アラバマ州モンゴメリーのラッパーCHIKAのEP。6曲というボリュームながらも、CHIKAの高い歌唱力とラップスキルが存分に発揮された1枚です。BJ the Chicago Kidが参加した『FAIRY TALES』での多幸感あふれるテンポチェンジがハイライト。
Joyce Wrice – Overgrown
カリフォルニア州ロサンゼルスのシンガーJoyce Wriceのデビューアルバム。90年代後半~2000年代初期のR&Bを彷彿とさせるサウンドとJoyce Wriceの美しく伸びのある歌声が魅力的な1枚です。Freddie GibbsやWestside Gunn、KAYTRANADAら豪華客演陣の参加に加え、Joyce Wriceと同じく日本にルーツを持つシンガーUMIが参加した『That’s On You (Japanese Remix)』も収録。
Benny the Butcher & Harry Fraud – The Plugs I Met 2
ニューヨーク州バッファローのラッパーBenny the ButcherとブルックリンのプロデューサーHarry Fraudによるコラボ・プロジェクト。サンプリングやジャズホーン、ストリングスなどを用いたニューヨークらしい上質なブーンバップと、Benny the Butcherのキレの良いラップが完璧な相性を見せる1枚です。Fat JoeやFrench Montana、Rick Hydeらの参加に加え、2 Chainzが参加した『Plug Talk』での佐井好子『胎児の夢』のサンプリングにも注目です。
テキサス州ヒューストン出身のラッパーDevin The Dudeの11枚目のスタジオ・アルバム。Slim ThugやScarfaceら同郷ヒューストン出身のベテラン陣が参加した今作は、彼らしい緩いファンクを軸としながら、ブーンバップや現行トラップも多く取り入れた作品に仕上がっています。新しいサウンドを積極的に取り入れつつも自身のスタイルを貫く、彼の安定感が発揮された1枚で、タイトル通りソウルフルなラップとヴォーカルが堪能できます。
テキサス州ヒューストン出身で、共にScrewed Up ClickのメンバーであるZ-RoとMike Dによるコラボ・アルバム。H-Townサウンド全開のプロダクションと、2人のソウルフルなラップ&ヴォーカルが光る1枚です。Lil’ KekeやC-Note、Big Pokeyら現Screwed Up Clickメンバーに加え、2016年に銃撃で亡くなった旧メンバー3-2も参加。
カリフォルニア州ロサンゼルスのラッパーDrakeo the Rulerのミックステープ。不穏でダークなビートと、Drakeoのボソボソと呟くような低い声が圧倒的な緊張感を生み出し、聴く者を西海岸のフッドに誘います。Don Toliverとの意外な組み合わせや、先日急逝したKetchy the Greatの4曲での参加、DrakeoとDrakeの夢の共演など聴きどころ満載の1枚です。
ナイジェリアにルーツを持つ、ロンドン出身のラッパー/シンガー。2020年に本格的に音楽活動を開始したENNYは、デビューシングル『He’s Not Into You』をリリースした後、Jorja SmithのレコードレーベルFAMMと契約。同郷ロンドン出身の注目シンガーAmia Braveと共にリリースしたメジャーデビュー・シングル『Peng Black Girls』はUKシングルチャートTOP100入りを果たしました。レイドバックしたラップやソウルフルなヴォーカル、詩的なリリックが魅力的な注目アーティストです。
4. Arlo Parks
ナイジェリア、チャド、フランスにルーツを持つ、ロンドン出身のシンガー。彼女は、ネオソウルやインディロック、ヒップホップなどをミックスしてポップスに昇華させた音楽性から、次世代のベッドルーム・ミュージックを代表するアーティストとして注目されています。2021年リリースのデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』はUKアルバムチャートにて最高3位を記録し、各音楽メディアからも高い評価を獲得しています。
2018年にはメジャーレーベルから初のミックステープ『Life of a Dark Rose』をリリース。
同ミックステープは Billboard Hot 200 にて23位デビューを果たし、最高10位を記録します。同作収録の『Nowadays』と『Red Roses』は、Billboard Hot 100 にてそれぞれ最高55位と69位を記録。メジャーデビュー・ミックステープとしては大成功と呼べる功績を残します。
カナダ・トロントのラッパー Drake の6枚目のスタジオ・アルバム。2019年4月に初めてアナウンスされた同アルバムは、前作『Scorpion』のリリースから約2年半の月日を経て今年の1月にリリースされる予定。先行シングル『Laugh Now Cry Later』に参加した Lil Durk に加え、Roddy Ricch や Jessie Rayez らの参加が噂されている。
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J. Cole『The Fall Off』
ノースカロライナ州ファイエットビルのラッパー J. Cole の6枚目のスタジオ・アルバム。2018年リリースの前作『KOD』に『1985 (Intro to “The Fall Off”)』というアウトロ曲が収録されたことをはじめに、2019年11月には Cole が Day N Vegas Music Festival にて2020年内のアルバムリリースをアナウンス。
しかし2020年には、Cole はシングル2曲を発表するものの、結局アルバムがリリースされることはなかった。彼は『The Fall Off』の他にも『The Off Season』や『It’s A Boy』といったプロジェクトのリリースも示唆している。
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Travis Scott『Utopia』
テキサス州ヒューストンのラッパー Travis Scott の4枚目のスタジオ・アルバム。大ヒットを記録した前作『ASTROWORLD』のリリース以降、McDonald’s や PlayStation とのコラボレーションを果たすなど音楽活動以外でも活躍を見せてきた Travis は、2020年7月にニューアルバムのタイトルを発表。同年10月には、ラジオDJに向けて送った手紙にて、アルバムを2021年にリリースすることを仄めかした。先行シングル『FRANCHISE』に参加した Young Thug や M.I.A.、Future らに加え、Roddy Ricch や Don Toliver、Kevin Parker、Hit-Boy らの参加が噂されている。
リリース前に噂されていた Travis Scott や Post Malone、Lil Uzi Vert らとの楽曲や、前述した『Pissy Pamper (Kid Cudi)』に Kid Cudi 本人が参加したアップデートバージョン等は未収録だったため、今後それらを収録したデラックス盤がリリースされる可能性は高いでしょう。
Jane and Finch 出身のラッパー。幼い頃から趣味として音楽制作を始め、SNS を通してファンベースを築いてきた彼は、14歳の頃にリリースした楽曲『No Time』が人気ゲーム『NBA 2K』で使用されたことをきっかけに注目を浴び始めます。キャリア初期から着実に人気を獲得してきた彼は、Drake や Kylie Jenner らにフックアップされるなど今最も注目されているトロントのラッパーの1人で、高めの声で歌うナヨナヨとしたラップが特徴的です。
LocoCity
Bleecker Street 出身のラッパー。2018年頃から楽曲をリリースし始めた彼は、『Do Sum』や『Krazy』等のシングルのバイラルヒットにより人気を獲得し、2019年にはデビュープロジェクト『Save Yourself』をリリースしています。歌心のあるラップ・シンギングが魅力的なラッパーです。
Lil Berete
Regent Park 出身のラッパー。素行の悪さが理由で、8歳の頃から約4年間、母国であるギニア共和国で叔母と共に暮らしていたという彼は、12歳の頃にカナダに帰国し、2017年に音楽活動を開始します。キャリア初期にリリースした『Turn Up』や『Real』等のシングルで注目を集め、2018年にはデビュープロジェクト『Icebreaker』をリリース。2019年リリースのセカンドプロジェクト『1 Way Out』には Calboy に加え Loski や Headie One らイギリスの人気ラッパーを客演に招くなど、現在多方面から注目されているラッパーです。ストリートライフを歌うリリックと、Lil Durk を思わせる高音フロウが特徴的です。
Clairmont The Second
Weston 出身のラッパー/プロデューサー。2013年に音楽活動を開始し、ライティングからプロデュース、ミキシングまで全て1人でこなす彼は、2017年リリースのアルバム『Lil Mont from the Ave』で一躍ブレイクを果たします。同作は Juno Awards (カナダの音楽賞) の「Rap Recording of the Year」にノミネートされ、更に2019年には同作収録の『Gheeze』が Prism Awards (同じくカナダの音楽賞) の「Hi-Fidelity Award」を受賞しました。トラップやジャズ、ゴスペルなどの要素をミックスした多彩なプロダクションや、スキルフルなラップ、落ち着いたヴォーカルが魅力的なラッパーです。
Smiley
Pelham Park 出身のラッパー。同郷トロント出身のスター Drake が、Pusha T とのビーフの際に Smiley の楽曲のリリックを引用したアンサー動画を公開し、彼は一躍注目を浴び始めました。更に Drake はアルバム『Scorpion』の制作時に影響を受けた作品の1つとして Smiley の EP『Buy. or. Buy』を挙げています。憂いを帯びた高めの声でフッドのストリートライフについてラップするスタイルが魅力的なラッパーです。
Sean Leon
Parkdale 出身のラッパー/シンガー/プロデューサー。彼は、同じくトロント出身のシンガー Daniel Caesar も所属していたレーベル IXXI initiative を2012年に立ち上げた後、その非凡なプロダクションと音楽性によってアンダーグラウンドを中心に人気を獲得。独自のスタイルを貫く実験的なサウンドが魅力的で、Kanye West のアルバム『Jesus Is King』の制作にも携わっています。キャリアも長く、既にプロデューサーとして成功を収めている彼ですが、今後ラッパー/シンガーとしても更に活躍すること間違いなしでしょう。
Dave こと David Orobosa Omoregie はサウスロンドンはストリータム出身の21歳 (’98年生まれ)。Stormzy や Lana Del Rey、Pink Floyd など様々なジャンルの音楽を聴いて育ったという彼は、母親からのプレセントをきっかけにピアノを弾くこともできます。彼は2019年リリースのデビューアルバム『PSYCHODRAMA』でマーキュリー賞を受賞するなど、今最も注目されているアーティストの1人です。
Tuesday, 23rd of January, 2018 2018年1月23日火曜日 I’m here with David 私は Dave とここにいる This is our first session これが我々の最初のセッションだ We’re just gonna talk about your background 君のバックグラウンドの話から始めるとしよう Where you’re from, any issues you’ve been dealing with 君がどこから来たのか、どんな問題に対処してきたのか So, where should we start? さあ、どこから始めようか
今週金曜日にジョイント・アルバム『Savage Mode Ⅱ』のリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin。世界中のヒップホップファンが待望する同アルバムのリリースに先立って、彼らのキャリアや魅力について振り返っておきましょう。
21 Savage
1992年10月22日にイギリスのロンドンで生を受けた 21 Savage (21サヴェージ) こと Shéyaa Bin Abraham-Joseph は、7歳の頃に母親と共にアメリカのジョージア州アトランタに移り住みます。2005年には故郷ロンドンに1ヶ月程滞在、その後アメリカに再入国し、以降はアメリカで生活していた彼ですが、当時取得していたビザはアメリカ入国後約1ヶ月で期限が切れており、2019年に不法滞在の疑いで逮捕されるという事件もありました。
7th grade (日本の中学1年生にあたる) の頃には、21 Savage は銃の所持で地域中の全ての学校から永久追放を言い渡され、ギャングの世界に足を踏み入れることとなります。ドラッグディールや強盗など非行を繰り返していた彼は、2013年に敵対するギャングメンバーから銃撃を受け、親友を失いました (彼自身も6発の銃弾を浴び、当時は死も覚悟したそうです)。この日が彼の21歳の誕生日であったことが、彼の名前 21 Savage の由来です。
親友の死を受けてラップを始めた 21 Savage は、2015年にデビューミックステープ『The Slaughter Tape』をリリース。タイトルからも察しがつくように、アトランタのトラップとシカゴのドリルをミックスしたかのような暴力的なサウンドとリリックが話題を呼び、Sonny Digital や Metro Boomin といった大物プロデューサーと繋がります。
