6ix9ine、新居に引っ越すも隣人に居場所を晒される。

数ヶ月にも及ぶ懲役を終え、先日ニューシングル『GOOBA』をリリースした 6ix9ine。出所後初のインスタグラムライブは200万人の視聴者を集め、丸一日で250万人以上のフォロワーを獲得した彼だが、またもや不運に見舞われた様子。

先日発売された自身のプロモーショングッズに身を包み、新居のバルコニーでインスタグラム用の写真を撮影している様子を、向かいに住む少女に目撃され、あろうことか新居の住所まで開示されてしまった。

明るい水色のセットアップに、頭に巻いた虹色のストール、さらにベランダの柵の形状から、明らかに動画に写る人物は Tekashi69 だと言い切れるだろう。

服役中のスニッチ(裏切り行為)によって、ニューヨーク内外のギャングコミュニティから恨みを買ったこともあり、出所後は居場所を隠して活動していた彼だが、少女の投稿した動画は瞬く間に拡散されてしまい、彼の居場所を世界中に知らせる結果となってしまった。

【News】Kohh が 新プロジェクトについての情報を公開する

Arca 『@@@@@』

先日、元プロデューサーである高橋良氏が Arca の62分にのぼるアルバム的シングル『@@@@@』のクリエイティブディレクターを務めたことで話題となったKohh。

ライブ中に、次作でKohhとしての活動を終えることを仄めかすなど、今目が離せない彼が新プロジェクトの存在を仄めかす。

Kohh のツイートより

曲目にはジョンレノンとオノ・ヨーコを指していると思われる楽曲『John and Yoko』や、昨年女優の水原希子の妹にあたる水原佑果がPVに出演したことで話題となったラブソング『I think I’m falling』も名を連ねる。

Kohhとしての活動の引退の件についてもまだ明らかとなっていないため、今後も彼から目が離せない。

西海岸を牽引する名プロデューサー Mustard のすべて

XXS Magazine をご覧の皆さん、はじめまして。音楽ブロガーのアボかどと申します。普段は「にんじゃりGang Bang」というブログで、ヒップホップを中心とした作品の紹介などをやっているのですが、このたび縁があってXXS Magazineさんに寄稿させていただくことになりました。

さて、2019年も様々な傑作がリリースされましたが、私が特に気に入った作品の一つに、西海岸のラッパー・03 Greedoのアルバム「Still Summers in the Project」があります。Gファンクなどの伝統的な西海岸サウンドを踏まえつつ、現行の音にアップデートされた同作を手がけたのは、同郷のプロデューサー・Mustardです。TygaやYGなどのプロデュースで頭角を現し、2010年代の西海岸シーンを牽引した名プロデューサーの一人です。今回は、そんなMustardのキャリアを振り返りつつ、2020年代の展望についても考えて生きたいと思います。

西海岸のジャーキン

MustardはLA出身で1990年生まれのプロデューサーで、以前はDJ Mustardと名乗っていました。本名はDijon Isaiah McFarlaneで、芸名の由来はもちろん本名がディジョンだからです。最高。

名前の由来にもなったマイユ社のディジョンマスタード

トラップ風の曲やR&B系のメロウな曲も作りますが、シンプルなループにGファンクなどの西海岸フレイバーを込め、バウンシーな808を絡めた「ラチェット・ミュージック」と呼ばれる作風で広く知られています。何から影響されて作風を確立させ、いかにして成功を掴んだのか。まずはキャリアをスタートした時期の西海岸ヒップホップシーンの状況から探っていきたいと思います。

Mustardが登場した09年頃の西海岸ヒップホップシーンは、「ジャーキン(ジャークとも)」というムーブメントの全盛期でした。ジャーキンはミニマルなビートで踊るストリートダンスの一種で、それに使われる音楽のスタイルと共に西海岸全体に広まっていきました。サウンド的にはベイエリアでThe Neptunesなどの影響を受けて誕生した、スカスカでBPM早めのパーティ・ラップ「ハイフィ」が発展したものです。

ジャーキンはハイフィと比べるとBPMが遅めで、代表曲にはNew Boyz「You’re Jerk」(2009年)や、Audio Pushの「Teach Me How To Jerk」(2009年)などが挙げられます。個人的なおすすめはCold Flamez「Miss Me Kiss Me」(2009年)。ジャーキンはダラスで同時期に盛り上がっていたダンスのムーブメント「ドギー」の振付を取り入れたりしながら、Snoop Doggらベテランも反応してメインストリームにも進行していきました。

