Lil Yachty と巡る、素敵なマンブルラップの世界

Lil Yachty (リル・ヨッティー) 、またの名を Lil Boat (リル・ボート) が世界中のヒップホップリスナーに注目され始めたのは、今から4年ほど前の2016年頃でした。

Lil Yachty

真っ赤なブレイズに、カラフルなビーズをあしらった独特なヘアースタイル。寝起きのような締りのない声色。様々なスタイルに挑戦し、常に新たなサウンドを創り出そうとする前向きな姿勢。数え切れないほどのユニークなキャラクターを持った Lil Yachty に、私たちリスナーは一瞬にして虜になりました。

Lil Yachty は、はっきりと言葉を発さないでラップする、いわゆる「マンブルラップ」のカテゴリでその名を轟かせました。

「マンブルラップ」と聞くと、ひょっとするとどこかネガティブなイメージをお持ちの方もおられるかもしれません。ここ数年では、Playboi Carti Lil Uzi VertYoung Thug などのいわゆる「マンブルラッパー」がシーンを台頭したこともあり、ネガティブなイメージは払拭されてきてはいますが、それでも、「マンブルラップ」という言葉がネガティブな意味合いで使われているのをよく目にします。

しかし、Lil Yachty の場合は、マンブルラップの枠を飛び越えてポップミュージックや R&B などのあらゆるジャンルのアーティストから引っ張りだこになっています。一時はネガティブなイメージさえ押し付けられていたマンブルラップアーティストの一人が、なぜここまで各方面からの人気を得たのでしょうか。今回はその活躍の裏に隠された「マンブルラップ」の魅力と共に、Lil Yachty についてまとめてみようと思います。

Lil Yachty ってどんなラッパー?

Lil Yachty (以下 Yachty) こと Miles Parks McCollum は、アトランタの西側に位置する小さな町メーブルトンに生まれました。

彼の音楽を聴いたことがあっても、彼のキャラクターについてあまり知らない方もおられるかもしれません。そんな方々には、まずこのインタビュー動画をお勧めします。(彼についてよくご存知の方も、ご視聴を強くお勧めします。)

I don’t eat fruits or vegetables
俺は果物も野菜も食べない
I eat pizza everyday… every single day
ピザは毎日食べるよ、毎日欠かさずにね

インタビュアーの「君について、みんなが知らないことを幾つか教えてよ」という質問に、このような驚きの回答を示した Yachty。

さらに、インタビュアーに「このままだと、リスナーのみんなは君のことを『変なヤツ』のカテゴリーに入れちゃうよ?」と警告されたのに対し、「どうぞお好きに。」と一言で答えてしまいます。インタビュアーも、困惑を隠しきれず全体的に気まずい雰囲気になってしまっていますが、この動画こそが世界中のリスナーが彼のキャラクターに魅了されている理由を明確に示していると思います。

マクドナルドで働いていた経験もある、ごく普通の少年だった Yachty は、2016年にリリースしたシングル『One Night』で一躍有名になります。ハイハットの効いた浮遊感のあるビートの上に、ほとんど抑揚のない気怠そうな歌声をのせる今までにないスタイルは、賛否両論こそありましたしたが、間違いなく世界中に広まりました。

各方面のアーティストとの共演

『One Night』で一挙に注目を集めた彼は、同年にミックステープ『Lil Boat』をリリースします。『One Night』が収録されていることから、もちろんリリース前から期待値が高かったミックステープですが、見事その中からもヒットを生み出します。それは Young Thug や Quavo、Skippa da Flippa を招いた楽曲『Minnesota』です。

幼児向けの数え歌のような単調なメロディーのトラックに、トラックと同じメロディーでアプローチする類をみないスタイルは、聴く者全ての心を鷲掴みにしました。Young Thug や Quavo など、各方面からのゲストを一曲に詰め込むことで、更なるリスナーの獲得に成功しました。

また Yachty は、2016年に Chance The Rapper によってリリースされたミックステープ『Coloring Book』に収録されている楽曲『Mixtape』にも参加し、そこでも大きな爪痕を残しました。

Chance The Rapper や Young Thug と言った実力派ラッパーと肩を並べて、ほとんど無名だった Yachty はソリッドなラップをラストバースで披露します。他の二人に劣らないそのラップスキルは、Chance のリスナーたちの間でも話題となり、すぐさまその口コミは拡散されました。

いわゆるマンブルラップの元祖である Young Thug や、アトランタトラップの大御所である Quavo 、シカゴの Chance らとの共演を果たした Yachty ですが、その勢いは止まることを知らず、更なるジャンル間の跳躍を見せてくれました。

その一例として挙げられるのは、Charli XCX との楽曲『After the Afterparty』での活躍です。オートチューンをバリバリに効かせ、ポップ寄りのフロウで歌うことで、ポップミュージックとの意外な融合を実現しています。この楽曲への参加を通して、Yachty はメロディアスなスタイルでポップミュージックのリスナーたちからの認知度も上昇させました。

このように、ジャンルの壁を跳躍して様々なアーティストとの共演を果たすことで、ヒップホップコミュニティ以外からの認知度を上昇させ、その結果としてヒップホップシーンの盛り上がりにつながりました。ジャンル間の共演のハードルを下げた人物として、間違いなく Lil Yachty の名前が上位に上がってきます。

スタイルの多様性

Yachty は、他のアーティストの楽曲に参加するのみならず、自らのプロジェクトにおいても様々なスタイルへの挑戦を試みてきました。本章ではその一部をご紹介します。

Not My Bro

1枚目のミックステープ『Lil Boat』に収録されているインタールード的なポジションの楽曲です。Yachty のメインフィールドである『マンブルラップ』を究極まで突き詰めた一曲となっており、リリックを見ながら聴いても何を言っているかわからないレベルです。ラップがうまいとはお世辞にも言えませんが、眠たげな声色と、一隻のボートが海原にポツンと浮かぶ様子が頭に浮かぶような穏やかなトラックが、何故だか心地よさを醸し出しています。

Beautiful Day (feat. Kylie Jenner)

『Lil Boat』をリリース後に制作された楽曲を集めたミクステ『After da Boat』に収録されている楽曲です。驚くべき点は、Kylie Jenner が客演として参加していること(ほとんどラップは披露せず、ただふざけている間にバースは過ぎ去っってしまいます。)ディズニーランドのパレードで流れてきそうな、可愛らしいトラックの上で四分間のショータイムが繰り広げられます。

前半の Yachty のバースでは、メリハリのないだらだらとしたラップから台詞のパート、さらには本気のラップなどが詰め込まれており、四分間が一瞬で過ぎ去ると共に、聴き終わったと同時に「今のは何だったんだ」という不思議な感想に襲われる迷曲となっております。

she ready (feat. PnB Rock)

2枚目のスタジオアルバム『Lil Boat 2』に収録されている PnB Rock をフィーチャーした楽曲です。『Lil Boat 3』の先行シングルを二曲ともプロデュースした Earl on the Beat によるプロデュースで、蒸気機関車の煙が吹き出すようなサウンドのポジティブな良トラックです。

Ty Dolla $ign のように、ヒップホップと R&B を行き来するようなスタイルで有名な PnB Rock をフィーチャーすることで、Yachty ならではの陽気な雰囲気を、他の楽曲とは少し違ったアプローチの仕方で実現しています。

Dripped Out (feat. Playboi Carti)

まずは、Lil Yachty の三枚目のスタジオアルバム『Nuthin’ 2 Prove』に収録されている Playboi Carti を招いたこちらの楽曲です。こちらも Earl on the Beat による 8ビットゲームのサウンドエフェクトのようなピコピコトラックに、乳児が泣きじゃくるようなラップが印象的です。

マンブルラップシーンを台頭するに二強の共演で、リリックを理解せずとも楽しめる素敵な楽曲に仕上がっています。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は Lil Yachty と共に素敵なマンブルラップの世界をご紹介しました。「薄っぺらくて、軽すぎる」と批判されることもあるマンブルラップですが、これも一つの立派なジャンルだと考え、単純に楽しんでみるのも良いのではないでしょうか。

最新作の『Lil Boat 3』にも、A$AP Rocky や Tyler, The Creator、Young Thug などが参加しており、大変聞き応えのある作品になりそうです。約2年ぶりに Lil Yachty ワールドに連れて行ってくれることを期待して、楽しみに待つとしましょう。

Gunna | 『Drip Season』から『WUNNA』までの軌跡

アトランタを中心として、発展を続けるトラップミュージック。Future や Young Thug、Gucci Mane などがその代表として挙げられますが、その勢力はアトランタにとどまることはなく、今や世界中に広まりつつあります。今回はそんなトラップミュージックのニュースター Gunna についてまとめてみたいと思います。

今週末に待望のニューアルバム『WUNNA』をリリース予定の Gunna。そんな彼の生い立ちや、これまでの作品についてこの機会におさらいして行きましょう。

生い立ちとキャリアの開始

Gunna (ガンナ) こと Sergio Giavanni Kitchens は、ジョージア州のカレッジパークに生まれました。カレッジパークは、たくさんのラッパーを生み出したトラップミュージックの聖地であるアトランタの北部に位置する小さな街です。

本名の Sergio Kitchens (セルジオ・キッチンズ) は、ラップネームの Gunna よりも数倍かっこいいと話題になり、本名をラップネームにした方が良いという声が多数上がったことも記憶に新しいです。

実は彼、Gunna 名義で本格的にラッパーとして活動する以前に、 Yung Gunna という別名義下で活動していました。2013年には Yung Gunna としてミックステープ『Hard Body』をリリースしています。柔らかく優しい声質はほとんど現在と変わっていませんが、明らかに現在と比べてフロウやリズムキープにおいて未熟さが感じられます。

