ノースカロライナの暴れん坊 Stunna 4 Vegas とは

みなさんこんにちは。今回は、ついに待望のニュープロジェクト『RICH YOUNGIN』をリリースした Stunna 4 Vegas について書いていこうと思います。DaBaby によるレコードレーベル である Billion Dollar Baby に所属していたり、Offset や Lil Durk なんかと共演していたりと何かと露出が増えてきた彼ですので、ご存知でないみなさんもこの機会に是非チェックしてみてください。今年は絶対にもっと上がっていきますので、、、

ニュープロジェクト「Rich Youngin」のカバーアート

Stunna 4 Vegas って?

Stunna 4 Vegas (スタナ・フォー・ベガス) こと Khalick Antonio Caldwell は ノースカロライナ州のソールズベリー出身のラッパーです。彼のキャリアはかなり浅く、ラップを始めたのは 2017年前半とかなり最近です。

実は彼、この浅く短いキャリアの中で一度だけ改名をしています。現在のステージネームの “Stunna 4 Vegas” という名義を使い始めたのは、 2018年に DaBaby をフィーチャーしたシングル『Animal』をリリースした時からで、それ以前は 「$tunna」 という名義のもとで活動していました。ちなみに各種プラットホームにて「$tunna」と検索していただければ、彼の古い作品を聴くことができます。

極端に音数の少ないビートの上で、一行一行、言葉という名の鋭い釘をハンマーでブッ刺していくような激しいラップ。それが彼の特徴であり、人気が出た理由です。多くの場合この手のスタイルは、荒々しさがポップさに勝ってしまい、メロディアスなスタイルなどに比べて倦厭されがちですが、Stunna の場合は一味違いました。荒々しいスタイルの中に、飛び跳ねるようにバウンシーなフロウを混ぜたり、声色に緩急をつけたりすることで、いい塩梅にG臭とポップさのバランスを取っています。

DaBaby との出会い

Stunna 4 Vegas のキャリアは、DaBaby と出会った時から大きく動き始めます。最近では、DaBaby が満を持してリリースしたアルバム『KIRK』の9曲目に収録されている『REALLY』 にもフィーチャーされていました。実際のところ私自身も DaBaby 経由で彼のことを知りましたし、Stunna のキャリアの中で DaBaby の存在はかなり大きいと考えられます。

彼が初めて DaBaby と共に制作した楽曲は、先ほども言及した「Animal」というシングルです。Stunna と DaBaby は両者ともにノースカロライナ出身であり、共通の知り合いであったDJ B Eazy の仲介によって出会ったそうです。

彼は Interscope Records の他に、DaBaby の主催する Billion Dollar Baby というレーベルに所属しています。何度も言いますが、 彼のキャリアに DaBaby は不可欠であり、その事実については 「Ashley」 という楽曲にて DaBaby 自身もこのようにラップしています。

I got my young n***a rich in six months

俺は6ヶ月の間に兄弟をリッチに変貌させたんだ

Stunna 4 Vegas – Ashley (feat. DaBaby)
MVもふざけまくってて、なかなか面白いので是非。

Stunna や DaBaby たちの MV は基本こんな感じのコミカルなスタイルで、Reel Goats というビデオチームによるものがほとんどです。Reel Goats によるビデオの特徴は、DaBaby の「BOP」のビデオに見られるような、ダンスを中心としたコミカルなスタイルですが、実はかなりの実力派集団で、DaBaby の「Intro」のビデオなんかを見てもらえれば、その映像技術の高さがお分りいただけると思います。

『Big 4x』

さて、話を今回の主役である Stunna 4 Vegas に戻します。

DaBaby との出会いから、Stunna 4 Vegas を取り巻く環境は劇的に変化していきました。そんな中、彼は2019年の5月に新しいプロジェクトである「Big 4x」をリリースしました。こちらのアルバムですが、DaBaby はもちろん、Lil Durk や Offset、Young Nudy などを客演として迎えつつ、プロデューサー陣はStunna が得意とする音数の少ないビートを得意とする Producer 20 や Jetsonmade などで固められています。

Lil Durk はシカゴ、Offset や Young Nudy はアトランタと、地域の垣根を超えたキャスティングなので、いろんなジャンルのラップが一枚のアルバムに集約されています。本当に聴いていて飽きないし、何よりも展開が予測できないので楽しいです。アルバムから少しだけご紹介いたしますので、まずはこちらをお聴きください。

お聴きいただいたのは「Big 4x」の中でも個人的おすすめ、Lil Durk との楽曲「Durkio」です。「Durkio」とは、Lil Durk のニックネームのようなものなんですが、客演のラッパーの名前をそのままタイトルにしてしまう大胆さが Stunna の性格を物語っています。こちらの楽曲で Stunna はこのようにラップしています。

I feel like Durkio, why? ‘Cause I signed to the streets
Lil Durk になった気分だ。なぜかって?ストリートと契約したからだよ

I can’t reply to no beef, I’m sendin’ lil’ nigga slang iron for me
喧嘩なんかに応えるはずがない。自己防衛のために武装した仲間を送り込むぞ

Stunna 4 Vegas – Durkio (feat. Lil Durk)

このラインは Lil Durk を客演に迎えたことを最大限に活かした良リリックですね。一行目は「Signed To The Streets」シリーズ (通称STTS) という Lil Durk によるシリーズアルバムの名称と、ストリートと契約を交わす (つまりギャングスタとして生きていく) ことをかけています。普通にラップしても秀逸なラインですが、Lil Durk 本人が客演として参加している楽曲でこれをラップすることによって、説得力が増し増しになっています。

Lil Durk による 「Signed To The Streets」シリーズ

『RICH YOUNGIN』

そしてそして、本日リリースされましたニュープロジェクト『RICH YOUNGIN』についてです。タイトルの「Rich Youngin」とは「金持ちの若者」を意味しており、ここ一年で急激にリッチになった彼にふさわしいタイトルだと思います。

客演は DaBaby に Lil Baby、Blac Youngsta、Offset の4人、通しの時間は30分きっかりとアルバム全体をミニマルに押さえ込んでいる印象を持ちました。

売れる前はゴリゴリだったのに、ある程度売れてしまうと番人ウケを狙ってかG臭が薄くなるラッパーって結構いるんですよね。G好きな私にとって、それはとても悲しいことなんです。ですが、Stunna の場合はそんな私をひとまず安心させてくれました。こちらは、先行シングルとしてリリースされていた Offset との楽曲「Up The Smoke」の一節です。

They wipe his nose if I say so
俺がそうしろって言ったら、仲間たちはあいつを殺すぜ

It’s a green light when I say go
俺が行けっていう時、信号が青に光ってるようにな

Stunna 4 Vegas – Up The Smoke (feat. Offset)