ジャーキンの流行は、西海岸の様々なアーティストを巻き込んでいきました。その中の一人に、Ty & Koryというデュオで活動していたTy Dolla $ignがいます。Sa-Ra CreativeやBlack Milkらの作品への参加など、どちらかというとそれまでアンダーグラウンド寄りの活動を行っていたTy Dolla $ignでしたが、ジャーキンの流れを汲んでヒット曲を生み出します。YG、TeeCeeと共に発表した「Toot It And Boot It」(2009年)です。それまでのカラーを踏まえたネタ感強めの質感とジャーキン以降の重低音の組み合わせが話題を呼び、YGと共にジャーキンのシーンで一躍注目を集めます。

そして、このTy Dolla $ignからビートメイクを習ったとされるのが、本稿の主役であるMustardです。MustardはSway’s Universeのインタビューで、「YGのためにビートメイクを始めた」と話しています。プロデューサーとしての初仕事は、恐らく2010年のYGのミックステープ「The Real 4 Fingaz」収録の「Glowin」です。

2010年にはThump Recordsというレーベルから、Mustardが仕切ったコンピレーション「Let’s Jerk」がリリースされます。Thump Recordsは、西海岸のロウライダー雑誌「Lowrider Magazine」監修のオールディーズのコンピレーションなどをリリースしていたレーベルです。Ty Dolla $ignはLowrider Magazineのコンピレーションにも収録されていたファンクバンド・Lakesideのメンバーの息子なので、恐らくその縁でこの作品のリリースに繋がったのだと推測されます。同作のサウンドは、タイトル通りのジャーキン路線。Mustardは、こうしてジャーキン畑のプロデューサーとしてキャリアをスタートしました。

Rack Cityとラチェット・ミュージック

ジャーキンのムーブメントに乗って成功を収めたのはTy Dolla $ignだけではありません。08年に1stアルバム「No Introduction」をリリースし、一足先にメジャーデビューを果たしていたYoung Money所属ラッパー・Tygaもその一人です。同作はロック的なフックを導入するなどクロスオーバー志向も強いポップヒット狙いの作品でしたが、当時の他のYoung Money作品と比べてセールス的にはあまり成功とは言えない結果になりました。

しかし、「コンプトンの非ギャングスタラッパー」という誰かの先駆けのようなキャラクターのTygaは西海岸の非ギャングスタムーブメントであるジャーキンのシーンで人気を集め、New BoyzやYGらに客演で呼ばれるようになります。そして、その流れでMustardとも合体。その繋がりは、Mustardのキャリアを変える大ヒット曲に結実する事となります。「Rack City」(2011年)です。

同曲の大ヒットは、Mustardを一躍人気プロデューサーに押し上げました。この頃の作風はジャーキンから一歩進み、どこかGファンク的な匂いを感じさせるものになっています。多くの人が思い浮かべるMustardのイメージは、この時期に確立されたのではないでしょうか。このMustardの作風と、同時期にベイエリアで人気を博していたIamsu!らのサウンドは「ラチェット・ミュージック」と呼ばれ、ジャーキンに続いて西海岸全体に定着することとなります。

Lil Jonからの影響

2013年には、Mustardは自身名義のミックステープ「Ketchup」を発表します。マスタードという名前でケチャップというタイトルを付けるセンスからして最高なのですが、同作はMustardとその周囲のことを総括するような内容になっています。同作はラチェット系の曲を中心に据えメロウな曲も収録した、新たな西海岸サウンドの王道といえるような作品でした。客演陣に目を向けると、YGやTy Dolla $ignといったお馴染みの面々、Nipsey HussleやE-40らに混じってDorroughが参加しています。Dorroughはダラスのラッパーで、先述したドギーの代表的なアーティストです。また、TimbalandやLil Jonらの喋りをフィーチャーしていることもポイント。彼らの参加は、Mustardのルーツという意味で非常に重要な要素といえると思います。

Mustardによるミックステープ「Ketchup」(2013年)

Mustardは、Lil Jonからの影響を公言しています。「Rack City」のヒット後にYoung Jeezyや2 Chainzなどアトランタ勢がいち早く反応したのも、MustardのシンプルなビートにLil Jonの匂いを感じとったことが要因の一つとしてあるのではないかと推測されます。

また、Lil Jonからの影響はビート面だけに留まりません。2014年にリリースされたYGの1stアルバム「My Krazy Life」収録の「Left, Right」では、自らマイクを握ってLil Jonのように煽りを披露しています。

2013年にはRoc Nationと契約を果たし、シーンでの存在感を不動のものにしたMustard。その後もラチェット系の曲を中心に多くのヒット曲を放ち、「10 Summers」(2014年)などリーダー作も高い評価を集めていきます。

