XXS Magazine が選ぶ
2023年ベスト・アルバム10選

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


10. Brent Faiyaz – Larger Than Life

メリーランドのシンガーBrent Faiyazのミックステープ。

TimbalandやThe Neptunesの影響を感じさせる00年代R&Bサウンドをオマージュしつつ、A$AP RockyやBabyface Rayら現行ラッパーをフィーチャーすることでモダンなムードに昇華した1枚。煌びやかなサウンドと、哀愁漂う甘美な歌声に惚れ惚れする36分間。


9. MIKE, Wiki & The Alchemist – Faith Is A Rock

ニューヨークのラッパーMIKE、Wikiと、ビバリーヒルズのプロデューサーThe Alchemistによるコラボ作。

MIKEのディープボイスとWikiのハイトーンボイス、そしてAlchemistのサンプルチョイスが光るミニマルなビートが絡み合う傑作。特に、粘り気のあるWikiのラップはAlchemistのドラムレスビートと相性抜群。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


8. Ken Carson – A Great Chaos

アトランタのラッパーKen Carsonの3枚目のスタジオアルバム。

Playboi Carti『Whole Lotta Red』以降のトレンドを継承したレイジビートに、Ken Carsonのマンブルラップが映える1枚。歪んだ低音が際立つアグレッシブなサウンドながら、繰り返し聴けてしまうキャッチーさも兼ね備えた良作。レイジシーンにおける最高傑作の1つであることは間違いない。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


7. Asake – Work of Art

ナイジェリア・ラゴスのシンガーAsakeの2枚目のスタジオアルバム。

アフロビーツを軸に、アマピアノ的なアプローチをふんだんに取り入れた1枚。全編を通して暴れるログドラムとAsakeの脱力感のあるヴォーカルが、不思議な中毒性を生み出す。英語とヨルバ語を使い分けたライミングも巧みで、ヒップホップ/ラップ的な影響も随所に感じ取れる。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


6. Teezo Touchdown – How Do You Sleep At Night?

テキサスのシンガーTeezo Touchdownのデビューアルバム。

インディロックやパンク、ヒップホップ、R&Bをごちゃ混ぜにしたようなアルバムゆえに統一感はないものの、Teezoの抜群のポップセンスが光る1枚。時折若き日のAndré 3000を思わせる声で、力強く耳に残るメロディを歌い上げる様には、デビュー作とは思えない貫禄さえ感じさせられる。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


5. Sampha – Lahai

UK・ロンドンのシンガーSamphaによる2枚目のスタジオアルバム。

ジャングルやトラップ(ヒップホップ)等の電子的なリズムを刻みながら、生音をふんだんに取り入れたハイブリッドなアプローチを試みる。アンビエントかつ繊細なビートの上で、Samphaの温もりのある歌声が映える、多幸感に溢れた1枚。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


4. Earl Sweatshirt & The Alchemist – VOIR DIRE

ロサンゼルスのラッパーEarl SweatshirtとビバリーヒルズのプロデューサーThe Alchemistによるコラボ作。

ほとんどサンプルのみで構成されたAlchemistのドラムレスビートの上で、Earlの気怠く淡々としたラップが絡み合う1枚。11曲27分とコンパクトながらも、ソウルフルなものから不穏なものまで、全編を通して多様なサンプルチョイスが楽しめる。主役のEarlはもちろんのこと、今作で2曲に参加したVince StaplesのラップもAlchemistのビートと相性抜群。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


3. Daniel Caesar – NEVER ENOUGH

カナダ・トロントのシンガーDaniel Caesarの3枚目のスタジオアルバム。

ミニマルで洗練されたビートの上で、Danielのとろけるような甘い歌声が際立つ説明不要の極上R&B。セクシー且つ、切なさを助長する美しいファルセットは今作でも健在。同郷トロントの注目シンガーMustafaをフィーチャーした『Tronto 2014』 や、ボーナスバージョンでRick Rossの甘々ヴァースが追加された『Valentina』など、聴きどころ満載。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


