Jackboy – 愛とギャングの交錯を歌う新鋭ラッパー

先日、最新アルバム『Love Me While I’m Here』をリリースし、大きな話題となっているフロリダ州ポンパノビーチのラッパー Jackboy。2020年に突入してからも、セルフタイトルアルバム『Jackboy』や『Living in History』、そして先日リリースされた『Love Me While I’m Here』の3作品をリリースし、精力的に活動を続けています。今回はそんな彼の生い立ちやキャリアに触れながら、2つの視点から彼の魅力に迫ります。

生い立ちとキャリアの開始

Jackboy こと Pierre Delince は1997年の8月27日にハイチ共和国にて産声を上げました。6歳になるまでの幼少期をハイチ共和国で過ごしたのちに、家族と共にフロリダ州のノースラウダーデールに移り住みます。まもなくして、現在もなお拠点として活動しているフロリダ州のポンパノビーチに再び移住します。

ハイチ共和国で過ごしたのはたったの6年間ということで、当時の記憶はほとんど無いと話す彼ですが、「ハイチ共和国にルーツを持つことを誇りに思っている」とも公言しており、今年の5月18日にはハイチ共和国の国旗制定記念日に合わせてシングル『Spittin’ Fact』もリリースしています。

Jackboy が音楽活動を開始したのは 2016年。音楽を始めたきっかけとして「金が必要だったから」と明かす彼は、ここ数ヶ月で自らのラップが評価され、ある程度の金額を稼ぐことに成功するまで「音楽を好きでやっていたわけじゃない」と語っています。

Kodak Black との出会い

Jackboy のラップスタイルは声質やフロウの類似点から、しばしば Kodak Black と比較されます。実際のところ、Jackboy は Kodak Black が率いるレコードレーベル Sniper Gang に所属しており、デビューミックステープのリリース時から共演を重ねているほど、彼らの友好関係には深いものがあります。

1997年生まれであることやフロリダ州ポンパノボーチで育ったこと、そしてハイチ共和国にルーツを持つことなど、Jackboy と Kodak Black には様々な共通点があり、それらの共通点が彼らを巡りあわせたとも言えるでしょう。(Kodak Black の出身はフロリダ州ポンパノビーチですが、両親がハイチ共和国からの移民です。)

近年の活躍と彼の魅力

冒頭では、2つの視点から彼の魅力に迫ると始めさせていただきましたが、その1つ目は「身の回りに起こることをありのままに綴ったリリック」です。まずは最新アルバム『Living in History』に収録され話題となった楽曲『In My City』をお聞きください。

Boy you gotta keep a gun ’cause this shit get hella scary
この街はかなり危険だから、銃を携帯すべきだ

My dog just got up outta jail now he in a cemetery
刑務所から出てきたと思ったら、もう墓の中にいる奴もいる

This real rap no cap this ain’t my imaginary
これは俺の妄想なんかじゃなくリアルなラップだ

Every n***a in my city fuckin’ legendary
俺の街にいる仲間はみんな伝説だ

Every n***a in my city tote a choppa
俺の街にいる仲間はみんなチョッパー (※1)を携帯している

(※1) Choppa とは、自動小銃 AK-47 を意味するスラング

本楽曲で語られている内容が全てノンフィクションであることを強調しながら、ストーリーテリングのような構成で展開されているこちらの楽曲は、先行シングルとしてリリースされた時点から話題に火がつき、現在では YouTube で500万回再生を越えるヒット曲となっています。

続いても最新アルバムに収録されている『Lost Ties』 をお聴きください。

Niggas started to hate when I started to shine
俺が輝き出した途端、あいつらは俺を嫌いだした

Lost ties with a couple of niggas that I loved the most
最も愛した仲間との友情もいくつか失ったよ

If I knew you finna do me dirty, I wouldn’t of let you close
お前らがあんなに汚い真似をするような奴らだと分かってたら、初めから俺に近づくのを許してなかっただろうにな

ラッパーとして成功をおさめ富と名声を手に入れ始めた彼ならではの、人間関係の複雑さをラップした一曲です。このパターンの楽曲では、裏切り行為を働いた元友人を非難するばかりのリリックになることが多いですが、Jackboy の場合は途中から急変した仲間の態度に悲しむスタンスでリリックが書かれており、どこか哀愁が漂う作品となっています。

Rod Wave などの歌モノを取り扱うラッパーたちとの共演でも有名なトラックメーカー TnTXD らによるピアノベースのトラックがフロリダらしくて良い味を出しています。

そして、彼の魅力に迫るために忘れてはならない視点の2つ目は「スムーズなメロディとロマンチックなリリック」です。

一つ目の魅力でもご紹介した通り Jackboy が育った街は決して安全とは言えず、ラップの内容も平和なものとは言えない物が多いのが事実です。しかし、彼はギャングスタのストリート事情をそのままラップする傍ら、同一人物が制作したとのとは思えないほどロマンチックなラブソングもリリースし続けています。

彼のデビューアルバム『Lost In My Head』では、ラブソングを中心に音楽活動を行う巷のポップアーティストも顔負けなロマンチストぶりを顕著に感じることができるアルバムとなっています。まずはこちらの楽曲をお聴きください。Jackboy のデビューアルバム『Lost In My Head』収録の『Would You Leave』と言う楽曲です。

If  I go broke right now
もし俺が今すぐ貧乏になっても

Would  you still be around?
それでも俺のそばにいてくれる?

If I go to jail right now
もし俺が今すぐ刑務所に行っても

Baby girl, hold me down
俺のことを愛し続けてくれよ

Or  would you leave me?
それとも君は離れていっちゃうの?

Baby,  don’t leave me
お願いだからずっとそばにいてよ

恋人からの愛情を確かめるような質問形式のフックが特徴的な可愛らしい一曲です。1分39秒とかなり短めの楽曲ですが、伝えるべきことだけを短時間にまとめたミニマルでシンプルを突き詰めたものだと言えます。Jetsonmade によるフワフワとしつつも、重い808のアクセントが効いたトラックも楽曲の雰囲気とマッチしています。

つづいても『Lost In My Head』より『Live and Learn』と言う楽曲。

Man, it took all of this time just to finally realize, oh, how much I need you
俺が君をどれだけ必要としているかを気づくまでに、かなりの時間がかかってしまった

Lately I been out of mind, so now I’m taking my time tryna find new ways to please you
君をどうやって喜ばせられるかを考えているから、ここ最近俺はずっと上の空だよ

Fuck all that money I make, I would give it away just to be with you
今までに稼いだ金なんて、君と一緒に居るためなら捨てられる

恋人からの愛を確かめる内容の先程の楽曲とは対照的に、自分がどれだけ恋人を愛しているかをラップしたものです。こちらも Jetsonmade によるトラックで、重くなりがちな内容のラップを軽快なテンポで楽しむことができます。

最後に最新アルバム『Living in History』収録の『Hard to Forget Ya』をご紹介します。

And baby, I don’t wanna see you with another fella
君が他の男といるところなんて見たくないよ

‘Cause if I do, I’ma wish that I never met ya
君と出会いさえしなければって願うほどにね

‘Cause the love you give gon’ be hard to forget ya
君がくれた愛のせいで、君のことを忘れられないよ

恋人に別れを告げられてしまった後、取り返しのつかない現状に後悔をする内容の失恋ソングです。ドラムス無しのアコースティックなトラックや、感情のこもった掛け合いフックに注目です。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はストリートのリアルな現状をラップするとともに、暖かいラブソングをも歌い上げてしまうフロリダのラッパー Jackboy についてご紹介してきました。「ここ数ヶ月でやっと音楽が好きになってきた」と語る Jackboy のさらなる躍進に期待が高まるばかりです。

Written by whoiskosuke

Pluto と Baby Pluto の軌跡

待望のコラボテープ『Pluto x Baby Pluto』をリリースしたばかりの Future と Lil Uzi Vert。今回は新作がリリースされた記念に、これまでの彼らの共演について振り返ってみましょう。

そもそも「Pluto」とは?

