070 Shake – Flight319 和訳・解説

No pigmentation, giving you the blues

偽りのない、ブルースをあなたに

みなさん御機嫌よう。

今日は素敵な言葉遊びで始まる一曲、ニュージャージー州出身の女性シンガー / ラッパー 070 Shake の最新アルバム 「Modes Vivendi」の収録曲『Flight 319』です。彼女はここ最近、カニエ・ウエストやDJキャレドなどレジェンドアーティスト達からも引っ張りだこのアーティストです。

そして、アルバムの中でも一際異様な雰囲気を放つこの曲を和訳・解説をして行くんですが…

始めに言っておきます。この曲には「ある秘密」が隠されています。僕も聴き込んでいくうちにビックリしてしまいました。最後まで読んだあなたは衝撃を受けること間違い無しです。では、いきましょう。

[Verse]
No pigmentation, giving you the blues

偽りのない、ブルースをあなたに

※色をつけるという意味の pigmentation と 青色・ブルースという意味を持つ blues を使っていきなり色を使ったワードプレイを見せてくれます。さらに着色をしない、というのは話を盛らないという意味でもあるので、「偽りのないブルースをあなたに」という意味にも取れます。

Suffering from FOMO, she could come, too

ついて行くことに必死…すでに追いつけている(そこにいる)かもしれないのに

※FOMO は 「fear of missing out」 (取り残されることを恐れている) という現代のSNS社会におけるユーザーの象徴とも言える言葉です。

Screaming out YOLO,  jumping off the roof

「人生は一度きり」と叫びながら、屋上から飛び降りる

※YOLO は 「You only live once」(人生は一度きり)という意味。インスタなどでよく見かける言葉ですね。

One more drink, one less I’ll (Lose)

一杯飲むたびに、1つずつ失っていく。

※ここの Drink は酒を飲むという意味でしょうが、社会問題となっているケミカルドラッグの摂取も意味しているのかもしれません。

She’s betting on science, she say she needs proof

彼女は科学を信じ…「証拠」が欲しいという。

※ここもかなり上手いワードプレイが行われているんです。科学を信じこむ(bet on) 女は何事も 「proof」(証拠) が欲しいと思っている。科学に証明はつきものなので自明なんですが、実は proof は「アルコール度数」という意味でもあるので、先ほどの drink のラインと相まって、強い酒が欲しい、アルコールは安全(だと科学的に証明されてる)でしょ?といった感じにここもダブルミーニングが含まれているんですね。確かに、タバコはダメだけどアルコールは大丈夫と一般的に言われているのはホンマなんかな?って思いますね。

ここまでのリリックだけでかなり上手いなってつくづく思うんですが、実はかなり文学的でもあるんですね。

先ほどの歌詞でいえば、人生は一度きりと言いながら飛び降り自殺をする…追いついているのについて行くことに必死…など一見自己矛盾した節が続いています。

これは「明るい闇」や「永遠の刹那」など全く反対の言葉を組み合わせる撞着語法というもので、フランス文学などでよく用いられる用法なんですね(ああ…愛しのマルグリット・デュラス…)

マルグリット・デュラス(仏) 小説家・映画監督

ラッパーでもある彼女はこういった難解そうなリリックを難なく書いてしまう…どこか大物感が漂っていますね…どおりでカニエが彼女を気にいるわけです

If I was out of my body, you would see the truth

もし僕が体外離脱すれば、あなたにも真実がわかるでしょう

※ out of body ってのはいわゆる幽体離脱ってやつです。ここのラインは一見意味がわからなさそうですが、おそらく先ほど科学を信じ切った女が出てきましたので、その人に科学じゃ証明できない真実があるんだって言いたいのでしょう。でもなんでいきなり幽体離脱なんでしょう?謎は深まるばかりです。


And my brains bruised from all of the bad news
And my brains bruised from all of the bad news

最悪なニュースばかりで頭がいたい… ×2

※不思議と二回繰り返されるこのラインがこの曲のポイントとなるところに違いありません。

Lost her only son and he wasn’t even three
Now try telling her that everything is meant to be

彼女はたった一人の息子を失った…まだ3歳にも満たなかったのに…
そして僕は彼女にこう言い聞かせるんだ…「全て “運命” だよ」

It’s hard to believe a vision you can’t see
But tell me, have you looked at the air that you breathe?

確かに見えないものを信じるのは難しい…
でもどう?あなたは普段呼吸している空気を見たことがあるでしょ?

※ここでは非科学的なことを信じない彼女に問いかけます。空気を見たことがあるでしょ?これは例えば空を見上げる、などといったときに見えるはずもない空気の塊を見つめているじゃない?ということを問いかけているんじゃないでしょうか?それとも化学実験などの状態変化などの観察を意味するのかもしれません。どちらにしろ化学じゃ証明出来ないこともあるんだということを意味しているんですね。

The balance in me split by three
I sold my mind and my flesh

私は3つに分かれている…心も体も売ってしまった

※なぜここで3が出てくるのでしょうか?キリスト教的な世界観でいえば、ここは三位一体的なニュアンスなのかもしれません…三位一体とは、聖書に出てくる神は父であり、子(キリスト)であり、精霊である。というニュアンスの言葉です。じゃあなんでここでそれが出てくるのか?ヒントは3という数字…あ!三歳の男の子!!あそこにヒントが隠されてたんや!!じゃあこの Iってまさか…そういうことなんかな?やとしたら…心と体を売ったっていう表現って..あの子は死んじゃって精霊に….

They don’t get the context ’cause it’s too complex
I was in my highest, I was in my high

みんな状況を理解してない…だって複雑すぎるから
僕は最高の気分なのに…今まで味わったことないくらいに

※ここはおそらく先ほどの解釈でいけば、聖霊(幽霊)か何かになった男の子が、人間には理解できないだろうけど今の気分は最高なんだって感じているんでしょう。

[Chorus]
Said, oh, I’ll never know
How long I’ll stay, how far I’ll go

ああわからない…あとどれくらいいられるんだろう…どれくらい遠くまで行くんだろう

※聖霊にもこの世に居られる時間などが決まっているんでしょうか?

Said, oh, I’ll never know
How long I’ll stay, how far I’ll go

(繰り返し)ああわからない…あとどれくらいいられるんだろう…どれくらい遠くまで行くんだろう

[Outro]
Astronaut
Answer now like an astronaut
Get alcohol like an astronaut
Area code like astronaut, yeah-yeah

宇宙飛行士…今宇宙飛行士みたいに答えるよ。宇宙飛行士みたいにお酒を飲んで、宇宙飛行士のように特定してあげる

※宇宙飛行士のようにっていうのは精霊のようになった彼が世界を俯瞰していることのたとえでしょう。ちなみに Area code ってのは日本語で言う市外局番という意味で、電話で場所の特定に使われるやつですね。神戸だったら078…みたいな。でも意味わかんないですよね。
実は area code ってめちゃくちゃ激しく腰動かしてパコパコ…みたいな意味があったりするんです…それと、一番一般的に使われる area code の意味は、女の子の評価なんですね。例えば918…みたいな一つめの9はその女の子の顔を0-9で評価して…2つ目の数字は0か1で、1なら抱きたい、0は抱きたくないを意味して…3つ目の数字は身体を0-9で評価するんです。いや918ってどんなええ女やねん、霧島レオナか!どうぞ Porn hubへ…(カニエウエスト風)

Tragedy
You turned a good thing to a tragedy
Being held down by gravity
Baby, hoping you can see the map

悲劇…あなたはあの悲劇に一筋の光をもたらした…重力に包まれながら…あなたにもその世界が見えるといいな…

※悲劇というと、やはりギリシア悲劇が有名ですね。確かに小さな子供が死んだと考えれば悲劇という表現は納得です。

Good night to all of you, wherever you are

君の全てにありがとう、たとえどこにいたとしても

※ここは、劇の始まりのような音声ですね。先ほどのtragedy(悲劇)とかけているのでしょうか。

[Interlude]
I prefer the pain, you tellin’ me
I know you haven’t said a prayer in a month or so

私は苦痛を選ぶよ、あなたは僕に言う。確かにあなたは一ヶ月ぐらい経っても神の祈りに頼ることはなかったね。

※これは、どうしても神を信じない(非科学的なものは信じないから)母のことを意味しているんでしょう。あの子が死んでからも母は神に祈りを捧げたりはしなかった。

You givin’ up your faith for some fun, yeah

I don’t feel the rain or the sun, no (Oh-oh)

あなたは楽になりたくて信念を捨ててしまった。(ついに神を信じてしまった) 僕には何も感じられないけど。(何事も人それぞれなんだね。)

※「feel the rain」は直訳すると【雨を感じない】という意味ですが、これはレゲエの神様 – ボブ・マーリーが有名にした言葉で、「雨に濡れる人をいれば、雨を感じると捉える人もいる」つまり、「人それぞれ」といったニュアンスを含みます。

Not the sun, no, not the sun, no

Not the sun, no, not the sun, no

日射しなんて感じない。

Feeling safe with your love song

She feeling safe with your love song

Girl, I’m in love, hope you feelin’ in love, too

あなたの愛の歌で…母さんは安堵に包まれてる。愛してるよ、母さんも愛してくれてるよね。

※この「you」は神学的な世界観で言うところの神様と捉えるのが訳しやすいのではないでしょうか。ついに神を信じ、神の声(神の地=天国からの声)に包まれ、おそらく天国へと向かう母を示しているのでしょう。

どうでしたか?曲としても、劇的セリフのサンプリング後に来る転調、不思議なサウンド、彼女の歌唱センスなど充分素晴らしいのですが、歌詞が驚くべき内容を含んでるんですね。

一見、見るだけだと恋人との愛の歌のようにも感じるのですが、これが実は「死」というテーマを含んだ曲なんですね、驚きです。

そして、この曲の歌詞を逆から読んでいってみてください。子を失った母は信じることのなかった神を信じ、アルコールにまで溺れ、人生は一度きりと言いながら飛び降り、重力に包まれながら悲しいラストを迎える、これが 070 Shake の言う偽りのないブルースなのです。

最後に一つだけ言って終わりたいと思います。それは、曲名『Flight319』についてです。この曲のポイントでもある3歳の子供が亡くなった飛行機事故は実際に起こっています。

LIAT Flight 319と呼ばれる小さな飛行機が、1986年8月3日にカリブ海に不時着し、11人の乗客と2人のパイロットが亡くなる事件です。

最後まで曲名通りの偽りのないブルースですね。では、ここら辺でサヨナラ…サヨナラ…サヨナラ。

ノースカロライナの暴れん坊 Stunna 4 Vegas とは

みなさんこんにちは。今回は、ついに待望のニュープロジェクト『RICH YOUNGIN』をリリースした Stunna 4 Vegas について書いていこうと思います。DaBaby によるレコードレーベル である Billion Dollar Baby に所属していたり、Offset や Lil Durk なんかと共演していたりと何かと露出が増えてきた彼ですので、ご存知でないみなさんもこの機会に是非チェックしてみてください。今年は絶対にもっと上がっていきますので、、、

ニュープロジェクト「Rich Youngin」のカバーアート

Stunna 4 Vegas って?

Stunna 4 Vegas (スタナ・フォー・ベガス) こと Khalick Antonio Caldwell は ノースカロライナ州のソールズベリー出身のラッパーです。彼のキャリアはかなり浅く、ラップを始めたのは 2017年前半とかなり最近です。

実は彼、この浅く短いキャリアの中で一度だけ改名をしています。現在のステージネームの “Stunna 4 Vegas” という名義を使い始めたのは、 2018年に DaBaby をフィーチャーしたシングル『Animal』をリリースした時からで、それ以前は 「$tunna」 という名義のもとで活動していました。ちなみに各種プラットホームにて「$tunna」と検索していただければ、彼の古い作品を聴くことができます。

極端に音数の少ないビートの上で、一行一行、言葉という名の鋭い釘をハンマーでブッ刺していくような激しいラップ。それが彼の特徴であり、人気が出た理由です。多くの場合この手のスタイルは、荒々しさがポップさに勝ってしまい、メロディアスなスタイルなどに比べて倦厭されがちですが、Stunna の場合は一味違いました。荒々しいスタイルの中に、飛び跳ねるようにバウンシーなフロウを混ぜたり、声色に緩急をつけたりすることで、いい塩梅にG臭とポップさのバランスを取っています。

DaBaby との出会い

Stunna 4 Vegas のキャリアは、DaBaby と出会った時から大きく動き始めます。最近では、DaBaby が満を持してリリースしたアルバム『KIRK』の9曲目に収録されている『REALLY』 にもフィーチャーされていました。実際のところ私自身も DaBaby 経由で彼のことを知りましたし、Stunna のキャリアの中で DaBaby の存在はかなり大きいと考えられます。

彼が初めて DaBaby と共に制作した楽曲は、先ほども言及した「Animal」というシングルです。Stunna と DaBaby は両者ともにノースカロライナ出身であり、共通の知り合いであったDJ B Eazy の仲介によって出会ったそうです。

彼は Interscope Records の他に、DaBaby の主催する Billion Dollar Baby というレーベルに所属しています。何度も言いますが、 彼のキャリアに DaBaby は不可欠であり、その事実については 「Ashley」 という楽曲にて DaBaby 自身もこのようにラップしています。

I got my young n***a rich in six months

俺は6ヶ月の間に兄弟をリッチに変貌させたんだ

Stunna 4 Vegas – Ashley (feat. DaBaby)
MVもふざけまくってて、なかなか面白いので是非。

Stunna や DaBaby たちの MV は基本こんな感じのコミカルなスタイルで、Reel Goats というビデオチームによるものがほとんどです。Reel Goats によるビデオの特徴は、DaBaby の「BOP」のビデオに見られるような、ダンスを中心としたコミカルなスタイルですが、実はかなりの実力派集団で、DaBaby の「Intro」のビデオなんかを見てもらえれば、その映像技術の高さがお分りいただけると思います。