ミクステのタイトルにもなっている『Hardbody』というこちらの楽曲。楽曲のタイトルを連呼するだけのフックに、今ではあまり聞くことのできないアグレッシブなフロウが特徴的です。楽曲の完成度は高くないとはいえ、ヘロヘロなラップとアグレッシブなフロウが共存している不思議なスタイルには、惹きつけられる部分もあります。

『Drip Season』シリーズや『Drip or Drown』シリーズで知られ、高級ブランドを身に纏っている現在の姿とは程遠い、坊主頭の彼を見ることのできる MV にも注目です。(未だに再生回数が16000回であることから、Yung Gunna 時代にはほとんどファンベースを築けていなかったようです。)

Young Thug との出会い

いかにも冴えないラッパーというイメージだった彼に、その後のキャリアを180° 転換する大きな転機が訪れます。それが、アトランタのラップスター Young Thug との出会いです。

Young Thug の親友である Keith Troup というラッパーを通して Gunna と Thug は出会いました。 二人を繋ぎとめた Keith Troup はその後すぐに亡くなってしまいましたが、Thug は Gunna の実力を認め、自身のミックステープ『Jeffery』に参加するチャンスを与えました。Gunna は『Floyd Mayweather』にて Gucci Mane と Travis Scott という超豪華メンバーに混ざって本気のラップを見せつけました。

『Floyd Mayweather』を聴いた Thug のファンたちは、ビッグネームに混ざる謎の若手ラッパーの名前に興味を持ち始め、 「Young Thug のアルバムに参加している Gunna というラッパーがヤバイ」という噂が瞬く間に広がり始めました。大物ラッパーが自らのキャリアに満足するのではなく、積極的に若手をフックアップして、ラップゲーム全体を盛り上げようとする姿勢は本当に素敵なものだと思います。

1st ミックステープ 『Drip Season』

『Floyd Mayweather』によって爆発的に認知度を得た彼は、2ヶ月後に Gunna 名義下での初めてのミックステープ『Drp Season』をリリースします。ちなみにこの時点で Young Thug が率いるレコードレーベル YSL Records との契約を果たしています。

彼をフックアップした張本人である Young Thug はもちろん、のちに YSL との契約をはたすラッパー Nechie や Young Trez などに加え、プロダクションには Narcos や Billboard Hitmakers、そして現在も Gunna とタッグを組んで楽曲制作に勤しむ Wheezy などが参加しています。

Cop Me a Foreign (feat. Young Thug)

Gunna が自らの名義下で初めて Thug を招いた記念すべき楽曲です。Yung Gunna 時代からは想像もできないほど、多彩なフロウやメロディーラインを用い、明らかにレベルアップしている事を感じ取る事ができる楽曲となっています。

再生時間は5分10秒と、トラップミュージックの中ではかなり長い方に分類されるこちらの楽曲ですが、面白いのは二人のバースの占有率です。Gunna のフックから幕開けし、1分58秒までは Gunna のバースが続きますが、その後の3分12秒は全て Thug によってラップが繰り広げられるという、ホストとゲストが逆転した構成になっています。

Gunna によってラップされたフックを、2回目のフックはそのまま Thug がラップし直していたりと、面白い要素をできるだけ詰め込んだ欲張りな楽曲となっています。目まぐるしく変化する Thug のフロウにも要注目です。

2nd ミックステープ 『Drip Season 2』

一作目のミクステで完全に勢いに乗った彼は、その7ヶ月後に二作目のミクステ『Drip Season 2』をリリースします。当時セルフタイトルアルバムをリリースした直後だった Playboi Carti や YSL 所属の Lil Duke、 他にも HoodRich Pablo Juan などが客演として参加しています。さらに、プロダクションには TM88 や Zaytoven、Pi’erre Bourne などの名だたるメンバーを招き、かなり華のあるミクステに仕上がりました。

Pi’erre Bourne のトラックを使用し、Playboi Carti 色に染まった『YSL』や、不穏な雰囲気のトラックに落ち着いたラップをのせた HoodRich Pablo Juan との『Mayors』などから感じ取れるように、Gunna は他のラッパーの雰囲気にうまく馴染む事ができるラッパーだと思います。このような適応性の高さも、のちに彼が参加した楽曲がリリースされない週がなかった状況を作り出した一つの要因なのではないでしょうか。

3rd ミックステープ『Drip Season 3』

奇抜でキャッチーなアルバムカバーが目を引く三作目のミックステ『Drip Season 3』は、2018年の2月にリリースされました。一年以上のインターバルを挟む事なく、コンスタントにプロジェクトをリリースしていくスタイルも、彼の人気にさらに火をつけて行きました。すでに超人気ラッパーに仲間入りしていた彼の新譜は、もちろんのこと期待されていたわけですが、本作はその期待を優に超えてきた傑作と言えます。

Lil Uzi VertLil Durk、NAV などの勢いのある若手をたくさん招き、トラックリストが公開された時点でファンたちは大盛り上がりでしたし、プロダクションには Metro Boomin や London On Da Track 、Turbo などが参加し、これまでのキャリアの集大成的なミクステに仕上がっています。(これだけ力を入れた作品がミクステというのもまた一興です。)

Car Sick (feat. Metro Boomin & NAV)

Metro Boomin による浮遊感のあるトラックの上で、Gunna と NAV が交互にラップしていく構成のこちらの楽曲。Tesla Pill という、テスラ社のロゴが刻印された MDMA をテーマにした楽曲で、ドラッグを服用することで起こる身の回りの変化などをラップしています。

テスラ社のロゴと MDMA の一種である Tesla Pill

Oh Okay (feat. Young Thug & Lil Baby)

Turbo によるアコースティックギターのトラックの上に Young Thug と Lil Baby を招いたこちらの楽曲。これぞ YSL という雰囲気の楽曲に仕上がっています。Gunna の同じメロディのラインを淡々と繰り返すスタイルはこちらの楽曲で顕著に聞く事ができます。

これを機に出会った Gunna と Lil Baby は、のちにジョイントミックステープ『Drip Harder』をリリースし、兄弟のように互いのパートナーとなります。

1st アルバム『Drip or Drown 2』

三枚のミクステを順調にリリースし、すでに強固なファンベースを築き上げていた彼ですが、このタイミングでデビューアルバム『Drip or Drown 2』をリリースします。ちなみに二、三作目のミクステの間に全曲 Wheezy によってプロデュースされた EP である『Drip or Drown』をリリースしているので、本作は『2』となっています。

服を着てサングラスを掛けたまま、傘を持つ自身の姿がアルバムカバーとして採用されましたが、こちらのカバーは、実際に逆さまに水中に潜った写真を上下反転させて制作されたそうです。撮影風景を想像すると、なかなか面白いシーンが脳内に浮かんできます。

「Drip or Drown 2 のカバーアートに使用された元の写真」

今回のアルバムには、Young Thug や Lil Baby に加え Playboi Carti の三人のみをフィーチャーし、ミニマムにまとめ上げています。デビューアルバムということもあり、自身の実力に目を向けて欲しいという彼なりの戦略なのでしょうか。

プロデューサーに関しても、ほとんどの楽曲が Wheezy や Turbo によるものとし、全体的にコンパクトにまとめ、自らのブランディングに徹しているような印象を受けます。アウトロでは今までとは一味違った中華ビートを採用し、スキルの幅広さも強調しています。

Same Yung N***a (feat. Playboi Carti)

Wheezy と Turbo のゴールデンタッグによるトラックに、Playboi Carti が参加したこちらの楽曲。彼らにしてはシンプルなトラックですが、小節が終わるごとに強くエコーがかけられたプロデューサータグが何度も響き渡るのが面白いです。

Really anytime I smoke the best dope
どんな時でも最高のウィードを吸うぜ

I pop off a tag when I change clothes
着替えるたびに新品の服のタグを切る

Ain’t that same young nigga from the ghetto
地元の他の奴らとは、ワケが違うんだよ

ラップを通してキャリアを築き上げ、今やリッチとなった彼らが「地元でフラフラしてる奴らとはワケが違うぞ!」という内容をラップしています。Playboi Carti の珍しく落ち着いたフロウにも注目です。(現在多用しているベイビーボイスに移行する途中という感じです。)

2nd アルバム『WUNNA』

『Drip or Drown 2』から、約1年3ヶ月のブランクを経て、今週の金曜日に2作目のスタジオアルバムである『WUNNA』のリリースがアナウンスされました。

リリース前夜に、アルバムカバーとトラックリストが公開されました。アルバムカバーは、レオナルド・ダヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」を模した自身のキャラクターの周りに、星座記号が刻まれた帯や、星座記号が配置されているデザインとなっています。

トラックリストによると参加するラッパーは、Young Thug や Lil Baby、Travis Scott など、プロデューサーは Wheezy や Turbo、Tay Keith などとされており、今回のアルバムも前作同様に比較的ミニマムな客演に押さえ込んだ印象を抱かせます。

『WUNNA』のトラックリスト

ちなみにアルバムタイトルの『WUNNA』ですが、Twitter にて『Wealthy Unapologetic N***a Naturally Authentic 』の頭文字をとった略語であると明かされています。先行シングルの『SKYBOX』をリリースしたタイミングで、インスタグラムで、サブアカウント的なポジションの @wunna という ID も取得していました。(開設当時はプライベートアカウントでしたが、現在は誰でもフォローしなくてもみることができます。)

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はトラップ界のニュースターである Gunna についてまとめてみました。今週末にリリースされる『Wunna』をキッカケに、さらに人気に火が付くと予想されますので、今後の彼のキャリアからも目が離せません。

XXS オリジナルプレイリスト : https://music.apple.com/jp/playlist/gunna-a-new-star-of-trap-music/pl.u-jV89B8Wtd1A86o2?l=en