2. Larry June & The Alchemist – The Great Escape

サンフランシスコのラッパーLarry JuneとビバリーヒルズのプロデューサーThe Alchemistによるコラボ作。

ドラムの鳴りを抑えたAlchemistの渋くミニマルなビートの上で、Larry Juneがレイドバックした低音ラップを聴かせる。ジャケ写通り、サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジをドライブしながら聴きたい1枚。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


1. MIKE – Burning Desire

ニューヨークのラッパーMIKEの6枚目のスタジオアルバム。

ビートは、MIKE自身が別名義dj blackpowerとして大半をセルフプロデュースしている。ソウルやジャズのサンプルを軸としたビートの上で、MIKEの低く淡々としたラップが哀愁を生み出す。全編通してソウルフルながら、時に独特なリズムを刻んだり、歪んだドラムスが鳴り響いたりと、暖かさと荒々しさが共存したビートが至高な1枚。『U think Maybe?』では、ロンドンのサックス奏者Vennaをフィーチャーし、サンプルベースのアルバムに華を添えている。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Honourable Mentions of 2023:

・Navy Blue – Ways of Knowing
・Jay Worthy & Roc Marciano – Nothing Bigger Than The Program
・Lil Yachty – Let’s Start Here.
・billy woods & Kenny Segal – Maps
・Mach-Hommy & Tha God Fahim – Notorious Dump Legends, Vol. 2
・Nicholas Craven & Ransom – Deleted Scenes 2
・Don Toliver – Love Sick
・Young Nudy – Gumbo
・Elmiene – El-Mean
・Bakar – Halo


プレイリスト『Album of the year 2023』: https://music.apple.com/jp/playlist/aoty-2023-xxs-magazine/pl.u-NpXmba7tmgrABjV?l=en


Written by Riku Hirai

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

昨年の年間ベストアルバムはこちら↓

Kendrick Lamar が Summer Sonic 2023 に出演決定

ピュリッツァー賞、数多くのグラミー賞受賞を誇るカリフォルニア州コンプトンのラッパー Kendrick Lamar が、今夏大阪と東京で開催される Summer Sonic 2023 に出演することが発表された。

Kendrick Lamar は、昨日発表された Blur に続き、同フェスの2組目のヘッドライナーに決定した。開催日程は、大阪が8/19(土)、東京が8/20(日)。

https://www.summersonic.com/

XXS Magazine が選ぶ
2022年ベスト・アルバム10選

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


10. Vince Staples – RAMONA PARK BROKE MY HEART

カリフォルニア州ロングビーチのラッパーVince Staplesの5thアルバム。

メロウで温かみのある西海岸サウンドと、Vinceのスムース且つ程よく力の抜けたラップが光る1枚。Vinceは哀愁漂うビートの上で、自身を取り巻く環境やシステムの現状についてスマートに、半ば冷笑的にスピットする。

また、キャリアの中で様々なサウンドにチャレンジしてきたVinceだが、今作はウェストコースト・ラップへの原点回帰作といえるだろう。Mustardとの共演 (#4『MAGIC』#13『BANG THAT』) をはじめに、DJ Quikの名曲『Dollaz + Sense』のサンプリング (#3『DJ QUIK』) や、Suga Freeのネームドロップ (#10『LEMONADE (feat. Ty Dolla $ign』) など、西海岸オマージュが随所に散りばめられた1枚だ。


9. Blxst – Before You Go

カリフォルニア州ロサンゼルスのシンガー/ラッパー/プロデューサーBlxstのデビューアルバム。

哀愁漂うギターサウンドを軸に、Blxstのスムースなヴォーカル&ラップが光る1枚。
自身も一部制作に携わる、2000’sフレーバー漂うビートの上で繰り出される彼の抜群のメロディセンスには毎度唸らされる。

“現代のNate Dogg”との呼び声も高く、今や西海岸シーンを牽引する存在となったBlxst。今年はKendrick LamarやKehlani、Chris Brownらビッグネームとの共演に加え、Burna BoyやFireboy DMLらアフロビーツ勢ともタッグを組むなど、多方面で活躍を見せた。躍進を続ける彼のサウンドは今後どのように進化していくのか。2023年も目が離せない。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


