レコードレーベルとの契約を交わさないまま、彼女は独立して活動を継続していきます。2016年には初のシングル『No More Talking』を、そしてすぐ後に同じく The Rap Game の一期生として活躍した戦友である Lil Niqo とコラボシングルをリリースします。
番組出演時代から築き上げてきたファンベースのおかげもあり、2016年には Georgia Music Awards にて若手ヒップホップ・R&B 部門を受賞し、勢いに乗った Mulatto はファーストミックステープ『Miss Mulatto』のリリースを果たします。
ファーストミックステープ『Miss Mulatto』
その後も、彼女と同い年のデトロイトの女性ラッパー Molly Brazy や、『Watch Me (Whip/Nae Nae)』のメガヒットで有名な Silentó らが参加したセカンドミックステープ『Latto Let ‘Em Know』や Coca Vango や LightSkinKeisha らが参加したサードミックステープ『Mulatto』を一年ごとにリリースします。
サードミックステープ『Mulatto』をリリースしたタイミングで、ステージネームを Miss Mulatto から Mulatto に変更します。変更前後でセルフタイトルプロジェクトが二つ存在することになります。
『Latto Let ‘Em Know』と『Mulatto』
『Bitch from da Souf』 の大ヒット
コンスタントにミックステープをリリースし続けた Mulatto は、2019年の1月にシングル『Bitch from da Souf』をリリースし、同曲が多くのリスナーたちの注目を集めます。『Bitch from da Souf』は、カリフォルニアのベイエリアを拠点とするプロデューサーコレクティブである Bankroll Got It によるプロデュースで、彼女によると『サウス育ちの一人の女性としての、単なる自己紹介のようなもの』だそうです。
『Bitch from da Souf』は Billboard Bubbling Under Hot 100 にて5位という好セールスを叩き出し、彼女は後にカリフォルニアの Saweetie とフロリダの Trina をゲストに招いた同曲のリミックスを発表します。Mulatto にとって Trina は女性ラッパーのレジェンドだそうで、彼女との共演はラップを始めた十年前からの夢だったと明かしています。
彼女のリリースする楽曲には、サウス出身の女性ラッパーとしての誇りや自信をラップしたものが多いですが、ヒップホップの世界において、女性であること自体がハンディキャップとなった経験があることも明かしています。ニューヨークを拠点とした総合誌 PAPER のインタビューにて、女性ラッパーとして成功することの難しさについてこのように語りました。
そんな彼女は、FRESHMAN CLASS に選出された翌日にデビューアルバムのリリースをアナウンスしました。タイトルは『Queen of Da Souf』で、アナウンス当時は先行シングル以外の参加ゲストが絵文字に置き換えられてシークレットとなっていましたが、City Girls と 21 Savage、42 Dugg がゲストとして参加しました。
デビューアルバム『Queen of Da Souf』のアルバムカバーとアナウンス時のトラックリスト
様々なアーティストとの共演
Muwop (feat. Gucci Mane)
Mulatto と同じジョージア州アトランタ出身でトラップミュージックの重鎮でもある Gucci Mane をゲストに招いた楽曲です。デビューアルバムにも収録されており、先行シングルとしてリリースされました。
Gucci Mane といえば、自身のレーベル 1017 Records / 1017 Eskimo を有しており、Asian Doll や Yung Mal、HoodRich Pablo Juan をはじめとする才能のある若手ラッパーと数々の契約を結んでいることで有名ですが、それに関係した面白いラップを披露しています。
Tried to sign Mulatto, but she was signed already
Mulatto と契約しようとしたけど、彼女はすでに契約をもっていた
キャリアについての章で、彼女が So So Def Records との契約を辞退したことには触れましたが、2020年の3月に RCA Records との契約を果たしています。誰もが羨む彼女の輝く才能ですが、Gucci Mane がそれに気づくのは少し遅かったようです。
JayDaYoungan – Touch Your Toes (feat. Mulatto)
ルイジアナのラッパー JayDaYoungan との楽曲です。Lil Wop の 『Soul Snatcher』や Chinese Kitty の『Stories of a Ghetto Kitty』などで聞き覚えのある木の床が軋むようなサウンドをベースにしたアップテンポな楽曲です。頼りない声でラップする JayDaYoungan に対して、たくましくラップする Mulatto にも注目です。
Duke Deuce – Kirk (feat. Mulatto)
テネシー州メンフィスのラッパー Duke Deuce との楽曲です。フックで延々と繰り返されるループアドリブや、Duke Deuce お馴染みのシャウトなどが盛り沢山のメンフィスらしい楽曲です。アドリブなどを含め癖の強い Duke Deuce ですが、Mulatto もそれに負けないほど堂々としたラップを披露しています。
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は、XXL FRESHMAN CLASS 2020 にも選出されたアトランタのラッパー Mulatto についてまとめてみました。FLESHMAN の目玉企画であるサイファーや、今回リリースされたデビューアルバムで注目度がさらに高まることは間違いなしです。
Tyler, The Creator や Jaden Smith を始め、様々なアーティストがカミングアウトを堂々とするようになったのも、Ocean の勇気ある行動を契機としているといっても間違いありません。ちなみに、Ocean 自身がカミングアウトを行う勇気が出たのは、音楽的にも最も影響を受けたアーティストの一人である Prince のおかげだと言っています。
Prince が、「性の役割」という古臭い考えを相手にせず、自由に行動してくれたからこそ、自分のセクシュアリティをナチュラルに受け止めることができたんだ。
ちなみに Prince は今となっては伝説的なアーティストであることは間違いありませんが、今から 30 年以上前に、テレビの番組にビキニとヒールを纏って出演したこともあったりと、表舞台でセクシュアリティを公表した黒人としてもその功績を称えずにはいられません。
ここまでが「みんなの知らない Frank Ocean」でした。では次に Ocean の音楽の源流について考察していきます。