シカゴの新しいサウンドを創り出したパイオニア Lil Durk とは

現在のシカゴのヒップホップシーンを牽引し、シカゴ内外の若手たちに強い影響を与え続けている Lil Durk。今週の金曜日には、ニュープロジェクト『Just Cause Y’all Waited 2』のリリースを控えています。そこで今回はそんな彼の生い立ちやキャリア、魅力に迫りたいと思います。

はじめに

Lil Durk (以下 Durk) は、アルバムやミックステープ、自身が率いるクルーである OTF (Only The Family) のコンピレーションアルバムを含め、19枚ものプロジェクトをリリースしており、本記事で全てを紹介することは極めて困難な試みとなります。ですので、本記事においては「ドリル色の強い Lil Durk」と「メロディアスなスタイルの Lil Durk」という二つのカテゴリに分けることで、彼の魅力を伝えることができたらと考えています。(このカテゴリ分けに関しては「独特なスタイル」の項目で解説しています。)

生い立ちとキャリアの開始

Lil Durk (リル・ダーク) こと Durk Banks は、Chief Keef や Lil Reese などをはじめとする数々のドリルMCを輩出したことでも知られる、イリノイ州シカゴで生まれ育ちました。

彼の父親は、1993年にドラッグの密売によって逮捕され、一時は終身刑を言い渡されることが危惧されていた、生粋のギャングスタです。シカゴ最大のギャングである Gangstar Disciples のメンバーでした。幸いなことに、彼の父親は、昨年の2月に約25年の懲役を終えて自由の身となりました。

晴れて釈放された父親 (右手前) と食事を楽しむ Lil Durk (右奥)

アメリカでもトップクラスに治安が悪いことで知られるシカゴのサウスサイドで生まれ育った Durk は、ギャングの抗争に参加するために在学していた高校を中退しました。そしてその同年、初めての子供を授かったことをきっかけに、ラッパーとして活動していくことを真剣に考え始めました。

独特なスタイル

生まれ育った場所がその聖地であることもあり、Durk はドリルミュージックのカテゴリの中で活動を始めました。不穏なビートの上で暴力的なラップを乗せるのがドリルの一般的なスタイルであり、彼もはじめはそのようなスタイルの楽曲をリリースしていましたが、ある時から新しいジャンルの開拓に力を入れ始めました。

Durk は、ドリルミュージックでは一般的でないメロディアスなフロウを取り入れ始めたです。今では当たり前のように見受けられるスタイルですが、当時はこのようなスタイルでラップをする者はおらず、異端児扱いされたこともあったようです。このような点において、Durk の楽曲は他のシカゴドリルMC である Chief Keef や Lil Reese などと異なっています。

Calboy や Polo G など、現在ではごく一般的に受け入れられているメロディアスなスタイルのラッパーたちが活躍できる基盤を築いたのは、間違いなく Durk の功績だと言えます。

現在では、ほとんどドリルの臭いを感じさせず、メロディアスに振り切った楽曲を中心に制作している彼ですが、時には「俺はドリルミュージックのパイオニアの一人だ!」と言わんばかりの激しい楽曲を世に送り出し続けているところも彼の魅力です。

ドリル色の強い Lil Durk

この章ではまず、彼の音楽の基盤となっている「ドリルミュージック」色の強いスタイルの楽曲を紹介していきます。主に初期にリリースされた『I’m a Hitta』シリーズや、DJ Drama によってホストされた『Signed to the Streets』、Lil Reese とのジョイントミックステープ『Supa Vultures』などのプロジェクトがこのカテゴリに当てはまります。

ドリル色の強い彼のアルバムには、シカゴドリルのパイオニアの一人である Lil Reese をゲストに招いていたり、Chei Keef と数々の名曲を生み出したプロデューサーである Young Chop をプロダクションに招いていたりと、至る所にドリルならではの要素が見受けられます。

L’s Anthem

初期にリリースした2枚目のミックステープ『I’m Still a Hitta』の六曲目に収録されているこちらの楽曲。タイトルは「Lの聖歌」で、その名の通りの楽曲です。「L」とは、Lil Durk が生まれ育った地域ストリート「Normal」 のニックネームである「Lamron」の頭文字であり、逆から読むことでギャングコミュニティー内でコードネーム化されています。

「Lamron」のクルーは Lil Durk が所属する Black Disciples の一部であり、そのモットーは「Life, Love & Loyalty」です。全てが L から始まることから、自らのフッドについてラップした曲を「Lの聖歌」 と名付けています。

Don’t Understand Me

DJ Drama によってホストされたアルバム『Signed to the Streets』に収録されているこちらの楽曲。若かりし頃の北野武に見えなくもない雑な似顔絵が印象的なアルバムカバーを見ての通り、この頃は完全なるドリルミュージックのアーティストです。

トラックも Chief Keef と Lil Reese の名曲『I Don’t Like』と良く似たシカゴドリル特有のサウンドで構成されており、いかにも暴力的な印象を抱く楽曲です。おそらく、最近の Lil Durk の楽曲を中心に聴いていた方達にとっては、そのギャップに驚く方も多いのではないでしょうか。

メロディアスなスタイルの Lil Durk

続いてこちらの章では、彼自信が創り上げたニュージャンルである、メロディックなスタイルの楽曲を中心に紹介していきます。Chance The Rapper や Wale などの、大物ラッパーの楽曲に参加した際も、このスタイルでラップを披露していたこともあり、「Lil Durk と言えばこの綺麗なメロディだよね」というようなイメージをお持ちの方も多いと思います。

Ty Dolla $ign や Young Thug などを招き、メロディアスなフロウを初めて積極的に取り盛り込んだアルバム『Lil Durk 2X』や、シリーズ最新作がアナウンスされたばかりの『Just Cause Y’all Waited』、『Signed to the Streets 3』などが、こちらのカテゴリに当てはまります。

She Just Wanna (feat. Ty Dolla $ign)

Durk にとって、アルバムごとメロディアスなものにスタイルチェンジを行う転機となった 2nd アルバム『Lil Durk 2X』に収録されているこちらの楽曲。Ty Dolla $ign をフックに起用している時点で、明らかにドリルミュージック路線を外れているのがわかります。

しかしこの楽曲は、メロディアスなスタイルに転換しつつある時期に制作されたとはいえ、最近の Durk ほどにメロディアスとは言えず、所々にドリルで培ったフロウが見受けられます。トラックが爽やかになるだけで、ここまで全体の雰囲気が変わるのか、と驚きます。

Durkio Krazy

12枚目のミックステープである『Just Cause Y’all Waited』 に収録されているこちらの楽曲。808 Mafia の古株である DY Krazy によるプロデュースです。浮遊感のある穏やかなイントロが続いた後、DY がドラムスを落とすと同時に心地よいフロウのラップが始まります。DY のクラッシックなトラックの上で、Durk の最高峰のフロウを楽しめるという点では、こちらの楽曲が最も単純明快で、初めての方にはお勧めしやすい一曲なのかもしれません。

Neighborhood Hero

数々の作品の中でも、特にメロディアスな側面の強い『Signed to the Streets 3』に収録されているこちらの楽曲は、Durk 自身が憧れ続けた地元シカゴの「ヒーロー」について敬意を払うと共に、Durk を含む彼らの世代こそが、次世代のヒーローになりつつあるということを歌ったものです。

Man, my city was goin’ crazy, rest in peace to Chino
俺の街は狂ってるよ。安らかに眠れ、Chino。(※1)

And free that n***a Meech ’cause he the hood hero
そして Meech (※2)を檻から出してくれ。彼は俺たちのヒーローだ。

Don’t gotta prove no point, n***a, we know
証明しなくとも、俺たちは知ってる。

And wherever that drama at, we go
何か事件が起こりそうな場所なら、どこへでも向かう。

We the neighborhood heroes
俺たちはフッドのヒーローだ。

(※1) Chino は、元 Durk のマネージャー。2015年に車の中で射殺されて亡くなってしまった。
(※2) Meech とは、シカゴ最大の薬物密輸組織である Black Mafia Family の創始者。2005年に、30年の懲役を言い渡され、現在もなお服役中。ラップを始める前は、ドラッグを売り捌くことがお金を手に入れる唯一の方法であったため、Durk は 彼のことを尊敬している。

Durk にとってのヒーローは曲中にも登場した Meech など、彼よりもひとまわり上の世代のギャングスターたちのようですが、Durk 自身も次の世代(OTF に所属している King Von や、Durk に大きな影響を受けていると思われる Calboy や Lil Zay Osama などの若手ラッパーたちにとって)のヒーローになりつつあります。

Lil Durk の参加曲

自身の名義下において大量の楽曲をリリースしてきた彼ですが、Durk は他のラッパーの楽曲に参加した先でも、その魅力を最大限に発揮するラッパーです。

メロディアスなスタイルが流行し、そのようなラッパーがたくさん上がってきている中で、そのパイオニア的存在としてあらゆる方面のアーティストたちから引っ張りだこになっています。

Chance the Rapper – Slide Around (feat. Lil Durk & Nicki Minaj)

Chance the Rapper が2019年にリリースした 1st アルバム『The Big Day』に収録されているこちらの楽曲。Pi’erre Bourne による極上のトラックの上で、シカゴの Chance と Durk、そしてニューヨークの Nicki Minaj のハーモニーが繰り広げられる奇跡のような一曲です。

『The Big Day』はリリース当時、参加アーティストが明かされておりませんでしたので、アルバムを聴き進めていくまで、誰が参加していて、誰のトラックが使われていて、彼らがどんなラップを繰り広げるのかが全くわからない構成でした。