『Big 4x』

さて、話を今回の主役である Stunna 4 Vegas に戻します。

DaBaby との出会いから、Stunna 4 Vegas を取り巻く環境は劇的に変化していきました。そんな中、彼は2019年の5月に新しいプロジェクトである「Big 4x」をリリースしました。こちらのアルバムですが、DaBaby はもちろん、Lil Durk や Offset、Young Nudy などを客演として迎えつつ、プロデューサー陣はStunna が得意とする音数の少ないビートを得意とする Producer 20 や Jetsonmade などで固められています。

Lil Durk はシカゴ、Offset や Young Nudy はアトランタと、地域の垣根を超えたキャスティングなので、いろんなジャンルのラップが一枚のアルバムに集約されています。本当に聴いていて飽きないし、何よりも展開が予測できないので楽しいです。アルバムから少しだけご紹介いたしますので、まずはこちらをお聴きください。

お聴きいただいたのは「Big 4x」の中でも個人的おすすめ、Lil Durk との楽曲「Durkio」です。「Durkio」とは、Lil Durk のニックネームのようなものなんですが、客演のラッパーの名前をそのままタイトルにしてしまう大胆さが Stunna の性格を物語っています。こちらの楽曲で Stunna はこのようにラップしています。

I feel like Durkio, why? ‘Cause I signed to the streets
Lil Durk になった気分だ。なぜかって?ストリートと契約したからだよ

I can’t reply to no beef, I’m sendin’ lil’ nigga slang iron for me
喧嘩なんかに応えるはずがない。自己防衛のために武装した仲間を送り込むぞ

Stunna 4 Vegas – Durkio (feat. Lil Durk)

このラインは Lil Durk を客演に迎えたことを最大限に活かした良リリックですね。一行目は「Signed To The Streets」シリーズ (通称STTS) という Lil Durk によるシリーズアルバムの名称と、ストリートと契約を交わす (つまりギャングスタとして生きていく) ことをかけています。普通にラップしても秀逸なラインですが、Lil Durk 本人が客演として参加している楽曲でこれをラップすることによって、説得力が増し増しになっています。

Lil Durk による 「Signed To The Streets」シリーズ

『RICH YOUNGIN』

そしてそして、本日リリースされましたニュープロジェクト『RICH YOUNGIN』についてです。タイトルの「Rich Youngin」とは「金持ちの若者」を意味しており、ここ一年で急激にリッチになった彼にふさわしいタイトルだと思います。

客演は DaBaby に Lil Baby、Blac Youngsta、Offset の4人、通しの時間は30分きっかりとアルバム全体をミニマルに押さえ込んでいる印象を持ちました。

売れる前はゴリゴリだったのに、ある程度売れてしまうと番人ウケを狙ってかG臭が薄くなるラッパーって結構いるんですよね。G好きな私にとって、それはとても悲しいことなんです。ですが、Stunna の場合はそんな私をひとまず安心させてくれました。こちらは、先行シングルとしてリリースされていた Offset との楽曲「Up The Smoke」の一節です。

They wipe his nose if I say so
俺がそうしろって言ったら、仲間たちはあいつを殺すぜ

It’s a green light when I say go
俺が行けっていう時、信号が青に光ってるようにな

Stunna 4 Vegas – Up The Smoke (feat. Offset)

「Wipe someone’s nose」というスラングは、我らが Young Thug によって生み出されたギャングスタ・スラングの一つで、「対立するギャングの構成員を殺す」という意味があります。鼻水を拭いてあげる訳じゃありません。このラインで Stunna は彼の仲間が、彼に対して持っている忠誠心を、信号のたとえと絡めて強調しているんです。ギャングへの忠誠心を、ギャングスラングでラップしてくれたので、彼から漂うG臭がまだかなり強い事がわかり安心しました。

こちらも先述の Reek Goats によるビデオです。

アルバムを通して全体的に少しポップになった印象を持ちましたが、8曲目に収録されている『F*CKING UP FREESTYLE』では、依然として Stunna 独特の雰囲気を醸し出しています。こちらの楽曲は 10K.Caash や Splurge などと楽曲を制作している BeatByJeff というプロデューサーによって手がけられています。彼のビートは極端に音数が少なく、極限まで音が削ぎ落とされています。もともと、音数の少ないビートの上で激しいラップをする事が彼のアイデンティティだったので、ある意味原点回帰的な楽曲なのではないでしょうか。

まとめ

色々と書きましたが、伝えたいことはただ一つ。Stunna 4 Vegas は今年どんどん上がってきます。これからの彼の動向が楽しみです。この記事を読んで彼を知った方も、まだまだ遅くはありません。ぜひこちらのオリジナルプレイリストもチェックよろしくお願いします。

↓XXSオリジナルプレイリスト

https://music.apple.com/jp/playlist/stunna-4-vegas-richest-youngin-of-all-time/pl.u-xlyNAzdukDNrmK5?l=en

Quando Rondo – 2020年ブレイク必至の若きホープ

今週ニュープロジェクト『Diary of a Lost Child』をリリースしたジョージア州サバンナ出身のラッパー Quando Rondo。人気映画「Fast & Furious (ワイルドスピード)」の最新作のサウンドトラックにも参加するなど、活躍の場を広げ始めている彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。

Quando Rondo とは

Quando Rondo こと Tyquian Terrel Bowman はジョージア州サバンナ出身の20歳。Quando Rondo というステージネームは、幼少期のあだ名「Ty-Quando」と、彼の敬愛するバスケットボールプレイヤー「Rajon Rondo」からとったものだそうです。

Rajon Rondo(2020年現在ロサンゼルス・レイカーズ所属)

彼は10代前半頃から友人たちの死と直面するなど過酷な生活を送ってきました。Young Thug や Rich Homie Quan、Chief keef らの楽曲を聴いて育ったという彼の音楽の特徴は、ストレートなリリックと聞き心地の良いメロディアスなフロウです。歌うことから始めたという彼は、「ラップと歌の違いを明確にする必要はない」と語っており、R&Bとも解釈できる彼のスタイルは幅広い層に受け入れられています。今までヒップホップやラップというジャンルに抵抗があったという方にもオススメのラッパーの1人です。哀愁漂うビートに乗る彼の歌声には、一度聴くと病みつきになる中毒性があります。

キャリアの開始

ラッパーとして本格的に活動し始めたのは2017年頃とキャリアは浅い彼ですが、翌年2018年にはいきなりヒット作を世に送り出します。それがこの曲、Lil Babyを客演に迎えた『I Remember』です。

I Remember (feat. Lil Baby)

Quando の壮絶な人生を振り返るという内容の一曲。BPM50前後のゆったりとしたトラックに彼の歌心のあるフロウが映えます。アトランタの人気ラッパー Lil Baby の参加もあり、この曲で彼は一気に知名度を上げます。

YoungBoy Never Broke Again との出会い

Quando のブレイクを語るにおいて、YoungBoy Never Broke Again (以下 NBA YoungBoy) との出会いは欠かせません。

NBA YoungBoy (左) とQuando Rondo (右)

今や NBA YoungBoy のレーベル Never Broke Again にも所属している Quando ですが、二人の関係性は、NBA YoungBoy が Instagrem を通じて Quando に連絡をとったことから始まったそうです。「俺の才能を最初に見出したのは彼なんだ」と Quando が語るように、彼の NBA YoungBoy への信頼が厚いことが分かります。ちなみに、ラッパーとしてのキャリアでは NBA YoungBoy が先輩ですが、年齢は Quando が1歳年上です。

XXL のインタビューでも語るように、彼の1番お気に入りのジュエリーは NBA YoungBoy から貰ったチェーンだそうです。

この二人はラップスタイルも似ており、意気投合するのも納得です。NBA YoungBoy が 2018年にリリースしたミックステープ『4respect 4Freedom 4Loyalty 4WhatImportant』にはQuando が4曲に参加しています。

『Permanent Scar (feat. Young Thug & Quando Rondo)』

Kenny Beats と Cardiak がプロデュースを務め、Young Thug と Quando Rondoが客演参加した豪華な1曲。

この曲のタイトル『Permanent Scar (永久的な傷)』とは、NBA YoungBoy の額に残る傷を指しています。彼は4歳の頃、レスリング中に首を怪我してしまい、治療としてハローベストという器具を装着していたことで額に傷が残ってしまったそうです。

NBA YoungBoy の額の傷と、ハローベスト

今回の主役である Quando Rondo は、この曲で自身のロックスターのような生活をフレックスしています。

ミックステープのリリース

2018年、彼は二つのミックステープをリリースします。

『Life B4 Fame』

Lil Baby や Lil Durk、OMB Peezy らが参加した同テープは MyMixtapez にて、わすが二日間で100万回再生を記録。この『Life B4 Fame』というタイトルは、2015年に NBA YoungBoy がリリースした1stミックステープ『Life Before Fame』にあやかって付けられたものでしょう。ここでも NBA YoungBoy へのリスペクトが感じられます。

『Life After Fame』

Youngboy Never Broke Again や Rich Homie Quan、Boosie Badazz らが参加した2ndミックステープ。同作から1曲ご紹介させていただきます。

「Kiccin Sh*t」

YNW Melly の楽曲なども手掛ける EY3ZLOWBEATZ プロデュースによるトラックですが、彼は最初このビートが好みではなかったそうです。しかしレコーディングを進めるにつれてこのビートが自分に適していることに気づき、スタジオを去る頃には納得のいく曲が完成していたといいます。

I’m kickin’ shit in Givenchy, these ain’t no Foamposites 
おれはフォームポジット(ナイキのスニーカー)じゃなくジバンシーでキメるぜ

というフレックスで始まるフックが特徴的な楽曲。


I’m so crip, I take a shower with a blue rag
俺はクリップスだから青いラグでシャワーを浴びる
And I can’t walk up out my house without my blue flag 
そして俺は青い旗がないと家から出られねえ

このように自身が所属するギャング組織、クリップス (チームカラー:青) への忠誠を誓うラインも出てきます。Quando の甘い歌声とギャング臭漂うリリックが意外にも完璧にマッチしており、彼の魅力が最大限に発揮された1曲です。

ちなみにこの曲のフックで使われている彼のフロウは、Rich Homie Quan の楽曲『The Author』からの引用で、「ネクストRich Homie Quan」との呼び声も高い彼ならではのリファレンスです。

2018年12月には、カリフォルニア州ベイエリアのラップグループ SOB X RBE のツアーにオープニングアクトとして参加し、見る見るうちにファンベースを獲得していきました。

そして2019年、彼は満を持して3作目のミックステープをリリースします。

『From the Neighborhood to the Stage』

NoCap や Shy Glizzy、Blocboy JB、Polo G らが参加した3rdミックステープ。同作からも一曲ご紹介させていただきます。

『Gun Powder』

NBA YoungBoy やDaBaby、Rod Wave らへの楽曲提供でも知られる Tahj Money によるプロデュースのこのトラックは、なんと8ヶ月もの間 Quando のメールボックスに眠っていたものだったそうです。

同曲は、タイトルからも察しがつくように攻撃的なリリックが特徴的な一曲です。

I don’t know shit about no murder, gotta keep my mouth closed
俺は殺しについて何も知らない、口をつぐむぜ
Just got a brand new Desert Eagle with a cutter that fold
新しいデザートイーグル(自動拳銃)と、アサルトライフル
Shower in bleach, rip up the car, make sure you burn all the clothes
(痕跡が残らないように)漂白剤で車を洗い、服を全部燃やす
My youngin’ down to shoot to kill just for a line of some coke
俺の連れはコカインを楽しむためだけに人を撃ち殺す
Sendin’ texts to all the opps like yeah we want all the smoke
早くお前らを殺して一服したいだけ、と敵にメールする
We up by six, they down by two, they need the go fix the score
少人数だが、お前らをやっちまうぜ
Pop out wit’ poles,
アサルトライフルの銃声を響かせる
told ’em I won’t spare no kids or no hoes
ガキでも女でも容赦しねえ
Foot on the pedal, heavy metal, send some shots through yo’ clothes
引き金を引いて服の上からぶち抜いてやる

なんとも恐ろしいリリックですが、彼は「殺人についてのリリックは必ずしも真実に基づいたものではなく、皆んなに求められているから書いているだけ」と保険をかけています。真偽がどうであれ、こういったリリックのスリル感を味わうのもヒップホップの楽しみ方の一つではないでしょうか。

ここまでの3作のミックステープのタイトル [『Life B4 Fame (名声を得る前の人生)』Life After Fame (名声を得てからの人生)』From the Neighborhood to the Stage (地元からステージへ)」]』からも、彼が2018年から2019年にかけて一気にブレイクを果たしたことが伺えます。

デビューアルバムのリリース

2020年1月、Quando は待望のデビューアルバム『QPac』をリリースしました。

このファン待望のデビューアルバムには、彼自身の内面的な成長が大きく反映されています。

昨年第一子が誕生し、父親となったQuandoは、『Letter To My Daughter』にて娘への愛を歌います。

I done dedicate my whole heart to you, girl

俺の心を君に捧げるよ
You’re the only one know how I feel

俺の気持ちをわかってくれるのは君だけなんだ
Run it up to just buy the whole world

全てを手に入れよう
I don’t care if it cost a hunnid mill’

それがいくらしたって気にしないさ
Want you to know you the only one

君は唯一の存在だってことを分かって欲しいんだ
Made me change the way that I live

俺の生き方を変えてくれたのは君だから
As a child, promise you’ll have fun

君が立派になるまで、楽しませ続けると誓うよ
Ain’t gotta worry ’bout a dollar bill

金のことだって心配いらないさ

Letter To My Daughter
娘を抱くQuando

このような愛に溢れたメッセージがアルバムの随所に見られ、父親として一皮向けた彼の成長が見受けられます。7曲目『Marvelous』に参加している Polo G のヴァースから言葉を借りると、「That gang sh*t a joke, n***a, all you got is familyギャングシットなんてジョークさ、あんたが手に入れたのは家族なんだ」の一言に尽きます。愛する妻と娘に恵まれ、生き方を考え直した Quando Rondo の今後に注目です。