8. Westside Gunn – 10

ニューヨーク州バッファローのラッパーWestside Gunnの『Hitler Wears Hermes』シリーズ最終章。

お決まりのGriseldaメンバーに加え、DJ Drama、A$AP Rocky、Doe Boy、さらにはレジェンド陣を大集結させた超豪華スペシャル丼。

自身の息子FlyGod Jr.が手掛けるトラップチューン #2『FlyGod Jr』や、Busta Rhymes、Raekwon、Ghostface Killahらニューヨークの大御所たちとマイクリレーを交わす #8『Science Class』など、新旧問わずラップファンなら聴きどころ満載の1枚だ。
最後はGriseldaのメンバーが順番にスピットする10分超えのアウトロ曲 #12『Red Death』で幕を降ろすなど、10作続いたシリーズ最終章に相応しい仕上がり。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


7. Mike Shabb – Bokleen World

カナダ・モントリオールのラッパー/プロデューサーMike Shabbの今年2枚目となるアルバム。

Westside Gunn『10』収録の #10『Switches On Everything』のビートを手掛けるなど、プロデューサーとしても定評のある彼がセルフプロデュースを務めた今作では、ソウルフルなものから不穏なものまで、ドラムレスを中心に極上のビートが堪能できる。

Mach-Hommyの影響を感じさせる華のあるフロウを軸に、アーリースウィングさせたトリプレット・フロウ #13『K.D Stats』や、オートチューンを効かせたヴォーカル #18『Ravien (Outro)』も披露する。
2023年、アンダーグラウンドシーンを席巻すること間違いなしの超優良株。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


6. Babyface Ray – MOB

ミシガン州デトロイトのラッパーBabyface Rayの2ndアルバム。

現行ミシガンサウンドからダークなバンガーチューン、メロウなトラップまで、バラエティに富みながらも統一感のあるプロダクションの上で、極限まで力を抜いたレイジーラップがグルーヴを生み出す。耳に残るオフビートなフロウに着目しがちだが、パーソナルなライフスタイルを生き生きと語るストーリーテリングや、随所で魅せる秀逸なワードプレイなど、リリシズムも一級品だ。

同じく今年リリースのアルバム『FACE』とどちらを選ぶか迷ったが、彼が文字通り今年の”顔”であることに違いはない。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


5. Boldy James & Nicholas Craven – Fair Exchange No Robbery

ミシガン州デトロイトのラッパーBoldy Jamesと、カナダ・モントリオールのプロデューサーNicholas Cravenによるタッグアルバム。

2022年最もハードワークだったのはこのラッパー、Boldy Jamesだろう。1年で計4枚もアルバムをリリースした彼だが、中でも一際目立ったのがNicholas Cravenとの本作だ。

サンプリングセンスに物を言わせたCravenのミニマルで温かみのあるビートと、Boldyの冷ややかで淡々としたラップが絶妙なケミストリーを生み出す。
Roc Marciano以降の”ドラムレス期”を代表する作品となること間違いなしの傑作だ。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


4. billy woods – Aethiopes

ニューヨークのラッパーbilly woodsとプロデューサーPreservationによるタッグアルバム。

民族音楽やフリージャズ、レゲエをサンプリングしたPreservationのアブストラクトなプロダクションと、woodsの詩的で思慮深いリリックが混じり合った、他に類を見ない前衛的な1枚。

“古代ヨーロピアンによるアフリカンの呼称”である『Aethiopes』というタイトルや、レンブラントの絵画『2人のアフリカ人』を引用したアートワークからも分かるように、本作はジンバブエにルーツを持つwoodsならではのアフリカに焦点を当てたコンセプトアルバムだ。ゆえに歴史的事象への言及や、小説、映画からの引用も多く、読み解くにはかなりの背景知識を要する本作だが、未聴の方には是非、個人的”記事オブザイヤー”である『アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)』 by 久世さんを参照しながら聴いてみていただきたい。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