そんな中で Nicki Minaj が登場し、すでに泣きそうになっていた私たちに追い討ちをかけるように Durk がこのようなラップを始めます。

Back then, I was broke, I can buy it now
あの頃を思い返すと、まじで貧乏だった。でも今はなんでも買えるぜ。

Got a bitch who love me, I can die around
俺を愛してくれる女性とも出会った。彼女とは死ぬまで一緒だ

もはや解説の必要がないほどに、最高以外の何物でもありません。ちなみに二行目の「俺を愛してくれる女性」というのは、Durk の妻である India Royal のことです。Durk は過去に『India』と『India Pt. 2』の2曲を、彼女に捧げる楽曲としてリリースしています。

India Royal (左) と Lil Durk (右)

ちなみに、India の前には DeJ Loaf と交際していた Durk ですが、ご多分に漏れず彼女に捧げる『My Beyoncé』という楽曲もリリースしています(こちらの楽曲に関しては、彼女をゲストに招いています。)。2015年にこちらの楽曲をリリースしたわけですが、この時期にしては珍しく最近の Durk っぽいスタイルで R&B 調の楽曲になっています。

ギャングスタのものとは思えない学園ドラマのワンシーンのようなMVにも注目です

Wale – Break My Heart (My Fault) [feat. Lil Durk]

Wale の6枚目のスタジオアルバム『Wow… That’s Crazy』に収録されているこちらの楽曲。Wale と Durk がそれぞれの失恋について、切なくも透き通ったトラックの上でラップします。副題に 「My Fault」とあるように、二人は自らの過ちによって壊してしまった愛について言及しています。

I only gave you my heart, you ain’t protect it
俺は君に心しか委ねられなかった。君はそれを守れないよね。

Plenty nights I went out with squad
幾度となく、仲間と夜に出歩いてしまった。

You felt neglected
無視されていると君が感じるのも仕方ないよね。

ギャングスタが楽曲の中で恋愛について言及する際、かなりの確率で登場するこの悩み。ストリートでの活動をとるか、一人の女性との間に育んだ愛をとるかの究極の二択を迫られる問題です。悩んだ末に、結局ストリートを選んでしまうのも、お決まりの流れでありギャングスタの生き様というべきでしょうか。

それはともあれ、ドリルシーンから生まれた彼が、こんなにも胸に響く楽曲を世に送り出すと誰が想像したでしょうか。ルーツを知っている人の中に生じるこの心地よい違和感、それこそが彼がファンの心を掴んで離さない理由と言えるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。取り上げたのが中堅アーティストということもあり、紹介すべきことが多く、少し長くなってしまいましたが、Lil Durk の魅力についてお伝えしました。リリース予定の『Just Cause Y’all Waited』、先行曲の雰囲気から見て、今回紹介した二色の Durk を両方感じられるアルバムになるのではと期待しております。

今回紹介した楽曲を中心に構成した XXS Magazine オリジナルのプレイリストもご用意しておりますので、下記リンクから是非お聞きください。それでは。

https://music.apple.com/jp/playlist/lil-durk-the-melodic-new-sound-of-chicago-street-rap/pl.u-8aAVrM6SoLMq970?l=en

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

whoiskosuke

ブルックリンドリルの後継者 Fivio Foreign とは

皆さんこんにちは。今回は大ヒット曲『Big Drip』でおなじみの NY・ブルックリンのドリルラッパー Fivio Foreign についてまとめてみようと思います。今週の金曜日(2020/4/24)にニュープロジェクト『800 B.C.』をリリース予定ですので、ご存知の方もそうでない方も彼について予習しておきましょう。

Fivio Foreign ってどんなラッパー?

Fivio Foreign(ファイヴィオ・フォーリン)は、NY・ブルックリン出身のドリルMCです。最近では、Pop Smoke の『Meet The Woo Vol. 2』に参加したり、Tory Lanez や Rich The Kid などと楽曲を発表したことから、知名度は上昇し続けています。

少しマニアックな話になりますが、Fivio Foreign (以下 Fivio) はニューヨークに多数存在するギャングの中で、800 Foreign Side という Woo に分類されるグループに属しています。そして Pop Smoke はというと、こちらも Woo に分類される Flossy 90s に所属。Woo に分類される名称が異なったギャングは、拠点とする地域によって分けられることが多いですが、Woo 全体としてはつながりを持っています。

ニューヨークでは Woo と Cho の二派による対立が激化していますので、Woo のメンバー同士(例えば Fivio Foreign と Pop Smoke)の共演はみられますが、Woo と Cho のメンバー同士のの共演は実現しません。少し話が脱線したので元に戻しましょう。

有名になってからほとんど時間が経っていない彼ですが、ラッパーとしてのキャリアは6年ほど前から続いています。と言いましても、地元ブルックリンのラッパーの楽曲に客演として参加することがほとんどで、自らの名義での楽曲のリリースは全くと言って良いほどありませんでした。

そんな彼が、本格的に楽曲をリリースし始めたのは昨年の2019年です。そんな中、彼がリリースしたデビューEP『Pain and Love』が近年のブルックリンドリルの人気の波とぶつかって、空前のバズを起こします。

1st EP『Pain and Love』

2019年6月5日に Fivio はデビューEP『Pain and Love』をリリースしました。Pop Smoke や Drake との共演も果たしたロンドンのプロデューサー AXL Beats が、収録されている4曲すべてのプロデュースを担当し、近年のドリルミュージック逆輸入の流れを体現したものとなっています。タイトルの『Pain and Love』は、アルバムカバーの通り、彼の両手に刻まれたタトゥーの文字から由来しています。

『Big Drip』

EPの一曲目に収録されているこちらの楽曲は、彼のキャリアを語る上で避けては通れない一曲です。こちらの楽曲が彼の人気を爆発させた奇跡の一曲だと言っても過言ではありません。

彼のセカンドプロジェクト『800 B.C.』には、Lil Baby と Quavo が参加した本曲のリミックスも収録されています。

Pop Smoke と Fivio のスタイルはよく比較対象にされるようですが、前者は低い声でオオカミのようにラップするのに対し、後者は高い声で弾けるようなラップをします。

銃声を真似たアグレッシブなアドリブが曲の随所に散りばめられていますが、彼の場合はアドリブの域を超えて、もはやそれがリリックと化しています。

『It’s Me』

続いて紹介する楽曲はこちら。ブルックリンドリルのカテゴリー内では比較的珍しいゆったりとしたトラックの上で、穏やかな口調でラップしています。主に過去の回想をそのまま歌詞に書き起こしたような内容なのですが、曲調とは裏腹にストリートで生き抜くことの厳しさを生々しくラップしています。

I’m from a small town
俺は小さなまちで育ったんだ

Blocks they wouldn’t walk down
あいつらが歩けないほど危険な地域でな

No drive-bys, we doin’ walk-downs
車からの銃撃はしないぜ、俺らは車から降りて敵を狙い撃

I was dead broke
俺はまじで貧乏だった

Writin’ rhymes where the roaches at
ゴキブリが這い回るような場所でライムを書いていたよ

Mama Lottie knew I was a star before I wrote a rap
俺がラップを書く前から、ママは俺がスターだって知ってた

‘Cause I was always the one gettin’ noticed, but they didn’t notice that
俺は注目されるべきだったのに、他の奴らは俺のヤバさに気付かなかったからな

EPリリース後

Pop Smoke 『Sweetheart (feat. Fivio Foreign)』

EPリリース、『Big Drip』の大ヒット後、彼はブルックリン内外を問わず、数々のビックネームとの共演を果たしました。その中でも特に目立ったものは、ほぼ同時期からブルックリンドリルシーンを台頭してきた Pop Smoke との楽曲『Sweetheart』ではないでしょうか。プロダクションには、 Pusha T や Nicki Minaj との共演で知られるブルックリンのプロデューサーが参加し、ドリルトラックに挑戦しています。

Fivio Foreign & Rich The Kid 『Richer Than Ever』

アトランタの人気ラッパー Rich The Kid と共にリリースしたシングル『Richer Than Ever』です。こちらの楽曲は、『Big Drip』などのプロデュースした AXL Beats で、完全に Fivio の土俵に Rich The Kid を引きずり込んだものとなっています。Rich The Kid も、ブルックリンドリル特有のフロウに挑戦していますが、意外と違和感がなくて不思議な感覚を覚えます。

Tory Lanez『K Lo K (feat. Fivio Foreign)』

カナダ・ブランプトン出身で、IGライブを賑わせている Tory Lanez が Fivio を客演に招いた楽曲です。タイトルの『K Lo K』とはドミニカ共和国でよく使われる「調子はどう?」を意味するスラングで、どことなく異国の香りが漂うトラックとなっています。

プロデュースを担当するのは Tory Lanez と数々の楽曲を制作している E.C Fresco で、メロディーラインは Tory Lanez っぽく、ドラムス(特にハイハット)はドリルミュージックっぽく、2人の音楽スタイルのちょうど中間を行くようなトラックとなっています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。彼がすでにリリースしている楽曲はまだまだ非常に少ないため、本記事で半分以上をカバーできていると思います。

残念なことに、ブルックリンドリルのビッグスター Pop Smoke が今年の2月に亡くなってしまいました。志半ばでブルックリンのストリートに遺された Pop Smoke の想いを、大切に背負ってトップに上り詰めることができるのは、間違いなく彼だと思います。

左 Fivio Foreign と 右 Pop Smoke

そんな彼が、ブルックリンドリルの後継者となってくれるよう願いつつ、金曜日にリリースされるニュープロジェクト『800 B.C.』を楽しみに待ちましょう。

whoiskosuke

デトロイトの暴れん坊 42 Dugg って?

