Asaad – フィラデルフィアのファッションアイコン・ラッパー

ニュープロジェクト『Are We…』のリリースや、Working on Dying のアルバムへの参加など、ここ数ヶ月で注目を集めるラッパー Asaad。今回は、ラッパー以外にもファッションアイコンやブランドデザイナーなど、様々な顔を持つとして知られる彼についてご紹介します。

Asaad はフィラデルフィア出身のラッパー です。Saudi Money というニックネームでも呼ばれる彼は、2011年頃から11枚ものプロジェクトをリリースしており、既に10年にも及ぶキャリアを有しています。

Asaad (Saudi Money)

多彩なフロウや、ヒップホップやファッションカルチャーからの引用を用いたワードプレイなどを得意とし、キャリア開始当初から着々とコアなファンベースを獲得してきました。

最新プロジェクト『Are We…』は、フィラデルフィアのプロデューサーコレクティブ Working on Dying の F1lthy によってプロデュースされたことでも話題となりました。F1lthy は Playboi Carti の『Whole Lotta Red』においてパンク系ビートを担当した張本人です。

ポップ・シューレアリズム分野で活躍するアーティスト Anthony Ausgang による『Are We…』のカバーアート

TwoSeven と呼ばれる自身のアパレルブランドを展開し、ファッションへの関心も大きい Asaad ですが、今作ではファッションブランドのネームドロップを用いたワードプレイやフレックスなど、彼ならではと言えるリリックも散見されます。ここでは、彼のニュープロジェクト『Are We…』より、おすすめの楽曲をリリックとともにご紹介します。

Now & Then

ここ数年の Lil Uzi Vert や Future らの一部の楽曲を彷彿とさせるハイパーポップ寄りのサウンドに、ボコボコと連打される激しい 808 が特徴的な楽曲です。ミュージックビデオには、Seventh Heaven を創設した John Ross や、YSL Records に加入したばかりのラッパー Yung Kayo、他にもBloody Dior などが登場し、とても賑やかです。

 Back to the basics rocking 990s
    初心にかえってニューバランス 990 を履くぜ

Keep it 1000 not 990
でも俺は全力を出し切る 中途半端じゃ駄目だ

Asaad – Now & Then

ニューバランスの人気モデルである 990 を登場させたワードプレイです。洗練されたデザインで古くから愛されているニューバランスの 990 を履くことで初心にかえりながらも、990% ではなく1000% の力(全力)を出し切りたいという思いを巧みに表現しています。

New Balance 990

 Saudi sweats cost a stack that’s luxury tax
    サウディスウェットは $1000、これは贅沢税だ

Asaad – Now & Then

Asaad が創設したアパレルブランド TwoSeven の目玉商品である Saudi Sweat を登場させた謎のフレックス。Lil Uzi Vert や Virgil Abloh をはじめとする、ファッションアイコンによる着用が話題を呼んでいましたが、当スウェットパンツは実際に1000ドルで販売され、購入を検討していたファンからは賛否両論が飛び交いました。

TwoSeven Saudi Sweatpants

5 Am Freestyle

スカスカでテンポの遅いドラムスに、不気味で不安を煽るような重いサウンドが特徴的なビートにのせて、数々のブランド名を引用し延々とフレックスを続ける楽曲です。

 Mix Kiko Kostadinov, Watanabe with Gosha
    キコとワタナベ、ゴーシャを混ぜて着る

Asaad – 5 Am Freestyle

Kiko Kostadinov はロンドンを拠点とするファッションブランド、Watanabe は渡辺淳弥によるブランド JUNYA WATANABE、Gosha はロシアのブランド Gosha Rubchinskiy です。ラップシーンにおいてのブランドのネームドロップは、Gucci や Prada、Louis Vuitton などが一般的ですが、ありがちなものを選ばないところに Asaad らしさが感じられて面白いです。

Kites

「Louis Vuitton のジェンガ」という独特なフレックスフレーズから幕開けする『Kites』は、縦横無尽に音階を行き来するピアノのメロディーが心地よい楽曲になっています。ほとんどの楽曲が F1lthy によってプロデュースされた当アルバムですが、こちらの一曲だけ ISOBeats によるプロデュースとなっています。

 I make stylists look stylist
    俺はスタイリストを更にお洒落にできる

and my bitch make bitches get jealous
そして俺の女は他の女を嫉妬させる

Asaad – Kites

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はフィラデルフィアの変わり種ラッパー Asaad についてご紹介しました。Working on Dying らとの繋がりも確認でき、Lil Uzi Vert らを筆頭とするフィラデルフィアのラップシーンを更に盛り上げてくれることを期待します。

月間おすすめアルバム【2021年3月】

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OMB Peezy – Too Deep For Tears

アラバマ州モービルのラッパーOMB Peezyのセカンドアルバム。哀愁漂うトラップビートとOMB Peezyの歌心のあるフロウが堪能できます。Blac YoungstaやJacquees、King Vonらが参加。


Lancey Foux – FIRST DEGREE

UK・ロンドンのラッパーLancey Fouxのミックステープ。Lancey Fouxらしいサイケデリックなビートチョイスと絞り出すような高音フロウが映える1枚です。Skeptaが参加。


CHIKA – ONCE UPON A TIME

アラバマ州モンゴメリーのラッパーCHIKAのEP。6曲というボリュームながらも、CHIKAの高い歌唱力とラップスキルが存分に発揮された1枚です。BJ the Chicago Kidが参加した『FAIRY TALES』での多幸感あふれるテンポチェンジがハイライト。


Joyce Wrice – Overgrown

カリフォルニア州ロサンゼルスのシンガーJoyce Wriceのデビューアルバム。90年代後半~2000年代初期のR&Bを彷彿とさせるサウンドとJoyce Wriceの美しく伸びのある歌声が魅力的な1枚です。Freddie GibbsやWestside Gunn、KAYTRANADAら豪華客演陣の参加に加え、Joyce Wriceと同じく日本にルーツを持つシンガーUMIが参加した『That’s On You (Japanese Remix)』も収録。


