Lil Uzi Vert がファンに謝罪。そしてニューアルバムの存在を明かす。

3月に待望のニューアルバム『Eternal Atake』をリリースしたフィラデルフィアのラッパー Lil Uzi Vert が、Twitter 上で自らの過去の愚行をファンに謝罪した。

ことの発端は、「みんなは Lil Uzi Vert が Darien Lake にきた時に、たった十分しかパフォーマンスをせずに、俺たちをガッカリさせたのを覚えてるよね?」というツイート。

これに対して Uzi は、「俺はその時まだ若くて、それを当たり前のことだと思って調子に乗ってたよ。絶対にあんなことは二度としないし、次からはステージを追い出されるまでパフォーマンスを続けるつもりだぜ。」と過去の愚行について謝罪した。

また、そのツイートを見たファンが「ということは JMBLYA (新型コロナウイルスで延期された音楽フェス) が開催されたら、Eternal Atake を全曲生で聴けるかもしれないってこと?」と Uzi に対してリプライを送ると、「EA はもちろん、もうすぐリリースするニューアルバムも全部ね!」と返信した。

アルバムリリースから間髪入れずにニューシングル『Sasuke』をリリースしている彼の動向から、現在彼は音楽活動にフォーカスを置いているように見える。私たちがそんな彼のニューアルバムを聴くことができる日は意外と近いのかもしれない。

【訃報】マイアミ・ソウルのレジェンド Betty Wright が死去

ヒット曲『Clean Up Woman』や、DJ Khaled、Kendrick Lamar らとの共演で知られるフロリダ州マイアミ出身のソウル/R&B シンガー、Betty Wright (ベティ・ライト) が66歳の若さで死去。

正式な発表はまだないが、Wright の姪である Bella や、彼女の友人らが追悼のコメントを残している。死因は未だ不明のよう。

6ix9ine、新居に引っ越すも隣人に居場所を晒される。

数ヶ月にも及ぶ懲役を終え、先日ニューシングル『GOOBA』をリリースした 6ix9ine。出所後初のインスタグラムライブは200万人の視聴者を集め、丸一日で250万人以上のフォロワーを獲得した彼だが、またもや不運に見舞われた様子。

先日発売された自身のプロモーショングッズに身を包み、新居のバルコニーでインスタグラム用の写真を撮影している様子を、向かいに住む少女に目撃され、あろうことか新居の住所まで開示されてしまった。

明るい水色のセットアップに、頭に巻いた虹色のストール、さらにベランダの柵の形状から、明らかに動画に写る人物は Tekashi69 だと言い切れるだろう。

服役中のスニッチ(裏切り行為)によって、ニューヨーク内外のギャングコミュニティから恨みを買ったこともあり、出所後は居場所を隠して活動していた彼だが、少女の投稿した動画は瞬く間に拡散されてしまい、彼の居場所を世界中に知らせる結果となってしまった。

ニューヨークの若きポップスター Lil Tjay とは

明日5月8日に待望のミックステープ『State of Emergency』のリリースを控える注目若手ラッパー Lil Tjay。今回は、今年の XXL フレッシュマン最有力候補でもある彼の生い立ちやキャリア、魅力について迫りたいと思います。最後までお読みいただければ幸いです。

生い立ちとキャリアの開始

ガーナ人の両親を持つ Lil Tjay(リル・ティージェイ)こと Tione Jayden Merritt は、ニューヨーク・サウスブロンクス出身の19歳(2001年生まれ)。

10代前半から喧嘩や強盗行為を繰り返していたという彼は、15歳の頃に強盗の罪で少年刑務所に送られます。

そしてこの出来事が、結果的に彼の人生の転機となります。

It was not fun.
楽しくなんてなかったよ
It’s not nothing that I would want to do again, 
刑務所でもう一度したいことは何もないけど
but I learned a lot from it. 
そこでたくさんのことを学んだんだ
I feel like if I wasn’t to go to jail,
もしそこに行くことがなければ
I probably wouldn’t be the person I am—I wouldn’t. 
おそらくおれはおれ自身じゃなかったと思うよ
’Cause I wouldn’t have sat down and wrote those songs 
だって、椅子について曲を書くような
and I never would’ve been able to focus on what I want to accomplish. 
おれが成し遂げたかったことに集中できるチャンスはなかっただろうから
So it’s like it was actually a good thing for me. 
だから刑務所での暮らしは、実際おれにとって良いものだった
It made me open my eyes and stuff like that.
おれの目を覚ましてくれたんだ

Rolling Stone

Tjay がこう語るように、彼は服役中にリリックを書き始め、ラッパーとしてのキャリアをスタートさせました。

自身初のバイラルヒット

2017年末に刑務所から釈放された Tjay は、彼が初めてスタジオでレコーディングした楽曲『Resume』をリリースします。

当時、Facebook 以外の SNS は利用していなかったという彼がリリースしたこの楽曲は、SoundCloud にてたった2日間で5000回再生を記録します。

そんな無名なラッパーの楽曲の再生数増加には、ある仕掛けがありました。それは「有名ラッパーの楽曲名をタイトルにし、再生数を稼ぐ」という、バイラルマーケティングの生みの親 Soulja Boy が取り入れた手法でした。

Soulja Boy が、『Crank That』を 50 Cent の『In The Club』と偽ってリリースしヒットさせたことに倣い、Tjay は、『Resume』を Uncle Murda の『Rap Up』と偽りリリースしました。これが結果的に功を奏し、『Resume』は彼自身初のバイラルヒットとなりました。

ヒットの量産

『Resume』のヒットを受け、Tjay は本格的に音楽活動に取り組むことを決意します。

続いて SoundCloud にアップした『Brothers』はリリースされるや否やたちまち再生数を伸ばし、Tjay は Columbia Records と契約を結びます。

Bodies drop all the time I don’t feel nothing

仲間が殺られたって何とも感じない

Swear to god y’all gone make me go kill something

敵は迷いなく殺してやると神に誓うぜ

Told my shooters no mercy or chill button

おれの仲間たちには慈悲も躊躇もない

I done been through so much I don’t feel nothing

色々経験しすぎたんだ、だから何も感じない

『Brothers』にて、Tjay は自身が経験してきたストリートでの生活や刑務所での経験、心の痛みなどをストレートに表現しています。

I speak about stuff I been through.

おれは経験したことを歌っているんだ

I don’t talk about stuff that’s fake.

嘘は歌わない

I speak from the heart.

心のままを歌うんだ

Every lyric got a meaning behind it.

全てのリリックにはちゃんと意味がある

XXL

インタビューにてこうも語るように、自身の経験をベースとしたリアルなリリックも彼の魅力の1つです。

ここでもう1曲、彼のキャリア初期の楽曲をご紹介したいと思います。

None of Your Love

カナダのポップシンガー Justin Bieber のヒット曲『Baby (feat. Ludacris)』のメロディラインを大胆に引用した1曲。

この曲からも分かるように、Tjay はポップシンガーのように歌うスタイルを得意としています。

I used to just watch Justin Bieber videos and be like, 

幼い頃から Justin Bieber のビデオを見ながら、

“Damn, this is going to be me.” 

「おれもこんなふうになれるはずだ」って思ってた

I never thought about how I was going to get there, 

どうやって成功するかなんて考えたこともなかったけど

but I knew it would happen.

