JayDaYoungan – ニュースターと見るルイジアナのラップ事情

俺が最も影響を受けたのは、Boosie Badazz や Kevin Gates だ。もちろん Lil Wayne は偉大で最高だけど、俺が一番聴いていたのは その二人だったね。

FADER

子供の頃から同郷出身のラッパーたちの音楽を聴いて育ってきたと語った、ルイジアナ出身の若手ラッパー JayDaYoungan 。今週末にニュープロジェクト『BABY23』のリリースを控えていることも踏まえ、今回はそんな彼についてご紹介いたします。

JayDaYoungan とは

JayDaYoungan (ジェイ・ダ・ヤンガン) は、ルイジアナ州の東端に位置する小さな街、ボガルサで生まれ育ちました。彼が尊敬する Kevin Gates や Lil Wayne の故郷であるニューオーリンズや Boosie Badazz の生まれたバトンルージュなどと比べると、面積的、人口的にもかなり小規模な街です。

夜空に打ち上げられた花火のようなユニークなヘアスタイルが特徴的な JayDaYoungan (以下、Jay) は、先ほど引用したインタビューで述べていた通り、同じくルイジアナ出身の Boosie Badazz や Kevin Gates などの音楽を聴いて育ちました。

Jay は高校時代、NBA のプロ選手になる夢を抱いていました。Rajon Rondo をロールモデルにバスケットボールに打ち込んでいた彼でしたが、目立った功績を残せずにいた彼に対し、彼の母親はバスケットボール以外のの道を真剣に考えるように説得していたそうです。

Jay が憧れていた頃に Chicago Bulls でプレーする Rajon Rondo (現在は Los Angles Lakers に所属)

そんな矢先、成績の不振や校外でのトラブルが積み重なり、所属していたチームでバスケットボールを続けることができなくなった彼は、母親の言葉を思い出し、もう一つの道として候補に挙げていた「ラッパーになること」を真剣に考え始めました。

高校二年にのときに、友人の一押しを受け、初めて YouTube に楽曲を投稿したそうですが、なんとその楽曲が一日で1000回ほど再生されました。彼はその時の感情についてこのように語っています。

俺の町の人口は、一万人ちょっとだ。俺の街の人口の1/10に相当する人々が、1日で俺の曲を聴いたなんてまじで信じられないぜ。

全くキャリアのない彼にとって、たった一日でそれほどの人々に楽曲を聴いてもらえたことは、その後の彼の自信につながったようです。

一方学校では、試験中のカンニングや無断欠席を繰り返したことが原因で、高校三年生の時に退学を余儀なくされてしまいます。学校に行く必要がなくなった彼は、熱心に取り組んでいたラップにさらにフォーカスし始めたのです。

ラップスタイル

彼のラップスタイルは、ルイジアナ特有の独特な歌声やフロウを踏襲した不思議なものです。Boosie や Lil Wayne のような、ねっとりと耳に絡みつくような声や、NBA YoungBoy の楽曲にもよく見られる詰め込みフロウなどを楽曲の至る所に散りばめており、ミックステープを通して聴いても飽きのこないスタイルです。

今回は、彼の楽曲からの主軸となるスタイルを三つに分けてご紹介します。一つ目は、詰め込みフロウです。ルイジアナでは主に、NBA YoungBoy がよく用いる手法で、小説に入りきらないはずの言葉数を、巻き舌や早口で無理やり詰め込んでしまうスタイルです。

「詰め込みフロウ」が顕著な NBA YoungBoy による 楽曲『Genie』 (1:43 からが該当箇所)

NBA YoungBoy のファンであることを公言する Jay ですが、彼はその詰め込みフロウに少し違った角度からアプローチし、自らのスタイルに添うように甘く消化させている印象があります。まずはこちらの楽曲をお聴き下さい。

昨年リリースした七枚目のミックステープ『Endless Pain』に収録されている楽曲『Different Emotions』です。お聞きいただくとわかるように、フックからいきなり独特な詰め込みフロウを披露してくれています。

楽曲の所々にこの手法を用いる NBA YoungBoy に対し、詰め込んで完成したフロウを、一曲を通して同じメロディでラップし続けているのが分かります。「所々ではなく、ずっと詰め込む」ことで、全体を通して一貫性が生まれ、心地よさが生まれています。

6枚目のミックステープ『Forever 23』に収録されている『Catch Me In Traffic』や、最新作『Misunderstood』に収録されている『Shooters』なども、同じような手法を用いてラップしています。

二つ目は流れるようなメロディアスなフロウです。Lil Durk の記事でも紹介しましたが、メロディアスなフロウを楽曲に取り込むラッパーは年々増加傾向にあります。YK Osiris のように完全にメロディアスに振り切ったものや、CalBoy のようにハードなラップの随所にメロディアスなフロウを組み込むものまで、その形式は様々ですが、Jay はちょうどその中間を行くニュートラルなスタイルを得意とします。

ラップとしても、メロディアスな楽曲としても聞くことができ、リスナーの捉え方次第でどちらにも変化してしまう、といった具合です。

デビューアルバムの先行シングルとしてリリースされていた『23 Island』です。ゆったりとしたトロピカルなトラックに、かなりユニークなフロウでアプローチします。ハードなラップに疲れた時に聴きたくなるような楽曲です。

七枚目のミックステープ『Endless Pain』に収録されている楽曲『Repo』です。こちらもメロディアスなスタイルでのアプローチですが、タイトルにもなっている『Repo』で延々と脚韻を踏み続ける展開です。心地よいメロディとともに、ラップらしいしつこいライムを聴くことができ、彼らしい楽曲と言えるでしょう。

