Bryson Tiller と巡る、トラップソウルの全て

Trapsoulとは?

まず始めに「Trapsoul」とは、「Trap」と「Soul」から出来ている造語です。

「Trap」

「Trap」とは、重低音を強調したビートにハイハットの連続音が混ざって出来ています。近年ではそこに特徴的なメロディーを持った電子音が乗せられることが多いのですが、いわゆるアトランタ産のヒップホップです。今ではどの地方のラッパーも使うので皆さんかなり聞き馴染みがあるヒップホップジャンルの一つだと思います。

「Soul」

「Soul」とは黒人音楽由来のR&B (リズム&ブルース) から派生したジャンルで、1960年代に確立されたと言われています。特徴としては、ブルースにゴスペルが組み合わさっていることで、ゴスペルのコード進行を基本としています。日本ではブルースとsoulの区別がはっきりしていないので認知していない人が多いことと、DTMの進化によって単純にジャンルの壁が無くなってきているので完璧な定義は難しいとされています。

誰が始めた?

それはズバリ Bryson Tiller です。

彼はケンタッキー州ルイヴィル出身の26歳のシンガーで、彼が2015年にリリースした1stアルバムの名前が『TRAPSOUL』でした。彼のアルバムからこのジャンルが認知され、確立されていきました。

同アルバムは彼の初アルバムにも関わらず、ミリオンヒットを記録し、プラチナディスク入りします。

90s slow jam

彼の特徴は「ソウル」の中でも”90sスロウ・ジャム”と呼ばれるジャンルに近いんです。

90sスロウ・ジャムといえば、90年代ニューヨークの「keith sweat」や同じ時期のシカゴの「R.Kelly」などが有名ですね。彼らの代表曲を一曲ずつ紹介します。

これらの曲を聴いてもらうと分かりますが、かなりゆったりしたビートに心地よいメロディーが流れますね。

こういう、思わず寝そべって聞きたくなるようなゆったりさが後々「ベッドルームR&B」と呼ばれるジャンルを作るんですが、これがBPMの遅いトラップのビートと出会うことで最強の音を作るんですね。

PARTYNEXTDOORの存在

トラップソウルの説明において、よくその生みの親を PARTYNEXTDOOR だと主張する人がいます。

彼は Drake の OVO に最初に参加したアーティストとして有名で、Drake との多くのコラボレーションでも知られています。

ではなぜ彼が起源ではないのか?それはハイハットやトラックとの関係にあります。

彼の出世作である『PARTYNEXTDOOR TWO』 は確かに前衛的な名作ではありました。

例えば、ディスクロージャーの Latch (feat. Sam Smith) のサンプリング曲『Sex On the Beach』などがあったりします。

他にも、エレクトロニック的な独特な音が入っている曲が多くあります。

ただ、完全なトラップソウルと言えるビートは『Recognize (feat. Drake)』と『FWU』ぐらいで、それ以外に特徴的なハイハットが用いられているのは 『Her Way』 の曲中の半分ほどと、『Thirsty』の途中あたり、そして『Muse』のフックぐらいです。

彼はまだ部分的にしかトラップソウルを取り入れておらず、それもおそらくOVOに所属していたことに拠っています。

つまり、このアルバムの革命的なポイントはあくまで、エレクトロニック的音を取り込み、Drake の作り出したメロディアスなトラップ(言うなればソウルトラップ)を部分的に取り入れたソウルであって、Bryson Tiller のトラップソウルの着想元にはなったかもしれませんが、トラップソウルの生みの親とはいえないでしょう。

しかしながら、彼の最新アルバム『PARTYMOBILE』は、ほとんどトラップソウルで構成されていました。

アルバムを通して最も印象に残ったのは、Rihanna を客演に迎えた『BELIEVE IT』です。この曲は Rihanna の良さにもかなり拠っていますが、アプローチがかなりトラップソウル的です。

やはりあくまで、トラップソウルのジャンル的面白さは、トラップとソウルを使いこなせて、その狭間での「ふらつき」を楽しむことにあるのです。

Bryson Tiller オススメ曲

では、最初にトラップソウルの生みの親、Bryson Tiller の1stアルバム『TRAPSOUL』の中から何曲か紹介しようと思います。まずは5曲目の『Don’t』です。

この曲は2014年にシングルとして出して全米ビルボード13位を記録した彼の出世作でいて、リードシングルとなっているんですが、一曲を通して無限のフロウが続く感じがたまらないですね、というかメロディーなんでしょうけど、本当に良い。

次は9曲目の『Rambo』です。これはかなりヒップホップの要素が強く僕は思わずカナダ系のヒップホップ、まるでトリーレーンズのフロウのように感じるんです。

とにかくこの曲を皮切りに、3曲続けてヒップホップ的フロウを見せてくれるんです。やはり、ソウルとヒップホップの狭間を行き来するのがこのトラップソウルの魅力と言っても間違いありません。

そして僕が一番好きな曲『Right My Wrongs』です。初めは優しいピアノのサウンドに気持ちよく乗せるバラード的始まりなんです、そこから少しずつハイハットが入ってフック前には思い重低音がくるんです。

おっ!きたきた!重いのが来るぞと思ったところでフックでまた始まりのような優しい曲調に変わるんです。

この一曲に Bryson Tiller の魅力の全てが詰まっていますね。

Trapsoul のおすすめアーティスト

Bryson Tiller が客演に参加した曲や、彼のアルバム『True to Self』についても触れたいんですが、長くなりすぎても良くないので、そろそろおすすめのトラップソウルアーティストについても触れていきたいと思います。

① dvsn (ディヴィジョン)

彼らはかなり有名で、エレクトロニック的な方面のイメージが強いんですが、実は結構トラップソウル的要素が強い「隠れ最強トラップソウルアーティスト」なんです。

dvsn はトロント出身でドレイクのOVOに所属し、彼の『One Dance』やニッキーミナージュの『Truffle Butter』などを手掛ける大物プロデューサーの Nineteen85 とシンガーの Daniel Daley の二人組で構成されています。

彼らの特徴は、エレクトロ的要素の強い耳に残るビート、効果音の上に乗せる透き通ったネオソウル的なヴォイス、そしてそれらをトラップ的なビートの上で披露することです。

現行のアーティストの中では、Bryson Tiller の正式な継承者であり、このトラップソウルを新たな境地まで連れて行ってくれる人で、彼らが現在の最上に位置すると言っても過言ではありません。

おすすめの一曲目は、1stアルバムの『SEPT. 5TH』に収録されている曲『Do It Well』です。

いかがでしょうか。どこか Bryson Tiller にも似ていますね。

次は『Hallucinations』です。こちらの楽曲は是非ヘッドホンかイヤホンで聞いてください。

始めのところ、もう一度目つぶって聞いてみてください、音が円を描いてるんです。たまらないですね。

さらに近年流行してきている、細かすぎて虫の羽が当たる音のようなハイハットを、聞こえるか聞こえないかぐらいの音で使っています。

また、彼らは最新アルバム『A Muse In Her Feelings』をリリースしました。やはり、彼らのアルバムにハズレはありませんね。(今回に関しては、先行で曲を出しすぎて、少し物足りないと感じた方もいるかもしれませんが)

まずはこのアルバムで最も早く出された先行シングル『Miss Me?』です。

すごく感傷的なトラックではじまるこの曲ですが、初めからいきなり特徴的なハイハットが聞こえてきます。

このトラックの上で、ヒップホップ的な間隔を開けたフローと、フックでの圧倒的な美声による歌唱を繰り広げてくれます。

そして次が Future を客演に迎えた一曲『No Cryin』です。Future のアドリブやバースもさることながら、圧倒的な歌唱とフックの勢いがたまらないですね。

dvsn はどのアルバムもかなり高い完成度となっているので是非とも気になる人は聞いてみてください。

② anders (アンダース)

中国系の血統である彼はカナダのミシサガ出身でトロントで活動中のR&Bシンガーのアンダースです。

実は2014年ぐらいから活動していて、最近では特にトラップソウル的要素を強め、それが功を奏して徐々に知名度を広げています。

アルバム『Twos』より一曲目、『Bad Guy』を紹介します。これは元々リードシングルとして発表されていた曲で、彼の魅力が詰まった一曲です。

③ Kalin White (カリン・ホワイト)

彼はカリフォルニア州北カリフォルニア出身のシンガーで、彼は元々 Kalin and Myles というデュオで活動していて、出会ったその日から楽曲制作を始めるほど息がぴったりでした。

SNSを通して彼らの名前は徐々に広がりましたが、残念ながら Republic Recording から解雇されてしまったことでソロ活動となりました。ただ、一人でもそのヤバさは折り紙つきです。

ではアルバム『Would You Still Be There?』という煽る気満々の名前のアルバムから『Idc Bout the Club, I Just Want You』(クラブ(の女)なんかどうでもいい、ただ君が。) というスイートな題名の一曲をどうぞ。

ちなみに、このフックの部分の、 “Tell your girls they should slide, n****s know the move”の 『slide』というのはあの Calvin Harris の曲からの引用だそうです。

あとがき

どうでしたか? Trapsoul というジャンルも実はまだまだいろんなアーティストがいますし、今となってはそのジャンルを取り入れるアーティストはかなり多くなっています。この記事で興味を持った方は、さらにアップカミングなアーティストを探しても面白いかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今回の記事に出てきた曲をまとめて Trapsoul のプレイリストも作っておりますので気になる人は是非、リンクよりお聴きください。

https://music.apple.com/jp/playlist/trapsoul/pl.u-GgA595zCZ1GAeaY?l=en

Kensho Sakamoto

新時代を切り開く若き天才プロデューサー JetsonMade とは

Oh Lord, Jetson made another one!