同年には、Sonny Digital とのジョイントEP『Free Guwop』とセカンド・ミックステープ『Slaughter King』をリリースしました。
キャリア開始以降コンスタントに楽曲をリリースしてきた 21 Savage は、2016年、XXL Freshman Class に選出されます。
XXL 史上最も高い人気を博す同サイファーで一躍注目を浴びた 21 Savage は、同年 Metro Boomin とのジョイントEP『Savage Mode』をリリースします。
このEPで成功を収めた彼は、2017年に Epic Records とサインし、デビューアルバム『Issa Album』をリリース。同アルバムは US Billboard チャートにて2位デビューを飾り、更にその後リリースされた Post Malone との楽曲『Rockstar』は Billboard Hot 100 にて最高1位を記録しました。
翌2018年末には Travis Scott や Childish Gambino、Post Malone らをはじめとする豪華ゲストを客演に招いたセカンド・アルバム『I Am > I Was』をリリース。初週13万1千ユニットを売り上げ、見事 US Billboard チャート1位デビューを飾った同アルバムは、2020 Grammy Awards のベスト・ラップアルバムにもノミネートされました。
Metro Boomin
1993年9月16日にミズーリ州セントルイスで生を受けた Metro Boomin (メトロブーミン) こと Leland Tyler Wayne は、母親にパソコンを買ってもらったことをきっかけに、13歳の頃にトラックメイクを始めます。高校生の頃には、FL Studio の前身である FruityLoops を用いて、毎日5つものビートを制作していたそうです。Twitter をはじめとする SNS を用いてラッパーとのコネクションを築き始めた彼は、実際に彼らと仕事をするために、母親に地元セントルイスからジョージア州アトランタ (車で片道約8時間) まで頻繁に送ってもらっていたといいます。
Metro Boomin 曰く、最初に彼のビートを使ってラップをした有名なアーティストは OJ Da Juiceman だそうです。彼はこのコネクションをきっかけに、高校3年生の頃には Gucci Mane と繋がり、高校卒業後にはアトランタに移りました。アトランタに移住後、彼はカレッジに進学するものの音楽活動に専念するために1セメスターで退学。その後、Jeezy や French Montana、Ludacris、Future など名だたる著名アーティストとのコラボを果たした彼は、2013年に Gucci Mane や Future、Young Thug らを客演に招いたデビュー・ミックステープ『19 & Boomin』をリリース。
その後 Future の楽曲を多数手掛けるようになった Metro Boomin は、2015年には Drake と Future のジョイント・ミックステープ『What a Time to Be Alive』のエグゼクティブ・プロデュースを務めるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たしました。
2016年には、Future の『Low Life (feat. The Weeknd)』や Migos の『Bad and Boujee (feat. Lil Uzi Vert)』、Kanye West の『Father Stretch My Hands, Pt. 1』など、数々のヒット曲を生んだ Metro Boomin は、21 Savage とのジョイントEP『Savage Mode』もリリースし、BET Hip Hop Awards にて最優秀プロデューサー賞を受賞しました。
2017年には、NAV との『Perfect Timing』、21 Savage & Offset との『Without Warning』、Big Sean との『Double Or Nothing』の3つのコラボ・プロジェクトをリリース。
飛ぶ鳥を落とす勢いでシーンのトップに駆け上がってきた Metro Boomin ですが、2018年、彼はSNSにて音楽活動の引退を表明します。
しかしその数ヶ月後、Nicki Minaj や Lil Wayne のニューアルバムに参加し、更には自身のソロデビュー・アルバム『NOT ALL HEROES WEAR CAPES』をリリース。同作は見事 US Billboard チャート1位デビューを飾りました。
Metro Boomin のプロデューサー・タグ一覧
Ayy, Lil Metro on that beat (by Kodak Black)
If Young Metro don’t trust you, I’m gon’ shoot you (by Future)
Metro (by Young Thug)
Metro be boomin’ (by Rich the Kid)
Metro Boomin want some more, n***a (by Young Thug)
This beat is so, so Metro (by Young Thug)
Young Metro, Young Metro, Young Metro (by Future)
21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲
ここからは、21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲を数曲ご紹介します。今週末の『Savage Mode Ⅱ』のリリースに備えて、今一度彼らの過去作を振り返ってみましょう。
21 Savage – Drip (prod by TM88 & Metro Boomin)
I’m in the kitchen cooking crack like its bacon,
キッチンでベーコンみたいにクラック (コカイン) を調理している
these p***y ass rappers they be faking
あいつらクソ共はフェイクだ
I’m 21 Savage ain’t no faking,
俺は 21 Savage、本物だぜ
AK-47 get the shaking
AK-47 が身震いしている
2人の初期コラボ曲。21 Savage は現在のスタイルより高めのトーンでラップし、TM88 と Metro Boomin が手掛けるシンプルかつ不穏なビートが 21 Savage のラップの緊張感を助長しています。
21 Savage – Supply (prod by Metro Boomin, Southside & Sonny Digital)
I am 21, young savage
俺は21歳 若い「savage (野蛮、冷酷)」だ
Try me, and you’re going to hell
かかってこいよ 地獄行きだぜ
気怠そうな声で淡々とラップするイメージのある彼ですが、この楽曲では高めの声や変則的なフロウを用いており、Metro Boomin を含む人気プロデューサー3人が手掛ける邪悪なビートと 21 Savage の遊びのあるラップが上手くマッチした1曲です。
21 Savage – Deserve (prod by Metro Boomin)
Me and Johny tried to rob everything
Johny と一緒に全てを盗もうとしていた (*1)
Mookie tried to tell us, do the right thing
Mookie は俺たちに「正しいことをしろ」って言ってたんだ
Larry died man I cried twice
Larry が死んだ時、2回泣いた
(中略)
RIP Tayman that’s why I got that knife
Tayman、安らかに眠ってくれ 俺もナイフのタトゥーを入れたよ (*2)
I don’t get excited about the fame
名声なんてどうだっていい
B***h I’m still with the same gang,
俺は今でも同じギャング (ブラッズ) に所属している
b***h I still claim the same thing
今でも俺の主張はあの頃のままだ
(*1) 21 Savage の親友 Johny は、この強盗の最中に銃撃を受け亡くなった。
(*2) Tayman は 21 Savage の実の弟。21 Savage の額のダガー (ナイフ) のタトゥーは、ドラッグディール中に銃殺された Tayman の額に入っていたもの。
弟や友人を失った悲しい過去を歌った1曲。Metro Boomin の感傷的なビートに乗る 21 Savage の泣き声に近いラップから、彼が生きてきたストリートライフの過酷さが鮮明に伝わってきます。
21 Savage & Metro Boomin – No Heart
You was with your friends playin’ Nintendo
お前が友達と任天堂 (のゲーム) で遊んでいる間
I was playin’ ’round with that fire
俺は銃を持って遊びまわってた
Seventh grade, I got caught with a pistol
中1の頃にはピストル所持で捕まって
Sent me to Panthersville
青少年施設に送られた
Eighth grade, started playin’ football
中2の頃にはフットボールを始めたけど
Then I was like fuck the field
すぐ辞めたよ
Ninth grade, I was knocking n***as out
中3の頃には野郎をぶっ倒した
N***a like Holyfield
Holyfield みたいにな (*1)
(*1) Evander Holyfield : アラバマ州出身のプロボクサー
Metro Boomin、Southside、CuBeatz の3人が手掛けるシンプル且つダークなサウンドの上で、21 Savage が持ち前の低い声で緊張感のあるラップを披露します。ストリートのリアルを歌う、まさに「No Heart」なリリックも特徴的な1曲です。
21 Savage – Bank Account (prod by Metro Boomin & 21 Savage)
I got 1-2-3-4-5-6-7-8 M’s in my bank account
俺の銀行口座には 1-2-3-4-5-6-7-800万ドル入ってる
数え歌的フックが耳に残る1曲。Coleridge-Taylor Perkinson の『Flashbulbs』という楽曲のギターリフをサンプリングした Metro Boomin のダークなビートと、21 Savage の淡々としつつもキャッチーなラップが特徴的な同曲は、Billboard Hot 100 にて最高12位を記録。彼らの抜群の相性を更に世間に知らしめるきっかけとなった1曲です。
Metro Boomin らしい重厚でダークなビートの上で、Offset、21 Savage、Travis Scott という豪華メンバーが順番にヴァースを披露する1曲。圧倒的な迫力を誇る同曲を収録した 21 Savage、Offset、Metro Boomin によるコラボ・アルバム『Without Warning』は、US Billboard チャートにて初週4位デビューを飾りました。
Metro Boomin – Don’t Come Out the House (feat. 21 Savage)
Bang outside, I hang outside
外では銃撃 俺は行くぜ
Don’t come out the house ’cause the gang outside
家から出るんじゃねえぞ ギャングがいるからな
21 Savage が敵対するギャングに対して威圧的なラップをする1曲。イントロが終わり1ヴァース目に突入するタイミングで、Metro Boomin のビートが重厚なサウンドに切り替わり、それと同時に 21 Savage の緊迫感漂うウィスパー (囁き声) フロウが繰り出されます。サウンド、リリック共に圧倒的な緊張感が漂う、2人の相性が抜群に発揮された1曲です。
おわりに
トラップシーン最高峰タッグとの呼び声も高い 21 Savage と Metro Boomin の抜群の相性、ご堪能いただけたでしょうか。
このスニーカーショップは多くの NBA プレーヤーやラッパーが訪れる人気店で、店の裏にレコーディングスタジオを設けており、TyFontaine はその環境に刺激を受けてラップを始める決意をしたそうです。
キャリアの開始 (2018~2019年)
幼い頃は、R&B (Mary J. Blige、Neyo、Usher) やゴスペル (Marvin Sapp)、またバハマ出身の母親の影響でカリプソ (カリブ海の民族音楽) を主に聴いていたという TyFontaine は、5th Grade (日本の小学5年生にあたる) の頃にヒップホップを聴き始めたそうで、彼が初めて聴いたラッパーは、Lil Wayne だったそうです。
彼は、前述したスニーカーショップのスタジオにて Q Da Fool がセッションしている場面を目撃し、「自分にもできる」と確信したといいます。
When I started, I knew that it was possible.
ラップを始めたとき、俺にもできるって分かった
(中略)
I thought “if they could do it, I could do it” type of thing.
