Pooh Shiesty – メンフィス発の要注意人物

先週末に初のフルレングスプロジェクトであるデビューミックステープをリリースしたテネシー州メンフィスのラッパーPooh Shiesty。今回はそんな彼の魅力に、生い立ちやリリックなどを考察しながら迫ります。

生い立ちと楽曲のスタイル

Pooh Shiesty

Pooh Shiesty (プー・シャイスティ)こと Lontrell Williams は、1999年の11月8日にテネシー州のメンフィスにて産声を上げました。彼の父親も、彼と同じくメンフィスを拠点とするラッパーで、Mob Boss というステージネームの下、Mob Ties Records というレコードレーベルの運営も行なっていました。

Pooh Shiesty (以下、Pooh)の楽曲の特徴として、ギャングアクティビティの中心に自らの身を置き、身の回りに起こる出来事をリアルに描写するスタイルがあります。

彼の楽曲内には、ギャング同士の抗争や銃に関する事柄、敵対する組織や個人に対する挑発的な表現などが多く見られます。また、インターネット上で自らの行動を誇張して発信する見せかけのギャング(いわゆるインターネット・ギャングスタ)に対する辛口のメッセージなども多く見られ、あくまでもストリートのリアルな側面だけを書き連ねるリリックに定評があります。

ラップのスタイルとしては、Gucci Mane を彷彿とさせる(実際に Gucci Mane に才能を買われ、1017 Records との契約を果たしています。)隣り合う単語が絡み合うようにズルズルと続く、隙間のないデリバリーを得意とします。また、 Pooh の故郷であるメンフィス特有のアクセントも存分に感じられます。

Pooh Shiesty と Gucci Mane

また『Blrrrd』と綴られる巻き舌を駆使した銃声のオノマトペを楽曲の至る所にアドリブとして挿入することも彼の特徴であり、ついつい真似したくなる心地よさを生み出しています。

キャリアの開始

Pooh は18歳になるまで、ラップの経験がありませんでした。あるきっかけでメンフィスの女性ラッパー K Carbon による Three 6 Mafia の『Weak Azz Bitch』のリミックスに参加したところ、YouTube にて楽曲が100万回再生を達成し、メンフィスを中心にその名が広まりました。

続いてメンフィスを中心に得たファンベースを利用し、最新ミックステープにも参加している親友の BIG30 らとともに数曲のシングルをリリースします。数ヶ月の音楽活動を継続するうちに、ローカルでのバズが頻繁に起こるようになり、彼の名前が Gucci Mane のもとにまで広まります。

Pooh の才能に将来性を見出した Gucci Mane は、すぐさま自身のレコードレーベルである 1017 Records との契約を提案し、Pooh は晴れてメジャーレーベルとの契約を果たしました。

2020年には、Gucci Mane によるコンピレーションアルバム『So Icy Summer』にて 7曲もの楽曲に参加し、Moneybagg Yo や Lil Baby などのビッグネームらとの共演を果たしています。

『Back in Blood』のヒット

Gucci Mane のコンピレーションアルバムでの大活躍で知名度を一気に獲得した Pooh は、2020年の11月にイリノイ州シカゴのラッパー Lil Durk をゲストに招いたシングル『Back in Blood』をリリースします。ちなみに、こちらの楽曲はのちにご紹介する彼のデビューミックステープ『Shiesty Season』からの先行シングルとしてリリースされました。

Pooh Shiesty と Lil Durk

Pooh はラップを始める以前から、シカゴのドリルミュージックを好んで聴いていたらしく、『Back in Blood』に Lil Durk をゲストとして招いた理由も、少年期から親しんできたシカゴのアーティストとリンクアップしたかったからと Genius のインタビューにて語っています。

タイトルとなっている「Back in Blood」とは「敵の命を奪う」ことを意味しており、インターネット上での見せかけのギャング気取りに対する警告をラップした楽曲です。

Bitch, I got my own fire, don’t need security in the club 
俺は自分で武器を携帯しているから、クラブでセキュリティーをつける必要がない

All that woofin’ on the net, nigga, I thought you was a thug
ネット上で騒いでる奴ら 俺はお前らのことをサグだと思っていたよ

They ain’t got nowhere to go, I shot up everywhere they was 
奴らに逃げ場はない 奴らが居たら俺はどこでも発砲するからな