Benny the Butcher & Harry Fraud – The Plugs I Met 2

ニューヨーク州バッファローのラッパーBenny the ButcherとブルックリンのプロデューサーHarry Fraudによるコラボ・プロジェクト。サンプリングやジャズホーン、ストリングスなどを用いたニューヨークらしい上質なブーンバップと、Benny the Butcherのキレの良いラップが完璧な相性を見せる1枚です。Fat JoeやFrench Montana、Rick Hydeらの参加に加え、2 Chainzが参加した『Plug Talk』での佐井好子『胎児の夢』のサンプリングにも注目です。


24kGoldn – El Dorado

カリフォルニア州サンフランシスコのラッパー24kGoldnのデビューアルバム。現行のトラップサウンドをポップに昇華させた、24kGoldnの抜群のメロディセンスと力強いハスキーボイスが光る1枚です。FutureやDaBaby、Swae Leeらが参加。

Written by Riku Hirai


先月のおすすめアルバムはこちら↓

JAE5 – 美しいビートを生み出す天才プロデューサー

レゲエやダンスホールミュージック、そしてアメリカを中心に発展したヒップホップや R&B などが、 ナイジェリアやガーナといった西アフリカ独自の文化と融合して生まれた音楽ジャンルに「アフロビーツ」というものがあります。

当ジャンルの定義や名称については現在も流動的に変動を続けており、「アフロ・スウィング」や「アフロ・バッシュメント」と呼ばれるものなど、派生ジャンルも多数誕生しています。

今回は、そんな「アフロビーツ」または「アフロ・スウィング」ジャンルにおいて近年注目を集めるプロデューサー JAE5 についてご紹介します。生い立ちや、彼が幼少期に受けた音楽的影響、J Hus とのパートナーシップなど彼に関する重要な要素を追いながら、JAE5 の魅力に迫ります。

生い立ち

JAE5 (ジェイファイブ) こと Jonathan Mensah は、イーストロンドンのプレイストーにて誕生しました。5人兄弟 (5人とも男性) の次男として生まれた JAE5 は、0歳から10歳までをイーストロンドンにて過ごしました。

兄が音楽に興味を持っており、彼が買ってきた CD やラジオ音源をテープに焼いたものを借りて聴いているうちに、JAE5 自身も音楽への興味を持ち始めます。兄が所有していた CD のなかでお気に入りだったのは Timbaland のものだったと語ります。

10歳になった頃、彼は家族と共にガーナに移住します。その後、彼自身は三年間をガーナで過ごすことになるのですが、彼の現在のサウンドスタイルの基盤を形作ったのは、間違いなくガーナでの三年間であると言えるでしょう。

ガーナでの生活は、彼曰く「本当にやることがなく暇だった」らしく、FL Studio がインストールされたパソコンを触るか、道端でサッカーをするかの二択だったといいます。放課後の暇つぶしに前者を選んだ JAE5 は、普段聴いている音楽がどのように作られているのかに興味を持ち始め、自らの手でも音楽を作ることも視野に入れ始めました。

また、母親はレゲエの Lucky Dude のファン、兄は 50 Cent をはじめとするアメリカのヒップホップに熱中、母の兄は Celine Dion の大ファンだったらしく、家庭内も様々なジャンルの音楽で溢れかえっていました。ガーナの市街地では、バケツや木片をドラムに見立てて美しい音色を奏でる少年を目撃し、日々音楽的な面で影響を受け続けていたといいます。

キャリアの開始

ガーナで二年間を過ごした頃、レゲエミュージシャンである Shaggy のコンサートに参加した JAE5 は、スタジアムに鳴り響く彼の音楽に感銘を受け、自らも音楽の道へ進むことを決意します。

イーストロンドンにもどった JAE5 は、ラッパーである叔父に自作のビートを送りました。彼の叔父は、協力的な姿勢で彼のキャリアをサポートしてくれたそうで、レコーディングスタジオの見学などにも連れて行ってくれたそうです。

JAE5 が見学に訪れたスタジオでは、ダブステップやグライム、レゲエなど様々なジャンルの音楽を制作するアーティストたちが居り、ここでもガーナの時と同じように様々な音楽的影響を受けたといいます。

大学を中退した JAE5 はスタジオに入り浸るようになり、楽曲の制作に熱中していました。そしてその頃、彼をサポートし続けた叔父であるラッパーの Blemish、Randy Valentine と JAE5 の3人で JOAT というクルーを結成します。(初期〜中期の楽曲では JOAT のプロデューサータグが確認できます。)

J Hus との出会い

現在では、JAE5 の1番のパートナーであるラッパーの J Hus。JAE5 は J Hus の DJ を通じて知り合いました。共にスタジオ入りした瞬間から2人は意気投合し、そのままパートナーシップを結んだといいます。

J Hus の一作目『The 15th Day』では、JOAT Music Group 名義でほとんどの楽曲を、2作目の『Common Sense』ではエグゼクティブ・プロデユーサーを務め、3作目の『Big Conspiracy』では14曲中9曲を手掛けています。ここでは数ある JAE5 と J Hus の名曲の一部をご紹介します。

Did You See

JAE5 によるプロデュースの J Hus の楽曲の中で、最もヒットしたこちらの楽曲。J Hus によるデビューアルバム『Common Sense』に収録されています。スマートフォンのデフォルト着信音のような音色のメロディーをベースに、きめ細かいハイハットなどがスパイスとなる爽やかな雰囲気のビートが特徴的ですが、J Hus のラップはビートとは対照的にかなり過激なものとなっています。