「彼らにできるなら俺にもできる」って思ったんだ
彼は、2018年3月に Tyler Fontaine 名義でラップを始めました。
Tyler Fontaine – Precision (feat. Nuge)
シングルやミックステープ、Clockwork-Productions から公開したミュージック・ビデオなどで頭角を現した彼は、2018年10月に、Taz Taylor 率いる Internet Money Records と契約を結びます。
その後も No Jumper からミュージック・ビデオを公開したり、立て続けにミックステープをリリースしたりと精力的に音楽活動に取り組んでいた彼は、2019年リリースのミックステープ『Waiting on Ascention』や EP『Virtual World』で更に注目を浴びることとなります。
ミックステープ『Waiting on Ascention』
Internet Money の Nick Mira や DT、JRHitmaker らがプロデュースを手掛けたミックステープ。
EP『Virtual World』
Taz Taylor、Nick Mira のエグゼクティブ・プロデュースに加え、Jetsonmade や 10k.Caash らも参加した EP。
自身の音楽性を「versatile, carefree, easy-going (多才で、楽天的で、陽気)」と表現する彼の楽曲の特徴は、Juice WRLD や Lil Uzi Vert らの魅力を凝縮したようなメロディアスでエモーショナルなフロウです。彼は、いわゆる「エモラップ」に分類される他のラッパーよりもポップで明るいメロディラインと歌唱スタイルを用いており、どんなトラックも自分のものにしてしまう力を持っています。
更なる躍進 (2020年~)
そんな彼は2020年4月、Taz Taylor、Nick Mira を中心に、Jetsonmade や PVLACE、Bugz Ronin ら人気プロデューサー陣を起用したミックステープ『1800』をリリースします。
Tyler, The Creator や Jaden Smith を始め、様々なアーティストがカミングアウトを堂々とするようになったのも、Ocean の勇気ある行動を契機としているといっても間違いありません。ちなみに、Ocean 自身がカミングアウトを行う勇気が出たのは、音楽的にも最も影響を受けたアーティストの一人である Prince のおかげだと言っています。
Prince が、「性の役割」という古臭い考えを相手にせず、自由に行動してくれたからこそ、自分のセクシュアリティをナチュラルに受け止めることができたんだ。
ちなみに Prince は今となっては伝説的なアーティストであることは間違いありませんが、今から 30 年以上前に、テレビの番組にビキニとヒールを纏って出演したこともあったりと、表舞台でセクシュアリティを公表した黒人としてもその功績を称えずにはいられません。
ここまでが「みんなの知らない Frank Ocean」でした。では次に Ocean の音楽の源流について考察していきます。
シカゴ北部の Old Town エリアにて、両親と3人の兄妹とともに生活していた Polo G は、2016年から楽曲制作を開始。幼い頃は、Lil Wayne や 2Pac、Gucci Mane、Lil Durk、Chief Keef らの楽曲を聴いていたという。2018年リリースの『Finer Things』のバイラルヒットをきっかけに、2019年には『Battle Cry』、『Pop Out (feat. Lil Tjay)』と立て続けにヒットを生み出し、それらの楽曲を収録したデビューアルバム『Die a Legend』は US Billboard にて6位デビュー。
2020年には、セカンドアルバム『THE GOAT』をリリースし US Billboard 2位デビューを飾った。
Polo G についての記事はこちらから↓
【代表曲】
Pop Out (feat. Lil Tjay)
Flex (feat. Juice WRLD)
Jack Harlow
【本名】Jackman Thomas Harlow
【生年月日】1998年3月13日
【出身地】ケンタッキー州ルイビル
Jack Harlow は、12歳の頃にノートパソコンとビデオゲーム「Guitar Hero」付属のマイクを用いてラップを始めたそう。キャリア初期は Mr. Harlow 名義で活動しており、友人と共に Moose Gang なるコレクティブも結成していた。
2018年にはジョージア州アトランタに引っ越し、生活費を稼ぐためにカフェで働いていた Harlow は、その数ヶ月後に DJ Drama と Don Cannon 率いる Generation Now と契約を結ぶこととなる。同年、彼はメジャーレーベルからの初のミックステープ『Loose』をリリース。翌2019年にはミックステープ『Confetti』をリリースし、USツアーも開催した。
2018年、彼は YNR Choppa という名義の元、ファースト・シングル『No Love Anthem』と、デビュー・ミックステープ『No Love the Takeover』をリリース。また、Choppa が所属するコレクティブ Shotta Fam の楽曲『No Chorus Pt.3』での彼の印象的なヴァースとダンスが話題を呼び、一躍名を馳せる。
NLE (No Love Entertainment) Choppa に改名した彼は、2019年にシングル『Shotta Flow』をリリース。同曲のミュージック・ビデオがわずか1ヶ月で1000万再生を記録し、Billboard Hot 100にて96位デビューを果たした。
高校卒業の年でもあった2017年に初のミックステープ『Rookie of the Year』をリリース。その後、ミックステープ『Hunger Games』シリーズで人気を集め、2019年リリースのデビューアルバム『Ghetto Gospel』は US Billboard 14位デビューを記録した。
更に2020年リリースのセカンドアルバム『Pray 4 Love』は初週で7.2万ユニットを売り上げ、US Billboard 2位デビューを飾った。
【代表曲】
Heart on Ice
Girl of My Dreams
Baby Keem
【本名】Hykeem Jamaal Carter, Jr.
【生年月日】2000年10月22日
【出身地】ネバダ州ラスベガス
Kendrick Lamar の従兄弟としても知られる Baby Keem は、その Kendrick を擁するビッグ・レーベル Top Dawg Entertainment 所属のアーティストの作品に多数クレジットされている。その例として、Kendrick Lamar の『Black Panther: The Album』や Jay Rockの『Redemption』、ScHoolboy Q の『Crash Talk』、Beyoncé の『The Lion King: The Gift』等での、ソングライティングやプロダクションへの参加が挙げられる。
声変わりを待ってからラップを始めたという彼は、2018年に『No Name』と『Hearts & Darts』の2つのEPをリリースしたのち、ミックステープ『The Sound of a Bad Habit』をリリース。その後、2019年にリリースしたシングル『Orange Soda』が2020年にかけてヒットし、US Billboard にて98位を記録した。同曲収録のミックステープ『Die for My Bitch』も多くの音楽メディアやアーティストから称賛を受け、一躍注目を浴びた Keem は、Kendrick Lamar と Dave Free による新企画『pgLang』のイントロ・ビデオにも起用され話題となった。
【代表曲】
ScHoolboy Q – Numb Numb Juice
Orange Soda
Lil Keed
【本名】Raqhid Jevon Render
【生年月日】1998年3月16日
【出身地】ジョージア州アトランタ
学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた Lil Keed は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組み始める。
Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 同テープがストリートヒットし Young Thug の目に留まった彼は、Young Stoner Life Records と契約を結ぶ。同年には『Slime Avenue』、『Trapped on Cleveland 2』、『Keed Talk to ‘Em』の3つのミックステープをリリース。『Keed Talk to ‘Em』にはTrippie Redd や 21 Savage、Lil Yachty、Lil Durk、Brandy ら大物アーティストが多数参加した。
2019年にはデビューアルバム『Long Live Mexico』を、2020年にはセカンドアルバム『Trapped on Cleveland 3』をリリース。ネクスト Young Thug との呼び声も高い若手ラッパーの1人である。
Lil Keed についての記事はこちらから↓
【代表曲】
Nameless
Wavy (feat. Travis Scott)
Mulatto
【本名】Alyssa Michelle Stephens
【生年月日】1998年12月22日
【出身地】ジョージア州アトランタ
オハイオ州コロンバスで生を受けた Mulatto は、2歳の頃にジョージア州アトランタに移住。彼女は10歳の頃にラップを始め、2016年には、若手ラッパーたちが8週間にわたり力を競い合うアメリカのリアリティTVシリーズ『The Rap Game』に参加、見事優勝を果たした。その結果として彼女は So So Def Records との契約権を勝ち取るが、契約金が少ないという理由でこれを断り、インディでの活動を選んだ。同年には Georgia Music Awards にて Youth Hip Hop/R&B Award も受賞した。
2017年頃から EP やミックステープを継続的にリリースしてきた彼女は、2020年に RCA Records と契約を結び、Gucci Mane や NLE Choppa らとの共演も果たした。
【代表曲】
No Panties
Muwop (feat. Gucci Mane)
Calboy
【本名】Calvin Woods
【生年月日】1999年4月3日
【出身地】イリノイ州シカゴ
音楽活動を始める前は絵を描いて過ごしていたという彼は、2015年から Kidd Cal 名義で楽曲を公開し始める。
2017年には初のミックステープ『Anxiety』を、2018年には Paper Gang Inc. からセカンドミックステープ『Calboy the Wild Boy』をリリース。同年、シングル『Envy Me』がダンスチャレンジによりバイラルヒットし、ますます知名度を上げた彼は、Kodak Black のツアーへの参加も果たした。
2019年には、RCA Records と Polo Grounds Music からEP『Wildboy』をリリース。Moneybagg Yo や Lil Durk、Yo Gotti、Polo G、Meek Mill、Young Thug らをフィーチャーした同作は、US Billboard チャートにて最高30位を記録した。Chance the Rapper のアルバムへの参加も果たした彼は、2020年、EP『Long Live the Kings』をリリース。同郷シカゴのラッパー Lil Durk から強く影響を受けた若手ラッパーの1人である。
アメリカ大統領選の翌日にアフリカ系アメリカ人としての訴えを Instagram にポストしたり、トランプ支持者として知られる Kanye West を皮肉るフリースタイルラップを披露したりと、政治関連の動きで注目を集めた彼女は、2019年にデビューシングル『No Squares』をリリース。同年夏には Warner Records と契約を結び、さらに2つのシングルを発表した。
カリフォルニア州ロサンゼルスで生を受け、後にサンフランシスコに移住した彼は、2019年にリリースしたシングル『Valentino』のバイラルヒットで一躍ブレイク。彼は、同曲のヒットを受け LLC、Columbia Records と契約を結び、デビュー EP 『Dropped Outta College』をリリース。彼の楽曲『Game on Your Phone』が人気ゲーム『NBA 2K20』のサウンドトラックに選ばれるなど、西海岸出身の注目ラッパーの1人である。
【代表曲】
Valentino
Mood (feat. iann dior)
Lil Tjay
【本名】Tione Jayden Merritt
【生年月日】2001年4月30日
【出身地】ニューヨーク州サウスブロンクス
15歳の頃に強盗罪で逮捕され、服役中にリリックを書き始めたという Lil Tjay は、2017年にデビュー曲『Resume』をリリース。同曲や、その後リリースした『Brothers』がバイラルヒットし、さらに Polo G との楽曲『Pop Out』は US Billboard Hot 100 チャートにて最高11位を記録。
2019年にはデビュー・アルバム『True 2 Myself』(US Billboard 5位デビュー) を、2020年には EP『State of Emergency』をリリースした。
21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加をきっかけに、DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たし、彼のコラボレーターとしてよく知られる DaBaby の楽曲を手掛けるようになる。DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。
2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たした。2020年には、Playboi Carti のシングル『@ MEH』や J. Cole のシングル『Lion King on Ice』の制作にも携わるなど、現行ヒップホップシーンを代表するプロデューサーの1人である。
ビデオゲームのBGMのようなピコピコトラック、Playboi Carti や Lil Uzi Vert らが得意とする浮遊感のあるトラック、極端に音数が少なくバスドラムが響く重低音トラックなど。トラップミュージックが急速に人気を博して数年たった今、数々のプロデューサーたちが多種多様なトラックを生み出し続けています。
中国的な雰囲気を感じられるトラックは、随分前からちらほらと見受けられましたが、やはり流行の発端となったのは、中国出身のヒップホップグループである Higher Brothers の『Made In China』ではないでしょうか。彼らは、中国でヒップホップシーンが盛んになり始めたタイミングで、チャイニーズラップらしい中華ビートを採用した楽曲をリリースしました。Future や Young Thug などとの共演で有名なプロデューサー Richie Souf による中華トラックに加え、シカゴのラッパー である Famous Dex をゲストに招いたことで、チャイニーズスタイルのトラップミュージックが瞬く間に全世界に広がりました。
中国のヒップホップシーンはもちろんのこと、海外からの注目も集めることに成功した彼らは、のちにリリースしたアルバムに ScHoolboy Q や J.I.D、KOHH などを招くことで、さらなる知名度を獲得していきます。そのなかでも、Ski Mask The Slump God と Denzel Curry を招いた楽曲『One Punch Man』は、Ronny J による中華ビートの上で中国語と英語が混同した勢いのあるラップが話題を呼びました。
Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するラッパー Gunna のデビューアルバム『Drip or Drown 2』に収録されている『Who You Foolin』という楽曲です。Wheezy による高級中華料理店のBGMのような中華トラップビートに、Gunna がしっとりと哀愁のあるラップを載せています。
ちなみに、Wheezy がサンプリングしたのは、中国の人気歌手である Tong Li の『童麗』という楽曲です。メロディはそのまま使用されており、Wheezy はドラムスを重ねただけです。しかし、今となっては原曲のYouTube のコメント欄には「Gunna から」「Gunna が俺をここに導いてくれた」など、Gunna リスナーによるコメントしか見当たりません。
Polo G の最新作『THE GOAT』に収録されている『Chinatown』という楽曲です。こちらの楽曲に関しては、タイトルから察しがつく通り、もちろん中華ビートが採用されています。チャイナタウンというだけあって、特定の楽器によるメロディラインというよりは、チャイナタウンの街の喧騒のようなサウンドにドラムスを重ねた怪ビートとなっています。
皆さんご存知の Justin Bieber が2014年にリリースしたアルバム『Purpose』に収録されている『Hit the Ground』という楽曲です。同アルバムには、Travis Scott や Nas、Big Sean などがクレジットされていることもあり、今回の趣旨から大きく逸脱してしまうわけではないので、ご紹介させていただきます。
Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するジョージア州アトランタ出身の注目ラッパー Lil Keed (リル・キード)。XXL Freshman Class 2020の有力候補の1人であり、本日セカンド・アルバム『Trapped On Cleveland 3』をリリースした彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。
生い立ち
I come from the jungle where you don’t survive.
