Gunna が調子に乗ってロレックスを購入したことを後悔

ニューアルバム『WUNNA』のリリースを今週末に控え、先日はアルバムからのリードシングル『WUNNA』をリリースしたラッパーの Gunna。

数々のヒット曲を生み出し、すでに億万長者である彼だが、今までに買って後悔したものがあることを Men’s Health のインタビューで明かした。

Gunna は三枚目のミックステープ『Drip Season 3』をリリースしてからたくさんのお金を稼ぐことに成功したが、はじめは稼いだお金を全て使わないようにしていたと語った。

I bought my mom a house before I was a millionaire. That’s one of the things I just had to do.

俺は億万長者に成り上がる前に母親に家を買ったんだ。それは俺にとってやるべきことのひとつだった。

お金に対して意外な一面を見せた彼だが、「今までの買い物で最悪の思い出があるものは」という質問には、十万ドルを費やして購入したロレックスだと回答した。

This watch is a two-tone Prezi Rolex… I had to buy two watches to make this one watch, because they don’t make two-tone watches. The only reason I really bought it is because on the song “Oh Okay” I said ‘Two tone Prezi Rolex, Yeah this drip you can’t catch

買ったのはツートーンのロレックスだ。でも、ロレックスはツートーンの時計を作っていないから、これを作るために二本の時計を買わなければならなかったんだ。何故こんなことをしたかというと、俺が『Oh Okay』という曲で『ツートーンのロレックス、お前らには到底真似できない』とラップしてしまったからなんだ。

自分のラップした内容で自分自身の首を絞めてしまったことを明かした Gunna だったが、歌詞との辻褄が合うように実生活を操作しなければならないとは、なんともラッパーらしい悩みである。

今回のニューアルバムからはどのようなリリックが飛び出すのかも楽しみに待ちたいところだ。先日リリースされた彼の最新曲はこちらから ↓

Lil Wayne の「駄作」が現在のヒップホップに与えた多大な影響

XXS Magazine をご覧の皆さん、お久しぶりです。音楽ブログ「にんじゃりGang Bang」のアボかどです。

2020年というキリの良い数字の今年。Kanye West『My Beautiful Twisted Fantasy』や Drake『Thank Me Later』、Waka Flocka Flame『Flockavelli』など、多くの名作が10周年を迎えました。そして、「迷」作として歴史に残ってしまった一枚の作品も今年で10歳。今回は、Lil Wayne が2010年にリリースした悪名高いアルバム、『Rebirth』について考えていきます。

Lil Wayne のキャリアのおさらい 

まず、『Rebirth』に至るまでの Lil Wayne のキャリアを軽くおさらいします。

1982年生まれ・ルイジアナ州ニューオーリンズ出身の Dwayne Carter こと Lil Wayne は、8歳からラップを始めて91年頃には Birdman と出会い Cash Moneyと契約。95年にはB.G.とのユニット「The B.G.’z」でアルバム『True Story』をリリースします。

その後 The B.G.’z に JuvenileとTurk を加えた面子で、スーパーグループの The Hot Boys を結成。Juvenile のソロでの成功も追い風となり、The Hot Boys のメンバーとして Lil Wayne も90年代後半に高い人気を獲得します。

99年にはソロでの1stアルバム『Tha Block Is Hot』をリリースし、ラッパーとしての高い実力をアピール。Juvenile ほどではありませんでしたが、その評価を確実に高めていきます。

Lil Wayne『Tha Block Is Hot』

The Hot Boys 期の Lil Wayne は、ぬめりのある高音で Juvenile や B.G. の影響を感じさせるネチネチとしたラップスタイルが特徴でした。 

高い人気を集めた The Hot Boys でしたが、00年代前半に Cash Money から Lil Wayne 以外のメンバーが次々と脱退し、解散してしまいます。しかし、残ったLil Wayne は Jay-Z などの影響が見えるスタイルに移行しながら、Cash Money の看板を担うラッパーとして成長。

