西海岸を牽引する名プロデューサー Mustard のすべて

XXS Magazine をご覧の皆さん、はじめまして。音楽ブロガーのアボかどと申します。普段は「にんじゃりGang Bang」というブログで、ヒップホップを中心とした作品の紹介などをやっているのですが、このたび縁があってXXS Magazineさんに寄稿させていただくことになりました。

さて、2019年も様々な傑作がリリースされましたが、私が特に気に入った作品の一つに、西海岸のラッパー・03 Greedoのアルバム「Still Summers in the Project」があります。Gファンクなどの伝統的な西海岸サウンドを踏まえつつ、現行の音にアップデートされた同作を手がけたのは、同郷のプロデューサー・Mustardです。TygaやYGなどのプロデュースで頭角を現し、2010年代の西海岸シーンを牽引した名プロデューサーの一人です。今回は、そんなMustardのキャリアを振り返りつつ、2020年代の展望についても考えて生きたいと思います。

西海岸のジャーキン

MustardはLA出身で1990年生まれのプロデューサーで、以前はDJ Mustardと名乗っていました。本名はDijon Isaiah McFarlaneで、芸名の由来はもちろん本名がディジョンだからです。最高。

名前の由来にもなったマイユ社のディジョンマスタード

トラップ風の曲やR&B系のメロウな曲も作りますが、シンプルなループにGファンクなどの西海岸フレイバーを込め、バウンシーな808を絡めた「ラチェット・ミュージック」と呼ばれる作風で広く知られています。何から影響されて作風を確立させ、いかにして成功を掴んだのか。まずはキャリアをスタートした時期の西海岸ヒップホップシーンの状況から探っていきたいと思います。

Mustardが登場した09年頃の西海岸ヒップホップシーンは、「ジャーキン(ジャークとも)」というムーブメントの全盛期でした。ジャーキンはミニマルなビートで踊るストリートダンスの一種で、それに使われる音楽のスタイルと共に西海岸全体に広まっていきました。サウンド的にはベイエリアでThe Neptunesなどの影響を受けて誕生した、スカスカでBPM早めのパーティ・ラップ「ハイフィ」が発展したものです。

ジャーキンはハイフィと比べるとBPMが遅めで、代表曲にはNew Boyz「You’re Jerk」(2009年)や、Audio Pushの「Teach Me How To Jerk」(2009年)などが挙げられます。個人的なおすすめはCold Flamez「Miss Me Kiss Me」(2009年)。ジャーキンはダラスで同時期に盛り上がっていたダンスのムーブメント「ドギー」の振付を取り入れたりしながら、Snoop Doggらベテランも反応してメインストリームにも進行していきました。

ジャーキンの流行は、西海岸の様々なアーティストを巻き込んでいきました。その中の一人に、Ty & Koryというデュオで活動していたTy Dolla $ignがいます。Sa-Ra CreativeやBlack Milkらの作品への参加など、どちらかというとそれまでアンダーグラウンド寄りの活動を行っていたTy Dolla $ignでしたが、ジャーキンの流れを汲んでヒット曲を生み出します。YG、TeeCeeと共に発表した「Toot It And Boot It」(2009年)です。それまでのカラーを踏まえたネタ感強めの質感とジャーキン以降の重低音の組み合わせが話題を呼び、YGと共にジャーキンのシーンで一躍注目を集めます。

そして、このTy Dolla $ignからビートメイクを習ったとされるのが、本稿の主役であるMustardです。MustardはSway’s Universeのインタビューで、「YGのためにビートメイクを始めた」と話しています。プロデューサーとしての初仕事は、恐らく2010年のYGのミックステープ「The Real 4 Fingaz」収録の「Glowin」です。

2010年にはThump Recordsというレーベルから、Mustardが仕切ったコンピレーション「Let’s Jerk」がリリースされます。Thump Recordsは、西海岸のロウライダー雑誌「Lowrider Magazine」監修のオールディーズのコンピレーションなどをリリースしていたレーベルです。Ty Dolla $ignはLowrider Magazineのコンピレーションにも収録されていたファンクバンド・Lakesideのメンバーの息子なので、恐らくその縁でこの作品のリリースに繋がったのだと推測されます。同作のサウンドは、タイトル通りのジャーキン路線。Mustardは、こうしてジャーキン畑のプロデューサーとしてキャリアをスタートしました。

Rack Cityとラチェット・ミュージック

ジャーキンのムーブメントに乗って成功を収めたのはTy Dolla $ignだけではありません。08年に1stアルバム「No Introduction」をリリースし、一足先にメジャーデビューを果たしていたYoung Money所属ラッパー・Tygaもその一人です。同作はロック的なフックを導入するなどクロスオーバー志向も強いポップヒット狙いの作品でしたが、当時の他のYoung Money作品と比べてセールス的にはあまり成功とは言えない結果になりました。

しかし、「コンプトンの非ギャングスタラッパー」という誰かの先駆けのようなキャラクターのTygaは西海岸の非ギャングスタムーブメントであるジャーキンのシーンで人気を集め、New BoyzやYGらに客演で呼ばれるようになります。そして、その流れでMustardとも合体。その繋がりは、Mustardのキャリアを変える大ヒット曲に結実する事となります。「Rack City」(2011年)です。

同曲の大ヒットは、Mustardを一躍人気プロデューサーに押し上げました。この頃の作風はジャーキンから一歩進み、どこかGファンク的な匂いを感じさせるものになっています。多くの人が思い浮かべるMustardのイメージは、この時期に確立されたのではないでしょうか。このMustardの作風と、同時期にベイエリアで人気を博していたIamsu!らのサウンドは「ラチェット・ミュージック」と呼ばれ、ジャーキンに続いて西海岸全体に定着することとなります。

Lil Jonからの影響

2013年には、Mustardは自身名義のミックステープ「Ketchup」を発表します。マスタードという名前でケチャップというタイトルを付けるセンスからして最高なのですが、同作はMustardとその周囲のことを総括するような内容になっています。同作はラチェット系の曲を中心に据えメロウな曲も収録した、新たな西海岸サウンドの王道といえるような作品でした。客演陣に目を向けると、YGやTy Dolla $ignといったお馴染みの面々、Nipsey HussleやE-40らに混じってDorroughが参加しています。Dorroughはダラスのラッパーで、先述したドギーの代表的なアーティストです。また、TimbalandやLil Jonらの喋りをフィーチャーしていることもポイント。彼らの参加は、Mustardのルーツという意味で非常に重要な要素といえると思います。

Mustardによるミックステープ「Ketchup」(2013年)

Mustardは、Lil Jonからの影響を公言しています。「Rack City」のヒット後にYoung Jeezyや2 Chainzなどアトランタ勢がいち早く反応したのも、MustardのシンプルなビートにLil Jonの匂いを感じとったことが要因の一つとしてあるのではないかと推測されます。

また、Lil Jonからの影響はビート面だけに留まりません。2014年にリリースされたYGの1stアルバム「My Krazy Life」収録の「Left, Right」では、自らマイクを握ってLil Jonのように煽りを披露しています。

2013年にはRoc Nationと契約を果たし、シーンでの存在感を不動のものにしたMustard。その後もラチェット系の曲を中心に多くのヒット曲を放ち、「10 Summers」(2014年)などリーダー作も高い評価を集めていきます。

ラチェット・ミュージックの次

EDMが大きな人気を博した2010年代には、「DJの年収ランキング」のような記事をよく目にした方も多いのではないでしょうか。名前にDJを冠していたMustardも、彼らへの憧れを口にしていたことがありました。Kid Ink「Show Me」(2013年)や TeeFlii「24 Hours」(2014年)など、ハウスをネタに使った曲も作っており、またLFMAO「Shots」(2009年)などでのLil Jonの活躍もあったので、MustardがEDMのDJに興味を持つのは自然な流れだったのかもしれません。

そんなMustardは、2016年にTravis Scottをフィーチャーした「Whole Lotta Lovin’」というEDM風の曲をリリースします。

同曲は大ヒットまでは行くことはなく、EDM的なノリを大々的に行うこともその後ありませんでしたが、この頃あたりからMustardはラチェット・ミュージックの次を模索するような動きを見せるようになります。

Roc Nation仲間のRihanna「Needed Me」(2016年)や21 Savege「FaceTime」(2017年)などではオルタナティヴR&B的な作風にも挑戦しています。

その脱ラチェットの取り組みが結実したのが、Mustardのアルバム「Cold Summer」(2016年)にも参加していたUKのシンガー・Ella Maiの「Boo’d Up」(2018年)です。美しいストレートなR&B路線である同曲はじわじわと話題を集め、同曲を収録したアルバム「Ella Mai」(2018年)もセールス・評価の両面で成功を収めました。

ここでのMustardの作風はメロウで落ち着いたスウィートなものでしたが、Mustardの心の師匠・Lil Jonもまたこういった作風を得意としていました。代表的なものでは、2004年のLil Jon & The East Side Boyzの名曲「Lovers and Friends」が挙げられます。試行錯誤を繰り返していたMustardは、自身のヒーローの別サイドに到着したのです。

クランク復権の流れ

Ella Maiのブレイク後となる2019年、Mustardは作品数こそ少ないものの多彩な活躍を見せてくれました。YGの「Go Loko」ではLAでヒット中のAmbjaay「Uno」を意識したようなラテン風味に挑戦し、新鋭・Roddy RicchにもR&B風の「High Fashion」を提供。前述した03 Greedoのアルバムではウェッサイ色を強調した作風を聴かせてくれました。また、日本のラップグループ、BAD HOPにもバンギンかつバウンシーな「Poppin」を提供しています。

そんな中リリースした自身名義のアルバム「Perfect Ten」はこれまでの集大成のようでありつつ、過渡期のようにも感じられる作品でした。メインとなっているのはラチェット・ミュージックとElla Mai的なR&B路線でしたが、ここで特に重要な曲として挙げたいのは、1stシングルとしてリリースされたMigosとの「Pure Water」です。

シンプルなシンセがループされるビートは、ラチェット系の路線ではありますがあまりGファンク風味は感じません。どちらかというとクランクに近い音色のシンセを使っており、アウトロではMustard自らマイクを握り、Lil Jon & The East Side Boyzを思わせる掛け声を披露。さらにMVではMigosがLil Jonっぽいサングラスを着用しています。Lil Jonへのオマージュが満ちた同曲を、Ella Maiブレイク後の初作品の1stシングルに持ってきたことは、自身のルーツへのより強い回帰を感じさせます。

2019年は、ベイのSaweetieが「My Type」でPetey Pabloのクラシック「Freak-A-Leek」をサンプリングし、Quality Control Music所属のメンフィスの新人・Duke Deuceがその名も「Crunk Ain’t Dead」なる楽曲を発表するなど、クランク関連の話題がぽつぽつと見られた年でした。

BETのヒップホップアウォードで披露された「My Type」と「Freak-A-Leek」のメドレー形式のライブで、Petey PabloとLil Jonが出てきた瞬間の盛り上がりを見ていると、2020年代にはクランク復権の流れが訪れてもおかしくはないと思わされます。そしてその流れが本当に訪れるのなら、Lil Jon直系のプロデューサーであるMustardはさらなる高みに登っていくのではないでしょうか。シーンに登場して気付けば10年が経つMustardですが、今後も目が離せません。

記事でご紹介した楽曲のプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/mustard-legendary-producer-from-west-coast/pl.u-KVXB2aGsZRjKqox

アボかどさんのブログ「にんじゃりGang Bang」: https://fuckyeahabocado.tumblr.com/

XXS Album of the Year 2019

今年も残すところあと一日。皆さんは年末年始をどのようにお過ごしでしょうか。そして、 2019年はどのような一年だったでしょうか。私たち XXS Magazine ライターは起きている時間はすべて音楽を聴くことに費やす勢いで、様々な音楽に囲まれて一年を過ごしてきました。

今回はそんな私たち3人が選んだ、それぞれの「Album of The Year」についての記事です。正直、それぞれのアルバムにそれぞれの良さがあり、ベストアルバム一枚を選ぶことは難しいので、かなり個人的で主観的な記事になっております。その点ご了承ください。それでは早速、一枚目からいってみましょう。

1. Skepta – Ignorance Is Bliss

今年もたくさん音楽を聴きました。Apple Replay で今年のまとめを分析すると、610個のプロジェクト(おそらくこの数字には EP やシングルも含まれています)をチェックした僕ですが、今回はその中でも最も印象に残った Skepta によるアルバム ”Ignorance Is Bliss”について書いてみようと思います。

タイトルの “Ignorance Is Bliss” は日本のことわざに直すと「知らぬが仏」。このテーマはサーモグラフィーによって撮影されたアルバムのカバーにて巧みに表現された上で、楽曲の中でも如実に感じ取ることができます。

Ignorance Is Bliss のアートワーク

無気力に頬杖をつく人、耳をふさぐ人、悶え苦しみ叫ぶ人、人差し指を唇に当てるサインを出す女性の4枚の写真が、中央に配置された生まれたばかりの娘を抱く Skepta の写真を取り囲んでいます。さらに四隅に、中指を立てた拳、握り合ったふたつ手、拳銃、スマートフォンの4枚の写真が配置される形でアルバムカバーが構成されています。

イントロとしての役割も果たす一曲目の楽曲 “Bullet from a Gun” は、当アルバムのテーマを巧みに反映したものでもあります。試しにカバーアートと照らし合わせてリリックを見ていきましょう。

Like a bullet from a gun, it burns
まるで拳銃から撃ち出された銃弾のように、それは燃えるんだ
When you realise she was never your girl
彼女がお前の女じゃないと気づいた時にね
It was just your turn
ただ、お前は遊ばれていただけだったんだ

Skepta – Bullet from a Gun

こちらのリリックとリンクしているのは、右下と右上の写真。リリックでは、愛し合っていると思っていた女性が、実は自分のことを遊びとしか思っていなかった状況についてラップしていますが、このような状況が主に先ほどの二枚の写真で表現されています。繋ぎ合った手ですが、片方の手はサーモグラフィーで温度が冷たいことを表す青で表現されています。そして、拳銃も青で表現されていることから、「片方が本気でない恋愛は、撃ち出された銃弾のように燃え尽きる」ことを表しています。燃え尽きてしまった恋も、知らなかったらそんなことにはならなかった、というまさに「知らぬが仏」状態。このようにアルバムを通してテーマに即したリリックがちりばめられているのが、このアルバムのミソなのです。