他の奴らは生き抜くことができないような、ジャングルみたいな場所からやって来たんだ
1998年3月16日、ジョージア州アトランタにて生を受けた Lil Keed こと Raqhid Jevon Render は、幼少期を Forest Park で過ごした後、Cleveland Ave に引っ越します。この Cleveland Ave はアトランタのゾーン3に位置しており (アトランタは、警察によって1~6までの管轄地区に分けられており、アトランタのスター Young Thug もゾーン3で生まれ育ちました) 、彼は6人の兄弟とともに貧しく過酷な環境下で生活していたそうです。
キャリアの開始とミックステープ
学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた彼は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組むようになります。
Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 Young Thug の影響を強く感じさせるハイピッチで歌うスタイルが彼の特徴です。
Young Thug のようなハイピッチ・フロウとキャッチーなコーラスが特徴的な1曲。女性との関係や掴んだ成功について歌った同曲がバイラルヒットし、US Billboard チャートにて最高30位を記録、後にゴールド認定されます。
デビュー・アルバム『Long Live Mexico』
2019年6月、Lil Keed は待望のデビュー・アルバム『Long Live Mexico』をリリースします。タイトルの『Long Live Mexico』とは、同年始に亡くなった彼の友人 Mexico に追悼の意を表したものです。
Young Thug や Gunna、NAV、Moneybagg Yo、Lil Uzi Vert、YNW Melly、Roddy Ricch らを含む13名を客演に迎えた同作は、US Billboard チャートにて最高26位を記録します。
Snake
CuBeatz & Pyrex Whippa プロデュースによるウクレレのようなストリングスを用いたスロウなトラックと、「Snake」を連呼するだけのシンプルなフックが特徴的な1曲。2バース目入りの苦しそうなハイピッチ・フロウが彼の持ち味で、まさに Young Thug のハイピッチ・パートをそのまま受け継いで進化させたかのようなスタイルを披露します。
2018年から次々と作品をリリースし、憧れの Young Thug に認められたのち YSL Records と契約、更には XXL Freshman Class 2019 にもノミネートされるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いでスターダムを駆け上がってきた Lil Keed。そんな彼は、YSL Records やアトランタのラッパーを中心に、様々なアーティストと共演するようになります。
Young Thug – Goin Up (feat. Lil Keed)
まずは Keed をフックアップした Young Thug との1曲。彼らが出会って間もない時期に制作した楽曲ですが、2人は既に最高のコンビネーションを発揮しています。Thug がイントロで「Keed, yeah」とシャウトアウトする部分や、似たような声質から放たれる両者のハイピッチ・フロウから、彼らが本当の親子だと勘違いするファンもいたほどです (年齢的にはあり得ませんが)。実際 Thug は、Keed を実の息子のように可愛がっています。まさに Keed は、アトランタ・ヒップホップシーンの結束力と Young Thug の多大な影響力が生んだネクストスターといえるでしょう。
※Young Thug がシーンに与えた影響については、以下の記事をご覧ください。
Jacquees – Hot For Me (feat. Lil Keed & Lil Gotit)
ジョージア州ディケーターの R&B シンガー Jacquees の1曲に、Keed は実弟の Lil Gotit と共に参加しています。Keed のシグネチャーである「Keed talk to ’em」の連呼で始まる彼のヴァースは、地声のラップからアドリブと共にハイピッチ・フロウに切り替わっていく展開で、R&B サウンドにしっかり順応しています。優れた歌唱力と美しい歌声を持つ Jacquees と、それに負けじと必死にハイピッチで歌う Keed の2人だからこそ成せる絶妙なコンビネーションです。
88GLAM – Bankroll (feat. Lil Keed)
カナダ・トロントのヒップホップ・デュオ 88GLAM との1曲。Keed は、お得意のハイピッチ・フロウに加え Young Thug のようなダミ声も披露しており、客演にも関わらず主役級の存在感を放っています。Keed はどの楽曲でも同じようなラップをしていると思われがちですが、自分のスタイルを貫きながらも随所に様々な工夫を凝らしており、インタビューでも以下のように語っています。
After just every day being in the studio, trying new things.
俺はいつも新しいことを試してる
I don’t want people to be like, ‘He sounds the same on every song, that shit’s boring!’
ミシガン州デトロイトのラッパー Tee Grizzley との1曲。Tee Grizzley のハードなラップに続いて、Keed はハイテンポなビートを乗りこなしながら自由なラップを披露します。真面目にラップする Tee Grizzley と、奇妙なアドリブやフロウを聴かせる Keed の相性が意外にもマッチした楽曲です。
johan lenox, Lil Keed & Kota the Friend – throwback thursday
マサチューセッツ州ボストンのシンガー/プロデューサー johan lenox との1曲。Keed とオーケストラ・サウンドという一見意外な組み合わせですが、彼は johan lenox にも Kota the Friend にもない新たなエッセンスを楽曲に加えており、三者三様のコントラストが魅力的な楽曲です。このようにヒップホップ (トラップ) 以外の楽曲にも起用される Keed は、同じく様々なジャンルの客演をこなす Young Thug に近い立ち位置を確立しつつあるのではないでしょうか。
おわりに
今回はアトランタの注目ラッパー Lil Keed についてまとめてみました。いかがだったでしょうか。
2019年、そして2020年と2年連続で XXL Freshman Class の候補者にノミネートされており、これからますます活躍が期待されている Lil Keed。実弟 Lil Gotit と共にアトランタのシーンを背負うビッグスターになる日も近いかもしれません。
突然ですが、あなたは Kanye West という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?「変人」「宇宙人」などなど、最近の一連の行動を見ていると、あらかたの人が Kanye に対して不信感や偏見を持っているかもしれませんが、彼の音楽面における影響力は絶大なものなんです。
ということで、今回はそんな Kanye West の全てがわかる記事をご用意しました。Kanye がリリースしたほぼ全てのプロジェクトを通して、彼の音楽の全貌に迫りましょう。
Kanye West とは?
Kanye West (以下、Kanye) は1977年6月8日にアトランタで生まれ、イリノイ州のシカゴで育った現在43歳のプロデューサー・ラッパー・ファッションデザイナーです。ここでまず最初に注目してほしいのは、彼が元々プロデューサーであったという事です。
プロデューサー・Kanye West
彼は1990年代に学生として大学に通いながら、プロデューサーとしての仕事を始めました。しかしなかなかヒットには恵まれません。実はこの時期に、ソロデビューを果たすためにかなりレーベル探しに苦労しており、Capitol Records からソロアルバムを出すということがほとんど目前まで決まっていたところで契約が白紙になってしまったこともありました。
好機が訪れたのは2000年代になってからのこと。オールドスクールとニュースクールのハブ的存在、 Jay-Z との出逢いです。そして、Jay-Z にプロデューサーとしての資質を買われて Roc-a-Fella Records とプロデューサーとして契約を結びます。
この曲はジム・モリソンの所属していたアメリカ西海岸出身の世界的バンド The Doors の『Five to One』や David Bowie の『Flame』を大胆にサンプリングした一曲です。また、この曲は Nas をディスってビーフになったことでかなり有名な一曲でもあります。今でこそゴスペルのイメージが強い彼も、源流はサンプリング&ループビートなんです。
Jay-Z – Izzo
続いては『Izzo』ですが、この曲のビートどっかで聞いたことがあるなと感じた方もいらっしゃることでしょう。そうなんです、これは Jackson 5 の『I Want You Back』をサンプリングした一曲なんです。大胆に様々なジャンルに闖入しうる彼の才能は、この時代から顕在ですね。
Common – They say (feat.Kanye West & John Legend
Jay-Z の他にも、 シカゴヒップホップの開拓者ともいえる Common のアルバム『Be』にて、11曲中9曲を Kanye がプロデュースします。では一曲お聞きいただきましょう。Common で『They say (feat.Kanye West & John Legend』 です。
John Legendの聞き心地のよいコーラスから始まる、気持ち良さと軽快さを兼ね備えたビートですね。聴いた人は分かると思いますが、2バース目はカニエのラップパートになっています。
また、R&B においても、彼はプロデューサーとしての才能を開花させていきます。プロデュースした中で有名なものに、Alicia Keys の『You Don’t Know My Name』があります。
これはリーク曲に対する世間の評判を見て、曲のマスタリングを変更したり、曲を没にしたりするためにやったそうです。実際に、東海岸のレジェンドクルー Wu-Tang Clan の Ol’ Dirty Bastard (通称:ODB) との楽曲『Keep the Receipt』をこのアルバムから外し、一年後の Roc-a-Fella Records から出したミックステープに収録していたりします。
The College Dropoutのオススメ曲
このアルバムでのオススメ曲としては、まずは Chaka Khan の『Through the Fire』を大胆にサンプリングした楽曲『Through The Wire』です。 『Through the Fire』(炎の中で) を 『Through the Wire』(ワイヤーの間から)というお茶目なワードプレイに変えちゃう辺りは彼らしくて面白いですね。
続いては『Late Registration』です。こちらは、リリース後10週連続で全米チャート1位をとり、これ以降のアルバムでKanye はチャートを総ナメしてしていくのですが、今作は前作と比べてかなりクラシック的要素が強くなっています。このアルバムの制作における裏話に、上述の Common のアルバム制作の時に「俺ならこうやってラップするぜ」と思っていたそうで、そこから着想を得たそうです。
勿論、Jay・Z や Nas、The Game、さらには Brandy や Maroon5 の Adam なども客演に迎えた崇高な仕上がりになっています。このアルバムを契機として、温かみやチープさといった印象を払拭した楽曲の作り方をしています。また、このアルバムでは Pop 界のレジェンドプロデューサー Jon Brion を外部プロデューサーとして迎え入れていることで、前作とはまた違ったサウンドの幅を感じます。
このアルバムでは、エレクトロニックサウンドへの傾倒が注目されがちですが、ニューヨーク出身の伝説的バンド Steely Dan のサンプリングなど、今までにも増してヒップホップの可能性を無限大に広げ、そのジャンルをメインジャンルに押し上げたアルバムであることも特筆すべき点です。また、一曲一曲がクリアにミキシングされているので、以前にも増して粗雑感が消えています。
Graduationのオススメ曲
2006年に先行シングルで発表し、世間に衝撃を与えた一曲『Stronger』をオススメします。
最高ですね。この曲を聞いたことのある人が多い理由はサンプリング元が Daft Punk の『Harder Better Faster Stronger』だからです。にしても、天才的なサンプリングセンスとしか言いようがありません。
『My Beautiful Dark Twisted Fantasy, Watch The Throne』のオススメ曲
Pusha T をフィーチャーした一曲『Runaway』です。
Let’s have a toast for the douchebags.
