21 Savage & Metro Boomin – アトランタが誇るトラップ最高峰タッグ

今週金曜日にジョイント・アルバム『Savage Mode Ⅱ』のリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin。世界中のヒップホップファンが待望する同アルバムのリリースに先立って、彼らのキャリアや魅力について振り返っておきましょう。

21 Savage

1992年10月22日にイギリスのロンドンで生を受けた 21 Savage (21サヴェージ) こと Shéyaa Bin Abraham-Joseph は、7歳の頃に母親と共にアメリカのジョージア州アトランタに移り住みます。2005年には故郷ロンドンに1ヶ月程滞在、その後アメリカに再入国し、以降はアメリカで生活していた彼ですが、当時取得していたビザはアメリカ入国後約1ヶ月で期限が切れており、2019年に不法滞在の疑いで逮捕されるという事件もありました。

逮捕時のマグショット (2019)

7th grade (日本の中学1年生にあたる) の頃には、21 Savage は銃の所持で地域中の全ての学校から永久追放を言い渡され、ギャングの世界に足を踏み入れることとなります。ドラッグディールや強盗など非行を繰り返していた彼は、2013年に敵対するギャングメンバーから銃撃を受け、親友を失いました (彼自身も6発の銃弾を浴び、当時は死も覚悟したそうです)。この日が彼の21歳の誕生日であったことが、彼の名前 21 Savage の由来です。

親友の死を受けてラップを始めた 21 Savage は、2015年にデビューミックステープ『The Slaughter Tape』をリリース。タイトルからも察しがつくように、アトランタのトラップとシカゴのドリルをミックスしたかのような暴力的なサウンドとリリックが話題を呼び、Sonny Digital や Metro Boomin といった大物プロデューサーと繋がります。

同年には、Sonny Digital とのジョイントEP『Free Guwop』とセカンド・ミックステープ『Slaughter King』をリリースしました。

キャリア開始以降コンスタントに楽曲をリリースしてきた 21 Savage は、2016年、XXL Freshman Class に選出されます。

XXL 史上最も高い人気を博す同サイファーで一躍注目を浴びた 21 Savage は、同年 Metro Boomin とのジョイントEP『Savage Mode』をリリースします。

このEPで成功を収めた彼は、2017年に Epic Records とサインし、デビューアルバム『Issa Album』をリリース。同アルバムは US Billboard チャートにて2位デビューを飾り、更にその後リリースされた Post Malone との楽曲『Rockstar』は Billboard Hot 100 にて最高1位を記録しました。

同年末には Offset、Metro Boomin とのコラボ・アルバム『Without Warning』をリリース。

翌2018年末には Travis Scott や Childish Gambino、Post Malone らをはじめとする豪華ゲストを客演に招いたセカンド・アルバム『I Am > I Was』をリリース。初週13万1千ユニットを売り上げ、見事 US Billboard チャート1位デビューを飾った同アルバムは、2020 Grammy Awards のベスト・ラップアルバムにもノミネートされました。

Metro Boomin

1993年9月16日にミズーリ州セントルイスで生を受けた Metro Boomin (メトロブーミン) こと Leland Tyler Wayne は、母親にパソコンを買ってもらったことをきっかけに、13歳の頃にトラックメイクを始めます。高校生の頃には、FL Studio の前身である FruityLoops を用いて、毎日5つものビートを制作していたそうです。Twitter をはじめとする SNS を用いてラッパーとのコネクションを築き始めた彼は、実際に彼らと仕事をするために、母親に地元セントルイスからジョージア州アトランタ (車で片道約8時間) まで頻繁に送ってもらっていたといいます。

Metro Boomin 曰く、最初に彼のビートを使ってラップをした有名なアーティストは OJ Da Juiceman だそうです。彼はこのコネクションをきっかけに、高校3年生の頃には Gucci Mane と繋がり、高校卒業後にはアトランタに移りました。アトランタに移住後、彼はカレッジに進学するものの音楽活動に専念するために1セメスターで退学。その後、Jeezy や French Montana、Ludacris、Future など名だたる著名アーティストとのコラボを果たした彼は、2013年に Gucci Mane や Future、Young Thug らを客演に招いたデビュー・ミックステープ『19 & Boomin』をリリース。

