Juice WRLD – シカゴ出身の若きレジェンド

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Last time, it was the drugs he was lacing

彼はドラッグと闘っていた

All legends fall in the making,

レジェンド達は皆、志半ばで堕ちていく

sorry truth, Dying young, demon youth

残念だけど事実なんだ 若くして死ぬ 悪魔が若者を狙っているんだ

Legends – Juice WRLD

2019年12月8日、ヒップホップシーンのみならず現代音楽シーンを牽引していた若きスター Juice WRLD が逝去。わずか21歳という若すぎる死に、世界中が涙を流しました。

今回は、今週金曜日に彼の死後初となるアルバム『Legends Never Die』がリリースされたことを踏まえ、今一度彼の人生について振り返ります。

生い立ち

Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、1998年12月、イリノイ州シカゴにて生を受けました。翌1999年には家族で州内のホームウッドに移住しますが、Juice が3歳の頃に両親が離婚。それ以降は彼と彼の兄、そして母親の3人で暮らしていくこととなります。

4歳の頃にピアノを習い始めた Juice は、後にギターやドラムのレッスンも受けるようになり、学校の授業ではトランペットも演奏するなど、幼い頃から音楽に慣れ親しんでいました。

信心深く保守的な母親の影響で、ヒップホップを聴くことが許されなかった Juice は、「Tony Hawk’s Pro Skater」や「Guitar Hero」等のビデオゲームに使われていたロックやポップス (Billy Idol や Blink-182、Black Sabbath、Fall Out Boy、Megadeth、Panic! at the Disco など) を聴いて育ったといいます。

音楽面での英才教育を受けていた一方で、Juice は幼い頃から大量のドラッグを使用していました。6年生の頃にリーンを飲み始めた彼は、その後パーコセットやザナックスも使用するようになり、次第にドラッグに依存していきました。

キャリアの開始

高校1年生の頃に音楽活動を開始した Juice (キャリア初期は JuicetheKidd という名義の下活動) は、2015年に初めて SoundCloud に楽曲をリリースしました。

Forever

ほとんどのヴァースを自身のスマートフォンで録音したという1曲。まだまだ音質やフロウ、ラップスキルに未熟さや粗削りさが残るものの、持ち前のハスキーな歌声と切ないリリックからは、皆さんが思い浮かべるであろう昨今の Juice WRLD らしさを感じることができます。当時は、ラップ・パートが楽曲の大半を占めており、ブレイク後の彼が得意としていた歌いながらラップするスタイルとは一味違う魅力があります。

JuicetheKidd 名義の元、ミックステープ『What Is Love?』(1曲のみの収録) や EP『Juiced Up The EP』をリリースした後、彼は尊敬するラッパー 2Pac が出演している映画『Juice』と、「世界を獲る」という意味の「World」にちなんで、現在の名前である Juice WRLD という名前に変更しました (ちなみに、WRLD は単純にスペルミスだそうです)。

2017年には、今となっては Juice とのタッグで有名な Nick Mira によるプロデュースの楽曲『Too Much Cash』をリリースします。

Too Much Cash

この頃から Juice は急激にスキルアップを果たします。JuicetheKidd 時代よりも多彩なフロウを駆使し、ブレイク後の彼のスタイルにも通づるキャッチーなメロディラインを用いたシンキング・ラップも聴くことができます。

当時、高校を卒業し工場で働き始めた Juice は、その仕事に不満を覚えわずか2週間で退職。その後ますます音楽活動に専念するようになった彼は、同年に初のフルレングス EP『999』をリリースします。この EP に収録されていたのが、後に大ヒットを記録する『Lucid Dreams』でした。

EP『999』

ちなみに「999」は彼が好んで用いる数字で、悪魔 (邪悪なもの) の数字とされる「666」をひっくりかえ返したもの。「どんなに困難な状況でも、それをひっくり返してポジティブに前に進もう」というメッセージが込められています。

同 EP のリリース後、彼は Waka Flocka Flame や Southside、G Herbo ら大物アーティストから注目を受け、同郷シカゴ出身のラッパー Lil Bibby 率いる Grade A Productions と契約を結ぶことになります。

ヒット曲とデビューアルバムのリリース

2017年末、Juice は3曲収録の EP『Nothing Different』をリリース。同 EP 収録の『All Girls Are the Same』がヒットし、人気ヒップホップ・チャンネル Lyrical Lemonade の Cole Bennett が監修したミュージック・ビデオが発表されます。

All Girls Are the Same

All girls are the same, they’re rotting my brain, love

女の子はみんな同じだ 俺の脳を腐らせていく

Think I need a change, before I go insane, love

俺は変わらなきゃいけないんだ 狂ってしまう前に

この『All Girls Are the Same』は、Juice が自身の恋愛観と弱さを正直に曝け出した1曲です。「大勢の女性を従える」ということが一種のフレックスであり、ステレオタイプでもあるヒップホップ (音楽) 業界において、Juice は真実の愛を求めていました。彼は、真実の愛を追い求める中で負ってしまった心の傷を美しくも哀しいメロディに乗せて歌い、同じ悩みを抱える人々の共感を呼びました。

同曲で一躍名を馳せた Juice は、2018年、大手レーベル Interscope Records と300万ドル (約3億2000万円) の契約を結びます。

そして 2018年5月、彼は EP『999』収録の『Lucid Dreams』を正式にシングルリリースします。

Lucid Dreams

I have these lucid dreams where I can’t move a thing

動くことができない場所で明晰夢を見るんだ

Thinking of you in my bed

ベットの中で君の事を考える

You were my everything

君は俺の全てだったんだ

Thoughts of a wedding ring

結婚指輪の事まで考えてた

Now I’m just better off dead

今じゃ俺は死んだ方がましさ

I’ll do it over again

もう一度やり直したいんだ

I didn’t want it to end

終わらせたくなんかなかった

I watch it blow in the wind

風に吹かれるのを見ている

I should’ve listened to my friends

友人の意見を聞くべきだった

Leave this shit in the past, but I want it to last

この過ちを過去に葬るよ でも俺は続けたいんだ

You were made outta plastic, fake

君はプラスチックでできた偽物だった

I was tangled up in your drastic ways

俺は君の極端なやり方に振り回されてた

Who knew evil girls had the prettiest face?

誰よりも可愛い女の子が悪女だなんて分かるはずないだろ

You gave me a heart that was full of mistakes

君がくれた心は嘘だらけだった

I gave you my heart and you made heart break

俺は君に心を捧げたのに、君はそれを壊したんだ

映画 Léon のエンディング・テーマとしても知られる Sting の名曲『Shape of My Heart』をサンプリングしたビートの上で、Juice が自身の失恋についてエモーショナルに歌う同曲は、いわゆる「エモ・ラップ」を代表する1曲です。

同曲は、US Billboard Hot 100 チャートにて74位デビュー、後に最高2位を記録し、2018年に最もストリーミング再生された楽曲の1つとなりました。

2つのヒット曲を世に送り出した Juice は、同月に待望のデビュー・アルバム『Goodbye & Good Riddance』をリリース。同アルバムは、US Billboard 200 チャートにて15位でデビューし、3週目には6位まで浮上しました。

様々なアーティストとの共演

デビュー・アルバム『Goodbye & Good Riddance』のリリースを皮切りに、Juice WRLD は様々なアーティストと共演するようになります。

アルバムリリースから約2ヶ月後には、Lil Uzi Vert をフィーチャーしたシングル『Wasted』をリリースし、アルバム『Goodbye & Good Riddance』にも追加。

Wasted (feat. Lil Uzi Vert)

キャリア初期は Lil Uzi Vert と比べられることも多かった Juice ですが、程良く脱力して歌う Juice と、声を絞り出して力強く歌う Lil Uzi Vert のバランスが取れた良曲です。

初めて人気アーティストとの共演を果たした彼は、YBN Cordae と Lil Mosey をツアーアクトに呼んだファースト・ツアー「The WRLD Domination Tour」も開催しました。

Travis Scott – No Bystanders (feat. Juice WRLD & Sheck Wes)

Travis Scott が2018年にリリースしたアルバム『ASTROWORLD』収録の1曲。Sheck Wes と共に客演参加した Juice は、楽曲の肝となるイントロとポスト・コーラスにあたる部分で、メロディアスなエッセンスを加える役割を果たしています。

Ski Mask the Slump God – Nuketown (feat. Juice WRLD)

親友同士として知られる Ski Mask the Slump God との1曲。こちらの楽曲では、Juice が普段滅多に見せない、がなり声で激しく叫ぶようなラップを聴くことができます。この楽曲を聴いて、Juice と Ski Mask、そして今は亡き XXXTENTACION とのコラボ曲も聴いてみたかったと痛感するファンの方も多いのではないでしょうか。

2018年10月、Juice WRLD は Future とのコラボ・ミックステープ『WRLD ON DRUGS』をリリースします。

Fine China

主にドラッグに関するリリックを歌う Future と、「Future の影響でリーンを飲み始めた」と語る Juice WRLD の相性は、音楽面においても抜群でした。両者とも、かすれ気味な声で歌うメロディアスなフロウを得意とし、15歳の歳の差があるとは思えないほどのコンビネーションを発揮しました。

セカンド・アルバムのリリース

2019年3月、Juice は待望のセカンド・アルバム『Death Race for Love』をリリースします。

2018年10月に、イギリスの人気ラジオ DJ、Tim Westwood の番組に出演し、約1時間の間ほぼノンストップでフリースタイルを披露したことでも知られる彼は、同アルバム収録の楽曲を全てフリースタイルでレコーディングしたことを明かしています。

Tim Westwood TV でのフリースタイル

Robbery

She told me put my heart in the bag

彼女は俺に言ったんだ 俺の心をバッグに詰めろ

And nobody gets hurt

そしたら誰も傷つけないって

Now I’m running from her love,

俺は今、彼女の愛から逃げている

I’m not fast

でも俺は速くない

So I’m making it worse

それが事態を悪化させているんだ

Now I’m digging up a grave, from my past

だから今、過去を埋めるために墓を掘っている

I’m a whole different person

過去の俺はもういない

It’s a gift and curse

愛は贈り物であり、呪いだ

But I cannot reverse it

俺にはどうすることもできないんだ

アルバムの先行シングルとしてリリースされた『Robbery』では、Juice が彼の心を奪った彼女を Robbery (強盗) に例えて歌います。Nick Mira 手掛ける哀愁漂うピアノが特徴的なビートと、感情に訴えかけるような Juice のフロウが完璧にマッチした楽曲です。