ラチェット・ミュージックの次

EDMが大きな人気を博した2010年代には、「DJの年収ランキング」のような記事をよく目にした方も多いのではないでしょうか。名前にDJを冠していたMustardも、彼らへの憧れを口にしていたことがありました。Kid Ink「Show Me」(2013年)や TeeFlii「24 Hours」(2014年)など、ハウスをネタに使った曲も作っており、またLFMAO「Shots」(2009年)などでのLil Jonの活躍もあったので、MustardがEDMのDJに興味を持つのは自然な流れだったのかもしれません。

そんなMustardは、2016年にTravis Scottをフィーチャーした「Whole Lotta Lovin’」というEDM風の曲をリリースします。

同曲は大ヒットまでは行くことはなく、EDM的なノリを大々的に行うこともその後ありませんでしたが、この頃あたりからMustardはラチェット・ミュージックの次を模索するような動きを見せるようになります。

Roc Nation仲間のRihanna「Needed Me」(2016年)や21 Savege「FaceTime」(2017年)などではオルタナティヴR&B的な作風にも挑戦しています。

その脱ラチェットの取り組みが結実したのが、Mustardのアルバム「Cold Summer」(2016年)にも参加していたUKのシンガー・Ella Maiの「Boo’d Up」(2018年)です。美しいストレートなR&B路線である同曲はじわじわと話題を集め、同曲を収録したアルバム「Ella Mai」(2018年)もセールス・評価の両面で成功を収めました。

ここでのMustardの作風はメロウで落ち着いたスウィートなものでしたが、Mustardの心の師匠・Lil Jonもまたこういった作風を得意としていました。代表的なものでは、2004年のLil Jon & The East Side Boyzの名曲「Lovers and Friends」が挙げられます。試行錯誤を繰り返していたMustardは、自身のヒーローの別サイドに到着したのです。

クランク復権の流れ

Ella Maiのブレイク後となる2019年、Mustardは作品数こそ少ないものの多彩な活躍を見せてくれました。YGの「Go Loko」ではLAでヒット中のAmbjaay「Uno」を意識したようなラテン風味に挑戦し、新鋭・Roddy RicchにもR&B風の「High Fashion」を提供。前述した03 Greedoのアルバムではウェッサイ色を強調した作風を聴かせてくれました。また、日本のラップグループ、BAD HOPにもバンギンかつバウンシーな「Poppin」を提供しています。

そんな中リリースした自身名義のアルバム「Perfect Ten」はこれまでの集大成のようでありつつ、過渡期のようにも感じられる作品でした。メインとなっているのはラチェット・ミュージックとElla Mai的なR&B路線でしたが、ここで特に重要な曲として挙げたいのは、1stシングルとしてリリースされたMigosとの「Pure Water」です。

シンプルなシンセがループされるビートは、ラチェット系の路線ではありますがあまりGファンク風味は感じません。どちらかというとクランクに近い音色のシンセを使っており、アウトロではMustard自らマイクを握り、Lil Jon & The East Side Boyzを思わせる掛け声を披露。さらにMVではMigosがLil Jonっぽいサングラスを着用しています。Lil Jonへのオマージュが満ちた同曲を、Ella Maiブレイク後の初作品の1stシングルに持ってきたことは、自身のルーツへのより強い回帰を感じさせます。

2019年は、ベイのSaweetieが「My Type」でPetey Pabloのクラシック「Freak-A-Leek」をサンプリングし、Quality Control Music所属のメンフィスの新人・Duke Deuceがその名も「Crunk Ain’t Dead」なる楽曲を発表するなど、クランク関連の話題がぽつぽつと見られた年でした。

BETのヒップホップアウォードで披露された「My Type」と「Freak-A-Leek」のメドレー形式のライブで、Petey PabloとLil Jonが出てきた瞬間の盛り上がりを見ていると、2020年代にはクランク復権の流れが訪れてもおかしくはないと思わされます。そしてその流れが本当に訪れるのなら、Lil Jon直系のプロデューサーであるMustardはさらなる高みに登っていくのではないでしょうか。シーンに登場して気付けば10年が経つMustardですが、今後も目が離せません。

記事でご紹介した楽曲のプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/mustard-legendary-producer-from-west-coast/pl.u-KVXB2aGsZRjKqox

アボかどさんのブログ「にんじゃりGang Bang」: https://fuckyeahabocado.tumblr.com/

XXS Album of the Year 2019

今年も残すところあと一日。皆さんは年末年始をどのようにお過ごしでしょうか。そして、 2019年はどのような一年だったでしょうか。私たち XXS Magazine ライターは起きている時間はすべて音楽を聴くことに費やす勢いで、様々な音楽に囲まれて一年を過ごしてきました。

