21 Savage & Metro Boomin – アトランタが誇るトラップ最高峰タッグ

今週金曜日にジョイント・アルバム『Savage Mode Ⅱ』のリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin。世界中のヒップホップファンが待望する同アルバムのリリースに先立って、彼らのキャリアや魅力について振り返っておきましょう。

21 Savage

1992年10月22日にイギリスのロンドンで生を受けた 21 Savage (21サヴェージ) こと Shéyaa Bin Abraham-Joseph は、7歳の頃に母親と共にアメリカのジョージア州アトランタに移り住みます。2005年には故郷ロンドンに1ヶ月程滞在、その後アメリカに再入国し、以降はアメリカで生活していた彼ですが、当時取得していたビザはアメリカ入国後約1ヶ月で期限が切れており、2019年に不法滞在の疑いで逮捕されるという事件もありました。

逮捕時のマグショット (2019)

7th grade (日本の中学1年生にあたる) の頃には、21 Savage は銃の所持で地域中の全ての学校から永久追放を言い渡され、ギャングの世界に足を踏み入れることとなります。ドラッグディールや強盗など非行を繰り返していた彼は、2013年に敵対するギャングメンバーから銃撃を受け、親友を失いました (彼自身も6発の銃弾を浴び、当時は死も覚悟したそうです)。この日が彼の21歳の誕生日であったことが、彼の名前 21 Savage の由来です。

親友の死を受けてラップを始めた 21 Savage は、2015年にデビューミックステープ『The Slaughter Tape』をリリース。タイトルからも察しがつくように、アトランタのトラップとシカゴのドリルをミックスしたかのような暴力的なサウンドとリリックが話題を呼び、Sonny Digital や Metro Boomin といった大物プロデューサーと繋がります。

同年には、Sonny Digital とのジョイントEP『Free Guwop』とセカンド・ミックステープ『Slaughter King』をリリースしました。

キャリア開始以降コンスタントに楽曲をリリースしてきた 21 Savage は、2016年、XXL Freshman Class に選出されます。

XXL 史上最も高い人気を博す同サイファーで一躍注目を浴びた 21 Savage は、同年 Metro Boomin とのジョイントEP『Savage Mode』をリリースします。

このEPで成功を収めた彼は、2017年に Epic Records とサインし、デビューアルバム『Issa Album』をリリース。同アルバムは US Billboard チャートにて2位デビューを飾り、更にその後リリースされた Post Malone との楽曲『Rockstar』は Billboard Hot 100 にて最高1位を記録しました。

同年末には Offset、Metro Boomin とのコラボ・アルバム『Without Warning』をリリース。

翌2018年末には Travis Scott や Childish Gambino、Post Malone らをはじめとする豪華ゲストを客演に招いたセカンド・アルバム『I Am > I Was』をリリース。初週13万1千ユニットを売り上げ、見事 US Billboard チャート1位デビューを飾った同アルバムは、2020 Grammy Awards のベスト・ラップアルバムにもノミネートされました。

Metro Boomin

1993年9月16日にミズーリ州セントルイスで生を受けた Metro Boomin (メトロブーミン) こと Leland Tyler Wayne は、母親にパソコンを買ってもらったことをきっかけに、13歳の頃にトラックメイクを始めます。高校生の頃には、FL Studio の前身である FruityLoops を用いて、毎日5つものビートを制作していたそうです。Twitter をはじめとする SNS を用いてラッパーとのコネクションを築き始めた彼は、実際に彼らと仕事をするために、母親に地元セントルイスからジョージア州アトランタ (車で片道約8時間) まで頻繁に送ってもらっていたといいます。

Metro Boomin 曰く、最初に彼のビートを使ってラップをした有名なアーティストは OJ Da Juiceman だそうです。彼はこのコネクションをきっかけに、高校3年生の頃には Gucci Mane と繋がり、高校卒業後にはアトランタに移りました。アトランタに移住後、彼はカレッジに進学するものの音楽活動に専念するために1セメスターで退学。その後、Jeezy や French Montana、Ludacris、Future など名だたる著名アーティストとのコラボを果たした彼は、2013年に Gucci Mane や Future、Young Thug らを客演に招いたデビュー・ミックステープ『19 & Boomin』をリリース。

その後 Future の楽曲を多数手掛けるようになった Metro Boomin は、2015年には Drake と Future のジョイント・ミックステープ『What a Time to Be Alive』のエグゼクティブ・プロデュースを務めるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たしました。

2016年には、Future の『Low Life (feat. The Weeknd)』や Migos の『Bad and Boujee (feat. Lil Uzi Vert)』、Kanye West の『Father Stretch My Hands, Pt. 1』など、数々のヒット曲を生んだ Metro Boomin は、21 Savage とのジョイントEP『Savage Mode』もリリースし、BET Hip Hop Awards にて最優秀プロデューサー賞を受賞しました。

2017年には、NAV との『Perfect Timing』、21 Savage & Offset との『Without Warning』、Big Sean との『Double Or Nothing』の3つのコラボ・プロジェクトをリリース。

飛ぶ鳥を落とす勢いでシーンのトップに駆け上がってきた Metro Boomin ですが、2018年、彼はSNSにて音楽活動の引退を表明します。

しかしその数ヶ月後、Nicki Minaj や Lil Wayne のニューアルバムに参加し、更には自身のソロデビュー・アルバム『NOT ALL HEROES WEAR CAPES』をリリース。同作は見事 US Billboard チャート1位デビューを飾りました。

  • Metro Boomin のプロデューサー・タグ一覧
  • Ayy, Lil Metro on that beat (by Kodak Black)
  • If Young Metro don’t trust you, I’m gon’ shoot you (by Future)
  • Metro (by Young Thug)
  • Metro be boomin’ (by Rich the Kid)
  • Metro Boomin want some more, n***a (by Young Thug)
  • This beat is so, so Metro (by Young Thug)
  • Young Metro, Young Metro, Young Metro (by Future)

21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲

ここからは、21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲を数曲ご紹介します。今週末の『Savage Mode Ⅱ』のリリースに備えて、今一度彼らの過去作を振り返ってみましょう。

21 Savage – Drip (prod by TM88 & Metro Boomin)

I’m in the kitchen cooking crack like its bacon, 

キッチンでベーコンみたいにクラック (コカイン) を調理している

these p***y ass rappers they be faking

あいつらクソ共はフェイクだ

I’m 21 Savage ain’t no faking,

俺は 21 Savage、本物だぜ

AK-47 get the shaking

AK-47 が身震いしている

2人の初期コラボ曲。21 Savage は現在のスタイルより高めのトーンでラップし、TM88 と Metro Boomin が手掛けるシンプルかつ不穏なビートが 21 Savage のラップの緊張感を助長しています。

21 Savage – Supply (prod by Metro Boomin, Southside & Sonny Digital)

I am 21, young savage

俺は21歳 若い「savage (野蛮、冷酷)」だ

Try me, and you’re going to hell

かかってこいよ 地獄行きだぜ

気怠そうな声で淡々とラップするイメージのある彼ですが、この楽曲では高めの声や変則的なフロウを用いており、Metro Boomin を含む人気プロデューサー3人が手掛ける邪悪なビートと 21 Savage の遊びのあるラップが上手くマッチした1曲です。

21 Savage – Deserve (prod by Metro Boomin)

Me and Johny tried to rob everything

Johny と一緒に全てを盗もうとしていた (*1)

Mookie tried to tell us, do the right thing

Mookie は俺たちに「正しいことをしろ」って言ってたんだ

Larry died man I cried twice

Larry が死んだ時、2回泣いた

(中略)

RIP Tayman that’s why I got that knife

Tayman、安らかに眠ってくれ 俺もナイフのタトゥーを入れたよ (*2)

I don’t get excited about the fame

名声なんてどうだっていい

B***h I’m still with the same gang,

俺は今でも同じギャング (ブラッズ) に所属している

b***h I still claim the same thing

今でも俺の主張はあの頃のままだ

(*1) 21 Savage の親友 Johny は、この強盗の最中に銃撃を受け亡くなった。

(*2) Tayman は 21 Savage の実の弟。21 Savage の額のダガー (ナイフ) のタトゥーは、ドラッグディール中に銃殺された Tayman の額に入っていたもの。

弟や友人を失った悲しい過去を歌った1曲。Metro Boomin の感傷的なビートに乗る 21 Savage の泣き声に近いラップから、彼が生きてきたストリートライフの過酷さが鮮明に伝わってきます。

21 Savage & Metro Boomin – No Heart

You was with your friends playin’ Nintendo

お前が友達と任天堂 (のゲーム) で遊んでいる間

I was playin’ ’round with that fire

俺は銃を持って遊びまわってた

Seventh grade, I got caught with a pistol

1の頃にはピストル所持で捕まって

Sent me to Panthersville

青少年施設に送られた

Eighth grade, started playin’ football

2の頃にはフットボールを始めたけど

Then I was like fuck the field

すぐ辞めたよ

Ninth grade, I was knocking n***as out

3の頃には野郎をぶっ倒した

N***a like Holyfield

Holyfield みたいにな (*1)

(*1) Evander Holyfield : アラバマ州出身のプロボクサー

Metro Boomin、Southside、CuBeatz の3人が手掛けるシンプル且つダークなサウンドの上で、21 Savage が持ち前の低い声で緊張感のあるラップを披露します。ストリートのリアルを歌う、まさに「No Heart」なリリックも特徴的な1曲です。

21 Savage – Bank Account (prod by Metro Boomin & 21 Savage)

I got 1-2-3-4-5-6-7-8 M’s in my bank account

俺の銀行口座には 1-2-3-4-5-6-7-800万ドル入ってる

数え歌的フックが耳に残る1曲。Coleridge-Taylor Perkinson の『Flashbulbs』という楽曲のギターリフをサンプリングした Metro Boomin のダークなビートと、21 Savage の淡々としつつもキャッチーなラップが特徴的な同曲は、Billboard Hot 100 にて最高12位を記録。彼らの抜群の相性を更に世間に知らしめるきっかけとなった1曲です。

21 Savage, Offset & Travis Scott – Ghostface Killers (feat. Travis Scott)

I got AK, SK, HK, broad day

白昼堂々と銃を持ち歩いている (*1)

You a fuckboy, we ain’t with the horseplay

お前はクソだ 俺たちはふざけた真似はしないぜ

Shrimp-ass n***a, did you do your chores today?

ダサいお前ら、今日の雑用は済ませたか?

Do you wanna take a ride with the coroner today?

お前らは今日死にたいのか? (*2)

(*1) それぞれ銃の名称。AK = AK-47、SK = SKS、HK = MP5 や G36 などの Heckler & Koch 社製の銃。

(*2) Coroner は「検死官」の意。つまり「検死官と共に車に乗る」ことは「死」を意味する。

Metro Boomin らしい重厚でダークなビートの上で、Offset、21 Savage、Travis Scott という豪華メンバーが順番にヴァースを披露する1曲。圧倒的な迫力を誇る同曲を収録した 21 Savage、Offset、Metro Boomin によるコラボ・アルバム『Without Warning』は、US Billboard チャートにて初週4位デビューを飾りました。

Metro Boomin – Don’t Come Out the House (feat. 21 Savage)

Bang outside, I hang outside

外では銃撃 俺は行くぜ

Don’t come out the house ’cause the gang outside

家から出るんじゃねえぞ ギャングがいるからな

21 Savage が敵対するギャングに対して威圧的なラップをする1曲。イントロが終わり1ヴァース目に突入するタイミングで、Metro Boomin のビートが重厚なサウンドに切り替わり、それと同時に 21 Savage の緊迫感漂うウィスパー (囁き声) フロウが繰り出されます。サウンド、リリック共に圧倒的な緊張感が漂う、2人の相性が抜群に発揮された1曲です。

おわりに

トラップシーン最高峰タッグとの呼び声も高い 21 Savage と Metro Boomin の抜群の相性、ご堪能いただけたでしょうか。

今週末にリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin によるニューアルバム『Savage Mode Ⅱ』のカバーアート

Cash Money や No Limit など、Pen & Pixel 作品を彷彿とさせる『Savage Mode Ⅱ』のカバーアートには賛否両論あるようですが、同アルバムも2000年代の名盤と並ぶ、もしくはそれらを超えてくるような歴史的な1枚になること間違いなしでしょう。

Written by Riku Hirai

TyFontaine – Internet Money が誇る期待の新星

先月リリースされた Internet Money のニューアルバム『B4 The Storm』に参加し、近頃ますます注目を浴びている新人ラッパー TyFontaine。今回は、そんな若手注目株の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。

生い立ち

TyFontaine (タイフォンテイン) こと Julius Terell は、アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.で生まれ育ちました。

My household was pretty normal. 