現行のUSヒップホップを追っていて、このフレーズを聴いたことがないという方はおそらくいないでしょう。そう、今や彼のビートを耳にしない日はないほど人気爆発中のプロデューサー JetsonMade のプロデューサータグです。今回は、そんな2020年USヒップホップシーンにおける最注目プロデューサーの生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。最後までお読みいただければ幸いです。

生い立ちとキャリア

JetsonMade(以下Jetson)こと Tahj Morgan はサウスカロライナ州コロンビア出身の23歳(1997年生まれ)。比較的恵まれた環境で育ったという彼は、2010年(当時13歳)頃から Garageband を使い楽曲作りを始め、翌年2011年には本格的にトラックメイクを始めました。

しかし彼は高校卒業後、母親の反対により一時音楽活動から離れていた時期がありました。彼の母親は息子に対して大学進学と就職を望んでいたため、Jetson は不服ながらも大学進学を決めたのですが、もちろん長続きすることはなく1セメスターで退学。その1セメスターの終盤に彼にとって大きな転機が訪れることとなります。それが、アトランタのスター 21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加でした。

この参加をきっかけに Jetson は本格的に音楽活動へと復帰します。勢いをつけた彼は DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たします。

DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。DaBaby にも Jetson にとっても自身最大のヒット曲となりました。


2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、彼にとって飛躍の1年となります。

@ Grammy Awards 2020


彼の勢いは2020年に入ってもとどまることを知らず、自身のプロダクションチーム「Spaceboy」の設立や、待望されていた Playboi Carti のニューシングル『@ MEH』のプロデュースに携わるなど、USヒップホップシーンの中核を担うプロデューサーへと成長しました。今後、あらゆるアーティストのアルバムで彼のプロデューサータグを耳にする日は間違いなく近いでしょう。

Jetson の楽曲とその魅力

続いて、Jetson の楽曲をいくつか紹介しながら、彼の魅力に迫ります。

DaBaby『BOP』

DaBaby のセカンドアルバム『KIRK』収録の1曲。Jetson の最大の特徴は、シンセを中心とした耳に残るメロディラインと分かりやすく音階をつけた重く鈍い808(ベース)です。

Jetson の特徴的な808パターン(Genius より)

極端に音数を減らしたり似たようなドラムパターンを多用したりと、差別化を図るのが難しくなってきているトラップシーンにおいて、Jetson ほど一聴して誰のビートか分かるトラックを作るプロデューサーはいないのではないでしょうか。

また、この曲のミュージックビデオにて DaBaby が808のリズムに合わせて腕を振る簡単なダンスを見せるように、TikTok や Triller にてダンスチャレンジが流行しやすいという点も、Jetson の楽曲が拡散されやすい理由の一つでしょう。

Roddy Ricch『Start wit Me (feat. Gunna)』

Roddy Ricch のデビューアルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』収録の1曲。Jetson が好んで使用する笛系のシンセとお馴染みの808ラインが、なんとも彼らしい楽曲です。また彼のビートはハイハットも特徴的で、楽曲によって様々なパターンを使い分けます。この曲ではハイハットで絶妙な間と強弱をつけ、ビートに更なるグルーヴを生み出しています。

I make a lot of different types.

俺は色んなビートを作るんだ

My success come from the simple beat,

俺の成功のルーツはシンプルなビートなんだけど

but when you think about it, when you listen to “Suge,”

DaBaby の『Suge』を聴いた後に

but then turn around and listen to an “Oh My God,”

Lil Keed の『Oh My God』を聴いたら

they totally different beats, totally different sounds.

2つは全く違うビートだろ 全く違うサウンドなんだ

I just use whatever sounds good.

俺は、自分が良いと思ったサウンドなら何でも使うんだ

Whatever goes good in that beat is what I’m gonna use.

ビートに合いそうな音は何でも使うってことだ

I just try to keep my same bounce.

同じバウンスをキープすることを心がけてるよ

The FADER

こう Jetson が語るように、彼のビートはシンプル且つ同じバウンスを保ちながらも、それぞれ個性や特徴を持ったオリジナリティ溢れる楽曲に仕上がっており、これこそが彼の強みの1つなのです。

PG RA『Back to Bali』

Jetson と同郷サウスカロライナ出身のラッパー PG RA のシングル曲。Jetson はトップアーティストと仕事をしながらもなお地元サウスカロライナを大事にする人物で、成功を目指すフッドの若きラッパーたちのプッシュも怠りません。

音数は少ないながらも、不穏なシンセサイザーと80年代のアーケードゲーム音楽のような上ネタを使ったこのビートは、彼の実力が最大限に発揮されたシンプル且つ個性的な楽曲に仕上がっています。

Cz TIGER『Nandeyanen (feat. Jaggla)』

実は Jetson、大阪のラッパー Cz TIGER にも楽曲を提供しており、普段日本語ラップしか聴かないという方でも彼のビートを既に聴いている可能性があります。

US トッププロデューサーの最先端トラップビートに乗る関西弁が新鮮な1曲です。

Playboi Carti『@ MEH』

今週遂にリリースされた Playboi Carti の新曲。Jetson と、彼が率いる Spaceboy 所属の Neeko Baby と Deskhop がプロデュースした1曲で、Lil Uzi Vert『Eternal Atake』感のある神秘的なビートとなっています。今までの Jetson にあまり見られなかったポップで可愛らしいメロディに挑戦しながらも、随所に光るシンセベースや重厚な808でしっかり彼らのサウンドを表現しており、Jetson と Spaceboy による新たな時代の到来を感じさせられます。

まとめ

いかがだったでしょうか。今回は US ヒップホップシーン最注目プロデューサー JetsonMade についてまとめてみました。

Playboi Carti の楽曲への参加を経て、今後更に勢いを増すであろう JetsonMade と Spaceboy のメンバーにますます目が離せなくなりそうです。今回は、そんな彼 Jetson が成功を志す若者に送った応援メッセージで締めくくりたいと思います。

Everybody situation different,

みんな状況が違う

so I can’t necessarily tell you to do this or do that.

だから明確に何をすべきかはアドバイスできないんだ

I just know that what you want to do

でも俺は君が何をしたいのか知ってる

— figure out how you gonna do it and stick to that.

それをどう達成するかを考え、努力し続けるんだ

Do it times ten and it’s gonna work.

10回やり続ければ上手くいくよ

It might not bring you a million dollars.

100万ドルなんてもんじゃない

It might bring you a hundred million dollars.

1億ドルだって夢じゃないんだ

Whatever you want for yourself,

君が何を欲しがったとしても

you can do it if you put a realistic plan together.

現実的な計画を立てれば実現するんだ

Real shit will make it happen.

リアルなものはいつか叶うんだよ

The FADER

最後までお読みいただきありがとうございました。

XXS オリジナルプレイリスト :
https://music.apple.com/jp/playlist/oh-lord-jetson-made-another-one/pl.u-NpXm6mmFmgrABjV?l=en

Riku Hirai

Kid Cudi とエクスペリメンタル・ヒップホップについて

こんにちは。皆さん長い長い、あまりに長い
quarantine にお疲れのことだとは思いますが、今日はそんな気怠さを吹っ飛ばすような記事を書いていきたいと思います。

タイトル通り、今回はエレクトロ的なヒップホップ、いわゆるエクスペリメンタル・ヒップホップについて書いていきます。

皆さん、エレクトロっぽいヒップホップアーティストと言われると誰が頭に思い浮かぶでしょうか?

やはり、JPEGMAFIA でしょうか。それとも古参な方は Death Grips などを思い浮かべるのでしょうか?