「Wipe someone’s nose」というスラングは、我らが Young Thug によって生み出されたギャングスタ・スラングの一つで、「対立するギャングの構成員を殺す」という意味があります。鼻水を拭いてあげる訳じゃありません。このラインで Stunna は彼の仲間が、彼に対して持っている忠誠心を、信号のたとえと絡めて強調しているんです。ギャングへの忠誠心を、ギャングスラングでラップしてくれたので、彼から漂うG臭がまだかなり強い事がわかり安心しました。

こちらも先述の Reek Goats によるビデオです。

アルバムを通して全体的に少しポップになった印象を持ちましたが、8曲目に収録されている『F*CKING UP FREESTYLE』では、依然として Stunna 独特の雰囲気を醸し出しています。こちらの楽曲は 10K.Caash や Splurge などと楽曲を制作している BeatByJeff というプロデューサーによって手がけられています。彼のビートは極端に音数が少なく、極限まで音が削ぎ落とされています。もともと、音数の少ないビートの上で激しいラップをする事が彼のアイデンティティだったので、ある意味原点回帰的な楽曲なのではないでしょうか。

まとめ

色々と書きましたが、伝えたいことはただ一つ。Stunna 4 Vegas は今年どんどん上がってきます。これからの彼の動向が楽しみです。この記事を読んで彼を知った方も、まだまだ遅くはありません。ぜひこちらのオリジナルプレイリストもチェックよろしくお願いします。

↓XXSオリジナルプレイリスト

https://music.apple.com/jp/playlist/stunna-4-vegas-richest-youngin-of-all-time/pl.u-xlyNAzdukDNrmK5?l=en

フロリダのアップカミングラッパーたち

みなさんはフロリダといえば何を思い浮かべますか?

ディズニー・ワールド・リゾートやマイアミビーチなど、印象的な観光地が多数ありますが、近年フロリダから勢いのあるラッパーたちもたくさん出てきています。

昨年若くして亡くなってしまった XXXTENTACION を始め、殺人の疑いで現在も収監されている YNW Melly、他にも Rick Ross や Kodak Black などが有名なフロリダ出身のラッパーたちですが、今回はもっとアップカミングな(出てきたばかりの新しい)ラッパーたち4名を紹介していきます。

Jackboy 

【名前】Jackboy (Pierre Delince)

【出生】ハイチ共和国

【育ち】フロリダ州 ポンパノビーチ

【生年月日】1997年9月27日

まずは Jackboy というラッパーです。”超” アップカミングというわけではないので、ご存知の方も多いと思いますが、彼は Kodak Black のレーベルである Sniper Gang に所属するラッパーです。同じレーベルに所属し Kodak から影響を受けていることもあり、かなり Kodak に似たスタイルです(ていうか、ほぼ一緒)。

Kodak をたびたび客演に迎え、徐々に知名度を伸ばしてきた彼ですが、今年の9月にリリースしたアルバム “Lost in My Head” でいきなり覚醒しました。

If  I go broke right now (Right now)
もし俺が今すぐ貧乏になったら

Would  you still be around?
それでもそばにいてくれる?

If I go to jail right now (Right now)
もし俺が今すぐ刑務所に行ったら

Baby girl, hold me down
ベイビーガール 、俺を守ってくれよ

Or  would you leave me?
それとも離れていっちゃうの?

Baby, Don’t leave me
ベイビー、そばにいてくれよ

Jackboy – Would You Leave

こちらのリリックは先ほど紹介した “Lost in My Head” に収録されている “Would You Leave” という楽曲のものです。Sniper Gang とかいう名前からして危ないの確定のレーベルに所属しているくせに、こんな純愛ソングを作ってしまう所にギャップ萌えしますよね。

リリックからも Kodak Black から強い影響を受けていることを見てとることができます。かれらはやはり生粋のギャングスタであり、生きていくためには常にストリートで動き続ける必要があります。常にストリートに繰り出さなければいけないこと、それと同時に愛する人と幸せな時間を過ごしたいということ。彼らはいつも、その二つを両立できないことに葛藤を覚えます。

まずは Kodak Black による “Why You Always Gotta Go” からのリリックです。彼女の目線から自分を放置してストリートに繰り出していく彼氏に対しての気持ちをラップした楽曲です。

Why you always gotta go?
あなたはなんでいつも行っちゃうの?

Kodak, why you gotta leave?
コダック、あなたはなぜいなくなっちゃうの?

You always in the streets, you don’t make no time for me
あなたはいつもストリートにいて、私のための時間なんて作ってくれない

Why you always gotta leave me here on my own?
あなたはなぜいつも私を一人ぼっちにさせるの?

Why we can’t ever spend leisure time home alone?
なんで私たちは二人きりの時間を過ごせないの?

Kodak Black – Why You Always Gotta Go

そして次に Jackboy による “Bipolar” からのリリックです。こちらは彼女よりストリートを優先してしまう男性側の気持ちをラップしています。

I don’t wanna see you weep
君が泣いてる姿を見たくないよ

Sorry, but I have to leave
ごめん、でも行かなくちゃ

Can’t love you, I love these streets
君を愛することはできない、俺はストリートを愛してるから

Jackboy – Bipolar

いかがでしたか。Kodak を女性役、Jackboy を男性役と考えると、一連の会話ができあがります。ずっと一緒に曲を作っていると、無意識のうちに影響を受けてしまうのでしょう。

LPB Poody 

Jackboy 同様、Kodak Black に強い影響を受けたラッパーをもう1人紹介します。それは LPB Poody です。彼は Sniper Gang にこそ所属していませんが、うまい棒が刺さったような髪型や金色のグリルズなど見た目からしてバリバリ Kodak に影響を受けています。

【名前】LPB Poody (Robert Lee Perry)

【出生・育ち】フロリダ州 オーランド

【生年月日】1999年10月23日

ちなみに名前の “LPB” とは “Light Pole Baby” の頭文字をとったものです。”Light Pole” とは街灯のことでなのですが、「小さい頃から街灯のようにずっとストリートに立ち続けなければならなかったから」というどこか切ない命名理由だそうです。

生き抜くために盗みやドラッグの売買などの犯罪行為をを小さい頃から繰り返してきたため、彼はこれまでに少なくとも13回逮捕されています。何度も警察のお世話になった彼ですが、彼の一番のヒット曲である “No LOL’z” の一節でこのようにラップしています。

My YGs rollin’ ‘round with two Glocks
俺たち若いギャング達は両手に拳銃を持って走り回ってる

The crackas blitzed the trap, we hide the drugs inside a shoebox
警察がアジトにガサ入れに来たら、俺らはドラッグを靴箱に隠すんだ