三つ目は、ゆったりとしたバラード調のアプローチです。失恋や人生などのシリアスな内容をエモーショナルなラップに載せるスタイルです。ミクステやアルバムの後半に時たま収録される程度で、彼のメインスタイルとは言えませんが、作品に緩急をつける大変重要な役割を担っていますので、ご紹介しておきます。

ルイジアナのラップゲーム

ルイジアナといえば、本記事でも何度も言及した Boosie Badazz や Lil Wayne、Kevin Gates などが現在のシーンを率いており、Webbie や 故 Lil Snupe なども輩出してきました。そして、次世代の若手たちということで、NBA YoungBoy や Fredo Bang、そして今回ご紹介している JayDaYoungan などが続く形になっています。

独特で唯一無二なスタイルを確立しており、近年のシカゴやブルックリンのような盛り上がりを見せても良いのではないかと思われますが、まだそこまでの知名度には届いていないのが現状です。

アトランタ勢が仲間同士でコラボ曲を量産したり、はたまたジョイントプロジェクトを制作したりして盛り上がりを高めているのに対し、ルイジアナのラッパーたちはそこまで頻繁にコラボをしませんし、どちらかといえば他の地域のラッパーとの共演が目立つように感じます。

もちろん、Fredo Bang は最新作『Most Hated 』に Kavin Gates を招いていましたし、 Jay に関しても憧れであった Boosie をデビューアルバムに招いたりと、ちょくちょくの共演が見られるものの、アトランタを含む他の地域ほどの同郷意識は見られません。

JayDaYoungan が憧れの存在である Boosie Badazz を招いた楽曲。二人のスタイルを比較できます。

実際に Jay 自身もルイジアナが抱えるこのような問題について、インタビューにて言及しています。

これはルイジアナが抱える一番の問題だよ。

ルイジアナのアーティスト同士で、もっと積極的にコラボレーションをして、仲良く付き合っていく必要があると感じているんだ。ビーフなんかしている場合じゃないんだよ。

VLADTV

俺の個人的な意見だから異論は認めるけど、俺はルイジアナの音楽が最高だと思ってる。

協力して、コラボを積極的にしていけば、とても大きなムーブメントを起こせるはずだ。

VLADTV
該当部分は13:20あたりから始まります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はルイジアナのニュースター JayDaYoungan についてご紹介してきました。今週末にリリース予定のニュープロジェクト『BABY23』には Kevin Gates の参加が見られますし、彼を筆頭としてルイジアナのラップシーンがさらなる盛り上がりを見せてくれることを期待しましょう。

whoiskosuke

Jay-Z が人種差別問題に対する声明を発表。

Roc Nation の代表を務め、ニュースクール発展の旗手である Jay-Zが、警察官による George Floyd 氏殺害事件、及びそれに対する抗議デモに関して声明を発表した。

投稿の内容は、前半にミネソタ州知事 Tim Walz が公正な司法長官 Keith Ellison 氏を司法人に選んでくれたこと、そして彼が容疑者を第二級殺人罪で追訴し、関与した他の三人も出来る限り重い刑で追訴したことへの感謝であり、後半部分で声明を発表している。後半部分の内容は以下の通りである。

View this post on Instagram

@mngovernor #JusticeForGeorgeFloyd

A post shared by Roc Nation (@rocnation) on

私は断固として正義と闘おう、迫害者たちが今までやってきたあらゆる闘いにも増して。

この国の全ての政治家、検察官、警官に正義への勇気を持てるように説得しよう。

傷ついた人間として父親として兄弟として姉妹として母親として自分たちを見る勇気が出るように。

そして、自分自身を見つめ直すように。

州知事である Tim Walz も会見で Jay-Z と議論したことを明かした。

昨夜 Jay- Z から電話があった、この事件の重大さについてだ。

世界的アーティストとしてではなく、父として、正義が機能していないことを懸念しており、正義が機能して欲しいし、機能すべきだ、と彼は言っている。

Rihanna が人種差別問題に対する声明を発表

Rihanna が、警察官による George Floyd 氏殺害事件及びそれに対する抗議デモに関する声明を発表した。

投票して。他にやることはない。

ソファから尻を上げて投票に行って。言い訳はいらないから。

あなたの投票や声が重要じゃないなんて思うのはやめて。これが最もかっこいい抗議の手段だよ。世の中を変えたいなら投票して。

Rihanna は人種差別問題解決のために、暴力行為やデモ活動ではなく、予備選挙の投票に行くようファンに呼びかけた。

A$AP Rocky が人種差別問題に対する声明を発表

NY・ハーレム出身で、A$AP Mob の一員としても活躍するラッパー A$AP Rocky が、警察官による George Floyd 氏殺害事件、及びそれに対する抗議デモに関して声明を発表した。

https://twitter.com/asvpxrocky/status/1267577237294866432?s=21

俺たちは抗議をストリートでやってるんだ。カメラの前でも、取材でも、インスタグラムでもない場所でな。見せたくてやってるわけじゃない。本気なんだ。この世界全体が同じ痛みを味わってるみたいだ。俺は自分の行動全てを投稿しないけど、決して黙ってるわけじゃない。警察なんてクソくらえ。