今回はそんな私たち3人が選んだ、それぞれの「Album of The Year」についての記事です。正直、それぞれのアルバムにそれぞれの良さがあり、ベストアルバム一枚を選ぶことは難しいので、かなり個人的で主観的な記事になっております。その点ご了承ください。それでは早速、一枚目からいってみましょう。

1. Skepta – Ignorance Is Bliss

今年もたくさん音楽を聴きました。Apple Replay で今年のまとめを分析すると、610個のプロジェクト(おそらくこの数字には EP やシングルも含まれています)をチェックした僕ですが、今回はその中でも最も印象に残った Skepta によるアルバム ”Ignorance Is Bliss”について書いてみようと思います。

タイトルの “Ignorance Is Bliss” は日本のことわざに直すと「知らぬが仏」。このテーマはサーモグラフィーによって撮影されたアルバムのカバーにて巧みに表現された上で、楽曲の中でも如実に感じ取ることができます。

Ignorance Is Bliss のアートワーク

無気力に頬杖をつく人、耳をふさぐ人、悶え苦しみ叫ぶ人、人差し指を唇に当てるサインを出す女性の4枚の写真が、中央に配置された生まれたばかりの娘を抱く Skepta の写真を取り囲んでいます。さらに四隅に、中指を立てた拳、握り合ったふたつ手、拳銃、スマートフォンの4枚の写真が配置される形でアルバムカバーが構成されています。

イントロとしての役割も果たす一曲目の楽曲 “Bullet from a Gun” は、当アルバムのテーマを巧みに反映したものでもあります。試しにカバーアートと照らし合わせてリリックを見ていきましょう。

Like a bullet from a gun, it burns
まるで拳銃から撃ち出された銃弾のように、それは燃えるんだ
When you realise she was never your girl
彼女がお前の女じゃないと気づいた時にね
It was just your turn
ただ、お前は遊ばれていただけだったんだ

Skepta – Bullet from a Gun

こちらのリリックとリンクしているのは、右下と右上の写真。リリックでは、愛し合っていると思っていた女性が、実は自分のことを遊びとしか思っていなかった状況についてラップしていますが、このような状況が主に先ほどの二枚の写真で表現されています。繋ぎ合った手ですが、片方の手はサーモグラフィーで温度が冷たいことを表す青で表現されています。そして、拳銃も青で表現されていることから、「片方が本気でない恋愛は、撃ち出された銃弾のように燃え尽きる」ことを表しています。燃え尽きてしまった恋も、知らなかったらそんなことにはならなかった、というまさに「知らぬが仏」状態。このようにアルバムを通してテーマに即したリリックがちりばめられているのが、このアルバムのミソなのです。

Now the friendship’s based on how quick I reply to text
今となっては、友情はどれだけ早く返信するかにかかってる

Skepta – Same Old Story

Now you only text when you’re bored on the weekend
君は週末暇な時だけ、俺にメールを送ってくるよな

Skepta – Love Me Not (feat. Cheb Rabi & B Live)

このようなリリックからは、インターネットが普及したことによって冷たく、脆くなってしまった人間関係についてのラップです。これらのリリックはアルバムカバーの左下の写真とリンクしています。こちらもサーモグラフィーの特性を利用して、赤くなっている手のひらに対して、スマートフォンは青く表示されています。

「Ignorance Is Bliss」まとめ

放つ言葉がすべてパンチラインとも言える Skepta が、グライムが盛り上がってきているこの時期に本気でアルバムを製作したらどうなるのかを、圧倒的なクオリティとともに見せつけられた感じがし、やはり今年のアルバムの中ではかなり印象に残っています。本当はもっと語りたいことだらけなのですが、本記事で紹介する他のベストアルバムについても知っていただきたいので、今回はこの辺で終わりにしておきます。それでは、”Ignorance Is Bliss” の魅力についてでした。

(Written by whoiskosuke)

2. James Blake – Assume Form

2019年ももう終わり、ということで今年聞いた中で一つアルバムを紹介しようという事になって、いろいろと考えた結果、James Blakeの”Assume Form” を選びました。

James Blake – Assume Form

Assume Form とは日本語にするのがかなり難しいんですが、ニュアンス的に言うと、「型にはめ込む」という感じでしょうか。じゃあジェイムスにとっての型とは何なのか。

それを理解するのに大切なのは、最近やたらと問題になるジャンルというものです。ジャンルというのはある意味、音楽を聴く際に基準となる透明の箱のようなものです。

透明な箱(イメージ)

この透明の箱を通じて人は音楽という外界に触れる。言うなればこの箱は、外観の様相を呈している。でも、この箱は「これはジャンルで言うなれば、なんちゃらかんちゃらだ。」というふうに簡単にその音楽を目利きするための外観でしかありません。

確かに、ジャンルは大切なものです。ジャンルがあれば、ジャズのコードを一つも理解していなくても、これはジャズだ。と理解するポーズをとる事ができます。でも、僕たちを守る透明の箱、このデジタル時代において、そこに閉じこもることに本当に意味があるのでしょうか。彼の一曲目のタイトル曲、”Assume Form” にその答えが隠されています。

ピアノの旋律を中心としたこの曲で一際存在感を放つライン。

You know, you know, you know, you know. Appearance is nothing.