絶対できるって信じてたんだ

Pitchfork

ヒップホップ誕生の地ブロンクスで生まれ育ち、過酷なストリートライフを送ってきた10代の若者像からは若干離れたイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際 Tjay は、Justin Bieber や Michael Jackson、R. Kelly、Usher など、ポップスもしくは R&B シンガーから多大な影響を受けたと公言しています。

ちなみにご紹介した楽曲『None of Your Love』で引用されている『Baby』の権利問題はクリアしていないそうですが、Tjay はこれからも懲りずに Justin Bieber の楽曲を引用していく意向とのことです。いかにもティーンらしい強気さが良いですね。

初のトップ20入り

その後デビューEP『No Comparison』をリリースしたのち、Tjay は、Columbia Records のレーベルメイトであった Polo G の楽曲『Pop Out』に参加します。

この『Pop Out』はリリースされてから約3ヶ月後に Billboard Hot 100において95位で初登場し、さらにその2ヶ月後には同チャートにて11位まで上り詰めました。

Tjay は自身にとって(Polo G にとっても)過去最大のヒットを生み出し、ますます勢いづくこととなります。

デビューアルバムのリリース

Polo G と共にヒット曲を生み出した Tjay は、満を辞してデビューアルバム『True 2 Myself』をリリースします。

キャリア初期のヒット曲から最新曲まで詰め込んだデビューアルバムには、Lil Wayne や Lil Baby、Lil Durk といった大物ラッパーに加え、同郷ニューヨークから Jay Critch や Rileyy Lanez らが参加しています。

Decline (feat. Lil Baby)

アトランタの人気ラッパー Lil Baby を客演に迎えた1曲。ゆったりとした哀愁漂うトラックの上で、Tjay は心の痛みを優しいメロディに乗せて歌います。

Woulda had a cap and gown if Smelly was still around

もし Smelly(※1)が生きていれば、(大学の学位授与式などで着用する)帽子とガウンを持っていたのに

But it’s pain in me, 

心が痛むんだ

thinking about it make me get so angry

思い出すだけで怒りが湧いてくる

(※1) 亡くなった Tjay の仲間の名前。Tjay は Smelly に音楽的なインスピレーションを受けたそうで、自身の楽曲内で度々ネームドロップします。ヒット曲『F.N』でも「I wish my n***a Smelly could’ve seen me lit now (Smelly に今のおれの成功した姿を見て欲しかった)」とラップしています。

Mixed Emotions

アルバム内でも特に際立つ綺麗なメロディラインを奏でる1曲。

I can’t wait to take a picture next to Nicki and Wayne

Nicki Minaj や Lil Wayne と一緒に写真を撮るのが待ちきれないんだ

引用したラインでは、「Nicki Minaj や Lil Wayne といったシーンのトップアーティストと肩を並べるようになった自分」と「同業者というより未だに彼らの1ファンである自分」という2つの側面を上手く表現しています。楽曲をリリースし始めてからわずか2年足らずでスターダムを駆け上がった彼ならではのリリックです。

『Leaked (Remix)』にて Lil Wayne との共演を果たす Tjay

そんな全体を通して甘い歌声で歌い上げる、ポップス或いは R&B 寄りな作風の同アルバムは、初週4.5万枚を売り上げ、Billboard Hot 200にて5位デビューを飾りました。

ニューミックステープ『State of Emergency』

そして Tjay は、明日5月8日にミックステープ『State of Emergency』をリリース予定です。

先日、Don Q や 6ix9ine、A Boogie らにディスを飛ばし、「俺がニューヨークのキングだ」などと豪語する様子も話題となったように、それほど自信のある作品に仕上がっているのではないでしょうか。

「おれこそがNYのキングだ。あの歌ってるヤツ(A Boogie)とか、髪の毛が虹色の裏切り野郎(6ix9ine)はイケてないぜ」と豪語。数日後に「おれがわるかった、昔の Tjay に戻るよ」と謝罪しています。

今回はおさらいとして、ニューミックステープのリードシングルをご紹介したいと思います。

Ice Cold

Demons in my head, 

頭の中に悪魔がいるんだ

I got too many n***as gone

おれは沢山の敵を始末してきた

Kids out here dyin’, 

ここでは多くの子供たちが亡くなり

mama hurt, cryin’ 

母親は傷つき涙を流す

I ain’t even think I’d see eighteen and I ain’t lyin’

無事18歳になれるなんて思ってもなかったよ、嘘はつかない

ストリートに蔓延る犯罪や、人々の命を脅やかす新型コロナウイルスの流行など、地元ニューヨーク(や世界の現状)を「Ice Cold (氷のように冷え切った世界)」と表現した1曲。

自身の心の痛みや、成功してからの生活について言及しながら哀愁たっぷりに歌い上げる彼の姿からは、とても10代とは思えない貫禄を感じます。

ミックステープには、同郷ニューヨーク出身のラッパーたち(故Pop Smoke や Fivio Foreign、Sheff G、Sleepy Hallow など) を客演に迎えた楽曲も収録予定です。

故Pop Smoke との楽曲『War』や『Mannequin』で見られたような、ブルックリンドリルサウンドでスピットする Tjay のラップも聴くことができそうです。

おわりに

いかがだったでしょうか。今回はニューヨーク・サウスブロンクス出身のラッパー Lil Tjay についてまとめてみました。

ストリートで経験した心の痛みや葛藤をメロディに乗せて歌い上げる次世代のポップスター Lil Tjay。そんな彼にますます目が離せない1年となりそうです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

XXS オリジナルプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/a-teen-pop-star-from-new-york/pl.u-WabZp5aUdl0GmpA?l=en

Riku Hirai

シカゴの新しいサウンドを創り出したパイオニア Lil Durk とは

現在のシカゴのヒップホップシーンを牽引し、シカゴ内外の若手たちに強い影響を与え続けている Lil Durk。今週の金曜日には、ニュープロジェクト『Just Cause Y’all Waited 2』のリリースを控えています。そこで今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫りたいと思います。

はじめに

Lil Durk (以下 Durk) は、アルバムやミックステープ、自身が率いるクルーである OTF (Only The Family) のコンピレーションアルバムを含め、19枚ものプロジェクトをリリースしており、本記事で全てを紹介することは極めて困難な試みとなります。ですので、本記事においては「ドリル色の強い Lil Durk」と「メロディアスなスタイルの Lil Durk」という二つのカテゴリに分けることで、彼の魅力を伝えることができたらと考えています。(このカテゴリ分けに関しては「独特なスタイル」の項目で解説しています。)

生い立ちとキャリアの開始

Lil Durk (リル・ダーク) こと Durk Banks は、Chief Keef や Lil Reese などをはじめとする数々のドリルMCを輩出したことでも知られる、イリノイ州シカゴで生まれ育ちました。

彼の父親は、1993年にドラッグの密売によって逮捕され、一時は終身刑を言い渡されることが危惧されていた、生粋のギャングスタです。シカゴ最大のギャングである Gangstar Disciples のメンバーでした。幸いなことに、彼の父親は、昨年の2月に約25年の懲役を終えて自由の身となりました。

晴れて釈放された父親 (右手前) と食事を楽しむ Lil Durk (右奥)

アメリカでもトップクラスに治安が悪いことで知られるシカゴのサウスサイドで生まれ育った Durk は、ギャングの抗争に参加するために在学していた高校を中退しました。そしてその同年、初めての子供を授かったことをきっかけに、ラッパーとして活動していくことを真剣に考え始めました。

独特なスタイル

生まれ育った場所がその聖地であることもあり、Durk はドリルミュージックのカテゴリの中で活動を始めました。不穏なビートの上で暴力的なラップを乗せるのがドリルの一般的なスタイルであり、彼もはじめはそのようなスタイルの楽曲をリリースしていましたが、ある時から新しいジャンルの開拓に力を入れ始めました。

Durk は、ドリルミュージックでは一般的でないメロディアスなフロウを取り入れ始めたです。今では当たり前のように見受けられるスタイルですが、当時はこのようなスタイルでラップをする者はおらず、異端児扱いされたこともあったようです。このような点において、Durk の楽曲は他のシカゴドリルMC である Chief Keef や Lil Reese などと異なっています。

Calboy や Polo G など、現在ではごく一般的に受け入れられているメロディアスなスタイルのラッパーたちが活躍できる基盤を築いたのは、間違いなく Durk の功績だと言えます。

現在では、ほとんどドリルの臭いを感じさせず、メロディアスに振り切った楽曲を中心に制作している彼ですが、時には「俺はドリルミュージックのパイオニアの一人だ!」と言わんばかりの激しい楽曲を世に送り出し続けているところも彼の魅力です。

ドリル色の強い Lil Durk

この章ではまず、彼の音楽の基盤となっている「ドリルミュージック」色の強いスタイルの楽曲を紹介していきます。主に初期にリリースされた『I’m a Hitta』シリーズや、DJ Drama によってホストされた『Signed to the Streets』、Lil Reese とのジョイントミックステープ『Supa Vultures』などのプロジェクトがこのカテゴリに当てはまります。