Fast

I been living fast, fast, fast, fast

俺は生き急いでいる

Feeling really bad, bad, bad, bad

気分は最悪だ

Time really moves fast, fast, fast, fast

時間は早く過ぎていくんだ

Better hurry up and get in your bag, bag, bag, bag

急いでバッグに詰めたほうがいいぜ

I wear Dior, not a fad, ‘ad, ‘ad, ‘ad

Dior を着ている 流行りには流されない

I know all these n***as gettin’ mad, mad, mad, mad

奴らが怒っているのは分かっている

My hand on my trigger, I’ma die for respect, yeah

引き金に手を添えて リスペクトされながら死んでやる

Fucking with my money, you’ll get dealt like that, yeah

俺の金を奪おうとするなら、痛い目を見るぜ

『Fast』では、Juice が20歳という若さで富と名声を手にし、彼の生きる世界の時の流れが急激に早くなってしまったことについて歌っています。若くしてスターダムを駆け上がった彼ならではの苦悩がひしひしと伝わる1曲です。

これらの楽曲を収録した同アルバムは、初週165,000ユニットを売り上げ、US Billboard 200 チャートにて1位デビューを飾りました。

突然の死

セカンド・アルバムが大成功を収めた後、Nicki Minaj のツアーに参加したり、多様なアーティスト (K-Pop グループの BTS や、Ellie Goulding、Benny Blanco、YoungBoy Never Broke Again など) との共演を果たしたりと順風満帆なキャリアを積んできた Juice WRLD。

ファンや友人、恋人らに心配されていた薬物使用に関しても、Juice は依存していたリーンの使用をやめることを宣言し、精神的にもポジティブな方向に向かっているように見えました。

俺はもう永遠にリーンを使わない お別れだ

そんな彼に、ある日突然不運が襲います。2019年12月8日、Juice WRLD は薬物のオーバードーズ (過剰摂取) によりこの世を去りました。

当時、Juice はプライベートジェット機でシカゴ・ミッドウェイ国際空港に向かっており、彼とその仲間たちは、機内へ銃を違法に持ち込んでいました。それを知ったパイロットが地上にいるスタッフに通報し、着陸後直ちに立ち入り検査が行えるよう、FBI(連保捜査局)と FAA(連保航空局)の捜査官が空港に駆けつけていました。Juice は、この立ち入り検査によって発覚するであろう薬物所持の罪を軽くするために、所持していたパーコセットを大量摂取し発作を起こしたと考えられています。Juice WRLD こと Jarad Anthony Higgins は、わずか6日前に21歳の誕生日を迎えたばかりでした。

彼は、2018年にリリースした故 Lil Peep と故 XXXTENTACION への追悼曲『Legends』にて、「レジェンドたちは皆若くして死んでしまう」と嘆いていましたが、彼もそのレジェンドたちの仲間入りをしてしまうという、何とも悲劇的な結末を迎えてしまいました。

そんな彼の悲し過ぎる死から早半年が過ぎ、今週10日、遂に彼の遺作『Legends Never Die』がリリースされました。今週は、そんな彼 Juice WRLD がこの世に残した遺産に浸ってみてはいかがでしょうか。

Written by Riku Hirai

NoCap – 痛みを歌うアラバマの新鋭ラッパー

明日6月30日にニュープロジェクト『Steel Human』のリリースを控える注目ラッパー NoCap。XXL Freshman Class 2020 にもノミネートされている彼の生い立ちやキャリア、魅力について予習しておきましょう。

NoCap とは

NoCap (ノーキャップ) こと Kobe Vidal Crawford は、映画「フォレスト・ガンプ」の舞台となったことでも知られる湾岸都市、アラバマ州モービル出身の21歳 (1998年生まれ)。ちなみに名前の「No Cap」とは、2018年以降大流行した「嘘じゃない、本気で」という意味のスラングです。

当時の母親のボーイフレンドの影響で、8~9歳の頃にラップを始めたという NoCap は、彼と彼の兄、そして母親のボーイフレンドの甥の3人でグループを組んで活動し始めました (NoCap 以外の2人は既に音楽活動を辞めているそうです)。

幼い頃からラッパーとしてのキャリアを積み上げてきた NoCap は、2017年にデビューシングル『Boss Moves』をリリース。2018年にはシングル『Legend』で注目を集め、デビューミックステープ『Neighborhood Hero』や、同郷モービル出身のラッパー Rylo Rodriguez とのジョイントテープ『Rogerville』をリリースし、更にはアトランタの人気ラッパー Lil Baby のアルバム『Street Gossip』への参加を果たすなど、彼にとって飛躍の1年となりました。

2019年にはシングル『Ghetto Angels』がバイラルヒットし、同曲収録のミックステープ『The Backend Child』をリリース。その後、銃撃事件への関与により逮捕されるものの、同年末にリリースしたミックステープ『The Hood Dictionary』は US Billboard 200 にて最高80位 (R&B/Hip-Hop チャートでは最高39位) を記録しました。

NoCap の楽曲とスタイル

NoCap のスタイルについてご説明する前に、まずは彼の最初のヒット曲を聴いていただきましょう。

Legend

YoungBoy Never Broke Again や Polo G、Kevin Gates らと比較されることが多い NoCap は、オートチューンを効かせたヘロヘロな声で、歌うようにラップするスタイルを得意とします。彼は、困難な環境を生き抜いてきた苦労や葛藤、哀しみ、そして現在の成功や名声を、エモーショナルに、時に力強く歌い上げます。

NoCap は決して技巧派というわけではないのですが、彼の癖になる絶妙なヘタウマラップが南部ヒップホップらしい味を出しています。

Spaceship Vibes (feat. Quando Rondo)

I think about you all day and at night I watch the stars shoot

いつも君のことを考えていて、夜には流れ星を眺める

I know love is not a game but I can’t control what my heart do

「愛」はゲームじゃないって分かってるけど、自分の心をコントロールできないんだ

I fucked up so many times, I know you thinking I don’t want you

俺は何度も過ちを犯した 君は、俺に愛されてないって思ってるんだろ

I never tell you lies, I’m always giving you the hard truth

絶対に嘘はつかないよ 君にはいつも真実を話してる

Remember we was way more than friends, I just wonder, “Would you love me again?”

俺らがまだ付き合っていない頃を思い出してくれ もう一度愛してほしいんだ

I’m always having spaceship vibes, sometimes I think that I’m an alien

俺はいつも「スペースシップ・バイブス」を持ってる 俺はエイリアンなのかもな

ジョージア州サバンナ出身のラッパー Quando Rondo を客演に招いたこちらの楽曲は、シンプルで美しいピアノループと切ないリリックが特徴的なラブソングです。

NoCap は、恋人や失恋について歌う楽曲も多くリリースしています。こういった楽曲でも、R&B 歌手のような圧倒的な歌唱力で歌うのではなく、無骨で未熟な歌唱力で気持ちのままを歌う彼ならではの魅力があります。

Ghetto Angels  

And it’s crazy, we ’posed to took Duke to the graveyard to see Fred

狂ってるんだ 俺たちは Duke を Fred の墓参りに連れて行こうとしていた (2人とも NoCap の友人)

Phone ring an hour later, damn Cap, Duke dead

1時間後に電話が鳴った 嘘だろ、Duke が死んだ

I guess since we didn’t take him He went to the graveyard to see Fred on his

俺たちがあいつを連れて行く代わりに、あいつは自ら Fred に会いに行ったんだ

NoCap といえばこの曲『Ghetto Angels』です。今は亡き友人たちに向けて歌った同曲が YouTube にて4000万再生を記録し、後に Lil Durk と Jagged Edge を招いたリミックスもリリース。

痛みを伝えるリリックと心に響く歌声が絶妙にマッチした、まさに NoCap らしい1曲です。

What You Know

Fake love, real hate

偽の愛と、本当の憎しみ

I don’t know which one is worse to me

どっちが悪いのか俺には分からないんだ

ミックステープ『The Hood Dictionary』収録の1曲。アコースティックギターを用いたトラックと NoCap の哀愁漂うボーカルが絶妙にマッチした同曲は、深く考えさせられるリリックも魅力的で、まさに No Cap (リアル) な1曲です。

Count A Million (feat. Lil Uzi Vert)

I think that I can count a million with my eyes closed

目を閉じたままでも大金を数えることができるぜ

今週リリース予定のニュープロジェクト『Steel Human』の先行シングルとしてリリースされた1曲。彼のキャリア初期の楽曲と比べると、かなりラップのクオリティが上がっています。

人気ラッパー Lil Uzi Vert と共に成功について歌う同曲が話題を呼び、彼のニュープロジェクトへの期待も更に高まっています。

おわりに

いかがだったでしょうか。今回はアラバマ州モービルのラッパー NoCap についてまとめてみました。

Lil Baby や YoungBoy Never Broke Again、Lil Uzi Vert ら大物ラッパーとの共演も果たし、XXL Freshman Class 2020 にもノミネートされている新鋭ラッパー NoCap。名前負けしないリアルなリリックを届ける彼の今後に要注目です。

Lil Nas X や RMR の活躍からみる「カントリー・ラップ」の進化

2019年、世界中のチャート首位を独占した Lil Nas X の『Old Town Road』をはじめとし、現行ヒップホップシーンを盛り上げるニュージャンル「カントリー・トラップ」。

今回は、ヒップホップとカントリーミュージックの融合の歴史に触れながら、「カントリー・トラップ」とその注目アーティストについてまとめていきます。

ヒップホップとカントリーの融合

ヒップホップとカントリーミュージックの融合は、今に始まったことではありません。まずはその誕生について、簡単にご説明します。

Shawn Brown a.k.a. The Rappin’ Duke – Rappin’ Duke

1984年、スタンドアップコメディアンの Shawn Brown が 『Rappin’ Duke』なる楽曲をリリース。「主に西部劇や戦争映画にてヒーロー役を演じていた俳優 John Wayne(別名 Duke)がラップをする」というコンセプトの元作られた同曲が、その後のカントリー・ラップの礎となります。

Remember Rappin’ Duke? Duh-ha, duh-ha

Rappin’ Duke が「Duh-ha, duh-ha」って歌ってたのを覚えてるか

You never thought that hip-hop would take it this far

当時はヒップホップがこんなに盛り上がるなんて思ってなかっただろ

The Notorious B.I.G. – Juicy

The Notorious B.I.G. も自身の楽曲にて『Rappin’ Duke』について言及しています。

1987年にはカントリー・デュオ Bellamy Brothers が『Country Rap』をリリースします。

Bellamy Brothers – Country Rap

バンジョーやハーモニカを用いた王道カントリーサウンドにラップを載せるスタイルは、この頃から既に存在していました。

カントリー・ラップの進化

その後、一時的な流行として衰退しつつあったカントリー・ラップは、90年代後半に再び注目を浴びることとなります。

Kid Rock – Cowboy

ロックからファンク、ヒップホップ、メタル、ジャズ、カントリー、ブルースまで幅広い音楽性を持つミクスチャーバンド Kid Rock が、カントリーやサザン・ロックに影響を受けたサウンドの上にラップを乗せた楽曲『Cowboy』を1998年にリリースしました。