シカゴ北部の Old Town エリアにて、両親と3人の兄妹とともに生活していた Polo G は、2016年から楽曲制作を開始。幼い頃は、Lil Wayne や 2Pac、Gucci Mane、Lil Durk、Chief Keef らの楽曲を聴いていたという。2018年リリースの『Finer Things』のバイラルヒットをきっかけに、2019年には『Battle Cry』、『Pop Out (feat. Lil Tjay)』と立て続けにヒットを生み出し、それらの楽曲を収録したデビューアルバム『Die a Legend』は US Billboard にて6位デビュー。
2020年には、セカンドアルバム『THE GOAT』をリリースし US Billboard 2位デビューを飾った。
2018年にはジョージア州アトランタに引っ越し、生活費を稼ぐためにカフェで働いていた Harlow は、その数ヶ月後に DJ Drama と Don Cannon 率いる Generation Now と契約を結ぶこととなる。同年、彼はメジャーレーベルからの初のミックステープ『Loose』をリリース。翌2019年にはミックステープ『Confetti』をリリースし、USツアーも開催した。
2018年、彼は YNR Choppa という名義の元、ファースト・シングル『No Love Anthem』と、デビュー・ミックステープ『No Love the Takeover』をリリース。また、Choppa が所属するコレクティブ Shotta Fam の楽曲『No Chorus Pt.3』での彼の印象的なヴァースとダンスが話題を呼び、一躍名を馳せる。
NLE (No Love Entertainment) Choppa に改名した彼は、2019年にシングル『Shotta Flow』をリリース。同曲のミュージック・ビデオがわずか1ヶ月で1000万再生を記録し、Billboard Hot 100にて96位デビューを果たした。
高校卒業の年でもあった2017年に初のミックステープ『Rookie of the Year』をリリース。その後、ミックステープ『Hunger Games』シリーズで人気を集め、2019年リリースのデビューアルバム『Ghetto Gospel』は US Billboard 14位デビューを記録した。
更に2020年リリースのセカンドアルバム『Pray 4 Love』は初週で7.2万ユニットを売り上げ、US Billboard 2位デビューを飾った。
【代表曲】
Heart on Ice
Girl of My Dreams
Baby Keem
【本名】Hykeem Jamaal Carter, Jr.
【生年月日】2000年10月22日
【出身地】ネバダ州ラスベガス
Kendrick Lamar の従兄弟としても知られる Baby Keem は、その Kendrick を擁するビッグ・レーベル Top Dawg Entertainment 所属のアーティストの作品に多数クレジットされている。その例として、Kendrick Lamar の『Black Panther: The Album』や Jay Rockの『Redemption』、ScHoolboy Q の『Crash Talk』、Beyoncé の『The Lion King: The Gift』等での、ソングライティングやプロダクションへの参加が挙げられる。
声変わりを待ってからラップを始めたという彼は、2018年に『No Name』と『Hearts & Darts』の2つのEPをリリースしたのち、ミックステープ『The Sound of a Bad Habit』をリリース。その後、2019年にリリースしたシングル『Orange Soda』が2020年にかけてヒットし、US Billboard にて98位を記録した。同曲収録のミックステープ『Die for My Bitch』も多くの音楽メディアやアーティストから称賛を受け、一躍注目を浴びた Keem は、Kendrick Lamar と Dave Free による新企画『pgLang』のイントロ・ビデオにも起用され話題となった。
【代表曲】
ScHoolboy Q – Numb Numb Juice
Orange Soda
Lil Keed
【本名】Raqhid Jevon Render
【生年月日】1998年3月16日
【出身地】ジョージア州アトランタ
学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた Lil Keed は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組み始める。
Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 同テープがストリートヒットし Young Thug の目に留まった彼は、Young Stoner Life Records と契約を結ぶ。同年には『Slime Avenue』、『Trapped on Cleveland 2』、『Keed Talk to ‘Em』の3つのミックステープをリリース。『Keed Talk to ‘Em』にはTrippie Redd や 21 Savage、Lil Yachty、Lil Durk、Brandy ら大物アーティストが多数参加した。
2019年にはデビューアルバム『Long Live Mexico』を、2020年にはセカンドアルバム『Trapped on Cleveland 3』をリリース。ネクスト Young Thug との呼び声も高い若手ラッパーの1人である。
オハイオ州コロンバスで生を受けた Mulatto は、2歳の頃にジョージア州アトランタに移住。彼女は10歳の頃にラップを始め、2016年には、若手ラッパーたちが8週間にわたり力を競い合うアメリカのリアリティTVシリーズ『The Rap Game』に参加、見事優勝を果たした。その結果として彼女は So So Def Records との契約権を勝ち取るが、契約金が少ないという理由でこれを断り、インディでの活動を選んだ。同年には Georgia Music Awards にて Youth Hip Hop/R&B Award も受賞した。
2017年頃から EP やミックステープを継続的にリリースしてきた彼女は、2020年に RCA Records と契約を結び、Gucci Mane や NLE Choppa らとの共演も果たした。
【代表曲】
No Panties
Muwop (feat. Gucci Mane)
Calboy
【本名】Calvin Woods
【生年月日】1999年4月3日
【出身地】イリノイ州シカゴ
音楽活動を始める前は絵を描いて過ごしていたという彼は、2015年から Kidd Cal 名義で楽曲を公開し始める。
2017年には初のミックステープ『Anxiety』を、2018年には Paper Gang Inc. からセカンドミックステープ『Calboy the Wild Boy』をリリース。同年、シングル『Envy Me』がダンスチャレンジによりバイラルヒットし、ますます知名度を上げた彼は、Kodak Black のツアーへの参加も果たした。