勘違い野郎に乾杯だ。
たった1音の旋律から増幅するこの曲は、かなり教示的な一曲だと感じると同時に、その自嘲的なリリックにユーモアさえ感じとることができます。Taylor Swift のMTV授賞式を邪魔するという失敬によって彼はハワイでレコーディングをせざるを得なくなったわけですが、唖然とするほどストイックにレコーディングを行ったそうです。モデルの Amber Rose との破局もあったのですが Kanye は心が不安定な時こそ最高の音楽を作ってしまうんですね。
続いては、Fergie、Alicia Keys、Elton John、Rihanna や Kid Cudi といったスターたちを次々に使う『All Of The Lights』 です。
辛い時期を闘った Kanye なんですが、2011年には Roc-a-Fella Records と Def Jam Recordings より、恩人 Jay-Z と共作のアルバム『Watch the Throne』をリリースします。このプロジェクトは元々、EPとして発表するつもりだったのですが、色々な構想がうまく行くうちにアルバムにしてしまおう、となって作られたアルバムです。
『Kanye West Presents GOOD Music Cruel Summer』(2012)
続いては、Kanye が自ら2004年に作ったレーベルで Def Jam Recordings の傘下である GOOD Music より出されたレーベルアルバムの『GOOD Music-Cruel Summer』です。こちらはレーベルでのアルバムにはなりますが、Kanye によるプロデュースアルバムで、彼自身が楽曲に多く参加しているので紹介いたします。
『Cruel Summer』のオススメ曲
『I Don’t Like ft. Pusha T, Chief Keef, Jadakiss& Big Sean』
そして2年の時が過ぎ、7作目のアルバム『Yeezus』をリリース。このアルバムはこれまでずっと続いてきた Roc-a-Fella Records と Def Jam Recordings から出される最後のアルバムとなります。次回作からは GOOD Music と Def Jam Recordings よりリリースされるようになります。
今作はプロデューサーとして Mike Dean や Daft Punk、Arca や Travis Scott を招いていて、この作品でも革新的な電子サウンドを取り込んだ楽曲が多くみられます。また、リリースされる15日ほど前にプロデューサー Rick Rubinを招き、このアルバムをさらに凝縮するべく、マスタリングをギリギリまで行っています。
そして、何よりこのアルバムの特徴といえば、転調の多さです。この転調の多さは Travis Scott にもかなり影響を与えたようで、転調の王者 Travis Scott の原点とも言えるアルバムでしょう。
『Yeezus』のオススメ曲
まずは、Travis Scott を中心に Mike Dean なども共にプロデュースした一曲『New Slaves』です。
We on an ultralight beam. This is a God dream. This is everything.
みんな神の光に包まれている。これが神の与えてくれる希望だ、それだけさ。
実はこのライン、初めの女の子の発言に対して呼応する構造になっているんですよね。また、ここでの神の光はつまり無償の愛、キリスト的用語で言えば、「アガペー」を意味するのでしょう。この曲では 女性シンガー Kelly Price の圧倒的歌唱力も味わうことができます。彼女は幼少の頃から教会に通い、ゴスペルに大きな影響を受けたシンガーです。
そしてその後、Chance The Rapper の心地よいバースがあり、曲の終盤に Kirk Franklin を使ってしまうという徹底したゴスペルサウンドへのこだわりが随所に見られます。Kirk Franklin はゴスペルとヒップホップを融合し、アーバン・コンテンポラリー・ゴスペルを作り出した張本人でアメリカでも圧倒的人気を誇るアーティストなんです。
この曲は Metro Boomin のプロデュースということですが、始まりから最高ですね。「stretch my hands」というのは神を賛美するときに天に向かって手を伸ばすことを意味していて、一般的な Sunday service (日曜礼拝)や祈りを捧げるときに行われる行為です。
ちなみに『Father I Stretch My Hands to Thee』という曲は James Cleveland の代表曲で、Kanye はこの曲を参考に作っています。
I feel like me and Taylor might still have sex Why? I made that bitch famous (Goddamn)
俺とテイラー(スウィフト)は今もやってるかもな。なぜかって、俺があのアマを有名にしたからだよ。
このリリックに対して Taylor Swift サイドがかなり批判したのですが、リリース前に Taylor Swift に許可を取っていたという電話をキム・カーダシアンが通話記録から発見し、一旦事態は収束しました。しかし、事態は今年になって急展開を見せました。なんと、結局は Kanye 夫妻が嘘をついていたというのがまたもや通話記録から発見されたのです。否定的なラインはその本人に悪影響を与えるため、Taylor Swift が怒る理由も理解できますね。
続いては『Waves』です。この曲にはChance the RapperとChris Brownをフィーチャーしています。Chance the Rapper といえば、Kanye も認める凄腕ラッパーな訳ですが、彼が他の楽曲にも様々に「テコ入れ」を行ったことでリリースが遅れたとも言われていますから、彼のプロデュース力も底知れぬものなのでしょう
最後に僕のカニエの数々の曲の中で最も好きな曲を紹介します。
この楽曲・アルバムのタイトルにもなっている「Pablo」についてなのですが、これはキリストの使徒の一人である「パウロ」を指します。パウロはもともと、ユダヤ教徒のファリサイ派と呼ばれる過激な思想を持つ宗派に属しており、キリシタンを迫害し、嘲笑するような態度でした。しかし、突然キリストの声が聞こえ、目が見えなくなります。それをキリスト教徒が祈りにより直してしまいました。そのような経験から彼はキリスト教へと回心したのです。『The Life of Pablo』はそんな人の人生というのがテーマのアルバムなのです。
Shirley Ann Lee・PARTY NEXT DOOR・070 Shake という近年力をつけてきた勢力に加え、自身のレーベルより長年の古株である Kid Cudi を絶妙なタイミングでコーラスとして使った至極の一曲です。
続きましては、その Kid Cudi との共同プロジェクト「KIDS SEE GHOSTS」のアルバムについてです。
Kanye West と Kid Cudi
『KIDS SEE GHOSTS』 (2018)
実は、Ronald Oslin Bobb-Semple より、このアルバムの収録曲『Freeee (Ghost Town Pt. 2)』に Kanye がマーカス・ガーベイのスピーチを再現した「The Spirit of Marcus Garvey」という音声が使用されていることに対し、訴えを起こしました。これは曲の中心として使っているのでフェアユースとは言えないだろと訴えを起こされ、話題となっていました。
三曲目のこちらですが、TLOPで紹介した「Father I Stretch My Hands to thee」をサンプリングしています。これは言わば、TLOPの『Father Stretch My Hands, Pt. 1』そして『Pt. 2』の続きに当たる『Pt. 3』とも言える曲ですね。見事なサンプリングです。この曲が一番再生されてる理由も理解できますね。
そして2020年になり、YEEZY と GAP のコラボレーションを発表するなど、コロナ渦でも話題を欠くことのなかった Kanye West。
そんな彼が、突然 MV と共に弟のような存在である Travis Scott を客演に呼んだ一曲『Wash Us in the Blood』を発表します。
このミュージックビデオは、Solange や Jay-Z のMV監督としても知られる、映画監督の Arthur Jafa によって作られました。車の激しいアクションのシーンは思わず目を見開いてしまいそうになりますね。また、兄弟分とも言える Travis Scott を絶妙な使い方で使っている点にも注目です。
(Kanye West と Travis Scott の関係については以下の記事を参照ください)
そして 7月5日にはアメリカの大統領選挙に出馬する意向を示し、実際に出馬することがほとんど確定となったり、ニューアルバム『DONDA』をリリースすると発表したり、演説で号泣しながら中絶廃止を訴えたり、とコントロバーシャルな話題を振りまき続ける Kanye West からは今後も目が離せません。
Juice WRLD の遺作『Legends Never Die』への参加や、Lil Tecca や Lil Tjay などの人気若手ラッパーたちとの共演で注目が集まる中、満を辞して待望のニュープロジェクト『Fuck Love』をリリースしたばかりの The Kid LAROI。今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力について迫ります。
The Kid Laroi とは
The Kid LAROI (ザ・キッド・ラロイ) こと Charlton Howard は 2003年8月16日にオーストラリアのシドニーに生まれました。現在のヒップホップシーンでは珍しいオーストラリア出身で、まだ16歳とかなり若いのも特徴の一つです。
シドニーで生まれた The Kid LAROI (以下 LAROI) は幼少期からヒップホップを中心とする音楽に親しんでいました。彼の母親はオーストラリアの音楽をほとんど聴かない人物だったそうで、母親が幼少期の LAROI に Kanye West や 2Pac 、Erykah Badu などの音楽を聴くことをすすめたことが、彼がヒップホップと出会うきっかけとなったそうです。
彼の音楽は Juice WRLD や Trippie Redd のそれと比較されることが多く、「サウンドクラウドラップ」や「エモラップ」にカテゴライズされることが多いです。実際に彼が音楽の道を志し始めたときには、彼はすでに Juice WRLD の大ファンだったそうで、Juice WRLD による影響はかなり大きいとインタビューの中でも語っています。
キャリアの開始
LAROI は2018年にオーストラリアのラジオ番組の新人アーティスト発掘コーナーである Triple J Unearthed High にてファイナリストまで勝ち上がります。コンペティションにて知名度を格段に上昇させた LAROI は同年に初の EP 『14 WITH A DREAM』を SoundCloud にて公開します。
1曲目に収録されている『GO GET IT』では、EP のタイトル通り「14歳にして大きな夢を思い描く」彼の決意や大志がひしひしと感じられます。メロディアスなラップや、フックを歌い上げるスタイルの楽曲が多い現在の彼に対し、初期はシリアスなラップを淡々とこなすスタイルが特徴的です。
4曲目に収録されている『Blessings』では、メロディアスでありながらもシリアスさを持ち合わせる力強いラップを堪能することができます。当 EP の中では、こちらの楽曲が特に大きな話題を呼び、彼のキャリアを躍進させるきっかけとなりました。
Juice WRLD をはじめとした SoundCloud 発のエモラップを好むリスナーたちを中心に徐々にファンベースを築き上げていった LAROI は2019年に Juice WRLD も所属する Lil Bibby によるレコードレーベル Grade A Productions や Columbia Records との契約を交わしました。
その後、 LAROI は Juice WRLD によるライブツアーのオーストラリア公演への同行を果たし、憧れだった人気ラッパーたちに仲間入りします。ツアーの際に憧れの存在である Juice WRLD との親交を深めた彼は、のちに彼とのコラボ曲も発表します。
Rolex は、ドイツ人の Hans Wilsdorf が1905年に創業したスイス発の腕時計ブランドです。創業当初の同社の腕時計の精度は決して高くはありませんでしたが、創業者である Hans Wilsdorf の熱心な研究によりムーブメントの品質向上に成功。その結果、商標登録からわずか2年後に、腕時計として初のクロノメーター認証 (高い品質を認められた時計だけに与えられる称号) を受けるという快挙を達成します。
2Pac が愛用していたのは、ダイアモンドが施されたイエローゴールドの Day Date (デイデイト)。Rolex の高級ラインにのみ使用される「Presidentbracelet」を用いた Day Date は Rolex が誇る最上位ドレスモデルであり、定価にしておよそ300万円から1000万円を超えるものまで存在します。ちなみにこの「President bracelet」とは、1956年に当時のアメリカ大統領アイゼンハワー氏に Day Date が贈られたことがきっかけで付けられた名称で、ヒップホップにおいても Rolex を意味するスラングとして「President」というワードが頻繁に用いられます。
Warren G – Regulate
I’m gettin’ jacked, I’m breakin’ myself
俺はやられる ボロボロになるんだ
I can’t believe they takin’ Warren’s wealth
Warren の (俺の) 物を奪おうとしてくるなんて信じられない
They took my rings, they took my Rolex
奴らは俺のリングと Rolex を奪った
I looked at the brother, said “Damn, what’s next?”