まず最初に、この記事はこの両者で比べると、 JPEGMAFIA のようなタイプのアーティストをピックアップしていきます。

両者の違いは単純に現代の「謂わゆるヒップホップ」により近いかどうかです。

謂わゆると言われても少し難しいかもしれませんので簡単に説明すると、「聞いてみて単純に今っぽいか、つまり、トラップ的雰囲気を有するアーティスト」となります。

そして、JPEGMAFIA のようなタイプのアーティストはトラップ的雰囲気を持っているだけあって、ある種の特徴があります。

それはハイハットです。なので今回はハイハットを中心に巡っていきたいと思います。

さあ、ヒップホップからエレクトロへの緩やかな旅に出かけましょう。

Kid Cudi

若い世代の人にとっては、Playboi Carti と Young Nudy による未公開曲『Kid Cudi (Pissy Pumper) 』によって彼を思い起こすかもしれません。

(Rolling Loud Bay Area 2019 でのライブの様子)

この人こそ、未公開でありながらハックされ、Spotify の US viral 50 chart にて一位を記録したあの名曲のタイトルの人物なのです。

そして、まさしくこの人は、今回の記事でとりあげるエクスペリメンタル・ヒップホップ(特に近年の)というジャンルの地位を押し上げた人でもあるのです。

この後に出てくる JPEGMAFIA・NNAMDÏ に通じるある種の特徴はこの人から始まったものともいえます(この人も元を辿れば、カニエ・ウエストからの圧倒的影響を受けているわけですが、このジャンルを形作り、押し上げた張本人として、Kid Cudi を捉えることにします)。

そして昨日、2年ぶりとなるシングル『Leader of the Delinquents』をリリースしたばかりの彼なのですが、まずは軽く紹介をします。

Kid Cudi こと Scott Ramon Seguro Mescudi はカニエウエストとの共作で知られるラッパー・インストメーカーです。

彼は2003年頃から活動していますが、5年間は大して陽の目を浴びることはありませんでした。

転機が起きたのは2008年。その理由は一年後にリリースされるアルバム『Man On the Moon: The End of Day』の先行シングルとなる『Day ‘n’ Nite』をリリースしたことです。

この曲は時代的にはまだトラップ黎明期に出された曲だと言えますが、フックの場面では今のヒップホップを形作る特徴的なハイハットの面影を感じることができます。

しかし、彼のハイハットの特徴は、突発的であることです。彼は一般的とされる、「継続的なハイハット」を好まず、断絶のイメージを保ったまま、トラックにハイハットを落としこんでいきます。

つまり、彼の曲はトラップとは似ていながら、非なるもの、いわば「醜いアヒルの子」的な立ち位置のハイハットを使っているのです。(全然醜くはありませんが、要するに同じ要素から生まれながらも、別なものへと派生していったということです)

そうして、Pi’erre Bourne 的な浮遊感のあるトラックとも言い換えることができるこの曲はバイラルヒットとなります。

そしてカニエ・ウエストの目にとまり、見事に GOOD MUSIC との契約にまでこぎつけ、彼はスター街道を登って行きます。

では、彼の最初のアルバム、『Man On the Moon: The End of Day』の曲から、2曲ほど紹介いたします。

『Man On the Moon: The End of Day』

『In My Dreams』

一曲目で早速、これがヒップホップなのか?といってしまいそうになるほどです。

そこにハイハットの姿はなく、ただゆったりとした彼の電子的想世界が姿を表します。

『Soundtrack 2 My Life』

先ほどとはうって変わった、アップテンポなトラックの上でも彼はバースを軽快にスピットしてしまいます。

この曲では、かなりKanye West の影響が色濃いことを感じることができると思います。特に初期のカニエにおいて顕著であった、ゆったりとしたラップ・歯切れと押韻の際の強弱などが見てとれます。

ここまで聞けば、Kid Cudi の特殊さにはみなさん気づけたことだろうと思います。

エレクトロとヒップホップのバランスで言えば、ループの単純さなどの点で、まだヒップホップ寄りだと捉えられる彼の楽曲ですが、このアルバム、及び彼の存在はその後の現代的エクスペリメンタル・ヒップホップに圧倒的な影響を及ぼすこととなります。

JPEGMAFIA

続いて、ルイジアナ出身の29歳でPeggyの愛称で知られるJPEGMAFIAについてです。

14歳から音楽を作り続けていた彼は、実は超インテリな人物で、インスト音楽を作り続ける傍ら、ジャーナリズムの研究で大学院まで卒業しているのです。

そんな彼は、一度空軍に所属し、退役した経験から『Veteran』(日本語で退役軍人の意味)をリリースし、世間から圧倒的な評価を得ました。

このアルバムの先行シングルでもある2017年にリリースされた『Baby, I’m Bleeding』のヒットにより、彼は、Kid Cudi が作り出した風潮を破壊し、再生させた蚊の如く、ヒップホップを混沌としたエレクトロの世界へと誘ってしまいます。

「エアエアエア」というワードが一曲の中を密に駆け巡り、その上でラップをかますという何とも言い難い凄みが詰まった一曲ですね。

それでは、彼の原点ともいえるアルバム『Black Ben Carson』から何曲かを引用し、彼がこのジャンルにおいて何を変えてしまったのかを解説していきましょう。

『Black Ben Carson』

『You Think You Know』

美しいトラックではじまり、美しいトラックで終わるので、中抜きしてしえばただの美しい曲で終わるであろうこの曲。

しかし、序盤で転調が起こり、暗澹とした重いトラックが突然姿を表します。

そしてこの曲はトラップ的と言われる特徴的なハイハットを使っているように感じます。が、その音は完全に他の環境音(犬の叫び声を鈍く暗くしたような音など)にかき消され、居場所を失っているようにさえ感じます。

このようなハイハットの断絶的特徴はタイトル曲『Black Ben Carson』など、その他の曲でも多々見られます。彼の音楽はトラップと似ていながらも非なる場所に位置しているのです。

『Black Ben Carson』

ここで、「JPEGMAFIAはKid Cudi の影響など受けていない」と主張する方々に対する根拠として、一曲お聞かせいたします。

彼はいよいよKid Cudi を堂々と曲名に使ってしまうのです。

『This That Shit Kid Cudi Coulda Been』

そして、Peanut Butter Thug を客演に呼んだ『Plastic』においては、もはや風船が割れたような効果音がハイハットの代わりを担います。

やはり、トラップ的なBPM に属しながらも そこからはかけ離れた Anti Trap 的なビート(ハイハット)が彼の特徴となっており、彼の台頭によって、エクスペリメンタル・ヒップホップはカオスで、よりエクスペリメンタルな方向へと向かって行きます。

そして現在、その特徴的なハイハット・およびトラックは NNAMDÏ の出現により、最終的な境地へとたどりつくこととなるのです…

NNAMDÏ

Nnamdi Ogbonnaya こと NNAMDÏは Sen Morimoto との共演でも知られるエクスペリメンタル・ヒップホップを原点とするアーティストです。

彼はJPEGMAFIA によって押し進められたエクスペリメンタル性をさらに深淵へと押し進めてしまいます。

シカゴを拠点とする30歳の彼は周囲、つまりは「対面する世界」そのものを音に変えてしまうのです。

その一例として、彼の最新アルバム『BRAT』から、一曲をご紹介したいと思います。

『BRAT』

『Salut』

これは『BPAT』の最後の曲『Salut』です。リヴァーブの効いていない一音から始まり、まるでおろしたての革靴で乾いた地面を丁寧にたたくように歩いているかのような音を基調として一曲は継続していきます。

ここまでは環境音を取り入れたごく一般的な曲に過ぎないと思うかもしれません。

しかし、転換点はその後の30秒頃、通常なら特徴的なハイハットあたりが入ってくるであろうところなのです。

ある物=者がハイハットの代わりをかって出るのです。鳥です。正確には鳥の囀りです。

彼はついに鳥の囀りをハイハットにし、まるで穏やかな日曜日を思わせるトラックと共に、いよいよ彼のヒップホップは「世界そのものを表象してしまう」のです。

また、一曲目の『Flowers to My Demons』(悪魔に花束を)から『Gimme Gimme』(早く、それを)へのあまりに自然すぎる曲の連なりには驚きを隠せません。

彼は、エクスペリメンタル・ヒップホップでは困難とされてきた、継続的な音の移り変わりを可能にしてしまうのです。

世界そのものを音に変えてしまえる彼ならば、すべての音は連関しあうものであるのかもしれません。

最後にハイハットの変遷の最たる例として5曲目の『Wasted』(ちなみに、このPVには Sen Morimotoがディレクターとして関わっており、とても素敵な世界観を醸し出しています…)を聞いてもらってこの記事は終わりにしたいと思います。

最先端のエクスペリメンタル・ヒップホップにおいて、のべつハイハットはトラックの中で最も裏側に位置する、振動のような弱すぎる地鳴り音となって現れます。

『Wasted』

Kensho Sakamoto

デトロイトの暴れん坊 42 Dugg って?