皆さんこんにちは。最近では Sada Baby や Teejayx6 など、デトロイトから勢いのある若手が増えてきている印象ですが、今回はここ数ヶ月で爆発的に人気を博し始めている、デトロイトの暴れん坊 42 Dugg についての記事です。

2020年の3月に3枚目のミックステープ『Young & Turnt, Vol. 2』をリリースしたばかりだったり、Lil Baby のアルバム『My Turn』に参加したりと、大波に乗っている彼を是非この機会にお見知り置き下さい。

42 Dugg ってどんなラッパー?

42 Dugg (フォートゥー・ドゥグ) は、デトロイト出身の26歳。なんと彼は、15歳の頃から22歳になるまでの約6年間を獄中で過ごしました。小さな部屋の中では、手持ち無沙汰を極めていたようで、暇をつぶすためにラップの歌詞を書き始めたことが、彼のキャリアの始まりです。

晴れて自由の身となった2017年頃から本格的に楽曲制作に取りかかり始め、ストリートでの体験を鮮明にラップするスタイルは、徐々に世間の注目を集めていきました。

彼の努力がストリートからの支持を得始めたところで、彼の楽曲は Lil Baby の目にとまりました。それをきっかけに Lil Baby の 4PF (4 Pockets Full) と Yo Gotti の CMG との契約に成功しました。

左から 42 Dugg、Yo Gotti、Lil Baby

彼の特徴は、いかにもやんちゃそうな声で勢いよくラップするスタイルや、Kodak Black などを彷彿とさせるねっとりとしたラップです。ほとんど全曲で聞くことのできるトンビの泣き声のような口笛のアドリブにも注目です。(これをアドリブと分類するか、効果音と分類するかの問題はいったん置いておきます。)

1st ミックステープ 『11241 Wayburn』

42 Dugg は、2018年に初めてミックステープ『11241 Wayburn』をリリースしました。デトロイトのローカルクルー Team Eastside より、2018年に射殺されてしまった Team Eastside Snoop が参加していたりと、デトロイトのG好きな方にはおすすめのミクステとなっています。

三曲目に収録されている『Never』という楽曲は、Dugg 自身が選ぶ「最も過小評価されている曲」だそうです。アーティストの自己評価と、世間からの評価には常に多少のズレが生じるようです。

ちなみにアルバムタイトルの『11241 Wayburn』とは彼の生まれた実家の住所です。残念ながら、彼の生まれ育った実家はすでに解体されており、その姿を見ることができません。しかし、土地が売りに出されていますので、彼のことが好きでたまらない方は是非ご購入を検討下さい。(Google Map 上でオレンジの杭に「11241」と記されているのも確認できます。)

2nd ミックステープ『Young and Turnt』

2019年の3月15日に2枚目のミックステープ『Young and Turnt』がリリースされました。4PF と CMG 加入後、初めてリリースされたミックステープということもあり、以前のものとは比べ物にならないほど、参加アーティストが豪華になっています。

所属している二つのレーベルの長である Lil Baby と Yo Gotti はもちろんのこと、地元デトロイトから Tee Grizzley、CMG から Blac Youngsta などが参加しています。プロダクションにも、Tee Grizzley と数多くの楽曲を作成したことでも有名な、デトロイトの Helluva Beats などが参加しています。

中でも注目の楽曲は、所属する CMG のボスである Yo Gotti を迎えたYou Da Oneです。噛み付くようなやんちゃなラップをかます 42 Dugg が子だとしたら、落ち着いた口調で淡々とバースを蹴る Yo Gotti は威厳のある父親というところでしょうか。

単に Yo Gotti が一区切りのバースでラップするだけでなく、Tee Grizzley と Lil Yachty の『From the D to the A』を思い出させるような、2人交互にバースを蹴っていく構成になっているところも見所です。 Tee Grizzley もデトロイトなので少しは影響を受けているのかもしれません。

こちらの楽曲も Tee Grizzley と Lil Yachty が交互にラップしていく構成になっています。曲が進むごとにどんどん本気になっていく2人の勢いに注目です。

3rd ミックステープ『Young & Turnt, Vol. 2』

2枚目のミクステから約一年のインターバルを経て、2020年の3月に待望の新作『Young & Turnt, Vol. 2』 をリリースしました。2枚目の続編という立ち位置のミクステですが、アルバムタイトルの表記は「and」から「&」へとマイナーチェンジがなされています。

引き続き Lil Baby と Yo Gotti に加え、前作にも参加しており Team Eastside のメンバーである Babyface Ray も参加しています。プロダクションには Helluva Beats はもちろんのこと、808 Mafia のボス Southside が新しく参加しています。4PF に属しているからこそ実現したコラボですね。

今回ご紹介したいのは、7曲目に収録されている『Hard Times』という楽曲です。先行シングルとして、ミクステより一足先にリリースされていたものですが、彼にとっては比較的珍しいメロディアスなフロウで、全体的に希望に満ち溢れたバイブスが特徴的な一曲です。

6年間の獄中生活を経て、一瞬にして人気ラッパーに成り上がった彼だからこそ書くことのできるリリックを、フックの一行目から披露してくれます。

Hard times don’t last
厳しい時期は、そう長く続かないぜ

感染症による影響で暗いムードが漂う私たちにとっても、この一行は最高のメッセージであり、彼の発する一言によって分厚い雲の隙間から希望の光が差し込んでくるような気もします。やはり音楽の存在は私たち人類にとって偉大なものだということに改めて気づかされる、そんな一曲でした。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はデトロイトのやんちゃ小僧 42 Dugg についての記事でした。デトロイトのラッパーや 4PF、CMG 周辺のラッパーとのコラボもこれから増えてくると予想されますので、彼の名前を見かけたら積極的に聞いてみることをお勧めします。すでに次のミクステが楽しみで仕方ありません。

whoiskosuke

新鋭プロデューサー集団 Working On Dying って?

皆さんこんにちは。少し前に Lil Uzi Vert が『Eternal Atake』をリリースしましたが、このアルバムの制作において欠かせない存在となったプロデューサー集団 Working On Dying をご存知でしょうか。

なんと彼ら、『Eternal Atake (Deluxe) – LUV vs. The World 2』に収録されている32 曲中、14 曲もプロデュースした強者集団なのです。今回はそんな彼ら Working On Dying についての記事です。

Working On Dying って?

Working On Dying (以下WOD)とは、Lil Uzi の地元でもあるフィラデルフィアを拠点に活動するプロダクション・コレクティブで、Brandon Finessin、Oogie Mane、F1lthy などのメンバーで構成されています。

彼らは、Lil Peep 率いる Gothboiclique のメンバーである Lil Tracy や、13歳で XXXTENTACION とともにヒット曲『$$$』をリリースした Matt OX などのプロデュースに参加したり、ビートを提供したりもしています。

左から Oogie Mane、Matt OX、Brandon Finessin、右後ろが F1lthy

彼らの作るトラックの特徴は、

①エモ

②アニメモチーフ

③近未来的

の3つで、時にはそれぞれの要素を融合して全く新しいジャンルを作り出してしまうこともあります。

『Matt OX – Overwhelming』

この曲は ②アニメモチーフと ③近未来的 の二つの要素の融合といった具合でしょうか。歪んだシンセサイザーのようなメロディの上にハード目なトラップビートが特徴的です。

日本語のサンプリングから幕開けするこちらの楽曲、これも実は WOD の OogieMane によるプロデュースです。Oogie Mane は元々こちらの日本語プロデューサータグ(NARUTO三話のサスケとサクラのやりとり)を使用していました。しかし権利上の問題もあり、この楽曲以降に制作したものに関しては、曲中のフレーズ『Oogie Mane he killed it』を抜き取り、プロデューサータグとしています。

Lil Uzi による『Eternal Atake』のデラックスで一曲目に収録された『Myron』も Oogie Mane によるもので、初めに Matt OX の声が聴こえて驚いたという方も多いのではないでしょうか。

ちなみに、WOD のグループタグは、こちらの楽曲でも10秒あたりで使用されている女性の声で、『I’m Working on Dying』です。

『Quando Rondo – Dope Boy Dreams』

先ほど WOD のトラックの特徴を3つ挙げましたが、彼らにはちゃんとクラッシックなトラックを作る能力も備わっています(無敵)。

Lil Uzi の EA では、近未来的でクセの強いビートが多かったため、「WODは変なビートを作る集団だ」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、それだけじゃないんだよ!と、声を大にしてここで言っておきます。

お聞きいただきました楽曲は Quando Rondo による『Dope Boy Dreams』で、Brandon Finessin によるプロデュースです。「WOD と Quando Rondo って意外!」と思った方も多いかもしれませんね。

ちなみに Brandon Finessin のプロデューサータグは、フックが始まる直前に挿入されている「Ay Brandon Why You Do Dat!」です。

Eternal Atake と Working on Dying

冒頭に32 曲中14 曲プロデュースに参加と書きましたが、これは紛れもない事実です。新しい領域の音楽を創造しつつ、しっかりと地元の若手をフックアップしている Lil Uzi にも非常に好感が持てます。

『Lil Uzi Vert – Futsal Shuffle 2020』

まず初めは、みんな大好き『Futsal Shuffle 2020』です。こちらの楽曲も実は Brandon Finessin がプロダクションに参加しています。初めて聴いたときは「これはHipHopなの?」と困惑したほど、ネクストレベルに進んでしまっているトラックです。

かなり難易度の高いダンスチャレンジと共に、2019年の末にリリースされ、彼の思惑通りインターネット上には彼のダンスを真似する動画が溢れかえりました。

リリース前のプロモーション動画においては確認できた Brandon Finessin のプロデューサータグですが、リリースされた公式な音源からは消されてしまっていました。

『Lil Uzi Vert – I’m Sorry』

Brandon Finessin がプロダクションに参加。こちらは ①エモ と ②近未来的 な要素をミックスしたようなトラックです。Lil Uzi の切ない歌声とマッチしていて、つい繰り返し聴いてしまいます。

ちなみに『I’m Sorry』と、先ほどの『Futsal Shuffle 2020』 には Starboy というプロデューサーも Brandon と共に参加しています。カービィのタトゥーを顔面に入れており、なかなかパンチのある人物です。実は彼は、DaBaby の BOP なんかにも参加しており、注目に値する1人なのですが、彼は WOD に所属していないので、また機会があれば紹介します。

Starboy

『Lil Uzi Vert – Celebration Station』

こちらの楽曲も Brandon Finessin が参加。疾走感のある宇宙系のトラックです。ちなみに終始バックで流れている女性のコーラスは、かの有名な世界の歌姫 Ariana Grande です。彼女のアルバム『Sweetener』のイントロにあたる楽曲『raindrops (an angel cried)』をサンプリングしています。

WOD が参加したその他の作品

『Bladee – Working on Dying』

Yung Lean によるコレクティブ YEAR0001 に属するラッパー Bladee のミックステープです。プロジェクトタイトルからお察しだと思いますが、全曲 WOD によるプロデュースです。OogieMane や Blandon Finessin はもちろん、今まで取り上げなかったメンバー F1LTHY や Forza も参加しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。 Eternal Atake がリリースされたことによって段違いに注目度が上がった Working On Dying。これからはどんなラッパーたちと、どんな新しい音楽を創り出してくれるのでしょうか。とても楽しみです。

whoiskosuke

アトランタ Zone 6 の新星 Yung Mal って?

