Bryson Tiller と巡る、トラップソウルの全て

Trapsoulとは?

まず始めに「Trapsoul」とは、「Trap」と「Soul」から出来ている造語です。

「Trap」

「Trap」とは、重低音を強調したビートにハイハットの連続音が混ざって出来ています。近年ではそこに特徴的なメロディーを持った電子音が乗せられることが多いのですが、いわゆるアトランタ産のヒップホップです。今ではどの地方のラッパーも使うので皆さんかなり聞き馴染みがあるヒップホップジャンルの一つだと思います。

「Soul」

「Soul」とは黒人音楽由来のR&B (リズム&ブルース) から派生したジャンルで、1960年代に確立されたと言われています。特徴としては、ブルースにゴスペルが組み合わさっていることで、ゴスペルのコード進行を基本としています。日本ではブルースとsoulの区別がはっきりしていないので認知していない人が多いことと、DTMの進化によって単純にジャンルの壁が無くなってきているので完璧な定義は難しいとされています。

誰が始めた?

それはズバリ Bryson Tiller です。

彼はケンタッキー州ルイヴィル出身の26歳のシンガーで、彼が2015年にリリースした1stアルバムの名前が『TRAPSOUL』でした。彼のアルバムからこのジャンルが認知され、確立されていきました。

同アルバムは彼の初アルバムにも関わらず、ミリオンヒットを記録し、プラチナディスク入りします。

90s slow jam

彼の特徴は「ソウル」の中でも”90sスロウ・ジャム”と呼ばれるジャンルに近いんです。

90sスロウ・ジャムといえば、90年代ニューヨークの「keith sweat」や同じ時期のシカゴの「R.Kelly」などが有名ですね。彼らの代表曲を一曲ずつ紹介します。

これらの曲を聴いてもらうと分かりますが、かなりゆったりしたビートに心地よいメロディーが流れますね。

こういう、思わず寝そべって聞きたくなるようなゆったりさが後々「ベッドルームR&B」と呼ばれるジャンルを作るんですが、これがBPMの遅いトラップのビートと出会うことで最強の音を作るんですね。

PARTYNEXTDOORの存在

トラップソウルの説明において、よくその生みの親を PARTYNEXTDOOR だと主張する人がいます。

彼は Drake の OVO に最初に参加したアーティストとして有名で、Drake との多くのコラボレーションでも知られています。

ではなぜ彼が起源ではないのか?それはハイハットやトラックとの関係にあります。

彼の出世作である『PARTYNEXTDOOR TWO』 は確かに前衛的な名作ではありました。

例えば、ディスクロージャーの Latch (feat. Sam Smith) のサンプリング曲『Sex On the Beach』などがあったりします。

他にも、エレクトロニック的な独特な音が入っている曲が多くあります。

ただ、完全なトラップソウルと言えるビートは『Recognize (feat. Drake)』と『FWU』ぐらいで、それ以外に特徴的なハイハットが用いられているのは 『Her Way』 の曲中の半分ほどと、『Thirsty』の途中あたり、そして『Muse』のフックぐらいです。

彼はまだ部分的にしかトラップソウルを取り入れておらず、それもおそらくOVOに所属していたことに拠っています。

つまり、このアルバムの革命的なポイントはあくまで、エレクトロニック的音を取り込み、Drake の作り出したメロディアスなトラップ(言うなればソウルトラップ)を部分的に取り入れたソウルであって、Bryson Tiller のトラップソウルの着想元にはなったかもしれませんが、トラップソウルの生みの親とはいえないでしょう。

しかしながら、彼の最新アルバム『PARTYMOBILE』は、ほとんどトラップソウルで構成されていました。

アルバムを通して最も印象に残ったのは、Rihanna を客演に迎えた『BELIEVE IT』です。この曲は Rihanna の良さにもかなり拠っていますが、アプローチがかなりトラップソウル的です。

やはりあくまで、トラップソウルのジャンル的面白さは、トラップとソウルを使いこなせて、その狭間での「ふらつき」を楽しむことにあるのです。

Bryson Tiller オススメ曲

では、最初にトラップソウルの生みの親、Bryson Tiller の1stアルバム『TRAPSOUL』の中から何曲か紹介しようと思います。まずは5曲目の『Don’t』です。

この曲は2014年にシングルとして出して全米ビルボード13位を記録した彼の出世作でいて、リードシングルとなっているんですが、一曲を通して無限のフロウが続く感じがたまらないですね、というかメロディーなんでしょうけど、本当に良い。

次は9曲目の『Rambo』です。これはかなりヒップホップの要素が強く僕は思わずカナダ系のヒップホップ、まるでトリーレーンズのフロウのように感じるんです。

とにかくこの曲を皮切りに、3曲続けてヒップホップ的フロウを見せてくれるんです。やはり、ソウルとヒップホップの狭間を行き来するのがこのトラップソウルの魅力と言っても間違いありません。