その後 Future の楽曲を多数手掛けるようになった Metro Boomin は、2015年には Drake と Future のジョイント・ミックステープ『What a Time to Be Alive』のエグゼクティブ・プロデュースを務めるなど、一躍大物プロデューサーの仲間入りを果たしました。

2016年には、Future の『Low Life (feat. The Weeknd)』や Migos の『Bad and Boujee (feat. Lil Uzi Vert)』、Kanye West の『Father Stretch My Hands, Pt. 1』など、数々のヒット曲を生んだ Metro Boomin は、21 Savage とのジョイントEP『Savage Mode』もリリースし、BET Hip Hop Awards にて最優秀プロデューサー賞を受賞しました。

2017年には、NAV との『Perfect Timing』、21 Savage & Offset との『Without Warning』、Big Sean との『Double Or Nothing』の3つのコラボ・プロジェクトをリリース。

飛ぶ鳥を落とす勢いでシーンのトップに駆け上がってきた Metro Boomin ですが、2018年、彼はSNSにて音楽活動の引退を表明します。

しかしその数ヶ月後、Nicki Minaj や Lil Wayne のニューアルバムに参加し、更には自身のソロデビュー・アルバム『NOT ALL HEROES WEAR CAPES』をリリース。同作は見事 US Billboard チャート1位デビューを飾りました。

  • Metro Boomin のプロデューサー・タグ一覧
  • Ayy, Lil Metro on that beat (by Kodak Black)
  • If Young Metro don’t trust you, I’m gon’ shoot you (by Future)
  • Metro (by Young Thug)
  • Metro be boomin’ (by Rich the Kid)
  • Metro Boomin want some more, n***a (by Young Thug)
  • This beat is so, so Metro (by Young Thug)
  • Young Metro, Young Metro, Young Metro (by Future)

21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲

ここからは、21 Savage と Metro Boomin の共演楽曲を数曲ご紹介します。今週末の『Savage Mode Ⅱ』のリリースに備えて、今一度彼らの過去作を振り返ってみましょう。

21 Savage – Drip (prod by TM88 & Metro Boomin)

I’m in the kitchen cooking crack like its bacon, 

キッチンでベーコンみたいにクラック (コカイン) を調理している

these p***y ass rappers they be faking

あいつらクソ共はフェイクだ

I’m 21 Savage ain’t no faking,

俺は 21 Savage、本物だぜ

AK-47 get the shaking

AK-47 が身震いしている

2人の初期コラボ曲。21 Savage は現在のスタイルより高めのトーンでラップし、TM88 と Metro Boomin が手掛けるシンプルかつ不穏なビートが 21 Savage のラップの緊張感を助長しています。

21 Savage – Supply (prod by Metro Boomin, Southside & Sonny Digital)

I am 21, young savage

俺は21歳 若い「savage (野蛮、冷酷)」だ

Try me, and you’re going to hell

かかってこいよ 地獄行きだぜ

気怠そうな声で淡々とラップするイメージのある彼ですが、この楽曲では高めの声や変則的なフロウを用いており、Metro Boomin を含む人気プロデューサー3人が手掛ける邪悪なビートと 21 Savage の遊びのあるラップが上手くマッチした1曲です。

21 Savage – Deserve (prod by Metro Boomin)

Me and Johny tried to rob everything

Johny と一緒に全てを盗もうとしていた (*1)

Mookie tried to tell us, do the right thing

Mookie は俺たちに「正しいことをしろ」って言ってたんだ

Larry died man I cried twice

Larry が死んだ時、2回泣いた

(中略)

RIP Tayman that’s why I got that knife

Tayman、安らかに眠ってくれ 俺もナイフのタトゥーを入れたよ (*2)

I don’t get excited about the fame

名声なんてどうだっていい

B***h I’m still with the same gang,

俺は今でも同じギャング (ブラッズ) に所属している

b***h I still claim the same thing

今でも俺の主張はあの頃のままだ

(*1) 21 Savage の親友 Johny は、この強盗の最中に銃撃を受け亡くなった。

(*2) Tayman は 21 Savage の実の弟。21 Savage の額のダガー (ナイフ) のタトゥーは、ドラッグディール中に銃殺された Tayman の額に入っていたもの。