ドリル色の強い彼のアルバムには、シカゴドリルのパイオニアの一人である Lil Reese をゲストに招いていたり、Chei Keef と数々の名曲を生み出したプロデューサーである Young Chop をプロダクションに招いていたりと、至る所にドリルならではの要素が見受けられます。

L’s Anthem

初期にリリースした2枚目のミックステープ『I’m Still a Hitta』の六曲目に収録されているこちらの楽曲。タイトルは「Lの聖歌」で、その名の通りの楽曲です。「L」とは、Lil Durk が生まれ育った地域ストリート「Normal」 のニックネームである「Lamron」の頭文字であり、逆から読むことでギャングコミュニティー内でコードネーム化されています。

「Lamron」のクルーは Lil Durk が所属する Black Disciples の一部であり、そのモットーは「Life, Love & Loyalty」です。全てが L から始まることから、自らのフッドについてラップした曲を「Lの聖歌」 と名付けています。

Don’t Understand Me

DJ Drama によってホストされたアルバム『Signed to the Streets』に収録されているこちらの楽曲。若かりし頃の北野武に見えなくもない雑な似顔絵が印象的なアルバムカバーを見ての通り、この頃は完全なるドリルミュージックのアーティストです。

トラックも Chief Keef と Lil Reese の名曲『I Don’t Like』と良く似たシカゴドリル特有のサウンドで構成されており、いかにも暴力的な印象を抱く楽曲です。おそらく、最近の Lil Durk の楽曲を中心に聴いていた方達にとっては、そのギャップに驚く方も多いのではないでしょうか。

メロディアスなスタイルの Lil Durk

続いてこちらの章では、彼自信が創り上げたニュージャンルである、メロディックなスタイルの楽曲を中心に紹介していきます。Chance The Rapper や Wale などの、大物ラッパーの楽曲に参加した際も、このスタイルでラップを披露していたこともあり、「Lil Durk と言えばこの綺麗なメロディだよね」というようなイメージをお持ちの方も多いと思います。

Ty Dolla $ign や Young Thug などを招き、メロディアスなフロウを初めて積極的に取り盛り込んだアルバム『Lil Durk 2X』や、シリーズ最新作がアナウンスされたばかりの『Just Cause Y’all Waited』、『Signed to the Streets 3』などが、こちらのカテゴリに当てはまります。

She Just Wanna (feat. Ty Dolla $ign)

Durk にとって、アルバムごとメロディアスなものにスタイルチェンジを行う転機となった 2nd アルバム『Lil Durk 2X』に収録されているこちらの楽曲。Ty Dolla $ign をフックに起用している時点で、明らかにドリルミュージック路線を外れているのがわかります。

しかしこの楽曲は、メロディアスなスタイルに転換しつつある時期に制作されたとはいえ、最近の Durk ほどにメロディアスとは言えず、所々にドリルで培ったフロウが見受けられます。トラックが爽やかになるだけで、ここまで全体の雰囲気が変わるのか、と驚きます。

Durkio Krazy

12枚目のミックステープである『Just Cause Y’all Waited』 に収録されているこちらの楽曲。808 Mafia の古株である DY Krazy によるプロデュースです。浮遊感のある穏やかなイントロが続いた後、DY がドラムスを落とすと同時に心地よいフロウのラップが始まります。DY のクラッシックなトラックの上で、Durk の最高峰のフロウを楽しめるという点では、こちらの楽曲が最も単純明快で、初めての方にはお勧めしやすい一曲なのかもしれません。

Neighborhood Hero

数々の作品の中でも、特にメロディアスな側面の強い『Signed to the Streets 3』に収録されているこちらの楽曲は、Durk 自身が憧れ続けた地元シカゴの「ヒーロー」について敬意を払うと共に、Durk を含む彼らの世代こそが、次世代のヒーローになりつつあるということを歌ったものです。

Man, my city was goin’ crazy, rest in peace to Chino
俺の街は狂ってるよ。安らかに眠れ、Chino。(※1)

And free that n***a Meech ’cause he the hood hero
そして Meech (※2)を檻から出してくれ。彼は俺たちのヒーローだ。

Don’t gotta prove no point, n***a, we know
証明しなくとも、俺たちは知ってる。

And wherever that drama at, we go
何か事件が起こりそうな場所なら、どこへでも向かう。

We the neighborhood heroes
俺たちはフッドのヒーローだ。

(※1) Chino は、元 Durk のマネージャー。2015年に車の中で射殺されて亡くなってしまった。
(※2) Meech とは、シカゴ最大の薬物密輸組織である Black Mafia Family の創始者。2005年に、30年の懲役を言い渡され、現在もなお服役中。ラップを始める前は、ドラッグを売り捌くことがお金を手に入れる唯一の方法であったため、Durk は 彼のことを尊敬している。

Durk にとってのヒーローは曲中にも登場した Meech など、彼よりもひとまわり上の世代のギャングスターたちのようですが、Durk 自身も次の世代(OTF に所属している King Von や、Durk に大きな影響を受けていると思われる Calboy や Lil Zay Osama などの若手ラッパーたちにとって)のヒーローになりつつあります。

Lil Durk の参加曲

自身の名義下において大量の楽曲をリリースしてきた彼ですが、Durk は他のラッパーの楽曲に参加した先でも、その魅力を最大限に発揮するラッパーです。

メロディアスなスタイルが流行し、そのようなラッパーがたくさん上がってきている中で、そのパイオニア的存在としてあらゆる方面のアーティストたちから引っ張りだこになっています。

Chance the Rapper – Slide Around (feat. Lil Durk & Nicki Minaj)

Chance the Rapper が2019年にリリースした 1st アルバム『The Big Day』に収録されているこちらの楽曲。Pi’erre Bourne による極上のトラックの上で、シカゴの Chance と Durk、そしてニューヨークの Nicki Minaj のハーモニーが繰り広げられる奇跡のような一曲です。

『The Big Day』はリリース当時、参加アーティストが明かされておりませんでしたので、アルバムを聴き進めていくまで、誰が参加していて、誰のトラックが使われていて、彼らがどんなラップを繰り広げるのかが全くわからない構成でした。

そんな中で Nicki Minaj が登場し、すでに泣きそうになっていた私たちに追い討ちをかけるように Durk がこのようなラップを始めます。

Back then, I was broke, I can buy it now
あの頃を思い返すと、まじで貧乏だった。でも今はなんでも買えるぜ。

Got a bitch who love me, I can die around
俺を愛してくれる女性とも出会った。彼女とは死ぬまで一緒だ

もはや解説の必要がないほどに、最高以外の何物でもありません。ちなみに二行目の「俺を愛してくれる女性」というのは、Durk の妻である India Royal のことです。Durk は過去に『India』と『India Pt. 2』の2曲を、彼女に捧げる楽曲としてリリースしています。

India Royal (左) と Lil Durk (右)

ちなみに、India の前には DeJ Loaf と交際していた Durk ですが、ご多分に漏れず彼女に捧げる『My Beyoncé』という楽曲もリリースしています(こちらの楽曲に関しては、彼女をゲストに招いています。)。2015年にこちらの楽曲をリリースしたわけですが、この時期にしては珍しく最近の Durk っぽいスタイルで R&B 調の楽曲になっています。

ギャングスタのものとは思えない学園ドラマのワンシーンのようなMVにも注目です

Wale – Break My Heart (My Fault) [feat. Lil Durk]

Wale の6枚目のスタジオアルバム『Wow… That’s Crazy』に収録されているこちらの楽曲。Wale と Durk がそれぞれの失恋について、切なくも透き通ったトラックの上でラップします。副題に 「My Fault」とあるように、二人は自らの過ちによって壊してしまった愛について言及しています。

I only gave you my heart, you ain’t protect it
俺は君に心しか委ねられなかった。君はそれを守れないよね。

Plenty nights I went out with squad
幾度となく、仲間と夜に出歩いてしまった。

You felt neglected
無視されていると君が感じるのも仕方ないよね。

ギャングスタが楽曲の中で恋愛について言及する際、かなりの確率で登場するこの悩み。ストリートでの活動をとるか、一人の女性との間に育んだ愛をとるかの究極の二択を迫られる問題です。悩んだ末に、結局ストリートを選んでしまうのも、お決まりの流れでありギャングスタの生き様というべきでしょうか。

