070 Shake – Flight319 和訳・解説

No pigmentation, giving you the blues

偽りのない、ブルースをあなたに

みなさん御機嫌よう。

今日は素敵な言葉遊びで始まる一曲、ニュージャージー州出身の女性シンガー / ラッパー 070 Shake の最新アルバム 「Modes Vivendi」の収録曲『Flight 319』です。彼女はここ最近、カニエ・ウエストやDJキャレドなどレジェンドアーティスト達からも引っ張りだこのアーティストです。

そして、アルバムの中でも一際異様な雰囲気を放つこの曲を和訳・解説をして行くんですが…

始めに言っておきます。この曲には「ある秘密」が隠されています。僕も聴き込んでいくうちにビックリしてしまいました。最後まで読んだあなたは衝撃を受けること間違い無しです。では、いきましょう。

[Verse]
No pigmentation, giving you the blues

偽りのない、ブルースをあなたに

※色をつけるという意味の pigmentation と 青色・ブルースという意味を持つ blues を使っていきなり色を使ったワードプレイを見せてくれます。さらに着色をしない、というのは話を盛らないという意味でもあるので、「偽りのないブルースをあなたに」という意味にも取れます。

Suffering from FOMO, she could come, too

ついて行くことに必死…すでに追いつけている(そこにいる)かもしれないのに

※FOMO は 「fear of missing out」 (取り残されることを恐れている) という現代のSNS社会におけるユーザーの象徴とも言える言葉です。

Screaming out YOLO,  jumping off the roof

「人生は一度きり」と叫びながら、屋上から飛び降りる

※YOLO は 「You only live once」(人生は一度きり)という意味。インスタなどでよく見かける言葉ですね。

One more drink, one less I’ll (Lose)

一杯飲むたびに、1つずつ失っていく。

※ここの Drink は酒を飲むという意味でしょうが、社会問題となっているケミカルドラッグの摂取も意味しているのかもしれません。

She’s betting on science, she say she needs proof

彼女は科学を信じ…「証拠」が欲しいという。

※ここもかなり上手いワードプレイが行われているんです。科学を信じこむ(bet on) 女は何事も 「proof」(証拠) が欲しいと思っている。科学に証明はつきものなので自明なんですが、実は proof は「アルコール度数」という意味でもあるので、先ほどの drink のラインと相まって、強い酒が欲しい、アルコールは安全(だと科学的に証明されてる)でしょ?といった感じにここもダブルミーニングが含まれているんですね。確かに、タバコはダメだけどアルコールは大丈夫と一般的に言われているのはホンマなんかな?って思いますね。

ここまでのリリックだけでかなり上手いなってつくづく思うんですが、実はかなり文学的でもあるんですね。

先ほどの歌詞でいえば、人生は一度きりと言いながら飛び降り自殺をする…追いついているのについて行くことに必死…など一見自己矛盾した節が続いています。

これは「明るい闇」や「永遠の刹那」など全く反対の言葉を組み合わせる撞着語法というもので、フランス文学などでよく用いられる用法なんですね(ああ…愛しのマルグリット・デュラス…)

マルグリット・デュラス(仏) 小説家・映画監督

ラッパーでもある彼女はこういった難解そうなリリックを難なく書いてしまう…どこか大物感が漂っていますね…どおりでカニエが彼女を気にいるわけです

If I was out of my body, you would see the truth

もし僕が体外離脱すれば、あなたにも真実がわかるでしょう

※ out of body ってのはいわゆる幽体離脱ってやつです。ここのラインは一見意味がわからなさそうですが、おそらく先ほど科学を信じ切った女が出てきましたので、その人に科学じゃ証明できない真実があるんだって言いたいのでしょう。でもなんでいきなり幽体離脱なんでしょう?謎は深まるばかりです。


And my brains bruised from all of the bad news
And my brains bruised from all of the bad news

最悪なニュースばかりで頭がいたい… ×2

※不思議と二回繰り返されるこのラインがこの曲のポイントとなるところに違いありません。

Lost her only son and he wasn’t even three
Now try telling her that everything is meant to be

彼女はたった一人の息子を失った…まだ3歳にも満たなかったのに…
そして僕は彼女にこう言い聞かせるんだ…「全て “運命” だよ」

It’s hard to believe a vision you can’t see
But tell me, have you looked at the air that you breathe?

確かに見えないものを信じるのは難しい…
でもどう?あなたは普段呼吸している空気を見たことがあるでしょ?

※ここでは非科学的なことを信じない彼女に問いかけます。空気を見たことがあるでしょ?これは例えば空を見上げる、などといったときに見えるはずもない空気の塊を見つめているじゃない?ということを問いかけているんじゃないでしょうか?それとも化学実験などの状態変化などの観察を意味するのかもしれません。どちらにしろ化学じゃ証明出来ないこともあるんだということを意味しているんですね。

The balance in me split by three
I sold my mind and my flesh

私は3つに分かれている…心も体も売ってしまった

※なぜここで3が出てくるのでしょうか?キリスト教的な世界観でいえば、ここは三位一体的なニュアンスなのかもしれません…三位一体とは、聖書に出てくる神は父であり、子(キリスト)であり、精霊である。というニュアンスの言葉です。じゃあなんでここでそれが出てくるのか?ヒントは3という数字…あ!三歳の男の子!!あそこにヒントが隠されてたんや!!じゃあこの Iってまさか…そういうことなんかな?やとしたら…心と体を売ったっていう表現って..あの子は死んじゃって精霊に….