Joey Bada$$ が人種差別問題に対する声明を発表

Joey Bada$$ が、警察官による George Floyd 氏殺害事件及びそれに対する抗議デモに関する声明を発表した。

昨日はニューヨークのストリートにいたんだ。俺が昼間に見たのは平和な抗議運動と、平和を求める人々だった。

でも夜には全く違う雰囲気が漂っていた。敵意を剥き出しにした警察と、タクシーや乗用車に潜んだ覆面の「エージェント」たちで溢れていたんだ。

はっきり言っておくが、大企業や黒人以外の著名人がこの問題について投稿したりシェアしたりするのは無意味なことだ。

奴らは単にそれがかっこいいことだと思って、取り繕っているだけなんだ。

本当に現状を変えたいと思うなら、各々の労働環境を見直せ。

もっと才能のある黒人を雇い、彼らに正当な給与を払うんだ。

俺のレーベルに関しては、才能のある黒人アーティストを雇っている。

ストリートやギャングカルチャーに投資する代わりに、才能のある黒人アーティストを雇って支えるべきだ。お前らのやり方はよくないぜ。

誰も、レーベルが黒人を搾取してきた事実と、その結果を無視してきたことについて話したがらないみたいだな。

おまえら全員に言ってるんだ。ごめんじゃ済まされないぜ。

Joey は、黒人文化が商業的に搾取されてきた事実に疑問を投げかけるとともに、レコードレーベルは人種に関わらず才能のある人材を雇い正当な対価を与えるべきだという意見を主張した。

Tyler, The Creator が人種差別問題に対する声明を発表

数々の著名人たちが、警察官による George Floyd 氏殺人事件、及びそれに対する抗議デモに関して声明を発表している中、Tyler, The Creator も彼なりの考えをSNS上にて発信した。

一部の抗議者が暴徒化し暴動や強奪などに発展している現状において、LA に店舗を構える Golf Wang Store も落書きや損壊の被害にあったようだ。それに対して Tyler は以下のようにコメントした。

and the store is fine, but even if it wasnt, this is bigger than getting some glass fixed and buffing spray paint off, understand what really needs to be fixed out here. stay safe, love

店は大丈夫。もし大丈夫じゃなかったとしても、ガラスをなおしたり、落書きを消すなんて、今起こっている問題と比べれば大したことじゃないよ。それより、今本当に「直す」べきことは何かを考えよう。みんな無事でいてくれよ。愛を込めて。

また、黒く塗り潰された画像を投稿することで、人種差別撤廃に思いをはせる日とする「#BlackOutTuesday」というハッシュタグが全世界に広がった。しかし、ハッシュタグの濫用や誤用に対する懸念の声も上がっており、 Tyler はそのことに関するツイートを各SNS上で拡散した。

私は第一印象で、とても危険だと感じた。なぜなら、「#BlackLivesMatter」のハッシュタグをクリックすると、有益な情報の代わりに黒い画像が溢れかえっているから。

黒い画像に「#BlackOutTuesday」のハッシュタグをつけるムーブメントだが、誤って「#BlackLivesMatter」のハッシュタグをつけてしまい、有益な情報が埋もれてしまうことが危惧されている。

このように Tyler は、ムーブメントに参加する際には、正しい知識を身につける必要性があることに関して、同意を示した。

XXL FRESHMAN CLASS 2019 : 選出された11人のラッパーたち

1. DaBaby

DaBaby とは

DaBaby こと Jonathan Lyndale Kirk はオハイオ州クリーブランド生まれの27歳(91年生まれ)。5歳の頃ノースカロライナ州シャーロットに引っ越します。彼のエピソードとして有名なのが、ウォルマート(スーパーマーケット)での銃殺事件です。2018年、Kirk が二人の子供を連れて買い物をしていた時、銃を持った男が彼のジュエリーを奪おうとしてきたそうです。Kirk は二人の子供を守るためにその男を銃殺しました。この事件は後に正当防衛が認められ、起訴も取り下げられています。

DaBaby のキャリア

2015年に初のミックステープ『Nonfiction』をリリースして以降、立て続けにミックステープをリリースしていた彼は、2019年に Interscope Records からデビューアルバム『Baby on Baby』をリリースします。Offset や Rich Homie Quan、Rich the Kid、Stunna 4 Vegas らを客演に迎えた同アルバムは、Billboard 200 において初週25位をマークしました。年齢的にもキャリア的にも「フレッシュ」とは言い難い彼ですが、ラッパーとしての才能と注目度はフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。

DaBaby の代表曲

『Suge』

『21』

2. Gunna

Gunna とは

Gunna こと Sergio Giavanni Kitchens はジョージア州カレッジパーク出身の26歳(93年生まれ)。一部のファンからは、「Gunna ではなく本名をステージネームにした方が良い」と言われています。母親と4人の兄と共に生活していた彼は、ラッパーになる前は DJ やドラッグディーラーとして活動していました。

Gunna のキャリア

Cam’ron や Outkast を聴いて育ったという彼が音楽制作を始めたのは15歳の頃でした。キャリア初期は「Yung Gunna」として活動しており、2013年に初のミックステープ『Hard Body』をリリースします。その後、彼は共通の友人を通して Young Thug と繋がり、Young Thug のレーベル「Young Stoner Life Records(以下YSL)」と契約を結びます。この出会いがなければ今の Gunna はいないと言っても過言ではありません。そんな彼は、2016年から2018年にかけて YSL からミックステープ『Drip Season』シリーズを3作リリースします。2018年にリリースされた Lil Baby との共作『Drip Harder』も話題となりました。

そして2019年、デビューアルバムとなる『Drip or Drown 2』をリリースします(アルバム名は、Gunna が2017年にリリースした EP『Drip or Drown』から) 。Young Thug、Wheezy、Turbo 監修の同アルバムは、Billboard 200において初週3位をマークし、華々しいデビューを飾りました。

