Juice WRLD – シカゴ出身の若きレジェンド

YouTube にて記事の内容をまとめております。
動画でご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

Last time, it was the drugs he was lacing

彼はドラッグと闘っていた

All legends fall in the making,

レジェンド達は皆、志半ばで堕ちていく

sorry truth, Dying young, demon youth

残念だけど事実なんだ 若くして死ぬ 悪魔が若者を狙っているんだ

Legends – Juice WRLD

2019年12月8日、ヒップホップシーンのみならず現代音楽シーンを牽引していた若きスター Juice WRLD が逝去。わずか21歳という若すぎる死に、世界中が涙を流しました。

今回は、今週金曜日に彼の死後初となるアルバム『Legends Never Die』がリリースされたことを踏まえ、今一度彼の人生について振り返ります。

生い立ち

Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、1998年12月、イリノイ州シカゴにて生を受けました。翌1999年には家族で州内のホームウッドに移住しますが、Juice が3歳の頃に両親が離婚。それ以降は彼と彼の兄、そして母親の3人で暮らしていくこととなります。

4歳の頃にピアノを習い始めた Juice は、後にギターやドラムのレッスンも受けるようになり、学校の授業ではトランペットも演奏するなど、幼い頃から音楽に慣れ親しんでいました。

信心深く保守的な母親の影響で、ヒップホップを聴くことが許されなかった Juice は、「Tony Hawk’s Pro Skater」や「Guitar Hero」等のビデオゲームに使われていたロックやポップス (Billy Idol や Blink-182、Black Sabbath、Fall Out Boy、Megadeth、Panic! at the Disco など) を聴いて育ったといいます。

音楽面での英才教育を受けていた一方で、Juice は幼い頃から大量のドラッグを使用していました。6年生の頃にリーンを飲み始めた彼は、その後パーコセットやザナックスも使用するようになり、次第にドラッグに依存していきました。

キャリアの開始

高校1年生の頃に音楽活動を開始した Juice (キャリア初期は JuicetheKidd という名義の下活動) は、2015年に初めて SoundCloud に楽曲をリリースしました。

Forever

ほとんどのヴァースを自身のスマートフォンで録音したという1曲。まだまだ音質やフロウ、ラップスキルに未熟さや粗削りさが残るものの、持ち前のハスキーな歌声と切ないリリックからは、皆さんが思い浮かべるであろう昨今の Juice WRLD らしさを感じることができます。当時は、ラップ・パートが楽曲の大半を占めており、ブレイク後の彼が得意としていた歌いながらラップするスタイルとは一味違う魅力があります。

JuicetheKidd 名義の元、ミックステープ『What Is Love?』(1曲のみの収録) や EP『Juiced Up The EP』をリリースした後、彼は尊敬するラッパー 2Pac が出演している映画『Juice』と、「世界を獲る」という意味の「World」にちなんで、現在の名前である Juice WRLD という名前に変更しました (ちなみに、WRLD は単純にスペルミスだそうです)。

2017年には、今となっては Juice とのタッグで有名な Nick Mira によるプロデュースの楽曲『Too Much Cash』をリリースします。

Too Much Cash

この頃から Juice は急激にスキルアップを果たします。JuicetheKidd 時代よりも多彩なフロウを駆使し、ブレイク後の彼のスタイルにも通づるキャッチーなメロディラインを用いたシンキング・ラップも聴くことができます。

当時、高校を卒業し工場で働き始めた Juice は、その仕事に不満を覚えわずか2週間で退職。その後ますます音楽活動に専念するようになった彼は、同年に初のフルレングス EP『999』をリリースします。この EP に収録されていたのが、後に大ヒットを記録する『Lucid Dreams』でした。

EP『999』

ちなみに「999」は彼が好んで用いる数字で、悪魔 (邪悪なもの) の数字とされる「666」をひっくりかえ返したもの。「どんなに困難な状況でも、それをひっくり返してポジティブに前に進もう」というメッセージが込められています。

同 EP のリリース後、彼は Waka Flocka Flame や Southside、G Herbo ら大物アーティストから注目を受け、同郷シカゴ出身のラッパー Lil Bibby 率いる Grade A Productions と契約を結ぶことになります。

ヒット曲とデビューアルバムのリリース

2017年末、Juice は3曲収録の EP『Nothing Different』をリリース。同 EP 収録の『All Girls Are the Same』がヒットし、人気ヒップホップ・チャンネル Lyrical Lemonade の Cole Bennett が監修したミュージック・ビデオが発表されます。