2019年には、RCA Records と Polo Grounds Music からEP『Wildboy』をリリース。Moneybagg Yo や Lil Durk、Yo Gotti、Polo G、Meek Mill、Young Thug らをフィーチャーした同作は、US Billboard チャートにて最高30位を記録した。Chance the Rapper のアルバムへの参加も果たした彼は、2020年、EP『Long Live the Kings』をリリース。同郷シカゴのラッパー Lil Durk から強く影響を受けた若手ラッパーの1人である。
アメリカ大統領選の翌日にアフリカ系アメリカ人としての訴えを Instagram にポストしたり、トランプ支持者として知られる Kanye West を皮肉るフリースタイルラップを披露したりと、政治関連の動きで注目を集めた彼女は、2019年にデビューシングル『No Squares』をリリース。同年夏には Warner Records と契約を結び、さらに2つのシングルを発表した。
カリフォルニア州ロサンゼルスで生を受け、後にサンフランシスコに移住した彼は、2019年にリリースしたシングル『Valentino』のバイラルヒットで一躍ブレイク。彼は、同曲のヒットを受け LLC、Columbia Records と契約を結び、デビュー EP 『Dropped Outta College』をリリース。彼の楽曲『Game on Your Phone』が人気ゲーム『NBA 2K20』のサウンドトラックに選ばれるなど、西海岸出身の注目ラッパーの1人である。
【代表曲】
Valentino
Mood (feat. iann dior)
Lil Tjay
【本名】Tione Jayden Merritt
【生年月日】2001年4月30日
【出身地】ニューヨーク州サウスブロンクス
15歳の頃に強盗罪で逮捕され、服役中にリリックを書き始めたという Lil Tjay は、2017年にデビュー曲『Resume』をリリース。同曲や、その後リリースした『Brothers』がバイラルヒットし、さらに Polo G との楽曲『Pop Out』は US Billboard Hot 100 チャートにて最高11位を記録。
2019年にはデビュー・アルバム『True 2 Myself』(US Billboard 5位デビュー) を、2020年には EP『State of Emergency』をリリースした。
21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加をきっかけに、DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たし、彼のコラボレーターとしてよく知られる DaBaby の楽曲を手掛けるようになる。DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。
2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たした。2020年には、Playboi Carti のシングル『@ MEH』や J. Cole のシングル『Lion King on Ice』の制作にも携わるなど、現行ヒップホップシーンを代表するプロデューサーの1人である。
ビデオゲームのBGMのようなピコピコトラック、Playboi Carti や Lil Uzi Vert らが得意とする浮遊感のあるトラック、極端に音数が少なくバスドラムが響く重低音トラックなど。トラップミュージックが急速に人気を博して数年たった今、数々のプロデューサーたちが多種多様なトラックを生み出し続けています。
中国的な雰囲気を感じられるトラックは、随分前からちらほらと見受けられましたが、やはり流行の発端となったのは、中国出身のヒップホップグループである Higher Brothers の『Made In China』ではないでしょうか。彼らは、中国でヒップホップシーンが盛んになり始めたタイミングで、チャイニーズラップらしい中華ビートを採用した楽曲をリリースしました。Future や Young Thug などとの共演で有名なプロデューサー Richie Souf による中華トラックに加え、シカゴのラッパー である Famous Dex をゲストに招いたことで、チャイニーズスタイルのトラップミュージックが瞬く間に全世界に広がりました。
中国のヒップホップシーンはもちろんのこと、海外からの注目も集めることに成功した彼らは、のちにリリースしたアルバムに ScHoolboy Q や J.I.D、KOHH などを招くことで、さらなる知名度を獲得していきます。そのなかでも、Ski Mask The Slump God と Denzel Curry を招いた楽曲『One Punch Man』は、Ronny J による中華ビートの上で中国語と英語が混同した勢いのあるラップが話題を呼びました。
Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するラッパー Gunna のデビューアルバム『Drip or Drown 2』に収録されている『Who You Foolin』という楽曲です。Wheezy による高級中華料理店のBGMのような中華トラップビートに、Gunna がしっとりと哀愁のあるラップを載せています。
ちなみに、Wheezy がサンプリングしたのは、中国の人気歌手である Tong Li の『童麗』という楽曲です。メロディはそのまま使用されており、Wheezy はドラムスを重ねただけです。しかし、今となっては原曲のYouTube のコメント欄には「Gunna から」「Gunna が俺をここに導いてくれた」など、Gunna リスナーによるコメントしか見当たりません。
Polo G の最新作『THE GOAT』に収録されている『Chinatown』という楽曲です。こちらの楽曲に関しては、タイトルから察しがつく通り、もちろん中華ビートが採用されています。チャイナタウンというだけあって、特定の楽器によるメロディラインというよりは、チャイナタウンの街の喧騒のようなサウンドにドラムスを重ねた怪ビートとなっています。
皆さんご存知の Justin Bieber が2014年にリリースしたアルバム『Purpose』に収録されている『Hit the Ground』という楽曲です。同アルバムには、Travis Scott や Nas、Big Sean などがクレジットされていることもあり、今回の趣旨から大きく逸脱してしまうわけではないので、ご紹介させていただきます。
Young Thug 率いる Young Stoner Life Records に所属するジョージア州アトランタ出身の注目ラッパー Lil Keed (リル・キード)。XXL Freshman Class 2020の有力候補の1人であり、本日セカンド・アルバム『Trapped On Cleveland 3』をリリースした彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。
生い立ち
I come from the jungle where you don’t survive.