そして、今日のカントリー・ラップを創り上げたといっても過言ではないのが、Pimp C と Bun B からなるヒューストンのラップ・デュオ UGK です。

UGK は、1994年に、カントリー調のギターリフやピアノソロを用いた『It’s Supposed To Bubble』をリリースします。

UGK – It’s Supposed To Bubble

99年には『Belts to Match』にて初めて自身の楽曲を「カントリー・ラップ・チューン」と定義しました。

UGK – Belts to Match (feat. Smitty & Sonji)

Down here we ain’t makin’ hip hop songs know what I’m sayin’

ここで言っておくが、俺たちは「ヒップホップ・ソング」は作らない

We makin’ country rap tunes, so uh separate us from the rest

「カントリー・ラップ・チューン」を作っているんだ、他と一緒にしないでくれ

その後、カントリー・ラップ(あるいは「ヒックホップ」)は、UGK や Bubba Sparxxx、Nelly、Cowboy Troy など南部のアーティストを中心に人気を集めていきます。

Bubba Sparxxx – Deliverance

Nelly – Ride Wit Me (feat. St. Lunatics)

カントリー・ラップを押し上げた UGK の Pimp C は、2007年に惜しくも亡くなりますが、その後もカントリー・ラップを引き継ぐ新世代が現れます。

Big K.R.I.T. – Country Sh*t (Remix) [feat. Ludacris & Bun B]

また、新世代ではありませんが、Snoop Dogg もカントリー・ミュージシャンの Willie Nelson と楽曲制作を行ったりと、ヒップホップとカントリーのコラボレーションは絶え間なく行われてきました。

Snoop Dogg – Superman (feat. Willie Nelson)

カントリー・トラップの誕生

そして2017年、「カントリー」と、アトランタ生まれのヒップホップのサブジャンル「トラップ」が融合した「カントリー・トラップ」が誕生します。

Young Thug – Family Don’t Matter (feat. Millie Go Lightly)

カントリー調のギターリフに連続的なハイハットと808ベースをミックスしたトラックを用い、Young Thug が「Yeehaw」というカントリー由来のアドリブを放ちながら歌うようにラップする同曲が、いわゆる「カントリー・トラップ」の起源とされています。

もう1曲、初期のカントリー・トラップとして挙げられるのが、Lil Tracy & Lil Uzi Vert の『Like A Farmer』です。

Lil Tracy & Lil Uzi Vert – Like A Farmer

I’m sippin’ lean like a Coors Light 

「Coors Light」みたいにリーンを飲む

「Coor Light」とは、アメリカ南部及びカントリー・カルチャーにおける象徴的なビールブランドの名称で、Lil Tracy と Lil Uzi Vert は南部訛りを強調しながら、自身の生活とカントリーカルチャーを比較しています。

カントリー・ラップが「カントリー」に重きを置いていたのに対し、カントリー・トラップは「トラップ」をベースに構築されていることが、同曲のサウンドから窺えます。

そして、2018年から2019年にかけて爆発的にヒットしたカントリー・トラップ・アンセムが Lil Nas X の『Old Town Road』です。

Lil Nas X – Old Town Road (Remix) [feat. Billy Ray Cyrus]

Nine Inch Nails の『34 Ghosts IV』からサンプリングしたバンジョーの音色と、現行ヒップホップの王道トラップサウンドをミックスした同曲は、一時は Billboard のカントリー・チャートから除外されるものの、最終的にはカントリー・チャートに復活し、HOT 100にて首位を獲得しました。

「初めて(Old Town Road を)聴いたとき、明らかにカントリーだと思った」と語るカントリー界の大御所 Billy Ray Cyrus のリミックスへの参加もあり、同曲は17週連続1位という US Billboard 史上最長の記録を打ち出し、カントリー・トラップというジャンルを世界中に認知させました。

カントリー・トラップのネクストスターたち

Lil Nas X に続いて、カントリー・トラップを自身の楽曲に取り入れるラッパーも増えていきました。

Fly Rich Double – Big Boom

実はこの Fly Rich Double というラッパーは、Lil Nas X が『Old Town Road』をリリースする前からカントリー・トラップのスタイルを取り入れていました。様々なジャンルに挑戦したいと語る Lil Nas X とは異なり、Fly Rich Double はカントリー・トラップを軸に勝負していく意向を示しています。

RMR – Rascal

2020年突如として話題を集めたのがこのアーティスト、RMR(Rumour)です。SAINT LAURENT の防弾チョッキにバラクラバ(目出し帽)、そして銃という、如何にもギャング臭漂う装いの彼が発するのは、攻撃的なラップではなく美しい歌声。そのミスマッチさが話題を呼び、彼 RMR は一躍時の人となりました。

オハイオのカントリー・グループ Rascal Flatts のグラミー受賞曲『Bless the Broken Road』のメロディラインを引用した同曲がバイラルヒットし、今週末にリリース予定のデビュー EP『DRUG DEALING IS A LOST ART』には Westside Gunn や Future、Lil Baby、Young Thug といった錚々たる顔ぶれを客演に迎えるニューカマー RMR。未だ謎多きカントリー・トラップの新星に要注目です。

RMR『DRUG DEALING IS A LOST ART』
トラックリスト

おわりに

このように、80年代から90年代にかけて誕生した「カントリー・ラップ」は、ヒップホップ及びカントリー・ミュージックの両者に強く影響を受けながら進化し続けてきました。

ヒップホップシーンにおいてトラップというジャンルが主流になった今日にも、「カントリー・トラップ」と呼ばれるニュージャンルが生まれ、今や切っても切り離せない関係となったヒップホップとカントリー・ミュージック。今後の進化にますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

XXL FRESHMAN CLASS 2019 : 選出された11人のラッパーたち

1. DaBaby

DaBaby とは

DaBaby こと Jonathan Lyndale Kirk はオハイオ州クリーブランド生まれの27歳(91年生まれ)。5歳の頃ノースカロライナ州シャーロットに引っ越します。彼のエピソードとして有名なのが、ウォルマート(スーパーマーケット)での銃殺事件です。2018年、Kirk が二人の子供を連れて買い物をしていた時、銃を持った男が彼のジュエリーを奪おうとしてきたそうです。Kirk は二人の子供を守るためにその男を銃殺しました。この事件は後に正当防衛が認められ、起訴も取り下げられています。

DaBaby のキャリア

2015年に初のミックステープ『Nonfiction』をリリースして以降、立て続けにミックステープをリリースしていた彼は、2019年に Interscope Records からデビューアルバム『Baby on Baby』をリリースします。Offset や Rich Homie Quan、Rich the Kid、Stunna 4 Vegas らを客演に迎えた同アルバムは、Billboard 200 において初週25位をマークしました。年齢的にもキャリア的にも「フレッシュ」とは言い難い彼ですが、ラッパーとしての才能と注目度はフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。

DaBaby の代表曲

『Suge』

『21』

2. Gunna

Gunna とは

Gunna こと Sergio Giavanni Kitchens はジョージア州カレッジパーク出身の26歳(93年生まれ)。一部のファンからは、「Gunna ではなく本名をステージネームにした方が良い」と言われています。母親と4人の兄と共に生活していた彼は、ラッパーになる前は DJ やドラッグディーラーとして活動していました。

Gunna のキャリア

Cam’ron や Outkast を聴いて育ったという彼が音楽制作を始めたのは15歳の頃でした。キャリア初期は「Yung Gunna」として活動しており、2013年に初のミックステープ『Hard Body』をリリースします。その後、彼は共通の友人を通して Young Thug と繋がり、Young Thug のレーベル「Young Stoner Life Records(以下YSL)」と契約を結びます。この出会いがなければ今の Gunna はいないと言っても過言ではありません。そんな彼は、2016年から2018年にかけて YSL からミックステープ『Drip Season』シリーズを3作リリースします。2018年にリリースされた Lil Baby との共作『Drip Harder』も話題となりました。

そして2019年、デビューアルバムとなる『Drip or Drown 2』をリリースします(アルバム名は、Gunna が2017年にリリースした EP『Drip or Drown』から) 。Young Thug、Wheezy、Turbo 監修の同アルバムは、Billboard 200において初週3位をマークし、華々しいデビューを飾りました。

2018年から2019年にかけて一挙にブレイクし、彼が客演に呼ばれていないアルバムはなかったと言っても過言ではないほど様々なアーティストとの共演を果たした Gunna は、まさに2019年のフレッシュマンに相応しいのではないでしょうか。今後の活躍にも期待です。

※ Gunna についての記事はこちらから↓

Gunnaの代表曲

『Oh Okay(feat. Young Thug & Lil Baby)』

Lil Baby & Gunna『Drip Too Hard』

3. Megan Thee Stallion

Megan Thee Stallion とは

Megan Thee Stallion こと Megan Pete はテキサス州ヒューストン出身の24歳(95年生まれ)。ちなみに、自身の身長と美しさが Stallion(種馬)に似ているという理由から、Megan Thee Stallion というステージネームを付けたそうです。彼女はテキサスサザン大学に在学中の現役大学生でもあります。

Megan Thee Stallion のキャリア

彼女の母親はラッパー「Holly-Wood」として活動していたこともあり、幼い頃からスタジオに同行していたという Megan は14歳でラップを始めました。その才能はラッパーであった母もすぐに認めるほどであり、彼女は Instagram にフリースタイルラップを投稿することによって瞬く間にファンベースを確立させていきました。2016年からミックステープをリリースし始めた彼女は着々と人気を集め、2019年リリースのミックステープ『Hot Girl Meg』は Billboard 200において、初週10位をマークしました。それ以降客演としての仕事も増やしてきた Megan は、次世代の Nicki Minaj や Cardi B と言っても過言ではないほど、実力間違いなしのフィメールラッパーです。

※ Megan Thee Stallion についての記事はこちらから↓

Megan Thee Stallion の代表曲

『Cash S**t(feat. DaBaby)

『Big Ole Freak

4. Blueface

Blueface とは

Blueface こと Johnathan Michael Porter は、カリフォルニア州ロサンゼルス出身の22歳(97年生まれ)。学生時代はアメリカンフットボールに打ち込み、2014年の「East Valley League championship」という大会でチームを優勝に導いた経歴を持ちます。

アメフトに打ち込む Blueface

Blueface のキャリア

Blueface Bleedem としてキャリアをスタートさせた彼は、2017年に彼にとって初となるシングル『Dead Locs』をリリースします。そして、その後リリースした楽曲『Thotiana』が爆発的にヒットし、独特な声とオフビートなラップで人気を博した彼は、Cash Money West と契約を結びました。

Blueface の代表曲

『Thotiana

『Bleed it

5. Lil Mosey

Lil Mosey とは

Lil Mosey こと Lathan Moses Echols はワシントン州シアトル出身の17歳(02年生まれ)。2019年のフレッシュマン選出者の中では最年少のラッパーです。彼は高校に通っていましたが、音楽活動に専念するため退学したそうです。

