Quando Rondo – 2020年ブレイク必至の若きホープ

今週ニュープロジェクト『Diary of a Lost Child』をリリースしたジョージア州サバンナ出身のラッパー Quando Rondo。人気映画「Fast & Furious (ワイルドスピード)」の最新作のサウンドトラックにも参加するなど、活躍の場を広げ始めている彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫ります。

Quando Rondo とは

Quando Rondo こと Tyquian Terrel Bowman はジョージア州サバンナ出身の20歳。Quando Rondo というステージネームは、幼少期のあだ名「Ty-Quando」と、彼の敬愛するバスケットボールプレイヤー「Rajon Rondo」からとったものだそうです。

Rajon Rondo(2020年現在ロサンゼルス・レイカーズ所属)

彼は10代前半頃から友人たちの死と直面するなど過酷な生活を送ってきました。Young Thug や Rich Homie Quan、Chief keef らの楽曲を聴いて育ったという彼の音楽の特徴は、ストレートなリリックと聞き心地の良いメロディアスなフロウです。歌うことから始めたという彼は、「ラップと歌の違いを明確にする必要はない」と語っており、R&Bとも解釈できる彼のスタイルは幅広い層に受け入れられています。今までヒップホップやラップというジャンルに抵抗があったという方にもオススメのラッパーの1人です。哀愁漂うビートに乗る彼の歌声には、一度聴くと病みつきになる中毒性があります。

キャリアの開始

ラッパーとして本格的に活動し始めたのは2017年頃とキャリアは浅い彼ですが、翌年2018年にはいきなりヒット作を世に送り出します。それがこの曲、Lil Babyを客演に迎えた『I Remember』です。

I Remember (feat. Lil Baby)

Quando の壮絶な人生を振り返るという内容の一曲。BPM50前後のゆったりとしたトラックに彼の歌心のあるフロウが映えます。アトランタの人気ラッパー Lil Baby の参加もあり、この曲で彼は一気に知名度を上げます。

YoungBoy Never Broke Again との出会い

Quando のブレイクを語るにおいて、YoungBoy Never Broke Again (以下 NBA YoungBoy) との出会いは欠かせません。

NBA YoungBoy (左) とQuando Rondo (右)

今や NBA YoungBoy のレーベル Never Broke Again にも所属している Quando ですが、二人の関係性は、NBA YoungBoy が Instagrem を通じて Quando に連絡をとったことから始まったそうです。「俺の才能を最初に見出したのは彼なんだ」と Quando が語るように、彼の NBA YoungBoy への信頼が厚いことが分かります。ちなみに、ラッパーとしてのキャリアでは NBA YoungBoy が先輩ですが、年齢は Quando が1歳年上です。

XXL のインタビューでも語るように、彼の1番お気に入りのジュエリーは NBA YoungBoy から貰ったチェーンだそうです。

この二人はラップスタイルも似ており、意気投合するのも納得です。NBA YoungBoy が 2018年にリリースしたミックステープ『4respect 4Freedom 4Loyalty 4WhatImportant』にはQuando が4曲に参加しています。

『Permanent Scar (feat. Young Thug & Quando Rondo)』

Kenny Beats と Cardiak がプロデュースを務め、Young Thug と Quando Rondoが客演参加した豪華な1曲。

この曲のタイトル『Permanent Scar (永久的な傷)』とは、NBA YoungBoy の額に残る傷を指しています。彼は4歳の頃、レスリング中に首を怪我してしまい、治療としてハローベストという器具を装着していたことで額に傷が残ってしまったそうです。

NBA YoungBoy の額の傷と、ハローベスト

今回の主役である Quando Rondo は、この曲で自身のロックスターのような生活をフレックスしています。

ミックステープのリリース

2018年、彼は二つのミックステープをリリースします。

『Life B4 Fame』

Lil Baby や Lil Durk、OMB Peezy らが参加した同テープは MyMixtapez にて、わすが二日間で100万回再生を記録。この『Life B4 Fame』というタイトルは、2015年に NBA YoungBoy がリリースした1stミックステープ『Life Before Fame』にあやかって付けられたものでしょう。ここでも NBA YoungBoy へのリスペクトが感じられます。

『Life After Fame』

Youngboy Never Broke Again や Rich Homie Quan、Boosie Badazz らが参加した2ndミックステープ。同作から1曲ご紹介させていただきます。

「Kiccin Sh*t」

YNW Melly の楽曲なども手掛ける EY3ZLOWBEATZ プロデュースによるトラックですが、彼は最初このビートが好みではなかったそうです。しかしレコーディングを進めるにつれてこのビートが自分に適していることに気づき、スタジオを去る頃には納得のいく曲が完成していたといいます。

I’m kickin’ shit in Givenchy, these ain’t no Foamposites 
おれはフォームポジット(ナイキのスニーカー)じゃなくジバンシーでキメるぜ

というフレックスで始まるフックが特徴的な楽曲。


I’m so crip, I take a shower with a blue rag
俺はクリップスだから青いラグでシャワーを浴びる
And I can’t walk up out my house without my blue flag 
そして俺は青い旗がないと家から出られねえ

このように自身が所属するギャング組織、クリップス (チームカラー:青) への忠誠を誓うラインも出てきます。Quando の甘い歌声とギャング臭漂うリリックが意外にも完璧にマッチしており、彼の魅力が最大限に発揮された1曲です。

ちなみにこの曲のフックで使われている彼のフロウは、Rich Homie Quan の楽曲『The Author』からの引用で、「ネクストRich Homie Quan」との呼び声も高い彼ならではのリファレンスです。

2018年12月には、カリフォルニア州ベイエリアのラップグループ SOB X RBE のツアーにオープニングアクトとして参加し、見る見るうちにファンベースを獲得していきました。