アルバムタイトルにも起用されている「Pluto」というワード。「Pluto」は、単刀直入にいうならば Future が自身のデビューミックステープ『Pluto』から発案したニックネームです。Future は Pluto を自身のオルターエゴ的存在に位置付けており「Pluto はよりクリエイティブなモードに入った時の俺だ」と語っています。

Future のデビューアルバム『Pluto』

一方「Baby Pluto」はというと、 Lil Uzi Vert が Future に倣って自らにつけたニックネームです。『Eternal Atake』のリリース直前に突如 Twitter にて新たなニックネームを発表し、現在はハンドルネームでも Baby Pluto を使用しています。

Lil Uzi Vert の Twitter プロフィール

Future のヘアスタイルがブロンドであったこと (Pluto が意味する冥王星が金色である) から Pluto というニックネームを考案したという逸話をもとに、 Lil Uzi Vert も自身のヘアカラーをブロンドに変更後、Baby Pluto を名乗り始める徹底ぶりでした。

ちなみに Lil Uzi Vert はそれ以前にもオレンジ色に髪の毛を染めた際、「Orenji (オレンジ) か Renji (レンジ) 、これが俺の新しいニックネームだ。」というツイートをしており、ヘアカラーによってニックネームを変更することに魅力を感じているようです。

https://twitter.com/LILUZIVERT/status/1225449327402811393?s=20

数々の共演作

DJ ESCO – Too Much Sauce (feat. Future & Lil Uzi Vert)

Future と Lil Uzi Vert は、ジョージア州アトランタのレコードプロデューサー DJ ESCO の名義下でリリースされた楽曲『Too Much Sauce』にて初共演を果たしました。

Zaytoven の十八番である美しいピアノベースのトラックに、ゆったりとしたラップを載せる Future と Lil Uzi Vert の掛け合いが話題となり、初共演にして大ヒットを記録しました。リリースから4年以上が経過した現在でも古臭さを感じさせない二人の共演作ですが、初期に多用していた Lil Uzi Vert の詰め込みラップ(いわゆる Old Uzi)が所々にみられます。

Lil Uzi Vert – Seven Million (feat. Future)

『Too Much Sauce』での初共演後、約一ヶ月後にリリースされた Lil Uzi Vert のミックステープ『The Perfect LUV Tape』に収録された『Seven Million』で彼らは二回目の共演を果たします。

 XL Eagle と Don Cannon、 Nard & B のシンプルなトラックに両者が交互にラップをするスタイルの楽曲です。中盤からの Lil Uzi Vert のバースでは、アドリブを多用した慌ただしいラップが見所です。

Lil Uzi Vert – Wassup (feat. Future)

『Seven Million』での共演から4年ほどの歳月が経ち、ファンたちが待ち望んだ Future と Lil Uzi Vert のコンビが復活します。久方ぶりの共演は、 Lil Uzi Vert の待望のアルバム『Eternal Atake』のリリース後、14曲の新曲を追加してわずか一週間のスパンでリリースされたデラックスバージョン『Eternal Atake (Deluxe) – LUV vs. The World 2』においてでした。

『Wassup』では、Pi’erre Bourne の SF系トラックが使用されており、両者ともに歌もの寄りのスムースなフロウを披露しています。今回リリースされた『Pluto x Baby Pluto』のトレーラーでは、Future による「俺たちはここではない別の星に行かなければならない。俺たちの世界にな。」という発言が見られましたが、彼らの地球以外への星をテーマにした世界観は、こちらの楽曲からもその鱗片が窺えます。

Everybody know I am from outer space (Yeah)
みんな俺が宇宙からやってきたと知っているだろ

So you know that aliens be sendin’ me (Woah)
宇宙人が俺を地球に送り込んだということも知っているだろ

Future – All Bad (feat. Lil Uzi Vert)

『Wassup』にて再会を果たした Future と Lil Uzi Vert は、その二ヶ月後にも Future のアルバム『High Off Life』に収録された楽曲『All Bad』にて共演を重ねます。

『Eternal Atake』にて数々の名曲をプロデュースしたコレクティブ Working on Dying 所属の新鋭プロデューサー Brandon Finessin と、数々のビッグネームに新しい音色のトラックを提供し続けるコレクティブ Hyperpop 所属の Outtatown による、いわゆるハイパーポップビートに乗せて、今までの彼らの共演作には見られない雰囲気のラップを披露しました。

初共演から4年の歳月を重ねている二人ですが、意外にも Future 名義のコラボ作品はこれが初めてです。

Future & Lil Uzi Vert – Patek / Over Your Head

最後の共演から五ヶ月の沈黙を経て、ついに二人のコラボテープの存在が明かされました。両者のインスタグラムで同日にトレーラーが公開され、ファンの間ではコラボテープのサプライズリリースが噂されましたが、『Patek』と『Over Your Head』のシングル二曲のみのリリースでした。

『Patek』は先ほどご紹介した hyperpop より Starboy と Brandon Finessin のプロデュース。彼ららしくない落ち着いたトラックに、ワンバースごとで交互にラップする構成の楽曲です。

10月時点でリリースされたシングルのもう一方『Over Your Head』では、Drake と Future の『Life is Good』をプロデュースしたことで一躍有名となった D. Hill によるトラックに、『All Bad』を彷彿とさせる雰囲気の明るいラップをのせたポジティブな楽曲です。

『Pluto x Baby Pluto』のリリース

シングル二曲のみのリリースで彼らのコラボテープは存在しないと噂されていた矢先、2020年の11月12日にまたもや Future と Lil Uzi Vert は同じタイミングに新たなトレーラーをインスタグラムで公開します。

トレーラーの最後にはコラボテープのタイトルである『Pluto x Baby Pluto』とリリース日と思われる日程が映し出され、アルバムを諦めていたファンたちはまたもや盛り上がりを見せ始めました。

そして、トレーラーが公開された翌日である2020年の11月13日には、無事彼らの初のコラボテープ『Pluto x Baby Pluto』がリリースされました。彼らの初共演を仲介した存在とも言える DJ ESCO によるエグゼクティブプロデュースで、16曲入りのアルバムとなりました。

『Pluto x Baby Pluto』のカバーアート

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は『Pluto x Baby Pluto』のリリースを記念して、彼らのこれまでの共演を時系列順にまとめてみました。(A$AP Ferg による『New Level』でも共演していますが、二人のみの共演作ではないので今回は除外しています。)これを機に彼らのこれまでの共演作も楽しんでみるのはいかがでしょうか。

Written by whoiskosuke

アメリカ大統領選挙とラッパーたち

米時間11月3日に開票が予定されているアメリカ大統領選挙。世界中が注目する同選挙の開票に合わせて、Donald Trump 氏と Joe Biden 氏の2人の候補者に対するアメリカのラッパーたちの動向をチェックしておきましょう。

Joe Biden 支持

Snoop Dogg

I ain’t never voted a day in my life,

俺は人生で1度も投票に行ったことがないんだ (犯罪歴が理由で選挙権がなかったとのこと)

but this year I think I’m going to get out and vote

でも今年は行くつもりだ

because I can’t stand to see this punk in office one more year

これ以上ホワイトハウスのクソ野郎に耐えられないからね

Eminem

Eminem は Biden 氏の選挙コマーシャルに自身のヒット曲『Lose Yourself』を提供。

2 Chainz

I think this next administration that I support, which is Biden/Harris,

俺は Biden と副大統領候補 Kamala Harris を支持するよ

they offer something different.

彼らは Trump とは違う政策を行うはずだ

Cardi B

I have a whole list of things that I want our next president to do for us.

私は次期大統領にしてほしいことのリストを持っている

But first, I just want Trump out,

でもまずは Trump を追い出さなきゃいけない

Kid Cudi

Vote for Biden if you a real one

もしお前がリアルなら、Biden に投票しろ

Offset

Go vote @joebiden …..@common & I performed his rally in Atlanta.

Biden に投票してくれ

Common と共に、アトランタで開催された彼の選挙集会でパフォーマンスをした

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Go vote @joebiden ….. @common & I performed his rally in Atlanta

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Common

To be honest, Joe Biden made mistakes like any other human being,

正直に言うと、Biden は過ちを犯してしまったんだ

But I still believe he cares and we’ve all made bad decisions.

でも俺たちだって間違った決断をすることはあるし、今でも彼を信じている

He has the leadership qualities to get in a better direction.

彼はこの国を良い方向に導けるリーダーシップを持っている

PEOPLE

Donald Trump 支持

Lil Wayne

Just had a great meeting with @realdonaldtrump @potus besides what he’s done so far with criminal reform,

トランプ大統領と面会し、彼が成し遂げてきたことについて話し合った

the platinum plan is going to give the community real ownership.

「プラチナ・プラン」はコミュニティに本物の権利を与えてくれるものだ

He listened to what we had to say today and assured he will and can get it done.

彼は俺たちが主張すべきことを聞き入れてくれたし、それを実行することも、成し遂げることも保証してくれた

※ プラチナ・プランは、アフリカンアメリカンのコミュニティーに約53兆円を投じ、雇用創出や教育、医療においての格差解消を図り、KKK (Ku Klux Klan) やアンティファをテロ組織に指定することや、奴隷解放日である6月19日を祝日とすることなどを公約したもの。
https://twitter.com/liltunechi/status/1321941986174226432?s=21

Lil Pump

Mr. President, I appreciate everything you’ve done for our country,

ミスター・プレジデント、我が国のために尽くしてきてくれた全ての功績に感謝します

You brought the troops home and you’re doing the right thing.

あなたは軍隊を国に連れ返し、正しいことをしてきた

MAGA ’20, ’20, ’20. Don’t forget that!

MAGA (Make America Great Again) 2020 だ よく覚えておけ

And do not vote for Sleepy Joe, at all!

そして Biden には絶対に投票するな

6ix9ine

I don’t think Trump trolls

俺は Trump が悪い奴だとは思わないし

I think Trump is genuinely Trump.

彼のことを本物だと思うぜ

I get compared to Trump every day.

毎日彼と比べられるけど

But I love Mexican people.

俺はメキシコ人を愛しているし

I don’t think we’re the same.

俺たちが同じだとは思わないよ

I would vote for Trump.