そして、05年には様々な転機が訪れます。一つはニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」で Cash Money のスタジオが大きな被害を受け、拠点をニューオーリンズからフロリダに移したこと。そしてもう一つは Cash Money の看板プロデューサー、Mannie Fresh のレーベル脱退です。

この二つから Lil Wayne はプロダクションを一新し、05年リリースのアルバム『Tha Carter II』では The Runners や Cool & Dre といったフロリダのプロデューサーを起用します。その後はミックステープを量産し、難解なワードプレイを駆使したパンチライン重視のスタイルに開眼。フリーキーなフロウも抜群の冴えを見せ、自他共に認める「Best Rapper Alive」となりました。 

Jay-Z や Kanye West、故 Betty Wrightら大物も参加した08年のアルバム『Tha Carter III』は大ヒットを記録。スカスカのビートでフックらしいフックもなくひたすらラップするシンプル極まりない『A Milli』(もっと言うとMVもチープ)のような曲もヒットしたことからも、その尋常ではない勢いが伺えます。 

ロックに目覚めたLil Wayne 

快進撃を続ける Lil Wayne は、09年初頭にロックアルバム『Rebirth』のリリースをアナウンスしました。そして DJ Infamous & Drew Correa のタッグが制作したシングル『Prom Queen』を発表。プロデュースした二人も「シングルにすると言われたが、最初は俺たちに気を使ってジョークを言っているんだと思った」「ロックアルバムを作る噂は聞いていたが、808にギターを乗せる程度だと思っていた」と後に語っていましたが、同曲はヒップホップから大胆に逸脱したヘヴィなグランジ系の曲に仕上がっていました。

そして、この挑戦的な曲はかなり賛否が分かれることとなります。というか、ほぼ否でした。さらにライブで自ら弾いたギターも衝撃的な腕前で、悪い意味での話題を集めます。Lil Wayne のギターは、ギターサイトの Ultimate-Guitar による17年の企画「ワースト・ギターソロトップ10」でも1位にも選ばれるなど、時が経っても忘れられないほどのものでした。 

これらの評価から『Rebirth』には不安の声も多く聞かれましたが、相変わらず客演等でのラップでは高い実力を発揮。『Rebith』は延期が繰り返され、その間に Nicki Minaj や Drake が Young Money からブレイクを果たしたこともあり、Lil Wayne 自体の人気が衰えることはありませんでした。

そして、当初の09年4月の予定から大幅に遅れた10年2月に、ついに『Rebirth』はリリースの時を迎えました。 

Lil Wayne『Rebirth』

『Rebirth』は初週で17万枚を越えるセールスを記録し、全米チャートに2位で初登場。Lil Wayneの変わらぬ人気を見せつけました。Cool & Dre や J.U.S.T.I.C.E. League らのフロリダのプロデューサーを迎えて制作された同作は、ヒップホップ的なアプローチの曲がないわけではないですが、報じられた通りかなりロックに寄せた曲が中心。ヴォーカル面ではオートチューンまみれでズルズルと歌ったり、シャウト気味の力強いスタイルなどを聴かせていました。

しかし、かなり攻めた色物的な内容の同作はリスナーを混乱させ、各メディアからも非常に厳しい評価を受ける結果となりました。米メディアの Complex の11年の企画「酷かったラップアルバムワースト50」でも4位にランクインし、Lil Wayne のキャリア史上最悪の迷作という烙印が押されました。 

この低評価が堪えたのか、一枚作ったらスッキリしたのか、理由は不明ですが以降 Lil Wayne のロックへの言及は減少。作品でもロック的な音に乗ることはほぼなくなり、ポツポツとやっていた曲でも11年の『How to Love』のように、『Rebirth』的なアプローチはあまり取らなくなっていきます。 

後進のラッパーの活躍による再評価 

「Best Rapper Alive」である Lil Wayne の人気は凄まじく、その影響力の高さは「Lil」と名乗るラッパーの増加からも伺えます。そして、そんな Lil Wayne の影響下にあるラッパーが、2010年代半ば頃からロックを導入したスタイルで次々と登場していきました。 