そして2019年、彼は満を持して3作目のミックステープをリリースします。

『From the Neighborhood to the Stage』

NoCap や Shy Glizzy、Blocboy JB、Polo G らが参加した3rdミックステープ。同作からも一曲ご紹介させていただきます。

『Gun Powder』

NBA YoungBoy やDaBaby、Rod Wave らへの楽曲提供でも知られる Tahj Money によるプロデュースのこのトラックは、なんと8ヶ月もの間 Quando のメールボックスに眠っていたものだったそうです。

同曲は、タイトルからも察しがつくように攻撃的なリリックが特徴的な一曲です。

I don’t know shit about no murder, gotta keep my mouth closed
俺は殺しについて何も知らない、口をつぐむぜ
Just got a brand new Desert Eagle with a cutter that fold
新しいデザートイーグル(自動拳銃)と、アサルトライフル
Shower in bleach, rip up the car, make sure you burn all the clothes
(痕跡が残らないように)漂白剤で車を洗い、服を全部燃やす
My youngin’ down to shoot to kill just for a line of some coke
俺の連れはコカインを楽しむためだけに人を撃ち殺す
Sendin’ texts to all the opps like yeah we want all the smoke
早くお前らを殺して一服したいだけ、と敵にメールする
We up by six, they down by two, they need the go fix the score
少人数だが、お前らをやっちまうぜ
Pop out wit’ poles,
アサルトライフルの銃声を響かせる
told ’em I won’t spare no kids or no hoes
ガキでも女でも容赦しねえ
Foot on the pedal, heavy metal, send some shots through yo’ clothes
引き金を引いて服の上からぶち抜いてやる

なんとも恐ろしいリリックですが、彼は「殺人についてのリリックは必ずしも真実に基づいたものではなく、皆んなに求められているから書いているだけ」と保険をかけています。真偽がどうであれ、こういったリリックのスリル感を味わうのもヒップホップの楽しみ方の一つではないでしょうか。

ここまでの3作のミックステープのタイトル [『Life B4 Fame (名声を得る前の人生)』Life After Fame (名声を得てからの人生)』From the Neighborhood to the Stage (地元からステージへ)」]』からも、彼が2018年から2019年にかけて一気にブレイクを果たしたことが伺えます。

デビューアルバムのリリース

2020年1月、Quando は待望のデビューアルバム『QPac』をリリースしました。

このファン待望のデビューアルバムには、彼自身の内面的な成長が大きく反映されています。

昨年第一子が誕生し、父親となったQuandoは、『Letter To My Daughter』にて娘への愛を歌います。

I done dedicate my whole heart to you, girl

俺の心を君に捧げるよ
You’re the only one know how I feel

俺の気持ちをわかってくれるのは君だけなんだ
Run it up to just buy the whole world

全てを手に入れよう
I don’t care if it cost a hunnid mill’

それがいくらしたって気にしないさ
Want you to know you the only one

君は唯一の存在だってことを分かって欲しいんだ
Made me change the way that I live

俺の生き方を変えてくれたのは君だから
As a child, promise you’ll have fun

君が立派になるまで、楽しませ続けると誓うよ
Ain’t gotta worry ’bout a dollar bill

金のことだって心配いらないさ

Letter To My Daughter
娘を抱くQuando

このような愛に溢れたメッセージがアルバムの随所に見られ、父親として一皮向けた彼の成長が見受けられます。7曲目『Marvelous』に参加している Polo G のヴァースから言葉を借りると、「That gang sh*t a joke, n***a, all you got is familyギャングシットなんてジョークさ、あんたが手に入れたのは家族なんだ」の一言に尽きます。愛する妻と娘に恵まれ、生き方を考え直した Quando Rondo の今後に注目です。

終わりに

今回はジョージア州サバンナ出身のラッパー、Quando Rondo についてまとめました。彼の不良少年臭漂う見た目からは想像できない歌心のある優しいフロウ、ご堪能いただけましたでしょうか。

人気映画「Fast & Furious (ワイルドスピード)」のサウンドトラックに参加したり、今週 (2020年8月26日) にはニュープロジェクト『Diary of a Lost Child』をリリースしたりと、今後の彼の活躍からますます目が離せなくなりそうです。

Written by Riku Hirai

UKグライムシーンを牽引するキング Stormzy の全て

I just feel like there is nothing I cannot do.

俺にできないことは何もないと感じるんだ

グライム・アルバム初の全英一位獲得や、イギリス版グラミー賞とも言われるブリット・アワードでのベストアルバム賞&男性ソロアーティスト賞の受賞、さらには世界最大級の音楽フェス「グラストンベリー」にてイギリス出身の黒人ソロアーティストとして初のヘッドライナーを務めるなど、数多くの偉業を成し遂げてきた男、Stormzy。

そんな、今やグライムシーンのみならずイギリスの音楽シーンを牽引する彼は、本日(2019年12月13日)、待望のセカンドアルバム「Heavy Is the Head」をリリースしました。来年3月下旬には同アルバムを引っさげた来日公演の開催も予定されており、日本でも話題沸騰中の彼について簡単にご紹介させていただきたいと思います。

生い立ち

StormzyことMichael Ebenazer Kwadjo Omari Owuo Jr.は、ガーナ共和国にルーツを持つ、ロンドン南部・クロイドン地区出身の26歳(1993年生まれ)。

“I was a very naughty child,

俺はなかなかのやんちゃ少年だった

on the verge of getting expelled,

学校を退学になりかけたほどだ

but I wasn’t a bad child;

でも悪い子供ってわけじゃなかったんだ

everything I did was for my own entertainment.

全ては俺自身が楽しむためだった

But when I went into an exam I did really well.”

