SahBabii – カルト的人気を誇るミステリアスなラップスター

今週末の7月3日に約2年ぶりとなる待望のニュープロジェクト『BarNacles』をリリースする SahBabii。一部のリスナーからはカルト的な人気を誇りながらも、SNS の更新は最低限であったり、他のアーティストの楽曲へのゲスト参加が極端に少なかったりと、いまだに謎に包まれているミステリアスな彼。今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力について予習しておきましょう。

SahBabii とは

SahBabii (サーベイビー) こと Saaheem Valdery は1997年2月24日にシカゴで生まれました。彼の出身はアトランタだと思っている方も多いかもしれませんが、実はイリノイ州シカゴ出身で13歳まではシカゴで暮らしていました。13歳の時に彼の実の兄であり、彼の楽曲に度々客演として参加している T3 というラッパーの音楽活動を本格的に行うためにアトランタに引っ越して以来、アトランタを拠点として活動しています。

SahBabii という名前の由来ですが、インタビューでは叔父に貰った名前だと明かしています。彼の叔父は TeeBaby というラッパーなのですが、そのラップネームの一部である「Baby」と、SahBabii の本名である 「Saaheem」 の一部を組み合わせて生まれた襲名型のラップネームです。最近は「Baby」をという語を自身のラップネームに盛り込むラッパーが多くなってきていますが、飽和しつつある Baby ブームと一線を画すことに成功しています。

キャリアの開始

アトランタに引っ越した直後、SahBabii の名義のもとで楽曲制作を開始しました。先に活動を始めていた兄である T3 の力を借りて『Pimpin Ain’t Eazy』と『Glocks & Thots』というミックステープを2年連続で制作、リリースしました。この頃の楽曲は、Young Thug の初期のミックステープを彷彿とさせるようなサウンドを多用しており、現在の彼のスタイルとはかけ離れたものとなっています。

その後3年間はシングルを不定期でリリースする以外に、目立ったアクションを起こしておらず、先述のミックステープを聴いていたファンたちからも忘れ去られようとしていた 2017年に突如として3作目のミックステープ 『S.A.N.D.A.S.』をリリースしました。

ちなみに空白の3年間についてですが、彼が使っていた楽曲制作ソフトの CuBase が起動できなくなっていたり、マイクなどの機材が壊れてしまったりと SahBabii は様々なトラブルに見舞われていたようです。インタビューでは、T3 の寝室で壊れたマイクを使用して『S.A.N.D.A.S.』をレコーディングしたことを明かしています。

Pull Up Wit Ah Stick の大ヒット

3作目のミックステープ 『S.A.N.D.A.S.』にも収録されており、先行してシングルでもリリースされていた 『Pull Up wit ah Stick』という楽曲なのですが、こちらの楽曲が彼のキャリアを大きく躍進させるキッカケとなりました。彼が自身のインスタグラムに投稿した同曲のスニペットが話題となり、その後すぐに SoundCloud にて100万再生を達成しました。

SahBabii を中心にモブを形成した彼の仲間のギャングたちが、様々な種類の銃器をカメラに向けながら踊っているミュージックビデオですが、こちらも最近の彼の楽曲のイメージからはかけ離れたものとなっており、意外にもギャングスタミュージックを感じられるものとなっています。

独特な世界観

Pull Up Wit Ah Stick で一斉を風靡した彼ですが、それ以降はガラッと路線を変更し、彼なりの世界観を全開に表現した楽曲やミュージックビデオを連発しています。日本のアニメにリファレンスを置いた楽曲や、ライムのために訳のわからないリリックを連続するマンブルな楽曲などをリリースし、独特の世界観を作り上げていることも、いつまで経っても彼がミステリアス生まである原因のひとつなのではないでしょうか。

お聴きいただいたのは4作目のミックステープ『Squidtastic』に収録され、その中でも特に異彩を放っていた『Anime World』という楽曲です。タイトルからお察しの通り、先ほど少し言及した日本のアニメにインスピレーションされた楽曲です。リリックには、忍者や車輪眼、スサノオノミコト、他にも様々な日本語が登場し、なおかつそれらで心地よく韻を踏んでいるのでとても面白いです。