Then hit the back
そして背後を撃つ

And jump the fence and then we outta there
そしたらフェンスを飛び越えてそこから逃げるんだ

The neighbors think we look so suspicious so now they stop and stare
俺らが怪しすぎて、近所の奴らは立ち止まって俺らのことを見てくるんだ

LPB Poody – No LOL’z
https://www.youtube.com/watch?v=H_EmmOczFVU

Yungeen Ace 

続いて紹介するのは Yungeen Ace というラッパー。彼のキャリアはかなり浅く、SoundCloud に楽曲をリリースし始めたのも2018年の3月下旬です。彼の育ってきた環境はかなり厳しく、楽曲の内容もシリアスなものが多い印象です。最近ではルイジアナのラッパー JayDaYoungan とジョイントアルバムを製作したりしていて、かなりあがってきています。

【名前】Yungeen Ace (Keyanta Tyrone Bullard)

【出生】イリノイ州 シカゴ

【育ち】フロリダ州 ジャクソンヴィル

【生年月日】1998年2月12日

彼が少し前にリリースしたアルバムである “Step Harder” は、Boosie Badazz や Lil Durk、Stunna 4 Vegas などをフィーチャーし、かなりハイクオリティに仕上げられた一枚になっています。同アルバムに収録されている楽曲 “Streets Diary” では、タイトル通りストリートで育った頃の体験を日記のようにラップしています。

All my life I done struggled
人生ずっと、もがき続けて来た

I’ve been raised by my mother
ずっと母親に育てられてきたんだ

Two bedrooms, seven brothers
二つのベッドルームに、七人の兄弟

Had to share with each other
狭いけど一緒に寝なきゃいけなかった

Lifestyle in the Frigerator its nothin’ to eat
冷蔵庫の中のように冷たい人生でだったし、その中に食べ物はなかった

We steady warming up noodles, on the floor where we sleep
俺たちはラーメンを寝床で温めてたし

Eviction notice on the door, we gotta leave in a week
立ち退きの張り紙がドアに貼られて、一週間でそこを去らなきゃならないこともあった

Yungeen Ace – Streets Diary

そんな彼ですが、2018年の3月初旬に襲撃事件にあっています。3人の男に車の中から銃撃を受けており、Yungeen Ace 自身は助かったのですが、彼の兄と友人2人は銃撃によって死亡しています。それでも希望捨てずに、同月中に楽曲をリリースし始めたのです。

Rod Wave 

最後に紹介するのは Rod Wave というラッパーです。最近の若手には珍しい、声も体もかなり太めのラッパーです。これの場合、もはやアップカミングではないかもしれませんが、年齢がまだ二十歳ということもあるので紹介させて下さい。彼の特徴は勢いのあるラップに時折織り混ぜる美しい歌声とリリックで、見た目と歌声のギャップで僕たちを虜にして逃しません。ヒョロヒョロガリガリの草食系サンクララッパーのエモラップに飽きてきた方にはかなりおすすめです!


【名前】Rod Wave (Rodarius Marcell Green)

【出生・育ち】フロリダ州 セントペーターズバーグ

【生年月日】1998年8月27日

アップカミングラッパーを紹介する記事なので当たり前といえば当たり前なのですが、彼もつい最近 Kevin Gates と Lil Durk をフィーチャーしたアルバム “Ghetto Gospel” をリリースしました。

満を辞してリリースされたニューアルバムにも Lil Durk をフィーチャーしたリミックスとして収録された “Heart on Ice” にて、Rod Wave の華麗な声色の使い分けを見ることができますので、リリックと共に少しだけ見ていきましょう。まずは楽曲を聴いてみてください。

Heart been broke so many times I don’t know what to believe
何度も失望してきたんだ もう何を信じて良いのかわからない

Mama say it’s my fault, it’s my fault, I wear my heart on my sleeve
ママは俺のせいだって言った 俺は感情を露わにするよ

Think it’s best I put my heart on ice, heart on ice ’cause I can’t breathe
もう気にしないのがベストだと考えてる だってもう息すらできないし

I’ma put my heart on ice, heart on ice, it’s gettin’ the best of me
気にしないようにするよ それが俺にとってベストなんだ

Rod Wave – Heart on Ice

お気づきになられたでしょうか。勢いよくラップするところ(青文字)と、美しいメロディーで歌うところ(オレンジ文字)で、リリックの内容に差がつけられています。この楽曲の場合だと、、、

勢いよくラップするところ:過去のネガティブな思い出

美しいメロディーで歌うところ:現在または未来のネガティブなことや決意

このように Rod Wave は、巧みに声色を使い分けることで、リリックの状況を容易に想像できるようになるだけでなく、リリックに込めた感情をも私たちは容易に読み取ることができるようになっています。このテクニックは、人々の心に無意識のうちに直接訴えかけてくるので、共感をよびやすく、それも彼が人気になった要因の一つなのではないでしょうか。

さいごに

いかがでしたでしょうか。他にもフロリダからのアップカミングラッパーは Teejay3k とか 9lokknine とか YNW Bslime とか Lil Poppa とか色々いるんですけど(プレイリストにオススメの楽曲を入れておきます。)、とりあえず4人紹介してみました。XXS Magazine の Apple Music にて今回紹介した楽曲や紹介しきれなかったフロリダのアップカミングラッパーたちの楽曲を集めたプレイリストを公開しましたので、こちらも合わせてチェックお願いします。

⬇︎ XXS オリジナルプレイリスト “Upcoming Rapper From Florida” ⬇︎

https://music.apple.com/jp/playlist/upcoming-rappers-from-florida/pl.u-2aoqpzDsNWXxYz0?l=en

The Weeknd – Heartless 和訳・解説

みなさんこんにちは。ついに The Weeknd が動き出しましたね。本日 自身がキュレーターを務めるラジオ番組の Memento Mori にてトリに新曲の “Heartless” を公開しました。その後、全てのストリーミングサービスにて配信開始されたこちらの曲を、世界最速で和訳してみましたのでよければご覧ください。

The Weeknd – Heartless (プロデューサーは Metro Boomin)

和訳

Never need a bitch, I’m what a bitch need (Bitch need)

俺に女は要らない。女が俺を欲しがるから。

Tryna find the one that can fix me

俺を魅了できる女を探してる

I’ve been dodgin’ death in the six speed

俺はすごい速さで死を回避してきた

”six speed”とは車のマニュアル変速を6に入れてスピードを出すこと)

マニュアル車の6段変速機

Amphetamine got my stummy feelin’ sickly

アンフェタミンのせいで腹が痛いよ

(アンフェタミンとはアメリカなどでAD/HDの治療などにおいて処方されている薬のこと。日本では覚醒剤の種類として規制されている。)