でもテストでは良い成績を残せたよ

3人の兄妹とともに母子家庭で育った彼は、自身の学生時代をこのように振り返ります。

高校卒業後は、サウサンプトンの石油精製所で二年間働いていたStormzy。196cm、95kgという恵まれた体格を持つ彼ですが、工場での力仕事に励んでいたというわけではなく、エンジニアとして品質管理を担当していたそうです。見た目とのギャップが面白いですね。

音楽キャリアの開始

幼少期から、Dizzee RascalやSkepta、Wileyなどといったグライムシーンのレジェンド達の楽曲を聴いて育ったというStormzyは、2011年にYouTubeにて初めて自身の楽曲をアップロードします(当時17歳)。

Skeptaの”Mike Lowery”のビートをジャック。

若いですね。夢追う少年って感じです。ただラップに関しては、このころから才能の片鱗を覗かせています。

ブレイクのきっかけ – WickedSkengMan series –

2013年の末頃、Stormzyは「WICKEDSKENGMAN [PART 1]」と題されたフリースタイルをYouTubeにアップします。

They say I’m a Youtube n***a
おれのことをYouTube野郎だって奴らは言うんだ
That’s cool, I’m fine with that
別にいいぜ、気にしないさ
But when you see me in the flesh could you give 
me a shout, 
でも、もちろん直接会っても言えるんだろうな
pull me up and remind me that?
おれを呼び寄せて、また言ってくれるよな?
Could you please just repeat that again for me?
頼むから直接同じことを言ってみろよ

クラシックなグライムビートの上でハードなラップをスピットするこの動画が話題を呼び、彼は一躍注目を浴びます。力強いラップと質素なビデオがよりいっそう彼の魅力を引き立たせており、今見ても6年前とは思えないほど全く古さを感じさせません。

その後Part 4まで公開されるに至ったこのシリーズが、彼の成功のきっかけとなったのは間違いないでしょう。

デビューEPのリリース – Dreamers Disease –

WICKEDSKENGMANシリーズで一挙に注目を浴びたStormzyは、2014年7月にデビューEP「Dreamers Disease」をリリースします。

キャリア当初は主にオールドスクールなグライムビートを使っていたStormzyですが、このEP「Dreamers Disease」から、幅広い音楽ジャンルに挑戦するようになります。当時勢いのあったドリルミュージックの影響を強く感じさせるトラック「No Way (feat. Yung Fume)」や、現在の彼の楽曲にも通ずるアフロビートトラック「Jupa (feat. Starboy willz & Showa Shins)」などが顕著な例です。

アルバムタイトルを冠した一曲「Dreamers Disease」では次のようにラップします。

Look, I don’t even smoke no more but somehow I stay high
おれはもう吸わないけど、ハイで居続けるんだ
Quit my job, mum bugged out, made my choice,
仕事を辞め、母には見放され、自分の道を選んだ
this is my life
これがおれの生き方だ
And I swear down I can’t do this alone,
これはおれ1人ではできないんだ
may the dear lord be my guide
親愛なる主が導いてくれるのさ
We’ve done some things,
おれ達はいろんなことをやったし、
wouldn’t even know where to begin
何から始めるべきなのかも分からなかった
but the dear lord knows we tried, so it’s alright
でも親愛なる主は分かってくれるんだ、だから大丈夫さ

ここで見られるように、Stormzyは”Lord(主、神)”への信仰や感謝を度々歌います。信仰する宗教を公式に発表しているわけではないので断言はできませんが、楽曲を聴く限りおそらく彼はクリスチャンです。

このEP「Dreamers Disease」では、彼の新しい音楽性への挑戦と、デビューを経ての決意や覚悟が見て取れます。

更なる躍進

2015年に入り、彼は二枚のヒットシングルを世に送り出します。

Know Me From

シーンの立役者、Dizzee Rascalの名曲「I Luv U」をサンプリングしたグライムチューン。

少し話がそれますが、Dizzee Rascalのアルバム「Boy In Da Corner」を聴かずしてグライムミュージックを語ることは許されないので、聴いたことがないという方は必ず聴いてください。言わずと知れた名盤です。

WickedSkengMan 4

こちらは前述した「WickedSkengMan」シリーズのPart 4です。

この楽曲は、UKシングルチャートで18位という成績を残し、フリースタイル楽曲としてのランキング(それまでの最高記録はJMEの「96 Fuckrie」で40位」)を大きく更新し、UK音楽シーンにおける歴史的快挙を果たします。皮肉にも、この曲のトラックはJMEの「Serious」という楽曲のものです。

ちなみに、先月末にリリースされたJMEの4年ぶりのアルバム「Grime MC」は既聴されましたでしょうか。フィジカルでのリリースのみという、いかにもJMEらしいこのアルバムは、「Grime MC」というタイトルに恥じない素晴らしいグライム作品でしたので、是非聴いてみてください。

すみません、少し脱線しました。それにしてもこの頃のクラシックなグライムビートを乗りこなすStormzyは本当にかっこいいですよね。ビデオを見るたびに惚れ直します。

そして、この「WickedSkengMan 4」のB面シングルとしてリリースされた「Shut Up」も、彼の成功を語るにあたって欠かせない楽曲です。

公園で友人らと集まり、DJ XTCによるオールドスクールなグライムチューン「Functions on the Low」の上でフリースタイルを披露しているだけのこの楽曲が、なんとUKシングルチャートのトップ10入りを果たします。

そのきっかけとなったのが、2015年の末に開催されたWBCインターナショナル王座とコモンウェルスイギリス連邦王座の防衛並びにBBBofC英国ヘビー級王座決定戦であった、Anthony JoshuaとDillian Whyteの一戦です。Stormzyは、Joshuaの入場曲として「Shut Up」を披露しました。いずれは僕もStormzyのラップを聴きながらリングに上がりたいものです。

後にリリースされる彼の楽曲、Cold (「Gang Signs & Prayer」収録)では、当時について次のようにラップしています。

I just went to the park with my friends,
and I charted

友達と公園に行っただけでチャート入りさ

Best Grime Actの受賞

ブラックミュージックに特化したイギリスの音楽賞、MOBO Awardsにて、Stormzyは「Best Grime Act」と「Best Male Act」の二部門を受賞します。