それはともあれ、ドリルシーンから生まれた彼が、こんなにも胸に響く楽曲を世に送り出すと誰が想像したでしょうか。ルーツを知っている人の中に生じるこの心地よい違和感、それこそが彼がファンの心を掴んで離さない理由と言えるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。取り上げたのが中堅アーティストということもあり、紹介すべきことが多く、少し長くなってしまいましたが、Lil Durk の魅力についてお伝えしました。リリース予定の『Just Cause Y’all Waited』、先行曲の雰囲気から見て、今回紹介した二色の Durk を両方感じられるアルバムになるのではと期待しております。

今回紹介した楽曲を中心に構成した XXS Magazine オリジナルのプレイリストもご用意しておりますので、下記リンクから是非お聞きください。それでは。

https://music.apple.com/jp/playlist/lil-durk-the-melodic-new-sound-of-chicago-street-rap/pl.u-8aAVrM6SoLMq970?l=en

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

whoiskosuke

Megan Thee Stallion – テキサスが生んだラップスター

2018年突如として頭角を現し、XXL Freshman Class 選出や、BET Hiphop Awards「Best Mixtape」の受賞など、現行ヒップホップシーンの顔となったラッパー Megan Thee Stallion。デビューアルバム『Good News』のリリースに合わせて、彼女の生い立ちやキャリアについて振り返ってみましょう。

生い立ち

Megan Thee Stallion(メーガン・ザ・スタリオン)こと Megan Pete は、Geto Boys や UGK、チョップド&スクリュードを生み出した DJ Screw らを輩出したヒップホップゆかりの地、テキサス州ヒューストンで生まれ育ちました。

彼女の母親もラッパー「Holly-Wood」として活動していたため、Megan は幼い頃からよくスタジオに同行していたそうです。

Megan と母 Holly。Holly は闘病の末、昨年3月に他界しました。

そんな母親の影響を受け、Megan は14歳でラップを始めました。その才能はラッパーであった母もすぐに認めるほどであり、彼女は Instagram にフリースタイルラップを投稿することで瞬く間にファンベースを確立させていきました。

この頃彼女は、自身の身長と美しさが「Stallion (種馬)」に似ているという理由から、Megan Thee Stallion というステージネームを付けたそうです。

その後彼女は医療経営を学ぶためテキサス・サザン大学に進学し、現在も在学中です。

https://twitter.com/theestallion/status/1201177736967884800?s=20
「今夜締め切りの6ページの研究論文があるのに、撮影もあるのよ。どうなることやら」

人気ラッパーとして活躍する傍ら学業も怠らない姿勢に、彼女の真面目さと努力家な一面が垣間見れます。

キャリア開始から現在まで

 そんな彼女は、2016年にファーストシングル『Like a Stallion』をリリースします。

同年2016年にはミックステープ『Rich Ratchet』、翌年には EP『Make It Hot』をリリース。後者のリード曲『Last Week in H TX』はYoutubeで400万回再生を記録します。

また、同年2017年にはXXXTentacionの『Look At Me』をサンプリングした『Stalli Freestyle』を公開し話題になりました。

そして2018年6月、元メジャーリーガーの Carl Crawford が所有するインディーレーベル 1501 Certified Entertainment から EP『Tina Snow』をリリースします。

ちなみに「Tina Snow」というのは、Megan が尊敬する同郷ヒューストンのラッパー Pimp C の別名「Tony Snow」を捩った彼女自身のオルターエゴで、Pimp C のようなクールなバイブスを持っているそう。

本作収録の『Big Ole Freak』は、彼女にとって初となる Billboard Hot 100 ランクインを果たします。

 その後、彼女は大手メジャーレーベル 300 Entertainment と女性ラッパー初となる契約を果たし、ミックステープ『Fever』をリリースします。

このミックステープは、彼女の二つ目のオルターエゴ「Hot Girl Meg」(気楽で社交的な性格) によるもの。

DaBaby と Juicy J が参加した本作は US Billboard 200 にて初登場10位を記録し、さらには BET Hiphop Awards にて「Best Mixtape」を受賞するなど、好成績を残しました。

そんな『Fever』の成功もあり、彼女は2019年の XXL Freshman Class に選出されます。

このサイファーにて彼女のラップスキルにますます注目が集まり、ここから約1ヶ月後にリリースされた Chance the Rapper のデビューアルバム『The Big Day』にも参加します。

Megan は、スキルフルなラップと優しく歌うフロウを披露しています。

そして、その後リリースされる彼女のニューシングル『Hot Girl Summer (feat. Nicki Minaj & Ty Dolla $ign)』がSNS上でミームを生み、バイラルヒットします。

これらのミームの流行もあり、『Hot Girl Summer』は Billboard Hot 100 にて11位まで登りつめ、MTV Video Music Awards にて「Best Power Anthem」を受賞します。

自身最大のヒットを生んだ彼女は、その翌月に JAY-Z 率いる Roc Nation とマネジメント契約を結びます。

Megan と JAY-Z

Teyana Taylor 手がけるホラーシリーズ『Hottieween』の制作&出演や、メンフィスの人気ラッパー Moneybagg Yo との交際(現在既に破局済み)など、多方面において話題を欠かすことなく一気にスターダムを駆け上がった彼女は、2020年3月に新作 EP『Suga』をリリースしました。

このEPは、彼女の三つ目のオルターエゴ「Suga」(セクシー且つセンシティブな性格で、一つ目のオルターエゴ「Tina Snow」の親友にあたる) による作品。

前述した 1501 Certified Entertainment との確執が原因でニューアルバムのリリースが遅れていた中、突如リリースが決まったこの EP には、Megan のレーベルに対する不満も現れています。

Savage

シンプルなビートと、Pimp C を思わせるスキルフルなラップが特徴的な1曲。反復され耳に残るフックのおかげもあってか Tik Tok においてこの曲を使ったダンスチャレンジが流行し、バイラルヒットしました。

N***as say I taste like sugar, but ain’t s**t sweet

奴らは私のこと砂糖みたいな味って言うけど、私は甘い女じゃない

アウトロのこのフレーズが物語るように、彼女自身がどれだけ「Savage」かを主張する攻撃的な内容の楽曲です。セクシーでセンシティブなリリックが彼女の持ち味なので、是非リリックを追いながら聴いてみてください。

B.I.T.C.H.

続いてご紹介するのは、EP のリードシングル『B.I.C.T.H.』。2PAC の名曲『Ratha Be Ya N***a』を大胆にサンプリングした1曲です。

I’d rather be your B-I-T-C-H (I’d rather keep it real with ya)

私はあなたの「Bitch」でいたい(あなたに正直でありたい)
‘Cause that’s what you gon’ call me when I’m trippin’ anyway

だって私がハイになってるとき、あなたがそう呼ぶから
You know you can’t control me, baby, you need a real one in your life

あなたは私をコントロールできない あなたの人生にはリアルなビッチが必要なんだ
Them bitches ain’t gon’ give it to you right

あんなビッチ共ではダメ

2PAC のライン「I’d rather be ya N-***-A」をそのまま引用したフック。まさに『Ratha Be Ya N***a』を女性目線で書き直したような1曲で、彼女のヒップホップ愛と乙女心を同時に楽しむことができる作品です。

Crying in the Car

The Neptunes(Pharrell Williams & Chad Hugo)プロデュースによる声ネタが印象的なトラックと、オートチューンを効かせた Megan の甘いヴォーカルが印象的な楽曲。

Please don’t give up on me, Lord, Lord

神様、どうか私を見捨てないでください
Promise to keep goin’ hard, hard

頑張り続けることを誓うから
All of them nights that I cried in the car

車の中で泣いた夜もあったけど
All them tears turned into ice on my arms

その涙が、私の腕のジュエリーに変わったの

真面目で努力家な彼女の一面が見られるリリックも最高です。

この EP『Suga』は9曲というボリュームながらも、地元 H-Town 愛溢れる楽曲から大ネタ使いのトラック、売れ線ソングまで、ヒップホップファンにはたまらない傑作に仕上がっています。

おわりに

今回は、本日デビューアルバム『Good News』をリリースした Megan Thee Stallion の生い立ちやキャリア、魅力についてまとめてみました。

もはや「フィメールラッパー」という言葉で一括りにするのはナンセンスと言えるほど、スキルフルなラップやインパクトのあるリリックを届ける魅力的なラッパー Megan Thee Stallion。そんな彼女から今後もますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

ブルックリンドリルの後継者 Fivio Foreign とは

皆さんこんにちは。今回は大ヒット曲『Big Drip』でおなじみの NY・ブルックリンのドリルラッパー Fivio Foreign についてまとめてみようと思います。今週の金曜日(2020/4/24)にニュープロジェクト『800 B.C.』をリリース予定ですので、ご存知の方もそうでない方も彼について予習しておきましょう。

Fivio Foreign ってどんなラッパー?