Now the friendship’s based on how quick I reply to text
今となっては、友情はどれだけ早く返信するかにかかってる

Skepta – Same Old Story

Now you only text when you’re bored on the weekend
君は週末暇な時だけ、俺にメールを送ってくるよな

Skepta – Love Me Not (feat. Cheb Rabi & B Live)

このようなリリックからは、インターネットが普及したことによって冷たく、脆くなってしまった人間関係についてのラップです。これらのリリックはアルバムカバーの左下の写真とリンクしています。こちらもサーモグラフィーの特性を利用して、赤くなっている手のひらに対して、スマートフォンは青く表示されています。

「Ignorance Is Bliss」まとめ

放つ言葉がすべてパンチラインとも言える Skepta が、グライムが盛り上がってきているこの時期に本気でアルバムを製作したらどうなるのかを、圧倒的なクオリティとともに見せつけられた感じがし、やはり今年のアルバムの中ではかなり印象に残っています。本当はもっと語りたいことだらけなのですが、本記事で紹介する他のベストアルバムについても知っていただきたいので、今回はこの辺で終わりにしておきます。それでは、”Ignorance Is Bliss” の魅力についてでした。

(Written by whoiskosuke)

2. James Blake – Assume Form

2019年ももう終わり、ということで今年聞いた中で一つアルバムを紹介しようという事になって、いろいろと考えた結果、James Blakeの”Assume Form” を選びました。

James Blake – Assume Form

Assume Form とは日本語にするのがかなり難しいんですが、ニュアンス的に言うと、「型にはめ込む」という感じでしょうか。じゃあジェイムスにとっての型とは何なのか。

それを理解するのに大切なのは、最近やたらと問題になるジャンルというものです。ジャンルというのはある意味、音楽を聴く際に基準となる透明の箱のようなものです。

透明な箱(イメージ)

この透明の箱を通じて人は音楽という外界に触れる。言うなればこの箱は、外観の様相を呈している。でも、この箱は「これはジャンルで言うなれば、なんちゃらかんちゃらだ。」というふうに簡単にその音楽を目利きするための外観でしかありません。

確かに、ジャンルは大切なものです。ジャンルがあれば、ジャズのコードを一つも理解していなくても、これはジャズだ。と理解するポーズをとる事ができます。でも、僕たちを守る透明の箱、このデジタル時代において、そこに閉じこもることに本当に意味があるのでしょうか。彼の一曲目のタイトル曲、”Assume Form” にその答えが隠されています。

ピアノの旋律を中心としたこの曲で一際存在感を放つライン。

You know, you know, you know, you know. Appearance is nothing.

なあ、外観なんて何でもないんだよ。

James Blake – Assume Form

まるで、僕たちが閉じ込められていたジャンルという「透明な箱」から解き放ってくれるような一言。

思えば彼は2010年の伝説的名盤、”James Blake” 以降、ヒップホップやアンビエントR&Bなど、ポストダブステップというジャンルに捉われることなく、活動を続けてきました。

”James Blake”

彼は音楽を聴く時の姿勢ともいうべき「透明な箱」の外側から音楽を作り続ける。彼がジャンル(外観)を見るのではなく、ジャンルが彼を迎えにいく。彼こそが一つの外観(基準)であり、全てのジャンルは彼に追従せざるを得ない。

つまり、彼の音楽は一色に圧倒的な波長と奥行きを含んだ、いわば虹色のアルビニズムとも言える。彼の音楽に触れれば誰もが閉塞的な透明の箱から解放され、その永遠の延長の中を旅することができる。

Geniusでは「Assume Form」を彼の楽曲を通してこのように説明しています。

Assume form meaning that you finally take the shape of who you were always supposed to be.

Assume formとはあなたが自分自身をこうあるべきだ、というある種の型にはめこむことです。

When you let go of everything else and just be who you truly are, things are easier, more natural, light, grounded, emotional, and ultimately real.

そのような雑念を解き放ち、本当のあなた自身となれば「物事」はもっと簡単になり、ナチュラルになり、根本的になり、感覚的になり、究極に「現実的なもの」となります。

Genius

「Assume Form」 まとめ

このアルバムでは、Travis Scott や Metro Boomin , André 3000 や 2019年時の人となった Rosalía など様々な世代やジャンルから多くの客演が参加していますのでヒップホップが好きな方にも非常に聞きやすい作品となっています。

どの曲にも彼の細胞が詰まっていますので、あまり多くは説明はしません。もしまだ聞いてない、という方は是非彼のアルビニズム的七色の世界に浸ってみてください。

(Written by Kensho Sakamoto)

3. Dave – PSYCHODRAMA

Daveのデビューアルバム「PSYCHODRAMA」は間違いなく今年のベストアルバムの一つです。実際、イギリス(もしくはアイルランド)で毎年最も優れたアルバムに対して送られる「マーキュリー・プライズ」を受賞しており、もはや言うまでもない事実ですよね。

この作品の魅力は、何と言ってもアルバムとしての完成度の高さにあります。アルバムのコンセプト、メッセージ性、トラック、リリック、ワードプレイ…など、どこを取っても非の付け所がないです。

今回は、アルバムの中からリリックを引用しながら、その魅力を簡単にお伝えできればと思います。

Tuesday, 23rd of January, 2018
2018年1月23日火曜日、
I’m here with David
私はデイヴとここにいる。
This is our first session
これが我々の最初のセッションだ。
We’re just gonna talk about your background
君のバックグラウンドの話から始めるとしよう。
Where you’re from, any issues you’ve been dealing with
君がどこから来たのか、どんな問題に対処してきたのか。
So, where should we start?
さあ、どこから始めようか。

アルバム名「PSYCHODRAMA」とは演劇の枠組みと技法を用いた心理療法のことです。セラピストのセリフで始まる一曲目「Psycho」のイントロから分かるように、心に不安や悩みを抱える彼はまさにこのアルバムを通してPSYCHODRAMAを試みているのです。

自身の出身地名をタイトルに冠した二曲目「Streatham」では若き日の苦悩や葛藤をスピットし、「Black」では黒人として生きることの難しさについて歌います。

序盤から重い内容が続くのですが、四曲目Purple Heart」では恋人への愛を再確認し、治療の進行の様子が伺えます。

I guess it’s important that you have someone you can trust
信頼できる人を見つけるのは大事なことだ
Especially in the position you’re in, and um…
過酷な状況にいる君にとっては特にさ
I think it’s a really good trait that you’re able to find positives
ポジティブなことを見つけられるのは素晴らしいことだと思うよ
Despite some of the challenges, for want of a better word, that you face
様々な困難に直面しているにも関わらずね

その後アルバムの中盤からは、彼のラッパーとしてのキャリアを中心に話が展開されていきます。

ナイジェリアのレゲエ/ダンスホール・シンガー、Burna Boyを客演に迎えた「Location」は、ラッパーとしての成功を歌った一曲です。Burna Boyの甘い歌声とDaveの巧みなラップが完璧にマッチした良曲です。

ラッパーお得意のフレックス(自慢)を中心としたありがちな内容ですが、彼は巧みなワードプレイで魅せてきます。

ここでハイレベルなワードプレイを一つご紹介させていただきます。

Look, money like the alphabet
見ろ、金はアルファベットのようだ。
If you wanna see P’s, gotta pass on the ends
金が欲しいなら、最後までやり抜かなければならない。
 

※Pは金を表すイギリスのスラング。

「仕事や任務を最後までやり抜かないと金を手にすることはできないぜ」というラインですが、なぜ金はアルファベットのようなのでしょう。

ポイントは”the ends”と、アルファベットの順番です。よく聴いてみてください。”the N’s”に聴こえませんか?アルファベットの順番を思い浮かべてください。ABCDEFGHIJKLMNOP…。もう分かりましたね。そうなんです。Pという文字はNをpass on(通り越す)しないとやって来ないのです。意味をしっかり通してストーリーを進めつつ、さらっとこんなワードプレイを挟んでくるのですから圧巻です。

その後、人気ラッパーJ Husを客演に迎えた「Disaster」や、自身の出身地ロンドンについて歌った「Screwface Capital」、文字通り自身のいる『環境』について語る「Environment」と続きます。

N***as saw keys and went to trial for shottin’
奴らはコカインを売って裁判にかけられた
I saw keys, learned to play, and made thousands from it
おれはピアノを習って、それで大金を稼いだんだ

一つ目の『keys』はコカイン、2つ目はキーボード(Daveはピアノを弾けます)を意味しています。同じEnvironment(環境)で育っても、全ては自分の行動次第だということですね。

そして、1人の女性の悲劇を歌った9曲目「Lesley」で、いよいよ彼の治療も終わりを迎えます。アルバム序盤では自分自身の困難や問題ばかりに集中していた彼が、この曲では他人の悲劇に目を向けており、治療の効果がよく伺えます。

その後、治療を無事終えたDaveによるポップなラブソング「Voices」と、刑務所にいる兄に向けた楽曲「Drama」でアルバムは完結します。

「PSYCHODRAMA」 まとめ

アルバムのコンセプト、メッセージ性、ワードプレイと、何度聴いても見事な仕上がりです。実力と年齢は関係ないですが、今年21歳を迎える自分と同い年とは思えないほど知的で思慮深く、才能に溢れており、そういった意味でも強く刺激を受けた作品でした。もし、このアルバムを聴いたことがなかったという方がおられれば、是非一度リリックを追いながら聴いてみてください。衝撃を受けるはずです。

(Written by Riku Hirai)

最後に

お読みいただきありがとうございました。

2019年もたくさんの傑作と巡り会えた一年でした。

XXS Magazineは今年の10月末から本格的に始動し、皆様のおかげで徐々に認知されるようになってきました。

来年からは今までになかったような様々なプロジェクトを進めて行きますので、これからも皆様どうぞよろしくお願い致します。それでは、良いお年を!

フロリダのアップカミングラッパーたち

みなさんはフロリダといえば何を思い浮かべますか?

ディズニー・ワールド・リゾートやマイアミビーチなど、印象的な観光地が多数ありますが、近年フロリダから勢いのあるラッパーたちもたくさん出てきています。

昨年若くして亡くなってしまった XXXTENTACION を始め、殺人の疑いで現在も収監されている YNW Melly、他にも Rick Ross や Kodak Black などが有名なフロリダ出身のラッパーたちですが、今回はもっとアップカミングな(出てきたばかりの新しい)ラッパーたち4名を紹介していきます。

Jackboy 

【名前】Jackboy (Pierre Delince)

【出生】ハイチ共和国

【育ち】フロリダ州 ポンパノビーチ

【生年月日】1997年9月27日

まずは Jackboy というラッパーです。”超” アップカミングというわけではないので、ご存知の方も多いと思いますが、彼は Kodak Black のレーベルである Sniper Gang に所属するラッパーです。同じレーベルに所属し Kodak から影響を受けていることもあり、かなり Kodak に似たスタイルです(ていうか、ほぼ一緒)。

Kodak をたびたび客演に迎え、徐々に知名度を伸ばしてきた彼ですが、今年の9月にリリースしたアルバム “Lost in My Head” でいきなり覚醒しました。

If  I go broke right now (Right now)
もし俺が今すぐ貧乏になったら

Would  you still be around?
それでもそばにいてくれる?

If I go to jail right now (Right now)
もし俺が今すぐ刑務所に行ったら

Baby girl, hold me down
ベイビーガール 、俺を守ってくれよ

Or  would you leave me?
それとも離れていっちゃうの?

Baby, Don’t leave me
ベイビー、そばにいてくれよ

Jackboy – Would You Leave

こちらのリリックは先ほど紹介した “Lost in My Head” に収録されている “Would You Leave” という楽曲のものです。Sniper Gang とかいう名前からして危ないの確定のレーベルに所属しているくせに、こんな純愛ソングを作ってしまう所にギャップ萌えしますよね。

リリックからも Kodak Black から強い影響を受けていることを見てとることができます。かれらはやはり生粋のギャングスタであり、生きていくためには常にストリートで動き続ける必要があります。常にストリートに繰り出さなければいけないこと、それと同時に愛する人と幸せな時間を過ごしたいということ。彼らはいつも、その二つを両立できないことに葛藤を覚えます。

まずは Kodak Black による “Why You Always Gotta Go” からのリリックです。彼女の目線から自分を放置してストリートに繰り出していく彼氏に対しての気持ちをラップした楽曲です。

Why you always gotta go?
あなたはなんでいつも行っちゃうの?

Kodak, why you gotta leave?
コダック、あなたはなぜいなくなっちゃうの?

You always in the streets, you don’t make no time for me
あなたはいつもストリートにいて、私のための時間なんて作ってくれない

Why you always gotta leave me here on my own?
あなたはなぜいつも私を一人ぼっちにさせるの?

Why we can’t ever spend leisure time home alone?
なんで私たちは二人きりの時間を過ごせないの?

