レゲエやダンスホールミュージック、そしてアメリカを中心に発展したヒップホップや R&B などが、 ナイジェリアやガーナといった西アフリカ独自の文化と融合して生まれた音楽ジャンルに「アフロビーツ」というものがあります。
当ジャンルの定義や名称については現在も流動的に変動を続けており、「アフロ・スウィング」や「アフロ・バッシュメント」と呼ばれるものなど、派生ジャンルも多数誕生しています。
今回は、そんな「アフロビーツ」または「アフロ・スウィング」ジャンルにおいて近年注目を集めるプロデューサー JAE5 についてご紹介します。生い立ちや、彼が幼少期に受けた音楽的影響、J Hus とのパートナーシップなど彼に関する重要な要素を追いながら、JAE5 の魅力に迫ります。
生い立ち
JAE5 (ジェイファイブ) こと Jonathan Mensah は、イーストロンドンのプレイストーにて誕生しました。5人兄弟 (5人とも男性) の次男として生まれた JAE5 は、0歳から10歳までをイーストロンドンにて過ごしました。
兄が音楽に興味を持っており、彼が買ってきた CD やラジオ音源をテープに焼いたものを借りて聴いているうちに、JAE5 自身も音楽への興味を持ち始めます。兄が所有していた CD のなかでお気に入りだったのは Timbaland のものだったと語ります。
10歳になった頃、彼は家族と共にガーナに移住します。その後、彼自身は三年間をガーナで過ごすことになるのですが、彼の現在のサウンドスタイルの基盤を形作ったのは、間違いなくガーナでの三年間であると言えるでしょう。
ガーナでの生活は、彼曰く「本当にやることがなく暇だった」らしく、FL Studio がインストールされたパソコンを触るか、道端でサッカーをするかの二択だったといいます。放課後の暇つぶしに前者を選んだ JAE5 は、普段聴いている音楽がどのように作られているのかに興味を持ち始め、自らの手でも音楽を作ることも視野に入れ始めました。
また、母親はレゲエの Lucky Dude のファン、兄は 50 Cent をはじめとするアメリカのヒップホップに熱中、母の兄は Celine Dion の大ファンだったらしく、家庭内も様々なジャンルの音楽で溢れかえっていました。ガーナの市街地では、バケツや木片をドラムに見立てて美しい音色を奏でる少年を目撃し、日々音楽的な面で影響を受け続けていたといいます。
キャリアの開始
ガーナで二年間を過ごした頃、レゲエミュージシャンである Shaggy のコンサートに参加した JAE5 は、スタジアムに鳴り響く彼の音楽に感銘を受け、自らも音楽の道へ進むことを決意します。
イーストロンドンにもどった JAE5 は、ラッパーである叔父に自作のビートを送りました。彼の叔父は、協力的な姿勢で彼のキャリアをサポートしてくれたそうで、レコーディングスタジオの見学などにも連れて行ってくれたそうです。
JAE5 が見学に訪れたスタジオでは、ダブステップやグライム、レゲエなど様々なジャンルの音楽を制作するアーティストたちが居り、ここでもガーナの時と同じように様々な音楽的影響を受けたといいます。
大学を中退した JAE5 はスタジオに入り浸るようになり、楽曲の制作に熱中していました。そしてその頃、彼をサポートし続けた叔父であるラッパーの Blemish、Randy Valentine と JAE5 の3人で JOAT というクルーを結成します。(初期〜中期の楽曲では JOAT のプロデューサータグが確認できます。)
J Hus との出会い
現在では、JAE5 の1番のパートナーであるラッパーの J Hus。JAE5 は J Hus の DJ を通じて知り合いました。共にスタジオ入りした瞬間から2人は意気投合し、そのままパートナーシップを結んだといいます。
J Hus の一作目『The 15th Day』では、JOAT Music Group 名義でほとんどの楽曲を、2作目の『Common Sense』ではエグゼクティブ・プロデユーサーを務め、3作目の『Big Conspiracy』では14曲中9曲を手掛けています。ここでは数ある JAE5 と J Hus の名曲の一部をご紹介します。
Did You See
JAE5 によるプロデュースの J Hus の楽曲の中で、最もヒットしたこちらの楽曲。J Hus によるデビューアルバム『Common Sense』に収録されています。スマートフォンのデフォルト着信音のような音色のメロディーをベースに、きめ細かいハイハットなどがスパイスとなる爽やかな雰囲気のビートが特徴的ですが、J Hus のラップはビートとは対照的にかなり過激なものとなっています。
Clean It Up
2016年にリリースされた J Hus の EP『Playing Sports』に収録されたこちらの楽曲。JAE5 がスタジオにて他のダブステップアーティストから受けた影響を垣間見れるような、激しい曲調となっています。SF アニメの効果音のようなサウンドが散りばめられており、現在の彼らの楽曲ではあまりみられないようなスタイルです。
Triumph
J Hus による待望のセカンドアルバム『Big Conspiracy』に収録されたこちらの楽曲。終始落ち着いたムードで進行していきますが、その中には繊細で細かいサウンドが散見され、聴くたびに前回聞こえなかった音が発見できるようなビートです。シンプルで洗練されているからこそ、決して飽きがこない一曲となっています。
Reapeat (feat. Koffee)
『Triumph』と同じく、セカンドアルバムに収録されたこちらの楽曲は、ジャマイカのレゲエアーティストである Koffee をフィーチャーしています。JAE5 によるレゲエ調のビートが、Koffee のジャマイカンスラングとマッチしており、Koffee による迷曲『TOAST』に似た幸福感をもたらしてくれます。Koffee のバースの途中から始まる、鉄琴のような音色が程よいアクセントになっており、JAE5 らしさが感じられます。
JAE5 プロデュースの楽曲
J Hus とのゴールデンタッグで有名な JAE5 ですが、他にも数々のアーティストの楽曲をプロデュースしています。今回はその中からいくつかおすすめをご紹介します。
JAE5 – Dimension (feat. Skepta & Rema)
JAE5 名義にてロンドンのグライム MC である Skepta と、ナイジェリアのラッパー / シンガーである Rema をフィーチャーした楽曲です。厳荘なメロディとカチャカチャとしたドラムスが特徴的なビートに、Skepta と Rema がうまくマッチしています。アフロビーツからベイビーボイスを用いたトラップに至るまで様々なジャンルに挑戦する Rema ですが、今回の楽曲では Skepta にラップを任せ、メロディアスなフックを担当しています。
Geko – 6:30 (feat. NSG)
UK のラッパ Geko が、イーストロンドン出身の6人のラッパーからなるアフロバッシュメントグループである NSG をゲストに招いたこちらの楽曲。装飾音が効いた木琴の音色を中心に展開される JAE5 のビートに、Geko のハスキーな歌声と NSG メンバーのグルーヴィーなラップが楽しい一曲です。
Dave – Location (feat. Burna Boy)
UK のラッパー Dave による傑作『PSYCHODRAMA』に収録された Burna Boy との名曲です。滑らかなピアノの旋律や、バックに響くサックスの音色が美しいビートは、彼の生み出す音楽がどのようなものなのかをいち早く理解するために最適かもしれません。、
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は、アフロビーツやアフロスウィング界で最も輝くプロデューサー JAE5 についてご紹介しました。今夏にリリースが予定されていると噂の J Hus の新作では、どのような美しい音楽を私たちに届けてくれるのでしょうか。期待が高まるばかりです。
Written by whoiskosuke