他の奴らは生き抜くことができないような、ジャングルみたいな場所からやって来たんだ
1998年3月16日、ジョージア州アトランタにて生を受けた Lil Keed こと Raqhid Jevon Render は、幼少期を Forest Park で過ごした後、Cleveland Ave に引っ越します。この Cleveland Ave はアトランタのゾーン3に位置しており (アトランタは、警察によって1~6までの管轄地区に分けられており、アトランタのスター Young Thug もゾーン3で生まれ育ちました) 、彼は6人の兄弟とともに貧しく過酷な環境下で生活していたそうです。
キャリアの開始とミックステープ
学生時代、Subway と McDonalds で働きながら日常的に音楽制作を行なっていた彼は、親友 Rudy を亡くしたことをきっかけに、実弟である Lil Gotit と共に真剣に音楽活動に取り組むようになります。
Young Thug や Peewee Longway、Big Bank Black らに影響を受けたと語る Keed は、2016年に本格的にキャリアを開始し、2018年にデビュー・ミックステープ『Trapped On Cleveland』をリリース。 Young Thug の影響を強く感じさせるハイピッチで歌うスタイルが彼の特徴です。
Young Thug のようなハイピッチ・フロウとキャッチーなコーラスが特徴的な1曲。女性との関係や掴んだ成功について歌った同曲がバイラルヒットし、US Billboard チャートにて最高30位を記録、後にゴールド認定されます。
デビュー・アルバム『Long Live Mexico』
2019年6月、Lil Keed は待望のデビュー・アルバム『Long Live Mexico』をリリースします。タイトルの『Long Live Mexico』とは、同年始に亡くなった彼の友人 Mexico に追悼の意を表したものです。
Young Thug や Gunna、NAV、Moneybagg Yo、Lil Uzi Vert、YNW Melly、Roddy Ricch らを含む13名を客演に迎えた同作は、US Billboard チャートにて最高26位を記録します。
Snake
CuBeatz & Pyrex Whippa プロデュースによるウクレレのようなストリングスを用いたスロウなトラックと、「Snake」を連呼するだけのシンプルなフックが特徴的な1曲。2バース目入りの苦しそうなハイピッチ・フロウが彼の持ち味で、まさに Young Thug のハイピッチ・パートをそのまま受け継いで進化させたかのようなスタイルを披露します。
2018年から次々と作品をリリースし、憧れの Young Thug に認められたのち YSL Records と契約、更には XXL Freshman Class 2019 にもノミネートされるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いでスターダムを駆け上がってきた Lil Keed。そんな彼は、YSL Records やアトランタのラッパーを中心に、様々なアーティストと共演するようになります。
Young Thug – Goin Up (feat. Lil Keed)
まずは Keed をフックアップした Young Thug との1曲。彼らが出会って間もない時期に制作した楽曲ですが、2人は既に最高のコンビネーションを発揮しています。Thug がイントロで「Keed, yeah」とシャウトアウトする部分や、似たような声質から放たれる両者のハイピッチ・フロウから、彼らが本当の親子だと勘違いするファンもいたほどです (年齢的にはあり得ませんが)。実際 Thug は、Keed を実の息子のように可愛がっています。まさに Keed は、アトランタ・ヒップホップシーンの結束力と Young Thug の多大な影響力が生んだネクストスターといえるでしょう。
Jacquees – Hot For Me (feat. Lil Keed & Lil Gotit)
ジョージア州ディケーターの R&B シンガー Jacquees の1曲に、Keed は実弟の Lil Gotit と共に参加しています。Keed のシグネチャーである「Keed talk to ’em」の連呼で始まる彼のヴァースは、地声のラップからアドリブと共にハイピッチ・フロウに切り替わっていく展開で、R&B サウンドにしっかり順応しています。優れた歌唱力と美しい歌声を持つ Jacquees と、それに負けじと必死にハイピッチで歌う Keed の2人だからこそ成せる絶妙なコンビネーションです。
88GLAM – Bankroll (feat. Lil Keed)
カナダ・トロントのヒップホップ・デュオ 88GLAM との1曲。Keed は、お得意のハイピッチ・フロウに加え Young Thug のようなダミ声も披露しており、客演にも関わらず主役級の存在感を放っています。Keed はどの楽曲でも同じようなラップをしていると思われがちですが、自分のスタイルを貫きながらも随所に様々な工夫を凝らしており、インタビューでも以下のように語っています。
After just every day being in the studio, trying new things.
俺はいつも新しいことを試してる
I don’t want people to be like, ‘He sounds the same on every song, that shit’s boring!’
ミシガン州デトロイトのラッパー Tee Grizzley との1曲。Tee Grizzley のハードなラップに続いて、Keed はハイテンポなビートを乗りこなしながら自由なラップを披露します。真面目にラップする Tee Grizzley と、奇妙なアドリブやフロウを聴かせる Keed の相性が意外にもマッチした楽曲です。
johan lenox, Lil Keed & Kota the Friend – throwback thursday
マサチューセッツ州ボストンのシンガー/プロデューサー johan lenox との1曲。Keed とオーケストラ・サウンドという一見意外な組み合わせですが、彼は johan lenox にも Kota the Friend にもない新たなエッセンスを楽曲に加えており、三者三様のコントラストが魅力的な楽曲です。このようにヒップホップ (トラップ) 以外の楽曲にも起用される Keed は、同じく様々なジャンルの客演をこなす Young Thug に近い立ち位置を確立しつつあるのではないでしょうか。
おわりに
今回はアトランタの注目ラッパー Lil Keed についてまとめてみました。いかがだったでしょうか。
2019年、そして2020年と2年連続で XXL Freshman Class の候補者にノミネートされており、これからますます活躍が期待されている Lil Keed。実弟 Lil Gotit と共にアトランタのシーンを背負うビッグスターになる日も近いかもしれません。
突然ですが、あなたは Kanye West という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?「変人」「宇宙人」などなど、最近の一連の行動を見ていると、あらかたの人が Kanye に対して不信感や偏見を持っているかもしれませんが、彼の音楽面における影響力は絶大なものなんです。
ということで、今回はそんな Kanye West の全てがわかる記事をご用意しました。Kanye がリリースしたほぼ全てのプロジェクトを通して、彼の音楽の全貌に迫りましょう。
Kanye West とは?
