中華トラップビート – ヒップホップシーンで異彩を放つ怪ビートたち

ビデオゲームのBGMのようなピコピコトラック、Playboi Carti や Lil Uzi Vert らが得意とする浮遊感のあるトラック、極端に音数が少なくバスドラムが響く重低音トラックなど。トラップミュージックが急速に人気を博して数年たった今、数々のプロデューサーたちが多種多様なトラックを生み出し続けています。

その中でも、ここ数年のヒップホップシーンにおいて一際異彩を放ちながらも、数々のラッパーたちによって使用されているのが「中華トラップビート」です。「中華トラップビート」とは、民族楽器などの独特な音色によるメロディーを主軸として構成されている、中国的なビートのことです。

三弦のような弦楽器や、笙と呼ばれる中国の管楽器などの音色が用いられることが多く、再生ボタンを押した瞬間に中国の繁華街を歩いている気分にさせてくれます。今回は、数あるトラップビートのジャンルの中から、この「中華トラップビート」が用いられている楽曲についてご紹介していこうとおもいます。

流行の発端

中国的な雰囲気を感じられるトラックは、随分前からちらほらと見受けられましたが、やはり流行の発端となったのは、中国出身のヒップホップグループである Higher Brothers の『Made In China』ではないでしょうか。彼らは、中国でヒップホップシーンが盛んになり始めたタイミングで、チャイニーズラップらしい中華ビートを採用した楽曲をリリースしました。Future や Young Thug などとの共演で有名なプロデューサー Richie Souf による中華トラックに加え、シカゴのラッパー である Famous Dex をゲストに招いたことで、チャイニーズスタイルのトラップミュージックが瞬く間に全世界に広がりました。

中国のヒップホップシーンはもちろんのこと、海外からの注目も集めることに成功した彼らは、のちにリリースしたアルバムに ScHoolboy Q や J.I.D、KOHH などを招くことで、さらなる知名度を獲得していきます。そのなかでも、Ski Mask The Slump God と Denzel Curry を招いた楽曲『One Punch Man』は、Ronny J による中華ビートの上で中国語と英語が混同した勢いのあるラップが話題を呼びました。

MV も少林寺拳法をテーマにしたものとなっており、彼らの武器であるチャイニーズラップの独特なスタイルを全面に押し出しています。もちろん、中国的なトラックが流行した要因が100%彼らにあるとは言い難いですが、アジア圏の文化がクールであるという認知を世界中にもたらした点では、間違いなく彼らの存在は大きいのではないかと思われます。

USヒップホップシーンでの事例

本章では、ここ数年でアメリカのヒップホップシーンでもよく耳にするようになった中華トラップビートを採用した楽曲の中から、重要なものを取り上げてご紹介していきます。まずは、ご存知の方も多いと思われるこちらの楽曲から。

Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するラッパー Gunna のデビューアルバム『Drip or Drown 2』に収録されている『Who You Foolin』という楽曲です。Wheezy による高級中華料理店のBGMのような中華トラップビートに、Gunna がしっとりと哀愁のあるラップを載せています。

ちなみに、Wheezy がサンプリングしたのは、中国の人気歌手である Tong Li の『童麗』という楽曲です。メロディはそのまま使用されており、Wheezy はドラムスを重ねただけです。しかし、今となっては原曲のYouTube のコメント欄には「Gunna から」「Gunna が俺をここに導いてくれた」など、Gunna リスナーによるコメントしか見当たりません。

ビートこそ中国的ですが、『ギャングスタだって、たまにはハグが必要なんだ』『リアルであれ。ストリートはお前を愛してくれないぜ。』などと切れ味のあるソリッドなラップを披露しており、内容とトラックのミスマッチ感が楽曲をより一層興味深いものにしています。

先ほど『Who You Foolin』が Wheezy によるプロデユースとご紹介いたしましたが、Wheezy は上質な中華トラップビートを制作することに定評があります。最近では、Iann Dior のニュープロジェクト『I’m Gone』に収録され、Lil Baby をゲストに招いた楽曲『Prospect』も、Wheezy にる中華ビートが採用されており、こちらも『Who You Foolin』に似た雰囲気を感じることができます。

次にご紹介するのは、Setitoff83 というノースカロライナのラッパーによる楽曲です。彼は、Rich The Kid が率いるレコードレーベル Rich Forever に所属するヒップホップトリオ 83 Babies のメンバーで、Stunna 4 Vegas などのような勢いのあるオフビート気味のラップを得意とするラッパーです。

中国雑技団の舞台を連想するようなユニークな音色のメロディループが特徴的な一曲です。レコードレーベルのボスである Rich the Kid をゲストに呼んでおり、彼らしいオフビートなスタイルを味わえます。

三弦などの弦楽器の音色をトラックに使用、またはサンプリングすることで中国的な雰囲気を醸し出すパターンが「中華トラップビート」では王道なようです。それでは、弦楽器以外の音色やサウンドを採用した中華ビートの事例についてもみてみましょう。

Polo G の最新作『THE GOAT』に収録されている『Chinatown』という楽曲です。こちらの楽曲に関しては、タイトルから察しがつく通り、もちろん中華ビートが採用されています。チャイナタウンというだけあって、特定の楽器によるメロディラインというよりは、チャイナタウンの街の喧騒のようなサウンドにドラムスを重ねた怪ビートとなっています。

今回のテーマである「中華トラップビート」からは少し外れてしまいますが、一曲だけ他ジャンルからも中華風のものをご紹介いたします。

皆さんご存知の Justin Bieber が2014年にリリースしたアルバム『Purpose』に収録されている『Hit the Ground』という楽曲です。同アルバムには、Travis Scott や Nas、Big Sean などがクレジットされていることもあり、今回の趣旨から大きく逸脱してしまうわけではないので、ご紹介させていただきます。

ダブ・ステップというジャンルを得意とし、ダンスミュージックシーンを牽引し続けているアーティスト Skrillex などによってプロデュースされた一曲で、フックにあたるメロディーバースに中国的なエッセンスが加えられています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は、近年のヒップホップシーンにおいて異彩を放つ『中華トラップビート』に焦点を当てて、その多様性や成り立ちについて考察してきました。今回ご紹介できた楽曲以外にも、中華ビートに該当するものはたくさんありますので、皆さんも中華トラップビートを探してみてはいかがでしょうか。

written by whoiskosuke