俺の家庭は至って普通だったよ

My mom’s a dentist, my dad’s a lawyer. I was the only child.

歯科医の母と法律家の父がいて、俺は1人っ子だった

I got kicked out of school a couple times. Played sports. 

何度も学校から追い出されたよ あとはスポーツ (ラクロス) もしていた

I was a kid doing kid stuff, doing hoodrat shit with my friends. 

俺はやんちゃなガキだった 友人とくだらないことばっかりしていたんだ

本人は「普通」と語るものの比較的裕福な家庭で育った TyFontaine は、高校生の頃はスニーカーショップで働いていたそうです。


TyFontaine が働いていたスニーカーショップ「Kickk Spott DC」(現在は閉店済み)

このスニーカーショップは多くの NBA プレーヤーやラッパーが訪れる人気店で、店の裏にレコーディングスタジオを設けており、TyFontaine はその環境に刺激を受けてラップを始める決意をしたそうです。

キャリアの開始 (2018~2019年)

幼い頃は、R&B (Mary J. Blige、Neyo、Usher) やゴスペル (Marvin Sapp)、またバハマ出身の母親の影響でカリプソ (カリブ海の民族音楽) を主に聴いていたという TyFontaine は、5th Grade (日本の小学5年生にあたる) の頃にヒップホップを聴き始めたそうで、彼が初めて聴いたラッパーは、Lil Wayne だったそうです。

彼は、前述したスニーカーショップのスタジオにて Q Da Fool がセッションしている場面を目撃し、「自分にもできる」と確信したといいます。

When I started, I knew that it was possible. 

ラップを始めたとき、俺にもできるって分かった

(中略)

I thought “if they could do it, I could do it” type of thing.

「彼らにできるなら俺にもできる」って思ったんだ

彼は、2018年3月に Tyler Fontaine 名義でラップを始めました。

Tyler Fontaine – Precision (feat. Nuge)

シングルやミックステープ、Clockwork-Productions から公開したミュージック・ビデオなどで頭角を現した彼は、2018年10月に、Taz Taylor 率いる Internet Money Records と契約を結びます。

その後も No Jumper からミュージック・ビデオを公開したり、立て続けにミックステープをリリースしたりと精力的に音楽活動に取り組んでいた彼は、2019年リリースのミックステープ『Waiting on Ascention』や EP『Virtual World』で更に注目を浴びることとなります。

ミックステープ『Waiting on Ascention』

Internet Money の Nick Mira や DT、JRHitmaker らがプロデュースを手掛けたミックステープ。

EP『Virtual World』

Taz Taylor、Nick Mira のエグゼクティブ・プロデュースに加え、Jetsonmade や 10k.Caash らも参加した EP。

自身の音楽性を「versatile, carefree, easy-going (多才で、楽天的で、陽気)」と表現する彼の楽曲の特徴は、Juice WRLDLil Uzi Vert らの魅力を凝縮したようなメロディアスでエモーショナルなフロウです。彼は、いわゆる「エモラップ」に分類される他のラッパーよりもポップで明るいメロディラインと歌唱スタイルを用いており、どんなトラックも自分のものにしてしまう力を持っています。

更なる躍進 (2020年~)

そんな彼は2020年4月、Taz Taylor、Nick Mira を中心に、Jetsonmade や PVLACE、Bugz Ronin ら人気プロデューサー陣を起用したミックステープ『1800』をリリースします。

12曲目の『Moments』では、80年代シンセウェイブ的なトラックを用いて持ち前のハイピッチフロウを披露しており、The Weeknd と Playboi Carti のスタイルをミックスしたかのようなサウンドを楽しむことができます。

Moments

2020年8月には、自身が所属するレーベル Internet Money の1stアルバム『B4 The Storm』に4曲で参加し、Cochise や 24kGoldn、TheHxliday らとの共演も果たしました。

Internet Money のアルバムでの活躍により一層注目を浴び始めた彼は、本日10月16日、Lil Keed や Coi Leray、The Hxliday らを客演に招いたニュープロジェクト『We Ain’t The Same』をリリースしました。

今後、デビューアルバム『Beautiful Michi Girl』のリリースも控えており、ますます活躍するであろう期待の新星 TyFontaine から目が離せません。

Written by Riku Hirai

XXL FRESHMAN CLASS 2020 : 選出された12人のラッパーたち

毎年恒例の注目アーティスト選出企画 XXL FRESHMAN CLASS。本日遂に発表された今年度の選出ラッパー12人についてまとめました。

Polo G

【本名】Taurus Tremani Bartlett

【生年月日】1999年1月6日

【出身地】イリノイ州シカゴ

シカゴ北部の Old Town エリアにて、両親と3人の兄妹とともに生活していた Polo G は、2016年から楽曲制作を開始。幼い頃は、Lil Wayne や 2Pac、Gucci Mane、Lil Durk、Chief Keef らの楽曲を聴いていたという。2018年リリースの『Finer Things』のバイラルヒットをきっかけに、2019年には『Battle Cry』、『Pop Out (feat. Lil Tjay)』と立て続けにヒットを生み出し、それらの楽曲を収録したデビューアルバム『Die a Legend』は US Billboard にて6位デビュー。

2020年には、セカンドアルバム『THE GOAT』をリリースし US Billboard 2位デビューを飾った。

Polo G についての記事はこちらから↓

【代表曲】

Pop Out (feat. Lil Tjay)

https://www.youtube.com/watch?v=g-uW3I_AtDE

Flex (feat. Juice WRLD)

Jack Harlow

【本名】Jackman Thomas Harlow

【生年月日】1998年3月13日

【出身地】ケンタッキー州ルイビル

Jack Harlow は、12歳の頃にノートパソコンとビデオゲーム「Guitar Hero」付属のマイクを用いてラップを始めたそう。キャリア初期は Mr. Harlow 名義で活動しており、友人と共に Moose Gang なるコレクティブも結成していた。

2015年に自身初の EP『The Handsome Harlow』をリリースした後、シングルやミックステープを次々とリリース。2016年頃には多くのメジャーレーベルから契約のオファーを受けるものの全て断っていたそう。

2018年にはジョージア州アトランタに引っ越し、生活費を稼ぐためにカフェで働いていた Harlow は、その数ヶ月後に DJ Drama と Don Cannon 率いる Generation Now と契約を結ぶこととなる。同年、彼はメジャーレーベルからの初のミックステープ『Loose』をリリース。翌2019年にはミックステープ『Confetti』をリリースし、USツアーも開催した。

2020年1月にはシングル『WHATS POPPIN』をリリース。Lyrical Lemonade の Cole Bennett 監修によるミュージック・ビデオが6000万再生を記録し、世界中に一躍名を轟かせた。同年3月には最新プロジェクト『Sweet Action』を、6月には DaBaby、Tory Lanez、Lil Wayne をフィーチャーした『WHATS POPPIN (Remix)』をリリースしている。

【代表曲】

GHOST

WHATS POPPIN (Remix) [feat. DaBaby, Tory Lanez & Lil Wayne]

NLE Choppa

【本名】Bryson Lashun Potts

【生年月日】2002年11月1日

【出身地】テネシー州メンフィス

高校生までバスケットボールに打ち込んでいた NLE Choppa は、14歳の頃にフリースタイル・ラップを始め、15歳の頃から本格的に音楽活動に取り組み始める。この頃、明確な時期や理由は明かされていないが、彼は少年拘置所に拘留されていたそうで、その経験が彼の人生の転機になったという。

2018年、彼は YNR Choppa という名義の元、ファースト・シングル『No Love Anthem』と、デビュー・ミックステープ『No Love the Takeover』をリリース。また、Choppa が所属するコレクティブ Shotta Fam の楽曲『No Chorus Pt.3』での彼の印象的なヴァースとダンスが話題を呼び、一躍名を馳せる。

NLE (No Love Entertainment) Choppa に改名した彼は、2019年にシングル『Shotta Flow』をリリース。同曲のミュージック・ビデオがわずか1ヶ月で1000万再生を記録し、Billboard Hot 100にて96位デビューを果たした。

その後も、シングル『Shotta Flow』シリーズを続々とリリースし、デビュー EP『Cottonwood』をリリース。2020年にはデビューアルバム『Top Shotta』もリリースした。今年のフレッシュマン選出者の中では最年少 (選出時点で17歳) である。

【代表曲】

Shotta Flow

Walk Em Down (feat. Roddy Ricch)

Rod Wave

【本名】Rodarius Marcell Green

【生年月日】1999年8月27日

【出身地】フロリダ州セント・ピーターズバーグ

E-40 や Chingy、Boosie Badazz、Kanye West、Kevin Gates らの音楽を聴いて育ったという Rod Wave は、5th-grade (日本の小学5年生にあたる) の頃に音楽活動を開始した。

高校卒業の年でもあった2017年に初のミックステープ『Rookie of the Year』をリリース。その後、ミックステープ『Hunger Games』シリーズで人気を集め、2019年リリースのデビューアルバム『Ghetto Gospel』は US Billboard 14位デビューを記録した。

更に2020年リリースのセカンドアルバム『Pray 4 Love』は初週で7.2万ユニットを売り上げ、US Billboard 2位デビューを飾った。

【代表曲】

Heart on Ice

Girl of My Dreams

Baby Keem

【本名】Hykeem Jamaal Carter, Jr.

【生年月日】2000年10月22日

【出身地】ネバダ州ラスベガス

Kendrick Lamar の従兄弟としても知られる Baby Keem は、その Kendrick を擁するビッグ・レーベル Top Dawg Entertainment 所属のアーティストの作品に多数クレジットされている。その例として、Kendrick Lamar の『Black Panther: The Album』や Jay Rockの『Redemption』、ScHoolboy Q の『Crash Talk』、Beyoncé の『The Lion King: The Gift』等での、ソングライティングやプロダクションへの参加が挙げられる。

声変わりを待ってからラップを始めたという彼は、2018年に『No Name』と『Hearts & Darts』の2つのEPをリリースしたのち、ミックステープ『The Sound of a Bad Habit』をリリース。その後、2019年にリリースしたシングル『Orange Soda』が2020年にかけてヒットし、US Billboard にて98位を記録した。同曲収録のミックステープ『Die for My Bitch』も多くの音楽メディアやアーティストから称賛を受け、一躍注目を浴びた Keem は、Kendrick Lamar と Dave Free による新企画『pgLang』のイントロ・ビデオにも起用され話題となった。

【代表曲】

ScHoolboy Q – Numb Numb Juice

Orange Soda

Lil Keed

【本名】Raqhid Jevon Render

【生年月日】1998年3月16日

【出身地】ジョージア州アトランタ

学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた Lil Keed は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組み始める。

Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 同テープがストリートヒットし Young Thug の目に留まった彼は、Young Stoner Life Records と契約を結ぶ。同年には『Slime Avenue』、『Trapped on Cleveland 2』、『Keed Talk to ‘Em』の3つのミックステープをリリース。『Keed Talk to ‘Em』にはTrippie Redd や 21 Savage、Lil Yachty、Lil Durk、Brandy ら大物アーティストが多数参加した。

2019年にはデビューアルバム『Long Live Mexico』を、2020年にはセカンドアルバム『Trapped on Cleveland 3』をリリース。ネクスト Young Thug との呼び声も高い若手ラッパーの1人である。

Lil Keed についての記事はこちらから↓

【代表曲】

Nameless

Wavy (feat. Travis Scott)

Mulatto

【本名】Alyssa Michelle Stephens

【生年月日】1998年12月22日

【出身地】ジョージア州アトランタ

オハイオ州コロンバスで生を受けた Mulatto は、2歳の頃にジョージア州アトランタに移住。彼女は10歳の頃にラップを始め、2016年には、若手ラッパーたちが8週間にわたり力を競い合うアメリカのリアリティTVシリーズ『The Rap Game』に参加、見事優勝を果たした。その結果として彼女は So So Def Records との契約権を勝ち取るが、契約金が少ないという理由でこれを断り、インディでの活動を選んだ。同年には Georgia Music Awards にて Youth Hip Hop/R&B Award も受賞した。