なあ、外観なんて何でもないんだよ。

James Blake – Assume Form

まるで、僕たちが閉じ込められていたジャンルという「透明な箱」から解き放ってくれるような一言。

思えば彼は2010年の伝説的名盤、”James Blake” 以降、ヒップホップやアンビエントR&Bなど、ポストダブステップというジャンルに捉われることなく、活動を続けてきました。

”James Blake”

彼は音楽を聴く時の姿勢ともいうべき「透明な箱」の外側から音楽を作り続ける。彼がジャンル(外観)を見るのではなく、ジャンルが彼を迎えにいく。彼こそが一つの外観(基準)であり、全てのジャンルは彼に追従せざるを得ない。

つまり、彼の音楽は一色に圧倒的な波長と奥行きを含んだ、いわば虹色のアルビニズムとも言える。彼の音楽に触れれば誰もが閉塞的な透明の箱から解放され、その永遠の延長の中を旅することができる。

Geniusでは「Assume Form」を彼の楽曲を通してこのように説明しています。

Assume form meaning that you finally take the shape of who you were always supposed to be.

Assume formとはあなたが自分自身をこうあるべきだ、というある種の型にはめこむことです。

When you let go of everything else and just be who you truly are, things are easier, more natural, light, grounded, emotional, and ultimately real.

そのような雑念を解き放ち、本当のあなた自身となれば「物事」はもっと簡単になり、ナチュラルになり、根本的になり、感覚的になり、究極に「現実的なもの」となります。

Genius

「Assume Form」 まとめ

このアルバムでは、Travis Scott や Metro Boomin , André 3000 や 2019年時の人となった Rosalía など様々な世代やジャンルから多くの客演が参加していますのでヒップホップが好きな方にも非常に聞きやすい作品となっています。

どの曲にも彼の細胞が詰まっていますので、あまり多くは説明はしません。もしまだ聞いてない、という方は是非彼のアルビニズム的七色の世界に浸ってみてください。

(Written by Kensho Sakamoto)

3. Dave – PSYCHODRAMA

Daveのデビューアルバム「PSYCHODRAMA」は間違いなく今年のベストアルバムの一つです。実際、イギリス(もしくはアイルランド)で毎年最も優れたアルバムに対して送られる「マーキュリー・プライズ」を受賞しており、もはや言うまでもない事実ですよね。

この作品の魅力は、何と言ってもアルバムとしての完成度の高さにあります。アルバムのコンセプト、メッセージ性、トラック、リリック、ワードプレイ…など、どこを取っても非の付け所がないです。

今回は、アルバムの中からリリックを引用しながら、その魅力を簡単にお伝えできればと思います。

Tuesday, 23rd of January, 2018
2018年1月23日火曜日、
I’m here with David
私はデイヴとここにいる。
This is our first session
これが我々の最初のセッションだ。
We’re just gonna talk about your background
君のバックグラウンドの話から始めるとしよう。
Where you’re from, any issues you’ve been dealing with
君がどこから来たのか、どんな問題に対処してきたのか。
So, where should we start?
さあ、どこから始めようか。

アルバム名「PSYCHODRAMA」とは演劇の枠組みと技法を用いた心理療法のことです。セラピストのセリフで始まる一曲目「Psycho」のイントロから分かるように、心に不安や悩みを抱える彼はまさにこのアルバムを通してPSYCHODRAMAを試みているのです。

自身の出身地名をタイトルに冠した二曲目「Streatham」では若き日の苦悩や葛藤をスピットし、「Black」では黒人として生きることの難しさについて歌います。

序盤から重い内容が続くのですが、四曲目Purple Heart」では恋人への愛を再確認し、治療の進行の様子が伺えます。

I guess it’s important that you have someone you can trust
信頼できる人を見つけるのは大事なことだ
Especially in the position you’re in, and um…
過酷な状況にいる君にとっては特にさ
I think it’s a really good trait that you’re able to find positives
ポジティブなことを見つけられるのは素晴らしいことだと思うよ
Despite some of the challenges, for want of a better word, that you face
様々な困難に直面しているにも関わらずね