皆さんこんにちは。最近では Sada Baby や Teejayx6 など、デトロイトから勢いのある若手が増えてきている印象ですが、今回はここ数ヶ月で爆発的に人気を博し始めている、デトロイトの暴れん坊 42 Dugg についての記事です。

2020年の3月に3枚目のミックステープ『Young & Turnt, Vol. 2』をリリースしたばかりだったり、Lil Baby のアルバム『My Turn』に参加したりと、大波に乗っている彼を是非この機会にお見知り置き下さい。

42 Dugg ってどんなラッパー?

42 Dugg (フォートゥー・ドゥグ) は、デトロイト出身の26歳。なんと彼は、15歳の頃から22歳になるまでの約6年間を獄中で過ごしました。小さな部屋の中では、手持ち無沙汰を極めていたようで、暇をつぶすためにラップの歌詞を書き始めたことが、彼のキャリアの始まりです。

晴れて自由の身となった2017年頃から本格的に楽曲制作に取りかかり始め、ストリートでの体験を鮮明にラップするスタイルは、徐々に世間の注目を集めていきました。

彼の努力がストリートからの支持を得始めたところで、彼の楽曲は Lil Baby の目にとまりました。それをきっかけに Lil Baby の 4PF (4 Pockets Full) と Yo Gotti の CMG との契約に成功しました。

左から 42 Dugg、Yo Gotti、Lil Baby

彼の特徴は、いかにもやんちゃそうな声で勢いよくラップするスタイルや、Kodak Black などを彷彿とさせるねっとりとしたラップです。ほとんど全曲で聞くことのできるトンビの泣き声のような口笛のアドリブにも注目です。(これをアドリブと分類するか、効果音と分類するかの問題はいったん置いておきます。)

1st ミックステープ 『11241 Wayburn』

42 Dugg は、2018年に初めてミックステープ『11241 Wayburn』をリリースしました。デトロイトのローカルクルー Team Eastside より、2018年に射殺されてしまった Team Eastside Snoop が参加していたりと、デトロイトのG好きな方にはおすすめのミクステとなっています。

三曲目に収録されている『Never』という楽曲は、Dugg 自身が選ぶ「最も過小評価されている曲」だそうです。アーティストの自己評価と、世間からの評価には常に多少のズレが生じるようです。

ちなみにアルバムタイトルの『11241 Wayburn』とは彼の生まれた実家の住所です。残念ながら、彼の生まれ育った実家はすでに解体されており、その姿を見ることができません。しかし、土地が売りに出されていますので、彼のことが好きでたまらない方は是非ご購入を検討下さい。(Google Map 上でオレンジの杭に「11241」と記されているのも確認できます。)

2nd ミックステープ『Young and Turnt』

2019年の3月15日に2枚目のミックステープ『Young and Turnt』がリリースされました。4PF と CMG 加入後、初めてリリースされたミックステープということもあり、以前のものとは比べ物にならないほど、参加アーティストが豪華になっています。

所属している二つのレーベルの長である Lil Baby と Yo Gotti はもちろんのこと、地元デトロイトから Tee Grizzley、CMG から Blac Youngsta などが参加しています。プロダクションにも、Tee Grizzley と数多くの楽曲を作成したことでも有名な、デトロイトの Helluva Beats などが参加しています。

中でも注目の楽曲は、所属する CMG のボスである Yo Gotti を迎えたYou Da Oneです。噛み付くようなやんちゃなラップをかます 42 Dugg が子だとしたら、落ち着いた口調で淡々とバースを蹴る Yo Gotti は威厳のある父親というところでしょうか。

単に Yo Gotti が一区切りのバースでラップするだけでなく、Tee Grizzley と Lil Yachty の『From the D to the A』を思い出させるような、2人交互にバースを蹴っていく構成になっているところも見所です。 Tee Grizzley もデトロイトなので少しは影響を受けているのかもしれません。

こちらの楽曲も Tee Grizzley と Lil Yachty が交互にラップしていく構成になっています。曲が進むごとにどんどん本気になっていく2人の勢いに注目です。

3rd ミックステープ『Young & Turnt, Vol. 2』

2枚目のミクステから約一年のインターバルを経て、2020年の3月に待望の新作『Young & Turnt, Vol. 2』 をリリースしました。2枚目の続編という立ち位置のミクステですが、アルバムタイトルの表記は「and」から「&」へとマイナーチェンジがなされています。

引き続き Lil Baby と Yo Gotti に加え、前作にも参加しており Team Eastside のメンバーである Babyface Ray も参加しています。プロダクションには Helluva Beats はもちろんのこと、808 Mafia のボス Southside が新しく参加しています。4PF に属しているからこそ実現したコラボですね。

今回ご紹介したいのは、7曲目に収録されている『Hard Times』という楽曲です。先行シングルとして、ミクステより一足先にリリースされていたものですが、彼にとっては比較的珍しいメロディアスなフロウで、全体的に希望に満ち溢れたバイブスが特徴的な一曲です。

6年間の獄中生活を経て、一瞬にして人気ラッパーに成り上がった彼だからこそ書くことのできるリリックを、フックの一行目から披露してくれます。

Hard times don’t last
厳しい時期は、そう長く続かないぜ

感染症による影響で暗いムードが漂う私たちにとっても、この一行は最高のメッセージであり、彼の発する一言によって分厚い雲の隙間から希望の光が差し込んでくるような気もします。やはり音楽の存在は私たち人類にとって偉大なものだということに改めて気づかされる、そんな一曲でした。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はデトロイトのやんちゃ小僧 42 Dugg についての記事でした。デトロイトのラッパーや 4PF、CMG 周辺のラッパーとのコラボもこれから増えてくると予想されますので、彼の名前を見かけたら積極的に聞いてみることをお勧めします。すでに次のミクステが楽しみで仕方ありません。

whoiskosuke

新鋭プロデューサー集団 Working On Dying って?

皆さんこんにちは。少し前に Lil Uzi Vert が『Eternal Atake』をリリースしましたが、このアルバムの制作において欠かせない存在となったプロデューサー集団 Working On Dying をご存知でしょうか。

なんと彼ら、『Eternal Atake (Deluxe) – LUV vs. The World 2』に収録されている32 曲中、14 曲もプロデュースした強者集団なのです。今回はそんな彼ら Working On Dying についての記事です。

Working On Dying って?

Working On Dying (以下WOD)とは、Lil Uzi の地元でもあるフィラデルフィアを拠点に活動するプロダクション・コレクティブで、Brandon Finessin、Oogie Mane、F1lthy などのメンバーで構成されています。

彼らは、Lil Peep 率いる Gothboiclique のメンバーである Lil Tracy や、13歳で XXXTENTACION とともにヒット曲『$$$』をリリースした Matt OX などのプロデュースに参加したり、ビートを提供したりもしています。

左から Oogie Mane、Matt OX、Brandon Finessin、右後ろが F1lthy

彼らの作るトラックの特徴は、

①エモ

②アニメモチーフ

③近未来的

の3つで、時にはそれぞれの要素を融合して全く新しいジャンルを作り出してしまうこともあります。

『Matt OX – Overwhelming』

この曲は ②アニメモチーフと ③近未来的 の二つの要素の融合といった具合でしょうか。歪んだシンセサイザーのようなメロディの上にハード目なトラップビートが特徴的です。

日本語のサンプリングから幕開けするこちらの楽曲、これも実は WOD の OogieMane によるプロデュースです。Oogie Mane は元々こちらの日本語プロデューサータグ(NARUTO三話のサスケとサクラのやりとり)を使用していました。しかし権利上の問題もあり、この楽曲以降に制作したものに関しては、曲中のフレーズ『Oogie Mane he killed it』を抜き取り、プロデューサータグとしています。

Lil Uzi による『Eternal Atake』のデラックスで一曲目に収録された『Myron』も Oogie Mane によるもので、初めに Matt OX の声が聴こえて驚いたという方も多いのではないでしょうか。

ちなみに、WOD のグループタグは、こちらの楽曲でも10秒あたりで使用されている女性の声で、『I’m Working on Dying』です。

『Quando Rondo – Dope Boy Dreams』

先ほど WOD のトラックの特徴を3つ挙げましたが、彼らにはちゃんとクラッシックなトラックを作る能力も備わっています(無敵)。

Lil Uzi の EA では、近未来的でクセの強いビートが多かったため、「WODは変なビートを作る集団だ」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、それだけじゃないんだよ!と、声を大にしてここで言っておきます。

お聞きいただきました楽曲は Quando Rondo による『Dope Boy Dreams』で、Brandon Finessin によるプロデュースです。「WOD と Quando Rondo って意外!」と思った方も多いかもしれませんね。

ちなみに Brandon Finessin のプロデューサータグは、フックが始まる直前に挿入されている「Ay Brandon Why You Do Dat!」です。

Eternal Atake と Working on Dying

冒頭に32 曲中14 曲プロデュースに参加と書きましたが、これは紛れもない事実です。新しい領域の音楽を創造しつつ、しっかりと地元の若手をフックアップしている Lil Uzi にも非常に好感が持てます。

『Lil Uzi Vert – Futsal Shuffle 2020』

まず初めは、みんな大好き『Futsal Shuffle 2020』です。こちらの楽曲も実は Brandon Finessin がプロダクションに参加しています。初めて聴いたときは「これはHipHopなの?」と困惑したほど、ネクストレベルに進んでしまっているトラックです。