みなさんこんにちは。今回はアトランタのソリッドなラッパー Yung Mal についての記事になります。

Yung Mal って誰?となっているそこのあなた、まだ遅くありません。先月にニュープロジェクト『6 Rings』をリリースしかなり上がってきている彼を、これを機にチェックしてみてください。

生まれはニューオーリンズですが、2008年にアトランタの Zone 6 に移り住みました。移住先のアトランタ Zone 6 の大先輩 Gucci Mane 率いるレーベル 1017 Eskimo Records や Alamo Records と契約しています。

Mal は Lil Quill という同郷出身のラッパーと、ヒップホップデュオ Yung Mal & Lil Quill の 1/2 としての活動に重きを置いていましたが、昨年ミックステープ『Iceburg』をリリースしたタイミングからソロでの活動にも力を入れているようです。

左 : Yung Mal  右 : Lil Quill

Lil Quill とともにリリースしたミックステープも良作揃いなので、ぜひ紹介したいのですが、今回は Yung Mal のみに絞って紹介しようと思います。(Lil Quill についてはまた後日)

1st ミックステープ『Iceburg』

『Iceburg』は Yung Mal による初めてのソロミックステープです。デュオ時代に蓄積したスキルとコネクションを最大限に活かし、かなり豪華な良作となっています。

Gucci Mane との楽曲に Zaytoven がプロダクションに参加していたり、Gunna との楽曲に Turbo が参加していたりと、ラッパー客演に呼ぶだけでなく、そのラッパーの周辺人物も積極的に巻き込んでいて、聴いていてかなり楽しいです。

『#’s』

まず初めにご紹介するのは『#’s』という楽曲。読みは『Numbers』で、つまるところのギャングスタ版数え歌です。歌詞の各行に1から順に数詞を折り込んでラップするというもの。

面白いのは、ただ数字を羅列するだけでなく下記のようにギャングスタスラングや、ワードプレイを盛り込んで淡々とラップしていくところです。

I done got rich, I’m still in the six
俺は金持ちになったけど、いまだに Zone 6 にいる。

Yung Mal が活動の拠点としているアトランタのエリア、Zone 6 の「6」

They talkin’ plates, we already ate
飯のことか?俺らはもう食っちまったぜ(大量のマリファナのことか?もう全部吸っちまったぜ)

「8 (eight)」と同じ発音の単語で、「eat」の過去形である「ate」を使ったワードプレイ

Don’t fuck with 12, I’m never gon’ snitch
警察の相手はしないぜ。俺は絶対裏切らない。

「12」は警察を意味するスラング

『Action (feat. Pi’erre Bourne & Lil Gotit)』

ここ数年において若手プロデューサーの頂点に立ち続けている Pi’erre Bourne と、 Mal と同じく Alamo に所属するラッパー Lil Gotit を招いたこちらの楽曲。

Pi’erre Bourne による琴のような音色が盛り込まれた中華ビートがなんとも言えない奇怪さを醸し出しています。そしてこちらの楽曲には、Pi’erre Bourne も自身のビートの上でラップに参加しています。

余談ですが、あちこちに挿入されている Pi’erre Bourne の最新プロデューサータグ「よ〜ぴえ〜」は、こちらの楽曲で初めて使用されました。

2nd ミックステープ『6 Rings』

2020年の3月、彼は2枚目のミックステープ『6 Rings』をリリースしました。

収録曲12曲の全ての楽曲が プロデューサーコレクティブ 808 Mafia の Pyrex Whippa によってプロデュースされています。

少し脱線しますが、Pyrex Whippa について少しだけ。彼は先述の通り 808 Mafia に所属しているプロデューサーです。そのため、Southside や DY Krazy を彷彿とさせる自由自在にハイハットを操った特徴的なビートを製作します。J. Cole 率いるDreamville のプロジェクト『Revenge of the Dreamers lll』にも参加したことから、彼の実力が認められていることが良く分かります。

ちなみに、Pyrex Whippa のプロデューサータグ「Zone 6 n****, Pyrex Whippa (Pyrex!)」は、21 Savage と Offset、Metro Boomin のジョイントアルバムである『Without Warning』に収録されている『Disrespectful』の一節を取ってきたものです。タグの声が 21 と Offset の時点で勝ち確定。

『Cocaine Freestyle』

アルバム1曲目に収録されているこの楽曲。Yung Mal にしては比較的珍しい勢いのある早口ラップを披露しています。タイトル通りフリースタイルなので、フックやブリッジなどは一切なく、イントロ的な役割を果たしています。Pyrex Whippa の変態ハイハットビートにも要注目です。

『100 Missed Calls』

成功を手にし有名になった結果、朝起きた時に100件の不在着信がたまってるよ。という嘆きから始まるこの楽曲。富も名声も手に入れた彼ならではの挑発的なリリックが散りばめられています。

Racks that talk
金が喋りだす

Every account, every stash getting filled
どの口座も金庫も、もうパンパンだよ

Have you ever seen a hundred thou-blue hunid Bill’s (huh?)
お前は10万ドルの札束を見たことがあんのか?

『Shut Up (feat. Lil Keed & Lil Gotit)』

Pyrex Whippa のスローなビートに、ロウキーなラップが怪しげな一曲。風邪のひき始めなのか、Lil Keed の鼻声ラップや、Lil Gotit の極端に言葉数が少ないバースにも注目です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。アトランタのソリッドなラッパー Yung Mal のご紹介でした。イケてる人は聴いている、聴いてる人はイケている、リアルなラッパーでした。それでは、また次回!

今回紹介した Yung Mal による二枚のミックステープはこちらから聴くことができます。↓

whoiskosuke

シカゴの若手ラッパー Polo G とは

みなさんこんにちは。今回は、『Pop Out』のメガヒットでお馴染み、シカゴ出身の要注目ラッパー Polo G についての記事です。彼の生い立ちやキャリアに触れながら、簡単にご紹介していこうと思いますので、ぜひご覧ください。

生い立ち

Polo G こと、Taurus Tremani Bartlett は、シカゴ出身の21歳(1998年1月6日生まれ)。Taurus は歴史的な建造物が多く残るシカゴの北部で、両親と3人のきょうだいと共に生まれ育ちました。

シカゴの中では治安がいい方の地域ですが、いかんせん犯罪の多いシカゴの街の一つですので、彼の楽曲の中には、彼が成長とともに目撃してきたリアルなストリート事情が描かれていたりもします。

キャリア

現在、インスタグラムにて300万人のフォロワーを抱える彼ですが、2018年の初旬までは、誰も彼のことを知りませんでした。2016年から楽曲の作成は開始していましたが、初めの一年はヒット作を生み出すことが出来なかったようです。

しかし、そんな彼が2018年の後半にリリースした楽曲『Finer Things』が予想外の大ヒットを記録。その波を逃すまいと続けてリリースしたのが、『Battle Cry』と、Lil Tjayとの楽曲『Pop Out』でした。この3枚のシングルが彼の人生を180° 転換させるきっかけとなったのです。

左 : Lil Tjay と 右 : Polo G

スタイル

彼の楽曲のスタイルは、ドリルミュージックとメロディックの融合です。後々紹介しますが、彼は G Herbo などにインスパイアされたであろう激しい楽曲や、Lil Durk やなどに影響を受けたと思われるメロディックな楽曲の両方を制作します。そして、時にはその二つのジャンルをミックスすることも。初心者には取っ付きにくいジャンルである「ドリルミュージック」ですが、彼の音楽ならチャートの上位にのぼってくるのも納得です。

デビューアルバム『Die a Legend』

2019年6月に彼は Columbia Records よりデビューアルバム『Die a Legend』をリリースしました。

こちらのアルバムは、犯罪や抗争などの犠牲となってしまった、彼の幼馴染や古くからの友達、また彼らと共有した大切な思い出に名誉を与えるために制作されました。

タイトルの『Die a Legend』は「伝説になって死ぬ」という意味で、

①「亡くなった彼の仲間は、彼の中で伝説として永遠に生き続ける」

という想いと、

②「亡くなってしまった仲間の為にも、自分自身が伝説となってから死ぬ」

という決意表明的な想いが込められていると思われます。

今回はこちらのアルバムの中から、日本語の記事になっていない(またはそのような記事が少ない)楽曲について紹介していこうと思います。

『Die a Legend』のカバーアート。
彼を取り囲むように、亡くなった仲間たちの写真がデザインされている。

『Through da Storm』

こちらの楽曲では、彼の地元であるシカゴのストリートで経験した悲しい過去を思い返しながら、家族に対する謝罪の気持ち、そしてその苦境を乗り越えていく自身の姿をラップしています。

https://www.youtube.com/watch?v=cgMgoUmHqiw

Hey big brother, it’s me, Leia
ねぇお兄ちゃん、私、レイアだよ。

Remember at the old house I said you was gonna be a big star one day?
古い家で私が「いつかお兄ちゃんはビッグスターになるよ」って言った日のこと覚えてる?

