Lil Wayne の「駄作」が現在のヒップホップに与えた多大な影響

XXS Magazine をご覧の皆さん、お久しぶりです。音楽ブログ「にんじゃりGang Bang」のアボかどです。

2020年というキリの良い数字の今年。Kanye West『My Beautiful Twisted Fantasy』や Drake『Thank Me Later』、Waka Flocka Flame『Flockavelli』など、多くの名作が10周年を迎えました。そして、「迷」作として歴史に残ってしまった一枚の作品も今年で10歳。今回は、Lil Wayne が2010年にリリースした悪名高いアルバム、『Rebirth』について考えていきます。

Lil Wayne のキャリアのおさらい 

まず、『Rebirth』に至るまでの Lil Wayne のキャリアを軽くおさらいします。

1982年生まれ・ルイジアナ州ニューオーリンズ出身の Dwayne Carter こと Lil Wayne は、8歳からラップを始めて91年頃には Birdman と出会い Cash Moneyと契約。95年にはB.G.とのユニット「The B.G.’z」でアルバム『True Story』をリリースします。

その後 The B.G.’z に JuvenileとTurk を加えた面子で、スーパーグループの The Hot Boys を結成。Juvenile のソロでの成功も追い風となり、The Hot Boys のメンバーとして Lil Wayne も90年代後半に高い人気を獲得します。

99年にはソロでの1stアルバム『Tha Block Is Hot』をリリースし、ラッパーとしての高い実力をアピール。Juvenile ほどではありませんでしたが、その評価を確実に高めていきます。

Lil Wayne『Tha Block Is Hot』

The Hot Boys 期の Lil Wayne は、ぬめりのある高音で Juvenile や B.G. の影響を感じさせるネチネチとしたラップスタイルが特徴でした。 

高い人気を集めた The Hot Boys でしたが、00年代前半に Cash Money から Lil Wayne 以外のメンバーが次々と脱退し、解散してしまいます。しかし、残ったLil Wayne は Jay-Z などの影響が見えるスタイルに移行しながら、Cash Money の看板を担うラッパーとして成長。

そして、05年には様々な転機が訪れます。一つはニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」で Cash Money のスタジオが大きな被害を受け、拠点をニューオーリンズからフロリダに移したこと。そしてもう一つは Cash Money の看板プロデューサー、Mannie Fresh のレーベル脱退です。

この二つから Lil Wayne はプロダクションを一新し、05年リリースのアルバム『Tha Carter II』では The Runners や Cool & Dre といったフロリダのプロデューサーを起用します。その後はミックステープを量産し、難解なワードプレイを駆使したパンチライン重視のスタイルに開眼。フリーキーなフロウも抜群の冴えを見せ、自他共に認める「Best Rapper Alive」となりました。 

Jay-Z や Kanye West、故 Betty Wrightら大物も参加した08年のアルバム『Tha Carter III』は大ヒットを記録。スカスカのビートでフックらしいフックもなくひたすらラップするシンプル極まりない『A Milli』(もっと言うとMVもチープ)のような曲もヒットしたことからも、その尋常ではない勢いが伺えます。 

ロックに目覚めたLil Wayne 

快進撃を続ける Lil Wayne は、09年初頭にロックアルバム『Rebirth』のリリースをアナウンスしました。そして DJ Infamous & Drew Correa のタッグが制作したシングル『Prom Queen』を発表。プロデュースした二人も「シングルにすると言われたが、最初は俺たちに気を使ってジョークを言っているんだと思った」「ロックアルバムを作る噂は聞いていたが、808にギターを乗せる程度だと思っていた」と後に語っていましたが、同曲はヒップホップから大胆に逸脱したヘヴィなグランジ系の曲に仕上がっていました。

そして、この挑戦的な曲はかなり賛否が分かれることとなります。というか、ほぼ否でした。さらにライブで自ら弾いたギターも衝撃的な腕前で、悪い意味での話題を集めます。Lil Wayne のギターは、ギターサイトの Ultimate-Guitar による17年の企画「ワースト・ギターソロトップ10」でも1位にも選ばれるなど、時が経っても忘れられないほどのものでした。 

これらの評価から『Rebirth』には不安の声も多く聞かれましたが、相変わらず客演等でのラップでは高い実力を発揮。『Rebith』は延期が繰り返され、その間に Nicki Minaj や Drake が Young Money からブレイクを果たしたこともあり、Lil Wayne 自体の人気が衰えることはありませんでした。