Lil Mosey のキャリア

Meek Mill のデビューアルバム『Dreams and Nightmares』から多大な影響を受けたという Lil Mosey は、13歳から14歳の頃にラップを始めました。2016年にラッパーとしてのキャリアを本格的に始動させた彼は、2018年にデビューアルバム『Northsbest』をリリース。同アルバムに収録されている楽曲『Noticed』がバイラルヒットし、Billboard Hot 100にて80位まで登りつめました。

自身を「マンブルラッパー」ではないと主張する彼ですが、今後同世代ラッパーたちとどのように差をつけていくのか楽しみです。

Lil Mosey の代表曲

『Noticed

Lil Mosey & Chris Brown『G Walk』

6. Roddy Ricch

Roddy Ricch とは

Roddy Ricch こと Rodrick Wayne Moore, Jr はカリフォルニア州コンプトン出身の20歳(98年生まれ)。アトランタで暮らしていた時期もあり、アトランタテイストのラップスタイルを得意とします。

Roddy Ricch のキャリア

Meek Mill や Future、Speaker Knockerz、Young Thug などから影響を受けたという彼は、8歳の頃にラップを始めました。デビューミックステープ『Feed tha Streets』で注目を集めた彼は、続くシングル『Die Young』のヒットにより一躍名を知らしめます。歌心のあるフロウや多彩なビートアプローチを得意とする彼は、フレッシュマン選出をきっかけにますます活躍すること間違いなしでしょう。

Roddy Ricch の代表曲

『Die Young

Marshmello & Roddy Ricch『Project Dreams』

7. Tierra Whack

Tierra Whack とは

Tierra Whack こと Tierra Helena Whack はペンシルベニア州フィラデルフィア出身の23歳(95年生まれ)。幼い頃に父親と疎遠になった彼女と2人の妹は、母親の手によって育てられました。アートアカデミーに3年間通っていたという彼女は、音楽活動にはもちろん芸術活動にも力を入れており、芸術を学ぶために日本に訪れたこともあるそうです。楽曲や MV、Instagram などからも、彼女の芸術的センスの高さが伺えます。

Tierra Whack のキャリア

10代の頃から「Dizzle Dizz」という名のもと活動していた彼女は、2017年に自身の本名である「Tierra Whack」という名義で活動を始めました。同年彼女はInterscope Records と契約を結び、楽曲を次々とリリースします。そして2018年、彼女は15曲(各曲1分ずつ)収録のアルバム『Whack World』をリリース。各曲にショートムービーを付けたビデオアルバムもリリースし、15分で聴けるアルバムという新鮮さや、独特な世界観を持つムービーが大きな話題を呼びました。音楽面、芸術面共に才能溢れる彼女の今後に期待です。

Tierra Whack の代表曲

『Only Child

『Hungry Hippo

8. YBN Cordae

YBN Cordae とは

YBN Cordae こと Cordae Dunston はノースカロライナ州ローレー出身の21歳(97年生まれ)。2018年のフレッシュマンに選出された YBN Nahmir も属するYBN(Young Boss N***as)クルーの一員です。テニスプレーヤーの大坂なおみ選手との交際でも話題となりました。

大坂なおみ選手と YBN Cordae

YBN Cordae のキャリア

父の影響で幼い頃からヒップホップを聴いていたという彼は、10歳でラップを始め、15歳で自らリリックを書き始めます。10代の頃から「Entender」という名のもと3作のミックステープをリリースしていた彼は、2018年に YBN クルーに参加し、「YBN Cordae」として活動を始めました。J. Cole の若手ラッパーに対するディスソング『1985』へのアンサーソングとしてリリースした『Old N***as』が話題となり注目を集めた Cordae は、話題性だけではなく巧みなラップスキルとオールドスクール的要素を兼ね添えており、Dr. Dre もその実力を認めています。Logic や Chance the Rapper などの実力派ラッパーともコラボを果たした彼は、2019年のフレッシュマンの中でも一二を争う注目株でしょう。

YBN Cordae の代表曲

『Old N***as』

『Bad Idea (feat. Chance the Rapper)

9. YK Osiris

YK Osiris とは

YK Osiris こと Osiris Williams はフロリダ州ジャクソンビル出身の20歳(98年生まれ)。現在はアトランタに在住しています。名前の YK は「Young King」の略だそうです。

YK Osiris のキャリア

幼い頃から音楽を作っていた彼は、17歳の頃に初めてネット上に自身の楽曲をアップしました。2017年にリリースした『Fake Love』は SoundCloud で140万再生を記録し、その後リリースする『Valentine』は Lil Uzi Vert がリミックスに参加。その『Valentine』のヒットによって、彼はビッグレーベル Def Jam との契約を結びます。わずか数曲のリリースでここまで漕ぎ着けたのですから才能は本物です。ソウルフルな R&B と今日のヒップホップをミックスしたスタイルを得意とする YK Osiris の今後の活躍に要注目です。

YK Osiris の代表曲

『Valentine』

『Valentine Remix (feat. Lil Uzi Vert)

『Worth It

10. Comethazine

Comethazine とは

Comethazine ことFrank Childress はミズーリ州セントルイス出身の20歳(98年生まれ)。「Comethazine」とは、「promethazine(プロメタジン)」と「cocaine(コカイン)」の2つの薬物名を組み合わせたものだそうです。高校を中退している彼ですが、高卒認定を受けるため夜間学校に再入学しています。

Comethazine のキャリア

50 Cent や Rick James、Chief Keef、Nipsey Hussle、Lil B などに影響を受けたという彼は、17歳の頃本格的に音楽活動を開始しました。SoundCloud や Youtube に楽曲をアップしてファンベースを獲得していった彼は、2017年に Alamo Records と契約を結びます。

そして2018年、彼の新曲『Bands』が突如として SoundCloud の再生回数ランキングのトップに浮上します。実はこれが、SoundCloud の楽曲差し替え機能を巧妙に利用したチート行為で、YBN Nahmir のヒット曲『Bounce Out With That』で100万再生を稼いだのち、Comethazine が自身の楽曲に差し替えたのでした。そんなずる賢さだけでなく、A$AP Rocky や Lil Yachty など、人気ラッパーとのコラボレーションも果たした彼の今後に注目です。

Comethazineの代表曲

『Bands

Comethazine & A$AP Rocky『Walk (Remix)』

11. Rico Nasty

Rico Nasty とは

Rico Nasty こと Maria-Cecilia Simone Kelly はメリーランド出身の22歳(97年生まれ)。プエルトリコ人の母とアメリカンアフリカンの父を持つ彼女は、大麻所持によって当時通っていた学校を追い出されたのち、パプリックスクールに通いながら音楽制作を始めます。

Rico Nasty のキャリア

高校在学時にラップを始めた彼女は、初のミックステープ『Summer’s Eve』をリリースします。高校卒業後、彼女はより本格的に音楽制作に取り組み、『The Rico Story』、『Sugar Trap』と2作のミックステープをリリースします。その後も次々とシングルやミックステープをリリースし、5作目のミックステープ『Sugar Trap 2』は、アメリカの音楽誌「Rolling Stone」にて「2017年のベストラップアルバム」としてリストアップされました。そして2018年、彼女はAtlantic Records と契約を結びます。

2019年には Kenny Beats とのジョイントテープ『Anger Management』をリリースし、ますます世間に名を知らしめています。

パンクラップやトラップメタル、もしくは「シュガートラップ」とも称される独特なスタイルを貫く Rico Nasty の今後の活躍に期待です。

Rico Nasty の代表曲

『Key Lime OG

『Again

※各アーティストの情報や年齢は、2019年6月現在のものです。

Young Thug がシーンに与えた影響と今日の「ベイビーボイス」ラップ

昨今の流行である Playboi Carti の「ベイビーボイス」ラップをはじめとし、今や USヒップホップシーンのトレンドとなった高音で歌うラップスタイル。今回は、ヒップホップにおけるオートチューンの歴史や、今日の流行のきっかけを作ったラッパー Young Thug の影響に触れながら、その成り立ちや進化について考えていきます。

オートチューンの歴史

まずは、ヒップホップシーンにおけるオートチューンの歴史について簡単におさらいしようと思います。

オートチューン(Auto-Tune)とは、アメリカのアンタレス社が1997年に製品化した音程補正ソフトのことで、地球物理学者の Andy Hildebrand が地震データ解析用ソフトが音程補正にも応用できることを偶然発見し、開発に至ったそうです。

初期の Auto-Tune

90年代後半から様々なジャンルにおいて用いられてきたオートチューンは、2000年代中頃から、ヒップホップや R&B においても多く使用されるようになります。

いわゆる「ケロケロボイス」を用いて歌うスタイルが T-Pain を中心に流行を見せ、Kanye WestLil Wayne、Akon らが後に続いたことで更にその人気に火がつき、メロディへ傾倒するアーティストが増えていきました。

T-Pain – Buy U a Drank (Shawty Snappin’) [feat. Yung Joc]

Kanye West – Heartless

彼らの楽曲を聴いていただければ分かるように、オートチューンは「音程補正」という本来の用途よりも、一種の「エフェクト」に近い用法で、ヒップホップシーンに浸透していきます。

オートチューンの流行とそのフォロワーたち

そんなオートチューン黎明期のアーティストたちのフォロワーであり、以後のヒップホップシーンに多大な影響を与えたラッパーの1人が Future です。

彼は、オートチューンを多用して歌うスタイルを取り入れたデビューアルバム『Pluto』で注目を集め、ラップと歌唱を行き来するスタイルを更に浸透させました。

Future – Turn On The Lights

Future が新しいスタイルで一世を風靡し、若いラッパーに多大な影響を与えるなか、次に現れたのが Young Thug でした。

Lil Wayne 直系のオートチューンを用いた高音ラップを得意とする Young Thug ですが、彼の奇声にも近い独特な歌唱法は世間を騒がせました。

Young Thug – Picacho

ジェンダーレスなファッションスタイルでも知られる Young Thug は、楽曲においても中性的あるいは女性的ともとれるようなハイピッチ・フロウを披露します。

Future & Young Thug – Real Love

Young Thug – The London (feat. J. Cole & Travis Scott)

彼がシーンに登場した当時は、そのファッションや音楽性から、「ゲイ的だ」と批判する声も少なくありませんでしたが、何と言われようと自分のスタイルを曲げずに進み続けた彼の信念が、以後のヒップホップシーンに多大な影響を及ぼすことになります。

ハイピッチ且つ中性的なスタイルの定着

Young Thug の活躍を皮切りに、オートチューンやピッチ変更を用いた高音且つ中性的な歌唱スタイルが音楽シーンに広がります。

2010年代以前にも、Nas が自身の女性オルターエゴ「Scarlett」としてピッチを上げた女性のような歌声でラップする事例がありましたが、そのような高音パートをオルターエゴ的な位置付けとして楽曲の一部分に用いるアーティストも増えていきました。