Kodak Black – Why You Always Gotta Go

そして次に Jackboy による “Bipolar” からのリリックです。こちらは彼女よりストリートを優先してしまう男性側の気持ちをラップしています。

I don’t wanna see you weep
君が泣いてる姿を見たくないよ

Sorry, but I have to leave
ごめん、でも行かなくちゃ

Can’t love you, I love these streets
君を愛することはできない、俺はストリートを愛してるから

Jackboy – Bipolar

いかがでしたか。Kodak を女性役、Jackboy を男性役と考えると、一連の会話ができあがります。ずっと一緒に曲を作っていると、無意識のうちに影響を受けてしまうのでしょう。

LPB Poody 

Jackboy 同様、Kodak Black に強い影響を受けたラッパーをもう1人紹介します。それは LPB Poody です。彼は Sniper Gang にこそ所属していませんが、うまい棒が刺さったような髪型や金色のグリルズなど見た目からしてバリバリ Kodak に影響を受けています。

【名前】LPB Poody (Robert Lee Perry)

【出生・育ち】フロリダ州 オーランド

【生年月日】1999年10月23日

ちなみに名前の “LPB” とは “Light Pole Baby” の頭文字をとったものです。”Light Pole” とは街灯のことでなのですが、「小さい頃から街灯のようにずっとストリートに立ち続けなければならなかったから」というどこか切ない命名理由だそうです。

生き抜くために盗みやドラッグの売買などの犯罪行為をを小さい頃から繰り返してきたため、彼はこれまでに少なくとも13回逮捕されています。何度も警察のお世話になった彼ですが、彼の一番のヒット曲である “No LOL’z” の一節でこのようにラップしています。

My YGs rollin’ ‘round with two Glocks
俺たち若いギャング達は両手に拳銃を持って走り回ってる

The crackas blitzed the trap, we hide the drugs inside a shoebox
警察がアジトにガサ入れに来たら、俺らはドラッグを靴箱に隠すんだ

Then hit the back
そして背後を撃つ

And jump the fence and then we outta there
そしたらフェンスを飛び越えてそこから逃げるんだ

The neighbors think we look so suspicious so now they stop and stare
俺らが怪しすぎて、近所の奴らは立ち止まって俺らのことを見てくるんだ

LPB Poody – No LOL’z
https://www.youtube.com/watch?v=H_EmmOczFVU

Yungeen Ace 

続いて紹介するのは Yungeen Ace というラッパー。彼のキャリアはかなり浅く、SoundCloud に楽曲をリリースし始めたのも2018年の3月下旬です。彼の育ってきた環境はかなり厳しく、楽曲の内容もシリアスなものが多い印象です。最近ではルイジアナのラッパー JayDaYoungan とジョイントアルバムを製作したりしていて、かなりあがってきています。

【名前】Yungeen Ace (Keyanta Tyrone Bullard)

【出生】イリノイ州 シカゴ

【育ち】フロリダ州 ジャクソンヴィル

【生年月日】1998年2月12日

彼が少し前にリリースしたアルバムである “Step Harder” は、Boosie Badazz や Lil Durk、Stunna 4 Vegas などをフィーチャーし、かなりハイクオリティに仕上げられた一枚になっています。同アルバムに収録されている楽曲 “Streets Diary” では、タイトル通りストリートで育った頃の体験を日記のようにラップしています。

All my life I done struggled
人生ずっと、もがき続けて来た

I’ve been raised by my mother
ずっと母親に育てられてきたんだ

Two bedrooms, seven brothers
二つのベッドルームに、七人の兄弟

Had to share with each other
狭いけど一緒に寝なきゃいけなかった

Lifestyle in the Frigerator its nothin’ to eat
冷蔵庫の中のように冷たい人生でだったし、その中に食べ物はなかった

We steady warming up noodles, on the floor where we sleep
俺たちはラーメンを寝床で温めてたし

Eviction notice on the door, we gotta leave in a week
立ち退きの張り紙がドアに貼られて、一週間でそこを去らなきゃならないこともあった

Yungeen Ace – Streets Diary

そんな彼ですが、2018年の3月初旬に襲撃事件にあっています。3人の男に車の中から銃撃を受けており、Yungeen Ace 自身は助かったのですが、彼の兄と友人2人は銃撃によって死亡しています。それでも希望捨てずに、同月中に楽曲をリリースし始めたのです。

Rod Wave 

最後に紹介するのは Rod Wave というラッパーです。最近の若手には珍しい、声も体もかなり太めのラッパーです。これの場合、もはやアップカミングではないかもしれませんが、年齢がまだ二十歳ということもあるので紹介させて下さい。彼の特徴は勢いのあるラップに時折織り混ぜる美しい歌声とリリックで、見た目と歌声のギャップで僕たちを虜にして逃しません。ヒョロヒョロガリガリの草食系サンクララッパーのエモラップに飽きてきた方にはかなりおすすめです!


【名前】Rod Wave (Rodarius Marcell Green)

【出生・育ち】フロリダ州 セントペーターズバーグ

【生年月日】1998年8月27日

アップカミングラッパーを紹介する記事なので当たり前といえば当たり前なのですが、彼もつい最近 Kevin Gates と Lil Durk をフィーチャーしたアルバム “Ghetto Gospel” をリリースしました。

満を辞してリリースされたニューアルバムにも Lil Durk をフィーチャーしたリミックスとして収録された “Heart on Ice” にて、Rod Wave の華麗な声色の使い分けを見ることができますので、リリックと共に少しだけ見ていきましょう。まずは楽曲を聴いてみてください。

Heart been broke so many times I don’t know what to believe
何度も失望してきたんだ もう何を信じて良いのかわからない

Mama say it’s my fault, it’s my fault, I wear my heart on my sleeve
ママは俺のせいだって言った 俺は感情を露わにするよ

Think it’s best I put my heart on ice, heart on ice ’cause I can’t breathe
もう気にしないのがベストだと考えてる だってもう息すらできないし

I’ma put my heart on ice, heart on ice, it’s gettin’ the best of me
気にしないようにするよ それが俺にとってベストなんだ

Rod Wave – Heart on Ice

お気づきになられたでしょうか。勢いよくラップするところ(青文字)と、美しいメロディーで歌うところ(オレンジ文字)で、リリックの内容に差がつけられています。この楽曲の場合だと、、、

勢いよくラップするところ:過去のネガティブな思い出

美しいメロディーで歌うところ:現在または未来のネガティブなことや決意

このように Rod Wave は、巧みに声色を使い分けることで、リリックの状況を容易に想像できるようになるだけでなく、リリックに込めた感情をも私たちは容易に読み取ることができるようになっています。このテクニックは、人々の心に無意識のうちに直接訴えかけてくるので、共感をよびやすく、それも彼が人気になった要因の一つなのではないでしょうか。

さいごに

いかがでしたでしょうか。他にもフロリダからのアップカミングラッパーは Teejay3k とか 9lokknine とか YNW Bslime とか Lil Poppa とか色々いるんですけど(プレイリストにオススメの楽曲を入れておきます。)、とりあえず4人紹介してみました。XXS Magazine の Apple Music にて今回紹介した楽曲や紹介しきれなかったフロリダのアップカミングラッパーたちの楽曲を集めたプレイリストを公開しましたので、こちらも合わせてチェックお願いします。

⬇︎ XXS オリジナルプレイリスト “Upcoming Rapper From Florida” ⬇︎

https://music.apple.com/jp/playlist/upcoming-rappers-from-florida/pl.u-2aoqpzDsNWXxYz0?l=en

UKグライムシーンを牽引するキング Stormzy の全て

I just feel like there is nothing I cannot do.

俺にできないことは何もないと感じるんだ

グライム・アルバム初の全英一位獲得や、イギリス版グラミー賞とも言われるブリット・アワードでのベストアルバム賞&男性ソロアーティスト賞の受賞、さらには世界最大級の音楽フェス「グラストンベリー」にてイギリス出身の黒人ソロアーティストとして初のヘッドライナーを務めるなど、数多くの偉業を成し遂げてきた男、Stormzy。

そんな、今やグライムシーンのみならずイギリスの音楽シーンを牽引する彼は、本日(2019年12月13日)、待望のセカンドアルバム「Heavy Is the Head」をリリースしました。来年3月下旬には同アルバムを引っさげた来日公演の開催も予定されており、日本でも話題沸騰中の彼について簡単にご紹介させていただきたいと思います。

生い立ち

StormzyことMichael Ebenazer Kwadjo Omari Owuo Jr.は、ガーナ共和国にルーツを持つ、ロンドン南部・クロイドン地区出身の26歳(1993年生まれ)。

“I was a very naughty child,

俺はなかなかのやんちゃ少年だった

on the verge of getting expelled,

学校を退学になりかけたほどだ

but I wasn’t a bad child;

でも悪い子供ってわけじゃなかったんだ

everything I did was for my own entertainment.

全ては俺自身が楽しむためだった

But when I went into an exam I did really well.”

でもテストでは良い成績を残せたよ

3人の兄妹とともに母子家庭で育った彼は、自身の学生時代をこのように振り返ります。

高校卒業後は、サウサンプトンの石油精製所で二年間働いていたStormzy。196cm、95kgという恵まれた体格を持つ彼ですが、工場での力仕事に励んでいたというわけではなく、エンジニアとして品質管理を担当していたそうです。見た目とのギャップが面白いですね。

音楽キャリアの開始

幼少期から、Dizzee RascalやSkepta、Wileyなどといったグライムシーンのレジェンド達の楽曲を聴いて育ったというStormzyは、2011年にYouTubeにて初めて自身の楽曲をアップロードします(当時17歳)。

Skeptaの”Mike Lowery”のビートをジャック。

若いですね。夢追う少年って感じです。ただラップに関しては、このころから才能の片鱗を覗かせています。

ブレイクのきっかけ – WickedSkengMan series –

2013年の末頃、Stormzyは「WICKEDSKENGMAN [PART 1]」と題されたフリースタイルをYouTubeにアップします。

They say I’m a Youtube n***a
おれのことをYouTube野郎だって奴らは言うんだ
That’s cool, I’m fine with that
別にいいぜ、気にしないさ
But when you see me in the flesh could you give 
me a shout, 
でも、もちろん直接会っても言えるんだろうな
pull me up and remind me that?
おれを呼び寄せて、また言ってくれるよな?
Could you please just repeat that again for me?
頼むから直接同じことを言ってみろよ

クラシックなグライムビートの上でハードなラップをスピットするこの動画が話題を呼び、彼は一躍注目を浴びます。力強いラップと質素なビデオがよりいっそう彼の魅力を引き立たせており、今見ても6年前とは思えないほど全く古さを感じさせません。

その後Part 4まで公開されるに至ったこのシリーズが、彼の成功のきっかけとなったのは間違いないでしょう。

デビューEPのリリース – Dreamers Disease –

WICKEDSKENGMANシリーズで一挙に注目を浴びたStormzyは、2014年7月にデビューEP「Dreamers Disease」をリリースします。

キャリア当初は主にオールドスクールなグライムビートを使っていたStormzyですが、このEP「Dreamers Disease」から、幅広い音楽ジャンルに挑戦するようになります。当時勢いのあったドリルミュージックの影響を強く感じさせるトラック「No Way (feat. Yung Fume)」や、現在の彼の楽曲にも通ずるアフロビートトラック「Jupa (feat. Starboy willz & Showa Shins)」などが顕著な例です。

アルバムタイトルを冠した一曲「Dreamers Disease」では次のようにラップします。

Look, I don’t even smoke no more but somehow I stay high
おれはもう吸わないけど、ハイで居続けるんだ
Quit my job, mum bugged out, made my choice,
仕事を辞め、母には見放され、自分の道を選んだ
this is my life
これがおれの生き方だ
And I swear down I can’t do this alone,
これはおれ1人ではできないんだ
may the dear lord be my guide
親愛なる主が導いてくれるのさ
We’ve done some things,
おれ達はいろんなことをやったし、
wouldn’t even know where to begin
何から始めるべきなのかも分からなかった
but the dear lord knows we tried, so it’s alright
でも親愛なる主は分かってくれるんだ、だから大丈夫さ

ここで見られるように、Stormzyは”Lord(主、神)”への信仰や感謝を度々歌います。信仰する宗教を公式に発表しているわけではないので断言はできませんが、楽曲を聴く限りおそらく彼はクリスチャンです。

このEP「Dreamers Disease」では、彼の新しい音楽性への挑戦と、デビューを経ての決意や覚悟が見て取れます。

更なる躍進

2015年に入り、彼は二枚のヒットシングルを世に送り出します。

Know Me From

シーンの立役者、Dizzee Rascalの名曲「I Luv U」をサンプリングしたグライムチューン。

少し話がそれますが、Dizzee Rascalのアルバム「Boy In Da Corner」を聴かずしてグライムミュージックを語ることは許されないので、聴いたことがないという方は必ず聴いてください。言わずと知れた名盤です。

WickedSkengMan 4

こちらは前述した「WickedSkengMan」シリーズのPart 4です。

この楽曲は、UKシングルチャートで18位という成績を残し、フリースタイル楽曲としてのランキング(それまでの最高記録はJMEの「96 Fuckrie」で40位」)を大きく更新し、UK音楽シーンにおける歴史的快挙を果たします。皮肉にも、この曲のトラックはJMEの「Serious」という楽曲のものです。

ちなみに、先月末にリリースされたJMEの4年ぶりのアルバム「Grime MC」は既聴されましたでしょうか。フィジカルでのリリースのみという、いかにもJMEらしいこのアルバムは、「Grime MC」というタイトルに恥じない素晴らしいグライム作品でしたので、是非聴いてみてください。

すみません、少し脱線しました。それにしてもこの頃のクラシックなグライムビートを乗りこなすStormzyは本当にかっこいいですよね。ビデオを見るたびに惚れ直します。

そして、この「WickedSkengMan 4」のB面シングルとしてリリースされた「Shut Up」も、彼の成功を語るにあたって欠かせない楽曲です。

公園で友人らと集まり、DJ XTCによるオールドスクールなグライムチューン「Functions on the Low」の上でフリースタイルを披露しているだけのこの楽曲が、なんとUKシングルチャートのトップ10入りを果たします。

そのきっかけとなったのが、2015年の末に開催されたWBCインターナショナル王座とコモンウェルスイギリス連邦王座の防衛並びにBBBofC英国ヘビー級王座決定戦であった、Anthony JoshuaとDillian Whyteの一戦です。Stormzyは、Joshuaの入場曲として「Shut Up」を披露しました。いずれは僕もStormzyのラップを聴きながらリングに上がりたいものです。

後にリリースされる彼の楽曲、Cold (「Gang Signs & Prayer」収録)では、当時について次のようにラップしています。

I just went to the park with my friends,
and I charted

友達と公園に行っただけでチャート入りさ

Best Grime Actの受賞

ブラックミュージックに特化したイギリスの音楽賞、MOBO Awardsにて、Stormzyは「Best Grime Act」と「Best Male Act」の二部門を受賞します。

Bugzy MaloneやLethal Bizzle、Skeptaといった有力候補を抑えての受賞が、Stormzyの人気、注目度を物語っています。

2016年、デビューアルバムに向けて

2016年はアルバム制作に力を入れており目立った活動はなかった彼ですが、実は日本絡みのイベントがいくつかありました。

まずはこちら、「One Take Freestyle」。

東京渋谷の109、東急ハンズ周辺でフリースタイルをスピットするStormzy。ゲームセンターや自動販売機など、いかにも”日本っぽい”場所で撮影を行なっています。「クールな国”Japan”に行ってきたぜ!」って感じですね。

来日公演

つい最近、単独来日公演が決まり話題沸騰中の彼ですが、実は2016年に日本でのライブ経験があります。キャパ300人のCIRCUS Tokyoで、しかもエントランス無料。今では到底考えられませんよね。