俺は Trump に投票する

the New York Times

Asian Doll

I rather trump be the president then that other dude fasho

他の候補者が選ばれるぐらいなら、Trump に再選してほしい

Trippie Redd – SoundCloud 出身のオールラウンダー

その特徴的な見た目や、ロックや R&B などあらゆるジャンルから影響を受けたと思われる名曲の数々でファンたちの心を掴んでやまない Trippie Redd。今週末にはニューアルバム『Pegasus』のリリースを果たしました。今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、ヒット曲などを通して、彼の魅力に迫ります。

生い立ちとキャリアの開始

Trippie Redd (トリッピー・レッド) こと Michael Lamar White IV は1999年の6月18日にオハイオ州のカントンにて産声を上げました。彼が誕生した時、彼の父親は刑務所に収監されており、母親によって女手ひとつで育てられたそうです。

Trippie Redd

彼には兄弟が一人ずつおり、兄は Dirty Redd、弟は Hippie Redd というニックネームだったそうで、現在のステージネームは彼らのニックネームから考案しました。元々は Trippie Hippie という名前を考案していましたが、すでに同じ名前のグループが存在していることを知り「Trippie Redd」に改名したそうです。

彼の母親が Ashanti や Beyoncé、Tupac、Nas などによる音楽を日常的に聴いていたことがきっかけとなり、Trippie は T-Pain や KISS、Nirvana、Gucci Mane、Marylin Manson など様々なジャンルの音楽に興味を持つようになりました。

様々な音楽に親しむ中で、彼はラッパーになることを志し始めます。高校卒業と同時に、自らのキャリアを躍進すべくオハイオ州のコロンバスに移住しましたが、思うようにことが進まずすぐにジョージア州のアトランタに移動しました。

Lil Wop との出会い

Trippie Redd (中央) と Lil Wop (右)

アトランタに移住した Trippie は、Famous Dex の従兄弟としても知られるラッパーの Lil Wop に出会いました。Trippie よりも先に音楽活動を始めていた Lil Wop は、彼の才能を認めレコードレーベルやレコーディングスタジオに関するサポートを行ったそうです。

ちなみに Trippie Redd と Lil Wop はのちにコラボ EP 『Angels & Demons』をリリースしています。Trippie の無邪気な少年のような声と Lil Wop のざらついた声のコントラストを Digital Nas らのトラックの上で楽しむことができます。

SoundCloud でのブレイク

Trippie は Lil Wop のサポートもあり Strainge Entertainment(現 Elliot Grainge Entertainment )との契約を交わし、音楽活動の拠点をカリフォルニア州ロサンゼルスに移します。

2016年には、シングル『Love Scars』が SoundCloud や YouTube にて大ヒットします。そして、2017年に5月には大ヒットチューン『Love Scars』を収録したデビューミックステープ『A Love Letter To You』のリリースも果たします。

どこか物憂げな表情を持つ彼の歌声や、メランコリーな空気を醸し出す本作の雰囲気から、彼は SoundCloud 出身のエモラッパーと呼ばれることも多いです。しかし、Trippie 本人は自身の音楽がエモラップに分類されることを嫌っており、Complex のインタビューではこのように語っています。

I wasn’t on no emo s**t. Me and Kodie Shane both got that s**t, and we was just on our little sad wave, ’cause we make a lot of sad R&B songs. It ain’t no emo s**t.

俺はエモラップの土俵には立っていない。俺は Kodie Shane (※1) と、悲しい雰囲気の R&B をたくさん作っていたから、少し悲しい気分になっていただけだよ。俺の音楽は決して「エモ」じゃない。

(※1) Kodie Shane は Trippie の旧友のアーティスト。

その後の作品群

Trippie は『A Love Letter To You』シリーズをミックステープとして継続的にリリースする中、同時進行でスタジオアルバムをリリースし続けています。『A Love Letter To You』シリーズは現在4作目までリリースされており、スタジオアルバムは『Life’s A Trip』と『!』、そして今回リリースされた『Pegasus』の三作品をリリースしています。

ミックステープ『A Love Letter To You』シリーズ
スタジオアルバム

今回は数ある彼の作品の中から数曲ご紹介してみようと思います。

Bust Down

ミックステープ『A Love Letter To You 2』に収録されている『Bust Down』という楽曲です。静かなピアノのイントロから、突如として始まるビートに思わず頭を揺らしてしまう楽曲です。『A Love Letter To You 2』では、一作目には見られなかったポジティビティに溢れた楽曲が数多く収録されており、彼の心境や作風の大きな変化を楽しむことができます。

他にも『A Love Letter To You 2』に収録されているポジティブな楽曲として、Cydnee と Chris King をフィーチャーした『Back Of My Mind』や UnoTheActivist をフィーチャーした『Today』などが挙げられます。

Leray

最新ミックステープ『A Love Letter To You 4』のイントロである『Leray』という楽曲です。Trippie の元恋人であるラッパーの Coi Leray にむけた楽曲で、静かなアコースティックギターの上で歌を披露しています。

『A Love Letter To You 4』では他にも『Koi』や『Who Needs Love』、『Abandoned』など、アコギベースの楽曲が多く収録されており、ミックステープ制作時の彼の心境が楽曲に反映されているような印象を受けます。

Can You Rap Like Me?

『A Love Letter To You』に収録されている『Can You Rap Like Me?』という楽曲です。タイトル(訳:俺みたいにラップできる?)の通り、ブーンバップ調のトラックに乗せて普段の彼のスタイルとはかけ離れた正統派なラップを繰り広げる一曲です。

最新ミックステープ『A Love Letter To You 4』では、当楽曲の続編として『Can You Rap Like Me, Part. 2 』が収録されており、同じく高度なラップスキルを披露しています。

ポップ寄りのポジティブな楽曲を制作するかたわら、落ち着いたR&B調の楽曲、はたまたブーンバップにも挑戦する彼の縦横無尽なスタイルですが、彼は Pigeons & Planes にてこのように語っています。

Put ’em together, and that’s Trippie Redd’s style

全てを一つにまとめる。それが Trippie Redd のスタイルだ。

現在の彼にも反映されるジャンルレスなスタイルは、様々な方面の音楽に親しんだ少年時代の影響が大きいようです。

その他の功績

XXXTENTACION – Fuck Love (feat. Trippie Redd)

故 XXXTENTACION のデビューアルバム『17』に収録された楽曲『Fuck Love』です。Trippie はこちらの楽曲のフック部分を担当しています。二人の物悲しい歌声のハーモニーが多くの人々の心を掴み、現在では YouTube で3億5千万再生、SoundCloud では 2億7千万回の再生を記録しているメガヒット曲です。

Trippie Redd – Dark Knight Dummo (feat. Travis Scott)

テキサス州ヒューストンのラッパー Travis Scott のをフィーチャーしたシングル『Dark Knight Dummo』です。本楽曲では、他の楽曲ではあまり見られない映画のサウンドトラックのような壮大なトラックに荒々しいラップを乗せています。『Birds in the Trap Sing McKnight』期を彷彿とさせる勢いのある Travis Scott のバースにも要注目です。

Joji – R.I.P.

88rising に所属する大阪府出身のシンガー Joji のデビューアルバム『BALLADS 1』に収録されている『R.I.P.』という楽曲。夢の中のようなスローテンポなサウンドに乗せて、切なくも力強い歌声を披露しています。本楽曲に関しては R&B やオルタナティヴに分類され、Trippie の守備範囲の広さを実感することができます。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は SoundCloud 発のラッパー Trippie Redd について生い立ちやキャリア、楽曲などを通してまとめてみました。今後も彼がどのような形で私たちを驚かせてくれるのかが楽しみでなりません。

Written by whoiskosuke

UKラップシーンを牽引する若手アーティストたち

ロードラップやグライム、UKドリル、アフロスウィング (アフロバッシュメント)、UKトラップ (トラップウェイブ) など、多様なスタイルで進化を遂げてきたイギリスのラップシーン。近年、本場USシーンとのクロスオーバーが増えてきたこともあり、世界中からますます注目を浴びるUKラップシーンの注目若手アーティストを数名ご紹介します。

1. Octavian

Octavian こと Octavian Oliver Godji はアンゴラ共和国にルーツを持つ、フランスはリール出身の24歳 (’96年生まれ)。父親が亡くなった後、彼はロンドンに移住します。後にラッパーを目指すため退学することとなるのですが、名門ブリットスクールに在籍した経歴を持ちます。Virgil Abloh 手掛ける Louis Vuitton のランウェイを歩いたことでも有名です。

Louis Vuitton 2019 Spring/Summer Collection
Louis Vuitton 2019-20 Autumn/Winter Collection

トラップから R&B、ダンスホールなどを行き来するジャンルレスなスタイルや、卓越したリリシズム、ハスキーな歌声など様々な魅力を持つ彼は、Drake に才能を見出されたことをきっかけに、現在では UKシーンのみならず USシーンでも活躍しています。

Octavian の代表曲

Lightning

2018年リリースのミックステープ『SPACEMAN』収録。人気サッカーゲーム『FIFA 19』のサウンドトラックにも収録され話題となりました。

Bet (feat. Skepta & Michael Phantom)

2019年リリースのミックステープ『Endorphins』収録。洗練されたミニマムなトラップビートと癖になるフロウが印象的な1曲です。

2. Dave

Dave こと David Orobosa Omoregie はサウスロンドンはストリータム出身の21歳 (’98年生まれ)。Stormzy や Lana Del Rey、Pink Floyd など様々なジャンルの音楽を聴いて育ったという彼は、母親からのプレセントをきっかけにピアノを弾くこともできます。彼は2019年リリースのデビューアルバム『PSYCHODRAMA』でマーキュリー賞を受賞するなど、今最も注目されているアーティストの1人です。

