Jackboy – 愛とギャングの交錯を歌う新鋭ラッパー

先日、最新アルバム『Love Me While I’m Here』をリリースし、大きな話題となっているフロリダ州ポンパノビーチのラッパー Jackboy。2020年に突入してからも、セルフタイトルアルバム『Jackboy』や『Living in History』、そして先日リリースされた『Love Me While I’m Here』の3作品をリリースし、精力的に活動を続けています。今回はそんな彼の生い立ちやキャリアに触れながら、2つの視点から彼の魅力に迫ります。

生い立ちとキャリアの開始

Jackboy こと Pierre Delince は1997年の8月27日にハイチ共和国にて産声を上げました。6歳になるまでの幼少期をハイチ共和国で過ごしたのちに、家族と共にフロリダ州のノースラウダーデールに移り住みます。まもなくして、現在もなお拠点として活動しているフロリダ州のポンパノビーチに再び移住します。

ハイチ共和国で過ごしたのはたったの6年間ということで、当時の記憶はほとんど無いと話す彼ですが、「ハイチ共和国にルーツを持つことを誇りに思っている」とも公言しており、今年の5月18日にはハイチ共和国の国旗制定記念日に合わせてシングル『Spittin’ Fact』もリリースしています。

Jackboy が音楽活動を開始したのは 2016年。音楽を始めたきっかけとして「金が必要だったから」と明かす彼は、ここ数ヶ月で自らのラップが評価され、ある程度の金額を稼ぐことに成功するまで「音楽を好きでやっていたわけじゃない」と語っています。

Kodak Black との出会い

Jackboy のラップスタイルは声質やフロウの類似点から、しばしば Kodak Black と比較されます。実際のところ、Jackboy は Kodak Black が率いるレコードレーベル Sniper Gang に所属しており、デビューミックステープのリリース時から共演を重ねているほど、彼らの友好関係には深いものがあります。

1997年生まれであることやフロリダ州ポンパノボーチで育ったこと、そしてハイチ共和国にルーツを持つことなど、Jackboy と Kodak Black には様々な共通点があり、それらの共通点が彼らを巡りあわせたとも言えるでしょう。(Kodak Black の出身はフロリダ州ポンパノビーチですが、両親がハイチ共和国からの移民です。)

近年の活躍と彼の魅力

冒頭では、2つの視点から彼の魅力に迫ると始めさせていただきましたが、その1つ目は「身の回りに起こることをありのままに綴ったリリック」です。まずは最新アルバム『Living in History』に収録され話題となった楽曲『In My City』をお聞きください。

Boy you gotta keep a gun ’cause this shit get hella scary
この街はかなり危険だから、銃を携帯すべきだ

My dog just got up outta jail now he in a cemetery
刑務所から出てきたと思ったら、もう墓の中にいる奴もいる

This real rap no cap this ain’t my imaginary
これは俺の妄想なんかじゃなくリアルなラップだ

Every n***a in my city fuckin’ legendary
俺の街にいる仲間はみんな伝説だ

Every n***a in my city tote a choppa
俺の街にいる仲間はみんなチョッパー (※1)を携帯している

(※1) Choppa とは、自動小銃 AK-47 を意味するスラング

本楽曲で語られている内容が全てノンフィクションであることを強調しながら、ストーリーテリングのような構成で展開されているこちらの楽曲は、先行シングルとしてリリースされた時点から話題に火がつき、現在では YouTube で500万回再生を越えるヒット曲となっています。

続いても最新アルバムに収録されている『Lost Ties』 をお聴きください。

Niggas started to hate when I started to shine
俺が輝き出した途端、あいつらは俺を嫌いだした

Lost ties with a couple of niggas that I loved the most
最も愛した仲間との友情もいくつか失ったよ

If I knew you finna do me dirty, I wouldn’t of let you close
お前らがあんなに汚い真似をするような奴らだと分かってたら、初めから俺に近づくのを許してなかっただろうにな