奴らを見て言ったんだ 「次はなんだ?」ってな
G Funk の流行を支えた Warren G が1994年にリリースした名曲『Regulate』でも、音楽で成功を収めた結果手に入れた「Wealth = 富」として、Rolex がネームドロップされています。「自らが敵に襲われ、財産である Rolex を奪われてしまう」という、強さを誇示することが一般的であるヒップホップ界においては珍しいラインですが、ヒップホップ全盛期として知られる90年代においても Rolex は富の象徴として扱われていたことが分かります。
アニメの要素を自身の作品に取り入れるアーティストたちは、時にアニメの主人公に自身を投影します。今となってはゴスペルアルバムをリリースしたり、大統領選への出馬意向を示したりとアニメとは無縁の世界に身を置いているように見える、Kanye West もその中の一人です。まずはこちらのミュージックビデオをご覧ください。
Kanye West による三枚目のスタジオ・アルバムである『Graduation』に収録されている『Stronger』のミュージックビデオです。ネオンが輝く東京の街並みや近未来的なロボットなどが登場し、SFアニメを連想させるものとなっております。勘の良い方ならすでにお気づきかもしれませんが、実はこちらのミュージックビデオは、大友克洋によるSF漫画・アニメである『AKIRA』に実際に登場するシーンなぞらえて制作されています。
アニメキャラクターに自身を投影するラッパーは他にも多数存在し、その一人が Lil Uzi Vert です。最近でも『Futsal Shuffle 2020』や『That’s A Rack』などのアートワークに自身をアニメキャラクターにデフォルメ化したものを起用したことから、アニメ好きというイメージは浸透しているように思えますが、彼が作品にアニメのエッセンスを加え始めたのはそれよりも前にさかのぼります。
Lil Uzi Vert が2016年にリリースした3枚目のミックステープ『Lil Uzi Vert vs. the World』収録の『Ps & Qs』のミュージックビデオです。日本の学校を舞台に、学園生活を通しての恋愛をテーマにしたビデオです。下駄や招き猫が映し出されたり、背景には浮世絵や日本語が書かれた黒板などが確認できます。特徴的なのは、全体を通して被写体の瞳がかなり大きく加工されている点で、日本のアニメキャラクターの瞳が潤いを持った大きな描写で描かれていることを表現しようとしたのでしょう。
ビデオ内では頻繁の実写と2Dアニメの描写が切り替えられ、クライマックスではCGアニメに切り替わる構成となっており、Lil Uzi Vert が主人公の学園アニメを見ているような錯覚を視聴者に起こさせます。
ここまででご紹介した Kanye West と Lil Uzi Vert の事例に共通することは「自信を主人公に投影している」点です。ほとんどのアニメや漫画は、主人公が「何か」と戦うことによってストーリーが展開していきます。『AKIRA』のようなSF作品では、特定の敵と身体的な戦いを繰り広げますし、一見戦いとは無縁に見える『けいおん!』のような学園ドラマでも、「軽音楽部の廃部」という事実と闘います。
ヒップホップは社会に対する反骨精神が現れやすい音楽です。アニメのキャラクターに自身を投影することによって、そのような「自分 vs 世界」的なマインドを上手く表現することができたのではないでしょうか。先ほども言及した Lil Uzi Vert のミックステープのタイトルも『Lil Uzi Vert vs. the World』となっており、主人公の Lil Uzi Vert が世界と戦う一つのアニメ作品のように思えてきます。
JID や EarthGang などが所属するレーベル Dreamville のボスである J. Cole も日本のアニメの楽曲をサンプリングしています。彼の4枚目のスタジオ・アルバムより、プロジェクトタイトルにもなっている楽曲『4 Your Eyez Only』は、日本でもかなり有名な国民的アクション漫画「ルパン三世」のサウンドトラックに収録されている楽曲をサンプリングしています。
最近のシーンの傾向から、アニメやオタク文化に魅了された若手ラッパーたちが、日本のアニメや漫画のカルチャーを楽曲に取り入れている印象を抱きがちですが、実は Wiz Khalifa や Snoop Dogg、そして J. Cole などのレジェンド級のラッパーたちも同じように自身の楽曲とこれらのカルチャーをミックスしています。
続いては、アニメに登場するアイコニックな効果音をアクセントとして楽曲に加えるパターンをご紹介します。 はじめにご紹介するのは、 Trippie Redd による最新アルバム『A Love Letter to You 4』より、故 Juice WRLD と未だに服役中のフロリダのラッパー YNW Melly をフィーチャーした『6 Kiss』です。
Kanye West の Sunday Service に参加したことでも知られるシカゴ出身のラッパー、Chance the Rapper。
Are u more pro biden or anti ye and why? I get that you’ll want to reply that you’re just tryna “get trump out” but in this hypothetical scenario where you’re replacing Trump, can someone explain why Joe Biden would be better??
— Chance The Rapper (@chancetherapper) July 13, 2020
— Chance The Rapper (@chancetherapper) July 13, 2020
(Kanye West の母へのトリビュートソングを引用して)
君たちみんながバイデンに投票するよう説得しているんだね。失望したよ。
Ima keep it real alota u niggas is racist
— Chance The Rapper (@chancetherapper) July 13, 2020
正直に言うけど、君たちの多くが人種差別主義者だよ。
I also always felt a way about people using the word “presidential”. Like a nigga acting or not acting presidential. Was Andrew Jackson acting presidential??
— Chance The Rapper (@chancetherapper) July 13, 2020
2019年12月8日、ヒップホップシーンのみならず現代音楽シーンを牽引していた若きスター Juice WRLD が逝去。わずか21歳という若すぎる死に、世界中が涙を流しました。
今回は、今週金曜日に彼の死後初となるアルバム『Legends Never Die』がリリースされたことを踏まえ、今一度彼の人生について振り返ります。
生い立ち
Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、1998年12月、イリノイ州シカゴにて生を受けました。翌1999年には家族で州内のホームウッドに移住しますが、Juice が3歳の頃に両親が離婚。それ以降は彼と彼の兄、そして母親の3人で暮らしていくこととなります。
4歳の頃にピアノを習い始めた Juice は、後にギターやドラムのレッスンも受けるようになり、学校の授業ではトランペットも演奏するなど、幼い頃から音楽に慣れ親しんでいました。
信心深く保守的な母親の影響で、ヒップホップを聴くことが許されなかった Juice は、「Tony Hawk’s Pro Skater」や「Guitar Hero」等のビデオゲームに使われていたロックやポップス (Billy Idol や Blink-182、Black Sabbath、Fall Out Boy、Megadeth、Panic! at the Disco など) を聴いて育ったといいます。
高校1年生の頃に音楽活動を開始した Juice (キャリア初期は JuicetheKidd という名義の下活動) は、2015年に初めて SoundCloud に楽曲をリリースしました。
Forever
ほとんどのヴァースを自身のスマートフォンで録音したという1曲。まだまだ音質やフロウ、ラップスキルに未熟さや粗削りさが残るものの、持ち前のハスキーな歌声と切ないリリックからは、皆さんが思い浮かべるであろう昨今の Juice WRLD らしさを感じることができます。当時は、ラップ・パートが楽曲の大半を占めており、ブレイク後の彼が得意としていた歌いながらラップするスタイルとは一味違う魅力があります。
JuicetheKidd 名義の元、ミックステープ『What Is Love?』(1曲のみの収録) や EP『Juiced Up The EP』をリリースした後、彼は尊敬するラッパー 2Pac が出演している映画『Juice』と、「世界を獲る」という意味の「World」にちなんで、現在の名前である Juice WRLD という名前に変更しました (ちなみに、WRLD は単純にスペルミスだそうです)。
2017年には、今となっては Juice とのタッグで有名な Nick Mira によるプロデュースの楽曲『Too Much Cash』をリリースします。
Too Much Cash
この頃から Juice は急激にスキルアップを果たします。JuicetheKidd 時代よりも多彩なフロウを駆使し、ブレイク後の彼のスタイルにも通づるキャッチーなメロディラインを用いたシンキング・ラップも聴くことができます。
当時、高校を卒業し工場で働き始めた Juice は、その仕事に不満を覚えわずか2週間で退職。その後ますます音楽活動に専念するようになった彼は、同年に初のフルレングス EP『999』をリリースします。この EP に収録されていたのが、後に大ヒットを記録する『Lucid Dreams』でした。
EP『999』
同 EP のリリース後、彼は Waka Flocka Flame や Southside、G Herbo ら大物アーティストから注目を受け、同郷シカゴ出身のラッパー Lil Bibby 率いる Grade A Productions と契約を結ぶことになります。
ヒット曲とデビューアルバムのリリース
2017年末、Juice は3曲収録の EP『Nothing Different』をリリース。同 EP 収録の『All Girls Are the Same』がヒットし、人気ヒップホップ・チャンネル Lyrical Lemonade の Cole Bennett が監修したミュージック・ビデオが発表されます。
All Girls Are the Same
All girls are the same, they’re rotting my brain, love
女の子はみんな同じだ 俺の脳を腐らせていく
Think I need a change, before I go insane, love
俺は変わらなきゃいけないんだ 狂ってしまう前に
この『All Girls Are the Same』は、Juice が自身の恋愛観と弱さを正直に曝け出した1曲です。「大勢の女性を従える」ということが一種のフレックスであり、ステレオタイプでもあるヒップホップ (音楽) 業界において、Juice は真実の愛を求めていました。彼は、真実の愛を追い求める中で負ってしまった心の傷を美しくも哀しいメロディに乗せて歌い、同じ悩みを抱える人々の共感を呼びました。
同曲で一躍名を馳せた Juice は、2018年、大手レーベル Interscope Records と300万ドル (約3億2000万円) の契約を結びます。
Hip Hop の歴史は、黒人たちが生きてきた歴史ととても深い関係にあります。昨今、George Floyd 氏の殺害事件をきっかけに史上最大規模の反人種差別の動きが世界へと広がっており、Black Lives Matter の運動、そして人種差別についての意識啓発の動きが高まっている中、彼らの音楽から学ばされること、感化されることは沢山あるのではないでしょうか。
アトランタに引っ越した直後、SahBabii の名義のもとで楽曲制作を開始しました。先に活動を始めていた兄である T3 の力を借りて『Pimpin Ain’t Eazy』と『Glocks & Thots』というミックステープを2年連続で制作、リリースしました。この頃の楽曲は、Young Thug の初期のミックステープを彷彿とさせるようなサウンドを多用しており、現在の彼のスタイルとはかけ離れたものとなっています。
そんな中、SahBabii が他のラッパーの楽曲に参加したレアなケースをご紹介します。フロリダのラッパー Ski Mask The Slump God の EP『BE AWARE THE BOOK OF ELI』に収録されている『COOLEST MONKEY IN THE JUNGLE』という楽曲で、タイトルを見て頂ければ分かる通り、H&Mの不祥事の直後にそれを揶揄する様にリリースされた楽曲です。
2019年にはシングル『Ghetto Angels』がバイラルヒットし、同曲収録のミックステープ『The Backend Child』をリリース。その後、銃撃事件への関与により逮捕されるものの、同年末にリリースしたミックステープ『The Hood Dictionary』は US Billboard 200 にて最高80位 (R&B/Hip-Hop チャートでは最高39位) を記録しました。
NoCap の楽曲とスタイル
NoCap のスタイルについてご説明する前に、まずは彼の最初のヒット曲を聴いていただきましょう。
Legend
YoungBoy Never Broke Again や Polo G、Kevin Gates らと比較されることが多い NoCap は、オートチューンを効かせたヘロヘロな声で、歌うようにラップするスタイルを得意とします。彼は、困難な環境を生き抜いてきた苦労や葛藤、哀しみ、そして現在の成功や名声を、エモーショナルに、時に力強く歌い上げます。