Nas – Sekou Story (feat. Scarlett)

Frank Ocean の『Nikes』や、Tyler, the Creator の『RUNNING OUT OF TIME』などでも(Young Thug の影響とは言えないものの)ピッチを上げた中性的な歌唱パートが取り入れられ、ヒップホップ、R&B からポップスまで、しっかりメインストリームに浸透していることが窺えます。

Frank Ocean – Nikes

Tyler, The Creator – RUNNING OUT OF TIME

中でもヒップホップシーンにおいては、その盛り上がりが顕著でした。明らかに Young Thug に影響を受けたであろう高音で歌う若手ラッパーが続々と登場し、シーンを盛り上げます。

SahBabii – Marsupial Superstars (feat. T3)

Coca Vango – Sauce All One Me

Haiti Babii のフリースタイルラップ

「ベイビーボイス」ラップの登場

そして2018年から2019年にかけて、中性的もしくは女性的という域を超えた、まるで幼児のような声で歌ういわゆる「ベイビーボイス」ラップが登場し話題を呼びました。

今日のベイビーボイス・ラップと呼ばれるスタイルを始めたのは、Young Thug の YSL Records とサインしているアトランタのラッパー Lil Keed でしょう。彼もまた Young Thug に影響を受けたラッパーの1人ですが、他の Young Thug フォロワーとは一線を画すような、極端に高いピッチで歌うフロウを聴かせます。

Lil Keed – Nameless

Lil Keed の裏声でシャウトするレコーディング風景も非常に興味深く、一見の価値ありです。

https://youtu.be/yUCit0lhtVc

そして、最初にベイビーボイス・ラップが大きな注目を浴びたのは、Young Nudy & Playboi Carti の未リリース楽曲『Pissy Pamper』のバイラルヒットでした。

※未リリース楽曲のため音源無し。

この楽曲では、Playboi Carti が今にも泣き出しそうな幼児のように歌うフロウを披露し、未リリースにも関わらずリーク曲が Spotify のチャートにて1位を獲得しました。

このヒットを受け、Playboi Carti はベイビーボイス・ラップに傾倒するようになります。幼児のような声で絞り出すように歌うラップと耳に残る軽快なアドリブを織り交ぜた彼のスタイルは、もはやラップというより一種の楽器としての側面が強く、Young Thug よりも更に音にフォーカスした進化系であるといえます。

Playboi Carti – @ MEH

Drake – Pain 1993 (feat. Playboi Carti)

Young Thug のスタイルを誇張して進化させたようなこの新しいスタイルは、賛否両論あるものの、チャートではしっかり好成績を残します。実際、Playboi Carti だけでなく、この「ベイビーボイス」ラップと呼べるような歌唱法を用いる若手ラッパーが次々と現れています。

その中でも、現時点でのベイビーボイス・ラップの究極形態が、アトランタの新人ラッパー 645AR でしょう。彼のベイビーボイスはもはやホイッスルボイス(裏声系のシャウト)や金切り声にも近く、「果たしてこれはベイビーなのだろうか」という疑問も生まれるほど衝撃的なスタイルです。

645AR – 4 Da Trap

このように、2000年代中頃からヒップホップシーンに浸透し始めたオートチューンを用い歌うラップスタイルは、2010年代に登場した Future や Young Thug の影響を強く受けながら今日のスタイルへと進化を遂げました。

世間が待望している Playboi Carti の新譜が本当にリリースされるのかどうかは怪しいですが、ヒップホップファンや音楽評論家から賛否両論を受けるベイビーボイス・ラップの今後と、その影響を受けた新たなアーティストやスタイルの登場を楽しみに待ちたいと思います。

Written by Riku Hirai

ニューヨークの若きポップスター Lil Tjay とは

明日5月8日に待望のミックステープ『State of Emergency』のリリースを控える注目若手ラッパー Lil Tjay。今回は、今年の XXL フレッシュマン最有力候補でもある彼の生い立ちやキャリア、魅力について迫りたいと思います。最後までお読みいただければ幸いです。

生い立ちとキャリアの開始

ガーナ人の両親を持つ Lil Tjay(リル・ティージェイ)こと Tione Jayden Merritt は、ニューヨーク・サウスブロンクス出身の19歳(2001年生まれ)。

10代前半から喧嘩や強盗行為を繰り返していたという彼は、15歳の頃に強盗の罪で少年刑務所に送られます。

そしてこの出来事が、結果的に彼の人生の転機となります。

It was not fun.
楽しくなんてなかったよ
It’s not nothing that I would want to do again, 
刑務所でもう一度したいことは何もないけど
but I learned a lot from it. 
そこでたくさんのことを学んだんだ
I feel like if I wasn’t to go to jail,
もしそこに行くことがなければ
I probably wouldn’t be the person I am—I wouldn’t. 
おそらくおれはおれ自身じゃなかったと思うよ
’Cause I wouldn’t have sat down and wrote those songs 
だって、椅子について曲を書くような
and I never would’ve been able to focus on what I want to accomplish. 
おれが成し遂げたかったことに集中できるチャンスはなかっただろうから
So it’s like it was actually a good thing for me. 
だから刑務所での暮らしは、実際おれにとって良いものだった
It made me open my eyes and stuff like that.
おれの目を覚ましてくれたんだ

Rolling Stone

Tjay がこう語るように、彼は服役中にリリックを書き始め、ラッパーとしてのキャリアをスタートさせました。

自身初のバイラルヒット

2017年末に刑務所から釈放された Tjay は、彼が初めてスタジオでレコーディングした楽曲『Resume』をリリースします。

当時、Facebook 以外の SNS は利用していなかったという彼がリリースしたこの楽曲は、SoundCloud にてたった2日間で5000回再生を記録します。

そんな無名なラッパーの楽曲の再生数増加には、ある仕掛けがありました。それは「有名ラッパーの楽曲名をタイトルにし、再生数を稼ぐ」という、バイラルマーケティングの生みの親 Soulja Boy が取り入れた手法でした。

Soulja Boy が、『Crank That』を 50 Cent の『In The Club』と偽ってリリースしヒットさせたことに倣い、Tjay は、『Resume』を Uncle Murda の『Rap Up』と偽りリリースしました。これが結果的に功を奏し、『Resume』は彼自身初のバイラルヒットとなりました。

ヒットの量産

『Resume』のヒットを受け、Tjay は本格的に音楽活動に取り組むことを決意します。

続いて SoundCloud にアップした『Brothers』はリリースされるや否やたちまち再生数を伸ばし、Tjay は Columbia Records と契約を結びます。

Bodies drop all the time I don’t feel nothing

仲間が殺られたって何とも感じない

Swear to god y’all gone make me go kill something

敵は迷いなく殺してやると神に誓うぜ

Told my shooters no mercy or chill button

おれの仲間たちには慈悲も躊躇もない

I done been through so much I don’t feel nothing

色々経験しすぎたんだ、だから何も感じない

『Brothers』にて、Tjay は自身が経験してきたストリートでの生活や刑務所での経験、心の痛みなどをストレートに表現しています。

I speak about stuff I been through.

おれは経験したことを歌っているんだ

I don’t talk about stuff that’s fake.

嘘は歌わない

I speak from the heart.

心のままを歌うんだ

Every lyric got a meaning behind it.

全てのリリックにはちゃんと意味がある

XXL

インタビューにてこうも語るように、自身の経験をベースとしたリアルなリリックも彼の魅力の1つです。

ここでもう1曲、彼のキャリア初期の楽曲をご紹介したいと思います。

None of Your Love

カナダのポップシンガー Justin Bieber のヒット曲『Baby (feat. Ludacris)』のメロディラインを大胆に引用した1曲。

この曲からも分かるように、Tjay はポップシンガーのように歌うスタイルを得意としています。

I used to just watch Justin Bieber videos and be like, 

幼い頃から Justin Bieber のビデオを見ながら、

“Damn, this is going to be me.” 

「おれもこんなふうになれるはずだ」って思ってた

I never thought about how I was going to get there, 

どうやって成功するかなんて考えたこともなかったけど

but I knew it would happen.

絶対できるって信じてたんだ

Pitchfork

ヒップホップ誕生の地ブロンクスで生まれ育ち、過酷なストリートライフを送ってきた10代の若者像からは若干離れたイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際 Tjay は、Justin Bieber や Michael Jackson、R. Kelly、Usher など、ポップスもしくは R&B シンガーから多大な影響を受けたと公言しています。

ちなみにご紹介した楽曲『None of Your Love』で引用されている『Baby』の権利問題はクリアしていないそうですが、Tjay はこれからも懲りずに Justin Bieber の楽曲を引用していく意向とのことです。いかにもティーンらしい強気さが良いですね。

初のトップ20入り

その後デビューEP『No Comparison』をリリースしたのち、Tjay は、Columbia Records のレーベルメイトであった Polo G の楽曲『Pop Out』に参加します。

この『Pop Out』はリリースされてから約3ヶ月後に Billboard Hot 100において95位で初登場し、さらにその2ヶ月後には同チャートにて11位まで上り詰めました。

Tjay は自身にとって(Polo G にとっても)過去最大のヒットを生み出し、ますます勢いづくこととなります。

デビューアルバムのリリース

Polo G と共にヒット曲を生み出した Tjay は、満を辞してデビューアルバム『True 2 Myself』をリリースします。

キャリア初期のヒット曲から最新曲まで詰め込んだデビューアルバムには、Lil Wayne や Lil Baby、Lil Durk といった大物ラッパーに加え、同郷ニューヨークから Jay Critch や Rileyy Lanez らが参加しています。

Decline (feat. Lil Baby)

アトランタの人気ラッパー Lil Baby を客演に迎えた1曲。ゆったりとした哀愁漂うトラックの上で、Tjay は心の痛みを優しいメロディに乗せて歌います。

Woulda had a cap and gown if Smelly was still around

もし Smelly(※1)が生きていれば、(大学の学位授与式などで着用する)帽子とガウンを持っていたのに

But it’s pain in me, 

心が痛むんだ

thinking about it make me get so angry

思い出すだけで怒りが湧いてくる

(※1) 亡くなった Tjay の仲間の名前。Tjay は Smelly に音楽的なインスピレーションを受けたそうで、自身の楽曲内で度々ネームドロップします。ヒット曲『F.N』でも「I wish my n***a Smelly could’ve seen me lit now (Smelly に今のおれの成功した姿を見て欲しかった)」とラップしています。

Mixed Emotions

アルバム内でも特に際立つ綺麗なメロディラインを奏でる1曲。

I can’t wait to take a picture next to Nicki and Wayne

Nicki Minaj や Lil Wayne と一緒に写真を撮るのが待ちきれないんだ

引用したラインでは、「Nicki Minaj や Lil Wayne といったシーンのトップアーティストと肩を並べるようになった自分」と「同業者というより未だに彼らの1ファンである自分」という2つの側面を上手く表現しています。楽曲をリリースし始めてからわずか2年足らずでスターダムを駆け上がった彼ならではのリリックです。