Clean It Up

2016年にリリースされた J Hus の EP『Playing Sports』に収録されたこちらの楽曲。JAE5 がスタジオにて他のダブステップアーティストから受けた影響を垣間見れるような、激しい曲調となっています。SF アニメの効果音のようなサウンドが散りばめられており、現在の彼らの楽曲ではあまりみられないようなスタイルです。

Triumph

J Hus による待望のセカンドアルバム『Big Conspiracy』に収録されたこちらの楽曲。終始落ち着いたムードで進行していきますが、その中には繊細で細かいサウンドが散見され、聴くたびに前回聞こえなかった音が発見できるようなビートです。シンプルで洗練されているからこそ、決して飽きがこない一曲となっています。

Reapeat (feat. Koffee)

『Triumph』と同じく、セカンドアルバムに収録されたこちらの楽曲は、ジャマイカのレゲエアーティストである Koffee をフィーチャーしています。JAE5 によるレゲエ調のビートが、Koffee のジャマイカンスラングとマッチしており、Koffee による迷曲『TOAST』に似た幸福感をもたらしてくれます。Koffee のバースの途中から始まる、鉄琴のような音色が程よいアクセントになっており、JAE5 らしさが感じられます。

JAE5 プロデュースの楽曲

J Hus とのゴールデンタッグで有名な JAE5 ですが、他にも数々のアーティストの楽曲をプロデュースしています。今回はその中からいくつかおすすめをご紹介します。

JAE5 – Dimension (feat. Skepta & Rema)

JAE5 名義にてロンドンのグライム MC である Skepta と、ナイジェリアのラッパー / シンガーである Rema をフィーチャーした楽曲です。厳荘なメロディとカチャカチャとしたドラムスが特徴的なビートに、Skepta と Rema がうまくマッチしています。アフロビーツからベイビーボイスを用いたトラップに至るまで様々なジャンルに挑戦する Rema ですが、今回の楽曲では Skepta にラップを任せ、メロディアスなフックを担当しています。

Geko – 6:30 (feat. NSG)

UK のラッパ Geko が、イーストロンドン出身の6人のラッパーからなるアフロバッシュメントグループである NSG をゲストに招いたこちらの楽曲。装飾音が効いた木琴の音色を中心に展開される JAE5 のビートに、Geko のハスキーな歌声と NSG メンバーのグルーヴィーなラップが楽しい一曲です。

Dave – Location (feat. Burna Boy)

UK のラッパー Dave による傑作『PSYCHODRAMA』に収録された Burna Boy との名曲です。滑らかなピアノの旋律や、バックに響くサックスの音色が美しいビートは、彼の生み出す音楽がどのようなものなのかをいち早く理解するために最適かもしれません。、

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は、アフロビーツやアフロスウィング界で最も輝くプロデューサー JAE5 についてご紹介しました。今夏にリリースが予定されていると噂の J Hus の新作では、どのような美しい音楽を私たちに届けてくれるのでしょうか。期待が高まるばかりです。

Written by whoiskosuke

Lil Yachty が YouTube にてフリースタイルを公開

ジョージア州アトランタのラッパー Lil Yachty が、本日自身の YouTube チャンネルにてフリースタイルの楽曲および、そのミュージックビデオを公開した。

本楽曲は二部構成になっており、それぞれ大ヒット楽曲のビートジャックという形で制作されている。

一部目は Coi Leray による『No More Parties』の、二部目は SpotemGottem による『Beat Box 3』のビートの上でフリースタイルを披露している。そのため、Lil Yachty が今回披露したフリースタイルのタイトルは『No More Beatboxing Freestyle』となっている。

ビデオの前半では、Steve Lacy のアルバムジャケットでも登場した Hivemodern 社のデザイナーズソファに座ってラップする様子を中心に展開され、後半は彼の自宅のあらゆる部屋にて撮影されている。

先日 Complex によって特集された大規模なスニーカークローゼットや、彼が所有する等身大のカートゥーンフィギュアなども登場し、Lil Yachty らしいミュージックビデオとなっている。

注目R&BシンガーJoyce Wriceがデビューアルバム『Overgrown』に込めた想いとは

Joyce Wrice (ジョイス・ライス) は、日本とアメリカにルーツを持つ、カリフォルニア州サンディエゴ出身の注目R&Bシンガーだ。90年代後半から2000年代初期のR&Bを彷彿とさせるサウンドと美しく伸びのある歌声で世界中から注目の視線を浴びる彼女は、starRoや向井太一ら日本のアーティストとの共演でも知られている。

今回は、本日デビューアルバム『Overgrown』をリリースした彼女の人となりを、i-D Magazineによるインタビューを抜粋しながらご紹介する。


– サンディエゴでどのように生まれ育った?

私は日本人の母とアフリカンアメリカンの父親のもと、サンディエゴの小さな町チュラビスタで生まれ育った。私の父は軍人として日本に駐留していて、そこで母と出会ったの。その後、父はサンディエゴに異動となり、母は私をサンディエゴで育てることに決めたそう。母は、私が環境や友達を変え続けなければならないことを心配していたからね。同時に彼女は、私にも日本の文化に触れてほしいと強く思っていたんだ。幸運にも、サンディエゴには良質な日本の市場とコミュニティがあったよ。

ミュージックビデオでは日本語を話す姿も。

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– 仏教を教えられていたと聞いたが、今でも信仰している?