その代表的なアーティストの一人に、フロリダのラッパーの XXXTentacion がいます。

XXXTENTACION

15年に発表した出世曲『Look at Me!』はサウンドこそヘヴィなトラップ系ですが、そのシャウトも取り入れた発声には『Rebirth』での Lil Wayne のスタイルから地続きのものが感じられます。

XXXTentacion は以降も1st アルバム『17』で内省的なギターを導入し、2ndアルバム『?』ではさらにヘヴィなロック色の強い曲も収録。『NUMB』や Lil Wayne とも関わりが深いTravis Barkerが参加した『Pain = Bestfriend』などは、『Rebirth』に入っていてもおかしくないようなアプローチの曲になっています。

XXXTentacion は惜しくも亡くなってしまいましたが、Lil Wayne とも死後に疑似共演を果たしたほか、今年 Lil Wayne が「現在最も好きなアーティスト3人」を語った際にも名前が挙がりました。Lil Wayne がロックに挑んだ時に拠点にしていた地・フロリダから、Lil Wayne からの影響を語りロックを見事に取り入れた音楽性で成功したラッパーが現れたことは、なんとも美しい話ではないでしょうか。 

「Lil」系ラッパーの代表格である Lil Uzi Vert もまた、Lil Wayne からの影響が伺えるラッパーの一人です。

Lil Uzi Vert

ロックスター的なイメージを打ち出し、オートチューンにまみれたズルズルとした歌フロウを多用するそのスタイルには、サウンドこそロック的ではないものの確かに『Rebirth』的な要素が感じられます。

先に『Rebirth』を酷評した Complex も、Lil Uzi Vert らの活躍を受け17年に「Lil Wayne のワーストアルバムは彼の最も影響力の強いアルバムでもある」という記事を発表。後進のラッパーの活躍により、同作の再評価が確実に進んできています。 

ロック×ヒップホップの現在 

「Rebirth」にプロデュースで参加した Cool & Dre は、同作のリリース直前にこのようなことを語っていました。 

「『Rebirth』は、ヒップホップやR&B以外の音楽を作ってみたいというアーティストに新たな道を開くアルバムになる。そういう人はたくさんいるはず。 Prince & The Revolution がチャートを賑わしていた頃のような、音楽の多様性をまた見たい。Lil Wayne はただのヒップホップアーティストではなく、我々の世代を代表するアーティストになるはずだ。彼と一緒に活動していることを誇りに思う」。 

当時は完全な失敗作とされた『Rebirth』でしたが、その挑戦は後のラッパーに確実に影響を与え、ヒップホップにさらなる多様性を与えました。同作がなければ、もしかしたら現在のヒップホップは全く別物になっていたかもしれません。 

XXXTentacionらの活躍でロックを取り入れたヒップホップは今では大きな市民権を獲得し、今年に入ってからもアトランタの新鋭・Kenny Mason がロック色の強いアルバムをリリースし話題を集めました。日本でも kZm や (sic)boy、Lil Soft Tennis らがロックを取り入れた曲を発表しています。

そして、これまでにも Lil Wayne からの影響をたびたび語ってきたラッパーの一人である、Kendrick Lamar も次作でロックを取り入れていると報じられています。師匠の雪辱を果たすことができるのか、それとも師匠のように迷作と呼ばれてしまうのか。Kendrick Lamar は SNS 等であまりプライベートを明かさないので、「外出自粛でギターを始めていたらどうしよう・・・」とも思ってしまいますが、楽しみに待つことにしましょう。 

アボかど
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今週のリリース【5月18日〜】

今週のリリース情報【5月18日〜】

[アルバム]

Gunna – Wunna

Kota the Friend – EVERYTHING

Key Glock – Son of a Gun

HoodRich Pablo Juan – Hood Champ

KSI – Dissimulation

Young M.A – Red Flu

MAX – Colour Vision

Ambush Buzzworl – Ask My Brother

Footsie – Footsie ‘No Favours’

Scarlxrd – FANTASY VXID; SPRING.