Tuesday, 23rd of January, 2018
2018年1月23日火曜日
I’m here with David
私は Dave とここにいる
This is our first session
これが我々の最初のセッションだ
We’re just gonna talk about your background
君のバックグラウンドの話から始めるとしよう
Where you’re from, any issues you’ve been dealing with
君がどこから来たのか、どんな問題に対処してきたのか
So, where should we start?
さあ、どこから始めようか

演劇の枠組みと技法を用いた心理療法を指す『PSYCHODRAMA』というアルバムタイトルの通り、1曲目『Psycho』はセラピストのセリフで始まります。心に不安を抱える彼はまさに同アルバムを通して PSYCHODRAMA を試みているのです。この彼のデビュー作は、コンセプトはもちろんのこと、ストーリー性、トラック、ワードプレイなど全てにおいて申し分のない仕上がりとなっています。

Dave の代表曲

Location (feat. Burna Boy)

ナイジェリアのレゲエ/ダンスホール・シンガー Burna Boy を客演に迎え、ラッパーとして成功してからの生活について歌った1曲。ラッパーお得意のフレックス (自慢) を中心としたありがちな内容ですが、彼は巧妙なワードプレイで魅了します。

Look, money like the alphabet
見ろ、金はアルファベットのようだ
If you wanna see P’s, gotta pass on the ends
金が欲しいなら最後までやり抜かなければならない


※P (Paper, Poundsを指す) は金を表すイギリスのスラング。

「P (金) が欲しいなら最後までやり抜かなければならない」「アルファベットの「P」は「N」(ends を「エヌ」と発音している) を通り越さないと現れない」という2つの意味を掛けたワードプレイ。意味をしっかり通してストーリーを進めつつ、随所にハイレベルなワードプレイを織りまぜるという、彼の類い稀なリリシズムが存分に発揮された作品です。

3. Lancey Fouxx

Lancey Foux (本名不詳) は、イーストロンドンはニューアム出身の24歳 (’95年生まれ)。彼は、Future や Young Thug ら USラッパーからの影響を強く感じさせる、オートチューンを効かせて歌うラップスタイルを得意とします。Playboi Carti のベイビーボイスに近いようなフロウも取り入れており、US と UKのシーンの架け橋的存在に成りうるラッパーです。Travis Scott のニューシングル『FRANCHISE』のリミックスへの参加も噂されており、今後彼の名前を耳にする機会は間違いなく増えるでしょう。

また彼は、A-Cold-Wall* や Astrid Andersen などイギリス発祥のファッションブランドのランウェイモデルを務めるなど、ビジュアル面でも注目されています。

A-Cold-Wall*’s National Gallery (AW18) Collection
Astrid Andersen 2019 Fall Collection

Lancey Foux の代表曲

No Intro

Skepta『I’m There』の一節を引用した「No introduction needed, I’m a genius」というラインから始まる『No Intro』。程良く不思議なトラックと、中盤のダミ声フロウが癖になる1曲です。

India

Playboi Carti『Foreign』のメロディを逆再生したビートを用いた『India』。キャッチーなフロウはもちろんのこと、シンプル且つ真理をついたフックにも注目です。

4. slowthai

slowthai こと Tyron Kaymone Frampton はノーサンプトン出身の24歳 (’94年生まれ)。彼は、3歳の頃に父親が失踪してから、母親と四人の姉妹とともに生活していました。彼には弟もいたのですが、筋ジストロフィーを患いわずか1歳で息を引き取っています。この出来事は彼の人生に大きな影響を及ぼしたといいます。いわゆる労働者階級に属していた slowthai は、大学卒業後一時は働いていましたが、勤め先の売上金を友人らに横流ししたことで解雇されました。高校時代から音楽技術を学び、音楽制作に夢中になっていた彼は、この解雇をきっかけに本格的に音楽活動に取り組むようになります。

UKグライム、UKガラージを軸にしたデビューアルバム『Nothing Great About Britain』では、労働者階級出身の彼の目線から見たイギリス像が描写されており、各方面から高い評価を得ました。

slowthai の代表曲

Inglorious (feat. Skepta)

デビューアルバム『Nothing Great About Britain』収録の『Inglorious』。Stanley Kubrick の名作『時計じかけのオレンジ』をオマージュしたミュージックビデオでも話題となりました。

同ミュージックビデオでは、映画『時計じかけのオレンジ』の「ルドヴィコ療法」(洗脳に近い治療法) の実行シーンを再現しています。この治療を受ける slowthai は「GRATE BRITAIN (素晴らしいイギリス)」というワードを見続けることによって洗脳されるのですが、彼にとっての「GRATE BRITAIN」とは「ルドヴィコ療法のような洗脳を行う者がいない国」であったため、治療を施した人物を殺してしまうという皮肉の効いたストーリーです。

5. Little Simz

Little Simz こと Simbiatu Abisola Abiola Ajikawo はナイジェリアにルーツを持つノースロンドンはイズリントン出身の25歳 (’95年生まれ)。アフロビート、レゲエ、ヒップホップ、UKガラージなど様々なジャンルを聴いて育った彼女は、15歳の頃に初めて自身のミックステープをリリースします。Kendrick Lamar も絶賛するほどの非凡な音楽的才能を兼ね備えた彼女は、ヒップホップからジャズ、ファンク、アフロビート、レゲエ、グライムなど様々なトラックの上でスキルフルなラップを披露します。彼女自身も「自分をフィメールラッパーだと思っていない」と語るように、これまで存在してきた「フィメールラッパー」という括りには収まらない実力の持ち主です。

Little Simz の代表曲

Selfish (feat. Cleo Sol)

最新アルバム『Grey Area』収録の『Selfish』。「Selfish」とは「自分勝手、わがまま」という意味ですが、彼女曰く同曲では「自分を大切に」という意味で用いているそうです。ジャジーなトラックと彼女の表現力が魅力的な1曲です。

Written by Riku Hirai

Headie One – UKストリートの代弁者

マーキュリー賞を受賞したロンドンのラッパー Dave や、全世界で爆発的な人気を誇るトロントのラッパー Drake などとのコラボレーションが話題となり、今週末には待望のデビューアルバムのリリースを果たしたロンドン・トッテナムのラッパー Headie One。

華々しいキャリアを築き上げる彼ですが、現在もなおフッド (地元) に留まりロンドンのストリートの声を代弁し続けています。今回は彼のキャリアや楽曲を通して今話題のラッパー Headie One の魅力に迫ります。

生い立ちとキャリアの開始

Headie One (ヘディ・ワン) こと Irving Adjei は1994年の10月6日にロンドンのトッテナムでガーナ人の両親の間に生まれました。幼少期〜少年期は熱心なサッカー少年だったそうで、音楽に対する興味はあったものの、自らが後にラッパーとして活躍することになるとは想像もしなかったそうです。

しかし、イギリスのプロサッカーチームである Stevenage F.C. への入団テストへの参加を決めたと同時に、練習中に負った足首の怪我が悪化しサッカー選手への夢を諦めざるを得なくなってしまいました。

現在サポートするサッカーチーム Manchester United のユニフォームを着る Headie One

少年期から Future や French Montana などのアメリカのアーティストによる音楽に親しんでいた彼は、自身でも見様見真似でラップを始めるようになります。

キャリア初期は「Headz」という現在とは異なるステージネームで活動していましたが、2018年のはじめに現在の「Headie One」に改名しました。Headie One というステージネームはイギリスに流通する硬貨 50 ペンス に自身の頭の形が似ていることが由来だそうです。

Headz 期 / RV との出会い

ラップを初めて間もない彼は、ロンドンを拠点に活動するヒップホップコレクティブである Star Gang に所属していました。2014年には、Headz の名義下の唯一のソロミックステープである『Headz or Tails』をリリース、その後は同じく Star Gang に所属していたトッテナムのラッパー RV に出会い、コラボミックステープ『Sticks & Stones』と『Drillers x Trappers』の2作品を連続で発表します。

Headie One と RV は、コラボミックステープ『Sticks & Stones』と『Drillers x Trappers』の2作品をリリース後、ロンドン・ブロードウォーターファームを拠点とするドリルコレクティブ OFB (Original Farm Boys) に加入します。

OFB は UKドリルシーンで最も有名なコレクティブであるため、OFB への加入は Headie One のキャリアを押し進める大きな要因となりました。

改名と『Know Better』のヒット

自身のステージネームを Headie One に変更し、2018年の2月に Headie One 名義下で初のソロミックステープ『The One』をリリースします。当ミックステープに収録され、先行シングルとしてもリリースされていた RV との楽曲『Know Better』がアンダーグラウンドにて大ヒットを起こします。

ロンドンのプロデューサーコレクティブ Traphouse Mob の 808melo によるトラック(Pop Smoke の 『Armed N Dangerous』で使用されたトラックと同じものです。)に乗せて、当時巻き込まれていた事件に対する内容をラップした楽曲です。

その事件とは、ロンドンの北部に位置するベッドフォールドシャー大学の学生寮にて Headie One が敵対するギャングのメンバー二人と鉢合わせてしまったというものです。相手のギャングメンバーは Headie One に対しかなり高圧的な態度をとっていますが、相手が終始 iPhone で動画を撮影していたため Headie One から手を出すことができず、最終的に敵に背を向けて大学寮の中に逃げ込んでしまいます。