Yeah, I want it all now

そう。俺はいますぐ全部を手に入れたい

I’ve been runnin’ through the pussy, need a dog pound

俺はクソみたいな状況でも走り抜けてきた。野犬収容所に入るべきだよな。

”dog pound” とは飼い主から逃げた犬や野犬を保護するための公共の檻のこと。駆け抜けてきた自分を犬に喩えてその檻に入れられるべきだと言っている)

Hundred models gettin’ faded in the compound

何百ものモデルがこの争いの中で消えていった。

(Weekndの恋人になるために沢山のモデルが争ったが、結局皆消えていったという意味か。)

Tryna love me, but they never get a pulse down

みんな俺のことを愛そうとするけど、彼女らは興奮を抑えることができないんだ。

[Hook]

Why? ‘Cause I’m heartless

なぜかって?それはおれが冷酷だからだよ。

And I’m back to my ways ’cause I’m heartless

そして俺は俺のやり方で行くよ。所詮薄情者だし。

All this money and this pain got me heartless

金やこの痛みが俺を冷酷にする

Low life for life ’cause I’m heartless

俺は冷酷だし、死ぬまでクソみたいな生活を送るよ。

Said I’m heartless

俺は冷酷だって言っただろ。

Tryna be a better man, but I’m heartless

もっと良い男になろうと頑張ったけど、結局同じだった。

Never be a weddin’ plan for the heartless

そんな俺は結婚する予定もないし

Low life for life ’cause I’m heartless

俺は冷酷だし、死ぬまでクソみたいな生活を送るよ。

(Weekndはフリースタイルの “Gone” をラップした時点から、Futureとの楽曲である “Low Life” をリリースしたとき、そして今回の楽曲を制作するまでずっと自分の成功した人生の影に良くない人生が存在するという考えを持ち続けている。)

Future – Low Life (feat. The Weeknd)

[Verse 2]

Said I’m heartless

俺は冷酷だって言っただろ

So much pussy, it be fallin’ out the pocket

ポケットからこぼれ落ちるほどのたくさんの女。

Metro Boomin turn this ho into a moshpit

メトロブーミンがその女たちをモッシュピットの中にぶち込む

(Metro Boomin はこの楽曲のプロデュースも手がけるアトランタ出身のプロデューサー)

Tesla pill got me flyin’ like a cockpit

テスラピルを飲んで、コックピットで操縦して飛んでるような気分だ

(テスラピルとは、自動車会社であるテスラのロゴをかたどった最も有名なタイプのMDMAの錠剤のこと)

テスラピル

Yeah, I got her watchin’

彼女が俺を見てる

Call me up, turn that pussy to a faucet

俺に電話してくれよ。お前のあそこを蛇口みたいにしてやるよ。(説明しなくても分かるよね)

Duffle bags full of drugs and a rocket

ダッフルバックにパンパンのドラッグとジョイント

(ここで”rocket” はマリファナを巻いたジョイントのことを意味している。火をつけると片側から煙が出てロケットみたいだから。)

イメージが掴みにくい方のために特別に参考画像を用意しました。今回だけね!

Stix drunk, but he never miss a target

Stixは酔っ払ってるけど、彼は目標を見失わない

(”Stix”はXOレーベルのメンバーの一人)

Photoshoots, I’m a star now (Star)

写真撮影。俺はいまスターだ。

I’m talkin’ Time, Rolling Stone, and Bazaar now (‘Zaar)

今はタイム、ローリングストーンズ、バザールにインタビューを受けるほどだ。

(ひとつ前の「俺はスターだ」という発言を強調している。ちなみに Weeknd は Time の表紙を飾ったことがある。)

Sellin’ dreams to these girls with their guard down (What?)

女たちがガードを緩めてる隙に、俺は思わせぶりをしちゃう

Seven years, I’ve been swimmin’ with the sharks now

7年間俺はサメたちの中を必死に泳いできた

(Weekndは7年前にデビューした。サメはデビューしてから目の当たりにしてきた周りの悪い人間のことを意味している)

[hook]

I lost my heart and my mind

俺は心も感情も失った。

I try to always do right

いつも正しいことをしようとしている。

I thought I lost you this time

今回は君を失ったと思ってた。

You just came back in my life

でも君は俺の前に戻ってきてくれた。

(破局してよりを戻した Weeknd の恋人 Bella Hadid のことを歌っている。)

左 : Bella Hadid 右 : The Weeknd (言わんでも分かるか)

You never gave up on me

君は俺のことを諦めなかった。

I’ll never know what you see (Why won’t you?)

俺は君が何を見ているかは分かりっこない。

I don’t do well when alone (Oh yeah)

1人の時はやっぱりうまくいかないよ

[Hook]

シングル一曲出すだけでここまで盛り上がらせる。さすが Weeknd です。アルバムも出そうな感じなので楽しみに待ちましょう。では。

フロリダの若手ラッパー YNW Melly とは

みなさんこんにちは。ここ最近 YNWクルーのラッパーたちが大きく動き出しています。“YNW”とは “Young N***a World” の略称であり、今回紹介する YNW Melly が所属しているフロリダを拠点とした楽曲制作グループの名称です。

Melly の実弟である YNW Bslime は先週待望のアルバム “BABY GOAT” をリリースしましたし、まだまだ無名ですが YNW Khris は SoundCloud にて楽曲を発表し始めました。

YNW Melly (左) と YNW Bslime (右)

そんな中 YNW のリーダーである YNW Melly が本日、三枚目のアルバムである “Melly vs Melvin” をリリースしました。ということで、彼の過去の楽曲や、本日リリースされたアルバムについて紹介していこうと思います。

YNW Melly って誰?

それではまずは基本情報から。YNW Melly こと Jamel Mourice Demons は 1999年3月1日生まれの20歳。フロリダ生まれのラッパーです。YNW Melly の特徴としては、メロウなフロウやオートチューンをバリバリに効かせたフックなどがあげられます。決してラップが上手いという訳ではありませんが、キャッチーなメロディーによって人々の心を掴んで離さないと言えるでしょう。

過酷な幼少期

彼は1999年の3月1日にオハイオ出身の両親のもとに生まれました。彼の母親が彼を授かった時なんと彼女は14歳であり、9th grade (日本の中学3年生で15歳)の時に Melly を出産しました。

父親は Melly が生まれてすぐに失踪してしまった為、母親と母方の祖母によって育てられました。フロリダの Brierwood という地域に3人で暮らしていましたが、家賃の支払いが困難になった為、更に貧しい地域に移り住みました。

彼は15歳の頃から SoundCloud に楽曲をアップし始め、同時にアメリカの2大ギャングの1つである Bloods に加入しました。その翌年、彼は Vero Beach 高校の周辺で同学校の生徒に向かって銃を発砲した罪に問われて、数ヶ月の間刑務所に拘留されています。