Fivio Foreign(ファイヴィオ・フォーリン)は、NY・ブルックリン出身のドリルMCです。最近では、Pop Smoke の『Meet The Woo Vol. 2』に参加したり、Tory Lanez や Rich The Kid などと楽曲を発表したことから、知名度は上昇し続けています。

少しマニアックな話になりますが、Fivio Foreign (以下 Fivio) はニューヨークに多数存在するギャングの中で、800 Foreign Side という Woo に分類されるグループに属しています。そして Pop Smoke はというと、こちらも Woo に分類される Flossy 90s に所属。Woo に分類される名称が異なったギャングは、拠点とする地域によって分けられることが多いですが、Woo 全体としてはつながりを持っています。

ニューヨークでは Woo と Cho の二派による対立が激化していますので、Woo のメンバー同士(例えば Fivio Foreign と Pop Smoke)の共演はみられますが、Woo と Cho のメンバー同士のの共演は実現しません。少し話が脱線したので元に戻しましょう。

有名になってからほとんど時間が経っていない彼ですが、ラッパーとしてのキャリアは6年ほど前から続いています。と言いましても、地元ブルックリンのラッパーの楽曲に客演として参加することがほとんどで、自らの名義での楽曲のリリースは全くと言って良いほどありませんでした。

そんな彼が、本格的に楽曲をリリースし始めたのは昨年の2019年です。そんな中、彼がリリースしたデビューEP『Pain and Love』が近年のブルックリンドリルの人気の波とぶつかって、空前のバズを起こします。

1st EP『Pain and Love』

2019年6月5日に Fivio はデビューEP『Pain and Love』をリリースしました。Pop Smoke や Drake との共演も果たしたロンドンのプロデューサー AXL Beats が、収録されている4曲すべてのプロデュースを担当し、近年のドリルミュージック逆輸入の流れを体現したものとなっています。タイトルの『Pain and Love』は、アルバムカバーの通り、彼の両手に刻まれたタトゥーの文字から由来しています。

『Big Drip』

EPの一曲目に収録されているこちらの楽曲は、彼のキャリアを語る上で避けては通れない一曲です。こちらの楽曲が彼の人気を爆発させた奇跡の一曲だと言っても過言ではありません。

彼のセカンドプロジェクト『800 B.C.』には、Lil Baby と Quavo が参加した本曲のリミックスも収録されています。

Pop Smoke と Fivio のスタイルはよく比較対象にされるようですが、前者は低い声でオオカミのようにラップするのに対し、後者は高い声で弾けるようなラップをします。

銃声を真似たアグレッシブなアドリブが曲の随所に散りばめられていますが、彼の場合はアドリブの域を超えて、もはやそれがリリックと化しています。

『It’s Me』

続いて紹介する楽曲はこちら。ブルックリンドリルのカテゴリー内では比較的珍しいゆったりとしたトラックの上で、穏やかな口調でラップしています。主に過去の回想をそのまま歌詞に書き起こしたような内容なのですが、曲調とは裏腹にストリートで生き抜くことの厳しさを生々しくラップしています。

I’m from a small town
俺は小さなまちで育ったんだ

Blocks they wouldn’t walk down
あいつらが歩けないほど危険な地域でな

No drive-bys, we doin’ walk-downs
車からの銃撃はしないぜ、俺らは車から降りて敵を狙い撃

I was dead broke
俺はまじで貧乏だった

Writin’ rhymes where the roaches at
ゴキブリが這い回るような場所でライムを書いていたよ

Mama Lottie knew I was a star before I wrote a rap
俺がラップを書く前から、ママは俺がスターだって知ってた

‘Cause I was always the one gettin’ noticed, but they didn’t notice that
俺は注目されるべきだったのに、他の奴らは俺のヤバさに気付かなかったからな

EPリリース後

Pop Smoke 『Sweetheart (feat. Fivio Foreign)』

EPリリース、『Big Drip』の大ヒット後、彼はブルックリン内外を問わず、数々のビックネームとの共演を果たしました。その中でも特に目立ったものは、ほぼ同時期からブルックリンドリルシーンを台頭してきた Pop Smoke との楽曲『Sweetheart』ではないでしょうか。プロダクションには、 Pusha T や Nicki Minaj との共演で知られるブルックリンのプロデューサーが参加し、ドリルトラックに挑戦しています。

Fivio Foreign & Rich The Kid 『Richer Than Ever』

アトランタの人気ラッパー Rich The Kid と共にリリースしたシングル『Richer Than Ever』です。こちらの楽曲は、『Big Drip』などのプロデュースした AXL Beats で、完全に Fivio の土俵に Rich The Kid を引きずり込んだものとなっています。Rich The Kid も、ブルックリンドリル特有のフロウに挑戦していますが、意外と違和感がなくて不思議な感覚を覚えます。

Tory Lanez『K Lo K (feat. Fivio Foreign)』

カナダ・ブランプトン出身で、IGライブを賑わせている Tory Lanez が Fivio を客演に招いた楽曲です。タイトルの『K Lo K』とはドミニカ共和国でよく使われる「調子はどう?」を意味するスラングで、どことなく異国の香りが漂うトラックとなっています。

プロデュースを担当するのは Tory Lanez と数々の楽曲を制作している E.C Fresco で、メロディーラインは Tory Lanez っぽく、ドラムス(特にハイハット)はドリルミュージックっぽく、2人の音楽スタイルのちょうど中間を行くようなトラックとなっています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。彼がすでにリリースしている楽曲はまだまだ非常に少ないため、本記事で半分以上をカバーできていると思います。

残念なことに、ブルックリンドリルのビッグスター Pop Smoke が今年の2月に亡くなってしまいました。志半ばでブルックリンのストリートに遺された Pop Smoke の想いを、大切に背負ってトップに上り詰めることができるのは、間違いなく彼だと思います。

左 Fivio Foreign と 右 Pop Smoke

そんな彼が、ブルックリンドリルの後継者となってくれるよう願いつつ、金曜日にリリースされるニュープロジェクト『800 B.C.』を楽しみに待ちましょう。

whoiskosuke

Bryson Tiller と巡る、トラップソウルの全て

Trapsoulとは?

まず始めに「Trapsoul」とは、「Trap」と「Soul」から出来ている造語です。

「Trap」

「Trap」とは、重低音を強調したビートにハイハットの連続音が混ざって出来ています。近年ではそこに特徴的なメロディーを持った電子音が乗せられることが多いのですが、いわゆるアトランタ産のヒップホップです。今ではどの地方のラッパーも使うので皆さんかなり聞き馴染みがあるヒップホップジャンルの一つだと思います。

「Soul」

「Soul」とは黒人音楽由来のR&B (リズム&ブルース) から派生したジャンルで、1960年代に確立されたと言われています。特徴としては、ブルースにゴスペルが組み合わさっていることで、ゴスペルのコード進行を基本としています。日本ではブルースとsoulの区別がはっきりしていないので認知していない人が多いことと、DTMの進化によって単純にジャンルの壁が無くなってきているので完璧な定義は難しいとされています。

誰が始めた?

