XXS Magazine が選ぶ
2022年ベスト・アルバム10選

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


10. Vince Staples – RAMONA PARK BROKE MY HEART

カリフォルニア州ロングビーチのラッパーVince Staplesの5thアルバム。

メロウで温かみのある西海岸サウンドと、Vinceのスムース且つ程よく力の抜けたラップが光る1枚。Vinceは哀愁漂うビートの上で、自身を取り巻く環境やシステムの現状についてスマートに、半ば冷笑的にスピットする。

また、キャリアの中で様々なサウンドにチャレンジしてきたVinceだが、今作はウェストコースト・ラップへの原点回帰作といえるだろう。Mustardとの共演 (#4『MAGIC』#13『BANG THAT』) をはじめに、DJ Quikの名曲『Dollaz + Sense』のサンプリング (#3『DJ QUIK』) や、Suga Freeのネームドロップ (#10『LEMONADE (feat. Ty Dolla $ign』) など、西海岸オマージュが随所に散りばめられた1枚だ。


9. Blxst – Before You Go

カリフォルニア州ロサンゼルスのシンガー/ラッパー/プロデューサーBlxstのデビューアルバム。

哀愁漂うギターサウンドを軸に、Blxstのスムースなヴォーカル&ラップが光る1枚。
自身も一部制作に携わる、2000’sフレーバー漂うビートの上で繰り出される彼の抜群のメロディセンスには毎度唸らされる。

“現代のNate Dogg”との呼び声も高く、今や西海岸シーンを牽引する存在となったBlxst。今年はKendrick LamarやKehlani、Chris Brownらビッグネームとの共演に加え、Burna BoyやFireboy DMLらアフロビーツ勢ともタッグを組むなど、多方面で活躍を見せた。躍進を続ける彼のサウンドは今後どのように進化していくのか。2023年も目が離せない。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


8. Westside Gunn – 10

ニューヨーク州バッファローのラッパーWestside Gunnの『Hitler Wears Hermes』シリーズ最終章。

お決まりのGriseldaメンバーに加え、DJ Drama、A$AP Rocky、Doe Boy、さらにはレジェンド陣を大集結させた超豪華スペシャル丼。

自身の息子FlyGod Jr.が手掛けるトラップチューン #2『FlyGod Jr』や、Busta Rhymes、Raekwon、Ghostface Killahらニューヨークの大御所たちとマイクリレーを交わす #8『Science Class』など、新旧問わずラップファンなら聴きどころ満載の1枚だ。
最後はGriseldaのメンバーが順番にスピットする10分超えのアウトロ曲 #12『Red Death』で幕を降ろすなど、10作続いたシリーズ最終章に相応しい仕上がり。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


7. Mike Shabb – Bokleen World

カナダ・モントリオールのラッパー/プロデューサーMike Shabbの今年2枚目となるアルバム。

Westside Gunn『10』収録の #10『Switches On Everything』のビートを手掛けるなど、プロデューサーとしても定評のある彼がセルフプロデュースを務めた今作では、ソウルフルなものから不穏なものまで、ドラムレスを中心に極上のビートが堪能できる。

Mach-Hommyの影響を感じさせる華のあるフロウを軸に、アーリースウィングさせたトリプレット・フロウ #13『K.D Stats』や、オートチューンを効かせたヴォーカル #18『Ravien (Outro)』も披露する。
2023年、アンダーグラウンドシーンを席巻すること間違いなしの超優良株。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


6. Babyface Ray – MOB

ミシガン州デトロイトのラッパーBabyface Rayの2ndアルバム。

現行ミシガンサウンドからダークなバンガーチューン、メロウなトラップまで、バラエティに富みながらも統一感のあるプロダクションの上で、極限まで力を抜いたレイジーラップがグルーヴを生み出す。耳に残るオフビートなフロウに着目しがちだが、パーソナルなライフスタイルを生き生きと語るストーリーテリングや、随所で魅せる秀逸なワードプレイなど、リリシズムも一級品だ。

同じく今年リリースのアルバム『FACE』とどちらを選ぶか迷ったが、彼が文字通り今年の”顔”であることに違いはない。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


5. Boldy James & Nicholas Craven – Fair Exchange No Robbery

ミシガン州デトロイトのラッパーBoldy Jamesと、カナダ・モントリオールのプロデューサーNicholas Cravenによるタッグアルバム。

2022年最もハードワークだったのはこのラッパー、Boldy Jamesだろう。1年で計4枚もアルバムをリリースした彼だが、中でも一際目立ったのがNicholas Cravenとの本作だ。