敵対するギャングメンバーによって
スナップチャットに投稿された事件当時の動画

カメラで撮影をしながら挑発をするという卑劣な手段を選んだ相手に怒りを覚えた Headie One は楽曲リリースの手段を選んでディス曲を公開します。

勘の良い方はすでにお察しかもしれませんが、Headie One は伏せ字を使って事件の様子を事細かにラップしています。では何のために伏字にするのか、それは楽曲のリリックを証拠として逮捕される、または楽曲の配信ができなくなることを防ぐためです。

近年イギリスでは、ドリルミュージックに対しその暴力的、犯罪的な内容について疑問の目が向けられています。実際に警察によってミュージックビデオが削除されたり、リリックの内容が証拠として提出され、それによって身柄を拘束されたりするラッパーが続出しています。Headie One はそのような事態を防ぐために、犯罪に関わる表現を「Shh」に置き換えることによって、セルフクリーンバージョンを制作したというわけです。

Live corn in the shh
銃弾 (※1) が〇〇の中にある

I could’ve let it in the uni room
大学の中でそれをぶっ放すことだってできた

But I know better
でも俺はそうはしなかった

Opps wanna see me get nicked with a shh
ヤツらは俺が△△を持っていることで捕まるのが見たかったんだろ

But I know better
でも俺はそんな失態は犯さない

(※1) Live corn は銃弾を意味するイギリスのスラング

フックのリリックを少し見てみると、至る所が「Shh」によって伏せられています。相手のギャングから挑発を受けている最中、Headie One は終始ショルダーバッグの中に手を入れて何かを取り出すような仕草をしている (上記動画を参照) ことから、一行目の〇〇の部分は「bag」であることが予想できます。

また、四行目の△△の部分は、一行目で「銃弾がバッグの中にある」というラインから推測すると「gun」となるはずです。

ミックステープ『Music x Road』

『The One』にて知名度を得た Headie One は、その後もソロミックステープ『The One Two』や RV との3枚目のコラボミックステープ『Drillers x Trappers ll』などをリリースし精力的に活動してきました。

2019年の8月23日にリリースした4枚目のソロミックステープ『Music x Road』では、これまでの彼の楽曲ではほとんど聴く事のできなかった落ち着いたフロウや、ハートフルなリリックなどが登場し、これら大きな変化は彼のファンを驚かせました。

『Music x Road』のカバーアートとトラックリスト

マーキュリー賞を受賞したラッパーの Dave、また Skepta や Krept & Konan などグライムシーンからのゲストも迎え、これまでの作品とは一風変わった雰囲気に仕上がっています。

当アルバムは、明らかにドリルのサウンドではない『Music x Road』という楽曲から幕開けします。そしてアルバムのタイトルにもなっているこの楽曲こそが、当アルバムのテーマを体現しているのです。

Loyalty first that’s the code you know, I still walk a thin line between music and road
忠誠心が一番の指針さ 俺はいまだに音楽とストリートの間を彷徨ってる

Family first that’s the code you know, I still walk the thin line between music and road
家族が一番の指針さ 俺はいまだに音楽とストリートの間を彷徨ってる

To bring ma back I’d go broke you know, still walk the thin line between music and road
ママがこの世に戻ってきてくれるなら俺は全財産を捨てられる いまだに音楽とストリートの間を彷徨ってる

Headie One は『Music x Road』にて「アーティストとして成功し世界中で活躍する自分」と「かつてのようにフッド (地元) でギャングに所属し続ける自分」の二つを比較し、二者の間に生まれる矛盾や葛藤をラップしています。

楽曲『Music x Road』では、ソリッドなラップで家族や仲間に関するハートフルな内容のラップを披露し、リリックの意外性を通じてファンを驚かせましたが、彼の変化はリリックだけでなくフロウにも十分に現れています。

『Nearly Died』や『Numbed Down』では、ソリッドなラップの合間に「成功した現在ならではの悩み」や「成功した自身の周りで起こる不可解な出来事」などについて歌ったコーラスを挟んでおり、強者の余裕のようなものを目の当たりにすることができます。

ミックステープ『Music x Road』の中でも最もヒットしたのは、ロンドンのラッパー Dave をフィーチャーした『18Hunna』で、イギリスの音楽チャートで6位を記録しドリルミュージック史上最も高い順位にチャートインした楽曲となりました。

デビューアルバム『Edna』

ソロミックステープを4枚、RV とのコラボミックステープを3枚リリースし着実にキャリアを進めてきた Headie One ですが、2020年の10月9日に遂に待望のデビューアルバム『Edna』をリリースしました。

『Edna』のカバーアートとトラックリスト

タイトルの『Edna』は彼が3歳の時になくなってしまった彼の母親 Edna Duah に由来してつけられており、16BARS のインタビューでは「デビューアルバムに母親の名前をつけることで、彼女に捧げる作品としたい」というふうに語っています。

デビューアルバム『Edna』には、UKラップシーンから M Huncho や Ivorian Doll ら、グライムシーンからは Skepta や AJ Tracey、Stormzy らが参加しています。また、イギリス国外からは Drake と Future が参加しており、デビューアルバムにふさわしい華のあるメンバーが揃っています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は UK ストリートの代弁者 Headie One の魅力について彼のキャリアや作品を通して迫りました。『Music x Road』で見せた葛藤を乗り越え、これからもどのように音楽と向き合っていくのか、彼の動向から目が離せません。

Written by whoiskouske

21 Savage & Metro Boomin – アトランタが誇るトラップ最高峰タッグ

今週金曜日にジョイント・アルバム『Savage Mode Ⅱ』のリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin。世界中のヒップホップファンが待望する同アルバムのリリースに先立って、彼らのキャリアや魅力について振り返っておきましょう。

21 Savage

1992年10月22日にイギリスのロンドンで生を受けた 21 Savage (21サヴェージ) こと Shéyaa Bin Abraham-Joseph は、7歳の頃に母親と共にアメリカのジョージア州アトランタに移り住みます。2005年には故郷ロンドンに1ヶ月程滞在、その後アメリカに再入国し、以降はアメリカで生活していた彼ですが、当時取得していたビザはアメリカ入国後約1ヶ月で期限が切れており、2019年に不法滞在の疑いで逮捕されるという事件もありました。

逮捕時のマグショット (2019)

7th grade (日本の中学1年生にあたる) の頃には、21 Savage は銃の所持で地域中の全ての学校から永久追放を言い渡され、ギャングの世界に足を踏み入れることとなります。ドラッグディールや強盗など非行を繰り返していた彼は、2013年に敵対するギャングメンバーから銃撃を受け、親友を失いました (彼自身も6発の銃弾を浴び、当時は死も覚悟したそうです)。この日が彼の21歳の誕生日であったことが、彼の名前 21 Savage の由来です。

親友の死を受けてラップを始めた 21 Savage は、2015年にデビューミックステープ『The Slaughter Tape』をリリース。タイトルからも察しがつくように、アトランタのトラップとシカゴのドリルをミックスしたかのような暴力的なサウンドとリリックが話題を呼び、Sonny Digital や Metro Boomin といった大物プロデューサーと繋がります。

同年には、Sonny Digital とのジョイントEP『Free Guwop』とセカンド・ミックステープ『Slaughter King』をリリースしました。

キャリア開始以降コンスタントに楽曲をリリースしてきた 21 Savage は、2016年、XXL Freshman Class に選出されます。

XXL 史上最も高い人気を博す同サイファーで一躍注目を浴びた 21 Savage は、同年 Metro Boomin とのジョイントEP『Savage Mode』をリリースします。

このEPで成功を収めた彼は、2017年に Epic Records とサインし、デビューアルバム『Issa Album』をリリース。同アルバムは US Billboard チャートにて2位デビューを飾り、更にその後リリースされた Post Malone との楽曲『Rockstar』は Billboard Hot 100 にて最高1位を記録しました。

同年末には Offset、Metro Boomin とのコラボ・アルバム『Without Warning』をリリース。

翌2018年末には Travis Scott や Childish Gambino、Post Malone らをはじめとする豪華ゲストを客演に招いたセカンド・アルバム『I Am > I Was』をリリース。初週13万1千ユニットを売り上げ、見事 US Billboard チャート1位デビューを飾った同アルバムは、2020 Grammy Awards のベスト・ラップアルバムにもノミネートされました。

Metro Boomin

1993年9月16日にミズーリ州セントルイスで生を受けた Metro Boomin (メトロブーミン) こと Leland Tyler Wayne は、母親にパソコンを買ってもらったことをきっかけに、13歳の頃にトラックメイクを始めます。高校生の頃には、FL Studio の前身である FruityLoops を用いて、毎日5つものビートを制作していたそうです。Twitter をはじめとする SNS を用いてラッパーとのコネクションを築き始めた彼は、実際に彼らと仕事をするために、母親に地元セントルイスからジョージア州アトランタ (車で片道約8時間) まで頻繁に送ってもらっていたといいます。

Metro Boomin 曰く、最初に彼のビートを使ってラップをした有名なアーティストは OJ Da Juiceman だそうです。彼はこのコネクションをきっかけに、高校3年生の頃には Gucci Mane と繋がり、高校卒業後にはアトランタに移りました。アトランタに移住後、彼はカレッジに進学するものの音楽活動に専念するために1セメスターで退学。その後、Jeezy や French Montana、Ludacris、Future など名だたる著名アーティストとのコラボを果たした彼は、2013年に Gucci Mane や Future、Young Thug らを客演に招いたデビュー・ミックステープ『19 & Boomin』をリリース。