Kanye West (以下、Kanye) は1977年6月8日にアトランタで生まれ、イリノイ州のシカゴで育った現在43歳のプロデューサー・ラッパー・ファッションデザイナーです。ここでまず最初に注目してほしいのは、彼が元々プロデューサーであったという事です。
プロデューサー・Kanye West
彼は1990年代に学生として大学に通いながら、プロデューサーとしての仕事を始めました。しかしなかなかヒットには恵まれません。実はこの時期に、ソロデビューを果たすためにかなりレーベル探しに苦労しており、Capitol Records からソロアルバムを出すということがほとんど目前まで決まっていたところで契約が白紙になってしまったこともありました。
好機が訪れたのは2000年代になってからのこと。オールドスクールとニュースクールのハブ的存在、 Jay-Z との出逢いです。そして、Jay-Z にプロデューサーとしての資質を買われて Roc-a-Fella Records とプロデューサーとして契約を結びます。
この曲はジム・モリソンの所属していたアメリカ西海岸出身の世界的バンド The Doors の『Five to One』や David Bowie の『Flame』を大胆にサンプリングした一曲です。また、この曲は Nas をディスってビーフになったことでかなり有名な一曲でもあります。今でこそゴスペルのイメージが強い彼も、源流はサンプリング&ループビートなんです。
Jay-Z – Izzo
続いては『Izzo』ですが、この曲のビートどっかで聞いたことがあるなと感じた方もいらっしゃることでしょう。そうなんです、これは Jackson 5 の『I Want You Back』をサンプリングした一曲なんです。大胆に様々なジャンルに闖入しうる彼の才能は、この時代から顕在ですね。
Common – They say (feat.Kanye West & John Legend
Jay-Z の他にも、 シカゴヒップホップの開拓者ともいえる Common のアルバム『Be』にて、11曲中9曲を Kanye がプロデュースします。では一曲お聞きいただきましょう。Common で『They say (feat.Kanye West & John Legend』 です。
John Legendの聞き心地のよいコーラスから始まる、気持ち良さと軽快さを兼ね備えたビートですね。聴いた人は分かると思いますが、2バース目はカニエのラップパートになっています。
また、R&B においても、彼はプロデューサーとしての才能を開花させていきます。プロデュースした中で有名なものに、Alicia Keys の『You Don’t Know My Name』があります。
これはリーク曲に対する世間の評判を見て、曲のマスタリングを変更したり、曲を没にしたりするためにやったそうです。実際に、東海岸のレジェンドクルー Wu-Tang Clan の Ol’ Dirty Bastard (通称:ODB) との楽曲『Keep the Receipt』をこのアルバムから外し、一年後の Roc-a-Fella Records から出したミックステープに収録していたりします。
Ol’ Dirty Bastard
The College Dropoutのオススメ曲
このアルバムでのオススメ曲としては、まずは Chaka Khan の『Through the Fire』を大胆にサンプリングした楽曲『Through The Wire』です。 『Through the Fire』(炎の中で) を 『Through the Wire』(ワイヤーの間から)というお茶目なワードプレイに変えちゃう辺りは彼らしくて面白いですね。
続いては『Late Registration』です。こちらは、リリース後10週連続で全米チャート1位をとり、これ以降のアルバムでKanye はチャートを総ナメしてしていくのですが、今作は前作と比べてかなりクラシック的要素が強くなっています。このアルバムの制作における裏話に、上述の Common のアルバム制作の時に「俺ならこうやってラップするぜ」と思っていたそうで、そこから着想を得たそうです。
勿論、Jay・Z や Nas、The Game、さらには Brandy や Maroon5 の Adam なども客演に迎えた崇高な仕上がりになっています。このアルバムを契機として、温かみやチープさといった印象を払拭した楽曲の作り方をしています。また、このアルバムでは Pop 界のレジェンドプロデューサー Jon Brion を外部プロデューサーとして迎え入れていることで、前作とはまた違ったサウンドの幅を感じます。
このアルバムでは、エレクトロニックサウンドへの傾倒が注目されがちですが、ニューヨーク出身の伝説的バンド Steely Dan のサンプリングなど、今までにも増してヒップホップの可能性を無限大に広げ、そのジャンルをメインジャンルに押し上げたアルバムであることも特筆すべき点です。また、一曲一曲がクリアにミキシングされているので、以前にも増して粗雑感が消えています。
Graduationのオススメ曲
2006年に先行シングルで発表し、世間に衝撃を与えた一曲『Stronger』をオススメします。
最高ですね。この曲を聞いたことのある人が多い理由はサンプリング元が Daft Punk の『Harder Better Faster Stronger』だからです。にしても、天才的なサンプリングセンスとしか言いようがありません。
『My Beautiful Dark Twisted Fantasy, Watch The Throne』のオススメ曲
Pusha T をフィーチャーした一曲『Runaway』です。
Let’s have a toast for the douchebags.
勘違い野郎に乾杯だ。
たった1音の旋律から増幅するこの曲は、かなり教示的な一曲だと感じると同時に、その自嘲的なリリックにユーモアさえ感じとることができます。Taylor Swift のMTV授賞式を邪魔するという失敬によって彼はハワイでレコーディングをせざるを得なくなったわけですが、唖然とするほどストイックにレコーディングを行ったそうです。モデルの Amber Rose との破局もあったのですが Kanye は心が不安定な時こそ最高の音楽を作ってしまうんですね。
続いては、Fergie、Alicia Keys、Elton John、Rihanna や Kid Cudi といったスターたちを次々に使う『All Of The Lights』 です。
辛い時期を闘った Kanye なんですが、2011年には Roc-a-Fella Records と Def Jam Recordings より、恩人 Jay-Z と共作のアルバム『Watch the Throne』をリリースします。このプロジェクトは元々、EPとして発表するつもりだったのですが、色々な構想がうまく行くうちにアルバムにしてしまおう、となって作られたアルバムです。
『Kanye West Presents GOOD Music Cruel Summer』(2012)
続いては、Kanye が自ら2004年に作ったレーベルで Def Jam Recordings の傘下である GOOD Music より出されたレーベルアルバムの『GOOD Music-Cruel Summer』です。こちらはレーベルでのアルバムにはなりますが、Kanye によるプロデュースアルバムで、彼自身が楽曲に多く参加しているので紹介いたします。
『Cruel Summer』のオススメ曲
『I Don’t Like ft. Pusha T, Chief Keef, Jadakiss& Big Sean』
そして2年の時が過ぎ、7作目のアルバム『Yeezus』をリリース。このアルバムはこれまでずっと続いてきた Roc-a-Fella Records と Def Jam Recordings から出される最後のアルバムとなります。次回作からは GOOD Music と Def Jam Recordings よりリリースされるようになります。
今作はプロデューサーとして Mike Dean や Daft Punk、Arca や Travis Scott を招いていて、この作品でも革新的な電子サウンドを取り込んだ楽曲が多くみられます。また、リリースされる15日ほど前にプロデューサー Rick Rubinを招き、このアルバムをさらに凝縮するべく、マスタリングをギリギリまで行っています。
そして、何よりこのアルバムの特徴といえば、転調の多さです。この転調の多さは Travis Scott にもかなり影響を与えたようで、転調の王者 Travis Scott の原点とも言えるアルバムでしょう。
『Yeezus』のオススメ曲
まずは、Travis Scott を中心に Mike Dean なども共にプロデュースした一曲『New Slaves』です。
We on an ultralight beam. This is a God dream. This is everything.