弟や友人を失った悲しい過去を歌った1曲。Metro Boomin の感傷的なビートに乗る 21 Savage の泣き声に近いラップから、彼が生きてきたストリートライフの過酷さが鮮明に伝わってきます。

21 Savage & Metro Boomin – No Heart

You was with your friends playin’ Nintendo

お前が友達と任天堂 (のゲーム) で遊んでいる間

I was playin’ ’round with that fire

俺は銃を持って遊びまわってた

Seventh grade, I got caught with a pistol

1の頃にはピストル所持で捕まって

Sent me to Panthersville

青少年施設に送られた

Eighth grade, started playin’ football

2の頃にはフットボールを始めたけど

Then I was like fuck the field

すぐ辞めたよ

Ninth grade, I was knocking n***as out

3の頃には野郎をぶっ倒した

N***a like Holyfield

Holyfield みたいにな (*1)

(*1) Evander Holyfield : アラバマ州出身のプロボクサー

Metro Boomin、Southside、CuBeatz の3人が手掛けるシンプル且つダークなサウンドの上で、21 Savage が持ち前の低い声で緊張感のあるラップを披露します。ストリートのリアルを歌う、まさに「No Heart」なリリックも特徴的な1曲です。

21 Savage – Bank Account (prod by Metro Boomin & 21 Savage)

I got 1-2-3-4-5-6-7-8 M’s in my bank account

俺の銀行口座には 1-2-3-4-5-6-7-800万ドル入ってる

数え歌的フックが耳に残る1曲。Coleridge-Taylor Perkinson の『Flashbulbs』という楽曲のギターリフをサンプリングした Metro Boomin のダークなビートと、21 Savage の淡々としつつもキャッチーなラップが特徴的な同曲は、Billboard Hot 100 にて最高12位を記録。彼らの抜群の相性を更に世間に知らしめるきっかけとなった1曲です。

21 Savage, Offset & Travis Scott – Ghostface Killers (feat. Travis Scott)

I got AK, SK, HK, broad day

白昼堂々と銃を持ち歩いている (*1)

You a fuckboy, we ain’t with the horseplay

お前はクソだ 俺たちはふざけた真似はしないぜ

Shrimp-ass n***a, did you do your chores today?

ダサいお前ら、今日の雑用は済ませたか?

Do you wanna take a ride with the coroner today?

お前らは今日死にたいのか? (*2)

(*1) それぞれ銃の名称。AK = AK-47、SK = SKS、HK = MP5 や G36 などの Heckler & Koch 社製の銃。

(*2) Coroner は「検死官」の意。つまり「検死官と共に車に乗る」ことは「死」を意味する。

Metro Boomin らしい重厚でダークなビートの上で、Offset、21 Savage、Travis Scott という豪華メンバーが順番にヴァースを披露する1曲。圧倒的な迫力を誇る同曲を収録した 21 Savage、Offset、Metro Boomin によるコラボ・アルバム『Without Warning』は、US Billboard チャートにて初週4位デビューを飾りました。

Metro Boomin – Don’t Come Out the House (feat. 21 Savage)

Bang outside, I hang outside

外では銃撃 俺は行くぜ

Don’t come out the house ’cause the gang outside

家から出るんじゃねえぞ ギャングがいるからな

21 Savage が敵対するギャングに対して威圧的なラップをする1曲。イントロが終わり1ヴァース目に突入するタイミングで、Metro Boomin のビートが重厚なサウンドに切り替わり、それと同時に 21 Savage の緊迫感漂うウィスパー (囁き声) フロウが繰り出されます。サウンド、リリック共に圧倒的な緊張感が漂う、2人の相性が抜群に発揮された1曲です。

おわりに

トラップシーン最高峰タッグとの呼び声も高い 21 Savage と Metro Boomin の抜群の相性、ご堪能いただけたでしょうか。

今週末にリリースを控える 21 Savage と Metro Boomin によるニューアルバム『Savage Mode Ⅱ』のカバーアート

Cash Money や No Limit など、Pen & Pixel 作品を彷彿とさせる『Savage Mode Ⅱ』のカバーアートには賛否両論あるようですが、同アルバムも2000年代の名盤と並ぶ、もしくはそれらを超えてくるような歴史的な1枚になること間違いなしでしょう。

Written by Riku Hirai