Lil Darkie – LD2

Setitoff83 – Want Me To Fall

【シングル】

Migos – Need It (feat. NBA YoungBoy)

KYLE – What It Is

Rod Wave – And I Still

Fetty Wap – Pretty Thang

Snoop Dogg – I Wanna Go Outside

Ian Dior – Prospect (feat. Lil Baby)

Aitch – Raw

G-Eazy – Free Porn Cheap Drugs

Fredo Bang – Top

Teyana Taylor – Made It / Bare Wit Me

Yung Pinch – Be Yours

Lil Uzi Vert が、ニューアルバムの詳細を明かす

先日ファンに謝罪の気持ちを表し、ニューアルバムの存在を明かしたばかりの Lil Uzi Vert が、恒例となっているツイッターでのファンとの交流の中で、次作の制作状況についてを語った。

「紫のドレッドの頃の Lil Uzi がまた聴きたいな」というファンのツイートに対し、「俺たちは欲しいものを全て手に入れられるわけではないよ。でもそれが前に進むきっかけになる事もあるよね。」返信。

https://twitter.com/liluzivert/status/1261704963354476544?s=21

初期の Uzi のスタイルはもう帰ってこないとも解釈できるこのツイートだが、これに反応したファンが、「新しい曲では、古い Uzi の曲のような雰囲気を感じることができる?」とツイート。

そのツイートに対し、「もちろん!おれは新しいことに挑戦しなければならないけど、おれの原点にも戻るよ。」と返信し、ニューアルバムでは、昔の Uzi の雰囲気を感じることができる楽曲が存在することを明かした。

https://twitter.com/liluzivert/status/1261712741838053376?s=21

ほかにも、「新しい曲にどの位ワクワクしてる?」というファンの質問に「とても感謝してるし、とても興奮してるよ!」と返信した。

https://twitter.com/liluzivert/status/1261712194456207360?s=21

Eternal Atake の際は、アルバムの存在が明かされてから二年以上の月日を経てのリリースだったが、今回はスムーズに制作が進むのだろうか。

G Herbo がシカゴの刑務所に20000枚のマスクを寄付

先日、Zaytoven によってプロデュースされたニューシングル『Friends & Foes』をリリースした G Herbo が、シカゴで最も大きな刑務所である Cook County Jail に2万枚ものマスクを寄付することを明かした。

Our communities have been hurt by COVID-19 at a higher level than others, and our health needs to be a priority.

俺たちのコミュニティは、他より大きな影響を新型コロナウイルスによって受けている。そして、俺たちの命は最優先されるべきだ。

と主張した上で、Cook County Jail と2万枚のマスクを寄付する旨のパートナーシップを結んだことを明かした。

同じくシカゴのラッパー Lil Durk も、シカゴの病院で勤務する医療従事者たちに食料を寄付したが、シカゴのドリルラッパーたちはいかなるときも地元への貢献を忘れないようだ。

フロリダのラッパー YNW Melly が獄中での感染を発表したことや、6ix9ine が感染防止のため釈放されたことは記憶にあたらしく、刑務所内でのクラスターの発生が問題とされている。

Lil Wayne が、Wheezy のプロデューサータグを勘違いしていたと明かす

数々の名作を生み出し、ヒップホップ界の重鎮になりつつある Lil Wayne が、Young Thug や Future などと共演を重ねる人気プロデューサー Wheezy のプロデューサータグについて、恥ずかしい勘違いをしていたと明かした。

Wheezy のプロデューサータグは、ご存知の通り Future の声が使われた『Wheezy Outta Here!』 であり、本日リリースされた Future のアルバムでも聴くことができる。

本日リリースされた Future のアルバム『High Off Life』に収録されており、Wheezy によってプロデュースされた楽曲 『Solitaires』

Lil Wayne のニックネームは 「Weezy」 であり、プロデューサーの Wheezy と発音がほとんど同じため、Wheezy の存在を知るまで、彼によってプロデュースされた楽曲を聞くたびに「Future がいろんな曲のイントロで俺の名前を叫んでいる」と勘違いしていたそうだ。