StormzyはAdidas Originals by NIGOのルックにも起用されており、その関係で来日したとのことです。

デビューアルバムのリリース – Gang Signs & Prayer –

はい。ついに来ました、「Gang Signs & Prayer」。自主レーベル#Merky Recordsからリリースされたこのアルバムは本当に革命的な作品です。文章でだらだら説明するのもあれなんで取り敢えず楽曲を聴いていただきましょう。

Big For Your Boots

いかがでしょうか。BPM140の正統派なグライムチューンです。緊迫感漂うビートの上で彼は次のようにラップします。


You’re getting way too big for your boots
おまえは自惚れすぎだ
You’re never too big for the boot
おまえは絶対に成功できない
I’ve got the big size 12s on my feet
おれは12(29cm)のブーツを履く
Your face ain’t big for my boot
おまえはおれに及ばない
kick up the yout
若者を奮い立たせる
Man know that I kick up the yout
おれが若者を奮い立たせてるって知ってるだろ
Dem boy dere tried twist up the truth
やつらは事実を捻じ曲げる
How dare you twist up the truth?
どうしてそんなことができるんだ

too big for one’s boots : 「自惚れる」というイディオムと、Stormzyの靴(ブーツ)のサイズの大きさには誰も敵わないという意味をかけており、さらには靴から連想される”Kick”という単語を使って話を展開しています。

グライムのビート上で発せられる彼の力強いフロウには、技術や巧みさを超えた説得力があり、内容をよりシリアスに伝えるパワーがあります。

Cigarettes & Cush (feat. Kehlani & Lily Allen)

こちらは90年代R&Bテイストの一曲。前記のグライムチューンからの落差が凄すぎて、この2曲が同じアルバムに収録されていることが信じがたいぐらいです。Kehlani、Lily Allenの歌声と、Stormzyのタイトなラップが見事にマッチした名曲です。ミュージックビデオもロマンチックなので是非見てみてください。

Blinded By Your Grace Pt. 2 (feat. MNEK)

[Stormzy & MNEK]
Lord, I’ve been broken
神様、おれは落ちぶれていたんだ
Although I’m not worthy
何の価値もないおれでも
You fixed me, now 
あなたは立ち直らせてくれた
I’m blinded by your grace, 
あなたの恵みに圧倒される
you came and saved me
おれを救いにきてくれたんだ

神への感謝を歌うこの楽曲からは、オルガンを基調としたトラックや聖歌隊の美しいコーラスから、ゴスペルの影響を強く感じます。Kanye Westのゴスペルアルバムも話題となったように、やはりゴスペル色を取り入れたヒップホップアルバムは音楽的にも内容的にもより深みが増すように思います。Stormzyという立派な成功者でさえ神の力を頼りにすることもあり、改めて宗教の力は測りしれないなと感じさせられる一曲です。

Acousticバージョンもリリースされており、Wretch 32のバースが最高なので、是非聴いてみてください。

このアルバムの収録曲はハズレがないので本当は全曲ご紹介したいのですが、長くなってしまうので今回は代表的な三曲をご紹介させていただきました。

しっかり正統派グライムを組み込んだ上で、R&Bテイストのメロウな楽曲や、神を讃えるゴスペルチックな楽曲を散りばめたこのアルバム。一見まとまりがなさそうで、「Gang Signs & Prayer」は何度聴いても飽きさせない完璧なバランスを保っています。

その証拠に、リリース後早い段階でプラチナ認定(100万ユニット)され、その勢いのままイギリスの権威ある音楽賞Brit Awardsにおいて最優秀アルバム賞と最優秀男性ソロアーティスト賞を受賞しました。

ここまで来ると、さすがにグライムシーンのネクストキングと呼んでも異論はないでしょう。

Glastonbury Festival 2019

彼の偉業を語るにあたって欠かせないのが、世界最大級の音楽フェス、グラストンベリー・フェスティバルでヘッドライナーを務めたことです。

これまで、OasisやRadiohead、Cold Playなど、主にロック界のスター達が務めてきたポジションでしたが、今回イギリス出身の黒人ソロアーティストとして初めてStormzyが選出され、歴史的快挙となりました。

まずはその彼のステージを見ていただきましょう。

https://youtu.be/9vgar9pInkg

いかがだったでしょうか。いやー、かっこよすぎませんか。初期の楽曲から最新曲まで、またEd Sheeranの人気曲「Shape of You」やKanye Westの「Ultralight Beam」をカバーしたり、Dave & Fredoをステージに上げたりと、見どころ満載のステージで、1時間15分があっという間です。僕自身、何周見たか分かりません。

ちなみに、彼が着用しているユニオンジャック柄のベストは、イギリスを拠点とする著名なアーティスト、Banksyがデザインしたものです。

I made a customised stab-proof vest
カスタムした防刃ベストを作った
and thought – who could possibly wear this?
だれが着るべきだろうか
Stormzy at Glastonbury.
グラストンベリーのStormzyだ

このベストは警察の銃程度であれば防ぐことができる実用的なものであり、イギリス社会に蔓延するナイフ犯罪を批判するStormzyによるメッセージが込められています。

本日リリースされたアルバム「Heavy Is The Head」収録の「Audacity (feat. Headie One)」では、次のようにラップしています。

When Banksy put the vest on me
Banksyにベストを託されたとき
Felt like God was testin’ me
神に試されていると感じたんだ

ニューアルバムのカバーアートにも写っているこのベストは、850£(約12万5千円)で一時期販売されていました(現在は売り切れ)。

セカンドアルバム -Heavy Is The Head-

そして本日、彼のセカンドアルバム「Heavy Is The Head」が遂にリリースされました。2年越しのリリースということで世界中が待望していたこのアルバムには、Ed Sheeran、Burna Boy、Headie One、Tiana Major9、Yebba、H.E.R.、Aitchら豪華客演陣が参加しており、プロダクションにはFred Gibson、Fraser T Smith、T-Minusらがクレジットされています。

僕自身まだしっかり聴き込めていないので、少しだけご紹介したいと思います。

Crown

I done a scholarship for the kids, 
子供達のための奨学金を用意したけど
they said it’s racist
やつらは人種差別だって言うんだ
That’s not anti-white, it’s pro-black
アンチ白人ってわけじゃない、”プロブラック”なんだ

寂しげなトラックの上で、”キング”としての苦悩を歌う一曲。

Stormzyは、毎年2名の黒人学生を対象とするケンブリッジ大学進学用の奨学金「THE STORMZY SCHOLARSHIP」を2018年に設立しており、そのことについて言及しています。

彼曰く、決して差別行為をしているのではなく、教育における不平等を解消するために行っているものだそうです。どんな善行をしても、批判的な言葉を浴びせてくる人間は必ずいますよね。悲しい世の中です。

Own It (feat. Ed Sheeran & Burna Boy)

Ed SheeranとBurna Boyをフィーチャーしたアフロビートチューン。StormzyとEd Sheeranといえば、今年リリースされたEdのコラボレーションアルバム「No.6 Collaborations Project」収録の「Take Me Back to London」でも共演し、「曲のイメージが変わってしまうという理由で、当曲に参加予定だったJay-Zの参加を断った」という興味深いエピソードも話題となりました。

Stormzyは、彼の最も尊敬するアーティストであるJay-Zとの共演のチャンスを、曲のイメージ保持のために棒に振ったのです。このエピソードを聞いて、僕は改めてStormzyに惚れ直しました。憧れのアーティストとの共演を断るなんてなかなか出来ないですよ、普通。これも、シーンを背負う”キング”としての覚悟と責任感の表れでしょう。

はい。長くなりそうなので、とりあえず楽曲紹介はこの辺りにしておきます。

音的にはUSヒップホップの影響を感じさせるものやメロウなもの、ソウルフルなものなどが大半を占めており、グライムっぽさは強くは感じられませんが、彼はもはや「グライムシーンのスター」ではなく「現代の音楽シーンを代表するアーティスト」なのです。

前述した「THE STORMZY SCHOLARSHIP」の設立や、有望な作家の発掘を目的とした「#MERKY BOOKS」の立ち上げに加え、ソーシャルメディアを通じて選挙の投票を呼びかけるなど、音楽活動だけでなく社会活動にも力を入れているStormzy。今後ますます目が離せない存在になりそうです。

おわりに

今回は、本日セカンドアルバム「Heavy Is The Head」をリリースしたグライムMC、Stormzyについてまとめてみました。彼の魅力と功績が、多くの方に伝わっていれば幸いです。ニューアルバムについてのご意見やご感想もお待ちしております。

Stormzyをはじめとし、KAYTRANADAやFree Nationalsらの新譜もリリースされた忙しい1日にも関わらず、最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは良い週末を!

Apple Musicのプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/stormzy-heavy-is-the-head/pl.u-2aoqp2LUNWXxYz0?l=en

なぜトラップミュージックはここまで流行ったのか

最近Apple Musicなどで音楽を聞いていると、ふと思うことがあって。

まあトラップがめちゃくちゃ売れているのはもちろんなんですが、本当にいろんな国のアーティストが売れているなあって思うんですね。

それと、どこの国でも売れるっていうのは何かしらの共通項があるんじゃないかって思うんですね。

今日は題名にある通り、なぜトラップは流行っているのかについて書いていくのですが…

これは先日発表されたグラミー賞のベストラップアルバムの5つがなぜ評価されたのか?ということにも繋がります

なぜヒップホップ(特にトラップ)が売れているのか?

今日はその秘密を「特異性」と「即効性」をキーワードに探っていければなあ〜と思います。

Z世代と特異性

まず、売れるということには必ず共通した特徴があります。それはまず、「特異性」です。

簡単に言うなら、この曲はほかの曲とはちゃうなあ。ってやつです。

ここで大切なポイントは「僕たちの世代における」特異性についてです。

今音楽業界は、Z世代と呼ばれる世代を相手にマーケットを行う傾向にあります。

Z世代は10代後半から20代前半の年齢の人々を指す言葉ですが、この世代の特徴はどのようなものでしょう?

何でもかんでもネットで検索する、SNSを使う社会は当たり前、デジタルネイティブ…など様々な言葉が思い浮かびますが、これらに共通するものはインターネットです。

ではインターネットと共に成長してきた世代の主な特徴とはなんでしょう?

ここで一つ面白い引用があるので紹介します。

みなさんご存知、日本のラッパーやその他様々なアーティストにインタビューを行う「ニート東京」の一幕です。

ラップスタア選手権以来、飛ぶ鳥を落としまくっているTohjiのインタビューなのですが。(この間のMura Masaの来日ライブのサポートアクトにも選ばれていましたね。)

「一緒の場所に住んでいる、違う場所にいるけど。」

これです。ここがポイントなんです。

僕たちの世代はどこにいようと繋がっている「ように感じる」

そして「ほとんど同じものを見て育った」世代なんです。

例えば一例をあげましょう。

WeChat

みなさんは遊ぶ約束をどのようにしますか?もちろん、日本だとLINE、その他の国だとWeChat、カカオトーク、WhatsAppなど多種多様ではありますが、SNSを使いますよね。

WhatsApp

「今日、ハチ公前19時な。遅れんなよ。」

この言葉を言うために携帯が無かった時代の人はどれだけ苦労したことでしょうか。

昔の携帯のキーホルダー

もっと分かりやすい例を出しましょう、昔同じ地元だった友達が東京にいたとします。その人に連絡したいと思っていますが、あなたは連絡先を知りません。

はい、昔であればこの時点で共通の知り合いを探りまくって何とか辿り着くしか連絡先を知る手段はありません。

レベル5のコラッタが気合いのハチマキでグラードンの攻撃にギリ耐えたけどモンスターボールしか持ってないし捕まえるのほぼ無理やな、ぐらいの状況です。

コラッタ(Lv.5)

しかし今だとどうでしょう?

Facebookなどを使えば上の世代だとほとんど探し出せますしTwitterやinstagramをやってない人などほぼいないので探し出すことは容易でしょう。

例えるならば、マスターボールを持った状態でレベル3のビードルを捕まえようとしているようなものです。

ビードル(Lv.3)

どこにいても誰とでもつながっている「ような感じ」がする。

これこそが、「ユビキタス」な社会の欠点であり良いところでもあるのです。

みんなが同じようなものを見てきたからこそ、特異性とはその裏をかくような意外性とも言い換えることができます。

ヒップホップとシティーポップ

音楽でその特異性を表現するためには様々なパターンが考えられます。

例えば、Z世代が聞いていない世代の音をサンプリングするなどは考えられるでしょう。

例えば、アニメが有名な日本という「クール」な国の曲をサンプリングする。

今世界でやたらと日本のシティーポップがサンプリングされたり、使われたりしがちですが、これは他国にとって「異質なもの」として日本の70-90年代の音楽が捉ええられているからとも言えます。

シティーポップの使用の例として1つ紹介いたします。まあ多分ヒップホップ好きなら知っているとは思いますが・・・。

今年バイラルヒットし、グラミー賞ベストラップアルバム賞にもノミネートされた Tyler, The Creatorの “IGOR” から一曲、「GONE, GONE / THANK YOU」です。

これはシティーポップの旗手である山下達郎の「Fragile」をサンプリング、というか歌詞を変えて、メロディーを被せてタイラーが歌っているんですね。

公式にクレジットにも山下達郎が記載されていて、本当に驚きの限りという感じですが、コアすぎるやろ・・。

もっと山下達郎の中でも有名な曲を使うならわかるけど、どんだけ好きやねんっていう。

まあ本当 Odd Future周りの日本好きには脱帽です。

少し前に公開されたフランクオーシャンのラジオでも YELLOW MAGIC ORCHESTRA がかかっていて、やっぱり70-90年代の日本の異様さは他国から見るとすごいんだろうなと改めて感じています。

あ、YELLOW MAGIC ORCHESTRAは日本のエレクトロの先導者でもありますし、日本の音楽を作ったと言っても過言ではありませんから是非聞いて見てください。電子音系が好きな人には是非おすすめですよ。

なんて言ってもメンバーが半端じゃないですからね。坂本龍一・細野晴臣・高橋幸宏ってやばすぎやろ。レックウザとグラードンとカイオーガですよ・・・!

海外のファンもたくさんいますし!何より矢野顕子のカバーが半端ないんですよね・・・とまあこの辺りはかなりシティポップ的な内容になってしまうのでまた今度ヒップホップと関連させて記事にします!