2017年頃から EP やミックステープを継続的にリリースしてきた彼女は、2020年に RCA Records と契約を結び、Gucci Mane や NLE Choppa らとの共演も果たした。

【代表曲】

No Panties

Muwop (feat. Gucci Mane)

Calboy

【本名】Calvin Woods

【生年月日】1999年4月3日

【出身地】イリノイ州シカゴ

音楽活動を始める前は絵を描いて過ごしていたという彼は、2015年から Kidd Cal 名義で楽曲を公開し始める。

2017年には初のミックステープ『Anxiety』を、2018年には Paper Gang Inc. からセカンドミックステープ『Calboy the Wild Boy』をリリース。同年、シングル『Envy Me』がダンスチャレンジによりバイラルヒットし、ますます知名度を上げた彼は、Kodak Black のツアーへの参加も果たした。

2019年には、RCA Records と Polo Grounds Music からEP『Wildboy』をリリース。Moneybagg Yo や Lil Durk、Yo Gotti、Polo G、Meek Mill、Young Thug らをフィーチャーした同作は、US Billboard チャートにて最高30位を記録した。Chance the Rapper のアルバムへの参加も果たした彼は、2020年、EP『Long Live the Kings』をリリース。同郷シカゴのラッパー Lil Durk から強く影響を受けた若手ラッパーの1人である。

Calboy についての記事はこちらから↓

【代表曲】

Envy Me

Givenchy Kickin (feat. Lil Baby & Lil Tjay)

CHIKA

【本名】Jane Chika Oranika

【生年月日】1997年3月9日

【出身地】アラバマ州モンゴメリー

CHIKA は幼い頃から音楽の才能を認められ、バークリー音楽大学への進学も認められていたものの、高額な学費を払うことができずサウスアラバマ大学に進学した。

アメリカ大統領選の翌日にアフリカ系アメリカ人としての訴えを Instagram にポストしたり、トランプ支持者として知られる Kanye West を皮肉るフリースタイルラップを披露したりと、政治関連の動きで注目を集めた彼女は、2019年にデビューシングル『No Squares』をリリース。同年夏には Warner Records と契約を結び、さらに2つのシングルを発表した。

2020年には EP『Industry Games』をリリース。彼女は NPR の Tiny Desk Concert にも出演するなど、今最も注目されているアーティストの1人である。

【代表曲】

Can’t Explain It (feat. Charlie Wilson)

CROWN

Fivio Foreign

【本名】Maxie Lee Ryles III

【生年月日】1990年3月29日

【出身地】ニューヨーク州ブルックリン

2011年に Lite Fivio 名義でラップを始めた彼は、2013年に Fivio Foreign に改名し、800 Foreign Side なるコレクティブ を結成。

2019年リリースの EP『Pain and Love』収録の『Big Drip』のバイラルヒットでようやく注目を浴びた彼は、Columbia Records と100万ドル (約1億円) の契約を結んだ。

2020年、EP『800 BC』をリリースした彼は、Drake のアルバムへの参加も果たした。今年のフレッシュマン選出者の中では最年長 (選出時点で30歳) である。

Fivio Foreign についての記事はこちらから↓

【代表曲】

Big Drip

K Lo K (feat. Tory Lanez)

24kGoldn

【本名】Golden Landis Von Jones

【生年月日】2000年11月13日

【出身地】カリフォルニア州サンフランシスコ

カリフォルニア州ロサンゼルスで生を受け、後にサンフランシスコに移住した彼は、2019年にリリースしたシングル『Valentino』のバイラルヒットで一躍ブレイク。彼は、同曲のヒットを受け LLC、Columbia Records と契約を結び、デビュー EP 『Dropped Outta College』をリリース。彼の楽曲『Game on Your Phone』が人気ゲーム『NBA 2K20』のサウンドトラックに選ばれるなど、西海岸出身の注目ラッパーの1人である。

【代表曲】

Valentino

Mood (feat. iann dior)

Lil Tjay

【本名】Tione Jayden Merritt

【生年月日】2001年4月30日

【出身地】ニューヨーク州サウスブロンクス

15歳の頃に強盗罪で逮捕され、服役中にリリックを書き始めたという Lil Tjay は、2017年にデビュー曲『Resume』をリリース。同曲や、その後リリースした『Brothers』がバイラルヒットし、さらに Polo G との楽曲『Pop Out』は US Billboard Hot 100 チャートにて最高11位を記録。

2019年にはデビュー・アルバム『True 2 Myself』(US Billboard 5位デビュー) を、2020年には EP『State of Emergency』をリリースした。

Lil Tjay についての記事はこちらから↓

【代表曲】

F.N

Zoo York (feat. Fivio Foreign & Pop Smoke)

Jetsonmade (ミュージックキュレーター選出)

【本名】Tahj Morgan

【生年月日】不詳

【出身地】サウスカロライナ州コロンビア

サウスカロライナ州コロンビアで生を受けた彼は、2010年 (当時13歳) 頃から Garageband を使い楽曲作りを始め、翌年2011年には本格的にトラックメイクを始める。

21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加をきっかけに、DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たし、彼のコラボレーターとしてよく知られる DaBaby の楽曲を手掛けるようになる。DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。

2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たした。2020年には、Playboi Carti のシングル『@ MEH』や J. Cole のシングル『Lion King on Ice』の制作にも携わるなど、現行ヒップホップシーンを代表するプロデューサーの1人である。

Jetsonmade についての記事はこちらから↓

【代表曲】

DaBaby – Suge

Playboi Carti – @ MEH

Written by Riku Hirai

Lil Keed – アトランタが誇る次世代のラップスター

Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するジョージア州アトランタ出身の注目ラッパー Lil Keed (リル・キード)。XXL Freshman Class 2020の有力候補の1人であり、本日セカンド・アルバム『Trapped On Cleveland 3』をリリースした彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。

生い立ち

I come from the jungle where you don’t survive. 

他の奴らは生き抜くことができないような、ジャングルみたいな場所からやって来たんだ

1998年3月16日、ジョージア州アトランタにて生を受けた Lil Keed こと Raqhid Jevon Render は、幼少期を Forest Park で過ごした後、Cleveland Ave に引っ越します。この Cleveland Ave はアトランタのゾーン3に位置しており (アトランタは、警察によって1~6までの管轄地区に分けられており、アトランタのスター Young Thug もゾーン3で生まれ育ちました) 、彼は6人の兄弟とともに貧しく過酷な環境下で生活していたそうです。

キャリアの開始とミックステープ

学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた彼は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組むようになります。

Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 Young Thug の影響を強く感じさせるハイピッチで歌うスタイルが彼の特徴です。

亡き親友 Rudy が繋いでくれたというプロデューサー Mooktoven とタッグを組んだ同作が、彼らの地元ゾーン3を中心に人気を集め、ストリートヒットとなります。

このヒットを機に、Keed は憧れのラッパー Young Thug に自身の楽曲を聴いてもらうチャンスを掴みます。

ゾーン3に訪れた Young Thug に、同作収録の『Bag』を聴かせる Lil Keed。

この出来事を経て、Keed は Young Thug に気に入られ、後に Young Stoner Life Records (以下 YSL Records) と契約を結ぶこととなります。

2018年、ミックステープ『Slime Avenue』や『Trapped On Cleveland 2』のリリースでますます注目を集めた彼は、同年末に YSL Records からミックステープ『Keed Talk to ‘Em』をリリースします。

同作には Trippie Redd や 21 Savage、Lil YachtyLil Durk、Brandy ら大物アーティストが多数参加し、Lil Keed はアトランタから世界へ、一躍名を馳せることになります。

Nameless

she see the YSL chain shining

彼女が俺の輝く YSL チェーンを見ている

Young Thug のようなハイピッチ・フロウとキャッチーなコーラスが特徴的な1曲。女性との関係や掴んだ成功について歌った同曲がバイラルヒットし、US Billboard チャートにて最高30位を記録、後にゴールド認定されます。

デビュー・アルバム『Long Live Mexico』

2019年6月、Lil Keed は待望のデビュー・アルバム『Long Live Mexico』をリリースします。タイトルの『Long Live Mexico』とは、同年始に亡くなった彼の友人 Mexico に追悼の意を表したものです。

Young Thug や Gunna、NAV、Moneybagg Yo、Lil Uzi VertYNW Melly、Roddy Ricch らを含む13名を客演に迎えた同作は、US Billboard チャートにて最高26位を記録します。

Snake

CuBeatz & Pyrex Whippa プロデュースによるウクレレのようなストリングスを用いたスロウなトラックと、「Snake」を連呼するだけのシンプルなフックが特徴的な1曲。2バース目入りの苦しそうなハイピッチ・フロウが彼の持ち味で、まさに Young Thug のハイピッチ・パートをそのまま受け継いで進化させたかのようなスタイルを披露します。

Pull Up (feat. Lil Uzi Vert & YNW Melly)

Producer 20 & Jetsonmade プロデュースによる笛系シンセを用いたビートの上で、Lil Keed、Lil Uzi Vert、YNW Melly の3人が金や車、女性などについて歌う1曲。メロディアスなラップを得意とする彼らが、それぞれのフロウで魅力を発揮しています。

様々なアーティストとの共演

2018年から次々と作品をリリースし、憧れの Young Thug に認められたのち YSL Records と契約、更には XXL Freshman Class 2019 にもノミネートされるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いでスターダムを駆け上がってきた Lil Keed。そんな彼は、YSL Records やアトランタのラッパーを中心に、様々なアーティストと共演するようになります。

Young Thug – Goin Up (feat. Lil Keed)

まずは Keed をフックアップした Young Thug との1曲。彼らが出会って間もない時期に制作した楽曲ですが、2人は既に最高のコンビネーションを発揮しています。Thug がイントロで「Keed, yeah」とシャウトアウトする部分や、似たような声質から放たれる両者のハイピッチ・フロウから、彼らが本当の親子だと勘違いするファンもいたほどです (年齢的にはあり得ませんが)。実際 Thug は、Keed を実の息子のように可愛がっています。まさに Keed は、アトランタ・ヒップホップシーンの結束力と Young Thug の多大な影響力が生んだネクストスターといえるでしょう。

※Young Thug がシーンに与えた影響については、以下の記事をご覧ください。

Jacquees – Hot For Me (feat. Lil Keed & Lil Gotit)

ジョージア州ディケーターの R&B シンガー Jacquees の1曲に、Keed は実弟の Lil Gotit と共に参加しています。Keed のシグネチャーである「Keed talk to ’em」の連呼で始まる彼のヴァースは、地声のラップからアドリブと共にハイピッチ・フロウに切り替わっていく展開で、R&B サウンドにしっかり順応しています。優れた歌唱力と美しい歌声を持つ Jacquees と、それに負けじと必死にハイピッチで歌う Keed の2人だからこそ成せる絶妙なコンビネーションです。

88GLAM – Bankroll (feat. Lil Keed)

カナダ・トロントのヒップホップ・デュオ 88GLAM との1曲。Keed は、お得意のハイピッチ・フロウに加え Young Thug のようなダミ声も披露しており、客演にも関わらず主役級の存在感を放っています。Keed はどの楽曲でも同じようなラップをしていると思われがちですが、自分のスタイルを貫きながらも随所に様々な工夫を凝らしており、インタビューでも以下のように語っています。

After just every day being in the studio, trying new things. 

俺はいつも新しいことを試してる

I don’t want people to be like, ‘He sounds the same on every song, that shit’s boring!’ 

「Keed の曲は全部同じでつまらない」って思われたくないんだ

I can sing. I can do straight rap. I do melodies. 

俺は歌えるし、ラップも出来るし、メロディも作れる

I do rockstar shit. It’s real genuine.