そして、当初の09年4月の予定から大幅に遅れた10年2月に、ついに『Rebirth』はリリースの時を迎えました。 

Lil Wayne『Rebirth』

『Rebirth』は初週で17万枚を越えるセールスを記録し、全米チャートに2位で初登場。Lil Wayneの変わらぬ人気を見せつけました。Cool & Dre や J.U.S.T.I.C.E. League らのフロリダのプロデューサーを迎えて制作された同作は、ヒップホップ的なアプローチの曲がないわけではないですが、報じられた通りかなりロックに寄せた曲が中心。ヴォーカル面ではオートチューンまみれでズルズルと歌ったり、シャウト気味の力強いスタイルなどを聴かせていました。

しかし、かなり攻めた色物的な内容の同作はリスナーを混乱させ、各メディアからも非常に厳しい評価を受ける結果となりました。米メディアの Complex の11年の企画「酷かったラップアルバムワースト50」でも4位にランクインし、Lil Wayne のキャリア史上最悪の迷作という烙印が押されました。 

この低評価が堪えたのか、一枚作ったらスッキリしたのか、理由は不明ですが以降 Lil Wayne のロックへの言及は減少。作品でもロック的な音に乗ることはほぼなくなり、ポツポツとやっていた曲でも11年の『How to Love』のように、『Rebirth』的なアプローチはあまり取らなくなっていきます。 

後進のラッパーの活躍による再評価 

「Best Rapper Alive」である Lil Wayne の人気は凄まじく、その影響力の高さは「Lil」と名乗るラッパーの増加からも伺えます。そして、そんな Lil Wayne の影響下にあるラッパーが、2010年代半ば頃からロックを導入したスタイルで次々と登場していきました。 

その代表的なアーティストの一人に、フロリダのラッパーの XXXTentacion がいます。

XXXTENTACION

15年に発表した出世曲『Look at Me!』はサウンドこそヘヴィなトラップ系ですが、そのシャウトも取り入れた発声には『Rebirth』での Lil Wayne のスタイルから地続きのものが感じられます。

XXXTentacion は以降も1st アルバム『17』で内省的なギターを導入し、2ndアルバム『?』ではさらにヘヴィなロック色の強い曲も収録。『NUMB』や Lil Wayne とも関わりが深いTravis Barkerが参加した『Pain = Bestfriend』などは、『Rebirth』に入っていてもおかしくないようなアプローチの曲になっています。

XXXTentacion は惜しくも亡くなってしまいましたが、Lil Wayne とも死後に疑似共演を果たしたほか、今年 Lil Wayne が「現在最も好きなアーティスト3人」を語った際にも名前が挙がりました。Lil Wayne がロックに挑んだ時に拠点にしていた地・フロリダから、Lil Wayne からの影響を語りロックを見事に取り入れた音楽性で成功したラッパーが現れたことは、なんとも美しい話ではないでしょうか。 

「Lil」系ラッパーの代表格である Lil Uzi Vert もまた、Lil Wayne からの影響が伺えるラッパーの一人です。

Lil Uzi Vert

ロックスター的なイメージを打ち出し、オートチューンにまみれたズルズルとした歌フロウを多用するそのスタイルには、サウンドこそロック的ではないものの確かに『Rebirth』的な要素が感じられます。

先に『Rebirth』を酷評した Complex も、Lil Uzi Vert らの活躍を受け17年に「Lil Wayne のワーストアルバムは彼の最も影響力の強いアルバムでもある」という記事を発表。後進のラッパーの活躍により、同作の再評価が確実に進んできています。 

ロック×ヒップホップの現在 

「Rebirth」にプロデュースで参加した Cool & Dre は、同作のリリース直前にこのようなことを語っていました。 

「『Rebirth』は、ヒップホップやR&B以外の音楽を作ってみたいというアーティストに新たな道を開くアルバムになる。そういう人はたくさんいるはず。 Prince & The Revolution がチャートを賑わしていた頃のような、音楽の多様性をまた見たい。Lil Wayne はただのヒップホップアーティストではなく、我々の世代を代表するアーティストになるはずだ。彼と一緒に活動していることを誇りに思う」。 

当時は完全な失敗作とされた『Rebirth』でしたが、その挑戦は後のラッパーに確実に影響を与え、ヒップホップにさらなる多様性を与えました。同作がなければ、もしかしたら現在のヒップホップは全く別物になっていたかもしれません。 