その後 Future の楽曲を多数手掛けるようになった Metro Boomin は、2015年には Drake と Future のジョイント・ミックステープ『What a Time to Be Alive』のエグゼクティブ・プロデュースを務めるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たしました。

2016年には、Future の『Low Life (feat. The Weeknd)』や Migos の『Bad and Boujee (feat. Lil Uzi Vert)』、Kanye West の『Father Stretch My Hands, Pt. 1』など、数々のヒット曲を生んだ Metro Boomin は、21 Savage とのジョイントEP『Savage Mode』もリリースし、BET Hip Hop Awards にて最優秀プロデューサー賞を受賞しました。

2017年には、NAV との『Perfect Timing』、21 Savage & Offset との『Without Warning』、Big Sean との『Double Or Nothing』の3つのコラボ・プロジェクトをリリース。

飛ぶ鳥を落とす勢いでシーンのトップに駆け上がってきた Metro Boomin ですが、2018年、彼はSNSにて音楽活動の引退を表明します。

しかしその数ヶ月後、Nicki Minaj や Lil Wayne のニューアルバムに参加し、更には自身のソロデビュー・アルバム『NOT ALL HEROES WEAR CAPES』をリリース。同作は見事 US Billboard チャート1位デビューを飾りました。

  • Metro Boomin のプロデューサー・タグ一覧
  • Ayy, Lil Metro on that beat (by Kodak Black)
  • If Young Metro don’t trust you, I’m gon’ shoot you (by Future)
  • Metro (by Young Thug)
  • Metro be boomin’ (by Rich the Kid)
  • Metro Boomin want some more, n***a (by Young Thug)
  • This beat is so, so Metro (by Young Thug)
  • Young Metro, Young Metro, Young Metro (by Future)

21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲

ここからは、21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲を数曲ご紹介します。今週末の『Savage Mode Ⅱ』のリリースに備えて、今一度彼らの過去作を振り返ってみましょう。

21 Savage – Drip (prod by TM88 & Metro Boomin)

I’m in the kitchen cooking crack like its bacon, 

キッチンでベーコンみたいにクラック (コカイン) を調理している

these p***y ass rappers they be faking

あいつらクソ共はフェイクだ

I’m 21 Savage ain’t no faking,

俺は 21 Savage、本物だぜ

AK-47 get the shaking

AK-47 が身震いしている

2人の初期コラボ曲。21 Savage は現在のスタイルより高めのトーンでラップし、TM88 と Metro Boomin が手掛けるシンプルかつ不穏なビートが 21 Savage のラップの緊張感を助長しています。

21 Savage – Supply (prod by Metro Boomin, Southside & Sonny Digital)

I am 21, young savage

俺は21歳 若い「savage (野蛮、冷酷)」だ

Try me, and you’re going to hell

かかってこいよ 地獄行きだぜ

気怠そうな声で淡々とラップするイメージのある彼ですが、この楽曲では高めの声や変則的なフロウを用いており、Metro Boomin を含む人気プロデューサー3人が手掛ける邪悪なビートと 21 Savage の遊びのあるラップが上手くマッチした1曲です。

21 Savage – Deserve (prod by Metro Boomin)

Me and Johny tried to rob everything

Johny と一緒に全てを盗もうとしていた (*1)

Mookie tried to tell us, do the right thing

Mookie は俺たちに「正しいことをしろ」って言ってたんだ

Larry died man I cried twice

Larry が死んだ時、2回泣いた

(中略)

RIP Tayman that’s why I got that knife

Tayman、安らかに眠ってくれ 俺もナイフのタトゥーを入れたよ (*2)

I don’t get excited about the fame

名声なんてどうだっていい

B***h I’m still with the same gang,

俺は今でも同じギャング (ブラッズ) に所属している

b***h I still claim the same thing

今でも俺の主張はあの頃のままだ

(*1) 21 Savage の親友 Johny は、この強盗の最中に銃撃を受け亡くなった。

(*2) Tayman は 21 Savage の実の弟。21 Savage の額のダガー (ナイフ) のタトゥーは、ドラッグディール中に銃殺された Tayman の額に入っていたもの。

弟や友人を失った悲しい過去を歌った1曲。Metro Boomin の感傷的なビートに乗る 21 Savage の泣き声に近いラップから、彼が生きてきたストリートライフの過酷さが鮮明に伝わってきます。

21 Savage & Metro Boomin – No Heart

You was with your friends playin’ Nintendo

お前が友達と任天堂 (のゲーム) で遊んでいる間

I was playin’ ’round with that fire

俺は銃を持って遊びまわってた

Seventh grade, I got caught with a pistol

1の頃にはピストル所持で捕まって

Sent me to Panthersville

青少年施設に送られた

Eighth grade, started playin’ football

2の頃にはフットボールを始めたけど

Then I was like fuck the field

すぐ辞めたよ

Ninth grade, I was knocking n***as out

3の頃には野郎をぶっ倒した

N***a like Holyfield

Holyfield みたいにな (*1)

(*1) Evander Holyfield : アラバマ州出身のプロボクサー

Metro Boomin、Southside、CuBeatz の3人が手掛けるシンプル且つダークなサウンドの上で、21 Savage が持ち前の低い声で緊張感のあるラップを披露します。ストリートのリアルを歌う、まさに「No Heart」なリリックも特徴的な1曲です。

21 Savage – Bank Account (prod by Metro Boomin & 21 Savage)

I got 1-2-3-4-5-6-7-8 M’s in my bank account

俺の銀行口座には 1-2-3-4-5-6-7-800万ドル入ってる

数え歌的フックが耳に残る1曲。Coleridge-Taylor Perkinson の『Flashbulbs』という楽曲のギターリフをサンプリングした Metro Boomin のダークなビートと、21 Savage の淡々としつつもキャッチーなラップが特徴的な同曲は、Billboard Hot 100 にて最高12位を記録。彼らの抜群の相性を更に世間に知らしめるきっかけとなった1曲です。

21 Savage, Offset & Travis Scott – Ghostface Killers (feat. Travis Scott)

I got AK, SK, HK, broad day

白昼堂々と銃を持ち歩いている (*1)

You a fuckboy, we ain’t with the horseplay

お前はクソだ 俺たちはふざけた真似はしないぜ

Shrimp-ass n***a, did you do your chores today?

ダサいお前ら、今日の雑用は済ませたか?

Do you wanna take a ride with the coroner today?

お前らは今日死にたいのか? (*2)

(*1) それぞれ銃の名称。AK = AK-47、SK = SKS、HK = MP5 や G36 などの Heckler & Koch 社製の銃。

(*2) Coroner は「検死官」の意。つまり「検死官と共に車に乗る」ことは「死」を意味する。

Metro Boomin らしい重厚でダークなビートの上で、Offset、21 Savage、Travis Scott という豪華メンバーが順番にヴァースを披露する1曲。圧倒的な迫力を誇る同曲を収録した 21 Savage、Offset、Metro Boomin によるコラボ・アルバム『Without Warning』は、US Billboard チャートにて初週4位デビューを飾りました。

Metro Boomin – Don’t Come Out the House (feat. 21 Savage)

Bang outside, I hang outside

外では銃撃 俺は行くぜ

Don’t come out the house ’cause the gang outside

家から出るんじゃねえぞ ギャングがいるからな

21 Savage が敵対するギャングに対して威圧的なラップをする1曲。イントロが終わり1ヴァース目に突入するタイミングで、Metro Boomin のビートが重厚なサウンドに切り替わり、それと同時に 21 Savage の緊迫感漂うウィスパー (囁き声) フロウが繰り出されます。サウンド、リリック共に圧倒的な緊張感が漂う、2人の相性が抜群に発揮された1曲です。

おわりに

トラップシーン最高峰タッグとの呼び声も高い 21 Savage と Metro Boomin の抜群の相性、ご堪能いただけたでしょうか。

今週末にリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin によるニューアルバム『Savage Mode Ⅱ』のカバーアート

Cash Money や No Limit など、Pen & Pixel 作品を彷彿とさせる『Savage Mode Ⅱ』のカバーアートには賛否両論あるようですが、同アルバムも2000年代の名盤と並ぶ、もしくはそれらを超えてくるような歴史的な1枚になること間違いなしでしょう。

Written by Riku Hirai

Lil Tecca – SoundCloud からの若き刺客

『Ransom』のメガヒットや、先日リリースされた Internet Money によるアルバム『B4 The Storm』への参加などをきっかけとし、爆発的な人気を博すニューヨークのラッパー Lil Tecca。今回は、9月18日にデビューアルバム『Virgo World』をリリースしたばかりの彼の魅力に迫ります。

生い立ちとキャリアの開始

Lil Tecca (リル・テッカ) こと Tyler-Justin Anthony Sharpe はニューヨーク州クイーンズ出身で、ジャマイカからの移民である両親のもとに生まれました。SoundCloud 出身のラッパーを中心にもはや普通になりつつありますが、彼の特徴はなんと言ってもその若さで、2002年8月26日生まれの18歳です。