ロックだって出来るよ これはマジなんだ

REVOLT

Zaytoven, Lil Keed & Lil Yachty – Accomplishments

同郷アトランタの Zaytoven、Lil Yachty との1曲。Zaytoven のダークなビートと Lil Yachty の脱力ラップ、そして Keed のハイピッチ・フロウと、良い意味で不安感を煽られる楽曲です。 彼らは2020年2月に同曲を収録したコラボ・プロジェクト『A-Team』をリリースしています。未聴の方は是非。

Tee Grizzley – Slime (feat. Lil Keed)

ミシガン州デトロイトのラッパー Tee Grizzley との1曲。Tee Grizzley のハードなラップに続いて、Keed はハイテンポなビートを乗りこなしながら自由なラップを披露します。真面目にラップする Tee Grizzley と、奇妙なアドリブやフロウを聴かせる Keed の相性が意外にもマッチした楽曲です。

johan lenox, Lil Keed & Kota the Friend – throwback thursday

マサチューセッツ州ボストンのシンガー/プロデューサー johan lenox との1曲。Keed とオーケストラ・サウンドという一見意外な組み合わせですが、彼は johan lenox にも Kota the  Friend にもない新たなエッセンスを楽曲に加えており、三者三様のコントラストが魅力的な楽曲です。このようにヒップホップ (トラップ) 以外の楽曲にも起用される Keed は、同じく様々なジャンルの客演をこなす Young Thug に近い立ち位置を確立しつつあるのではないでしょうか。

おわりに

今回はアトランタの注目ラッパー Lil Keed についてまとめてみました。いかがだったでしょうか。

2019年、そして2020年と2年連続で XXL Freshman Class の候補者にノミネートされており、これからますます活躍が期待されている Lil Keed。実弟 Lil Gotit と共にアトランタのシーンを背負うビッグスターになる日も近いかもしれません。

最後までお読みいただきありがとうございました。

Written by Riku Hirai

ヒップホップと Rolex

過酷な環境を生き抜き、音楽で成功することを夢見るラッパーたち。ヒップホップ業界では、苦労の末に掴んだ成功を「フレックス (自慢)」することが文化となっており、一種の美徳とされています。そんな彼らのフレックス文化の中で、重要な役割を果たすのが高級腕時計です。今回は、その中でも圧倒的な人気を誇る腕時計メーカー「Rolex」とヒップホップの関係性について考察します。

Rolex とは

まずは Rolex という腕時計メーカーについて、簡単にご説明します。

Rolex は、ドイツ人の Hans Wilsdorf が1905年に創業したスイス発の腕時計ブランドです。創業当初の同社の腕時計の精度は決して高くはありませんでしたが、創業者である Hans Wilsdorf の熱心な研究によりムーブメントの品質向上に成功。その結果、商標登録からわずか2年後に、腕時計として初のクロノメーター認証 (高い品質を認められた時計だけに与えられる称号) を受けるという快挙を達成します。

Rolex の創業者 Hans Wilsdorf

Rolex を語るにあたって欠かせないのが、同メーカーが生み出した3つの発明です。

1. オイスターケース

1926年に開発された「オイスターケース」は、その名の通り牡蠣の殻のように固く閉じる頑丈な時計ケースのことです。

当時、水は腕時計の最大の弱点であり、防水時計はほとんど認知されていませんでした。そんな中、Rolex はイギリスのオイスター社が開発したオイスターケースを採用し、完全防水の腕時計を開発しました。

2. パーペチュアル

「永遠」を意味する「パーペチュアル」は、1931年に開発された自動巻き上げ機能です。当時は手巻き時計が主流であったため、人々は数日おきに手動で時計を巻き直していました。そんな中、腕を振るだけで自動でゼンマイが巻き上がる革命的な仕組みが発明され、手間を省くだけでなく、オイスターケースの防水機能を更に向上させることとなりました。

3. デイトジャスト

1945年に開発された「デイトジャスト」は、午前0時になると自動で日付が変わる日付表示機能のことです。

日付表示機能自体は当時から存在していましたが、自動で日付が変わる機能と、今現在よく見られる文字盤上の小窓に日付が表示されるデザインは、この発明がきっかけで定着したものです。

精度の追求と3つの発明によって信頼を獲得した Rolex は、ドレスモデルからスポーツモデルまで、様々な種類のモデルを輩出しながら今日まで進化を続けてきました。

ヒップホップと Rolex

1900年前半から徐々に信頼を獲得し、世界を代表する腕時計メーカーとなった Rolex は、1970年代に誕生したヒップホップ文化において重要な役割を担うことになります。

ここからは、Rolex について言及した代表的な楽曲をご紹介しながら、その関係性について見ていきます。

The Notorious B.I.G. – Who Shot Ya?

Pussy when I want, Rolex on the arm

いつでも女を呼べるし、腕には Rolex 

ニューヨークのキングとの呼び声高い Biggie の楽曲『Who Shot Ya?』では、ラッパーとしての成功の象徴として Rolex がネームドロップされています。宿敵 2Pac へのディス曲として疑惑を呼んだ同曲ですが、1994年の 2Pac 銃撃事件以前、彼らは親しい交友関係にありました。実は、Biggie が始めて手に入れた Rolex は、2Pac からプレゼントされたものだったそうです。

親しい仲間への友好の証として Rolex を贈った 2Pac は、Rolex 愛好家としても知られており、同メーカーをヒップホップシーンに浸透させたラッパーの1人です。

2Pac が愛用していたのは、ダイアモンドが施されたイエローゴールドの Day Date (デイデイト)。Rolex の高級ラインにのみ使用される「President bracelet」を用いた Day Date は Rolex が誇る最上位ドレスモデルであり、定価にしておよそ300万円から1000万円を超えるものまで存在します。ちなみにこの「President bracelet」とは、1956年に当時のアメリカ大統領アイゼンハワー氏に Day Date が贈られたことがきっかけで付けられた名称で、ヒップホップにおいても Rolex を意味するスラングとして「President」というワードが頻繁に用いられます。

Warren G – Regulate

I’m gettin’ jacked, I’m breakin’ myself

俺はやられる ボロボロになるんだ

I can’t believe they takin’ Warren’s wealth

Warren の (俺の) 物を奪おうとしてくるなんて信じられない

They took my rings, they took my Rolex

奴らは俺のリングと Rolex を奪った

I looked at the brother, said “Damn, what’s next?”

奴らを見て言ったんだ 「次はなんだ?」ってな

G Funk の流行を支えた Warren G が1994年にリリースした名曲『Regulate』でも、音楽で成功を収めた結果手に入れた「Wealth = 富」として、Rolex がネームドロップされています。「自らが敵に襲われ、財産である Rolex を奪われてしまう」という、強さを誇示することが一般的であるヒップホップ界においては珍しいラインですが、ヒップホップ全盛期として知られる90年代においても Rolex は富の象徴として扱われていたことが分かります。

2Pac をはじめとした人気ラッパーによる着用及びリリックでの言及により、アメリカ中でいっそう人気を獲得した Rolex の腕時計。当時から、立派な家、高級車、高級腕時計の3つを手に入れることが成功の証とされていたアメリカ社会において、Rolex をはじめとする高級腕時計を自慢することがラッパーたちの間でも流行していきました。

Nas – Nas Is Like

Came a long way from blasting TECs on blocks

ゲトーで銃を発砲してた頃から長い道のりを歩んできた

Went from Seiko to Rolex, 

SEIKO も今じゃ Rolex だ

Nas は自身の代表曲『Nas Is Like』にて、このようにラップします。平均して約1桁以上の定価の差がある2つの時計メーカーを比較することで、自身がどれほど成り上がってきたのかを表現しています。

このように様々なラッパーが Rolex を着用するようになった中で、特に目立って Rolex を愛用していたのが Jay-Z です。ラッパーとしての仕事以外にも、プロデューサーや作家、スポーツクラブのオーナーなど、多様なビジネスで成功を収めていた彼は、時計愛好家として Rolex の多くのモデルを所有していました。

彼が着用していたモデルとして有名なのが、Day DateDay Date ⅡSky Dweller (スカイドゥエラー)、Daytona (デイトナ) などです。

左から Day Date、Day Date Ⅱ、Sky Dweller、Daytona

その中でもやはり最上位ドレスモデルの Day Date が彼のお気に入りだったようで、セカンド・アルバム『In My Lifetime, Vol. 1』のカバーアート写真に映る際も、彼はプラチナ製の Day Date を着用しています。

Kanye West – Runaway (feat. Pusha T)

(Pusha T)

Invisibly set, the Rolex is faceless

ダイヤで埋め尽くされ、文字盤が見えない Rolex

Rolex 好きで知られる2人 Kanye West と Pusha T による1曲。

特に Pusha T は、自身のアルバムのタイトルを『Daytona』と名付けるほど、Rolex の Daytona を愛用しています。この Daytona とは、2020年現在においてもなお最も高い人気を維持する、Rolex が誇る最上位スポーツモデルです。

財力を誇示することでステータスを獲得するラッパーたちにとって、前述した最上位ドレスモデル Day Date と、最上位スポーツモデル Daytona は特別な存在であり、圧倒的な人気を誇ります。

Daytona

そんな Pusha T は同曲にて、「Rolex をダイヤモンドで埋め尽くしたことによって、文字盤が見えなくなってしまった」と歌っています。

このように腕時計 (あるいは他のジュエリー) をダイヤモンドで埋め尽くす行為は、「Iced out」もしくは「Bust down」などと呼ばれ、ヒップホップ・シーンでは好んで用いられるカスタム装飾です。ラッパーたちは手に入れた Rolex を更に派手に装飾すべく、Ben Baller や Mr. Flawless、Eliantte などをはじめとするジュエラーに足を運びます。

ダイヤモンドで装飾した Rolex を好むラッパーが増える一方で、「やはり Rolex はそのままの状態が美しい」と主張するラッパーも現れます。

A$AP Ferg – Plain Jane

Tourneau for the watch, presi Plain Jane

Tourneau (*1)で時計を買う ロレックスは「Plain Jane」だ (*2)

(*1) 高級腕時計を取り扱う New York の老舗リテーラー
(*2) Plain Jane は装飾を施していない Rolex のこと。本来の意味は、「普通の女の子」

A$AP Ferg は Genius のインタビューでも、「Rolex はそれ自体に価値がある。ダイヤモンドを装飾してしまったら価値を下げることになるんだ。ピカソの絵に付け足しはしないだろ」と発言しています。

Travis Scott – Watch (feat. Lil Uzi Vert & Kanye West)

Travis Scott、Lil Uzi Vert、Kanye West と、現代ヒップホップシーンを代表するファッションアイコン3人が、タイトル通り「Watch (腕時計)」について歌う1曲。こちらの楽曲では、「Plain Jane 派」と「Iced out 派」の両者の意見を聴くことができます。

(Lil Uzi Vert)

Look, pull up Sky Dweller, and it’s vanilla

俺のバニラ色の Sky Dweller (*1) を見ろ

All white, that Plain Jane

オールホワイトで Plain Jane

(*1) Sky Dweller は、Rolex が展開する実用性に富んだ旅行者向けのドレスモデル

(Kanye West)

Look at my Rollie, look at your Rollie

俺の Rolex を見ろ (*1)

Your shit rockless, my shit hockey goalie

お前のはダイヤが足りない 俺のはアイスホッケーのゴールキーパーだ (*2)

You should gon’ hide it, man, it’s too bad

哀れだからさっさとそれを隠せ

Like a bald n***a still wearin’ durags, ha

ドゥーラグでハゲ頭を隠すみたいにな

(*1) Rollie は Rolex を表す頻出スラング
(*2) アイスホッケーと、ダイヤモンドを表す「Ice」をかけている。つまり Kanye の Rolex はアイスホッケーのゴールキーパーのように氷 (ダイヤモンド) に囲まれている、ということ

装飾を施していないそのままの Rolex を自慢する Lil Uzi Vert と、ダイヤモンドで装飾した Rolex を自慢する Kanye West。

同曲が物語るように、ラッパーたちの間でも Rolex への思いや好みはそれぞれ異なることが分かります。

Gunna – Oh Okay (feat. Young Thug & Lil Baby)

Two-tone Presi’ Rolex

ツートンの Rolex

Yeah, this drip you can’t catch

お前らには到底真似できない

アトランタのラッパー Gunna は『Oh Okay』という楽曲にて自身の Rolex を自慢するラップを披露しますが、後に Men’s Health のインタビューにて以下のように語っています。

This watch is a two-tone Prezi Rolex.

この時計はツートンのロレックスだ

I had to buy two watches to make this one watch, because they don’t make two-tone watches.

