Asaad – フィラデルフィアのファッションアイコン・ラッパー

ニュープロジェクト『Are We…』のリリースや、Working on Dying のアルバムへの参加など、ここ数ヶ月で注目を集めるラッパー Asaad。今回は、ラッパー以外にもファッションアイコンやブランドデザイナーなど、様々な顔を持つとして知られる彼についてご紹介します。

Asaad はフィラデルフィア出身のラッパー です。Saudi Money というニックネームでも呼ばれる彼は、2011年頃から11枚ものプロジェクトをリリースしており、既に10年にも及ぶキャリアを有しています。

Asaad (Saudi Money)

多彩なフロウや、ヒップホップやファッションカルチャーからの引用を用いたワードプレイなどを得意とし、キャリア開始当初から着々とコアなファンベースを獲得してきました。

最新プロジェクト『Are We…』は、フィラデルフィアのプロデューサーコレクティブ Working on Dying の F1lthy によってプロデュースされたことでも話題となりました。F1lthy は Playboi Carti の『Whole Lotta Red』においてパンク系ビートを担当した張本人です。

ポップ・シューレアリズム分野で活躍するアーティスト Anthony Ausgang による『Are We…』のカバーアート

TwoSeven と呼ばれる自身のアパレルブランドを展開し、ファッションへの関心も大きい Asaad ですが、今作ではファッションブランドのネームドロップを用いたワードプレイやフレックスなど、彼ならではと言えるリリックも散見されます。ここでは、彼のニュープロジェクト『Are We…』より、おすすめの楽曲をリリックとともにご紹介します。

Now & Then

ここ数年の Lil Uzi Vert や Future らの一部の楽曲を彷彿とさせるハイパーポップ寄りのサウンドに、ボコボコと連打される激しい 808 が特徴的な楽曲です。ミュージックビデオには、Seventh Heaven を創設した John Ross や、YSL Records に加入したばかりのラッパー Yung Kayo、他にもBloody Dior などが登場し、とても賑やかです。

 Back to the basics rocking 990s
    初心にかえってニューバランス 990 を履くぜ

Keep it 1000 not 990
でも俺は全力を出し切る 中途半端じゃ駄目だ

Asaad – Now & Then

ニューバランスの人気モデルである 990 を登場させたワードプレイです。洗練されたデザインで古くから愛されているニューバランスの 990 を履くことで初心にかえりながらも、990% ではなく1000% の力(全力)を出し切りたいという思いを巧みに表現しています。

New Balance 990

 Saudi sweats cost a stack that’s luxury tax
    サウディスウェットは $1000、これは贅沢税だ

Asaad – Now & Then

Asaad が創設したアパレルブランド TwoSeven の目玉商品である Saudi Sweat を登場させた謎のフレックス。Lil Uzi Vert や Virgil Abloh をはじめとする、ファッションアイコンによる着用が話題を呼んでいましたが、当スウェットパンツは実際に1000ドルで販売され、購入を検討していたファンからは賛否両論が飛び交いました。

TwoSeven Saudi Sweatpants

5 Am Freestyle

スカスカでテンポの遅いドラムスに、不気味で不安を煽るような重いサウンドが特徴的なビートにのせて、数々のブランド名を引用し延々とフレックスを続ける楽曲です。

 Mix Kiko Kostadinov, Watanabe with Gosha
    キコとワタナベ、ゴーシャを混ぜて着る

Asaad – 5 Am Freestyle

Kiko Kostadinov はロンドンを拠点とするファッションブランド、Watanabe は渡辺淳弥によるブランド JUNYA WATANABE、Gosha はロシアのブランド Gosha Rubchinskiy です。ラップシーンにおいてのブランドのネームドロップは、Gucci や Prada、Louis Vuitton などが一般的ですが、ありがちなものを選ばないところに Asaad らしさが感じられて面白いです。

Kites

「Louis Vuitton のジェンガ」という独特なフレックスフレーズから幕開けする『Kites』は、縦横無尽に音階を行き来するピアノのメロディーが心地よい楽曲になっています。ほとんどの楽曲が F1lthy によってプロデュースされた当アルバムですが、こちらの一曲だけ ISOBeats によるプロデュースとなっています。

 I make stylists look stylist
    俺はスタイリストを更にお洒落にできる

and my bitch make bitches get jealous
そして俺の女は他の女を嫉妬させる

Asaad – Kites

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はフィラデルフィアの変わり種ラッパー Asaad についてご紹介しました。Working on Dying らとの繋がりも確認でき、Lil Uzi Vert らを筆頭とするフィラデルフィアのラップシーンを更に盛り上げてくれることを期待します。

JAE5 – 美しいビートを生み出す天才プロデューサー

レゲエやダンスホールミュージック、そしてアメリカを中心に発展したヒップホップや R&B などが、 ナイジェリアやガーナといった西アフリカ独自の文化と融合して生まれた音楽ジャンルに「アフロビーツ」というものがあります。

当ジャンルの定義や名称については現在も流動的に変動を続けており、「アフロ・スウィング」や「アフロ・バッシュメント」と呼ばれるものなど、派生ジャンルも多数誕生しています。

今回は、そんな「アフロビーツ」または「アフロ・スウィング」ジャンルにおいて近年注目を集めるプロデューサー JAE5 についてご紹介します。生い立ちや、彼が幼少期に受けた音楽的影響、J Hus とのパートナーシップなど彼に関する重要な要素を追いながら、JAE5 の魅力に迫ります。

生い立ち

JAE5 (ジェイファイブ) こと Jonathan Mensah は、イーストロンドンのプレイストーにて誕生しました。5人兄弟 (5人とも男性) の次男として生まれた JAE5 は、0歳から10歳までをイーストロンドンにて過ごしました。

兄が音楽に興味を持っており、彼が買ってきた CD やラジオ音源をテープに焼いたものを借りて聴いているうちに、JAE5 自身も音楽への興味を持ち始めます。兄が所有していた CD のなかでお気に入りだったのは Timbaland のものだったと語ります。

10歳になった頃、彼は家族と共にガーナに移住します。その後、彼自身は三年間をガーナで過ごすことになるのですが、彼の現在のサウンドスタイルの基盤を形作ったのは、間違いなくガーナでの三年間であると言えるでしょう。

ガーナでの生活は、彼曰く「本当にやることがなく暇だった」らしく、FL Studio がインストールされたパソコンを触るか、道端でサッカーをするかの二択だったといいます。放課後の暇つぶしに前者を選んだ JAE5 は、普段聴いている音楽がどのように作られているのかに興味を持ち始め、自らの手でも音楽を作ることも視野に入れ始めました。

また、母親はレゲエの Lucky Dude のファン、兄は 50 Cent をはじめとするアメリカのヒップホップに熱中、母の兄は Celine Dion の大ファンだったらしく、家庭内も様々なジャンルの音楽で溢れかえっていました。ガーナの市街地では、バケツや木片をドラムに見立てて美しい音色を奏でる少年を目撃し、日々音楽的な面で影響を受け続けていたといいます。

キャリアの開始

ガーナで二年間を過ごした頃、レゲエミュージシャンである Shaggy のコンサートに参加した JAE5 は、スタジアムに鳴り響く彼の音楽に感銘を受け、自らも音楽の道へ進むことを決意します。

イーストロンドンにもどった JAE5 は、ラッパーである叔父に自作のビートを送りました。彼の叔父は、協力的な姿勢で彼のキャリアをサポートしてくれたそうで、レコーディングスタジオの見学などにも連れて行ってくれたそうです。

JAE5 が見学に訪れたスタジオでは、ダブステップやグライム、レゲエなど様々なジャンルの音楽を制作するアーティストたちが居り、ここでもガーナの時と同じように様々な音楽的影響を受けたといいます。

大学を中退した JAE5 はスタジオに入り浸るようになり、楽曲の制作に熱中していました。そしてその頃、彼をサポートし続けた叔父であるラッパーの Blemish、Randy Valentine と JAE5 の3人で JOAT というクルーを結成します。(初期〜中期の楽曲では JOAT のプロデューサータグが確認できます。)

