ヒップホップと高級車

ロールス・ロイスにランボルギーニ。

フェラーリやベントレー。

これらの高級車は、誰もが一度は夢見る永遠の憧れです。そして、やはりヒップホップと高級車の関係は切っても切り離せませんし、ラッパー達にとっても高級車は光り輝く宝石のようなものなのです。今回はそれらの高級車がどのようなものなのか、ラップのリリックと絡めながら解説していく記事になります。

高級車を意味するスラング

Expensive Car (高級な車) なんて言葉はリリックの中ではほとんど聞いたことがありません。例えば、“Foreign” というスラング。Playboi Carti も “Foreign” ってタイトルの曲を出してますが、学校なんかではこの言葉は「外国の」なんて意味で教わりますよね。結論から言うとこのスラングは、そのまま「(外国の)車」を表します。ですからアメリカのラッパー達にとってアメリカ以外で製造された高級車(ドイツのメルセデス・ベンツやイタリアのフェラーリなど)のことを指すスラングです。

あと、主に使われている高級車を表すスラングは “Whip” です。”Whip” って言葉にはもともと「むちで打つ」などの意味があるんですが、なぜこれが車を表すようになったか、そのヒントはフェラーリのエンブレムにあるんです。フェラーリのエンブレムは皆さんご存知の通り馬のデザインですよね。馬を走らせる時にむちで叩くことから、はじめはフェラーリを表すスラングとして使われていました。それが時とともに高級車全般をさすスラングに変容していったってわけです。

Rolls Royce

はじめは高級車の王様であるロールスロイスについてです。イギリスに拠点を置いた高級車ブランドなのですが、各国の王室が公用車として採用していたりするので、車に詳しくなくても聞いたことがあるかもしれません。

ロールス・ロイスには “Ghost” (ゴースト) や “Phantom” (ファントム)、”Wraith” (レイス) などいくつかのモデルが存在します。ラッパーたちはリリックの中で “Rolls Royce” というブランドの名前を登場させることはむしろ少なく、先述のモデル名で呼ぶことの方が多いです。モデルによって最大で約2000万円の価格の違いが生じてきますから、自慢気質なラッパーたちにとって一番高いランクのモデルを所有していることをラップしたい気持ちがあるのでしょう。ちなみにロールス・ロイスのエンブレムにちなんで “Double R” と呼ばれたりもします。

ロールス・ロイスの中で最もハイクラスなモデルはファントムです。車体価格は5570万円で、様々なオプションを付けるとゆうに6000万円を超えてくる生粋の高級車ですね。ちなみにファントムの中にも上位モデルが存在し、そちらの車体価格は6670万円にも上ります。空前絶後のバズを起こした Lil Tecca の “Ransom” で彼はこのようにラップしています。

Hop outside a Ghost and hop up in a Phantom

ゴーストから跳び降りて、ファントムに跳び乗る

Lil Tecca – Ransom

ロールスロイスの中で最もお手頃なモデルであるゴーストから跳び降りて、最も高額なファントムに乗り換えるとラップしているわけです。ただ、Lil Tecca ら Genius のリリック解説動画において、リリックに登場することは殆ど嘘であり車は持ってないし運転すらしないと公言しています。

名前的に一番かっこいいゴーストというモデルですが、88GLAM が NAV の ”Racks in My Sleep” に参加した時に、Derek Wise このような素晴らしいラインを披露しています。

Poltergeist, we in a Ghost, we can’t be seen (Skrrt, skrrt)

ポルターガイスト 俺たちはゴーストに乗ってる 誰も俺たちを見ることはできないぜ

Nav – Racks in My Sleep (feat. 88GLAM)

これはダブルミーニングを駆使したかっこいいリリックですね。「ポルターガイスト」とは誰も触れていないものが突然動き出す怪奇現象ですが、Derek Wise は「お化け」という意味の “Ghost” とロールスロイスのモデル名の “Ghost” をかけています。「俺たちはロールス・ロイス ゴーストに乗ってるから、お化けみたいに誰にも見られずに車を動かせる。まるでポルターガイストだ。」という感じです。

ちなみに、車系の歌詞がラップされたときなどに、アドリブでよく使われる “skrrt” という言葉は、車がドリフトした際にタイヤが地面に擦れる音を表現したオノマトペです。