でも、ロレックスはツートンの時計を作っていないから、これを作るために二本の時計を買わなければならなかったんだ

The only reason I really bought it is because on the song “Oh Okay” I said ‘Two tone Prezi Rolex, Yeah this drip you can’t catch

何故こんなことをしたかというと、俺が『Oh Okay』という曲で『ツートンのロレックス、お前らには到底真似できない』とラップしてしまったからなんだ

つまり Gunna は『Oh Okay』の制作時にはまだ「ツートンの Rolex」を持っておらず、後にリリックとの辻褄を合わせるためにそれを作った、ということです。「嘘つき」とも「有限実行する真面目なラッパー」ともとれるリアルなのか否か判断しづらいリリックですが、若手ラッパーがつい先走って自慢してしまうほど、Rolex の所持がヒップホップゲームにおける重要なステータスであることが分かります。

贈り物としての Rolex

2Pac が友好の証として Biggie に Rolex を贈ったように、Rolex は贈り物としても大きな役割を果たします。

中でも DJ Khaled は、頻繁に Rolex をプレゼントすることで知られています。彼は、2017年にリリースしたアルバム『Grateful』が大成功を収めた後、彼のチームのメンバーたち全員にゴールドの Rolex Day Date (1つあたり約370万円) をプレゼントしました。

DJ Khaled は、アトランタのラッパー Future にも誕生日プレゼントととして Rolex Sky Dweller (約200〜400万円) を贈っています。

そんな Future も、息子の5歳の誕生日に Rolex Datejust (約310万円) をプレゼントしています。

このように、成功したアーティストたちは自らが Rolex を身につけるだけでなく、親しい人々に感謝や愛の形として Rolex を贈ります。また、プレゼントとしての役割はもちろんのこと、「Rolex を誰かにプレゼントできる」というステータス誇示の意味合いも少なからずあるでしょう。

おわりに

今回は、Rolex が担うステータス性と、ラッパーたちが Rolex を取り入れ流行させてきた背景に焦点を当て、ヒップホップと Rolex の関係性について考察しました。今回ご紹介した楽曲以外にも Rolex について言及した作品は多数存在しますので、これを機に是非探してみてはいかがでしょうか。また、ヒップホップシーンにおいて高い人気を誇る Rolex 以外の高級腕時計メーカー「Patek Philippe」や「Audemars Piguet」、「Richard Mille」などについても、いずれ (ご要望があれば) まとめる予定です。最後までお読みいただきありがとうございました。

Written by Riku Hirai

Juice WRLD – シカゴ出身の若きレジェンド

YouTube にて記事の内容をまとめております。
動画でご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

Last time, it was the drugs he was lacing

彼はドラッグと闘っていた

All legends fall in the making,

レジェンド達は皆、志半ばで堕ちていく

sorry truth, Dying young, demon youth

残念だけど事実なんだ 若くして死ぬ 悪魔が若者を狙っているんだ

Legends – Juice WRLD

2019年12月8日、ヒップホップシーンのみならず現代音楽シーンを牽引していた若きスター Juice WRLD が逝去。わずか21歳という若すぎる死に、世界中が涙を流しました。

今回は、今週金曜日に彼の死後初となるアルバム『Legends Never Die』がリリースされたことを踏まえ、今一度彼の人生について振り返ります。

生い立ち

Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、1998年12月、イリノイ州シカゴにて生を受けました。翌1999年には家族で州内のホームウッドに移住しますが、Juice が3歳の頃に両親が離婚。それ以降は彼と彼の兄、そして母親の3人で暮らしていくこととなります。

4歳の頃にピアノを習い始めた Juice は、後にギターやドラムのレッスンも受けるようになり、学校の授業ではトランペットも演奏するなど、幼い頃から音楽に慣れ親しんでいました。

信心深く保守的な母親の影響で、ヒップホップを聴くことが許されなかった Juice は、「Tony Hawk’s Pro Skater」や「Guitar Hero」等のビデオゲームに使われていたロックやポップス (Billy Idol や Blink-182、Black Sabbath、Fall Out Boy、Megadeth、Panic! at the Disco など) を聴いて育ったといいます。

音楽面での英才教育を受けていた一方で、Juice は幼い頃から大量のドラッグを使用していました。6年生の頃にリーンを飲み始めた彼は、その後パーコセットやザナックスも使用するようになり、次第にドラッグに依存していきました。

キャリアの開始

高校1年生の頃に音楽活動を開始した Juice (キャリア初期は JuicetheKidd という名義の下活動) は、2015年に初めて SoundCloud に楽曲をリリースしました。

Forever

ほとんどのヴァースを自身のスマートフォンで録音したという1曲。まだまだ音質やフロウ、ラップスキルに未熟さや粗削りさが残るものの、持ち前のハスキーな歌声と切ないリリックからは、皆さんが思い浮かべるであろう昨今の Juice WRLD らしさを感じることができます。当時は、ラップ・パートが楽曲の大半を占めており、ブレイク後の彼が得意としていた歌いながらラップするスタイルとは一味違う魅力があります。

JuicetheKidd 名義の元、ミックステープ『What Is Love?』(1曲のみの収録) や EP『Juiced Up The EP』をリリースした後、彼は尊敬するラッパー 2Pac が出演している映画『Juice』と、「世界を獲る」という意味の「World」にちなんで、現在の名前である Juice WRLD という名前に変更しました (ちなみに、WRLD は単純にスペルミスだそうです)。

2017年には、今となっては Juice とのタッグで有名な Nick Mira によるプロデュースの楽曲『Too Much Cash』をリリースします。

Too Much Cash

この頃から Juice は急激にスキルアップを果たします。JuicetheKidd 時代よりも多彩なフロウを駆使し、ブレイク後の彼のスタイルにも通づるキャッチーなメロディラインを用いたシンキング・ラップも聴くことができます。

当時、高校を卒業し工場で働き始めた Juice は、その仕事に不満を覚えわずか2週間で退職。その後ますます音楽活動に専念するようになった彼は、同年に初のフルレングス EP『999』をリリースします。この EP に収録されていたのが、後に大ヒットを記録する『Lucid Dreams』でした。

EP『999』

ちなみに「999」は彼が好んで用いる数字で、悪魔 (邪悪なもの) の数字とされる「666」をひっくりかえ返したもの。「どんなに困難な状況でも、それをひっくり返してポジティブに前に進もう」というメッセージが込められています。

同 EP のリリース後、彼は Waka Flocka Flame や Southside、G Herbo ら大物アーティストから注目を受け、同郷シカゴ出身のラッパー Lil Bibby 率いる Grade A Productions と契約を結ぶことになります。

ヒット曲とデビューアルバムのリリース

2017年末、Juice は3曲収録の EP『Nothing Different』をリリース。同 EP 収録の『All Girls Are the Same』がヒットし、人気ヒップホップ・チャンネル Lyrical Lemonade の Cole Bennett が監修したミュージック・ビデオが発表されます。

All Girls Are the Same

All girls are the same, they’re rotting my brain, love

女の子はみんな同じだ 俺の脳を腐らせていく

Think I need a change, before I go insane, love

俺は変わらなきゃいけないんだ 狂ってしまう前に

この『All Girls Are the Same』は、Juice が自身の恋愛観と弱さを正直に曝け出した1曲です。「大勢の女性を従える」ということが一種のフレックスであり、ステレオタイプでもあるヒップホップ (音楽) 業界において、Juice は真実の愛を求めていました。彼は、真実の愛を追い求める中で負ってしまった心の傷を美しくも哀しいメロディに乗せて歌い、同じ悩みを抱える人々の共感を呼びました。

同曲で一躍名を馳せた Juice は、2018年、大手レーベル Interscope Records と300万ドル (約3億2000万円) の契約を結びます。

そして 2018年5月、彼は EP『999』収録の『Lucid Dreams』を正式にシングルリリースします。

Lucid Dreams

I have these lucid dreams where I can’t move a thing

動くことができない場所で明晰夢を見るんだ

Thinking of you in my bed

ベットの中で君の事を考える

You were my everything

君は俺の全てだったんだ

Thoughts of a wedding ring

結婚指輪の事まで考えてた

Now I’m just better off dead

今じゃ俺は死んだ方がましさ

I’ll do it over again

もう一度やり直したいんだ

I didn’t want it to end

終わらせたくなんかなかった

I watch it blow in the wind

風に吹かれるのを見ている

I should’ve listened to my friends

友人の意見を聞くべきだった

Leave this shit in the past, but I want it to last

この過ちを過去に葬るよ でも俺は続けたいんだ

You were made outta plastic, fake

君はプラスチックでできた偽物だった

I was tangled up in your drastic ways

俺は君の極端なやり方に振り回されてた

Who knew evil girls had the prettiest face?

誰よりも可愛い女の子が悪女だなんて分かるはずないだろ

You gave me a heart that was full of mistakes

君がくれた心は嘘だらけだった

I gave you my heart and you made heart break

俺は君に心を捧げたのに、君はそれを壊したんだ

映画 Léon のエンディング・テーマとしても知られる Sting の名曲『Shape of My Heart』をサンプリングしたビートの上で、Juice が自身の失恋についてエモーショナルに歌う同曲は、いわゆる「エモ・ラップ」を代表する1曲です。

同曲は、US Billboard Hot 100 チャートにて74位デビュー、後に最高2位を記録し、2018年に最もストリーミング再生された楽曲の1つとなりました。

2つのヒット曲を世に送り出した Juice は、同月に待望のデビュー・アルバム『Goodbye & Good Riddance』をリリース。同アルバムは、US Billboard 200 チャートにて15位でデビューし、3週目には6位まで浮上しました。

様々なアーティストとの共演

デビュー・アルバム『Goodbye & Good Riddance』のリリースを皮切りに、Juice WRLD は様々なアーティストと共演するようになります。

アルバムリリースから約2ヶ月後には、Lil Uzi Vert をフィーチャーしたシングル『Wasted』をリリースし、アルバム『Goodbye & Good Riddance』にも追加。

Wasted (feat. Lil Uzi Vert)

キャリア初期は Lil Uzi Vert と比べられることも多かった Juice ですが、程良く脱力して歌う Juice と、声を絞り出して力強く歌う Lil Uzi Vert のバランスが取れた良曲です。

初めて人気アーティストとの共演を果たした彼は、YBN Cordae と Lil Mosey をツアーアクトに呼んだファースト・ツアー「The WRLD Domination Tour」も開催しました。

Travis Scott – No Bystanders (feat. Juice WRLD & Sheck Wes)

Travis Scott が2018年にリリースしたアルバム『ASTROWORLD』収録の1曲。Sheck Wes と共に客演参加した Juice は、楽曲の肝となるイントロとポスト・コーラスにあたる部分で、メロディアスなエッセンスを加える役割を果たしています。

Ski Mask the Slump God – Nuketown (feat. Juice WRLD)

親友同士として知られる Ski Mask the Slump God との1曲。こちらの楽曲では、Juice が普段滅多に見せない、がなり声で激しく叫ぶようなラップを聴くことができます。この楽曲を聴いて、Juice と Ski Mask、そして今は亡き XXXTENTACION とのコラボ曲も聴いてみたかったと痛感するファンの方も多いのではないでしょうか。

2018年10月、Juice WRLD は Future とのコラボ・ミックステープ『WRLD ON DRUGS』をリリースします。

Fine China

主にドラッグに関するリリックを歌う Future と、「Future の影響でリーンを飲み始めた」と語る Juice WRLD の相性は、音楽面においても抜群でした。両者とも、かすれ気味な声で歌うメロディアスなフロウを得意とし、15歳の歳の差があるとは思えないほどのコンビネーションを発揮しました。

セカンド・アルバムのリリース

2019年3月、Juice は待望のセカンド・アルバム『Death Race for Love』をリリースします。

2018年10月に、イギリスの人気ラジオ DJ、Tim Westwood の番組に出演し、約1時間の間ほぼノンストップでフリースタイルを披露したことでも知られる彼は、同アルバム収録の楽曲を全てフリースタイルでレコーディングしたことを明かしています。