私の母は仏教徒で、彼女は20代後半頃に東京で日蓮仏教を学んだんだ。母が私に教えてくれたことの1つは、「他の人を助けることが自分自身を助ける最良の方法である」という教えよ。なんらかのコミュニティに属せば、問題への向き合い方や目標達成へのプロセスを共有でき、自分は1人じゃないって気づくことができるんだ。自分が取り組んでいることを共有し、そしてまた仲間の行動に刺激を受けるのは素晴らしいことだよ。

1人っ子だった私は、母と時間を過ごすことが多くて、学校が休みの日は彼女と仏教徒の集会によく足を運んだの。私はそこで、仏教信仰によって自らの人生を変える母の姿を目の当たりにしたんだ。それがきっかけで私も仏教を信仰するようになったってわけ。それ以降、私は毎朝晩、真剣に読経に取り組んできたよ。私はロサンゼルス中南部のグループに所属していて、今は彼らと直接会うことはできないけど、Zoomを使って電話をするんだ。遠隔での読経でも私たちが団結できるように、朝に皆んなで同時に行うの。他の人と一緒にやるほうが簡単だからね。

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「アーティストとしての自分」を見つけるにあたって、最も決定的だったことは?

実際のところ、自分の声を見つけて曲を作る段階において、私はかなり行き詰まっていたんだ。私はセンシティブな性格で、自己不信と不安に苦しんでいたの。でも、他のアーティストの活動に目を向け、彼らがどのように音楽に向き合っているのかを知り、自らの全てを曝け出すことに決めたとき、私はその過程の美しさに気づいたんだ。私たち全員がそれぞれ独自のストーリーを持っていることを再確認できたよ。その過程で挫折せずに、自らのストーリーを伝えることが私の使命だと感じたの。私の曲を聴いた他の誰かにもその過程の美しさが伝わってほしいしね。こういう風に考えるようになってからは凄く気が楽になったし、自分がすべきことにフォーカスできるようになったよ。

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– ニューアルバムのタイトル『Overgrown』に込められた意味は?

本当は去年リリースする予定だったんだけど、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で遅れてしまったの。去年リリースしていれば収録されることはなかったであろう、強いインパクトのあるインタールードや楽曲を作ることができたし、実際この遅延は私にとって意味のあるものだったよ。 『Overgrown』という楽曲を作ったとき、一緒に仕事をしたプロデューサー兼ライターのMack Keaneに私の苦労について相談したんだ。私は当時、自分に価値を見出せず、自信を失っていたの。彼との相談中、私は彼のピアノ演奏に乗せてフリースタイルを始めたのを覚えているよ。私にとって『Overgrown』とは、「カラフルな花でいっぱいの自分の庭」、つまり「自分の感情」や「自分の雑念」を意味するんだ。当時この「自分の庭」は雑草に覆われていて、手入れが必要だったの。アルバム制作の全てのプロセスは、まさにセラピー・セッションのようなものだったよ。このアルバムは私が行った「ガーデニング」の結果と言えるかもしれないね。

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– Freddie Gibbsとのコラボレーションはどのように実現した?

私がTwitterで彼に連絡したら、彼は「明日レコーディングするからその楽曲を聴きたい」って返事をくれたんだ。彼は私の曲をかなり気に入ってくれたよ。彼は頭の中でリリックを書き、スタジオを歩き回りながらフロウを模索したのち、レコーディング・ブースに入って自身のヴァースを如何にも簡単に仕上げたんだ。彼の声はとても魅力的で、なんといってもビートへの乗り方がとてもスムーズなの。彼とのコラボは私にとって本当に刺激的だったし、私も自分の信念を曲げずにアーティストとしてのキャリアを長続きさせたいって思ったよ。音楽を長くやっていると、物事がうまくいかないことはよくあって、途中で諦めてしまう人もたくさんいる。でもFreddieは前に進み続けたんだ。彼は色んな困難に直面しながらも決して諦めることはなく、今では大成功を収めている。そういった意味で、彼とのコラボレーションは私にとってかなり刺激的なものだったよ。

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– 初期の楽曲ではフックとヴァースの両方を1人で録っていたのに対して、今では大物アーティストの客演ヴァースを沢山手に入れている。これはあなたにとって感慨深いものなのでは?

本当にその通りだよ。このアルバムはまさに夢の実現なの。実家に帰って自分の幼少期の写真を見ると思うんだけど、当時は私がこんなことを実現できるなんて夢にも思わなかったよ。私はどちらかと言うと恥ずかしがり屋で、自分を表に出すのが得意ではなかったけど、自分を表現しなければならなかった。このアルバムの制作において素晴らしかった点は、強制的なコラボレーションがなかったことなの。このアルバムに参加してくれたアーティストは皆、私自身が大ファンであり深く尊敬する人々なんだ。彼らも私のことをそう思っていてくれていると感じるよ。私たちは皆、音楽について話し合うだけの関係ではなく本当の仲間なんだ。


Written by Riku Hirai

6 Dogs – アンダーグラウンドのレジェンド

本日、2021年の3月12日に遺作であるニューアルバム『Ronald』のリリースを果たした、ジョージア州のラッパー 6 Dogs。新型コロナウイルスへの感染が発覚後、闘病を続ける中で重度のうつ状態に陥り、今年の1月26日に自ら命を絶ってしまいました。今回はそんな彼によるニューアルバムのリリースを祝福するとともに、彼のキャリアを振り返ります。

生い立ちとキャリアの開始

6 Dogs(シックス・ドッグズ)こと Chase Amick は、ジョージア州の郊外にて1999年の5月5日に誕生しました。熱心なクリスチャンである両親の間に生まれた彼は、両親の意向で9歳になるまでホームスクーリング(一般的な学校に通うことなく、家庭内で学習を行うこと)を受けて育ちました。

ホームスクーリングを終えた後はキリスト教系のプライベートスクールに通いはじめましたが、そこでは人種差別やいじめを経験したそうです。幼かった 6 Dogs は、自分の身に降りかかってくる心ない言葉の数々が人種差別的なものであることに気づいていませんでしたが、歳を重ねるごとに心を閉ざすようになっていったと語ります。

完全に自らの殻に閉じこもってしまった 6 Dogs ですが、のちに行われた Masked Gorilla によるインタビューでは「当時の憂鬱は、自己表現のきっかけになった」と話しており、落ち込んでいた時期がなければラップを始めることもなかったといいます。

I just needed an outlet.