かなり難易度の高いダンスチャレンジと共に、2019年の末にリリースされ、彼の思惑通りインターネット上には彼のダンスを真似する動画が溢れかえりました。

リリース前のプロモーション動画においては確認できた Brandon Finessin のプロデューサータグですが、リリースされた公式な音源からは消されてしまっていました。

『Lil Uzi Vert – I’m Sorry』

Brandon Finessin がプロダクションに参加。こちらは ①エモ と ②近未来的 な要素をミックスしたようなトラックです。Lil Uzi の切ない歌声とマッチしていて、つい繰り返し聴いてしまいます。

ちなみに『I’m Sorry』と、先ほどの『Futsal Shuffle 2020』 には Starboy というプロデューサーも Brandon と共に参加しています。カービィのタトゥーを顔面に入れており、なかなかパンチのある人物です。実は彼は、DaBaby の BOP なんかにも参加しており、注目に値する1人なのですが、彼は WOD に所属していないので、また機会があれば紹介します。

Starboy

『Lil Uzi Vert – Celebration Station』

こちらの楽曲も Brandon Finessin が参加。疾走感のある宇宙系のトラックです。ちなみに終始バックで流れている女性のコーラスは、かの有名な世界の歌姫 Ariana Grande です。彼女のアルバム『Sweetener』のイントロにあたる楽曲『raindrops (an angel cried)』をサンプリングしています。

WOD が参加したその他の作品

『Bladee – Working on Dying』

Yung Lean によるコレクティブ YEAR0001 に属するラッパー Bladee のミックステープです。プロジェクトタイトルからお察しだと思いますが、全曲 WOD によるプロデュースです。OogieMane や Blandon Finessin はもちろん、今まで取り上げなかったメンバー F1LTHY や Forza も参加しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。 Eternal Atake がリリースされたことによって段違いに注目度が上がった Working On Dying。これからはどんなラッパーたちと、どんな新しい音楽を創り出してくれるのでしょうか。とても楽しみです。

whoiskosuke

アトランタ Zone 6 の新星 Yung Mal って?

みなさんこんにちは。今回はアトランタのソリッドなラッパー Yung Mal についての記事になります。

Yung Mal って誰?となっているそこのあなた、まだ遅くありません。先月にニュープロジェクト『6 Rings』をリリースしかなり上がってきている彼を、これを機にチェックしてみてください。

生まれはニューオーリンズですが、2008年にアトランタの Zone 6 に移り住みました。移住先のアトランタ Zone 6 の大先輩 Gucci Mane 率いるレーベル 1017 Eskimo Records や Alamo Records と契約しています。

Mal は Lil Quill という同郷出身のラッパーと、ヒップホップデュオ Yung Mal & Lil Quill の 1/2 としての活動に重きを置いていましたが、昨年ミックステープ『Iceburg』をリリースしたタイミングからソロでの活動にも力を入れているようです。

左 : Yung Mal  右 : Lil Quill

Lil Quill とともにリリースしたミックステープも良作揃いなので、ぜひ紹介したいのですが、今回は Yung Mal のみに絞って紹介しようと思います。(Lil Quill についてはまた後日)

1st ミックステープ『Iceburg』

『Iceburg』は Yung Mal による初めてのソロミックステープです。デュオ時代に蓄積したスキルとコネクションを最大限に活かし、かなり豪華な良作となっています。

Gucci Mane との楽曲に Zaytoven がプロダクションに参加していたり、Gunna との楽曲に Turbo が参加していたりと、ラッパー客演に呼ぶだけでなく、そのラッパーの周辺人物も積極的に巻き込んでいて、聴いていてかなり楽しいです。

『#’s』

まず初めにご紹介するのは『#’s』という楽曲。読みは『Numbers』で、つまるところのギャングスタ版数え歌です。歌詞の各行に1から順に数詞を折り込んでラップするというもの。

面白いのは、ただ数字を羅列するだけでなく下記のようにギャングスタスラングや、ワードプレイを盛り込んで淡々とラップしていくところです。

I done got rich, I’m still in the six
俺は金持ちになったけど、いまだに Zone 6 にいる。

Yung Mal が活動の拠点としているアトランタのエリア、Zone 6 の「6」

They talkin’ plates, we already ate
飯のことか?俺らはもう食っちまったぜ(大量のマリファナのことか?もう全部吸っちまったぜ)

「8 (eight)」と同じ発音の単語で、「eat」の過去形である「ate」を使ったワードプレイ

Don’t fuck with 12, I’m never gon’ snitch
警察の相手はしないぜ。俺は絶対裏切らない。

「12」は警察を意味するスラング

『Action (feat. Pi’erre Bourne & Lil Gotit)』

ここ数年において若手プロデューサーの頂点に立ち続けている Pi’erre Bourne と、 Mal と同じく Alamo に所属するラッパー Lil Gotit を招いたこちらの楽曲。

Pi’erre Bourne による琴のような音色が盛り込まれた中華ビートがなんとも言えない奇怪さを醸し出しています。そしてこちらの楽曲には、Pi’erre Bourne も自身のビートの上でラップに参加しています。

余談ですが、あちこちに挿入されている Pi’erre Bourne の最新プロデューサータグ「よ〜ぴえ〜」は、こちらの楽曲で初めて使用されました。

2nd ミックステープ『6 Rings』

2020年の3月、彼は2枚目のミックステープ『6 Rings』をリリースしました。

収録曲12曲の全ての楽曲が プロデューサーコレクティブ 808 Mafia の Pyrex Whippa によってプロデュースされています。

少し脱線しますが、Pyrex Whippa について少しだけ。彼は先述の通り 808 Mafia に所属しているプロデューサーです。そのため、Southside や DY Krazy を彷彿とさせる自由自在にハイハットを操った特徴的なビートを製作します。J. Cole 率いるDreamville のプロジェクト『Revenge of the Dreamers lll』にも参加したことから、彼の実力が認められていることが良く分かります。

ちなみに、Pyrex Whippa のプロデューサータグ「Zone 6 n****, Pyrex Whippa (Pyrex!)」は、21 Savage と Offset、Metro Boomin のジョイントアルバムである『Without Warning』に収録されている『Disrespectful』の一節を取ってきたものです。タグの声が 21 と Offset の時点で勝ち確定。

『Cocaine Freestyle』

アルバム1曲目に収録されているこの楽曲。Yung Mal にしては比較的珍しい勢いのある早口ラップを披露しています。タイトル通りフリースタイルなので、フックやブリッジなどは一切なく、イントロ的な役割を果たしています。Pyrex Whippa の変態ハイハットビートにも要注目です。

『100 Missed Calls』

成功を手にし有名になった結果、朝起きた時に100件の不在着信がたまってるよ。という嘆きから始まるこの楽曲。富も名声も手に入れた彼ならではの挑発的なリリックが散りばめられています。

Racks that talk
金が喋りだす

Every account, every stash getting filled
どの口座も金庫も、もうパンパンだよ

Have you ever seen a hundred thou-blue hunid Bill’s (huh?)
お前は10万ドルの札束を見たことがあんのか?

『Shut Up (feat. Lil Keed & Lil Gotit)』

Pyrex Whippa のスローなビートに、ロウキーなラップが怪しげな一曲。風邪のひき始めなのか、Lil Keed の鼻声ラップや、Lil Gotit の極端に言葉数が少ないバースにも注目です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。アトランタのソリッドなラッパー Yung Mal のご紹介でした。イケてる人は聴いている、聴いてる人はイケている、リアルなラッパーでした。それでは、また次回!