2018年から2019年にかけて一挙にブレイクし、彼が客演に呼ばれていないアルバムはなかったと言っても過言ではないほど様々なアーティストとの共演を果たした Gunna は、まさに2019年のフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。今後の活躍にも期待です。

※ Gunna についての記事はこちらから↓

Gunnaの代表曲

『Oh Okay(feat. Young Thug & Lil Baby)』

Lil Baby & Gunna『Drip Too Hard』

3. Megan Thee Stallion

Megan Thee Stallion とは

Megan Thee Stallion こと Megan Pete はテキサス州ヒューストン出身の24歳(95年生まれ)。ちなみに、自身の身長と美しさが Stallion(種馬)に似ているという理由から、Megan Thee Stallion というステージネームを付けたそうです。彼女はテキサスサザン大学に在学中の現役大学生でもあります。

Megan Thee Stallion のキャリア

彼女の母親はラッパー「Holly-Wood」として活動していたこともあり、幼い頃からスタジオに同行していたという Megan は14歳でラップを始めました。その才能はラッパーであった母もすぐに認めるほどであり、彼女は Instagram にフリースタイルラップを投稿することによって瞬く間にファンベースを確立させていきました。2016年からミックステープをリリースし始めた彼女は着々と人気を集め、2019年リリースのミックステープ『Hot Girl Meg』は Billboard 200において、初週10位をマークしました。それ以降客演としての仕事も増やしてきた Megan は、次世代の Nicki Minaj や Cardi B と言っても過言ではないほど、実力間違いなしのフィメールラッパーです。

※ Megan Thee Stallion についての記事はこちらから↓

Megan Thee Stallion の代表曲

『Cash S**t(feat. DaBaby)

『Big Ole Freak

4. Blueface

Blueface とは

Blueface こと Johnathan Michael Porter は、カリフォルニア州ロサンゼルス出身の22歳(97年生まれ)。学生時代はアメリカンフットボールに打ち込み、2014年の「East Valley League championship」という大会でチームを優勝に導いた経歴を持ちます。

アメフトに打ち込む Blueface

Blueface のキャリア

Blueface Bleedem としてキャリアをスタートさせた彼は、2017年に彼にとって初となるシングル『Dead Locs』をリリースします。そして、その後リリースした楽曲『Thotiana』が爆発的にヒットし、独特な声とオフビートなラップで人気を博した彼は、Cash Money West と契約を結びました。

Blueface の代表曲

『Thotiana

『Bleed it

5. Lil Mosey

Lil Mosey とは

Lil Mosey こと Lathan Moses Echols はワシントン州シアトル出身の17歳(02年生まれ)。2019年のフレッシュマン選出者の中では最年少のラッパーです。彼は高校に通っていましたが、音楽活動に専念するため退学したそうです。

Lil Mosey のキャリア

Meek Mill のデビューアルバム『Dreams and Nightmares』から多大な影響を受けたという Lil Mosey は、13歳から14歳の頃にラップを始めました。2016年にラッパーとしてのキャリアを本格的に始動させた彼は、2018年にデビューアルバム『Northsbest』をリリース。同アルバムに収録されている楽曲『Noticed』がバイラルヒットし、Billboard Hot 100にて80位まで登りつめました。

自身を「マンブルラッパー」ではないと主張する彼ですが、今後同世代ラッパーたちとどのように差をつけていくのか楽しみです。

Lil Mosey の代表曲

『Noticed

Lil Mosey & Chris Brown『G Walk』

6. Roddy Ricch

Roddy Ricch とは

Roddy Ricch こと Rodrick Wayne Moore, Jr はカリフォルニア州コンプトン出身の20歳(98年生まれ)。アトランタで暮らしていた時期もあり、アトランタテイストのラップスタイルを得意とします。

Roddy Ricch のキャリア

Meek Mill や Future、Speaker Knockerz、Young Thug などから影響を受けたという彼は、8歳の頃にラップを始めました。デビューミックステープ『Feed tha Streets』で注目を集めた彼は、続くシングル『Die Young』のヒットにより一躍名を知らしめます。歌心のあるフロウや多彩なビートアプローチを得意とする彼は、フレッシュマン選出をきっかけにますます活躍すること間違いなしでしょう。

Roddy Ricch の代表曲

『Die Young

Marshmello & Roddy Ricch『Project Dreams』

7. Tierra Whack

Tierra Whack とは

Tierra Whack こと Tierra Helena Whack はペンシルベニア州フィラデルフィア出身の23歳(95年生まれ)。幼い頃に父親と疎遠になった彼女と2人の妹は、母親の手によって育てられました。アートアカデミーに3年間通っていたという彼女は、音楽活動にはもちろん芸術活動にも力を入れており、芸術を学ぶために日本に訪れたこともあるそうです。楽曲や MV、Instagram などからも、彼女の芸術的センスの高さが伺えます。

Tierra Whack のキャリア

10代の頃から「Dizzle Dizz」という名のもと活動していた彼女は、2017年に自身の本名である「Tierra Whack」という名義で活動を始めました。同年彼女はInterscope Records と契約を結び、楽曲を次々とリリースします。そして2018年、彼女は15曲(各曲1分ずつ)収録のアルバム『Whack World』をリリース。各曲にショートムービーを付けたビデオアルバムもリリースし、15分で聴けるアルバムという新鮮さや、独特な世界観を持つムービーが大きな話題を呼びました。音楽面、芸術面共に才能溢れる彼女の今後に期待です。

Tierra Whack の代表曲

『Only Child

『Hungry Hippo

8. YBN Cordae

YBN Cordae とは

YBN Cordae こと Cordae Dunston はノースカロライナ州ローレー出身の21歳(97年生まれ)。2018年のフレッシュマンに選出された YBN Nahmir も属するYBN(Young Boss N***as)クルーの一員です。テニスプレーヤーの大坂なおみ選手との交際でも話題となりました。