俺にはただ(憂鬱の)捌け口が必要だった

I’ve always wanted to rap.

俺はずっとラップがしたかったんだ。

I remember just sitting in the lifeguard stand, the entire summer, 8 hours a day or longer and just sitting down and I was like ‘this sucks, I want to do something with my life.

夏の間ずっと監視塔に座っていた頃のことを覚えているよ。1日に8時間かそれ以上そこに座り続けて「こんな人生はくそだ。生きている間に何かしたい」なんて考えていたんだ。

Masked Gorilla

人間関係から生じた憂鬱や劣等感と闘う日々の中で、彼は「ラップ」という彼なりの自己救出の手段を見つけ出し、それに熱中するようになりました。それこそが、彼のラッパーとしてのキャリアの開始地点だったのです。

『Flossing』のヒット

ラップを通して暗闇の中で一筋の光を見出した 6 Dogs は『Demons In The A』と名付けられた楽曲を制作し、SoundColud にアップロードします。初めて世に送り出された彼の楽曲に寄せられたコメントはたった6件だったそうですが、彼にとってそれらのコメントは「憂鬱の捌け口を通して、他人との繋がりを感じることのできた初めての経験」だったそうで、さらなる楽曲の制作を決意したといいます。

6 Dogs の代表作として、彼のキャリアで最も注目されたといっても過言ではない『Flossing』が挙げられます。そしてこれが、彼が『Demons In The A』の次に制作した2作目の楽曲です。

憂鬱との戦いの中でドラッグに手を染めてしまったことを自身の母親に懺悔する内容のこちらの楽曲は、SoundCloud のエモラップファンを中心に大きな話題となり、大ヒットを記録しました。エモラップなどを中心に扱う YouTube のキュレーションチャンネル「デーモン Astari」からアップされた当楽曲のミュージックビデオに関しても700万回再生を突破しています。

プロジェクトのリリース

セルフタイトル・ミックステープ

『Flossing』でアンダーグラウンド・エモラップ界隈からの絶大な人気を獲得した 6 Dogs は、2017年の7月3日にセルフタイトル・ミックステープをリリースしました。15曲入りの当ミックステープには、Danny Wolf や Digital Nas などの人気プロデューサーの参加も見られます。

その中でもミックステープの3曲目に収録されている『Faygo Dreams』は、彼のキャリアの中で最もヒットした楽曲の内の一つと言っても過言ではありません。

6 Wolves (with Danny Wolf)

前作に収録された『Spaceship』などで共演済であるプロデューサー Danny Wolf とのコラボテープです。6曲構成でプロデュースは全て Danny Wolf、Yung Bans のゲスト参加も見られます。ちなみに Danny Wolf は、Hoodrich Pablo Juan の専属プロデューサーで、彼とは『Hoodwolf』シリーズと呼ばれるコラボテープ群をリリースしています。

Hi-Hats & Heartaches

2019年の10月24日に 6 Dogs は三枚目となるフルレングスプロジェクト『Hi-Hats & Heartaches』をリリースしました。

ヒット曲『Faygo Dreams』を手掛けたプロデューサー Pretty Pacc によるエグゼクティヴ・プロデュースによって制作された当アルバムは、ノーフィーチャー(客演なし)となっています。アルバムタイトル『Hi-Hats & Heartaches』は、Kanye West による『808s & Heartbreak』を文字った物となっています。

突然の死と遺作のリリース

6 Dogs は2021年の1月26日に、21歳という若さで自殺によってこの世を去りました。新型コロナウイルスに感染後、一時は病状が安定しましたが、闘病の中でうつ状態に陥り自殺を行ってしまったと報道されています。彼の突然の死に対し、ファンたちはもちろんのこと、同じく SoundCloud で活躍したラッパーたちをはじめとするアーティストたちからも別れのメッセージが発表されました。

そして、彼の突然の死から約2ヶ月が経過した 2021年の3月12日に、彼の遺作である4枚目のフルレングス・プロジェクト『Ronald』がリリースされました。当プロジェクトには、彼が新型コロナウイルスに感染する直前に制作していた楽曲も含まれているようです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は本日ニュープロジェクトをリリースしたばかりの 6 Dogs の生涯について振り返ってきました。未聴の方は是非彼のニューアルバムを、また彼のことを初めて知った方は、これまでの楽曲も振り返ってみてはいかがでしょうか。

Written by whoiskosuke

月間おすすめアルバム【2021年2月】

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Pooh Shiesty – Shiesty Season

テネシー州メンフィス出身のラッパー Pooh Shiesty のデビュー・ミックステープ。彼は、不穏なピアノと808ベースを効かせたトラップビートを用いて、Gucci Maneの影響を感じさせる気怠いフロウを聴かせるラッパーで、過激且つ挑発的なリリックにも定評があります。2021年最注目ラッパーの1人である彼のデビュー作は一聴の価値ありです。


Devin the Dude – Soulful Distance

テキサス州ヒューストン出身のラッパーDevin The Dudeの11枚目のスタジオ・アルバム。Slim ThugやScarfaceら同郷ヒューストン出身のベテラン陣が参加した今作は、彼らしい緩いファンクを軸としながら、ブーンバップや現行トラップも多く取り入れた作品に仕上がっています。新しいサウンドを積極的に取り入れつつも自身のスタイルを貫く、彼の安定感が発揮された1枚で、タイトル通りソウルフルなラップとヴォーカルが堪能できます。


slowthai – TYRON

イギリス・ノーザンプトン出身のラッパーslowthaiの2ndアルバム。SkeptaやA$AP Rocky、Dominic Fike、James Blakeなど、国やジャンルを問わない豪華客演陣の参加が目立つ今作で、slowthaiは洗練されたビートと持ち前の独特な声を用いて自身の感情を吐き出します。社会への不満を露にした前作と通ずる部分はあるものの、自身の本名Tyronをアルバムタイトルに用いたことからも分かるように、今作では彼の内省的なアプローチが多く見られます。