サンプリングセンスに物を言わせたCravenのミニマルで温かみのあるビートと、Boldyの冷ややかで淡々としたラップが絶妙なケミストリーを生み出す。
Roc Marciano以降の”ドラムレス期”を代表する作品となること間違いなしの傑作だ。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


4. billy woods – Aethiopes

ニューヨークのラッパーbilly woodsとプロデューサーPreservationによるタッグアルバム。

民族音楽やフリージャズ、レゲエをサンプリングしたPreservationのアブストラクトなプロダクションと、woodsの詩的で思慮深いリリックが混じり合った、他に類を見ない前衛的な1枚。

“古代ヨーロピアンによるアフリカンの呼称”である『Aethiopes』というタイトルや、レンブラントの絵画『2人のアフリカ人』を引用したアートワークからも分かるように、本作はジンバブエにルーツを持つwoodsならではのアフリカに焦点を当てたコンセプトアルバムだ。ゆえに歴史的事象への言及や、小説、映画からの引用も多く、読み解くにはかなりの背景知識を要する本作だが、未聴の方には是非、個人的”記事オブザイヤー”である『アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)』 by 久世さんを参照しながら聴いてみていただきたい。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


3. Benny the Butcher – Tana Talk 4

ニューヨーク州バッファローのラッパーBenny the Butcherの3rdアルバム。

マスターピースとの呼び声高い前作『Tana Talk 3』の続編だけに期待値/ハードルが上がりきっていた今作だが、肉屋は期待を裏切ることはなかった。
ソウルフル、あるいはGriselda十八番のグライミーなブーンバップの上で、Bennyはこれまでの苦悩や成功までの道のりを力強く気合の入ったラップでスピットする。
#10『Guerrero』では、過去作『Tana Talk 3』と『Burden of Proof』収録の全タイトルをリリックに散りばめるなど、遊び心を交えながら巧みなラップを繰り広げる。

フロウ、ケイデンス、ライムスキーム、ワードプレイと、どこをとっても高得点を叩き出すBennyのラップスキルに圧倒される1枚。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


2. Future – NEVER LIKED YOU

ジョージア州アトランタのラッパーFutureの9thアルバム。

彼にとって約2年ぶりのソロ作となる今作では、同郷アトランタのプロデューサーATL Jacobを全面的に起用。プロダクションにおいては、初っ端いきなり初音ミクサンプリングから始まり、ダーク且つハードなトラップビートを軸に、Drakeみ溢れるムーディなR&Bトラックまで、インストだけでも楽しめる作品に仕上がっている。

そんな良質なビートの上で、Futureは多彩なフロウを披露する。惚れ惚れするようなセクシーボイスから放たれる掠れたヴォーカルは、リリックの哀愁を増強し、聴く者の心を震わせる。
彼がBest Rappers Aliveの1人であることを再認識させてくれる、2022年ベストトラップアルバム。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


1. Roc Marciano & The Alchemist – The Elephant Man’s Bones

ニューヨーク・ロングアイランドのラッパー/プロデューサーRoc Marcianoと、カリフォルニア州ビバリーヒルズのプロデューサーThe Alchemistによるタッグアルバム。

シネマティックな雰囲気を醸し出すAlchemistのビートと、Roc Marciの冷たく燻し銀なラップが、今作をアートピースへと昇華させる。

レジェンドAlchemistのジャジーでメランコリックなビートの上で、思わずクスッと笑ってしまうようなユーモアを交えながら淡々とライミングしていくRoc Marci。そんな今作を一言で表現するなら(Roc Marciのマネージャーがそう提唱するように)”Criminal Jazz”と呼ぶのが相応しいかもしれない。次作があるならば是非、役割をスイッチして、Roc MarciのビートでAlchemistにラップしてほしいものだ。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Honourable Mentions of 2022:

・SZA – SOS
・Fly Anakin – FRANK
・JID – The Forever Story
・Giveon – Give Or Take
・Young Nudy – EA Monster
・Freddie Gibbs – $oul $old $eparately
・Rome Streetz – KISS THE RING
・Sauce Walka – Sauce Ghetto Gospel 3
・MIKE – Beware of the Monkey
・Stormzy – This Is What I Mean


プレイリスト『The 100 Best Songs of 2022』: https://music.apple.com/jp/playlist/the-100-best-songs-of-2022/pl.u-8aAVMXluoLMq970?l=en


Written by Riku Hirai