大坂なおみ選手と YBN Cordae

YBN Cordae のキャリア

父の影響で幼い頃からヒップホップを聴いていたという彼は、10歳でラップを始め、15歳で自らリリックを書き始めます。10代の頃から「Entender」という名のもと3作のミックステープをリリースしていた彼は、2018年に YBN クルーに参加し、「YBN Cordae」として活動を始めました。J. Cole の若手ラッパーに対するディスソング『1985』へのアンサーソングとしてリリースした『Old N***as』が話題となり注目を集めた Cordae は、話題性だけではなく巧みなラップスキルとオールドスクール的要素を兼ね添えており、Dr. Dre もその実力を認めています。Logic や Chance the Rapper などの実力派ラッパーともコラボを果たした彼は、2019年のフレッシュマンの中でも一二を争う注目株でしょう。

YBN Cordae の代表曲

『Old N***as』

『Bad Idea (feat. Chance the Rapper)

9. YK Osiris

YK Osiris とは

YK Osiris こと Osiris Williams はフロリダ州ジャクソンビル出身の20歳(98年生まれ)。現在はアトランタに在住しています。名前の YK は「Young King」の略だそうです。

YK Osiris のキャリア

幼い頃から音楽を作っていた彼は、17歳の頃に初めてネット上に自身の楽曲をアップしました。2017年にリリースした『Fake Love』は SoundCloud で140万再生を記録し、その後リリースする『Valentine』は Lil Uzi Vert がリミックスに参加。その『Valentine』のヒットによって、彼はビッグレーベル Def Jam との契約を結びます。わずか数曲のリリースでここまで漕ぎ着けたのですから才能は本物です。ソウルフルな R&B と今日のヒップホップをミックスしたスタイルを得意とする YK Osiris の今後の活躍に要注目です。

YK Osiris の代表曲

『Valentine』

『Valentine Remix (feat. Lil Uzi Vert)

『Worth It

10. Comethazine

Comethazine とは

Comethazine ことFrank Childress はミズーリ州セントルイス出身の20歳(98年生まれ)。「Comethazine」とは、「promethazine(プロメタジン)」と「cocaine(コカイン)」の2つの薬物名を組み合わせたものだそうです。高校を中退している彼ですが、高卒認定を受けるため夜間学校に再入学しています。

Comethazine のキャリア

50 Cent や Rick James、Chief Keef、Nipsey Hussle、Lil B などに影響を受けたという彼は、17歳の頃本格的に音楽活動を開始しました。SoundCloud や Youtube に楽曲をアップしてファンベースを獲得していった彼は、2017年に Alamo Records と契約を結びます。

そして2018年、彼の新曲『Bands』が突如として SoundCloud の再生回数ランキングのトップに浮上します。実はこれが、SoundCloud の楽曲差し替え機能を巧妙に利用したチート行為で、YBN Nahmir のヒット曲『Bounce Out With That』で100万再生を稼いだのち、Comethazine が自身の楽曲に差し替えたのでした。そんなずる賢さだけでなく、A$AP Rocky や Lil Yachty など、人気ラッパーとのコラボレーションも果たした彼の今後に注目です。

Comethazineの代表曲

『Bands

Comethazine & A$AP Rocky『Walk (Remix)』

11. Rico Nasty

Rico Nasty とは

Rico Nasty こと Maria-Cecilia Simone Kelly はメリーランド出身の22歳(97年生まれ)。プエルトリコ人の母とアメリカンアフリカンの父を持つ彼女は、大麻所持によって当時通っていた学校を追い出されたのち、パプリックスクールに通いながら音楽制作を始めます。

Rico Nasty のキャリア

高校在学時にラップを始めた彼女は、初のミックステープ『Summer’s Eve』をリリースします。高校卒業後、彼女はより本格的に音楽制作に取り組み、『The Rico Story』、『Sugar Trap』と2作のミックステープをリリースします。その後も次々とシングルやミックステープをリリースし、5作目のミックステープ『Sugar Trap 2』は、アメリカの音楽誌「Rolling Stone」にて「2017年のベストラップアルバム」としてリストアップされました。そして2018年、彼女はAtlantic Records と契約を結びます。

2019年には Kenny Beats とのジョイントテープ『Anger Management』をリリースし、ますます世間に名を知らしめています。

パンクラップやトラップメタル、もしくは「シュガートラップ」とも称される独特なスタイルを貫く Rico Nasty の今後の活躍に期待です。

Rico Nasty の代表曲

『Key Lime OG

『Again

※各アーティストの情報や年齢は、2019年6月現在のものです。

今週のリリース【5月31日〜】

[アルバム]

Run the Jewels – RTJ4

Flatbush ZOMBiES – Now, more than ever

JayDaYoungan – BABY23

Joey Trap – Playlist for the End of the World

Wiley – The Godfather 3

Paul Wall & Lil KeKe – Slab Talk

Ambush Buzzworl – Ask My Brother

Sleepy Hallow – Sleepy For President

Nick Blixky – Diffrent Timin

Ohtrapstar – A Star Was Born

Scarlxrd – FANTASY VXID; WINTER. (EP)

[シングル]