その後アルバムの中盤からは、彼のラッパーとしてのキャリアを中心に話が展開されていきます。

ナイジェリアのレゲエ/ダンスホール・シンガー、Burna Boyを客演に迎えた「Location」は、ラッパーとしての成功を歌った一曲です。Burna Boyの甘い歌声とDaveの巧みなラップが完璧にマッチした良曲です。

ラッパーお得意のフレックス(自慢)を中心としたありがちな内容ですが、彼は巧みなワードプレイで魅せてきます。

ここでハイレベルなワードプレイを一つご紹介させていただきます。

Look, money like the alphabet
見ろ、金はアルファベットのようだ。
If you wanna see P’s, gotta pass on the ends
金が欲しいなら、最後までやり抜かなければならない。
 

※Pは金を表すイギリスのスラング。

「仕事や任務を最後までやり抜かないと金を手にすることはできないぜ」というラインですが、なぜ金はアルファベットのようなのでしょう。

ポイントは”the ends”と、アルファベットの順番です。よく聴いてみてください。”the N’s”に聴こえませんか?アルファベットの順番を思い浮かべてください。ABCDEFGHIJKLMNOP…。もう分かりましたね。そうなんです。Pという文字はNをpass on(通り越す)しないとやって来ないのです。意味をしっかり通してストーリーを進めつつ、さらっとこんなワードプレイを挟んでくるのですから圧巻です。

その後、人気ラッパーJ Husを客演に迎えた「Disaster」や、自身の出身地ロンドンについて歌った「Screwface Capital」、文字通り自身のいる『環境』について語る「Environment」と続きます。

N***as saw keys and went to trial for shottin’
奴らはコカインを売って裁判にかけられた
I saw keys, learned to play, and made thousands from it
おれはピアノを習って、それで大金を稼いだんだ

一つ目の『keys』はコカイン、2つ目はキーボード(Daveはピアノを弾けます)を意味しています。同じEnvironment(環境)で育っても、全ては自分の行動次第だということですね。

そして、1人の女性の悲劇を歌った9曲目「Lesley」で、いよいよ彼の治療も終わりを迎えます。アルバム序盤では自分自身の困難や問題ばかりに集中していた彼が、この曲では他人の悲劇に目を向けており、治療の効果がよく伺えます。

その後、治療を無事終えたDaveによるポップなラブソング「Voices」と、刑務所にいる兄に向けた楽曲「Drama」でアルバムは完結します。

「PSYCHODRAMA」 まとめ

アルバムのコンセプト、メッセージ性、ワードプレイと、何度聴いても見事な仕上がりです。実力と年齢は関係ないですが、今年21歳を迎える自分と同い年とは思えないほど知的で思慮深く、才能に溢れており、そういった意味でも強く刺激を受けた作品でした。もし、このアルバムを聴いたことがなかったという方がおられれば、是非一度リリックを追いながら聴いてみてください。衝撃を受けるはずです。

(Written by Riku Hirai)

最後に

お読みいただきありがとうございました。

2019年もたくさんの傑作と巡り会えた一年でした。

XXS Magazineは今年の10月末から本格的に始動し、皆様のおかげで徐々に認知されるようになってきました。

来年からは今までになかったような様々なプロジェクトを進めて行きますので、これからも皆様どうぞよろしくお願い致します。それでは、良いお年を!

ベッドルームのクイーン Clairo とは

こんにちは!今回は夜11時ぐらいに部屋で一人だと聞きたくなってしまうでお馴染みの女性シンガーソングライター(以下SSW)Clairo のキャリアや良さについて書いていこうと思います!

プロフィール

アメリカンなClairo

本名Claire,Cottrilはマサチューセッツ州出身で1998年生まれの21歳です。

ジャンルはインディー・ポップですが、キャリアの初期はその中でも、今流行りの「ベッドルーム・ポップ」に分類された音楽を製作していました。

ベッドルーム・ポップとは、Lo-Fiに近いところがあって、楽曲製作を実際に部屋の中で行っていたり、そのようなニュアンスの音楽を指します。

Clairoは優しく語りかけるような歌声の持ち主で、イヤホンで聞くと耳元でささやかれているかのような感覚になるアーティストです。

では、彼女のキャリアとオススメの楽曲などを紹介していきます!

Pretty Girl(2017)

Clairoが話題となったきっかけの初期の楽曲が「Pretty Girl」です。

いやー、このあざとい感じがかわいいですね。

これこそがベッドルーム・ポップというようなこの楽曲は全て自分で製作し、PVもセルフ・プロデュースしているということで才能の凄さが伺えます。

PVは再生回数が現在4000万回を超えており、非常に話題となりました。

楽曲としては、ボーカルにリバーブが強くかかっていて、メロディーやインストもシンプルなため、とても聞いていて心地いいんです。

曲の内容としては、当時の好きな人のためにありのままではなく、自分を相手の好みに変えるというような19歳らしいセンチメンタルな内容となっています。

I could be a pretty girl, I’ll wear a skirt for you.

