Pop Smoke – ブルックリンドリルのビッグウェーブを起こした若きレジェンド

みなさんこんにちは。

今回は、今年訪れるであろうドリルミュージックのビッグウェーブを作り出した張本人 Pop Smoke についての記事です。本日リリースされました2枚目のミックステープ『Meet The Woo 2』についても触れていますので、最後までお付き合い頂けたらなと思います。

Pop Smoke って?

Pop Smoke はニューヨーク、ブルックリン出身で、現在20歳のラッパーです。すでに貫禄のある大御所のような見た目ですが、まだ20歳です。始めて楽曲を発表したのも昨年で、キャリアはかなり浅いです。

ご存知の方も多いと思いますが、彼が昨年の夏にリリースした『Welcome to the Party』という楽曲が一瞬にしてバズを起こし、その大きな波に上手く乗って今に至る。という感じのとても説明しやすいキャリアです。

『Welcome to the Party』がバズったことをきっかけに、同曲に Skepta や Nicki Minaj を招いたリミックスをリリースし、その波の勢いは収まるどころか大きくなるばかり。そんな感じでこの楽曲は一昨年 Sheck Wes がリリースした『Mo Bamba』を彷彿とさせるような、クラブで聴かない日は無いお決まりの楽曲となりました。

さて、記事の初めに Pop Smoke を「ドリルミュージックのビッグウェーブを作り出した張本人」と紹介しましたが、この言葉を安易に受け止められたら少し困ります。やはり、ドリルミュージックを作り出したのは、Chief Keef や Fredo Santana を代表とするシカゴ勢です。

彼らが作り出したドリルミュージックにインスピレーションを受けてイギリスで発展したのが、UK Drill というジャンルで、Pop Smoke はこの UK Drill をアメリカに逆輸入し、ビッグウェーブを起こしたアーティストです。Pop Smoke はほとんどの楽曲に 808Melo や AXL といった UK Drill シーンで活躍しているプロデューサーを起用しており、UKドリルとUSドリルのハイブリット的存在と言えると思います。

文字だけでは分かりにくいと思いますので図解を載せておきます。

この辺の背景は、ブルックリンドリルについて詳しく書いた記事を見ていただければ、さらに深く理解できると思いますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。(代表曲『Welcome to the Party』についてもこちらの記事で触れています。)

『Meet The Woo』

たった一曲で、誰もが憧れる人気者になった彼ですが、このビッグウェーブを逃すまいと昨年の7月にミックステープ『Meet The Woo』をリリースしました。今回はこちらのミックステープの中からいくつかオススメを紹介します。

『Scenario』

ミックステープの5曲目に収録されているこちらの楽曲で、プロジェクトを通して見ても、一番ブルックリンドリルのダークな側面を感じることができます。「Pop Smoke はランダムに単語を並べただけでカッコいい唯一のラッパーだ。」というようなツイートを見かけたことがありますが、まさにその通りだと思います。しかし、言葉のはめ方や、繰り返し同じフレーズをラップするスタイルを上手く自分のものにしており、逆にそのスカスカさが彼の楽曲の醍醐味とも言えます。

Pull up, we snatching your babas
俺らはお前らの女を奪い去る

Big 092, those my guys
Big 092 こいつらは俺の仲間だ

Pull up and change the scenario
俺らが現れると、シナリオが書き変わる

Act up and bullets start tearing ’em
俺らが暴れると、銃弾があいつらを引き裂きだす

開始早々、勢いよくラップされるこちらのラインですが、同じくブルックリンドリルシーンの中心人物 Nas Blixky と Kush Blixky による『Babaz』という楽曲から引用されており、UKドリルビートの上でブルックリンドリル特有のスラングを聴くことができます。やはり、ここが彼の楽曲ならではのポイントなのではないでしょうか。

『Better Have Your Gun』

続いて紹介するのはこちらの楽曲。『銃を持ってた方がいいぜ』という意味のタイトルで、ドリル臭がプンプン漂います。

ちなみに彼の楽曲に度々登場する「It’s Big 092MLBOA」というフレーズですが、これは彼が生まれたブロックにて形成されているギャングを表しています。彼の地元であるカナージーは「Floss」または「Flossy」という別名を持っており、それに絡めてこのようにラップしています。

When you come to flossy, better have your gun
お前がカナージーに来るなら、銃は持っておいた方が身のためだぜ

『GATTI』

Pop Smoke は、昨年末にリリースされた Travis Scott 率いる Cactus Jack Records によるプロジェクト『JACKBOYS』に収録されている『GATTI』に参加しました。ここでも UK の AXL Beats と 808melo をプロデューサーとして起用しています。タイトルの『GATTI』とは高級スポーツカーの Bugatti (ブガッティ) の略で、MVでも青いブガッティを乗り回しています。