Bugzy MaloneやLethal Bizzle、Skeptaといった有力候補を抑えての受賞が、Stormzyの人気、注目度を物語っています。

2016年、デビューアルバムに向けて

2016年はアルバム制作に力を入れており目立った活動はなかった彼ですが、実は日本絡みのイベントがいくつかありました。

まずはこちら、「One Take Freestyle」。

東京渋谷の109、東急ハンズ周辺でフリースタイルをスピットするStormzy。ゲームセンターや自動販売機など、いかにも”日本っぽい”場所で撮影を行なっています。「クールな国”Japan”に行ってきたぜ!」って感じですね。

来日公演

つい最近、単独来日公演が決まり話題沸騰中の彼ですが、実は2016年に日本でのライブ経験があります。キャパ300人のCIRCUS Tokyoで、しかもエントランス無料。今では到底考えられませんよね。

StormzyはAdidas Originals by NIGOのルックにも起用されており、その関係で来日したとのことです。

デビューアルバムのリリース – Gang Signs & Prayer –

はい。ついに来ました、「Gang Signs & Prayer」。自主レーベル#Merky Recordsからリリースされたこのアルバムは本当に革命的な作品です。文章でだらだら説明するのもあれなんで取り敢えず楽曲を聴いていただきましょう。

Big For Your Boots

いかがでしょうか。BPM140の正統派なグライムチューンです。緊迫感漂うビートの上で彼は次のようにラップします。


You’re getting way too big for your boots
おまえは自惚れすぎだ
You’re never too big for the boot
おまえは絶対に成功できない
I’ve got the big size 12s on my feet
おれは12(29cm)のブーツを履く
Your face ain’t big for my boot
おまえはおれに及ばない
kick up the yout
若者を奮い立たせる
Man know that I kick up the yout
おれが若者を奮い立たせてるって知ってるだろ
Dem boy dere tried twist up the truth
やつらは事実を捻じ曲げる
How dare you twist up the truth?
どうしてそんなことができるんだ

too big for one’s boots : 「自惚れる」というイディオムと、Stormzyの靴(ブーツ)のサイズの大きさには誰も敵わないという意味をかけており、さらには靴から連想される”Kick”という単語を使って話を展開しています。

グライムのビート上で発せられる彼の力強いフロウには、技術や巧みさを超えた説得力があり、内容をよりシリアスに伝えるパワーがあります。

Cigarettes & Cush (feat. Kehlani & Lily Allen)

こちらは90年代R&Bテイストの一曲。前記のグライムチューンからの落差が凄すぎて、この2曲が同じアルバムに収録されていることが信じがたいぐらいです。Kehlani、Lily Allenの歌声と、Stormzyのタイトなラップが見事にマッチした名曲です。ミュージックビデオもロマンチックなので是非見てみてください。

Blinded By Your Grace Pt. 2 (feat. MNEK)

[Stormzy & MNEK]
Lord, I’ve been broken
神様、おれは落ちぶれていたんだ
Although I’m not worthy
何の価値もないおれでも
You fixed me, now 
あなたは立ち直らせてくれた
I’m blinded by your grace, 
あなたの恵みに圧倒される
you came and saved me
おれを救いにきてくれたんだ

神への感謝を歌うこの楽曲からは、オルガンを基調としたトラックや聖歌隊の美しいコーラスから、ゴスペルの影響を強く感じます。Kanye Westのゴスペルアルバムも話題となったように、やはりゴスペル色を取り入れたヒップホップアルバムは音楽的にも内容的にもより深みが増すように思います。Stormzyという立派な成功者でさえ神の力を頼りにすることもあり、改めて宗教の力は測りしれないなと感じさせられる一曲です。

Acousticバージョンもリリースされており、Wretch 32のバースが最高なので、是非聴いてみてください。

このアルバムの収録曲はハズレがないので本当は全曲ご紹介したいのですが、長くなってしまうので今回は代表的な三曲をご紹介させていただきました。

しっかり正統派グライムを組み込んだ上で、R&Bテイストのメロウな楽曲や、神を讃えるゴスペルチックな楽曲を散りばめたこのアルバム。一見まとまりがなさそうで、「Gang Signs & Prayer」は何度聴いても飽きさせない完璧なバランスを保っています。

その証拠に、リリース後早い段階でプラチナ認定(100万ユニット)され、その勢いのままイギリスの権威ある音楽賞Brit Awardsにおいて最優秀アルバム賞と最優秀男性ソロアーティスト賞を受賞しました。

ここまで来ると、さすがにグライムシーンのネクストキングと呼んでも異論はないでしょう。

Glastonbury Festival 2019

彼の偉業を語るにあたって欠かせないのが、世界最大級の音楽フェス、グラストンベリー・フェスティバルでヘッドライナーを務めたことです。

これまで、OasisやRadiohead、Cold Playなど、主にロック界のスター達が務めてきたポジションでしたが、今回イギリス出身の黒人ソロアーティストとして初めてStormzyが選出され、歴史的快挙となりました。

まずはその彼のステージを見ていただきましょう。

https://youtu.be/9vgar9pInkg

いかがだったでしょうか。いやー、かっこよすぎませんか。初期の楽曲から最新曲まで、またEd Sheeranの人気曲「Shape of You」やKanye Westの「Ultralight Beam」をカバーしたり、Dave & Fredoをステージに上げたりと、見どころ満載のステージで、1時間15分があっという間です。僕自身、何周見たか分かりません。

ちなみに、彼が着用しているユニオンジャック柄のベストは、イギリスを拠点とする著名なアーティスト、Banksyがデザインしたものです。

I made a customised stab-proof vest
カスタムした防刃ベストを作った
and thought – who could possibly wear this?
だれが着るべきだろうか
Stormzy at Glastonbury.
グラストンベリーのStormzyだ

このベストは警察の銃程度であれば防ぐことができる実用的なものであり、イギリス社会に蔓延するナイフ犯罪を批判するStormzyによるメッセージが込められています。

本日リリースされたアルバム「Heavy Is The Head」収録の「Audacity (feat. Headie One)」では、次のようにラップしています。

When Banksy put the vest on me
Banksyにベストを託されたとき
Felt like God was testin’ me
神に試されていると感じたんだ