I’m so proud of you
本当に誇りに思ってるよ。

Mmh, mmh, mmh, Polo G Live in the flesh
Polo G、望むままに生きるのよ

小さい女の子のセリフから始まるこちらの楽曲ですが、この声の正体は彼の実妹のレイアちゃんです。2019年の Rolling Loud では、レイアちゃん本人がステージに上がり、生声でイントロを披露しました。

Know my grandma still with me, when it get cold, I feel your spirit
おばあちゃんは今も俺のそばに居る。寒気がした時に彼女の気配を感じるんだ。

Talkin’ to my lil’ sister, phone calls through Securus
刑務所の中から、Securus の電話を通して妹と話す ※1

Walk in court in them shackles, see my mama, her eyes tearin’
手錠をされたまま法廷を歩いて、泣いている母親に会う。

Tryna work towards these blessings but the devil keep interfering
神の恵みに向かって努力するけど、悪魔がそれを邪魔するんだ

※1 Securus とは、アメリカの刑務所で採用されているオンライン面会システム

『Deep Wounds』

こちらの楽曲は、彼が幼少期にストリートで経験した悲劇の数々について、そしてその中で生まれた彼なりの決意についてラップしています。

https://www.youtube.com/watch?v=GIDTSzFSexM

We ain’t never duckin’ beef, bitch, we not vegan
俺たちはビーフを避けないぜ ビーガンじゃないからな

みなさんご存知の通り「Beef」という言葉には、一般的な「牛肉」という意味と、「喧嘩」というスラング的な意味があります。お肉を食べることを避けるビーガンのルールと、闘争を避けることができないギャングスタのルールを、巧みなワードプレイに乗せてラップしています。

I miss Mike Durb, I won’t forget the things you used to say ※2
恋しいよ、Mike Durb。あなたが言っていたことは忘れない。

My friends got killed on the same block where we used to play
よく遊んでいた場所で、おれの仲間たちは殺されたんだ。

I know that death come unexpected, you can’t choose a day
死はいつ訪れるか分からないし、その日を選ぶことはできない。

I swear I pop so many pills, shit got me losin’ weight
薬をたくさん飲んで、どんどん痩せていっちまってる。

※2 Mike Durb は彼の叔父の名前。本曲を制作していた頃に交通事故で亡くなっている。

ここでは、大切な仲間や家族を失った経験について言及しています。Genius のインタビューにて「みんな、自分の家族に限ってはすぐに死なないと信じてる。でも実際に次に死ぬ人間は、予想もしていなかった身近な存在なんだよ。」とコメントしています。彼の場合もこのような悲劇を経験するまでは、身近な人の死は、そうすぐには訪れないと考えていたのでしょう。

歌詞にもある通り、大切な人物を失うなどという堪え難い悲しみから、危険なドラッグや犯罪に手を染めてしまう事例も少なくはないことがわかります。

Polo G による他の楽曲

『Heartless (feat. Mustard)』

デビューアルバム『Die a Legend』をリリースし、一気に有名となった彼ですが、すでに自作に向けても精力的に活動しているようです。こちらの楽曲は、アルバム以降にリリースした一作目のシングルなのですが、なんとプロダクションに Mustard が参加しています。

こちらの楽曲では、タイトル『Heartless』 の通り、ギャングの抗争や彼を取り囲む人間の悲しい振る舞いの中で、自分自身が『冷酷』になっていくことをラップしています。しかし彼の場合、ただ「冷酷」になるのではなく、そうなることで自分自身のすべきことに焦点を当てられるようにもなった、とポジティブなリリックも見られます。

My cousin got indicted dealing cocaine
俺のいとこはコカインの取引をして訴えられた

She an Instagram addict, she want mo’ fame
彼女はインスタに夢中で、もっと有名になりたがってるし

I used to starve, now I’m blowing up like propane
俺はかつて飢えていたけど、今はプロパンガスのように人気が爆発してる

Told my inner-self, “I promise you I won’t change”
自分の中の自分に「俺は絶対に変わらないと約束する」って誓った

上2行では周りの人々の行動に嫌気が差し『冷酷』になる様子、下2行ではそれでも自分自身にフォーカスを置くことの大切さをラップしている。

Genius の歌詞解説動画にて彼は「自分に正直であることは、俺にとって一番大切なことだと信じてる。もし、自分に正直であれないなら、その人生はとてももったいないよ。」と語っています。

インスタグラムで Clout (権力や富) を追い求めるユーザーたちが蔓延していることなどに苦言を呈し、彼なりの人生論を落ち着いてラップしており、かなり痺れるところがあります。(しかもこれを Mustard のビートの上で。)

まとめ

いかがでしたでしょうか。最近のラッパーたちは本当に十人十色で、100人いれば100通りのスタイルがあるって感じになってきてますが、Polo G はその中でも「男の中の男」って感じがします。

人生において大切なことを見失うことなく、鋭い感性で自分の想いを訴え続ける。これぞ HipHop のあるべき姿という感じで、ある意味お手本のような完璧なラッパーだと思います。そろそろ次作の存在を匂わせても良い頃なので、その時を楽しみに待つことにしましょう。

whoiskosuke

Lil Uzi Vert 『That Way』和訳・解説

本日未明、愛しの Lil Uzi Vert が、『Futsal Shuffle 2020』以来のニューシングル『That Way』をリリースしてくれました。

再生した瞬間にピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらの楽曲はアメリカのボーイズグループである Backstreet Boys の名曲『I Want It That Way』が元ネタとなっています。

今回の楽曲では、メロディアスなフックや Lil Uzi 特有のマシンガンのようなラップなどが見られ、2017年頃に台頭した、いわゆる「オールドウジ」的なカテゴリーに分類される良曲だと思います。

本記事では、そんな彼の新曲『That Way』より、重要なリリック、面白いリリックなどを解説するかたちを取りたいと思います。それでは、まだ聴いていない方も、すでに50回聴いたよって方も、まず初めにこちらをどうぞ。

I want it that way
俺はそうやって生きていきたいんだ

Backstreet Boys による元ネタと同じメロディを4回繰り返すフックから、三分半にわたる Uzi ワールドの幕開けです。この時点ですでにオールドウジ的な雰囲気が漂ってきます。

But I don’t wanna go out bad, wanna go out sad, wanna go out that way
調子が悪い時も、悲しい時も外に出たくない。この道で生きていきたいんだ。

I’m with the winnin’ team, they make sure I’m not in last place
俺は勝ち組。あいつらは、俺が負け組でないことを確信させてくれる。

If I wake up, don’t make no money, that’s a sad day
もし、目覚めて金を稼げなかったら、それは悲しい日だ。

Twenty-five hundred on my shirt what the tag say
シャツに$2500。タグに値段が書いてあるだろ。

You know that I’m winnin’
君が知ってる通り、俺は勝ち組。

My white girl got black card and it got no limit
白人の彼女は、利用制限なしのブラックカードを持ってる。

I’ma grab a Bentley, Mean might go and grab a Wraith (※1)
ベントレーを買いに行く。Mean はロールスロイス・レイスを買いに行く。

I had to snap back into reality and go grab a fitted (※2)
現実に戻って、フィテッドキャップを手に入れなきゃ。

My jeans, yeah, they fitted
俺のジーンズはサイズぴったり。

But Lil Uzi, he is so far from the timid
でも、Lil Uzi は臆病者とはほど遠いよ。

(※1) Mean とは Lil Uzi のマネージャーの名前。彼のマネージャーやボディーガードたちは、複数台のカスタムカーによって移動していることで有名。

(※1) 路上駐車された Lil Uzi クルーの移動用自動車

(※2) Snap Back には「戻る」と「サイズ調整できるキャップ」の二つの意味があり、後半の fitted 「サイズ調整できないキャップ」とかけたワードプレイ。Eminem の代表曲『Lose Yourself』 から引用したラインを、キャップ好きの彼なりにアレンジしている。

(※2) 左 : スナップバックキャップ、右 : フィテッドキャップを被る Lil Uzi Vert

When I’m in DC, make the hoes go-go (※3)
ワシントンDC にいる時、女の子には Go-Go を歌わせる

Yes, I’m slimy like a snail, but I’m no slowpoke (※4)
そう、俺はカタツムリみたいにスライミーだけど、俺はヤドンじゃないぜ

(※3)「Go-Go」とは、音楽ジャンルの一つであり、今年の二月にワシントンD.C. 発祥の音楽として正式認定された。

(※4) Slime とは Young Thug によって作られたスラングであり、「Street Life Intelligence Money is Everything」の頭文字をとった単語 。主に親しい友達や家族のことをさす。Slimy は、Slime を形容詞として変化させた派生語である。カタツムリは動きが遅いことで有名な軟体動物であるが、Lil Uzi は自分が素早くキャリアを積み上げたことから、ポケモンのヤドンを「動きが遅いのろま」としてメタファー的に利用し、「自分はカタツムリやヤドンのようにのろまな存在ではない」とラップしている。

(※4) ポケモンのキャラクターであるヤドン。英語名は「Slowpoke」

They laugh at me because I’m emo
あいつらは俺がエモラッパーだからって笑うんだ

I killed my girlfriend, that’s why I’m single
恋人を殺したから、俺は独り身だ

Can’t call 911 ’cause I’m in Reno (※5)
Reno にいるから、警察に通報できないよ

(※5) Reno とはネバダに位置する街の名前で、Lil Uzi は、その街の警察をテーマにしたコメディショー 『Reno 911!』について言及している。

(※5) 『Reno 911!』のプロモーションポスター

さいごに

いかがでしたでしょうか。先日 Lil Uzi がインスタグラムのライブにおいて「Eternal Atake は二週間以内にリリースされる」と発言したことが話題となりましたが、このタイミングでこの良曲をリリースしたことから、いつもならゼロに近いリリースの信憑性が増してきました。さらなる情報を期待して待つばかりです。

Pop Smoke – ブルックリンドリルのビッグウェーブを起こした若きレジェンド

みなさんこんにちは。

今回は、今年訪れるであろうドリルミュージックのビッグウェーブを作り出した張本人 Pop Smoke についての記事です。本日リリースされました2枚目のミックステープ『Meet The Woo 2』についても触れていますので、最後までお付き合い頂けたらなと思います。

Pop Smoke って?