Tim Westwood TV でのフリースタイル

Robbery

She told me put my heart in the bag

彼女は俺に言ったんだ 俺の心をバッグに詰めろ

And nobody gets hurt

そしたら誰も傷つけないって

Now I’m running from her love,

俺は今、彼女の愛から逃げている

I’m not fast

でも俺は速くない

So I’m making it worse

それが事態を悪化させているんだ

Now I’m digging up a grave, from my past

だから今、過去を埋めるために墓を掘っている

I’m a whole different person

過去の俺はもういない

It’s a gift and curse

愛は贈り物であり、呪いだ

But I cannot reverse it

俺にはどうすることもできないんだ

アルバムの先行シングルとしてリリースされた『Robbery』では、Juice が彼の心を奪った彼女を Robbery (強盗) に例えて歌います。Nick Mira 手掛ける哀愁漂うピアノが特徴的なビートと、感情に訴えかけるような Juice のフロウが完璧にマッチした楽曲です。

Fast

I been living fast, fast, fast, fast

俺は生き急いでいる

Feeling really bad, bad, bad, bad

気分は最悪だ

Time really moves fast, fast, fast, fast

時間は早く過ぎていくんだ

Better hurry up and get in your bag, bag, bag, bag

急いでバッグに詰めたほうがいいぜ

I wear Dior, not a fad, ‘ad, ‘ad, ‘ad

Dior を着ている 流行りには流されない

I know all these n***as gettin’ mad, mad, mad, mad

奴らが怒っているのは分かっている

My hand on my trigger, I’ma die for respect, yeah

引き金に手を添えて リスペクトされながら死んでやる

Fucking with my money, you’ll get dealt like that, yeah

俺の金を奪おうとするなら、痛い目を見るぜ

『Fast』では、Juice が20歳という若さで富と名声を手にし、彼の生きる世界の時の流れが急激に早くなってしまったことについて歌っています。若くしてスターダムを駆け上がった彼ならではの苦悩がひしひしと伝わる1曲です。

これらの楽曲を収録した同アルバムは、初週165,000ユニットを売り上げ、US Billboard 200 チャートにて1位デビューを飾りました。

突然の死

セカンド・アルバムが大成功を収めた後、Nicki Minaj のツアーに参加したり、多様なアーティスト (K-Pop グループの BTS や、Ellie Goulding、Benny Blanco、YoungBoy Never Broke Again など) との共演を果たしたりと順風満帆なキャリアを積んできた Juice WRLD。

ファンや友人、恋人らに心配されていた薬物使用に関しても、Juice は依存していたリーンの使用をやめることを宣言し、精神的にもポジティブな方向に向かっているように見えました。

俺はもう永遠にリーンを使わない お別れだ

そんな彼に、ある日突然不運が襲います。2019年12月8日、Juice WRLD は薬物のオーバードーズ (過剰摂取) によりこの世を去りました。

当時、Juice はプライベートジェット機でシカゴ・ミッドウェイ国際空港に向かっており、彼とその仲間たちは、機内へ銃を違法に持ち込んでいました。それを知ったパイロットが地上にいるスタッフに通報し、着陸後直ちに立ち入り検査が行えるよう、FBI(連保捜査局)と FAA(連保航空局)の捜査官が空港に駆けつけていました。Juice は、この立ち入り検査によって発覚するであろう薬物所持の罪を軽くするために、所持していたパーコセットを大量摂取し発作を起こしたと考えられています。Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、わずか6日前に21歳の誕生日を迎えたばかりでした。

彼は、2018年にリリースした故 Lil Peep と故 XXXTENTACION への追悼曲『Legends』にて、「レジェンドたちは皆若くして死んでしまう」と嘆いていましたが、彼もそのレジェンドたちの仲間入りをしてしまうという、何とも悲劇的な結末を迎えてしまいました。

そんな彼の悲し過ぎる死から早半年が過ぎ、今週10日、遂に彼の遺作『Legends Never Die』がリリースされました。今週は、そんな彼 Juice WRLD がこの世に残した遺産に浸ってみてはいかがでしょうか。

Written by Riku Hirai

NoCap – 痛みを歌うアラバマの新鋭ラッパー

明日6月30日にニュープロジェクト『Steel Human』のリリースを控える注目ラッパー NoCap。XXL Freshman Class 2020 にもノミネートされている彼の生い立ちやキャリア、魅力について予習しておきましょう。

NoCap とは

NoCap (ノーキャップ) こと Kobe Vidal Crawford は、映画「フォレスト・ガンプ」の舞台となったことでも知られる湾岸都市、アラバマ州モービル出身の21歳 (1998年生まれ)。ちなみに名前の「No Cap」とは、2018年以降大流行した「嘘じゃない、本気で」という意味のスラングです。

当時の母親のボーイフレンドの影響で、8~9歳の頃にラップを始めたという NoCap は、彼と彼の兄、そして母親のボーイフレンドの甥の3人でグループを組んで活動し始めました (NoCap 以外の2人は既に音楽活動を辞めているそうです)。

幼い頃からラッパーとしてのキャリアを積み上げてきた NoCap は、2017年にデビューシングル『Boss Moves』をリリース。2018年にはシングル『Legend』で注目を集め、デビューミックステープ『Neighborhood Hero』や、同郷モービル出身のラッパー Rylo Rodriguez とのジョイントテープ『Rogerville』をリリースし、更にはアトランタの人気ラッパー Lil Baby のアルバム『Street Gossip』への参加を果たすなど、彼にとって飛躍の1年となりました。

2019年にはシングル『Ghetto Angels』がバイラルヒットし、同曲収録のミックステープ『The Backend Child』をリリース。その後、銃撃事件への関与により逮捕されるものの、同年末にリリースしたミックステープ『The Hood Dictionary』は US Billboard 200 にて最高80位 (R&B/Hip-Hop チャートでは最高39位) を記録しました。

NoCap の楽曲とスタイル

NoCap のスタイルについてご説明する前に、まずは彼の最初のヒット曲を聴いていただきましょう。

Legend

YoungBoy Never Broke Again や Polo G、Kevin Gates らと比較されることが多い NoCap は、オートチューンを効かせたヘロヘロな声で、歌うようにラップするスタイルを得意とします。彼は、困難な環境を生き抜いてきた苦労や葛藤、哀しみ、そして現在の成功や名声を、エモーショナルに、時に力強く歌い上げます。

NoCap は決して技巧派というわけではないのですが、彼の癖になる絶妙なヘタウマラップが南部ヒップホップらしい味を出しています。

Spaceship Vibes (feat. Quando Rondo)

I think about you all day and at night I watch the stars shoot

いつも君のことを考えていて、夜には流れ星を眺める

I know love is not a game but I can’t control what my heart do

「愛」はゲームじゃないって分かってるけど、自分の心をコントロールできないんだ

I fucked up so many times, I know you thinking I don’t want you

俺は何度も過ちを犯した 君は、俺に愛されてないって思ってるんだろ

I never tell you lies, I’m always giving you the hard truth

絶対に嘘はつかないよ 君にはいつも真実を話してる

Remember we was way more than friends, I just wonder, “Would you love me again?”

俺らがまだ付き合っていない頃を思い出してくれ もう一度愛してほしいんだ

I’m always having spaceship vibes, sometimes I think that I’m an alien

俺はいつも「スペースシップ・バイブス」を持ってる 俺はエイリアンなのかもな

ジョージア州サバンナ出身のラッパー Quando Rondo を客演に招いたこちらの楽曲は、シンプルで美しいピアノループと切ないリリックが特徴的なラブソングです。

NoCap は、恋人や失恋について歌う楽曲も多くリリースしています。こういった楽曲でも、R&B 歌手のような圧倒的な歌唱力で歌うのではなく、無骨で未熟な歌唱力で気持ちのままを歌う彼ならではの魅力があります。

Ghetto Angels  

And it’s crazy, we ’posed to took Duke to the graveyard to see Fred

狂ってるんだ 俺たちは Duke を Fred の墓参りに連れて行こうとしていた (2人とも NoCap の友人)

Phone ring an hour later, damn Cap, Duke dead

1時間後に電話が鳴った 嘘だろ、Duke が死んだ

I guess since we didn’t take him He went to the graveyard to see Fred on his

俺たちがあいつを連れて行く代わりに、あいつは自ら Fred に会いに行ったんだ

NoCap といえばこの曲『Ghetto Angels』です。今は亡き友人たちに向けて歌った同曲が YouTube にて4000万再生を記録し、後に Lil Durk と Jagged Edge を招いたリミックスもリリース。

痛みを伝えるリリックと心に響く歌声が絶妙にマッチした、まさに NoCap らしい1曲です。

What You Know

Fake love, real hate

偽の愛と、本当の憎しみ

I don’t know which one is worse to me

どっちが悪いのか俺には分からないんだ

ミックステープ『The Hood Dictionary』収録の1曲。アコースティックギターを用いたトラックと NoCap の哀愁漂うボーカルが絶妙にマッチした同曲は、深く考えさせられるリリックも魅力的で、まさに No Cap (リアル) な1曲です。

Count A Million (feat. Lil Uzi Vert)

I think that I can count a million with my eyes closed

目を閉じたままでも大金を数えることができるぜ

今週リリース予定のニュープロジェクト『Steel Human』の先行シングルとしてリリースされた1曲。彼のキャリア初期の楽曲と比べると、かなりラップのクオリティが上がっています。

人気ラッパー Lil Uzi Vert と共に成功について歌う同曲が話題を呼び、彼のニュープロジェクトへの期待も更に高まっています。

おわりに

いかがだったでしょうか。今回はアラバマ州モービルのラッパー NoCap についてまとめてみました。

Lil Baby や YoungBoy Never Broke Again、Lil Uzi Vert ら大物ラッパーとの共演も果たし、XXL Freshman Class 2020 にもノミネートされている新鋭ラッパー NoCap。名前負けしないリアルなリリックを届ける彼の今後に要注目です。

Lil Nas X や RMR の活躍からみる「カントリー・ラップ」の進化

2019年、世界中のチャート首位を独占した Lil Nas X の『Old Town Road』をはじめとし、現行ヒップホップシーンを盛り上げるニュージャンル「カントリー・トラップ」。

今回は、ヒップホップとカントリーミュージックの融合の歴史に触れながら、「カントリー・トラップ」とその注目アーティストについてまとめていきます。

ヒップホップとカントリーの融合

ヒップホップとカントリーミュージックの融合は、今に始まったことではありません。まずはその誕生について、簡単にご説明します。

Shawn Brown a.k.a. The Rappin’ Duke – Rappin’ Duke

1984年、スタンドアップコメディアンの Shawn Brown が 『Rappin’ Duke』なる楽曲をリリース。「主に西部劇や戦争映画にてヒーロー役を演じていた俳優 John Wayne(別名 Duke)がラップをする」というコンセプトの元作られた同曲が、その後のカントリー・ラップの礎となります。

Remember Rappin’ Duke? Duh-ha, duh-ha

Rappin’ Duke が「Duh-ha, duh-ha」って歌ってたのを覚えてるか

You never thought that hip-hop would take it this far

当時はヒップホップがこんなに盛り上がるなんて思ってなかっただろ

The Notorious B.I.G. – Juicy

The Notorious B.I.G. も自身の楽曲にて『Rappin’ Duke』について言及しています。

1987年にはカントリー・デュオ Bellamy Brothers が『Country Rap』をリリースします。

Bellamy Brothers – Country Rap

バンジョーやハーモニカを用いた王道カントリーサウンドにラップを載せるスタイルは、この頃から既に存在していました。

カントリー・ラップの進化

その後、一時的な流行として衰退しつつあったカントリー・ラップは、90年代後半に再び注目を浴びることとなります。

Kid Rock – Cowboy

ロックからファンク、ヒップホップ、メタル、ジャズ、カントリー、ブルースまで幅広い音楽性を持つミクスチャーバンド Kid Rock が、カントリーやサザン・ロックに影響を受けたサウンドの上にラップを乗せた楽曲『Cowboy』を1998年にリリースしました。

そして、今日のカントリー・ラップを創り上げたといっても過言ではないのが、Pimp C と Bun B からなるヒューストンのラップ・デュオ UGK です。

UGK は、1994年に、カントリー調のギターリフやピアノソロを用いた『It’s Supposed To Bubble』をリリースします。

UGK – It’s Supposed To Bubble

99年には『Belts to Match』にて初めて自身の楽曲を「カントリー・ラップ・チューン」と定義しました。

UGK – Belts to Match (feat. Smitty & Sonji)

Down here we ain’t makin’ hip hop songs know what I’m sayin’