ニューアルバムのカバーアートにも写っているこのベストは、850£(約12万5千円)で一時期販売されていました(現在は売り切れ)。

セカンドアルバム -Heavy Is The Head-

そして本日、彼のセカンドアルバム「Heavy Is The Head」が遂にリリースされました。2年越しのリリースということで世界中が待望していたこのアルバムには、Ed Sheeran、Burna Boy、Headie One、Tiana Major9、Yebba、H.E.R.、Aitchら豪華客演陣が参加しており、プロダクションにはFred Gibson、Fraser T Smith、T-Minusらがクレジットされています。

僕自身まだしっかり聴き込めていないので、少しだけご紹介したいと思います。

Crown

I done a scholarship for the kids, 
子供達のための奨学金を用意したけど
they said it’s racist
やつらは人種差別だって言うんだ
That’s not anti-white, it’s pro-black
アンチ白人ってわけじゃない、”プロブラック”なんだ

寂しげなトラックの上で、”キング”としての苦悩を歌う一曲。

Stormzyは、毎年2名の黒人学生を対象とするケンブリッジ大学進学用の奨学金「THE STORMZY SCHOLARSHIP」を2018年に設立しており、そのことについて言及しています。

彼曰く、決して差別行為をしているのではなく、教育における不平等を解消するために行っているものだそうです。どんな善行をしても、批判的な言葉を浴びせてくる人間は必ずいますよね。悲しい世の中です。

Own It (feat. Ed Sheeran & Burna Boy)

Ed SheeranとBurna Boyをフィーチャーしたアフロビートチューン。StormzyとEd Sheeranといえば、今年リリースされたEdのコラボレーションアルバム「No.6 Collaborations Project」収録の「Take Me Back to London」でも共演し、「曲のイメージが変わってしまうという理由で、当曲に参加予定だったJay-Zの参加を断った」という興味深いエピソードも話題となりました。

Stormzyは、彼の最も尊敬するアーティストであるJay-Zとの共演のチャンスを、曲のイメージ保持のために棒に振ったのです。このエピソードを聞いて、僕は改めてStormzyに惚れ直しました。憧れのアーティストとの共演を断るなんてなかなか出来ないですよ、普通。これも、シーンを背負う”キング”としての覚悟と責任感の表れでしょう。

はい。長くなりそうなので、とりあえず楽曲紹介はこの辺りにしておきます。

音的にはUSヒップホップの影響を感じさせるものやメロウなもの、ソウルフルなものなどが大半を占めており、グライムっぽさは強くは感じられませんが、彼はもはや「グライムシーンのスター」ではなく「現代の音楽シーンを代表するアーティスト」なのです。

前述した「THE STORMZY SCHOLARSHIP」の設立や、有望な作家の発掘を目的とした「#MERKY BOOKS」の立ち上げに加え、ソーシャルメディアを通じて選挙の投票を呼びかけるなど、音楽活動だけでなく社会活動にも力を入れているStormzy。今後ますます目が離せない存在になりそうです。

おわりに

今回は、本日セカンドアルバム「Heavy Is The Head」をリリースしたグライムMC、Stormzyについてまとめてみました。彼の魅力と功績が、多くの方に伝わっていれば幸いです。ニューアルバムについてのご意見やご感想もお待ちしております。

Stormzyをはじめとし、KAYTRANADAやFree Nationalsらの新譜もリリースされた忙しい1日にも関わらず、最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは良い週末を!

Apple Musicのプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/stormzy-heavy-is-the-head/pl.u-2aoqp2LUNWXxYz0?l=en

アトランタのトラップガール Bali Baby の魅力とは

こんにちは。

今回は、今年の XXL フレッシュマン候補にノミネートされていたものの惜しくも選出されなかったアトランタ出身のフィメールラッパー、Bali Baby ちゃんについて書いていこうと思います。彼女の魅力を最大限にお伝えできるように頑張りますので、最後までお読みいただければ幸いです。

Bali Babyとは

Bali Baby はバルバドスにルーツを持つジョージア州アトランタ出身(生まれはノースカロライナ州ジャクソンビル)の22歳。名前の由来なんですが、”Bali” は “Cali” の C を B に変えたもので、フッドの中で一番若かったことから “Baby” をつけたそうです。

※Cali : 低価格且つ高品質なことで知られるカリフォルニア産のマリファナ

※ギャング組織 Bloods (ブラッズ)に所属するメンバーは、敵対するギャング組織 Crips (クリップス)の頭文字である C を嫌い、C から始まる言葉を B に置き換えて使うことが多い。例: Crazy → Brazy

そんな彼女はキャリア当初、同性愛者であることを公表している数少ないフィメールラッパーとしても注目を集めていたのですが、現在は Rockstar Marqo という三流ラッパーと交際しています。ビジネス同性愛もいいところです。

Rockstar Marqo への嫉妬(S**t)が溢れ出る前に話題を変えます。

学生時代は神経学を専攻、将来の夢は脳外科医だった彼女は、2か月で中退するものの大学にも進学しており、インタビューの受け応えなどからもどことなく根の真面目さを感じます。見た目とのギャップが良いですね。

DJ の父を持つ彼女は、幼い頃から様々な音楽を聴いて育ちました。中でも Lana Del Ray の影響が最も大きく、彼女とコラボすることが夢だそうです。ヒップホップは昔から聴いていたわけではないという彼女ですが、同郷アトランタのトラップシーンを引っ張ってきた Migos や 21 Savage、シカゴの Chief Keef など近年のラッパーを好んで聴いているそうです。

主にメインストリームの音楽を聴いて育ったという彼女は、トラップを基調としつつもポップスやロックの要素を取り入れた、ジャンルに囚われないスタイルを確立しています。

ラッパーとしてのキャリア

ツイッターに投稿したフリースタイルがバズったことがきっかけで、ラッパーとしての活動を本格的に始めた Bali Baby。

バズったフリースタイルの1つ。Travis Scott や Tory Lanez のリミックスも話題となった、MadeinTYO のデビュー曲「Uber Everywhere」のビートの上でフリースタイルを披露する Bali Baby。