ここで彼による楽曲を1つ紹介します。1つ目のミックステープ “I Am You” に収録されている “Mama Cry” という楽曲です。この曲は、先程説明しました16歳の時に起こした発砲事件によって刑務所に入れられてしまった彼が、母親に向けて懺悔するという内容なのですが、こちらの曲のMVに彼が家のソファの下から本物の銃を見つけてしまうシーンが生々しく描かれています。

そんな彼ですが、厳しい家庭環境の影響もあってか多重人格障害や注意欠陥症を患っているようです。彼のデビューアルバムである “We All Shine” に収録されており、“Mixed Personalities” という楽曲もタイトル通り多重人格についての楽曲です。

ちなみにこの曲はKanye West を客演に呼んでいるのですが、よく考えてみると彼の素晴らしい功績だと言えます。Lil Pump は18歳、Smoke Purpp は20歳にして Kanye とコラボ曲を発表しましたが、いずれも Kanye からのオファーです。もちろんそれでも凄いんですが、Melly の場合は自身のアルバムに Kanye を客演として呼んでいます。

YNW Crew

YNW クルーの仲間である YNW SakChaser と YNW Juvy を殺害した罪で起訴されているMelly ですが、他にも YNW Peso などのクルーが存在します。彼らは全員ラッパーとして活動しており、楽曲が日の目を見ない頃から力を合わせて活動していました。フロリダはアトランタなどに比べて有名なラッパーが少ないこともあり、彼らは大人たちに「ラッパーなんかより仕事を見つけた方がいいぜ。」とか「ウェンディーズで働いとけよ。2年後には解雇されるだろうけどよ。」などとからかわれていた過去を SakChaser は振り返って語っています。こちらのオフィシャルのドキュメンタリーで、彼らの生活の多くを知ることができますのでぜひご覧ください。( Melly のおかんとかも登場するので見応えあり。)

Murder on My Mind

“We All Shine” をリリースした直後である、2019年の2月に彼は仲間であるYNWクルーの YNW SakChaser と YNW Juvy の2人を殺害した容疑で起訴されました。更に2019年の5月には彼に死刑が宣告される可能性が生じていると TMZ によって伝えられました。

今現在もバリバリ牢屋の中にいる Melly ですので、今回のアルバムは獄中からのリリースということになります。

そのようなニュースが報道されたことがきっかけに、Billboard のチャートの上位に急上昇した曲が “Mind on My Murder” という楽曲です。この楽曲は彼が過去にギャングの仲間を誤って銃撃、殺害してしまった事件について歌っているものです。

そもそも、自分が加害者である殺人事件のことを楽曲にすると時点で、並大抵の狂人ではないとお分かり頂けると思います。そしてこの曲なのですが、リリックがとにかくリアルです。彼がなぜ、どのように仲間を殺してしまったのかが嫌というほど鮮明に描かれています。以下、”Mind on My Murder” の生々しいリリックを抜粋。

って感じで、頭の中に事件の現場が鮮明に浮かび上がりましたよね。このようなリアルすぎる YNW Melly の楽曲の特徴の1つです。日本に住んでいる僕らが想像もしないようなことが、この世界のどこかで実際に起こっていることに気づかされ、耳を覆いたくなるリリックも沢山あります。

更に、更にですよ。彼はこの ”Murder on My Mind” を殺害された被害者の視点に立って、全く逆の目線でラップした “Mind on My Murder” を発表しています。先程紹介したリリックも全て被害者の受け身の形に置き換えられています。生粋のサイコパス気質で本当に怖いっていうか、普通に引くレベルやわ。

もうリリックだけでリスナーに事件の様子を鮮明に想起させておいた挙句、MVでそれをビジュアライズして、そのイメージを確固としたものに仕立て上げてくれています。悪魔の権化かよ。

Melly vs Melvin

さて、ここからは本日リリースされた ”Melly vs Melvin” についてです。まず、アルバムのタイトルの ”Melvin”ってなんや?と思う方もいらっしゃると思いますが、簡単に言うと Melvin は Melly の第二の自分です。

Genius のインタビューで「俺は多重人格で、他の人間が中にいる。Mellyはみんなから愛されていて、みんなのことを愛してる。Melvinは、Mellyを悪い人間から守ってくれるもう一人の自分なんだ」と語っています。ということで、今作のテーマは自分と自分自身のもう一つの自分との間に起こる闘争や葛藤と言ったところでしょうか。

アルバムのアートワークも Melly と Melvin の二つの顔が描かれているデザインとなっています。

今回のアルバムですが、一曲目から Melly らしい楽曲になっていると思います。ピアノビートの上で地声とハイトーンボイスを織り交ぜた独特なフロウを披露してくれています。今年に入って1週目に “We All Shine” をリリースした彼ですが、約一年ぶりにやっと帰ってきた!って感じがしましたね。アルバム全体としても、客演をほとんど迎えず実力だけで勝負してる感はありますね。(獄中なので客演を迎えることが難しかったというのもあると思いますが。)

今作の5曲目である”Billboard” では早口言葉のようなフックを披露しています。

Used to rob n****s for that bill, when I get board, now I’m on billboards

金を盗んでたよ。でも俺は今ビルボードのチャートにランクインしてる

YNW Melly – Billboard

音源を聴いていただければわかる通り、早口言葉のようなワードプレイをラップしています。

続いて紹介するのは 9曲目にの “100K” という楽曲。こちらのが楽曲では今作のテーマにもなっている二重人格的なリリックが見受けられます。

I would not ever change on you lil’ baby

俺は絶対君への思いを変えることはないよ
I promise I love you, and never would put no one body above you

君を愛してるって約束するし、君より誰かを愛することはない
Ugh, I might just fuck on your sister

くそ!君の姉妹とヤちゃうかも

YNW Melly – 100K

彼女への愛する想いを優しく歌い上げたすぐ後に、彼女の姉妹とセックスするかもしれないと言っちゃうあたり、完全にMelvin が見え隠れしています。インタビューでは、「Melvin は僕を悪い人間から守ってくれる存在」とか言ってたくせに、都合のいいように Melvin を使って言い訳しようとしているのが見え見えです。

今回のアルバムは、逮捕される前にレコーディングしたものということもあり、少し新しさにかける部分もありましたが、獄中から新曲を出したということ自体に意味があることだと思います。

Music By YNW Melly

ここからはいつものようにおすすめの楽曲を紹介していこうと思います。まず初めに紹介するのは “772 Love” という楽曲です。

タイトルにある “772” とは、彼が16歳の頃に発砲事件を起こした高校周辺の地域のエリアコードで、彼はこの地域を当時の好きだった女の子とドライブしていました。この曲はその頃のほろ苦い思い出をメロウなフロウに乗せて甘く歌い上げています。狂気的な楽曲を制作する反面、このようなラブソングも同時にこなしてしまうギャップには惹かれてしまいます。

YNW Melly – 772 Love

YNW Melly の楽曲を聴く際に押さえておきたいポイントの1つでもあるのが、オートチューンバリバリな奇妙な歌声です。初めて聴く人は、受け付けない歌声かもしれませんが、Melly を好きになる人は彼のそのようなスタイルに惚れ込む人も多いです。こちらの曲で存分に楽しめますので一度聞いてみてください。ちなみに2:44秒くらいから本領発揮します。

YNW Melly – Alarm

おわりに

Melly への深すぎる愛によって長ったらしい記事になってしまいました。しかし、 Melly についての情報がここまでまとめられた記事が他にないと思うので、これから Melly を知る方、もっと知りたい方の目に止まってくれれば嬉しいです。ここまで読んでいただいてありがとうございました。ではまた次回!