爽やかでありながらメロディアスで、哀愁さえも漂う Juice WRLD の楽曲を作っているプロデューサーは誰なのかと疑問に思ったことはないでしょうか。
今回は Juice WRLD や Trippie Redd などにビートを提供するプロデューサー Nick Mira の魅力についてまとめてみようと思います。
生い立ちとキャリア
Nick Mira はヴァージニア州出身のアメリカ人で、現在19歳(2000年生まれ)という若きプロデューサーです。彼は昔からギターやピアノを弾くことが好きで、それが現在のプロダクションにも反映されています。
彼はキャリアを始めるにあたっての自分のインスピレーションとして、Pharell Williams や Kanye West、Metro Boomin などを挙げています。そんな彼は2017年、 Taz Taylor によって設立されたビートメーカーのレーベル Internet Money Records に加入します。
ちなみに、彼らのタグである「Inernet Money B**ch」は Nick がプロデュースした Trippie Redd の『Love Me More』や Lil Tecca の『Ransom』などで聞くことができます。また前述の『Love Me More』や、テキサス出身のラッパー 10k.Caash 、度々Nick のビートを使っている Ty Fontaine など、彼がプロデュースした曲には時折彼のタグが使われています。
これは Nick の当時の彼女の声を録音した「Hahahaha, Nick, you’re stupid」というタグです。
スタイル
Nick Mira は、小さい頃から弾いていたギターやピアノを使ったメロディアスなビートが特徴的です。彼の作る曲は、メロディアスでありながら切なさや哀愁を兼ね備えていることから「Emo Rap=エモラップ」に分類されるビートが多いです。
ハイハットや 808 のパターンが非常に単純なため、シンプルな音でもボーカルさえマッチすればヒットを生み出せるということを Nick は証明しています。哀愁が強いビートではありませんが、おすすめの1曲です。
ビート製作の生配信と「Mira Touch」
Nick Mira はたまにライブ配信サイト「Twitch」にて、ビート作りのライブ配信をしています。このライブ配信では、事前にアーティストからもらったボーカルを使ってビートを作ったり、10分でビートを作るチャレンジをしたり、音楽好きの興味をそそる絶妙なコンテンツが多いです。
最近のライブ配信では、Trippie Redd と Lil Nas X が別々で Nick に送信したボーカルを、それぞれのキーが同じであったために一つの曲にするという凄技を見せていました。この配信は後々、YouTube にもアップされているので見逃しても視聴可能です。
また、この配信中に Nick 自身や視聴者のコメント欄で何度も見かけるフレーズがあります。それが「Mira Touch」です。「Mira Touch」とは、Nick がビートにあるメロディやドラムを足したときや、シンプルにハイレベルなビートを作っている状況を意味する言葉です。みなさんも、ぜひこの「Mira Touch」を生配信で見てみてください。(彼のインスタストーリーを見張っていればたまにやっています)
Nick MiraとJuice WRLD
ここまで Nick Mira のスタイルやスキルについて述べてきましたが、彼のキャリアは Juice WRLD なしでは語ることができません。Nick や Internet Money の仲間たちは、Juice WRLD がまだサウンドクラウドで200人ほどしかフォロワーがいない時に初めて彼にトラックを提供しました。
そのトラックを使用したのが『All Girls Are The Same』です。この楽曲ではピアノに近いサウンドのシンセサイザーを重ねて、可愛げがありつつも切なさが際立った Juice WRLD にピッタリなメロディを作り出しています。
そして同時期に Juice の代名詞とも言える曲がリリースされます。それが『Lucid Dreams』です。この曲は Nick が作り出しそうなメロディーを Sting の『Shape Of My Heart』をサンプリングすることで彼の世界観を表現した曲です。
この名曲をサンプルするアイデアは非常に Nick らしく、サンプル元の凄まじい哀愁を残しつつ、トラップビートとして進化させた「エモラップ」の頂点のようなビートと楽曲です。これはまさに「Mira Touch」が起こった瞬間です。
この二曲が収録されているアルバム『Goodbye & Good Riddance』では8曲で Nick がプロデュースに参加しています。
それ以降も2019年の Juice の死まで多くの曲をプロデュースしました。その中から最後に一曲、2019年にリリースされた『Empty』を紹介します。この曲は美しいピアノの旋律がオシャレで、弾けるようなクラップとハイハットが特徴的なビートです。
このビートに、助けを求めるような Juice のボーカルと、フックの 「I feel so god damn empty」というフレーズが相まって、その言葉通り心に穴が開いたような感覚になります。個人的には Nick Mira のビートの中でも Juice の曲の中でも、かなりエモーショナルな気持ちになる曲で、最も哀愁度が高い曲だと言えます。
このように Nick Mira と Juice の相性は抜群なのです。だからこそ、Juice WRLD がいなくなって、この二人のタッグを味わえないことは本当に残念で仕方がありません。ちなみに Juice の死後にリリースされた『Righteous』も Nick がプロデュースした名曲なのでぜひ聞いてみてください。
最後に
Nick は上記の曲以外にも今は亡き XXXTENTACION と Trippie Redd の名曲『Fuck Love』や Young Thug のアルバム『So Much Fun』のイントロ曲『Just How It Is』など様々な曲に参加しています。まだ19歳という若さにも関わらず、様々なラッパーたちと音楽を作る Nick Mira に今後も注目です。
ラッパーたちは脳をフル回転させ、自らのラップを武器に大金を稼ぎます。彼らの中にはラッパーとして成功するまでは、まともな食事を摂ることも出来ないほど貧しかった者も山ほどいます。アトランタの危険地帯である Zone 6 出身の Young Nudy は 『Judge Scott Convicted』 にてこのようにラップしています。
I done robbed a lot of n****s ‘cause I had to n***a
かなり攻めた鋭いラインを披露した Drake 。全世界のBinihana ファンを一斉に敵に回すと同時に、普段どんな食事をしているのかという疑問を浮かばせます。そして案の定 Benihana ファンたちはこのラインに反応し始めました。大御所ジュエラーの Ben Baller は自身のツイッターにてこのようにツイートしています。
I do not give a fuck what anyone thinks , I love Benihana and I’m gonna try to go tonight and order extra extra garlic butter on my fried rice in honor of drake. In fact extra garlic butter on everything period.
Shawn Brown a.k.a. The Rappin’ Duke – Rappin’ Duke
1984年、スタンドアップコメディアンの Shawn Brown が 『Rappin’ Duke』なる楽曲をリリース。「主に西部劇や戦争映画にてヒーロー役を演じていた俳優 John Wayne(別名 Duke)がラップをする」というコンセプトの元作られた同曲が、その後のカントリー・ラップの礎となります。
Remember Rappin’ Duke? Duh-ha, duh-ha
Rappin’ Duke が「Duh-ha, duh-ha」って歌ってたのを覚えてるか
You never thought that hip-hop would take it this far
当時はヒップホップがこんなに盛り上がるなんて思ってなかっただろ
The Notorious B.I.G. – Juicy
The Notorious B.I.G. も自身の楽曲にて『Rappin’ Duke』について言及しています。
そして、2018年から2019年にかけて爆発的にヒットしたカントリー・トラップ・アンセムが Lil Nas X の『Old Town Road』です。
Lil Nas X – Old Town Road (Remix) [feat. Billy Ray Cyrus]
Nine Inch Nails の『34 Ghosts IV』からサンプリングしたバンジョーの音色と、現行ヒップホップの王道トラップサウンドをミックスした同曲は、一時は Billboard のカントリー・チャートから除外されるものの、最終的にはカントリー・チャートに復活し、HOT 100にて首位を獲得しました。
「初めて(Old Town Road を)聴いたとき、明らかにカントリーだと思った」と語るカントリー界の大御所 Billy Ray Cyrus のリミックスへの参加もあり、同曲は17週連続1位という US Billboard 史上最長の記録を打ち出し、カントリー・トラップというジャンルを世界中に認知させました。
カントリー・トラップのネクストスターたち
Lil Nas X に続いて、カントリー・トラップを自身の楽曲に取り入れるラッパーも増えていきました。
Fly Rich Double – Big Boom
実はこの Fly Rich Double というラッパーは、Lil Nas X が『Old Town Road』をリリースする前からカントリー・トラップのスタイルを取り入れていました。様々なジャンルに挑戦したいと語る Lil Nas X とは異なり、Fly Rich Double はカントリー・トラップを軸に勝負していく意向を示しています。
オハイオのカントリー・グループ Rascal Flatts のグラミー受賞曲『Bless the Broken Road』のメロディラインを引用した同曲がバイラルヒットし、今週末にリリース予定のデビュー EP『DRUG DEALING IS A LOST ART』には Westside Gunn や Future、Lil Baby、Young Thug といった錚々たる顔ぶれを客演に迎えるニューカマー RMR。未だ謎多きカントリー・トラップの新星に要注目です。
昨今イギリス出身で注目度が高いアーティストにも見事に Brit School 出身者が多いんです。例えば FKA Twigs や Rex Orange County 、 Raye から King Krule、Octavian まで、ジャズや R&B、ポップやオルタナティブ、ヒップホップなどそのジャンルは多岐に渡ります。
JayDaYoungan (ジェイ・ダ・ヤンガン) は、ルイジアナ州の東端に位置する小さな街、ボガルサで生まれ育ちました。彼が尊敬する Kevin Gates や Lil Wayne の故郷であるニューオーリンズや Boosie Badazz の生まれたバトンルージュなどと比べると、面積的、人口的にもかなり小規模な街です。
夜空に打ち上げられた花火のようなユニークなヘアスタイルが特徴的な JayDaYoungan (以下、Jay) は、先ほど引用したインタビューで述べていた通り、同じくルイジアナ出身の Boosie Badazz や Kevin Gates などの音楽を聴いて育ちました。
Jay は高校時代、NBA のプロ選手になる夢を抱いていました。Rajon Rondo をロールモデルにバスケットボールに打ち込んでいた彼でしたが、目立った功績を残せずにいた彼に対し、彼の母親はバスケットボール以外のの道を真剣に考えるように説得していたそうです。
彼のラップスタイルは、ルイジアナ特有の独特な歌声やフロウを踏襲した不思議なものです。Boosie や Lil Wayne のような、ねっとりと耳に絡みつくような声や、NBA YoungBoy の楽曲にもよく見られる詰め込みフロウなどを楽曲の至る所に散りばめており、ミックステープを通して聴いても飽きのこないスタイルです。
DaBaby こと Jonathan Lyndale Kirk はオハイオ州クリーブランド生まれの27歳(91年生まれ)。5歳の頃ノースカロライナ州シャーロットに引っ越します。彼のエピソードとして有名なのが、ウォルマート(スーパーマーケット)での銃殺事件です。2018年、Kirk が二人の子供を連れて買い物をしていた時、銃を持った男が彼のジュエリーを奪おうとしてきたそうです。Kirk は二人の子供を守るためにその男を銃殺しました。この事件は後に正当防衛が認められ、起訴も取り下げられています。
DaBaby のキャリア
2015年に初のミックステープ『Nonfiction』をリリースして以降、立て続けにミックステープをリリースしていた彼は、2019年に Interscope Records からデビューアルバム『Baby on Baby』をリリースします。Offset や Rich Homie Quan、Rich the Kid、Stunna 4 Vegas らを客演に迎えた同アルバムは、Billboard 200 において初週25位をマークしました。年齢的にもキャリア的にも「フレッシュ」とは言い難い彼ですが、ラッパーとしての才能と注目度はフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。
DaBaby の代表曲
『Suge』
『21』
2. Gunna
Gunna とは