ここで言っておくが、俺たちは「ヒップホップ・ソング」は作らない

We makin’ country rap tunes, so uh separate us from the rest

「カントリー・ラップ・チューン」を作っているんだ、他と一緒にしないでくれ

その後、カントリー・ラップ(あるいは「ヒックホップ」)は、UGK や Bubba Sparxxx、Nelly、Cowboy Troy など南部のアーティストを中心に人気を集めていきます。

Bubba Sparxxx – Deliverance

Nelly – Ride Wit Me (feat. St. Lunatics)

カントリー・ラップを押し上げた UGK の Pimp C は、2007年に惜しくも亡くなりますが、その後もカントリー・ラップを引き継ぐ新世代が現れます。

Big K.R.I.T. – Country Sh*t (Remix) [feat. Ludacris & Bun B]

また、新世代ではありませんが、Snoop Dogg もカントリー・ミュージシャンの Willie Nelson と楽曲制作を行ったりと、ヒップホップとカントリーのコラボレーションは絶え間なく行われてきました。

Snoop Dogg – Superman (feat. Willie Nelson)

カントリー・トラップの誕生

そして2017年、「カントリー」と、アトランタ生まれのヒップホップのサブジャンル「トラップ」が融合した「カントリー・トラップ」が誕生します。

Young Thug – Family Don’t Matter (feat. Millie Go Lightly)

カントリー調のギターリフに連続的なハイハットと808ベースをミックスしたトラックを用い、Young Thug が「Yeehaw」というカントリー由来のアドリブを放ちながら歌うようにラップする同曲が、いわゆる「カントリー・トラップ」の起源とされています。

もう1曲、初期のカントリー・トラップとして挙げられるのが、Lil Tracy & Lil Uzi Vert の『Like A Farmer』です。

Lil Tracy & Lil Uzi Vert – Like A Farmer

I’m sippin’ lean like a Coors Light 

「Coors Light」みたいにリーンを飲む

「Coor Light」とは、アメリカ南部及びカントリー・カルチャーにおける象徴的なビールブランドの名称で、Lil Tracy と Lil Uzi Vert は南部訛りを強調しながら、自身の生活とカントリーカルチャーを比較しています。

カントリー・ラップが「カントリー」に重きを置いていたのに対し、カントリー・トラップは「トラップ」をベースに構築されていることが、同曲のサウンドから窺えます。

そして、2018年から2019年にかけて爆発的にヒットしたカントリー・トラップ・アンセムが Lil Nas X の『Old Town Road』です。

Lil Nas X – Old Town Road (Remix) [feat. Billy Ray Cyrus]

Nine Inch Nails の『34 Ghosts IV』からサンプリングしたバンジョーの音色と、現行ヒップホップの王道トラップサウンドをミックスした同曲は、一時は Billboard のカントリー・チャートから除外されるものの、最終的にはカントリー・チャートに復活し、HOT 100にて首位を獲得しました。

「初めて(Old Town Road を)聴いたとき、明らかにカントリーだと思った」と語るカントリー界の大御所 Billy Ray Cyrus のリミックスへの参加もあり、同曲は17週連続1位という US Billboard 史上最長の記録を打ち出し、カントリー・トラップというジャンルを世界中に認知させました。

カントリー・トラップのネクストスターたち

Lil Nas X に続いて、カントリー・トラップを自身の楽曲に取り入れるラッパーも増えていきました。

Fly Rich Double – Big Boom

実はこの Fly Rich Double というラッパーは、Lil Nas X が『Old Town Road』をリリースする前からカントリー・トラップのスタイルを取り入れていました。様々なジャンルに挑戦したいと語る Lil Nas X とは異なり、Fly Rich Double はカントリー・トラップを軸に勝負していく意向を示しています。

RMR – Rascal

2020年突如として話題を集めたのがこのアーティスト、RMR(Rumour)です。SAINT LAURENT の防弾チョッキにバラクラバ(目出し帽)、そして銃という、如何にもギャング臭漂う装いの彼が発するのは、攻撃的なラップではなく美しい歌声。そのミスマッチさが話題を呼び、彼 RMR は一躍時の人となりました。

オハイオのカントリー・グループ Rascal Flatts のグラミー受賞曲『Bless the Broken Road』のメロディラインを引用した同曲がバイラルヒットし、今週末にリリース予定のデビュー EP『DRUG DEALING IS A LOST ART』には Westside Gunn や Future、Lil Baby、Young Thug といった錚々たる顔ぶれを客演に迎えるニューカマー RMR。未だ謎多きカントリー・トラップの新星に要注目です。

RMR『DRUG DEALING IS A LOST ART』
トラックリスト

おわりに

このように、80年代から90年代にかけて誕生した「カントリー・ラップ」は、ヒップホップ及びカントリー・ミュージックの両者に強く影響を受けながら進化し続けてきました。

ヒップホップシーンにおいてトラップというジャンルが主流になった今日にも、「カントリー・トラップ」と呼ばれるニュージャンルが生まれ、今や切っても切り離せない関係となったヒップホップとカントリー・ミュージック。今後の進化にますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

XXL FRESHMAN CLASS 2019 : 選出された11人のラッパーたち

1. DaBaby

DaBaby とは

DaBaby こと Jonathan Lyndale Kirk はオハイオ州クリーブランド生まれの27歳(91年生まれ)。5歳の頃ノースカロライナ州シャーロットに引っ越します。彼のエピソードとして有名なのが、ウォルマート(スーパーマーケット)での銃殺事件です。2018年、Kirk が二人の子供を連れて買い物をしていた時、銃を持った男が彼のジュエリーを奪おうとしてきたそうです。Kirk は二人の子供を守るためにその男を銃殺しました。この事件は後に正当防衛が認められ、起訴も取り下げられています。

DaBaby のキャリア

2015年に初のミックステープ『Nonfiction』をリリースして以降、立て続けにミックステープをリリースしていた彼は、2019年に Interscope Records からデビューアルバム『Baby on Baby』をリリースします。Offset や Rich Homie Quan、Rich the Kid、Stunna 4 Vegas らを客演に迎えた同アルバムは、Billboard 200 において初週25位をマークしました。年齢的にもキャリア的にも「フレッシュ」とは言い難い彼ですが、ラッパーとしての才能と注目度はフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。

DaBaby の代表曲

『Suge』

『21』

2. Gunna

Gunna とは

Gunna こと Sergio Giavanni Kitchens はジョージア州カレッジパーク出身の26歳(93年生まれ)。一部のファンからは、「Gunna ではなく本名をステージネームにした方が良い」と言われています。母親と4人の兄と共に生活していた彼は、ラッパーになる前は DJ やドラッグディーラーとして活動していました。

Gunna のキャリア

Cam’ron や Outkast を聴いて育ったという彼が音楽制作を始めたのは15歳の頃でした。キャリア初期は「Yung Gunna」として活動しており、2013年に初のミックステープ『Hard Body』をリリースします。その後、彼は共通の友人を通して Young Thug と繋がり、Young Thug のレーベル「Young Stoner Life Records(以下YSL)」と契約を結びます。この出会いがなければ今の Gunna はいないと言っても過言ではありません。そんな彼は、2016年から2018年にかけて YSL からミックステープ『Drip Season』シリーズを3作リリースします。2018年にリリースされた Lil Baby との共作『Drip Harder』も話題となりました。

そして2019年、デビューアルバムとなる『Drip or Drown 2』をリリースします(アルバム名は、Gunna が2017年にリリースした EP『Drip or Drown』から) 。Young Thug、Wheezy、Turbo 監修の同アルバムは、Billboard 200において初週3位をマークし、華々しいデビューを飾りました。

2018年から2019年にかけて一挙にブレイクし、彼が客演に呼ばれていないアルバムはなかったと言っても過言ではないほど様々なアーティストとの共演を果たした Gunna は、まさに2019年のフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。今後の活躍にも期待です。

※ Gunna についての記事はこちらから↓

Gunnaの代表曲

『Oh Okay(feat. Young Thug & Lil Baby)』

Lil Baby & Gunna『Drip Too Hard』

3. Megan Thee Stallion

Megan Thee Stallion とは

Megan Thee Stallion こと Megan Pete はテキサス州ヒューストン出身の24歳(95年生まれ)。ちなみに、自身の身長と美しさが Stallion(種馬)に似ているという理由から、Megan Thee Stallion というステージネームを付けたそうです。彼女はテキサスサザン大学に在学中の現役大学生でもあります。

Megan Thee Stallion のキャリア

彼女の母親はラッパー「Holly-Wood」として活動していたこともあり、幼い頃からスタジオに同行していたという Megan は14歳でラップを始めました。その才能はラッパーであった母もすぐに認めるほどであり、彼女は Instagram にフリースタイルラップを投稿することによって瞬く間にファンベースを確立させていきました。2016年からミックステープをリリースし始めた彼女は着々と人気を集め、2019年リリースのミックステープ『Hot Girl Meg』は Billboard 200において、初週10位をマークしました。それ以降客演としての仕事も増やしてきた Megan は、次世代の Nicki Minaj や Cardi B と言っても過言ではないほど、実力間違いなしのフィメールラッパーです。

※ Megan Thee Stallion についての記事はこちらから↓

Megan Thee Stallion の代表曲

『Cash S**t(feat. DaBaby)

『Big Ole Freak

4. Blueface

Blueface とは

Blueface こと Johnathan Michael Porter は、カリフォルニア州ロサンゼルス出身の22歳(97年生まれ)。学生時代はアメリカンフットボールに打ち込み、2014年の「East Valley League championship」という大会でチームを優勝に導いた経歴を持ちます。

アメフトに打ち込む Blueface

Blueface のキャリア

Blueface Bleedem としてキャリアをスタートさせた彼は、2017年に彼にとって初となるシングル『Dead Locs』をリリースします。そして、その後リリースした楽曲『Thotiana』が爆発的にヒットし、独特な声とオフビートなラップで人気を博した彼は、Cash Money West と契約を結びました。

Blueface の代表曲

『Thotiana

『Bleed it

5. Lil Mosey

Lil Mosey とは

Lil Mosey こと Lathan Moses Echols はワシントン州シアトル出身の17歳(02年生まれ)。2019年のフレッシュマン選出者の中では最年少のラッパーです。彼は高校に通っていましたが、音楽活動に専念するため退学したそうです。

Lil Mosey のキャリア

Meek Mill のデビューアルバム『Dreams and Nightmares』から多大な影響を受けたという Lil Mosey は、13歳から14歳の頃にラップを始めました。2016年にラッパーとしてのキャリアを本格的に始動させた彼は、2018年にデビューアルバム『Northsbest』をリリース。同アルバムに収録されている楽曲『Noticed』がバイラルヒットし、Billboard Hot 100にて80位まで登りつめました。

自身を「マンブルラッパー」ではないと主張する彼ですが、今後同世代ラッパーたちとどのように差をつけていくのか楽しみです。

Lil Mosey の代表曲

『Noticed

Lil Mosey & Chris Brown『G Walk』

6. Roddy Ricch

Roddy Ricch とは

Roddy Ricch こと Rodrick Wayne Moore, Jr はカリフォルニア州コンプトン出身の20歳(98年生まれ)。アトランタで暮らしていた時期もあり、アトランタテイストのラップスタイルを得意とします。

Roddy Ricch のキャリア

Meek Mill や Future、Speaker Knockerz、Young Thug などから影響を受けたという彼は、8歳の頃にラップを始めました。デビューミックステープ『Feed tha Streets』で注目を集めた彼は、続くシングル『Die Young』のヒットにより一躍名を知らしめます。歌心のあるフロウや多彩なビートアプローチを得意とする彼は、フレッシュマン選出をきっかけにますます活躍すること間違いなしでしょう。

Roddy Ricch の代表曲

『Die Young

Marshmello & Roddy Ricch『Project Dreams』

7. Tierra Whack

Tierra Whack とは

Tierra Whack こと Tierra Helena Whack はペンシルベニア州フィラデルフィア出身の23歳(95年生まれ)。幼い頃に父親と疎遠になった彼女と2人の妹は、母親の手によって育てられました。アートアカデミーに3年間通っていたという彼女は、音楽活動にはもちろん芸術活動にも力を入れており、芸術を学ぶために日本に訪れたこともあるそうです。楽曲や MV、Instagram などからも、彼女の芸術的センスの高さが伺えます。