Meek Mill – Outside Of America

YG – FTP

B.H. & Lil Baby – Code of tha Streets

Conway the Machine – Front Lines

J. Cole が地元ノースカロライナの抗議デモに参加

ミネソタ州ミネアポリスにて白人警官が無抵抗の黒人男性 George Floyd さんを殺害した事件を受けて、アメリカ中で警察に対する抗議運動が活発化している。

多くの著名人が活動への参加や寄付によって賛成の意を示すなか、J. Cole も地元フェイエットヴィルで行われている抗議デモに参加した。

J. Cole は、同じくフェイエットヴィル出身のバスケットボールプレイヤー Dennis Smith と共にデモに参加していたところを目撃された。

今回、抗議活動への参加が目的ということで、写真撮影やインタビューを含むファンとの交流は全て拒否した J. Cole だが、彼の影響力や存在感は圧倒的なものであった。

Kanye West が与えた影響と Travis Scott の「転調」について

Yeah, this shit way too formal

だめだ、これじゃ堅すぎる

y’all know I don’t follow suit

俺は「型にはまる」のは好きじゃないんだ(別訳:俺がスーツを着ないって知ってるだろ?)

Travis Scott – SICKO MODE

常に新しさを求め、他のラッパーとは一線を画す存在、Travis Scott(以下、Travis)。

そして「オートチューン」・「セレブ指向」・「プロデューサー気質」・「転調」という4つの要素を聞けば誰もが Travis を連想することは間違い無いでしょう。

しかし、これら4つの要素が共通するラッパーがもう一人います。それは皆さんご存知 Kanye West(以下、Kanye)です。ということで今回は Kanye の影響などもみながら、 Travis を形作る四つの要素をまとめていきたいと思います。

【はじめに】

最初に、ざっくり Travis について紹介いたします。

Travis Scott こと Jacques Berman Webster II は 1992年 4月30日にテキサス州ヒューストンで生まれました。

治安が悪いことで有名なサウス・パークで幼少期を過ごす Travis ですが、まず彼は父が会社経営者でありながらソウル・ミュージシャン、祖父はジャズ・ミュージシャンという音楽一家に生まれたということを念頭においておかなければなりません。

ちなみに叔父がかなりの腕前のベーシストで、彼の愛称が Travis だったことから、彼のステージネームは生まれています。(「Scott」 は彼が敬愛してやまない Kid Cudi の本名 Scott Ramon Seguro Mescudi からきています)

Kid Cudi についての記事はこちら

また、地元ヒューストンにおける彼の幼少期の憧れはやはりテーマパークでした。このテーマパークの名前が Astroworld であることは言うまでもありませんね。

1980年代のAstroworldのコマーシャルビデオ

Travis はエルキンス高校に通い、卒業後はテキサス大学サンアントニオ校に通っていましたが、大学2年生の時に音楽キャリアを追求するために中退しました。やはり、Travis が今売れているほとんどのラッパーと違う点は、決して貧乏だったわけではなく、裕福な中流階級であったということです。ちなみに、これは Kanye にも共通します。

Kanye West の全てがわかる記事はこちら

彼のキャリアは 2008年にまで遡ります。友人の Chris Holloway とデュオ「The Graduates」を結成し、最初のミックステープ『The Graduates』を発表します。そして、このミックステープには彼の嗜好がわかる曲がたくさんあります。

『Day ‘n’ Nite』

この曲は皆さん知っているとおり、Kid Cudi の『Day ‘N’ Nite』からきた曲で、エクスペリメンタル・ヒップホップの生みの親とも言える Kid Cudi の特徴であるロック的なギター・ベースのサウンドなどが見受けられます。

また、『No Introductions』と言う楽曲は Kanye の『Flashing Lights』をサンプリングした曲です。

そして2012年に Epic Records と契約。同じ年の11月に Kanye 率いる GOOD Music と契約。そして2013年4月に T.I. が率いる Grand Hustle と契約し、スター街道を登っていきます。

Travis の細かいキャリアについて話したいところですが、皆さん結構知っていることも多いと思いますので省略いたします。またいつか Travis 単体の記事を書くときに解説したいと思います。

さて次に、Travis を形成する4つの要素の内の「オートチューン」について、Kanye が Travis に与えた影響を見ていきましょう。

【オートチューン】

T-Pain によってブラックミュージックに取り入れられ、今ではほとんどのラッパーが多かれ少なかれ使う「オートチューン」。

オートチューンの歴史についてはこの記事を参照ください。

数々のラッパーと比べても分別がすぐにつくダミダミとしながらもざらつきを含んだオートチューンボイスは Travis を特徴づける重要な要素です。そして Travis のシグネチャーともなっている「オートチューン」の歴史において最も重要となるアルバムが Kanye の『808s&Heartbreak』なんです。

Travis が Kanye に圧倒的な影響を受けているというのはこのアルバムを聞けばすぐにわかること間違いなしです。次は「セレブ指向」について、Kanye が与えた影響とともに見ていきましょう。

【セレブ指向】

Travis と聞けば、 Kylie Jenner との関係などのイメージも強く、セレブ的であると言うイメージも強いのではないでしょうか。(彼はそう呼ばれることをひどく嫌っていますが)

Travis がコラボした商品がすぐに売り切れることは彼がこの時代を代表するファッション・アイコンであることを示していますね。中でも彼とコラボした Nike の 「Air Jordan 1」などは今でもプレ値がつき、高額で取引されています。

Nike Air Jordan 1 Retro High Travis Scott

ちなみに、先日 Nike と Cactus Jack のコラボ Air Max 270 も発売されましたね。みなさん応募はしましたか?