3. Benny the Butcher – Tana Talk 4

ニューヨーク州バッファローのラッパーBenny the Butcherの3rdアルバム。

マスターピースとの呼び声高い前作『Tana Talk 3』の続編だけに期待値/ハードルが上がりきっていた今作だが、肉屋は期待を裏切ることはなかった。
ソウルフル、あるいはGriselda十八番のグライミーなブーンバップの上で、Bennyはこれまでの苦悩や成功までの道のりを力強く気合の入ったラップでスピットする。
#10『Guerrero』では、過去作『Tana Talk 3』と『Burden of Proof』収録の全タイトルをリリックに散りばめるなど、遊び心を交えながら巧みなラップを繰り広げる。

フロウ、ケイデンス、ライムスキーム、ワードプレイと、どこをとっても高得点を叩き出すBennyのラップスキルに圧倒される1枚。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


2. Future – NEVER LIKED YOU

ジョージア州アトランタのラッパーFutureの9thアルバム。

彼にとって約2年ぶりのソロ作となる今作では、同郷アトランタのプロデューサーATL Jacobを全面的に起用。プロダクションにおいては、初っ端いきなり初音ミクサンプリングから始まり、ダーク且つハードなトラップビートを軸に、Drakeみ溢れるムーディなR&Bトラックまで、インストだけでも楽しめる作品に仕上がっている。

そんな良質なビートの上で、Futureは多彩なフロウを披露する。惚れ惚れするようなセクシーボイスから放たれる掠れたヴォーカルは、リリックの哀愁を増強し、聴く者の心を震わせる。
彼がBest Rappers Aliveの1人であることを再認識させてくれる、2022年ベストトラップアルバム。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


1. Roc Marciano & The Alchemist – The Elephant Man’s Bones

ニューヨーク・ロングアイランドのラッパー/プロデューサーRoc Marcianoと、カリフォルニア州ビバリーヒルズのプロデューサーThe Alchemistによるタッグアルバム。

シネマティックな雰囲気を醸し出すAlchemistのビートと、Roc Marciの冷たく燻し銀なラップが、今作をアートピースへと昇華させる。

レジェンドAlchemistのジャジーでメランコリックなビートの上で、思わずクスッと笑ってしまうようなユーモアを交えながら淡々とライミングしていくRoc Marci。そんな今作を一言で表現するなら(Roc Marciのマネージャーがそう提唱するように)”Criminal Jazz”と呼ぶのが相応しいかもしれない。次作があるならば是非、役割をスイッチして、Roc MarciのビートでAlchemistにラップしてほしいものだ。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Honourable Mentions of 2022:

・SZA – SOS
・Fly Anakin – FRANK
・JID – The Forever Story
・Giveon – Give Or Take
・Young Nudy – EA Monster
・Freddie Gibbs – $oul $old $eparately
・Rome Streetz – KISS THE RING
・Sauce Walka – Sauce Ghetto Gospel 3
・MIKE – Beware of the Monkey
・Stormzy – This Is What I Mean


プレイリスト『The 100 Best Songs of 2022』: https://music.apple.com/jp/playlist/the-100-best-songs-of-2022/pl.u-8aAVMXluoLMq970?l=en


Written by Riku Hirai

Griselda Records の新星 Stove God Cooks とは

記事の内容を動画でもご紹介しています。

皆さんは、Griseldaを筆頭に盛り上がりを見せるネオ・ブーンバップ/アンダーグラウンドヒップホップシーンをチェックしていますでしょうか。アンダーグラウンドシーンをしっかり追っていなくても、現行シーンをある程度チェックしている方なら、Westside GunnやConway the Machine、Benny the Butcherらの名前は聞いたことがあるかもしれません。

そこで今回は、Griseldaムーブメントの中でも注目度の高いラッパーの1人であるStove God Cooksについてご紹介します。

Stove God Cooksとは

Stove God Cooksは、ニューヨーク中央部に位置する商工業都市、シラキュース出身のラッパーです。今でこそ活躍するラッパーが増えたシラキュースですが、Cooksによると、当時はシーンと呼べるシーンもなく、商業的な成功を収めたラッパーは1人もいなかったそうです。