キュート且つ奇抜なルックスの彼女から繰り出される可愛らしいラップが注目を集めました。その後周りの後押しを受けスタジオに通うようになった彼女は、楽曲制作に夢中になります。2016年に EP「Bali’s Play」をリリースして以降、2016年から2017年にかけて彼女は4つのミックステープをリリースしています。

そして昨年2018年、彼女は念願のデビューアルバム「Baylor Swift」をリリースしました。カントリー界の歌姫 Taylor Swift にあやかって付けたと思われるこのアルバム名ですが、もはや C を B に変えるという従来の慣わしを完全に無視し、TをBに変えちゃっています。こだわりすぎない強引さが良いですね。

それではここで彼女のデビューアルバム「Baylor Swift」から一曲聴いていただきましょう。Bali Baby で「Backseat」

いかがだったでしょうか。”Baylor Swift” というより “Bvril Lavigne” といった感じですね。この曲が代表するように、このアルバムはロックや2000年代初期のポップスを参考にしたようなサウンドで構成されています。アメリカの音楽メディア「Pitchfork」では、10点満点中7.4点という比較的高い評価を得ています。

ロック且つポップに昇華された彼女のデビューアルバムは、今までヒップホップやトラップミュージックに触れてこなかった方にもオススメの一枚です。是非聴いてみてください。

続いて同じく2018年に、彼女は「Resurrection」というアルバムをリリースしました。このアルバムは前作「Baylor Swift」とは打って変わって、がっつりアトランタトラップです。”Resurrection” (復活)というアルバム名には、”トラップスタイルへの復活”という意味が込められているのでしょうか。ポップ調な楽曲も良いのですが、キュートな彼女から繰り出されるバッドガール感満載のトラップもやはり魅力的です。それではここで「Resurrection」から一曲ご紹介したいと思います。Bali Babyで「Bloody Mary」

いやー、最高ですね。シスター姿の Bali ちゃんも可愛いです。もちろんルックスだけでなく、ラップもかっこいいですよね。リリックについてはここで取り上げるほど素晴らしいラインは特にないので割愛しますが、どこか癖になる声、ライミング、フロウを持ち合わせています。

この「Bloody Mary」という曲、リリースされる前に彼女の Instagram にて一部公開されていたのですが、車内でラップする彼女が最高にキュート且つクールなので是非ご覧ください。

長い爪が少し怖いですが、とても可愛いらしいですよね。(未だに周りで共感してくれる人がいないので、Bali Babyの魅力について語りあえる方募集中です。)

少しでも彼女に興味を持ったという方は、是非一度アルバム通して聴いてみてください。

そして今年2019年、冒頭でも触れたように、彼女はXXLフレッシュマンの候補にノミネートされます。

毎日4時間おきに投票した僕の努力も報われず、惜しくも(おそらく惜しくもない)選出されませんでした(泣)。

Bali Baby の豆知識

少しだけ彼女の豆知識をご紹介したいと思います。

来日

Bali Baby は2017年に、エディター兼チェキフォトグラファー米原康正氏の個展「FXXK YOU ALL」のオープンレセプション出演のため来日したことがあります。

米原康正氏と Bali Baby

結婚式も行われるようなホテルで彼女のラップが聴けるなんて、想像するだけで異様な光景ですね。

タトゥー

彼女は全身に複数のタトゥーを入れています。

その中でも特に目立つのが、胸の谷間にある「福禄寿」というタトゥーです。この「福禄寿」というのは、幸福・富貴・長寿を象徴する七福神の一人です。来日経験もある彼女は、おそらくアジアや日本の文化に関心があるのでしょう。

レコードレーベル

彼女は「Play Girls」という自身のレコードレーベルを運営しています。

現在は Gabby! や i.Skyy、Flexxi といったフィメールラッパーのみが所属していますが、Bali は HotNewHipHop のインタビューにて、『いずれはラッパーだけでなく、メイクアップアーティストやヘアスタイリスト、ストリッパーなどを含めたフィメールアーティストのためのレーベルにしたいの。』と語っています。

HotNewHipHopのインタビューを受けるBali Baby

アパレルブランド

彼女は「Play Gear」というアパレルブランドも展開しています。服やアクセサリー、ウィッグ、付けまつげなど幅広く展開しているので、Bali Baby に憧れる日本の女子高生の皆さんは是非チェックしてみてください。

https://playgirlgear.com/

Bali Babyの楽曲

ここからはBali ちゃんの楽曲を数曲ご紹介させていただきたいと思います。

「V.V」

彼女の 1stEP「Bali’s Play」、ミックステープ「Bubbles Bali」収録の一曲。

Lil Yachty の「Shoot Out the Roof」と同じトラックが使われています。この “V.V” というタイトルは、“Vintage Vagina” を意味しています。意味がわからない方はググってください。もちろん深い意味などありませんが、Bali は彼女のガールフレンドがどれほど良い女なのかについてラップしています(リリース当時はレズビアンラッパーとして売り出し中でした)。不思議なビートと彼女の可愛らしい声がマッチしており、個人的には Yachty の曲よりも好きです。

「Woah Woah Woah/Crashbandicoot and chill – Trippie Redd & Bali Baby」

Trippie Redd の EP「A Love Letter You’ll Never Get」収録の一曲。

Trippie が Instagram で Bali に連絡を取り、このコラボが実現したそうです。両者のオートチューンを効かせたキャッチーなフロウが癖になる良曲です。ちなみにこの曲のフックは、有名な“Woah meme”を引用しています。

「Zombitch(feat. Bali Baby)- Elle Teresa」

来日経験もあると前述しましたが、実は日本のフィメールラッパー Elle Teresa ともコラボしています。

“アソコのBitch What You Wanna Do?
ミニバナナを振り回す”