終わりに

今回はジョージア州サバンナ出身のラッパー、Quando Rondo についてまとめました。彼の不良少年臭漂う見た目からは想像できない歌心のある優しいフロウ、ご堪能いただけましたでしょうか。

人気映画「Fast & Furious (ワイルドスピード)」のサウンドトラックに参加したり、今週 (2020年8月26日) にはニュープロジェクト『Diary of a Lost Child』をリリースしたりと、今後の彼の活躍からますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

西海岸を牽引する名プロデューサー Mustard のすべて

XXS Magazine をご覧の皆さん、はじめまして。音楽ブロガーのアボかどと申します。普段は「にんじゃりGang Bang」というブログで、ヒップホップを中心とした作品の紹介などをやっているのですが、このたび縁があってXXS Magazineさんに寄稿させていただくことになりました。

さて、2019年も様々な傑作がリリースされましたが、私が特に気に入った作品の一つに、西海岸のラッパー・03 Greedoのアルバム「Still Summers in the Project」があります。Gファンクなどの伝統的な西海岸サウンドを踏まえつつ、現行の音にアップデートされた同作を手がけたのは、同郷のプロデューサー・Mustardです。TygaやYGなどのプロデュースで頭角を現し、2010年代の西海岸シーンを牽引した名プロデューサーの一人です。今回は、そんなMustardのキャリアを振り返りつつ、2020年代の展望についても考えて生きたいと思います。

西海岸のジャーキン

MustardはLA出身で1990年生まれのプロデューサーで、以前はDJ Mustardと名乗っていました。本名はDijon Isaiah McFarlaneで、芸名の由来はもちろん本名がディジョンだからです。最高。

名前の由来にもなったマイユ社のディジョンマスタード

トラップ風の曲やR&B系のメロウな曲も作りますが、シンプルなループにGファンクなどの西海岸フレイバーを込め、バウンシーな808を絡めた「ラチェット・ミュージック」と呼ばれる作風で広く知られています。何から影響されて作風を確立させ、いかにして成功を掴んだのか。まずはキャリアをスタートした時期の西海岸ヒップホップシーンの状況から探っていきたいと思います。

Mustardが登場した09年頃の西海岸ヒップホップシーンは、「ジャーキン(ジャークとも)」というムーブメントの全盛期でした。ジャーキンはミニマルなビートで踊るストリートダンスの一種で、それに使われる音楽のスタイルと共に西海岸全体に広まっていきました。サウンド的にはベイエリアでThe Neptunesなどの影響を受けて誕生した、スカスカでBPM早めのパーティ・ラップ「ハイフィ」が発展したものです。

ジャーキンはハイフィと比べるとBPMが遅めで、代表曲にはNew Boyz「You’re Jerk」(2009年)や、Audio Pushの「Teach Me How To Jerk」(2009年)などが挙げられます。個人的なおすすめはCold Flamez「Miss Me Kiss Me」(2009年)。ジャーキンはダラスで同時期に盛り上がっていたダンスのムーブメント「ドギー」の振付を取り入れたりしながら、Snoop Doggらベテランも反応してメインストリームにも進行していきました。

ジャーキンの流行は、西海岸の様々なアーティストを巻き込んでいきました。その中の一人に、Ty & Koryというデュオで活動していたTy Dolla $ignがいます。Sa-Ra CreativeやBlack Milkらの作品への参加など、どちらかというとそれまでアンダーグラウンド寄りの活動を行っていたTy Dolla $ignでしたが、ジャーキンの流れを汲んでヒット曲を生み出します。YG、TeeCeeと共に発表した「Toot It And Boot It」(2009年)です。それまでのカラーを踏まえたネタ感強めの質感とジャーキン以降の重低音の組み合わせが話題を呼び、YGと共にジャーキンのシーンで一躍注目を集めます。

そして、このTy Dolla $ignからビートメイクを習ったとされるのが、本稿の主役であるMustardです。MustardはSway’s Universeのインタビューで、「YGのためにビートメイクを始めた」と話しています。プロデューサーとしての初仕事は、恐らく2010年のYGのミックステープ「The Real 4 Fingaz」収録の「Glowin」です。

2010年にはThump Recordsというレーベルから、Mustardが仕切ったコンピレーション「Let’s Jerk」がリリースされます。Thump Recordsは、西海岸のロウライダー雑誌「Lowrider Magazine」監修のオールディーズのコンピレーションなどをリリースしていたレーベルです。Ty Dolla $ignはLowrider Magazineのコンピレーションにも収録されていたファンクバンド・Lakesideのメンバーの息子なので、恐らくその縁でこの作品のリリースに繋がったのだと推測されます。同作のサウンドは、タイトル通りのジャーキン路線。Mustardは、こうしてジャーキン畑のプロデューサーとしてキャリアをスタートしました。

Rack Cityとラチェット・ミュージック

ジャーキンのムーブメントに乗って成功を収めたのはTy Dolla $ignだけではありません。08年に1stアルバム「No Introduction」をリリースし、一足先にメジャーデビューを果たしていたYoung Money所属ラッパー・Tygaもその一人です。同作はロック的なフックを導入するなどクロスオーバー志向も強いポップヒット狙いの作品でしたが、当時の他のYoung Money作品と比べてセールス的にはあまり成功とは言えない結果になりました。

しかし、「コンプトンの非ギャングスタラッパー」という誰かの先駆けのようなキャラクターのTygaは西海岸の非ギャングスタムーブメントであるジャーキンのシーンで人気を集め、New BoyzやYGらに客演で呼ばれるようになります。そして、その流れでMustardとも合体。その繋がりは、Mustardのキャリアを変える大ヒット曲に結実する事となります。「Rack City」(2011年)です。

同曲の大ヒットは、Mustardを一躍人気プロデューサーに押し上げました。この頃の作風はジャーキンから一歩進み、どこかGファンク的な匂いを感じさせるものになっています。多くの人が思い浮かべるMustardのイメージは、この時期に確立されたのではないでしょうか。このMustardの作風と、同時期にベイエリアで人気を博していたIamsu!らのサウンドは「ラチェット・ミュージック」と呼ばれ、ジャーキンに続いて西海岸全体に定着することとなります。

Lil Jonからの影響

2013年には、Mustardは自身名義のミックステープ「Ketchup」を発表します。マスタードという名前でケチャップというタイトルを付けるセンスからして最高なのですが、同作はMustardとその周囲のことを総括するような内容になっています。同作はラチェット系の曲を中心に据えメロウな曲も収録した、新たな西海岸サウンドの王道といえるような作品でした。客演陣に目を向けると、YGやTy Dolla $ignといったお馴染みの面々、Nipsey HussleやE-40らに混じってDorroughが参加しています。Dorroughはダラスのラッパーで、先述したドギーの代表的なアーティストです。また、TimbalandやLil Jonらの喋りをフィーチャーしていることもポイント。彼らの参加は、Mustardのルーツという意味で非常に重要な要素といえると思います。

Mustardによるミックステープ「Ketchup」(2013年)

Mustardは、Lil Jonからの影響を公言しています。「Rack City」のヒット後にYoung Jeezyや2 Chainzなどアトランタ勢がいち早く反応したのも、MustardのシンプルなビートにLil Jonの匂いを感じとったことが要因の一つとしてあるのではないかと推測されます。

また、Lil Jonからの影響はビート面だけに留まりません。2014年にリリースされたYGの1stアルバム「My Krazy Life」収録の「Left, Right」では、自らマイクを握ってLil Jonのように煽りを披露しています。

2013年にはRoc Nationと契約を果たし、シーンでの存在感を不動のものにしたMustard。その後もラチェット系の曲を中心に多くのヒット曲を放ち、「10 Summers」(2014年)などリーダー作も高い評価を集めていきます。

ラチェット・ミュージックの次

EDMが大きな人気を博した2010年代には、「DJの年収ランキング」のような記事をよく目にした方も多いのではないでしょうか。名前にDJを冠していたMustardも、彼らへの憧れを口にしていたことがありました。Kid Ink「Show Me」(2013年)や TeeFlii「24 Hours」(2014年)など、ハウスをネタに使った曲も作っており、またLFMAO「Shots」(2009年)などでのLil Jonの活躍もあったので、MustardがEDMのDJに興味を持つのは自然な流れだったのかもしれません。

そんなMustardは、2016年にTravis Scottをフィーチャーした「Whole Lotta Lovin’」というEDM風の曲をリリースします。

同曲は大ヒットまでは行くことはなく、EDM的なノリを大々的に行うこともその後ありませんでしたが、この頃あたりからMustardはラチェット・ミュージックの次を模索するような動きを見せるようになります。

Roc Nation仲間のRihanna「Needed Me」(2016年)や21 Savege「FaceTime」(2017年)などではオルタナティヴR&B的な作風にも挑戦しています。

その脱ラチェットの取り組みが結実したのが、Mustardのアルバム「Cold Summer」(2016年)にも参加していたUKのシンガー・Ella Maiの「Boo’d Up」(2018年)です。美しいストレートなR&B路線である同曲はじわじわと話題を集め、同曲を収録したアルバム「Ella Mai」(2018年)もセールス・評価の両面で成功を収めました。

ここでのMustardの作風はメロウで落ち着いたスウィートなものでしたが、Mustardの心の師匠・Lil Jonもまたこういった作風を得意としていました。代表的なものでは、2004年のLil Jon & The East Side Boyzの名曲「Lovers and Friends」が挙げられます。試行錯誤を繰り返していたMustardは、自身のヒーローの別サイドに到着したのです。

クランク復権の流れ

Ella Maiのブレイク後となる2019年、Mustardは作品数こそ少ないものの多彩な活躍を見せてくれました。YGの「Go Loko」ではLAでヒット中のAmbjaay「Uno」を意識したようなラテン風味に挑戦し、新鋭・Roddy RicchにもR&B風の「High Fashion」を提供。前述した03 Greedoのアルバムではウェッサイ色を強調した作風を聴かせてくれました。また、日本のラップグループ、BAD HOPにもバンギンかつバウンシーな「Poppin」を提供しています。

そんな中リリースした自身名義のアルバム「Perfect Ten」はこれまでの集大成のようでありつつ、過渡期のようにも感じられる作品でした。メインとなっているのはラチェット・ミュージックとElla Mai的なR&B路線でしたが、ここで特に重要な曲として挙げたいのは、1stシングルとしてリリースされたMigosとの「Pure Water」です。

シンプルなシンセがループされるビートは、ラチェット系の路線ではありますがあまりGファンク風味は感じません。どちらかというとクランクに近い音色のシンセを使っており、アウトロではMustard自らマイクを握り、Lil Jon & The East Side Boyzを思わせる掛け声を披露。さらにMVではMigosがLil Jonっぽいサングラスを着用しています。Lil Jonへのオマージュが満ちた同曲を、Ella Maiブレイク後の初作品の1stシングルに持ってきたことは、自身のルーツへのより強い回帰を感じさせます。

2019年は、ベイのSaweetieが「My Type」でPetey Pabloのクラシック「Freak-A-Leek」をサンプリングし、Quality Control Music所属のメンフィスの新人・Duke Deuceがその名も「Crunk Ain’t Dead」なる楽曲を発表するなど、クランク関連の話題がぽつぽつと見られた年でした。

BETのヒップホップアウォードで披露された「My Type」と「Freak-A-Leek」のメドレー形式のライブで、Petey PabloとLil Jonが出てきた瞬間の盛り上がりを見ていると、2020年代にはクランク復権の流れが訪れてもおかしくはないと思わされます。そしてその流れが本当に訪れるのなら、Lil Jon直系のプロデューサーであるMustardはさらなる高みに登っていくのではないでしょうか。シーンに登場して気付けば10年が経つMustardですが、今後も目が離せません。

記事でご紹介した楽曲のプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/mustard-legendary-producer-from-west-coast/pl.u-KVXB2aGsZRjKqox

アボかどさんのブログ「にんじゃりGang Bang」: https://fuckyeahabocado.tumblr.com/

XXS Album of the Year 2019

今年も残すところあと一日。皆さんは年末年始をどのようにお過ごしでしょうか。そして、 2019年はどのような一年だったでしょうか。私たち XXS Magazine ライターは起きている時間はすべて音楽を聴くことに費やす勢いで、様々な音楽に囲まれて一年を過ごしてきました。

今回はそんな私たち3人が選んだ、それぞれの「Album of The Year」についての記事です。正直、それぞれのアルバムにそれぞれの良さがあり、ベストアルバム一枚を選ぶことは難しいので、かなり個人的で主観的な記事になっております。その点ご了承ください。それでは早速、一枚目からいってみましょう。

1. Skepta – Ignorance Is Bliss

今年もたくさん音楽を聴きました。Apple Replay で今年のまとめを分析すると、610個のプロジェクト(おそらくこの数字には EP やシングルも含まれています)をチェックした僕ですが、今回はその中でも最も印象に残った Skepta によるアルバム ”Ignorance Is Bliss”について書いてみようと思います。

タイトルの “Ignorance Is Bliss” は日本のことわざに直すと「知らぬが仏」。このテーマはサーモグラフィーによって撮影されたアルバムのカバーにて巧みに表現された上で、楽曲の中でも如実に感じ取ることができます。

Ignorance Is Bliss のアートワーク

無気力に頬杖をつく人、耳をふさぐ人、悶え苦しみ叫ぶ人、人差し指を唇に当てるサインを出す女性の4枚の写真が、中央に配置された生まれたばかりの娘を抱く Skepta の写真を取り囲んでいます。さらに四隅に、中指を立てた拳、握り合ったふたつ手、拳銃、スマートフォンの4枚の写真が配置される形でアルバムカバーが構成されています。