「誰にも言いたくないほど恥ずかしい」と言いつつ、過去の勘違いをセルフ暴露した Lil Wayne だが、現在の彼にとって Wheezy はお気に入りのプロデューサーの一人であり、いつか楽曲制作を共にしたいとも語った。

Joyner Lucas が、ハリウッドスター Will Smith を客演に招いた『Will (Remix) 』をリリース

Joyner Lucas が、ハリウッドスター Will Smith を客演に招いた『Will (Remix)』をリリースした。

彼のデビューアルバム収録の楽曲『Will』は、Will Smith へのトリビュートソングであり、Snapchat にて Will が「(同曲の)MV を9回見たよ」と絶賛する様子も話題となった。

Eminem に実力を認められたラッパー Joyner Lucas と、元々ラッパーとしてデビューし、グラミー賞受賞経験もある Will Smith。そんな2人の夢のような共演作は以下から聴くことができる。

Apple Music :

https://music.apple.com/jp/album/will-remix-single/1512843010?l=en

Spotify :

故 Pop Smoke のデビューアルバムのリリース日が決定

今年2月に惜しくもこの世を去った NY・ブルックリンのラッパー Pop Smoke の遺作となるアルバムが、6月12日にリリースされると報じられた。

昨年と今年に続けてリリースされたミックステープ『Meet the Woo』シリーズに続く3作目のフルレングス・プロジェクトであり、彼にとってのデビューアルバムとなるようだ。

収録楽曲や客演アーティストなどについての詳細は未だ不明なため、更なる続報を待ちたい。

Blueface の彼女の1人が、一夫多妻制に耐えかね暴走する

2人の彼女を持ち、幸せな一夫多妻生活を送っていることで知られる Blueface。

そんな彼の彼女のうちの1人(Blueface の子供の母親にあたる)が、とうとう一夫多妻制に耐えかね暴走を始めた。

https://twitter.com/akademiks/status/1260666918865903617?s=21

事の発端は不明であるが、激怒しながら家のガラスや窓を叩きつける彼女の様子が映し出されている。やはり円満な一夫多妻生活を送ることは難しいのであろうか。

北欧の革命家 Yung Lean の全て

皆さんこんにちは!

今回は、今週に最新アルバム『Starz』をリリース予定の、スウェーデンのストックホルム出身のラッパー/プロデューサーであるYung Lean について書いていきたいと思います。

はじめに

Yung Lean こと Jonatan Leandoer Håstad (以下、便宜上Leanと呼ぶ) は1996年7月18日にスウェーデンのストックホルムで産声を上げました。

父は幻想文学の作家でもあり、仏文学の翻訳の仕事をしながら、出版社を持つ文学者 Kristoffer Leandoer、母はロシア・ベトナム・北アメリカで活動するLGBT団体に所属する人権活動家の Elsa Håstadという恵まれた環境で育った彼。

さらに母方の祖父はイギリスの劇作家として有名な Arnold Wesker です。

このように、身内の環境によって練り上げられた文体は彼の独特な比喩表現にも現れています。(後ほどリリックについても解説いたします。)

彼は生まれた後、旧ロシア帝国の一部であったベラルーシ共和国で子供時代を過ごし、3歳あたりでスウェーデンのストックホルムに戻ったため、ロシア語とスウェーデン語に揉まれながら成長していくことになります。

ベラルーシ共和国の国旗

高校生になり、マクドナルドでバイトをする傍ら、グラフィティのカルチャーやドラッグに溺れていく彼は、ヤケを起こすことが多くなり、15歳という若さでマリファナの使用による保護観察処分を受けます。

影響を受けたアーティストや仲間、Sad Boys が出来るまで

ストリートカルチャーとおんぶに抱っこで育った彼は、徐々にヒップホップに興味を持つように。

ちなみに彼は、この青年期に影響を受けたアーティストとして、50 Cent や The Latin Kings、そしてNasなどを挙げています。

Nas『Illmatic』

ちなみにこのあけすけに荒れていた時期、後に世界をあっと驚かせることとなるクルー、Sad Boys の心臓ともいえるプロデューサー・DJのGud(Yung Gud) と出会います。