Bentley

次に紹介するのはベントレーです。こちらもイギリスの高級車メーカーであり、翼の真ん中に “B” のロゴが特徴的です。ベントレーは現行のほとんどのモデルが約3000万円であり、ロールスロイスに比べると比較的お手頃です。Bentayga (ベンテイガ) というSUVも製造しており高級車とスポーツカーの両方の要素をミックスした感じですね。

世界最高峰のSUV ベンテイガ

ちなみに Lil Uzi Vert は名だたる高級車を全てカーキにペイントし、無駄にいかついオプションパーツを装着した様子をInstagramに投稿していましたが、ベントレーのコンチネンタルというモデル、もはや原型がないほど改造しています。バンパープロテクターやスペアタイヤを搭載し、オフロードも走行可能なタイヤに履き替えています。

Lil Uzi Vert の車にカスタムを施したガレージ Car Flex より

ちなみに Lil Uzi はもう一台カーキのベントレーを所有していましたが、盛大に事故って廃車となったそうです。

J.Cole は自身の楽曲である “KOD” にてベントレーに言及しつつこんなラップをしています。

This is what you call a flip

これが君が “flip” って呼ぶものだろ
Ten keys from a quarter brick

1/4 ポンドから10キロのコカイン

Bentley from his mama’s whip

ママの車からベントレーに

J.Cole – KOD

“flip” っていうのは、安いドラッグを買ってそれを高値で転売する行為を表すスラングです。J.Cole は昔、このようにドラッグの転売を行って稼いでいた過去があるようで、その時のことについてのラインです。”key” と “brick” はどちらもドラッグ(主にコカインに用いる)の重さを表すスラングで、”key” は1キログラム “brick” は約450グラムを表しています。つまり、彼は110gのコカインを安価で入手し、それを転売することで10kgのコカインが買えるほどのお金を稼いだわけです。そうして稼いだお金で、自分では買うことができなかったため使用していた母親の車を卒業して、ベントレーをゲットしたんです。ドラッグビジネスはいつも桁が違いすぎて怖いですよね。

ベントレーに限ったことではありませんが、ラッパー達はよくリリックの中で “tint” という言葉を使います。”tint” というのは車の窓をくもらせて、外から内部を見えにくくすることです。ほとんどの車は元から後部座席に軽い “tint” が施されていますが、ラッパー達はしばしばカスタムによって外からの視線を完全に遮断します。窓に特殊な加工を施して自由自在に窓の透明度を調節することも可能なのですが、Nicki Minaj は自身の楽曲 “Chun Li” の中で “Bentley tinta on” とラップしています。彼女はベントレーに調節可能の曇りガラス機能をカスタムを施したようです。

透明度を調節可能な曇りガラスのカスタムを搭載した車

Lamborghini

この記事の最後に紹介するのは、やはり何と言ってもランボルギーニです。ランボルギーニは他の高級車に比べてもかなりスポーツカーよりな気がしますが、ここ最近でランボルギーニについてラップするラッパーがかなり増えました。ランボルギーニといえば、アヴェンタドールやウラカンのようなスポーティなモデルを一番に想像するでしょう。しかし、最近のラッパー達の間での流行の波は完全に Lamborghini Urus (ウルス) です。ウルスは2017年に発表されたランボルギーニ初のSUVです。ベンテイガを含むSUVの人気からは、やはり乗りやすい車に乗りたいというラッパー達の本音が垣間見えます。

売れっ子ラッパー達はこぞってウルスを納車しまくってますが、Gunna もそのうちの一人です。Gunna はものすごく鮮やかなオレンジ色のウルスを納車しましたが、それについて Future の “Unicorn Purp” という楽曲に参加した際にこのようにラップしています。

New Lamborghini, the Urus, it came in all orange, it look like a pumpkin (Yeah)

新しくランボルギーニ・ウルスを買ったぜ。全面オレンジでかぼちゃみたいだ

Future – Unicorn Purp (feat. Young Thug & Gunna)
Gunna の Instagram より

いかがでしたか。今回は三種類しか紹介できませんでしたが、今リリックに頻出するベスト3に絞ってみたつもりです。気をつけて聞いていると、一曲通して車の名前が出てこない曲の方が少ないと言っても過言ではないでしょう。僕は将来 Tesla のModel X という車に乗ることを決めているのですが、それがどのような車なのかはまた第二弾で書くことにします。それではありがとうございました。

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