「東風」

まあ、話を戻すと、自分の国の同じような世代が聞いていない音を取り入れるっていうのも「特異性」をアピールするのによいやり方の1つなんですね。

「特異性」と「転調」

他にはどのように「特異性」を出す方法があるのか。

有名なものの1つとして「転調」があります。

先ほど、「みんなが同じようなものを見てきたからこそ、特異性とはその裏をかくような意外性とも言い換えることができます。」と書いたと思います。

音楽にとって裏をかくとは、わかりやすくいえば、聞いている人が「こうなるんやろなあ」と思っているところで「ありえない音」をブチ込むことなのです。

ラップとは元をたどればループ音楽であることも考慮すれば、流れを断ち切った時の衝撃が他のジャンルよりもかなり大きいことも理解できるのでは無いかとおもいます。

最も分かりやすい例として去年、これまた世間を長らく賑わした Travis Scott と Drake のコラボ曲「SICKO MODE」です。

僕的にいえば、「金かかってそうやけどカッコいいんかどうかわからんPVランキング」の2018年のグランプリだと思いますが・・。

とにかく、2分57秒あたりで始まる転調の初めて聞いた時のあの衝撃は忘れないですよね、本当に名曲以外の何物でも無いと思います。

Travisの凄さはいうならば、オートチューンの使い方とかメロディとか色々あるんですが、その洗練された音にあると思うんですね。

無駄な音が極端に少なく、ほぼ完璧なバランスでそれぞれの音が個性を失わない。だからこそ突然その完璧性の壁の崩壊、つまり転調が起こった瞬間の衝撃も並大抵じゃ無いんです。

「特異性」のまとめ

ここまでで「特異性」の大切さがわかっていただけたと思います。

そして、まとめるとラップがその特異性を出すことに長けている理由は2つありますね。

①サンプリングの音楽であることから、自国には無い「異質な音楽」を取り入れることができる。

②ループ音楽であることから、繰り返しから一気に「転調」した時に他のジャンルと比べてもかなりの衝撃が走る。

ヒップホップと即効性

話を次に進めましょう。先ほど特異性について書きました。ただ他の曲と違えば売れているのかといえば、そういうわけでもありません。

次はもう1つの大切な要素である「即効性」についてです。

待ち合わせの例を先程出しましたが、もし相手が「時間間に合わんわ、すまん」と連絡して来た、という状況を考えてみてください。

大抵の日本人なら、暇なことですし、携帯でインスタを見て、イヤフォンであいみょんとYoung Nudyを交互に聴くでしょう。

それでも暇ならばPornhubでも見て時間を過ごすでしょう。(どうせ女の人この記事あんま見てないからええやろ…)

そうなのです、ユビキタスな社会のせいで、あるいはおかげで、現代人には「暇の概念」がほとんど無い、または昔とは全く変わってしまっているのです。

整理すると、暇=「無駄」ってものがほとんどない。

そして今、最もあついSNSはもちろんinstagramやTik Tokでしょう。これこそ現代人の感覚をほぼ網羅したSNSじゃないかと思います。

「いつでもどこでもできて、徹底的に無駄がない。」

無駄が無いといえばApple

これが意味するのはつまり、洗練されていることによりすぐに効果があるという徹底的な「即効性」

これがキーポイントです。

じゃあなんで即効性が大事な社会でヒップホップがそんな売れてるの?

これを考えるために大切なこと。それはヒップホップ、ひいてはラップミュージックとは何なのか?です。(ここからは面倒くさいのでラップと書かせてください)

ラップとは元を辿れば「コピー&ループ」音楽です。

分かりやすくいうと、「この音楽のこの部分ええな、パクってここばっかループさせまくってラップして一曲作ろ」ってやつです。

まあもっと元を辿れば楽器など何もなくてもできる音楽なので違うといえば違うのですが。

気になる方は慶應の法学部の教授で音楽評論家の大和田俊之先生の「ブルースからヒップホップまで」をお読みください。

現在のヒップホップシーンにおいてもこのコピー&ループというのはよくあることです。

サンプリングで訴えられたやらどうやらという事件は聞いたことがあるのではと思います。

例えば、昨年大ヒットしたJuice WRLDの「Lucid Dreams」です。

ヒップホップ好きで知らない人は確実にいないでしょうこの曲は、ロック好きなら知らない人は確実にいないであろうStingの名曲、「Shape Of My Heart」のサンプリングなのです。

この曲はアメリカとフランスの合作でこれまた映画好きであれば知らない人はいない、いや映画が好きじゃなくても知っているであろう「LEON」の主題歌です。近親相姦的な愛とでも呼ぶべき純愛の映画なのですが(純愛の基準は人それぞれ)、ナタリーポートマンをここまで美しく映しているこの映画は素晴らしいですね。

私事ですが、僕はフランス映画と哲学の勉強をしているのでリュックベッソンがここまで過大評価されていることを手放しでは喜ぶことはできませんが(みんなカラックスの映画も見てや!)。

レオス・カラックス「ポンヌフの恋人」

話が脱線していますね、とにかく戻ります。要するに、良い部分(サビやフック)をパクるってのはいまだに良くあることなのですが・・・。

ここである人が言うかもしれません「いや、今はサンプリングよりプロデューサーが作った曲の方が主流やぞ!コピペじゃないから即効性ってのはちゃうんと違うか?」

たしかに今はプロデューサーが作った曲が主流であることは認めざるを得ません。

Mustard・Murda Beatz・Metro Boomin・Pi’erre Bourne・Jetsonmade・Wheezy….など今のチャートを動かしえるプロデューサーは挙げはじめればキリがありません。

しかし、これらのプロデューサーが作るビートの主流はどのようなものでしょう?

ここで僕たちの世代が恐らく神と崇めているであろうPi’erre Bourne プロデュースの曲を流してみましょう。

30秒あたりで曲が始まります。どうでしょうか?このビート。聞いた瞬間にヤバイ!ってなりますね。

浮遊感のあるビートと称される彼のビートですが、ほぼ全てのビートにおいてまるで一曲の中心(サビorフック)に当たるような部分がいきなりきて、それが、繰り返されます。

ラップの初期においては、「曲の良いところ(サビやフック)をコピー&ループしたビート」が主流だったと先程話しましたね。

そしてそれが時を経ていくうちに、プロデューサー達が作曲したビートがメインになり、今は「曲の良いところ(サビやフック)をコピー&ループした”ような”ビート」が主流だということです。

つまり、ポップなどにおけるサビの部分にあたる部分をいかに良質に、そして大量に作れるか、というのが今のプロデューサー、ひいてはラップの楽曲に求められていることなのです。

ここまでをまとめると、一般的な曲の中心になるような場所が最初にやってくる楽曲こそが最近のラップの主流なのです。

つまり、音楽をかけ始めて数秒で良い音が聞けるという「即効性が求められる時代に最も合ったジャンル」なのです。

そして、即効性が求められるようになったのにはもう一つの要因があります。

ストリーミングサービスの台頭

Spotifyという革命的なメディアが2006年にスウェーデンにて開始されます。

月に千円程度払えばどんな曲でも聴けちゃうよー、ってやつです。

なんて革命的な…!!って当時の人はなった事でしょう。そしてそれはすぐさま世界にストリーミング旋風を巻き起こします。

それに対抗するように2015年、Apple社がストリーミングサービス「Apple Music」が始まります。

これら二つの圧倒的メディアが音楽界を完全にジャックしていきます(Sound Cloudは圧倒的な影響を及ぼしますが、無料ストリーミングサービスなので一度おいておきます)

勘のいい人はここらへんでもう気付いてるんじゃないですか?そうです、トラップが流行り出したのもちょうどこの15年あたりなのです。

Spotifyの台頭と共に音楽界をジャックしたラップというジャンル。

現代の人の即効性の欲求と見事にマッチしたメディア。

CDなどとは違い、お金を余分に払わなくても聞けてしまう。

つまり、良い曲だけをできるだけ効率的に聴きたい。こんな欲求がみなさんの意識下にはあるのです。

面白い研究があるのですが、ある調査では現代人は音楽を聴いた際に、最初の数秒でその曲が良いかどうかを判断するそうです。

面白いですね、即効性とストリーミングとヒップホップ。傍系的で荒唐無稽な関係に思えて実は、ガッチリ関係し合ってるんですね。

オススメの曲

ここまでを振り返って何曲かこの「特異性」と「即効性」の理にかなっている曲の例として1曲だけ紹介したいと思います。

ここまで読んでくれたあなたならこの良さが必ずわかるはずです。

1. Jay Prince「Father, Father」

イーストロンドン出身の25歳のラッパー Jay Princeから一曲です。彼の紹介を軽くすると・・・

90年代のUK Hiphopから強く影響を受け、様々なジャンルを横断し得るサウンドからスターとまではいいませんが、かなりのファン層を持っている彼。

2012年に発表した「Lounge in Paris」でデビューし、2013年頃にセルフプロデュース発表した「Mellow Vation」にてそのキャリアを本格的にスタートしました。

紹介はこの程度にしておいて、彼の曲の凄さは聞いた瞬間に「良い!」ってなるサウンドに加えて、サンプリング・転調を巧みに仕掛けてくる、まさにこの時代にあった人なんですね。(もっとセルフプロデュースして売れればいいのに・・・)

では聞いていただきましょう。

実はこの曲、 “yolanda Adams”の「the battle is the lord’s」(1996年)のサンプリングから始まるんですが、こんな使い方普通できる?できるんなら先ゆうといてやって感じです。

最初の耳を奪うような「即効性」に加え、サンプリングと転調による圧倒的な「特異性」。

彼こそこれからさらに注目されていくであろう存在だと思います。

Goldlink・Tyler, The Creatorとコラボした曲「U Say」でも話題となった彼。またアルバムを出した際には彼の全てがわかる記事を書きますのでしばしお待ちを。

終わりに

どうでしたか?今日はヒップホップがなぜ流行ったかについての記事でしたが、次回はこの基準を元にグラミー賞ベストラップアルバム賞に選ばれた5つのアルバムについての記事を投稿いたしますので是非次も読んでみてください!

では、さよなら…さよなら…さよなら。

Kensho Sakamoto

アトランタのトラップガール Bali Baby の魅力とは

こんにちは。

今回は、今年の XXL フレッシュマン候補にノミネートされていたものの惜しくも選出されなかったアトランタ出身のフィメールラッパー、Bali Baby ちゃんについて書いていこうと思います。彼女の魅力を最大限にお伝えできるように頑張りますので、最後までお読みいただければ幸いです。

Bali Babyとは

Bali Baby はバルバドスにルーツを持つジョージア州アトランタ出身(生まれはノースカロライナ州ジャクソンビル)の22歳。名前の由来なんですが、”Bali” は “Cali” の C を B に変えたもので、フッドの中で一番若かったことから “Baby” をつけたそうです。

※Cali : 低価格且つ高品質なことで知られるカリフォルニア産のマリファナ

※ギャング組織 Bloods (ブラッズ)に所属するメンバーは、敵対するギャング組織 Crips (クリップス)の頭文字である C を嫌い、C から始まる言葉を B に置き換えて使うことが多い。例: Crazy → Brazy

そんな彼女はキャリア当初、同性愛者であることを公表している数少ないフィメールラッパーとしても注目を集めていたのですが、現在は Rockstar Marqo という三流ラッパーと交際しています。ビジネス同性愛もいいところです。

Rockstar Marqo への嫉妬(S**t)が溢れ出る前に話題を変えます。

学生時代は神経学を専攻、将来の夢は脳外科医だった彼女は、2か月で中退するものの大学にも進学しており、インタビューの受け応えなどからもどことなく根の真面目さを感じます。見た目とのギャップが良いですね。

DJ の父を持つ彼女は、幼い頃から様々な音楽を聴いて育ちました。中でも Lana Del Ray の影響が最も大きく、彼女とコラボすることが夢だそうです。ヒップホップは昔から聴いていたわけではないという彼女ですが、同郷アトランタのトラップシーンを引っ張ってきた Migos や 21 Savage、シカゴの Chief Keef など近年のラッパーを好んで聴いているそうです。

主にメインストリームの音楽を聴いて育ったという彼女は、トラップを基調としつつもポップスやロックの要素を取り入れた、ジャンルに囚われないスタイルを確立しています。

ラッパーとしてのキャリア

ツイッターに投稿したフリースタイルがバズったことがきっかけで、ラッパーとしての活動を本格的に始めた Bali Baby。

バズったフリースタイルの1つ。Travis Scott や Tory Lanez のリミックスも話題となった、MadeinTYO のデビュー曲「Uber Everywhere」のビートの上でフリースタイルを披露する Bali Baby。

キュート且つ奇抜なルックスの彼女から繰り出される可愛らしいラップが注目を集めました。その後周りの後押しを受けスタジオに通うようになった彼女は、楽曲制作に夢中になります。2016年に EP「Bali’s Play」をリリースして以降、2016年から2017年にかけて彼女は4つのミックステープをリリースしています。

そして昨年2018年、彼女は念願のデビューアルバム「Baylor Swift」をリリースしました。カントリー界の歌姫 Taylor Swift にあやかって付けたと思われるこのアルバム名ですが、もはや C を B に変えるという従来の慣わしを完全に無視し、TをBに変えちゃっています。こだわりすぎない強引さが良いですね。

それではここで彼女のデビューアルバム「Baylor Swift」から一曲聴いていただきましょう。Bali Baby で「Backseat」

いかがだったでしょうか。”Baylor Swift” というより “Bvril Lavigne” といった感じですね。この曲が代表するように、このアルバムはロックや2000年代初期のポップスを参考にしたようなサウンドで構成されています。アメリカの音楽メディア「Pitchfork」では、10点満点中7.4点という比較的高い評価を得ています。

ロック且つポップに昇華された彼女のデビューアルバムは、今までヒップホップやトラップミュージックに触れてこなかった方にもオススメの一枚です。是非聴いてみてください。

続いて同じく2018年に、彼女は「Resurrection」というアルバムをリリースしました。このアルバムは前作「Baylor Swift」とは打って変わって、がっつりアトランタトラップです。”Resurrection” (復活)というアルバム名には、”トラップスタイルへの復活”という意味が込められているのでしょうか。ポップ調な楽曲も良いのですが、キュートな彼女から繰り出されるバッドガール感満載のトラップもやはり魅力的です。それではここで「Resurrection」から一曲ご紹介したいと思います。Bali Babyで「Bloody Mary」