XXXTentacionらの活躍でロックを取り入れたヒップホップは今では大きな市民権を獲得し、今年に入ってからもアトランタの新鋭・Kenny Mason がロック色の強いアルバムをリリースし話題を集めました。日本でも kZm や (sic)boy、Lil Soft Tennis らがロックを取り入れた曲を発表しています。

そして、これまでにも Lil Wayne からの影響をたびたび語ってきたラッパーの一人である、Kendrick Lamar も次作でロックを取り入れていると報じられています。師匠の雪辱を果たすことができるのか、それとも師匠のように迷作と呼ばれてしまうのか。Kendrick Lamar は SNS 等であまりプライベートを明かさないので、「外出自粛でギターを始めていたらどうしよう・・・」とも思ってしまいますが、楽しみに待つことにしましょう。 

アボかど
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今週のリリース【5月18日〜】

今週のリリース情報【5月18日〜】

[アルバム]

Gunna – Wunna

Kota the Friend – EVERYTHING

Key Glock – Son of a Gun

HoodRich Pablo Juan – Hood Champ

KSI – Dissimulation

Young M.A – Red Flu

MAX – Colour Vision

Ambush Buzzworl – Ask My Brother

Footsie – Footsie ‘No Favours’

Scarlxrd – FANTASY VXID; SPRING.

Lil Darkie – LD2

Setitoff83 – Want Me To Fall

【シングル】

Migos – Need It (feat. NBA YoungBoy)

KYLE – What It Is

Rod Wave – And I Still

Fetty Wap – Pretty Thang

Snoop Dogg – I Wanna Go Outside

Ian Dior – Prospect (feat. Lil Baby)

Aitch – Raw

G-Eazy – Free Porn Cheap Drugs

Fredo Bang – Top

Teyana Taylor – Made It / Bare Wit Me

Yung Pinch – Be Yours

Lil Uzi Vert が、ニューアルバムの詳細を明かす

先日ファンに謝罪の気持ちを表し、ニューアルバムの存在を明かしたばかりの Lil Uzi Vert が、恒例となっているツイッターでのファンとの交流の中で、次作の制作状況についてを語った。

「紫のドレッドの頃の Lil Uzi がまた聴きたいな」というファンのツイートに対し、「俺たちは欲しいものを全て手に入れられるわけではないよ。でもそれが前に進むきっかけになる事もあるよね。」返信。

https://twitter.com/liluzivert/status/1261704963354476544?s=21

初期の Uzi のスタイルはもう帰ってこないとも解釈できるこのツイートだが、これに反応したファンが、「新しい曲では、古い Uzi の曲のような雰囲気を感じることができる?」とツイート。

そのツイートに対し、「もちろん!おれは新しいことに挑戦しなければならないけど、おれの原点にも戻るよ。」と返信し、ニューアルバムでは、昔の Uzi の雰囲気を感じることができる楽曲が存在することを明かした。

https://twitter.com/liluzivert/status/1261712741838053376?s=21

ほかにも、「新しい曲にどの位ワクワクしてる?」というファンの質問に「とても感謝してるし、とても興奮してるよ!」と返信した。

https://twitter.com/liluzivert/status/1261712194456207360?s=21

Eternal Atake の際は、アルバムの存在が明かされてから二年以上の月日を経てのリリースだったが、今回はスムーズに制作が進むのだろうか。

G Herbo がシカゴの刑務所に20000枚のマスクを寄付

先日、Zaytoven によってプロデュースされたニューシングル『Friends & Foes』をリリースした G Herbo が、シカゴで最も大きな刑務所である Cook County Jail に2万枚ものマスクを寄付することを明かした。

Our communities have been hurt by COVID-19 at a higher level than others, and our health needs to be a priority.

俺たちのコミュニティは、他より大きな影響を新型コロナウイルスによって受けている。そして、俺たちの命は最優先されるべきだ。

と主張した上で、Cook County Jail と2万枚のマスクを寄付する旨のパートナーシップを結んだことを明かした。

同じくシカゴのラッパー Lil Durk も、シカゴの病院で勤務する医療従事者たちに食料を寄付したが、シカゴのドリルラッパーたちはいかなるときも地元への貢献を忘れないようだ。

フロリダのラッパー YNW Melly が獄中での感染を発表したことや、6ix9ine が感染防止のため釈放されたことは記憶にあたらしく、刑務所内でのクラスターの発生が問題とされている。

