ヒップホップとマクドナルド – ラッパーたちはファーストフードとどのように向き合うのか

皆さん、マクドナルドはお好きですか?

外側カリカリ中はホクホクのマックフライポテトや、ジューシーなビーフパティが二枚も入ったビッグマック。朝食から夕食まで、または空いた時間にフラッと立ち寄る方も多いかも知れません。

最近では Travis Scott とのコラボレーションが正式にアナウンスされたりと、ヒップホップと関連する話題も多いマクドナルド。

日本でもたくさんの人々に愛されていますが、発祥の地アメリカではさらに生活に密着したものとなっています。今回はそんな「マクドナルド」とヒップホップの関係性について考察していきます。

シカゴ近郊に位置するマクドナルドの
フランチャイズ一号店

マクドナルドは、カリフォルニア州サンバーナディノにてマクドナルド兄弟によって1940年に創業されたハンバーガーチェーンです。ヒップホップのルーツに関しては諸説ありますが、いずれにしてもヒップホップが誕生するかなり前からマクドナルドは存在していたことになります。

XXS Magazine では以前にも「日本食とヒップホップ」というテーマにて、食とヒップホップの関係性についてフォーカスした記事を公開しています。海外において比較的高級品とされる日本食は、「高級品を食べることのできる財力」を誇示するために言及されることがほとんどでした。

では、安価な価格設定でおなじみのマクドナルドの場合はどうなのでしょうか。今回は様々なラッパーたちのリリックを読み解きながら、そのパターンを解明していきましょう。

①マクドナルドに通っていた過去を現在と対比するパターン

ラッパーとしての成功を手にする以前、食事に十分なお金を払うことが難しく、安価で空腹を満たせるマクドナルドにお世話になっていたアーティストたちは少なくありません。イリノイ州シカゴのラッパー Chief Keef は Travis Scott の楽曲『Nightcrawler』に参加した際、このようにラップしています。

I just ordered me some brunch
さっき遅めの朝食を注文したところだ。

Korean spicy garlic
コリアンスパイシーガーリックをな。

Bitch, I come from eating McDonald’s
俺はかつて、マクドナルドを食べていた。

Travis Scott – Nightcrawler (feat. Rae Sremmurd & Chief Keef)

コリアンスパイシーガーリックは、チキンを辛みのあるソースとニンニクで味付けした韓国発祥の料理で、アメリカでは比較的高価な印象のある食べ物です。金銭的に余裕がなくマクドナルドばかりを食べていたという Chief Keef は、高価な韓国料理を引き合いに出すことで、貧困に苦しんだ少年時代からヒップホップ界のスーパースターへと成り上がったことを表現しています。

マクドナルドといえば、ハンバーガーレストランですので、必然的に食事に関係する内容をラップするアーティストが多くなるのは当然です。しかし、マクドナルドでの食事以外の経験に言及するアーティストも存在します。ミシガン州デトロイトのラッパー Eminem もその一人です。

彼はこれまでに何度も、楽曲の中にマクドナルドでの経験を登場させていますが、今回はその中でも衝撃的なラインをご紹介いたします。

「マンションを持ってるけど、一戸建ての家に住む」「キングサイズのベッドがあるけど、ソファで寝る」といった裕福な生活を誇張するコーラスから始まる『So Far』という楽曲では、曲調が一転した途端にこのようなリリックが飛び出します。

Only option I have’s McDonalds’s bathroom
俺に与えられた、たった一つの選択肢はマクドナルドのトイレだった

Eminem – So Far

今やキングサイズベッドを所有していながらも、ソファで眠ってしまう Eminem ですが、かつては安心して眠る場所もなくマクドナルドのトイレで夜を明かした経験をラップしています。

他にも、Eminem は2009年にリリースした『3 a.m.』でこのようにラップしています。

Wake up naked at McDonald’s with blood all over me
目覚めると全裸でマクドナルドにいて、なぜか血塗れだったんだ

Eminem – 3 a.m.

貧困地域のマクドナルドは、ハスラーやギャングのたまり場となっているケースも珍しくなく、治安的な観点から見るとかなり危険な場所であることも事実です。こちらのラインは、マクドナルドにて睡眠を取っていた Eminem が睡眠中に衣服や金銭の略奪の被害にあってしまった経験を元にしたリリックです。

このように食事以外の面でマクドナルドにお世話になっていたアーティストも多数おり、過去の過酷な経験を曲中で語る上でマクドナルドは外せない存在であることもわかります。

②現在もマクドナルドを愛しているパターン

富と名声を手に入れた現在と、マクドナルドを利用していた過去に優劣をつけるラッパーが多数登場する中、それでもなおマクドナルドでの経験に懐かしさを感じ、それを愛する者も存在します。

Forbes による「世界で最も稼ぐラッパーランキング」において堂々の一位を獲得したことも記憶に新しい Jay-Z でさえも、マクドナルドに通い詰めていた時期があったようで、彼は Alicia Keys との大ヒット曲『Empire State of Mind』でこのようにラップしています。

I used to cop in Harlem – hola, my Dominicanos
俺はかつてドラッグをハーレムで調達していた 元気にしてるか、ドミニカ人の仲間たち

Right there up on Broadway, brought me back to that McDonald’s
昔ここにあったマクドナルドを思い出す