あなたのためなら、スカートを履くような可愛い子になれる。

I could be a pretty girl, shut up when you want me to.

あなたが黙って欲しい時は黙っとく。

歌詞もめちゃくちゃかわいい。若さ溢れる共感できる歌詞ですよね。

ただやはりキャリアのスタートあたりの楽曲であるためか、全体的なクオリティは現在の彼女の楽曲に比べると低い印象を持ってしまいます。

Clairoの父親が広告会社の社長でこの動画に力を貸していることもという噂が広がり、コネを使って売れたなどのことも言われますが、現在の活躍を見れば、もともと高い才能をもっていると思いますね。

そしてClairoはインタビューでこの頃アメリカのボーイズバンドBROCKHAMPTONから影響を受けていると言っており、時期を考えるとめっちゃタイムリーやなという感じですが、なんか印象がもっとよくなりますよね。

ちなみに彼女は大学に通いながらアーティストとしても活動していたので、Tay Keithと同じだと考えてもらっていただいて問題ないかと思います。

大学生らしくかわいいClairo
と大学に札束を持っていくTay Keith

Diary 001 (2018) 

前述の「Pretty Girl」やシングルの「4EVER」をひっさげ、Clairoは待望のEP「Diary 001」をリリースします。

このEPについてClairoは彼女にとって最後のベッドルーム・ポップの作品と表現しており、実際数曲がスタジオで作られています。

全体的にはやはり19歳の恋愛観がわかるようなロマンティック系統な内容が多くなっています。

ただ、「Pretty Girl」の勢いそのままにという感じではあったので、そこまで流行するとかいうわけでもない感じになってしまいました。

ですが落ち着く系のいい曲ばかりなのでオススメ曲を一つ紹介したいと思います。

オススメ曲

オススメ曲はずばり一曲目の「Hello?」です。この曲は「Chill界のカリスマ」ことRejjie Snow様をフィーチャーした、二人の良さが爆発している楽曲になります。

Clairo, Rejjie Snow – Hello?

電話のダイヤル音の後にすごいアメリカンなHello?が聞こえて始まるこの曲。

やはりベッドルーム・ポップの雰囲気が残りつつ、ドラムではあえて弾けるようなクラップがあることによって、虚無感に襲われそうになるオルガンのメロディがテンポがあるキャッチーなサウンドに仕上がっています。

でもやはりClairoの少し寂しそうなボーカルとRejjieのつぶやくようなラップが入ることで、春のギリ夜にカウントしない18時45分あたりの時間帯にいるような、ひんやりとしたなんだか冷たい感覚になります。

内容的には相手が自分のように好きなのかという彼女の内面的な不安が滲み出たリリックなのですが今回はこの楽曲でRejjieがラップしているひとつのラインがたまらないものだったので紹介します。

Played you DOOM, man, you play Drake

おれがDOOMで、君はドレイクだ

これはMF DOOMというビートがちょっとおしゃれなオルタナティブなラッパーと DrakeのようにR&Bに近いラッパーのように、同じ業界にいても少し違うテイストの音楽を作るという意味で、RejjieがDOOMでClairoがDrakeという風にかけているんです。

DrakeがR&Bでロマンティックな曲を作ることも多いのでそこも Clairoとかけているのかも知れません。

この4人のアーティストが一つのバーに含まれているだけで最高ですよね。

Chill界のカリスマ・Rejjie Snow

そしてこのEPのリリース後はアメリカの男性インディー歌手・Cucoやイギリス人男性SSWのSG Lewisなどとコラボするなど活動の幅を広げます。

また、世界最大級の野外音楽フェスであるLollapalooza 2018やCoachella 2019に出演するなど、知名度もぐんぐんあげていきます。

そして2019年8月に初アルバムをリリースします。

アメリカに留学したら同じ寮に住んでて、顔見知りになりそうな出で立ちのClairo (左)と横ではにかむCuco(右)

Immunity (2019) 

このアルバムは良すぎてプレーヤーを持っていないのにレコードを買ってしまうぐらい個人的には今年トップぐらいの勢いのアルバムです。

一曲目の「Alewife」が始まった瞬間クリスマス?っていう感じのサウンドにもっていかれ

「North」では夏の夕方のビーチにいる感覚にもなるので、アルバムを通して四季を感じているみたいな気持ちになります。

「Closer To You」ではオートチューンにハイハットという、808いれてYung Bansにラップさせたらヒップホップチャート入るんちゃうかぐらいの新しいインディー・ポップの形が見えた気がします。

