Toosii – 心地よい痛みを歌うメロディックな新鋭ラッパー

2020年に突入してからも『Platinum Heart』や『Poetic Pain』などのミックステープをリリースし、着々とヒップホップ及び R&B シーンからの指示を集めているラッパーの Toosii。耳触りのいいメロディックなデリバリーや、切なくも共感を呼ぶリリックがリスナーたちの心を掴み、彼の虜となる者が続出しています。今回はそんな彼の生い立ちやキャリアを、おすすめの楽曲とともにご紹介します。

生い立ちと楽曲スタイル

Toosii(トゥーシー)こと Nau’Jour Grainger は、ニューヨーク州中央部に位置する商工業都市シラキュースにて産声を上げました。幼少期はサッカーに夢中だったらしく、プロの選手を目指すことも考えていたそうです。同時に、自らの心の中で感じたことを言葉に書き起こし、それらを歌にすることに魅力を感じていたという彼は、ミュージシャンをになることも将来の選択肢の一つとして検討し始めました。

Toosii

ミュージシャンとして活動していくことを決めた Toosii はノースカロライナ州のローリーに拠点を移し、KingToosii 名義で『Label Me Deserve』『Hell on Earth』などのミックステープを Spinrilla にて公開します。1作目のミックステープ『Label Me Deserve』には、Chance The Rapper の名曲『Angels』のビートジャックなども収録されています。

彼は、そのメロディックなデリバリーやトラックのチョイスから Roddy Ricch と比較されることが多いアーティストです。しかし、Toosii 本人は「自分はこの世界の誰からも影響を受けたことがない」と語った上で「みんなは俺をゴミ屑と比較するのではなく、スターと比較してくれたんだろ。」と発言し、Roddy Ricch と比較されることに嫌悪感を示していないことを明かしています。

Toosii の人気が沸騰している要因としてメロディックなデリバリーの他にも、彼によって書かれた共感できるリリックが挙げられます。彼は、自らの楽曲のスタイルについて UPROXX のインタビューにてこのように語っています。

A lot of my fans are people who’ve been through things and I make insightful music that gives you that cry you need. You ever had a good pain? Like a pain that hurt, but it don’t really hurt, because it also feels good. I make that kind of music.

俺のファンの多くは心の中に辛い何かを抱えていることが多いから、俺は彼らに寄り添った音楽を作るんだ。辛い時に聴いて泣いても良いような楽曲をね。君たちは「心地よい痛み」を感じたことがある?それは俺たちを傷つけるんだけど、同時に心地よさも与えてくれる痛みなんだ。俺はそんな感じの音楽を作っている。

UPROXX

多くの人が直面する人生や恋愛においての「もがき」や「葛藤」を言語化し、それらをメロディックな楽曲に乗せてファンたちに届けること、それが Toosii の魅力の一つです。

ミックステープ『Platinum Heart』

Toosii は6枚目のミックステープである『Platinum Heart』をリリースした頃から、ヒップホップ及び R&B シーンに頭角をあらわすようになりました。当ミックステープは約2ヶ月後にデラックス盤もリリースされたことで、さらなる注目を浴びました。今回はその中でも必聴の楽曲をご紹介します。

Toosii – Love Cycle

R&B とトラップの中間をいくような、ゆったりとしたトラックに緩急を激しくつけたフロウを用いた一曲です。フックには意中の女性との会話を実際の対話形式で組み込まれていることで、彼の恋愛観を目の前で見ているような感覚に陥ります。また、Toosii によるリリックの魅力の一つとして絶妙で詩的なワードチョイスが挙げられ、当楽曲もその魅力を全面に押し出したものとなっています。

You got me stuck inside your love cycle, I read your love bible
君は俺を愛の循環に巻き込んでいく、愛の聖書を読んだんだ

We give the hood guidance, we keep the hood smilin’
俺たちはフッドでどう振る舞うかを知っているし、仲間たちの笑顔を絶やさない。

最新ミックステープ『Poetic Pain』には、当楽曲に Summer Walker を招いたリミックスバージョンも収録されて話題を呼びました。Toosii と Summer Walker が実際の恋人のように繰り広げる掛け合いが注目されており、London On Da Track の反応が気になる一曲となっています。