いやー、最高ですね。シスター姿の Bali ちゃんも可愛いです。もちろんルックスだけでなく、ラップもかっこいいですよね。リリックについてはここで取り上げるほど素晴らしいラインは特にないので割愛しますが、どこか癖になる声、ライミング、フロウを持ち合わせています。

この「Bloody Mary」という曲、リリースされる前に彼女の Instagram にて一部公開されていたのですが、車内でラップする彼女が最高にキュート且つクールなので是非ご覧ください。

長い爪が少し怖いですが、とても可愛いらしいですよね。(未だに周りで共感してくれる人がいないので、Bali Babyの魅力について語りあえる方募集中です。)

少しでも彼女に興味を持ったという方は、是非一度アルバム通して聴いてみてください。

そして今年2019年、冒頭でも触れたように、彼女はXXLフレッシュマンの候補にノミネートされます。

毎日4時間おきに投票した僕の努力も報われず、惜しくも(おそらく惜しくもない)選出されませんでした(泣)。

Bali Baby の豆知識

少しだけ彼女の豆知識をご紹介したいと思います。

来日

Bali Baby は2017年に、エディター兼チェキフォトグラファー米原康正氏の個展「FXXK YOU ALL」のオープンレセプション出演のため来日したことがあります。

米原康正氏と Bali Baby

結婚式も行われるようなホテルで彼女のラップが聴けるなんて、想像するだけで異様な光景ですね。

タトゥー

彼女は全身に複数のタトゥーを入れています。

その中でも特に目立つのが、胸の谷間にある「福禄寿」というタトゥーです。この「福禄寿」というのは、幸福・富貴・長寿を象徴する七福神の一人です。来日経験もある彼女は、おそらくアジアや日本の文化に関心があるのでしょう。

レコードレーベル

彼女は「Play Girls」という自身のレコードレーベルを運営しています。

現在は Gabby! や i.Skyy、Flexxi といったフィメールラッパーのみが所属していますが、Bali は HotNewHipHop のインタビューにて、『いずれはラッパーだけでなく、メイクアップアーティストやヘアスタイリスト、ストリッパーなどを含めたフィメールアーティストのためのレーベルにしたいの。』と語っています。

HotNewHipHopのインタビューを受けるBali Baby

アパレルブランド

彼女は「Play Gear」というアパレルブランドも展開しています。服やアクセサリー、ウィッグ、付けまつげなど幅広く展開しているので、Bali Baby に憧れる日本の女子高生の皆さんは是非チェックしてみてください。

https://playgirlgear.com/

Bali Babyの楽曲

ここからはBali ちゃんの楽曲を数曲ご紹介させていただきたいと思います。

「V.V」

彼女の 1stEP「Bali’s Play」、ミックステープ「Bubbles Bali」収録の一曲。

Lil Yachty の「Shoot Out the Roof」と同じトラックが使われています。この “V.V” というタイトルは、“Vintage Vagina” を意味しています。意味がわからない方はググってください。もちろん深い意味などありませんが、Bali は彼女のガールフレンドがどれほど良い女なのかについてラップしています(リリース当時はレズビアンラッパーとして売り出し中でした)。不思議なビートと彼女の可愛らしい声がマッチしており、個人的には Yachty の曲よりも好きです。

「Woah Woah Woah/Crashbandicoot and chill – Trippie Redd & Bali Baby」

Trippie Redd の EP「A Love Letter You’ll Never Get」収録の一曲。

Trippie が Instagram で Bali に連絡を取り、このコラボが実現したそうです。両者のオートチューンを効かせたキャッチーなフロウが癖になる良曲です。ちなみにこの曲のフックは、有名な“Woah meme”を引用しています。

「Zombitch(feat. Bali Baby)- Elle Teresa」

来日経験もあると前述しましたが、実は日本のフィメールラッパー Elle Teresa ともコラボしています。

“アソコのBitch What You Wanna Do?
ミニバナナを振り回す”


– Elle Teresa

という Elle Teresa のバースに対して、Bali も次のようにラップします。

“ask the little bitch whatcha wanna do
何がしたいのとビッチに尋ねる
when u talking to the boss u better check ya attitude”
ボス(私)と話すときは態度に気をつけな

– Bali Baby

この二人には、フロウもバイブスも近いものを感じます(笑)。こういったコラボを通じて、日本のファンが増えてくれれば嬉しい限りです。

Captain Save-A-Hoe

最後は、今週金曜日にリリース予定である彼女のニュープロジェクト「THE BOOK OF BALI」収録の一曲です。

この曲では、Baliのセクシーなウィスパーフロウを堪能することができます。「THE BOOK OF BALI」、非常に楽しみです。今週末は皆さんBali Babyを聴きましょう。

まとめ

今回はアトランタのトラップガール、Bali Babyちゃんについて書いてみました。以前から彼女についてまとめてみたかったのですが、あまり需要がなさそうなので避けていました。しかし今回改めて記事にしてみて、彼女への愛を再確認できる良い機会となりました。少し自己満チックな内容になってしまったかもしれませんが、これを機に彼女のファンが一人でも増えれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

Apple Musicのプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/bali-baby-the-hottest-female-rapper-comming-outta-atlanta/pl.u-2aoqp2viNWXxYz0?l=en 

フロリダの若手ラッパー YNW Melly とは

みなさんこんにちは。ここ最近 YNWクルーのラッパーたちが大きく動き出しています。“YNW”とは “Young N***a World” の略称であり、今回紹介する YNW Melly が所属しているフロリダを拠点とした楽曲制作グループの名称です。

Melly の実弟である YNW Bslime は先週待望のアルバム “BABY GOAT” をリリースしましたし、まだまだ無名ですが YNW Khris は SoundCloud にて楽曲を発表し始めました。

YNW Melly (左) と YNW Bslime (右)

そんな中 YNW のリーダーである YNW Melly が本日、三枚目のアルバムである “Melly vs Melvin” をリリースしました。ということで、彼の過去の楽曲や、本日リリースされたアルバムについて紹介していこうと思います。

YNW Melly って誰?

それではまずは基本情報から。YNW Melly こと Jamel Mourice Demons は 1999年3月1日生まれの20歳。フロリダ生まれのラッパーです。YNW Melly の特徴としては、メロウなフロウやオートチューンをバリバリに効かせたフックなどがあげられます。決してラップが上手いという訳ではありませんが、キャッチーなメロディーによって人々の心を掴んで離さないと言えるでしょう。

過酷な幼少期

彼は1999年の3月1日にオハイオ出身の両親のもとに生まれました。彼の母親が彼を授かった時なんと彼女は14歳であり、9th grade (日本の中学3年生で15歳)の時に Melly を出産しました。

父親は Melly が生まれてすぐに失踪してしまった為、母親と母方の祖母によって育てられました。フロリダの Brierwood という地域に3人で暮らしていましたが、家賃の支払いが困難になった為、更に貧しい地域に移り住みました。

彼は15歳の頃から SoundCloud に楽曲をアップし始め、同時にアメリカの2大ギャングの1つである Bloods に加入しました。その翌年、彼は Vero Beach 高校の周辺で同学校の生徒に向かって銃を発砲した罪に問われて、数ヶ月の間刑務所に拘留されています。

ここで彼による楽曲を1つ紹介します。1つ目のミックステープ “I Am You” に収録されている “Mama Cry” という楽曲です。この曲は、先程説明しました16歳の時に起こした発砲事件によって刑務所に入れられてしまった彼が、母親に向けて懺悔するという内容なのですが、こちらの曲のMVに彼が家のソファの下から本物の銃を見つけてしまうシーンが生々しく描かれています。

そんな彼ですが、厳しい家庭環境の影響もあってか多重人格障害や注意欠陥症を患っているようです。彼のデビューアルバムである “We All Shine” に収録されており、“Mixed Personalities” という楽曲もタイトル通り多重人格についての楽曲です。

ちなみにこの曲はKanye West を客演に呼んでいるのですが、よく考えてみると彼の素晴らしい功績だと言えます。Lil Pump は18歳、Smoke Purpp は20歳にして Kanye とコラボ曲を発表しましたが、いずれも Kanye からのオファーです。もちろんそれでも凄いんですが、Melly の場合は自身のアルバムに Kanye を客演として呼んでいます。

YNW Crew

YNW クルーの仲間である YNW SakChaser と YNW Juvy を殺害した罪で起訴されているMelly ですが、他にも YNW Peso などのクルーが存在します。彼らは全員ラッパーとして活動しており、楽曲が日の目を見ない頃から力を合わせて活動していました。フロリダはアトランタなどに比べて有名なラッパーが少ないこともあり、彼らは大人たちに「ラッパーなんかより仕事を見つけた方がいいぜ。」とか「ウェンディーズで働いとけよ。2年後には解雇されるだろうけどよ。」などとからかわれていた過去を SakChaser は振り返って語っています。こちらのオフィシャルのドキュメンタリーで、彼らの生活の多くを知ることができますのでぜひご覧ください。( Melly のおかんとかも登場するので見応えあり。)

Murder on My Mind

“We All Shine” をリリースした直後である、2019年の2月に彼は仲間であるYNWクルーの YNW SakChaser と YNW Juvy の2人を殺害した容疑で起訴されました。更に2019年の5月には彼に死刑が宣告される可能性が生じていると TMZ によって伝えられました。

今現在もバリバリ牢屋の中にいる Melly ですので、今回のアルバムは獄中からのリリースということになります。

そのようなニュースが報道されたことがきっかけに、Billboard のチャートの上位に急上昇した曲が “Mind on My Murder” という楽曲です。この楽曲は彼が過去にギャングの仲間を誤って銃撃、殺害してしまった事件について歌っているものです。

そもそも、自分が加害者である殺人事件のことを楽曲にすると時点で、並大抵の狂人ではないとお分かり頂けると思います。そしてこの曲なのですが、リリックがとにかくリアルです。彼がなぜ、どのように仲間を殺してしまったのかが嫌というほど鮮明に描かれています。以下、”Mind on My Murder” の生々しいリリックを抜粋。

って感じで、頭の中に事件の現場が鮮明に浮かび上がりましたよね。このようなリアルすぎる YNW Melly の楽曲の特徴の1つです。日本に住んでいる僕らが想像もしないようなことが、この世界のどこかで実際に起こっていることに気づかされ、耳を覆いたくなるリリックも沢山あります。

更に、更にですよ。彼はこの ”Murder on My Mind” を殺害された被害者の視点に立って、全く逆の目線でラップした “Mind on My Murder” を発表しています。先程紹介したリリックも全て被害者の受け身の形に置き換えられています。生粋のサイコパス気質で本当に怖いっていうか、普通に引くレベルやわ。

もうリリックだけでリスナーに事件の様子を鮮明に想起させておいた挙句、MVでそれをビジュアライズして、そのイメージを確固としたものに仕立て上げてくれています。悪魔の権化かよ。

Melly vs Melvin

さて、ここからは本日リリースされた ”Melly vs Melvin” についてです。まず、アルバムのタイトルの ”Melvin”ってなんや?と思う方もいらっしゃると思いますが、簡単に言うと Melvin は Melly の第二の自分です。

Genius のインタビューで「俺は多重人格で、他の人間が中にいる。Mellyはみんなから愛されていて、みんなのことを愛してる。Melvinは、Mellyを悪い人間から守ってくれるもう一人の自分なんだ」と語っています。ということで、今作のテーマは自分と自分自身のもう一つの自分との間に起こる闘争や葛藤と言ったところでしょうか。

アルバムのアートワークも Melly と Melvin の二つの顔が描かれているデザインとなっています。

今回のアルバムですが、一曲目から Melly らしい楽曲になっていると思います。ピアノビートの上で地声とハイトーンボイスを織り交ぜた独特なフロウを披露してくれています。今年に入って1週目に “We All Shine” をリリースした彼ですが、約一年ぶりにやっと帰ってきた!って感じがしましたね。アルバム全体としても、客演をほとんど迎えず実力だけで勝負してる感はありますね。(獄中なので客演を迎えることが難しかったというのもあると思いますが。)

今作の5曲目である”Billboard” では早口言葉のようなフックを披露しています。

Used to rob n****s for that bill, when I get board, now I’m on billboards

金を盗んでたよ。でも俺は今ビルボードのチャートにランクインしてる

YNW Melly – Billboard

音源を聴いていただければわかる通り、早口言葉のようなワードプレイをラップしています。

続いて紹介するのは 9曲目にの “100K” という楽曲。こちらのが楽曲では今作のテーマにもなっている二重人格的なリリックが見受けられます。

I would not ever change on you lil’ baby

俺は絶対君への思いを変えることはないよ
I promise I love you, and never would put no one body above you

君を愛してるって約束するし、君より誰かを愛することはない
Ugh, I might just fuck on your sister

くそ!君の姉妹とヤちゃうかも

YNW Melly – 100K

彼女への愛する想いを優しく歌い上げたすぐ後に、彼女の姉妹とセックスするかもしれないと言っちゃうあたり、完全にMelvin が見え隠れしています。インタビューでは、「Melvin は僕を悪い人間から守ってくれる存在」とか言ってたくせに、都合のいいように Melvin を使って言い訳しようとしているのが見え見えです。

今回のアルバムは、逮捕される前にレコーディングしたものということもあり、少し新しさにかける部分もありましたが、獄中から新曲を出したということ自体に意味があることだと思います。

Music By YNW Melly

ここからはいつものようにおすすめの楽曲を紹介していこうと思います。まず初めに紹介するのは “772 Love” という楽曲です。

タイトルにある “772” とは、彼が16歳の頃に発砲事件を起こした高校周辺の地域のエリアコードで、彼はこの地域を当時の好きだった女の子とドライブしていました。この曲はその頃のほろ苦い思い出をメロウなフロウに乗せて甘く歌い上げています。狂気的な楽曲を制作する反面、このようなラブソングも同時にこなしてしまうギャップには惹かれてしまいます。

YNW Melly – 772 Love

YNW Melly の楽曲を聴く際に押さえておきたいポイントの1つでもあるのが、オートチューンバリバリな奇妙な歌声です。初めて聴く人は、受け付けない歌声かもしれませんが、Melly を好きになる人は彼のそのようなスタイルに惚れ込む人も多いです。こちらの曲で存分に楽しめますので一度聞いてみてください。ちなみに2:44秒くらいから本領発揮します。

YNW Melly – Alarm

おわりに

Melly への深すぎる愛によって長ったらしい記事になってしまいました。しかし、 Melly についての情報がここまでまとめられた記事が他にないと思うので、これから Melly を知る方、もっと知りたい方の目に止まってくれれば嬉しいです。ここまで読んでいただいてありがとうございました。ではまた次回!