Nike × Cactus Jack Air Max 270 (2020/ 5/29発売)

しかし、こういったファッション・アイコン的なイメージやセレブ的イメージの先駆けもまた、Kanye West なのです。それは Kanye の「YEEZY BOOST」における大成功や、Kim Kardashian との関係を考えれば容易に理解できることでしょう。

YEEZY BOOST 350 V2

次は Travis の特徴である「プロデューサー気質」について、Kanye が与えた影響とともに見ていきましょう。

【プロデューサー気質】

次は Travis の理解において重要となる3つ目の要素、それはプロデューサー気質であることです。これにおいても Kanye が圧倒的な影響を与えていることは間違い無いでしょう。

Travis が他のラッパーと違って、超有名なプロデューサーまでもを彼のスタイルに追従させたり、制作において直接トラックやミキシングの指示を出したりすることは有名ですね。でも、これは当然のことなんです。なんといっても若くして父親に DTM の機材やドラムスを教わっていた Travis にとってビートメイク、ミキシング、マスタリングは全て自分で行うのが当然だったからです。

そして、プロデューサーを統率するというのをを証明する事実として、『Goosebumps』のプロデューサーとして知られる Cardo はインタビューでこう語っています。

「Travisとコラボをする人は彼とシンクロしなければならない。彼が表現しようとすることを全て受け入れる必要があるんだよ」

Cardo

そして、プロデュースする能力は、Kanye や GOOD Music に所属するプロデューサー達からかなりインスパイアされていることも間違い無いです。実際、Travis は Kanye 率いる GOOD Music との契約において、Kanye が指揮する最強プロデューサー集団「Very GOOD Beats」のメンバーとして迎え入れられているのです。

また、アルバムに多くのアーティストを適材適所で使う Travis のスタイルも Kanye から影響を受けていること間違いなしです。(これはあらゆるラッパーに影響を与えたと言うべきですが)実際に Travis と同じ G.O.O.D.Music の一員で、『Astro World』にもプロデューサーとして参加している CyHi The Prynce はこう語っています。

CyHi The Prynce

「多くのコラボレーションをするという風潮は、ラッパー達がアルバムオブザイヤーで Adele とかと戦うために、乗る必要がある風潮なんだ。この方法はKanye Westから始まったものだね」

そして最後に今回の記事の目的でもある「転調」について触れたいと思います。

【転調】

まず転調とは何か?ということですが、辞書的な意味ではこうなります。

楽曲の進行中に、その調を他の調に転ずること。

広辞苑

つまり感覚的に言えば「同じ曲の中で曲が変わる」という現象のことです。そして転調するときには必ず「繋ぎ」の部分があります。例えば音を歪ませたり、一旦フェードアウトさせたり、メロディーラインだけ抜いたりというのが一般的です。また、この転調の効果は「聞いている人間が予期しているものとは異なる音が構成される」ことであって、映画でいうところのサスペンスのような効果です。

そして、それは驚きを誘発します。驚きがあるというのは「楽曲を飽きさせないこと」にも深く貢献する要素です。

『SICKO MODE』での「転調」はみなさんの記憶にも深く刻まれていることでしょう。この PV の中で、突然白黒に切り替わって始まるダンスのシーンはヒップホップ史に残るイメージといって間違い無いでしょう。そして、実はこの「転調」においても Kanye による影響は絶大なものです。では、「転調」について触れていきましょう。

『Yeezus』と転調

Kanye の『Yeezus』はあまり知られていない事実かもしれませんが、ヒップホップにおける転調を世に知らしめた作品なのです。(それ以前にも Kanye は転調を使うことはありましたが、このアルバムでは特に徹底してそのスタイルが現れています)

ではまずその証拠として『Hold My Liquir』をお聞きください。

この重厚なサウンドを元に、幾重にも広がり続けるトラック、複数回の継続的、断続的な「転調」が繰り返されています(「転調」について、詳しくは当記事下部の【番外編】をご参照下さい)。また、独特のロック的ギターやベースの音使いなど、様々な面で素晴らしいこの楽曲ですが、とりわけその「転調」の凄みに驚かない人などいないでしょう。

『New Slaves』でもその特徴は顕著です。

2分53秒あたりでの転調は誰もが感動すること間違いなしです。

他にも、『Blood On the Leaves』での1分8秒でのドラムスを用いた転調や『Send It Up』での0分57秒時点で起こる転調などあげ始めればキリがありませんが、どうして Travis に影響を与えたと言い切れるのかと思う方もいらっしゃることでしょう。

実は、このアルバムには Travis がプロデューサーとして参加しているのです。特に『On Sight』は Travis が中心となって作られた一曲です。この曲が最も転調の顕著な例を示していることは間違い無いでしょう。1分17秒での転調にご注目ください。

また、2012年に作られていたものの、様々な問題で 2013年にリリースされることとなった Travis の最初のフルレングス・アルバム『Owl Pharaoh』は Kanye West と Mike Dean が中心となってプロダクションを務めています。

その中でも『Bad Mood / Shit On You』における何重にも折り重なった転調は、彼のその後の音楽基盤に多大な影響を与えていることでしょう(ちなみにこの曲の中心製作者 Emile Haynie は Travis を含め、R&B や Alternative Rock などあらゆるジャンルを横断し、様々なアーティストに影響を与えた名プロデューサーであることも忘れてはいけません)。

そして Travis は『Rodeo』において完全に「転調」のスタイルを完成させます。その中でも、『90210』の転調は言うまでもなく、彼のスタイル/シグネチャーを刻印した一曲です。

2分40秒での衝撃をぜひ味わってみてください。

こうして、Kanye のスタイルに学びながら、Travis はヒップホップにおける転調の重要性を、いよいよ最高到達点へと押し上げてしまったのです(この後、番外編として「転調」についてかなり細かく解説したものをご用意させていただきましたので、より深く理解したい人は最後まで読んでいただけると幸いです)。