イントロとしての役割も果たす一曲目の楽曲 “Bullet from a Gun” は、当アルバムのテーマを巧みに反映したものでもあります。試しにカバーアートと照らし合わせてリリックを見ていきましょう。

Like a bullet from a gun, it burns
まるで拳銃から撃ち出された銃弾のように、それは燃えるんだ
When you realise she was never your girl
彼女がお前の女じゃないと気づいた時にね
It was just your turn
ただ、お前は遊ばれていただけだったんだ

Skepta – Bullet from a Gun

こちらのリリックとリンクしているのは、右下と右上の写真。リリックでは、愛し合っていると思っていた女性が、実は自分のことを遊びとしか思っていなかった状況についてラップしていますが、このような状況が主に先ほどの二枚の写真で表現されています。繋ぎ合った手ですが、片方の手はサーモグラフィーで温度が冷たいことを表す青で表現されています。そして、拳銃も青で表現されていることから、「片方が本気でない恋愛は、撃ち出された銃弾のように燃え尽きる」ことを表しています。燃え尽きてしまった恋も、知らなかったらそんなことにはならなかった、というまさに「知らぬが仏」状態。このようにアルバムを通してテーマに即したリリックがちりばめられているのが、このアルバムのミソなのです。

Now the friendship’s based on how quick I reply to text
今となっては、友情はどれだけ早く返信するかにかかってる

Skepta – Same Old Story

Now you only text when you’re bored on the weekend
君は週末暇な時だけ、俺にメールを送ってくるよな

Skepta – Love Me Not (feat. Cheb Rabi & B Live)

このようなリリックからは、インターネットが普及したことによって冷たく、脆くなってしまった人間関係についてのラップです。これらのリリックはアルバムカバーの左下の写真とリンクしています。こちらもサーモグラフィーの特性を利用して、赤くなっている手のひらに対して、スマートフォンは青く表示されています。

「Ignorance Is Bliss」まとめ

放つ言葉がすべてパンチラインとも言える Skepta が、グライムが盛り上がってきているこの時期に本気でアルバムを製作したらどうなるのかを、圧倒的なクオリティとともに見せつけられた感じがし、やはり今年のアルバムの中ではかなり印象に残っています。本当はもっと語りたいことだらけなのですが、本記事で紹介する他のベストアルバムについても知っていただきたいので、今回はこの辺で終わりにしておきます。それでは、”Ignorance Is Bliss” の魅力についてでした。

(Written by whoiskosuke)

2. James Blake – Assume Form

2019年ももう終わり、ということで今年聞いた中で一つアルバムを紹介しようという事になって、いろいろと考えた結果、James Blakeの”Assume Form” を選びました。

James Blake – Assume Form

Assume Form とは日本語にするのがかなり難しいんですが、ニュアンス的に言うと、「型にはめ込む」という感じでしょうか。じゃあジェイムスにとっての型とは何なのか。

それを理解するのに大切なのは、最近やたらと問題になるジャンルというものです。ジャンルというのはある意味、音楽を聴く際に基準となる透明の箱のようなものです。

透明な箱(イメージ)

この透明の箱を通じて人は音楽という外界に触れる。言うなればこの箱は、外観の様相を呈している。でも、この箱は「これはジャンルで言うなれば、なんちゃらかんちゃらだ。」というふうに簡単にその音楽を目利きするための外観でしかありません。

確かに、ジャンルは大切なものです。ジャンルがあれば、ジャズのコードを一つも理解していなくても、これはジャズだ。と理解するポーズをとる事ができます。でも、僕たちを守る透明の箱、このデジタル時代において、そこに閉じこもることに本当に意味があるのでしょうか。彼の一曲目のタイトル曲、”Assume Form” にその答えが隠されています。

ピアノの旋律を中心としたこの曲で一際存在感を放つライン。

You know, you know, you know, you know. Appearance is nothing.

なあ、外観なんて何でもないんだよ。

James Blake – Assume Form

まるで、僕たちが閉じ込められていたジャンルという「透明な箱」から解き放ってくれるような一言。

思えば彼は2010年の伝説的名盤、”James Blake” 以降、ヒップホップやアンビエントR&Bなど、ポストダブステップというジャンルに捉われることなく、活動を続けてきました。

”James Blake”

彼は音楽を聴く時の姿勢ともいうべき「透明な箱」の外側から音楽を作り続ける。彼がジャンル(外観)を見るのではなく、ジャンルが彼を迎えにいく。彼こそが一つの外観(基準)であり、全てのジャンルは彼に追従せざるを得ない。

つまり、彼の音楽は一色に圧倒的な波長と奥行きを含んだ、いわば虹色のアルビニズムとも言える。彼の音楽に触れれば誰もが閉塞的な透明の箱から解放され、その永遠の延長の中を旅することができる。

Geniusでは「Assume Form」を彼の楽曲を通してこのように説明しています。

Assume form meaning that you finally take the shape of who you were always supposed to be.

Assume formとはあなたが自分自身をこうあるべきだ、というある種の型にはめこむことです。

When you let go of everything else and just be who you truly are, things are easier, more natural, light, grounded, emotional, and ultimately real.

そのような雑念を解き放ち、本当のあなた自身となれば「物事」はもっと簡単になり、ナチュラルになり、根本的になり、感覚的になり、究極に「現実的なもの」となります。

Genius

「Assume Form」 まとめ

このアルバムでは、Travis Scott や Metro Boomin , André 3000 や 2019年時の人となった Rosalía など様々な世代やジャンルから多くの客演が参加していますのでヒップホップが好きな方にも非常に聞きやすい作品となっています。

どの曲にも彼の細胞が詰まっていますので、あまり多くは説明はしません。もしまだ聞いてない、という方は是非彼のアルビニズム的七色の世界に浸ってみてください。

(Written by Kensho Sakamoto)

3. Dave – PSYCHODRAMA

Daveのデビューアルバム「PSYCHODRAMA」は間違いなく今年のベストアルバムの一つです。実際、イギリス(もしくはアイルランド)で毎年最も優れたアルバムに対して送られる「マーキュリー・プライズ」を受賞しており、もはや言うまでもない事実ですよね。

この作品の魅力は、何と言ってもアルバムとしての完成度の高さにあります。アルバムのコンセプト、メッセージ性、トラック、リリック、ワードプレイ…など、どこを取っても非の付け所がないです。

今回は、アルバムの中からリリックを引用しながら、その魅力を簡単にお伝えできればと思います。

Tuesday, 23rd of January, 2018
2018年1月23日火曜日、
I’m here with David
私はデイヴとここにいる。
This is our first session
これが我々の最初のセッションだ。
We’re just gonna talk about your background
君のバックグラウンドの話から始めるとしよう。
Where you’re from, any issues you’ve been dealing with
君がどこから来たのか、どんな問題に対処してきたのか。
So, where should we start?
さあ、どこから始めようか。

アルバム名「PSYCHODRAMA」とは演劇の枠組みと技法を用いた心理療法のことです。セラピストのセリフで始まる一曲目「Psycho」のイントロから分かるように、心に不安や悩みを抱える彼はまさにこのアルバムを通してPSYCHODRAMAを試みているのです。

自身の出身地名をタイトルに冠した二曲目「Streatham」では若き日の苦悩や葛藤をスピットし、「Black」では黒人として生きることの難しさについて歌います。

序盤から重い内容が続くのですが、四曲目Purple Heart」では恋人への愛を再確認し、治療の進行の様子が伺えます。

I guess it’s important that you have someone you can trust
信頼できる人を見つけるのは大事なことだ
Especially in the position you’re in, and um…
過酷な状況にいる君にとっては特にさ
I think it’s a really good trait that you’re able to find positives
ポジティブなことを見つけられるのは素晴らしいことだと思うよ
Despite some of the challenges, for want of a better word, that you face
様々な困難に直面しているにも関わらずね

その後アルバムの中盤からは、彼のラッパーとしてのキャリアを中心に話が展開されていきます。

ナイジェリアのレゲエ/ダンスホール・シンガー、Burna Boyを客演に迎えた「Location」は、ラッパーとしての成功を歌った一曲です。Burna Boyの甘い歌声とDaveの巧みなラップが完璧にマッチした良曲です。

ラッパーお得意のフレックス(自慢)を中心としたありがちな内容ですが、彼は巧みなワードプレイで魅せてきます。

ここでハイレベルなワードプレイを一つご紹介させていただきます。

Look, money like the alphabet
見ろ、金はアルファベットのようだ。
If you wanna see P’s, gotta pass on the ends
金が欲しいなら、最後までやり抜かなければならない。
 

※Pは金を表すイギリスのスラング。

「仕事や任務を最後までやり抜かないと金を手にすることはできないぜ」というラインですが、なぜ金はアルファベットのようなのでしょう。

ポイントは”the ends”と、アルファベットの順番です。よく聴いてみてください。”the N’s”に聴こえませんか?アルファベットの順番を思い浮かべてください。ABCDEFGHIJKLMNOP…。もう分かりましたね。そうなんです。Pという文字はNをpass on(通り越す)しないとやって来ないのです。意味をしっかり通してストーリーを進めつつ、さらっとこんなワードプレイを挟んでくるのですから圧巻です。

その後、人気ラッパーJ Husを客演に迎えた「Disaster」や、自身の出身地ロンドンについて歌った「Screwface Capital」、文字通り自身のいる『環境』について語る「Environment」と続きます。

N***as saw keys and went to trial for shottin’
奴らはコカインを売って裁判にかけられた
I saw keys, learned to play, and made thousands from it
おれはピアノを習って、それで大金を稼いだんだ

一つ目の『keys』はコカイン、2つ目はキーボード(Daveはピアノを弾けます)を意味しています。同じEnvironment(環境)で育っても、全ては自分の行動次第だということですね。

そして、1人の女性の悲劇を歌った9曲目「Lesley」で、いよいよ彼の治療も終わりを迎えます。アルバム序盤では自分自身の困難や問題ばかりに集中していた彼が、この曲では他人の悲劇に目を向けており、治療の効果がよく伺えます。

その後、治療を無事終えたDaveによるポップなラブソング「Voices」と、刑務所にいる兄に向けた楽曲「Drama」でアルバムは完結します。

「PSYCHODRAMA」 まとめ

アルバムのコンセプト、メッセージ性、ワードプレイと、何度聴いても見事な仕上がりです。実力と年齢は関係ないですが、今年21歳を迎える自分と同い年とは思えないほど知的で思慮深く、才能に溢れており、そういった意味でも強く刺激を受けた作品でした。もし、このアルバムを聴いたことがなかったという方がおられれば、是非一度リリックを追いながら聴いてみてください。衝撃を受けるはずです。

(Written by Riku Hirai)

最後に

お読みいただきありがとうございました。

2019年もたくさんの傑作と巡り会えた一年でした。

XXS Magazineは今年の10月末から本格的に始動し、皆様のおかげで徐々に認知されるようになってきました。

来年からは今までになかったような様々なプロジェクトを進めて行きますので、これからも皆様どうぞよろしくお願い致します。それでは、良いお年を!

フロリダのアップカミングラッパーたち

みなさんはフロリダといえば何を思い浮かべますか?

ディズニー・ワールド・リゾートやマイアミビーチなど、印象的な観光地が多数ありますが、近年フロリダから勢いのあるラッパーたちもたくさん出てきています。

昨年若くして亡くなってしまった XXXTENTACION を始め、殺人の疑いで現在も収監されている YNW Melly、他にも Rick Ross や Kodak Black などが有名なフロリダ出身のラッパーたちですが、今回はもっとアップカミングな(出てきたばかりの新しい)ラッパーたち4名を紹介していきます。

Jackboy 

【名前】Jackboy (Pierre Delince)

【出生】ハイチ共和国

【育ち】フロリダ州 ポンパノビーチ

【生年月日】1997年9月27日

まずは Jackboy というラッパーです。”超” アップカミングというわけではないので、ご存知の方も多いと思いますが、彼は Kodak Black のレーベルである Sniper Gang に所属するラッパーです。同じレーベルに所属し Kodak から影響を受けていることもあり、かなり Kodak に似たスタイルです(ていうか、ほぼ一緒)。

Kodak をたびたび客演に迎え、徐々に知名度を伸ばしてきた彼ですが、今年の9月にリリースしたアルバム “Lost in My Head” でいきなり覚醒しました。

If  I go broke right now (Right now)
もし俺が今すぐ貧乏になったら

Would  you still be around?
それでもそばにいてくれる?

If I go to jail right now (Right now)
もし俺が今すぐ刑務所に行ったら

Baby girl, hold me down
ベイビーガール 、俺を守ってくれよ

Or  would you leave me?
それとも離れていっちゃうの?

Baby, Don’t leave me
ベイビー、そばにいてくれよ

Jackboy – Would You Leave

こちらのリリックは先ほど紹介した “Lost in My Head” に収録されている “Would You Leave” という楽曲のものです。Sniper Gang とかいう名前からして危ないの確定のレーベルに所属しているくせに、こんな純愛ソングを作ってしまう所にギャップ萌えしますよね。

リリックからも Kodak Black から強い影響を受けていることを見てとることができます。かれらはやはり生粋のギャングスタであり、生きていくためには常にストリートで動き続ける必要があります。常にストリートに繰り出さなければいけないこと、それと同時に愛する人と幸せな時間を過ごしたいということ。彼らはいつも、その二つを両立できないことに葛藤を覚えます。

まずは Kodak Black による “Why You Always Gotta Go” からのリリックです。彼女の目線から自分を放置してストリートに繰り出していく彼氏に対しての気持ちをラップした楽曲です。

Why you always gotta go?
あなたはなんでいつも行っちゃうの?

Kodak, why you gotta leave?
コダック、あなたはなぜいなくなっちゃうの?

You always in the streets, you don’t make no time for me
あなたはいつもストリートにいて、私のための時間なんて作ってくれない

Why you always gotta leave me here on my own?
あなたはなぜいつも私を一人ぼっちにさせるの?

Why we can’t ever spend leisure time home alone?
なんで私たちは二人きりの時間を過ごせないの?