J Hus との出会い

現在では、JAE5 の1番のパートナーであるラッパーの J Hus。JAE5 は J Hus の DJ を通じて知り合いました。共にスタジオ入りした瞬間から2人は意気投合し、そのままパートナーシップを結んだといいます。

J Hus の一作目『The 15th Day』では、JOAT Music Group 名義でほとんどの楽曲を、2作目の『Common Sense』ではエグゼクティブ・プロデユーサーを務め、3作目の『Big Conspiracy』では14曲中9曲を手掛けています。ここでは数ある JAE5 と J Hus の名曲の一部をご紹介します。

Did You See

JAE5 によるプロデュースの J Hus の楽曲の中で、最もヒットしたこちらの楽曲。J Hus によるデビューアルバム『Common Sense』に収録されています。スマートフォンのデフォルト着信音のような音色のメロディーをベースに、きめ細かいハイハットなどがスパイスとなる爽やかな雰囲気のビートが特徴的ですが、J Hus のラップはビートとは対照的にかなり過激なものとなっています。

Clean It Up

2016年にリリースされた J Hus の EP『Playing Sports』に収録されたこちらの楽曲。JAE5 がスタジオにて他のダブステップアーティストから受けた影響を垣間見れるような、激しい曲調となっています。SF アニメの効果音のようなサウンドが散りばめられており、現在の彼らの楽曲ではあまりみられないようなスタイルです。

Triumph

J Hus による待望のセカンドアルバム『Big Conspiracy』に収録されたこちらの楽曲。終始落ち着いたムードで進行していきますが、その中には繊細で細かいサウンドが散見され、聴くたびに前回聞こえなかった音が発見できるようなビートです。シンプルで洗練されているからこそ、決して飽きがこない一曲となっています。

Reapeat (feat. Koffee)

『Triumph』と同じく、セカンドアルバムに収録されたこちらの楽曲は、ジャマイカのレゲエアーティストである Koffee をフィーチャーしています。JAE5 によるレゲエ調のビートが、Koffee のジャマイカンスラングとマッチしており、Koffee による迷曲『TOAST』に似た幸福感をもたらしてくれます。Koffee のバースの途中から始まる、鉄琴のような音色が程よいアクセントになっており、JAE5 らしさが感じられます。

JAE5 プロデュースの楽曲

J Hus とのゴールデンタッグで有名な JAE5 ですが、他にも数々のアーティストの楽曲をプロデュースしています。今回はその中からいくつかおすすめをご紹介します。

JAE5 – Dimension (feat. Skepta & Rema)

JAE5 名義にてロンドンのグライム MC である Skepta と、ナイジェリアのラッパー / シンガーである Rema をフィーチャーした楽曲です。厳荘なメロディとカチャカチャとしたドラムスが特徴的なビートに、Skepta と Rema がうまくマッチしています。アフロビーツからベイビーボイスを用いたトラップに至るまで様々なジャンルに挑戦する Rema ですが、今回の楽曲では Skepta にラップを任せ、メロディアスなフックを担当しています。

Geko – 6:30 (feat. NSG)

UK のラッパ Geko が、イーストロンドン出身の6人のラッパーからなるアフロバッシュメントグループである NSG をゲストに招いたこちらの楽曲。装飾音が効いた木琴の音色を中心に展開される JAE5 のビートに、Geko のハスキーな歌声と NSG メンバーのグルーヴィーなラップが楽しい一曲です。

Dave – Location (feat. Burna Boy)

UK のラッパー Dave による傑作『PSYCHODRAMA』に収録された Burna Boy との名曲です。滑らかなピアノの旋律や、バックに響くサックスの音色が美しいビートは、彼の生み出す音楽がどのようなものなのかをいち早く理解するために最適かもしれません。、

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は、アフロビーツやアフロスウィング界で最も輝くプロデューサー JAE5 についてご紹介しました。今夏にリリースが予定されていると噂の J Hus の新作では、どのような美しい音楽を私たちに届けてくれるのでしょうか。期待が高まるばかりです。

Written by whoiskosuke

6 Dogs – アンダーグラウンドのレジェンド

本日、2021年の3月12日に遺作であるニューアルバム『Ronald』のリリースを果たした、ジョージア州のラッパー 6 Dogs。新型コロナウイルスへの感染が発覚後、闘病を続ける中で重度のうつ状態に陥り、今年の1月26日に自ら命を絶ってしまいました。今回はそんな彼によるニューアルバムのリリースを祝福するとともに、彼のキャリアを振り返ります。

生い立ちとキャリアの開始

6 Dogs(シックス・ドッグズ)こと Chase Amick は、ジョージア州の郊外にて1999年の5月5日に誕生しました。熱心なクリスチャンである両親の間に生まれた彼は、両親の意向で9歳になるまでホームスクーリング(一般的な学校に通うことなく、家庭内で学習を行うこと)を受けて育ちました。

ホームスクーリングを終えた後はキリスト教系のプライベートスクールに通いはじめましたが、そこでは人種差別やいじめを経験したそうです。幼かった 6 Dogs は、自分の身に降りかかってくる心ない言葉の数々が人種差別的なものであることに気づいていませんでしたが、歳を重ねるごとに心を閉ざすようになっていったと語ります。

完全に自らの殻に閉じこもってしまった 6 Dogs ですが、のちに行われた Masked Gorilla によるインタビューでは「当時の憂鬱は、自己表現のきっかけになった」と話しており、落ち込んでいた時期がなければラップを始めることもなかったといいます。

I just needed an outlet.

俺にはただ(憂鬱の)捌け口が必要だった

I’ve always wanted to rap.

俺はずっとラップがしたかったんだ。

I remember just sitting in the lifeguard stand, the entire summer, 8 hours a day or longer and just sitting down and I was like ‘this sucks, I want to do something with my life.

夏の間ずっと監視塔に座っていた頃のことを覚えているよ。1日に8時間かそれ以上そこに座り続けて「こんな人生はくそだ。生きている間に何かしたい」なんて考えていたんだ。

Masked Gorilla

人間関係から生じた憂鬱や劣等感と闘う日々の中で、彼は「ラップ」という彼なりの自己救出の手段を見つけ出し、それに熱中するようになりました。それこそが、彼のラッパーとしてのキャリアの開始地点だったのです。

『Flossing』のヒット

ラップを通して暗闇の中で一筋の光を見出した 6 Dogs は『Demons In The A』と名付けられた楽曲を制作し、SoundColud にアップロードします。初めて世に送り出された彼の楽曲に寄せられたコメントはたった6件だったそうですが、彼にとってそれらのコメントは「憂鬱の捌け口を通して、他人との繋がりを感じることのできた初めての経験」だったそうで、さらなる楽曲の制作を決意したといいます。

6 Dogs の代表作として、彼のキャリアで最も注目されたといっても過言ではない『Flossing』が挙げられます。そしてこれが、彼が『Demons In The A』の次に制作した2作目の楽曲です。

憂鬱との戦いの中でドラッグに手を染めてしまったことを自身の母親に懺悔する内容のこちらの楽曲は、SoundCloud のエモラップファンを中心に大きな話題となり、大ヒットを記録しました。エモラップなどを中心に扱う YouTube のキュレーションチャンネル「デーモン Astari」からアップされた当楽曲のミュージックビデオに関しても700万回再生を突破しています。

プロジェクトのリリース

セルフタイトル・ミックステープ

『Flossing』でアンダーグラウンド・エモラップ界隈からの絶大な人気を獲得した 6 Dogs は、2017年の7月3日にセルフタイトル・ミックステープをリリースしました。15曲入りの当ミックステープには、Danny Wolf や Digital Nas などの人気プロデューサーの参加も見られます。