– Elle Teresa

という Elle Teresa のバースに対して、Bali も次のようにラップします。

“ask the little bitch whatcha wanna do
何がしたいのとビッチに尋ねる
when u talking to the boss u better check ya attitude”
ボス(私)と話すときは態度に気をつけな

– Bali Baby

この二人には、フロウもバイブスも近いものを感じます(笑)。こういったコラボを通じて、日本のファンが増えてくれれば嬉しい限りです。

Captain Save-A-Hoe

最後は、今週金曜日にリリース予定である彼女のニュープロジェクト「THE BOOK OF BALI」収録の一曲です。

この曲では、Baliのセクシーなウィスパーフロウを堪能することができます。「THE BOOK OF BALI」、非常に楽しみです。今週末は皆さんBali Babyを聴きましょう。

まとめ

今回はアトランタのトラップガール、Bali Babyちゃんについて書いてみました。以前から彼女についてまとめてみたかったのですが、あまり需要がなさそうなので避けていました。しかし今回改めて記事にしてみて、彼女への愛を再確認できる良い機会となりました。少し自己満チックな内容になってしまったかもしれませんが、これを機に彼女のファンが一人でも増えれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

Apple Musicのプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/bali-baby-the-hottest-female-rapper-comming-outta-atlanta/pl.u-2aoqp2viNWXxYz0?l=en 

Brooklyn Drillってなに?

記事の内容を動画でもご紹介しています。

皆さんこんにちは。今回は、近頃ニューヨークのみならずアメリカ中で人気を博しつつある”Brooklyn Drill(ブルックリン・ドリル)”というジャンルについて、3人のラッパーを取り上げながらご紹介していこうと思います。記事の最後に、今回ご紹介させていただいた楽曲や、今後要注目のニューヨーク出身アーティストの楽曲を集めたプレイリストのリンクを貼っていますので、最後まで読んで頂ければ嬉しいです。それではさっそくいきましょう。

そもそもドリルミュージックって?

ドリルミュージックとは、2010年頃にイリノイ州シカゴで生まれたとされる、主に暴力や殺人などをテーマとしたヒップホップのサブジャンルのことを指します。Chief KeefやLil Durkらの台頭は記憶に新しいですが、彼らこそドリルシーンの立役者です。そんな彼らの功績もあって、ドリルミュージックは世界的に波及していきました。特にめざましかったのがイギリスへの波及、UKドリルです。衰退しつつあるシカゴのドリルシーンと比べ、イギリスでは今もなお盛り上がりを見せています。ロンドン警視庁によってUKドリルのミュージックビデオが削除されたり、若手ドリルグループ1011の活動が制限されたりといった出来事が、その盛況ぶりを表しています。

Brooklyn Drill

さてここから本題に入ります。ニューヨークといえばヒップホップ発祥の地として有名ですが、ここ数年はシーンとしての盛り上がりを見せておりません(Bobby Shmurdaや6ix9ineなど度々お騒がせ者は登場しますが…)。世界的にヒップホップが流行している中、そろそろ本場ニューヨークの若手にも頑張ってほしいなと思っていた矢先、突如としてブルックリンに新しい風が吹き込みます。それが”Brooklyn Drill(ブルックリン・ドリル)”です。このブルックリン・ドリルとは、その名の通り、ニューヨーク・ブルックリンで生まれたドリルミュージックのことで、2017年頃からじわじわと人気を集めてきました。シカゴドリルやUKドリルからの影響を強く感じさせるものの、新たな音を取り入れることを拒まず、彼ら独自のジャンルを作り出そうと日々進化を遂げています。

ここからはブルックリン・ドリルにおける重要且つ要注目なアーティストをご紹介していこうと思います。

1. Sheff G

ブルックリン・ドリルを語るにあたってまず最初に知っておくべきなのがこの男、Sheff Gです。

彼以前にもドリルスタイルを取り入れていたラッパーはいたのですが、最初にこのスタイルで注目を集めたのがSheff Gです。とやかく説明する前にまずは一曲聴いてみましょう。Sheff Gで”No Surburban”。

いかがだったでしょうか。不穏なメロディやドラムパターン、暴力的なリリックからドリルミュージックの影響を強く感じることができます。この楽曲は、後に紹介するラッパー22Gzの楽曲”Suburban”へのアンサー曲なのですが、互いはそれぞれ別のギャング組織に所属しており関係はよくありません。いわゆるビーフ状態にありギャング抗争の絶えない彼らは、彼らのいる境遇を同じく過酷な環境下にあるシカゴや南ロンドンのシーンと重ね合わせてラップしています。このことから彼らがドリルミュージックを自らのラップスタイルに取り入れた理由が分かります。

「シカゴ、UKドリルに影響を受けている」と様々なインタビューでも語っている彼は、実際UKドリルMCのTazeと曲を作ったりもしています。以前にChief KeefもSkengdoやAMといったUKドリルMCと曲を出していましたが、そのコラボよりも遥かにカッコいいので是非聴いてみてほしいです。

その後独自のスタイルを取り入れつつシングルをリリースしてきたSheff Gは、今年遂に彼にとって初となるミックステープ”The Unlucky Lucky Kid”をリリースしました。このミックステープからも一曲お聴きいただきましょう。Sheff Gで”We Getting Money”。

はい。既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、こちらのビート、主に70年代に活躍した日本の歌手、太田裕美さんの”赤いハイヒール”という楽曲をサンプリングしたものなんです。

シティ・ポップ(70~80年代に日本で流行したポップス)はサンプリングソースとして以前から人気がありますが、この選曲は渋いですね。

こういったビート選びから、シカゴ、UKドリルとの差別化を試みていることが見て取れます。実際Sheff GはHotNewHipHopのインタビューにて、「UKドリルビートは邪悪すぎるし、シカゴのビートは使い古されて時代遅れだ。だから俺たちは自分たちで新しいスタイルを作り出さなければならないんだ」と語っています。ミックステープ全体を通して聴いても、元来のドリルのドラムパターンを残しつつ、落ち着きのあるピアノや弦楽器を基調とした独自のスタイルを提示しています。