↓今回紹介した楽曲などを収録したオリジナルプレイリストです。

https://music.apple.com/jp/playlist/melly-vs-melvin/pl.u-2aoqp4bfNWXxYz0?l=en

ヒップホップ界のカートコバーン Lil Peep とは

どうもです。外も一層寒くなり、つい先頃まで紅葉を楽しんでいたはずが…

さらっと秋が流れてしまうようになった今日この頃でありますが。

本日、Lil Peepこと、故グスタフ・イラジャ・アールの命日と共に、アルバムが発表され他ので、この記事を書いてみようかなと思いました。

まあ今日は長くなりすぎないようにすらりとLil Peepのこれまでを振り返り、懐かしい気持ちになったり、再発見をしていただけるなら幸いと思い、書き進めていこうと思います。

ではまず、ニューヨーク・タイムズ誌にも 「ラップ界のカートコバーン」 と謳われている彼のプロフィールを垣間見しましょう。

生い立ち

1996年11月1日、本名をグスタフ・イラジャ・アールという Lil Peep はペンシルベニア州のアレンタウンで生まれました。

彼の両親はハーバード大学の卒業生であり、母親は小学校の先生、父親は大学の教授という勉学には困らない家庭で育ちました。

ハーバード大学

生後、彼は思春期をニューヨーク州のロングアイランドで過ごします。やはり遺伝は少なからず影響するもので、彼は成績が優秀でした。

しかし、精神的な疾患や周りとのコミュニケーションに悩み、高校を中退してしまいます。(ちなみにその後、彼はオンライン学習で高校卒業認定を受けるのですが)

そして、17歳でロサンゼルスのスキッド・ロウにに移り、本格的に音楽活動を始めます。そして2016年までに4つのミックステープと5つのEPをリリース。また、この2016年にはロサンゼルスのエコー・パークに拠点を移します。

この頃にはSound Cloudなどで徐々にその人気に火がつき、そして2017年に一世を風靡するアルバムを発表します。

1. 『Come Over When You’re Sober, Pt. 1 』(2017)

オルタナティブ・アルバムチャート3位、ヒップ・ホップ・アルバムチャートでも16位を記録しました。

ファーストアルバムのこのアルバムこそが、彼が生涯で唯一リリースするアルバムとなるのですが…

オススメ曲

1. Save That Shit

Fuck my life, can’t save that, girl. Don’t tell me you could save that shit.

クソみたいな人生だ、君でも救えないぐらいに。救えるだなんて言わないでくれ。

Fuck my lifeで始まるまさにLil Peepのペシミスティックな人間性が満開の曲ですが、実は最初のここのリリックをどう捉えるかで曲のイメージが全く変わるんですね。ざっと二通りの訳し方があります。

1.save that girl(あの子が救えないなんてクソな人生だ)

2.save that, girl.(君にも救えないよ。こんなクソな(俺の)人生)と捉えるか。

そう聴いてみると、女の子のことをshitと表現したのか、自分のくそな人生をshitと表現したのか。聴いてみるとますます深いですね。すごく深い曲だと感じます。

2. Better Off (Dying)

僕がこのアルバムで一番好きな曲です。

彼の曲の中では珍しく重苦しくなく、むしろ美しい旋律から始まるんですが、やっぱりボーカルが入った瞬間に彼の世界に吸い込まれるんですね。

ちなみにこのアルバムが出た8月に、自らがバイセクシャルであることをツイートで告白するんですね。それを考慮すると、次のリリックの感じ方も変わってきます。

Cocaine lined up, secrets that I’m hidin’.

コカインを並べる、俺が隠してる秘密だ。

コカインを隠すことと自分の性的指向を隠していることをかけているのでしょう。

音楽人生の頂点へと差し掛かろうとしているその頃、事件は起きました。

2017年11月15日、アリゾナ州ツーソンでのライブ会場に向かう途中のツアーバスにて、彼の死亡が確認されました。

その日のインスタグラムの投稿で、ザナックスらしき薬物を摂取している様子が見て取れます。

https://www.instagram.com/p/BbhJN8MFBlT/?igshid=18x19cwklfo8q

その後、12月には正式な死因がフェンタニルとザナックスの過剰摂取であると断定されます。

ザナックスは、周知の通りサウンドクラウドラッパーのリリックなどに頻出する薬物で、処方箋があればもらえるドラッグです。

ザナックス

フェンタニルに関しては、かなり少量でも効果があって、麻酔や鎮痛剤として使われるドラッグです。

また、フェンタニルは伝説の R&B シンガー Prince の死の原因としても有名ですね。

フェンタニル

そして、この二つの薬物を同時に摂取することは呼吸困難を引き起こすなど、極めて危険です。しかし、Lil Peepは死や希死念慮について歌うことは多かったものの、この時に自殺願望を仄かしてはいませんでした。

また、ライブに向かっていたという事実からこれは自殺ではなく、事故であると結論付けられました。

2. Come Over When You’re Sober, Pt. 2 (2018)

次に、丁度一年前に出た 『Come Over When You’re Sober, Pt. 2』についてです。

リル・ピープと生前から親交の深かったプロデューサー、スモーカサックが前作『Come Over When You’re Sober, Pt. 1』の発表後に制作していた未発表音源がベースとなっている作品です。

僕はこのアルバムのリリースが告知された時、死後と言うことでその完成度を心配していました。でもそれは間違っていました。おそらくリルピープの作品の中で最も優れた作品が作られてしまったのです、悔しくも彼の死後に。

オススメ曲

1. Broken Smile (My All)

この曲はタイトルのように、まさに彼の全てのような曲ですね。

魂の震えのような音が徐々に大きくなり、錆びた鉄琴が姿を現し始め、悲しげな声と旋律で全てを捧げた女性を想います。

彼女も壊れた心の持ち主だったと叫ぶフックでの彼の声に引きずり込まれてしまいます。彼女に自分や自分のような人を重ね合わせていたのでしょう。

2. Runaway

リル・ピープの子供時代の絵だったり、生前の彼の姿をおさめたミュージック・ビデオが話題となりました。

早くここから出してくれ、みんなフェイクなんだと叫ぶリリックが印象的で、まさに Lil Peep を象徴する荒くローファイなビートですね。

3. Life Is Beautiful

人生の美しさを語った曲、Life Is Beautifulも印象的な一曲です。いや実際は全く美しさなんて語ってないんですが。

They’ll kill your little brother and they’ll tell you he’s a criminal.
They’ll fucking kill you too, so you better not get physical.

あいつらはお前の弟を殺し、だって弟は犯罪者だからと言う。
そんなにカッカするな。いつかお前も殺されるんだから。

こんなズタズタになったって傷ついたって「人生はそれでも美しいんだ」と言う彼。希死念慮についても触れていて、いつか俺は部屋で一人で死ぬんだとも言っています。

ただ最後のアウトロでまた言うんです。これにやられちゃいますね。

Isn’t life beautiful? I think that life is beautiful.

(それでも)人生って美しいだろ?俺はそう思うんだ。

他のおすすめとしては、XXX Tentacion とのコラボ曲で全米シングルチャート13位となった『Falling Down』です。

また、同じ曲でアイラヴマコーネンがフィーチャーされた「サンライト・オン・ユアー・スキン」はストリーミング・アルバムのみに収録されています。

2019年1月には彼が生前に歌っている場面を収めたPV
Goth Angel Sinner が発表され、ついに先月の10/31に EP「Goth Angel Sinner」がリリースされました。

生前から彼はこのEPを出すことをほのめかしていましたし、特に『When I Lie』が大好きで聴きまくっていたということもミュージックビデオを共に撮影した Rayn が語っています。

また、今年の3月に放送されたドキュメンタリーが 『Everybody’s Everything』。そしてこの名前が今回リリースされたアルバムの名の元でもあるのです。

3. EVERYBODY’S EVERYTHING (2019)

『Goth Angel Sinner』の三曲共を含んだこのアルバムが本日リリースされました。

オススメ曲

1. 『Belgium』

まずは先行 EP から一曲、『Belgium』。

エモロックというよりかは90年代のUK・USのロックを感じさせるようなイントロですね。

2. 『witchblades (wit Lil Tracy )』

いやこれ聞いてめちゃくちゃ懐かしいなって思いましたね。サンクラにも綺麗な音のヴァージョンは上がらなかったし、みなさん結局Youtubeで見てばっかりだったんじゃないですか。まあ Lil Peep ファンの方は絶対懐かしく思ったに違いありません。

3. 『AQUAFINA ( ft. Rich The Kid )』

いやー、Rich The Kidの少し急ぎ足なフロウがたまらないですね。この人のビートアプローチにはいつもはっとさせられるばかりです。

Molly in my Aquafina.

水に溶かしたMDMA

強烈なラインで始まるんですが、Molly (MDMA) を水に溶かすってかなりポピュラーな MDMA の使い方なんです。そもそも水溶性なんでそれが一番効きやすいんです。

あと、Aquafinaってのはかなり有名な水のブランド何ですが、4年前ぐらいに中身が水道水だってことが判明して炎上していました。

4. 『Rockstarz ( ft. Gab3 )』

いやー、このアルバムで大活躍の Gab3 ですが、結構長いこと日本にきてましたね。神戸の某ライブハウスのライブでGab3のパフォーマンスを見たんですが、めちゃくちゃ一生懸命歌う人なんですね。

この曲のイントロでは Lil Tracy などが登場しますし、割と楽しく感じる曲です。

おわりに

どうでしたか。最新アルバムだったり、シングルだったり他にもいい曲がたくさんありますので、是非プレイリストもチェックしてみてください。

https://music.apple.com/jp/playlist/everybodys-everything/pl.u-GgA52y5iZ1GAeaY?l=en

ヒップホップと高級車

ロールス・ロイスにランボルギーニ。

フェラーリやベントレー。

これらの高級車は、誰もが一度は夢見る永遠の憧れです。そして、やはりヒップホップと高級車の関係は切っても切り離せませんし、ラッパー達にとっても高級車は光り輝く宝石のようなものなのです。今回はそれらの高級車がどのようなものなのか、ラップのリリックと絡めながら解説していく記事になります。

高級車を意味するスラング

Expensive Car (高級な車) なんて言葉はリリックの中ではほとんど聞いたことがありません。例えば、“Foreign” というスラング。Playboi Carti も “Foreign” ってタイトルの曲を出してますが、学校なんかではこの言葉は「外国の」なんて意味で教わりますよね。結論から言うとこのスラングは、そのまま「(外国の)車」を表します。ですからアメリカのラッパー達にとってアメリカ以外で製造された高級車(ドイツのメルセデス・ベンツやイタリアのフェラーリなど)のことを指すスラングです。

あと、主に使われている高級車を表すスラングは “Whip” です。”Whip” って言葉にはもともと「むちで打つ」などの意味があるんですが、なぜこれが車を表すようになったか、そのヒントはフェラーリのエンブレムにあるんです。フェラーリのエンブレムは皆さんご存知の通り馬のデザインですよね。馬を走らせる時にむちで叩くことから、はじめはフェラーリを表すスラングとして使われていました。それが時とともに高級車全般をさすスラングに変容していったってわけです。

Rolls Royce

はじめは高級車の王様であるロールスロイスについてです。イギリスに拠点を置いた高級車ブランドなのですが、各国の王室が公用車として採用していたりするので、車に詳しくなくても聞いたことがあるかもしれません。

ロールス・ロイスには “Ghost” (ゴースト) や “Phantom” (ファントム)、”Wraith” (レイス) などいくつかのモデルが存在します。ラッパーたちはリリックの中で “Rolls Royce” というブランドの名前を登場させることはむしろ少なく、先述のモデル名で呼ぶことの方が多いです。モデルによって最大で約2000万円の価格の違いが生じてきますから、自慢気質なラッパーたちにとって一番高いランクのモデルを所有していることをラップしたい気持ちがあるのでしょう。ちなみにロールス・ロイスのエンブレムにちなんで “Double R” と呼ばれたりもします。

ロールス・ロイスの中で最もハイクラスなモデルはファントムです。車体価格は5570万円で、様々なオプションを付けるとゆうに6000万円を超えてくる生粋の高級車ですね。ちなみにファントムの中にも上位モデルが存在し、そちらの車体価格は6670万円にも上ります。空前絶後のバズを起こした Lil Tecca の “Ransom” で彼はこのようにラップしています。

Hop outside a Ghost and hop up in a Phantom

ゴーストから跳び降りて、ファントムに跳び乗る

Lil Tecca – Ransom

ロールスロイスの中で最もお手頃なモデルであるゴーストから跳び降りて、最も高額なファントムに乗り換えるとラップしているわけです。ただ、Lil Tecca ら Genius のリリック解説動画において、リリックに登場することは殆ど嘘であり車は持ってないし運転すらしないと公言しています。

名前的に一番かっこいいゴーストというモデルですが、88GLAM が NAV の ”Racks in My Sleep” に参加した時に、Derek Wise このような素晴らしいラインを披露しています。

Poltergeist, we in a Ghost, we can’t be seen (Skrrt, skrrt)

ポルターガイスト 俺たちはゴーストに乗ってる 誰も俺たちを見ることはできないぜ

Nav – Racks in My Sleep (feat. 88GLAM)

これはダブルミーニングを駆使したかっこいいリリックですね。「ポルターガイスト」とは誰も触れていないものが突然動き出す怪奇現象ですが、Derek Wise は「お化け」という意味の “Ghost” とロールスロイスのモデル名の “Ghost” をかけています。「俺たちはロールス・ロイス ゴーストに乗ってるから、お化けみたいに誰にも見られずに車を動かせる。まるでポルターガイストだ。」という感じです。

ちなみに、車系の歌詞がラップされたときなどに、アドリブでよく使われる “skrrt” という言葉は、車がドリフトした際にタイヤが地面に擦れる音を表現したオノマトペです。

Bentley

次に紹介するのはベントレーです。こちらもイギリスの高級車メーカーであり、翼の真ん中に “B” のロゴが特徴的です。ベントレーは現行のほとんどのモデルが約3000万円であり、ロールスロイスに比べると比較的お手頃です。Bentayga (ベンテイガ) というSUVも製造しており高級車とスポーツカーの両方の要素をミックスした感じですね。