そして僕が一番好きな曲『Right My Wrongs』です。初めは優しいピアノのサウンドに気持ちよく乗せるバラード的始まりなんです、そこから少しずつハイハットが入ってフック前には思い重低音がくるんです。

おっ!きたきた!重いのが来るぞと思ったところでフックでまた始まりのような優しい曲調に変わるんです。

この一曲に Bryson Tiller の魅力の全てが詰まっていますね。

Trapsoul のおすすめアーティスト

Bryson Tiller が客演に参加した曲や、彼のアルバム『True to Self』についても触れたいんですが、長くなりすぎても良くないので、そろそろおすすめのトラップソウルアーティストについても触れていきたいと思います。

① dvsn (ディヴィジョン)

彼らはかなり有名で、エレクトロニック的な方面のイメージが強いんですが、実は結構トラップソウル的要素が強い「隠れ最強トラップソウルアーティスト」なんです。

dvsn はトロント出身でドレイクのOVOに所属し、彼の『One Dance』やニッキーミナージュの『Truffle Butter』などを手掛ける大物プロデューサーの Nineteen85 とシンガーの Daniel Daley の二人組で構成されています。

彼らの特徴は、エレクトロ的要素の強い耳に残るビート、効果音の上に乗せる透き通ったネオソウル的なヴォイス、そしてそれらをトラップ的なビートの上で披露することです。

現行のアーティストの中では、Bryson Tiller の正式な継承者であり、このトラップソウルを新たな境地まで連れて行ってくれる人で、彼らが現在の最上に位置すると言っても過言ではありません。

おすすめの一曲目は、1stアルバムの『SEPT. 5TH』に収録されている曲『Do It Well』です。

いかがでしょうか。どこか Bryson Tiller にも似ていますね。

次は『Hallucinations』です。こちらの楽曲は是非ヘッドホンかイヤホンで聞いてください。

始めのところ、もう一度目つぶって聞いてみてください、音が円を描いてるんです。たまらないですね。

さらに近年流行してきている、細かすぎて虫の羽が当たる音のようなハイハットを、聞こえるか聞こえないかぐらいの音で使っています。

また、彼らは最新アルバム『A Muse In Her Feelings』をリリースしました。やはり、彼らのアルバムにハズレはありませんね。(今回に関しては、先行で曲を出しすぎて、少し物足りないと感じた方もいるかもしれませんが)

まずはこのアルバムで最も早く出された先行シングル『Miss Me?』です。

すごく感傷的なトラックではじまるこの曲ですが、初めからいきなり特徴的なハイハットが聞こえてきます。

このトラックの上で、ヒップホップ的な間隔を開けたフローと、フックでの圧倒的な美声による歌唱を繰り広げてくれます。

そして次が Future を客演に迎えた一曲『No Cryin』です。Future のアドリブやバースもさることながら、圧倒的な歌唱とフックの勢いがたまらないですね。

dvsn はどのアルバムもかなり高い完成度となっているので是非とも気になる人は聞いてみてください。

② anders (アンダース)

中国系の血統である彼はカナダのミシサガ出身でトロントで活動中のR&Bシンガーのアンダースです。

実は2014年ぐらいから活動していて、最近では特にトラップソウル的要素を強め、それが功を奏して徐々に知名度を広げています。

アルバム『Twos』より一曲目、『Bad Guy』を紹介します。これは元々リードシングルとして発表されていた曲で、彼の魅力が詰まった一曲です。

③ Kalin White (カリン・ホワイト)

彼はカリフォルニア州北カリフォルニア出身のシンガーで、彼は元々 Kalin and Myles というデュオで活動していて、出会ったその日から楽曲制作を始めるほど息がぴったりでした。

SNSを通して彼らの名前は徐々に広がりましたが、残念ながら Republic Recording から解雇されてしまったことでソロ活動となりました。ただ、一人でもそのヤバさは折り紙つきです。

ではアルバム『Would You Still Be There?』という煽る気満々の名前のアルバムから『Idc Bout the Club, I Just Want You』(クラブ(の女)なんかどうでもいい、ただ君が。) というスイートな題名の一曲をどうぞ。

ちなみに、このフックの部分の、 “Tell your girls they should slide, n****s know the move”の 『slide』というのはあの Calvin Harris の曲からの引用だそうです。

あとがき

どうでしたか? Trapsoul というジャンルも実はまだまだいろんなアーティストがいますし、今となってはそのジャンルを取り入れるアーティストはかなり多くなっています。この記事で興味を持った方は、さらにアップカミングなアーティストを探しても面白いかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今回の記事に出てきた曲をまとめて Trapsoul のプレイリストも作っておりますので気になる人は是非、リンクよりお聴きください。

https://music.apple.com/jp/playlist/trapsoul/pl.u-GgA595zCZ1GAeaY?l=en

Kensho Sakamoto

コメントする