本日、2021年の3月12日に遺作であるニューアルバム『Ronald』のリリースを果たした、ジョージア州のラッパー 6 Dogs。新型コロナウイルスへの感染が発覚後、闘病を続ける中で重度のうつ状態に陥り、今年の1月26日に自ら命を絶ってしまいました。今回はそんな彼によるニューアルバムのリリースを祝福するとともに、彼のキャリアを振り返ります。
生い立ちとキャリアの開始
6 Dogs(シックス・ドッグズ)こと Chase Amick は、ジョージア州の郊外にて1999年の5月5日に誕生しました。熱心なクリスチャンである両親の間に生まれた彼は、両親の意向で9歳になるまでホームスクーリング(一般的な学校に通うことなく、家庭内で学習を行うこと)を受けて育ちました。
ホームスクーリングを終えた後はキリスト教系のプライベートスクールに通いはじめましたが、そこでは人種差別やいじめを経験したそうです。幼かった 6 Dogs は、自分の身に降りかかってくる心ない言葉の数々が人種差別的なものであることに気づいていませんでしたが、歳を重ねるごとに心を閉ざすようになっていったと語ります。
完全に自らの殻に閉じこもってしまった 6 Dogs ですが、のちに行われた Masked Gorilla によるインタビューでは「当時の憂鬱は、自己表現のきっかけになった」と話しており、落ち込んでいた時期がなければラップを始めることもなかったといいます。
I just needed an outlet.
俺にはただ(憂鬱の)捌け口が必要だった
I’ve always wanted to rap.
俺はずっとラップがしたかったんだ。
I remember just sitting in the lifeguard stand, the entire summer, 8 hours a day or longer and just sitting down and I was like ‘this sucks, I want to do something with my life.
夏の間ずっと監視塔に座っていた頃のことを覚えているよ。1日に8時間かそれ以上そこに座り続けて「こんな人生はくそだ。生きている間に何かしたい」なんて考えていたんだ。
Masked Gorilla
人間関係から生じた憂鬱や劣等感と闘う日々の中で、彼は「ラップ」という彼なりの自己救出の手段を見つけ出し、それに熱中するようになりました。それこそが、彼のラッパーとしてのキャリアの開始地点だったのです。
『Flossing』のヒット
ラップを通して暗闇の中で一筋の光を見出した 6 Dogs は『Demons In The A』と名付けられた楽曲を制作し、SoundColud にアップロードします。初めて世に送り出された彼の楽曲に寄せられたコメントはたった6件だったそうですが、彼にとってそれらのコメントは「憂鬱の捌け口を通して、他人との繋がりを感じることのできた初めての経験」だったそうで、さらなる楽曲の制作を決意したといいます。
6 Dogs の代表作として、彼のキャリアで最も注目されたといっても過言ではない『Flossing』が挙げられます。そしてこれが、彼が『Demons In The A』の次に制作した2作目の楽曲です。
憂鬱との戦いの中でドラッグに手を染めてしまったことを自身の母親に懺悔する内容のこちらの楽曲は、SoundCloud のエモラップファンを中心に大きな話題となり、大ヒットを記録しました。エモラップなどを中心に扱う YouTube のキュレーションチャンネル「デーモン Astari」からアップされた当楽曲のミュージックビデオに関しても700万回再生を突破しています。
プロジェクトのリリース
セルフタイトル・ミックステープ
『Flossing』でアンダーグラウンド・エモラップ界隈からの絶大な人気を獲得した 6 Dogs は、2017年の7月3日にセルフタイトル・ミックステープをリリースしました。15曲入りの当ミックステープには、Danny Wolf や Digital Nas などの人気プロデューサーの参加も見られます。
その中でもミックステープの3曲目に収録されている『Faygo Dreams』は、彼のキャリアの中で最もヒットした楽曲の内の一つと言っても過言ではありません。
6 Wolves (with Danny Wolf)
前作に収録された『Spaceship』などで共演済であるプロデューサー Danny Wolf とのコラボテープです。6曲構成でプロデュースは全て Danny Wolf、Yung Bans のゲスト参加も見られます。ちなみに Danny Wolf は、Hoodrich Pablo Juan の専属プロデューサーで、彼とは『Hoodwolf』シリーズと呼ばれるコラボテープ群をリリースしています。
Hi-Hats & Heartaches
2019年の10月24日に 6 Dogs は三枚目となるフルレングスプロジェクト『Hi-Hats & Heartaches』をリリースしました。
ヒット曲『Faygo Dreams』を手掛けたプロデューサー Pretty Pacc によるエグゼクティヴ・プロデュースによって制作された当アルバムは、ノーフィーチャー(客演なし)となっています。アルバムタイトル『Hi-Hats & Heartaches』は、Kanye West による『808s & Heartbreak』を文字った物となっています。
突然の死と遺作のリリース
6 Dogs は2021年の1月26日に、21歳という若さで自殺によってこの世を去りました。新型コロナウイルスに感染後、一時は病状が安定しましたが、闘病の中でうつ状態に陥り自殺を行ってしまったと報道されています。彼の突然の死に対し、ファンたちはもちろんのこと、同じく SoundCloud で活躍したラッパーたちをはじめとするアーティストたちからも別れのメッセージが発表されました。
そして、彼の突然の死から約2ヶ月が経過した 2021年の3月12日に、彼の遺作である4枚目のフルレングス・プロジェクト『Ronald』がリリースされました。当プロジェクトには、彼が新型コロナウイルスに感染する直前に制作していた楽曲も含まれているようです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は本日ニュープロジェクトをリリースしたばかりの 6 Dogs の生涯について振り返ってきました。未聴の方は是非彼のニューアルバムを、また彼のことを初めて知った方は、これまでの楽曲も振り返ってみてはいかがでしょうか。
Written by whoiskosuke