ちなみに、このミックステープ”The Unlucky Lucky Kid”のカバーを撮影したのは日本人のHazzさんという方で、J.ColeやPusha T、Tory Lanez、A Boogie wit da HoddieなどのMV撮影にも携わる凄腕カメラマンです。

Hazzさん(左)とSheff G(右)

HazzさんのInstagram(https://www.instagram.com/hazznyc/)より

2. 22Gz

次は、先程も名前を出しましたが、22Gzというラッパーについてです。彼はBlixky Boysというニューヨークで最も恐れられるギャング組織に所属しており、可愛らしい顔をして「Blixky(ハンドガンを意味する)」というワードを連呼するやばい奴です。実際、第二級殺人罪で逮捕されたり、Rich The Kidを挑発したり、楽曲内で多くの人気ラッパーをディスったりと、なかなかのアウトローです。

そんな彼は、Kodak BlackのレーベルSniper Gangと契約しており、ラッパーとしての実力は十分です。それでは最初に、そのKodak Blackを客演に迎えた一曲を聴いていただきましょう。22Gzで”Spin the Block (feat. Kodak Black)”。

[22Gz]
And if I miss, I’ma spin the block
撃ち損ねたらもう一度撃つ
Even if I hit, I’ma spin the block
命中してもまた撃つんだ
If I miss, I’ma spin the block
死ぬまで撃ち続けるぜ

はい、これぞドリルって感じの曲です。危険な匂いがプンプンしますが、幾多の犯罪歴を持つKodakが気に入る理由も分かります。

ここでもう一曲、彼の人間性が伝わってくる楽曲をご紹介したいと思います。22Gzで”Sniper Gang Freestyle”。

この曲中で彼は、6ix9ineやTory Lanez、G Herboなどの人気ラッパーや、Kooda BやJay Dee、Dee Savvなどの同郷ブルックリン出身の若手ラッパーを次から次へとディスっています。

さらに、こんなラインも登場します。

Killing ni**as and I rap about it like I’m Melly
人を殺してそれについてラップする、Mellyみたいだろ

Mellyとは、皆さんご存知、第一級殺人罪でお務め中のラッパー YNW Mellyのことです。22Gzは、そんな要注意人物である彼と自分を重ね合わせているみたいです。重ね合わせるのは自由ですが、同じ道は辿ってほしくないと願うばかりです。

基本的にはこういった暴力的且つ攻撃的な内容のリリックが多い彼ですが、力強い声と多彩なフロウが魅力的で、一度聴くと病みつきになる中毒性を持ちます。今年リリースされた彼のミックステープ”The Blixky Tape”も完成度が非常に高いので是非聴いてみてください。

3. Pop Smoke

続いては皆さんお待ちかね、Pop Smokeです。”Welcome to the Party”という楽曲、皆さん一度は聴いたことがあるんじゃないでしょうか。

このPop Smokeというラッパーもブルックリン出身なのですが、上記の2人のラッパーとは少しテイストが違います。まずは、わずか30分で作り上げたという彼の代表曲を聴いていただきましょう。Pop Smokeで”Welcome to the Party”。

いかがだったでしょうか。明らかにアメリカのヒップホップの音(ビート)じゃないですよね。そうなんです。この曲は、UKドリルMCのHeadie OneやRVなどにも楽曲を提供している東ロンドン出身のプロデューサー、808Meloによるプロデュースなんです。808Meloは、Sheff GやSleepy Hallowなど他のブルックリンのラッパーにも楽曲提供しているのですが、Pop Smokeは自身のほとんど全ての曲で彼のビートを使っており、完全に独自のスタイルとして定着させようとしています。

そして、このラッパーの凄さはなんといってもブレイクまでのスピードです。昨年の12月頃にラッパーとしてのキャリアをスタートさせた彼ですが、今年の4月にリリースした”Welcome to the Party”がニューヨークを中心にヒットし、それを知ったPusha Tがニューヨーク開催の「The Greatest Day Ever! festival」にてPop Smokeをステージに上げました。

この出来事が後押しとなり、”Welcome to the Party”はバイラルヒットとなりました。その後リリースされた9曲収録のミックステープ”Meet the Woo”のリリースパーティでは、同郷ニューヨーク出身のフィメールラッパーNicki Minajを客演に迎えた同曲のRemixを発表しました。

実はこのリミックス、アルバムリリースとPop Smokeの二十歳の誕生日祝いを兼ねたサプライズプレゼントで、彼自身もこのリリースパーティで初めて聴くことになりました。その時の様子をご覧ください。

Nickiのバースでブチ上がるPop Smoke。完璧なリアクションです。

その後もFrench MontanaやSkeptaらがリミックスに参加したりとその勢いは留まることを知らず、2019年夏は完全にPop Smokeが持っていってしまいました。それにしても半年強でここまでのヒット曲を生み出したのは本当にすごいです。まだまだこれからに期待ですね。

Rolling Loudへの出演キャンセル

ちなみに今回ご紹介させていただいたSheff G、22Gz、Pop Smokeの3人のラッパーは、先月開催された「Rolling Loud New York」に出演予定だったのですが、暴力事件への関与を理由に警察からキャンセルの要請があったため、急遽出演不可となりました。こういった出来事からも、ニューヨークにおいてドリルミュージックが盛り上がりを見せているのがわかります。

ニューヨーク市警からの出演取り止めの要請書

おわりに

いかがだったでしょうか。ヒップホップ誕生の地、ニューヨークで盛り上がりを見せるブルックリン・ドリルの魅力が、この記事を通じて少しでも多くの方に伝わっていれば嬉しいです。最後までお読み頂きありがとうございました。

今回ご紹介させていただいた楽曲や、今後要注目のニューヨーク出身アーティストの楽曲を集めたオリジナルプレイリストを公開しています。もしよろしければApple Musicのフォローもよろしくお願いします。

https://music.apple.com/jp/playlist/upcoming-new-york/pl.u-2aoqprzCNWXxYz0?l=en