最近Apple Musicなどで音楽を聞いていると、ふと思うことがあって。
まあトラップがめちゃくちゃ売れているのはもちろんなんですが、本当にいろんな国のアーティストが売れているなあって思うんですね。
それと、どこの国でも売れるっていうのは何かしらの共通項があるんじゃないかって思うんですね。
今日は題名にある通り、なぜトラップは流行っているのかについて書いていくのですが…
これは先日発表されたグラミー賞のベストラップアルバムの5つがなぜ評価されたのか?ということにも繋がります
なぜヒップホップ(特にトラップ)が売れているのか?
今日はその秘密を「特異性」と「即効性」をキーワードに探っていければなあ〜と思います。
Z世代と特異性
まず、売れるということには必ず共通した特徴があります。それはまず、「特異性」です。
簡単に言うなら、この曲はほかの曲とはちゃうなあ。ってやつです。
ここで大切なポイントは「僕たちの世代における」特異性についてです。
今音楽業界は、Z世代と呼ばれる世代を相手にマーケットを行う傾向にあります。
Z世代は10代後半から20代前半の年齢の人々を指す言葉ですが、この世代の特徴はどのようなものでしょう?
何でもかんでもネットで検索する、SNSを使う社会は当たり前、デジタルネイティブ…など様々な言葉が思い浮かびますが、これらに共通するものはインターネットです。
ではインターネットと共に成長してきた世代の主な特徴とはなんでしょう?
ここで一つ面白い引用があるので紹介します。
みなさんご存知、日本のラッパーやその他様々なアーティストにインタビューを行う「ニート東京」の一幕です。
ラップスタア選手権以来、飛ぶ鳥を落としまくっているTohjiのインタビューなのですが。(この間のMura Masaの来日ライブのサポートアクトにも選ばれていましたね。)
「一緒の場所に住んでいる、違う場所にいるけど。」
これです。ここがポイントなんです。
僕たちの世代はどこにいようと繋がっている「ように感じる」
そして「ほとんど同じものを見て育った」世代なんです。
例えば一例をあげましょう。
みなさんは遊ぶ約束をどのようにしますか?もちろん、日本だとLINE、その他の国だとWeChat、カカオトーク、WhatsAppなど多種多様ではありますが、SNSを使いますよね。
「今日、ハチ公前19時な。遅れんなよ。」
この言葉を言うために携帯が無かった時代の人はどれだけ苦労したことでしょうか。
もっと分かりやすい例を出しましょう、昔同じ地元だった友達が東京にいたとします。その人に連絡したいと思っていますが、あなたは連絡先を知りません。
はい、昔であればこの時点で共通の知り合いを探りまくって何とか辿り着くしか連絡先を知る手段はありません。
レベル5のコラッタが気合いのハチマキでグラードンの攻撃にギリ耐えたけどモンスターボールしか持ってないし捕まえるのほぼ無理やな、ぐらいの状況です。
しかし今だとどうでしょう?