Yung Gud

そして、後のDrain Gangのメンバーも含んだクルー Hasch Boys を結成します。

彼らと共に似通った音楽を聴いていくことになる Lean ですが、このクルーに対して次第に愛想を尽かすようになり、同じくクルーのメンバーであった Yung Sherman ・Yung Gud と共にトリオで「Sad Boys」を結成し、Hasch Boys は解散してしまいます。

そして2012年ごろには、自力で作ったスタジオを基地として、 Yung Sherman ・Yung Gud がプロデュース・ミックスを担当し、Lean も作曲を始めます。

次第に彼らは SoundCloud や Tumblr に曲をアップし始め、莫大なフォロワーを築いていくこととなります。

本格的始動と『Ginseng Strip 2002』のヒット

そして転機は2013年に早くも訪れます。

それは『Ginseng Strip 2002』の大ヒットです。かなりのダウン・ビートの上で、メロディーラインをあえて無くし、極めてまどろんだスタイルでバズを生み出します。

この曲では、やはり彼らしくお茶目ではあっても、独特な言葉遣いがなされています。

Get my dick stuck inside a lamp shell

俺のイチモツが二枚貝に挟まって抜けないから

Get it out with sperm cells and hair gel

精子とヘアージェルを使って抜くんだ

※ lamp shell は二枚貝の別称で、女性の cunt を二枚貝と喩えて、それが狭いから抜けない、という独特な言い回しをしています。

※精子とヘアージェルを並列させているのは、おそらく映画『メリーに首ったけ』にて、主人公がジェルと間違えて精子を頭につけたことから着想を得たと考えられます。

また、PVにおいてもヒップホップアングルと称される下からのアングルはあまり見られないことに加え、「ヨンリーンやり手」など少し奇妙な形で、想世界的な極東の国、日本を表現しており、現在2800万回を上回る再生数を叩き出しています。

そして、その勢いそのままに彼はアルバム『Unknown Death 2002』・さらにそのアルバムから漏れてしまった三曲(バイラルヒット曲『Ginseng Strip 2002』も)を含んだEP『Lavender』をリリースし、世界にその名を轟かせます。

『Unknown Death 2002』
『Lavender』

『Unknown Death 2002』からは『Gatorade』を紹介します。

『Gatorade』の凄さはやはり、声がほとんどトラックに埋れてしまっている点でしょう。

これは一見、ミックス・マスタリングのレヴェルが低いことが原因だと思われるのですが、それは全く違います。実際、その他の曲で、ヴォーカルがはっきりと聞こえる曲も普通にあります。

この、「声がトラックに隠れてしまうこと」により、この曲全体が不思議な湿り気を帯びるのです。それはまるで、スチームサウナについた窓のよう、奇妙なくぐもりを保ったままに、その窓の外に移りげな美しいトラックがひょっこりと顔を出しているのです。

この傾向は『Lavender』の一曲『Greygoose』にも現れていますが、とりわけ驚くべきは『Lavender』に収録されている一曲『Oreomilkshake』でしょう。

この曲中では夜空を感じさせる近未来なトラックが使われており、二種類の声を巧みにタバコの煙のよう、くゆらせながら、見事な配合で織り込ませます。

それはまるで「サウナルーム」と「夜空を抱え込んだサハラ砂漠」を行ったり来たり、ゆらりゆらり、カラッとした湿り気が刻まれた4分16秒の旅のよう。

2013年後半から翌年の2014年にかけてヨーロッパツアーを巡行したのち、北アメリカにてツアーを行った Sad Boys はめきめきと力をつけていきます。

そして 2014年12月23日に『Unknown Memory』をリリースします。

スターとの出会い

wit Travis Scott

『Unknown Memory』

『Unknown Memory』では、Kanye West 率いる GOOD Music と契約し、ファンの中では伝説とされるアルバム『Days Before Rodeo』をリリースしてすぐの Travis Scott を客演に招いた一曲を聴くことができます。

