Joyce Wrice (ジョイス・ライス) は、日本とアメリカにルーツを持つ、カリフォルニア州サンディエゴ出身の注目R&Bシンガーだ。90年代後半から2000年代初期のR&Bを彷彿とさせるサウンドと美しく伸びのある歌声で世界中から注目の視線を浴びる彼女は、starRoや向井太一ら日本のアーティストとの共演でも知られている。
今回は、本日デビューアルバム『Overgrown』をリリースした彼女の人となりを、i-D Magazineによるインタビューを抜粋しながらご紹介する。
– サンディエゴでどのように生まれ育った?
私は日本人の母とアフリカンアメリカンの父親のもと、サンディエゴの小さな町チュラビスタで生まれ育った。私の父は軍人として日本に駐留していて、そこで母と出会ったの。その後、父はサンディエゴに異動となり、母は私をサンディエゴで育てることに決めたそう。母は、私が環境や友達を変え続けなければならないことを心配していたからね。同時に彼女は、私にも日本の文化に触れてほしいと強く思っていたんだ。幸運にも、サンディエゴには良質な日本の市場とコミュニティがあったよ。
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– 仏教を教えられていたと聞いたが、今でも信仰している?
私の母は仏教徒で、彼女は20代後半頃に東京で日蓮仏教を学んだんだ。母が私に教えてくれたことの1つは、「他の人を助けることが自分自身を助ける最良の方法である」という教えよ。なんらかのコミュニティに属せば、問題への向き合い方や目標達成へのプロセスを共有でき、自分は1人じゃないって気づくことができるんだ。自分が取り組んでいることを共有し、そしてまた仲間の行動に刺激を受けるのは素晴らしいことだよ。
1人っ子だった私は、母と時間を過ごすことが多くて、学校が休みの日は彼女と仏教徒の集会によく足を運んだの。私はそこで、仏教信仰によって自らの人生を変える母の姿を目の当たりにしたんだ。それがきっかけで私も仏教を信仰するようになったってわけ。それ以降、私は毎朝晩、真剣に読経に取り組んできたよ。私はロサンゼルス中南部のグループに所属していて、今は彼らと直接会うことはできないけど、Zoomを使って電話をするんだ。遠隔での読経でも私たちが団結できるように、朝に皆んなで同時に行うの。他の人と一緒にやるほうが簡単だからね。
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–「アーティストとしての自分」を見つけるにあたって、最も決定的だったことは?
実際のところ、自分の声を見つけて曲を作る段階において、私はかなり行き詰まっていたんだ。私はセンシティブな性格で、自己不信と不安に苦しんでいたの。でも、他のアーティストの活動に目を向け、彼らがどのように音楽に向き合っているのかを知り、自らの全てを曝け出すことに決めたとき、私はその過程の美しさに気づいたんだ。私たち全員がそれぞれ独自のストーリーを持っていることを再確認できたよ。その過程で挫折せずに、自らのストーリーを伝えることが私の使命だと感じたの。私の曲を聴いた他の誰かにもその過程の美しさが伝わってほしいしね。こういう風に考えるようになってからは凄く気が楽になったし、自分がすべきことにフォーカスできるようになったよ。
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– ニューアルバムのタイトル『Overgrown』に込められた意味は?
本当は去年リリースする予定だったんだけど、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で遅れてしまったの。去年リリースしていれば収録されることはなかったであろう、強いインパクトのあるインタールードや楽曲を作ることができたし、実際この遅延は私にとって意味のあるものだったよ。 『Overgrown』という楽曲を作ったとき、一緒に仕事をしたプロデューサー兼ライターのMack Keaneに私の苦労について相談したんだ。私は当時、自分に価値を見出せず、自信を失っていたの。彼との相談中、私は彼のピアノ演奏に乗せてフリースタイルを始めたのを覚えているよ。私にとって『Overgrown』とは、「カラフルな花でいっぱいの自分の庭」、つまり「自分の感情」や「自分の雑念」を意味するんだ。当時この「自分の庭」は雑草に覆われていて、手入れが必要だったの。アルバム制作の全てのプロセスは、まさにセラピー・セッションのようなものだったよ。このアルバムは私が行った「ガーデニング」の結果と言えるかもしれないね。
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– Freddie Gibbsとのコラボレーションはどのように実現した?
私がTwitterで彼に連絡したら、彼は「明日レコーディングするからその楽曲を聴きたい」って返事をくれたんだ。彼は私の曲をかなり気に入ってくれたよ。彼は頭の中でリリックを書き、スタジオを歩き回りながらフロウを模索したのち、レコーディング・ブースに入って自身のヴァースを如何にも簡単に仕上げたんだ。彼の声はとても魅力的で、なんといってもビートへの乗り方がとてもスムーズなの。彼とのコラボは私にとって本当に刺激的だったし、私も自分の信念を曲げずにアーティストとしてのキャリアを長続きさせたいって思ったよ。音楽を長くやっていると、物事がうまくいかないことはよくあって、途中で諦めてしまう人もたくさんいる。でもFreddieは前に進み続けたんだ。彼は色んな困難に直面しながらも決して諦めることはなく、今では大成功を収めている。そういった意味で、彼とのコラボレーションは私にとってかなり刺激的なものだったよ。
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– 初期の楽曲ではフックとヴァースの両方を1人で録っていたのに対して、今では大物アーティストの客演ヴァースを沢山手に入れている。これはあなたにとって感慨深いものなのでは?
本当にその通りだよ。このアルバムはまさに夢の実現なの。実家に帰って自分の幼少期の写真を見ると思うんだけど、当時は私がこんなことを実現できるなんて夢にも思わなかったよ。私はどちらかと言うと恥ずかしがり屋で、自分を表に出すのが得意ではなかったけど、自分を表現しなければならなかった。このアルバムの制作において素晴らしかった点は、強制的なコラボレーションがなかったことなの。このアルバムに参加してくれたアーティストは皆、私自身が大ファンであり深く尊敬する人々なんだ。彼らも私のことをそう思っていてくれていると感じるよ。私たちは皆、音楽について話し合うだけの関係ではなく本当の仲間なんだ。
Written by Riku Hirai