Z-Ro & Mike D – 2 The Hardway

テキサス州ヒューストン出身で、共にScrewed Up ClickのメンバーであるZ-RoとMike Dによるコラボ・アルバム。H-Townサウンド全開のプロダクションと、2人のソウルフルなラップ&ヴォーカルが光る1枚です。Lil’ KekeやC-Note、Big Pokeyら現Screwed Up Clickメンバーに加え、2016年に銃撃で亡くなった旧メンバー3-2も参加。


Duke Deuce – Duke Nukem

テネシー州メンフィスのラッパーDuke Deuceのデビュー・アルバム。90年代後半から2000年代初期のThree 6 Mafiaを彷彿とさせるクランクをベースに、活気の良いラップや耳に残るアドリブ、更にはオートチューンを効かせて歌うスタイルも披露します。今作では、FoogianoやLil Keed、Mulattoなどメンフィス以外のラッパーを多く客演に起用しており、クランクのサウンドに適応してラップする彼らの新たな一面も垣間見ることができます。


Drakeo the Ruler – The Truth Hurts

カリフォルニア州ロサンゼルスのラッパーDrakeo the Rulerのミックステープ。不穏でダークなビートと、Drakeoのボソボソと呟くような低い声が圧倒的な緊張感を生み出し、聴く者を西海岸のフッドに誘います。Don Toliverとの意外な組み合わせや、先日急逝したKetchy the Greatの4曲での参加、DrakeoとDrakeの夢の共演など聴きどころ満載の1枚です。

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Written by Riku Hirai


先月のおすすめアルバムはこちら↓

月間おすすめアルバム【2021年1月】

Bobby Shmurda – 帰ってきたブルックリンドリルのパイオニア

先日、約6年2ヶ月という長期的な刑期を終え、無事に自由の身へと返り咲いたニューヨーク州ブルックリンのラッパー Bobby Shmurda。今のところ出所後に新曲はリリースされていませんが、彼の代表曲である『Hot N***a』が各社のヒットチャートにて再ランクインを果たすなど、ファン達が彼の帰還を待ち望んでいたことがよくわかります。

今回は再び話題となっている Bobby Shmurda について、彼の経歴やヒット曲に触れながらご紹介していこうと思います。

プロフィール

Bobby Shmurda (ボビー・シュマーダ) こと Ackquille Jean Pollard は、1994年の8月4日にニューヨーク州のブルックリンにて生まれました。

Bobby Shmurda

故 Pop Smoke や Fivio Foreign、Sheff G などの活躍によって、現在も盛り上がりを見せているブッルックリン・ドリルというジャンルがありますが、Bobby はそれのパイオニア的存在であると位置付けられます。

Bobby の代表曲といえば、なんと言っても『Hot N***a』です。誰もが一度は聞いたことがあると言っても過言ではないほど、全世界に浸透しきった楽曲であるといえます。

ミュージックビデオの中で Bobby がみせる Shmurda Dance と呼ばれる独特な動きが、楽曲とセットで大きなバズを起こし、世界中に広まったのも有名な話です。Chris Brown や Meek Mill、Beyoncé までもが、自身のソーシャルメディアやライブの中で Shmurda Dance を披露したことが話題となりました。

『Hot N***a』にて爆発的な知名度を獲得した Bobby は、同年に待望の EP『Shmurda She Wrote』をリリースします。5曲入りのコンパクトなプロジェクトでしたが、Bobby とともにブルックリン・ドリルを盛り上げた Rowdy Rebel や Ty Real も参加し、リリース当初は大きな話題を呼びました。

法的問題、及び逮捕

これまでにも数回、銃刀法違反や違法薬物所持などの疑いで逮捕された経験があった Bobby でしたが、2014年12月4日にもレコーディングスタジオで楽曲制作をしているところを逮捕されてしまします。彼が所属するラップ・コレクティヴ及びストリートギャングである GS9 の仲間たち14名(Rowdy Rebel もその中の1人)も Bobby とともに警察に拘束されてしまいました。

殺人謀略や銃刀法違反、違法薬物の所持などが罪名として挙げられています。

Bobby 自身は8年〜12年の刑期を言い渡されましたが、翌日の取り調べにて無罪を主張したと同時に200万ドルもの保釈金を支払いました。

NYPD(ニューヨーク市警)は彼の楽曲『Hot N***a』に登場する暴力的な歌詞を、今回の事件に対する証拠として提出しようとしましたが、最高裁においてそれらの証拠は不十分だとされ、却下されています。

逮捕から約2年後に Bobby は司法取引に応じ、殺人事件の謀略と銃刀法違反の罪を認めることを引き換えに、刑期を約7年に縮めることとなりました。

ファンはもちろんのこと、各方面のラッパーたちによっても Bobby の釈放を求める声が多数上がっていた中、2021年の2月23日についに彼は釈放されました。

楽曲やこれからの動向

Bobby がここ数年で話題に上がった出来事といえば、6ix9ine との共演ではないでしょうか。Tekashi69 がスニッチ問題で非難を浴びる以前にリリースした『STOOPID』での共演です。当然ながら刑務所の中にいた Bobby は、当楽曲に獄中からの電話面会システムを通したレコーディングにて参加しました。

彼のこれからの音楽活動についてですが、様々なラッパーたちが彼との共演を待ち望んでいたこともあり、大きなプロジェクトが複数動く可能性が高いです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は、先日晴れて自由の身となったニューヨーク州ブルックリンのラッパー Bobby Shmurda についてご紹介しました。キャリア的にはそれほど長くない彼ですが、これからの巻き返しに期待が高まります。