『Leaked (Remix)』にて Lil Wayne との共演を果たす Tjay

そんな全体を通して甘い歌声で歌い上げる、ポップス或いは R&B 寄りな作風の同アルバムは、初週4.5万枚を売り上げ、Billboard Hot 200にて5位デビューを飾りました。

ニューミックステープ『State of Emergency』

そして Tjay は、明日5月8日にミックステープ『State of Emergency』をリリース予定です。

先日、Don Q や 6ix9ine、A Boogie らにディスを飛ばし、「俺がニューヨークのキングだ」などと豪語する様子も話題となったように、それほど自信のある作品に仕上がっているのではないでしょうか。

「おれこそがNYのキングだ。あの歌ってるヤツ(A Boogie)とか、髪の毛が虹色の裏切り野郎(6ix9ine)はイケてないぜ」と豪語。数日後に「おれがわるかった、昔の Tjay に戻るよ」と謝罪しています。

今回はおさらいとして、ニューミックステープのリードシングルをご紹介したいと思います。

Ice Cold

Demons in my head, 

頭の中に悪魔がいるんだ

I got too many n***as gone

おれは沢山の敵を始末してきた

Kids out here dyin’, 

ここでは多くの子供たちが亡くなり

mama hurt, cryin’ 

母親は傷つき涙を流す

I ain’t even think I’d see eighteen and I ain’t lyin’

無事18歳になれるなんて思ってもなかったよ、嘘はつかない

ストリートに蔓延る犯罪や、人々の命を脅やかす新型コロナウイルスの流行など、地元ニューヨーク(や世界の現状)を「Ice Cold (氷のように冷え切った世界)」と表現した1曲。

自身の心の痛みや、成功してからの生活について言及しながら哀愁たっぷりに歌い上げる彼の姿からは、とても10代とは思えない貫禄を感じます。

ミックステープには、同郷ニューヨーク出身のラッパーたち(故Pop Smoke や Fivio Foreign、Sheff G、Sleepy Hallow など) を客演に迎えた楽曲も収録予定です。

故Pop Smoke との楽曲『War』や『Mannequin』で見られたような、ブルックリンドリルサウンドでスピットする Tjay のラップも聴くことができそうです。

おわりに

いかがだったでしょうか。今回はニューヨーク・サウスブロンクス出身のラッパー Lil Tjay についてまとめてみました。

ストリートで経験した心の痛みや葛藤をメロディに乗せて歌い上げる次世代のポップスター Lil Tjay。そんな彼にますます目が離せない1年となりそうです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

XXS オリジナルプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/a-teen-pop-star-from-new-york/pl.u-WabZp5aUdl0GmpA?l=en

Riku Hirai

Megan Thee Stallion – テキサスが生んだラップスター

2018年突如として頭角を現し、XXL Freshman Class 選出や、BET Hiphop Awards「Best Mixtape」の受賞など、現行ヒップホップシーンの顔となったラッパー Megan Thee Stallion。デビューアルバム『Good News』のリリースに合わせて、彼女の生い立ちやキャリアについて振り返ってみましょう。

生い立ち

Megan Thee Stallion(メーガン・ザ・スタリオン)こと Megan Pete は、Geto Boys や UGK、チョップド&スクリュードを生み出した DJ Screw らを輩出したヒップホップゆかりの地、テキサス州ヒューストンで生まれ育ちました。

彼女の母親もラッパー「Holly-Wood」として活動していたため、Megan は幼い頃からよくスタジオに同行していたそうです。

Megan と母 Holly。Holly は闘病の末、昨年3月に他界しました。

そんな母親の影響を受け、Megan は14歳でラップを始めました。その才能はラッパーであった母もすぐに認めるほどであり、彼女は Instagram にフリースタイルラップを投稿することで瞬く間にファンベースを確立させていきました。

この頃彼女は、自身の身長と美しさが「Stallion (種馬)」に似ているという理由から、Megan Thee Stallion というステージネームを付けたそうです。

その後彼女は医療経営を学ぶためテキサス・サザン大学に進学し、現在も在学中です。

https://twitter.com/theestallion/status/1201177736967884800?s=20
「今夜締め切りの6ページの研究論文があるのに、撮影もあるのよ。どうなることやら」

人気ラッパーとして活躍する傍ら学業も怠らない姿勢に、彼女の真面目さと努力家な一面が垣間見れます。

キャリア開始から現在まで

 そんな彼女は、2016年にファーストシングル『Like a Stallion』をリリースします。

同年2016年にはミックステープ『Rich Ratchet』、翌年には EP『Make It Hot』をリリース。後者のリード曲『Last Week in H TX』はYoutubeで400万回再生を記録します。

また、同年2017年にはXXXTentacionの『Look At Me』をサンプリングした『Stalli Freestyle』を公開し話題になりました。

そして2018年6月、元メジャーリーガーの Carl Crawford が所有するインディーレーベル 1501 Certified Entertainment から EP『Tina Snow』をリリースします。

ちなみに「Tina Snow」というのは、Megan が尊敬する同郷ヒューストンのラッパー Pimp C の別名「Tony Snow」を捩った彼女自身のオルターエゴで、Pimp C のようなクールなバイブスを持っているそう。

本作収録の『Big Ole Freak』は、彼女にとって初となる Billboard Hot 100 ランクインを果たします。

 その後、彼女は大手メジャーレーベル 300 Entertainment と女性ラッパー初となる契約を果たし、ミックステープ『Fever』をリリースします。

このミックステープは、彼女の二つ目のオルターエゴ「Hot Girl Meg」(気楽で社交的な性格) によるもの。

DaBaby と Juicy J が参加した本作は US Billboard 200 にて初登場10位を記録し、さらには BET Hiphop Awards にて「Best Mixtape」を受賞するなど、好成績を残しました。

そんな『Fever』の成功もあり、彼女は2019年の XXL Freshman Class に選出されます。

このサイファーにて彼女のラップスキルにますます注目が集まり、ここから約1ヶ月後にリリースされた Chance the Rapper のデビューアルバム『The Big Day』にも参加します。

Megan は、スキルフルなラップと優しく歌うフロウを披露しています。

そして、その後リリースされる彼女のニューシングル『Hot Girl Summer (feat. Nicki Minaj & Ty Dolla $ign)』がSNS上でミームを生み、バイラルヒットします。

これらのミームの流行もあり、『Hot Girl Summer』は Billboard Hot 100 にて11位まで登りつめ、MTV Video Music Awards にて「Best Power Anthem」を受賞します。

自身最大のヒットを生んだ彼女は、その翌月に JAY-Z 率いる Roc Nation とマネジメント契約を結びます。

Megan と JAY-Z

Teyana Taylor 手がけるホラーシリーズ『Hottieween』の制作&出演や、メンフィスの人気ラッパー Moneybagg Yo との交際(現在既に破局済み)など、多方面において話題を欠かすことなく一気にスターダムを駆け上がった彼女は、2020年3月に新作 EP『Suga』をリリースしました。

このEPは、彼女の三つ目のオルターエゴ「Suga」(セクシー且つセンシティブな性格で、一つ目のオルターエゴ「Tina Snow」の親友にあたる) による作品。

前述した 1501 Certified Entertainment との確執が原因でニューアルバムのリリースが遅れていた中、突如リリースが決まったこの EP には、Megan のレーベルに対する不満も現れています。

Savage

シンプルなビートと、Pimp C を思わせるスキルフルなラップが特徴的な1曲。反復され耳に残るフックのおかげもあってか Tik Tok においてこの曲を使ったダンスチャレンジが流行し、バイラルヒットしました。

N***as say I taste like sugar, but ain’t s**t sweet

奴らは私のこと砂糖みたいな味って言うけど、私は甘い女じゃない

アウトロのこのフレーズが物語るように、彼女自身がどれだけ「Savage」かを主張する攻撃的な内容の楽曲です。セクシーでセンシティブなリリックが彼女の持ち味なので、是非リリックを追いながら聴いてみてください。

B.I.T.C.H.

続いてご紹介するのは、EP のリードシングル『B.I.C.T.H.』。2PAC の名曲『Ratha Be Ya N***a』を大胆にサンプリングした1曲です。

I’d rather be your B-I-T-C-H (I’d rather keep it real with ya)

私はあなたの「Bitch」でいたい(あなたに正直でありたい)
‘Cause that’s what you gon’ call me when I’m trippin’ anyway

だって私がハイになってるとき、あなたがそう呼ぶから
You know you can’t control me, baby, you need a real one in your life

あなたは私をコントロールできない あなたの人生にはリアルなビッチが必要なんだ
Them bitches ain’t gon’ give it to you right

あんなビッチ共ではダメ

2PAC のライン「I’d rather be ya N-***-A」をそのまま引用したフック。まさに『Ratha Be Ya N***a』を女性目線で書き直したような1曲で、彼女のヒップホップ愛と乙女心を同時に楽しむことができる作品です。

Crying in the Car

The Neptunes(Pharrell Williams & Chad Hugo)プロデュースによる声ネタが印象的なトラックと、オートチューンを効かせた Megan の甘いヴォーカルが印象的な楽曲。

Please don’t give up on me, Lord, Lord

神様、どうか私を見捨てないでください
Promise to keep goin’ hard, hard

頑張り続けることを誓うから
All of them nights that I cried in the car

車の中で泣いた夜もあったけど
All them tears turned into ice on my arms

その涙が、私の腕のジュエリーに変わったの

真面目で努力家な彼女の一面が見られるリリックも最高です。

この EP『Suga』は9曲というボリュームながらも、地元 H-Town 愛溢れる楽曲から大ネタ使いのトラック、売れ線ソングまで、ヒップホップファンにはたまらない傑作に仕上がっています。

おわりに

今回は、本日デビューアルバム『Good News』をリリースした Megan Thee Stallion の生い立ちやキャリア、魅力についてまとめてみました。

もはや「フィメールラッパー」という言葉で一括りにするのはナンセンスと言えるほど、スキルフルなラップやインパクトのあるリリックを届ける魅力的なラッパー Megan Thee Stallion。そんな彼女から今後もますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

新時代を切り開く若き天才プロデューサー JetsonMade とは

Oh Lord, Jetson made another one!