この曲の楽しみにはオートチューンバリバリ期寸前のスキルフルな Travis Scott を聞けることにもあります。

そしてこのアルバムの醍醐味はなんといっても『Yoshi City』でしょう。

今までのチープなものとはうって変わって、完璧に調整された証明や空間、近未来的な乗り物を駆使した PVも見もののこの曲。

「Yoshi City」は、直訳すると「(マリオの)ヨッシーの街」であって、マリオは任天堂のキャラクターであること、それから「Tokyo City we’re burned out」からこの曲が始まることから、東京のことだとわかります。しかし、この「Yoshi City」は実際の東京とは少し違います。

端的にいうと、「Yoshi City」は彼らの心の中にある理想郷としての「東京」、ないしは心象としての「ジャパンの都市」を意味し、つまりは「どこにも存在しないどこか」なのです。

実際、Vice誌のインタビューの中でも、彼は「スウェーデンでの疎外された気持ち」について語っており、リリックでもどこにも所属できない感情や、どのような型にはまらない自分を表現しています。

Smoking loud, I’m a lonely cloud

上物を吸う、俺は孤独な雲だ。


I’m a lonely cloud, with my windows down

一人ぼっちの雲のよう、心さえ閉ざして


I’m a lonely, lonely; I’m a lonely, lonely

俺は孤独、寂しいのさ。一人ぼっちで寂しいんだよ。

※最初の smokeの煙と雲を見事にかけたこのラインは、恐らく17世紀のイギリスのロマン派の詩人 William Wordsworth の『水仙』の有名な始まり「I wandered lonely as a cloud(一人漂う雲のごとく)」を引用していると思われます。

– Yung Lean 『Yoshi City』

Fuck norms, fuck a normal life

決まり事なんてクソくらえ、当たり障りない人生なんてどうだっていい。


Fuck norms, I’ll break em out

規範なんてどうだっていい、俺が全部壊してやる

– Yung Lean 『Yoshi City』

また、彼は社会風刺もリリックに収めています。

I’m an aristocrat without the progress.

俺は何の進歩もない貴族だよ。

これは、貴族は何の進歩も求めずに規範に収まった奴らなのだと言うのを暗示する、彼の気持ちが見え隠れする一文でしょう。

– Yung Lean 『Yoshi City』

素晴らしい一曲ですね。個人的なお勧めとしては、11曲目の『Leanworld』です。

この曲の凄みは、重厚でありながらも寂しさを包み込んだビートが、もはやリリックを通さずとも伝わってくるところです。後半のコーラスとパイプオルガンの音の物悲しさには鬼気迫るものがありますね。

その次の曲『Sandman』の変態ビートについても言いたいところですが、あまり長くなってもよくないので、リンクだけ貼っておきますね。

そして2016年の前半になり、アルバム『Warlord』およびそのデラックス盤をリリースします。

『Warlord』

このアルバムからは一曲、元々友達の兄貴でもある Bladee との一曲『Highway Patrol』を紹介します。

Bladeeの Drain Gang とLean のSad Boys は元々 Hasch Boysだったこともあって親交が深いのですが、やはりこの二人の共演は最強ですね。

I see green lights, missed misfits smokin’ cannabis

青信号が見える、大麻を吸う失敗作の不適合者(仲間)達と

ここでは green lights と大麻がかけられていますが、Leanはよく仲間達(自分も含め)を社会不適合者だと言います。

また、この近未来的であると同時に甘美なビートの上で、Bladee は自分のリリックを巧みに引用します。

What’s your blood type, what does it taste like?

血液型は何だ、その血はどんな味がするんだ?