Facebookなどを使えば上の世代だとほとんど探し出せますしTwitterやinstagramをやってない人などほぼいないので探し出すことは容易でしょう。
例えるならば、マスターボールを持った状態でレベル3のビードルを捕まえようとしているようなものです。
どこにいても誰とでもつながっている「ような感じ」がする。
これこそが、「ユビキタス」な社会の欠点であり良いところでもあるのです。
みんなが同じようなものを見てきたからこそ、特異性とはその裏をかくような意外性とも言い換えることができます。
ヒップホップとシティーポップ
音楽でその特異性を表現するためには様々なパターンが考えられます。
例えば、Z世代が聞いていない世代の音をサンプリングするなどは考えられるでしょう。
例えば、アニメが有名な日本という「クール」な国の曲をサンプリングする。
今世界でやたらと日本のシティーポップがサンプリングされたり、使われたりしがちですが、これは他国にとって「異質なもの」として日本の70-90年代の音楽が捉ええられているからとも言えます。
シティーポップの使用の例として1つ紹介いたします。まあ多分ヒップホップ好きなら知っているとは思いますが・・・。
今年バイラルヒットし、グラミー賞ベストラップアルバム賞にもノミネートされた Tyler, The Creatorの “IGOR” から一曲、「GONE, GONE / THANK YOU」です。
これはシティーポップの旗手である山下達郎の「Fragile」をサンプリング、というか歌詞を変えて、メロディーを被せてタイラーが歌っているんですね。
公式にクレジットにも山下達郎が記載されていて、本当に驚きの限りという感じですが、コアすぎるやろ・・。
もっと山下達郎の中でも有名な曲を使うならわかるけど、どんだけ好きやねんっていう。
まあ本当 Odd Future周りの日本好きには脱帽です。
少し前に公開されたフランクオーシャンのラジオでも YELLOW MAGIC ORCHESTRA がかかっていて、やっぱり70-90年代の日本の異様さは他国から見るとすごいんだろうなと改めて感じています。
あ、YELLOW MAGIC ORCHESTRAは日本のエレクトロの先導者でもありますし、日本の音楽を作ったと言っても過言ではありませんから是非聞いて見てください。電子音系が好きな人には是非おすすめですよ。
なんて言ってもメンバーが半端じゃないですからね。坂本龍一・細野晴臣・高橋幸宏ってやばすぎやろ。レックウザとグラードンとカイオーガですよ・・・!
海外のファンもたくさんいますし!何より矢野顕子のカバーが半端ないんですよね・・・とまあこの辺りはかなりシティポップ的な内容になってしまうのでまた今度ヒップホップと関連させて記事にします!
まあ、話を戻すと、自分の国の同じような世代が聞いていない音を取り入れるっていうのも「特異性」をアピールするのによいやり方の1つなんですね。
「特異性」と「転調」
他にはどのように「特異性」を出す方法があるのか。
有名なものの1つとして「転調」があります。
先ほど、「みんなが同じようなものを見てきたからこそ、特異性とはその裏をかくような意外性とも言い換えることができます。」と書いたと思います。
音楽にとって裏をかくとは、わかりやすくいえば、聞いている人が「こうなるんやろなあ」と思っているところで「ありえない音」をブチ込むことなのです。
ラップとは元をたどればループ音楽であることも考慮すれば、流れを断ち切った時の衝撃が他のジャンルよりもかなり大きいことも理解できるのでは無いかとおもいます。
最も分かりやすい例として去年、これまた世間を長らく賑わした Travis Scott と Drake のコラボ曲「SICKO MODE」です。
僕的にいえば、「金かかってそうやけどカッコいいんかどうかわからんPVランキング」の2018年のグランプリだと思いますが・・。
とにかく、2分57秒あたりで始まる転調の初めて聞いた時のあの衝撃は忘れないですよね、本当に名曲以外の何物でも無いと思います。
Travisの凄さはいうならば、オートチューンの使い方とかメロディとか色々あるんですが、その洗練された音にあると思うんですね。
無駄な音が極端に少なく、ほぼ完璧なバランスでそれぞれの音が個性を失わない。だからこそ突然その完璧性の壁の崩壊、つまり転調が起こった瞬間の衝撃も並大抵じゃ無いんです。
「特異性」のまとめ
ここまでで「特異性」の大切さがわかっていただけたと思います。
そして、まとめるとラップがその特異性を出すことに長けている理由は2つありますね。
①サンプリングの音楽であることから、自国には無い「異質な音楽」を取り入れることができる。
②ループ音楽であることから、繰り返しから一気に「転調」した時に他のジャンルと比べてもかなりの衝撃が走る。
ヒップホップと即効性
話を次に進めましょう。先ほど特異性について書きました。ただ他の曲と違えば売れているのかといえば、そういうわけでもありません。
次はもう1つの大切な要素である「即効性」についてです。
待ち合わせの例を先程出しましたが、もし相手が「時間間に合わんわ、すまん」と連絡して来た、という状況を考えてみてください。
大抵の日本人なら、暇なことですし、携帯でインスタを見て、イヤフォンであいみょんとYoung Nudyを交互に聴くでしょう。
それでも暇ならばPornhubでも見て時間を過ごすでしょう。(どうせ女の人この記事あんま見てないからええやろ…)
そうなのです、ユビキタスな社会のせいで、あるいはおかげで、現代人には「暇の概念」がほとんど無い、または昔とは全く変わってしまっているのです。
整理すると、暇=「無駄」ってものがほとんどない。
そして今、最もあついSNSはもちろんinstagramやTik Tokでしょう。これこそ現代人の感覚をほぼ網羅したSNSじゃないかと思います。
「いつでもどこでもできて、徹底的に無駄がない。」
これが意味するのはつまり、洗練されていることによりすぐに効果があるという徹底的な「即効性」
これがキーポイントです。
じゃあなんで即効性が大事な社会でヒップホップがそんな売れてるの?