All Girls Are the Same

All girls are the same, they’re rotting my brain, love

女の子はみんな同じだ 俺の脳を腐らせていく

Think I need a change, before I go insane, love

俺は変わらなきゃいけないんだ 狂ってしまう前に

この『All Girls Are the Same』は、Juice が自身の恋愛観と弱さを正直に曝け出した1曲です。「大勢の女性を従える」ということが一種のフレックスであり、ステレオタイプでもあるヒップホップ (音楽) 業界において、Juice は真実の愛を求めていました。彼は、真実の愛を追い求める中で負ってしまった心の傷を美しくも哀しいメロディに乗せて歌い、同じ悩みを抱える人々の共感を呼びました。

同曲で一躍名を馳せた Juice は、2018年、大手レーベル Interscope Records と300万ドル (約3億2000万円) の契約を結びます。

そして 2018年5月、彼は EP『999』収録の『Lucid Dreams』を正式にシングルリリースします。

Lucid Dreams

I have these lucid dreams where I can’t move a thing

動くことができない場所で明晰夢を見るんだ

Thinking of you in my bed

ベットの中で君の事を考える

You were my everything

君は俺の全てだったんだ

Thoughts of a wedding ring

結婚指輪の事まで考えてた

Now I’m just better off dead

今じゃ俺は死んだ方がましさ

I’ll do it over again

もう一度やり直したいんだ

I didn’t want it to end

終わらせたくなんかなかった

I watch it blow in the wind

風に吹かれるのを見ている

I should’ve listened to my friends

友人の意見を聞くべきだった

Leave this shit in the past, but I want it to last

この過ちを過去に葬るよ でも俺は続けたいんだ

You were made outta plastic, fake

君はプラスチックでできた偽物だった

I was tangled up in your drastic ways

俺は君の極端なやり方に振り回されてた

Who knew evil girls had the prettiest face?

誰よりも可愛い女の子が悪女だなんて分かるはずないだろ

You gave me a heart that was full of mistakes

君がくれた心は嘘だらけだった

I gave you my heart and you made heart break

俺は君に心を捧げたのに、君はそれを壊したんだ

映画 Léon のエンディング・テーマとしても知られる Sting の名曲『Shape of My Heart』をサンプリングしたビートの上で、Juice が自身の失恋についてエモーショナルに歌う同曲は、いわゆる「エモ・ラップ」を代表する1曲です。

同曲は、US Billboard Hot 100 チャートにて74位デビュー、後に最高2位を記録し、2018年に最もストリーミング再生された楽曲の1つとなりました。

2つのヒット曲を世に送り出した Juice は、同月に待望のデビュー・アルバム『Goodbye & Good Riddance』をリリース。同アルバムは、US Billboard 200 チャートにて15位でデビューし、3週目には6位まで浮上しました。

様々なアーティストとの共演

デビュー・アルバム『Goodbye & Good Riddance』のリリースを皮切りに、Juice WRLD は様々なアーティストと共演するようになります。

アルバムリリースから約2ヶ月後には、Lil Uzi Vert をフィーチャーしたシングル『Wasted』をリリースし、アルバム『Goodbye & Good Riddance』にも追加。

Wasted (feat. Lil Uzi Vert)

キャリア初期は Lil Uzi Vert と比べられることも多かった Juice ですが、程良く脱力して歌う Juice と、声を絞り出して力強く歌う Lil Uzi Vert のバランスが取れた良曲です。

初めて人気アーティストとの共演を果たした彼は、YBN Cordae と Lil Mosey をツアーアクトに呼んだファースト・ツアー「The WRLD Domination Tour」も開催しました。

Travis Scott – No Bystanders (feat. Juice WRLD & Sheck Wes)

Travis Scott が2018年にリリースしたアルバム『ASTROWORLD』収録の1曲。Sheck Wes と共に客演参加した Juice は、楽曲の肝となるイントロとポスト・コーラスにあたる部分で、メロディアスなエッセンスを加える役割を果たしています。

Ski Mask the Slump God – Nuketown (feat. Juice WRLD)

親友同士として知られる Ski Mask the Slump God との1曲。こちらの楽曲では、Juice が普段滅多に見せない、がなり声で激しく叫ぶようなラップを聴くことができます。この楽曲を聴いて、Juice と Ski Mask、そして今は亡き XXXTENTACION とのコラボ曲も聴いてみたかったと痛感するファンの方も多いのではないでしょうか。

2018年10月、Juice WRLD は Future とのコラボ・ミックステープ『WRLD ON DRUGS』をリリースします。

Fine China

主にドラッグに関するリリックを歌う Future と、「Future の影響でリーンを飲み始めた」と語る Juice WRLD の相性は、音楽面においても抜群でした。両者とも、かすれ気味な声で歌うメロディアスなフロウを得意とし、15歳の歳の差があるとは思えないほどのコンビネーションを発揮しました。