ミックステープ『Poetic Pain』

『Poetic Pain』は2020年9月18日にリリースされた Toosii による7枚目のミックステープです。タイトル(直訳すると「詩的な痛み」)からも感じ取れるように、Toosii が得意とする「心地よい痛み」を表現することに力を入れた作品で、実際にメロディックなフロウに乗せて紡ぎ出される詩的な言葉がファンたちの中で共感を呼んでいます。本作からも必聴の楽曲を数曲ご紹介します。

Toosii – Poetic Pain

今作の表題曲となっているこちらの一曲は、意中の女性に手紙を書くように「詩的な痛み」を歌い上げる構成となっています。一般的に見ると少々重いテーマとなっていますが、早めのテンポのトラックとメロディックなデリバリーが相まって、かなり爽やかに仕上がっています。

Poetic pain, I just wrote you a love letter
詩的な痛み 君に恋文を書いたところだよ

Let you know my heart shattered
俺の心が打ち砕かれたことを君に知って欲しい

Let you know my heart shattered
俺の心はもうボロボロだ

Took a trip, let’s be on Saturn
土星に旅行に出かけよう

Take a trip, let’s be on Saturn
土星に旅行に出かけよう

注目すべき点は、同じ文言が連続で歌われていることと、連続した同じ文言が違った声色で歌われていることです。実際の詩においても反復法として同じ文言を繰り返す技法が存在しますが、Toosii はそれを楽曲のリリックに応用していると思われます。また一回目を高音で、二回目を低音で歌うことで表現に深みを持たせ、彼の恋心の中にある葛藤のようなものが垣間見えるように作られているのではないでしょうか。

Toosii – Calls

ミックステープの後半に収録されているこちらの一曲は、愛する仲間が刑務所に収監されてしまった際に、捕らえられた仲間とは対照的に自由の身である彼が感じた想いを歌った楽曲です。本作では恋愛に関するトピックが歌われた楽曲が多く見られましたが、当楽曲に関しては仲間に対する思いを綴っています。

You knowing that shit kinda be hard when you, When your loved ones behind that, Them bars, you know, behind that cell
愛する仲間が檻の向こう側の部屋にいるという状況が、どれだけ辛いかわかるよな

All in them walls and shit like that and you can’t do not’in
仲間は壁の向こうにいて、俺は何もしてやれない

That shit hurt
そんなの辛すぎるよ

Sitting here on the outside, I could only imagine how you feeling
俺はここに座って、お前が何を感じているかを想像することしかできない

その他の作品

Toosii はそのメロディックで落ち着いたスタイルから、ここ最近はたくさんのラッパーたちの楽曲にゲスト参加しています。ここではその中でも特に良い作品をピックアップしてご紹介します。

DaBaby – Bidness (feat. Toosii)

Toosii と同じく South Coast Music Group にサインしているオハイオ州クリーブランドのラッパー DaBaby が、自ら命を絶った兄に捧げてリリースした EP 『Brother’s Keeper』に収録されている一曲です。Jetsonmade による声ネタのループトラックに、二人が詰め込み気味のラップを乗せています。

Toosii のバースではソリッドなラップを披露しており、得意のメロディックなフロウはほとんど登場しません。しかし最後は、DaBaby によるフックの後ろに Toosii がハモリを入れる構成をとっており、Toosii の魅力を最大限に引き出した楽曲と言えるでしょう。

Queen Naija – One Time (feat. Toosii)

ミシガン州イプシランティのシンガー Queen Naija によるデビューアルバム『missunderstood』に収録された一曲です。Toosii は『Love Cycle』にて Summer Walker との共演を果たしたことで、R&B のアーティストたちにも注目され始めています。Hitmaka による壮大でゆったりとしたトラックに、のびやかな歌声を披露しています。

おわりに

2020年の精力的な活動を通して絶大な人気を獲得し、インスタグラムではすでに200万人のドロワーを獲得している Toosii。ミックステープ『Poetic Pain』では独自のスタイルが固まったような印象が感じられ、彼のキャリアはまだまだ始まったばかりです。これからの彼の動向からは目が離せません。

Written by whoiskouske