ラッパーとして成功をおさめ富と名声を手に入れ始めた彼ならではの、人間関係の複雑さをラップした一曲です。このパターンの楽曲では、裏切り行為を働いた元友人を非難するばかりのリリックになることが多いですが、Jackboy の場合は途中から急変した仲間の態度に悲しむスタンスでリリックが書かれており、どこか哀愁が漂う作品となっています。

Rod Wave などの歌モノを取り扱うラッパーたちとの共演でも有名なトラックメーカー TnTXD らによるピアノベースのトラックがフロリダらしくて良い味を出しています。

そして、彼の魅力に迫るために忘れてはならない視点の2つ目は「スムーズなメロディとロマンチックなリリック」です。

一つ目の魅力でもご紹介した通り Jackboy が育った街は決して安全とは言えず、ラップの内容も平和なものとは言えない物が多いのが事実です。しかし、彼はギャングスタのストリート事情をそのままラップする傍ら、同一人物が制作したとのとは思えないほどロマンチックなラブソングもリリースし続けています。

彼のデビューアルバム『Lost In My Head』では、ラブソングを中心に音楽活動を行う巷のポップアーティストも顔負けなロマンチストぶりを顕著に感じることができるアルバムとなっています。まずはこちらの楽曲をお聴きください。Jackboy のデビューアルバム『Lost In My Head』収録の『Would You Leave』と言う楽曲です。

If  I go broke right now
もし俺が今すぐ貧乏になっても

Would  you still be around?
それでも俺のそばにいてくれる?

If I go to jail right now
もし俺が今すぐ刑務所に行っても

Baby girl, hold me down
俺のことを愛し続けてくれよ

Or  would you leave me?
それとも君は離れていっちゃうの?

Baby,  don’t leave me
お願いだからずっとそばにいてよ

恋人からの愛情を確かめるような質問形式のフックが特徴的な可愛らしい一曲です。1分39秒とかなり短めの楽曲ですが、伝えるべきことだけを短時間にまとめたミニマルでシンプルを突き詰めたものだと言えます。Jetsonmade によるフワフワとしつつも、重い808のアクセントが効いたトラックも楽曲の雰囲気とマッチしています。

つづいても『Lost In My Head』より『Live and Learn』と言う楽曲。

Man, it took all of this time just to finally realize, oh, how much I need you
俺が君をどれだけ必要としているかを気づくまでに、かなりの時間がかかってしまった

Lately I been out of mind, so now I’m taking my time tryna find new ways to please you
君をどうやって喜ばせられるかを考えているから、ここ最近俺はずっと上の空だよ

Fuck all that money I make, I would give it away just to be with you
今までに稼いだ金なんて、君と一緒に居るためなら捨てられる

恋人からの愛を確かめる内容の先程の楽曲とは対照的に、自分がどれだけ恋人を愛しているかをラップしたものです。こちらも Jetsonmade によるトラックで、重くなりがちな内容のラップを軽快なテンポで楽しむことができます。

最後に最新アルバム『Living in History』収録の『Hard to Forget Ya』をご紹介します。

And baby, I don’t wanna see you with another fella
君が他の男といるところなんて見たくないよ

‘Cause if I do, I’ma wish that I never met ya
君と出会いさえしなければって願うほどにね

‘Cause the love you give gon’ be hard to forget ya
君がくれた愛のせいで、君のことを忘れられないよ

恋人に別れを告げられてしまった後、取り返しのつかない現状に後悔をする内容の失恋ソングです。ドラムス無しのアコースティックなトラックや、感情のこもった掛け合いフックに注目です。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はストリートのリアルな現状をラップするとともに、暖かいラブソングをも歌い上げてしまうフロリダのラッパー Jackboy についてご紹介してきました。「ここ数ヶ月でやっと音楽が好きになってきた」と語る Jackboy のさらなる躍進に期待が高まるばかりです。

Written by whoiskosuke