Mulatto – 次世代のラップシーンを担うサウスの女王

2020年8月12日に発表された XXL FRESHMAN CLASS 2020 にも選出され、本日待望のデビューアルバムをリリースしたばかりであるラッパーの Mulatto。今回はそんな彼女の生い立ちやキャリア、魅力について迫ります。

生い立ち

Mulatto こと Alyssa Michelle Stephens は、1998年12月22日にオハイオ州のコロンバスで産声を上げました。2歳の頃に家族とともにジョージア州のアトランタに移住し、それ以降はアトランタにて幼少期を過ごします。

10歳の頃にヒップホップに興味を持ち、リリックを書き始めた彼女は、厳しいながらも彼女の夢に協力的な両親の愛情を受けて育ちました。かなり早い段階からラッパーになることを目指し始めた彼女は、同世代の友人たちとは全く違うライフスタイルを送り、時には孤独感すら感じることもあったと語っています。

I didn’t end up going to prom and playing sports and stuff because I’ve been rapping since I was ten.

10歳の頃からラップをし続けているから、ダンスパーティーに行くことも、スポーツに打ち込むこともなかった。

Genius

ラップに夢中だった彼女はアトランタに位置する高校である Lovejoy Highschool に入学しますが、音楽活動に専念するために間もなく中退。そこから彼女の本格的なキャリアが開始することとなります。

キャリアの開始とミックステープ

本格的に音楽活動に専念するにあたって、Miss Mulatto というステージネームにてキャリアを開始します。黒人の父親と白人の母親を持つ彼女は「混血児」を意味するスペイン語の言葉「Mulatto」をステージネームとして起用しました。(「Mulatto」は男性名詞であるため、 未婚女性に対する敬称として使用される「Miss」を前に置いています。)

Mulatto は、2016年にアメリカで放送されていたヒップホップのオーディション番組である The Rap Game の第1期に Miss Mulatto 名義の元で参加します。数々の参加者の中で一際高いスキルを披露した彼女は、当番組の第1期における最優秀者としてめでたく優勝を飾りました。

The Rap Game での彼女の活躍をまとめた総集編

その後、番組の主催者の一人である Jermaine Dupri に彼のレコードレーベルである So So Def Recoreds との契約を持ちかけられますが、契約内容に不満を抱いた彼女は契約を辞退し、独立の道を選びました。

Mulatto と Jermaine Dupri

ラッパーにとって夢に近づくための第一歩となるケースも多い、レコードレーベルとの契約のチャンスを逃した彼女でしたが、番組の視聴者を中心に獲得した知名度をもとに、徐々にファンベースを大きくしていきます。

レコードレーベルとの契約を交わさないまま、彼女は独立して活動を継続していきます。2016年には初のシングル『No More Talking』を、そしてすぐ後に同じく The Rap Game の一期生として活躍した戦友である Lil Niqo とコラボシングルをリリースします。

番組出演時代から築き上げてきたファンベースのおかげもあり、2016年には Georgia Music Awards にて若手ヒップホップ・R&B 部門を受賞し、勢いに乗った Mulatto はファーストミックステープ『Miss Mulatto』のリリースを果たします。

ファーストミックステープ『Miss Mulatto』

その後も、彼女と同い年のデトロイトの女性ラッパー Molly Brazy や、『Watch Me (Whip/Nae Nae)』のメガヒットで有名な Silentó らが参加したセカンドミックステープ『Latto Let ‘Em Know』や Coca Vango や LightSkinKeisha らが参加したサードミックステープ『Mulatto』を一年ごとにリリースします。

サードミックステープ『Mulatto』をリリースしたタイミングで、ステージネームを Miss Mulatto から Mulatto に変更します。変更前後でセルフタイトルプロジェクトが二つ存在することになります。

『Latto Let ‘Em Know』と『Mulatto』

『Bitch from da Souf』 の大ヒット

コンスタントにミックステープをリリースし続けた Mulatto は、2019年の1月にシングル『Bitch from da Souf』をリリースし、同曲が多くのリスナーたちの注目を集めます。『Bitch from da Souf』は、カリフォルニアのベイエリアを拠点とするプロデューサーコレクティブである Bankroll Got It によるプロデュースで、彼女によると『サウス育ちの一人の女性としての、単なる自己紹介のようなもの』だそうです。

『Bitch from da Souf』は Billboard Bubbling Under Hot 100 にて5位という好セールスを叩き出し、彼女は後にカリフォルニアの Saweetie とフロリダの Trina をゲストに招いた同曲のリミックスを発表します。Mulatto にとって Trina は女性ラッパーのレジェンドだそうで、彼女との共演はラップを始めた十年前からの夢だったと明かしています。