Kodak Black – Why You Always Gotta Go

そして次に Jackboy による “Bipolar” からのリリックです。こちらは彼女よりストリートを優先してしまう男性側の気持ちをラップしています。

I don’t wanna see you weep
君が泣いてる姿を見たくないよ

Sorry, but I have to leave
ごめん、でも行かなくちゃ

Can’t love you, I love these streets
君を愛することはできない、俺はストリートを愛してるから

Jackboy – Bipolar

いかがでしたか。Kodak を女性役、Jackboy を男性役と考えると、一連の会話ができあがります。ずっと一緒に曲を作っていると、無意識のうちに影響を受けてしまうのでしょう。

LPB Poody 

Jackboy 同様、Kodak Black に強い影響を受けたラッパーをもう1人紹介します。それは LPB Poody です。彼は Sniper Gang にこそ所属していませんが、うまい棒が刺さったような髪型や金色のグリルズなど見た目からしてバリバリ Kodak に影響を受けています。

【名前】LPB Poody (Robert Lee Perry)

【出生・育ち】フロリダ州 オーランド

【生年月日】1999年10月23日

ちなみに名前の “LPB” とは “Light Pole Baby” の頭文字をとったものです。”Light Pole” とは街灯のことでなのですが、「小さい頃から街灯のようにずっとストリートに立ち続けなければならなかったから」というどこか切ない命名理由だそうです。

生き抜くために盗みやドラッグの売買などの犯罪行為をを小さい頃から繰り返してきたため、彼はこれまでに少なくとも13回逮捕されています。何度も警察のお世話になった彼ですが、彼の一番のヒット曲である “No LOL’z” の一節でこのようにラップしています。

My YGs rollin’ ‘round with two Glocks
俺たち若いギャング達は両手に拳銃を持って走り回ってる

The crackas blitzed the trap, we hide the drugs inside a shoebox
警察がアジトにガサ入れに来たら、俺らはドラッグを靴箱に隠すんだ

Then hit the back
そして背後を撃つ

And jump the fence and then we outta there
そしたらフェンスを飛び越えてそこから逃げるんだ

The neighbors think we look so suspicious so now they stop and stare
俺らが怪しすぎて、近所の奴らは立ち止まって俺らのことを見てくるんだ

LPB Poody – No LOL’z
https://www.youtube.com/watch?v=H_EmmOczFVU

Yungeen Ace 

続いて紹介するのは Yungeen Ace というラッパー。彼のキャリアはかなり浅く、SoundCloud に楽曲をリリースし始めたのも2018年の3月下旬です。彼の育ってきた環境はかなり厳しく、楽曲の内容もシリアスなものが多い印象です。最近ではルイジアナのラッパー JayDaYoungan とジョイントアルバムを製作したりしていて、かなりあがってきています。

【名前】Yungeen Ace (Keyanta Tyrone Bullard)

【出生】イリノイ州 シカゴ

【育ち】フロリダ州 ジャクソンヴィル

【生年月日】1998年2月12日

彼が少し前にリリースしたアルバムである “Step Harder” は、Boosie Badazz や Lil Durk、Stunna 4 Vegas などをフィーチャーし、かなりハイクオリティに仕上げられた一枚になっています。同アルバムに収録されている楽曲 “Streets Diary” では、タイトル通りストリートで育った頃の体験を日記のようにラップしています。

All my life I done struggled
人生ずっと、もがき続けて来た

I’ve been raised by my mother
ずっと母親に育てられてきたんだ

Two bedrooms, seven brothers
二つのベッドルームに、七人の兄弟

Had to share with each other
狭いけど一緒に寝なきゃいけなかった

Lifestyle in the Frigerator its nothin’ to eat
冷蔵庫の中のように冷たい人生でだったし、その中に食べ物はなかった

We steady warming up noodles, on the floor where we sleep
俺たちはラーメンを寝床で温めてたし

Eviction notice on the door, we gotta leave in a week
立ち退きの張り紙がドアに貼られて、一週間でそこを去らなきゃならないこともあった

Yungeen Ace – Streets Diary

そんな彼ですが、2018年の3月初旬に襲撃事件にあっています。3人の男に車の中から銃撃を受けており、Yungeen Ace 自身は助かったのですが、彼の兄と友人2人は銃撃によって死亡しています。それでも希望捨てずに、同月中に楽曲をリリースし始めたのです。

Rod Wave 

最後に紹介するのは Rod Wave というラッパーです。最近の若手には珍しい、声も体もかなり太めのラッパーです。これの場合、もはやアップカミングではないかもしれませんが、年齢がまだ二十歳ということもあるので紹介させて下さい。彼の特徴は勢いのあるラップに時折織り混ぜる美しい歌声とリリックで、見た目と歌声のギャップで僕たちを虜にして逃しません。ヒョロヒョロガリガリの草食系サンクララッパーのエモラップに飽きてきた方にはかなりおすすめです!


【名前】Rod Wave (Rodarius Marcell Green)

【出生・育ち】フロリダ州 セントペーターズバーグ

【生年月日】1998年8月27日

アップカミングラッパーを紹介する記事なので当たり前といえば当たり前なのですが、彼もつい最近 Kevin Gates と Lil Durk をフィーチャーしたアルバム “Ghetto Gospel” をリリースしました。

満を辞してリリースされたニューアルバムにも Lil Durk をフィーチャーしたリミックスとして収録された “Heart on Ice” にて、Rod Wave の華麗な声色の使い分けを見ることができますので、リリックと共に少しだけ見ていきましょう。まずは楽曲を聴いてみてください。

Heart been broke so many times I don’t know what to believe
何度も失望してきたんだ もう何を信じて良いのかわからない

Mama say it’s my fault, it’s my fault, I wear my heart on my sleeve
ママは俺のせいだって言った 俺は感情を露わにするよ

Think it’s best I put my heart on ice, heart on ice ’cause I can’t breathe
もう気にしないのがベストだと考えてる だってもう息すらできないし

I’ma put my heart on ice, heart on ice, it’s gettin’ the best of me
気にしないようにするよ それが俺にとってベストなんだ

Rod Wave – Heart on Ice

お気づきになられたでしょうか。勢いよくラップするところ(青文字)と、美しいメロディーで歌うところ(オレンジ文字)で、リリックの内容に差がつけられています。この楽曲の場合だと、、、

勢いよくラップするところ:過去のネガティブな思い出

美しいメロディーで歌うところ:現在または未来のネガティブなことや決意

このように Rod Wave は、巧みに声色を使い分けることで、リリックの状況を容易に想像できるようになるだけでなく、リリックに込めた感情をも私たちは容易に読み取ることができるようになっています。このテクニックは、人々の心に無意識のうちに直接訴えかけてくるので、共感をよびやすく、それも彼が人気になった要因の一つなのではないでしょうか。

さいごに

いかがでしたでしょうか。他にもフロリダからのアップカミングラッパーは Teejay3k とか 9lokknine とか YNW Bslime とか Lil Poppa とか色々いるんですけど(プレイリストにオススメの楽曲を入れておきます。)、とりあえず4人紹介してみました。XXS Magazine の Apple Music にて今回紹介した楽曲や紹介しきれなかったフロリダのアップカミングラッパーたちの楽曲を集めたプレイリストを公開しましたので、こちらも合わせてチェックお願いします。

⬇︎ XXS オリジナルプレイリスト “Upcoming Rapper From Florida” ⬇︎

https://music.apple.com/jp/playlist/upcoming-rappers-from-florida/pl.u-2aoqpzDsNWXxYz0?l=en

UKグライムシーンを牽引するキング Stormzy の全て

I just feel like there is nothing I cannot do.

俺にできないことは何もないと感じるんだ

グライム・アルバム初の全英一位獲得や、イギリス版グラミー賞とも言われるブリット・アワードでのベストアルバム賞&男性ソロアーティスト賞の受賞、さらには世界最大級の音楽フェス「グラストンベリー」にてイギリス出身の黒人ソロアーティストとして初のヘッドライナーを務めるなど、数多くの偉業を成し遂げてきた男、Stormzy。

そんな、今やグライムシーンのみならずイギリスの音楽シーンを牽引する彼は、本日(2019年12月13日)、待望のセカンドアルバム「Heavy Is the Head」をリリースしました。来年3月下旬には同アルバムを引っさげた来日公演の開催も予定されており、日本でも話題沸騰中の彼について簡単にご紹介させていただきたいと思います。

生い立ち

StormzyことMichael Ebenazer Kwadjo Omari Owuo Jr.は、ガーナ共和国にルーツを持つ、ロンドン南部・クロイドン地区出身の26歳(1993年生まれ)。

“I was a very naughty child,

俺はなかなかのやんちゃ少年だった

on the verge of getting expelled,

学校を退学になりかけたほどだ

but I wasn’t a bad child;

でも悪い子供ってわけじゃなかったんだ

everything I did was for my own entertainment.

全ては俺自身が楽しむためだった

But when I went into an exam I did really well.”

でもテストでは良い成績を残せたよ

3人の兄妹とともに母子家庭で育った彼は、自身の学生時代をこのように振り返ります。

高校卒業後は、サウサンプトンの石油精製所で二年間働いていたStormzy。196cm、95kgという恵まれた体格を持つ彼ですが、工場での力仕事に励んでいたというわけではなく、エンジニアとして品質管理を担当していたそうです。見た目とのギャップが面白いですね。

音楽キャリアの開始

幼少期から、Dizzee RascalやSkepta、Wileyなどといったグライムシーンのレジェンド達の楽曲を聴いて育ったというStormzyは、2011年にYouTubeにて初めて自身の楽曲をアップロードします(当時17歳)。

Skeptaの”Mike Lowery”のビートをジャック。

若いですね。夢追う少年って感じです。ただラップに関しては、このころから才能の片鱗を覗かせています。

ブレイクのきっかけ – WickedSkengMan series –

2013年の末頃、Stormzyは「WICKEDSKENGMAN [PART 1]」と題されたフリースタイルをYouTubeにアップします。

They say I’m a Youtube n***a
おれのことをYouTube野郎だって奴らは言うんだ
That’s cool, I’m fine with that
別にいいぜ、気にしないさ
But when you see me in the flesh could you give 
me a shout, 
でも、もちろん直接会っても言えるんだろうな
pull me up and remind me that?
おれを呼び寄せて、また言ってくれるよな?
Could you please just repeat that again for me?
頼むから直接同じことを言ってみろよ

クラシックなグライムビートの上でハードなラップをスピットするこの動画が話題を呼び、彼は一躍注目を浴びます。力強いラップと質素なビデオがよりいっそう彼の魅力を引き立たせており、今見ても6年前とは思えないほど全く古さを感じさせません。

その後Part 4まで公開されるに至ったこのシリーズが、彼の成功のきっかけとなったのは間違いないでしょう。

デビューEPのリリース – Dreamers Disease –

WICKEDSKENGMANシリーズで一挙に注目を浴びたStormzyは、2014年7月にデビューEP「Dreamers Disease」をリリースします。

キャリア当初は主にオールドスクールなグライムビートを使っていたStormzyですが、このEP「Dreamers Disease」から、幅広い音楽ジャンルに挑戦するようになります。当時勢いのあったドリルミュージックの影響を強く感じさせるトラック「No Way (feat. Yung Fume)」や、現在の彼の楽曲にも通ずるアフロビートトラック「Jupa (feat. Starboy willz & Showa Shins)」などが顕著な例です。

アルバムタイトルを冠した一曲「Dreamers Disease」では次のようにラップします。

Look, I don’t even smoke no more but somehow I stay high
おれはもう吸わないけど、ハイで居続けるんだ
Quit my job, mum bugged out, made my choice,
仕事を辞め、母には見放され、自分の道を選んだ
this is my life
これがおれの生き方だ
And I swear down I can’t do this alone,
これはおれ1人ではできないんだ
may the dear lord be my guide
親愛なる主が導いてくれるのさ
We’ve done some things,
おれ達はいろんなことをやったし、
wouldn’t even know where to begin
何から始めるべきなのかも分からなかった
but the dear lord knows we tried, so it’s alright
でも親愛なる主は分かってくれるんだ、だから大丈夫さ

ここで見られるように、Stormzyは”Lord(主、神)”への信仰や感謝を度々歌います。信仰する宗教を公式に発表しているわけではないので断言はできませんが、楽曲を聴く限りおそらく彼はクリスチャンです。

このEP「Dreamers Disease」では、彼の新しい音楽性への挑戦と、デビューを経ての決意や覚悟が見て取れます。

更なる躍進

2015年に入り、彼は二枚のヒットシングルを世に送り出します。

Know Me From

シーンの立役者、Dizzee Rascalの名曲「I Luv U」をサンプリングしたグライムチューン。

少し話がそれますが、Dizzee Rascalのアルバム「Boy In Da Corner」を聴かずしてグライムミュージックを語ることは許されないので、聴いたことがないという方は必ず聴いてください。言わずと知れた名盤です。

WickedSkengMan 4

こちらは前述した「WickedSkengMan」シリーズのPart 4です。

この楽曲は、UKシングルチャートで18位という成績を残し、フリースタイル楽曲としてのランキング(それまでの最高記録はJMEの「96 Fuckrie」で40位」)を大きく更新し、UK音楽シーンにおける歴史的快挙を果たします。皮肉にも、この曲のトラックはJMEの「Serious」という楽曲のものです。

ちなみに、先月末にリリースされたJMEの4年ぶりのアルバム「Grime MC」は既聴されましたでしょうか。フィジカルでのリリースのみという、いかにもJMEらしいこのアルバムは、「Grime MC」というタイトルに恥じない素晴らしいグライム作品でしたので、是非聴いてみてください。

すみません、少し脱線しました。それにしてもこの頃のクラシックなグライムビートを乗りこなすStormzyは本当にかっこいいですよね。ビデオを見るたびに惚れ直します。