その中でもミックステープの3曲目に収録されている『Faygo Dreams』は、彼のキャリアの中で最もヒットした楽曲の内の一つと言っても過言ではありません。

6 Wolves (with Danny Wolf)

前作に収録された『Spaceship』などで共演済であるプロデューサー Danny Wolf とのコラボテープです。6曲構成でプロデュースは全て Danny Wolf、Yung Bans のゲスト参加も見られます。ちなみに Danny Wolf は、Hoodrich Pablo Juan の専属プロデューサーで、彼とは『Hoodwolf』シリーズと呼ばれるコラボテープ群をリリースしています。

Hi-Hats & Heartaches

2019年の10月24日に 6 Dogs は三枚目となるフルレングスプロジェクト『Hi-Hats & Heartaches』をリリースしました。

ヒット曲『Faygo Dreams』を手掛けたプロデューサー Pretty Pacc によるエグゼクティヴ・プロデュースによって制作された当アルバムは、ノーフィーチャー(客演なし)となっています。アルバムタイトル『Hi-Hats & Heartaches』は、Kanye West による『808s & Heartbreak』を文字った物となっています。

突然の死と遺作のリリース

6 Dogs は2021年の1月26日に、21歳という若さで自殺によってこの世を去りました。新型コロナウイルスに感染後、一時は病状が安定しましたが、闘病の中でうつ状態に陥り自殺を行ってしまったと報道されています。彼の突然の死に対し、ファンたちはもちろんのこと、同じく SoundCloud で活躍したラッパーたちをはじめとするアーティストたちからも別れのメッセージが発表されました。

そして、彼の突然の死から約2ヶ月が経過した 2021年の3月12日に、彼の遺作である4枚目のフルレングス・プロジェクト『Ronald』がリリースされました。当プロジェクトには、彼が新型コロナウイルスに感染する直前に制作していた楽曲も含まれているようです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は本日ニュープロジェクトをリリースしたばかりの 6 Dogs の生涯について振り返ってきました。未聴の方は是非彼のニューアルバムを、また彼のことを初めて知った方は、これまでの楽曲も振り返ってみてはいかがでしょうか。

Written by whoiskosuke

Pooh Shiesty – メンフィス発の要注意人物

先週末に初のフルレングスプロジェクトであるデビューミックステープをリリースしたテネシー州メンフィスのラッパーPooh Shiesty。今回はそんな彼の魅力に、生い立ちやリリックなどを考察しながら迫ります。

生い立ちと楽曲のスタイル

Pooh Shiesty

Pooh Shiesty (プー・シャイスティ)こと Lontrell Williams は、1999年の11月8日にテネシー州のメンフィスにて産声を上げました。彼の父親も、彼と同じくメンフィスを拠点とするラッパーで、Mob Boss というステージネームの下、Mob Ties Records というレコードレーベルの運営も行なっていました。

Pooh Shiesty (以下、Pooh)の楽曲の特徴として、ギャングアクティビティの中心に自らの身を置き、身の回りに起こる出来事をリアルに描写するスタイルがあります。

彼の楽曲内には、ギャング同士の抗争や銃に関する事柄、敵対する組織や個人に対する挑発的な表現などが多く見られます。また、インターネット上で自らの行動を誇張して発信する見せかけのギャング(いわゆるインターネット・ギャングスタ)に対する辛口のメッセージなども多く見られ、あくまでもストリートのリアルな側面だけを書き連ねるリリックに定評があります。

ラップのスタイルとしては、Gucci Mane を彷彿とさせる(実際に Gucci Mane に才能を買われ、1017 Records との契約を果たしています。)隣り合う単語が絡み合うようにズルズルと続く、隙間のないデリバリーを得意とします。また、 Pooh の故郷であるメンフィス特有のアクセントも存分に感じられます。

Pooh Shiesty と Gucci Mane

また『Blrrrd』と綴られる巻き舌を駆使した銃声のオノマトペを楽曲の至る所にアドリブとして挿入することも彼の特徴であり、ついつい真似したくなる心地よさを生み出しています。

キャリアの開始

Pooh は18歳になるまで、ラップの経験がありませんでした。あるきっかけでメンフィスの女性ラッパー K Carbon による Three 6 Mafia の『Weak Azz Bitch』のリミックスに参加したところ、YouTube にて楽曲が100万回再生を達成し、メンフィスを中心にその名が広まりました。

続いてメンフィスを中心に得たファンベースを利用し、最新ミックステープにも参加している親友の BIG30 らとともに数曲のシングルをリリースします。数ヶ月の音楽活動を継続するうちに、ローカルでのバズが頻繁に起こるようになり、彼の名前が Gucci Mane のもとにまで広まります。

Pooh の才能に将来性を見出した Gucci Mane は、すぐさま自身のレコードレーベルである 1017 Records との契約を提案し、Pooh は晴れてメジャーレーベルとの契約を果たしました。

2020年には、Gucci Mane によるコンピレーションアルバム『So Icy Summer』にて 7曲もの楽曲に参加し、Moneybagg Yo や Lil Baby などのビッグネームらとの共演を果たしています。

『Back in Blood』のヒット

Gucci Mane のコンピレーションアルバムでの大活躍で知名度を一気に獲得した Pooh は、2020年の11月にイリノイ州シカゴのラッパー Lil Durk をゲストに招いたシングル『Back in Blood』をリリースします。ちなみに、こちらの楽曲はのちにご紹介する彼のデビューミックステープ『Shiesty Season』からの先行シングルとしてリリースされました。

Pooh Shiesty と Lil Durk

Pooh はラップを始める以前から、シカゴのドリルミュージックを好んで聴いていたらしく、『Back in Blood』に Lil Durk をゲストとして招いた理由も、少年期から親しんできたシカゴのアーティストとリンクアップしたかったからと Genius のインタビューにて語っています。

タイトルとなっている「Back in Blood」とは「敵の命を奪う」ことを意味しており、インターネット上での見せかけのギャング気取りに対する警告をラップした楽曲です。

Bitch, I got my own fire, don’t need security in the club 
俺は自分で武器を携帯しているから、クラブでセキュリティーをつける必要がない

All that woofin’ on the net, nigga, I thought you was a thug
ネット上で騒いでる奴ら 俺はお前らのことをサグだと思っていたよ

They ain’t got nowhere to go, I shot up everywhere they was 
奴らに逃げ場はない 奴らが居たら俺はどこでも発砲するからな

Yeah, you know who took that shit from you, come get it back in blood
誰がお前らの命を奪い去るかわかってるよな 俺がお前らの命を奪ってやる

かなり強気かつ過激な内容の楽曲ですが、以前から注目が集まっていた Pooh の新曲であること、また Lil Durk がゲスト参加していることから、Apple Music の US チャートでは最高一位を記録し、YouTube でも4000万回近い再生回数を獲得しています。

『Shiesty Season』のリリース

Lil Durk との楽曲『Back in Blood』で世界的な知名度を獲得した Pooh は、万全を期して初のフルレングスプロジェクトであるデビューミックステープ『Shiesty Season』をリリースします。Pooh Shiesty の時代が到来したと言わんばかりのストレートなタイトルで、謙遜するそぶりを微塵にも感じさせない清々しい作品となっています。

Waheed Zai による『Shiesty Season』のカバーアート

当ミックステープには先行で話題となった Lil Durk に加え、21 Savage と Gucci Mane がゲスト参加しており、他にも Pooh の友人でありアップカミングなラッパーである BIG30 や Veeze、Lil Hank、Choppa Wop、Foogiano が参加しています。今回はその中でも、特にインパクトの強かった楽曲を何曲かご紹介いたします。

Shiesty Season Intro

タイトル通り、ミックステープの一曲目に収録されたイントロです。満を辞してのデビューミックステープのイントロで半端なラップをするはずもなく、短いながらもかなりのインパクトを私たちにぶつけてきます。リリックも半端なものではなく、単刀直入にヘイターへの敵意を剥き出しにしたり、十分な気合を宣言しています。

Tryna pay to get me killed, why you won’t come do it?
殺し屋を雇って俺を殺そうとしているみたいだけど、なぜ直接俺をやりにこないんだよ

Get sent out, watch how I send you back to ’em
お前らが直接こないなら、どうなるか覚悟はできてるよな

 Box of Churches (feat. 21 Savage) 