これを考えるために大切なこと。それはヒップホップ、ひいてはラップミュージックとは何なのか?です。(ここからは面倒くさいのでラップと書かせてください)
ラップとは元を辿れば「コピー&ループ」音楽です。
分かりやすくいうと、「この音楽のこの部分ええな、パクってここばっかループさせまくってラップして一曲作ろ」ってやつです。
まあもっと元を辿れば楽器など何もなくてもできる音楽なので違うといえば違うのですが。
気になる方は慶應の法学部の教授で音楽評論家の大和田俊之先生の「ブルースからヒップホップまで」をお読みください。
現在のヒップホップシーンにおいてもこのコピー&ループというのはよくあることです。
サンプリングで訴えられたやらどうやらという事件は聞いたことがあるのではと思います。
例えば、昨年大ヒットしたJuice WRLDの「Lucid Dreams」です。
ヒップホップ好きで知らない人は確実にいないでしょうこの曲は、ロック好きなら知らない人は確実にいないであろうStingの名曲、「Shape Of My Heart」のサンプリングなのです。
この曲はアメリカとフランスの合作でこれまた映画好きであれば知らない人はいない、いや映画が好きじゃなくても知っているであろう「LEON」の主題歌です。近親相姦的な愛とでも呼ぶべき純愛の映画なのですが(純愛の基準は人それぞれ)、ナタリーポートマンをここまで美しく映しているこの映画は素晴らしいですね。
私事ですが、僕はフランス映画と哲学の勉強をしているのでリュックベッソンがここまで過大評価されていることを手放しでは喜ぶことはできませんが(みんなカラックスの映画も見てや!)。
話が脱線していますね、とにかく戻ります。要するに、良い部分(サビやフック)をパクるってのはいまだに良くあることなのですが・・・。
ここである人が言うかもしれません「いや、今はサンプリングよりプロデューサーが作った曲の方が主流やぞ!コピペじゃないから即効性ってのはちゃうんと違うか?」
たしかに今はプロデューサーが作った曲が主流であることは認めざるを得ません。
Mustard・Murda Beatz・Metro Boomin・Pi’erre Bourne・Jetsonmade・Wheezy….など今のチャートを動かしえるプロデューサーは挙げはじめればキリがありません。
しかし、これらのプロデューサーが作るビートの主流はどのようなものでしょう?