↓今回紹介した楽曲などを収録したオリジナルプレイリストです。

https://music.apple.com/jp/playlist/melly-vs-melvin/pl.u-2aoqp4bfNWXxYz0?l=en

ヒップホップと高級車

ロールス・ロイスにランボルギーニ。

フェラーリやベントレー。

これらの高級車は、誰もが一度は夢見る永遠の憧れです。そして、やはりヒップホップと高級車の関係は切っても切り離せませんし、ラッパー達にとっても高級車は光り輝く宝石のようなものなのです。今回はそれらの高級車がどのようなものなのか、ラップのリリックと絡めながら解説していく記事になります。

高級車を意味するスラング

Expensive Car (高級な車) なんて言葉はリリックの中ではほとんど聞いたことがありません。例えば、“Foreign” というスラング。Playboi Carti も “Foreign” ってタイトルの曲を出してますが、学校なんかではこの言葉は「外国の」なんて意味で教わりますよね。結論から言うとこのスラングは、そのまま「(外国の)車」を表します。ですからアメリカのラッパー達にとってアメリカ以外で製造された高級車(ドイツのメルセデス・ベンツやイタリアのフェラーリなど)のことを指すスラングです。

あと、主に使われている高級車を表すスラングは “Whip” です。”Whip” って言葉にはもともと「むちで打つ」などの意味があるんですが、なぜこれが車を表すようになったか、そのヒントはフェラーリのエンブレムにあるんです。フェラーリのエンブレムは皆さんご存知の通り馬のデザインですよね。馬を走らせる時にむちで叩くことから、はじめはフェラーリを表すスラングとして使われていました。それが時とともに高級車全般をさすスラングに変容していったってわけです。

Rolls Royce

はじめは高級車の王様であるロールスロイスについてです。イギリスに拠点を置いた高級車ブランドなのですが、各国の王室が公用車として採用していたりするので、車に詳しくなくても聞いたことがあるかもしれません。

ロールス・ロイスには “Ghost” (ゴースト) や “Phantom” (ファントム)、”Wraith” (レイス) などいくつかのモデルが存在します。ラッパーたちはリリックの中で “Rolls Royce” というブランドの名前を登場させることはむしろ少なく、先述のモデル名で呼ぶことの方が多いです。モデルによって最大で約2000万円の価格の違いが生じてきますから、自慢気質なラッパーたちにとって一番高いランクのモデルを所有していることをラップしたい気持ちがあるのでしょう。ちなみにロールス・ロイスのエンブレムにちなんで “Double R” と呼ばれたりもします。

ロールス・ロイスの中で最もハイクラスなモデルはファントムです。車体価格は5570万円で、様々なオプションを付けるとゆうに6000万円を超えてくる生粋の高級車ですね。ちなみにファントムの中にも上位モデルが存在し、そちらの車体価格は6670万円にも上ります。空前絶後のバズを起こした Lil Tecca の “Ransom” で彼はこのようにラップしています。

Hop outside a Ghost and hop up in a Phantom

ゴーストから跳び降りて、ファントムに跳び乗る

Lil Tecca – Ransom

ロールスロイスの中で最もお手頃なモデルであるゴーストから跳び降りて、最も高額なファントムに乗り換えるとラップしているわけです。ただ、Lil Tecca ら Genius のリリック解説動画において、リリックに登場することは殆ど嘘であり車は持ってないし運転すらしないと公言しています。

名前的に一番かっこいいゴーストというモデルですが、88GLAM が NAV の ”Racks in My Sleep” に参加した時に、Derek Wise このような素晴らしいラインを披露しています。

Poltergeist, we in a Ghost, we can’t be seen (Skrrt, skrrt)

ポルターガイスト 俺たちはゴーストに乗ってる 誰も俺たちを見ることはできないぜ

Nav – Racks in My Sleep (feat. 88GLAM)

これはダブルミーニングを駆使したかっこいいリリックですね。「ポルターガイスト」とは誰も触れていないものが突然動き出す怪奇現象ですが、Derek Wise は「お化け」という意味の “Ghost” とロールスロイスのモデル名の “Ghost” をかけています。「俺たちはロールス・ロイス ゴーストに乗ってるから、お化けみたいに誰にも見られずに車を動かせる。まるでポルターガイストだ。」という感じです。

ちなみに、車系の歌詞がラップされたときなどに、アドリブでよく使われる “skrrt” という言葉は、車がドリフトした際にタイヤが地面に擦れる音を表現したオノマトペです。

Bentley

次に紹介するのはベントレーです。こちらもイギリスの高級車メーカーであり、翼の真ん中に “B” のロゴが特徴的です。ベントレーは現行のほとんどのモデルが約3000万円であり、ロールスロイスに比べると比較的お手頃です。Bentayga (ベンテイガ) というSUVも製造しており高級車とスポーツカーの両方の要素をミックスした感じですね。

世界最高峰のSUV ベンテイガ

ちなみに Lil Uzi Vert は名だたる高級車を全てカーキにペイントし、無駄にいかついオプションパーツを装着した様子をInstagramに投稿していましたが、ベントレーのコンチネンタルというモデル、もはや原型がないほど改造しています。バンパープロテクターやスペアタイヤを搭載し、オフロードも走行可能なタイヤに履き替えています。

Lil Uzi Vert の車にカスタムを施したガレージ Car Flex より

ちなみに Lil Uzi はもう一台カーキのベントレーを所有していましたが、盛大に事故って廃車となったそうです。

J.Cole は自身の楽曲である “KOD” にてベントレーに言及しつつこんなラップをしています。

This is what you call a flip

これが君が “flip” って呼ぶものだろ
Ten keys from a quarter brick

1/4 ポンドから10キロのコカイン

Bentley from his mama’s whip

ママの車からベントレーに

J.Cole – KOD

“flip” っていうのは、安いドラッグを買ってそれを高値で転売する行為を表すスラングです。J.Cole は昔、このようにドラッグの転売を行って稼いでいた過去があるようで、その時のことについてのラインです。”key” と “brick” はどちらもドラッグ(主にコカインに用いる)の重さを表すスラングで、”key” は1キログラム “brick” は約450グラムを表しています。つまり、彼は110gのコカインを安価で入手し、それを転売することで10kgのコカインが買えるほどのお金を稼いだわけです。そうして稼いだお金で、自分では買うことができなかったため使用していた母親の車を卒業して、ベントレーをゲットしたんです。ドラッグビジネスはいつも桁が違いすぎて怖いですよね。