今回紹介した Yung Mal による二枚のミックステープはこちらから聴くことができます。↓

whoiskosuke

シカゴの若手ラッパー Polo G とは

みなさんこんにちは。今回は、『Pop Out』のメガヒットでお馴染み、シカゴ出身の要注目ラッパー Polo G についての記事です。彼の生い立ちやキャリアに触れながら、簡単にご紹介していこうと思いますので、ぜひご覧ください。

生い立ち

Polo G こと、Taurus Tremani Bartlett は、シカゴ出身の21歳(1998年1月6日生まれ)。Taurus は歴史的な建造物が多く残るシカゴの北部で、両親と3人のきょうだいと共に生まれ育ちました。

シカゴの中では治安がいい方の地域ですが、いかんせん犯罪の多いシカゴの街の一つですので、彼の楽曲の中には、彼が成長とともに目撃してきたリアルなストリート事情が描かれていたりもします。

キャリア

現在、インスタグラムにて300万人のフォロワーを抱える彼ですが、2018年の初旬までは、誰も彼のことを知りませんでした。2016年から楽曲の作成は開始していましたが、初めの一年はヒット作を生み出すことが出来なかったようです。

しかし、そんな彼が2018年の後半にリリースした楽曲『Finer Things』が予想外の大ヒットを記録。その波を逃すまいと続けてリリースしたのが、『Battle Cry』と、Lil Tjayとの楽曲『Pop Out』でした。この3枚のシングルが彼の人生を180° 転換させるきっかけとなったのです。

左 : Lil Tjay と 右 : Polo G

スタイル

彼の楽曲のスタイルは、ドリルミュージックとメロディックの融合です。後々紹介しますが、彼は G Herbo などにインスパイアされたであろう激しい楽曲や、Lil Durk やなどに影響を受けたと思われるメロディックな楽曲の両方を制作します。そして、時にはその二つのジャンルをミックスすることも。初心者には取っ付きにくいジャンルである「ドリルミュージック」ですが、彼の音楽ならチャートの上位にのぼってくるのも納得です。

デビューアルバム『Die a Legend』

2019年6月に彼は Columbia Records よりデビューアルバム『Die a Legend』をリリースしました。

こちらのアルバムは、犯罪や抗争などの犠牲となってしまった、彼の幼馴染や古くからの友達、また彼らと共有した大切な思い出に名誉を与えるために制作されました。

タイトルの『Die a Legend』は「伝説になって死ぬ」という意味で、

①「亡くなった彼の仲間は、彼の中で伝説として永遠に生き続ける」

という想いと、

②「亡くなってしまった仲間の為にも、自分自身が伝説となってから死ぬ」

という決意表明的な想いが込められていると思われます。

今回はこちらのアルバムの中から、日本語の記事になっていない(またはそのような記事が少ない)楽曲について紹介していこうと思います。

『Die a Legend』のカバーアート。
彼を取り囲むように、亡くなった仲間たちの写真がデザインされている。

『Through da Storm』

こちらの楽曲では、彼の地元であるシカゴのストリートで経験した悲しい過去を思い返しながら、家族に対する謝罪の気持ち、そしてその苦境を乗り越えていく自身の姿をラップしています。

https://www.youtube.com/watch?v=cgMgoUmHqiw

Hey big brother, it’s me, Leia
ねぇお兄ちゃん、私、レイアだよ。

Remember at the old house I said you was gonna be a big star one day?
古い家で私が「いつかお兄ちゃんはビッグスターになるよ」って言った日のこと覚えてる?

I’m so proud of you
本当に誇りに思ってるよ。

Mmh, mmh, mmh, Polo G Live in the flesh
Polo G、望むままに生きるのよ

小さい女の子のセリフから始まるこちらの楽曲ですが、この声の正体は彼の実妹のレイアちゃんです。2019年の Rolling Loud では、レイアちゃん本人がステージに上がり、生声でイントロを披露しました。

Know my grandma still with me, when it get cold, I feel your spirit
おばあちゃんは今も俺のそばに居る。寒気がした時に彼女の気配を感じるんだ。

Talkin’ to my lil’ sister, phone calls through Securus
刑務所の中から、Securus の電話を通して妹と話す ※1

Walk in court in them shackles, see my mama, her eyes tearin’
手錠をされたまま法廷を歩いて、泣いている母親に会う。

Tryna work towards these blessings but the devil keep interfering
神の恵みに向かって努力するけど、悪魔がそれを邪魔するんだ

※1 Securus とは、アメリカの刑務所で採用されているオンライン面会システム

『Deep Wounds』

こちらの楽曲は、彼が幼少期にストリートで経験した悲劇の数々について、そしてその中で生まれた彼なりの決意についてラップしています。

https://www.youtube.com/watch?v=GIDTSzFSexM

We ain’t never duckin’ beef, bitch, we not vegan
俺たちはビーフを避けないぜ ビーガンじゃないからな

みなさんご存知の通り「Beef」という言葉には、一般的な「牛肉」という意味と、「喧嘩」というスラング的な意味があります。お肉を食べることを避けるビーガンのルールと、闘争を避けることができないギャングスタのルールを、巧みなワードプレイに乗せてラップしています。

I miss Mike Durb, I won’t forget the things you used to say ※2
恋しいよ、Mike Durb。あなたが言っていたことは忘れない。

My friends got killed on the same block where we used to play
よく遊んでいた場所で、おれの仲間たちは殺されたんだ。

I know that death come unexpected, you can’t choose a day
死はいつ訪れるか分からないし、その日を選ぶことはできない。

I swear I pop so many pills, shit got me losin’ weight
薬をたくさん飲んで、どんどん痩せていっちまってる。

※2 Mike Durb は彼の叔父の名前。本曲を制作していた頃に交通事故で亡くなっている。

ここでは、大切な仲間や家族を失った経験について言及しています。Genius のインタビューにて「みんな、自分の家族に限ってはすぐに死なないと信じてる。でも実際に次に死ぬ人間は、予想もしていなかった身近な存在なんだよ。」とコメントしています。彼の場合もこのような悲劇を経験するまでは、身近な人の死は、そうすぐには訪れないと考えていたのでしょう。

歌詞にもある通り、大切な人物を失うなどという堪え難い悲しみから、危険なドラッグや犯罪に手を染めてしまう事例も少なくはないことがわかります。

Polo G による他の楽曲

『Heartless (feat. Mustard)』

デビューアルバム『Die a Legend』をリリースし、一気に有名となった彼ですが、すでに自作に向けても精力的に活動しているようです。こちらの楽曲は、アルバム以降にリリースした一作目のシングルなのですが、なんとプロダクションに Mustard が参加しています。

こちらの楽曲では、タイトル『Heartless』 の通り、ギャングの抗争や彼を取り囲む人間の悲しい振る舞いの中で、自分自身が『冷酷』になっていくことをラップしています。しかし彼の場合、ただ「冷酷」になるのではなく、そうなることで自分自身のすべきことに焦点を当てられるようにもなった、とポジティブなリリックも見られます。

My cousin got indicted dealing cocaine
俺のいとこはコカインの取引をして訴えられた

She an Instagram addict, she want mo’ fame
彼女はインスタに夢中で、もっと有名になりたがってるし

I used to starve, now I’m blowing up like propane
俺はかつて飢えていたけど、今はプロパンガスのように人気が爆発してる

Told my inner-self, “I promise you I won’t change”
自分の中の自分に「俺は絶対に変わらないと約束する」って誓った

上2行では周りの人々の行動に嫌気が差し『冷酷』になる様子、下2行ではそれでも自分自身にフォーカスを置くことの大切さをラップしている。

Genius の歌詞解説動画にて彼は「自分に正直であることは、俺にとって一番大切なことだと信じてる。もし、自分に正直であれないなら、その人生はとてももったいないよ。」と語っています。

インスタグラムで Clout (権力や富) を追い求めるユーザーたちが蔓延していることなどに苦言を呈し、彼なりの人生論を落ち着いてラップしており、かなり痺れるところがあります。(しかもこれを Mustard のビートの上で。)

まとめ

いかがでしたでしょうか。最近のラッパーたちは本当に十人十色で、100人いれば100通りのスタイルがあるって感じになってきてますが、Polo G はその中でも「男の中の男」って感じがします。

人生において大切なことを見失うことなく、鋭い感性で自分の想いを訴え続ける。これぞ HipHop のあるべき姿という感じで、ある意味お手本のような完璧なラッパーだと思います。そろそろ次作の存在を匂わせても良い頃なので、その時を楽しみに待つことにしましょう。

whoiskosuke

Lil Uzi Vert『Eternal Atake』の全て ~リリースまでの道のり~

これまで幾度となくリリースを遅らせていた Lil Uzi Vert のニューアルバム『Eternal Atake』が本日遂にリリースされました。

今回は、その存在が明かされてから本日のリリースまで約2年の月日を要したこのアルバム『Eternal Atake』の歴史を振り返って行こうと思います。

2018年 : ハッキングと、ニューアルバムの告知

2018年4月、Uzi の ソーシャルメディア(Instagram と Twitter)のアカウントがファンによってハックされたことから『Eternal Atake』の歴史は始まりました。アカウントをハックしたファンによって様々な(意味不明な)投稿がなされる中、6月頃、後にリリースされるシングル曲『New Patek』のスニペットが Uzi のダンス動画と共にポストされました。

その後ファンからアカウントを取り返した Uzi は、Twitter にてニューアルバムのタイトルを明らかにします。

Eternal は永遠、Atake は追い越す(追いつく、襲いかかる、不意をつく)ことを意味するんだ」

続いて同年7月末、彼はアルバムのカバーアートを公開します。

『Eternal Atake』のカバーアート

しかしこのカバーアートは、1997年のヘール・ボップ彗星出現の際に集団自殺を決行し消滅した「Heaven’s Gate」という宗教団体のロゴをパロディしたものであり、「Heaven’s Gate」の残党から訴訟の意思が伝えられました。