世界最高峰のSUV ベンテイガ

ちなみに Lil Uzi Vert は名だたる高級車を全てカーキにペイントし、無駄にいかついオプションパーツを装着した様子をInstagramに投稿していましたが、ベントレーのコンチネンタルというモデル、もはや原型がないほど改造しています。バンパープロテクターやスペアタイヤを搭載し、オフロードも走行可能なタイヤに履き替えています。

Lil Uzi Vert の車にカスタムを施したガレージ Car Flex より

ちなみに Lil Uzi はもう一台カーキのベントレーを所有していましたが、盛大に事故って廃車となったそうです。

J.Cole は自身の楽曲である “KOD” にてベントレーに言及しつつこんなラップをしています。

This is what you call a flip

これが君が “flip” って呼ぶものだろ
Ten keys from a quarter brick

1/4 ポンドから10キロのコカイン

Bentley from his mama’s whip

ママの車からベントレーに

J.Cole – KOD

“flip” っていうのは、安いドラッグを買ってそれを高値で転売する行為を表すスラングです。J.Cole は昔、このようにドラッグの転売を行って稼いでいた過去があるようで、その時のことについてのラインです。”key” と “brick” はどちらもドラッグ(主にコカインに用いる)の重さを表すスラングで、”key” は1キログラム “brick” は約450グラムを表しています。つまり、彼は110gのコカインを安価で入手し、それを転売することで10kgのコカインが買えるほどのお金を稼いだわけです。そうして稼いだお金で、自分では買うことができなかったため使用していた母親の車を卒業して、ベントレーをゲットしたんです。ドラッグビジネスはいつも桁が違いすぎて怖いですよね。

ベントレーに限ったことではありませんが、ラッパー達はよくリリックの中で “tint” という言葉を使います。”tint” というのは車の窓をくもらせて、外から内部を見えにくくすることです。ほとんどの車は元から後部座席に軽い “tint” が施されていますが、ラッパー達はしばしばカスタムによって外からの視線を完全に遮断します。窓に特殊な加工を施して自由自在に窓の透明度を調節することも可能なのですが、Nicki Minaj は自身の楽曲 “Chun Li” の中で “Bentley tinta on” とラップしています。彼女はベントレーに調節可能の曇りガラス機能をカスタムを施したようです。

透明度を調節可能な曇りガラスのカスタムを搭載した車

Lamborghini

この記事の最後に紹介するのは、やはり何と言ってもランボルギーニです。ランボルギーニは他の高級車に比べてもかなりスポーツカーよりな気がしますが、ここ最近でランボルギーニについてラップするラッパーがかなり増えました。ランボルギーニといえば、アヴェンタドールやウラカンのようなスポーティなモデルを一番に想像するでしょう。しかし、最近のラッパー達の間での流行の波は完全に Lamborghini Urus (ウルス) です。ウルスは2017年に発表されたランボルギーニ初のSUVです。ベンテイガを含むSUVの人気からは、やはり乗りやすい車に乗りたいというラッパー達の本音が垣間見えます。

売れっ子ラッパー達はこぞってウルスを納車しまくってますが、Gunna もそのうちの一人です。Gunna はものすごく鮮やかなオレンジ色のウルスを納車しましたが、それについて Future の “Unicorn Purp” という楽曲に参加した際にこのようにラップしています。

New Lamborghini, the Urus, it came in all orange, it look like a pumpkin (Yeah)

新しくランボルギーニ・ウルスを買ったぜ。全面オレンジでかぼちゃみたいだ

Future – Unicorn Purp (feat. Young Thug & Gunna)
Gunna の Instagram より

いかがでしたか。今回は三種類しか紹介できませんでしたが、今リリックに頻出するベスト3に絞ってみたつもりです。気をつけて聞いていると、一曲通して車の名前が出てこない曲の方が少ないと言っても過言ではないでしょう。僕は将来 Tesla のModel X という車に乗ることを決めているのですが、それがどのような車なのかはまた第二弾で書くことにします。それではありがとうございました。

Brooklyn Drillってなに?

記事の内容を動画でもご紹介しています。

皆さんこんにちは。今回は、近頃ニューヨークのみならずアメリカ中で人気を博しつつある”Brooklyn Drill(ブルックリン・ドリル)”というジャンルについて、3人のラッパーを取り上げながらご紹介していこうと思います。記事の最後に、今回ご紹介させていただいた楽曲や、今後要注目のニューヨーク出身アーティストの楽曲を集めたプレイリストのリンクを貼っていますので、最後まで読んで頂ければ嬉しいです。それではさっそくいきましょう。

そもそもドリルミュージックって?

ドリルミュージックとは、2010年頃にイリノイ州シカゴで生まれたとされる、主に暴力や殺人などをテーマとしたヒップホップのサブジャンルのことを指します。Chief KeefやLil Durkらの台頭は記憶に新しいですが、彼らこそドリルシーンの立役者です。そんな彼らの功績もあって、ドリルミュージックは世界的に波及していきました。特にめざましかったのがイギリスへの波及、UKドリルです。衰退しつつあるシカゴのドリルシーンと比べ、イギリスでは今もなお盛り上がりを見せています。ロンドン警視庁によってUKドリルのミュージックビデオが削除されたり、若手ドリルグループ1011の活動が制限されたりといった出来事が、その盛況ぶりを表しています。

Brooklyn Drill

さてここから本題に入ります。ニューヨークといえばヒップホップ発祥の地として有名ですが、ここ数年はシーンとしての盛り上がりを見せておりません(Bobby Shmurdaや6ix9ineなど度々お騒がせ者は登場しますが…)。世界的にヒップホップが流行している中、そろそろ本場ニューヨークの若手にも頑張ってほしいなと思っていた矢先、突如としてブルックリンに新しい風が吹き込みます。それが”Brooklyn Drill(ブルックリン・ドリル)”です。このブルックリン・ドリルとは、その名の通り、ニューヨーク・ブルックリンで生まれたドリルミュージックのことで、2017年頃からじわじわと人気を集めてきました。シカゴドリルやUKドリルからの影響を強く感じさせるものの、新たな音を取り入れることを拒まず、彼ら独自のジャンルを作り出そうと日々進化を遂げています。

ここからはブルックリン・ドリルにおける重要且つ要注目なアーティストをご紹介していこうと思います。

1. Sheff G

ブルックリン・ドリルを語るにあたってまず最初に知っておくべきなのがこの男、Sheff Gです。

彼以前にもドリルスタイルを取り入れていたラッパーはいたのですが、最初にこのスタイルで注目を集めたのがSheff Gです。とやかく説明する前にまずは一曲聴いてみましょう。Sheff Gで”No Surburban”。

いかがだったでしょうか。不穏なメロディやドラムパターン、暴力的なリリックからドリルミュージックの影響を強く感じることができます。この楽曲は、後に紹介するラッパー22Gzの楽曲”Suburban”へのアンサー曲なのですが、互いはそれぞれ別のギャング組織に所属しており関係はよくありません。いわゆるビーフ状態にありギャング抗争の絶えない彼らは、彼らのいる境遇を同じく過酷な環境下にあるシカゴや南ロンドンのシーンと重ね合わせてラップしています。このことから彼らがドリルミュージックを自らのラップスタイルに取り入れた理由が分かります。

「シカゴ、UKドリルに影響を受けている」と様々なインタビューでも語っている彼は、実際UKドリルMCのTazeと曲を作ったりもしています。以前にChief KeefもSkengdoやAMといったUKドリルMCと曲を出していましたが、そのコラボよりも遥かにカッコいいので是非聴いてみてほしいです。

その後独自のスタイルを取り入れつつシングルをリリースしてきたSheff Gは、今年遂に彼にとって初となるミックステープ”The Unlucky Lucky Kid”をリリースしました。このミックステープからも一曲お聴きいただきましょう。Sheff Gで”We Getting Money”。

はい。既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、こちらのビート、主に70年代に活躍した日本の歌手、太田裕美さんの”赤いハイヒール”という楽曲をサンプリングしたものなんです。

シティ・ポップ(70~80年代に日本で流行したポップス)はサンプリングソースとして以前から人気がありますが、この選曲は渋いですね。

こういったビート選びから、シカゴ、UKドリルとの差別化を試みていることが見て取れます。実際Sheff GはHotNewHipHopのインタビューにて、「UKドリルビートは邪悪すぎるし、シカゴのビートは使い古されて時代遅れだ。だから俺たちは自分たちで新しいスタイルを作り出さなければならないんだ」と語っています。ミックステープ全体を通して聴いても、元来のドリルのドラムパターンを残しつつ、落ち着きのあるピアノや弦楽器を基調とした独自のスタイルを提示しています。

ちなみに、このミックステープ”The Unlucky Lucky Kid”のカバーを撮影したのは日本人のHazzさんという方で、J.ColeやPusha T、Tory Lanez、A Boogie wit da HoddieなどのMV撮影にも携わる凄腕カメラマンです。

Hazzさん(左)とSheff G(右)

HazzさんのInstagram(https://www.instagram.com/hazznyc/)より

2. 22Gz

次は、先程も名前を出しましたが、22Gzというラッパーについてです。彼はBlixky Boysというニューヨークで最も恐れられるギャング組織に所属しており、可愛らしい顔をして「Blixky(ハンドガンを意味する)」というワードを連呼するやばい奴です。実際、第二級殺人罪で逮捕されたり、Rich The Kidを挑発したり、楽曲内で多くの人気ラッパーをディスったりと、なかなかのアウトローです。

そんな彼は、Kodak BlackのレーベルSniper Gangと契約しており、ラッパーとしての実力は十分です。それでは最初に、そのKodak Blackを客演に迎えた一曲を聴いていただきましょう。22Gzで”Spin the Block (feat. Kodak Black)”。

[22Gz]
And if I miss, I’ma spin the block
撃ち損ねたらもう一度撃つ
Even if I hit, I’ma spin the block
命中してもまた撃つんだ
If I miss, I’ma spin the block
死ぬまで撃ち続けるぜ

はい、これぞドリルって感じの曲です。危険な匂いがプンプンしますが、幾多の犯罪歴を持つKodakが気に入る理由も分かります。

ここでもう一曲、彼の人間性が伝わってくる楽曲をご紹介したいと思います。22Gzで”Sniper Gang Freestyle”。

この曲中で彼は、6ix9ineやTory Lanez、G Herboなどの人気ラッパーや、Kooda BやJay Dee、Dee Savvなどの同郷ブルックリン出身の若手ラッパーを次から次へとディスっています。

さらに、こんなラインも登場します。

Killing ni**as and I rap about it like I’m Melly
人を殺してそれについてラップする、Mellyみたいだろ

Mellyとは、皆さんご存知、第一級殺人罪でお務め中のラッパー YNW Mellyのことです。22Gzは、そんな要注意人物である彼と自分を重ね合わせているみたいです。重ね合わせるのは自由ですが、同じ道は辿ってほしくないと願うばかりです。

基本的にはこういった暴力的且つ攻撃的な内容のリリックが多い彼ですが、力強い声と多彩なフロウが魅力的で、一度聴くと病みつきになる中毒性を持ちます。今年リリースされた彼のミックステープ”The Blixky Tape”も完成度が非常に高いので是非聴いてみてください。

3. Pop Smoke

続いては皆さんお待ちかね、Pop Smokeです。”Welcome to the Party”という楽曲、皆さん一度は聴いたことがあるんじゃないでしょうか。

このPop Smokeというラッパーもブルックリン出身なのですが、上記の2人のラッパーとは少しテイストが違います。まずは、わずか30分で作り上げたという彼の代表曲を聴いていただきましょう。Pop Smokeで”Welcome to the Party”。

いかがだったでしょうか。明らかにアメリカのヒップホップの音(ビート)じゃないですよね。そうなんです。この曲は、UKドリルMCのHeadie OneやRVなどにも楽曲を提供している東ロンドン出身のプロデューサー、808Meloによるプロデュースなんです。808Meloは、Sheff GやSleepy Hallowなど他のブルックリンのラッパーにも楽曲提供しているのですが、Pop Smokeは自身のほとんど全ての曲で彼のビートを使っており、完全に独自のスタイルとして定着させようとしています。

そして、このラッパーの凄さはなんといってもブレイクまでのスピードです。昨年の12月頃にラッパーとしてのキャリアをスタートさせた彼ですが、今年の4月にリリースした”Welcome to the Party”がニューヨークを中心にヒットし、それを知ったPusha Tがニューヨーク開催の「The Greatest Day Ever! festival」にてPop Smokeをステージに上げました。

この出来事が後押しとなり、”Welcome to the Party”はバイラルヒットとなりました。その後リリースされた9曲収録のミックステープ”Meet the Woo”のリリースパーティでは、同郷ニューヨーク出身のフィメールラッパーNicki Minajを客演に迎えた同曲のRemixを発表しました。

実はこのリミックス、アルバムリリースとPop Smokeの二十歳の誕生日祝いを兼ねたサプライズプレゼントで、彼自身もこのリリースパーティで初めて聴くことになりました。その時の様子をご覧ください。

Nickiのバースでブチ上がるPop Smoke。完璧なリアクションです。

その後もFrench MontanaやSkeptaらがリミックスに参加したりとその勢いは留まることを知らず、2019年夏は完全にPop Smokeが持っていってしまいました。それにしても半年強でここまでのヒット曲を生み出したのは本当にすごいです。まだまだこれからに期待ですね。

Rolling Loudへの出演キャンセル

ちなみに今回ご紹介させていただいたSheff G、22Gz、Pop Smokeの3人のラッパーは、先月開催された「Rolling Loud New York」に出演予定だったのですが、暴力事件への関与を理由に警察からキャンセルの要請があったため、急遽出演不可となりました。こういった出来事からも、ニューヨークにおいてドリルミュージックが盛り上がりを見せているのがわかります。

ニューヨーク市警からの出演取り止めの要請書

おわりに

いかがだったでしょうか。ヒップホップ誕生の地、ニューヨークで盛り上がりを見せるブルックリン・ドリルの魅力が、この記事を通じて少しでも多くの方に伝わっていれば嬉しいです。最後までお読み頂きありがとうございました。

今回ご紹介させていただいた楽曲や、今後要注目のニューヨーク出身アーティストの楽曲を集めたオリジナルプレイリストを公開しています。もしよろしければApple Musicのフォローもよろしくお願いします。

https://music.apple.com/jp/playlist/upcoming-new-york/pl.u-2aoqprzCNWXxYz0?l=en