みんな神の光に包まれている。これが神の与えてくれる希望だ、それだけさ。
実はこのライン、初めの女の子の発言に対して呼応する構造になっているんですよね。また、ここでの神の光はつまり無償の愛、キリスト的用語で言えば、「アガペー」を意味するのでしょう。この曲では 女性シンガー Kelly Price の圧倒的歌唱力も味わうことができます。彼女は幼少の頃から教会に通い、ゴスペルに大きな影響を受けたシンガーです。
Kelly Price
そしてその後、Chance The Rapper の心地よいバースがあり、曲の終盤に Kirk Franklin を使ってしまうという徹底したゴスペルサウンドへのこだわりが随所に見られます。Kirk Franklin はゴスペルとヒップホップを融合し、アーバン・コンテンポラリー・ゴスペルを作り出した張本人でアメリカでも圧倒的人気を誇るアーティストなんです。
『Father Stretch My Hands, Pt.1』
この曲は Metro Boomin のプロデュースということですが、始まりから最高ですね。「stretch my hands」というのは神を賛美するときに天に向かって手を伸ばすことを意味していて、一般的な Sunday service (日曜礼拝)や祈りを捧げるときに行われる行為です。
ちなみに『Father I Stretch My Hands to Thee』という曲は James Cleveland の代表曲で、Kanye はこの曲を参考に作っています。
I feel like me and Taylor might still have sex Why? I made that bitch famous (Goddamn)
俺とテイラー(スウィフト)は今もやってるかもな。なぜかって、俺があのアマを有名にしたからだよ。
このリリックに対して Taylor Swift サイドがかなり批判したのですが、リリース前に Taylor Swift に許可を取っていたという電話をキム・カーダシアンが通話記録から発見し、一旦事態は収束しました。しかし、事態は今年になって急展開を見せました。なんと、結局は Kanye 夫妻が嘘をついていたというのがまたもや通話記録から発見されたのです。否定的なラインはその本人に悪影響を与えるため、Taylor Swift が怒る理由も理解できますね。
続いては『Waves』です。この曲にはChance the RapperとChris Brownをフィーチャーしています。Chance the Rapper といえば、Kanye も認める凄腕ラッパーな訳ですが、彼が他の楽曲にも様々に「テコ入れ」を行ったことでリリースが遅れたとも言われていますから、彼のプロデュース力も底知れぬものなのでしょう
最後に僕のカニエの数々の曲の中で最も好きな曲を紹介します。
Saint Pablo
この楽曲・アルバムのタイトルにもなっている「Pablo」についてなのですが、これはキリストの使徒の一人である「パウロ」を指します。パウロはもともと、ユダヤ教徒のファリサイ派と呼ばれる過激な思想を持つ宗派に属しており、キリシタンを迫害し、嘲笑するような態度でした。しかし、突然キリストの声が聞こえ、目が見えなくなります。それをキリスト教徒が祈りにより直してしまいました。そのような経験から彼はキリスト教へと回心したのです。『The Life of Pablo』はそんな人の人生というのがテーマのアルバムなのです。
Shirley Ann Lee・PARTY NEXT DOOR・070 Shake という近年力をつけてきた勢力に加え、自身のレーベルより長年の古株である Kid Cudi を絶妙なタイミングでコーラスとして使った至極の一曲です。
続きましては、その Kid Cudi との共同プロジェクト「KIDS SEE GHOSTS」のアルバムについてです。
Kanye West と Kid Cudi
『KIDS SEE GHOSTS』 (2018)
実は、Ronald Oslin Bobb-Semple より、このアルバムの収録曲『Freeee (Ghost Town Pt. 2)』に Kanye がマーカス・ガーベイのスピーチを再現した「The Spirit of Marcus Garvey」という音声が使用されていることに対し、訴えを起こしました。これは曲の中心として使っているのでフェアユースとは言えないだろと訴えを起こされ、話題となっていました。
三曲目のこちらですが、TLOPで紹介した「Father I Stretch My Hands to thee」をサンプリングしています。これは言わば、TLOPの『Father Stretch My Hands, Pt. 1』そして『Pt. 2』の続きに当たる『Pt. 3』とも言える曲ですね。見事なサンプリングです。この曲が一番再生されてる理由も理解できますね。
そして2020年になり、YEEZY と GAP のコラボレーションを発表するなど、コロナ渦でも話題を欠くことのなかった Kanye West。
そんな彼が、突然 MV と共に弟のような存在である Travis Scott を客演に呼んだ一曲『Wash Us in the Blood』を発表します。
このミュージックビデオは、Solange や Jay-Z のMV監督としても知られる、映画監督の Arthur Jafa によって作られました。車の激しいアクションのシーンは思わず目を見開いてしまいそうになりますね。また、兄弟分とも言える Travis Scott を絶妙な使い方で使っている点にも注目です。
Juice WRLD の遺作『Legends Never Die』への参加や、Lil Tecca や Lil Tjay などの人気若手ラッパーたちとの共演で注目が集まる中、満を辞して待望のニュープロジェクト『Fuck Love』をリリースしたばかりの The Kid LAROI。今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力について迫ります。
The Kid Laroi とは
The Kid LAROI (ザ・キッド・ラロイ) こと Charlton Howard は 2003年8月16日にオーストラリアのシドニーに生まれました。現在のヒップホップシーンでは珍しいオーストラリア出身で、まだ16歳とかなり若いのも特徴の一つです。
シドニーで生まれた The Kid LAROI (以下 LAROI) は幼少期からヒップホップを中心とする音楽に親しんでいました。彼の母親はオーストラリアの音楽をほとんど聴かない人物だったそうで、母親が幼少期の LAROI に Kanye West や 2Pac 、Erykah Badu などの音楽を聴くことをすすめたことが、彼がヒップホップと出会うきっかけとなったそうです。