Pop Smoke はニューヨーク、ブルックリン出身で、現在20歳のラッパーです。すでに貫禄のある大御所のような見た目ですが、まだ20歳です。始めて楽曲を発表したのも昨年で、キャリアはかなり浅いです。

ご存知の方も多いと思いますが、彼が昨年の夏にリリースした『Welcome to the Party』という楽曲が一瞬にしてバズを起こし、その大きな波に上手く乗って今に至る。という感じのとても説明しやすいキャリアです。

『Welcome to the Party』がバズったことをきっかけに、同曲に Skepta や Nicki Minaj を招いたリミックスをリリースし、その波の勢いは収まるどころか大きくなるばかり。そんな感じでこの楽曲は一昨年 Sheck Wes がリリースした『Mo Bamba』を彷彿とさせるような、クラブで聴かない日は無いお決まりの楽曲となりました。

さて、記事の初めに Pop Smoke を「ドリルミュージックのビッグウェーブを作り出した張本人」と紹介しましたが、この言葉を安易に受け止められたら少し困ります。やはり、ドリルミュージックを作り出したのは、Chief Keef や Fredo Santana を代表とするシカゴ勢です。

彼らが作り出したドリルミュージックにインスピレーションを受けてイギリスで発展したのが、UK Drill というジャンルで、Pop Smoke はこの UK Drill をアメリカに逆輸入し、ビッグウェーブを起こしたアーティストです。Pop Smoke はほとんどの楽曲に 808Melo や AXL といった UK Drill シーンで活躍しているプロデューサーを起用しており、UKドリルとUSドリルのハイブリット的存在と言えると思います。

文字だけでは分かりにくいと思いますので図解を載せておきます。

この辺の背景は、ブルックリンドリルについて詳しく書いた記事を見ていただければ、さらに深く理解できると思いますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。(代表曲『Welcome to the Party』についてもこちらの記事で触れています。)

『Meet The Woo』

たった一曲で、誰もが憧れる人気者になった彼ですが、このビッグウェーブを逃すまいと昨年の7月にミックステープ『Meet The Woo』をリリースしました。今回はこちらのミックステープの中からいくつかオススメを紹介します。

『Scenario』

ミックステープの5曲目に収録されているこちらの楽曲で、プロジェクトを通して見ても、一番ブルックリンドリルのダークな側面を感じることができます。「Pop Smoke はランダムに単語を並べただけでカッコいい唯一のラッパーだ。」というようなツイートを見かけたことがありますが、まさにその通りだと思います。しかし、言葉のはめ方や、繰り返し同じフレーズをラップするスタイルを上手く自分のものにしており、逆にそのスカスカさが彼の楽曲の醍醐味とも言えます。

Pull up, we snatching your babas
俺らはお前らの女を奪い去る

Big 092, those my guys
Big 092 こいつらは俺の仲間だ

Pull up and change the scenario
俺らが現れると、シナリオが書き変わる

Act up and bullets start tearing ’em
俺らが暴れると、銃弾があいつらを引き裂きだす

開始早々、勢いよくラップされるこちらのラインですが、同じくブルックリンドリルシーンの中心人物 Nas Blixky と Kush Blixky による『Babaz』という楽曲から引用されており、UKドリルビートの上でブルックリンドリル特有のスラングを聴くことができます。やはり、ここが彼の楽曲ならではのポイントなのではないでしょうか。

『Better Have Your Gun』

続いて紹介するのはこちらの楽曲。『銃を持ってた方がいいぜ』という意味のタイトルで、ドリル臭がプンプン漂います。

ちなみに彼の楽曲に度々登場する「It’s Big 092MLBOA」というフレーズですが、これは彼が生まれたブロックにて形成されているギャングを表しています。彼の地元であるカナージーは「Floss」または「Flossy」という別名を持っており、それに絡めてこのようにラップしています。

When you come to flossy, better have your gun
お前がカナージーに来るなら、銃は持っておいた方が身のためだぜ

『GATTI』

Pop Smoke は、昨年末にリリースされた Travis Scott 率いる Cactus Jack Records によるプロジェクト『JACKBOYS』に収録されている『GATTI』に参加しました。ここでも UK の AXL Beats と 808melo をプロデューサーとして起用しています。タイトルの『GATTI』とは高級スポーツカーの Bugatti (ブガッティ) の略で、MVでも青いブガッティを乗り回しています。

Look, you cannot say Pop and forget the Smoke
お前は「Smoke」と言わずに「Pop」と言えない

I’m from the Floss where n****s tote
俺は、ギャングたちが銃を持ち歩いているカナージー出身だ

よく考えれば、かなりありがちな単語である「Pop」と「Smoke」を並べただけの彼のMCネームですが、今や「Pop」と聞いたら「Smoke」を連想し、逆に「Smoke」と聞いたら「Pop」を連想してしまう。それだけ彼の時代が到来しているということを、このリリックを通して思い知らされます。

They couldn’t be Crips, so they turned Folks (Bah)
あいつらは Crips になれなかったから、Folk Nation に加入した

Drivin’ through the ‘Ville, droppin’ the Cho (Brr)
Brownsville を走り抜け、Cho の連中を始末する

ブルックリンには大きく分けて、Woo と Cho という2つの派閥が存在します。Woo と Cho はもともと仲は悪くなかったのですが、2010年を境にスニッチがきっかけとなって対立を始めました。Pop Smoke はアルバムタイトルを見ていただければわかる通り Woo に所属しており、Cho のメンバーと仲良くすることはありません。

このリリックにおける「あいつら」とは、Tay627 と Chris Elite のこと。彼らは Pop Smoke が所属する Woo と敵対関係にあり、Pop Smoke のヒット作『Welcome to the Party』をリメイクした楽曲『Welcome to the Garvey』 をリリースしました。

『Meet The Woo 2』

お待たせしました。本日リリースされた最新作『Meet The Woo 2』についてです。13曲で35分の構成となっており、前作に比べて一曲あたりの再生時間がかなり短くなっています。しかし、先行でリリースされていた楽曲は『Christopher Walking』と Lil Tjay をフィーチャーした『War』、そして前作にも収録されていた『Dior』の三曲のみで、「アルバム出たけど、もうほとんど聞き飽きてるよ」状態は回避できています。

Quavo や A Boogie wit da Hoodie などドリルでない US ラッパーも参加しており、こちらでも UK Drill ビートとUSアーティストのコラボレーションを楽しむ事ができます。同じくブルックリンのドリルシーンからは、最近 Rich The Kid や Tory Lanez と共演していた Fivio Foreign が参加しており、最先端のブルックリンドリルも堪能する事ができる作品となっています。

ちなみに、先行曲だと思われていた Calboy との楽曲『100K on the Coupe』は残念ながら収録されていませんでした。どちらかというと Calboy が Pop Smoke をフィーチャーしたような構成の楽曲となっていたので、アルバム全体の雰囲気も考慮して外されたのかもしれません。

Calboy や A Boogie、 Lil Tjay にしてもそうですが、Pop Smoke がドスの効いた低い声であるため、フィーチャーするアーティストは高めの歌声を持っていたり、メロディアスなフロウを得意とするラッパーを選び取っているような印象を持ちました。確かに、同じようなスタイルの2人が一曲を作り出すより、真逆のスタイルの2人が一曲を制作した方が、コントラストが生まれますし、意外な化学変化も起こりやすいのかもしれません。

同じフレーズを繰り返す、しつこいほどのフロウにまんまと虜にされてしまっている私たちですが、そんな安心感を良い意味で裏切ってくれた楽曲も3曲目に収録されていました。それが、『Get Back』という楽曲で、完全に早口言葉です。

追記

たったの一、二年でブルックリンドリルのビックウェーブを作り出し、伝説的存在となった Pop Smoke は、惜しくも2020年の2月19日にこの世を去りました。LAに借りていた別荘に滞在しているところを、強盗に襲われて銃殺されてしまったようです。早すぎる彼の死に、たくさんのファンやラッパーたちが追悼の意を表するともに、彼の功績を賞賛しました。ご冥福をお祈りいたします。

彼の死後、50 Cent が「俺が 彼のために Pop Smoke のアルバムを完成させる」と声明を発表しており、悔やまれながらもこの世を去ってしまった彼の、遺作であるデビューアルバムが今週末にリリースされます。彼の所属していた Victor Victor Records がインスタグラムにてアートワークとリリース日時を発表しました。

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June 12 2020

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トラックリストなどを含む、それ以外の情報は一切解禁されておらず、リリース日が近づいているにもかかわらず、いまだに謎に包まれたままとなっていますが、Drake や Post Malone、Roddy Ricch などの大物アーティストの参加をオファーした旨を 50 Cent は発表しており、Roddy Ricch に関してはすでに参加の意を示しているとのことです。

whoiskosuke