ベントレーに限ったことではありませんが、ラッパー達はよくリリックの中で “tint” という言葉を使います。”tint” というのは車の窓をくもらせて、外から内部を見えにくくすることです。ほとんどの車は元から後部座席に軽い “tint” が施されていますが、ラッパー達はしばしばカスタムによって外からの視線を完全に遮断します。窓に特殊な加工を施して自由自在に窓の透明度を調節することも可能なのですが、Nicki Minaj は自身の楽曲 “Chun Li” の中で “Bentley tinta on” とラップしています。彼女はベントレーに調節可能の曇りガラス機能をカスタムを施したようです。

透明度を調節可能な曇りガラスのカスタムを搭載した車

Lamborghini

この記事の最後に紹介するのは、やはり何と言ってもランボルギーニです。ランボルギーニは他の高級車に比べてもかなりスポーツカーよりな気がしますが、ここ最近でランボルギーニについてラップするラッパーがかなり増えました。ランボルギーニといえば、アヴェンタドールやウラカンのようなスポーティなモデルを一番に想像するでしょう。しかし、最近のラッパー達の間での流行の波は完全に Lamborghini Urus (ウルス) です。ウルスは2017年に発表されたランボルギーニ初のSUVです。ベンテイガを含むSUVの人気からは、やはり乗りやすい車に乗りたいというラッパー達の本音が垣間見えます。

売れっ子ラッパー達はこぞってウルスを納車しまくってますが、Gunna もそのうちの一人です。Gunna はものすごく鮮やかなオレンジ色のウルスを納車しましたが、それについて Future の “Unicorn Purp” という楽曲に参加した際にこのようにラップしています。

New Lamborghini, the Urus, it came in all orange, it look like a pumpkin (Yeah)

新しくランボルギーニ・ウルスを買ったぜ。全面オレンジでかぼちゃみたいだ

Future – Unicorn Purp (feat. Young Thug & Gunna)
Gunna の Instagram より

いかがでしたか。今回は三種類しか紹介できませんでしたが、今リリックに頻出するベスト3に絞ってみたつもりです。気をつけて聞いていると、一曲通して車の名前が出てこない曲の方が少ないと言っても過言ではないでしょう。僕は将来 Tesla のModel X という車に乗ることを決めているのですが、それがどのような車なのかはまた第二弾で書くことにします。それではありがとうございました。

Yo Pi’erre! You Wanna Come Out of Here?

先日、Kanye West による待望の新作『Jesus is King』 がやっとリリースされました。ゴスペル的要素を前面に押し出しながらも、新しいヒップホップの要素も巧みに混ぜられており、まるで新しいジャンルの誕生を目の当たりにした気分になりました。しかし、今回の主役は Kanye ではありません。今回は 『Jesus is King』 にもクレジットされた若手天才プロデューサー Pi’erre Bourne についてです。

Pi’erre Bourne って誰?

Pi’erre Bourne (写真はアトランタの写真家 Gunner Stahl によるもの)

Pi’erre Bourne (ピエール・ボーン) こと Jordan Timothy Jenks は 1993年生まれのトラックメーカーです。彼がプロデュースした Playboi Carti の 『Magnolia』 が大ヒットして人気に火がついたわけですが、彼らは二人ともファーストネームが Jordan と同じなんですね。Pi’erre はニューヨーク、Carti はアトランタと出身は違いますが、本当の兄弟のようにともにキャリアを築いてきたんです(Pi’erre はのちにアトランタに移住しています)。Pi’erre と言えばまず、あのプロデューサータグです。みなさん一度は聞いたことがあると思いますが、念のため、Playboi Carti との大ヒット曲 『Magnolia』 をお聴きください。

いかがでしたでしょうか。Playboi Carti が浮遊感のあるフロウで Pi’erre のトラックにアプローチしています。この曲が、Pi’erre にとっても、Carti によっても原点となったと言っても過言ではないでしょう。ちなみに 『Yo Pi’erre! you wanna come out of here?』 というプロデューサータグについてですが、これは The Jamie Foxx Show というアメリカのコメディー番組の一コマをサンプリングしたものです。

Pi’erre Bourne のプロデューサータグの元ネタ

彼の最大の特徴は、コミカルなサウンドや怪しげなサウンドなど、普通のプロデューサーが使わないような音を組み合わせてビートを作り出すところです。これほど少し聴いただけで誰が作ったビートかを判別できるビートメーカーは彼くらいでしょう。さらに彼のすごいところは、自分自身が作ったビートの上でラップまでしてしまうところです。Pi’erre Bourne という男は、彼で始まり彼で完結してしまいます。そんな彼は今年の6月に自らのアルバム 『The Life of Pi’erre 4』をリリースしています。全ての曲を自分自身でプロデュース、レコーディング、ミキシングした完全自己完結アルバムですが、圧倒的なクオリティで私たちを驚かせてくれました。今回はこちらのアルバムから一曲、『How High』 をご紹介します。まずは聴いてみてください。

こちらの楽曲は彼がアトランタに移り住む前のニューヨークでの生活と、ビートメーカーやラッパーとして成功した現在を比較してラップしたものです。地面を一歩一歩踏みしめて着実に歩みを進めるかのような重いビートに合わせて過去の思い出や現在の成功した生活を誇示しています。こちらの曲からは面白いリリックを少し引用してみます。

Roamin’ around Queens with my bros

Queens を仲間たちと歩き回る

We ain’t have no money, we was broke

俺たちには金がなかったんだ、そう、貧乏だった

Police at the fucking front door

警察が玄関先に来たら

Flush the shit in the toilet bowl

ブツをトイレに流すんだ

Queens というのは、Pi’erre の生まれたニューヨークの街の名前です。彼はアトランタに移住して音楽キャリアを開始するまで、ニューヨークの大学でグラフィックを学んでいました。仲間たちと街に繰り出して遊び呆けていたので、全くお金を持っていない貧乏学生だったそうです。当時、ニューヨークではマリファナの嗜好的使用の規制が厳しかったため、ガサ入れのために玄関先に警察がやって来たと分かったら、証拠隠滅のためにすぐにマリファナをトイレに流す必要があったのです。