Lil Wayne が、Wheezy のプロデューサータグを勘違いしていたと明かす

数々の名作を生み出し、ヒップホップ界の重鎮になりつつある Lil Wayne が、Young Thug や Future などと共演を重ねる人気プロデューサー Wheezy のプロデューサータグについて、恥ずかしい勘違いをしていたと明かした。

Wheezy のプロデューサータグは、ご存知の通り Future の声が使われた『Wheezy Outta Here!』 であり、本日リリースされた Future のアルバムでも聴くことができる。

本日リリースされた Future のアルバム『High Off Life』に収録されており、Wheezy によってプロデュースされた楽曲 『Solitaires』

Lil Wayne のニックネームは 「Weezy」 であり、プロデューサーの Wheezy と発音がほとんど同じため、Wheezy の存在を知るまで、彼によってプロデュースされた楽曲を聞くたびに「Future がいろんな曲のイントロで俺の名前を叫んでいる」と勘違いしていたそうだ。

「誰にも言いたくないほど恥ずかしい」と言いつつ、過去の勘違いをセルフ暴露した Lil Wayne だが、現在の彼にとって Wheezy はお気に入りのプロデューサーの一人であり、いつか楽曲制作を共にしたいとも語った。

Joyner Lucas が、ハリウッドスター Will Smith を客演に招いた『Will (Remix) 』をリリース

Joyner Lucas が、ハリウッドスター Will Smith を客演に招いた『Will (Remix)』をリリースした。

彼のデビューアルバム収録の楽曲『Will』は、Will Smith へのトリビュートソングであり、Snapchat にて Will が「(同曲の)MV を9回見たよ」と絶賛する様子も話題となった。

Eminem に実力を認められたラッパー Joyner Lucas と、元々ラッパーとしてデビューし、グラミー賞受賞経験もある Will Smith。そんな2人の夢のような共演作は以下から聴くことができる。

Apple Music :

https://music.apple.com/jp/album/will-remix-single/1512843010?l=en

Spotify :

故 Pop Smoke のデビューアルバムのリリース日が決定

今年2月に惜しくもこの世を去った NY・ブルックリンのラッパー Pop Smoke の遺作となるアルバムが、6月12日にリリースされると報じられた。

昨年と今年に続けてリリースされたミックステープ『Meet the Woo』シリーズに続く3作目のフルレングス・プロジェクトであり、彼にとってのデビューアルバムとなるようだ。

収録楽曲や客演アーティストなどについての詳細は未だ不明なため、更なる続報を待ちたい。

Blueface の彼女の1人が、一夫多妻制に耐えかね暴走する

2人の彼女を持ち、幸せな一夫多妻生活を送っていることで知られる Blueface。

そんな彼の彼女のうちの1人(Blueface の子供の母親にあたる)が、とうとう一夫多妻制に耐えかね暴走を始めた。

https://twitter.com/akademiks/status/1260666918865903617?s=21

事の発端は不明であるが、激怒しながら家のガラスや窓を叩きつける彼女の様子が映し出されている。やはり円満な一夫多妻生活を送ることは難しいのであろうか。

Future がニュープロジェクト『High Off Life』のトラックリストを公開。

Future が今週金曜日にニュープロジェクト『High Off Life』をリリースすることが判明。同時にトラックリストも公開された。

Travis Scott や Lil Uzi Vert、Meek Mill などに加え、DJ ESCO がエグゼクティブプロデューサーとして参加している。

Drake との楽器『Life is Good』や、Lil Baby と DaBaby が参加した同曲のリミックス、また DY Krazy と Wheezy によるプロデュースで先行リリースされている『Tycoon』も今作に収録されるようだ。

Gunna がニューアルバム『Wunna』のリリース日を発表。

Young Thug 擁する YSL Records 所属のラッパー Gunna が、遂に待望のニューアルバム『Wunna』に関する情報を公開した。

インスタグラムの投稿にてドキュメンタリーのトレーラーが公開され、そのキャプションではニューアルバムである『Wunna』が5月22日に公開されることが明かされた。

アルバムのリリースに合わせて、ジャマイカで撮影されたドキュメンタリーも公開されるようだ。本人の Gunna はもちろん、同じく YSL Records 所属の Nechie の出演に加え、Wheezy や Turbo らによる音楽が収録される。

今回はリリース日だけが知らされる形となったが、引き続きアルバムカバーやトラックリストなどの新しい情報を楽しみに待ちたい。