続いてご紹介するのは、21 Savage がゲスト参加した『Box of Churches』という楽曲。おなじみのブルブルアドリブから幕開けするこちらの楽曲では、神聖で厳荘なメロディーの上で火花のようにハイハットが鳴り響きます。こちらの楽曲でもやはり敵対する者への挑発を忘れることはありませんが、自らがフッドにもたらした変化などについても言及しています。

who want smoke? Tell him meet face-to-face
誰が俺と喧嘩したいって? そいつに面と向かってやりあおうと言っといてくれ

Remember back in ‘leventh grade, I dirtied up my only K
グレード 11(※1) の時、俺は AK-47 を汚していた (※2)

Get my round applause, in a couple months I done made a way
周りの称賛を得て、たった2ヶ月でここまできた

I’m why niggas dropped the Rollies and went to the Cartiers
俺こそがみんながロレックスよりカルティエを選ぶ理由さ (※3)

(※1) 11年生、16歳〜17歳で日本の高校二年生にあたる
(※2) 武器を使用して他人を殺めること、または盗難した銃を所持すること
(※3) Pooh はロレックスよりカルティエを好んでおり、彼に憧れるフッドの仲間達が彼の真似をしていることに言及している。

アトランタよりゲスト参加した 21 Savage に関しても、「ラッパーのチェーンを盗んで、eBay で売り捌く」「銃撃戦以外のことについてラップしたくない」などとラップしており、気合の入った Pooh に負けない迫力を見せています。

Take A Life (feat. Foogiano)

Pooh と同じく Gucci Mane によるレコードレーベル 1017 Records と契約しているラッパー Foogiano が参加しているこちらの楽曲は、Pooh の冷徹な側面が全面に押し出された楽曲です。頼りないフルートの音色に反して、過激すぎる内容を淡々とラップしたこちらの楽曲は、ミックステープの中でも異彩を放っています。

I don’t think you niggas know what it feel like to take a life
お前らは人の命を奪った時の感覚を知らねぇだろうな

Made a promise I wouldn’t sin no more, but then again, I might
もうそんな罪は起こさないって約束したけど、多分またやってしまう

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はテネシー州メンフィスのラッパー Pooh Shiesty についてご紹介してきました。かなりの知名度を獲得したとはいえ、彼のキャリアはまだまだスタートしたばかりですので、これからの彼の動向には要注目です。

Written by whoiskouske

Popp Hunna – ノースフィリー発 TikTok からの刺客

昨年の10月にリリースした楽曲『Adderall (Corvette, Corvette)』が TikTok において爆発的なバイラルヒットを記録し、わずか数ヶ月の間に誰もが知る人気者となった Popp Hunna。昨年のクリスマスに待望の EP 『Mud Baby』をリリースし、Lil Uzi Vert や Toosii らとのコラボレーションも話題となりました。今回はペンシルバニア州フィラデルフィアからの新鋭ラッパー Popp Hunna についてご紹介します。

生い立ちとキャリアの開始

Popp Hunna こと Omir Bernard は 2000年の10月21日にペンシルバニア州のノースフィラデルフィアにて産声を上げました。Popp 自身は自らの幼少期のことをほとんど語っておらず、その真相は明らかにされていませんが、生まれた時からストリートでのギャングアクティビティーを目の当たりにしてきたと言います。

Popp Hunna

2019年後半から楽曲制作を開始した Popp は、2020年の1月に12曲入りのミックステープ『One Year Later』をリリースします。CashMoneyAP や YoungNewYork をプロダクションに引き連れ、ノーフィーチャー(客演なし)でリリースされたこちらのミックステープは、初期の Lil Tjay のスタイルを彷彿とさせる耳障りの良いフロウを中心に構成されています。

その中でも、『I’m Single』でみせたキャッチーで可愛らしい歌声が若い世代の心を掴み、TikTok にてバイラルヒットを引き起こします。

TikTok を利用したマーケティングが効果的であると気づいた Popp は、自らの TikTok でも楽曲のプロモーションを兼ねたダンス動画を投稿するようになりました。

『Adderall (Corvette, Corvette)』のヒットとリミックス

2020年の前半に『I’m Single』のヒットを経験した Popp でしたが、後半にはもう一曲のバイラルヒットを生み出します。それが、皆さんもご存知の『Adderall (Corvette, Corvette)』です。こちらもやはり TikTok を中心にダンス動画とセットでヒットを起こし、現在 YouTube では約1500万回再生、TikTok では当楽曲を使用したダンス動画が2500万本以上も投稿されています。

TikTok のアプリを開けば聴かない日はないほど、爆発的な人気を博したこちらの楽曲ですが、その人気にさらに火をつける出来事が起こります。それは Lil Uzi Vert を招いたリミックスバージョンのリリースです。

StaySolidRocky の『Party Girl』などをはじめとし、 Lil Uzi Vert がアップカミングなラッパーのヒット曲に対してリミックスとして後から参加するパターンが目立っていましたが、今回も同じ手法でフックアップを行っています。

EP『Mud Baby』のリリース

Lil Uzi Vert が参加した『Adderall (Corvette, Corvette)』のリミックスバーションで話題となった Popp は、一週間後に EP 『Mud Baby』をリリースします。Toosii や Petty Levels に加え、Lil Uzi Vert が二曲に参加しています。

ハスキーで甘い歌声が特徴的な Toosii と Popp の優しい歌声の愛称はファン達の心を掴み、Petty Levels とのアップテンポな楽曲『Street Love』は、TikTok でのダンスブームをさらに加速させました。

スニッチ騒動

EP『Mud Baby』をリリースした3日後、Popp は約6年前に自身が関与した銃撃事件に関して警察に密告、いわゆるスニッチを行なっていた事実がリークされ、非難を受ける騒動が発生しました。

この騒動を知った Lil Uzi Vert は、3日前にリリースされた EP に収録されている『Adderall (Corvette, Corvette)』と『Take Off』においての自分のバースを取り除くように要求する事態へとつながりました。

Popp はインスタグラムストーリーズにて「俺はもうラップをやめるかもしれない。あの事件のせいで俺の評判はガタ落ちだ。」と書き込んでおり、早すぎる引退が心配される声も上がりました。

しかし、Popp が事件に関与したのは 14歳の頃であり、警察に事件の経緯を報告することは自然な流れであると考える人々も少なくはありませんでした。

その後の彼の心情の変化などはいまだに明らかとなっていませんが、インスタグラムなどの更新は継続しており、すぐに引退してしまう心配はないように思えます。

おわりに

今回はTikTok を通して一躍ブレイクを果たした、ノースフィラデルフィアからの新鋭ラッパー Popp Hunna に関してご紹介してきました。短期間での楽曲の大ヒットや騒動を経験した彼は、これからどのように活動していくのでしょうか。今後の彼の動向に要注目です。

Came From Nothing – ゼロから成り上がるラッパーたち

世の中には数々の流行語が存在しています。それはヒップホップシーンも例外ではなく、むしろそこでの流行語が移り変わる速度は一般社会よりも早いのかもしれません。直近では「マジで」や「嘘は言わない」などを意味する 「No Cap」 などといったスラングが広く普及しました。

さて、今回取り上げるのは「I Came From Nothing」という言葉です。意味はそのまま「何も無いところからやってきた(成功した)」となるわけですが、隠語や言葉遊び的要素を持つスラングというよりは、そのままの意味で言葉自体が流行した事例に分類されるでしょう。

Young Thug による影響

「I Came From Nothing」という言葉がこれほどまでにヒップホップシーンに愛されている要因を探る上で、無視できないのは Young Thug の存在です。この言葉がシーンで多用されるようになったのは直近の10年間だと言えますが、Young Thug は10年前である2011年にデビューミックステープ『I Came From Nothing』をリリースしています。彼はその後も同年に『I Came From Nothing 2』を、翌年に『I Came From Nothing 3』をリリースし、シーンに多大なる影響を与えました。