2021年注目すべきUKのネクストスターたち

前回は、UKラップシーンを牽引する若手アーティストとして、Daveやslowthai、Lancey Fouxらについてまとめました。

UKラップシーンを牽引する若手アーティストたち

今回は、ラップシーンに留まらず、様々な音楽から影響を受けて進化を続けるUKの新世代アーティストを数名ご紹介します。

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1. Pa Salieu

ガンビア共和国にルーツを持つ、コヴェントリー出身のラッパー。J Hus系譜のアフロスウィングをベースとしながら、グライムやUKドリル、ダンスホーム、レゲエ風味のビートなども巧みに乗りこなします。UKラップ的なフロウからレゲエ調のアプローチまでこなす彼のスタイルは、同じくガンビア共和国にルーツを持つJ Husと比較されがちですが、彼はJ Husより更にアフリカルーツに回帰したストリート色の強い音楽性を提示しています。


2. Bakar

ロンドン出身のシンガー。カリフォルニアのヒップホップ・プロデューサーMadlibや、イギリスのロックバンドFoalsから影響を受けたと語るBakarは、インディーロックやパンク、ヒップホップなどをミックスしたジャンルレスな音楽性で注目を集めています。また彼は、Louis VuittonやPradaのモデルにも起用されるなど、ファッションシーンにおいても活躍しています。


3. ENNY

ナイジェリアにルーツを持つ、ロンドン出身のラッパー/シンガー。2020年に本格的に音楽活動を開始したENNYは、デビューシングル『He’s Not Into You』をリリースした後、Jorja SmithのレコードレーベルFAMMと契約。同郷ロンドン出身の注目シンガーAmia Braveと共にリリースしたメジャーデビュー・シングル『Peng Black Girls』はUKシングルチャートTOP100入りを果たしました。レイドバックしたラップやソウルフルなヴォーカル、詩的なリリックが魅力的な注目アーティストです。


4. Arlo Parks

ナイジェリア、チャド、フランスにルーツを持つ、ロンドン出身のシンガー。彼女は、ネオソウルやインディロック、ヒップホップなどをミックスしてポップスに昇華させた音楽性から、次世代のベッドルーム・ミュージックを代表するアーティストとして注目されています。2021年リリースのデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』はUKアルバムチャートにて最高3位を記録し、各音楽メディアからも高い評価を獲得しています。


5. Central Cee

中国と南米にルーツを持つ、ロンドン出身のラッパー。父親の影響で幼い頃からヒップホップを聴いていたという彼は、14歳の頃にYouTubeに楽曲をアップロードし始めます。キャリア当初はトラップビートを用いてメロディアスに歌うラップスタイルを武器としていた彼ですが、2020年頃からはUKドリルビートを用いてパンチラインをスピットするスタイルに移行。このスタイルチェンジが功を奏し、ジャジーなUKドリルソング『Loading』のヒットにより彼は一躍人気を獲得します。盛り上がりを見せるUKドリルシーンにおいて、一際目立つ存在になりつつある彼から目が離せません。


Written by Riku Hirai

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Pooh Shiesty – メンフィス発の要注意人物

先週末に初のフルレングスプロジェクトであるデビューミックステープをリリースしたテネシー州メンフィスのラッパーPooh Shiesty。今回はそんな彼の魅力に、生い立ちやリリックなどを考察しながら迫ります。

生い立ちと楽曲のスタイル

Pooh Shiesty

Pooh Shiesty (プー・シャイスティ)こと Lontrell Williams は、1999年の11月8日にテネシー州のメンフィスにて産声を上げました。彼の父親も、彼と同じくメンフィスを拠点とするラッパーで、Mob Boss というステージネームの下、Mob Ties Records というレコードレーベルの運営も行なっていました。

Pooh Shiesty (以下、Pooh)の楽曲の特徴として、ギャングアクティビティの中心に自らの身を置き、身の回りに起こる出来事をリアルに描写するスタイルがあります。

彼の楽曲内には、ギャング同士の抗争や銃に関する事柄、敵対する組織や個人に対する挑発的な表現などが多く見られます。また、インターネット上で自らの行動を誇張して発信する見せかけのギャング(いわゆるインターネット・ギャングスタ)に対する辛口のメッセージなども多く見られ、あくまでもストリートのリアルな側面だけを書き連ねるリリックに定評があります。

ラップのスタイルとしては、Gucci Mane を彷彿とさせる(実際に Gucci Mane に才能を買われ、1017 Records との契約を果たしています。)隣り合う単語が絡み合うようにズルズルと続く、隙間のないデリバリーを得意とします。また、 Pooh の故郷であるメンフィス特有のアクセントも存分に感じられます。

Pooh Shiesty と Gucci Mane

また『Blrrrd』と綴られる巻き舌を駆使した銃声のオノマトペを楽曲の至る所にアドリブとして挿入することも彼の特徴であり、ついつい真似したくなる心地よさを生み出しています。

キャリアの開始

Pooh は18歳になるまで、ラップの経験がありませんでした。あるきっかけでメンフィスの女性ラッパー K Carbon による Three 6 Mafia の『Weak Azz Bitch』のリミックスに参加したところ、YouTube にて楽曲が100万回再生を達成し、メンフィスを中心にその名が広まりました。

続いてメンフィスを中心に得たファンベースを利用し、最新ミックステープにも参加している親友の BIG30 らとともに数曲のシングルをリリースします。数ヶ月の音楽活動を継続するうちに、ローカルでのバズが頻繁に起こるようになり、彼の名前が Gucci Mane のもとにまで広まります。

Pooh の才能に将来性を見出した Gucci Mane は、すぐさま自身のレコードレーベルである 1017 Records との契約を提案し、Pooh は晴れてメジャーレーベルとの契約を果たしました。