現行のUSヒップホップを追っていて、このフレーズを聴いたことがないという方はおそらくいないでしょう。そう、今や彼のビートを耳にしない日はないほど人気爆発中のプロデューサー JetsonMade のプロデューサータグです。今回は、そんな2020年USヒップホップシーンにおける最注目プロデューサーの生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。最後までお読みいただければ幸いです。

生い立ちとキャリア

JetsonMade(以下Jetson)こと Tahj Morgan はサウスカロライナ州コロンビア出身の23歳(1997年生まれ)。比較的恵まれた環境で育ったという彼は、2010年(当時13歳)頃から Garageband を使い楽曲作りを始め、翌年2011年には本格的にトラックメイクを始めました。

しかし彼は高校卒業後、母親の反対により一時音楽活動から離れていた時期がありました。彼の母親は息子に対して大学進学と就職を望んでいたため、Jetson は不服ながらも大学進学を決めたのですが、もちろん長続きすることはなく1セメスターで退学。その1セメスターの終盤に彼にとって大きな転機が訪れることとなります。それが、アトランタのスター 21 Savage のミックステープ『Slaughter King』への参加でした。

この参加をきっかけに Jetson は本格的に音楽活動へと復帰します。勢いをつけた彼は DJ Drama や Yung Bans ら著名アーティストとの共演を次々と果たします。

DaBaby のデビューアルバム『Baby on Baby』では5曲に参加し、リードシングル『Suge』は US Billboard Hot 100 チャートにて7位を記録。DaBaby にも Jetson にとっても自身最大のヒット曲となりました。


2019年には、YoungBoy Never Broke Again や Roddy Ricch、Lil Keed、Smokepurpp、Rico Nasty など今をときめくラッパー達とコラボを果たしたり、J. Cole 擁する Dreamville のセッションへの参加、更には前述した『Suge』が Grammy の「Best Rap Song」や BET Awards の「BET Hip Hop Award for Best Single of the Year」にノミネートされるなど、彼にとって飛躍の1年となります。

@ Grammy Awards 2020


彼の勢いは2020年に入ってもとどまることを知らず、自身のプロダクションチーム「Spaceboy」の設立や、待望されていた Playboi Carti のニューシングル『@ MEH』のプロデュースに携わるなど、USヒップホップシーンの中核を担うプロデューサーへと成長しました。今後、あらゆるアーティストのアルバムで彼のプロデューサータグを耳にする日は間違いなく近いでしょう。

Jetson の楽曲とその魅力

続いて、Jetson の楽曲をいくつか紹介しながら、彼の魅力に迫ります。

DaBaby『BOP』

DaBaby のセカンドアルバム『KIRK』収録の1曲。Jetson の最大の特徴は、シンセを中心とした耳に残るメロディラインと分かりやすく音階をつけた重く鈍い808(ベース)です。

Jetson の特徴的な808パターン(Genius より)

極端に音数を減らしたり似たようなドラムパターンを多用したりと、差別化を図るのが難しくなってきているトラップシーンにおいて、Jetson ほど一聴して誰のビートか分かるトラックを作るプロデューサーはいないのではないでしょうか。

また、この曲のミュージックビデオにて DaBaby が808のリズムに合わせて腕を振る簡単なダンスを見せるように、TikTok や Triller にてダンスチャレンジが流行しやすいという点も、Jetson の楽曲が拡散されやすい理由の一つでしょう。

Roddy Ricch『Start wit Me (feat. Gunna)』

Roddy Ricch のデビューアルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』収録の1曲。Jetson が好んで使用する笛系のシンセとお馴染みの808ラインが、なんとも彼らしい楽曲です。また彼のビートはハイハットも特徴的で、楽曲によって様々なパターンを使い分けます。この曲ではハイハットで絶妙な間と強弱をつけ、ビートに更なるグルーヴを生み出しています。

I make a lot of different types.

俺は色んなビートを作るんだ

My success come from the simple beat,

俺の成功のルーツはシンプルなビートなんだけど

but when you think about it, when you listen to “Suge,”

DaBaby の『Suge』を聴いた後に

but then turn around and listen to an “Oh My God,”

Lil Keed の『Oh My God』を聴いたら

they totally different beats, totally different sounds.

2つは全く違うビートだろ 全く違うサウンドなんだ

I just use whatever sounds good.

俺は、自分が良いと思ったサウンドなら何でも使うんだ

Whatever goes good in that beat is what I’m gonna use.

ビートに合いそうな音は何でも使うってことだ

I just try to keep my same bounce.

同じバウンスをキープすることを心がけてるよ

The FADER

こう Jetson が語るように、彼のビートはシンプル且つ同じバウンスを保ちながらも、それぞれ個性や特徴を持ったオリジナリティ溢れる楽曲に仕上がっており、これこそが彼の強みの1つなのです。

PG RA『Back to Bali』

Jetson と同郷サウスカロライナ出身のラッパー PG RA のシングル曲。Jetson はトップアーティストと仕事をしながらもなお地元サウスカロライナを大事にする人物で、成功を目指すフッドの若きラッパーたちのプッシュも怠りません。

音数は少ないながらも、不穏なシンセサイザーと80年代のアーケードゲーム音楽のような上ネタを使ったこのビートは、彼の実力が最大限に発揮されたシンプル且つ個性的な楽曲に仕上がっています。

Cz TIGER『Nandeyanen (feat. Jaggla)』

実は Jetson、大阪のラッパー Cz TIGER にも楽曲を提供しており、普段日本語ラップしか聴かないという方でも彼のビートを既に聴いている可能性があります。

US トッププロデューサーの最先端トラップビートに乗る関西弁が新鮮な1曲です。

Playboi Carti『@ MEH』

今週遂にリリースされた Playboi Carti の新曲。Jetson と、彼が率いる Spaceboy 所属の Neeko Baby と Deskhop がプロデュースした1曲で、Lil Uzi Vert『Eternal Atake』感のある神秘的なビートとなっています。今までの Jetson にあまり見られなかったポップで可愛らしいメロディに挑戦しながらも、随所に光るシンセベースや重厚な808でしっかり彼らのサウンドを表現しており、Jetson と Spaceboy による新たな時代の到来を感じさせられます。

まとめ

いかがだったでしょうか。今回は US ヒップホップシーン最注目プロデューサー JetsonMade についてまとめてみました。

Playboi Carti の楽曲への参加を経て、今後更に勢いを増すであろう JetsonMade と Spaceboy のメンバーにますます目が離せなくなりそうです。今回は、そんな彼 Jetson が成功を志す若者に送った応援メッセージで締めくくりたいと思います。

Everybody situation different,

みんな状況が違う

so I can’t necessarily tell you to do this or do that.

だから明確に何をすべきかはアドバイスできないんだ

I just know that what you want to do

でも俺は君が何をしたいのか知ってる

— figure out how you gonna do it and stick to that.

それをどう達成するかを考え、努力し続けるんだ

Do it times ten and it’s gonna work.

10回やり続ければ上手くいくよ

It might not bring you a million dollars.

100万ドルなんてもんじゃない

It might bring you a hundred million dollars.

1億ドルだって夢じゃないんだ

Whatever you want for yourself,

君が何を欲しがったとしても

you can do it if you put a realistic plan together.

現実的な計画を立てれば実現するんだ

Real shit will make it happen.

リアルなものはいつか叶うんだよ

The FADER

最後までお読みいただきありがとうございました。

XXS オリジナルプレイリスト :
https://music.apple.com/jp/playlist/oh-lord-jetson-made-another-one/pl.u-NpXm6mmFmgrABjV?l=en

Riku Hirai

Lil Uzi Vert『Eternal Atake』の全て ~リリースまでの道のり~

これまで幾度となくリリースを遅らせていた Lil Uzi Vert のニューアルバム『Eternal Atake』が本日遂にリリースされました。

今回は、その存在が明かされてから本日のリリースまで約2年の月日を要したこのアルバム『Eternal Atake』の歴史を振り返って行こうと思います。

2018年 : ハッキングと、ニューアルバムの告知

2018年4月、Uzi の ソーシャルメディア(Instagram と Twitter)のアカウントがファンによってハックされたことから『Eternal Atake』の歴史は始まりました。アカウントをハックしたファンによって様々な(意味不明な)投稿がなされる中、6月頃、後にリリースされるシングル曲『New Patek』のスニペットが Uzi のダンス動画と共にポストされました。

その後ファンからアカウントを取り返した Uzi は、Twitter にてニューアルバムのタイトルを明らかにします。

Eternal は永遠、Atake は追い越す(追いつく、襲いかかる、不意をつく)ことを意味するんだ」

続いて同年7月末、彼はアルバムのカバーアートを公開します。

『Eternal Atake』のカバーアート

しかしこのカバーアートは、1997年のヘール・ボップ彗星出現の際に集団自殺を決行し消滅した「Heaven’s Gate」という宗教団体のロゴをパロディしたものであり、「Heaven’s Gate」の残党から訴訟の意思が伝えられました。

宗教団体「Heaven’s Gate」のロゴ

この騒動があった後、Uzi は上記のカバーアートを取り下げ、自身をアニメキャラクター化したアートに取り替えます。

胸の部分には「Heaven’s Gate」のロゴが。

そして同年9月18日、『Eternal Atake』から初のリードシングルとなる『New Patek』がリリースされます(最終的にはアルバム未収録)。

『New Patek』のカバーアートには、またしても例のロゴが。どうしても捨てきれないこだわりだったのでしょう。

同年末、Uzi は地元フィラデルフィアでのライブ中に、アルバムの完成を報告します。

「いつアルバムがリリースされるか気になっているんだろ。もうできてるよ。」

2019年 : 引退宣言と音楽活動再開

年が明け2019年1月、Uzi は Instagram のストーリーで音楽活動の引退を表明します。

ファンのみんなに礼を言いたいんだ。

おれはもう音楽をやらない。作った曲も全部消した。

おれは普通の生活に戻りたいんだ。2013年に戻りたいよ。

Uzi は以前から、所属するレーベル Generation Now との関係が良くないことを明らかにしていました。彼のデビューアルバム『Luv Is Rage 2』も同じ問題を抱えてリリースが遅れた過去があり、おそらくそういった問題が悪化し、彼は音楽を辞めるという発言をしたのでしょう(Generation Now のDJ Drama は問題を否定しており、「(アルバムを)出したい時に出せばいい」と発言)。

同年3月、Uzi は Jay-Z 擁する Roc Nation と契約を結び、突如ニューシングル『Free Uzi』をリリースしました(リリース数日後に削除)。

N***as lyin’, yeah he stuck with a cappin’ face

奴らは嘘をついてる、そのせいで身動きがとれないんだ

N***as rattin’, they get hit with the MAC today

奴らは卑劣だ、今に MAC で撃ち抜かれるさ

It’s my “I don’t even know, um, what happened” face

おれは「おれは知らないぜ、何があったんだ」って顔をしてる

Lil Uzi Vert – Free Uzi
Generation Now との確執について言及するライン。
MAC で撃ち抜かれたんだろ、UZI じゃない(おれはやってない)という、銃の名前でかけたワードプレイ)

同年4月、Uzi はリークされた2つの楽曲を公式にリリースします(両方ともアルバム未収録)。

『That’s a Rack』

『Sanguine Paradise』

そして同年末、Uzi はアルバムからリードシングル『Futsal Shuffle 2020』をリリースします。

2020年 : アルバムリリース

年が明け2020年に入り、Uzi は Twitter にて積極的にアルバムのアナウンスを行うようになります。

アルバムには16曲が収録されることを明らかにした後、Instagram Live にて二週間以内にアルバムをリリースすることを仄かしました。

そして3月1日、Uzi は2つ目のリードシングル『That Way』をリリースします。自身のオルターエゴ、「Renji」と「Baby Pluto」の存在も主張し、Twitter 上でファンからの質問に積極的に応答するようになります。

その後、彼は Twitter にて3つのカバーアートを公開し、フォロワーに投票で選ばせるという前代未聞の決定方法をとりました。

Cover 1
Cover 2
Cover 3

投票の結果2つ目の「Cover 2」に決定し、続いて『Eternal Atake』のショートフィルムが公開されました。

その2日後、Uzi は『Eternal Atake』のトラックリストを公開します。

そして本日3月7日、急遽ニューアルバム『Eternal Atake』がリリースされました。

みんな準備はできたか、今日がその日だ!