そして、この「WickedSkengMan 4」のB面シングルとしてリリースされた「Shut Up」も、彼の成功を語るにあたって欠かせない楽曲です。

公園で友人らと集まり、DJ XTCによるオールドスクールなグライムチューン「Functions on the Low」の上でフリースタイルを披露しているだけのこの楽曲が、なんとUKシングルチャートのトップ10入りを果たします。

そのきっかけとなったのが、2015年の末に開催されたWBCインターナショナル王座とコモンウェルスイギリス連邦王座の防衛並びにBBBofC英国ヘビー級王座決定戦であった、Anthony JoshuaとDillian Whyteの一戦です。Stormzyは、Joshuaの入場曲として「Shut Up」を披露しました。いずれは僕もStormzyのラップを聴きながらリングに上がりたいものです。

後にリリースされる彼の楽曲、Cold (「Gang Signs & Prayer」収録)では、当時について次のようにラップしています。

I just went to the park with my friends,
and I charted

友達と公園に行っただけでチャート入りさ

Best Grime Actの受賞

ブラックミュージックに特化したイギリスの音楽賞、MOBO Awardsにて、Stormzyは「Best Grime Act」と「Best Male Act」の二部門を受賞します。

Bugzy MaloneやLethal Bizzle、Skeptaといった有力候補を抑えての受賞が、Stormzyの人気、注目度を物語っています。

2016年、デビューアルバムに向けて

2016年はアルバム制作に力を入れており目立った活動はなかった彼ですが、実は日本絡みのイベントがいくつかありました。

まずはこちら、「One Take Freestyle」。

東京渋谷の109、東急ハンズ周辺でフリースタイルをスピットするStormzy。ゲームセンターや自動販売機など、いかにも”日本っぽい”場所で撮影を行なっています。「クールな国”Japan”に行ってきたぜ!」って感じですね。

来日公演

つい最近、単独来日公演が決まり話題沸騰中の彼ですが、実は2016年に日本でのライブ経験があります。キャパ300人のCIRCUS Tokyoで、しかもエントランス無料。今では到底考えられませんよね。

StormzyはAdidas Originals by NIGOのルックにも起用されており、その関係で来日したとのことです。

デビューアルバムのリリース – Gang Signs & Prayer –

はい。ついに来ました、「Gang Signs & Prayer」。自主レーベル#Merky Recordsからリリースされたこのアルバムは本当に革命的な作品です。文章でだらだら説明するのもあれなんで取り敢えず楽曲を聴いていただきましょう。

Big For Your Boots

いかがでしょうか。BPM140の正統派なグライムチューンです。緊迫感漂うビートの上で彼は次のようにラップします。


You’re getting way too big for your boots
おまえは自惚れすぎだ
You’re never too big for the boot
おまえは絶対に成功できない
I’ve got the big size 12s on my feet
おれは12(29cm)のブーツを履く
Your face ain’t big for my boot
おまえはおれに及ばない
kick up the yout
若者を奮い立たせる
Man know that I kick up the yout
おれが若者を奮い立たせてるって知ってるだろ
Dem boy dere tried twist up the truth
やつらは事実を捻じ曲げる
How dare you twist up the truth?
どうしてそんなことができるんだ

too big for one’s boots : 「自惚れる」というイディオムと、Stormzyの靴(ブーツ)のサイズの大きさには誰も敵わないという意味をかけており、さらには靴から連想される”Kick”という単語を使って話を展開しています。

グライムのビート上で発せられる彼の力強いフロウには、技術や巧みさを超えた説得力があり、内容をよりシリアスに伝えるパワーがあります。

Cigarettes & Cush (feat. Kehlani & Lily Allen)

こちらは90年代R&Bテイストの一曲。前記のグライムチューンからの落差が凄すぎて、この2曲が同じアルバムに収録されていることが信じがたいぐらいです。Kehlani、Lily Allenの歌声と、Stormzyのタイトなラップが見事にマッチした名曲です。ミュージックビデオもロマンチックなので是非見てみてください。

Blinded By Your Grace Pt. 2 (feat. MNEK)

[Stormzy & MNEK]
Lord, I’ve been broken
神様、おれは落ちぶれていたんだ
Although I’m not worthy
何の価値もないおれでも
You fixed me, now 
あなたは立ち直らせてくれた
I’m blinded by your grace, 
あなたの恵みに圧倒される
you came and saved me
おれを救いにきてくれたんだ

神への感謝を歌うこの楽曲からは、オルガンを基調としたトラックや聖歌隊の美しいコーラスから、ゴスペルの影響を強く感じます。Kanye Westのゴスペルアルバムも話題となったように、やはりゴスペル色を取り入れたヒップホップアルバムは音楽的にも内容的にもより深みが増すように思います。Stormzyという立派な成功者でさえ神の力を頼りにすることもあり、改めて宗教の力は測りしれないなと感じさせられる一曲です。

Acousticバージョンもリリースされており、Wretch 32のバースが最高なので、是非聴いてみてください。

このアルバムの収録曲はハズレがないので本当は全曲ご紹介したいのですが、長くなってしまうので今回は代表的な三曲をご紹介させていただきました。

しっかり正統派グライムを組み込んだ上で、R&Bテイストのメロウな楽曲や、神を讃えるゴスペルチックな楽曲を散りばめたこのアルバム。一見まとまりがなさそうで、「Gang Signs & Prayer」は何度聴いても飽きさせない完璧なバランスを保っています。

その証拠に、リリース後早い段階でプラチナ認定(100万ユニット)され、その勢いのままイギリスの権威ある音楽賞Brit Awardsにおいて最優秀アルバム賞と最優秀男性ソロアーティスト賞を受賞しました。

ここまで来ると、さすがにグライムシーンのネクストキングと呼んでも異論はないでしょう。

Glastonbury Festival 2019

彼の偉業を語るにあたって欠かせないのが、世界最大級の音楽フェス、グラストンベリー・フェスティバルでヘッドライナーを務めたことです。

これまで、OasisやRadiohead、Cold Playなど、主にロック界のスター達が務めてきたポジションでしたが、今回イギリス出身の黒人ソロアーティストとして初めてStormzyが選出され、歴史的快挙となりました。

まずはその彼のステージを見ていただきましょう。

https://youtu.be/9vgar9pInkg

いかがだったでしょうか。いやー、かっこよすぎませんか。初期の楽曲から最新曲まで、またEd Sheeranの人気曲「Shape of You」やKanye Westの「Ultralight Beam」をカバーしたり、Dave & Fredoをステージに上げたりと、見どころ満載のステージで、1時間15分があっという間です。僕自身、何周見たか分かりません。

ちなみに、彼が着用しているユニオンジャック柄のベストは、イギリスを拠点とする著名なアーティスト、Banksyがデザインしたものです。

I made a customised stab-proof vest
カスタムした防刃ベストを作った
and thought – who could possibly wear this?
だれが着るべきだろうか
Stormzy at Glastonbury.
グラストンベリーのStormzyだ

このベストは警察の銃程度であれば防ぐことができる実用的なものであり、イギリス社会に蔓延するナイフ犯罪を批判するStormzyによるメッセージが込められています。

本日リリースされたアルバム「Heavy Is The Head」収録の「Audacity (feat. Headie One)」では、次のようにラップしています。

When Banksy put the vest on me
Banksyにベストを託されたとき
Felt like God was testin’ me
神に試されていると感じたんだ

ニューアルバムのカバーアートにも写っているこのベストは、850£(約12万5千円)で一時期販売されていました(現在は売り切れ)。

セカンドアルバム -Heavy Is The Head-

そして本日、彼のセカンドアルバム「Heavy Is The Head」が遂にリリースされました。2年越しのリリースということで世界中が待望していたこのアルバムには、Ed Sheeran、Burna Boy、Headie One、Tiana Major9、Yebba、H.E.R.、Aitchら豪華客演陣が参加しており、プロダクションにはFred Gibson、Fraser T Smith、T-Minusらがクレジットされています。

僕自身まだしっかり聴き込めていないので、少しだけご紹介したいと思います。

Crown

I done a scholarship for the kids, 
子供達のための奨学金を用意したけど
they said it’s racist
やつらは人種差別だって言うんだ
That’s not anti-white, it’s pro-black
アンチ白人ってわけじゃない、”プロブラック”なんだ

寂しげなトラックの上で、”キング”としての苦悩を歌う一曲。

Stormzyは、毎年2名の黒人学生を対象とするケンブリッジ大学進学用の奨学金「THE STORMZY SCHOLARSHIP」を2018年に設立しており、そのことについて言及しています。

彼曰く、決して差別行為をしているのではなく、教育における不平等を解消するために行っているものだそうです。どんな善行をしても、批判的な言葉を浴びせてくる人間は必ずいますよね。悲しい世の中です。

Own It (feat. Ed Sheeran & Burna Boy)

Ed SheeranとBurna Boyをフィーチャーしたアフロビートチューン。StormzyとEd Sheeranといえば、今年リリースされたEdのコラボレーションアルバム「No.6 Collaborations Project」収録の「Take Me Back to London」でも共演し、「曲のイメージが変わってしまうという理由で、当曲に参加予定だったJay-Zの参加を断った」という興味深いエピソードも話題となりました。

Stormzyは、彼の最も尊敬するアーティストであるJay-Zとの共演のチャンスを、曲のイメージ保持のために棒に振ったのです。このエピソードを聞いて、僕は改めてStormzyに惚れ直しました。憧れのアーティストとの共演を断るなんてなかなか出来ないですよ、普通。これも、シーンを背負う”キング”としての覚悟と責任感の表れでしょう。

はい。長くなりそうなので、とりあえず楽曲紹介はこの辺りにしておきます。

音的にはUSヒップホップの影響を感じさせるものやメロウなもの、ソウルフルなものなどが大半を占めており、グライムっぽさは強くは感じられませんが、彼はもはや「グライムシーンのスター」ではなく「現代の音楽シーンを代表するアーティスト」なのです。

前述した「THE STORMZY SCHOLARSHIP」の設立や、有望な作家の発掘を目的とした「#MERKY BOOKS」の立ち上げに加え、ソーシャルメディアを通じて選挙の投票を呼びかけるなど、音楽活動だけでなく社会活動にも力を入れているStormzy。今後ますます目が離せない存在になりそうです。

おわりに

今回は、本日セカンドアルバム「Heavy Is The Head」をリリースしたグライムMC、Stormzyについてまとめてみました。彼の魅力と功績が、多くの方に伝わっていれば幸いです。ニューアルバムについてのご意見やご感想もお待ちしております。

Stormzyをはじめとし、KAYTRANADAやFree Nationalsらの新譜もリリースされた忙しい1日にも関わらず、最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは良い週末を!

Apple Musicのプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/stormzy-heavy-is-the-head/pl.u-2aoqp2LUNWXxYz0?l=en

なぜトラップミュージックはここまで流行ったのか

最近Apple Musicなどで音楽を聞いていると、ふと思うことがあって。

まあトラップがめちゃくちゃ売れているのはもちろんなんですが、本当にいろんな国のアーティストが売れているなあって思うんですね。

それと、どこの国でも売れるっていうのは何かしらの共通項があるんじゃないかって思うんですね。

今日は題名にある通り、なぜトラップは流行っているのかについて書いていくのですが…

これは先日発表されたグラミー賞のベストラップアルバムの5つがなぜ評価されたのか?ということにも繋がります

なぜヒップホップ(特にトラップ)が売れているのか?

今日はその秘密を「特異性」と「即効性」をキーワードに探っていければなあ〜と思います。

Z世代と特異性

まず、売れるということには必ず共通した特徴があります。それはまず、「特異性」です。

簡単に言うなら、この曲はほかの曲とはちゃうなあ。ってやつです。

ここで大切なポイントは「僕たちの世代における」特異性についてです。

今音楽業界は、Z世代と呼ばれる世代を相手にマーケットを行う傾向にあります。

Z世代は10代後半から20代前半の年齢の人々を指す言葉ですが、この世代の特徴はどのようなものでしょう?

何でもかんでもネットで検索する、SNSを使う社会は当たり前、デジタルネイティブ…など様々な言葉が思い浮かびますが、これらに共通するものはインターネットです。

ではインターネットと共に成長してきた世代の主な特徴とはなんでしょう?

ここで一つ面白い引用があるので紹介します。

みなさんご存知、日本のラッパーやその他様々なアーティストにインタビューを行う「ニート東京」の一幕です。

ラップスタア選手権以来、飛ぶ鳥を落としまくっているTohjiのインタビューなのですが。(この間のMura Masaの来日ライブのサポートアクトにも選ばれていましたね。)

「一緒の場所に住んでいる、違う場所にいるけど。」

これです。ここがポイントなんです。

僕たちの世代はどこにいようと繋がっている「ように感じる」

そして「ほとんど同じものを見て育った」世代なんです。

例えば一例をあげましょう。

WeChat

みなさんは遊ぶ約束をどのようにしますか?もちろん、日本だとLINE、その他の国だとWeChat、カカオトーク、WhatsAppなど多種多様ではありますが、SNSを使いますよね。

WhatsApp

「今日、ハチ公前19時な。遅れんなよ。」

この言葉を言うために携帯が無かった時代の人はどれだけ苦労したことでしょうか。

昔の携帯のキーホルダー

もっと分かりやすい例を出しましょう、昔同じ地元だった友達が東京にいたとします。その人に連絡したいと思っていますが、あなたは連絡先を知りません。

はい、昔であればこの時点で共通の知り合いを探りまくって何とか辿り着くしか連絡先を知る手段はありません。

レベル5のコラッタが気合いのハチマキでグラードンの攻撃にギリ耐えたけどモンスターボールしか持ってないし捕まえるのほぼ無理やな、ぐらいの状況です。

コラッタ(Lv.5)

しかし今だとどうでしょう?