Gunna こと Sergio Giavanni Kitchens はジョージア州カレッジパーク出身の26歳(93年生まれ)。一部のファンからは、「Gunna ではなく本名をステージネームにした方が良い」と言われています。母親と4人の兄と共に生活していた彼は、ラッパーになる前は DJ やドラッグディーラーとして活動していました。
Gunna のキャリア
Cam’ron や Outkast を聴いて育ったという彼が音楽制作を始めたのは15歳の頃でした。キャリア初期は「Yung Gunna」として活動しており、2013年に初のミックステープ『Hard Body』をリリースします。その後、彼は共通の友人を通して Young Thug と繋がり、Young Thug のレーベル「Young Stoner Life Records(以下YSL)」と契約を結びます。この出会いがなければ今の Gunna はいないと言っても過言ではありません。そんな彼は、2016年から2018年にかけて YSL からミックステープ『Drip Season』シリーズを3作リリースします。2018年にリリースされた Lil Baby との共作『Drip Harder』も話題となりました。
そして2019年、デビューアルバムとなる『Drip or Drown 2』をリリースします(アルバム名は、Gunna が2017年にリリースした EP『Drip or Drown』から) 。Young Thug、Wheezy、Turbo 監修の同アルバムは、Billboard 200において初週3位をマークし、華々しいデビューを飾りました。
彼女の母親はラッパー「Holly-Wood」として活動していたこともあり、幼い頃からスタジオに同行していたという Megan は14歳でラップを始めました。その才能はラッパーであった母もすぐに認めるほどであり、彼女は Instagram にフリースタイルラップを投稿することによって瞬く間にファンベースを確立させていきました。2016年からミックステープをリリースし始めた彼女は着々と人気を集め、2019年リリースのミックステープ『Hot Girl Meg』は Billboard 200において、初週10位をマークしました。それ以降客演としての仕事も増やしてきた Megan は、次世代の Nicki Minaj や Cardi B と言っても過言ではないほど、実力間違いなしのフィメールラッパーです。
※ Megan Thee Stallion についての記事はこちらから↓
Megan Thee Stallion の代表曲
『Cash S**t(feat. DaBaby)』
『Big Ole Freak』
4. Blueface
Blueface とは
Blueface こと Johnathan Michael Porter は、カリフォルニア州ロサンゼルス出身の22歳(97年生まれ)。学生時代はアメリカンフットボールに打ち込み、2014年の「East Valley League championship」という大会でチームを優勝に導いた経歴を持ちます。
Blueface のキャリア
Blueface Bleedem としてキャリアをスタートさせた彼は、2017年に彼にとって初となるシングル『Dead Locs』をリリースします。そして、その後リリースした楽曲『Thotiana』が爆発的にヒットし、独特な声とオフビートなラップで人気を博した彼は、Cash Money West と契約を結びました。
Blueface の代表曲
『Thotiana』
『Bleed it』
5. Lil Mosey
Lil Mosey とは
Lil Mosey こと Lathan Moses Echols はワシントン州シアトル出身の17歳(02年生まれ)。2019年のフレッシュマン選出者の中では最年少のラッパーです。彼は高校に通っていましたが、音楽活動に専念するため退学したそうです。
Lil Mosey のキャリア
Meek Mill のデビューアルバム『Dreams and Nightmares』から多大な影響を受けたという Lil Mosey は、13歳から14歳の頃にラップを始めました。2016年にラッパーとしてのキャリアを本格的に始動させた彼は、2018年にデビューアルバム『Northsbest』をリリース。同アルバムに収録されている楽曲『Noticed』がバイラルヒットし、Billboard Hot 100にて80位まで登りつめました。
Roddy Ricch こと Rodrick Wayne Moore, Jr はカリフォルニア州コンプトン出身の20歳(98年生まれ)。アトランタで暮らしていた時期もあり、アトランタテイストのラップスタイルを得意とします。
Roddy Ricch のキャリア
Meek Mill や Future、Speaker Knockerz、Young Thug などから影響を受けたという彼は、8歳の頃にラップを始めました。デビューミックステープ『Feed tha Streets』で注目を集めた彼は、続くシングル『Die Young』のヒットにより一躍名を知らしめます。歌心のあるフロウや多彩なビートアプローチを得意とする彼は、フレッシュマン選出をきっかけにますます活躍すること間違いなしでしょう。
Roddy Ricch の代表曲
『Die Young』
Marshmello & Roddy Ricch『Project Dreams』
7. Tierra Whack
Tierra Whack とは
Tierra Whack こと Tierra Helena Whack はペンシルベニア州フィラデルフィア出身の23歳(95年生まれ)。幼い頃に父親と疎遠になった彼女と2人の妹は、母親の手によって育てられました。アートアカデミーに3年間通っていたという彼女は、音楽活動にはもちろん芸術活動にも力を入れており、芸術を学ぶために日本に訪れたこともあるそうです。楽曲や MV、Instagram などからも、彼女の芸術的センスの高さが伺えます。
Tierra Whack のキャリア
10代の頃から「Dizzle Dizz」という名のもと活動していた彼女は、2017年に自身の本名である「Tierra Whack」という名義で活動を始めました。同年彼女はInterscope Records と契約を結び、楽曲を次々とリリースします。そして2018年、彼女は15曲(各曲1分ずつ)収録のアルバム『Whack World』をリリース。各曲にショートムービーを付けたビデオアルバムもリリースし、15分で聴けるアルバムという新鮮さや、独特な世界観を持つムービーが大きな話題を呼びました。音楽面、芸術面共に才能溢れる彼女の今後に期待です。
50 Cent や Rick James、Chief Keef、Nipsey Hussle、Lil B などに影響を受けたという彼は、17歳の頃本格的に音楽活動を開始しました。SoundCloud や Youtube に楽曲をアップしてファンベースを獲得していった彼は、2017年に Alamo Records と契約を結びます。
そして2018年、彼の新曲『Bands』が突如として SoundCloud の再生回数ランキングのトップに浮上します。実はこれが、SoundCloud の楽曲差し替え機能を巧妙に利用したチート行為で、YBN Nahmir のヒット曲『Bounce Out With That』で100万再生を稼いだのち、Comethazine が自身の楽曲に差し替えたのでした。そんなずる賢さだけでなく、A$AP Rocky や Lil Yachty など、人気ラッパーとのコラボレーションも果たした彼の今後に注目です。
Comethazineの代表曲
『Bands』
Comethazine & A$AP Rocky『Walk (Remix)』
11. Rico Nasty
Rico Nasty とは
Rico Nasty こと Maria-Cecilia Simone Kelly はメリーランド出身の22歳(97年生まれ)。プエルトリコ人の母とアメリカンアフリカンの父を持つ彼女は、大麻所持によって当時通っていた学校を追い出されたのち、パプリックスクールに通いながら音楽制作を始めます。
Rico Nasty のキャリア
高校在学時にラップを始めた彼女は、初のミックステープ『Summer’s Eve』をリリースします。高校卒業後、彼女はより本格的に音楽制作に取り組み、『The Rico Story』、『Sugar Trap』と2作のミックステープをリリースします。その後も次々とシングルやミックステープをリリースし、5作目のミックステープ『Sugar Trap 2』は、アメリカの音楽誌「Rolling Stone」にて「2017年のベストラップアルバム」としてリストアップされました。そして2018年、彼女はAtlantic Records と契約を結びます。
そして、プロデュースする能力は、Kanye や GOOD Music に所属するプロデューサー達からかなりインスパイアされていることも間違い無いです。実際、Travis は Kanye 率いる GOOD Music との契約において、Kanye が指揮する最強プロデューサー集団「Very GOOD Beats」のメンバーとして迎え入れられているのです。
また、2012年に作られていたものの、様々な問題で 2013年にリリースされることとなった Travis の最初のフルレングス・アルバム『Owl Pharaoh』は Kanye West と Mike Dean が中心となってプロダクションを務めています。
その中でも『Bad Mood / Shit On You』における何重にも折り重なった転調は、彼のその後の音楽基盤に多大な影響を与えていることでしょう(ちなみにこの曲の中心製作者 Emile Haynie は Travis を含め、R&B や Alternative Rock などあらゆるジャンルを横断し、様々なアーティストに影響を与えた名プロデューサーであることも忘れてはいけません)。
『One Night』で一挙に注目を集めた彼は、同年にミックステープ『Lil Boat』をリリースします。『One Night』が収録されていることから、もちろんリリース前から期待値が高かったミックステープですが、見事その中からもヒットを生み出します。それは Young Thug や Quavo、Skippa da Flippa を招いた楽曲『Minnesota』です。
幼児向けの数え歌のような単調なメロディーのトラックに、トラックと同じメロディーでアプローチする類をみないスタイルは、聴く者全ての心を鷲掴みにしました。Young Thug や Quavo など、各方面からのゲストを一曲に詰め込むことで、更なるリスナーの獲得に成功しました。
また Yachty は、2016年に Chance The Rapper によってリリースされたミックステープ『Coloring Book』に収録されている楽曲『Mixtape』にも参加し、そこでも大きな爪痕を残しました。
Chance The Rapper や Young Thug と言った実力派ラッパーと肩を並べて、ほとんど無名だった Yachty はソリッドなラップをラストバースで披露します。他の二人に劣らないそのラップスキルは、Chance のリスナーたちの間でも話題となり、すぐさまその口コミは拡散されました。
いわゆるマンブルラップの元祖である Young Thug や、アトランタトラップの大御所である Quavo 、シカゴの Chance らとの共演を果たした Yachty ですが、その勢いは止まることを知らず、更なるジャンル間の跳躍を見せてくれました。
その一例として挙げられるのは、Charli XCX との楽曲『After the Afterparty』での活躍です。オートチューンをバリバリに効かせ、ポップ寄りのフロウで歌うことで、ポップミュージックとの意外な融合を実現しています。この楽曲への参加を通して、Yachty はメロディアスなスタイルでポップミュージックのリスナーたちからの認知度も上昇させました。
このように、ジャンルの壁を跳躍して様々なアーティストとの共演を果たすことで、ヒップホップコミュニティ以外からの認知度を上昇させ、その結果としてヒップホップシーンの盛り上がりにつながりました。ジャンル間の共演のハードルを下げた人物として、間違いなく Lil Yachty の名前が上位に上がってきます。
2枚目のスタジオアルバム『Lil Boat 2』に収録されている PnB Rock をフィーチャーした楽曲です。『Lil Boat 3』の先行シングルを二曲ともプロデュースした Earl on the Beat によるプロデュースで、蒸気機関車の煙が吹き出すようなサウンドのポジティブな良トラックです。
Ty Dolla $ign のように、ヒップホップと R&B を行き来するようなスタイルで有名な PnB Rock をフィーチャーすることで、Yachty ならではの陽気な雰囲気を、他の楽曲とは少し違ったアプローチの仕方で実現しています。
Dripped Out (feat. Playboi Carti)
まずは、Lil Yachty の三枚目のスタジオアルバム『Nuthin’ 2 Prove』に収録されている Playboi Carti を招いたこちらの楽曲です。こちらも Earl on the Beat による 8ビットゲームのサウンドエフェクトのようなピコピコトラックに、乳児が泣きじゃくるようなラップが印象的です。
昨今の流行である Playboi Carti の「ベイビーボイス」ラップをはじめとし、今や USヒップホップシーンのトレンドとなった高音で歌うラップスタイル。今回は、ヒップホップにおけるオートチューンの歴史や、今日の流行のきっかけを作ったラッパー Young Thug の影響に触れながら、その成り立ちや進化について考えていきます。
オートチューンの歴史
まずは、ヒップホップシーンにおけるオートチューンの歴史について簡単におさらいしようと思います。
オートチューン(Auto-Tune)とは、アメリカのアンタレス社が1997年に製品化した音程補正ソフトのことで、地球物理学者の Andy Hildebrand が地震データ解析用ソフトが音程補正にも応用できることを偶然発見し、開発に至ったそうです。