Yeah, you know who took that shit from you, come get it back in blood
誰がお前らの命を奪い去るかわかってるよな 俺がお前らの命を奪ってやる

かなり強気かつ過激な内容の楽曲ですが、以前から注目が集まっていた Pooh の新曲であること、また Lil Durk がゲスト参加していることから、Apple Music の US チャートでは最高一位を記録し、YouTube でも4000万回近い再生回数を獲得しています。

『Shiesty Season』のリリース

Lil Durk との楽曲『Back in Blood』で世界的な知名度を獲得した Pooh は、万全を期して初のフルレングスプロジェクトであるデビューミックステープ『Shiesty Season』をリリースします。Pooh Shiesty の時代が到来したと言わんばかりのストレートなタイトルで、謙遜するそぶりを微塵にも感じさせない清々しい作品となっています。

Waheed Zai による『Shiesty Season』のカバーアート

当ミックステープには先行で話題となった Lil Durk に加え、21 Savage と Gucci Mane がゲスト参加しており、他にも Pooh の友人でありアップカミングなラッパーである BIG30 や Veeze、Lil Hank、Choppa Wop、Foogiano が参加しています。今回はその中でも、特にインパクトの強かった楽曲を何曲かご紹介いたします。

Shiesty Season Intro

タイトル通り、ミックステープの一曲目に収録されたイントロです。満を辞してのデビューミックステープのイントロで半端なラップをするはずもなく、短いながらもかなりのインパクトを私たちにぶつけてきます。リリックも半端なものではなく、単刀直入にヘイターへの敵意を剥き出しにしたり、十分な気合を宣言しています。

Tryna pay to get me killed, why you won’t come do it?
殺し屋を雇って俺を殺そうとしているみたいだけど、なぜ直接俺をやりにこないんだよ

Get sent out, watch how I send you back to ’em
お前らが直接こないなら、どうなるか覚悟はできてるよな

 Box of Churches (feat. 21 Savage) 

続いてご紹介するのは、21 Savage がゲスト参加した『Box of Churches』という楽曲。おなじみのブルブルアドリブから幕開けするこちらの楽曲では、神聖で厳荘なメロディーの上で火花のようにハイハットが鳴り響きます。こちらの楽曲でもやはり敵対する者への挑発を忘れることはありませんが、自らがフッドにもたらした変化などについても言及しています。

who want smoke? Tell him meet face-to-face
誰が俺と喧嘩したいって? そいつに面と向かってやりあおうと言っといてくれ

Remember back in ‘leventh grade, I dirtied up my only K
グレード 11(※1) の時、俺は AK-47 を汚していた (※2)

Get my round applause, in a couple months I done made a way
周りの称賛を得て、たった2ヶ月でここまできた

I’m why niggas dropped the Rollies and went to the Cartiers
俺こそがみんながロレックスよりカルティエを選ぶ理由さ (※3)

(※1) 11年生、16歳〜17歳で日本の高校二年生にあたる
(※2) 武器を使用して他人を殺めること、または盗難した銃を所持すること
(※3) Pooh はロレックスよりカルティエを好んでおり、彼に憧れるフッドの仲間達が彼の真似をしていることに言及している。

アトランタよりゲスト参加した 21 Savage に関しても、「ラッパーのチェーンを盗んで、eBay で売り捌く」「銃撃戦以外のことについてラップしたくない」などとラップしており、気合の入った Pooh に負けない迫力を見せています。

Take A Life (feat. Foogiano)

Pooh と同じく Gucci Mane によるレコードレーベル 1017 Records と契約しているラッパー Foogiano が参加しているこちらの楽曲は、Pooh の冷徹な側面が全面に押し出された楽曲です。頼りないフルートの音色に反して、過激すぎる内容を淡々とラップしたこちらの楽曲は、ミックステープの中でも異彩を放っています。

I don’t think you niggas know what it feel like to take a life
お前らは人の命を奪った時の感覚を知らねぇだろうな

Made a promise I wouldn’t sin no more, but then again, I might
もうそんな罪は起こさないって約束したけど、多分またやってしまう

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はテネシー州メンフィスのラッパー Pooh Shiesty についてご紹介してきました。かなりの知名度を獲得したとはいえ、彼のキャリアはまだまだスタートしたばかりですので、これからの彼の動向には要注目です。

Written by whoiskouske