彼の音楽は Juice WRLD や Trippie Redd のそれと比較されることが多く、「サウンドクラウドラップ」や「エモラップ」にカテゴライズされることが多いです。実際に彼が音楽の道を志し始めたときには、彼はすでに Juice WRLD の大ファンだったそうで、Juice WRLD による影響はかなり大きいとインタビューの中でも語っています。
キャリアの開始
LAROI は2018年にオーストラリアのラジオ番組の新人アーティスト発掘コーナーである Triple J Unearthed High にてファイナリストまで勝ち上がります。コンペティションにて知名度を格段に上昇させた LAROI は同年に初の EP 『14 WITH A DREAM』を SoundCloud にて公開します。
1曲目に収録されている『GO GET IT』では、EP のタイトル通り「14歳にして大きな夢を思い描く」彼の決意や大志がひしひしと感じられます。メロディアスなラップや、フックを歌い上げるスタイルの楽曲が多い現在の彼に対し、初期はシリアスなラップを淡々とこなすスタイルが特徴的です。
4曲目に収録されている『Blessings』では、メロディアスでありながらもシリアスさを持ち合わせる力強いラップを堪能することができます。当 EP の中では、こちらの楽曲が特に大きな話題を呼び、彼のキャリアを躍進させるきっかけとなりました。
Juice WRLD をはじめとした SoundCloud 発のエモラップを好むリスナーたちを中心に徐々にファンベースを築き上げていった LAROI は2019年に Juice WRLD も所属する Lil Bibby によるレコードレーベル Grade A Productions や Columbia Records との契約を交わしました。
その後、 LAROI は Juice WRLD によるライブツアーのオーストラリア公演への同行を果たし、憧れだった人気ラッパーたちに仲間入りします。ツアーの際に憧れの存在である Juice WRLD との親交を深めた彼は、のちに彼とのコラボ曲も発表します。
Rolex は、ドイツ人の Hans Wilsdorf が1905年に創業したスイス発の腕時計ブランドです。創業当初の同社の腕時計の精度は決して高くはありませんでしたが、創業者である Hans Wilsdorf の熱心な研究によりムーブメントの品質向上に成功。その結果、商標登録からわずか2年後に、腕時計として初のクロノメーター認証 (高い品質を認められた時計だけに与えられる称号) を受けるという快挙を達成します。
2Pac が愛用していたのは、ダイアモンドが施されたイエローゴールドの Day Date (デイデイト)。Rolex の高級ラインにのみ使用される「Presidentbracelet」を用いた Day Date は Rolex が誇る最上位ドレスモデルであり、定価にしておよそ300万円から1000万円を超えるものまで存在します。ちなみにこの「President bracelet」とは、1956年に当時のアメリカ大統領アイゼンハワー氏に Day Date が贈られたことがきっかけで付けられた名称で、ヒップホップにおいても Rolex を意味するスラングとして「President」というワードが頻繁に用いられます。
Warren G – Regulate
I’m gettin’ jacked, I’m breakin’ myself
俺はやられる ボロボロになるんだ
I can’t believe they takin’ Warren’s wealth
Warren の (俺の) 物を奪おうとしてくるなんて信じられない
They took my rings, they took my Rolex
奴らは俺のリングと Rolex を奪った
I looked at the brother, said “Damn, what’s next?”
奴らを見て言ったんだ 「次はなんだ?」ってな
G Funk の流行を支えた Warren G が1994年にリリースした名曲『Regulate』でも、音楽で成功を収めた結果手に入れた「Wealth = 富」として、Rolex がネームドロップされています。「自らが敵に襲われ、財産である Rolex を奪われてしまう」という、強さを誇示することが一般的であるヒップホップ界においては珍しいラインですが、ヒップホップ全盛期として知られる90年代においても Rolex は富の象徴として扱われていたことが分かります。
アニメの要素を自身の作品に取り入れるアーティストたちは、時にアニメの主人公に自身を投影します。今となってはゴスペルアルバムをリリースしたり、大統領選への出馬意向を示したりとアニメとは無縁の世界に身を置いているように見える、Kanye West もその中の一人です。まずはこちらのミュージックビデオをご覧ください。
Kanye West による三枚目のスタジオ・アルバムである『Graduation』に収録されている『Stronger』のミュージックビデオです。ネオンが輝く東京の街並みや近未来的なロボットなどが登場し、SFアニメを連想させるものとなっております。勘の良い方ならすでにお気づきかもしれませんが、実はこちらのミュージックビデオは、大友克洋によるSF漫画・アニメである『AKIRA』に実際に登場するシーンなぞらえて制作されています。
アニメキャラクターに自身を投影するラッパーは他にも多数存在し、その一人が Lil Uzi Vert です。最近でも『Futsal Shuffle 2020』や『That’s A Rack』などのアートワークに自身をアニメキャラクターにデフォルメ化したものを起用したことから、アニメ好きというイメージは浸透しているように思えますが、彼が作品にアニメのエッセンスを加え始めたのはそれよりも前にさかのぼります。
Lil Uzi Vert が2016年にリリースした3枚目のミックステープ『Lil Uzi Vert vs. the World』収録の『Ps & Qs』のミュージックビデオです。日本の学校を舞台に、学園生活を通しての恋愛をテーマにしたビデオです。下駄や招き猫が映し出されたり、背景には浮世絵や日本語が書かれた黒板などが確認できます。特徴的なのは、全体を通して被写体の瞳がかなり大きく加工されている点で、日本のアニメキャラクターの瞳が潤いを持った大きな描写で描かれていることを表現しようとしたのでしょう。
ビデオ内では頻繁の実写と2Dアニメの描写が切り替えられ、クライマックスではCGアニメに切り替わる構成となっており、Lil Uzi Vert が主人公の学園アニメを見ているような錯覚を視聴者に起こさせます。
ここまででご紹介した Kanye West と Lil Uzi Vert の事例に共通することは「自信を主人公に投影している」点です。ほとんどのアニメや漫画は、主人公が「何か」と戦うことによってストーリーが展開していきます。『AKIRA』のようなSF作品では、特定の敵と身体的な戦いを繰り広げますし、一見戦いとは無縁に見える『けいおん!』のような学園ドラマでも、「軽音楽部の廃部」という事実と闘います。