Facebookなどを使えば上の世代だとほとんど探し出せますしTwitterやinstagramをやってない人などほぼいないので探し出すことは容易でしょう。

例えるならば、マスターボールを持った状態でレベル3のビードルを捕まえようとしているようなものです。

ビードル(Lv.3)

どこにいても誰とでもつながっている「ような感じ」がする。

これこそが、「ユビキタス」な社会の欠点であり良いところでもあるのです。

みんなが同じようなものを見てきたからこそ、特異性とはその裏をかくような意外性とも言い換えることができます。

ヒップホップとシティーポップ

音楽でその特異性を表現するためには様々なパターンが考えられます。

例えば、Z世代が聞いていない世代の音をサンプリングするなどは考えられるでしょう。

例えば、アニメが有名な日本という「クール」な国の曲をサンプリングする。

今世界でやたらと日本のシティーポップがサンプリングされたり、使われたりしがちですが、これは他国にとって「異質なもの」として日本の70-90年代の音楽が捉ええられているからとも言えます。

シティーポップの使用の例として1つ紹介いたします。まあ多分ヒップホップ好きなら知っているとは思いますが・・・。

今年バイラルヒットし、グラミー賞ベストラップアルバム賞にもノミネートされた Tyler, The Creatorの “IGOR” から一曲、「GONE, GONE / THANK YOU」です。

これはシティーポップの旗手である山下達郎の「Fragile」をサンプリング、というか歌詞を変えて、メロディーを被せてタイラーが歌っているんですね。

公式にクレジットにも山下達郎が記載されていて、本当に驚きの限りという感じですが、コアすぎるやろ・・。

もっと山下達郎の中でも有名な曲を使うならわかるけど、どんだけ好きやねんっていう。

まあ本当 Odd Future周りの日本好きには脱帽です。

少し前に公開されたフランクオーシャンのラジオでも YELLOW MAGIC ORCHESTRA がかかっていて、やっぱり70-90年代の日本の異様さは他国から見るとすごいんだろうなと改めて感じています。

あ、YELLOW MAGIC ORCHESTRAは日本のエレクトロの先導者でもありますし、日本の音楽を作ったと言っても過言ではありませんから是非聞いて見てください。電子音系が好きな人には是非おすすめですよ。

なんて言ってもメンバーが半端じゃないですからね。坂本龍一・細野晴臣・高橋幸宏ってやばすぎやろ。レックウザとグラードンとカイオーガですよ・・・!

海外のファンもたくさんいますし!何より矢野顕子のカバーが半端ないんですよね・・・とまあこの辺りはかなりシティポップ的な内容になってしまうのでまた今度ヒップホップと関連させて記事にします!

「東風」

まあ、話を戻すと、自分の国の同じような世代が聞いていない音を取り入れるっていうのも「特異性」をアピールするのによいやり方の1つなんですね。

「特異性」と「転調」

他にはどのように「特異性」を出す方法があるのか。

有名なものの1つとして「転調」があります。

先ほど、「みんなが同じようなものを見てきたからこそ、特異性とはその裏をかくような意外性とも言い換えることができます。」と書いたと思います。

音楽にとって裏をかくとは、わかりやすくいえば、聞いている人が「こうなるんやろなあ」と思っているところで「ありえない音」をブチ込むことなのです。

ラップとは元をたどればループ音楽であることも考慮すれば、流れを断ち切った時の衝撃が他のジャンルよりもかなり大きいことも理解できるのでは無いかとおもいます。

最も分かりやすい例として去年、これまた世間を長らく賑わした Travis Scott と Drake のコラボ曲「SICKO MODE」です。

僕的にいえば、「金かかってそうやけどカッコいいんかどうかわからんPVランキング」の2018年のグランプリだと思いますが・・。

とにかく、2分57秒あたりで始まる転調の初めて聞いた時のあの衝撃は忘れないですよね、本当に名曲以外の何物でも無いと思います。

Travisの凄さはいうならば、オートチューンの使い方とかメロディとか色々あるんですが、その洗練された音にあると思うんですね。

無駄な音が極端に少なく、ほぼ完璧なバランスでそれぞれの音が個性を失わない。だからこそ突然その完璧性の壁の崩壊、つまり転調が起こった瞬間の衝撃も並大抵じゃ無いんです。

「特異性」のまとめ

ここまでで「特異性」の大切さがわかっていただけたと思います。

そして、まとめるとラップがその特異性を出すことに長けている理由は2つありますね。

①サンプリングの音楽であることから、自国には無い「異質な音楽」を取り入れることができる。

②ループ音楽であることから、繰り返しから一気に「転調」した時に他のジャンルと比べてもかなりの衝撃が走る。

ヒップホップと即効性

話を次に進めましょう。先ほど特異性について書きました。ただ他の曲と違えば売れているのかといえば、そういうわけでもありません。

次はもう1つの大切な要素である「即効性」についてです。

待ち合わせの例を先程出しましたが、もし相手が「時間間に合わんわ、すまん」と連絡して来た、という状況を考えてみてください。

大抵の日本人なら、暇なことですし、携帯でインスタを見て、イヤフォンであいみょんとYoung Nudyを交互に聴くでしょう。

それでも暇ならばPornhubでも見て時間を過ごすでしょう。(どうせ女の人この記事あんま見てないからええやろ…)

そうなのです、ユビキタスな社会のせいで、あるいはおかげで、現代人には「暇の概念」がほとんど無い、または昔とは全く変わってしまっているのです。

整理すると、暇=「無駄」ってものがほとんどない。

そして今、最もあついSNSはもちろんinstagramやTik Tokでしょう。これこそ現代人の感覚をほぼ網羅したSNSじゃないかと思います。

「いつでもどこでもできて、徹底的に無駄がない。」

無駄が無いといえばApple

これが意味するのはつまり、洗練されていることによりすぐに効果があるという徹底的な「即効性」

これがキーポイントです。

じゃあなんで即効性が大事な社会でヒップホップがそんな売れてるの?

これを考えるために大切なこと。それはヒップホップ、ひいてはラップミュージックとは何なのか?です。(ここからは面倒くさいのでラップと書かせてください)

ラップとは元を辿れば「コピー&ループ」音楽です。

分かりやすくいうと、「この音楽のこの部分ええな、パクってここばっかループさせまくってラップして一曲作ろ」ってやつです。

まあもっと元を辿れば楽器など何もなくてもできる音楽なので違うといえば違うのですが。

気になる方は慶應の法学部の教授で音楽評論家の大和田俊之先生の「ブルースからヒップホップまで」をお読みください。

現在のヒップホップシーンにおいてもこのコピー&ループというのはよくあることです。

サンプリングで訴えられたやらどうやらという事件は聞いたことがあるのではと思います。

例えば、昨年大ヒットしたJuice WRLDの「Lucid Dreams」です。

ヒップホップ好きで知らない人は確実にいないでしょうこの曲は、ロック好きなら知らない人は確実にいないであろうStingの名曲、「Shape Of My Heart」のサンプリングなのです。

この曲はアメリカとフランスの合作でこれまた映画好きであれば知らない人はいない、いや映画が好きじゃなくても知っているであろう「LEON」の主題歌です。近親相姦的な愛とでも呼ぶべき純愛の映画なのですが(純愛の基準は人それぞれ)、ナタリーポートマンをここまで美しく映しているこの映画は素晴らしいですね。

私事ですが、僕はフランス映画と哲学の勉強をしているのでリュックベッソンがここまで過大評価されていることを手放しでは喜ぶことはできませんが(みんなカラックスの映画も見てや!)。

レオス・カラックス「ポンヌフの恋人」

話が脱線していますね、とにかく戻ります。要するに、良い部分(サビやフック)をパクるってのはいまだに良くあることなのですが・・・。

ここである人が言うかもしれません「いや、今はサンプリングよりプロデューサーが作った曲の方が主流やぞ!コピペじゃないから即効性ってのはちゃうんと違うか?」

たしかに今はプロデューサーが作った曲が主流であることは認めざるを得ません。

Mustard・Murda Beatz・Metro Boomin・Pi’erre Bourne・Jetsonmade・Wheezy….など今のチャートを動かしえるプロデューサーは挙げはじめればキリがありません。

しかし、これらのプロデューサーが作るビートの主流はどのようなものでしょう?

ここで僕たちの世代が恐らく神と崇めているであろうPi’erre Bourne プロデュースの曲を流してみましょう。

30秒あたりで曲が始まります。どうでしょうか?このビート。聞いた瞬間にヤバイ!ってなりますね。

浮遊感のあるビートと称される彼のビートですが、ほぼ全てのビートにおいてまるで一曲の中心(サビorフック)に当たるような部分がいきなりきて、それが、繰り返されます。

ラップの初期においては、「曲の良いところ(サビやフック)をコピー&ループしたビート」が主流だったと先程話しましたね。

そしてそれが時を経ていくうちに、プロデューサー達が作曲したビートがメインになり、今は「曲の良いところ(サビやフック)をコピー&ループした”ような”ビート」が主流だということです。

つまり、ポップなどにおけるサビの部分にあたる部分をいかに良質に、そして大量に作れるか、というのが今のプロデューサー、ひいてはラップの楽曲に求められていることなのです。

ここまでをまとめると、一般的な曲の中心になるような場所が最初にやってくる楽曲こそが最近のラップの主流なのです。

つまり、音楽をかけ始めて数秒で良い音が聞けるという「即効性が求められる時代に最も合ったジャンル」なのです。

そして、即効性が求められるようになったのにはもう一つの要因があります。

ストリーミングサービスの台頭

Spotifyという革命的なメディアが2006年にスウェーデンにて開始されます。

月に千円程度払えばどんな曲でも聴けちゃうよー、ってやつです。

なんて革命的な…!!って当時の人はなった事でしょう。そしてそれはすぐさま世界にストリーミング旋風を巻き起こします。

それに対抗するように2015年、Apple社がストリーミングサービス「Apple Music」が始まります。

これら二つの圧倒的メディアが音楽界を完全にジャックしていきます(Sound Cloudは圧倒的な影響を及ぼしますが、無料ストリーミングサービスなので一度おいておきます)

勘のいい人はここらへんでもう気付いてるんじゃないですか?そうです、トラップが流行り出したのもちょうどこの15年あたりなのです。

Spotifyの台頭と共に音楽界をジャックしたラップというジャンル。

現代の人の即効性の欲求と見事にマッチしたメディア。

CDなどとは違い、お金を余分に払わなくても聞けてしまう。

つまり、良い曲だけをできるだけ効率的に聴きたい。こんな欲求がみなさんの意識下にはあるのです。

面白い研究があるのですが、ある調査では現代人は音楽を聴いた際に、最初の数秒でその曲が良いかどうかを判断するそうです。

面白いですね、即効性とストリーミングとヒップホップ。傍系的で荒唐無稽な関係に思えて実は、ガッチリ関係し合ってるんですね。

オススメの曲

ここまでを振り返って何曲かこの「特異性」と「即効性」の理にかなっている曲の例として1曲だけ紹介したいと思います。

ここまで読んでくれたあなたならこの良さが必ずわかるはずです。

1. Jay Prince「Father, Father」

イーストロンドン出身の25歳のラッパー Jay Princeから一曲です。彼の紹介を軽くすると・・・

90年代のUK Hiphopから強く影響を受け、様々なジャンルを横断し得るサウンドからスターとまではいいませんが、かなりのファン層を持っている彼。

2012年に発表した「Lounge in Paris」でデビューし、2013年頃にセルフプロデュース発表した「Mellow Vation」にてそのキャリアを本格的にスタートしました。

紹介はこの程度にしておいて、彼の曲の凄さは聞いた瞬間に「良い!」ってなるサウンドに加えて、サンプリング・転調を巧みに仕掛けてくる、まさにこの時代にあった人なんですね。(もっとセルフプロデュースして売れればいいのに・・・)

では聞いていただきましょう。

実はこの曲、 “yolanda Adams”の「the battle is the lord’s」(1996年)のサンプリングから始まるんですが、こんな使い方普通できる?できるんなら先ゆうといてやって感じです。

最初の耳を奪うような「即効性」に加え、サンプリングと転調による圧倒的な「特異性」。

彼こそこれからさらに注目されていくであろう存在だと思います。

Goldlink・Tyler, The Creatorとコラボした曲「U Say」でも話題となった彼。またアルバムを出した際には彼の全てがわかる記事を書きますのでしばしお待ちを。

終わりに

どうでしたか?今日はヒップホップがなぜ流行ったかについての記事でしたが、次回はこの基準を元にグラミー賞ベストラップアルバム賞に選ばれた5つのアルバムについての記事を投稿いたしますので是非次も読んでみてください!