来週金曜日じゃない、今リリースしたぜ!

世界中が来週のリリースと思い込んでいた中、突如としてニューアルバムをリリースする、なんとも Uzi らしい行動に意表を突かれました。

世界中が待望していたニューアルバムには、The Internet のメイン・ヴォーカルである Syd が客演で参加しており、Wheezy や Yung Lan、TM88、Supah Mario ら売れっ子プロデューサーに加え、Working On Dying の Brandon Finessin や Oogie Mane、ラッパーの Chief Keef らがプロダクションに名を連ねています。

Uzi 曰く、1〜6曲目が Baby Pluto、7〜12曲目が Renji、13〜18曲目が Uzi による楽曲だそうです。

数時間前、Uzi は アルバムのデラックス盤の存在も明かしており、Pi’erre Bourne、Young Thug、Future、A Boogie wit da Hoodie、Lil Baby、Chief Keef ら今をときめく豪華客演陣を迎えているとのこと。2年前からリリースが待ち望まれている『Rollie [Jellybean (Kobe)]』や『Like Me (Myron)』、『Lotus』などの楽曲も含まれている可能性が高く、Lil Uzi Vert ファン歓喜の展開となりそうです。

Riku Hirai

シカゴ出身の注目若手ラッパー Calboy とは

今回は『Envy Me』のヒットで知られるシカゴ出身の注目若手ラッパー Calboy について、彼の生い立ちやキャリアに触れながら簡単にご紹介しようと思います。それではさっそくいってみましょう。

生い立ち

Calboy こと Calvin Woods は、シカゴ出身の20歳(1999年4月3日生まれ)。シカゴの中でも最も危険とされるサウスサイド出身で、母親と4人の兄弟と共に非常に貧しい生活を送っていたそうです。

オーバードーズと銃撃により幼馴染みの親友を2人も失った彼は、家族と共にシカゴの南に位置する Calumet City に移住します。

キャリアの開始

音楽活動を始める前は絵を描いて過ごしていたというCalvin は、2015年から Kidd Cal 名義で楽曲を公開し始めます。

『Mr.Misunderstood』

今から約5年前(当時16歳)の彼の楽曲からは、既に才能の片鱗が伺えます。

1st ミックステープ『Anxiety』

2017年、Calvin (以下 Calboy)はデビュー作となるミックステープ『Anxiety』をリリースします(147 Calboy 名義では、以前にミックステープ『The Chosen One』をリリースしています)。

Twista や Future、Chief Keef らとの楽曲制作でも知られる DJ Pharris が監修を務め、メジャーレーベルとの契約なしでリリースされたこのミックステープには、地元シカゴのスター Lil Durk が客演として参加しています。

『Anxiety(心配、不安)』というタイトル通り、Calboyは、地元で経験してきた悲劇やトラウマについて歌います。

I was 15, I see my bro Jimmy dead
おれが15の頃、仲間の Jimmy が死んだのを見たんだ
He felt so cold, I couldn’t even cry
彼は冷たくなって、おれは泣くことすら出来なかった
That’s why I sip lean, boy you ain’t even gotta ask why
だからおれはリーンを飲むんだ、理由なんて聞くな
They wanna shiv me with knives all in my back
やつらはおれのことを狙っている

Calboy – Fatality

この頃の彼はオートチューンを強めに使っており、Lil Durk の歌唱スタイルや声に近似したメロディアスなフロウを多用しています。

Rap Genius の「Can ___ Fans Actually Recognize His Voice (~のファンは、実際に~の声を聴き分けることができるか)」というシリーズに Lil Durk の回が来るならば、間違いなく Calboy の楽曲が使われるでしょう。

2nd ミックステープ『Calboy the Wild Boy』

2018年、Calvin は Paper Gang Inc. から 2nd ミックステープ『Calboy the Wild Boy』をリリースします。

このミックステープで彼は、自己アイデンティティの模索や、前作『Anxiety』の成功からくる名声についてラップしています。

またラップスキルもこの頃から磨かれつつあり、特に7曲目の『Blood Suckaz』ではファルセットやミックスボイスを使って高音で歌うスタイルが見られ、今現在(2019~2020年)の彼に通ずるものを感じます(特に1:17~のフロウは、後にリリースされる彼のヒットシングル『Envy Me』のフックと同じフロウですね。おそらくこの頃に自分のスタイルを掴んだのでしょう)。

『Envy Me』のバイラルヒット

2018年9月に Calboy がリリースしたシングル『Envy Me』が、彼のキャリアを大きく変えます。リリースされるや否や Billboard Hot 100において63位まで登りつめ、YouTube では2500万再生を記録しました。

『Envy Me』のバイラルヒットは、この曲を使った「Demons Challenge」というダンスチャレンジが Tik Tok 上で流行したことがきっかけでした。

https://youtu.be/J0Aoum3NJog

もちろん奇跡的にバズを起こしてヒットしたわけではなく、バズが起こったのにも理由があります。

I was fighting some demons, in the field, bitch, I’m deep in
おれは悪魔たちと戦っている、もう戻れないんだ
I was raised in the deep end, I know niggas be sinkin’
困難な環境で育ってきたんだ、落ちぶれていった奴らもいる

Calboy はこのような暗い内容のリリックを、悲しげにも、あるいは楽しげにも聴こえてしまうようなポップなメロディで歌い上げます。このダークさとポップさのアンバランス感が Calboy (彼に限らず現行のシカゴ産ヒップホップ)の魅力でしょう。

その後、Calboy は Kodak Black の「The Dying To Live Tour」に帯同し、ますます知名度を上げていきます。

デビューEP 『Wildboy』

2019年、Calboy は RCA と Polo Grounds Music からデビュー EP『Wildboy』をリリースします。

Moneybagg Yo、Lil Durk、Yo Gotti、Polo G、Meek Mill、Young Thug といった豪華客演陣の参加が、Calboy の注目度を物語っています。

また、Calboy のラップ&ボーカルスキルの向上も顕著に見られます。

『Ghetto America (feat. Yo Gotti & Lil Durk)』

Lil Durk と Yo Gotti が参加した1曲。高音で感傷的に歌う Calboy と Lil Durk のボーカルに、Yo Gotti のねっとりとしたラップが上手くマッチしています(やはり Lil Durk と Calboy のボーカルスタイルは激似ですが、本人(Calboy)はそう言われるのがあまり好きではないみたいなのでここでは控えておきます…笑)。

『Chariot (feat. Meek Mill, Lil Durk & Young Thug)』

Meek Mill、Lil Durk、Young Thug が参加した夢のような1曲で、Calboy も引けを取らない三連符フロウを披露します。

人気アーティストとのコラボ

Chance the Rapper『Get a Bag (feat. Calboy)』

同郷シカゴのスター Chance the Rapper のデビューアルバムに参加した Calboy は、ここぞとばかりにその才能を見せつけます。

歌フロウを中心としたスタイルは昨今の若手ラッパーにありがちですが、Calboy の魅力は三連符を主とした詰め込みフロウです。この曲では彼の詰め込みフロウを堪能することができます。

Pop Smoke『100k on a Coupe (feat. Calboy)』

先月惜しくもこの世を去った故 Pop Smoke との楽曲。スタイルは違うものの今一番脂の乗った(乗っていた)2人のコラボなだけあって、抜群の格好良さです。

ここでは Calboy のもう1つの魅力である、ファルセットを使った高音フロウを楽しむことができます。

※他にもご紹介したいのですが、長くなるのでプレイリストにまとめておきます。

2nd EP『Long Live the Kings』

そして2020年、Calboy は待望の新作『Long Live the Kings』をリリースしました。

亡くなった仲間たち(Kings)への追悼の意を込めたこの EP には、Lil Tjay、G Herbo、Lil Baby らが客演で参加しています。

『Dope Boy』

明らかに Roddy Ricch に影響を受けたであろうフロウ (Roddy Ricch『Start wit Me (feat. Gunna)』と非常によく似たメロディラインを使っています)が特徴的な1曲。同世代であれだけチャートを動かすラッパーが出てくると、嫌でも刺激を受けるでしょう。Calboy には是非とも第2の Roddy Ricch、いやそれ以上のスターになってほしいものです。

『Purpose (feat. G Herbo)』

EP からシングルカットされていた G Herbo との1曲。

一度聴いていただければ分かるように、この曲、ビートと(Calboy の)ボーカルのキーが合っていません。シンプルにオートチューンのキー設定を間違えたのか、たまたま違うキーで合わせたら「あえての外しもあり!」となったのかは分からないですが、何度も繰り返し聴くうちに、気持ち悪さが気持ち良いという妙な感覚に襲われます。狙ってやっているのであれば面白いですし、そうでなければ怪我の巧妙です。

I go in there with a concept. 
おれはコンセプトを大事にしている
That’s what makes me different than a lot of the mumble rappers
それが他のマンブルラッパーたちと違うところだ

Complex のインタビューより

Complex のインタビューでも語るように、楽曲のコンセプトが定まっており、一貫性がありブレないリリックも彼の魅力です。是非リリックを見ながら聴いてみてください。

まとめ

いかがだったでしょうか。ニューアルバムのリリースや、自身が執筆する著書の出版などを控えており、多方面で更なる飛躍が見込まれるシカゴのネクストスター Calboy。

今年の XXL フレッシュマン選出も間違いなさそうなので、今のうちに彼の楽曲を聴き込んで古参ぶりましょう。今ならギリギリ間に合います。それでは良い週末を!

XXS Magazine オリジナルプレイリスト『Calboy – A Rising Rap Star from Chicago』

https://music.apple.com/jp/playlist/calboy-a-rising-rap-star-from-chicago/pl.u-WabZpaYHdl0GmpA?l=en

Riku Hirai