ヒップホップは社会に対する反骨精神が現れやすい音楽です。アニメのキャラクターに自身を投影することによって、そのような「自分 vs 世界」的なマインドを上手く表現することができたのではないでしょうか。先ほども言及した Lil Uzi Vert のミックステープのタイトルも『Lil Uzi Vert vs. the World』となっており、主人公の Lil Uzi Vert が世界と戦う一つのアニメ作品のように思えてきます。
JID や EarthGang などが所属するレーベル Dreamville のボスである J. Cole も日本のアニメの楽曲をサンプリングしています。彼の4枚目のスタジオ・アルバムより、プロジェクトタイトルにもなっている楽曲『4 Your Eyez Only』は、日本でもかなり有名な国民的アクション漫画「ルパン三世」のサウンドトラックに収録されている楽曲をサンプリングしています。
最近のシーンの傾向から、アニメやオタク文化に魅了された若手ラッパーたちが、日本のアニメや漫画のカルチャーを楽曲に取り入れている印象を抱きがちですが、実は Wiz Khalifa や Snoop Dogg、そして J. Cole などのレジェンド級のラッパーたちも同じように自身の楽曲とこれらのカルチャーをミックスしています。
続いては、アニメに登場するアイコニックな効果音をアクセントとして楽曲に加えるパターンをご紹介します。 はじめにご紹介するのは、 Trippie Redd による最新アルバム『A Love Letter to You 4』より、故 Juice WRLD と未だに服役中のフロリダのラッパー YNW Melly をフィーチャーした『6 Kiss』です。
2019年12月8日、ヒップホップシーンのみならず現代音楽シーンを牽引していた若きスター Juice WRLD が逝去。わずか21歳という若すぎる死に、世界中が涙を流しました。
今回は、今週金曜日に彼の死後初となるアルバム『Legends Never Die』がリリースされたことを踏まえ、今一度彼の人生について振り返ります。
生い立ち
Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、1998年12月、イリノイ州シカゴにて生を受けました。翌1999年には家族で州内のホームウッドに移住しますが、Juice が3歳の頃に両親が離婚。それ以降は彼と彼の兄、そして母親の3人で暮らしていくこととなります。
4歳の頃にピアノを習い始めた Juice は、後にギターやドラムのレッスンも受けるようになり、学校の授業ではトランペットも演奏するなど、幼い頃から音楽に慣れ親しんでいました。
信心深く保守的な母親の影響で、ヒップホップを聴くことが許されなかった Juice は、「Tony Hawk’s Pro Skater」や「Guitar Hero」等のビデオゲームに使われていたロックやポップス (Billy Idol や Blink-182、Black Sabbath、Fall Out Boy、Megadeth、Panic! at the Disco など) を聴いて育ったといいます。
高校1年生の頃に音楽活動を開始した Juice (キャリア初期は JuicetheKidd という名義の下活動) は、2015年に初めて SoundCloud に楽曲をリリースしました。
Forever
ほとんどのヴァースを自身のスマートフォンで録音したという1曲。まだまだ音質やフロウ、ラップスキルに未熟さや粗削りさが残るものの、持ち前のハスキーな歌声と切ないリリックからは、皆さんが思い浮かべるであろう昨今の Juice WRLD らしさを感じることができます。当時は、ラップ・パートが楽曲の大半を占めており、ブレイク後の彼が得意としていた歌いながらラップするスタイルとは一味違う魅力があります。
JuicetheKidd 名義の元、ミックステープ『What Is Love?』(1曲のみの収録) や EP『Juiced Up The EP』をリリースした後、彼は尊敬するラッパー 2Pac が出演している映画『Juice』と、「世界を獲る」という意味の「World」にちなんで、現在の名前である Juice WRLD という名前に変更しました (ちなみに、WRLD は単純にスペルミスだそうです)。
2017年には、今となっては Juice とのタッグで有名な Nick Mira によるプロデュースの楽曲『Too Much Cash』をリリースします。
Too Much Cash
この頃から Juice は急激にスキルアップを果たします。JuicetheKidd 時代よりも多彩なフロウを駆使し、ブレイク後の彼のスタイルにも通づるキャッチーなメロディラインを用いたシンキング・ラップも聴くことができます。
当時、高校を卒業し工場で働き始めた Juice は、その仕事に不満を覚えわずか2週間で退職。その後ますます音楽活動に専念するようになった彼は、同年に初のフルレングス EP『999』をリリースします。この EP に収録されていたのが、後に大ヒットを記録する『Lucid Dreams』でした。
同 EP のリリース後、彼は Waka Flocka Flame や Southside、G Herbo ら大物アーティストから注目を受け、同郷シカゴ出身のラッパー Lil Bibby 率いる Grade A Productions と契約を結ぶことになります。
ヒット曲とデビューアルバムのリリース
2017年末、Juice は3曲収録の EP『Nothing Different』をリリース。同 EP 収録の『All Girls Are the Same』がヒットし、人気ヒップホップ・チャンネル Lyrical Lemonade の Cole Bennett が監修したミュージック・ビデオが発表されます。
All Girls Are the Same
All girls are the same, they’re rotting my brain, love
女の子はみんな同じだ 俺の脳を腐らせていく
Think I need a change, before I go insane, love
俺は変わらなきゃいけないんだ 狂ってしまう前に
この『All Girls Are the Same』は、Juice が自身の恋愛観と弱さを正直に曝け出した1曲です。「大勢の女性を従える」ということが一種のフレックスであり、ステレオタイプでもあるヒップホップ (音楽) 業界において、Juice は真実の愛を求めていました。彼は、真実の愛を追い求める中で負ってしまった心の傷を美しくも哀しいメロディに乗せて歌い、同じ悩みを抱える人々の共感を呼びました。
同曲で一躍名を馳せた Juice は、2018年、大手レーベル Interscope Records と300万ドル (約3億2000万円) の契約を結びます。