.R.I.T. – Digital Roses Don’t Die

42 Dugg & EST Gee – Last Ones Left

Sada Baby – Bartier Bounty 3

Yeat – 2 Alivë

Nicholas Craven – Craven N 3

Nick Cannon – Raw N B: The Explicit Tape

DC the Don – My Own Worst 3nemy

Mooch, Oh Jay – Keeper Of The Flame

UFO Fev, DJ J Hart – E PLURIBUS UNUM

Oliver Tree – Cowboy Tears

[シングル]

Gunna – Banking On Me

Youngboy Never Broke Again – SuperBowl

Vince Staples & Mustard – MAGIC

Jack Harlow – Nail Tech

Warren G – Life Is Beautiful

Toosii – Love Me Easy

Desiigner & Tank God – Put Her On

Tinashe – Naturally

Baby Tate – What’s Love? Slut Him Out

Lil Darkie – fly away

Rex Orange County – AMAZING

Silk Sonic – Love’s Train

White Lies – Blue Drift

Drakeも認めたポートランドの新星ラッパーYeatとは

※記事の内容を動画でもご紹介しています。

昨年突如としてシーンに現れた、今1番ホットなラッパーと言えば誰が思い浮かぶでしょうか。その1人として挙げられるのが、DrakeやLil Yachtyらに実力を認められ、現在人気急上昇中のラッパーYeatでしょう。

今回は、彼Yeatの生い立ちやキャリアについてご紹介します。

Yeatの生い立ち

YeatことNoah Oliver Smithは2000年2月26日、メキシコ人の父とルーマニア人の母のもと、カリフォルニア州アーバインにて生を受けます。

10代半ばにオレゴン州ポートランドに移住した彼は、Lakeridge High Schoolに進学。バスケットボールやサッカーをしていたこともあったそうですが、それらに熱中することは特になく、次第に大麻やドラッグにハマっていったそうです。ドラッグに明け暮れる日々を過ごしたYeatは、自身の怠惰な生活を見つめ直し、音楽活動を開始します。

Yeatのキャリア

Lil Yeatというステージネームで活動を始めた彼は、2015年に楽曲をリリースし始めます。

「シンプルで、誰もが聞き覚えのあるような名前にしたかった」と語る彼は、Lilを取り除き、「Yeat」というステージネームに変更します。

Yeatは2018年に1st EP『Deep Blue Strips』をリリースします。

オートチューンを用いてメロディアスに歌うフロウを得意とするYeatは、T-PainやKanye West、Young Thug、Futureらから影響を受けたそうで、特に幼い頃から母親の影響で聴いていたT-Painのスタイルが、現在の彼の音楽性に多大な影響を与えているそうです。

1st EPのリリース後、ユニークなサウンドで注目を集めたYeatは、Wheezyや10Fiftyら著名プロデューサーを迎えたミックステープ『I’m So Me』を含む3枚のプロジェクトをリリースします。

2020年には『We Us』と『Hold Ön』の2枚のEPをリリースするなど、継続的なリリースを続けてきたYeatは、2021年に突如としてブレイクを果たします。

2021年にリリースしたミックステープ『4L』収録の楽曲『Sorry Bout That』がTikTokを中心にバイラルヒット。

その後、未リリース楽曲『Gët Busy』のスニペットがソーシャルメディア上で注目を集めることとなります。

大手レーベルInterscope RecordsとサインしたYeatは、待望のデビューアルバム『Up 2 Më』をリリースします。

先程ご紹介した楽曲『Gët Busy』は、DrakeがInstagramストーリーズで引用したことで更なる話題を呼び、Yeatにとって過去最大のヒットソングとなりました。

This song already was turnt, but here’s a bell

この曲は既に盛り上がっているけど、ここから更にベルが鳴るぜ

(実際に次の小節からベルが加わります)

Yeat – Gët Busy

同曲にこのようなラインがあるように、Yeatはエレクトリックなレイジサウンドに、ベルをアクセントとして付け足したビートを頻繁に用いており、自身のトレードマークとして提示しています。

今年2021年には、セカンドアルバム『2 Alivë』のリリースも控えているそうで、今後更なる活躍が見込まれるYeatから目が離せなくなりそうです。

Riku Hirai

今週のリリース【2月6日〜】

[アルバム]

Snoop Dogg – BODR

Juicy J & Wiz Khalifa – Stoner’s Night

Mary J. Blige – Good Morning Gorgeous 

$NOT – Ethereal

Trae tha Truth – Truth Season: The United Streets of America

Cousin Stizz – Just For You

K$upreme – Sorry 4 Da Flex 3

SeptembersRich – BNL

Jazmine Sullivan – Heaux Tales, Mo’ Tales: The Deluxe

Shawny Binladin – Merry Wickmas 2 (Deluxe)

[シングル]

Kanye West, Fivio Foreign, & Alicia Keys – City of Gods

Nicki Minaj – Bussin (feat. Lil Baby)

Future – Worst Day

Kodak Black – Grinding All Season

Omar Apollo – Invincible (feat. Daniel Caesar)

100K Track, YNW BSlime & Slatt Zy – Change

Yeat – Still Countin

Saweetie – Closer (feat. H.E.R)

Duke Deuce – Falling Off (feat. Rico Nasty)

88GLAM – Want To (feat. PnB Rock)

KayCyy – Okay!

Internet Money – Options (feat. 24kGoldn)

Dice Soho – Suelta

Boobie Lootaveli – Slap Box

今週のリリース【1月30日〜】

[アルバム]

2 Chainz – Dope Don’t Sell Itself

Saba – Few Good Things

Yo Gotti – CM10

Yung Kayo – DFTK

Tank – R&B MONEY

[シングル]

Nicki Minaj – Do We Have A Problem? (feat. Lil Baby)

Juice WRLD – Cigarettes

ROSALÍA – SAOKO

Russ – Handsomer

YNW BSlime – Freestyle LOL 2

$NOT – DOJA (feat. A$AP Rocky)

Yung Gravy, T-Pain & Dillon Francis – Hot Tub