Tierra Whack のキャリア

10代の頃から「Dizzle Dizz」という名のもと活動していた彼女は、2017年に自身の本名である「Tierra Whack」という名義で活動を始めました。同年彼女はInterscope Records と契約を結び、楽曲を次々とリリースします。そして2018年、彼女は15曲(各曲1分ずつ)収録のアルバム『Whack World』をリリース。各曲にショートムービーを付けたビデオアルバムもリリースし、15分で聴けるアルバムという新鮮さや、独特な世界観を持つムービーが大きな話題を呼びました。音楽面、芸術面共に才能溢れる彼女の今後に期待です。

Tierra Whack の代表曲

『Only Child

『Hungry Hippo

8. YBN Cordae

YBN Cordae とは

YBN Cordae こと Cordae Dunston はノースカロライナ州ローレー出身の21歳(97年生まれ)。2018年のフレッシュマンに選出された YBN Nahmir も属するYBN(Young Boss N***as)クルーの一員です。テニスプレーヤーの大坂なおみ選手との交際でも話題となりました。

大坂なおみ選手と YBN Cordae

YBN Cordae のキャリア

父の影響で幼い頃からヒップホップを聴いていたという彼は、10歳でラップを始め、15歳で自らリリックを書き始めます。10代の頃から「Entender」という名のもと3作のミックステープをリリースしていた彼は、2018年に YBN クルーに参加し、「YBN Cordae」として活動を始めました。J. Cole の若手ラッパーに対するディスソング『1985』へのアンサーソングとしてリリースした『Old N***as』が話題となり注目を集めた Cordae は、話題性だけではなく巧みなラップスキルとオールドスクール的要素を兼ね添えており、Dr. Dre もその実力を認めています。Logic や Chance the Rapper などの実力派ラッパーともコラボを果たした彼は、2019年のフレッシュマンの中でも一二を争う注目株でしょう。

YBN Cordae の代表曲

『Old N***as』

『Bad Idea (feat. Chance the Rapper)

9. YK Osiris

YK Osiris とは

YK Osiris こと Osiris Williams はフロリダ州ジャクソンビル出身の20歳(98年生まれ)。現在はアトランタに在住しています。名前の YK は「Young King」の略だそうです。

YK Osiris のキャリア

幼い頃から音楽を作っていた彼は、17歳の頃に初めてネット上に自身の楽曲をアップしました。2017年にリリースした『Fake Love』は SoundCloud で140万再生を記録し、その後リリースする『Valentine』は Lil Uzi Vert がリミックスに参加。その『Valentine』のヒットによって、彼はビッグレーベル Def Jam との契約を結びます。わずか数曲のリリースでここまで漕ぎ着けたのですから才能は本物です。ソウルフルな R&B と今日のヒップホップをミックスしたスタイルを得意とする YK Osiris の今後の活躍に要注目です。

YK Osiris の代表曲

『Valentine』

『Valentine Remix (feat. Lil Uzi Vert)

『Worth It

10. Comethazine

Comethazine とは

Comethazine ことFrank Childress はミズーリ州セントルイス出身の20歳(98年生まれ)。「Comethazine」とは、「promethazine(プロメタジン)」と「cocaine(コカイン)」の2つの薬物名を組み合わせたものだそうです。高校を中退している彼ですが、高卒認定を受けるため夜間学校に再入学しています。

Comethazine のキャリア

50 Cent や Rick James、Chief Keef、Nipsey Hussle、Lil B などに影響を受けたという彼は、17歳の頃本格的に音楽活動を開始しました。SoundCloud や Youtube に楽曲をアップしてファンベースを獲得していった彼は、2017年に Alamo Records と契約を結びます。

そして2018年、彼の新曲『Bands』が突如として SoundCloud の再生回数ランキングのトップに浮上します。実はこれが、SoundCloud の楽曲差し替え機能を巧妙に利用したチート行為で、YBN Nahmir のヒット曲『Bounce Out With That』で100万再生を稼いだのち、Comethazine が自身の楽曲に差し替えたのでした。そんなずる賢さだけでなく、A$AP Rocky や Lil Yachty など、人気ラッパーとのコラボレーションも果たした彼の今後に注目です。

Comethazineの代表曲

『Bands

Comethazine & A$AP Rocky『Walk (Remix)』

11. Rico Nasty

Rico Nasty とは

Rico Nasty こと Maria-Cecilia Simone Kelly はメリーランド出身の22歳(97年生まれ)。プエルトリコ人の母とアメリカンアフリカンの父を持つ彼女は、大麻所持によって当時通っていた学校を追い出されたのち、パプリックスクールに通いながら音楽制作を始めます。

Rico Nasty のキャリア

高校在学時にラップを始めた彼女は、初のミックステープ『Summer’s Eve』をリリースします。高校卒業後、彼女はより本格的に音楽制作に取り組み、『The Rico Story』、『Sugar Trap』と2作のミックステープをリリースします。その後も次々とシングルやミックステープをリリースし、5作目のミックステープ『Sugar Trap 2』は、アメリカの音楽誌「Rolling Stone」にて「2017年のベストラップアルバム」としてリストアップされました。そして2018年、彼女はAtlantic Records と契約を結びます。

2019年には Kenny Beats とのジョイントテープ『Anger Management』をリリースし、ますます世間に名を知らしめています。

パンクラップやトラップメタル、もしくは「シュガートラップ」とも称される独特なスタイルを貫く Rico Nasty の今後の活躍に期待です。

Rico Nasty の代表曲

『Key Lime OG

『Again

※各アーティストの情報や年齢は、2019年6月現在のものです。

Young Thug がシーンに与えた影響と今日の「ベイビーボイス」ラップ

昨今の流行である Playboi Carti の「ベイビーボイス」ラップをはじめとし、今や USヒップホップシーンのトレンドとなった高音で歌うラップスタイル。今回は、ヒップホップにおけるオートチューンの歴史や、今日の流行のきっかけを作ったラッパー Young Thug の影響に触れながら、その成り立ちや進化について考えていきます。

オートチューンの歴史

まずは、ヒップホップシーンにおけるオートチューンの歴史について簡単におさらいしようと思います。

オートチューン(Auto-Tune)とは、アメリカのアンタレス社が1997年に製品化した音程補正ソフトのことで、地球物理学者の Andy Hildebrand が地震データ解析用ソフトが音程補正にも応用できることを偶然発見し、開発に至ったそうです。

初期の Auto-Tune

90年代後半から様々なジャンルにおいて用いられてきたオートチューンは、2000年代中頃から、ヒップホップや R&B においても多く使用されるようになります。

いわゆる「ケロケロボイス」を用いて歌うスタイルが T-Pain を中心に流行を見せ、Kanye WestLil Wayne、Akon らが後に続いたことで更にその人気に火がつき、メロディへ傾倒するアーティストが増えていきました。

T-Pain – Buy U a Drank (Shawty Snappin’) [feat. Yung Joc]

Kanye West – Heartless

彼らの楽曲を聴いていただければ分かるように、オートチューンは「音程補正」という本来の用途よりも、一種の「エフェクト」に近い用法で、ヒップホップシーンに浸透していきます。

オートチューンの流行とそのフォロワーたち

そんなオートチューン黎明期のアーティストたちのフォロワーであり、以後のヒップホップシーンに多大な影響を与えたラッパーの1人が Future です。

彼は、オートチューンを多用して歌うスタイルを取り入れたデビューアルバム『Pluto』で注目を集め、ラップと歌唱を行き来するスタイルを更に浸透させました。

Future – Turn On The Lights

Future が新しいスタイルで一世を風靡し、若いラッパーに多大な影響を与えるなか、次に現れたのが Young Thug でした。

Lil Wayne 直系のオートチューンを用いた高音ラップを得意とする Young Thug ですが、彼の奇声にも近い独特な歌唱法は世間を騒がせました。

Young Thug – Picacho

ジェンダーレスなファッションスタイルでも知られる Young Thug は、楽曲においても中性的あるいは女性的ともとれるようなハイピッチ・フロウを披露します。

Future & Young Thug – Real Love

Young Thug – The London (feat. J. Cole & Travis Scott)

彼がシーンに登場した当時は、そのファッションや音楽性から、「ゲイ的だ」と批判する声も少なくありませんでしたが、何と言われようと自分のスタイルを曲げずに進み続けた彼の信念が、以後のヒップホップシーンに多大な影響を及ぼすことになります。

ハイピッチ且つ中性的なスタイルの定着

Young Thug の活躍を皮切りに、オートチューンやピッチ変更を用いた高音且つ中性的な歌唱スタイルが音楽シーンに広がります。

2010年代以前にも、Nas が自身の女性オルターエゴ「Scarlett」としてピッチを上げた女性のような歌声でラップする事例がありましたが、そのような高音パートをオルターエゴ的な位置付けとして楽曲の一部分に用いるアーティストも増えていきました。

Nas – Sekou Story (feat. Scarlett)

Frank Ocean の『Nikes』や、Tyler, the Creator の『RUNNING OUT OF TIME』などでも(Young Thug の影響とは言えないものの)ピッチを上げた中性的な歌唱パートが取り入れられ、ヒップホップ、R&B からポップスまで、しっかりメインストリームに浸透していることが窺えます。

Frank Ocean – Nikes

Tyler, The Creator – RUNNING OUT OF TIME

中でもヒップホップシーンにおいては、その盛り上がりが顕著でした。明らかに Young Thug に影響を受けたであろう高音で歌う若手ラッパーが続々と登場し、シーンを盛り上げます。

SahBabii – Marsupial Superstars (feat. T3)

Coca Vango – Sauce All One Me

Haiti Babii のフリースタイルラップ

「ベイビーボイス」ラップの登場

そして2018年から2019年にかけて、中性的もしくは女性的という域を超えた、まるで幼児のような声で歌ういわゆる「ベイビーボイス」ラップが登場し話題を呼びました。

今日のベイビーボイス・ラップと呼ばれるスタイルを始めたのは、Young Thug の YSL Records とサインしているアトランタのラッパー Lil Keed でしょう。彼もまた Young Thug に影響を受けたラッパーの1人ですが、他の Young Thug フォロワーとは一線を画すような、極端に高いピッチで歌うフロウを聴かせます。

Lil Keed – Nameless

Lil Keed の裏声でシャウトするレコーディング風景も非常に興味深く、一見の価値ありです。

そして、最初にベイビーボイス・ラップが大きな注目を浴びたのは、Young Nudy & Playboi Carti の未リリース楽曲『Pissy Pamper』のバイラルヒットでした。

※未リリース楽曲のため音源無し。

この楽曲では、Playboi Carti が今にも泣き出しそうな幼児のように歌うフロウを披露し、未リリースにも関わらずリーク曲が Spotify のチャートにて1位を獲得しました。

このヒットを受け、Playboi Carti はベイビーボイス・ラップに傾倒するようになります。幼児のような声で絞り出すように歌うラップと耳に残る軽快なアドリブを織り交ぜた彼のスタイルは、もはやラップというより一種の楽器としての側面が強く、Young Thug よりも更に音にフォーカスした進化系であるといえます。

Playboi Carti – @ MEH

Drake – Pain 1993 (feat. Playboi Carti)

Young Thug のスタイルを誇張して進化させたようなこの新しいスタイルは、賛否両論あるものの、チャートではしっかり好成績を残します。実際、Playboi Carti だけでなく、この「ベイビーボイス」ラップと呼べるような歌唱法を用いる若手ラッパーが次々と現れています。

その中でも、現時点でのベイビーボイス・ラップの究極形態が、アトランタの新人ラッパー 645AR でしょう。彼のベイビーボイスはもはやホイッスルボイス(裏声系のシャウト)や金切り声にも近く、「果たしてこれはベイビーなのだろうか」という疑問も生まれるほど衝撃的なスタイルです。

645AR – 4 Da Trap

このように、2000年代中頃からヒップホップシーンに浸透し始めたオートチューンを用い歌うラップスタイルは、2010年代に登場した Future や Young Thug の影響を強く受けながら今日のスタイルへと進化を遂げました。

世間が待望している Playboi Carti の新譜が本当にリリースされるのかどうかは怪しいですが、ヒップホップファンや音楽評論家から賛否両論を受けるベイビーボイス・ラップの今後と、その影響を受けた新たなアーティストやスタイルの登場を楽しみに待ちたいと思います。

Written by Riku Hirai