では、さよなら…さよなら…さよなら。

Kensho Sakamoto

The Weeknd – Heartless 和訳・解説

みなさんこんにちは。ついに The Weeknd が動き出しましたね。本日 自身がキュレーターを務めるラジオ番組の Memento Mori にてトリに新曲の “Heartless” を公開しました。その後、全てのストリーミングサービスにて配信開始されたこちらの曲を、世界最速で和訳してみましたのでよければご覧ください。

The Weeknd – Heartless (プロデューサーは Metro Boomin)

和訳

Never need a bitch, I’m what a bitch need (Bitch need)

俺に女は要らない。女が俺を欲しがるから。

Tryna find the one that can fix me

俺を魅了できる女を探してる

I’ve been dodgin’ death in the six speed

俺はすごい速さで死を回避してきた

”six speed”とは車のマニュアル変速を6に入れてスピードを出すこと)

マニュアル車の6段変速機

Amphetamine got my stummy feelin’ sickly

アンフェタミンのせいで腹が痛いよ

(アンフェタミンとはアメリカなどでAD/HDの治療などにおいて処方されている薬のこと。日本では覚醒剤の種類として規制されている。)

Yeah, I want it all now

そう。俺はいますぐ全部を手に入れたい

I’ve been runnin’ through the pussy, need a dog pound

俺はクソみたいな状況でも走り抜けてきた。野犬収容所に入るべきだよな。

”dog pound” とは飼い主から逃げた犬や野犬を保護するための公共の檻のこと。駆け抜けてきた自分を犬に喩えてその檻に入れられるべきだと言っている)

Hundred models gettin’ faded in the compound

何百ものモデルがこの争いの中で消えていった。

(Weekndの恋人になるために沢山のモデルが争ったが、結局皆消えていったという意味か。)

Tryna love me, but they never get a pulse down

みんな俺のことを愛そうとするけど、彼女らは興奮を抑えることができないんだ。

[Hook]

Why? ‘Cause I’m heartless

なぜかって?それはおれが冷酷だからだよ。

And I’m back to my ways ’cause I’m heartless

そして俺は俺のやり方で行くよ。所詮薄情者だし。

All this money and this pain got me heartless

金やこの痛みが俺を冷酷にする

Low life for life ’cause I’m heartless

俺は冷酷だし、死ぬまでクソみたいな生活を送るよ。

Said I’m heartless

俺は冷酷だって言っただろ。

Tryna be a better man, but I’m heartless

もっと良い男になろうと頑張ったけど、結局同じだった。

Never be a weddin’ plan for the heartless

そんな俺は結婚する予定もないし

Low life for life ’cause I’m heartless

俺は冷酷だし、死ぬまでクソみたいな生活を送るよ。

(Weekndはフリースタイルの “Gone” をラップした時点から、Futureとの楽曲である “Low Life” をリリースしたとき、そして今回の楽曲を制作するまでずっと自分の成功した人生の影に良くない人生が存在するという考えを持ち続けている。)

Future – Low Life (feat. The Weeknd)

[Verse 2]

Said I’m heartless

俺は冷酷だって言っただろ

So much pussy, it be fallin’ out the pocket

ポケットからこぼれ落ちるほどのたくさんの女。

Metro Boomin turn this ho into a moshpit

メトロブーミンがその女たちをモッシュピットの中にぶち込む

(Metro Boomin はこの楽曲のプロデュースも手がけるアトランタ出身のプロデューサー)

Tesla pill got me flyin’ like a cockpit

テスラピルを飲んで、コックピットで操縦して飛んでるような気分だ

(テスラピルとは、自動車会社であるテスラのロゴをかたどった最も有名なタイプのMDMAの錠剤のこと)

テスラピル

Yeah, I got her watchin’

彼女が俺を見てる

Call me up, turn that pussy to a faucet

俺に電話してくれよ。お前のあそこを蛇口みたいにしてやるよ。(説明しなくても分かるよね)

Duffle bags full of drugs and a rocket

ダッフルバックにパンパンのドラッグとジョイント

(ここで”rocket” はマリファナを巻いたジョイントのことを意味している。火をつけると片側から煙が出てロケットみたいだから。)

イメージが掴みにくい方のために特別に参考画像を用意しました。今回だけね!

Stix drunk, but he never miss a target

Stixは酔っ払ってるけど、彼は目標を見失わない

(”Stix”はXOレーベルのメンバーの一人)

Photoshoots, I’m a star now (Star)

写真撮影。俺はいまスターだ。

I’m talkin’ Time, Rolling Stone, and Bazaar now (‘Zaar)

今はタイム、ローリングストーンズ、バザールにインタビューを受けるほどだ。

(ひとつ前の「俺はスターだ」という発言を強調している。ちなみに Weeknd は Time の表紙を飾ったことがある。)

Sellin’ dreams to these girls with their guard down (What?)

女たちがガードを緩めてる隙に、俺は思わせぶりをしちゃう

Seven years, I’ve been swimmin’ with the sharks now

7年間俺はサメたちの中を必死に泳いできた

(Weekndは7年前にデビューした。サメはデビューしてから目の当たりにしてきた周りの悪い人間のことを意味している)

[hook]

I lost my heart and my mind

俺は心も感情も失った。

I try to always do right

いつも正しいことをしようとしている。

I thought I lost you this time

今回は君を失ったと思ってた。

You just came back in my life

でも君は俺の前に戻ってきてくれた。

(破局してよりを戻した Weeknd の恋人 Bella Hadid のことを歌っている。)

左 : Bella Hadid 右 : The Weeknd (言わんでも分かるか)

You never gave up on me

君は俺のことを諦めなかった。

I’ll never know what you see (Why won’t you?)

俺は君が何を見ているかは分かりっこない。

I don’t do well when alone (Oh yeah)

1人の時はやっぱりうまくいかないよ

[Hook]

シングル一曲出すだけでここまで盛り上がらせる。さすが Weeknd です。アルバムも出そうな感じなので楽しみに待ちましょう。では。

アトランタのトラップガール Bali Baby の魅力とは

こんにちは。

今回は、今年の XXL フレッシュマン候補にノミネートされていたものの惜しくも選出されなかったアトランタ出身のフィメールラッパー、Bali Baby ちゃんについて書いていこうと思います。彼女の魅力を最大限にお伝えできるように頑張りますので、最後までお読みいただければ幸いです。

Bali Babyとは

Bali Baby はバルバドスにルーツを持つジョージア州アトランタ出身(生まれはノースカロライナ州ジャクソンビル)の22歳。名前の由来なんですが、”Bali” は “Cali” の C を B に変えたもので、フッドの中で一番若かったことから “Baby” をつけたそうです。

※Cali : 低価格且つ高品質なことで知られるカリフォルニア産のマリファナ

※ギャング組織 Bloods (ブラッズ)に所属するメンバーは、敵対するギャング組織 Crips (クリップス)の頭文字である C を嫌い、C から始まる言葉を B に置き換えて使うことが多い。例: Crazy → Brazy

そんな彼女はキャリア当初、同性愛者であることを公表している数少ないフィメールラッパーとしても注目を集めていたのですが、現在は Rockstar Marqo という三流ラッパーと交際しています。ビジネス同性愛もいいところです。

Rockstar Marqo への嫉妬(S**t)が溢れ出る前に話題を変えます。

学生時代は神経学を専攻、将来の夢は脳外科医だった彼女は、2か月で中退するものの大学にも進学しており、インタビューの受け応えなどからもどことなく根の真面目さを感じます。見た目とのギャップが良いですね。

DJ の父を持つ彼女は、幼い頃から様々な音楽を聴いて育ちました。中でも Lana Del Ray の影響が最も大きく、彼女とコラボすることが夢だそうです。ヒップホップは昔から聴いていたわけではないという彼女ですが、同郷アトランタのトラップシーンを引っ張ってきた Migos や 21 Savage、シカゴの Chief Keef など近年のラッパーを好んで聴いているそうです。

主にメインストリームの音楽を聴いて育ったという彼女は、トラップを基調としつつもポップスやロックの要素を取り入れた、ジャンルに囚われないスタイルを確立しています。

ラッパーとしてのキャリア

ツイッターに投稿したフリースタイルがバズったことがきっかけで、ラッパーとしての活動を本格的に始めた Bali Baby。

バズったフリースタイルの1つ。Travis Scott や Tory Lanez のリミックスも話題となった、MadeinTYO のデビュー曲「Uber Everywhere」のビートの上でフリースタイルを披露する Bali Baby。

キュート且つ奇抜なルックスの彼女から繰り出される可愛らしいラップが注目を集めました。その後周りの後押しを受けスタジオに通うようになった彼女は、楽曲制作に夢中になります。2016年に EP「Bali’s Play」をリリースして以降、2016年から2017年にかけて彼女は4つのミックステープをリリースしています。

そして昨年2018年、彼女は念願のデビューアルバム「Baylor Swift」をリリースしました。カントリー界の歌姫 Taylor Swift にあやかって付けたと思われるこのアルバム名ですが、もはや C を B に変えるという従来の慣わしを完全に無視し、TをBに変えちゃっています。こだわりすぎない強引さが良いですね。

それではここで彼女のデビューアルバム「Baylor Swift」から一曲聴いていただきましょう。Bali Baby で「Backseat」

いかがだったでしょうか。”Baylor Swift” というより “Bvril Lavigne” といった感じですね。この曲が代表するように、このアルバムはロックや2000年代初期のポップスを参考にしたようなサウンドで構成されています。アメリカの音楽メディア「Pitchfork」では、10点満点中7.4点という比較的高い評価を得ています。

ロック且つポップに昇華された彼女のデビューアルバムは、今までヒップホップやトラップミュージックに触れてこなかった方にもオススメの一枚です。是非聴いてみてください。

続いて同じく2018年に、彼女は「Resurrection」というアルバムをリリースしました。このアルバムは前作「Baylor Swift」とは打って変わって、がっつりアトランタトラップです。”Resurrection” (復活)というアルバム名には、”トラップスタイルへの復活”という意味が込められているのでしょうか。ポップ調な楽曲も良いのですが、キュートな彼女から繰り出されるバッドガール感満載のトラップもやはり魅力的です。それではここで「Resurrection」から一曲ご紹介したいと思います。Bali Babyで「Bloody Mary」

いやー、最高ですね。シスター姿の Bali ちゃんも可愛いです。もちろんルックスだけでなく、ラップもかっこいいですよね。リリックについてはここで取り上げるほど素晴らしいラインは特にないので割愛しますが、どこか癖になる声、ライミング、フロウを持ち合わせています。

この「Bloody Mary」という曲、リリースされる前に彼女の Instagram にて一部公開されていたのですが、車内でラップする彼女が最高にキュート且つクールなので是非ご覧ください。

長い爪が少し怖いですが、とても可愛いらしいですよね。(未だに周りで共感してくれる人がいないので、Bali Babyの魅力について語りあえる方募集中です。)

少しでも彼女に興味を持ったという方は、是非一度アルバム通して聴いてみてください。

そして今年2019年、冒頭でも触れたように、彼女はXXLフレッシュマンの候補にノミネートされます。

毎日4時間おきに投票した僕の努力も報われず、惜しくも(おそらく惜しくもない)選出されませんでした(泣)。

Bali Baby の豆知識

少しだけ彼女の豆知識をご紹介したいと思います。

来日

Bali Baby は2017年に、エディター兼チェキフォトグラファー米原康正氏の個展「FXXK YOU ALL」のオープンレセプション出演のため来日したことがあります。

米原康正氏と Bali Baby

結婚式も行われるようなホテルで彼女のラップが聴けるなんて、想像するだけで異様な光景ですね。

タトゥー

彼女は全身に複数のタトゥーを入れています。

その中でも特に目立つのが、胸の谷間にある「福禄寿」というタトゥーです。この「福禄寿」というのは、幸福・富貴・長寿を象徴する七福神の一人です。来日経験もある彼女は、おそらくアジアや日本の文化に関心があるのでしょう。

レコードレーベル

彼女は「Play Girls」という自身のレコードレーベルを運営しています。

現在は Gabby! や i.Skyy、Flexxi といったフィメールラッパーのみが所属していますが、Bali は HotNewHipHop のインタビューにて、『いずれはラッパーだけでなく、メイクアップアーティストやヘアスタイリスト、ストリッパーなどを含めたフィメールアーティストのためのレーベルにしたいの。』と語っています。

HotNewHipHopのインタビューを受けるBali Baby

アパレルブランド

彼女は「Play Gear」というアパレルブランドも展開しています。服やアクセサリー、ウィッグ、付けまつげなど幅広く展開しているので、Bali Baby に憧れる日本の女子高生の皆さんは是非チェックしてみてください。

https://playgirlgear.com/

Bali Babyの楽曲

ここからはBali ちゃんの楽曲を数曲ご紹介させていただきたいと思います。

「V.V」

彼女の 1stEP「Bali’s Play」、ミックステープ「Bubbles Bali」収録の一曲。

Lil Yachty の「Shoot Out the Roof」と同じトラックが使われています。この “V.V” というタイトルは、“Vintage Vagina” を意味しています。意味がわからない方はググってください。もちろん深い意味などありませんが、Bali は彼女のガールフレンドがどれほど良い女なのかについてラップしています(リリース当時はレズビアンラッパーとして売り出し中でした)。不思議なビートと彼女の可愛らしい声がマッチしており、個人的には Yachty の曲よりも好きです。

「Woah Woah Woah/Crashbandicoot and chill – Trippie Redd & Bali Baby」

Trippie Redd の EP「A Love Letter You’ll Never Get」収録の一曲。

Trippie が Instagram で Bali に連絡を取り、このコラボが実現したそうです。両者のオートチューンを効かせたキャッチーなフロウが癖になる良曲です。ちなみにこの曲のフックは、有名な“Woah meme”を引用しています。

「Zombitch(feat. Bali Baby)- Elle Teresa」

来日経験もあると前述しましたが、実は日本のフィメールラッパー Elle Teresa ともコラボしています。

“アソコのBitch What You Wanna Do?
ミニバナナを振り回す”


– Elle Teresa

という Elle Teresa のバースに対して、Bali も次のようにラップします。

“ask the little bitch whatcha wanna do
何がしたいのとビッチに尋ねる
when u talking to the boss u better check ya attitude”
ボス(私)と話すときは態度に気をつけな

– Bali Baby

この二人には、フロウもバイブスも近いものを感じます(笑)。こういったコラボを通じて、日本のファンが増えてくれれば嬉しい限りです。

Captain Save-A-Hoe

最後は、今週金曜日にリリース予定である彼女のニュープロジェクト「THE BOOK OF BALI」収録の一曲です。

この曲では、Baliのセクシーなウィスパーフロウを堪能することができます。「THE BOOK OF BALI」、非常に楽しみです。今週末は皆さんBali Babyを聴きましょう。

まとめ

今回はアトランタのトラップガール、Bali Babyちゃんについて書いてみました。以前から彼女についてまとめてみたかったのですが、あまり需要がなさそうなので避けていました。しかし今回改めて記事にしてみて、彼女への愛を再確認できる良い機会となりました。少し自己満チックな内容になってしまったかもしれませんが、これを機に彼女のファンが一人でも増えれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

Apple Musicのプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/bali-baby-the-hottest-female-rapper-comming-outta-atlanta/pl.u-2aoqp2viNWXxYz0?l=en