また、彼女のセクシュアリティや恋愛観など内面的なものがアルバムを通して歌詞からもサウンドからも感じ取れる作品となっています。

このアルバムからは素人の僕でもわかるぐらいにギターからボーカルまで前作から成長が見られます。

また、アメリカのカリスマ的インディー・バンドVampire Weekendの元メンバーであるRostamがプロデューサーとして参加するなど完成度が非常に高いこの作品。

厳し目採点の音楽メディアPitchforkも10点中8.0点をつけ、US Billboard 200でも51位にランクインするなど高評価かつ話題の作品となりました。

オススメ曲

Softly

 たぶんけっこうあるあるだと思うんですけど、僕は楽曲一つ一つにイメージカラーがあって、そのカラーがアルバム、またはシングルのジャケットの色になりがちなんですよね。

だから紹介する二曲は両方イメージカラーががっつり白なんですけど、Softlyの白はちょっとマイルドなベージュに近いイメージです。

まず初めのギターからすごい心地がいいサウンドです。

そこに入ってくるClairoの川のせせらぎのようなこれまた心地いいボーカルが入ってきて、フックでは軽くオートチューンがかかっていて、完璧なハーモニーで気持ちいいサウンドです。

Clairoは2018年に自身のセクシュアリティは不明であるが、ストレートではないと発言しており、紹介する二曲でそのセクシュアリティが垣間見れます。

Touch you softly, call you up late at night

あなたに優しく触れて、夜遅くまで電話して

Know that it isn’t right, but you could be my one and only

いけないことだとわかっているけれど、あなたは私が求めている人かもしれないから

甘酸っぱい。

「いけないことだとわかっている」というラインが、あまり人に知られてはいけないけれど、どうしてもそのように感じてしまう感覚だといえます。

またフックの手前ではgirlという単語を二人称として使っており、やはり女性に対しての感情と捉えられます。

この曲は個人的に今年で一番を争うぐらいの楽曲でして、ぜひ読者の方々にセンチメンタルな気持ちになっていただきたいです。

ちなみに「Touch you softly」というフックの歌詞なのですが、softlyの音が「ソフトリー」じゃなくて確実に「ソーフヤー」って言ってるていう個人的なあるあるもございます。

Sofia

 6番目のSoftlyの次のトラックがこの「Sofia」です。

最初のギターがロックっぽい感じがしてかっこいいのですが、Clairoの繊細なボーカルでかっこよさが心地よさで完全に緩和され、完璧なバランスが成立する楽曲です。

Softly はベージュに近い白というイメージですが、Sofiaは個人的においしい牛乳のパッケージのあの爽やかな白に近いイメージカラーです。相当爽やかです

 2分15秒あたりの一度声がぼやけてからのキーの高い彼女のボーカルが、一度地上に戻ったけどまた雲の上に突き抜けてきたみたいな、天下一武道会の空中戦のシーンみたいなイメージ。

Clairo一人が雲の上に上がっていく情景が頭に浮かびます。

この楽曲は、Softlyよりも明確に彼女のセクシュアリティについてわかる楽曲となっています。

Sofia, you know that you and I shouldn’t feel like a crime

ソフィア、この関係があってはならないものだと感じなくてもいいって知ってるよね

このSofiaという女性の名前は彼女が好きだった(推しに近い感覚)脚本家のSofia Cappolaと女優のSofia Vergaraのことを指しています。

この歌詞は同性愛のカミングアウトの難しさやそのスリルをCrimeという単語で表していて、いい言葉の言い回しだなあと感じました。

白がさわやかすぎるおいしい牛乳のパッケージ

その後はイギリスのプロデューサーMura Masa や

Netflixドラマ「13の理由」でクレイ役を演じているDylan Minnetteが所属するバンドThe Wallowsの楽曲に客演として参加するなど、様々なアーティストとコラボすることで、ファンベースを拡大しています。

その中でも、Clairoが客演で参加しているDeaton Chris Anthony の「RACECAR」という楽曲では、普段はみれないほぼラップみたいなかっこいいClairoがみることができます。

PVも自由な感じでかっこいいのでぜひ見てみてください。

終わりに

どうでしょうか。Clairoの良さが伝わっていると嬉しく思います。

また来年3月からは、オーストラリアの神様的インディー・バンドTame Impalaのアメリカツアーに帯同することも決まっているので、どんどん人気が増えていきそうです。

Clairoは、これからも活躍の幅を広げ、ファンベースを拡大していくアーティストだと思うのでぜひチェックしておいてください!

Clairo特製プレイリストはこちら↓

https://music.apple.com/jp/playlist/clairo-a-pretty-girl-from-the-bedroom/pl.u-jV89arDFd1A86o2