2020年には、Gucci Mane によるコンピレーションアルバム『So Icy Summer』にて 7曲もの楽曲に参加し、Moneybagg Yo や Lil Baby などのビッグネームらとの共演を果たしています。

『Back in Blood』のヒット

Gucci Mane のコンピレーションアルバムでの大活躍で知名度を一気に獲得した Pooh は、2020年の11月にイリノイ州シカゴのラッパー Lil Durk をゲストに招いたシングル『Back in Blood』をリリースします。ちなみに、こちらの楽曲はのちにご紹介する彼のデビューミックステープ『Shiesty Season』からの先行シングルとしてリリースされました。

Pooh Shiesty と Lil Durk

Pooh はラップを始める以前から、シカゴのドリルミュージックを好んで聴いていたらしく、『Back in Blood』に Lil Durk をゲストとして招いた理由も、少年期から親しんできたシカゴのアーティストとリンクアップしたかったからと Genius のインタビューにて語っています。

タイトルとなっている「Back in Blood」とは「敵の命を奪う」ことを意味しており、インターネット上での見せかけのギャング気取りに対する警告をラップした楽曲です。

Bitch, I got my own fire, don’t need security in the club 
俺は自分で武器を携帯しているから、クラブでセキュリティーをつける必要がない

All that woofin’ on the net, nigga, I thought you was a thug
ネット上で騒いでる奴ら 俺はお前らのことをサグだと思っていたよ

They ain’t got nowhere to go, I shot up everywhere they was 
奴らに逃げ場はない 奴らが居たら俺はどこでも発砲するからな

Yeah, you know who took that shit from you, come get it back in blood
誰がお前らの命を奪い去るかわかってるよな 俺がお前らの命を奪ってやる

かなり強気かつ過激な内容の楽曲ですが、以前から注目が集まっていた Pooh の新曲であること、また Lil Durk がゲスト参加していることから、Apple Music の US チャートでは最高一位を記録し、YouTube でも4000万回近い再生回数を獲得しています。

『Shiesty Season』のリリース

Lil Durk との楽曲『Back in Blood』で世界的な知名度を獲得した Pooh は、万全を期して初のフルレングスプロジェクトであるデビューミックステープ『Shiesty Season』をリリースします。Pooh Shiesty の時代が到来したと言わんばかりのストレートなタイトルで、謙遜するそぶりを微塵にも感じさせない清々しい作品となっています。

Waheed Zai による『Shiesty Season』のカバーアート

当ミックステープには先行で話題となった Lil Durk に加え、21 Savage と Gucci Mane がゲスト参加しており、他にも Pooh の友人でありアップカミングなラッパーである BIG30 や Veeze、Lil Hank、Choppa Wop、Foogiano が参加しています。今回はその中でも、特にインパクトの強かった楽曲を何曲かご紹介いたします。

Shiesty Season Intro

タイトル通り、ミックステープの一曲目に収録されたイントロです。満を辞してのデビューミックステープのイントロで半端なラップをするはずもなく、短いながらもかなりのインパクトを私たちにぶつけてきます。リリックも半端なものではなく、単刀直入にヘイターへの敵意を剥き出しにしたり、十分な気合を宣言しています。

Tryna pay to get me killed, why you won’t come do it?
殺し屋を雇って俺を殺そうとしているみたいだけど、なぜ直接俺をやりにこないんだよ

Get sent out, watch how I send you back to ’em
お前らが直接こないなら、どうなるか覚悟はできてるよな

 Box of Churches (feat. 21 Savage) 

続いてご紹介するのは、21 Savage がゲスト参加した『Box of Churches』という楽曲。おなじみのブルブルアドリブから幕開けするこちらの楽曲では、神聖で厳荘なメロディーの上で火花のようにハイハットが鳴り響きます。こちらの楽曲でもやはり敵対する者への挑発を忘れることはありませんが、自らがフッドにもたらした変化などについても言及しています。

who want smoke? Tell him meet face-to-face
誰が俺と喧嘩したいって? そいつに面と向かってやりあおうと言っといてくれ

Remember back in ‘leventh grade, I dirtied up my only K
グレード 11(※1) の時、俺は AK-47 を汚していた (※2)

Get my round applause, in a couple months I done made a way
周りの称賛を得て、たった2ヶ月でここまできた

I’m why niggas dropped the Rollies and went to the Cartiers
俺こそがみんながロレックスよりカルティエを選ぶ理由さ (※3)

(※1) 11年生、16歳〜17歳で日本の高校二年生にあたる
(※2) 武器を使用して他人を殺めること、または盗難した銃を所持すること
(※3) Pooh はロレックスよりカルティエを好んでおり、彼に憧れるフッドの仲間達が彼の真似をしていることに言及している。

アトランタよりゲスト参加した 21 Savage に関しても、「ラッパーのチェーンを盗んで、eBay で売り捌く」「銃撃戦以外のことについてラップしたくない」などとラップしており、気合の入った Pooh に負けない迫力を見せています。

Take A Life (feat. Foogiano)

Pooh と同じく Gucci Mane によるレコードレーベル 1017 Records と契約しているラッパー Foogiano が参加しているこちらの楽曲は、Pooh の冷徹な側面が全面に押し出された楽曲です。頼りないフルートの音色に反して、過激すぎる内容を淡々とラップしたこちらの楽曲は、ミックステープの中でも異彩を放っています。

I don’t think you niggas know what it feel like to take a life
お前らは人の命を奪った時の感覚を知らねぇだろうな

Made a promise I wouldn’t sin no more, but then again, I might
もうそんな罪は起こさないって約束したけど、多分またやってしまう

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はテネシー州メンフィスのラッパー Pooh Shiesty についてご紹介してきました。かなりの知名度を獲得したとはいえ、彼のキャリアはまだまだスタートしたばかりですので、これからの彼の動向には要注目です。

Written by whoiskouske