Young Thug による『I Came From Nothing』シリーズ

もちろん「I Came From Nothing」という言葉は、一般的ではない別の意味を有するスラングではないため、それ以前にもリリックなどにおいて使用されている事例は存在します。しかし、ここ数年での使用頻度の顕著な増加や、Young Thug が現行シーンに与えた影響の多大さを考えると、過言ではないと思います。

使用例

「I Came From Nothing」は現在も数々のラッパーたちによって言及され続けており、貧乏だった頃の経験と現在を比較するリリックとともに用いることが鉄板ネタとなっています。このセクションでは、例としてひとつリリックを引用し、ご紹介いたします。

Lil Baby – Intro

I dropped out of school didn’t get no education
学校を退学して教育を受けていないけど

My momma, she happy ’cause I finally made it
俺は成功してママは喜んでる

She living better, her house big as fuck
ママの暮らしは良くなって、彼女に大きな家も買った

Buy her a Bentayga Bentley truck
ベントレー・ベンテイガ (※1)もね

With a AP today, tomorrow switch it up
今日はオーデマ・ピゲ (※2) の時計、明日は違うブランド

Honeycomb diamonds VVS’s cuttin’
蜂の巣みたいな VVSダイアモンド (※3)

Standing on stage, I really came from nothing
ステージに立つ、俺は本当に何もない場所から這い上がった

(※1) ベントレー社による初のSUV。新車価格は2081万円。
(※2) スイス発祥の高級腕時計ブランド
(※3) ダイアモンドのランク。VVS は Flawless についで2番目の純度。

音楽において最高した現在ならではの贅沢な暮らし、高級車、高級腕時計、さらには親孝行に関するフレックスラインを羅列した後に力強くラップされる「I Came From Nothing」という言葉には、その境遇を経験してきた彼でないと表すことのできない風格を感じることができます。

類義語

Came a Long Way

Young Thug がミックステープのタイトルとした「I Came From Nothing」を起点とし、様々な類義語や派生語が誕生してきました。代表的な類義語として「Came a Long Way」(長い道のりをやってきた)が挙げられます。

近年では Rae Sremmurd や Offset などが「Came a Long Way」と名付けた楽曲をリリースしていますし、様々なラッパーたちのリリックにも頻出する言葉となっています。

Rags to Riches

同じようなシチュエーションを表す際によく使用される言葉として「Rags to Riches」も挙げられます。「Rag」はボロ布を表す単語で、いわば貧乏の代名詞とされています。つまり、こちらも「貧乏から金持ちに」を表す言葉というわけです。

しかし、こちらの言葉はヒップホップに由来した言葉という訳にはいかず、かなり前から存在していた慣用句のようなものです。ですが、「I Came From Nothing」と似た意味を持つイディオムとして詩的な使い方がなされる際に登場することも多いです。

派生語

ここまでご紹介したワードをさらに細かくみていくと、数多の派生語が存在していることがわかります。例えば、「Came From」の後に「Nothing」に代わる貧しい時代の思い出をいれるパターンです。本セクションでは、その中でも興味深いものをピックアップしてご紹介します。

Young Thug – Mannequin Challenge (feat. Juice WRLD)

We came from cookin’ noodles on the stove
俺たちはストーブの上でラーメンを作っていた時代から這い上がってきた

Young Thug のソロデビューアルバムに収録された、故 Juice WRLD との楽曲です。アメリカにおいて、インスタントラーメンは比較的安価で満腹感を得られることから、人気を博しています。日本製のインスタントヌードルは高額で販売されていることが多いですが、アジア系のスーパーマーケットでは韓国製のものが安価で販売されています。また、日本の企業が海外向けに生産した商品も多数存在し、そちらは比較的安価な価格設定となっています。

「昼食で200ドル使った」とラップした Gunna が話題となったように、YSL Records やその周辺人物は普段から高級な料理を口にしているようですが、そんな彼らを率いた Young Thug でさえも、安価なラーメンを調理コンロではなくストーブの熱で調理する時代があったようです。

Young Thug は他にも『I came a long way from shopping at clearance sales』(在庫処分セールで買い物をしていた時代から這い上がった) などとラップしており、一捻り加えられたリリックが興味深いです。

Ralo – How Could You

Remember us, we came from riding on that MARTA bus
思い出してみろ、俺たちはマルタバス (※1) に乗っていた時代から成り上がった

We came from watching movie theaters, I’m on that movie screen
シアターで映画をみていた時代から這い上がって、今じゃ俺らは映画の中の存在だ

(※1) アトランタ市交通局が運営する公共交通機関

現在も刑務所に収監されているジョージア州アトランタのラッパー Ralo はこのようにラップしています。成功してからは高級車での移動が中心となっているであろう彼らにとって、バスでの移動は貧しい時代の象徴的な思い出なのでしょう。また、アトランタの地域密着型サービスである固有名詞を含めることで、過去と現在を比較すると同時にフッドをアピールすることにも成功しています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は近年のヒップホップシーンで良く耳にする『I Came From Nothing』というワードについて掘り下げて考察してみました。皆さんもお気に入りのラッパーはどのようにラップしているのかを探してみてはいかがでしょうか。

Written by whoiskosuke

2020年に頭角を現した 期待のラッパーたち

2020年も本日で終了とのことですが、今年も沢山のアーティストが登場し、名曲も数多く生まれました。今回は2020年に頭角を表したアーティストの中から、3人ピックアップしてご紹介いたします。

1. Armani Caesar

Armani Caesar (アルマーニ・シーザー) は、ニューヨーク州バッファロー出身のラッパーです。2006年にバッファローのヴィジュアル / パフォーミングアート学校を卒業したのち、ノース・カロライナ・セントラル大学にて学業に励んでいました。

Armani Caesar

彼女は2011年に Buff City Records よりファーストミックステープ『Hand Bag Addict』をリリース後、2015年には『Caesar’s Palace』、2018年には『Pretty Girls Get Played Too』とコンスタントにスタジオアルバムのリリースを行ってきました。

ではなぜ、10年ものキャリアをもつ彼女を今回の記事に取り上げさせて頂いたのかというと、その理由は彼女のキャリアの躍進ぶりにあります。Armani Caesar は、ニューヨーク州バッファローのラップコレクティブ / レーベルである Griselda Records への加入を果たしたのです。

Griselda への加入後、4枚目のスタジオアルバムである『THE LIZ』をリリースしたことで、かなり大きな話題となりました。Conway the Machine や Westside Gunn、Benny the Butcher はもちろんのこと、プロダクションには DJ Premier や JR Swiftz、Danny Laflare などが参加しており、Griselda らしい作品に仕上がっています。

2. Rubi Rose

Rubi Rose (ルビ・ローズ) はケンタッキー州レキシントン出身のラッパー / モデルで、現在はジョージア州アトランタに拠点を移して活動しています。2019年の9月にリリースしたシングル『Big Mouth』がバイラルヒットを起こし、一躍有名になりました。

Rubi Rose

彼女は2020年に突入してからも、自身の名義下でシングルを3曲だけしかリリースしていないにもかかわらず、その知名度を順調に伸ばし続けました。楽曲以外に彼女の知名度を成長させた要因は大きく2つあります。

1つ目は、OnlyFans への参入です。彼女は UPROXX のインタビューにて、OnlyFans で1日に約1000万円を稼いだことがあると話しています。

2つ目は、Cardi B と Megan Thee Stallion による楽曲『WAP』の MV への出演です。Kylie Jenner や Normani、ROSALÍA などの豪華ゲストに混ざって Rubi Rose もカメオ出演を果たしています。

『WAP』の MV でダンスを披露する Rubi Rose

このまま、プロジェクトをリリースしないまま2020年を終えてしまうと思われていた矢先に、急遽デビューミックステープ『For The Streets』をリリースします。8曲入りの比較的コンパクトなミックステープには、Cardi B によるスキットが挿入されたことや、Future と PARTYNEXTDOOR がゲスト参加したことでも話題を呼びました。本業であるラッパーとしても2020年を見事に締めくくったと言えるでしょう。