Tecca が初めてヒップホップに触れたのは、当時の友人と Xbox に付属していたマイクを使用して遊びでラップを始めた9歳の頃でした。

その頃、Tecca は NBA にてプロバスケットボール選手として活躍することを夢見ていたため、ラッパーとして音楽活動を開始するつもりは全くなかったようです。

しかし、12歳になった頃 Tecca は突然バスケットボールへの興味を失い、ミュージシャンとして活動することに対して興味を持ち始めます。

その頃から様々なジャンルの音楽を聴くことを始めたようです。彼は影響を受けたアーティストとして Eminem や Chief Keef、Meek Mill などのラッパーをはじめ、Michael Jackson や Coldplay などヒップホップ以外のジャンルのアーティストも挙げています。

『Ransom』のヒットから現在

Tecca は2019年の5月にシングル『Ransom』、そして同曲のミュージックビデオを Lyrical Lemonade よりリリースしました。

ストリーミングサービスでの再生回数および、YouTube でのミュージックビデオの再生回数はうなぎ登りで『Ransom』は彼のキャリアを急激に躍進させるには十分な大ヒットを記録しました。

ミックステープ『We Love You Tecca』

『Ransom』のヒットから約3か月後の2020年8月には、デビューミックステープである『We Love You Tecca』をリリースします。ミックステープには Juice WRLD をゲストに招いた『Ransom』のリミックスバージョンが収録され、プロダクションには Internet Money の Nick Mira や Taz Taylor はもちろんのこと、Pi’erre Bourne や Danny Wolf、CashMoneyAP などが参加しています。

デビューアルバム『Virgo World』

デビューミックステープのリリースから一年強が経過した2020年の9月18日、Tecca はデビューアルバムである『Virgo World』をリリースしました。ゲストが Juice WRLD の一名だけだったデビューミックステープに比べ、Polo G や NAV、Lil Uzi Vert など様々な方面から多数のゲストを招いています。

他のアーティストへのゲスト参加

Lil Tecca はここ最近、他のアーティストへのゲスト参加を通しても精力的に活動を続けてきました。ここではその中の一部をご紹介します。

Internet Money – JLO (feat. Lil Tecca) / Somebody (feat. Lil Tecca & A Boogie wit da Hoodie)

まず初めに触れておかなければならないのは、カリフォルニアを拠点に活動するプロデューサーコレクティブである Internet Money のアルバム『B4 The Storm』への参加です。

Tecca は、アルバムに収録されている楽曲の中で『JLO』と『Somebody』に参加しました。両曲ともに Internet Money の創設者である Taz Taylor と Nick Mira の2人によるプロデュースです。

The Kid LAROI – Diva (feat. Lil Tecca)

Juice WRLD との共演などで徐々に人気を獲得しつつあるオーストラリアのラッパー The Kid LAROI の楽曲への参加です。

The Kid LAROI のメロディアスなフックと Lil Tecca のヘタウマラップがうまく絡み合っています。後半の交互にラップをする掛け合いも、コラボの良さを最大限に引き出しています。

Danny Wolf – Mavericks (feat. Lil Tecca & WAV)

HoodRich Pablo Juan とのコラボテープなどで知られるメキシコ生まれアトランタ育ちのプロデューサー Danny Wolf のミックステープ『Night of the Wolf』に収録されている楽曲です。

Internet Money などによるポップでシンプルなトラックでラップすることが多い Tecca ですが、本曲では不穏で暗い雰囲気のトラックに挑戦しています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。18歳ながらも爆発的な人気を博す18歳のラッパー Lil Tecca についてまとめてきました。自身のプロジェクトはもちろん、他のアーティストへのゲスト参加を含めてこれからさらに活躍が期待される1人ですので、これからも彼の動向を見逃せません。

Written by whoiskosuke

TyFontaine – Internet Money が誇る期待の新星

先月リリースされた Internet Money のニューアルバム『B4 The Storm』に参加し、近頃ますます注目を浴びている新人ラッパー TyFontaine。今回は、そんな若手注目株の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。

生い立ち

TyFontaine (タイフォンテイン) こと Julius Terell は、アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.で生まれ育ちました。

My household was pretty normal. 

俺の家庭は至って普通だったよ

My mom’s a dentist, my dad’s a lawyer. I was the only child.

歯科医の母と法律家の父がいて、俺は1人っ子だった

I got kicked out of school a couple times. Played sports. 

何度も学校から追い出されたよ あとはスポーツ (ラクロス) もしていた

I was a kid doing kid stuff, doing hoodrat shit with my friends. 

俺はやんちゃなガキだった 友人とくだらないことばっかりしていたんだ

本人は「普通」と語るものの比較的裕福な家庭で育った TyFontaine は、高校生の頃はスニーカーショップで働いていたそうです。


TyFontaine が働いていたスニーカーショップ「Kickk Spott DC」(現在は閉店済み)

このスニーカーショップは多くの NBA プレーヤーやラッパーが訪れる人気店で、店の裏にレコーディングスタジオを設けており、TyFontaine はその環境に刺激を受けてラップを始める決意をしたそうです。

キャリアの開始 (2018~2019年)

幼い頃は、R&B (Mary J. Blige、Neyo、Usher) やゴスペル (Marvin Sapp)、またバハマ出身の母親の影響でカリプソ (カリブ海の民族音楽) を主に聴いていたという TyFontaine は、5th Grade (日本の小学5年生にあたる) の頃にヒップホップを聴き始めたそうで、彼が初めて聴いたラッパーは、Lil Wayne だったそうです。

彼は、前述したスニーカーショップのスタジオにて Q Da Fool がセッションしている場面を目撃し、「自分にもできる」と確信したといいます。

When I started, I knew that it was possible. 

ラップを始めたとき、俺にもできるって分かった

(中略)

I thought “if they could do it, I could do it” type of thing.

「彼らにできるなら俺にもできる」って思ったんだ

彼は、2018年3月に Tyler Fontaine 名義でラップを始めました。

Tyler Fontaine – Precision (feat. Nuge)

シングルやミックステープ、Clockwork-Productions から公開したミュージック・ビデオなどで頭角を現した彼は、2018年10月に、Taz Taylor 率いる Internet Money Records と契約を結びます。

その後も No Jumper からミュージック・ビデオを公開したり、立て続けにミックステープをリリースしたりと精力的に音楽活動に取り組んでいた彼は、2019年リリースのミックステープ『Waiting on Ascention』や EP『Virtual World』で更に注目を浴びることとなります。

ミックステープ『Waiting on Ascention』

Internet Money の Nick Mira や DT、JRHitmaker らがプロデュースを手掛けたミックステープ。

EP『Virtual World』

Taz Taylor、Nick Mira のエグゼクティブ・プロデュースに加え、Jetsonmade や 10k.Caash らも参加した EP。

自身の音楽性を「versatile, carefree, easy-going (多才で、楽天的で、陽気)」と表現する彼の楽曲の特徴は、Juice WRLDLil Uzi Vert らの魅力を凝縮したようなメロディアスでエモーショナルなフロウです。彼は、いわゆる「エモラップ」に分類される他のラッパーよりもポップで明るいメロディラインと歌唱スタイルを用いており、どんなトラックも自分のものにしてしまう力を持っています。

更なる躍進 (2020年~)

そんな彼は2020年4月、Taz Taylor、Nick Mira を中心に、Jetsonmade や PVLACE、Bugz Ronin ら人気プロデューサー陣を起用したミックステープ『1800』をリリースします。

12曲目の『Moments』では、80年代シンセウェイブ的なトラックを用いて持ち前のハイピッチフロウを披露しており、The Weeknd と Playboi Carti のスタイルをミックスしたかのようなサウンドを楽しむことができます。

Moments

2020年8月には、自身が所属するレーベル Internet Money の1stアルバム『B4 The Storm』に4曲で参加し、Cochise や 24kGoldn、TheHxliday らとの共演も果たしました。

Internet Money のアルバムでの活躍により一層注目を浴び始めた彼は、本日10月16日、Lil Keed や Coi Leray、The Hxliday らを客演に招いたニュープロジェクト『We Ain’t The Same』をリリースしました。

今後、デビューアルバム『Beautiful Michi Girl』のリリースも控えており、ますます活躍するであろう期待の新星 TyFontaine から目が離せません。

Written by Riku Hirai

ヒップホップとマクドナルド – ラッパーたちはファーストフードとどのように向き合うのか

皆さん、マクドナルドはお好きですか?