かなりのヒップホップヘッズだったという兄の影響で、Capone-N-NoreagaやMobb Deepなどを聴いて育ったというCooksは、兄が書いたリリックをさも自分が書いたものかのように学校で披露していたそうですが、次第にそのストックがなくなり、自らリリックを書くようになったそうです。

その後、Puff DaddyやMaseをはじめとするBad Boy Records所属のアーティストの楽曲を好んで聴くようになったという彼は、「単にラップが上手いラッパー」よりも「ヒットを生み出すことができるラッパー」に憧れを抱き、フックのライティングに力を入れ始めます。2007年から2009年頃に地元のスタジオを借りてレコーディングを始めたというCooksですが、当初それらをリリースすることはなく、小さなイベントでDJにプレイしてもらい、身内で盛り上がるだけに過ぎなかったそうです。

しかしその後、Cooksは自身の楽曲をTwitterにアップし始めます。すると、90年代から活動するヒップホップグループBrand NubianのメンバーLord JamarがCooksの楽曲を気に入り、彼をBusta Rhymesに紹介します。Busta Rhymesに才能を認められたCooksは、Busta率いるConglomerate Recordsと契約。その後Cooksは、ある人物との出会いによってキャリアを大きく前進させることになります。

その人物が、現在のネオ・ブーンバップムーブメントを創り出したゴッドファーザー、Roc Marcianoです。

Bustaが、Flipmode Squadのリユニオンアルバムを製作するために元メンバーであるMarciをスタジオに呼び出したことが、CooksとMarciの出会いのきっかけでした。BustaがCooksの楽曲を再生したところ、Marciがそれを気に入り、CooksとMarciは関係を築き始めました。

最初はMarciのドラムレスビートが苦手だったというCooksですが、彼が得意とするメロディックな要素を加えたスタイルでスピットしてみたところ、思いの外ビートにハマり、次第にこのスタイルが好きになっていったそうです。共にスタジオ入りすることは一度もないまま、Marciから送られてくるビートを用いてひたすら楽曲を作ったCooksは、全曲Marciプロデュースによるデビュープロジェクト『Reasonable Drought』をリリースします。

「とりあえず何かしらの作品を世に発表したかったからリリースした」と語るCooksですが、同作は彼の予想をはるかに上回る高い評価を獲得。このアルバムが、Griselda Recordsを率いるバッファローのラッパーWestside Gunnの目にも留まり、CooksはGriseldaムーブメントに接近することになります。

より多くの人にCooks & Marciの『Reasonable Drought』を聴いてほしいと考えたWestside Gunnは、自身のアルバム『Flygod Is an Awesome God 2』収録の3曲でCooksを起用。

Westはそれ以降も、自身の全てのアルバムでCooksをフィーチャーし、2021年10月頃にCooksはGriselda Recordsに正式加入します。

『Hitler Wears Hermes 8: Side B』収録の『Ostertag』では、Cooksは「次のアルバムを7枚限定で、1枚100万ドル (約1億円) で売るかも」とラップ。

I might sell my next shit for a million (For a million)

次のアルバムを100万ドルで売るかもな

Only seven copies and I’m dead for real (I’m so serious)

7枚だけだ 本気だぜ

Westside Gunn – Ostertag (feat. Stove God Cooks)

昨年11月、Cooksは実際に7枚限定、100万ドルのアルバム『If These Kitchen Walls Could Talk』を発売しました。こちらのアルバム、なんと現在も奇跡的に売れ残っているみたいなので、経済的に余裕のある方はぜひ買ってみてはいかがでしょうか。

https://stovegodstore.com/products/stove-god-cooks-if-these-kitchen-walls-could-talk

Cooksは今後、「Roc Marcianoフルプロデュースのアルバム」や「Westside Gunn監修のアルバム」のリリースを控えているそうで、もしそれらが年内にリリースされれば、2022年は彼にとって躍進の1年となるでしょう。