3. Ivorian Doll

Ivorian Doll (アイボリアン・ドール) は、ドイツのフレンスバーグ出身、イーストロンドン育ちのラッパーで、主に UKドリルシーンで活躍しています。ドリルシーンにおいては珍しい女性アーティストであること、自身の YouTube チャンネルにてストリートでの生活を赤裸々に語る様子が人々の目に留まり、徐々に人気を獲得してきました。

Ivorian Doll

Ivirian Doll は 2020年の4月にリリースしたシングル『Rumours』にて人々の注目を集めました。学園モノのコミカルな MV や、ピンク色を基調としたポップなカバーアートとは対照的に、男性アーティスト顔負けの鋭いラップを披露しています。

現時点では、ミックステープやアルバムなどというまとまった単位のプロジェクトをリリースしていない彼女ですが、UKドリルの重鎮である Headie One のアルバムへの参加、S1mba のヒット曲『Rover』のリミックスバージョンへの参加など、イギリスのヒップホップシーンにおいて名を轟かせ始めています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。2020年も本日で最後。世界中で様々なことが起こった2020年でしたが、そんな世界を鼓舞するように光り輝いた彼女たちの楽曲を聴いて、一年を締めくくってみてはいかがでしょうか。

2020年もご愛読いただきありがとうございました。

2021年も XXS Magazine をよろしくお願いいたします。

Written by whoiskosuke

Toosii – 心地よい痛みを歌うメロディックな新鋭ラッパー

2020年に突入してからも『Platinum Heart』や『Poetic Pain』などのミックステープをリリースし、着々とヒップホップ及び R&B シーンからの指示を集めているラッパーの Toosii。耳触りのいいメロディックなデリバリーや、切なくも共感を呼ぶリリックがリスナーたちの心を掴み、彼の虜となる者が続出しています。今回はそんな彼の生い立ちやキャリアを、おすすめの楽曲とともにご紹介します。

生い立ちと楽曲スタイル

Toosii(トゥーシー)こと Nau’Jour Grainger は、ニューヨーク州中央部に位置する商工業都市シラキュースにて産声を上げました。幼少期はサッカーに夢中だったらしく、プロの選手を目指すことも考えていたそうです。同時に、自らの心の中で感じたことを言葉に書き起こし、それらを歌にすることに魅力を感じていたという彼は、ミュージシャンをになることも将来の選択肢の一つとして検討し始めました。

Toosii

ミュージシャンとして活動していくことを決めた Toosii はノースカロライナ州のローリーに拠点を移し、KingToosii 名義で『Label Me Deserve』『Hell on Earth』などのミックステープを Spinrilla にて公開します。1作目のミックステープ『Label Me Deserve』には、Chance The Rapper の名曲『Angels』のビートジャックなども収録されています。

彼は、そのメロディックなデリバリーやトラックのチョイスから Roddy Ricch と比較されることが多いアーティストです。しかし、Toosii 本人は「自分はこの世界の誰からも影響を受けたことがない」と語った上で「みんなは俺をゴミ屑と比較するのではなく、スターと比較してくれたんだろ。」と発言し、Roddy Ricch と比較されることに嫌悪感を示していないことを明かしています。

Toosii の人気が沸騰している要因としてメロディックなデリバリーの他にも、彼によって書かれた共感できるリリックが挙げられます。彼は、自らの楽曲のスタイルについて UPROXX のインタビューにてこのように語っています。

A lot of my fans are people who’ve been through things and I make insightful music that gives you that cry you need. You ever had a good pain? Like a pain that hurt, but it don’t really hurt, because it also feels good. I make that kind of music.

俺のファンの多くは心の中に辛い何かを抱えていることが多いから、俺は彼らに寄り添った音楽を作るんだ。辛い時に聴いて泣いても良いような楽曲をね。君たちは「心地よい痛み」を感じたことがある?それは俺たちを傷つけるんだけど、同時に心地よさも与えてくれる痛みなんだ。俺はそんな感じの音楽を作っている。

UPROXX

多くの人が直面する人生や恋愛においての「もがき」や「葛藤」を言語化し、それらをメロディックな楽曲に乗せてファンたちに届けること、それが Toosii の魅力の一つです。

ミックステープ『Platinum Heart』

Toosii は6枚目のミックステープである『Platinum Heart』をリリースした頃から、ヒップホップ及び R&B シーンに頭角をあらわすようになりました。当ミックステープは約2ヶ月後にデラックス盤もリリースされたことで、さらなる注目を浴びました。今回はその中でも必聴の楽曲をご紹介します。

Toosii – Love Cycle

R&B とトラップの中間をいくような、ゆったりとしたトラックに緩急を激しくつけたフロウを用いた一曲です。フックには意中の女性との会話を実際の対話形式で組み込まれていることで、彼の恋愛観を目の前で見ているような感覚に陥ります。また、Toosii によるリリックの魅力の一つとして絶妙で詩的なワードチョイスが挙げられ、当楽曲もその魅力を全面に押し出したものとなっています。

You got me stuck inside your love cycle, I read your love bible
君は俺を愛の循環に巻き込んでいく、愛の聖書を読んだんだ

We give the hood guidance, we keep the hood smilin’
俺たちはフッドでどう振る舞うかを知っているし、仲間たちの笑顔を絶やさない。

最新ミックステープ『Poetic Pain』には、当楽曲に Summer Walker を招いたリミックスバージョンも収録されて話題を呼びました。Toosii と Summer Walker が実際の恋人のように繰り広げる掛け合いが注目されており、London On Da Track の反応が気になる一曲となっています。

ミックステープ『Poetic Pain』

『Poetic Pain』は2020年9月18日にリリースされた Toosii による7枚目のミックステープです。タイトル(直訳すると「詩的な痛み」)からも感じ取れるように、Toosii が得意とする「心地よい痛み」を表現することに力を入れた作品で、実際にメロディックなフロウに乗せて紡ぎ出される詩的な言葉がファンたちの中で共感を呼んでいます。本作からも必聴の楽曲を数曲ご紹介します。

Toosii – Poetic Pain

今作の表題曲となっているこちらの一曲は、意中の女性に手紙を書くように「詩的な痛み」を歌い上げる構成となっています。一般的に見ると少々重いテーマとなっていますが、早めのテンポのトラックとメロディックなデリバリーが相まって、かなり爽やかに仕上がっています。

Poetic pain, I just wrote you a love letter
詩的な痛み 君に恋文を書いたところだよ

Let you know my heart shattered
俺の心が打ち砕かれたことを君に知って欲しい

Let you know my heart shattered
俺の心はもうボロボロだ

Took a trip, let’s be on Saturn
土星に旅行に出かけよう

Take a trip, let’s be on Saturn
土星に旅行に出かけよう

注目すべき点は、同じ文言が連続で歌われていることと、連続した同じ文言が違った声色で歌われていることです。実際の詩においても反復法として同じ文言を繰り返す技法が存在しますが、Toosii はそれを楽曲のリリックに応用していると思われます。また一回目を高音で、二回目を低音で歌うことで表現に深みを持たせ、彼の恋心の中にある葛藤のようなものが垣間見えるように作られているのではないでしょうか。

Toosii – Calls

ミックステープの後半に収録されているこちらの一曲は、愛する仲間が刑務所に収監されてしまった際に、捕らえられた仲間とは対照的に自由の身である彼が感じた想いを歌った楽曲です。本作では恋愛に関するトピックが歌われた楽曲が多く見られましたが、当楽曲に関しては仲間に対する思いを綴っています。

You knowing that shit kinda be hard when you, When your loved ones behind that, Them bars, you know, behind that cell
愛する仲間が檻の向こう側の部屋にいるという状況が、どれだけ辛いかわかるよな

All in them walls and shit like that and you can’t do not’in
仲間は壁の向こうにいて、俺は何もしてやれない

That shit hurt
そんなの辛すぎるよ

Sitting here on the outside, I could only imagine how you feeling
俺はここに座って、お前が何を感じているかを想像することしかできない