それはズバリ Bryson Tiller です。

彼はケンタッキー州ルイヴィル出身の26歳のシンガーで、彼が2015年にリリースした1stアルバムの名前が『TRAPSOUL』でした。彼のアルバムからこのジャンルが認知され、確立されていきました。

同アルバムは彼の初アルバムにも関わらず、ミリオンヒットを記録し、プラチナディスク入りします。

90s slow jam

彼の特徴は「ソウル」の中でも”90sスロウ・ジャム”と呼ばれるジャンルに近いんです。

90sスロウ・ジャムといえば、90年代ニューヨークの「keith sweat」や同じ時期のシカゴの「R.Kelly」などが有名ですね。彼らの代表曲を一曲ずつ紹介します。

これらの曲を聴いてもらうと分かりますが、かなりゆったりしたビートに心地よいメロディーが流れますね。

こういう、思わず寝そべって聞きたくなるようなゆったりさが後々「ベッドルームR&B」と呼ばれるジャンルを作るんですが、これがBPMの遅いトラップのビートと出会うことで最強の音を作るんですね。

PARTYNEXTDOORの存在

トラップソウルの説明において、よくその生みの親を PARTYNEXTDOOR だと主張する人がいます。

彼は Drake の OVO に最初に参加したアーティストとして有名で、Drake との多くのコラボレーションでも知られています。

ではなぜ彼が起源ではないのか?それはハイハットやトラックとの関係にあります。

彼の出世作である『PARTYNEXTDOOR TWO』 は確かに前衛的な名作ではありました。

例えば、ディスクロージャーの Latch (feat. Sam Smith) のサンプリング曲『Sex On the Beach』などがあったりします。

他にも、エレクトロニック的な独特な音が入っている曲が多くあります。

ただ、完全なトラップソウルと言えるビートは『Recognize (feat. Drake)』と『FWU』ぐらいで、それ以外に特徴的なハイハットが用いられているのは 『Her Way』 の曲中の半分ほどと、『Thirsty』の途中あたり、そして『Muse』のフックぐらいです。

彼はまだ部分的にしかトラップソウルを取り入れておらず、それもおそらくOVOに所属していたことに拠っています。

つまり、このアルバムの革命的なポイントはあくまで、エレクトロニック的音を取り込み、Drake の作り出したメロディアスなトラップ(言うなればソウルトラップ)を部分的に取り入れたソウルであって、Bryson Tiller のトラップソウルの着想元にはなったかもしれませんが、トラップソウルの生みの親とはいえないでしょう。

しかしながら、彼の最新アルバム『PARTYMOBILE』は、ほとんどトラップソウルで構成されていました。

アルバムを通して最も印象に残ったのは、Rihanna を客演に迎えた『BELIEVE IT』です。この曲は Rihanna の良さにもかなり拠っていますが、アプローチがかなりトラップソウル的です。

やはりあくまで、トラップソウルのジャンル的面白さは、トラップとソウルを使いこなせて、その狭間での「ふらつき」を楽しむことにあるのです。

Bryson Tiller オススメ曲

では、最初にトラップソウルの生みの親、Bryson Tiller の1stアルバム『TRAPSOUL』の中から何曲か紹介しようと思います。まずは5曲目の『Don’t』です。

この曲は2014年にシングルとして出して全米ビルボード13位を記録した彼の出世作でいて、リードシングルとなっているんですが、一曲を通して無限のフロウが続く感じがたまらないですね、というかメロディーなんでしょうけど、本当に良い。

次は9曲目の『Rambo』です。これはかなりヒップホップの要素が強く僕は思わずカナダ系のヒップホップ、まるでトリーレーンズのフロウのように感じるんです。

とにかくこの曲を皮切りに、3曲続けてヒップホップ的フロウを見せてくれるんです。やはり、ソウルとヒップホップの狭間を行き来するのがこのトラップソウルの魅力と言っても間違いありません。

そして僕が一番好きな曲『Right My Wrongs』です。初めは優しいピアノのサウンドに気持ちよく乗せるバラード的始まりなんです、そこから少しずつハイハットが入ってフック前には思い重低音がくるんです。

おっ!きたきた!重いのが来るぞと思ったところでフックでまた始まりのような優しい曲調に変わるんです。

この一曲に Bryson Tiller の魅力の全てが詰まっていますね。

Trapsoul のおすすめアーティスト

Bryson Tiller が客演に参加した曲や、彼のアルバム『True to Self』についても触れたいんですが、長くなりすぎても良くないので、そろそろおすすめのトラップソウルアーティストについても触れていきたいと思います。

① dvsn (ディヴィジョン)

彼らはかなり有名で、エレクトロニック的な方面のイメージが強いんですが、実は結構トラップソウル的要素が強い「隠れ最強トラップソウルアーティスト」なんです。

dvsn はトロント出身でドレイクのOVOに所属し、彼の『One Dance』やニッキーミナージュの『Truffle Butter』などを手掛ける大物プロデューサーの Nineteen85 とシンガーの Daniel Daley の二人組で構成されています。

彼らの特徴は、エレクトロ的要素の強い耳に残るビート、効果音の上に乗せる透き通ったネオソウル的なヴォイス、そしてそれらをトラップ的なビートの上で披露することです。

現行のアーティストの中では、Bryson Tiller の正式な継承者であり、このトラップソウルを新たな境地まで連れて行ってくれる人で、彼らが現在の最上に位置すると言っても過言ではありません。

おすすめの一曲目は、1stアルバムの『SEPT. 5TH』に収録されている曲『Do It Well』です。

いかがでしょうか。どこか Bryson Tiller にも似ていますね。

次は『Hallucinations』です。こちらの楽曲は是非ヘッドホンかイヤホンで聞いてください。

始めのところ、もう一度目つぶって聞いてみてください、音が円を描いてるんです。たまらないですね。

さらに近年流行してきている、細かすぎて虫の羽が当たる音のようなハイハットを、聞こえるか聞こえないかぐらいの音で使っています。

また、彼らは最新アルバム『A Muse In Her Feelings』をリリースしました。やはり、彼らのアルバムにハズレはありませんね。(今回に関しては、先行で曲を出しすぎて、少し物足りないと感じた方もいるかもしれませんが)

まずはこのアルバムで最も早く出された先行シングル『Miss Me?』です。

すごく感傷的なトラックではじまるこの曲ですが、初めからいきなり特徴的なハイハットが聞こえてきます。

このトラックの上で、ヒップホップ的な間隔を開けたフローと、フックでの圧倒的な美声による歌唱を繰り広げてくれます。

そして次が Future を客演に迎えた一曲『No Cryin』です。Future のアドリブやバースもさることながら、圧倒的な歌唱とフックの勢いがたまらないですね。

dvsn はどのアルバムもかなり高い完成度となっているので是非とも気になる人は聞いてみてください。

② anders (アンダース)

中国系の血統である彼はカナダのミシサガ出身でトロントで活動中のR&Bシンガーのアンダースです。

実は2014年ぐらいから活動していて、最近では特にトラップソウル的要素を強め、それが功を奏して徐々に知名度を広げています。

アルバム『Twos』より一曲目、『Bad Guy』を紹介します。これは元々リードシングルとして発表されていた曲で、彼の魅力が詰まった一曲です。

③ Kalin White (カリン・ホワイト)

彼はカリフォルニア州北カリフォルニア出身のシンガーで、彼は元々 Kalin and Myles というデュオで活動していて、出会ったその日から楽曲制作を始めるほど息がぴったりでした。

SNSを通して彼らの名前は徐々に広がりましたが、残念ながら Republic Recording から解雇されてしまったことでソロ活動となりました。ただ、一人でもそのヤバさは折り紙つきです。

ではアルバム『Would You Still Be There?』という煽る気満々の名前のアルバムから『Idc Bout the Club, I Just Want You』(クラブ(の女)なんかどうでもいい、ただ君が。) というスイートな題名の一曲をどうぞ。

ちなみに、このフックの部分の、 “Tell your girls they should slide, n****s know the move”の 『slide』というのはあの Calvin Harris の曲からの引用だそうです。

あとがき

どうでしたか? Trapsoul というジャンルも実はまだまだいろんなアーティストがいますし、今となってはそのジャンルを取り入れるアーティストはかなり多くなっています。この記事で興味を持った方は、さらにアップカミングなアーティストを探しても面白いかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今回の記事に出てきた曲をまとめて Trapsoul のプレイリストも作っておりますので気になる人は是非、リンクよりお聴きください。

https://music.apple.com/jp/playlist/trapsoul/pl.u-GgA595zCZ1GAeaY?l=en

Kensho Sakamoto

新時代を切り開く若き天才プロデューサー JetsonMade とは

Oh Lord, Jetson made another one!