They don’t get the context ’cause it’s too complex
I was in my highest, I was in my high

みんな状況を理解してない…だって複雑すぎるから
僕は最高の気分なのに…今まで味わったことないくらいに

※ここはおそらく先ほどの解釈でいけば、聖霊(幽霊)か何かになった男の子が、人間には理解できないだろうけど今の気分は最高なんだって感じているんでしょう。

[Chorus]
Said, oh, I’ll never know
How long I’ll stay, how far I’ll go

ああわからない…あとどれくらいいられるんだろう…どれくらい遠くまで行くんだろう

※聖霊にもこの世に居られる時間などが決まっているんでしょうか?

Said, oh, I’ll never know
How long I’ll stay, how far I’ll go

(繰り返し)ああわからない…あとどれくらいいられるんだろう…どれくらい遠くまで行くんだろう

[Outro]
Astronaut
Answer now like an astronaut
Get alcohol like an astronaut
Area code like astronaut, yeah-yeah

宇宙飛行士…今宇宙飛行士みたいに答えるよ。宇宙飛行士みたいにお酒を飲んで、宇宙飛行士のように特定してあげる

※宇宙飛行士のようにっていうのは精霊のようになった彼が世界を俯瞰していることのたとえでしょう。ちなみに Area code ってのは日本語で言う市外局番という意味で、電話で場所の特定に使われるやつですね。神戸だったら078…みたいな。でも意味わかんないですよね。
実は area code ってめちゃくちゃ激しく腰動かしてパコパコ…みたいな意味があったりするんです…それと、一番一般的に使われる area code の意味は、女の子の評価なんですね。例えば918…みたいな一つめの9はその女の子の顔を0-9で評価して…2つ目の数字は0か1で、1なら抱きたい、0は抱きたくないを意味して…3つ目の数字は身体を0-9で評価するんです。いや918ってどんなええ女やねん、霧島レオナか!どうぞ Porn hubへ…(カニエウエスト風)

Tragedy
You turned a good thing to a tragedy
Being held down by gravity
Baby, hoping you can see the map

悲劇…あなたはあの悲劇に一筋の光をもたらした…重力に包まれながら…あなたにもその世界が見えるといいな…

※悲劇というと、やはりギリシア悲劇が有名ですね。確かに小さな子供が死んだと考えれば悲劇という表現は納得です。

Good night to all of you, wherever you are

君の全てにありがとう、たとえどこにいたとしても

※ここは、劇の始まりのような音声ですね。先ほどのtragedy(悲劇)とかけているのでしょうか。

[Interlude]
I prefer the pain, you tellin’ me
I know you haven’t said a prayer in a month or so

私は苦痛を選ぶよ、あなたは僕に言う。確かにあなたは一ヶ月ぐらい経っても神の祈りに頼ることはなかったね。

※これは、どうしても神を信じない(非科学的なものは信じないから)母のことを意味しているんでしょう。あの子が死んでからも母は神に祈りを捧げたりはしなかった。

You givin’ up your faith for some fun, yeah

I don’t feel the rain or the sun, no (Oh-oh)

あなたは楽になりたくて信念を捨ててしまった。(ついに神を信じてしまった) 僕には何も感じられないけど。(何事も人それぞれなんだね。)

※「feel the rain」は直訳すると【雨を感じない】という意味ですが、これはレゲエの神様 – ボブ・マーリーが有名にした言葉で、「雨に濡れる人をいれば、雨を感じると捉える人もいる」つまり、「人それぞれ」といったニュアンスを含みます。

Not the sun, no, not the sun, no

Not the sun, no, not the sun, no

日射しなんて感じない。

Feeling safe with your love song

She feeling safe with your love song

Girl, I’m in love, hope you feelin’ in love, too

あなたの愛の歌で…母さんは安堵に包まれてる。愛してるよ、母さんも愛してくれてるよね。

※この「you」は神学的な世界観で言うところの神様と捉えるのが訳しやすいのではないでしょうか。ついに神を信じ、神の声(神の地=天国からの声)に包まれ、おそらく天国へと向かう母を示しているのでしょう。

どうでしたか?曲としても、劇的セリフのサンプリング後に来る転調、不思議なサウンド、彼女の歌唱センスなど充分素晴らしいのですが、歌詞が驚くべき内容を含んでるんですね。

一見、見るだけだと恋人との愛の歌のようにも感じるのですが、これが実は「死」というテーマを含んだ曲なんですね、驚きです。

そして、この曲の歌詞を逆から読んでいってみてください。子を失った母は信じることのなかった神を信じ、アルコールにまで溺れ、人生は一度きりと言いながら飛び降り、重力に包まれながら悲しいラストを迎える、これが 070 Shake の言う偽りのないブルースなのです。

最後に一つだけ言って終わりたいと思います。それは、曲名『Flight319』についてです。この曲のポイントでもある3歳の子供が亡くなった飛行機事故は実際に起こっています。

LIAT Flight 319と呼ばれる小さな飛行機が、1986年8月3日にカリブ海に不時着し、11人の乗客と2人のパイロットが亡くなる事件です。

最後まで曲名通りの偽りのないブルースですね。では、ここら辺でサヨナラ…サヨナラ…サヨナラ。

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