宗教団体「Heaven’s Gate」のロゴ

この騒動があった後、Uzi は上記のカバーアートを取り下げ、自身をアニメキャラクター化したアートに取り替えます。

胸の部分には「Heaven’s Gate」のロゴが。

そして同年9月18日、『Eternal Atake』から初のリードシングルとなる『New Patek』がリリースされます(最終的にはアルバム未収録)。

『New Patek』のカバーアートには、またしても例のロゴが。どうしても捨てきれないこだわりだったのでしょう。

同年末、Uzi は地元フィラデルフィアでのライブ中に、アルバムの完成を報告します。

「いつアルバムがリリースされるか気になっているんだろ。もうできてるよ。」

2019年 : 引退宣言と音楽活動再開

年が明け2019年1月、Uzi は Instagram のストーリーで音楽活動の引退を表明します。

ファンのみんなに礼を言いたいんだ。

おれはもう音楽をやらない。作った曲も全部消した。

おれは普通の生活に戻りたいんだ。2013年に戻りたいよ。

Uzi は以前から、所属するレーベル Generation Now との関係が良くないことを明らかにしていました。彼のデビューアルバム『Luv Is Rage 2』も同じ問題を抱えてリリースが遅れた過去があり、おそらくそういった問題が悪化し、彼は音楽を辞めるという発言をしたのでしょう(Generation Now のDJ Drama は問題を否定しており、「(アルバムを)出したい時に出せばいい」と発言)。

同年3月、Uzi は Jay-Z 擁する Roc Nation と契約を結び、突如ニューシングル『Free Uzi』をリリースしました(リリース数日後に削除)。

N***as lyin’, yeah he stuck with a cappin’ face

奴らは嘘をついてる、そのせいで身動きがとれないんだ

N***as rattin’, they get hit with the MAC today

奴らは卑劣だ、今に MAC で撃ち抜かれるさ

It’s my “I don’t even know, um, what happened” face

おれは「おれは知らないぜ、何があったんだ」って顔をしてる

Lil Uzi Vert – Free Uzi
Generation Now との確執について言及するライン。
MAC で撃ち抜かれたんだろ、UZI じゃない(おれはやってない)という、銃の名前でかけたワードプレイ)

同年4月、Uzi はリークされた2つの楽曲を公式にリリースします(両方ともアルバム未収録)。

『That’s a Rack』

『Sanguine Paradise』

そして同年末、Uzi はアルバムからリードシングル『Futsal Shuffle 2020』をリリースします。

2020年 : アルバムリリース

年が明け2020年に入り、Uzi は Twitter にて積極的にアルバムのアナウンスを行うようになります。

アルバムには16曲が収録されることを明らかにした後、Instagram Live にて二週間以内にアルバムをリリースすることを仄かしました。

そして3月1日、Uzi は2つ目のリードシングル『That Way』をリリースします。自身のオルターエゴ、「Renji」と「Baby Pluto」の存在も主張し、Twitter 上でファンからの質問に積極的に応答するようになります。

その後、彼は Twitter にて3つのカバーアートを公開し、フォロワーに投票で選ばせるという前代未聞の決定方法をとりました。

Cover 1
Cover 2
Cover 3

投票の結果2つ目の「Cover 2」に決定し、続いて『Eternal Atake』のショートフィルムが公開されました。

その2日後、Uzi は『Eternal Atake』のトラックリストを公開します。

そして本日3月7日、急遽ニューアルバム『Eternal Atake』がリリースされました。

みんな準備はできたか、今日がその日だ!

来週金曜日じゃない、今リリースしたぜ!

世界中が来週のリリースと思い込んでいた中、突如としてニューアルバムをリリースする、なんとも Uzi らしい行動に意表を突かれました。

世界中が待望していたニューアルバムには、The Internet のメイン・ヴォーカルである Syd が客演で参加しており、Wheezy や Yung Lan、TM88、Supah Mario ら売れっ子プロデューサーに加え、Working On Dying の Brandon Finessin や Oogie Mane、ラッパーの Chief Keef らがプロダクションに名を連ねています。

Uzi 曰く、1〜6曲目が Baby Pluto、7〜12曲目が Renji、13〜18曲目が Uzi による楽曲だそうです。

数時間前、Uzi は アルバムのデラックス盤の存在も明かしており、Pi’erre Bourne、Young Thug、Future、A Boogie wit da Hoodie、Lil Baby、Chief Keef ら今をときめく豪華客演陣を迎えているとのこと。2年前からリリースが待ち望まれている『Rollie [Jellybean (Kobe)]』や『Like Me (Myron)』、『Lotus』などの楽曲も含まれている可能性が高く、Lil Uzi Vert ファン歓喜の展開となりそうです。

Riku Hirai

シカゴ出身の注目若手ラッパー Calboy とは

今回は『Envy Me』のヒットで知られるシカゴ出身の注目若手ラッパー Calboy について、彼の生い立ちやキャリアに触れながら簡単にご紹介しようと思います。それではさっそくいってみましょう。

生い立ち

Calboy こと Calvin Woods は、シカゴ出身の20歳(1999年4月3日生まれ)。シカゴの中でも最も危険とされるサウスサイド出身で、母親と4人の兄弟と共に非常に貧しい生活を送っていたそうです。

オーバードーズと銃撃により幼馴染みの親友を2人も失った彼は、家族と共にシカゴの南に位置する Calumet City に移住します。

キャリアの開始

音楽活動を始める前は絵を描いて過ごしていたというCalvin は、2015年から Kidd Cal 名義で楽曲を公開し始めます。

『Mr.Misunderstood』

今から約5年前(当時16歳)の彼の楽曲からは、既に才能の片鱗が伺えます。

1st ミックステープ『Anxiety』

2017年、Calvin (以下 Calboy)はデビュー作となるミックステープ『Anxiety』をリリースします(147 Calboy 名義では、以前にミックステープ『The Chosen One』をリリースしています)。

Twista や Future、Chief Keef らとの楽曲制作でも知られる DJ Pharris が監修を務め、メジャーレーベルとの契約なしでリリースされたこのミックステープには、地元シカゴのスター Lil Durk が客演として参加しています。

『Anxiety(心配、不安)』というタイトル通り、Calboyは、地元で経験してきた悲劇やトラウマについて歌います。

I was 15, I see my bro Jimmy dead
おれが15の頃、仲間の Jimmy が死んだのを見たんだ
He felt so cold, I couldn’t even cry
彼は冷たくなって、おれは泣くことすら出来なかった
That’s why I sip lean, boy you ain’t even gotta ask why
だからおれはリーンを飲むんだ、理由なんて聞くな
They wanna shiv me with knives all in my back
やつらはおれのことを狙っている

Calboy – Fatality

この頃の彼はオートチューンを強めに使っており、Lil Durk の歌唱スタイルや声に近似したメロディアスなフロウを多用しています。

Rap Genius の「Can ___ Fans Actually Recognize His Voice (~のファンは、実際に~の声を聴き分けることができるか)」というシリーズに Lil Durk の回が来るならば、間違いなく Calboy の楽曲が使われるでしょう。

2nd ミックステープ『Calboy the Wild Boy』

2018年、Calvin は Paper Gang Inc. から 2nd ミックステープ『Calboy the Wild Boy』をリリースします。

このミックステープで彼は、自己アイデンティティの模索や、前作『Anxiety』の成功からくる名声についてラップしています。

またラップスキルもこの頃から磨かれつつあり、特に7曲目の『Blood Suckaz』ではファルセットやミックスボイスを使って高音で歌うスタイルが見られ、今現在(2019~2020年)の彼に通ずるものを感じます(特に1:17~のフロウは、後にリリースされる彼のヒットシングル『Envy Me』のフックと同じフロウですね。おそらくこの頃に自分のスタイルを掴んだのでしょう)。

『Envy Me』のバイラルヒット

2018年9月に Calboy がリリースしたシングル『Envy Me』が、彼のキャリアを大きく変えます。リリースされるや否や Billboard Hot 100において63位まで登りつめ、YouTube では2500万再生を記録しました。

『Envy Me』のバイラルヒットは、この曲を使った「Demons Challenge」というダンスチャレンジが Tik Tok 上で流行したことがきっかけでした。

https://youtu.be/J0Aoum3NJog

もちろん奇跡的にバズを起こしてヒットしたわけではなく、バズが起こったのにも理由があります。

I was fighting some demons, in the field, bitch, I’m deep in
おれは悪魔たちと戦っている、もう戻れないんだ
I was raised in the deep end, I know niggas be sinkin’
困難な環境で育ってきたんだ、落ちぶれていった奴らもいる

Calboy はこのような暗い内容のリリックを、悲しげにも、あるいは楽しげにも聴こえてしまうようなポップなメロディで歌い上げます。このダークさとポップさのアンバランス感が Calboy (彼に限らず現行のシカゴ産ヒップホップ)の魅力でしょう。