現行のUSヒップホップを追っていて、このフレーズを聴いたことがないという方はおそらくいないでしょう。そう、今や彼のビートを耳にしない日はないほど人気爆発中のプロデューサー JetsonMade のプロデューサータグです。今回は、そんな2020年USヒップホップシーンにおける最注目プロデューサーの生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。最後までお読みいただければ幸いです。

生い立ちとキャリア

JetsonMade(以下Jetson)こと Tahj Morgan はサウスカロライナ州コロンビア出身の23歳(1997年生まれ)。比較的恵まれた環境で育ったという彼は、2010年(当時13歳)頃から Garageband を使い楽曲作りを始め、翌年2011年には本格的にトラックメイクを始めました。

しかし彼は高校卒業後、母親の反対により一時音楽活動から離れていた時期がありました。彼の母親は息子に対して大学進学と就職を望んでいたため、Jetson は不服ながらも大学進学を決めたのですが、もちろん長続きすることはなく1セメスターで退学。その1セメスターの終盤に彼にとって大きな転機が訪れることとなります。それが、アトランタのスター 21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加でした。

この参加をきっかけに Jetson は本格的に音楽活動へと復帰します。勢いをつけた彼は DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たします。

DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。DaBaby にも Jetson にとっても自身最大のヒット曲となりました。


2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、彼にとって飛躍の1年となります。

@ Grammy Awards 2020


彼の勢いは2020年に入ってもとどまることを知らず、自身のプロダクションチーム「Spaceboy」の設立や、待望されていた Playboi Carti のニューシングル『@ MEH』のプロデュースに携わるなど、USヒップホップシーンの中核を担うプロデューサーへと成長しました。今後、あらゆるアーティストのアルバムで彼のプロデューサータグを耳にする日は間違いなく近いでしょう。

Jetson の楽曲とその魅力

続いて、Jetson の楽曲をいくつか紹介しながら、彼の魅力に迫ります。

DaBaby『BOP』

DaBaby のセカンドアルバム『KIRK』収録の1曲。Jetson の最大の特徴は、シンセを中心とした耳に残るメロディラインと分かりやすく音階をつけた重く鈍い808(ベース)です。

Jetson の特徴的な808パターン(Genius より)

極端に音数を減らしたり似たようなドラムパターンを多用したりと、差別化を図るのが難しくなってきているトラップシーンにおいて、Jetson ほど一聴して誰のビートか分かるトラックを作るプロデューサーはいないのではないでしょうか。

また、この曲のミュージックビデオにて DaBaby が808のリズムに合わせて腕を振る簡単なダンスを見せるように、TikTok や Triller にてダンスチャレンジが流行しやすいという点も、Jetson の楽曲が拡散されやすい理由の一つでしょう。

Roddy Ricch『Start wit Me (feat. Gunna)』

Roddy Ricch のデビューアルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』収録の1曲。Jetson が好んで使用する笛系のシンセとお馴染みの808ラインが、なんとも彼らしい楽曲です。また彼のビートはハイハットも特徴的で、楽曲によって様々なパターンを使い分けます。この曲ではハイハットで絶妙な間と強弱をつけ、ビートに更なるグルーヴを生み出しています。

I make a lot of different types.

俺は色んなビートを作るんだ

My success come from the simple beat,

俺の成功のルーツはシンプルなビートなんだけど

but when you think about it, when you listen to “Suge,”

DaBaby の『Suge』を聴いた後に

but then turn around and listen to an “Oh My God,”

Lil Keed の『Oh My God』を聴いたら

they totally different beats, totally different sounds.

2つは全く違うビートだろ 全く違うサウンドなんだ

I just use whatever sounds good.

俺は、自分が良いと思ったサウンドなら何でも使うんだ

Whatever goes good in that beat is what I’m gonna use.

ビートに合いそうな音は何でも使うってことだ

I just try to keep my same bounce.

同じバウンスをキープすることを心がけてるよ

The FADER

こう Jetson が語るように、彼のビートはシンプル且つ同じバウンスを保ちながらも、それぞれ個性や特徴を持ったオリジナリティ溢れる楽曲に仕上がっており、これこそが彼の強みの1つなのです。

PG RA『Back to Bali』

Jetson と同郷サウスカロライナ出身のラッパー PG RA のシングル曲。Jetson はトップアーティストと仕事をしながらもなお地元サウスカロライナを大事にする人物で、成功を目指すフッドの若きラッパーたちのプッシュも怠りません。

音数は少ないながらも、不穏なシンセサイザーと80年代のアーケードゲーム音楽のような上ネタを使ったこのビートは、彼の実力が最大限に発揮されたシンプル且つ個性的な楽曲に仕上がっています。

Cz TIGER『Nandeyanen (feat. Jaggla)』

実は Jetson、大阪のラッパー Cz TIGER にも楽曲を提供しており、普段日本語ラップしか聴かないという方でも彼のビートを既に聴いている可能性があります。

US トッププロデューサーの最先端トラップビートに乗る関西弁が新鮮な1曲です。

Playboi Carti『@ MEH』

今週遂にリリースされた Playboi Carti の新曲。Jetson と、彼が率いる Spaceboy 所属の Neeko Baby と Deskhop がプロデュースした1曲で、Lil Uzi Vert『Eternal Atake』感のある神秘的なビートとなっています。今までの Jetson にあまり見られなかったポップで可愛らしいメロディに挑戦しながらも、随所に光るシンセベースや重厚な808でしっかり彼らのサウンドを表現しており、Jetson と Spaceboy による新たな時代の到来を感じさせられます。

まとめ

いかがだったでしょうか。今回は US ヒップホップシーン最注目プロデューサー JetsonMade についてまとめてみました。

Playboi Carti の楽曲への参加を経て、今後更に勢いを増すであろう JetsonMade と Spaceboy のメンバーにますます目が離せなくなりそうです。今回は、そんな彼 Jetson が成功を志す若者に送った応援メッセージで締めくくりたいと思います。

Everybody situation different,

みんな状況が違う

so I can’t necessarily tell you to do this or do that.

だから明確に何をすべきかはアドバイスできないんだ

I just know that what you want to do

でも俺は君が何をしたいのか知ってる

— figure out how you gonna do it and stick to that.

それをどう達成するかを考え、努力し続けるんだ

Do it times ten and it’s gonna work.

10回やり続ければ上手くいくよ

It might not bring you a million dollars.

100万ドルなんてもんじゃない

It might bring you a hundred million dollars.

1億ドルだって夢じゃないんだ

Whatever you want for yourself,

君が何を欲しがったとしても

you can do it if you put a realistic plan together.

現実的な計画を立てれば実現するんだ

Real shit will make it happen.

リアルなものはいつか叶うんだよ

The FADER

最後までお読みいただきありがとうございました。

XXS オリジナルプレイリスト :
https://music.apple.com/jp/playlist/oh-lord-jetson-made-another-one/pl.u-NpXm6mmFmgrABjV?l=en

Riku Hirai

Kid Cudi とエクスペリメンタル・ヒップホップについて

こんにちは。皆さん長い長い、あまりに長い
quarantine にお疲れのことだとは思いますが、今日はそんな気怠さを吹っ飛ばすような記事を書いていきたいと思います。

タイトル通り、今回はエレクトロ的なヒップホップ、いわゆるエクスペリメンタル・ヒップホップについて書いていきます。

皆さん、エレクトロっぽいヒップホップアーティストと言われると誰が頭に思い浮かぶでしょうか?

やはり、JPEGMAFIA でしょうか。それとも古参な方は Death Grips などを思い浮かべるのでしょうか?

