Gunna | 『Drip Season』から『WUNNA』までの軌跡

アトランタを中心として、発展を続けるトラップミュージック。Future や Young Thug、Gucci Mane などがその代表として挙げられますが、その勢力はアトランタにとどまることはなく、今や世界中に広まりつつあります。今回はそんなトラップミュージックのニュースター Gunna についてまとめてみたいと思います。

今週末に待望のニューアルバム『WUNNA』をリリース予定の Gunna。そんな彼の生い立ちや、これまでの作品についてこの機会におさらいして行きましょう。

生い立ちとキャリアの開始

Gunna (ガンナ) こと Sergio Giavanni Kitchens は、ジョージア州のカレッジパークに生まれました。カレッジパークは、たくさんのラッパーを生み出したトラップミュージックの聖地であるアトランタの北部に位置する小さな街です。

本名の Sergio Kitchens (セルジオ・キッチンズ) は、ラップネームの Gunna よりも数倍かっこいいと話題になり、本名をラップネームにした方が良いという声が多数上がったことも記憶に新しいです。

実は彼、Gunna 名義で本格的にラッパーとして活動する以前に、 Yung Gunna という別名義下で活動していました。2013年には Yung Gunna としてミックステープ『Hard Body』をリリースしています。柔らかく優しい声質はほとんど現在と変わっていませんが、明らかに現在と比べてフロウやリズムキープにおいて未熟さが感じられます。

ミクステのタイトルにもなっている『Hardbody』というこちらの楽曲。楽曲のタイトルを連呼するだけのフックに、今ではあまり聞くことのできないアグレッシブなフロウが特徴的です。楽曲の完成度は高くないとはいえ、ヘロヘロなラップとアグレッシブなフロウが共存している不思議なスタイルには、惹きつけられる部分もあります。

『Drip Season』シリーズや『Drip or Drown』シリーズで知られ、高級ブランドを身に纏っている現在の姿とは程遠い、坊主頭の彼を見ることのできる MV にも注目です。(未だに再生回数が16000回であることから、Yung Gunna 時代にはほとんどファンベースを築けていなかったようです。)

Young Thug との出会い

いかにも冴えないラッパーというイメージだった彼に、その後のキャリアを180° 転換する大きな転機が訪れます。それが、アトランタのラップスター Young Thug との出会いです。

Young Thug の親友である Keith Troup というラッパーを通して Gunna と Thug は出会いました。 二人を繋ぎとめた Keith Troup はその後すぐに亡くなってしまいましたが、Thug は Gunna の実力を認め、自身のミックステープ『Jeffery』に参加するチャンスを与えました。Gunna は『Floyd Mayweather』にて Gucci Mane と Travis Scott という超豪華メンバーに混ざって本気のラップを見せつけました。

『Floyd Mayweather』を聴いた Thug のファンたちは、ビッグネームに混ざる謎の若手ラッパーの名前に興味を持ち始め、 「Young Thug のアルバムに参加している Gunna というラッパーがヤバイ」という噂が瞬く間に広がり始めました。大物ラッパーが自らのキャリアに満足するのではなく、積極的に若手をフックアップして、ラップゲーム全体を盛り上げようとする姿勢は本当に素敵なものだと思います。

1st ミックステープ 『Drip Season』

『Floyd Mayweather』によって爆発的に認知度を得た彼は、2ヶ月後に Gunna 名義下での初めてのミックステープ『Drp Season』をリリースします。ちなみにこの時点で Young Thug が率いるレコードレーベル YSL Records との契約を果たしています。

彼をフックアップした張本人である Young Thug はもちろん、のちに YSL との契約をはたすラッパー Nechie や Young Trez などに加え、プロダクションには Narcos や Billboard Hitmakers、そして現在も Gunna とタッグを組んで楽曲制作に勤しむ Wheezy などが参加しています。

Cop Me a Foreign (feat. Young Thug)

Gunna が自らの名義下で初めて Thug を招いた記念すべき楽曲です。Yung Gunna 時代からは想像もできないほど、多彩なフロウやメロディーラインを用い、明らかにレベルアップしている事を感じ取る事ができる楽曲となっています。

再生時間は5分10秒と、トラップミュージックの中ではかなり長い方に分類されるこちらの楽曲ですが、面白いのは二人のバースの占有率です。Gunna のフックから幕開けし、1分58秒までは Gunna のバースが続きますが、その後の3分12秒は全て Thug によってラップが繰り広げられるという、ホストとゲストが逆転した構成になっています。

Gunna によってラップされたフックを、2回目のフックはそのまま Thug がラップし直していたりと、面白い要素をできるだけ詰め込んだ欲張りな楽曲となっています。目まぐるしく変化する Thug のフロウにも要注目です。

2nd ミックステープ 『Drip Season 2』

一作目のミクステで完全に勢いに乗った彼は、その7ヶ月後に二作目のミクステ『Drip Season 2』をリリースします。当時セルフタイトルアルバムをリリースした直後だった Playboi Carti や YSL 所属の Lil Duke、 他にも HoodRich Pablo Juan などが客演として参加しています。さらに、プロダクションには TM88 や Zaytoven、Pi’erre Bourne などの名だたるメンバーを招き、かなり華のあるミクステに仕上がりました。

Pi’erre Bourne のトラックを使用し、Playboi Carti 色に染まった『YSL』や、不穏な雰囲気のトラックに落ち着いたラップをのせた HoodRich Pablo Juan との『Mayors』などから感じ取れるように、Gunna は他のラッパーの雰囲気にうまく馴染む事ができるラッパーだと思います。このような適応性の高さも、のちに彼が参加した楽曲がリリースされない週がなかった状況を作り出した一つの要因なのではないでしょうか。