その他の作品

Toosii はそのメロディックで落ち着いたスタイルから、ここ最近はたくさんのラッパーたちの楽曲にゲスト参加しています。ここではその中でも特に良い作品をピックアップしてご紹介します。

DaBaby – Bidness (feat. Toosii)

Toosii と同じく South Coast Music Group にサインしているオハイオ州クリーブランドのラッパー DaBaby が、自ら命を絶った兄に捧げてリリースした EP 『Brother’s Keeper』に収録されている一曲です。Jetsonmade による声ネタのループトラックに、二人が詰め込み気味のラップを乗せています。

Toosii のバースではソリッドなラップを披露しており、得意のメロディックなフロウはほとんど登場しません。しかし最後は、DaBaby によるフックの後ろに Toosii がハモリを入れる構成をとっており、Toosii の魅力を最大限に引き出した楽曲と言えるでしょう。

Queen Naija – One Time (feat. Toosii)

ミシガン州イプシランティのシンガー Queen Naija によるデビューアルバム『missunderstood』に収録された一曲です。Toosii は『Love Cycle』にて Summer Walker との共演を果たしたことで、R&B のアーティストたちにも注目され始めています。Hitmaka による壮大でゆったりとしたトラックに、のびやかな歌声を披露しています。

おわりに

2020年の精力的な活動を通して絶大な人気を獲得し、インスタグラムではすでに200万人のドロワーを獲得している Toosii。ミックステープ『Poetic Pain』では独自のスタイルが固まったような印象が感じられ、彼のキャリアはまだまだ始まったばかりです。これからの彼の動向からは目が離せません。

Written by whoiskouske

Jackboy – 愛とギャングの交錯を歌う新鋭ラッパー

先日、最新アルバム『Love Me While I’m Here』をリリースし、大きな話題となっているフロリダ州ポンパノビーチのラッパー Jackboy。2020年に突入してからも、セルフタイトルアルバム『Jackboy』や『Living in History』、そして先日リリースされた『Love Me While I’m Here』の3作品をリリースし、精力的に活動を続けています。今回はそんな彼の生い立ちやキャリアに触れながら、2つの視点から彼の魅力に迫ります。

生い立ちとキャリアの開始

Jackboy こと Pierre Delince は1997年の8月27日にハイチ共和国にて産声を上げました。6歳になるまでの幼少期をハイチ共和国で過ごしたのちに、家族と共にフロリダ州のノースラウダーデールに移り住みます。まもなくして、現在もなお拠点として活動しているフロリダ州のポンパノビーチに再び移住します。

ハイチ共和国で過ごしたのはたったの6年間ということで、当時の記憶はほとんど無いと話す彼ですが、「ハイチ共和国にルーツを持つことを誇りに思っている」とも公言しており、今年の5月18日にはハイチ共和国の国旗制定記念日に合わせてシングル『Spittin’ Fact』もリリースしています。

Jackboy が音楽活動を開始したのは 2016年。音楽を始めたきっかけとして「金が必要だったから」と明かす彼は、ここ数ヶ月で自らのラップが評価され、ある程度の金額を稼ぐことに成功するまで「音楽を好きでやっていたわけじゃない」と語っています。

Kodak Black との出会い

Jackboy のラップスタイルは声質やフロウの類似点から、しばしば Kodak Black と比較されます。実際のところ、Jackboy は Kodak Black が率いるレコードレーベル Sniper Gang に所属しており、デビューミックステープのリリース時から共演を重ねているほど、彼らの友好関係には深いものがあります。

1997年生まれであることやフロリダ州ポンパノボーチで育ったこと、そしてハイチ共和国にルーツを持つことなど、Jackboy と Kodak Black には様々な共通点があり、それらの共通点が彼らを巡りあわせたとも言えるでしょう。(Kodak Black の出身はフロリダ州ポンパノビーチですが、両親がハイチ共和国からの移民です。)

近年の活躍と彼の魅力

冒頭では、2つの視点から彼の魅力に迫ると始めさせていただきましたが、その1つ目は「身の回りに起こることをありのままに綴ったリリック」です。まずは最新アルバム『Living in History』に収録され話題となった楽曲『In My City』をお聞きください。

Boy you gotta keep a gun ’cause this shit get hella scary
この街はかなり危険だから、銃を携帯すべきだ

My dog just got up outta jail now he in a cemetery
刑務所から出てきたと思ったら、もう墓の中にいる奴もいる

This real rap no cap this ain’t my imaginary
これは俺の妄想なんかじゃなくリアルなラップだ

Every n***a in my city fuckin’ legendary
俺の街にいる仲間はみんな伝説だ

Every n***a in my city tote a choppa
俺の街にいる仲間はみんなチョッパー (※1)を携帯している

(※1) Choppa とは、自動小銃 AK-47 を意味するスラング

本楽曲で語られている内容が全てノンフィクションであることを強調しながら、ストーリーテリングのような構成で展開されているこちらの楽曲は、先行シングルとしてリリースされた時点から話題に火がつき、現在では YouTube で500万回再生を越えるヒット曲となっています。

続いても最新アルバムに収録されている『Lost Ties』 をお聴きください。

Niggas started to hate when I started to shine
俺が輝き出した途端、あいつらは俺を嫌いだした

Lost ties with a couple of niggas that I loved the most
最も愛した仲間との友情もいくつか失ったよ

If I knew you finna do me dirty, I wouldn’t of let you close
お前らがあんなに汚い真似をするような奴らだと分かってたら、初めから俺に近づくのを許してなかっただろうにな

ラッパーとして成功をおさめ富と名声を手に入れ始めた彼ならではの、人間関係の複雑さをラップした一曲です。このパターンの楽曲では、裏切り行為を働いた元友人を非難するばかりのリリックになることが多いですが、Jackboy の場合は途中から急変した仲間の態度に悲しむスタンスでリリックが書かれており、どこか哀愁が漂う作品となっています。

Rod Wave などの歌モノを取り扱うラッパーたちとの共演でも有名なトラックメーカー TnTXD らによるピアノベースのトラックがフロリダらしくて良い味を出しています。

そして、彼の魅力に迫るために忘れてはならない視点の2つ目は「スムーズなメロディとロマンチックなリリック」です。

一つ目の魅力でもご紹介した通り Jackboy が育った街は決して安全とは言えず、ラップの内容も平和なものとは言えない物が多いのが事実です。しかし、彼はギャングスタのストリート事情をそのままラップする傍ら、同一人物が制作したとのとは思えないほどロマンチックなラブソングもリリースし続けています。

彼のデビューアルバム『Lost In My Head』では、ラブソングを中心に音楽活動を行う巷のポップアーティストも顔負けなロマンチストぶりを顕著に感じることができるアルバムとなっています。まずはこちらの楽曲をお聴きください。Jackboy のデビューアルバム『Lost In My Head』収録の『Would You Leave』と言う楽曲です。

If  I go broke right now
もし俺が今すぐ貧乏になっても

Would  you still be around?
それでも俺のそばにいてくれる?

If I go to jail right now
もし俺が今すぐ刑務所に行っても

Baby girl, hold me down
俺のことを愛し続けてくれよ

Or  would you leave me?
それとも君は離れていっちゃうの?