その後、Calboy は Kodak Black の「The Dying To Live Tour」に帯同し、ますます知名度を上げていきます。

デビューEP 『Wildboy』

2019年、Calboy は RCA と Polo Grounds Music からデビュー EP『Wildboy』をリリースします。

Moneybagg Yo、Lil Durk、Yo Gotti、Polo G、Meek Mill、Young Thug といった豪華客演陣の参加が、Calboy の注目度を物語っています。

また、Calboy のラップ&ボーカルスキルの向上も顕著に見られます。

『Ghetto America (feat. Yo Gotti & Lil Durk)』

Lil Durk と Yo Gotti が参加した1曲。高音で感傷的に歌う Calboy と Lil Durk のボーカルに、Yo Gotti のねっとりとしたラップが上手くマッチしています(やはり Lil Durk と Calboy のボーカルスタイルは激似ですが、本人(Calboy)はそう言われるのがあまり好きではないみたいなのでここでは控えておきます…笑)。

『Chariot (feat. Meek Mill, Lil Durk & Young Thug)』

Meek Mill、Lil Durk、Young Thug が参加した夢のような1曲で、Calboy も引けを取らない三連符フロウを披露します。

人気アーティストとのコラボ

Chance the Rapper『Get a Bag (feat. Calboy)』

同郷シカゴのスター Chance the Rapper のデビューアルバムに参加した Calboy は、ここぞとばかりにその才能を見せつけます。

歌フロウを中心としたスタイルは昨今の若手ラッパーにありがちですが、Calboy の魅力は三連符を主とした詰め込みフロウです。この曲では彼の詰め込みフロウを堪能することができます。

Pop Smoke『100k on a Coupe (feat. Calboy)』

先月惜しくもこの世を去った故 Pop Smoke との楽曲。スタイルは違うものの今一番脂の乗った(乗っていた)2人のコラボなだけあって、抜群の格好良さです。

ここでは Calboy のもう1つの魅力である、ファルセットを使った高音フロウを楽しむことができます。

※他にもご紹介したいのですが、長くなるのでプレイリストにまとめておきます。

2nd EP『Long Live the Kings』

そして2020年、Calboy は待望の新作『Long Live the Kings』をリリースしました。

亡くなった仲間たち(Kings)への追悼の意を込めたこの EP には、Lil Tjay、G Herbo、Lil Baby らが客演で参加しています。

『Dope Boy』

明らかに Roddy Ricch に影響を受けたであろうフロウ (Roddy Ricch『Start wit Me (feat. Gunna)』と非常によく似たメロディラインを使っています)が特徴的な1曲。同世代であれだけチャートを動かすラッパーが出てくると、嫌でも刺激を受けるでしょう。Calboy には是非とも第2の Roddy Ricch、いやそれ以上のスターになってほしいものです。

『Purpose (feat. G Herbo)』

EP からシングルカットされていた G Herbo との1曲。

一度聴いていただければ分かるように、この曲、ビートと(Calboy の)ボーカルのキーが合っていません。シンプルにオートチューンのキー設定を間違えたのか、たまたま違うキーで合わせたら「あえての外しもあり!」となったのかは分からないですが、何度も繰り返し聴くうちに、気持ち悪さが気持ち良いという妙な感覚に襲われます。狙ってやっているのであれば面白いですし、そうでなければ怪我の巧妙です。

I go in there with a concept. 
おれはコンセプトを大事にしている
That’s what makes me different than a lot of the mumble rappers
それが他のマンブルラッパーたちと違うところだ

Complex のインタビューより

Complex のインタビューでも語るように、楽曲のコンセプトが定まっており、一貫性がありブレないリリックも彼の魅力です。是非リリックを見ながら聴いてみてください。

まとめ

いかがだったでしょうか。ニューアルバムのリリースや、自身が執筆する著書の出版などを控えており、多方面で更なる飛躍が見込まれるシカゴのネクストスター Calboy。

今年の XXL フレッシュマン選出も間違いなさそうなので、今のうちに彼の楽曲を聴き込んで古参ぶりましょう。今ならギリギリ間に合います。それでは良い週末を!

XXS Magazine オリジナルプレイリスト『Calboy – A Rising Rap Star from Chicago』

https://music.apple.com/jp/playlist/calboy-a-rising-rap-star-from-chicago/pl.u-WabZpaYHdl0GmpA?l=en

Riku Hirai

Lil Uzi Vert 『That Way』和訳・解説

本日未明、愛しの Lil Uzi Vert が、『Futsal Shuffle 2020』以来のニューシングル『That Way』をリリースしてくれました。

再生した瞬間にピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらの楽曲はアメリカのボーイズグループである Backstreet Boys の名曲『I Want It That Way』が元ネタとなっています。

今回の楽曲では、メロディアスなフックや Lil Uzi 特有のマシンガンのようなラップなどが見られ、2017年頃に台頭した、いわゆる「オールドウジ」的なカテゴリーに分類される良曲だと思います。

本記事では、そんな彼の新曲『That Way』より、重要なリリック、面白いリリックなどを解説するかたちを取りたいと思います。それでは、まだ聴いていない方も、すでに50回聴いたよって方も、まず初めにこちらをどうぞ。

I want it that way
俺はそうやって生きていきたいんだ

Backstreet Boys による元ネタと同じメロディを4回繰り返すフックから、三分半にわたる Uzi ワールドの幕開けです。この時点ですでにオールドウジ的な雰囲気が漂ってきます。

But I don’t wanna go out bad, wanna go out sad, wanna go out that way
調子が悪い時も、悲しい時も外に出たくない。この道で生きていきたいんだ。

I’m with the winnin’ team, they make sure I’m not in last place
俺は勝ち組。あいつらは、俺が負け組でないことを確信させてくれる。

If I wake up, don’t make no money, that’s a sad day
もし、目覚めて金を稼げなかったら、それは悲しい日だ。

Twenty-five hundred on my shirt what the tag say
シャツに$2500。タグに値段が書いてあるだろ。

You know that I’m winnin’
君が知ってる通り、俺は勝ち組。

My white girl got black card and it got no limit
白人の彼女は、利用制限なしのブラックカードを持ってる。

I’ma grab a Bentley, Mean might go and grab a Wraith (※1)
ベントレーを買いに行く。Mean はロールスロイス・レイスを買いに行く。

I had to snap back into reality and go grab a fitted (※2)
現実に戻って、フィテッドキャップを手に入れなきゃ。

My jeans, yeah, they fitted
俺のジーンズはサイズぴったり。

But Lil Uzi, he is so far from the timid
でも、Lil Uzi は臆病者とはほど遠いよ。

(※1) Mean とは Lil Uzi のマネージャーの名前。彼のマネージャーやボディーガードたちは、複数台のカスタムカーによって移動していることで有名。

(※1) 路上駐車された Lil Uzi クルーの移動用自動車

(※2) Snap Back には「戻る」と「サイズ調整できるキャップ」の二つの意味があり、後半の fitted 「サイズ調整できないキャップ」とかけたワードプレイ。Eminem の代表曲『Lose Yourself』 から引用したラインを、キャップ好きの彼なりにアレンジしている。

(※2) 左 : スナップバックキャップ、右 : フィテッドキャップを被る Lil Uzi Vert

When I’m in DC, make the hoes go-go (※3)
ワシントンDC にいる時、女の子には Go-Go を歌わせる

Yes, I’m slimy like a snail, but I’m no slowpoke (※4)
そう、俺はカタツムリみたいにスライミーだけど、俺はヤドンじゃないぜ

(※3)「Go-Go」とは、音楽ジャンルの一つであり、今年の二月にワシントンD.C. 発祥の音楽として正式認定された。

(※4) Slime とは Young Thug によって作られたスラングであり、「Street Life Intelligence Money is Everything」の頭文字をとった単語 。主に親しい友達や家族のことをさす。Slimy は、Slime を形容詞として変化させた派生語である。カタツムリは動きが遅いことで有名な軟体動物であるが、Lil Uzi は自分が素早くキャリアを積み上げたことから、ポケモンのヤドンを「動きが遅いのろま」としてメタファー的に利用し、「自分はカタツムリやヤドンのようにのろまな存在ではない」とラップしている。

(※4) ポケモンのキャラクターであるヤドン。英語名は「Slowpoke」

They laugh at me because I’m emo
あいつらは俺がエモラッパーだからって笑うんだ

I killed my girlfriend, that’s why I’m single
恋人を殺したから、俺は独り身だ

Can’t call 911 ’cause I’m in Reno (※5)
Reno にいるから、警察に通報できないよ

(※5) Reno とはネバダに位置する街の名前で、Lil Uzi は、その街の警察をテーマにしたコメディショー 『Reno 911!』について言及している。

(※5) 『Reno 911!』のプロモーションポスター

さいごに

いかがでしたでしょうか。先日 Lil Uzi がインスタグラムのライブにおいて「Eternal Atake は二週間以内にリリースされる」と発言したことが話題となりましたが、このタイミングでこの良曲をリリースしたことから、いつもならゼロに近いリリースの信憑性が増してきました。さらなる情報を期待して待つばかりです。