【最後に】

最後まで閲覧いただき、ありがとうございました。

Travis Scott は今でこそ「転調の天才」というイメージを欲しいままにし、プロデューサーも動かすほど一人でなんでもやってのけるイメージですが、そこには Kanye West の影響が深くあるんですね。

そして、今回は読みたいという人のためだけに【番外編】をご用意いたしました。かなり細かい内容にはなりますが、より深く「転調」を理解したい人は以下をお読みになってください。

【番外編】

【4種類の転調について】

転調には様々なパターンがありますが、今回の記事では大まかには二つの基準で分けます。

一つ目の基準は、転調後のトラックの持続期間が短いか長いか、つまり短期的か長期的かであり、二つ目の基準は転調が起こる前の音と関係しているか無関係か、つまり継続的か断続的かになります。

つまり組み合わせで言うならば ⑴短期的継続 ⑵長期的継続 ⑶短期的断続 ⑷長期的断続 という4つの転調のパターンに分けることができます。少し漢字が多くて理解しにくいと思うので、わかりやすく実証するため、これらのあらゆる要素が組み合わさった『SICKO MODE』を見てみましょう。

【『SICKO MODE』における11箇所の転調】

驚くことに、この曲中では転調が計11回行われています。先ほど説明した 4種類の転調が全て使われておりますので、11個全てを見ていきましょう。

【1個目】

まず一つ目が1分あたりで Drake の下記のフレーズの直後に音が歪みながらリヴァーブを起こし、キックの音で全く違うトラックに変わるシーンです。

「Young La Flame, he in sicko mode」

ここは前の音と関係のないトラックが Travis のバース中ずっと続いていることから ⑷長期的断続に分類される転調となっています。

【2個目】

2つ目に、1分40秒あたりで Big Hawk と Swae Lee による下記のフレーズが聞こえた後、キックスが消失し、元々かなり小さくなっていたマリンバのような弾ける音のみになるトラックです。

「Some-Some-Some-Someone said」

ここは前のトラックからなっていた音が持続され、少しの間だけ続くことから⑴短期的継続 に分類される転調です。正直、この2つ目の転調はいわゆる「音抜き」と呼ばれる類のもので、転調だと気付きにくい、あるいは転調とは違うとお考えの方もいらっしゃると思います。あくまでこの記事の解釈では「全ての音がなくならなず、ある程度時間が持続する音抜き」であれば転調とみなしますので、も ⑴ 短期的継続の転調と考えてもらってかまいません。なぜなら、それが聞いている人間が予期しているものとは異なる音で構成されているからです。

【3個目】

そして3つ目は、1分54秒のあたりで同じ方法 ⑴短期的継続 を使って元のトラックに戻るところです。

【4個目】

その後の4つ目は割と複雑に構成されているのですが、2分34秒の Travis による「Who put this shit together? I’m the glue」のフレーズの音抜きを契機として、2つ目の転調後と同じビートに移行します。

これもやはり⑴ 短期的継続の転調です。

そしてトラヴィスの代名詞である「特殊な転調」はこの後の5つ目と6つ目です

【5個目】

5つ目と6つ目はほとんど一体となっているのですが、5つ目が2分48秒の時点で、一気にキックスと大きく歪み響いていく音に切り替わるところです。

ここは、そのあと9秒ほどの短期間だけ続く、大きく歪んだトラックを導くことから ⑶短期的断続の転調です。

そしてこの5つ目の転調とその後のトラックは6つ目のこの曲最高の地点(2分57秒のダンスのシーン)を導き出すための「繋ぎの役割」も担っているのです。

つまり5つ目の転調は6つ目の転調の一部でもあり、このような「二重の転調」によってこの曲最大の見せ場が作り出されているのです。

【6個目】

そして、6つ目の転調は言わずもがな、⑷長期的断続 の転調です。

ここまででお気づきの方もいると思われますが、最初の方に載せた表で言う「上の部分」、つまり「断続的な転調」の方が圧倒的に衝撃を与えます、もちろんそれは続くと思われていたトラックが突然シャットアウトされるからです。(その中でも長期的断続の転調は衝撃は大きいが難易度はかなり高くなる)

【7個目】

そして7つ目が Tay Keith のプロデューサータグが流れた後です。ここでは気づくのが難しいかもしれませんが、元々のトラックにオルガンのようなビートがプラスされ、それが一定期間続きます。

つまりこれは ⑵長期的継続の転調になります。

【8個目】

8つ目も 7つ目と同じ、⑵長期的継続の転調で、3分20秒あたりの高音の金切り音を「繋ぎ」として起こる転調で、その後にはキックスが入ってきています。

この後の3分30秒あたりでのオルガンの音がたされるところはいわゆる「繋ぎ」の部分がないことから、単に音数が増えただけで転調ではないとみなすことができるでしょう。(4分11秒でも同じことが起こっています)

【9個目】

9つ目は Drake のバースでの音抜きを「繋ぎ」とした転調です。ここではオルガンの音がなくなっていますが、その前の音は継続しているので ⑵長期的継続の転調となります。

【10個目】

10個目が 4分23秒の転調で、これまたキックスが足され、ある程度の時間継続しているタイプ ⑵長期的継続の転調にあたります。

【11個目】

11個目は 5分1秒の時点で起こる ⑵長期的断続の転調です。

この5分の曲の中に、11個もの転調があるなんて本当に驚きですね。

【おまけ】

またいつか Travis Scott をより深く理解できる記事を書きたいと思います。【番外編】までお読みいただきありがとうございました。

Written by Kensho Sakamoto