外側カリカリ中はホクホクのマックフライポテトや、ジューシーなビーフパティが二枚も入ったビッグマック。朝食から夕食まで、または空いた時間にフラッと立ち寄る方も多いかも知れません。

最近では Travis Scott とのコラボレーションが正式にアナウンスされたりと、ヒップホップと関連する話題も多いマクドナルド。

日本でもたくさんの人々に愛されていますが、発祥の地アメリカではさらに生活に密着したものとなっています。今回はそんな「マクドナルド」とヒップホップの関係性について考察していきます。

シカゴ近郊に位置するマクドナルドの
フランチャイズ一号店

マクドナルドは、カリフォルニア州サンバーナディノにてマクドナルド兄弟によって1940年に創業されたハンバーガーチェーンです。ヒップホップのルーツに関しては諸説ありますが、いずれにしてもヒップホップが誕生するかなり前からマクドナルドは存在していたことになります。

XXS Magazine では以前にも「日本食とヒップホップ」というテーマにて、食とヒップホップの関係性についてフォーカスした記事を公開しています。海外において比較的高級品とされる日本食は、「高級品を食べることのできる財力」を誇示するために言及されることがほとんどでした。

では、安価な価格設定でおなじみのマクドナルドの場合はどうなのでしょうか。今回は様々なラッパーたちのリリックを読み解きながら、そのパターンを解明していきましょう。

①マクドナルドに通っていた過去を現在と対比するパターン

ラッパーとしての成功を手にする以前、食事に十分なお金を払うことが難しく、安価で空腹を満たせるマクドナルドにお世話になっていたアーティストたちは少なくありません。イリノイ州シカゴのラッパー Chief Keef は Travis Scott の楽曲『Nightcrawler』に参加した際、このようにラップしています。

I just ordered me some brunch
さっき遅めの朝食を注文したところだ。

Korean spicy garlic
コリアンスパイシーガーリックをな。

Bitch, I come from eating McDonald’s
俺はかつて、マクドナルドを食べていた。

Travis Scott – Nightcrawler (feat. Rae Sremmurd & Chief Keef)

コリアンスパイシーガーリックは、チキンを辛みのあるソースとニンニクで味付けした韓国発祥の料理で、アメリカでは比較的高価な印象のある食べ物です。金銭的に余裕がなくマクドナルドばかりを食べていたという Chief Keef は、高価な韓国料理を引き合いに出すことで、貧困に苦しんだ少年時代からヒップホップ界のスーパースターへと成り上がったことを表現しています。

マクドナルドといえば、ハンバーガーレストランですので、必然的に食事に関係する内容をラップするアーティストが多くなるのは当然です。しかし、マクドナルドでの食事以外の経験に言及するアーティストも存在します。ミシガン州デトロイトのラッパー Eminem もその一人です。

彼はこれまでに何度も、楽曲の中にマクドナルドでの経験を登場させていますが、今回はその中でも衝撃的なラインをご紹介いたします。

「マンションを持ってるけど、一戸建ての家に住む」「キングサイズのベッドがあるけど、ソファで寝る」といった裕福な生活を誇張するコーラスから始まる『So Far』という楽曲では、曲調が一転した途端にこのようなリリックが飛び出します。

Only option I have’s McDonalds’s bathroom
俺に与えられた、たった一つの選択肢はマクドナルドのトイレだった

Eminem – So Far

今やキングサイズベッドを所有していながらも、ソファで眠ってしまう Eminem ですが、かつては安心して眠る場所もなくマクドナルドのトイレで夜を明かした経験をラップしています。

他にも、Eminem は2009年にリリースした『3 a.m.』でこのようにラップしています。

Wake up naked at McDonald’s with blood all over me
目覚めると全裸でマクドナルドにいて、なぜか血塗れだったんだ

Eminem – 3 a.m.

貧困地域のマクドナルドは、ハスラーやギャングのたまり場となっているケースも珍しくなく、治安的な観点から見るとかなり危険な場所であることも事実です。こちらのラインは、マクドナルドにて睡眠を取っていた Eminem が睡眠中に衣服や金銭の略奪の被害にあってしまった経験を元にしたリリックです。

このように食事以外の面でマクドナルドにお世話になっていたアーティストも多数おり、過去の過酷な経験を曲中で語る上でマクドナルドは外せない存在であることもわかります。

②現在もマクドナルドを愛しているパターン

富と名声を手に入れた現在と、マクドナルドを利用していた過去に優劣をつけるラッパーが多数登場する中、それでもなおマクドナルドでの経験に懐かしさを感じ、それを愛する者も存在します。

Forbes による「世界で最も稼ぐラッパーランキング」において堂々の一位を獲得したことも記憶に新しい Jay-Z でさえも、マクドナルドに通い詰めていた時期があったようで、彼は Alicia Keys との大ヒット曲『Empire State of Mind』でこのようにラップしています。

I used to cop in Harlem – hola, my Dominicanos
俺はかつてドラッグをハーレムで調達していた 元気にしてるか、ドミニカ人の仲間たち

Right there up on Broadway, brought me back to that McDonald’s
昔ここにあったマクドナルドを思い出す

JAY-Z & Alicia Keys – Empire State of Mind

JAY-Z がブルックリンのストリートにおいてドラッグディーリングで稼いでいた当時、ハーレムのマクドナルドでドラッグの調達をしていたという実話を元にしたラインです。当時のハーレムでは、スペイン語を話すドミニカ人がドラッグを捌いており、JAY-Z は彼らのコミュニティとマクドナルドの客席で取引をしていたのです。

ドラッグディーリングが行われていた
ハーレムのマクドナルド

こちらのラインは、一見すると①で紹介した「マクドナルドに通っていた過去を現在と対比するパターン」のようにも思えますが、彼の場合は当時のエピソードを懐かしむような言葉選びをしていることもあり、過去と現在との間に優劣をつけているような印象は感じられません。

ハーレム繋がりでご紹介しますと、A$AP Rocky も、A$AP Mob からリリースされたアルバム『Cozy Tapes, Vol. 2: Too Cozy』収録の『Bahamas』においてマクドナルドに言及しています。

Paper plate or fine china, Benihana, McDonald’s
紙皿か陶器の食器、ベニハナかマクドナルド

Hit up Empanada Mamas, eat at delis or in diners
エンパナーダ・ママに直行、デリかダイナーで食事をする

A$AP Mob – Bahamas (feat. A$AP Twelvyy, A$AP Ferg, A$AP Rocky, Lil Yachty, KEY!, ScHoolboy Q & Smooky MarGielaa)

紙皿と陶器の食器、ベニハナ(アメリカを中心に展開される鉄板焼きチェーン)とマクドナルド。主に惣菜パンを売るニューヨーク発祥の庶民派のお店 エンパナーダ・ママなどを、選択肢的に羅列したラインです。

巨万の富を得てもなお、全ての食事を高級料理店で済ませるのではなく、マクドナルドや小さな軽食店などを選択肢に含めることをラップしており、いまだにマクドナルドへの愛が感じられます。

Pharrell Williams や T-Pain など、かつてマクドナルドで働いていたラッパーも数多く存在します。先ほど紹介した『Bahamas』にも参加したジョージア州アトランタのラッパー Lil Yachty もそのうちの一人です。

Lil Yachty といえば、所属するレーベル Quality Control の CEO である Pierre “Pee” Thomas の誕生日会にて、高級レストランにて提供された食事が気に入らず、その場で Uber Eats を利用してマクドナルドを注文したことも話題となりました。

③単なるワードプレイに用いるパターン

ここまでにご紹介したものには、ラッパーたちのエピソードに基づいたミーニングフルなラインが多かったですが、本省でご紹介するのは「マクドナルド」を単なるワードプレイに利用しているパターンです。

元々「マクドナルド」と言う店名は創業者であるマクドナルド兄弟に由来する人名であること、また語呂の良さや韻の踏みやすさなどが相まって、ワードプレイに用いられるケースも少なくありません。

NY・クイーンズで育ったラッパー Nicki Minaj は、DJ Khaled のプロジェクト『Grateful』収録の『I Can’t Even Lie』にてこのようなワードプレイを披露しています。

Big MAC billboard out in Times Square
タイムズスクエアに大きな MAC の広告

And I ain’t talkin ’bout McDonald’s bitch
マクドナルドのことじゃない

DJ Khaled – I Can’t Even Lie (feat. Future & Nicki Minaj)

「Big MAC Billboard」に「ビッグマック (マクドナルドの人気商品) の広告」と「大きな MAC (化粧品ブランド) の広告」の二つの意味を持たせたワードプレイです。タイムズスクエアといえば、光り輝く巨大なマクドナルドの看板でも有名ですが、ここで Nicki Minaj が言及したいのは自身がモデルとなった化粧品の広告のことだったのです。

(右) タイムズスクエアのマクドナルドの看板
(左) Nicki Minaj がモデルとなった MAC の広告

他にもマクドナルドに関する面白いラップを披露したラッパーがいます。それは、カリフォルニアのラッパー Tyler, The Creator です。彼に関しては、有名になる前にスターバックスコーヒーにてアルバイトをしていたエピソードが有名ですが、マクドナルドについてはこのようなラップを披露しています。

Pockets flooded, y’all be dilute
俺のポケットは洪水状態。お前らのは希釈されてる。

Watered down, I’m Big Mac
(マクドナルドの ドリンクみたいに)水で薄まってる。俺はビッグマック。

I’m quarter pound, you chicken nugget
もしくはクォーターパウンダー、お前らはせいぜいチキンナゲットだな。

Tyler, The Creator – OKRA

ポケットに現金がたくさん入っていることを、洪水に例える比喩表現から始まるこちらのラインは、マクドナルドの定番商品を登場させてヘイターたちを盛大に煽っています。大きな存在である自身を、ボリューミーなビッグマックやクォーターパウンダーに喩えると同時に、ヘイターたちをサイドメニューであるチキンナゲットに喩え、影響力や地位の規模の違いを示しています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は「マクドナルドとヒップホップ」というテーマを設けて、ファーストフードとヒップホップの関係性について考察してきました。今回ご紹介したもの以外にも、無数のラッパーたちが楽曲内でマクドナルドについて言及していますので、それらを探してみるのも面白いかと思います。