ここで僕たちの世代が恐らく神と崇めているであろうPi’erre Bourne プロデュースの曲を流してみましょう。
30秒あたりで曲が始まります。どうでしょうか?このビート。聞いた瞬間にヤバイ!ってなりますね。
浮遊感のあるビートと称される彼のビートですが、ほぼ全てのビートにおいてまるで一曲の中心(サビorフック)に当たるような部分がいきなりきて、それが、繰り返されます。
ラップの初期においては、「曲の良いところ(サビやフック)をコピー&ループしたビート」が主流だったと先程話しましたね。
そしてそれが時を経ていくうちに、プロデューサー達が作曲したビートがメインになり、今は「曲の良いところ(サビやフック)をコピー&ループした”ような”ビート」が主流だということです。
つまり、ポップなどにおけるサビの部分にあたる部分をいかに良質に、そして大量に作れるか、というのが今のプロデューサー、ひいてはラップの楽曲に求められていることなのです。
ここまでをまとめると、一般的な曲の中心になるような場所が最初にやってくる楽曲こそが最近のラップの主流なのです。
つまり、音楽をかけ始めて数秒で良い音が聞けるという「即効性が求められる時代に最も合ったジャンル」なのです。
そして、即効性が求められるようになったのにはもう一つの要因があります。
ストリーミングサービスの台頭
Spotifyという革命的なメディアが2006年にスウェーデンにて開始されます。
月に千円程度払えばどんな曲でも聴けちゃうよー、ってやつです。
なんて革命的な…!!って当時の人はなった事でしょう。そしてそれはすぐさま世界にストリーミング旋風を巻き起こします。
それに対抗するように2015年、Apple社がストリーミングサービス「Apple Music」が始まります。
これら二つの圧倒的メディアが音楽界を完全にジャックしていきます(Sound Cloudは圧倒的な影響を及ぼしますが、無料ストリーミングサービスなので一度おいておきます)
勘のいい人はここらへんでもう気付いてるんじゃないですか?そうです、トラップが流行り出したのもちょうどこの15年あたりなのです。
Spotifyの台頭と共に音楽界をジャックしたラップというジャンル。
現代の人の即効性の欲求と見事にマッチしたメディア。
CDなどとは違い、お金を余分に払わなくても聞けてしまう。
つまり、良い曲だけをできるだけ効率的に聴きたい。こんな欲求がみなさんの意識下にはあるのです。
面白い研究があるのですが、ある調査では現代人は音楽を聴いた際に、最初の数秒でその曲が良いかどうかを判断するそうです。
面白いですね、即効性とストリーミングとヒップホップ。傍系的で荒唐無稽な関係に思えて実は、ガッチリ関係し合ってるんですね。
オススメの曲
ここまでを振り返って何曲かこの「特異性」と「即効性」の理にかなっている曲の例として1曲だけ紹介したいと思います。
ここまで読んでくれたあなたならこの良さが必ずわかるはずです。
1. Jay Prince「Father, Father」
イーストロンドン出身の25歳のラッパー Jay Princeから一曲です。彼の紹介を軽くすると・・・
90年代のUK Hiphopから強く影響を受け、様々なジャンルを横断し得るサウンドからスターとまではいいませんが、かなりのファン層を持っている彼。
2012年に発表した「Lounge in Paris」でデビューし、2013年頃にセルフプロデュース発表した「Mellow Vation」にてそのキャリアを本格的にスタートしました。
紹介はこの程度にしておいて、彼の曲の凄さは聞いた瞬間に「良い!」ってなるサウンドに加えて、サンプリング・転調を巧みに仕掛けてくる、まさにこの時代にあった人なんですね。(もっとセルフプロデュースして売れればいいのに・・・)
では聞いていただきましょう。
実はこの曲、 “yolanda Adams”の「the battle is the lord’s」(1996年)のサンプリングから始まるんですが、こんな使い方普通できる?できるんなら先ゆうといてやって感じです。
最初の耳を奪うような「即効性」に加え、サンプリングと転調による圧倒的な「特異性」。
彼こそこれからさらに注目されていくであろう存在だと思います。
Goldlink・Tyler, The Creatorとコラボした曲「U Say」でも話題となった彼。またアルバムを出した際には彼の全てがわかる記事を書きますのでしばしお待ちを。
終わりに
どうでしたか?今日はヒップホップがなぜ流行ったかについての記事でしたが、次回はこの基準を元にグラミー賞ベストラップアルバム賞に選ばれた5つのアルバムについての記事を投稿いたしますので是非次も読んでみてください!
では、さよなら…さよなら…さよなら。
Kensho Sakamoto