3rd ミックステープ『Drip Season 3』

奇抜でキャッチーなアルバムカバーが目を引く三作目のミックステ『Drip Season 3』は、2018年の2月にリリースされました。一年以上のインターバルを挟む事なく、コンスタントにプロジェクトをリリースしていくスタイルも、彼の人気にさらに火をつけて行きました。すでに超人気ラッパーに仲間入りしていた彼の新譜は、もちろんのこと期待されていたわけですが、本作はその期待を優に超えてきた傑作と言えます。

Lil Uzi VertLil Durk、NAV などの勢いのある若手をたくさん招き、トラックリストが公開された時点でファンたちは大盛り上がりでしたし、プロダクションには Metro Boomin や London On Da Track 、Turbo などが参加し、これまでのキャリアの集大成的なミクステに仕上がっています。(これだけ力を入れた作品がミクステというのもまた一興です。)

Car Sick (feat. Metro Boomin & NAV)

Metro Boomin による浮遊感のあるトラックの上で、Gunna と NAV が交互にラップしていく構成のこちらの楽曲。Tesla Pill という、テスラ社のロゴが刻印された MDMA をテーマにした楽曲で、ドラッグを服用することで起こる身の回りの変化などをラップしています。

テスラ社のロゴと MDMA の一種である Tesla Pill

Oh Okay (feat. Young Thug & Lil Baby)

Turbo によるアコースティックギターのトラックの上に Young Thug と Lil Baby を招いたこちらの楽曲。これぞ YSL という雰囲気の楽曲に仕上がっています。Gunna の同じメロディのラインを淡々と繰り返すスタイルはこちらの楽曲で顕著に聞く事ができます。

これを機に出会った Gunna と Lil Baby は、のちにジョイントミックステープ『Drip Harder』をリリースし、兄弟のように互いのパートナーとなります。

1st アルバム『Drip or Drown 2』

三枚のミクステを順調にリリースし、すでに強固なファンベースを築き上げていた彼ですが、このタイミングでデビューアルバム『Drip or Drown 2』をリリースします。ちなみに二、三作目のミクステの間に全曲 Wheezy によってプロデュースされた EP である『Drip or Drown』をリリースしているので、本作は『2』となっています。

服を着てサングラスを掛けたまま、傘を持つ自身の姿がアルバムカバーとして採用されましたが、こちらのカバーは、実際に逆さまに水中に潜った写真を上下反転させて制作されたそうです。撮影風景を想像すると、なかなか面白いシーンが脳内に浮かんできます。

「Drip or Drown 2 のカバーアートに使用された元の写真」

今回のアルバムには、Young Thug や Lil Baby に加え Playboi Carti の三人のみをフィーチャーし、ミニマムにまとめ上げています。デビューアルバムということもあり、自身の実力に目を向けて欲しいという彼なりの戦略なのでしょうか。

プロデューサーに関しても、ほとんどの楽曲が Wheezy や Turbo によるものとし、全体的にコンパクトにまとめ、自らのブランディングに徹しているような印象を受けます。アウトロでは今までとは一味違った中華ビートを採用し、スキルの幅広さも強調しています。

Same Yung N***a (feat. Playboi Carti)

Wheezy と Turbo のゴールデンタッグによるトラックに、Playboi Carti が参加したこちらの楽曲。彼らにしてはシンプルなトラックですが、小節が終わるごとに強くエコーがかけられたプロデューサータグが何度も響き渡るのが面白いです。

Really anytime I smoke the best dope
どんな時でも最高のウィードを吸うぜ

I pop off a tag when I change clothes
着替えるたびに新品の服のタグを切る

Ain’t that same young nigga from the ghetto
地元の他の奴らとは、ワケが違うんだよ

ラップを通してキャリアを築き上げ、今やリッチとなった彼らが「地元でフラフラしてる奴らとはワケが違うぞ!」という内容をラップしています。Playboi Carti の珍しく落ち着いたフロウにも注目です。(現在多用しているベイビーボイスに移行する途中という感じです。)

2nd アルバム『WUNNA』

『Drip or Drown 2』から、約1年3ヶ月のブランクを経て、今週の金曜日に2作目のスタジオアルバムである『WUNNA』のリリースがアナウンスされました。

リリース前夜に、アルバムカバーとトラックリストが公開されました。アルバムカバーは、レオナルド・ダヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」を模した自身のキャラクターの周りに、星座記号が刻まれた帯や、星座記号が配置されているデザインとなっています。

トラックリストによると参加するラッパーは、Young Thug や Lil Baby、Travis Scott など、プロデューサーは Wheezy や Turbo、Tay Keith などとされており、今回のアルバムも前作同様に比較的ミニマムな客演に押さえ込んだ印象を抱かせます。

『WUNNA』のトラックリスト

ちなみにアルバムタイトルの『WUNNA』ですが、Twitter にて『Wealthy Unapologetic N***a Naturally Authentic 』の頭文字をとった略語であると明かされています。先行シングルの『SKYBOX』をリリースしたタイミングで、インスタグラムで、サブアカウント的なポジションの @wunna という ID も取得していました。(開設当時はプライベートアカウントでしたが、現在は誰でもフォローしなくてもみることができます。)

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はトラップ界のニュースターである Gunna についてまとめてみました。今週末にリリースされる『Wunna』をキッカケに、さらに人気に火が付くと予想されますので、今後の彼のキャリアからも目が離せません。

XXS オリジナルプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/gunna-a-new-star-of-trap-music/pl.u-jV89B8Wtd1A86o2?l=en

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