セカンド・アルバムのリリース

2019年3月、Juice は待望のセカンド・アルバム『Death Race for Love』をリリースします。

2018年10月に、イギリスの人気ラジオ DJ、Tim Westwood の番組に出演し、約1時間の間ほぼノンストップでフリースタイルを披露したことでも知られる彼は、同アルバム収録の楽曲を全てフリースタイルでレコーディングしたことを明かしています。

Tim Westwood TV でのフリースタイル

Robbery

She told me put my heart in the bag

彼女は俺に言ったんだ 俺の心をバッグに詰めろ

And nobody gets hurt

そしたら誰も傷つけないって

Now I’m running from her love,

俺は今、彼女の愛から逃げている

I’m not fast

でも俺は速くない

So I’m making it worse

それが事態を悪化させているんだ

Now I’m digging up a grave, from my past

だから今、過去を埋めるために墓を掘っている

I’m a whole different person

過去の俺はもういない

It’s a gift and curse

愛は贈り物であり、呪いだ

But I cannot reverse it

俺にはどうすることもできないんだ

アルバムの先行シングルとしてリリースされた『Robbery』では、Juice が彼の心を奪った彼女を Robbery (強盗) に例えて歌います。Nick Mira 手掛ける哀愁漂うピアノが特徴的なビートと、感情に訴えかけるような Juice のフロウが完璧にマッチした楽曲です。

Fast

I been living fast, fast, fast, fast

俺は生き急いでいる

Feeling really bad, bad, bad, bad

気分は最悪だ

Time really moves fast, fast, fast, fast

時間は早く過ぎていくんだ

Better hurry up and get in your bag, bag, bag, bag

急いでバッグに詰めたほうがいいぜ

I wear Dior, not a fad, ‘ad, ‘ad, ‘ad

Dior を着ている 流行りには流されない

I know all these n***as gettin’ mad, mad, mad, mad

奴らが怒っているのは分かっている

My hand on my trigger, I’ma die for respect, yeah

引き金に手を添えて リスペクトされながら死んでやる

Fucking with my money, you’ll get dealt like that, yeah

俺の金を奪おうとするなら、痛い目を見るぜ

『Fast』では、Juice が20歳という若さで富と名声を手にし、彼の生きる世界の時の流れが急激に早くなってしまったことについて歌っています。若くしてスターダムを駆け上がった彼ならではの苦悩がひしひしと伝わる1曲です。

これらの楽曲を収録した同アルバムは、初週165,000ユニットを売り上げ、US Billboard 200 チャートにて1位デビューを飾りました。

突然の死

セカンド・アルバムが大成功を収めた後、Nicki Minaj のツアーに参加したり、多様なアーティスト (K-Pop グループの BTS や、Ellie Goulding、Benny Blanco、YoungBoy Never Broke Again など) との共演を果たしたりと順風満帆なキャリアを積んできた Juice WRLD。

ファンや友人、恋人らに心配されていた薬物使用に関しても、Juice は依存していたリーンの使用をやめることを宣言し、精神的にもポジティブな方向に向かっているように見えました。

俺はもう永遠にリーンを使わない お別れだ

そんな彼に、ある日突然不運が襲います。2019年12月8日、Juice WRLD は薬物のオーバードーズ (過剰摂取) によりこの世を去りました。

当時、Juice はプライベートジェット機でシカゴ・ミッドウェイ国際空港に向かっており、彼とその仲間たちは、機内へ銃を違法に持ち込んでいました。それを知ったパイロットが地上にいるスタッフに通報し、着陸後直ちに立ち入り検査が行えるよう、FBI(連保捜査局)と FAA(連保航空局)の捜査官が空港に駆けつけていました。Juice は、この立ち入り検査によって発覚するであろう薬物所持の罪を軽くするために、所持していたパーコセットを大量摂取し発作を起こしたと考えられています。Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、わずか6日前に21歳の誕生日を迎えたばかりでした。

彼は、2018年にリリースした故 Lil Peep と故 XXXTENTACION への追悼曲『Legends』にて、「レジェンドたちは皆若くして死んでしまう」と嘆いていましたが、彼もそのレジェンドたちの仲間入りをしてしまうという、何とも悲劇的な結末を迎えてしまいました。

そんな彼の悲し過ぎる死から早半年が過ぎ、今週10日、遂に彼の遺作『Legends Never Die』がリリースされました。今週は、そんな彼 Juice WRLD がこの世に残した遺産に浸ってみてはいかがでしょうか。

Written by Riku Hirai