JAY-Z & Alicia Keys – Empire State of Mind

JAY-Z がブルックリンのストリートにおいてドラッグディーリングで稼いでいた当時、ハーレムのマクドナルドでドラッグの調達をしていたという実話を元にしたラインです。当時のハーレムでは、スペイン語を話すドミニカ人がドラッグを捌いており、JAY-Z は彼らのコミュニティとマクドナルドの客席で取引をしていたのです。

ドラッグディーリングが行われていた
ハーレムのマクドナルド

こちらのラインは、一見すると①で紹介した「マクドナルドに通っていた過去を現在と対比するパターン」のようにも思えますが、彼の場合は当時のエピソードを懐かしむような言葉選びをしていることもあり、過去と現在との間に優劣をつけているような印象は感じられません。

ハーレム繋がりでご紹介しますと、A$AP Rocky も、A$AP Mob からリリースされたアルバム『Cozy Tapes, Vol. 2: Too Cozy』収録の『Bahamas』においてマクドナルドに言及しています。

Paper plate or fine china, Benihana, McDonald’s
紙皿か陶器の食器、ベニハナかマクドナルド

Hit up Empanada Mamas, eat at delis or in diners
エンパナーダ・ママに直行、デリかダイナーで食事をする

A$AP Mob – Bahamas (feat. A$AP Twelvyy, A$AP Ferg, A$AP Rocky, Lil Yachty, KEY!, ScHoolboy Q & Smooky MarGielaa)

紙皿と陶器の食器、ベニハナ(アメリカを中心に展開される鉄板焼きチェーン)とマクドナルド。主に惣菜パンを売るニューヨーク発祥の庶民派のお店 エンパナーダ・ママなどを、選択肢的に羅列したラインです。

巨万の富を得てもなお、全ての食事を高級料理店で済ませるのではなく、マクドナルドや小さな軽食店などを選択肢に含めることをラップしており、いまだにマクドナルドへの愛が感じられます。

Pharrell Williams や T-Pain など、かつてマクドナルドで働いていたラッパーも数多く存在します。先ほど紹介した『Bahamas』にも参加したジョージア州アトランタのラッパー Lil Yachty もそのうちの一人です。

Lil Yachty といえば、所属するレーベル Quality Control の CEO である Pierre “Pee” Thomas の誕生日会にて、高級レストランにて提供された食事が気に入らず、その場で Uber Eats を利用してマクドナルドを注文したことも話題となりました。

③単なるワードプレイに用いるパターン

ここまでにご紹介したものには、ラッパーたちのエピソードに基づいたミーニングフルなラインが多かったですが、本省でご紹介するのは「マクドナルド」を単なるワードプレイに利用しているパターンです。

元々「マクドナルド」と言う店名は創業者であるマクドナルド兄弟に由来する人名であること、また語呂の良さや韻の踏みやすさなどが相まって、ワードプレイに用いられるケースも少なくありません。

NY・クイーンズで育ったラッパー Nicki Minaj は、DJ Khaled のプロジェクト『Grateful』収録の『I Can’t Even Lie』にてこのようなワードプレイを披露しています。

Big MAC billboard out in Times Square
タイムズスクエアに大きな MAC の広告

And I ain’t talkin ’bout McDonald’s bitch
マクドナルドのことじゃない

DJ Khaled – I Can’t Even Lie (feat. Future & Nicki Minaj)

「Big MAC Billboard」に「ビッグマック (マクドナルドの人気商品) の広告」と「大きな MAC (化粧品ブランド) の広告」の二つの意味を持たせたワードプレイです。タイムズスクエアといえば、光り輝く巨大なマクドナルドの看板でも有名ですが、ここで Nicki Minaj が言及したいのは自身がモデルとなった化粧品の広告のことだったのです。

(右) タイムズスクエアのマクドナルドの看板
(左) Nicki Minaj がモデルとなった MAC の広告

他にもマクドナルドに関する面白いラップを披露したラッパーがいます。それは、カリフォルニアのラッパー Tyler, The Creator です。彼に関しては、有名になる前にスターバックスコーヒーにてアルバイトをしていたエピソードが有名ですが、マクドナルドについてはこのようなラップを披露しています。

Pockets flooded, y’all be dilute
俺のポケットは洪水状態。お前らのは希釈されてる。

Watered down, I’m Big Mac
(マクドナルドの ドリンクみたいに)水で薄まってる。俺はビッグマック。

I’m quarter pound, you chicken nugget
もしくはクォーターパウンダー、お前らはせいぜいチキンナゲットだな。

Tyler, The Creator – OKRA

ポケットに現金がたくさん入っていることを、洪水に例える比喩表現から始まるこちらのラインは、マクドナルドの定番商品を登場させてヘイターたちを盛大に煽っています。大きな存在である自身を、ボリューミーなビッグマックやクォーターパウンダーに喩えると同時に、ヘイターたちをサイドメニューであるチキンナゲットに喩え、影響力や地位の規模の違いを示しています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は「マクドナルドとヒップホップ」というテーマを設けて、ファーストフードとヒップホップの関係性について考察してきました。今回ご紹介したもの以外にも、無数のラッパーたちが楽曲内でマクドナルドについて言及していますので、それらを探してみるのも面白いかと思います。