CooksはHOT97のインタビューにて、アンダーグラウンドシーンに留まらず、商業的な成功も目指したいと語っており、「アンダーグラウンド・クラシックを作りながら、RihannaやDrakeなどメインストリームアーティストのソングライティングをすること」を将来的な目標として掲げているそうです。

終わりに

いかがだったでしょうか。今回は、アンダーグラウンドシーンの注目株、Stove God Cooksについてご紹介しました。

Roc Marcianoとの『Reasonable Drought』をきっかけにネオブーンバップウェーブに乗り、Griselda Recordsとの契約を勝ち取った期待の新星Stove God Cooksから今後ますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai


Playlist “Stove God Cooks”

【Apple Music】

https://music.apple.com/jp/playlist/stove-god-cooks/pl.u-gxblq5RT50A7vEa?l=en

【Spotify】

https://open.spotify.com/playlist/2DXLbNgx83Q8Mr9vwxuijY?si=MwhRCQjqQVahVotMg7nElw

Drakeも認めたポートランドの新星ラッパーYeatとは

※記事の内容を動画でもご紹介しています。

昨年突如としてシーンに現れた、今1番ホットなラッパーと言えば誰が思い浮かぶでしょうか。その1人として挙げられるのが、DrakeやLil Yachtyらに実力を認められ、現在人気急上昇中のラッパーYeatでしょう。

今回は、彼Yeatの生い立ちやキャリアについてご紹介します。

Yeatの生い立ち

YeatことNoah Oliver Smithは2000年2月26日、メキシコ人の父とルーマニア人の母のもと、カリフォルニア州アーバインにて生を受けます。

10代半ばにオレゴン州ポートランドに移住した彼は、Lakeridge High Schoolに進学。バスケットボールやサッカーをしていたこともあったそうですが、それらに熱中することは特になく、次第に大麻やドラッグにハマっていったそうです。ドラッグに明け暮れる日々を過ごしたYeatは、自身の怠惰な生活を見つめ直し、音楽活動を開始します。

Yeatのキャリア

Lil Yeatというステージネームで活動を始めた彼は、2015年に楽曲をリリースし始めます。

「シンプルで、誰もが聞き覚えのあるような名前にしたかった」と語る彼は、Lilを取り除き、「Yeat」というステージネームに変更します。

Yeatは2018年に1st EP『Deep Blue Strips』をリリースします。

オートチューンを用いてメロディアスに歌うフロウを得意とするYeatは、T-PainやKanye West、Young Thug、Futureらから影響を受けたそうで、特に幼い頃から母親の影響で聴いていたT-Painのスタイルが、現在の彼の音楽性に多大な影響を与えているそうです。

1st EPのリリース後、ユニークなサウンドで注目を集めたYeatは、Wheezyや10Fiftyら著名プロデューサーを迎えたミックステープ『I’m So Me』を含む3枚のプロジェクトをリリースします。

2020年には『We Us』と『Hold Ön』の2枚のEPをリリースするなど、継続的なリリースを続けてきたYeatは、2021年に突如としてブレイクを果たします。

2021年にリリースしたミックステープ『4L』収録の楽曲『Sorry Bout That』がTikTokを中心にバイラルヒット。

その後、未リリース楽曲『Gët Busy』のスニペットがソーシャルメディア上で注目を集めることとなります。

大手レーベルInterscope RecordsとサインしたYeatは、待望のデビューアルバム『Up 2 Më』をリリースします。

先程ご紹介した楽曲『Gët Busy』は、DrakeがInstagramストーリーズで引用したことで更なる話題を呼び、Yeatにとって過去最大のヒットソングとなりました。

This song already was turnt, but here’s a bell

この曲は既に盛り上がっているけど、ここから更にベルが鳴るぜ

(実際に次の小節からベルが加わります)

Yeat – Gët Busy

同曲にこのようなラインがあるように、Yeatはエレクトリックなレイジサウンドに、ベルをアクセントとして付け足したビートを頻繁に用いており、自身のトレードマークとして提示しています。