まず最初に、この記事はこの両者で比べると、 JPEGMAFIA のようなタイプのアーティストをピックアップしていきます。

両者の違いは単純に現代の「謂わゆるヒップホップ」により近いかどうかです。

謂わゆると言われても少し難しいかもしれませんので簡単に説明すると、「聞いてみて単純に今っぽいか、つまり、トラップ的雰囲気を有するアーティスト」となります。

そして、JPEGMAFIA のようなタイプのアーティストはトラップ的雰囲気を持っているだけあって、ある種の特徴があります。

それはハイハットです。なので今回はハイハットを中心に巡っていきたいと思います。

さあ、ヒップホップからエレクトロへの緩やかな旅に出かけましょう。

Kid Cudi

若い世代の人にとっては、Playboi Carti と Young Nudy による未公開曲『Kid Cudi (Pissy Pumper) 』によって彼を思い起こすかもしれません。

(Rolling Loud Bay Area 2019 でのライブの様子)

この人こそ、未公開でありながらハックされ、Spotify の US viral 50 chart にて一位を記録したあの名曲のタイトルの人物なのです。

そして、まさしくこの人は、今回の記事でとりあげるエクスペリメンタル・ヒップホップ(特に近年の)というジャンルの地位を押し上げた人でもあるのです。

この後に出てくる JPEGMAFIA・NNAMDÏ に通じるある種の特徴はこの人から始まったものともいえます(この人も元を辿れば、カニエ・ウエストからの圧倒的影響を受けているわけですが、このジャンルを形作り、押し上げた張本人として、Kid Cudi を捉えることにします)。

そして昨日、2年ぶりとなるシングル『Leader of the Delinquents』をリリースしたばかりの彼なのですが、まずは軽く紹介をします。

Kid Cudi こと Scott Ramon Seguro Mescudi はカニエウエストとの共作で知られるラッパー・インストメーカーです。

彼は2003年頃から活動していますが、5年間は大して陽の目を浴びることはありませんでした。

転機が起きたのは2008年。その理由は一年後にリリースされるアルバム『Man On the Moon: The End of Day』の先行シングルとなる『Day ‘n’ Nite』をリリースしたことです。

この曲は時代的にはまだトラップ黎明期に出された曲だと言えますが、フックの場面では今のヒップホップを形作る特徴的なハイハットの面影を感じることができます。

しかし、彼のハイハットの特徴は、突発的であることです。彼は一般的とされる、「継続的なハイハット」を好まず、断絶のイメージを保ったまま、トラックにハイハットを落としこんでいきます。

つまり、彼の曲はトラップとは似ていながら、非なるもの、いわば「醜いアヒルの子」的な立ち位置のハイハットを使っているのです。(全然醜くはありませんが、要するに同じ要素から生まれながらも、別なものへと派生していったということです)

そうして、Pi’erre Bourne 的な浮遊感のあるトラックとも言い換えることができるこの曲はバイラルヒットとなります。

そしてカニエ・ウエストの目にとまり、見事に GOOD MUSIC との契約にまでこぎつけ、彼はスター街道を登って行きます。

では、彼の最初のアルバム、『Man On the Moon: The End of Day』の曲から、2曲ほど紹介いたします。

『Man On the Moon: The End of Day』

『In My Dreams』

一曲目で早速、これがヒップホップなのか?といってしまいそうになるほどです。

そこにハイハットの姿はなく、ただゆったりとした彼の電子的想世界が姿を表します。

『Soundtrack 2 My Life』

先ほどとはうって変わった、アップテンポなトラックの上でも彼はバースを軽快にスピットしてしまいます。

この曲では、かなりKanye West の影響が色濃いことを感じることができると思います。特に初期のカニエにおいて顕著であった、ゆったりとしたラップ・歯切れと押韻の際の強弱などが見てとれます。

ここまで聞けば、Kid Cudi の特殊さにはみなさん気づけたことだろうと思います。

エレクトロとヒップホップのバランスで言えば、ループの単純さなどの点で、まだヒップホップ寄りだと捉えられる彼の楽曲ですが、このアルバム、及び彼の存在はその後の現代的エクスペリメンタル・ヒップホップに圧倒的な影響を及ぼすこととなります。

JPEGMAFIA

続いて、ルイジアナ出身の29歳でPeggyの愛称で知られるJPEGMAFIAについてです。

14歳から音楽を作り続けていた彼は、実は超インテリな人物で、インスト音楽を作り続ける傍ら、ジャーナリズムの研究で大学院まで卒業しているのです。

そんな彼は、一度空軍に所属し、退役した経験から『Veteran』(日本語で退役軍人の意味)をリリースし、世間から圧倒的な評価を得ました。

このアルバムの先行シングルでもある2017年にリリースされた『Baby, I’m Bleeding』のヒットにより、彼は、Kid Cudi が作り出した風潮を破壊し、再生させた蚊の如く、ヒップホップを混沌としたエレクトロの世界へと誘ってしまいます。

「エアエアエア」というワードが一曲の中を密に駆け巡り、その上でラップをかますという何とも言い難い凄みが詰まった一曲ですね。

それでは、彼の原点ともいえるアルバム『Black Ben Carson』から何曲かを引用し、彼がこのジャンルにおいて何を変えてしまったのかを解説していきましょう。

『Black Ben Carson』

『You Think You Know』

美しいトラックではじまり、美しいトラックで終わるので、中抜きしてしえばただの美しい曲で終わるであろうこの曲。

しかし、序盤で転調が起こり、暗澹とした重いトラックが突然姿を表します。

そしてこの曲はトラップ的と言われる特徴的なハイハットを使っているように感じます。が、その音は完全に他の環境音(犬の叫び声を鈍く暗くしたような音など)にかき消され、居場所を失っているようにさえ感じます。

このようなハイハットの断絶的特徴はタイトル曲『Black Ben Carson』など、その他の曲でも多々見られます。彼の音楽はトラップと似ていながらも非なる場所に位置しているのです。

『Black Ben Carson』

ここで、「JPEGMAFIAはKid Cudi の影響など受けていない」と主張する方々に対する根拠として、一曲お聞かせいたします。

彼はいよいよKid Cudi を堂々と曲名に使ってしまうのです。

『This That Shit Kid Cudi Coulda Been』

そして、Peanut Butter Thug を客演に呼んだ『Plastic』においては、もはや風船が割れたような効果音がハイハットの代わりを担います。

やはり、トラップ的なBPM に属しながらも そこからはかけ離れた Anti Trap 的なビート(ハイハット)が彼の特徴となっており、彼の台頭によって、エクスペリメンタル・ヒップホップはカオスで、よりエクスペリメンタルな方向へと向かって行きます。

そして現在、その特徴的なハイハット・およびトラックは NNAMDÏ の出現により、最終的な境地へとたどりつくこととなるのです…

NNAMDÏ

Nnamdi Ogbonnaya こと NNAMDÏは Sen Morimoto との共演でも知られるエクスペリメンタル・ヒップホップを原点とするアーティストです。

彼はJPEGMAFIA によって押し進められたエクスペリメンタル性をさらに深淵へと押し進めてしまいます。

シカゴを拠点とする30歳の彼は周囲、つまりは「対面する世界」そのものを音に変えてしまうのです。

その一例として、彼の最新アルバム『BRAT』から、一曲をご紹介したいと思います。

『BRAT』

『Salut』

これは『BPAT』の最後の曲『Salut』です。リヴァーブの効いていない一音から始まり、まるでおろしたての革靴で乾いた地面を丁寧にたたくように歩いているかのような音を基調として一曲は継続していきます。

ここまでは環境音を取り入れたごく一般的な曲に過ぎないと思うかもしれません。

しかし、転換点はその後の30秒頃、通常なら特徴的なハイハットあたりが入ってくるであろうところなのです。

ある物=者がハイハットの代わりをかって出るのです。鳥です。正確には鳥の囀りです。

彼はついに鳥の囀りをハイハットにし、まるで穏やかな日曜日を思わせるトラックと共に、いよいよ彼のヒップホップは「世界そのものを表象してしまう」のです。

また、一曲目の『Flowers to My Demons』(悪魔に花束を)から『Gimme Gimme』(早く、それを)へのあまりに自然すぎる曲の連なりには驚きを隠せません。

彼は、エクスペリメンタル・ヒップホップでは困難とされてきた、継続的な音の移り変わりを可能にしてしまうのです。

世界そのものを音に変えてしまえる彼ならば、すべての音は連関しあうものであるのかもしれません。

最後にハイハットの変遷の最たる例として5曲目の『Wasted』(ちなみに、このPVには Sen Morimotoがディレクターとして関わっており、とても素敵な世界観を醸し出しています…)を聞いてもらってこの記事は終わりにしたいと思います。

最先端のエクスペリメンタル・ヒップホップにおいて、のべつハイハットはトラックの中で最も裏側に位置する、振動のような弱すぎる地鳴り音となって現れます。

『Wasted』

Kensho Sakamoto