ちなみに中盤で挿入される日本語のセリフは、SahBabii 自身がツイッター上で日本語話者を募集し、直接スタジオに招き入れてレコーディングされたものとなっています。

SahBabii は、ここ数年のヒップホップシーンにおいてかなりの知名度を獲得していますが、その知名度に反してほとんどシーンに姿を表しません。自らのプロジェクトにゲストを呼ぶこともかなり稀ですし、他のアーティストの楽曲に参加したことも、両手で数えられるほどしかありません。

そんな中、SahBabii が他のラッパーの楽曲に参加したレアなケースをご紹介します。フロリダのラッパー Ski Mask The Slump God の EP『BE AWARE THE BOOK OF ELI』に収録されている『COOLEST MONKEY IN THE JUNGLE』という楽曲で、タイトルを見て頂ければ分かる通り、H&Mの不祥事の直後にそれを揶揄する様にリリースされた楽曲です。

 Murda Beatz によってプロデュースされた楽曲で、ジャングルの奥地で聞こえてきそうな奇妙なサウンドの上で、Ski Mask と SahBabii が独特なフロウでラップしています。

続いても SahBabii が客演に招かれているレアケースです。イギリス・ウエストロンドンの AJ Tracey と カナダ・トロントの SAFE、そしてアメリカ・アトランタの SahBabii が三国から一同に集結した、「最もコラボが予想されていなかった一曲」です。

MV に関しても、ハリーポッターシリーズに登場するホグワーツ魔法学校のような古城を舞台に広げられ、SahBabii の世界観ともマッチした荒めのCGアニメも挿入されています。

ニューアルバム 『BarNacles』

SahBabii は、ニューアルバム『BarNacles』の存在を2019年の夏にインスタグラムストーリーズにて明かしました。しかし、待てど暮らせど一向に彼がアルバムをリリースする動きはなく、月日だけが過ぎていきました。あれから一年が過ぎようとしていた2020年の5月、彼は突如『Double Dick』と題されたニューシングルと、同曲のミュージックビデオを公開しました。

SahBabii と度重なる共演を重ねているプロデューサー Teezr による浮遊感のあるトラックの上で、彼らしい軽快なフロウと、耳を疑ってしまうほど内容のないラップを披露してくれています。内容のないラップをいかにスタイリッシュにラップしてみせるかが、彼の腕の見せ所とも言えますが、文字に起こすとその薄さが浮き彫りになります。

Hippo booty bouncin’ (Bouncin’)
カバみたいなお尻が跳ね回る。

Rhino booty bouncin’ (Bouncin’)
サイみたいなお尻が跳ね回る。

Elephant booty bouncin’
ゾウみたいなお尻が跳ね回る。

That ass outta control, I think it need some counselin’
お尻たちは制御不能だ。カウンセリングをして落ち着かせなきゃ。

そして、シングルのリリースから一ヶ月が経過した 2020年の6月、彼は突如アルバムのカバーアートとリリース日をSNS上に投稿しました。タイトルは予告されていた通り『BarNacles』で、前回に引き続き海をモチーフにしたアートワークとなっています。ちなみに『BarNacles』とは「フジツボ」という意味で、港なんかに行くとテトラポットにへばりついてる「アレ」です。画像を掲載することも考えましたが、集合体恐怖症の方々への配慮として、言葉での掲載に留めておきます。(アルバムカバーの SahBabii の顔の横、左足の奥にフジツボが確認できます。)

リリースの約一週間前には、トラックリストも公開されましたが、相変わらず客演は実兄の T3 のみ。ここまでくると、意図的に有名なラッパーとの共演を避けているとしか思えません。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は今週末にニュープロジェクト『BarNacles』をリリースする SahBabii についてまとめてみました。ミステリアスな彼が生み出すニューサウンドから目が離せません。