彼女のリリースする楽曲には、サウス出身の女性ラッパーとしての誇りや自信をラップしたものが多いですが、ヒップホップの世界において、女性であること自体がハンディキャップとなった経験があることも明かしています。ニューヨークを拠点とした総合誌 PAPER のインタビューにて、女性ラッパーとして成功することの難しさについてこのように語りました。

女性ってだけで、リリックを自分で書いてないと疑われて、偽物扱いされたこともある。ラップを始める前から詩を書いてコンテストに優勝したこともあるのに。

PAPER

正直今の女性ラッパーたちは、お互いの足を引きずり合ってる。争い合っている私たちより、団結した私たちの方が強いことに未だに気付いていない。

PAPER

私は信念を持って十年以上ラップと向き合ってきた。「ディックについてラップして、もっとセクシーになろう。」みたいな軽いノリでやってるわけじゃない。

PAPER

XXL FRESHMAN CLASS への選出

『Bitch from da Souf』の大ヒットを皮切りに勢いに乗った彼女は、2020年8月12日にアメリカのヒップホップ雑誌である XXL が主催する、その年の注目ラッパーを決定する企画「XXL FRESHMAN CLASS 」に選出されます。

XXL の YouTube チャンネルに投稿された、選出者たちがヘイターたちのコメントを自ら読む企画で、彼女はこのようなヘイターのコメントに強気なコメントを返しました。

選出者の中に女性のメンツが必要だっただけで、あんたである必要はなかった。

Mulatto – 私たちフィメールは、今やヒップホップの大部分を動かしてる。もし私じゃなかったとしても、私の仲間たちが選ばれてただろうし。それでも私が選ばれたのは事実。つべこべ言っても無駄よ。

2020 XXL Freshmen Read Mean Comments
該当部分は 4:48〜

そんな彼女は、FRESHMAN CLASS に選出された翌日にデビューアルバムのリリースをアナウンスしました。タイトルは『Queen of Da Souf』で、アナウンス当時は先行シングル以外の参加ゲストが絵文字に置き換えられてシークレットとなっていましたが、City Girls と 21 Savage、42 Dugg がゲストとして参加しました。

デビューアルバム『Queen of Da Souf』のアルバムカバーとアナウンス時のトラックリスト

様々なアーティストとの共演

Muwop (feat. Gucci Mane)

Mulatto と同じジョージア州アトランタ出身でトラップミュージックの重鎮でもある Gucci Mane をゲストに招いた楽曲です。デビューアルバムにも収録されており、先行シングルとしてリリースされました。

Gucci Mane といえば、自身のレーベル 1017 Records / 1017 Eskimo を有しており、Asian Doll や Yung Mal、HoodRich Pablo Juan をはじめとする才能のある若手ラッパーと数々の契約を結んでいることで有名ですが、それに関係した面白いラップを披露しています。

Tried to sign Mulatto, but she was signed already 

Mulatto と契約しようとしたけど、彼女はすでに契約をもっていた

キャリアについての章で、彼女が So So Def Records との契約を辞退したことには触れましたが、2020年の3月に RCA Records との契約を果たしています。誰もが羨む彼女の輝く才能ですが、Gucci Mane がそれに気づくのは少し遅かったようです。

JayDaYoungan – Touch Your Toes (feat. Mulatto)

ルイジアナのラッパー JayDaYoungan との楽曲です。Lil Wop の 『Soul Snatcher』や Chinese Kitty の『Stories of a Ghetto Kitty』などで聞き覚えのある木の床が軋むようなサウンドをベースにしたアップテンポな楽曲です。頼りない声でラップする JayDaYoungan に対して、たくましくラップする Mulatto にも注目です。

Duke Deuce – Kirk (feat. Mulatto)

テネシー州メンフィスのラッパー Duke Deuce との楽曲です。フックで延々と繰り返されるループアドリブや、Duke Deuce お馴染みのシャウトなどが盛り沢山のメンフィスらしい楽曲です。アドリブなどを含め癖の強い Duke Deuce ですが、Mulatto もそれに負けないほど堂々としたラップを披露しています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は、XXL FRESHMAN CLASS 2020 にも選出されたアトランタのラッパー Mulatto についてまとめてみました。FLESHMAN の目玉企画であるサイファーや、今回リリースされたデビューアルバムで注目度がさらに高まることは間違いなしです。

Written by whoiskosuke