今年2021年には、セカンドアルバム『2 Alivë』のリリースも控えているそうで、今後更なる活躍が見込まれるYeatから目が離せなくなりそうです。

Riku Hirai

XXS Magazine が選ぶ 2021年ベスト・アルバム10選

記事の内容を動画でもご紹介しています。

Mach-Hommy – Pray For Haiti

ニュージャージー州ニューアークのラッパー Mach-Hommy の Griselda 復帰作。

Mach-Hommy はハイチ系のラッパーで、英語にハイチ・クレオール (ハイチ語) を織り交ぜて、野太く低い声でスピットするスタイルを得意とする。ビーフ関係を解消した Westside Gunn がエグゼクティブ・プロデュースを務めた今作では、ソウルフルでメロウなビートと、ハイチにルーツを持つ Mach-Hommy ならではの独特なフロウやシンギングが堪能できる。自身のリリックを著作権登録していることから、Genius 等で確認することは出来ないが、詩的なラインや高度なライムスキームにも引き込まれる1枚。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Baby Keem – The Melodic Blue

ネバダ州ラスベガスのラッパー Baby Keem のデビュー・アルバム。

プロデューサーとしても評価が高い Baby Keem 自身がプロダクションを担当した今作は、アルバムを通して洗練された新たなトラップのスタイルを提示しながら、Kanye Westの『808s & Heartbreak』の影響を感じさせる、どこか懐かしいサウンドも聴かせるなど、まさにメロディックでカラフルなアルバムに仕上がっている。思わず口ずさみたくなるキャッチーなリリックや、オートチューンを効かせたコーラス、耳に残るユニークなフロウなど、Baby Keem の魅力が最大限に発揮された1枚。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Joyce Wrice – Overgrown

カリフォルニア州サンディエゴのシンガー Joyce Wrice のデビューアルバム。

90年代後半~2000年代初期の R&B を彷彿とさせるサウンドと Joyce Wrice の美しく伸びのある歌声が魅力的な1枚。Joyce Wrice と同じく日本にルーツを持つシンガー UMI が参加した『That’s On You (Japanese Remix)』では、英語話者ならではの日本語リリックを聴くことができる。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


DJ Muggs & Rome Streetz – Death & the Magician

カリフォルニア州ロサンゼルスのプロデューサー DJ Muggs と、ニューヨーク・ブルックリンのラッパー Rome Streetz によるジョイントアルバム。

DJ Muggs の十八番であるダークでグライミーなビートの上で、Rome Streetz がフロウ、ライムスキーム、ワードプレイにおいて申し分のない完璧なラップを披露する。ノンストップでパンチラインを繰り出しながら、いとも簡単にライムし続ける Rome Streetz の活躍ぶりは、レジェンド DJ Muggs のプロダクションあってのものだろう。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Westside Gunn – Hitler Wears Hermes 8 (Side A/B)

ニューヨーク州バッファローのラッパー Westside Gunn によるミックステープシリーズ『Hitler Wears Hermes』の8作目。

Westside Gunn らしいソウルフル且つドープなビートチョイスはさることながら、お得意の高音ラップや時折見せるヘタウマなコーラスのスキルにも (彼は本来スキルで勝負しているわけではないが) 磨きがかかっているように聴こえる。しかし今作のポイントは彼自身のラップうんぬんより、むしろ彼 West のキュレーターとしての能力の高さにある。Side A、B 合わせて計30人以上のアーティストをフィーチャーし、1つのアルバムとして纏め上げるさまは、ラップができ、ビートチョイスのセンスがあるアンダーグラウンド版 DJ Khaled である。

(Written by Riku Hirai)


ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Rod Wave – SoulFly (Deluxe)

フロリダのラッパー Rod Wave の3枚目のスタジオアルバム。

歌唱力の高さはいつものことながら、今作からはその高い歌唱力にゴスペル風バックコーラスや美しい楽器の音色を効果的に絡めている。口ずさみたくなるメロディの間に配置された、少々荒削りなラップも必聴。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Young Thug – Punk