Look, you cannot say Pop and forget the Smoke
お前は「Smoke」と言わずに「Pop」と言えない

I’m from the Floss where n****s tote
俺は、ギャングたちが銃を持ち歩いているカナージー出身だ

よく考えれば、かなりありがちな単語である「Pop」と「Smoke」を並べただけの彼のMCネームですが、今や「Pop」と聞いたら「Smoke」を連想し、逆に「Smoke」と聞いたら「Pop」を連想してしまう。それだけ彼の時代が到来しているということを、このリリックを通して思い知らされます。

They couldn’t be Crips, so they turned Folks (Bah)
あいつらは Crips になれなかったから、Folk Nation に加入した

Drivin’ through the ‘Ville, droppin’ the Cho (Brr)
Brownsville を走り抜け、Cho の連中を始末する

ブルックリンには大きく分けて、Woo と Cho という2つの派閥が存在します。Woo と Cho はもともと仲は悪くなかったのですが、2010年を境にスニッチがきっかけとなって対立を始めました。Pop Smoke はアルバムタイトルを見ていただければわかる通り Woo に所属しており、Cho のメンバーと仲良くすることはありません。

このリリックにおける「あいつら」とは、Tay627 と Chris Elite のこと。彼らは Pop Smoke が所属する Woo と敵対関係にあり、Pop Smoke のヒット作『Welcome to the Party』をリメイクした楽曲『Welcome to the Garvey』 をリリースしました。

『Meet The Woo 2』

お待たせしました。本日リリースされた最新作『Meet The Woo 2』についてです。13曲で35分の構成となっており、前作に比べて一曲あたりの再生時間がかなり短くなっています。しかし、先行でリリースされていた楽曲は『Christopher Walking』と Lil Tjay をフィーチャーした『War』、そして前作にも収録されていた『Dior』の三曲のみで、「アルバム出たけど、もうほとんど聞き飽きてるよ」状態は回避できています。

Quavo や A Boogie wit da Hoodie などドリルでない US ラッパーも参加しており、こちらでも UK Drill ビートとUSアーティストのコラボレーションを楽しむ事ができます。同じくブルックリンのドリルシーンからは、最近 Rich The Kid や Tory Lanez と共演していた Fivio Foreign が参加しており、最先端のブルックリンドリルも堪能する事ができる作品となっています。

ちなみに、先行曲だと思われていた Calboy との楽曲『100K on the Coupe』は残念ながら収録されていませんでした。どちらかというと Calboy が Pop Smoke をフィーチャーしたような構成の楽曲となっていたので、アルバム全体の雰囲気も考慮して外されたのかもしれません。

Calboy や A Boogie、 Lil Tjay にしてもそうですが、Pop Smoke がドスの効いた低い声であるため、フィーチャーするアーティストは高めの歌声を持っていたり、メロディアスなフロウを得意とするラッパーを選び取っているような印象を持ちました。確かに、同じようなスタイルの2人が一曲を作り出すより、真逆のスタイルの2人が一曲を制作した方が、コントラストが生まれますし、意外な化学変化も起こりやすいのかもしれません。

同じフレーズを繰り返す、しつこいほどのフロウにまんまと虜にされてしまっている私たちですが、そんな安心感を良い意味で裏切ってくれた楽曲も3曲目に収録されていました。それが、『Get Back』という楽曲で、完全に早口言葉です。

追記

たったの一、二年でブルックリンドリルのビックウェーブを作り出し、伝説的存在となった Pop Smoke は、惜しくも2020年の2月19日にこの世を去りました。LAに借りていた別荘に滞在しているところを、強盗に襲われて銃殺されてしまったようです。早すぎる彼の死に、たくさんのファンやラッパーたちが追悼の意を表するともに、彼の功績を賞賛しました。ご冥福をお祈りいたします。

彼の死後、50 Cent が「俺が 彼のために Pop Smoke のアルバムを完成させる」と声明を発表しており、悔やまれながらもこの世を去ってしまった彼の、遺作であるデビューアルバムが今週末にリリースされます。彼の所属していた Victor Victor Records がインスタグラムにてアートワークとリリース日時を発表しました。

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June 12 2020

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トラックリストなどを含む、それ以外の情報は一切解禁されておらず、リリース日が近づいているにもかかわらず、いまだに謎に包まれたままとなっていますが、Drake や Post Malone、Roddy Ricch などの大物アーティストの参加をオファーした旨を 50 Cent は発表しており、Roddy Ricch に関してはすでに参加の意を示しているとのことです。

whoiskosuke

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