Baby,  don’t leave me
お願いだからずっとそばにいてよ

恋人からの愛情を確かめるような質問形式のフックが特徴的な可愛らしい一曲です。1分39秒とかなり短めの楽曲ですが、伝えるべきことだけを短時間にまとめたミニマルでシンプルを突き詰めたものだと言えます。Jetsonmade によるフワフワとしつつも、重い808のアクセントが効いたトラックも楽曲の雰囲気とマッチしています。

つづいても『Lost In My Head』より『Live and Learn』と言う楽曲。

Man, it took all of this time just to finally realize, oh, how much I need you
俺が君をどれだけ必要としているかを気づくまでに、かなりの時間がかかってしまった

Lately I been out of mind, so now I’m taking my time tryna find new ways to please you
君をどうやって喜ばせられるかを考えているから、ここ最近俺はずっと上の空だよ

Fuck all that money I make, I would give it away just to be with you
今までに稼いだ金なんて、君と一緒に居るためなら捨てられる

恋人からの愛を確かめる内容の先程の楽曲とは対照的に、自分がどれだけ恋人を愛しているかをラップしたものです。こちらも Jetsonmade によるトラックで、重くなりがちな内容のラップを軽快なテンポで楽しむことができます。

最後に最新アルバム『Living in History』収録の『Hard to Forget Ya』をご紹介します。

And baby, I don’t wanna see you with another fella
君が他の男といるところなんて見たくないよ

‘Cause if I do, I’ma wish that I never met ya
君と出会いさえしなければって願うほどにね

‘Cause the love you give gon’ be hard to forget ya
君がくれた愛のせいで、君のことを忘れられないよ

恋人に別れを告げられてしまった後、取り返しのつかない現状に後悔をする内容の失恋ソングです。ドラムス無しのアコースティックなトラックや、感情のこもった掛け合いフックに注目です。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はストリートのリアルな現状をラップするとともに、暖かいラブソングをも歌い上げてしまうフロリダのラッパー Jackboy についてご紹介してきました。「ここ数ヶ月でやっと音楽が好きになってきた」と語る Jackboy のさらなる躍進に期待が高まるばかりです。

Written by whoiskosuke

Pluto と Baby Pluto の軌跡

待望のコラボテープ『Pluto x Baby Pluto』をリリースしたばかりの Future と Lil Uzi Vert。今回は新作がリリースされた記念に、これまでの彼らの共演について振り返ってみましょう。

そもそも「Pluto」とは?

アルバムタイトルにも起用されている「Pluto」というワード。「Pluto」は、単刀直入にいうならば Future が自身のデビューミックステープ『Pluto』から発案したニックネームです。Future は Pluto を自身のオルターエゴ的存在に位置付けており「Pluto はよりクリエイティブなモードに入った時の俺だ」と語っています。

Future のデビューアルバム『Pluto』

一方「Baby Pluto」はというと、 Lil Uzi Vert が Future に倣って自らにつけたニックネームです。『Eternal Atake』のリリース直前に突如 Twitter にて新たなニックネームを発表し、現在はハンドルネームでも Baby Pluto を使用しています。

Lil Uzi Vert の Twitter プロフィール

Future のヘアスタイルがブロンドであったこと (Pluto が意味する冥王星が金色である) から Pluto というニックネームを考案したという逸話をもとに、 Lil Uzi Vert も自身のヘアカラーをブロンドに変更後、Baby Pluto を名乗り始める徹底ぶりでした。

ちなみに Lil Uzi Vert はそれ以前にもオレンジ色に髪の毛を染めた際、「Orenji (オレンジ) か Renji (レンジ) 、これが俺の新しいニックネームだ。」というツイートをしており、ヘアカラーによってニックネームを変更することに魅力を感じているようです。

https://twitter.com/LILUZIVERT/status/1225449327402811393?s=20

数々の共演作

DJ ESCO – Too Much Sauce (feat. Future & Lil Uzi Vert)

Future と Lil Uzi Vert は、ジョージア州アトランタのレコードプロデューサー DJ ESCO の名義下でリリースされた楽曲『Too Much Sauce』にて初共演を果たしました。

Zaytoven の十八番である美しいピアノベースのトラックに、ゆったりとしたラップを載せる Future と Lil Uzi Vert の掛け合いが話題となり、初共演にして大ヒットを記録しました。リリースから4年以上が経過した現在でも古臭さを感じさせない二人の共演作ですが、初期に多用していた Lil Uzi Vert の詰め込みラップ(いわゆる Old Uzi)が所々にみられます。

Lil Uzi Vert – Seven Million (feat. Future)

『Too Much Sauce』での初共演後、約一ヶ月後にリリースされた Lil Uzi Vert のミックステープ『The Perfect LUV Tape』に収録された『Seven Million』で彼らは二回目の共演を果たします。

 XL Eagle と Don Cannon、 Nard & B のシンプルなトラックに両者が交互にラップをするスタイルの楽曲です。中盤からの Lil Uzi Vert のバースでは、アドリブを多用した慌ただしいラップが見所です。

Lil Uzi Vert – Wassup (feat. Future)

『Seven Million』での共演から4年ほどの歳月が経ち、ファンたちが待ち望んだ Future と Lil Uzi Vert のコンビが復活します。久方ぶりの共演は、 Lil Uzi Vert の待望のアルバム『Eternal Atake』のリリース後、14曲の新曲を追加してわずか一週間のスパンでリリースされたデラックスバージョン『Eternal Atake (Deluxe) – LUV vs. The World 2』においてでした。

『Wassup』では、Pi’erre Bourne の SF系トラックが使用されており、両者ともに歌もの寄りのスムースなフロウを披露しています。今回リリースされた『Pluto x Baby Pluto』のトレーラーでは、Future による「俺たちはここではない別の星に行かなければならない。俺たちの世界にな。」という発言が見られましたが、彼らの地球以外への星をテーマにした世界観は、こちらの楽曲からもその鱗片が窺えます。

Everybody know I am from outer space (Yeah)
みんな俺が宇宙からやってきたと知っているだろ

So you know that aliens be sendin’ me (Woah)
宇宙人が俺を地球に送り込んだということも知っているだろ

Future – All Bad (feat. Lil Uzi Vert)

『Wassup』にて再会を果たした Future と Lil Uzi Vert は、その二ヶ月後にも Future のアルバム『High Off Life』に収録された楽曲『All Bad』にて共演を重ねます。

『Eternal Atake』にて数々の名曲をプロデュースしたコレクティブ Working on Dying 所属の新鋭プロデューサー Brandon Finessin と、数々のビッグネームに新しい音色のトラックを提供し続けるコレクティブ Hyperpop 所属の Outtatown による、いわゆるハイパーポップビートに乗せて、今までの彼らの共演作には見られない雰囲気のラップを披露しました。

初共演から4年の歳月を重ねている二人ですが、意外にも Future 名義のコラボ作品はこれが初めてです。

Future & Lil Uzi Vert – Patek / Over Your Head

最後の共演から五ヶ月の沈黙を経て、ついに二人のコラボテープの存在が明かされました。両者のインスタグラムで同日にトレーラーが公開され、ファンの間ではコラボテープのサプライズリリースが噂されましたが、『Patek』と『Over Your Head』のシングル二曲のみのリリースでした。

『Patek』は先ほどご紹介した hyperpop より Starboy と Brandon Finessin のプロデュース。彼ららしくない落ち着いたトラックに、ワンバースごとで交互にラップする構成の楽曲です。

10月時点でリリースされたシングルのもう一方『Over Your Head』では、Drake と Future の『Life is Good』をプロデュースしたことで一躍有名となった D. Hill によるトラックに、『All Bad』を彷彿とさせる雰囲気の明るいラップをのせたポジティブな楽曲です。

『Pluto x Baby Pluto』のリリース

シングル二曲のみのリリースで彼らのコラボテープは存在しないと噂されていた矢先、2020年の11月12日にまたもや Future と Lil Uzi Vert は同じタイミングに新たなトレーラーをインスタグラムで公開します。

トレーラーの最後にはコラボテープのタイトルである『Pluto x Baby Pluto』とリリース日と思われる日程が映し出され、アルバムを諦めていたファンたちはまたもや盛り上がりを見せ始めました。

そして、トレーラーが公開された翌日である2020年の11月13日には、無事彼らの初のコラボテープ『Pluto x Baby Pluto』がリリースされました。彼らの初共演を仲介した存在とも言える DJ ESCO によるエグゼクティブプロデュースで、16曲入りのアルバムとなりました。

『Pluto x Baby Pluto』のカバーアート

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は『Pluto x Baby Pluto』のリリースを記念して、彼らのこれまでの共演を時系列順にまとめてみました。(A$AP Ferg による『New Level』でも共演していますが、二人のみの共演作ではないので今回は除外しています。)これを機に彼らのこれまでの共演作も楽しんでみるのはいかがでしょうか。

Written by whoiskosuke