ジョージア州アトランタのラッパー Young Thug による2枚目のソロスタジオアルバム。

ギターメインなどの落ち着いたビートを多用しており、耳に優しい作品。トラップの第一線で戦ってきた Young Thug がドラムレスのビートにラップする姿は、時代の転換を目の当たりにしているような気分にさせてくれる。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Shordie Shordie & Murda Beatz – Memory Lane

メリーランド州ボルチモアのラッパー Shordie Shordie と カナダ・フォートエリーのプロデューサー Murda Beatz によるコラボテープ。

ネチネチとした Shordie Shordie のラップが癖になる作品。某人気曲のメロディを丸々サンプリングした曲や、ネット上で自らの総資産が低く予想されていることに対するアンサーソングなど、作曲時の目の付け所が面白いところもポイント。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Lil Yachty – Michigan Boy Boat

ジョージア州アトランタのラッパー Lil Yachty が、ミシガンの現行ローカルシーンを盛り上げているラッパーたちと共に制作したミックステープ。

旧友である Tee Grizzley はもちろん、Rio Da Yung Og や YN Jay、Icewear Vezzo らをはじめとするアップカミングなラッパーたちも多数参加しており、最後まで面白い作品。Lil Yachty の限界ささやきラップも必聴。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ


Kota the Friend & Statik Selektah – To Kill A Sunrise

ミューヨーク州ブルックリンのラッパー Kota the Friend と、マサチューセッツ州ローレンスのプロデユーサー Statik Selektah のコラボテープ。

夕暮れ時に聴きたいゆったりとしたビートを中心に構成されており、Kota the Friend のテンションを上げすぎないラップとマッチしている。ピアノやトランペットのメロディとスクラッチなどのアクセントの塩梅がいい具合で、老若男女におすすめできる一枚。

(Written by Kosuke Satomi)


今回ご紹介したベストアルバムの中でも、特におすすめの楽曲を集めたプレイリストをご用意しておりますので、合わせてお楽しみください。

【Apple Music】

https://music.apple.com/jp/playlist/the-best-albums-of-2021/pl.u-jV89DkDTd1A86o2?l=en

【Spotify】

https://open.spotify.com/playlist/0XM5CGEKGDXHUBcRTokQRa?si=22f7cb221c95451b


今年も1年ありがとうございました。来年も XXS Magazine をどうぞよろしくお願い致します。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

NIGO がアルバム『I Know NIGO』をアナウンス

A Bathing Ape のファウンダーであり、ヒップホップの世界でもかなりの影響力を持つ日本人デザイナー NIGO が、自身が監修したアルバムのリリースを控えていることをアナウンスした。

今年の上旬に Victor Victor Worldwide とサインしたことを明かした NIGO は、今回が同レーベルから初のリリース作品となる。

タイトルは『I Know NIGO』とされており、Kid Cudi や Pharrell、A$AP Rocky、Lil Uzi Vert、Pusha T、FAMLAY、Teriyaki Boyz、Tyler, The Creator の参加が確定している。

Pi’erre Bourne が『The Life of Pi’erre 5』のトラックリストを発表

ニューヨーク州クイーンズのプロデューサー/ラッパー Pi’erre Bourne が、ニュープロジェクト『The Life of Pi’erre 5』のリリースをアナウンスし、そのトラックリストを公開した。

2016年から1年ごとにリリースしている『The Life of Pi’erre』シリーズだが、今作ではシリーズ初となる Lil Uzi Vert や Playboi Carti などのゲスト参加が明かされた。

Pi’erre Bourne についての詳しい記事はこちら。

Yo Pi’erre! You Wanna Come Out of Here?

Lil Baby と Lil Durk がコラボアルバム『The Voice of the Heroes』のトラックリストを公開

Lil Baby と Lil Durk が、今週4日金曜日にリリース予定のコラボアルバム『The Voice of the Heroes』のトラックリストを公開した。

同アルバムには18曲が収録され、Travis Scott や Meek Mill、Young Thug、Rod Wave らが参加予定である。先行シングル『The Voice of the Heroes』は以下から視聴できる。