この曲は『Sugar』のリリック『Your blood tastes so sweet like sugar, baby』に通づるものですね。

またこの頃、彼ら Sad Boys はブランドライン「Sad Boys Entertainment」を立ち上げます。

さらには Calvin Klein’ の AW16 Campaign のモデルに抜擢される彼。

実はそこで、みなさん大好き Frank Oceanと出会います。

wit Frank Ocean

この年のアメリカツアの移動中にバスが銃で襲撃されるという事件があったものの、ツアーを見事に成功させた彼。

その後、Frank Ocean の伝説のアルバムで、世界最大の音楽批評メディア、ピッチフォーク誌の2010年代アルバムランキングで見事1位を獲得し、グラミーにて最初の最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を受賞した『Blonde』の 『Self Control』と『Godspeed』にバックコーラスで参加します。

この曲の Lean のコーラス部分のリリックは、オーシャンの叶いはしない恋心を表しているのですが、何だかグループに溶け込めない Leanの寂しさを表しているようにも聞こえます。

Keep a place for me, for me

僕の居場所を置いといてよ、僕の

I’ll sleep between y’all, it’s nothing

君たちと一緒に寝ても、何もないんだよ。

It’s no thing, it’s nothing

そこには、何もないんだよ

Keep a place for me, for me

僕にも居場所をくれないか、僕の

これは何か彼の集団=規範に馴染めない気持ちを表しているようにも感じます。

with A$AP Ferg

そしてこの年の終わり頃にはミックステープ『Frost God』をリリースします。

『Frost God』

この中では、A$AP Fergを客演によんだ曲であり、このプロジェクトを表していると言っても過言ではない一曲『Crystal City』を紹介します。

また、このアルバムでの人気曲、『Hennessy & Sailor Moon』でも Bladee を客演に呼び、これまた人気曲となります。

何と言ってもこの曲の醍醐味は彼のぐったりとした歌唱でしょう。彼を知らない人でも底無し沼のようにハマってしまうでしょう。

再び Sad Boys 時代

そして彼は『Crystal City』以降、客演をほとんど呼ぶことなく、Sad Boys 単体でプロジェクトを進めるようになります。

この時期の最初の作品は 2017年11月にリリースされたアルバム『Stranger』です。

『Stranger』

Youtube での再生回数は千万回弱ではありますが、『Red Bottom Sky』のヒットはみなさんの記憶にも新しいのではないでしょうか?

ちなみに、このアルバムのうち、『Red Bottom Sky』・『Hunting My Own Skin』・『Skimask』はストックホルムの小規模レーベル「YEAR0001」を通して作られたものです。

この時期(2017年〜現在)の彼を特徴付ける、Joji のようなメロディーを含んだ耳残りの良いヴォーカルを混ぜ込んだスタイルが存分に発揮されている一曲といえます。

2018年にはアルバム『Poison Ivy』をリリースする彼ですが、そこは少し省略して、同じ年に出された Drain Gang の Thaiboy Digitalを客演によんだ一曲『King Cobra』を紹介します。

やはり、Sad Boys と Drain Gang 、そして彼らを繋ぐストックホルムの孤高のレーベル「YEAR0001」の関係が、最強のフローチャートを作り出していますね。

この彼らのドロっとした物狂わしいフローはなかなか真似できるものではないでしょう。

最新アルバム『Starz』

そして今週、Lean はついに最新アルバム『Starz』をリリースします。

『Starz』

何曲か先行トラックがリリースされていますが、まず注目するべきは『Pikachu』でしょう。

やはり低く持続するフローは健在ですが、2017年以降に見られるメロディーラインも少し取り入れられた曲です。

しかし、このハイブリット的スタイルの1番の注目曲は『Boylife in EU』です。

PVのビビットなスタイルもさながらに、やはりこの曲のフック直前での沈み込み、またそこから繰り出される耳残りの良いメロディーラインはたまりません。

元々のダウナーなフローに Jojiのように美しくも歪みを内包したヴォーカル、また変態的な世界観を作り出すトラックにはあぜんとしてしまいますね。

最後に

今回は Yung Lean についてでした。また、Drain Gang 周りを中心とした記事も書きたいと思います。最後までお読みくださり、ありがとうございました。

XXS Magazine 特製プレイリストはこちらから↓

https://music.apple.com/jp/playlist/yung-lean-swedish-napoleon/pl.u-GgA590VcZ1GAeaY?l=en