ちなみにこちらの楽曲の終盤の電話の音声は Lil Uzi Vert の声を録音したもので、Lil Uzi Vert が電話越しの女性に「『Yo Pi’erre! you wanna come out here?』って言って!」としつこく迫っています。曲のアウトロだけのために Lil Uzi を起用できるのも、彼か Working on Dying のメンバーくらいではないでしょうか。

Pi’erre Bourne と Young Nudy

Pi’erre と言えば Playboi Carti のプロデューサーという感じで世間に認知されていますが、彼のベストパートナーは Young Nudy であると考える人も少なくありません。Young Nudy はアトランタの危険地帯である Zone 6 出身で、21 Savage のいとこにあたるラッパーなのですが、彼とは2016年ごろからたくさんの楽曲を制作しています。Nudy のアルバム 『Slimeball 2』や 『Nudy Land』 などに収録されている楽曲は、ほとんど Pi’erre によるプロデュースによって生み出されています。

ゆったりとスローテンポのゲームBGMのようなビートが20秒ほど続いたあと、いきなり例のプロデューサータグとともに勢いのあるラップが始まります。そんなゴールデンコンビの彼らですが、今年になってやっとコラボアルバムをリリースしました。Nudy のアルバム 『Slimeball』 と Pi’erre Bourne の名前を掛け合わせて 『Sli’merre』 というタイトルです。

『Slimeball 2』の時点で、ほぼ全曲 Pi’erre によるプロデュースだったため、実質『Slimeball 2』も『Sli’merre』ですね。こちらのアルバムからも一曲ご紹介します。

お聴きいただいたのは『Sli’merre』 より『Joker』という楽曲です。超スローテンポの気だるいビートなのですか、よく聴くとクラブで低音を流しすぎてスピーカーや壁が震えているような音が聴こえてきます。セルフで音を割ってしまうという彼らしい特殊すぎる技法を盛り込んでおり、とても面白い楽曲に仕上がっていると思います。ちなみに、Lil Uzi Vert の 『X』 や Playboi Carti の 『Poke It Up』 などの冒頭に挿入されているドアが開いた音のプロデューサータグは、例のセリフが Young Nudy によって録り直されたものです。

Pi’erre Bourne による偉業

彼はここ数年の音楽キャリアの中で数え切れないほどの偉業を成し遂げています。並大抵のトラップビートメーカーではたどり着けないような領域まで進出しつつあるというのが彼の現状です。まず最初に、話題がフレッシュなうちに紹介しておきたいのが Kanye West の待望の新アルバム 『JESUS IS KING』への参加です。Pi’erre が Kanye と曲を作るのは今回で3回目ですが、制作プロセスが想像できないレベルに複雑なビートや、はたまた極端に音数が少ないビートを提供したりと、Kanye とともに様々なスタイルに挑戦しています。彼は “JESUS IS KING” に収録されている 『On God』 と 『Use This Gospel』 の二曲のビートを担当しているのですが、今回は後者を紹介したいと思います。

『On God』 にはプロデューサータグが挿入されていますが、こちらの曲はタグがないので、お気付きでない方も多いと思いますが、実はこれも Pi’erre のビートなんです。

この楽曲ですが、控えめに言ってヒップホップ史上の歴史に十分残りえる伝説的な楽曲なんです。客演の Clipse というのは 92年に Pusha T と No Malice によって結成されたヒップホップデュオの名前です。つまり私たちは今、約30年前に結成されたヒップホップデュオのガチのラップを、最新鋭のプロデューサーのビートの上で聴くという伝説を目の当たりにしてしまったんです。しかもそれを Kenny G のサックスとともに、Kanye の曲の中で。

彼の最近の功績として外せないのは Chance The Rapper の楽曲への参加ですね。Chance の最新アルバム 『The Big Day』 に収録されている 『Slide Around』 のプロデューサーとしてクレジットされています。

この曲では Pi’erre らしい軽快で爽やかなビートの上で シカゴの Chance と Lil Durk、ニューヨークの Nicki Minaj による美しいラップのハーモニーを聴くことができます。この曲の Lil Durk のバースは本当にたまらないです。ちなみにこちらの曲をはじめ、最近 Pi’erre のビートにおいて乱用されているガラスが割れるような効果音は Fortnite のサウンドエフェクトのサンプリングです。

Pi’erre Bourne は神出鬼没です。誰のアルバムにクレジットされるか予想もつかない。だからこそ彼のビートが聴こえてきたら、その途端に僕は笑顔になれます。Kanye West のゴスペルアルバムにクレジットされているなか、Young Nudy とコラボアルバムを制作し、さらにはYoung Thug の 『So Much Fun』のうちの4曲をプロデュースしました。そんな彼の、どこにでもいるけど、どこにでもいない、そんな出現率が私たちの心を掴んで離そうとしません。

Pi’erre Bourne とアップカミングなラッパーたち

Pi’erre は大物アーティストの楽曲のプロデュースを担当すると同時に、アップカミングなラッパー達にもビートを提供し続けています。まず初めに紹介するのが Chavo というラッパーです。彼はアトランタを拠点とするラッパーですが、まだまだ知名度が低いのも事実です。そんな無名といっても良いラッパーの14曲のミックステープのうちの7曲をプロデュースしてしまう、それが彼なんです。しかも、無名だからといって一切手を抜かずに相変わらず物凄いビートを提供し続けています。

このリンクを貼った時点でこの動画の再生回数は151回。

続いて紹介するのは、こちらもアトランタから Slimesito というラッパーです。彼は K$upreme のアルバムに客演に呼ばれていたりしているので、もしかしたら名前を見たことがあるかもしれません。Pi’erre は Slimesito にふたつのビートを提供しているのですが、どちらもレベルがかなり高いビートなんです。私がラッパーの立場だったら、ビートにうまく乗れずお蔵入りにしかねないようなビートです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。Pi’erre Bourne の魅力が少しでも伝わったなら嬉しいです。実は最近、USのラップが日本で流行らない理由を考えていたんです。やはりUSをほとんど聞かない人が口を揃えていうことは「英語がわからないから聴いても意味がない」なんですよね。そう聞いたとき、やはりビートの面白さや奥深さから紹介していくのが誰にとっても面白いかなと思いついたんです。もちろんヒップホップにはリリカルで面白い側面は十分にあり、それも重要なことだと思いますが、単純に音を楽しむってことも大切だと思うんです。Pi’erre のビートなんか「英語がわからない」とかいう次元をはるかに超えて、世界中の人々が感覚的に享受できるものですからね。ですので、もし読んでくださってるあなたの周りに、USを英語がわからないからという理由で食わず嫌いしている方がいたら、この記事を進めてあげてほしいです。

今回紹介した楽曲+αのオリジナルプレイリストです。もしよければ Apple Music のフォローもお願いします。

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